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特許7074898血液処理用リン吸着剤、血液処理システム及び血液処理方法
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】血液処理用リン吸着剤、血液処理システム及び血液処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20220517BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20220517BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20220517BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20220517BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61M1/36 165
B01D15/00 J
B01J20/08 A
B01J20/08 B
B01J20/10 A
B01J20/10 B
B01J20/06 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021010057
(22)【出願日】2021-01-26
(62)【分割の表示】P 2017550431の分割
【原出願日】2016-11-11
(65)【公開番号】P2021074577
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2015221665
(32)【優先日】2015-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 直喜
(72)【発明者】
【氏名】田島 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】大森 昭浩
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/056175(WO,A1)
【文献】特開2004-305915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 - 1/38
B01J 20/00 - 20/34
B01D 15/00 - 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が0.08~0.70μmである多孔性成形体を含有し、前記多孔性成形体の外表面開口率が5%以上30%未満である、血液処理用リン吸着剤。
【請求項2】
前記多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した比表面積が10~100m2/cm3である、請求項1に記載の血液処理用リン吸着剤。
【請求項3】
前記多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径とメディアン径の比(最頻細孔径/メディアン径)が0.80~1.30である、請求項1又は2に記載の血液処理用リン吸着剤。
【請求項4】
前記多孔性成形体は、平均粒径が100~2500μmの球状粒子である、請求項1~のいずれか一項に記載の血液処理用リン吸着剤。
【請求項5】
前記無機イオン吸着体が、下記式(I)で表される少なくとも一種の金属酸化物を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の血液処理用リン吸着剤。
MNxn・mH2O・・・・・・(I)
(式(I)中、xは0~3、nは1~4、mは0~6であり、M及びNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。)
【請求項6】
前記金属酸化物が、下記(a)~(c)のいずれかの群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項に記載の血液処理用リン吸着剤。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素と、アルミニウム、珪素及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
【請求項7】
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の血液処理用リン吸着剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の血液処理用リン吸着剤を含む血液処理システム。
【請求項9】
血液浄化器をさらに含む、請求項に記載の血液処理システム
【請求項10】
前記血液浄化器で処理された血液が、前記血液処理用リン吸着剤で処理されるように前記血液処理用リン吸着剤が配置されている、請求項に記載の血液処理システム。
【請求項11】
前記血液処理用リン吸着剤で処理された血液が、前記血液浄化器で処理されるように前記血液処理用リン吸着剤が配置されている、請求項に記載の血液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液処理用リン吸着剤及び血液処理システムに関する。さらに、本発明は、血液処理用リン吸着剤を利用した血液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正常に腎臓が機能している健常成人であれば、体内の過剰なリンは、主に尿として体外に排出される。一方、慢性腎不全患者等の腎機能に障害を有している腎疾患患者等は、過剰なリンを体外に適切に排出できないため、徐々に体内にリンが蓄積され、高リン血症等の疾患を引き起こす。
高リン血症が持続すると、二次性副甲状腺機能亢進症が引き起こされ、骨が痛む、脆くなる、変形する、骨折しやすい等の症状を特徴とする腎性骨症となり、これに高カルシウム血症を合併した場合は、心血管系の石灰化による心不全発症のリスクが高くなる。
心血管系の石灰化は慢性腎不全等の最も深刻な合併症の1つであるので、慢性腎不全患者において、高リン血症を防ぐために体内のリンの量を適切にコントロールすることは非常に重要である。
【0003】
血液透析患者においては、高リン血症に至らないよう、血液透析、血液ろ過透析及び血液ろ過等の透析療法により、体内に蓄積したリンを定期的に除去し、調節している。透析療法においては、一般に、週3回、1回4時間の治療時間を要する。
しかしながら、健常成人が1日に摂取する1000mgのリンを、血液透析患者が摂取した場合、通常、腎臓から排出されるはずのリン(650mg)が体内に蓄積し、1週間で4550mgも蓄積する。通常の血液透析では、1回の透析で800~1000mg程度のリンの除去が可能であり、週3回の透析で約3000mgのリンを除去することが可能となる。透析療法で除去できるリンの量(3000mg)は、1週間で蓄積されたリンの量(4550mg)に至らないため、結果として体内にリンが蓄積される。
また、中でも、慢性腎不全患者である維持透析患者は、リンの主排泄経路の腎機能を失っているため、尿中へのリンの排出機能はほぼ失われている。透析療法において、透析液中にリンが含まれていないため、透析液への拡散現象によりリンを体外に除去することができるが、現状の透析時間及び透析条件では十分な排出ができないのが実情である。
【0004】
以上のように、透析療法のみではリン除去効果が不十分であるため、リンをコントロールするために、透析療法に加え、食事療法とリン吸着剤の飲用による薬物療法とが挙げられるが、重要なのは、患者の栄養状態を評価して低栄養状態でないことを確認後、リン摂取量の制限を行うことである。
リンのコントロールとして、CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)ガイドラインにおいては、血清リン値は3.5~6.0mg/dLとされている。
血清リン値が、3.5mg/dL以下になると低リン血症でくる病や骨軟化症の原因となり、6.0mg/dL以上になると高リン血症となり心血管系の石灰化の原因となる。
【0005】
リンの摂取量を抑える食事療法については、患者の栄養状態との兼ね合いもあり、また患者自体の嗜好も考えなければならないため、食事療法での体内のリン濃度を管理することは難しい。
また、薬物療法においては、消化管内で食物由来のリン酸イオンと結合して不溶性のリン酸塩を形成し、腸管からのリンの吸収を抑制するリン吸着剤経口薬を毎食事前又は食事中に服用することで、リン濃度の管理が行われる。しかしながら、薬物療法においては、毎食事時のリン吸着剤の飲用量は相当多くなる。そのため、リン吸着剤の服用時の副作用として、嘔吐、膨満感、便秘、体内への薬剤の蓄積等が高い確率で起こるため、それらに起因する服用コンプライアンスが非常に低く(50%以下だとも言われている)リン濃度を薬剤により管理するのはドクターにとっても患者にとっても困難な状態にある。
【0006】
特許文献1には、血液透析治療時の透析液の中にリン吸着剤を含む透析組成物を循環させることにより、リン吸着剤を血液と直接接触させないで血液中のリンを効率的に除去することが開示されている。
また、特許文献2には体外血液回路に血液中に蓄積されたリンを除去するリン吸着剤を血液透析器とは別に配設した血液透析システムが開示されている。
特許文献3には、リン等を高速に吸着除去できる吸着剤に適した多孔性成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/125758号
【文献】特開2002-102335号公報
【文献】特許第4671419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されるシステムでは、濃度勾配上リンをしっかり排除することは難しく、さらに透析膜の性能が上がるにつれてリンの濃度勾配が小さくなるため、リンを排除する効果は小さくなると考えられる。また、透析液組成の性質上、不溶性の物が滞留する可能性もあり、透析時の水系配管の管理が難しくなると考えられる。
また、特許文献2に開示されるシステムでは、リン吸着剤として開示されるポリカチオンポリマーにおいて塩酸と交換してリンが吸着され、塩酸が排除されるため、また、カルシウム含有物や活性炭素部の存在により、実際に使用すると、リン吸着部の性能、生体適合性及び安全性等に起因する悪影響(副作用等)が発生する恐れが考えられる。
さらに、特許文献3に開示される多孔性成形体は、体内血液中のリンに対する記載はされておらず、さらなる検討が望まれる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる多孔性成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が特定の範囲内にある多孔性成形体を血液処理用のリン吸着剤とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下のとおりである。
[1]
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が0.08~0.70μmである多孔性成形体を含有する、血液処理用リン吸着剤。
[2]
前記多孔性成形体の外表面開口率が5%以上30%未満である、[1]に記載の血液処理用リン吸着剤。
[3]
前記多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した比表面積が10~100m2/cm3である、[1]又は[2]に記載の血液処理用リン吸着剤。
[4]
前記多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径とメディアン径の比(最頻細孔径/メディアン径)が0.80~1.30である、[1]~[3]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤。
[5]
前記多孔性成形体は、平均粒径が100~2500μmの球状粒子である、[1]~[4]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤。
[6]
前記無機イオン吸着体が、下記式(I)で表される少なくとも一種の金属酸化物を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤。
MNxn・mH2O・・・・・・(I)
(式(I)中、xは0~3、nは1~4、mは0~6であり、M及びNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。)
[7]
前記金属酸化物が、下記(a)~(c)のいずれかの群から選ばれる少なくとも一種を含有する、[6]に記載の血液処理用リン吸着剤。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素と、アルミニウム、珪素及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
[8]
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤。
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤を含む血液処理システム。
[10]
血液浄化器をさらに含む、[9]に記載の血液処理システム。
[11]
前記血液浄化器で処理された血液が、前記血液処理用リン吸着剤で処理されるように前記血液処理用リン吸着剤が配置されている、[10]に記載の血液処理システム。
[12]
前記血液処理用リン吸着剤で処理された血液が、前記血液浄化器で処理されるように前記血液処理用リン吸着剤が配置されている、[10]に記載の血液処理システム。
[13]
[1]~[8]のいずれかに記載の血液処理用リン吸着剤を用いて血液を処理するリン吸着工程を含む、血液処理方法。
[14]
血液浄化器を用いて血液を処理する血液浄化工程と、
前記血液浄化工程の前及び/又は後に、前記リン吸着工程を含む、[13]に記載の血液処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる多孔性成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた多孔性成形体の外表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)を示す。
図2】実施例1で得られた多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した細孔直径に対する対数微分細孔容積と積算細孔容積をプロットした細孔分布図を示す。
図3】実施例1並びに比較例1、2及び3で得られた多孔性成形体の水銀ポロシメーターで測定した細孔直径に対する対数微分細孔容積をプロットした細孔分布図を示す。
図4】本実施形態における多孔性成形体の製造装置の概略図を示す。
図5】実施例1における血液フロー試験の模式図を示す。
図6】本実施形態における血液処理システムの模式図を示す。
図7】実施例1における、血漿フロー量とリン吸着率(%)の関係を示す。
図8】実施例16及び比較例4におけるリンの除去量の測定試験の回路1の模式図を示す。
図9】実施例16及び比較例4におけるリンの除去量の測定試験の回路2の模式図を示す。
図10】実施例16及び比較例4におけるリンの除去量の測定試験の回路3の模式図を示す。
図11】回路1におけるリンの除去率と全血フロー量との関係を示す。
図12】回路1におけるリンの除去量と全血フロー量との関係を示す。
図13】実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路2におけるリンの除去率と全血フロー量との関係を示す。
図14】実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路2におけるリンの除去量と全血フロー量との関係を示す。
図15】実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路3におけるリンの除去率と全血フロー量との関係を示す。
図16】実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路3におけるリンの除去量と全血フロー量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について以下詳細に説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
(血液処理用リン吸着剤)
本実施形態の血液処理用リン吸着剤は、多孔性成形体を含有し、多孔性成形体は、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が0.08~0.70μmである。多孔性成形体は、連通孔を有し多孔質な構造を有する。
本実施形態の血液処理用リン吸着剤は、体外循環治療時の高い血液流速の場合であっても、血液中のリンの選択性、吸着性に優れており、血液中の他の成分に影響を及ぼすことなく、血液中のリンを必要量排除することができる。また、血液中のリンを体外循環によって有効に除去できるため、副作用のあるリン吸着剤経口薬等を飲用することなく、血液中のリン濃度を適切に管理することができる。さらに、高い血液流速の体外循環治療時にも、リン吸着剤として有効に用いることができるため、血液透析治療と組み合わせて用いることで、効率的に体内のリンを排出することができる。
したがって、本実施形態の血液処理用リン吸着剤を用いることで、透析患者が、リン吸着剤経口薬を服用しないか、少量の服用(補助的な使用)に留めても、透析患者の副作用を起こさずに、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる。
【0015】
本実施形態における多孔性成形体は、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が0.08~0.70μmであり、0.10~0.60μmであることが好ましく、0.20~0.50μmであることがより好ましい。
本実施形態において、最頻細孔径(モード径)とは、水銀ポロシメーターで測定した細孔直径に対して対数微分細孔容積(dV/d(logD)、ここでVは水銀圧入容積、Dは細孔直径を示す。)をプロットした図上において、対数微分細孔容積の値が最大となる細孔直径を意味し、体積基準である。具体的には、実施例に記載の方法により、最頻細孔径を測定することができる。
水銀ポロシメーターは、水銀圧入法によって多孔性材料の細孔の大きさを評価する装置で、ガス吸着法(BET法)では測定ができないような比較的大きな細孔分布(メソポア(数nm)~マクロポア(数百μm))の測定に適している。
本実施形態おいては、水銀ポロシメーターで最頻細孔径を測定することにより、多孔性成形体における有機高分子樹脂からなる多孔構造(骨格構造)の特徴を詳細に測定することができる。また、水銀ポロシメーターでメディアン径及び比表面積を測定することにより、多孔性成形体における有機高分子樹脂からなる多孔構造(骨格構造)の特徴をより詳細に測定することができる。
最頻細孔径が0.08μm以上であれば、吸着対象物であるリンが多孔性成形体内部へ拡散するための連通孔の孔径として十分であり、拡散速度が速くなる。最頻細孔径が0.70μm以下であれば、多孔性成形体の空隙が小さくなり、単位体積中に占める無機イオン吸着体の存在量が密になるため、高速通水処理時に多くのイオンを吸着するのに適している。
【0016】
多孔性成形体の外表面開口率は、5%以上30%未満であることが好ましく、7%以上28%以下であることがより好ましく、10%以上25%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態において、外表面開口率とは、走査型電子顕微鏡で多孔性成形体の外表面を観察した視野の面積中に占める全ての孔の開口面積の和の割合を意味する。
外表面開口率が5%以上であれば、吸着対象物であるリンの多孔性成形体内部への拡散速度が速くなる。外表面開口率が30%未満であれば、多孔性成形体外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理しても水中のイオンを確実に吸着できる。
本実施形態においては、10,000倍で多孔性成形体の外表面を観察して外表面開口率を実測する。具体的には、実施例に記載の方法により、外表面開口率を測定することができる。
【0017】
本実施形態における多孔性成形体は、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径とメディアン径の比(最頻細孔径/メディアン径)が0.80~1.30であることが好ましく、0.85~1.25であることがより好ましく、0.90~1.20であることがさらに好ましい。
本実施形態において、メディアン径とは、積算細孔容積分布における積算細孔容積の最大値と最小値の範囲の中央値に対する細孔直径を意味し、体積基準である。具体的には、実施例に記載の方法により、メディアン径を測定することができる。
最頻細孔径/メディアン径の比が1.0に近いと多孔性成形体の細孔径分布が均一であり、高速通水処理に適している。
多孔性成形体の外表面付近に孔径が小さいち密層(スキン層)が存在する場合、スキン層の内側(成形体の内部方向)には大きな空隙(最大孔径層)が形成しやすい。最頻細孔径/メディアン径の比が0.80~1.30であることは、多孔性成形体にスキン層が存在していないことを意味する。
【0018】
本実施形態における多孔性成形体は、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が10~100m2/cm3であることが好ましく、11~90m2/cm3であることがより好ましく、12~50m2/cm3であることがさらに好ましい。
比表面積が10m2/cm3以上であれば、無機イオン吸着体の担持量が多くかつ細孔表面積が大きいため、高速通水時の十分な吸着性能が得られる。比表面積が100m2/cm3以下であれば、無機イオン吸着体が強固に担持されるため多孔性成形体の強度が高い。
本実施形態において、比表面積は、次式で定義される。
比表面積(m2/cm3)=S(Hg)(m2/g)×かさ比重(g/cm3
S(Hg)は、多孔性成形体の単位重量あたりの細孔表面積(m2/g)を意味する。細孔表面積の測定方法は、多孔性成形体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーターを用いて測定する。具体的には、実施例に記載の方法により、細孔表面積を測定することができる。
かさ比重の測定方法は、以下のとおりである。
多孔性成形体が、粒子状、円柱状、中空円柱状等であり、その形状が短いものは、湿潤状態の多孔性成形体を、メスシリンダー等を用いて、1mLを1cm3としてみかけの体積を測定する。その後、室温で真空乾燥して重量を求め、重量/体積として、かさ比重を算出する。
多孔性成形体が、糸状、中空糸状、シート状等であり、その形状が長いものは、湿潤時の断面積と長さを測定して、両者の積から体積を算出する。その後、室温で真空乾燥して重量を求め、重量/体積として、かさ比重を算出する。
【0019】
本実施形態における多孔性成形体は、平均粒径が100~2500μmで、実質的に球状であることが好ましく、平均粒径は150~2000μmであることがより好ましく、200~1500μmであることがさらに好ましい。
本実施形態における多孔性成形体は、球状粒子であることが好ましく、球状粒子として、真球状のみならず、楕円球状であってもよい。
平均粒径が100μm以上であれば、多孔性成形体をカラムやタンク等へ充填した際に圧カ損失が小さいため高速通水処理に適している。平均粒径が2500μm以下であれば、多孔性成形体をカラムやタンクに充填したときの表面積を大きくすることができ、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着することができる。
本実施形態において、平均粒径は、多孔性成形体を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のメディアン径を意味する。具体的には、実施例に記載の方法により、平均粒径を測定することができる。
【0020】
(有機高分子樹脂)
本実施形態における多孔性成形体を構成する有機高分子樹脂は、特に限定されないが、湿式相分離による多孔化手法が可能な樹脂であることが好ましい。
有機高分子樹脂としては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー及び多種類等が挙げられる。
中でも、水中での非膨潤性と耐生分解性、さらに製造の容易さから、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
有機高分子樹脂は、末端に水酸基を有しているポリエーテルスルホンが好ましい。末端基として水酸基を有していることによって、本実施形態における多孔性成形体において、優れた無機イオン吸着体の担持性能が発揮できる。加えて、疎水性が高い有機高分子樹脂が、末端に水酸基を有しているため親水性が向上し、多孔性成形体にファウリングが発生しにくい。
【0021】
(無機イオン吸着体)
本実施形態における多孔性成形体を構成する無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象又はイオン交換現象を示す無機物質を意味する。
天然物系の無機イオン吸着体としては、例えば、ゼオライト及びモンモリロナイト等の各種の鉱物性物質等が挙げられる。
各種の鉱物性物質の具体例としては、アルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライト及びモンモリロナイト等が挙げられる。
合成物系の無機イオン吸着体としては、例えば、金属酸化物、多価金属の塩及び不溶性の含水酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、複合金属酸化物、複合金属水酸化物及び金属の含水酸化物等を含む。
【0022】
無機イオン吸着体は、吸着対象物、中でも、リンの吸着性能の観点で、下記式(I)で表される金属酸化物を含有することが好ましい。
MNxn・mH2O ・・・(I)
上記式(I)中、xは0~3、nは1~4、mは0~6であり、M及びNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。
金属酸化物は、上記式(I)中のmが0である未含水(未水和)の金属酸化物であってもよいし、mが0以外の数値である金属の含水酸化物(水和金属酸化物)であってもよい。
上記式(I)中のxが0以外の数値である場合の金属酸化物は、含有される各金属元素が規則性を持って酸化物全体に均一に分布し、金属酸化物に含有される各金属元素の組成比が一定に定まった化学式で表される複合金属酸化物である。
具体的には、ペロブスカイト構造、スピネル構造等を形成し、ニッケルフェライト(NiFe24)、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩(Zr・Fe24・mH2O、ここで、mは0.5~6である。)等が挙げられる。
無機イオン吸着体は、上記式(I)で表される金属酸化物を複数種含有していてもよい。
【0023】
無機イオン吸着体としては、吸着対象物、中でも、リンの吸着性能に優れているという観点から、下記(a)~(c)のいずれかの群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素と、アルミニウム、珪素及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料であってもよく、(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料を組み合わせて用いてもよく、(a)~(c)群のそれぞれにおける材料を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合には、(a)~(c)群のいずれかの群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよく、(a)~(c)群の2つ以上の群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよい。
無機イオン吸着体は、安価で吸着性が高いという観点から、硫酸アルミニウム添着活性アルミナを含有してもよい。
【0024】
無機イオン吸着体としては、上記式(I)で表される金属酸化物に加え、上記M及びN以外の金属元素がさらに固溶したものは、無機イオンの吸着性や製造コストの観点から、より好ましい。
例えば、ZrO2・mH2O(mが0以外の数値である。)で表される水和酸化ジルコニウムに、鉄が固溶したものが挙げられる。
【0025】
多価金属の塩としては、例えば、下記式(II)で表されるハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
2+ (1-p)3+ p(OH-(2+p-q)(An-q/r ・・・(II)
上記式(II)中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも一種の二価の金属イオンである。
3+は、Al3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも一種の三価の金属イオンである。
n-は、n価のアニオンである。
0.1≦p≦0.5であり、0.1≦q≦0.5であり、rは1又は2である。
上記式(II)で表されるハイドロタルサイト系化合物は、無機イオン吸着体として原料が安価であり、吸着性が高いことから好ましい。
不溶性の含水酸化物としては、例えば、不溶性のヘテロポリ酸塩及び不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩等が挙げられる。
【0026】
本実施形態における多孔性成形体を構成する無機イオン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、多孔性成形体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム及びハフニウム等が挙げられる。
【0027】
本実施形態の血液処理用リン吸着剤は、透析患者の血液透析におけるリン吸着に好適に用いられる。血液組成は血漿成分と血球成分に分かれ、血漿成分は水91%、タンパク質7%、脂質成分及び無機塩類で構成されており、血液中でリンは、リン酸イオンとして血漿成分中に存在する。血球成分は赤血球96%、白血球3%及び血小板1%で構成されており、赤血球の大きさは直径7~8μm、白血球の大きさは直径5~20μm、血小板の大きさは直径2~3μmである。
本実施形態の血液処理用リン吸着剤は、水銀ポロシメーターで測定した前記多孔性成形体の最頻細孔径が0.08~0.70μmであることにより、外表面の無機イオン吸着体の存在量が多い多孔性成形体を含有するため、高速で通液処理してもリンイオンを確実に吸着でき、またリンイオンの多孔性成形体内部への浸透拡散吸着性にも優れる。さらに、血球成分等の目詰り等による血液流れ性が低下することもない。
本実施形態の血液処理用リン吸着剤が、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、水銀ポロシメーターで測定した前記多孔性成形体の最頻細孔径が0.08~0.70μmである多孔性成形体を含有することにより、血液中のリンイオンを選択的に確実に吸着することで、体内に戻る血中リン濃度はほとんど0に近いものとなる。ほとんどリンを含まない血液を体内に戻すことで細胞内又は細胞外からの血中へのリンの移動が活発になりリフィリング効果が大きくなることが考えられる。
また、血中のリンを補おうとするリフィリング効果を誘発することで、通常排泄できない細胞外液、細胞内に存在するリンも排泄できる可能性がある。
これにより、透析患者が、リン吸着剤経口薬を服用しないか、少量の服用(補助的な使用)に留めても、透析患者の副作用を起こさずに、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる
【0028】
本実施形態の血液処理用リン吸着剤は適当なカラム等に充填した物を透析時のダイアライザー前後に直列、並列等に繋いで使用することができる。本実施形態の血液処理用リン吸着剤は、カラム等に充填してリン吸着用カラムとして用いることができ、血中のリン濃度が低く、空間速度が速い状態でも無機リンの選択性と吸着性能に優れる。
リフィリング効果を誘発しやすくなる観点で、ダイアライザーの前後に本実施形態の血液処理用リン吸着剤を充填したカラムを繋いで使用することが好ましい。
リフィリング効果が期待できる観点から、リン吸着率(%)(血中のリンが吸着される割合)は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上であることが好適である。
【0029】
〔多孔性成形体の製造方法〕
本実施形態における多孔性成形体の製造方法は、(1)有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体を粉砕、混合してスラリーを得る工程、(2)工程(1)で得られたスラリーに有機高分子樹脂及び水溶性高分子を溶解する工程、(3)工程(2)で得られたスラリーを成形する工程、(4)工程(3)で得られた成形品を貧溶媒中で凝固させるまでの間、成形品が接触する空間部の温度と湿度を制御して凝固を促進する工程、及び(5)工程(4)で得られた凝固が促進された成形品を貧溶媒中で凝固させる工程を含む。
【0030】
(工程(1):粉砕・混合工程)
工程(1)において、有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体を、粉砕、混合してスラリーを得る。
無機イオン吸着体を有機高分子樹脂の良溶媒中で湿式粉砕することにより、無機イオン吸着体を微粒子化できる。その結果、成形後の多孔性成形体に担持された無機イオン吸着体は、二次凝集物が少ないものとなる。
【0031】
<有機高分子樹脂の良溶媒>
工程(1)における有機高分子樹脂の良溶媒としては、多孔性成形体の製造条件において有機高分子樹脂を安定に1質量%を超えて溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用できる。
良溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
良溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
<粉砕混合手段>
工程(1)において、スラリーを得るために用いられる粉砕混合手段は、無機イオン吸着体及び有機高分子樹脂の良溶媒を合わせて粉砕、混合できるものであれば、特に限定されるものではない。
粉砕混合手段として、例えば、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理等の物理的破砕方法に用いられる手段を用いることができる。
粉砕混合手段の具体例としては、ジェネレーターシャフト型ホモジナイザー、ワーリングブレンダー等のブレンダー、サンドミル、ボールミル、アトライタ及びビーズミル等の媒体撹拌型ミル、ジェットミル、乳鉢と乳棒、らいかい器並びに超音波処理器等が挙げられる。
中でも、粉砕効率が高く、粘度の高いものまで粉砕できることから、媒体撹拌型ミルが好ましい。
媒体撹拌型ミルに使用するボール径は、特に限定されるものではないが、0.1~10mmであることが好ましい。ボール径が0.1mm以上であれば、ボール質量が充分あるので粉砕力があり粉砕効率が高く、ボール径が10mm以下であれば、微粉砕する能力に優れる。
媒体攪拌型ミルに使用するボールの材質は、特に限定されるものではないが、鉄やステンレス等の金属、アルミナやジルコニア等の酸化物類、窒化ケイ素や炭化ケイ素等の非酸化物類の各種セラミック等が挙げられる。中でも、耐摩耗性に優れ、製品へのコンタミネーション(摩耗物の混入)が少ない点で、ジルコニアが優れている。
【0033】
<分散剤>
工程(1)においては、多孔性成形体の構造に影響しない範囲で、粉砕、混合する際、無機イオン吸着体を混合した有機高分子樹脂の良溶媒中に界面活性剤等の公知の分散剤を添加してもよい。
【0034】
(工程(2):溶解工程)
工程(2)においては、工程(1)により得られたスラリーに、有機高分子樹脂及び水溶性高分子を溶解させて、成形用スラリーを得る。
有機高分子樹脂の添加量は、有機高分子樹脂/(有機高分子樹脂+水溶性高分子+有機高分子樹脂の良溶媒)の割合が、3~40質量%となるようにすることが好ましく、4~30質量%であることがより好ましい。有機高分子樹脂の含有率が3質量%以上であれば、強度の高い多孔性成形体が得られ、40質量%以下であれば、空孔率の高い多孔性成形体が得られる。
【0035】
<水溶性高分子>
工程(2)における水溶性高分子は、有機高分子樹脂の良溶媒と有機高分子樹脂とに対して相溶性のあるものであれば、特に限定されるものではない。
水溶性高分子としては、天然高分子、半合成高分子及び合成高分子のいずれも使用できる。
天然高分子としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン及びコラーゲン等が挙げられる。
半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン及びメチルデンプン等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム並びにテトラエチレングリコール及びトリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類等が挙げられる。
中でも、無機イオン吸着体の担持性を高める点から、合成高分子が好ましく、多孔性が向上する点から、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコール類がより好ましい。
ポリビニルピロリドンとポリエチレングリコール類の質量平均分子量は、400~35,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることがより好ましく、2,000~100,000であることがさらに好ましい。
質量平均分子量が2,000以上であれば、表面開口性の高い多孔性成形体が得られ、1,000,000以下であれば、成形する時のスラリーの粘度が低いので成形が容易になる傾向がある。
水溶性高分子の質量平均分子量は、水溶性高分子を所定の溶媒に溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定できる。
【0036】
水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子/(水溶性高分子+有機高分子樹脂+有機高分子樹脂の良溶媒)の割合が、0.1~40質量%となるようにすることが好ましく、0.5~30質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。
水溶性高分子の添加量が0.1質量%以上であれば、多孔性成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔性成形体が均一に得られる。水溶性高分子の添加量が40質量%以下であれば、外表面開口率が適当であり、多孔性成形体の外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔性成形体が得られる。
【0037】
(工程(3):成形工程)
工程(3)においては、工程(2)により得られたスラリー(成形用スラリー)を成形する。成形用スラリーは、有機高分子樹脂と、有機高分子樹脂の良溶媒と、無機イオン吸着体と、水溶性高分子の混合スラリーである。
本実施形態における多孔性成形体の形態は、成形用スラリーを成形する方法によって、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態を採ることができる。
【0038】
粒子状の形態に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、回転する容器の側面に設けたノズルから、容器中に収納されている成形用スラリーを飛散させて、液滴を形成させる回転ノズル法等が挙げられる。回転ノズル法により、粒度分布が揃った粒子状の形態に成形することができる。
ノズルの径は、0.1~10mmであることが好ましく、0.1~5mmであることがより好ましい。ノズルの径が0.1mm以上であれば、液滴が飛散しやすく、10mm以下であれば、粒度分布を均一にすることができる。
遠心力は、遠心加速度で表され、5~1500Gであることが好ましく、10~1000Gであることがより好ましく、10~800Gであることがさらに好ましい。
遠心加速度が5G以上であれば、液滴の形成と飛散が容易であり、1500G以下であえば、成形用スラリーが糸状にならずに吐出し、粒度分布が広くなるのを抑えることができる。粒度分布が狭いことにより、カラムに多孔性成形体を充填した時に水の流路が均一になるため、超高速通水処理に用いても通水初期からイオン(吸着対象物)が漏れ出す(破過する)ことが無いという利点を有している。
【0039】
糸状又はシート状の形態に成形する方法としては、該当する形状の紡口、ダイスから成形用スラリーを押し出し、貧溶媒中で凝固させる方法が挙げられる。
中空糸状の多孔性成形体を成形する方法としては、環状オリフィスからなる紡口を用いることで、糸状やシート状の多孔性成形体を成形する方法と同様にして成形できる。
円柱状又は中空円柱状の多孔性成形体を成形する方法としては、紡口から成形用スラリーを押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
【0040】
(工程(4):凝固促進工程)
工程(4)においては、工程(3)により得られた成形品を貧溶媒中で凝固させるまでの間、成形品が接触する空間部の温度と湿度を制御して凝固を促進させる。
工程(4)により、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径や外表面開口率を調整することができ、無機イオン吸着体の存在量が高い成形体が得られるため、被処理水中のイオン、中でも、リンイオンを超高速除去でき、かつ吸着容量が大きい多孔性成形体を提供することができる。
空間部の温度と湿度は、貧溶媒が貯留される凝固槽と回転容器との空間をカバーで覆い、貧溶媒の温度を調整して制御する。
空間部の温度は20~90℃であることが好ましく、25~85℃であることがより好ましく、30~80℃であることがさらに好ましい。
空間部の温度が20℃以上であれば、多孔性成形体の外表面開口率が高くなり、90℃以下であれば、回転容器に開けたノズルがスラリーで詰まり難く、長時間安定して多孔性成形体を製造することができる。
空間部の湿度は、温度に対する相対湿度で65~100%であることが好ましく、70~100%であることがより好ましく、75~100%であることがさらに好ましい。
相対湿度が65%以上であれば、多孔性成形体の外表面開口率が高くなり、100%以下であれば、回転容器に開けたノズルがスラリーで詰まり難く、長時間安定して成形体を製造することができる。
【0041】
(工程(5):凝固工程)
工程(5)においては、工程(4)で得られた凝固が促進された成形品を貧溶媒中で凝固させて、多孔性成形体を得る。
【0042】
<貧溶媒>
工程(5)における貧溶媒としては、工程(5)の条件において有機高分子樹脂の溶解度が1質量%以下の溶媒を使用することができ、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エーテル類並びにn-ヘキサン及びn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。中でも、貧溶媒としては、水が好ましい。
【0043】
工程(5)では、先行する工程から良溶媒が持ち込まれ、良溶媒の濃度が、凝固工程開始時と終点で、変化してしまう。そのため、あらかじめ良溶媒を加えた貧溶媒としてもよく、初期の濃度を維持するように水等を別途加えながら濃度を管理して凝固工程を行うことが好ましい。
良溶媒の濃度を調整することで、多孔性成形体の構造(外表面開口率及び粒子形状)を制御できる。
貧溶媒が水又は有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の場合、凝固工程において、水に対する有機高分子樹脂の良溶媒の含有量は、0~80質量%であることが好ましく、0~60質量%であることがより好ましい。
有機高分子樹脂の良溶媒の含有量が80質量%以下であれば、多孔性成形体の形状が良好になる効果が得られる。
貧溶媒の温度は、工程(4)の空間部の温度と湿度を制御する観点から、40~100℃であることが好ましく、50~100℃であることがより好ましく、60~100℃であることがさらに好ましい。
【0044】
(多孔性成形体の製造装置)
本実施形態における多孔性成形体の製造装置は、液滴を遠心力で飛散させる回転容器と、凝固液を貯留する凝固槽と、を備え、回転容器と凝固槽の間の空間部分を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する制御手段を備える。
【0045】
液滴を遠心力で飛散させる回転容器は、成形用スラリーを球状の液滴にして遠心力で飛散する機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば周知の回転ディスク及び回転ノズル等が挙げられる。
回転ディスクは、成形用スラリーが回転するディスクの中心に供給され、回転するディスクの表面に沿って成形用スラリーが均一な厚みでフィルム状に展開し、ディスクの周縁から遠心力で滴状に分裂して微小液滴を飛散させるものである。
回転ノズルは、中空円盤型の回転容器の周壁に多数の貫通孔を形成するか、または周壁に貫通させてノズルを取付け、回転容器内に成形用スラリーを供給すると共に回転容器を回転させ、その際に貫通孔又はノズルから遠心力により成形用スラリーを吐出させて液滴を形成するものである。
【0046】
凝固液を貯留する凝固槽は、凝固液を貯留できる機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば周知の上面開口の凝固槽や、回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽等が挙げられる。
上面開口の凝固槽は、回転容器から水平方向に飛散した液滴を自然落下させ、上面が開口した凝固槽に貯留した凝固液の水面で液滴を捕捉する装置である。
回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽は、凝固液を筒体の内面に沿わせて周方向にほぼ均等な流量で流出させ、内面に沿って自然流下する凝固液流中に液滴を捕捉して凝固させる装置である。
【0047】
空間部の温度と湿度の制御手段は、回転容器と凝固槽の間の空間部を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する手段である。
空間部を覆うカバーは、空間部を外部の環境から隔離して、空間部の温度及び湿度を現実的に制御し易くする機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば箱状、筒状及び傘状の形状とすることができる。
カバーの材質は、例えば、金属のステンレス鋼やプラスチック等が挙げられる。外部環境と隔離する点で、公知の断熱剤で覆うこともできる。カバーには、一部開口部を設けて、温度及び湿度を調整してもよい。
【0048】
空間部の温度及び湿度の制御手段は、空間部の温度と湿度を制御する機能があればよく、特定の手段に限定されず、例えば、電気ヒーター及びスチームヒーター等の加熱機並びに超音波式加湿器及び加熱式加湿器等の加湿器が挙げられる。
構造が簡便であるという点で、凝固槽に貯留した凝固液を加温して、凝固液から発生する蒸気を利用して空間部の温度と湿度を制御する手段が好ましい。
【0049】
本実施形態の血液処理システムは、本実施形態の血液処理用リン吸着剤を含む。血液処理システムは、血液浄化器をさらに含むことが好ましい。
本実施形態の血液浄化器で処理された血液が血液処理用リン吸着剤で処理されるように血液処理用リン吸着剤が配置されていることが好ましい。図6に一実施形態として、血液処理システムの模式図を示す。
また、本実施形態の血液処理用リン吸着剤で処理された血液が血液浄化器で処理されるように血液処理用リン吸着剤が配置されていることが好ましい。
血液処理用リン吸着剤は、血液浄化器の前後に直列又は並列に配置することが好ましい。
血液浄化器としては、特に限定されず、透析療法等において用いられる人工腎臓(ダイアライザー)等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の血液浄化器は、例えば、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンとを含む分離膜を用いた血液浄化器が挙げられる。
<ポリスルホン系高分子>
本実施形態において、ポリスルホン系高分子とは、スルホン(-SO2-)基をその構造内に含有する高分子である。
ポリスルホン系高分子としては、例えば、ポリフェニレンスルホン、ポリスルホン、ポリアリルエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン及びこれらの共重合体等が挙げられる。
ポリスルホン系高分子は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
中でも分画性を制御する観点で、下記式(1)又は下記式(2)で示されるポリスルホン系高分子が好ましい。
(-Ar-SO2-Ar-O-Ar-C(CH32-Ar-O-)n (1)
(-Ar-SO2-Ar-O-)n (2)
式(1)及び式(2)中、Arはベンゼン環を、nはポリマーの繰り返しを表し、1以上の整数である。
【0052】
式(1)で示されるポリスルホン系高分子としては、例えば、ソルベイ社から「ユーデル(商標)」の名称で、ビーエーエスエフ社から「ウルトラゾーン(商標)」の名称で市販されているものが挙げられる。また、式(2)で示されるポリエーテルスルホンとしては、例えば、住友化学株式会社から「スミカエクセル(商標)」の名称で市販されているものが挙げられ、重合度等によっていくつかの種類が存在するので、これらを適宜利用することができる。
【0053】
<ポリビニルピロリドン>
ポリビニルピロリドンとは、N-ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の親水性高分子であり、親水化剤や孔形成剤として中空糸膜の素材として広く用いられている。
ポリビニルピロリドンとしては、例えば、ビーエーエスエフ社から「ルビテック(商標)」の名称でそれぞれいくつかの分子量のものが市販されているので、これらを適宜利用することができる。
ポリビニルピロリドンは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
分離膜は、その構成成分として、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドン以外の構成成分が含まれていてもよい。その他の構成成分としては、例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシブチルメタクリレート等のポリヒドロキシアルキルメタクリレート及びポリエチレングリコール等が挙げられる。
その他の構成成分の分離膜中の含有量は、特に限定されるものではないが、20質量%以下であり、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。
また、分離膜においては、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を42質量%以下とすると、ポリビニルピロリドンの溶出量を抑制することができるので好ましい。ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率は15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上であり、また、18質量%以上とすると、分離膜表面のポリビニルピロリドン濃度を好適な範囲に制御でき、タンパク質吸着を抑制する効果を高められ、血液適合性に優れた血液処理用分離膜とすることができる。
【0055】
分離膜の形状に限定はないが、分離膜は中空糸形状を有していることが好ましい。また、透過性能の観点からは、クリンプが付与されていることが好ましい。
【0056】
以下、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンとを含む分離膜を用いた血液浄化器の製造方法について説明する。
分離膜は、少なくともポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含む製膜原液を用いて、通常の方法により製膜することにより製造することができる。
製膜原液としては、ポリスルホン高分子とポリビニルピロリドンを溶媒に溶解することによって調製することができる。
かかる溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン及びジオキサン等が挙げられる。
溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は、製膜可能で、かつ得られる分離膜が透過膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に限定されるものではないが、5~35質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。
高い透水性能を達成する場合にはポリスルホン系樹脂濃度は低い方がよく、10~25質量%であることがさらに好ましい。
【0058】
製膜原液中における、ポリビニルピロリドンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率(ポリビニルピロリドンの質量/ポリスチレン系高分子の質量)が好ましくは27質量%以下、より好ましくは18~27質量%、さらに好ましくは20~27質量%となるように調整することが好ましい。
製膜原液中、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を27質量%以下とすることにより、ポリビニルピロリドンの溶出量を抑制することができる。また、好適には、18質量%以上とすることにより、分離膜表面のポリビニルピロリドン濃度を好適な範囲に制御でき、タンパク質吸着を抑制する効果を高められ、血液適合性に優れた分離膜とすることができる。
【0059】
以上のような製膜原液を用いて、通常用いられている方法により平膜や中空糸膜の分離膜を製膜することができる。
分離膜の製造方法を、中空糸膜である場合を例示して説明する。
チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、該紡糸口金のオリフィスからは製膜紡糸原液を、チューブからは該製膜紡糸原液を凝固させる為の中空内液を、同時に空中に吐出させる。中空内液としては、水や水を主体とした液体が使用でき、一般的には製膜紡糸原液に使った溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、20~70質量%のジメチルアセトアミド水溶液等が用いられる。
製膜紡糸原液吐出量と中空内液吐出量を調整することにより中空糸膜の内径と膜厚を所望の値に調整することができる。
【0060】
中空糸膜の内径は、特に限定はないが、血液処理用途においては一般に170~250μmであればよく、180~220μmであることが好ましい。透過膜としての物質移動抵抗による低分子量物の拡散除去の効率の観点から、中空糸膜の膜厚は50μm以下であることが好ましい。強度の観点から、中空糸膜の膜厚は10μm以上であることが好ましい。
【0061】
紡糸口金から中空内液とともに吐出された製膜紡糸原液は、エアーギャップ部を走行させられ、次いで、紡糸口金下部に設置された水を主体とする凝固浴中へ導入され、一定時間浸漬されて、その凝固が完了する。このとき、製膜紡糸原液吐出線速度と引取速度の比で表されるドラフトが1以下であることが好ましい。
なお、エアーギャップとは、紡糸口金と凝固浴との間の空間を意味し、製膜紡糸原液は紡糸口金から同時に吐出された中空内液中の水などの貧溶媒成分(ポリスルホン系高分子及びポリビニルピロリドンに対する貧溶媒成分)によって、内表面側から凝固が開始する。凝固開始時に平滑な分離膜表面を形成し、分離膜構造を安定にするためには、ドラフトは1以下が好ましく、より好ましくは0.95以下である。
【0062】
ついで熱水等による洗浄によって中空糸膜に残留している溶媒を除去した後、連続的に乾燥機内に導き、熱風などにより乾燥した中空糸膜を得ることができる。洗浄は不要なポリビニルピロリドンを除去するため、60℃以上の熱水にて120秒以上実施することが好ましく、70℃以上の熱水にて150秒以上洗浄することがより好ましい。
【0063】
後工程においてウレタン樹脂で包埋するため、また、本実施の形態においては、ドライ状態で放射線滅菌を行うために、乾燥により分離膜の水分含有率を10質量%以下とするのが好ましい。
【0064】
以上の工程を経て得られた中空糸膜は、所望の膜面積となるように、長さと本数を調整した束としてモジュール製造工程に供することができる。この工程では、中空糸膜は側面の両端部付近に2本のノズルを有する筒状容器に充填され、両端部がウレタン樹脂で包埋される。
次に両端の硬化したウレタン部分を切断して中空糸膜が開口(露出)した端部に加工する。この両端部に、液体導入(導出)用のノズルを有するヘッダーキャップを装填して血液処理器の形状に組み上げる。
【0065】
本実施形態の血液処理方法は、本実施形態の血液処理用リン吸着剤を用いて血液を処理するリン吸着工程を有する。
血液処理方法は、血液浄化器を用いて血液を処理する血液浄化工程と、血液浄化工程の前及び/又は後に、リン吸着工程を含むことが好ましい。
【0066】
血液処理用リン吸着剤は体外循環治療時に用いることが好ましく、血液透析治療時に用いることがより好ましい。体外循環治療において用いられる血液浄化器は拡散、濾過、吸着等によって血中のリンを所定の割合で除去することができるため、血液処理用リン吸着剤と併用することにより、血液処理用リン吸着剤の血液処理可能量を大幅に向上させることができる。血液浄化器の前に血液処理用リン吸着剤を配置するとリン吸着カラムに入る血中リン濃度が高いためリン吸着カラムで排除するリンの除去量が多くなると同時に、もし何らかの不具合によりリン吸着剤から異物が発生したとしても血液浄化器がフィルター代わりとなって不安全な状況を回避できる可能性がある。また、血液浄化器の後に、血液処理用リン吸着剤を通過するように両者を配置し、既に一定の割合でリンが除去された血液を血液処理用リン吸着剤が処理するように配置することによって、有限のリン吸着容量を有する血液処理用リン吸着剤の血液処理可能量を向上させリン吸着剤の量を減じることができる可能性がある。
【実施例
【0067】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。多孔性成形体の物性は、以下の方法により測定した。
【0068】
〔走査型電子顕微鏡による多孔性成形体の観察〕
走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔性成形体の観察は、目立製作所製のSU-70型走査型電子顕微鏡で行った。
多孔性成形体試料をカーボン粘着テープ/アルミナ試料台に保持し、導電処理としてオスミウム(Os)コーティングして外表面SEM観察試料とした。
【0069】
〔水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径及びメディアン径〕
多孔性成形体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーター((株)島津製作所製、島津オートポアIV9500型)で測定した。
【0070】
〔外表面開口率〕
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した多孔性成形体の外表面の画像を、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製、A像くん(商品名))を用いて解析して求めた。さらに詳しく説明すると、得られたSEM像を濃淡画像として認識し、色が濃い部分を開口部、色が薄い部分を多孔構造(骨格構造)となるように、しきい値を手動で調整し、開口部分と骨格部分に分割して、その面積比を求めた。しきい値決定の誤差を少なくするため、10枚の画像で同じ測定を行い、平均値を算出した。
【0071】
〔水銀ポロシメーターで測定した比表面積〕
多孔性成形体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーター((株)島津製作所製、島津オートポアIV9500型)を用い、多孔性成形体の単位質量あたりの細孔表面積S(Hg)(m2/g)を求めた。
次に、水で湿潤状態の多孔性成形体を、メスシリンダーを用いて、タッピングを行って、みかけの体積V(cm3)を測定した。その後、室温で真空乾燥して、多孔性成形体の乾燥質量W(g)を求めた。
多孔性成形体の比表面積は、次式から求めた。
比表面積(m2/cm3)=S(Hg)(m2/g)×かさ比重(g/cm3
かさ比重(g/cm3)=W/V
前記式中、S(Hg)は多孔性成形体の単位質量あたりの表面積(m2/g)であり、Wは多孔性成形体の乾燥質量(g)、Vはそのみかけの体積(cm3)である。
【0072】
〔多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径〕
多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA-950(商品名))で測定した。分散媒体は水を用いた。無機イオン吸着体に水和酸化セリウムを使用したサンプルの測定時は、屈折率に酸化セリウムの値を使用して測定した。同様に、無機イオン吸着体に水和酸化ジルコニウムを使用したサンプルを測定する時は、屈折率に酸化ジルコニウムの値を使用して測定した。
【0073】
〔リン吸着量〕
牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験によるリン吸着量を測定した。詳細は実施例1に記載するが、低リン濃度(0.7mg/dL)程度に調整した牛血漿を用いて、一般的な透析条件(空間速度SV=120,4時間透析)と同等な条件でカラムに充填した多孔性成形体(リン吸着剤)のリン吸着量(mg-P/mL-多孔性成形体)を測定した。
リン酸イオン濃度は、モリブデン酸直接法にて測定した。
通液速度がSV120の時のリン吸着量が、1.5(mg-P/mL-多孔性成形体)以上であれば、吸着容量が大きく、リン吸着剤として良好であると判断した。
【0074】
〔実施例1〕
N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学(株))220gと、平均粒径30μmの水和酸化セリウム粉末(岩谷産業(株))200gを、直径5mmφのステンレス製ボール1.5kgを充填した容積1Lのステンレス製ボールミルポットに投入し、75rpmの回転数で150分間粉砕・混合処理を行い黄色のスラリーを得た。得られたスラリーに、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))4gと、アクリロニトリル91.5質量%、アクリル酸メチル8.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ0.5質量%からなる極限粘度[η]=1.2の共重合体(有機高分子樹脂、PAN)10gを加えて、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一な成形用スラリー溶液を得た。
得られた成形用スラリー溶液を60℃に加温し、側面に直径4mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成させた。続いて、回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆って空間部の温度を50℃、相対湿度を100%に制御した空間部を飛行させ、水に対するNMPの含有量が50質量%の凝固液を80℃に加温して貯留した、上面開口の凝固槽中に着水させ、成形用スラリーを凝固させた。
さらに、洗浄、分級を行い、球状の多孔性成形体を得た。
得られた多孔性成形体の表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)を図1に示した。
【0075】
(バッチ式での血漿中リン吸着量測定)
健常人ドナー血を採血し、血液100mLにCPD液(血液保存液)を14mL加え、遠心分離を行い、血球成分と血漿成分に分離した。
血漿成分中のリン濃度(測定方法 モリブデン酸直接法)は11.1mg/dLであった。血漿10mL中に多孔性成形体を0.1mL(生食液中にて洗浄したもの)添加し、室温で2時間混和させた。その後、血漿中のリン濃度を測定して多孔性成形体へのリン吸着量を換算すると8.7mg/mL-多孔性成形体であった。同様に水系(リン濃度12mg/dL)にて室温で2時間混和させたときの多孔性成形体のリン吸着量は11.2mg/mL-多孔性成形体であった。
血漿中でのリン吸着量は水系と比較してやや低くなるが、血漿中でもリン選択性が高く、リン吸着量の大きい、多孔性成形体が得られた。
【0076】
(血液フロー試験)
図5に示す模式図に応じた血液フロー試験により、圧力損失の変化、溶血性、血球付着性(白血球WBC、赤血球 RBC、血小板 PLT)、タンパク吸着性について評価を行った。
健常人血液約51mLに抗凝固剤であるヘパリン1000IU/Lを添加し元血液を作成した。試験サンプルとして多孔性成形体とヘモソーバCHS-350(旭化成メディカル社製 吸着型血液浄化器)中のビーズ状活性炭を選択した。
カラム内にそれぞれ樹脂量0.875mLを充填し生食で洗浄した。その後、元血液をポンプを使用して流量0.25mL/minでカラム下側にそれぞれ送り込み、上部から出てきたサンプル液を3mL/minで分取した。
1. 圧力損失変化結果
フロー時間約200分を実施したが両サンプル共に圧力損失に変動が見られず、目詰り等は発生しなかった。圧力は1kPa以下で推移した。
2. 溶血性結果
サンプルと生理食塩水を混合して30分以上静置後、遠心分離した上澄みの吸光度Abs540を測定する。元血液と生理食塩水を同様処理時の吸光度Abs540を溶血度0%、元血液と蒸留水との同様処理時の吸光度Abs540を溶血度100%としてそれぞれのフラクションについて溶血度を算出した。
フロー時間約200分を実施し、それぞれ時間ごとに3mLずつサンプルしたものについて溶血度を測定したが、全て溶血度が0.5%以下であり溶血は観測されなかった。このことより多孔性成形体は実使用に問題ないことを確認した。
3. 血球付着性(白血球WBC、赤血球 RBC、血小板 PLT)結果
フロー時間約200分を実施し、それぞれ時間ごとに3mLずつサンプルしたものについて分析を行った。
分析はシスメックスの多項目自動血球分析装置 XT-1800iを使用した。
白血球、赤血球、血小板ともに多孔性成形体とヘモソーバCHS-350の付着率傾向に差がなく実使用に問題ないことを確認した。
4. タンパク吸着性結果
フロー時間約200分を実施し、それぞれ時間ごとに3mLずつサンプルしたものについて分析を行った。
分析はビウレット法を用い、波長540nmで標準血清とサンプルの吸光度の測定を行い、元液からの吸着量を測定した。
最初のフラクションでのタンパク吸着量は多孔性成形体で8mg/mL-多孔性成形体、ヘモソーバCHS-350は45mg/mL-ヘモソーバCHS-350で多孔性成形体の方が吸着量は小さかった。最初のフラクション以降の吸着率は両サンプル共に小さく0~2mg/mLの間であった。このことより多孔性成形体は実使用に問題ないことを確認した。
【0077】
(牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験)
透析治療時のダイアライザー出口の血中無機リン濃度は0.2~1.0mg/dLであることからその濃度範囲でのリン吸着量を測定しなければならない。そのため、試験血漿液のリン濃度の調整を行った。
市販品の牛血清を遠心分離(3500rpm、5min)してその上澄み液である血漿を2000mL作成した。血漿中のリン濃度は10.8mg/dLであった。
得られた血漿の半分(1000mL)に実施例1で得られた多孔性成形体を加え、室温で2時間攪拌処理を行い、遠心分離(3500rpm、5min)をしてリン濃度0の血漿約950mLを得た。
リン濃度10.8mg/dLの血漿33mLとリン濃度0の血漿467mLを混合し遠心分離(3500rpm、5min)をかけて上澄み液としてリン濃度0.7mg/dL、495mLの血漿を得た。
図5に示す模式図に応じて多孔性成形体1mLを充填したカラムを組み込み、得られた血漿450mLを2mL/minの流速で通液し、1フラクション目は10mLでそれ以降は1サンプルあたり20mLずつ採取した。通常、平均的な透析条件は流速Qb=200mL/minで4時間透析を行うことから、200mL×4時間=48000mLの全血流量となり、血球成分をHt=30%とすると血漿としては33600mLの流量となる。今回は1/100スケールでの実験としたので340mLの通液を目安とした。
血漿フロー量-カラム出口血漿濃度-吸着率(%)-総吸着量を表1に記す。また、図7に血漿フロー量とリン吸着率(%)の関係を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
血漿フロー量350mLでの多孔性成形体のリン吸着量は2.28mg-P/mL-多孔性成形体であった。
血漿フロー量が110mLまではリン吸着率は100%であり、透析終了時点でも吸着率は86%であることからリフィリング効果が期待できる。
透析のみでのリンの排除量は透析液量を分析することでリンの排除量が測定でき、例えば4時間透析時のリン排除量は1100mg排除できるデータ等がある。その透析時のダイアライザー後の血中リン濃度からその後にリン吸着器を設けることでリン吸着器でのリンの排除可能量が計算でき、例えば240mgが排除可能と予測できる。この値は透析での排除量の20%以上にもなる。但し、この予想値は体内でのリンのリフィリング効果を考えていない場合であり、リフィリング効果が期待できれば透析での排除量も増え、リン吸着器での排除量も増えることが考えられ、全体での排除量は相当上がることが考えられる。
【0080】
〔実施例2〕
凝固液の温度を60℃とし、空間部の温度を37℃、相対湿度を100%に制御したこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0081】
〔実施例3〕
水和酸化セリウム粉末の仕込み量を200gから300gへ増量したこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0082】
〔実施例4〕
水和酸化セリウム粉末の仕込み量を200gから150gへ減量したこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0083】
〔実施例5〕
円筒状回転容器の側面に備えたノズルの直径を4mmから3mmに細くしたノズルを用いて多孔性成形体を成形すること以外は実施例3に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0084】
〔実施例6〕
円筒状回転容器の側面に備えたノズルの直径を4mmから5mmに太くしたノズルを用いて多孔性成形体を成形すること以外は実施例3に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0085】
〔実施例7〕
有機高分子樹脂の良溶媒をジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))160g、有機高分子樹脂をエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))20g、水和酸化セリウム粉末の仕込み量を250gとし、さらに凝固液を水、ノズル直径を5mmとしたこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0086】
〔実施例8〕
有機高分子樹脂をポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード、末端水酸基組成90(モル%))30g、水溶性高分子をポリエチレングリコール(PEG35,000、メルク(株))4g、水和酸化セリウム粉末の仕込み量を100gとし、さらに凝固液を水、ノズル直径を5mmとしたこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0087】
〔実施例9〕
無機イオン吸着体として、水和酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素(株)、R水酸化ジルコニウム(商品名))を70℃の乾燥機中で恒量乾燥したものを使用したこと以外は、実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0088】
〔実施例10〕
無機イオン吸着体として、水和酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素(株)、R水酸化ジルコニウム(商品名))を70℃の乾燥機中で恒量乾燥したものを使用し、さらにノズル直径を4mmにしたこと以外は、実施例7に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0089】
〔実施例11〕
無機イオン吸着体として、水和酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素(株)、R水酸化ジルコニウム(商品名))を70℃の乾燥機中で恒量乾燥したものを使用し、さらにノズル直径を4mmにしたこと以外は、実施例8に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0090】
〔実施例12〕
凝固液の温度を50℃とし、さらに空間部の温度を31℃、相対湿度を80%に制御したこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0091】
〔実施例13〕
N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学(株))154gと、平均粒径30μmの水和酸化セリウム粉末(岩谷産業(株))300gを、直径5mmφのステンレス製ボール1.5kgを充填した容積1Lのステンレス製ボールミルポットに投入し、75rpmの回転数で150分間粉砕・混合処理を行い黄色のスラリーを得た。得られたスラリーに、ポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード)15gを加えて、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一な成形用スラリー溶液を得た。
得られた成形用スラリー溶液を60℃に加温し、側面に直径4mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成させた。回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆い空間部の温度を30℃、相対湿度を70%に制御し、液滴を飛行させ、水に対するNMPの含有量が10質量%の凝固液を40℃に加温して貯留した、上面開口の凝固槽中に液滴を着水させ、成形用スラリーを凝固させた。
さらに、洗浄、分級を行い、球状の多孔性成形体を得た。
【0092】
〔実施例14〕
N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学(株))160g、有機高分子樹脂をポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード)30g、水溶性高分子をポリエチレングリコール(PEG35,000、メルク(株))4g、水和酸化セリウム粉末の仕込み量を100gとしたこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0093】
〔実施例15〕
凝固液の温度を60℃とし、空間部の温度を37℃、相対湿度を90%に制御したこと以外は実施例14に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0094】
〔比較例1〕
回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆ないこと以外は実施例2に記載の方法と同様にして、多孔性成形体を得た。この時の空間部の温度は26℃、相対湿度は63%だった。
【0095】
〔比較例2〕
特許文献3(国際公開第2011/062277号)の実施例1を参考にして多孔性成形体を得た。
回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆わず、さらに凝固液の温度を60℃にしたこと以外は実施例8に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。この時の空間部の温度は26℃、相対湿度は63%だった。
【0096】
〔比較例3〕
特許文献1(国際公開第2005/056175号)の実施例2を参考にして多孔性成形体を得た。
回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆わず、さらに凝固液の温度を60℃にしたこと以外は実施例7に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。この時の空間部の温度は26℃、相対湿度は63%だった。
【0097】
実施例1~15及び比較例1~3で得られた多孔性成形体の物性及び実施例1と同条件で実施した血漿フロー量の350mL時のリンの吸着量(mg/mL-多孔性成形体)を表2及び表3に示した。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
〔実施例16及び比較例4〕
(血液処理器の作製)
製膜紡糸原液は、ジメチルアセトアミド(キシダ化学社製、試薬特級)79質量部にポリスルホン(ソルベイ社製、P-1700)17質量部及びポリビニルピロリドン(ビーエーエスエフ社製、K-90)4質量部を溶解して作製した。
中空内液は、ジメチルアセトアミド60質量%水溶液を使用した。
チューブインオリフィス型の紡糸口金から、製膜紡糸原液及び中空内液を吐出させた。吐出時の製膜紡糸原液の温度は40℃とした。吐出した製膜紡糸原液をフードで覆った落下部を経て水よりなる60℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。紡糸速度は30m/分とした。
凝固後、水洗、乾燥を行って中空糸分離膜を得た。水洗温度は90℃、水洗時間は180秒とした。なお、乾燥後の膜厚が45μm、内径が185μmとなるように製膜紡糸原液及び中空内液の吐出量を調整した。
得られた中空糸分離膜を血液処理容器に組み込んで成型し、有効面積0.02m2のモジュールを組み上げ、血液処理器を得た。
得られた血液処理器を用いて回路1(図8)においてリンの除去量を測定した。
実施例16では、血液処理器と実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)とを、回路2(図9)及び回路3(図10)においてリンの除去量を測定した。
また、比較例4では、実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラムに代えて、比較例2で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラムを用いて、回路2及び回路3においてリンの除去量を測定した。
結果を表4~8及び図11図16に示す。
【0101】
回路1の場合の結果を示す。
【0102】
【表4】
【0103】
実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路2の場合の結果を示す。
【0104】
【表5】
【0105】
実施例8で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路3の場合の結果を示す。
【0106】
【表6】
【0107】
比較例2で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路2の場合の結果を示す。
【表7】
【0108】
比較例2で作製した球状の多孔性成形体を充填したカラム(血液処理用リン吸着剤)を用いた場合の回路3の場合の結果を示す。
【表8】
【0109】
何れも実験条件、牛血液調製は以下のとおりである。
[実験条件]
血液浄化器:0.02m2膜(有効長 約85mm、中空糸本数420本)
多孔性成形体量:0.5mLカラム
牛全血流速:2ml/min
透析液流速:5ml/min
[血液調製]
Ht:32%(ヘマトクリット値:血液中に占める血球の体積の割合を示す数値)
TP:6.027g/dL(タンパク質濃度)
IP:4.99mg/dL(無機リン濃度)
[リン除去量(mg)]
血液プールから牛全血フローを開始後240min、流量480mLまで血液出口および透析液出口にてサンプリングを行い、リンの除去率(%)およびリンの除去量(mg)を測定した。
リンの除去量は流量480mL時点での値で比較した。
血液浄化器のみでのリンの除去量=Dout濃度×サンプル採取量
(血液浄化器+多孔性成形体カラム)連結時のリンの除去量=(Bin濃度-Bout濃度)×(サンプル採取量)×(100-Ht)/100
なお、サンプリングの便宜のため、多孔性成形体カラムの有無によりサンプリング位置を変えて測定しているが、いずれの測定方法によっても値が変わらないことを確認している。
[リン除去率(%)]
除去率(%)=100×(Bin濃度-Bout濃度)/(Bin濃度)
[サンプリング]
血液プールから初期濃度をサンプリングし、フロー開始後、10分,20分,30分,60分,90分・・・以後30分おきに240分まで血液出口(Bout)透析液出口(Dout)をサンプリングした。
【0110】
結果をまとめると表9のとおりである。
【表9】
【0111】
血液浄化器の前後に本発明の血液処理用リン吸着剤を設置することによりリン除去量が大幅に増加することが確認された。
【0112】
本出願は、2015年11月11日出願の日本特許出願(特願2015-221665号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の血液処理用リン吸着剤は、透析療法等において好適に用いることができることから、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0114】
1 タンク
2 ポンプ
3 空間部カバー
4 凝固槽
5 回転容器
6 回転軸
7 ホース
8 ヒーター
a 成形用スラリー
b 開口部
c 空間部
d 凝固液
11 恒温槽
12 実験台
13 ポンプ
14 リン吸着剤入りカラム
15 圧力計
16 サンプリング
図1
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図16