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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】黒鉛電極、電気炉
(51)【国際特許分類】
   H05B 7/085 20060101AFI20220517BHJP
   H05B 7/11 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
H05B7/085 A
H05B7/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021042350
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2021-12-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭海 洋平
(72)【発明者】
【氏名】樫原 良彦
(72)【発明者】
【氏名】足立 光広
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-077945(JP,A)
【文献】特開昭53-025279(JP,A)
【文献】特開昭61-107695(JP,A)
【文献】実開昭55-158597(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 7/085
H05B 7/11、7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部に雌ねじ状のソケットを有するポールと、
前記ソケットに締結可能な雄ねじ状のニップルと、
を備え、
前記ソケットの小径端側の有効径から前記ニップルの小径端側の有効径を減算した値が0.05~0.7mmであり、
前記ニップルのテーパ角度から前記ソケットのテーパ角度を減算した値が-2分~-3分30秒である黒鉛電極。
【請求項2】
端部に雌ねじ状のソケットを有するポールと、
前記ソケットに締結可能な雄ねじ状のニップルと、
を備え、
前記ポールの線膨張係数から前記ニップルの線膨張係数を減算した値が-0.4~+0.5(10-6/℃)である請求項1に記載の黒鉛電極。
【請求項3】
前記ソケットに前記ニップルを締結するのに要する締めトルクに対して、前記ソケットに締結された前記ニップルを緩めるのに要する緩めトルクが少なくとも1.65倍大きい請求項1又は請求項2に記載の黒鉛電極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の黒鉛電極を備えた電気炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛電極およびそれを備えた電気炉に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉の黒鉛電極において、ニップルの折損を防止した電極接続部の構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この電極接続部の構造では、ニップルとソケットとの間でテーパ度差を設けることで、従来ニップルの最大径部に集中していた応力の偏りを緩和している。
【0003】
同様に、電気炉の黒鉛電極において、ニップルの折損を防止した黒鉛電極の接続部の構造が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この接続部の構造では、テーパニップル又は電極ソケットのねじ山当接側部に、小径部側から最大径部に移行するに従って削落幅が漸増する螺旋状の周縁削落部位を形成している。これによって、テーパニップルの最大径部における応力を緩和して、テーパニップルの折損を防止している。
【0004】
さらに、電気炉の黒鉛電極において、ニップルの折損を防止した黒鉛電極の接続部が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この接続部では、小径部側から最大径部に行くにつれて漸減するように複数のねじ山の山頭部を削落した構造を有する。これによって、テーパニップルの最大径部における応力集中を緩和して、テーパニップルの折損を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭48-007735号公報
【文献】実公昭57-045676号公報
【文献】実公昭58-000958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
黒鉛電極の不具合には、上記した応力集中に起因するニップルの折損のほか、ニップルとソケット間のねじに緩みに起因して黒鉛電極の一部が落下するという不具合もある。また、黒鉛電極は、硬い脆性材料であるグラファイトによって形成されているため、加工性が悪く、引用文献2、3のようにソケットおよびニップルを特殊な形状にすると、当該形状に精度よく加工するために多大なコストがかかる問題がある。
【0007】
従って、本発明の課題の一つは、ニップルとソケットとの間のねじの緩みを低減できるとともに、製造コストも抑制することが可能な黒鉛電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明により解決される。すなわち、本発明(1)の黒鉛電極は、端部に雌ねじ状のソケットを有するポールと、
前記ソケットに締結可能な雄ねじ状のニップルと、
を備え、
前記ソケットの小径端側の有効径から前記ニップルの小径端側の有効径を減算した値が0.05~0.7mmであり、
前記ニップルのテーパ角度から前記ソケットのテーパ角度を減算した値が-2分~-3分30秒である。
【0009】
また、本発明(2)の黒鉛電極は、
端部に雌ねじ状のソケットを有するポールと、
前記ソケットに締結可能な雄ねじ状のニップルと、
を備え、
前記ポールの線膨張係数から前記ソケットの線膨張係数を減算した値が-0.4~+0.5(10-6/℃)である。
【0010】
また、本発明(3)の黒鉛電極は、(1)又は(2)に記載の黒鉛電極であって、
前記ニップルは、前記ソケットに締結可能な第1締結部と、前記第1締結部とは反対側に設けられた第2締結部と、を有し、
前記第1締結部を前記ソケットに締結させた状態の前記ニップルの前記第2締結部に第2ポールの第2ソケットを締結させるのに要する締結トルクに対して、前記第2締結部に締結された前記第2ポールを緩めるのに要する緩めトルクが少なくとも1.65倍大きい。
【0011】
また、本発明(4)の電気炉は、(1)~(3)のいずれか1項に記載の黒鉛電極を備えた電気炉である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニップルとソケットとの間のねじの緩みを低減した黒鉛電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電気炉を示す断面図である。
図2図1に示す電気炉の黒鉛電極の接続部を拡大して示す断面図である。
図3図2に示す黒鉛電極のニップルの小径端側の有効径dと、黒鉛電極のソケットの小径端側の有効径Dと、を示す断面図である。
図4図2に示す黒鉛電極のニップルのテーパ角度αの半角であるα/2と、黒鉛電極のソケットのテーパ角度βの半角であるβ/2と、を示す断面図である。
図5】実施例B1~B7および比較例B1~B7のポールの直径方向のCTE差を示すグラフである。
図6】実施例C1~C4の有効径差およびテーパ角度と、緩め/締めトルク比との関係を示すグラフである。
図7】実施例C2、比較例C1~C3の有効径差およびテーパ角度と、緩め/締めトルク比との関係を示すグラフである。を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照して、電気炉について説明する。電気炉は、放電(アーク)によって発生した熱によって炉内の鉄等の金属のスクラップを溶解して溶鋼を生成できるものである。
[実施形態]
【0015】
図1図4を参照して、実施形態の電気炉11について説明する。電気炉11は、炉本体12と、炉本体12の内部に吊下げられた黒鉛電極13と、黒鉛電極13を吊下げるホルダ14と、を備える。電気炉11は、AC炉およびDC炉のいずれであってもよい。電気炉11がAC炉である場合には、黒鉛電極13の本数は複数であってもよい。
【0016】
黒鉛電極13は、先端から炉本体12の底部に向けて放電をすることで、炉本体12の内部に投入された金属スクラップを高熱によって溶かすことができる。
【0017】
図1図2に示すように、黒鉛電極13は、円柱形の1以上のポール21と、ポール21同士の間にジョイントとして介在されるニップル22と、を有する。ポール21およびニップル22のそれぞれは、黒鉛(グラファイト)を主成分とする固体状の組成物によって形成されている。
【0018】
ポール21のそれぞれは、その端面23に、円錐台形状に窪んだソケット24を有する。ソケット24の内周面には、雌ねじが形成されている。ソケット24の内側にニップル22を受容することができる。
【0019】
ニップル22は、2個の円錐台形のコーンの底面同士を接合した形状を有する。ニップル22は、テーパ状をなした第1締結部25と、第1締結部25とは反対側に設けられテーパ状をなした第2締結部26と、第1締結部25と第2締結部26との境界に位置する最大径部27と、第1締結部25および第2締結部26のそれぞれの先端に設けられた一対の小径端28と、を有する。第1締結部25のテーパおよび第2締結部26のテーパは、逆向きに形成されている。第1締結部25のテーパおよび第2締結部26のテーパのそれぞれは、中央の最大径部27から両端に位置する小径端28に行くにつれて、徐々にニップル22の直径が小さくなるように形成されている。第1締結部25および第2締結部26の外周面に、雄ねじが形成されている。ニップル22の第1締結部25は、ポール21のソケット24に対して締結することができる。ポール21に対して第1締結部25が締結された状態で、ニップル22の第2締結部26に対して、ポール21とは別の第2ポール31を締結できる。第2ポール31は、端面23に第2ソケット32を有し、第2ソケット32を介して第2締結部26に接続することができる。
【0020】
このように、ニップル22に対してポール21および第2ポール31が締結された状態において、ニップル22の第1締結部25側の小径端28とソケット24の底部24Aとの間と、ニップル22の第2締結部26側の小径端28と第2ソケット32の底部32Aとの間と、のそれぞれには、所定の隙間が形成されている。
【0021】
ホルダ14は、リング状の保持具14Aと、保持具14Aを介して黒鉛電極13を支持可能な支持部14Bと、を有する。
【0022】
「ニップルの有効径」は、JIS R 7201で定義されるように、ニップルの中央部の位置でのニップル軸に直交する平面と、ニップルねじ山のピッチ線を構成する円錐との交差部にある円の直径を意味する。図3に示すように、本実施形態の「ニップルの小径端側の有効径」dは、この定義とは異なり、小径端28の位置でのニップル軸に直交する平面と、ニップルねじ山のピッチ線を構成する円錐との交差部にある円の直径を意味する。
【0023】
「ソケットの有効径」は、JIS R 7201で定義されるように、ソケット軸に直交する平面、すなわち、ポールの末端部に一致する平面と、ソケットねじ山のピッチ線を構成する円錐との交差部にある円の直径を意味する。図3に示すように、本実施形態の「ソケットの小径端側の有効径」Dは、この定義とは異なり、小径端28の位置でのソケット軸に直交するニップル22の平面と、ソケットねじ山のピッチ線を構成する円錐との交差部にある円の直径を意味する。その際、ニップル22の最大径部27は、ポール21とこれに隣接する第2ポール31との間の境界位置にある。
【0024】
本実施形態において、小径端28における有効径差、すなわち、ソケット24の小径端側の有効径からニップル22の小径端側の有効径を減算した値は、0.05~0.7mmであると良く、0.06~0.5mmであることが好ましく、0.08~0.44mmであることがさらに好ましい。小径端28における有効径差が0.05mmを下回ると、ポール21に対してニップル22や第2ポール31を締結する際に要するトルクが大きくなり過ぎる傾向がある。小径端28における有効径差が0.70mmを超えると、ポール21からニップル22や第2ポール31を取り外す際に必要な緩めトルクが小さくなり、ポール21に対してニップル22が緩みやすくなる傾向がある。
【0025】
テーパ角度は、JIS R 7201で定義されるように、ねじ山のピッチ線で表される円錐の全角度をいう。したがって、図4に示すように、ニップル22のテーパ角度αは、ニップル軸に対する勾配α/2を2倍した値に相当する。ソケット24のテーパ角度βは、ソケット軸に対する勾配β/2を2倍した値に相当する。
【0026】
本実施形態において、ニップル22とソケット24のテーパ角度差、すなわち、ニップル22のテーパ角度からソケット24のテーパ角度を減算した値は、-2分~-4分であると良く、-2分~-3分45秒であることが好ましく、-2分~-3分30秒であることがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態のポール21とニップル22の直径方向の線膨張係数差、すなわち、ポール21の線膨張係数からソケット24の線膨張係数を減算した値は、-0.4~+0.5(10-6/℃)であることが好ましく、-0.3~+0.3(10-6/℃)であることがさらに好ましい。ポール21とニップル22の直径方向の線膨張係数差が+0.5(10-6/℃)を超えると、高温での使用時にポール21の熱膨張に伴いポール21に割れを生じる可能性が高くなるとともに、ポール21の締付力によってニップル22にも割れを生じる可能性が高くなる。一方、ポール21とニップル22の直径方向の線膨張係数差が-0.4(10-6/℃)を下回ると、ポール21に対してニップル22が大きく熱膨張し、ニップル22に割れを生じる可能性が高くなるとともに、ニップル22の膨張圧力によってポール21にも割れを生じる可能性が高くなる。
【0028】
緩め/締めトルク比は、ソケットに対してニップルを締結する際に必要な最大トルクである締めトルクに対する、ソケットに締結された状態のニップルを緩めるのに必要な最大トルクである緩めトルクの比である。緩め/締めトルク比は、少なくとも1以上であると良く、少なくとも1.6以上であるが好ましく、少なくとも1.65以上であることがさらに好ましい。
【0029】
ポール21およびニップル22の製造方法について説明する。石油由来のニードルコークスおよび/または石炭由来のニードルコークスをそれぞれ粉砕して混合し、高温にしたニードルコークスをバインダーピッチと所定の割合で混合する。このとき用いるニードルコークスの熱膨張係数が小さい場合、終局的に得られるポール21およびニップル22の直径方向の線膨張係数が小さくなる。バインダーピッチは、石炭を乾留して得られたコールタールを蒸留、熱改質処理して得られる。一定温度にまで冷却されたペーストを押出成形機に投入して一定速度でプレスする。成形体(生電極)は、サイズ毎に押し出された後に冷却される。針状性が良好なニードルコークスを用いた場合、この押出成形操作において、押出方向に平行となるようにニードルコークスが配向しやすくなる。この高配向性となる押出条件により生電極を製造した場合、終局的に得られるポール21およびニップル22の直径方向の線膨張係数が大きくなる。
【0030】
続いて、一次焼成工程において成形体中のバインダーピッチを炭化させる。焼成炉に生電極を入れて、約1000℃まで焼き上げる。これによって電極の炭素骨格(焼成電極)を形成する。
【0031】
続いて、ピッチ浸透工程を行い、含浸槽にて焼成電極にコールタール由来のピッチを含浸させる。これによって、焼成された電極の緻密化が図られる。緻密化によって、電極の強度・電気抵抗特性などが改善される。
【0032】
続いて、再び焼成炉において焼成電極の二次焼成工程を行い、約700℃まで昇温し、含浸させたピッチを炭化させる。
【0033】
さらに続いて、黒鉛化工程において、LWG炉又はアチソン炉において、焼成電極を約2000~3000℃の超高温まで昇温し加熱処理する。これによって、炭素組織を黒鉛に結晶化する。これによって、黒鉛質の電極素材が形成される。この加熱処理の温度が高いほど、終局的に得られるポール21およびニップル22の直径方向の線膨張係数が大きくなる。
【0034】
ポール21およびニップル22は、電極素材を加工して製作される。その加工工程において、専用加工機によって寸法規格通りに外形加工およびねじ切り加工が施される。
【0035】
加工された製品(ポール21、ニップル22)は、外観検査・ねじ精密検査などを経る。また、全数自動検査機によって、電極一本ごとの長さ、重量、各種特性値が計測される。検査が終了した電極は、梱包されて出荷される。
【0036】
出荷に際し、ポール21の片方の短面に設けられたソケット24に対して1個のニップル22を予め締結し、このようにポール21とニップル22が一体化された状態で製品として出荷されてもよい。
[実施例]
【0037】
(実施例A)小径端における有効径差およびテーパ角度差に関する評価
上記した製造方法で製造された黒鉛電極(各寸法規格の製品)について、ニップルの小径端側の有効径d、ソケットの小径端側の有効径D、小径端における有効径差、ニップル側テーパ角度、ソケット側テーパ角度、およびテーパ角度差を下記表1、表2のように製造した。これらニップルの小径端側の有効径d、ソケットの小径端側の有効径D、ニップル側テーパ角度、およびソケット側テーパ角度、の各数値はゲージを用いて測定した実測値である。また、ニップルの小径端側の有効径dの最大値又は最小値を取る箇所と、ソケットの小径端側の有効径Dの最大値又は最小値を取る箇所と、は通常一致しない。このため、ソケットの小径端側の有効径Dの最大値から、ニップルの小径端側の有効径dの最大値を減算したものが、小径端における有効径差の最大値とはなっていない。
【0038】
寸法規格は、比較例A1(24×110 - 24T4W)を例に説明すれば、ハイフンを間に挟んで、左側の数字はポールの寸法を示し、直径24インチ×長さ110インチであることを示す。ハイフンを間に挟んで、右側の数字の24は、ニップルの大きさを示し、直径24インチのポールに対応する型のニップルであることを示し、文字は所定の型式番号を示す。
【0039】
比較例A1に対して有効径差およびテーパ角度差を改良したものが実施例A1であり、以下同様に、比較例A2に対して有効径差およびテーパ角度差を改良したものが実施例A2、A2´であり、比較例A3に対して有効径差およびテーパ角度差を改良したものが実施例A3、A3´であり、比較例A4に対して有効径差およびテーパ角度差を改良したものが実施例A4、A4´であり、比較例A5に対して有効径差およびテーパ角度差を改良したものが実施例A5である。
【0040】
ニップルを介してポール同士を接続した各比較例および実施例において、接続部に緩み、抜け落ち、折損、がたつき等を生じた場合を「不具合」として判断し、総測定回数に対する「不具合」の数の割合を「不具合率」として算出した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
比較例A1を実施例A1のように有効径差とテーパ角度差に改善したところ、不具合率が3.3%から0.9%に減少し、不具合減少率が72.7%となった。比較例A2を実施例A2又は実施例A2´のように有効径差とテーパ角度差に改善したところ、不具合率が2.4%から0%に減少し、不具合減少率が100%となった。比較例A3を実施例A3又は実施例A3´のように有効径差とテーパ角度差に改善したところ、不具合率が0.9%から0%に減少し、不具合減少率が100%となった。比較例A4を実施例A4又は実施例A4´のように有効径差とテーパ角度差に改善したところ、不具合率が0.9%から0%に減少し、不具合減少率が100%となった。比較例A5を実施例A5のように有効径差とテーパ角度差に改善したところ、不具合率が6.7%から0%に減少し、不具合減少率が100%となった。
【0044】
(実施例B)ポールの線膨張係数とニップルの線膨張係数との差に関する評価
直径方向CTE(Coefficient of Thermal Expansion)差、すなわちポールの直径方向に関するポールの線膨張係数から、ニップルの直径方向に関するニップルの線膨張係数を減算した値を以下のように設定した。なお、ポールおよびニップルの線膨張係数は、その体積抵抗率と正の相関があることが知られている。線膨張係数に対応する線膨張係数を予め取得して実験的検量線を作成しておき、体積抵抗率を測定することでポールおよびニップルの線膨張係数を計測できる。
【0045】
すなわち、比較例B1~B7の直径方向CTE差は、いずれも、正負に係わらず大きく、具体的には、その絶対値が0.5を超えるものであった。ここで、比較例B1のポールの直径は32インチであり、比較例B2のポールの直径は30インチであり、比較例B3のポールの直径は28インチであり、比較例B4~B6のポールの直径は24インチであり、比較例B7のポールの直径は20インチである。
【0046】
この比較例B1~B7の直径方向CTE差を、ポールおよびニップルの製造条件(ニードルコークスの熱膨張係数、針状性、黒鉛化処理の加熱処理温度)を適宜変化させることにより、図5に示すように変更した。すなわち、実施例B1の直径方向CTE差を-0.19~0.01(10-6/℃)とし、実施例B2の直径方向CTE差を-0.07~0.47(10-6/℃)とし、実施例B3の直径方向CTE差を-0.13~0.12(10-6/℃)とした。また、実施例B4の直径方向CTE差を-0.27~0.27(10-6/℃)とし、実施例B5の直径方向CTE差を-0.27~0.27(10-6/℃)とし、実施例B6の直径方向CTE差を-0.17~0.19(10-6/℃)とし、実施例B7の直径方向CTE差を-0.23~0.1(10-6/℃)とした。ここで、実施例B1のポールの直径は32インチであり、実施例B2のポールの直径は30インチであり、実施例B3のポールの直径は28インチであり、実施例B4~B6のポールの直径は24インチであり、実施例B7のポールの直径は20インチである。
【0047】
そうしたところ、接続部に緩み、抜け落ち、折損、がたつき等を生じる不具合の発生数がゼロとなり、不具合減少率が100%となった。
【0048】
(実施例C)有効径差およびテーパ角度差と緩め/締めトルク比に関する評価
寸法規格24×110 - 24T4Wのポールおよびニップルの有効径差およびテーパ角度差と、緩め/締めトルク比と、の関係を評価した。ポールに対するニップルの締結作業、ポールからニップルを緩める緩め作業、および緩め/締めトルク比の計測作業は、CIS製電極接続機を用いた。
【0049】
実施例C1~C4のテーパ角度差を一律に-2分で設定し、有効径差(小径端における有効径差)の影響を評価した。実施例C1~C4の有効径差(小径端における有効径差)を、それぞれ、0.1mm、0.3mm、0.5mm、0.7mmとした。実施例C1~C4のそれぞれの評価数は、3とし(N=3)、その平均値を緩め/締めトルク比の結果として採用した。評価結果を図6に示す。実施例C1~C4の緩め/締めトルク比は、それぞれ、1.42、1.68、1.47、1.59であった。したがって、有効径差は、0.3mmおよびその付近の値が、ポールのソケットからニップルが緩んでしまうことを防止できる点で、最も望ましいことが理解される。
【0050】
次に、実施例C2および比較例C1~C3の有効径差を一律に3mmで設定し、テーパ角度差の影響を評価した。実施例C2のテーパ角度差は、-2分であり、比較例C1~C3のテーパ角度差を、それぞれ、平行(テーパ角度差0)、-4分、-6分とした。実施例C2、比較例C1~C3のそれぞれの評価数は、3とし(N=3)、その平均値を緩め/締めトルク比の結果として採用した。評価結果を図7に示す。実施例C2の緩め/締めトルク比1.68であり、比較例C1~C3の緩め/締めトルク比は、ぞれぞれ、1.59、1.50、1.62であった。したがって、テーパ角度差は、実施例C2の-2分およびその付近の値が、ポールのソケットからニップルが緩んでしまうことを防止できる点で、最も望ましいことが理解される。一方、平行(テーパ角度差0)、あるいは、テーパ角度差が-4分以下とした場合には、緩め/締めトルク比にばらつきを生じ、緩め/締めトルク比の値が安定して高い値とならないことが理解される。
【0051】
上記実施形態および上記実施例によれば、以下のことがいえる。黒鉛電極13は、端部に雌ねじ状のソケット24を有するポール21と、ソケット24に締結可能な雄ねじ状のニップル22と、を備え、ソケット24の小径端28側の有効径からニップル22の小径端28側の有効径を減算した値が0.05~0.70mmであり、ニップル22のテーパ角度からソケット24のテーパ角度を減算した値が-2分~-3分30秒である。
【0052】
この構成によれば、緩め/締めトルク比を高くすることができ、ポール21に対してニップル22が緩みにくい黒鉛電極を実現できる。これによって、不具合率を減少させることができる。また、ねじ部に対する削落等の特殊な加工を特段必要とせず、黒鉛電極の製造コストが著しく増加してしまうことを防止できる。
【0053】
黒鉛電極13は、端部に雌ねじ状のソケット24を有するポール21と、ソケット24に締結可能な雄ねじ状のニップル22と、を備え、ポール21の線膨張係数からニップル22の線膨張係数を減算した値が-0.4~+0.5(10-6/℃)である。この構成によれば、ポール21に対してニップル22が緩みにくい黒鉛電極13を実現して、緩み等の不具合を発生する確率を低減できる。
【0054】
これらの場合、ソケット24にニップル22を締結するのに要する締めトルクに対して、ソケット24に締結されたニップル22を緩めるのに要する緩めトルクが少なくとも1.65倍大きい。この構成によれば、いわゆる緩め/締めトルク比を高くして、ポール21に対してニップル22を締結しやすく、ポール21に対してニップル22が緩みにくく、それによって不具合が発生し難い黒鉛電極13を実現できる。
【0055】
電気炉11は、上記記載の黒鉛電極13を備える。この構成によれば、黒鉛電極13において接続部に緩み等の不具合を発生し難い高信頼性の電気炉11を実現できる。
【符号の説明】
【0056】
11 電気炉
12 炉本体
13 黒鉛電極
14 ホルダ
14A 保持具
14B 支持部
21 ポール
22 ニップル
23 端面
24 ソケット
24A 底部
25 第1締結部
26 第2締結部
27 最大径部
28 小径端
31 第2ポール
32 第2ソケット
32A 底部
【要約】
【解決課題】ニップルとソケットとの間のねじの緩みを低減した黒鉛電極を提供する。
【解決手段】 黒鉛電極は、端部に雌ねじ状のソケットを有するポールと、前記ソケットに締結可能な雄ねじ状のニップルと、を備え、前記ソケットの小径端側の有効径から前記ニップルの小径端側の有効径を減算した値が0.05~0.7mmであり、前記ニップルのテーパ角度から前記ソケットのテーパ角度を減算した値が-2分~-3分30秒である。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7