(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】前処理液、インキセット、及び、印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220517BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220517BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220517BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/322
C09D11/54
(21)【出願番号】P 2021173692
(22)【出願日】2021-10-25
【審査請求日】2022-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 里穂
(72)【発明者】
【氏名】野村 高教
(72)【発明者】
【氏名】砂押 和志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀雄
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-19252(JP,A)
【文献】特開2014-76619(JP,A)
【文献】特開2019-156995(JP,A)
【文献】特開2019-126909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
B41J 2/01
C09D 11/322
C09D 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキとともに用いられる前処理液であって、
前記前処理液が、樹脂粒子(A)と、水溶性樹脂(B)と、カルシウムイオンと、カルボン酸イオンと、水とを含み、
前記水溶性樹脂(B)が、ポリオキシエチレン構造を有し、かつ、酸価が1~30mgKOH/gである水溶性樹脂(B-1)を含み、
前記前処理液100g中に含まれる前記樹脂粒子(A)の量をR(g)、前記前処理液100g中に含まれる前記水溶性樹脂(B)の量をD(g)、前記前処理液100g中に含まれる前記カルシウムイオンのミリモル量をC(mmol)としたとき、前記Rの値と前記Dの値との比(R/D)が2.85~20であり、かつ、前記Rの値と前記Cの値との比(R/C)が0.11~0.50である、前処理液。
【請求項2】
前記カルボン酸イオンが、複数のカルボン酸イオンを含む、請求項1に記載の前処理液。
【請求項3】
前記カルボン酸イオンが、ヒドロキシカルボン酸イオンを含む、請求項1または2に記載の前処理液。
【請求項4】
前記樹脂粒子(A)が、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載の前処理液。
【請求項5】
前記水溶性樹脂(B)が、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の前処理液。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の前処理液と、顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセット。
【請求項7】
請求項1~5いずれかに記載の前処理液を付与した基材に、顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキが印刷されてなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキとともに用いられる前処理液、当該前処理液を含むインキセット、及び、当該インキセットを用いて作製された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル印刷は、オフセット印刷、グラビア印刷等の有版印刷とは違い、製版フィルムや刷版を必要としないため、コスト削減や小ロット多品種対応が可能である。
【0003】
デジタル印刷の一種であるインクジェット印刷方式では、非常に微細なノズルからインクジェットインキの液滴を基材に直接吐出し、付着させることで文字や画像(以下、総称して「印刷物」ともいう)を得る。インクジェット印刷方式には、使用する装置の騒音が小さい、操作性がよい、カラー化が容易である、等の利点があり、オフィスや家庭において、出力機として広く用いられている。またインクジェット技術の向上により、産業用途においても利用されている。
【0004】
従来、産業用途においてインクジェット印刷方式で用いられるインキは、溶剤インキや紫外線(UV)硬化型インキであった。しかし近年の、安全性、健康、環境への配慮といった点から、水性インキの需要が高まっている。
【0005】
インクジェット印刷方式で用いる(以下、単に「インクジェット用」ともいう)水性インキは、従来、普通紙や専用紙(例えば、写真光沢紙)を対象としたものであった。すなわち、水を主成分とするとともに、基材に対する濡れ広がり性や乾燥性を制御するため、グリセリン等の水溶性有機溶剤が添加される。これらの液体成分からなるインクジェット用水性インキ(以下、「水性インクジェットインキ」、あるいは単に「インキ」ともいう)を用いて、文字や画像のパターンを基材上に印刷すると、液体成分が当該基材中に浸透して乾燥し、定着する。
【0006】
一方、インクジェット印刷用の基材には、普通紙や専用紙、または上質紙や再生紙のような浸透性の高いものだけでなく、コート紙やアート紙、微塗工紙のような低浸透性のものや、フィルム基材のような非浸透性のものも存在する。これまで、浸透性の高い基材や、低浸透性の基材に対しては、水性インクジェットインキを用いて実用可能な画像品質が実現できている。それに対し、フィルム基材のような非浸透性の基材に対しては、着弾した後のインキ液滴が、基材中に全く浸透しないため、浸透による乾燥がほぼ起こらず、その結果、液滴同士が合一して混色滲みや色ムラ(同一色である部分での、当該色の不均一な状態)となり、画像品質が損なわれていた。
【0007】
また、非浸透性の基材ではインキが全く浸透しないため、十分な密着性を得ることが難しい。非浸透性基材に対する密着性が不足すると、印刷物が擦れ等により剥がれてしまう、あるいは、印刷物を巻き取り状態または積み重ねた状態で保管した際に、印字面に圧力がかかり、ブロッキング(印刷面に貼り付いた基材等をはがす際に、インキの一部が当該基材に取られる現象)が発生する、といった問題が生じてしまう。更に、接着剤(ラミネート接着剤)を介して別のフィルムと貼り合わせた(ラミネート加工)際、密着性不足に起因して、層間での剥離現象(デラミネーション)を起こしてしまう恐れもある。特に、非浸透性基材に対する印刷物は、包装材料として使用するために後加工を行うことが多く、耐ブロッキング性やラミネート適性の向上は必須の課題といえる。
【0008】
上記の課題に対する方策として、非浸透性基材に対する前処理液の付与処理が知られている。具体的には、水性インクジェットインキ中に存在する固体成分(顔料及び/または樹脂)の凝集や、当該水性インクジェットインキの増粘を意図的に引き起こすことで、密着性を向上させ、水性インクジェットインキ液滴間の混色滲みや色ムラを防止し、画像品質の向上を図るものである。また、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂のようなバインダー樹脂を添加した前処理液により、フィルム基材に対する密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性等の機能を付与することも知られている。
【0009】
なお本願において「前処理液の付与」は、非接触での前処理液の印刷、及び、基材に当接させての前処理液の塗工、を総称する用語として使用される。
【0010】
上述した前処理液の例として、特許文献1には、水溶性多価金属塩と、塩素化ポリオレフィンエマルジョンと、アクリル系エマルジョンまたは酢酸ビニルエマルジョンとを含むインクジェット記録用プライマーインク(前処理液)が開示されており、複数種のエマルジョンを併用することで、各種フィルム基材への密着性改善、並びに、印刷物の混色滲み防止及び耐水性向上を図っている。しかしながら特許文献1では、これらの材料を含む前処理液の保存安定性に関しては考慮されておらず、当該前処理液には、水溶性多価金属塩の作用によりエマルジョンの粒子径が経時で大きくなってしまう、という問題点がある。また経時でのエマルジョンの粒子径の増加により、当該エマルジョンの機能が発現しにくくなり密着性や画像品質が悪化する、あるいは、前処理液の塗工性や造膜性が低下し、前処理液層(前処理液を付与してなる層)の外観や、その後の水性インクジェットインキによる画像形成にも悪影響が生じる、といった恐れもある。
【0011】
また特許文献2には、フィルム等の非浸透メディアに対して好適に使用できる、水溶性多価金属塩及びポリエステル系ポリウレタンエマルションを含む前処理液が記載されており、密着性が高く、混色滲みや色ムラが抑えられた高画質の印刷物を形成することができるとされている。しかしながら、上記特許文献1で見られた問題点は、特許文献2の前処理液でも同様であり、前処理液の保存安定性、密着性、画像品質等が経時で悪化する恐れが高い。また、実際に本発明者らが、特許文献2記載の前処理液をフィルム基材に使用してみたところ、混色滲みとべた埋まり(白抜けなく、べた部がインキで埋まっていること)との両立が不十分であった。更に、これらの前処理液を用いて作製した印刷物は、作製当初から、密着性や耐ブロッキング性が必ずしも十分なものではないことが判明した。
【0012】
一方、本出願人はこれまでにも、上述した前処理液による効果と、当該前処理液の保存安定性とを両立することを目的として、複数の前処理液を提案している。例えば特許文献3では、樹脂粒子と、特定の構造を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤と、凝集剤とを含有する前処理液を開示しており、当該前処理液の保存安定性が良好であるとともに、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性、画像品質等に優れた印刷物を得ることが可能となる。また特許文献4では、エチレンオキサイド構造を有する水溶性樹脂を樹脂粒子に吸着させた前処理液を開示しており、当該前処理液は保存安定性に優れるうえ、画像品質、密着性、ラミネート適性等も良好な印刷物を得ることができる。しかしながらどちらの前処理液も、印刷物のべた埋まり性、耐ブロッキング性等が不十分なものとなる、あるいは、印刷条件や使用条件によっては密着性やラミネート適性が悪化する恐れがある、といった可能性があり、更なる改良が必要であった。
【0013】
以上のように、非浸透性基材に対して、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れ、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりが良好である印刷物を得ることができ、更には長期の保存安定性に優れた前処理液は、これまで存在しない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2017-88646号公報
【文献】特開2020-75954号公報
【文献】特開2019-111763号公報
【文献】特開2019-104136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、フィルム基材等の非浸透性基材に対して、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れ、混色滲みや色ムラがなく、べた埋まりも良好である印刷物を得ることができ、更には、長期の保存安定性(樹脂粒子(A)の分散安定性)にも優れた前処理液を提供することにある。また、本発明の更なる目的は、上記前処理液と水性インクジェットインキとを含むインキセット、並びに、当該インキセットを用いて製造された印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、下記の構成を有する前処理液によって、上述した課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキとともに用いられる前処理液であって、
前記前処理液が、樹脂粒子(A)と、水溶性樹脂(B)と、カルシウムイオンと、カルボン酸イオンと、水とを含み、
前記水溶性樹脂(B)が、ポリオキシエチレン構造を有し、かつ、酸価が1~30mgKOH/gである水溶性樹脂(B-1)を含み、
前記前処理液100g中に含まれる前記樹脂粒子(A)の量をR(g)、前記前処理液100g中に含まれる前記水溶性樹脂(B)の量をD(g)、前記前処理液100g中に含まれる前記カルシウムイオンのミリモル量をC(mmol)としたとき、前記Rの値と前記Dの値との比(R/D)が2.85~20であり、かつ、前記Rの値と前記Cの値との比(R/C)が0.11~0.50である、前処理液に関する。
【0017】
また本発明は、前記カルボン酸イオンが、複数のカルボン酸イオンを含む、上記前処理液に関する。
【0018】
また本発明は、前記カルボン酸イオンが、ヒドロキシカルボン酸イオンを含む、上記前処理液に関する。
【0019】
また本発明は、前記樹脂粒子(A)が、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含む、上記前処理液に関する。
【0020】
また本発明は、前記水溶性樹脂(B)が、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含む、上記前処理液に関する。
【0021】
また本発明は、上記前処理液と、顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキとを含む、インキセットに関する。
【0022】
また本発明は、上記前処理液を付与した基材に、顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクジェットインキが印刷されてなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、フィルム基材等の非浸透性基材に対して、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れ、混色滲みや色ムラがなく、べた埋まりも良好である印刷物を得ることができ、更には長期の保存安定性にも優れた前処理液を提供することが可能となる。また、上記特性に優れた印刷物を得ることができる、上記前処理液と水性インクジェットインキとを含むインキセット、並びに、当該インキセットを用いて製造された印刷物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好適な実施形態の例について説明する。なお本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で実施される各種の変形例も含む。
【0025】
一般に、水性インクジェットインキ中に存在する固体成分を凝集させる、及び/または、当該水性インクジェットインキを増粘させる成分(凝集剤成分)を含む前処理液の上に水性インクジェットインキが印刷されると、当該前処理液中に含まれる上記凝集剤成分が、当該水性インクジェットインキ中に放出及び拡散する。そして、拡散した凝集剤成分が水性インクジェットインキ中の固体成分に作用することで、混色滲みや色ムラを抑制し、画像品質が向上する。
一方でこの際、得られる印刷物のべた埋まりが不十分になってしまう可能性がある。基材上でのべた埋まりを向上させるためには、水性インクジェットインキが着弾し、固体成分が凝集及び/または増粘するまでに、当該水性インクジェットインキの液滴を十分に濡れ広がらせる必要がある。すなわち、前処理液を併用した水性インクジェットインキの印刷物において、混色滲み及び色ムラの抑制と、べた埋まりとを両立させるためには、凝集成分の放出及び拡散速度と、水性インクジェットインキの液滴の濡れ広がり速度とを同時に制御することが重要となる。
【0026】
一方で、背景技術の項にも記載したように、前処理液と水性インクジェットインキとを用いて、非浸透性基材に対して印刷を行う際、当該前処理液にバインダー樹脂を添加することにより、印刷物の、非浸透性基材に対する密着性、耐ブロッキング性、及び、ラミネート適性を付与及び向上させる手法が知られている。この効果は、バインダー樹脂中に存在する酸基と、非浸透性基材上に存在する官能基との水素結合、及び/または、当該バインダー樹脂と非浸透性基材との構造類似性に起因した分子間相互作用、といった化学的な結合力に由来するものと考えられる。
【0027】
しかしながら、混色滲み、色ムラ、べた埋まりといった画像品質と、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性等の印刷物特性との両立を図るべく、バインダー樹脂と凝集剤成分とを併用した場合、当該凝集剤成分がバインダー樹脂に捕捉されてしまい、水性インクジェットインキ中に放出されにくくなるため、上述した凝集及び/または増粘の効果が発現しにくくなり、上述した、混色滲み及び色ムラと、べた埋まりとの両立が更に困難になる恐れがある。更に、バインダー樹脂中に存在する酸基と凝集剤成分とが相互作用を起こし、不溶性の塩が形成されてしまう恐れもある。この場合、前処理液の保存安定性が得られないうえ、密着性等に寄与するバインダー樹脂中の酸基と、凝集成分とがともに失われることになるため、耐ブロッキング性やラミネート適性の悪化、混色滲みや色ムラの発生といった問題が生じやすくなる。
【0028】
このように、バインダー樹脂と凝集剤成分とを併用し、双方の効果を発現させるために、両者が共存する前処理液の保存安定性を向上させ、バインダー樹脂中の酸基と凝集剤成分との相互作用を制御することが重要となる。
【0029】
そこで上記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を続けた結果、樹脂粒子(A)、ポリオキシエチレン構造を有し特定の酸価を有する水溶性樹脂(B-1)、及び、カルボン酸イオンを含み、また、凝集剤成分としてカルシウムイオンを選択し、更に、樹脂粒子(A)の含有量、水溶性樹脂(B)の総含有量、カルシウムイオンのミリモル量を特定の範囲内に制御して使用することで、長期の保存安定性に優れ、また、非浸透性基材に対して、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつ、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れた印刷物を作製することができる前処理液が得られることを見出した。上記構成の前処理液によって、上述した課題が好適に解決できるメカニズムの詳細は不明であるものの、本発明者らは以下のように推測している。
【0030】
まず、本発明の好適な実施形態である前処理液(以下、単に「本発明の前処理液」ともいう)は、バインダー樹脂として樹脂粒子(A)を含む。一般に、水系樹脂の形態には水溶性樹脂と樹脂粒子の2種類が存在し、前処理液及び印刷物に要求される特性に応じて、適宜使い分けられる。本発明の前処理液の場合、耐ブロッキング性向上のため、バインダー樹脂として樹脂粒子を使用する。また樹脂粒子は、水溶性樹脂の場合に比べて、より多量配合できることから、印刷物の密着性やラミネート適性のみならず、耐擦過性、耐水性等も高められるという点でも好適な材料である。
【0031】
また、本発明の前処理液はポリオキシエチレン構造を有し、酸価が1~30mgKOH/gである水溶性樹脂(B-1)を含む。水溶性樹脂は、液中で分子鎖が広がるために、樹脂粒子の場合と比較して、より少量の配合で効果が発現すると考えられる。また、水溶性樹脂(B-1)は親水性の高いポリオキシエチレン構造を有するため、当該水溶性樹脂(B-1)を含む前処理液層と、その上に付与される水性インクジェットインキとの親和性が向上する。その結果、印刷物のべた埋まりが向上するとともに、前処理液層に含まれる凝集成分が水性インクジェットインキ中に放出及び拡散しやすくなることで、非浸透性基材上での混色滲みや色ムラが抑制され、総合的に優れた画像品質を有する印刷物が得られると考えられる。
【0032】
更に本発明の前処理液では、酸基とポリオキシエチレン構造とを有する水溶性樹脂(B-1)が、樹脂粒子(A)の分散安定化剤としても機能すると考えられる。具体的には、水溶性樹脂(B-1)中の酸基及び/またはポリオキシエチレン構造と、樹脂粒子(A)との相互作用により、当該水溶性樹脂(B-1)が、樹脂粒子(A)を保護するように存在すると考えられ、結果として、前処理液中での樹脂粒子(A)の分散安定性が確保できる。また、ポリオキシエチレン構造による立体反発効果によって、樹脂粒子(A)の化学的安定性も向上し、凝集剤成分との相互作用、並びに、不溶性の塩の形成が抑制されると考えられる。更に、本発明者らの検討の結果、これらの分散安定性及び化学的安定性の向上効果が、水溶性樹脂(B-1)の酸価が1~30mgKOH/gであることでより優れたものとなることを見出した。酸価が1mgKOH/g以上であることで、水溶性樹脂(B-1)が、樹脂粒子(A)に吸着しやすくなり、樹脂粒子(A)の分散安定性が向上すると考えられる。また、酸価が30mgKOH/g以下であることで、凝集剤成分が、水溶性樹脂(B-1)と相互作用することがなくなるため、樹脂粒子(A)の化学的安定性が向上し、前処理液の長期の保存安定性が更に良化する。
【0033】
上記の効果に加えて、水溶性樹脂(B-1)は、適量の酸基及びポリオキシエチレン構造を有するために、非浸透性基材の表面に存在する極性基と相互作用することができ、当該基材との密着性が更に向上する。また、前処理液層の形成後も、上述した、水溶性樹脂(B-1)と樹脂粒子(A)との間の相互作用が存在し続ける結果、造膜性が優れたものとなるとともに、印刷物が弾性的な挙動を示し、印刷物の耐ブロッキング性、及び、ラミネート強度も向上すると考えられる。
【0034】
また、本発明の前処理液は凝集剤成分として機能するカルシウムイオンと、カルボン酸イオンとを含む。一般に、カルボン酸イオンとカルシウムイオンからなる塩(カルボン酸カルシウム塩)は、水に対する溶解度が小さいことが知られているが、適度な拡散速度を有しているため、例えば、基材上の前処理液が乾燥した後に水性インクジェットインキが付与される場合であっても、カルシウムイオンの放出及び拡散速度を好適な範囲に制御することができ、混色滲み、色ムラ、べた埋まりの全てを両立することが可能となる。なお、カルボン酸イオンは1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、複数のカルボン酸イオンを使用することが望ましい。複数のカルボン酸イオンを使用することで、それぞれのカルボン酸カルシウムが単独で示す以上の水溶解性を示すことができ、画像品質の更なる向上が実現できる。なおこの、カルボン酸カルシウムの併用による、水溶解性の向上は、異種イオン効果に類似した効果によるものと考えられる。
【0035】
更に本発明では、前処理液100g中に含まれる樹脂粒子(A)の量をR(g)、当該前処理液100g中に含まれる水溶性樹脂(B)の量をD(g)、当該前処理液100g中に含まれるカルシウムイオンのミリモル量をC(mmol)としたとき、上記Rの値と上記Dの値との比(R/D)を2.85~20とし、かつ、上記Rの値と上記Cの値との比(R/C)を0.11~0.50としており、これらの制御により、上述した効果の一層の向上を実現している。上述したように、単に、バインダー樹脂と凝集成分とを混合すると、混色滲み、色ムラ、べた埋まりの両立が困難になるうえ、耐ブロッキング性やラミネート適性の悪化も発生する恐れがある。しかし、上記の比率で混合することで、上述した水溶性樹脂(B-1)の効果を有効に発現させることができ、保存安定性を優れたものにできるうえ、凝集成分の放出速度と、水性インクジェットインキの液滴の広がり速度とを最適な状態で両立することが可能となるため、混色滲み、色ムラ、べた埋まりの全てが両立した、画像品質に特段に優れた印刷物を得ることができる。
【0036】
以上のように、フィルム基材等の非浸透性基材に対して、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れ、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好である印刷物を得ることができ、更には長期の保存安定性に優れた前処理液を得るためには、上記の構成を採用することが必須不可欠である。
【0037】
続いて以下に、本発明の前処理液について、その構成材料等を詳細に説明する。
【0038】
<樹脂粒子(A)>
本発明の前処理液は、樹脂粒子(A)を含む。なお、本願における「樹脂粒子」とは、後述する方法によって測定される50%径が5~1,000nmであるものを表す。
【0039】
上述した通り、樹脂粒子(A)は、耐ブロッキング性や、基材への密着性向上に寄与する。更に、水溶性樹脂(B)、カルシウムイオン、及び、カルボン酸イオンと併用することで、長期の保存安定性に優れ、また、非浸透性基材において、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつラミネート適性に優れた印刷物を得ることが可能となる。
【0040】
樹脂粒子(A)が、カルボン酸(カルボキシル)基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸基を含む場合、耐ブロッキング性及びラミネート適性の向上の観点から、当該酸基を含む樹脂粒子(A)の酸価は1~50mgKOH/gであることが好ましい。また前処理液の保存安定性、耐ブロッキング性、ラミネート強度の両立の観点から、酸価は2~45mgKOH/gであることがより好ましく、3~35mgKOH/gであることが更に好ましく、5~25mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0041】
なお樹脂粒子の酸価とは、当該樹脂粒子1g中に含まれる酸基を中和するために必要となる水酸化カリウム(KOH)のmg数であり、本明細書においては、以下方法により算出した理論値を使用する。例えば、樹脂粒子が、1分子中にva価の酸基をna個有し、分子量がMaである重合性単量体を、当該樹脂粒子を構成する重合性単量体中Wa質量%含む場合、その酸価(mgKOH/g)は下記式1によって求められる。
【0042】
式1:
(酸価)={(va×na×Wa)÷(100×Ma)}×56.11×1000
【0043】
なお上記式1において、56.11は水酸化カリウムの分子量である。
【0044】
樹脂粒子(A)の50%径(D50)は、20~350nmであることが好ましい。特に、印刷物の耐ブロッキング性及びラミネート強度、並びに、前処理液の保存安定性に優れ、更に速やかかつ均一に成膜することで、後から印刷されるインクジェットインキのドットの形状が不均一化することを防ぎ、画像品質にも優れた印刷物が得られる観点から、より好ましくは30~300nmであり、特に好ましくは50~250nmである。なお「50%径」とは、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPA-EX150を用い、動的光散乱法によって測定される体積基準での累積50%径(メジアン径)である。
【0045】
また、本発明者らが鋭意検討を行った結果、樹脂粒子(A)の50%径をRD50、当該前処理液100g中に含まれるカルシウムイオンのミリモル量をCとしたとき、RD50/Cで表される値が2~10であることが好ましく、3~8であることがより好ましく、3.5~7が特に好ましいことを見出した。詳細な要因は不明ながら、上記条件を満たす樹脂粒子(A)は、カルシウムイオンが存在する中でも、前処理液層表面を十分に覆うことができ、結果として、画像品質、密着性、耐ブロッキング性、及び、ラミネート適性の全てが両立した印刷物を得ることができると考えられる。
【0046】
なお、前処理液が2種以上の樹脂粒子(A)を含む場合、当該2種以上の樹脂粒子(A)が存在する水性化溶液(水性溶媒と、前記水性溶媒に分散及び/または溶解した成分とを含む溶液)を用いて測定された50%径を、RD50として、上記RD50/Cの算出に使用するものとする。
【0047】
更に、本発明の前処理液に含まれる樹脂粒子(A)の総量(R)は、処理液の密着性及びラミネート強度の一層の向上の観点、耐ブロッキング性及び耐擦過性等の向上の観点、更には、水溶性樹脂(B-1)の効果を有効に発現させることによる前処理液の保存安定性の向上の観点から、固形分換算で、3.5~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることが特に好ましい。
【0048】
一方、本発明の前処理液に使用できる樹脂粒子(A)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、ウレタン(ウレア)樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂、ウレア樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましく使用できる。中でも、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を使用することがより好ましい。
また一実施形態において、本発明の前処理液は、樹脂粒子(A)として、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂に加えて、ポリオレフィン樹脂、及び/または、ポリエステル樹脂を含むことが好適である。
【0049】
なお本願において、「ウレタン(ウレア)」はウレタン及び/またはウレタンウレアを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及び/またはメタクリルを意味し、「(無水)マレイン酸」はマレイン酸及び/または無水マレイン酸を意味する。ただし、(メタ)アクリル樹脂には、構成単位として、スチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体に由来する構造が含まれていてもよい。
【0050】
樹脂粒子(A)が(メタ)アクリル樹脂粒子を含む場合、耐ブロッキング性とラミネート適性とが両立する観点から、当該(メタ)アクリル樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、-20~60℃であることが好ましく、0~50℃であることが更に好ましく、15~40℃であることが特に好ましい。また、樹脂粒子(A)が、(メタ)アクリル樹脂粒子と、ウレタン(ウレア)樹脂粒子及び/またはウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂粒子とを含む場合、耐ブロッキング性向上とラミネート適性とが両立する観点から、当該(メタ)アクリル樹脂粒子のガラス転移温度は-20~100℃であることが好ましく、0~80℃であることがより好ましく、15~60℃であることが特に好ましい。
一方、本発明の別の好ましい実施形態として、樹脂粒子(A)が、2種の(メタ)アクリル樹脂粒子を使用する場合、片方の樹脂粒子のガラス転移温度が25℃以下であり、かつ、もう片方の樹脂粒子のガラス転移温度が25℃以上であることが好ましい。また更に、2種の(メタ)アクリル樹脂粒子のガラス転移温度の差が20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることが特に好ましい。
【0051】
なお本明細書では、(メタ)アクリル樹脂粒子のガラス転移温度は、以下方法により算出した理論値を使用する。例えば、樹脂粒子を構成するi種類の重合性単量体のそれぞれについて、当該樹脂粒子を構成する重合性単量体全量に対する含有量をWi質量%、当該重合性単量体のホモポリマーのガラス転移温度をTgi(℃)としたとき、当該樹脂粒子のガラス転移温度(℃)は下記式2によって求められる。
【0052】
式2:
(ガラス転移温度)=1÷[Σ{Wi÷(Tgi+273.2)}]-273.2
【0053】
樹脂粒子(A)は、従来既知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品から選択する場合、パラゾールシリーズ(大原パラヂウム化学社製);ユーコートシリーズ、パーマリンシリーズ(以上、三洋化成工業社製);スーパーフレックスシリーズ、スーパーフレックスEシリーズ(以上、第一工業製薬社製);WEMシリーズ、WBRシリーズ(以上、大成ファインケミカル社製);ハイドランシリーズ(DIC社製);ハイテックシリーズ(東邦化学工業社製);スーパークロンシリーズ、アウローレンシリーズ(日本製紙社製);ニチゴーポリエスターシリーズ(日本合成化学社製);AQUACERシリーズ、Hordamerシリーズ(以上、ビックケミー社製)、タケラックシリーズ(三井化学社製);パスコールシリーズ(明成化学工業社製);アローベースシリーズ(ユニチカ社製)、NeoCrylシリーズ、NeoRezシリーズ(以上、DSM Coating Resins社製);アデカボンタイターHUXシリーズ(ADEKA社製);ユリアーノシリーズ(荒川化学工業社製);等が好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
((メタ)アクリル樹脂粒子)
例えば樹脂粒子(A)として(メタ)アクリル樹脂粒子を使用する場合、上記列挙した市販品以外にも、例えば、界面活性剤や高分子分散剤を乳化剤として、エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法により合成した樹脂粒子が好適に利用できる。中でも、前処理液の保存安定性の観点から、樹脂粒子(A)として(メタ)アクリル樹脂粒子を使用する場合、市販品であるか合成品であるかによらず、界面活性剤を乳化剤として含むものを使用することが好ましい。
【0055】
以下、界面活性剤を乳化剤として(メタ)アクリル樹脂粒子を合成する方法の例について、更に具体的に説明する。まず、水性媒体(少なくとも水を含む媒体)、エチレン性不飽和単量体、及び、界面活性剤を混合攪拌し、乳化液を得る。次いで、反応槽に、水性媒体と上記乳化液の一部とを仕込んだのち、加温する。加温後、反応槽内の気体を窒素ガスに置換したのち、ラジカル重合開始剤を添加し、更に、上記乳化液の残りを徐々に滴下する。そして滴下完了後、更に数時間反応させることで、目的の(メタ)アクリル樹脂粒子を得ることができる。
【0056】
上記エチレン性不飽和単量体として、従来既知の化合物、例えば、酸基含有エチレン性不飽和単量体、EO鎖含有エチレン性不飽和単量体、PO鎖含有エチレン性不飽和単量体、芳香族エチレン性不飽和単量体、その他エチレン性不飽和単量体等が任意に使用できる。なお、上記列挙したエチレン性不飽和単量体の具体例については、後述する。
【0057】
また、乳化剤として好適に使用できる界面活性剤として、従来既知の化合物、例えば、アニオン性反応性乳化剤、アニオン系非反応性乳化剤、ノニオン性非反応性乳化剤等が使用できる。また上記界面活性剤の添加量は、エチレン性不飽和単量体の総量100質量部に対して、0.05~5.0質量部とすることが好ましい。
【0058】
(ウレタン(ウレア)樹脂粒子)
一方、樹脂粒子(A)としてウレタン(ウレア)樹脂粒子を使用する場合、好適な粘弾性を有する印刷物が得られる観点から、ウレタンウレア樹脂粒子を使用することが好ましい。
【0059】
ウレタンウレア樹脂粒子の製造方法は、従来既知の方法に従う。例えば、ポリオール(u1)と、ポリイソシアネート(u2)とを重付加反応させたのち、鎖延長剤(u3)を加え鎖延長反応させる方法によって得ることができる。
【0060】
ウレタンウレア樹脂粒子の原料に使用できるポリオール(u1)として、例えば、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルポリオール類等の高分子ポリオール;ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基を有するポリオール;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、等の低分子ポリオール;同一分子中に少なくとも2個の水酸基と1個の不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体等が使用できる。
【0061】
また、上記ポリイソシアネート(u2)として、従来既知の、芳香族、脂肪族、脂環式のポリイソシアネートが好適に使用できる。
【0062】
また、上記鎖延長剤(u3)として、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体;フェニレジアミン、トリレンジアミン、m-テトラメチルキシリレンジアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類;等が使用できる。更に、上記列挙した化合物と、モノアミン及び/またはモノオールとを併用することで、鎖延長反応の停止による分子量の制御も可能である。
【0063】
(ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂粒子)
樹脂粒子(A)としてウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂粒子を使用する場合、例えば、ジオール末端を有する(メタ)アクリル樹脂を、ウレタン(ウレア)樹脂粒子の製造におけるポリオール(u1)として使用する方法;ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート(ウレタンアクリレート)を含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法;水溶性ウレタン(ウレア)樹脂を乳化剤として、エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法;等を用いて合成することができる。
【0064】
なお本願の「ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂」は、「(メタ)アクリル樹脂」及び「ウレタン(ウレア)樹脂」には含まれないものとする。
【0065】
<水溶性樹脂(B)>
本発明の前処理液は、水溶性樹脂(B)を含む。また当該水溶性樹脂(B)は、ポリオキシエチレン構造を有し、酸価が1~30mgKOH/gである水溶性樹脂(B-1)を含む。上述したとおり、水溶性樹脂(B-1)の存在により、後から印刷される水性インクジェットインキと前処理液との親和性が向上し、画像品質に優れた印刷物となる。また水溶性樹脂(B-1)が樹脂粒子(A)の分散安定化剤としても機能することで、前処理液の保存安定性が良化する。更に、水溶性樹脂(B-1)の存在により、基材との密着性、並びに、印刷物の耐ブロッキング性及びラミネート強度も優れたものとなる。このように、本発明の効果の発現に、水溶性樹脂(B-1)は必須の材料である。
【0066】
水溶性樹脂(B-1)は、ポリオキシエチレン(以下、単に「EO」とも表記する)構造を有する。また水溶性樹脂(B-1)分子内に存在するEO構造1個あたりのEO基の平均付加モル数は5~100の範囲であることが好ましく、更に好ましくは15~100の範囲である。EO基の付加モル数が5以上であると、前処理液中で樹脂粒子(A)が良好な分散状態を維持でき、長期の保存安定性が向上する。また、EO基の付加モル数が100以下であると、水溶性樹脂(B-1)、樹脂粒子(A)、凝集剤成分の相溶性が向上し、非浸透性基材において、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつ密着性及びラミネート適性にも優れた印刷物を得ることが可能となる。
【0067】
水溶性樹脂(B-1)中のポリオキシエチレン構造の含有量は5~95質量%であることが好ましく、15~95質量%であることがより好ましく、30~95質量%であることが特に好ましい。ポリオキシエチレン構造の含有量が5質量%以上であると、前処理液中で樹脂粒子(A)と好適に相互作用を起こすことができるため、優れた保存安定性が発現できる。また、95質量%以下であると、水溶性樹脂(B-1)と、樹脂粒子(A)及び凝集剤成分との相溶性が向上し、非浸透性基材において、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつ密着性及びラミネート適性にも優れた印刷物を得ることが可能となる。
【0068】
また水溶性樹脂(B-1)は、ポリオキシエチレン構造に加え、更に、ポリオキシプロピレン(以下、単に「PO」とも表記する)構造を含有していることが好ましい。水溶性樹脂(B-1)がPO構造を有している場合、当該水溶性樹脂(B-1)分子内に存在するPO構造1個あたりのPO基の平均付加モル数は5~70の範囲であることが好ましく、更に好ましくは5~60の範囲である。ポリオキシプロピレン構造はポリオキシエチレン構造と比較して立体反発効果が高いため、PO基の付加モル数が5以上であると、前処理液中で樹脂粒子(A)の分散安定性を著しく向上でき、当該前処理液の長期の保存安定性が更に向上する。また、PO基の付加モル数が70以下であると、水溶性樹脂(B-1)と、樹脂粒子(A)及び凝集剤成分の相溶性が向上し、非浸透性基材において、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつ密着性及びラミネート適性にも優れた印刷物を得ることが可能となる。
【0069】
また、水溶性樹脂(B-1)がポリオキシプロピレン構造を含む場合、その含有量は、1~80質量%であることが好ましく、5~60質量%であることがより好ましい。
【0070】
更に、水溶性樹脂(B-1)がポリオキシプロピレン構造を含む場合、上述したポリオキシエチレン構造の含有量(EO基量)と、上記ポリオキシプロピレン構造の含有量(PO基量)との比率は、PO基量/EO基量=0.1~2.0であることが好ましく、0.1~1.5であることがより好ましい。PO基量/EO基量が0.1以上であると、立体反発効果が高いポリオキシプロピレン構造が一定量存在することになるため樹脂粒子(A)の分散安定性が向上し、前処理液の長期の保存安定性が良化する。また、PO基量/EO基量が2.0以下であると、水溶性樹脂(B-1)と、樹脂粒子(A)及び凝集剤成分の相溶性が向上し、非浸透性基材において、混色滲みや色ムラがなくべた埋まりも良好であり、かつ密着性及びラミネート適性にも優れた印刷物を得ることが可能となるうえ、上述したポリオキシエチレン構造の機能が好適に発現できるため、前処理液の保存安定性を同時に向上させることができる。
【0071】
なお本願では、水溶性樹脂(B-1)を構成する重合性単量体の種類及び含有率が判明している場合は、ポリオキシエチレン構造の含有量として、下記式3により算出された値を使用する。また、水溶性樹脂(B-1)を構成する重合性単量体の種類及び含有率が不明である場合は、例えばNMR(核磁気共鳴)測定により、ポリオキシエチレン基を有する重合性単量体の含有率と当該ポリオキシエチレン基の付加モル数を測定し、下記式3により、ポリオキシエチレン構造の含有量を算出する。
【0072】
式3:
(EO構造の含有量)(質量%)=Σ[(ni×MEO÷Mi)×Wi]
【0073】
上式3において、niは、水溶性樹脂(B-1)を構成する重合性単量体のうち、ポリオキシエチレン構造を有する重合性単量体における、EO基の付加モル数であり、MEOは、EO基の分子量(44.05)であり、Miは、当該ポリオキシエチレン構造を有する重合性単量体の分子量であり、Wiは、当該ポリオキシエチレン構造を有する重合性単量体の、水溶性樹脂(B-1)を構成する重合性単量体の全量に対する配合率(質量%)である。
【0074】
なお、上述したポリオキシプロピレン構造の含有量についても、上述したポリオキシエチレン構造の含有量の場合と同様にして算出できる。またその際はMEOではなく、PO基の分子量(58.08)であるMPOを使用する。
【0075】
水溶性樹脂(B-1)は、芳香族環を有するエチレン性不飽和単量体由来の構造単位を1~40質量%含有することが好ましく、2~30質量%含有することがより好ましい。含有量が1質量%以上であると、水溶性樹脂(B-1)の樹脂粒子(A)界面への吸着効率が向上し、凝集剤成分と混合した際の樹脂粒子(A)の分散安定性に優れる。また、非浸透性基材への塗工性も優れるため、印刷物の密着性、耐ブロッキング性や、ラミネート加工した際のラミネート強度にも優れる効果を奏する。更に、水溶性樹脂(B-1)と樹脂粒子(A)との相溶性が良くなり、印刷物の画像品質も良化する。一方で、含有量が40質量%以下であると、印刷物の基材に対する密着性や、ラミネート加工した際のラミネート強度が向上する。
【0076】
水溶性樹脂(B-1)の酸価は、上述したとおり、樹脂粒子(A)の分散安定性と凝集剤成分との相互作用の抑制の両立の観点から、1~30mgKOH/gであり、5~25mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が1~30mgKOH/gであることで、上述した効果に加え、更に、基材との密着性もが向上する。これは、前処理液層の形成後も、ポリオキシエチレン構造を介して、水溶性樹脂(B-1)と樹脂粒子(A)との間に相互作用が形成されることによる。またこの相互作用によって、印刷物が弾性的な挙動を示すようになり、印刷物の塗膜強度、耐ブロッキング性、及び、ラミネート強度もまた向上する。
【0077】
また、水溶性樹脂(B-1)の重量平均分子量は、2,000~35,000であることが好ましく、5,000~25,000であることがより好ましい。上記範囲内の重量平均分子量を有すると、樹脂粒子(A)の分散安定性が向上し、密着性やラミネート適性に優れた印刷物が得られる。更に、凝集剤成分や水性インクジェットインキ中に存在する樹脂成分との相溶性が向上することで、印刷物の画像品質もまた優れたものとなる。
なお水溶性樹脂(B-1)の重量平均分子量は、例えばTSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備したGPC(東ソー社製「HLC-8120GPC」)を使用し、展開溶媒にTHFを用いて測定できる、ポリスチレン換算値である。
【0078】
本発明の前処理液に使用できる水溶性樹脂(B-1)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、ウレタン(ウレア)樹脂、ウレア樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましく使用できる。より好ましくは、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂からなる群から選択される1種の樹脂が使用でき、特に好ましくは、(メタ)アクリル樹脂、及び/または、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂が使用できる。
【0079】
これらの好ましく使用できる樹脂は、すべて、エチレン性不飽和単量体の重合体である。すなわち、本発明では、水溶性樹脂(B-1)として、エチレン性不飽和単量体を重合した重合体鎖を主鎖として有するとともに、ポリオキシエチレン構造(、及び、存在する場合はポリオキシプロピレン構造)を側鎖として有する樹脂を使用することが好ましい。その際、ポリオキシエチレン(また、存在する場合はポリオキシプロピレン)構造は、EO(PO)構造含有エチレン性不飽和単量体を、主鎖を構成するエチレン性不飽和単量体とともに重合して導入することもできるし、あらかじめEO(PO)構造を有さないエチレン性不飽和単量体のみを使用して主鎖を重合しておき、後で、エチレンオキサイド(プロピレンオキサイド)鎖をグラフトすることも可能である。上記列記した好ましく使用できる樹脂は、このような主鎖と側鎖を有する構造であるため、樹脂粒子(A)と好適に相互作用を起こし、前処理液の保存安定性が優れたものとなる。
【0080】
上記列挙した水溶性樹脂(B-1)は、従来既知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品から選択する場合、ビックケミー社製のDISPERBYK-190、DISPERBYK-2015;CRAY VALLEY社製のSMA1000、SMA2000、SMA EF30、SMA EF60;エボニック社製のTEGO Dispers750W等が好適に使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
((メタ)アクリル水溶性樹脂)
水溶性樹脂(B-1)として(メタ)アクリル樹脂の合成品を使用する場合、従来既知の方法に従い合成したものが利用できる。
【0082】
(メタ)アクリル樹脂を水溶性樹脂(B-1)として使用する場合、当該(メタ)アクリル樹脂の原料となるエチレン性不飽和単量体として、酸基含有エチレン性不飽和単量体、及び、EO鎖含有エチレン性不飽和単量体を使用するとともに、更に、PO鎖含有エチレン性不飽和単量体、芳香族エチレン性不飽和単量体、その他エチレン性不飽和単量体等を使用してもよい。
【0083】
酸基含有エチレン性不飽和単量体の「酸基」として、カルボン酸(カルボキシル)基、スルホン酸基、ホスホン酸基等があり、いずれか1種を選択してもよいし、2種以上が混在する化合物を使用してもよい。中でも、耐ブロッキング性及びラミネート適性の向上の観点から、カルボキシル基を選択することが好ましい。
酸基含有エチレン性不飽和単量体として、上記酸基を有する、従来既知の化合物を使用することができる。具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシイソ酪酸、メタクリロイルオキシイソ酪酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルオキシエチルホスホン酸、メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、スチレンカルボン酸、スチレンスルホン酸、スチレンホスホン酸等が挙げられる。これらの酸基を含むエチレン性不飽和単量体は、単独で、あるいは複数を併用して使用することができる。なお「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を表す。また、上記の化合物のうち、ビニルスルホン酸、スチレンカルボン酸、スチレンスルホン酸、スチレンホスホン酸等は、後述する芳香族エチレン性不飽和単量体にも相当する化合物である。
【0084】
酸基含有エチレン性不飽和単量体を使用する際、得られる水溶性樹脂(B-1)の親水性を高める目的で、中和剤として塩基性化合物を使用することができる。塩基性化合物として、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物塩;等が使用できる。
【0085】
一方、EO鎖含有エチレン性不飽和単量体として、例えば、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;並びに、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、単独で、あるいは複数を併用して使用することができる。また、これらのEO鎖含有エチレン性不飽和単量体は、あらかじめ合成したものを使用しても構わないし、市販品を使用してもよい。
【0086】
市販されているEO鎖含有エチレン性不飽和単量体として、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、日油社製ブレンマーAME-400(EO基の付加モル数9)、PME-400(EO基の付加モル数9)、PME-1000(EO基の付加モル数23)、PME-4000(EO基の付加モル数90)、共栄社化学社製ライトエステル130MA(EO基の付加モル数9)、ライトエステル041MA(EO基の付加モル数30)等;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである、日油社製ブレンマーPE-350(EO基の付加モル数8)、AE-400(EO基の付加モル数10)等;が挙げられる。
【0087】
一方、PO鎖含有エチレン性不飽和単量体として、例えば、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、単独で、あるいは複数を併用して使用することができる。また、これらのPO鎖含有エチレン性不飽和単量体は、あらかじめ合成したものを使用しても構わないし、市販品を使用してもよい。
【0088】
市販されているPO鎖含有エチレン性不飽和単量体として、メトキシポリプロピレングリコールメタクリレートである、新中村化学工業社製M-30PG(PO基の付加モル数3)等;ポリプロピレングリコール(メタ)メタクリレートである日油社製ブレンマーPP-500(PO基の付加モル数9)、PP-800(EO基の付加モル数13)等;が挙げられる。
【0089】
また、芳香族エチレン性不飽和単量体として、従来既知の化合物を使用することができる。具体的にはスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、スチレンマクロモノマー、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0090】
また、その他エチレン性不飽和単量体も、従来既知の化合物を使用することができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート等のケト基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。なお「(メタ)アクリルアミド」とは、「メタクリルアミド」及び「アクリルアミド」から選ばれる少なくとも1種を表す。
【0091】
(スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂)
水溶性樹脂(B-1)としてスチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂の合成品を使用する場合も、従来既知の方法に従い合成したものが利用できる。合成により製造する方法として、例えば、芳香族環を有するエチレン性不飽和単量体またはα-オレフィンと、(無水)マレイン酸とを含む混合物に、ラジカル重合開始剤、及び、必要に応じて連鎖移動剤等を添加し、ラジカル重合させる方法がある。その際、EO構造を導入する方法として、EO鎖含有エチレン性不飽和単量体を加えた状態で上記ラジカル重合を行う方法と、あらかじめスチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂を製造した後に、これらの樹脂中の(無水)マレイン酸に由来する構造単位と、EO鎖含有アルキルエーテルとを反応させる方法と、がある。本発明の前処理液に使用する場合、上述したEO構造の導入方法のうち、後者を選択することが好適である。詳細は後述するが、水溶性樹脂(B-1)として使用するスチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂は、エステル結合部位を形成することが好ましいためである。
【0092】
なお、上記芳香族環を有するエチレン性不飽和単量体、及び、上記EO鎖含有エチレン性不飽和単量体として、上述した(メタ)アクリル水溶性樹脂の場合と同様の化合物が使用できる。
【0093】
また上記α-オレフィンとして、炭素数が6~50であるα-オレフィンを使用することが好ましく、炭素数8~30であるα-オレフィンを使用することがより好ましい。α-オレフィンとして、例えば、1-ヘキセン(炭素数6)、1-ヘプテン(炭素数7)、1-オクテン(炭素数8)、1-ノネン(炭素数9)、1-デセン(炭素数10)、1-ドデセン(炭素数12)、1-テトラデセン(炭素数14)、1-ヘキサデセン(炭素数16)、1-オクタデセン(炭素数18)、1-エイコセン(炭素数20)、1-ドコセン(炭素数22)、1-テトラコセン(炭素数24)、1-オクタコセン(炭素数28)、1-トリアコンテン(炭素数30)、1-ドトリアコンテン(炭素数32)、1-テトラトリアコンテン(炭素数34)、1-ヘキサトリアコンテン(炭素数36)、1-オクタトリアコンテン(炭素数38)等が挙げられる。
【0094】
また上記(無水)マレイン酸として、通常、マレイン酸または無水マレイン酸のうち少なくとも一方を使用する。これらの中でも、重合性に優れる面で、無水マレイン酸が好ましく使用できる。
【0095】
上述した通り、(無水)マレイン酸に由来する構造単位に対し、エステル結合部位、アミド結合部位、イミド結合部位からなる群から選択される1種以上の結合部位を形成することが好ましく、特にエステル結合部位を形成することが好ましい。これらの結合部位、及び、当該結合部位によって結合される構造により、樹脂粒子(A)の分散安定性をより向上させることが可能となる。特にエステル化することで、水溶性樹脂(B-1)と樹脂粒子(A)との相溶性が特段に向上する。
【0096】
エステル結合部位、アミド結合部位、イミド結合部位からなる群から選択される1種以上の結合部位は、酸無水物基及び/または当該酸無水物基が開環して生成した酸基の総モル量中、50~100モル%の割合で形成することが好ましい。エステル化等することで、水溶性樹脂(B-1)のカルボキシル基部位にEO基等を付与することができ、優れた静電反発効果が得られることで、前処理液の保存安定性が特段に向上するためである。
【0097】
上述した、あらかじめスチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂を製造した後に、これらの樹脂中の(無水)マレイン酸に由来する構造単位と、EO鎖含有アルキルエーテルとを反応させる方法により、水溶性樹脂(B-1)であるスチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂を合成する場合、上記EO鎖含有アルキルエーテルとして、例えば、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンプロピルエーテル等が使用できる。これらの化合物は、あらかじめ合成したものを使用しても構わないし、市販品を使用してもよい。
【0098】
また同様の方法により、スチレン-(無水)マレイン酸樹脂、及び/または、αオレフィン-(無水)マレイン酸樹脂にPO構造を導入する場合に使用する、PO鎖含有アルキルエーテルとして、例えば、ポリオキシプロピレンモノメチルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレンプロピルエーテル等が挙げられる。更に、EO鎖及びPO鎖を含有するアルキルエーテルを使用してもよく、このような化合物として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル等がある。これらの化合物は、あらかじめ合成したものを使用しても構わないし、市販品を使用してもよい。
【0099】
EO鎖含有アルキルエーテルまたはPO鎖含有アルキルエーテルの市販品としては、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルである、日油社製ユニオックスM-400(EO基の付加モル数8)、M-550(EO基の付加モル数12)、M-1000(EO基の付加モル数22)、M-2000(EO基の付加モル数45)、M-4000(EO基の付加モル数90);ポリオキシプロピレンブチルエーテルである三洋化成工業社製ニューポールLB-65(PO基の付加モル数6)、LB-285(PO基の付加モル数20)、LB-385(PO基の付加モル数24)、LB-625(PO基の付加モル数31)、LB-1715(PO基の付加モル数40)、LB-3000(PO基の付加モル数52)、LB-300X(PO基の付加モル数20)、LB-650X(PO基の付加モル数31)、LB-1800X(PO基の付加モル数40)等がある。また、EO鎖及びPO鎖を含有するアルキルエーテルの市販品として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルである日油社製ユニルーブ50MB-11(EO基の付加モル数9、PO基の付加モル数11)、50MB-26(EO基の付加モル数17、PO基の付加モル数17)、50MB-72(EO基の付加モル数30、PO基の付加モル数30)、50MB-168(EO基の付加モル数37、PO基の付加モル数38)等がある。
【0100】
<水溶性樹脂(B-2)>
本発明の前処理液は、前記水溶性樹脂(B)として、水溶性樹脂(B-1)ではない水溶性樹脂、すなわち、ポリオキシエチレン構造を有さない、及び/または、酸価が1~30mgKOH/gではない水溶性樹脂(本願では、「水溶性樹脂(B-2)」とも表記する)を含んでもよい。
【0101】
水溶性樹脂(B-2)の重量平均分子量は、1,500~50,000であることが好ましく、3,000~40,000であることがより好ましく、5,000~25,000であることが特に好ましい。上記範囲内の重量平均分子量を有する水溶性樹脂(B-2)は、上述した水溶性樹脂(B-1)の効果を阻害することがないため、保存安定性に優れた前処理液を得ることができる。また、印刷物の密着性や耐ブロッキング性を更に向上することができる観点からも、上記重量平均分子量を有する水溶性樹脂(B-2)が好適に使用できる。
なお、水溶性樹脂(B-2)の重量平均分子量の測定方法は、上述した水溶性樹脂(B-1)の場合と同様である。
【0102】
また、水溶性樹脂(B-2)として使用できる樹脂の種類は、上述した水溶性樹脂(B-1)の場合と同様である。中でも、樹脂粒子(A)または水溶性樹脂(B-1)との効果を阻害することがなくなり、本発明の効果を好適に発現させることができることから、水溶性樹脂(B-2)として、当該樹脂粒子(A)または水溶性樹脂(B-1)と同種の樹脂を使用することが好適である。
【0103】
(水溶性カチオン性樹脂)
一方、水溶性樹脂(B-2)として、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、及び、エピハロヒドリン構造単位からなる群から選択される1種類以上の構造単位を含む樹脂(水溶性カチオン性樹脂)を用いることもできる。これらの樹脂を含む前処理液を使用することで、印刷物の画像品質、密着性及びラミネート適性が特段に向上する。
【0104】
後述するカルシウムイオンの場合と同様の理由により、経時での耐ブロッキング性、画像品質、及びラミネート適性に優れた印刷物が得られ、保存安定性も良好な前処理液が得られる点から、水溶性カチオン性樹脂として、20℃の水100gに対する溶解度が5g以上であるものを選択することが好適である。
【0105】
なお、水溶性カチオン性樹脂の、20℃の水100gに対する溶解度が5g以上であるかどうかは、当該水溶性カチオン性樹脂5gと、水100gとの混合物を、20℃下で24時間静置した試料において、50%径が測定されるかどうかで判断する。その際、市販品等、水溶性カチオン性樹脂が水溶液の状態でしか入手できない場合は、水100gに対し固形分が5gとなるよう、水を添加、または、揮発除去して試料とする。また上記50%径は、樹脂粒子(A)の50%径と同様に、動的光散乱法によって測定される体積基準のメジアン径である。
【0106】
水溶性カチオン性樹脂の種類は特に限定されるものではなく、また、従来既知の合成方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。中でも、ジアリルアンモニウム構造単位を含む水溶性樹脂は、凝集及び/または増粘の作用が強く、画像品質に優れた印刷物を容易に得ることが可能となるうえ、当該印刷物の密着性及びラミネート適性も向上するため、特に好適に選択される。なお、入手容易性等の点から、ジアリルアンモニウム構造単位として、ジアリルジメチルアンモニウム及び/またはジアリルメチルエチルアンモニウムの、塩酸塩または硫酸エチル塩が好適に選択される。
【0107】
なお、ジアリルアンモニウム構造単位を含む水溶性カチオン性樹脂の市販品の例として、PAS-H-1L、PAS-H-5L、PAS-24、PAS-J-81L、PAS-J-81、PAS-J-41、PAS-880(ニットーボーメディカル社製);ユニセンスFPA1000L、FPA1001L、FPA1002L、FCA1000L、FCA1001L、FCA5000L(センカ社製)が挙げられる。
【0108】
本発明の前処理液に含まれる水溶性樹脂(B)の総量(D)は、樹脂粒子(A)の化学的安定性を高め前処理液の保存安定性を向上させる観点、並びに、混色滲みがなくべた埋まりが良好な、画像品質に優れた印刷物が得られる観点から、前処理液全量に対して、固形分換算で0.5~3質量%であることが好ましく、0.8~2.5質量%であることが特に好ましい。
【0109】
また、前処理液の保存安定性が向上できる観点より、前処理液100g中に含まれる樹脂粒子(A)の量をR(g)としたとき、当該Rの値と上記Dの値との比(R/D)は2.85~20であり、3~13であることがより好ましい。R/Dが2.85~20の範囲であることにより、保存安定性に悪影響を及ぼすことなく、混色滲みの抑制とべた埋まりの向上とが両立した画像品質に優れる印刷物が得られ、更には当該印刷物の耐ブロッキング性やラミネート適性も優れたものとなる。
【0110】
なお、前処理液に水溶性樹脂(B-2)が含まれていない場合、上記「水溶性樹脂(B)の総量(D)」は、水溶性樹脂(B-1)の含有量と同量となる。一方で、前処理液が水溶性樹脂(B-2)を含む場合、「水溶性樹脂(B)の総量(D)」とは、水溶性樹脂(B-1)の含有量と水溶性樹脂(B-2)の含有量との総和を表す。
【0111】
また、前処理液が水溶性樹脂(B-2)を含む場合、上記水溶性樹脂(B)の総量(D)に対する、水溶性樹脂(B-1)の含有量の割合は、上述した当該水溶性樹脂(B-1)の機能を好適に発言させる観点から、50~99質量%であることが好ましく、70~99質量%であることが特に好ましい。
【0112】
<カルシウムイオン>
本発明の前処理液は、カルシウムイオンを含む。上述したように、カルシウムイオンは凝集剤成分として機能する。なお、本願における「カルシウムイオン」には、前処理液に相溶しているカルシウム分が含まれるが、当該前処理液からの沈殿物中に含まれるカルシウム分は含まれないものとする。
【0113】
カルシウムイオンは、例えば、塩の形態で前処理液中に添加される。その際、カルシウム塩と組み合わされる対アニオンとして、後述するカルボン酸イオンを使用してもよいし、その他イオン(例えば、有機酸イオン、無機イオン等)を使用してもよい。このとき、密着性、耐ブロッキング性、画像品質、及びラミネート適性に優れた印刷物が得られる点、並びに、沈殿物が生じることのない、保存安定性に優れた前処理液が得られる点から、20℃の水100gに対する溶解度が1~70gであるカルシウム塩が形成される対アニオンを選択することが好ましい。なお上記の溶解度は、カルシウム塩無水物における値を使用するものとする。また、本発明の前処理液で好適に使用できる対アニオンの具体例は、後述する通りである。
【0114】
本発明の前処理液において、当該前処理液100g中に含まれるカルシウムイオンのミリモル量をCとしたとき、当該Cは10~60mmolであることが好ましく、15~50mmolであることがより好ましく、20~40mmolであることが特に好ましい。この範囲内であれば、凝集剤成分としての機能を十分に発現させることができ、画像品質に優れた印刷物が得られる。また、前処理液中に存在する樹脂粒子(A)の作用を阻害することがないため、印刷物の密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性等も良好なものとなる。
【0115】
また、上述したように、凝集剤成分であるカルシウムイオンと、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性等に寄与する樹脂粒子(A)とが、処理液中に共存することで、密着性、耐ブロッキング性、画像品質、及び、ラミネート適性の全てが向上できる観点、更には、水溶性樹脂(B-1)の効果を有効に発現させることで保存安定性も良化できる観点から、前処理液100g中に含まれる前記樹脂粒子(A)の、固形分換算での量をR(g)としたとき、R/Cで表される値は0.11~0.50であり、0.20~0.50であることが好ましく、0.20~0.40であることが特に好ましい。
【0116】
<カルボン酸イオン>
本発明の前処理液はカルボン酸イオンを含む。上述したように、カルボン酸イオンとカルシウムイオンからなるカルボン酸カルシウム塩は、水に対する溶解度が小さい一方で、適度な拡散速度を有しているため、カルシウムイオンの放出及び拡散速度を好適な範囲に制御でき、混色滲み及び色ムラがなく、べた埋まりに優れた印刷物が得られる。
【0117】
また、複数のカルボン酸イオンを使用することで、異種イオン効果に類似した効果により、それぞれのカルボン酸カルシウムが単独で示す以上の水溶解性を示すことができ、画像品質の更なる向上が実現できる。
【0118】
更に、カルボン酸イオンとしてヒドロキシカルボン酸イオンを使用することが好ましい。ヒドロキシカルボン酸イオンとカルシウムイオンとの塩(ヒドロキシカルボン酸カルシウム塩)は、例えば、乾燥に伴い液体成分の構成が変化しても、その溶解性を維持しやすい。また、ヒドロキシ基を含むため、ヒドロキシカルボン酸カルシウム塩を含む前処理液層は、後から印刷される水性インクジェットインキとの親和性が高い。その結果、例えば完全に乾燥させた前処理液層上に水性インクジェットインキを印刷する場合であっても、当該水性インクジェットインキの液滴の広がりの不均一化が抑制され、印刷物のべた埋まりが更に良化する。
【0119】
そして上述した理由により、画像品質等に特段に優れた印刷物が得られる観点から、本発明の前処理液は、複数のカルボン酸イオンを含み、かつ、それらのうちの1種以上がヒドロキシカルボン酸イオンであることが、最も好ましい。
【0120】
カルボン酸イオンは、例えば、カルボン酸または塩の形態で前処理液中に添加される。また塩の形態で添加される場合、対カチオンはカルシウムイオンであってもよいし、その他カチオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(ただしカルシウムイオンを除く)、3価金属イオン、4級アンモニウムイオン等)であってもよい。ただし、前処理液中ではカルシウムイオンと共存することになるため、どのような形態で前処理液中に添加されるかによらず、上述した観点から、20℃の水100gに対する溶解度が1~70gであるカルシウム塩が形成されるカルボン酸イオンを選択することが好ましい。具体的には、ギ酸イオン(17g)、酢酸イオン(28g)、プロピオン酸イオン(38g)、酪酸イオン(17g)、安息香酸イオン(2g)、乳酸イオン(3g)、グルコン酸イオン(3g)、パントテン酸イオン(35g)等が挙げられる(なおカッコ内の値は、20℃の水100gに対する、カルシウム塩の溶解度である)。
【0121】
本発明の前処理液において、当該前処理液100g中に含まれるカルボン酸イオンの総ミリモル当量をAとしたとき、当該Aは10~60ミリモル当量であることが好ましく、15~50ミリモル当量であることがより好ましく、20~40ミリモル当量であることが特に好ましい。この範囲内であれば、上述した前処理液の保存安定性及び画像品質の両立が実現できる。
【0122】
<非カルボン酸イオン>
本発明の前処理液には、カルシウムイオンの対アニオン、その他多価金属イオン(詳細は後述する)の対アニオン、pH調整剤等として、カルボン酸イオン以外のイオン(非カルボン酸イオン)が含まれていてもよい。非カルボン酸イオンとして、ホスホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、ホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオン等の有機酸イオン;並びに、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、等の無機イオンが挙げられる。これらの中でも、上述した観点から、20℃の水100gに対する溶解度が1~70gであるカルシウム塩が形成されるカルボン酸イオンを選択することが好ましい。具体的には、リン酸二水素イオン(2g)、グリセロリン酸イオン(5g)、炭酸水素イオン(17g)、ヨウ化物イオン(67g)等が挙げられる。
【0123】
本発明の前処理液では、上述したカルボン酸イオンの効果を好適に発現させる観点から、当該前処理液100g中に含まれる非カルボン酸イオンのミリモル当量をBとしたとき、B/(A+B)で表される値は0~0.5であることが好ましく、0~0.3であることがより好ましく、0~0.1であることが特に好ましい。
【0124】
<その他多価金属イオン>
本発明の前処理液は、カルシウムイオン以外の多価金属イオン(以下「その他多価金属イオン」ともいう)を含んでもよい。
【0125】
前処理液がその他多価金属イオンを含む場合、当該その他多価金属イオンが2価の金属イオンであることが好ましい。2価の金属イオンは、インクジェットインキが接触すると速やかに放出され、凝集剤成分として優れた作用を示す。また3価以上の金属イオンと比較して、凝集及び/または増粘の速度が大きすぎることがなく、基材上でのインクジェットインキの濡れ広がりを適度に抑制することができるため、画像品質に優れた印刷物が得られる。
本発明の前処理液において好適に使用できる2価の金属イオンとして、マグネシウムイオン、亜鉛(II)イオン、鉄(II)イオンが挙げられる。またこれらの中でも、接触したインクジェットインキ中への放出が速く、また凝集及び/または増粘の速度が大きすぎないために、画像品質に特段に優れた印刷物が得られる点から、マグネシウムイオンが特に好ましく使用できる。
【0126】
なお、その他多価金属イオンを使用する場合、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし上述した、樹脂粒子(A)、カルシウムイオン、及び、カルボン酸イオンの機能を十分に発現させる観点から、前処理液100g中に含まれるその他多価金属イオンのミリモル量の総量をC2(mmol)としたとき、C≧C2であることが好ましく、C≧C2×2であることがより好ましく、C≧C2×5であることが更に好ましく、C≧C2×10であることが特に好ましい。
【0127】
また、その他多価金属イオンは、例えば、上述したカルボン酸との塩の形態;上述した非カルボン酸イオン及び/または水酸化物イオンとの塩または錯塩の形態;または、水酸化物の形態で前処理液中に添加される。
【0128】
<水溶性有機溶剤(C)>
本発明の前処理液は、更に水溶性有機溶剤(C)を含んでもよい。水溶性有機溶剤(C)を併用することで、カルボン酸イオンの親和性が向上し、前処理液層全体に当該カルボン酸イオンを均一に存在させることができるため、樹脂粒子(A)の分散状態の安定化、及び、水性インクジェットインキとの親和性の向上が実現でき、結果として、前処理液の保存安定性及び印刷物の画像品質が向上する。なおこの効果は、カルボン酸イオンとしてヒドロキシカルボン酸イオンを使用した際、特に優れたものとなる。また、前処理液の濡れ広がり性及び乾燥性の調整が可能となるため、基材上での均一付与及び生産性、並びに、印刷物の密着性及び画像品質の向上が容易になる。
なお、本願における「水溶性有機溶剤」とは、25℃で液体であり、かつ、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上である有機化合物を表す。
【0129】
本発明の前処理液では、水溶性有機溶剤(C)は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、使用できる水溶性有機溶剤(C)の種類についても制限はなく、従来既知のものを任意に使用することができる。中でも、前処理液の濡れ広がり性及び乾燥性が好適化し、印刷物の密着性及び画像品質が向上する観点から、25℃における静的表面張力が20~40mN/mである水溶性有機溶剤を使用することが好適であり、20~35mN/mである水溶性有機溶剤を使用することが更に好適であり、20~30mN/mである水溶性有機溶剤を使用することが特に好適である。また同様の観点から、1気圧下における沸点が75~200℃である水溶性有機溶剤を使用することが好適であり、75~180℃である水溶性有機溶剤を使用することが更に好適であり、80~160℃である水溶性有機溶剤を使用することが特に好適である。
なお、水溶性有機溶剤(C)の静的表面張力は、25℃の環境下においてウィルヘルミー法によって測定された値である。具体的には、例えば協和界面科学社製「DY-300」を使用し、25℃環境下で白金プレートを用いて測定することができる。
【0130】
また、カルボン酸イオン(好ましくはヒドロキシカルボン酸イオン)の親和性を向上させ、前処理液の保存安定性及び印刷物の画像品質が良化できる観点から、分子構造中にヒドロキシル基を1個以上含む水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。この場合、上記の効果をより好適に発現させることができる点で、分子構造中にヒドロキシル基を1個以上含む水溶性有機溶剤の含有量を、水溶性有機溶剤(C)全量に対して50~100質量%とすることが好ましく、70~100質量%とすることがより好ましく、90~100質量%とすることが特に好ましい。
【0131】
分子構造中にヒドロキシル基を1個以上含む水溶性有機溶剤を例示すると、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の1価アルコール系溶剤;
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#400、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール等の2価アルコール(グリコール)系溶剤;
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールモノアルキルエーテル系溶剤;
グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、ポリグリセリン等の鎖状ポリオール系溶剤;
等を挙げることができる。
【0132】
また、上記に例示したもの以外にも、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル系溶剤;
2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メチル-2-オキサゾリジノン、3-エチル-2-オキサゾリジノン、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド等の含窒素系溶剤;
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等の複素環化合物;
等を、水溶性有機溶剤(C)として使用することができる。
【0133】
前処理液中の水溶性有機溶剤(C)の含有量の総量は、当該前処理液全量に対して1~50質量%であることが好ましく、2~40質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤(C)の含有量を上記範囲内とすることで、上述したカルボン酸イオン(好ましくはヒドロキシカルボン酸イオン)の親和性の向上が実現でき、結果として前処理液の保存安定性及び印刷物の画像品質が向上する。また、前処理液の付与方法によらず、長期に渡って、印刷欠陥を起こすことのない安定かつ均一な付与が可能となる。
【0134】
なお、本発明の前処理液では、1気圧下における沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、前処理液全量に対して5質量%以下である(0質量%でもよい)ことが好ましく、2質量%以下である(0質量%でもよい)ことがより好ましく、1質量%以下である(0質量%でもよい)ことが特に好ましい。沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤を含まないか、含むとしてもその配合量を上記範囲内とすることで、密着性、耐ブロッキング性、画像品質及びラミネート適性に優れた印刷物が得られるとともに、前処理液の乾燥性が十分なものとなる。
【0135】
更に、上記と同様の理由により、1気圧下における沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、前処理液全量に対して5質量%未満であることに加えて、1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、前処理液全量に対して10質量%以下である(0質量%でもよい)ことが好ましく、5質量%以下である(0質量%でもよい)ことがより好ましく、2質量%以下である(0質量%でもよい)ことが特に好ましい。
【0136】
<界面活性剤(D)>
本発明の前処理液は、基材上に安定かつ均一に付与するため、界面活性剤(D)が含まれていてもよい。使用できる界面活性剤(D)の種類についての制限はなく、従来既知のものを任意に使用することができる。中でも、基材上への安定かつ均一付与性を高め、密着性、画像品質、及びラミネート適性に優れた印刷物が得られる観点から、アセチレンジオール系界面活性剤を使用することがより好適である。
【0137】
アセチレンジオール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、並びに、それらのエチレンオキサイド、及び/または、プロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0138】
また上記アセチレンジオール系界面活性剤の市販品を例示すると、サーフィノール61、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、420、440、465、485、SE、SE-F、ダイノール604、607(エアープロダクツ社製)、オルフィンE1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0139】
界面活性剤(D)は単独の化合物を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、本発明の前処理液中の界面活性剤(D)の含有量は、前処理液全量に対して0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~8質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。
【0140】
<水>
本発明の前処理液に含まれる水の含有量は、前処理液全量に対して50~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~85質量%であることが更に好ましい。水は、樹脂粒子(A)、水溶性樹脂(B)、カルシウムイオン、カルボン酸イオン等の、本発明の前処理液に必須である材料の相互溶解性を高めることができ、当該前処理液の保存安定性を向上させるためには欠かせない材料である。
【0141】
<その他材料>
本発明の前処理液は、上述した材料の他、必要に応じてpH調整剤、着色剤、粘度調整剤、防腐剤等の材料を添加してもよい。
【0142】
(pH調整剤)
例えば、本発明の前処理液は、当該前処理液の付与に使用される装置(前処理液付与装置)に含まれる部材へのダメージの低減、及び、経時でのpH変動の抑制による前処理液の保存安定性の向上の観点で、pH調整剤を含んでもよい。当該pH調整剤として使用できる材料に制限はなく、また1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0143】
なお上述した材料、例えばカルボン酸は、上述した機能を発現する材料であるとともに、pH調整剤でもある。
そのほかにも、前処理液を塩基性化させる場合には、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を使用することができる。また、酸性化させる場合には、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸を使用することができる。
【0144】
上述した効果を有効に発現させる観点から、pH調整剤の配合量は、前処理液全量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.05~3質量%とすることがより好ましい。
【0145】
<着色剤>
本発明の前処理液は、顔料や染料等の着色剤を実質的に含まないことが好ましい。着色剤を含まず、実質的に透明な前処理液を用いることで、基材特有の色味や透明感を活かした印刷物を得ることができる。なお、本願において「実質的に含まない」とは、本発明の効果の発現を妨げる程度まで、当該材料を意図的に添加することを認めないことを表すものであり、例えば、不純物や副生成物の混入まで排除するものではない。具体的には、前処理液全量に対し、当該材料を2.0質量%以上含まないことであり、好ましくは1.0質量%以上含まないことであり、より好ましくは0.5質量%以上含まないことであり、特に好ましくは0.1質量%以上含まないことである。
【0146】
一方、別の好ましい実施形態では、前処理液は、着色剤として白色顔料を含む。白色の前処理液を、有色及び/または透明な基材に対して用いることで、鮮明性及び視認性に特段に優れ、画像品質の良好な印刷物を得ることができる。前処理液が白色顔料を含む場合、当該白色顔料として、従来より既知の材料を任意に用いることができる。
【0147】
<前処理液の物性>
本発明の前処理液は、25℃における粘度が5~200mPa・sであることが好ましく、5~180mPa・sであることがより好ましく、8~160mPa・sであることが更に好ましく8~140mPa・sであることが特に好ましい。上記粘度範囲を満たす前処理液は、非浸透性基材に対してムラなく塗工できるため、画像品質、密着性、耐ブロッキング性、及び、ラミネート適性に優れた印刷物となる。なお前処理液の粘度は、処理液の粘度に応じて、例えばE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)またはB型粘度計(東機産業社製TVB10形粘度計)を用いて測定できる。
【0148】
また、本発明の前処理液の静的表面張力は、非浸透性基材上における好適な濡れ広がり性を付与し、均一でムラのない前処理液層を形成することで、画像品質、密着性、耐ブロッキング性、及びラミネート適性に優れた印刷物を得るという観点から、20~40mN/mであることが好ましく、21~37mN/mであることがより好ましく、22~35mN/mであることが特に好ましい。なお、本明細書における静的表面張力は、上述した水溶性有機溶剤(C)の表面張力と同様にして測定することができる。
【0149】
<前処理液の製造方法>
上述した成分からなる本発明の前処理液は、例えば、樹脂粒子(A)、水溶性樹脂(B-1)、カルボン酸カルシウム塩、並びに、必要に応じて、水溶性有機溶剤(C)、界面活性剤(D)、pH調整剤等、上記で挙げた材料を加え、攪拌及び混合したのち、必要に応じて濾過することで製造される。ただし、前処理液の製造方法は上記の方法に限定されるものではない。例えば着色剤として白色顔料を使用する場合、あらかじめ、当該白色顔料と水とを含む白色顔料分散液を作製したのち、樹脂粒子(A)、水溶性樹脂(B-1)、及び、カルボン酸カルシウム塩と混合してもよい。また、攪拌及び混合する際は、必要に応じて混合物を40~100℃の範囲で加熱してもよい。
【0150】
<水性インクジェットインキ>
本実施形態の前処理液は、1種類以上の水性インクジェットインキと組み合わせ、インキセットの形態で使用できる。好ましくは、上記水性インクジェットインキは、顔料と、水溶性有機溶剤と、水とを含む。また更に、バインダー樹脂、界面活性剤等を含んでもよい。
【0151】
水性インクジェットインキに含まれる顔料は、発色性や耐光性に優れ、画像品質に優れた印刷物が得られる点から、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4等のブルー顔料;C.I.ピグメントレッド122、150、166、185、202、209、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレット19等のレッド顔料;C.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、120、180、185、及び213等のイエロー顔料;カーボンブラック等のブラック顔料;酸化チタン等のホワイト顔料;等が好ましく使用できる。
【0152】
また、水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤は、前処理液との相溶性及び親和性が向上できる観点から、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤及び/または2価アルコール系溶剤を含有することが好ましい。
【0153】
その際、本発明の前処理液と組み合わせて使用した際に、高速印刷であっても画像品質に優れた印刷物を得ることができるとともに、吐出安定性も優れたものとなるという観点から、水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の、1気圧下における加重沸点平均値を、145~215℃とすることが好ましく、150~200℃とすることがより好ましく、155~190℃とすることが特に好ましい。また、前処理液と組み合わせた際、混色滲み等の画像品質の欠陥がなく、耐ブロッキング性も良好な印刷物が得られる観点から、1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶媒の量を、水性インクジェットインキ全量に対し5質量%以下(0質量%でもよい)とすることが好ましく、2質量%以下(0質量%でもよい)とすることが特に好ましく、1質量%以下(0質量%でもよい)とすることが特に好ましい。
【0154】
また、水性インクジェットインキが界面活性剤を含む場合、アセチレンジオール系の界面活性剤を使用することが好ましい。その際、界面活性剤の添加量としては、水性インクジェットインキ全量に対して、0.01~5.0質量%とすることが好ましく、0.05~3.0質量%とすることが更に好ましい。なお、アセチレンジオール系界面活性剤として使用できる市販品の具体例は、上記列挙した、前処理液に使用できる市販品と同様である。
【0155】
<基材>
本発明の前処理液は、浸透性の高い基材や低浸透性の基材に対しても使用可能であるが、特に非浸透性基材に対して好適に使用することができる。当該非浸透性基材として、従来から既知のものを任意に用いることができ、例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルムの様な熱可塑性樹脂基材や、アルミニウム箔の様な金属基材等が使用できる。上記列挙した基材は、いずれも表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであってもよいし、透明、半透明、不透明のいずれであってもよい。また、これらの基材の2種以上を互いに貼り合わせたものでもよい。更に印字面の反対側に剥離粘着層等を設けてもよく、また印字後、印字面に粘着層等を設けてもよい。また非浸透性基材の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0156】
中でも、本発明の前処理液の機能を十分に発現させるために、非浸透性基材が熱可塑性樹脂基材であることが好ましく、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムであることが特に好ましい。
【0157】
また、本発明の前処理液をムラなく均一に塗布するとともに、密着性を特段に向上させる観点から、上記に例示した非浸透性基材に対し、コロナ処理やプラズマ処理といった表面改質方法を施すことも好ましい。
【0158】
<印刷物の製造方法>
本発明の前処理液は、例えば上記列挙した非浸透性基材に付与されたのち、当該非浸透性基材上の前処理液が付与された部分に、顔料、水溶性有機溶剤、及び、水を含む水性インクジェットインキが印刷され、印刷物となる。好ましくは、水性インクジェットインキを印刷したのち、前処理液及び当該水性インクジェットインキが付与された非浸透性基材を乾燥する工程を経て、印刷物が製造される。
【0159】
本発明の前処理液を非浸透性基材上に付与する方法として、インクジェット印刷のように基材に対して非接触で印刷する方式と、基材に対し前処理液を当接させて塗工する方式のどちらを採用してもよい。また、前処理液の付与方法として、前処理液を当接させる塗工方式を選択する場合、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーター等の形式が好適に使用できる。
【0160】
また、前処理液を非浸透性基材に付与したのち、当該非浸透性基材上の前処理液を乾燥させたのち、水性インクジェットインキを印刷してもよいし、上記非浸透性基材上の前処理液が完全に乾燥する前に、水性インクジェットインキを印刷してもよい。一実施形態において、水性インクジェットインキを印刷する前に前処理液を完全に乾燥させる、すなわち、前記前処理液の液体成分が実質的に除去された状態とすることが好ましい。前処理液が完全に乾燥した後で水性インクジェットインキを印刷することで、後から着弾する水性インクジェットインキが乾燥不良を起こすことなく、耐擦過性及び耐ブロッキング性に優れた印刷物が得られるためである。
【0161】
本発明の前処理液の印刷で用いられる乾燥方法に特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法等、従来既知の方法を挙げることができる。上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよいが、非浸透性基材へのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、熱風乾燥法を用いることが好ましい。また、基材へのダメージや前処理液中の液体成分の突沸を防止する観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~150℃とすることが好ましい。
【0162】
<コーティング処理>
本発明の前処理液と、水性インクジェットインキとを用いて作製した印刷物は、必要に応じて、印刷面をコーティング処理することができる。前記コーティング処理の具体例として、コーティング用組成物の塗工・印刷や、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出しラミネート法等によるラミネート加工等が挙げられ、いずれを選択してもよいし、複数を組み合わせてもよい。
【0163】
なお、コーティング用組成物を塗工または印刷することによって印刷物にコーティング処理を施す場合、その塗工または印刷方法として、インクジェット印刷のように基材に対して非接触で印刷する方式と、基材に対しコーティング用組成物を当接させて塗工する方式のどちらを採用してもよい。
【0164】
また印刷物にラミネート加工を施す場合、シーラント基材をラミネートするために使用する接着剤は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分の混合物により構成されることが好ましい。その際、印刷層(印字部)や前処理液層(非印字部)に対する濡れ広がり性が良好であり、印刷物(積層体)のラミネート強度にも優れる点から、上記ポリオール成分がポリエステルポリオールを含有することが好ましい。また同様の理由により、上記ポリイソシアネート成分が、イソシアネート基末端のポリエーテル系ウレタン樹脂を含有することが好ましい。またポリイソシアネート成分の配合量は、ポリオール成分に対して50~80質量%であることが好ましい。
【0165】
なお、上記ラミネート加工に使用するシーラント基材として、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムや直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)フィルム等の、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムが例示できる。また酸化アルミニウム等の金属(酸化物)蒸着層を形成したフィルムを使用してもよい。
【実施例】
【0166】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の前処理液、及び当該前処理液と水性インクジェットインキとを含むインキセットを更に具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0167】
<製造例1:(メタ)アクリル樹脂粒子1(Ac1)の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌器を備えた反応容器に、イオン交換水124部と、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製「ラテムルE-150」)1.2部とを仕込み、よく攪拌混合した。一方、攪拌機を備えた別の混合容器を準備し、エチレン性不飽和単量体としてアクリル酸0.2部、n-ブチルアクリレート39.8部、及び、メチルメタクリレート60部;イオン交換水64部;並びに、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製「ラテムルE-150」)0.8部;を順次加えたのち、よく攪拌混合して乳化液とした。
【0168】
次いで、混合容器から上記乳化液を8部分取し、上記反応容器内に加えた。添加後、当該反応容器の内温を80℃に昇温し、また十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液を4部と、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を8部とを添加し、重合反応を開始した。重合反応の開始後、反応容器の内温を80℃に保ちながら、上記で作製した乳化液の残り(156.8部)と、過硫酸カリウムの5%水溶液を1.2部と、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を2.5部とを、1.5時間かけて滴下した。そして滴下終了後、更に反応容器内の内容物を2時間攪拌し続けたのち、内温が30℃以下になるまで冷却した。その後、ジメチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5としたのち、イオン交換水を加えて固形分が30%になるように調整することで、(メタ)アクリル樹脂粒子1(Ac1)の水分散液(固形分30%)を得た。なお、上述した方法で算出した(メタ)アクリル樹脂粒子1の酸価は1.6(mgKOH/g)、Tgは19.9(℃)であった。
【0169】
<製造例2~10:(メタ)アクリル樹脂粒子2~10(Ac2~10)の製造>
乳化液の作製に使用したエチレン性不飽和単量体の種類及び量を、表1記載のように変更した以外は、(メタ)アクリル樹脂粒子1と同様の操作にて、(メタ)アクリル樹脂粒子2~10(Ac2~10)の水分散液(それぞれ固形分30%)を製造した。
【0170】
【0171】
なお表1には、上述した方法で算出した(メタ)アクリル樹脂粒子1~10の酸価及びガラス転移温度も記載した。
【0172】
<製造例11:ウレタンウレア樹脂粒子1(Ur1)の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌器を備えた反応容器に、あらかじめ減圧脱水したポリエステルポリオール(豊国化学社製「HS2H-201AP」、水酸基価:56mgKOH/g)72部、ジメチロールプロピオン酸3.4部、メチルエチルケトン59.9部、及び、イソホロンジイソシアネート20部を仕込んだ。その後、反応容器の内温を80℃に昇温し、4時間反応させることで、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含む混合溶液を得た。この混合溶液を40℃まで冷却したのち、メチルエチルケトンを20部加え、更に、ジメチルアミノエタノール2.2部を添加して、ウレタンプレポリマーに存在する酸基を中和した。その後、上記ウレタンプレポリマーを含む混合溶液を攪拌しながら、更にイオン交換水209.4部を徐々に添加し、当該ウレタンプレポリマーを乳化した。
【0173】
次いで、得られたウレタンプレポリマーの乳化液に、鎖延長剤としてイソホロンジアミンを含む水溶液(イソホロンジアミン4.6部を、イソプロピルアルコール16.4部とイオン交換水16.4部との混合溶液に溶解させたもの)を徐々に添加し、鎖延長反応させた。その後、メチルエチルケトン及びイソプロピルアルコールを減圧除去し、更にイオン交換水を添加して固形分を30%に調整することで、ウレタンウレア樹脂粒子1(Ur1)の水分散液(固形分30%)を得た。なお、上述した方法で算出したウレタンウレア樹脂粒子1の酸価は14.2(mgKOH/g)であった。
【0174】
<製造例12:ウレタンウレア樹脂粒子2(Ur2)の製造>
反応容器中に最初に添加した材料を、あらかじめ減圧脱水したポリエステルポリオール(豊国化学社製「HS2H-201AP」)70.2部、ジメチロールプロピオン酸3.3部、メチルエチルケトン59.9部、及び、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート21.4部とし、更に、鎖延長反応の際に添加した溶液を、m-テトラメチルキシリレンジアミンを含む水溶液(m-テトラメチルキシリレンジアミン5.1部を、イソプロピルアルコール16.4部とイオン交換水16.4部との混合溶液に溶解させたもの)とした以外は、上述したウレタンウレア樹脂粒子1(Ur1)と同様の操作にて、ウレタンウレア樹脂粒子2(Ur2)の水分散液(固形分30%)を製造した。なお、上述した方法で算出したウレタンウレア樹脂粒子2の酸価は13.8(mgKOH/g)であった。
【0175】
<製造例13:(メタ)アクリル水溶性樹脂1(AcB1)の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌器、及び、2つの滴下ロートを備えた反応容器に、1-ブタノール94部を仕込み、また十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温が105℃になるまで加温した。次に、2つの滴下ロートの一方からは、エチレン性不飽和単量体である、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート2(EO付加モル数23)50部、スチレン20部、アクリル酸1部、及び、メチルメタクリレート29部の混合物を3時間かけて滴下した。またもう一方の滴下ロートからは、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート溶液(ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート7.7部を1-ブタノール12部に溶解させたもの)を、4時間かけて滴下した。ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート溶液の滴下完了後、更に10時間反応を継続させた。そして、得られた混合物から1-ブタノールを完全に乾燥除去することで、固体である(メタ)アクリル水溶性樹脂1(AcB1)を得た。なお、上述した方法で算出した、(メタ)アクリル水溶性樹脂1(AcB1)中のEO構造の含有量は45.6%、酸価は7.8mgKOH/gであった。また、TSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備した東ソー社製「HLC-8120GPC」を用いて測定した、(メタ)アクリル水溶性樹脂1の重量平均分子量(ポリスチレン換算値)は15,000であった。
【0176】
<製造例14~42:(メタ)アクリル水溶性樹脂2~30(AcB2~30)の製造>
一方の滴下ロートから滴下したエチレン性不飽和単量体の混合物の構成を、表2に示すようにした以外は、(メタ)アクリル水溶性樹脂1と同様の操作にて、それぞれ固体である、(メタ)アクリル水溶性樹脂2~30(AcB2~30)を得た。
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
なお表2には、上述した方法で算出した、(メタ)アクリル水溶性樹脂1~30中のEO構造の含有量、PO構造の含有量、酸価、並びに、上述した装置により測定した(メタ)アクリル水溶性樹脂1~30の重量平均分子量も記載した。
【0181】
<製造例43:スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(SMAB1)の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、スチレン-無水マレイン酸樹脂1(構成単量体比:スチレン/マレイン酸=1/1、重量平均分子量:5,500)を9部と、EO付加モル数が45のポリオキシエチレンモノメチルエーテルを91部と、キシレンを20部とを、順番に仕込んだのち、内容物を攪拌しながら80℃に昇温させ、そのまま4時間保持することで、エステル反応させた。その後、キシレンを完全に乾燥除去することで、固体であるスチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(SMAB1)を得た。なお、上述した方法で算出した、スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1中のEO構造の含有量は89.9%、酸価は25.5mgKOH/gであった。また、(メタ)アクリル水溶性樹脂1の場合と同様の方法で測定した、スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1の重量平均分子量は、15,000であった。
【0182】
<製造例44~61:スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂2~19(SMAB2~19)の製造>
反応容器内に仕込んだ原料の種類と仕込み量とを、表3に記載したように変更した以外は、スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(SMAB1)と同様の操作にて合成を行い、それぞれ固体である、スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂2~19(SMAB2~19)を得た。
【0183】
【0184】
【0185】
なお表3には、上述した方法で算出した、スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1~19中のEO構造の含有量、PO構造の含有量、酸価、並びに、上述した装置により測定したスチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1~19の重量平均分子量も記載した。
【0186】
<製造例62:αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(OMAB1)の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、1-デセンを59部と、無水マレイン酸を41部とを仕込み、更に、キシレンを10部、並びに、連鎖移動剤としてチオグリコール酸オクチルを0.6部添加した。反応容器内を十分に窒素置換した後、内温が130℃になるまで攪拌しながら昇温させた。次いで、内容物を攪拌しながら、ラジカル重合開始剤であるt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.0部とキシレン20部との混合物を、反応容器内に2時間かけて滴下した。その後、内温を130℃に保ったまま、更に1時間攪拌を続け、重合反応させた。1時間後、反応容器内の重合転化率が95%以上になったことを確認した後、内温を60℃以下になるまで下げ、αオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂を含む混合液を得た。その後、当該混合液14.5部(αオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂として11部)を、ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた別の反応容器に移し、更に、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル89部と、触媒であるジアザビシクロウンデセン0.01部とを加えたのち、内容物を攪拌しながら反応容器内の温度を80℃まで昇温させ、そのまま4時間保持することで、エステル反応させた。そして、キシレンを完全に乾燥除去することで、固体である、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(OMAB1)を得た。なお、上述した方法で算出した、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1中のEO構造の含有量は88.1%、酸価は26.8mgKOH/gであった。また、(メタ)アクリル水溶性樹脂1の場合と同様の方法で測定した、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1の重量平均分子量は16,000であった。
【0187】
<製造例63~73:αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂2~12(OMAB2~12)の製造>
反応容器内に始めに添加した原料の種類と仕込み量とを、表4の上段に記載したように変更した以外は、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1(OMAB1)と同様の操作にて合成を行い、αオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂を製造した。その後、得られたαオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂を一定量使用し、更に、表4の下段に記載したように原料の仕込み量を変化させた以外は、上述したαオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1と同様の方法により、それぞれ固体である、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂2~12(OMAB2~12)を得た。なお、表4の下段に示した「上段で製造したαオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂」の添加量は、混合液の添加量ではなく、αオレフィン-(無水)マレイン酸前駆体樹脂としての添加量に換算した値である。また、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂61~71の製造にあたり、重量平均分子量を調整するため、ラジカル重合開始剤(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート)と連鎖移動剤(チオグリコール酸オクチル)の添加量を適宜微調整した。
【0188】
【0189】
なお表4には、上述した方法で算出した、αオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂1~12中のEO構造の含有量、PO構造の含有量、及び、酸価、並びに、上述した装置により測定したαオレフィン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂60~71の重量平均分子量も記載した。
【0190】
<前処理液1~112の製造例>
前処理液の製造に先立ち、表5の各列に記載した材料を、それぞれ攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)にて1時間攪拌混合することで、プレ前処理液1~17を製造した。次いで、表6の各行に記載した、プレ前処理液、樹脂粒子の水分散液、水溶性樹脂(の水溶液)、イオン交換水を、それぞれ当該表6に記載した量ずつ、攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)にて1時間攪拌混合したのち、混合物の温度が50℃になるまで加温し、更に1時間攪拌混合を継続した。そして、混合物を室温まで冷却したのち、孔径100μmのナイロンメッシュにて濾過を行うことで、前処理液1~112を製造した。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
なお、表5~6に記載した略称及び製品名の詳細は、以下の通りである。
・IPA:2-プロパノール(イソプロパノール)
・SF440:サーフィノール440(日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤)
・プロキセルGXL:アーチケミカルズ社製1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン(ジプロピレングリコール溶液)
・E-6400:ハイテックE-6400(東邦化学工業社製非塩素化ポリオレフィン樹脂粒子)
・XK-188:Neocryl XK-188(DSM Coating Resins社製(メタ)アクリル樹脂粒子、固形分44.5%)
・XK-190:Neocryl XK-190(DSM Coating Resins社製(メタ)アクリル樹脂粒子、固形分45%)
・R-600:Neo Rez R-600(DSM Coating Resins社製ウレタン(ウレア)樹脂粒子、固形分33%)
・R-9621:Neo Rez R-9621(DSM Coating Resins社製ウレタン(ウレア)樹脂粒子、固形分38%)
・WEM-3000:大成ファインケミカル社製ウレタン(ウレア)-(メタ)アクリル樹脂粒子、固形分32.5%
・BYK-190:ビックケミー社製スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂溶液、固形分40%、EO構造及びPO構造を含有、酸価10mgKOH/g
・BYK-2015:ビックケミー社製スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂溶液、固形分40%、EO構造及びPO構造を含有、酸価10mgKOH/g
TEGO Dispers 750W:エボニック社製スチレン-(無水)マレイン酸水溶性樹脂溶液、固形分40%、EO構造を含有、酸価10mgKOH/g
・UrB1:特開2019-94377号公報の実施例に記載された方法で製造した、合成例8のウレタン(ウレア)水溶性樹脂溶液、固形分25%、EO構造を含有、酸価29mgKOH/g
【0202】
<水性インクジェットインキの製造>
(顔料分散樹脂1の製造例)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール95部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱したのち、重合性単量体としてのスチレン45部、アクリル酸30部、ラウリルメタクリレート25部、並びに、重合開始剤であるV-601(富士フイルム和光純薬社製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後110℃で3時間反応を継続させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を続けた。その後、反応容器内が室温になるまで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを添加して、生成物の酸基を完全に中和したのち、水を100部添加し水性化した。そして、反応容器内を100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去するとともに、固形分が30%になるように調整することで、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を得た。なお、顔料分散樹脂1の酸価は233.6mgKOH/gであった。
【0203】
(ブラック顔料分散液の製造)
カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ社製「PrinteX85」)を15部と、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を10部と、水を75部とを、攪拌機を備えた混合容器中に投入し、1時間プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填したダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、容積0.6L)を用いて循環分散を行い、ブラック顔料分散液を製造した。
【0204】
(シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液の製造)
顔料として、以下に示す顔料を使用した以外は、上記ブラック顔料分散液と同様の方法により、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液を得た。
・シアン:トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G
(C.I.ピグメントブルー15:3)
・マゼンタ:DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG
(C.I.ピグメントレッド122)
・イエロー:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT1405G
(C.I.ピグメントイエロー14)
【0205】
(ブラックインキ1(K1)の製造)
ブラック顔料分散液を33.3部、特開2020-180178号公報の実施例に記載された方法で製造した、バインダー樹脂28の水性化溶液(固形分30%)を13.4部、1,2-プロパンジオールを20部、プロピレングリコールモノメチルエーテルを4部、TEGO Wet 280(エボニック社製ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤)を1.5部、及び、サーフィノール465(日信化学工業社製アセチレンジオール系界面活性剤)を1部、を混合容器に順次投入したのち、添加量の総量が100部になるように水を加え、攪拌機で十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去し、ブラックインキ1(K1)を作製した。
【0206】
(シアンインキ1(C1)、マゼンタインキ1(M1)、イエローインキ1(Y1)の製造)
顔料分散液として、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液をそれぞれ使用した以外は、上記ブラックインキ1と同様の方法により、シアンインキ1(C1)、マゼンタインキ1(M1)、イエローインキ1(M1)を得た。そして、K1、C1、M1、Y1の4種の水性インクジェットインキを水性インクジェットインキセット1として、下記の評価に使用した。
【0207】
<前処理液を付与したOPPフィルム基材の作製例>
オーエスジーシステムプロダクツ社製ノンワイヤーバーコーター250-OSP-02を用い、三井化学東セロ社製2軸延伸ポリプロピレンフィルム「OPU-1」(厚さ20μm、以下単に「OPPフィルム」ともいう)に、上記で作成した前処理液をウェット膜厚2.0±0.2μmとなるように塗布したのち、塗布後のOPPフィルムを70℃のエアオーブンに投入して2分間乾燥させることで、前処理液を付与したOPPフィルム基材を作製した。
【0208】
<印刷物の作製例>
基材を搬送できるコンベヤの上部に京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1,200dpi、ノズル径20μm)を4個設置し、上記で製造した水性インクジェットインキセット1を、基材の搬送方向に対して上流側のインクジェットヘッドから、K1、C1、M1、Y1の順番になるように充填した。次いで、上記で作製した、前処理液を付与したOPPフィルム基材をコンベヤ上に固定したのち、当該コンベヤを一定速度で駆動させた。そして、OPPフィルム基材がインクジェットヘッドの設置部を通過する際に、水性インクジェットインキを、それぞれドロップボリューム2pLで吐出し、画像を印刷したのち、速やかに、前記印刷物を70℃エアオーブンに投入し3分間乾燥させることで、印刷物を作成した。
【0209】
なお印刷画像として、5cm×10cmの印字率100%べたパッチが、CMYKの順番で隣接した画像(以下、「べたパッチ画像」と呼ぶ)と、総印字率(各色の印字率の合計)を40~320%まで連続的に変化させた4色(CMYK)画像(以下、「グラデーション画像」と呼ぶ。なお、各総印字率における、各色の印字率は同一である)の2種類を準備し、それぞれ印刷物を作製した。
【0210】
[実施例1~90、比較例1~22]
上記で製造した前処理液1~112のそれぞれについて、水性インクジェットインキセット1と組み合わせて印刷物を作製した。この印刷物、または、前処理液を付与したOPPフィルム基材そのものを使用して、下記の評価を行った。また評価結果は、表7に示した通りであった。
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
<評価1:保存安定性の評価>
上記で製造した前処理液の50%径を、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPA-EX150を用いて測定したのち、当該前処理液を密閉容器に封入し、70℃に設定した恒温機内に静置保存した。そして、静置開始後1週間ごとに密閉容器を取り出し、評価開始時と同様の装置及び条件により、静置保存後の50%径を測定し、保存前後での50%径変化率を算出することで、前処理液の保存安定性の評価を行った。評価基準は下記の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。
◎:4週間保存後の50%径変化率が±10%未満であった
〇:3週間保存後の50%径変化率が±10%未満であったが、4週間保存後の50%径変化率が±10%以上であった
△:2週間保存後の50%径変化率が±10%未満であったが、3週間保存後の50%径変化率が±10%以上であった
×:2週間保存後の50%径変化率が±10%以上であった
【0215】
<評価2:混色滲み及び色ムラの評価>
上述した印刷物の作製方法に基づき、25m/分、50m/分、75m/分の3種類のコンベヤ駆動速度条件で、印刷物を作製した。得られた印刷物のうちのグラデーション画像印刷物を用い、そのうち総印字率が240%である部分のドット形状を、光学顕微鏡を用いて200倍で拡大観察することで、画像品質(混色滲み)の評価を行った。評価基準は下記の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。
◎:75m/分で印刷した印刷物で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られなかった
〇:75m/分で印刷した印刷物で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られたが、50m/分で印刷した印刷物では、混色滲みや色ムラが見られなかった
△:50m/分で印刷した印刷物で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られたが、25m/分で印刷した印刷物では、混色滲みや色ムラが見られなかった
×:25m/分で印刷した印刷物で、ドット同士の合一やドット形状の不均一さが見られた
【0216】
<評価3:べた埋まりの評価>
上述した印刷物の作製方法に基づき、25m/分、50m/分、または、75m/分のコンベヤ駆動速度条件で、印刷物を作製した。得られた印刷物のうち、べたパッチ画像印刷物の非印字面に白色台紙を貼り合わせたのち、目視にて白抜けの程度を観察することで、べた埋まりの評価を行った。評価基準は下記の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。
◎:75m/分で印刷した印刷物で、白抜けが見られなかった
〇:75m/分で印刷した印刷物で、白抜けが見られたが、50m/分で印刷した印刷物では、白抜けが見られなかった
△:50m/分で印刷した印刷物で、白抜けが見られたが、25m/分で印刷した印刷物では、白抜けが見られなかった
×:25m/分で印刷した印刷物で、白抜けが見られた
【0217】
<評価4:密着性の評価>
上述した印刷物の作製方法に基づき、50m/分のコンベア駆動速度条件で作成した、べたパッチ画像印刷物の印刷面に、ニチバン社製セロハンテープ(幅18mm)をしっかり貼り付けた。そして、セロハンテープの端を持ち、60度の角度を保ちながら引き剥がし、当該セロハンテープを剥がした後の印刷物の表面、及び、当該セロハンテープの粘着を目視で確認することで、密着性を評価した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。なお表7記載の評価結果は、評価を実施した4色のうち最も評価が悪かった色のものである。
◎:セロハンテープを貼り付けた部分の面積に対する剥離面積が、5%未満であった
〇:セロハンテープを貼り付けた部分の面積に対する剥離面積が、5%以上10%未満であった
△:セロハンテープを貼り付けた部分の面積に対する剥離面積が、10%以上20%未満であった
×:セロハンテープを貼り付けた部分の面積に対する剥離面積が、20%以上であった
【0218】
<評価5:耐ブロッキング性の評価>
上述した印刷物の作製方法に基づき、50m/分のコンベヤ駆動速度条件で作製したべたパッチ画像印刷物から、ブラックインキ1印刷部を4cm×4cm角に切り出した。その後、切り出したブラックインキ1印刷部の印字面と、印刷に使用したものと同じOPPフィルムの非印字面(フィルム裏面)とを重ね合わせたものを試験片として、定荷重式永久歪試験機(テスター産業性製)を用いてブロッキング試験を実施した。ブロッキング試験の環境条件は、荷重10kg/cm2、温度40℃、湿度80%RH、静置時間24時間とした。そして24時間経過後、90度の角度を保ちながら、重ねたOPPフィルムを瞬間的に引き剥がし、剥がした後の印刷面を目視で確認することで、耐ブロッキング性を評価した。評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。
◎:後から重ね合わせたOPPフィルムに対する印刷面の取られは全くなく、剥離抵抗もなかった
〇:後から重ね合わせたOPPフィルムに対する印刷面の取られは全くなかったが、剥離時にわずかな抵抗があった
△:後から重ね合わせたOPPフィルムに対する印刷面の取られが、重ね合わせた全面積中30%以下であった
×:後から重ね合わせたOPPフィルムに対する印刷面の取られが、重ね合わせた全面積中30%を超えていた
【0219】
<評価6:ラミネート強度(接着力)の評価>
上述した印刷物の作製方法に基づき、50m/分のコンベヤ駆動速度条件で作製したべたパッチ画像印刷物の印刷面に、無溶剤テストコーターを用いて無溶剤型ラミネート接着剤(東洋モートン社製「EA-N373A/B」)を、温度60℃、塗工速度50m/分の条件にて塗布した(塗布量:2g/m2)。その後、ラミネート接着剤の塗工面に、CPP(フタムラ化学社製無延伸ポリプロピレンフィルム「FHK2」(厚さ25μm))のコロナ処理面を重ね合わせたのち、40℃、80%RHの環境下で1日間エージングすることで、上記無溶剤型ラミネート接着剤組成物を硬化させ、ラミネート加工物を作製した。そして、得られたラミネート加工物のうちのブラックインキ1印刷部を、長さ100mm、幅15mmに切り取って試験片とし、インストロン型引張試験機にセットしたのち、25℃環境下、300mm/分の剥離速度で引っ張り、T型剥離強度(N)を測定した。この試験を5回行い、その平均値を接着力(ラミネート強度)として算出することで、ラミネート強度の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、〇、△を実使用可能とした。
◎:ラミネート強度が1.5N以上であった
〇:ラミネート強度が1.0N以上1.5N未満であった
△:ラミネート強度が0.5N以上1.0N未満であった
×:ラミネート強度が0.5N未満であった
【0220】
実施例1~90では、ポリオキシエチレン構造を有し、特定の範囲の酸価を有する水溶性樹脂(B-1)、カルシウムイオン、カルボン酸イオンを含み、更に、樹脂粒子(A)の量、水溶性樹脂(B-1)の量、及び、カルシウムイオンのミリモル量に関する上述した比率が、全て特定の範囲に収まっており、全ての評価で良好な結果が得られた。
【要約】
【課題】フィルム基材等の非浸透性基材に対して、密着性、耐ブロッキング性、ラミネート適性に優れ、混色滲みや色ムラがなく、べた埋まりも良好である印刷物を得ることができ、更には、長期の保存安定性にも優れた前処理液を提供する。また、当該前処理液と水性インクジェットインキとを含むインキセット、並びに、当該インキセットを用いて製造された印刷物についても、併せて提供する。
【解決手段】樹脂粒子(A)と、水溶性樹脂(B)と、カルシウムイオンと、カルボン酸イオンと、水とを含み、前記水溶性樹脂(B)が、ポリオキシエチレン構造を有し、かつ、酸価が1~30mgKOH/gである水溶性樹脂(B-1)を含み、前記前処理液100g中に含まれる前記樹脂粒子(A)の量、前記水溶性樹脂(B)の量、前記カルシウムイオンのミリモル量に関する比率を規定した、前処理液。
【選択図】なし