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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20220517BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220517BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20220517BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20220517BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/6555
F16L59/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021214812
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 将平
(72)【発明者】
【氏名】神保 直幸
【審査官】原 嘉彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204636(JP,A)
【文献】特開2017-166759(JP,A)
【文献】特開2017-94568(JP,A)
【文献】特開2020-186164(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196806(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/181932(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112038513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 59/00-59/22
H01M 10/52-10/667
50/20-50/298
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が800℃以下である第1の無機繊維及びガラス転移点が800℃以下である第1の無機粒子のうち少なくとも一方と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きい、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記第1の無機繊維の平均繊維長が、前記第2の無機繊維の平均繊維長よりも大きい、請求項1又は2に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記第1の無機繊維の捲縮度が、前記第2の無機繊維の捲縮度よりも小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記第1の無機繊維が線状又は針状であり、前記第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記第1の無機繊維は、非晶質の繊維であり、
前記第2の無機繊維は、非晶質の繊維及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記第1の無機繊維が、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、リフラクトリーセラミック繊維、バサルトファイバ及びソルブルファイバから選択される少なくとも1種からなる繊維である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記第1の無機粒子が、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子から選択される少なくとも1種からなる粒子である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記第2の無機繊維が、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物系繊維及びジルコニア繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記第2の無機粒子が、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子及びチタン酸バリウム粒子から選択される少なくとも1種からなる粒子である、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
前記第1の無機繊維及び前記第1の無機粒子のうち少なくとも一方の含有量が、前記有機バインダの含有量以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
複数の電池セルを直列又は並列に接続した組電池において、
請求項1~11のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを用いた、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車又はハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池、並びに組電池に用いられる熱伝達抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「電池セルの異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制するための技術として、電池セル間に熱伝達抑制シートを介在させることが行われている。例えば、特許文献1では、鉱物系粉体及び難燃剤の少なくとも一方と、熱硬化性樹脂や熱可塑性エラストマー、ゴムから選択される有機バインダとしてのマトリックス樹脂とを含む熱伝達抑制シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-206605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、熱伝達抑制シートにおいては、熱伝達抑制効果を有する粉体を良好に保持すること(すなわち、粉落ちを抑制すること)が要求されている。また、電池セルが熱暴走を起こすと、セル温度は急激に上昇して1000℃近くに達することもある。特許文献1に記載の熱伝達抑制シートでは、鉱物系粉体及びや難燃剤を保持するためにマトリックス樹脂を使用しているが、熱暴走時に高温になった際にマトリックス樹脂が溶融、消失してシート全体としての保形性や強度、圧縮特性などが大きく低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱伝達抑制シートに要求されている保形性や強度、圧縮特性などを更に向上させるとともに、電池セルが熱暴走を起こしたとしても、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などの低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] ガラス転移点が800℃以下である第1の無機繊維及びガラス転移点が800℃以下である第1の無機粒子のうち少なくとも一方と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制シート。
【0010】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[11]に関する。
【0011】
[2] 前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きい、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0012】
[3] 前記第1の無機繊維の平均繊維長が、前記第2の無機繊維の平均繊維長よりも大きい、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
[4] 前記第1の無機繊維の捲縮度が、前記第2の無機繊維の捲縮度よりも小さい、[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
[5] 前記第1の無機繊維が線状又は針状であり、前記第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0015】
[6] 前記第1の無機繊維は、非晶質の繊維であり、
前記第2の無機繊維は、非晶質の繊維及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0016】
[7] 前記第1の無機繊維が、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、リフラクトリーセラミック繊維、バサルトファイバ及びソルブルファイバから選択される少なくとも1種からなる繊維である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0017】
[8] 前記第1の無機粒子が、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子から選択される少なくとも1種からなる粒子である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0018】
[9] 前記第2の無機繊維が、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物系繊維及びジルコニア繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0019】
[10] 前記第2の無機粒子が、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子及びチタン酸バリウム粒子から選択される少なくとも1種からなる粒子である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0020】
[11] 前記第1の無機繊維及び前記第1の無機粒子のうち少なくとも一方の含有量が、前記有機バインダの含有量以上である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0021】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[12]の構成により達成される。
【0022】
[12] 複数の電池セルを直列又は並列に接続した組電池において、
[1]~[11]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを用いた、組電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱伝達抑制シートは、第1の無機繊維及び第2の無機繊維が絡み合ってネットワークを形成し、更に有機バインダにより結着されているため、第1の無機粒子及び第2の無機粒子をはじめ他の配合材料を良好に保持することができる。そのため、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などに優れたものとなる。
【0024】
また、電池セルが熱暴走を起こして有機バインダが消失したとしても、ガラス転移点が比較的低い第1の無機繊維や第1の無機粒子がガラス化(軟化)し、消失した有機バインダに代替して結着剤として機能する。それとともに、ガラス転移点が比較的高い第2の無機繊維や第2の無機粒子が熱伝達抑制シート内に残存する。そのため、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などが維持される。
【0025】
本発明の組電池においては、上記の熱伝達抑制シートが用いられている。したがって、本発明の組電池は電池セルの熱暴走の被害を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートにおける、製造直後(通常使用時)における断面を撮影したSEM写真である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートにおける、800℃に加熱した時の断面を撮影したSEM写真である。
図3図3は、本実施形態に係る熱伝達抑制シートにおける、1000℃に加熱した時の断面を撮影したSEM写真である。
図4図4は、本実施形態に係る組電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート及び組電池に関して、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0028】
[1.熱伝達抑制シート]
本発明の熱伝達抑制シートは、
(1)ガラス転移点が800℃以下である第1の無機繊維及びガラス転移点が800℃以下である第1の無機粒子のうち少なくとも一方と、
(2)ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維と、
(3)ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機粒子と、
(4)有機バインダと、
を含む。
【0029】
正常時、すなわち電池セルの通常使用時には、熱伝達抑制シート内で第1の無機繊維と第2の無機繊維とが複雑に絡み合い、それらの間に第1の無機粒子及び第2の無機粒子が良好に保持され、有機バインダで結着されている(通常使用時(製造直後)の熱伝達抑制シートを示す図1を参照)。そのため、熱伝達抑制シートは、保形性や強度、圧縮特性などに優れたものとなる。
【0030】
しかし、電池セルが熱暴走を起こすと(電池セルの異常時)、熱伝達抑制シートは高温度に加熱され、まず、融点の低い有機バインダが消失し(800℃加熱後の熱伝達抑制シートを示す図2を参照)、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などが大きく低下するおそれがある。そして、更に温度が高まり、ガラス転移点が比較的低い第1の無機繊維や第1の無機粒子のガラス転移点を超えると、第1の無機繊維や第1の無機粒子がガラス化(軟化)して膜状となり、消失した有機バインダに代替して結着剤として機能して、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などに寄与する。
【0031】
その後、温度が高まっても、ガラス転移点が比較的高い第2の無機繊維及び第2の無機粒子は、熱伝達抑制シート中に残存し(1000℃加熱後の熱伝達抑制シートを示す図3を参照)、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などを維持する。それとともに、第2の無機繊維間、第2の無機粒子間、並びに第2の無機繊維と第2の無機粒子との間の微小な空間が維持され、これら空間において、空気による断熱効果が発揮されて、優れた熱伝達抑制性能を呈する。
【0032】
以下、第1の無機繊維、第1の無機粒子、第2の無機繊維、第2の無機粒子及び有機バインダについて更に詳説する。
【0033】
(第1の無機繊維の種類)
ガラス転移点が800℃以下であれば特に制限はないが、非晶質の繊維であることが好ましい。ガラス転移点が比較的低い第1の無機繊維、更には第1の無機粒子は、ガラス転移点よりも高温に晒されると、その表面が軟化して、第2の無機粒子や第2の無機繊維を結着するため、熱伝達抑制シートの機械的強度を向上させることができる。
【0034】
具体的には、第1の無機繊維として、ガラス繊維(Tg:500-550℃)、グラスウール、スラグウール、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、リフラクトリーセラミック繊維、バサルトファイバ、ソルブルファイバを好適に用いることができる。中でも、SiOを含む繊維であることが好ましく、安価で、入手も容易で、取扱い性等に優れることから、ガラス繊維であることがより好ましい。また、これらの繊維はそれぞれ単独でも、複数種を組みわせてもよい。
【0035】
(第1の無機粒子の種類)
ガラス転移点が800℃以下であれば特に制限はないが、シリカ粒子(Tg:500-550℃)、酸化亜鉛粒子、カルシア粒子、マグネシア粒子を好適に用いることができる。
【0036】
これらの粒子はそれぞれ単独でも、複数種を組みわせてもよい。また、大径粒子と小径粒子とを混合使用することも好ましい。大径の無機粒子同士の隙間に、小径の無機粒子が入り込むと、より緻密な構造となり、熱伝達抑制シートの強度をより向上させることができる。
【0037】
(第2の無機繊維の種類)
ガラス転移点が1000℃以上であれば特に制限はなく、非晶質の繊維及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維である。ガラス転移点が比較的高い第2の無機繊維は、電池セルの熱暴走時において、第1の無機繊維が軟化、溶融しても、シート内に残存してシート形状を維持し、電池セル間に存在し続けることができる。また、第2の無機繊維が残存するため、第2の無機粒子との間の微小な空間、更には第1の無機繊維や第1の無機繊の中で残存しているものがあると、これらとの間の微小な空間が維持され、空気による断熱効果が発揮され、優れた熱伝達抑制性能を示すことができる。
【0038】
具体的には、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物系繊維、ジルコニア繊維を好適に用いることができる。また、これらの繊維はそれぞれ単独でも、複数種を組みわせてもよい。
【0039】
(第2の無機粒子の種類)
ガラス転移点が1000℃以上であれば特に制限はないが、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子、チタン酸バリウム粒子を好適に用いることができる。中でも、チタニア粒子が好ましい。チタニアは屈折率が高く、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ放射熱を遮る効果が高いため、熱伝達抑制シートの耐熱性を高める上で好ましい。
【0040】
また、これらの粒子はそれぞれ単独でも、複数種を組みわせてもよい。なお、複数種を組みわせる場合は、第1の無機粒子と同様に、大径粒子と小径粒子とを混合使用することも好ましく、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込んでより緻密な構造となり強度が高まる。
【0041】
なお、第2の無機繊維及び第2の無機粒子は、より高温での対応性のために、ガラス転移点がより高いものほど好ましい。
【0042】
続いて、第1の無機繊維と第2の無機繊維は、下記に示す形状が好ましい。
【0043】
(第1の無機繊維と第2の無機繊維の形状)
本発明において、平均繊維径が太い(太径の)無機繊維は、熱伝達抑制シートの機械的強度や保形性を向上させる効果を有する。第1の無機繊維及び第2の無機繊維のいずれか一方を太径にすることにより、上記効果を得ることができる。熱伝達抑制シートには、外部からの衝撃が作用することがあるため、太径の無機繊維が含まれることにより、耐衝撃性が高まる。外部からの衝撃としては、例えば電池セルの膨張による押圧力や、電池セルの発火による風圧などである。
【0044】
また、機械的強度や保形性を更に向上させるためには、太径の無機繊維は、線状又は針状であることが特に好ましい。なお、線状又は針状の繊維とは、後述の捲縮度が例えば10%未満、好ましくは5%以下である繊維をいう。
【0045】
より具体的には、太径の無機繊維の平均繊維径は1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。ただし、太径の無機繊維が太すぎると、熱伝達抑制シートへの成形性、加工性が低下するおそれがあるため、平均繊維径は20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0046】
また、太径の無機繊維は長すぎても成形性や加工性が低下するおそれがあるため、繊維長を100mm以下とすることが好ましい。さらに、太径の無機繊維は短すぎても保形性や機械的強度が低下するため、繊維長を0.1mm以上とすることが好ましい。
【0047】
一方、平均繊維径が細い(細径の)無機繊維は、無機粒子の保持性を向上させるとともに、断熱材の柔軟性を高める効果を有する。したがって、第1の無機繊維及び第2の無機繊維のうち、他方を細径にすることにより、上記効果を得ることができる。
【0048】
より具体的には、無機粒子の保持性を向上させるためには、細径の無機繊維は変形が容易で、柔軟性を有することが好ましい。したがって、細径の無機繊維は、平均繊維径が1μm未満であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。ただし、細径の無機繊維が細すぎると破断しやすく、無機粒子の保持能力が低下する。また、無機粒子を保持せずに繊維が絡み合ったままで断熱材中に存在する割合が多くなり、無機粒子の保持能力の低下に加えて、成形性や保形性にも劣るようになる。そのため、細径の無機繊維の平均繊維径は1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0049】
また、細径の無機繊維は、長くなりすぎると成形性や保形性が低下するため、繊維長は0.1mm以下であることが好ましい。
【0050】
さらに、細径の無機繊維は、樹枝状又は縮れ状であることが好ましい。細径の無機繊維がこのような形状であると、熱伝達抑制シートにおいて、太径の無機繊維や無機粒子と絡み合う。そのため、無機粒子の保持能力が向上する。また、熱伝達抑制シートが押圧力や風圧を受けた際に、細径の無機繊維が滑って移動することが抑制され、このことにより、特に外部からの押圧力や衝撃に抗する機械的強度が向上する。
【0051】
なお、樹枝状とは、2次元的または3次元的に枝分かれした構造であり、例えば羽毛状、テトラポット形状、放射線状、立体網目状である。細径の無機繊維が樹枝状である場合に、その平均繊維径は、SEMによって幹部及び枝部の径を数点測定し、これらの平均値を算出することにより得ることができる。
【0052】
また、縮れ状とは、繊維が様々な方向に屈曲した構造である。縮れ形態を定量化する方法の一つとして、電子顕微鏡写真からその捲縮度を算出することが知られており、例えば下記式から算出することができる。
捲縮度(%)=(繊維長さ-繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100
【0053】
ここで、繊維長さ、繊維末端間距離ともに電子顕微鏡写真上での測定値である。すなわち、2次元平面上へ投影された繊維長、繊維末端間距離であり、現実の値よりも短くなっている。この式に基づき、細径の無機繊維の捲縮度は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。捲縮度が小さいと、第1の無機粒子や第2の無機粒子の保持能力や、太径の無機繊維同士、太径の無機繊維との絡み合い(ネットワーク)が形成されにくくなる。
【0054】
上述のとおり、第1の無機繊維及び第2の無機繊維のいずれか一方の平均繊維径が、他方の平均繊維径よりも大きいことが好ましいが、本発明においては、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きいことがより好ましい。第1の無機繊維の平均繊維径が太径であると、第1の無機繊維が早く軟化するため、温度の上昇に伴って膜状となって硬くなる。一方、第2の無機繊維の平均繊維径が細径であると、温度が上昇しても細径の第2の無機繊維が繊維の形状で残存するため、熱伝達抑制シートの構造を保持し、粉落ちを防止することができる。
【0055】
なお、第1の無機繊維として、太径であって線状又は針状の無機繊維と、細径であって樹枝状又は縮れ状の無機繊維との両方が使用されており、第2の無機繊維として、太径であって線状又は針状の無機繊維と、細径であって樹枝状又は縮れ状の無機繊維との両方が使用されていると、第1の無機粒子及び第2の無機粒子の保持効果、機械的強度及び保形性をより一層高めることができるため、最も好ましい。
【0056】
また、第1の無機繊維の平均繊維長が第2の無機繊維よりも大きいことにより、配向長さが伸びるため放熱性がより高まる。更には、第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状であるため第1の無機繊維との交絡が容易であり、伝熱パスや形状保持に効果的となる。
【0057】
また、第1の無機粒子及び第2の無機粒子は、下記の形状であることが好ましい。
【0058】
(第1の無機粒子及び第2の無機粒子の形状)
第1の無機粒子及び第2の無機粒子とも、その形状及び大きさについて特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、第1の無機粒子及び第2の無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0059】
また、ナノ粒子を含むことがより好ましい。ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、ナノ粒子を使用すると、更に空隙が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる。
【0060】
また、ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、熱伝達抑制シートの断熱性を維持することができる。なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0061】
ナノ粒子として、例えばナノシリカ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、ナノシリカ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるナノシリカ粒子は、かさ密度が0.1g/cm程度であるため、例えば、熱伝達抑制シートの両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シートに対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、ナノシリカ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、第1の無機粒子であるシリカ粒子としてナノシリカ粒子を使用することが好ましい。ナノシリカ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等を使用することができる。
【0062】
(有機バインダ)
有機バインダとして、熱伝達抑制シートに従来から用いられている高分子凝集材やアクリルエマルジョンなどを、適宜用いることができる。
【0063】
(熱伝達抑制シートにおける第1の無機繊維、第1の無機粒子、第2の無機繊維及び第2の無機粒子の含有量)
それぞれ熱伝達抑制シートの全質量に対して、第1の無機粒子の含有量は25質量%以上80質量%以下であることが好ましく、第2の無機粒子の含有量は1質量%以上30質量%以下であることが好ましいが、上記したように、第1の無機繊維及び第1の無機粒子は有機バインダが消失した際に代替するため、有機バインダの含有量以上であることが好ましい。なお、有機バインダの含有量は、結着性能を考慮すると、5質量%以上25質量%未満であることが好ましい。
【0064】
また、第1の無機繊維の含有量は3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。第2の無機繊維の含有量は3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。第1の無機繊維及び第2の無機繊維は絡み合って3次元ネットワークを形成して第1の無機粒子及び第2の無機粒子、後述される他の配合材料を保持するため、上記の含有量未満ではこのような効果が充分に得られない。
【0065】
(その他の配合材料)
本発明の熱伝達抑制シートには、第1の無機粒子及び第2の無機粒子とは異なる他の無機粒子、第1の無機繊維及び第2の無機繊維とは異なる他の無機繊維、有機繊維など、従来から熱伝達抑制シートに配合されている材料を、必要に応じて配合してもよい。
【0066】
第1の無機繊維及び第2の無機繊維とは異なる無機繊維としては、エアロゲル複合材等を使用することができる。
【0067】
有機繊維としては、セルロースファイバ等を使用することができる。
【0068】
なお、これらの繊維については、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
他の無機粒子としては、マイカ、マイクロポーラス粒子、熱膨張性無機材料、エアロゲル及び無機水和物粒子を使用することができる。なお、熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。また、有機粒子としては、中空ポリスチレン粒子等を使用することができる。
【0070】
中でも、無機水和物粒子が好ましい。無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、いわゆる「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
【0071】
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0072】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0073】
なお、後述するように本発明の組電池では、好ましくは電池セル間に介在された熱伝達抑制シート10を有するが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子は熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
【0074】
なお、上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0075】
また、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、熱伝達抑制シートの中心付近にある無機水和物粒子が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、熱伝達抑制シートの中心付近の無機水和物粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0076】
また、その他の配合材料は、熱伝達抑制シート全量量に対して合計量で、10質量%以下とすることが好ましい。
【0077】
(熱伝達抑制シートの厚さ)
本実施形態において、熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05~6mmの範囲にあることが好ましい。熱伝達抑制シートの厚さが0.05mm以上であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制シートに付与することができる。一方、熱伝達抑制シートの厚さが6mm以下であると、良好な組付け性を得ることができる。
【0078】
(熱伝達抑制シートの断熱性能)
断熱性能を表す指標として、熱伝導率を挙げることができるが、本実施形態においては、熱伝導率は1(W/m・K)未満であることが好ましく、0.5(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.2(W/m・K)未満であることがより好ましい。さらに、熱伝導率は0.1(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.05(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.02(W/m・K)未満であることが特に好ましい。なお、熱伝導率は、JIS R 2251に記載の「耐火物の熱伝導率の試験方法」に準拠して、測定することができる。
【0079】
[2.熱伝達抑制シートの製造方法]
熱伝達抑制シートは、第1の無機繊維及び第1の無機粒子のうち少なくとも一方、第2の無機繊維、第2の無機粒子及び有機バインダ(以下、「必須主要構成成分」という。)を少なくとも含む材料を、乾式成形法又は湿式成形法により型成形して製造される。乾式成形法については、例えばプレス成形法(乾式プレス成形法)及び押出成形法(乾式押出成形法)を使用することができる。
【0080】
<2-1.乾式プレス成形法を用いた製造方法>
乾式プレス成形法では、必須主要構成成分及び他の配合材料を所定の割合でV型混合機等の混合機に投入する。そして、混合機に投入された材料を充分に混合した後、この混合物を所定の型内に投入し、プレス成形することにより、熱伝達抑制シートを得ることができる。プレス成形時に、必要に応じて加熱してもよい。
【0081】
なお、プレス成形時のプレス圧は、0.98MPa以上9.80MPa以下の範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる熱伝達抑制シートにおいて、強度を保つことができずに崩れてしまうおそれがある。一方、プレス圧が9.80MPaを超えると、過度の圧縮によって加工性が低下したり、かさ密度が高くなるため固体伝熱が増加し、断熱性が低下するおそれがある。
【0082】
また、乾式プレス成形法を用いる場合には、有機バインダとして、ポリビニルアルコール(PVA:PolyVinyl Alcohol)を使用することが好ましいが、乾式プレス成形法を用いる場合に一般的に使用される有機バインダであれば、特に限定されずに使用することができる。
【0083】
<2-2.乾式押出成形法を用いた製造方法>
乾式押出成形法では、必須主要構成成分及び他の配合材料を所定の割合で水に加え、混練機で混練することにより、ペーストを調製する。その後、得られたペーストを、押出成形機を用いてスリット状のノズルから押出し、更に乾燥させることにより、熱伝達抑制シートを得ることができる。乾式押出成形法を用いる場合には、有機バインダとしてメチルセルロース及び水溶性セルロースエーテル等を使用することが好ましいが、乾式押出成形法を用いる場合に一般的に使用される有機バインダであれば、特に限定されずに使用することができる。
【0084】
<2-3.湿式成形法を用いた製造方法>
湿式成形法では、必須主要構成成分及び他の配合材料を所定の割合で水に加え、水中で混合し、撹拌機で撹拌することにより、混合液を調製する。その後、濾過用のメッシュを介して、得られた混合液を脱水することにより、湿潤シートを作製する。その後、得られた湿潤シートを加熱するとともに加圧することにより、熱伝達抑制シートを得ることができる。
【0085】
なお、加熱及び加圧工程の前に、湿潤シートに熱風を通気させて、シートを乾燥する通気乾燥処理を実施してもよいが、この通気乾燥処理を実施せず、湿潤した状態で加熱及び加圧してもよい。また、湿式成形法を用いる場合には、有機バインダとして、カチオン化デンプンやアクリル樹脂を選択することができる。
【0086】
[3.組電池]
図4に示すように、本実施形態に係る組電池100は、複数個の電池セル20a、20b、20cが並設され、直列又は並列に接続されて電池ケース30に格納されたものであり、電池セル20a、20b、20c間に、上記の熱伝達抑制シート10が介在されている。なお、図4では、電池セル20a、20b、20c間に、上記の熱伝達抑制シート10が介在されているが、熱伝達抑制シート10は必ずしも電池セル20a、20b、20c間に介在される必要はなく、例えば、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30の間に配置されたり、電池ケース30の内面に貼り付けられるものであってもよい。
【0087】
このような組電池100では、各電池セル20a、20b、20cの間に、熱伝達抑制シート10が介在されているため、通常使用時において、各電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播を抑制することができる。
【0088】
一方、電池セル20a、20b、20cのいずれかが熱暴走を起こした場合でも、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10が存在することにより、電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播を抑制することができる。したがって、熱暴走の連鎖を阻止することができ、他の電池セルへの悪影響を最小限に抑えることができる。
【0089】
また、図示は省略するが、熱伝達抑制シート10は、電池セル20a、20b、20cの間に介在する他、電池ケース30の内底面に直接付設したり、電池ケース30の天井面や側壁と電池セル20a、20b、20cとの間の空間に配設してもよい。したがって、高い汎用性が得られるとともに、隣接する電池セル間で熱が伝播することによる熱暴走の連鎖を防止する効果を有するのみでなく、ある電池セルが発火した場合に、電池ケースの外側に炎が広がることを抑制することもできる。
【0090】
さらに、熱伝達抑制シートの構成成分や厚さの選択によっては、容易に屈曲可能なものとなる。したがって、電池セルの形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【0091】
例えば、本実施形態に係る組電池は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。この場合に、各電池セル間に介在させる熱伝達抑制シートを、電池セルと電池ケースとの間にも配置することができるため、新たに防炎材等を作製する必要がなく、容易に低コストで安全な組電池を構成することができる。
【実施例
【0092】
第1の無機繊維として「ガラス繊維」、第1の無機粒子として「ナノシリカ粒子」、第2の無機繊維として「アルミナ繊維」、第2の無機粒子として「チタニア粒子」、有機バインダとして「アクリル樹脂」を用いた。なお、配合比(質量%)は、ガラス繊維:ナノシリカ粒子:アルミナ繊維:チタニア粒子:アクリル樹脂=10:55:10:15:10とした。
【0093】
そして、これらを水に加え、水中で混合し、撹拌機で撹拌することにより、混合液を調製した。その後、濾過用のメッシュを介して、得られた混合液を脱水することにより、湿潤シートを作製した。その後、得られた湿潤シートを加熱するとともに加圧することにより、熱伝達抑制シートを得た。
【0094】
製造直後(通常使用時)の熱伝達抑制シートの断面をSEMにて撮影した。図1に示すように、第1の無機繊維(ガラス繊維)1と第2の無機繊維(アルミナ繊維)3とが絡み合って3次元ネットワークを形成し、第1の無機粒子(ナノシリカ粒子)2と第2の無機粒子(チタニア粒子)4とが保持されていることがわかる。また、これらの隙間には、図中では黒く見えているが、有機バインダ(アクリル樹脂)5が入り込んで結着していることがわかる。
【0095】
続いて、電池セルの熱暴走時を想定して、熱伝達抑制シートを800℃の高温に晒し、その断面をSEMにて撮影した。図2に示すように、有機バインダ(アクリル樹脂)5が消失して、第1の無機繊維(ガラス繊維)1、第2の無機繊維(アルミナ繊維)3、第1の無機粒子(ナノシリカ粒子)2及び第2の無機粒子(チタニア粒子)4が残存していることがわかる。
【0096】
更に昇温し、1000℃における熱伝達抑制シートの断面のSEM写真を図3に示すが、この温度においても第2の無機繊維(アルミナ繊維)3及び第2の無機粒子(チタニア粒子)4が残存していることがわかる。
ただし、熱伝達抑制シートは、第1の無機繊維(ガラス繊維)1及び第1の無機粒子(ナノシリカ粒子)2のガラス転移点(Tg:500-550℃)よりもはるかに高い1000℃の高温に晒されていることから、図3のA部やB部で示されるように、第1の無機繊維(ガラス繊維)1及び第1の無機粒子(ナノシリカ粒子)2は、軟化して変形していることがわかる。そして、これらは第2の無機繊維(アルミナ繊維)3及び第2の無機粒子(チタニア粒子)4の隙間を埋めるように広がることで、結着剤として機能していると考えられる。
【符号の説明】
【0097】
1 第1の無機繊維(ガラス繊維)
2 第1の無機粒子(ナノシリカ粒子)
3 第2の無機繊維(アルミナ繊維)
4 第2の無機粒子(チタニア粒子)
5 有機バインダ(アクリル樹脂)
10 熱伝達抑制シート
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
【要約】
【課題】熱伝達抑制シートに要求されている保形性や強度、圧縮特性などを更に向上させるとともに、電池セルが熱暴走を起こしたとしても、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などの低下を防ぐ。
【解決手段】熱伝達抑制シートは、ガラス転移点が800℃以下である第1の無機繊維1及びガラス転移点が800℃以下である第1の無機粒子2のうち少なくとも一方と、ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維3と、ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機粒子4と、有機バインダ5とを含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4