(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】品質が向上した果実の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20220517BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2021518329
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016406
(87)【国際公開番号】W WO2020226032
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2019088131
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518189998
【氏名又は名称】株式会社アクアソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】奥山 祐一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴志
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-97509(JP,A)
【文献】特開2016-53004(JP,A)
【文献】特開2018-69193(JP,A)
【文献】特開2019-103958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水、水道水、井水、地表水、農業用水又は蒸留水を原水としてナノバブル水を生成し、
前記ナノバブル水は、1×10
8
~1×10
10
個/mlの気泡を有し、
土壌に植えられた果樹類に属する植物体に
前記ナノバブル水を施用する、品質が向上した果実の製造方法。
【請求項2】
前記ナノバブル水を用いた散水、前記ナノバブル水が加えられた養分供給材料の供給、及び、前記ナノバブル水で希釈した農薬の散布のうち、少なくとも一つを実施する、請求項1に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項3】
前記ナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10~500nmである、請求項1又は2に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項4】
前記ナノバブル水に含まれる気泡が、酸素、窒素、二酸化炭素及びオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項5】
前記ナノバブル水に含まれる気泡のゼータ電位が-50mV~-30mVである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項6】
前記植物体に前記ナノバブル水を複数回施用する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項7】
前記植物体がバラ科植物、ブドウ科植物、カキノキ科植物、又はミカン科植物である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項8】
前記植物体は、リンゴ、ナシ、西洋ナシ、サクランボ、ブドウ、カキ、モモ又はミカンである、請求項1~
7のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項9】
果実の品質として前記果実の糖度を向上させる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【請求項10】
果実の品質が多段階に等級分けされている場合において、
前記植物体に前記ナノバブル水を施用して、前記品質の等級のうち上位の等級に該当する前記果実の比率を増やす、請求項1~
9のいずれか一項に記載の品質が向上した果実の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質が向上した果実の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の品質を向上させることは、農作物の生産者及び販売業者にとって重要である。特に、果樹類については、品質が等級分けされる等、収穫物である果実の品質への関心が強く、生産者は、より上位の等級に属する果実をより多く収穫できるように努めている。そして、これまでに果実の品質を向上させるための種々の方法が開発されてきている。従来の果実品質向上方法の例としては、特許文献1及び2に記載の方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の品質向上方法は、コーン・スティープ・リカーを含有し、窒素、リン酸、及びカリウムが一定割合からなる組成物を果樹類に葉面散布することで果実の着色促進、又は糖度増進する方法である。
【0004】
特許文献2に記載の品質向上方法は、植物体の葉緑体が特異的に吸収する青色光又は赤色光を単独又は併用して植物体に照射することにより、葉緑体中での光合成反応を活発にして植物の品質を向上させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-43370号公報
【文献】特開2000-316381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、コーン・スティープ・リカーの有効適用範囲が限られているため、対象植物が限定的となる。また、特許文献1に記載の方法を用いる場合には、施用目的(例えば、目的とする効果)等に応じて、コーン・スティープ・リカーを含有する組成物における成分比率を調整する必要があり、適切な比率を見出すには相当の時間と労力を要する。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法は、照射光の調整を要するため、屋内栽培又はハウス栽培での利用には適しているものの、大規模な圃場での利用には不向きである。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、以下に示す目的を解決することを課題とする。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、場所等の制約を受け難く、より容易に利用することが可能な、品質が向上した果実の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、果樹類に属する植物体にナノバブル水を施用することにより、品質が向上した果実を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者は、以下の構成により、上記の目的を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 果樹類に属する植物体にナノバブル水を施用する、品質が向上した果実の製造方法。
[2] ナノバブル水を用いた散水、ナノバブル水が加えられた養分供給材料の供給、及び、ナノバブル水で希釈した農薬の散布のうち、少なくとも一つを実施する、[1]に記載の品質が向上した果実の製造方法。
[3] ナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10~500nmである、[1]又は[2]に記載の品質が向上した果実の製造方法。
[4] ナノバブル水に含まれる気泡が、酸素、窒素、二酸化炭素及びオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[5] ナノバブル水が、1×108~1×1010個/mlの気泡を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[6] ナノバブル水に含まれる気泡のゼータ電位が-50mV~-30mVである、[1]~[5]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[7] 植物体にナノバブル水を複数回施用する、[1]~[6]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[8] 植物体がバラ科植物、ブドウ科植物、カキノキ科植物、又はミカン科植物である、[1]~[7]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[9] 植物体は、リンゴ、ナシ、西洋ナシ、サクランボ、ブドウ、カキ、モモ又はミカンである、[1]~[8]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[10] 品質として果実の糖度を向上させる、[1]~[9]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
[11] 品質が多段階に等級分けされている場合において、植物体にナノバブル水を施用して、品質の等級のうち上位の等級に該当する果実の比率を増やす、[1]~[10]のいずれかに記載の品質が向上した果実の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の品質が向上した果実の製造方法は、屋内外及び栽培地の広さ等に拘わらず利用することが可能であり、また、水及び所定の気体から生成されるナノバブル水を植物体に対して施用すればよいため、品質向上用の組成物について各種成分の配合を調整する等の手間を要しない。つまり、本発明により、場所等の制約を受け難く、より容易に利用することが可能な、品質が向上した果実の製造方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ナノバブル生成装置の一例を示す模式図である。
【
図2】試験1の試験区Iで栽培されたナシの画像である。
【
図3】試験1の試験区IIで栽培されたナシの画像である。
【
図4】等級が秀であるナシ(右側)、及び等級が優であるナシ(左側)のそれぞれの画像である。
【
図5】試験2の試験区A1で栽培されたサクランボ(右側)と、試験区A2で栽培されたサクランボ(左側)を示す図である。
【
図6】試験4の試験区C2で栽培されたモモを示す図であり、ももせん孔病に罹患したモモの葉を表している。
【
図7】試験5の試験区D2で栽培された西洋ナシのうち、害虫被害を受けたものを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本願明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の品質が向上した果実の製造方法は、果樹類に属する植物体にナノバブル水を施用する、品質が向上した果実の製造方法である。
ここで、「品質が向上した果実の製造方法」とは、通常の果実の製造方法(すなわち、ナノバブル水を植物体に施用しない方法)にて得られる果実よりも品質が向上した果実の製造方法であり、例えば、糖度をはじめとする果実の品質評価に用いられる指標を通常の製造方法よりも高くする方法、または、品質を等級分けしたときに上位の等級に該当する個体の割合を増やす方法である。
また、「ナノバブル水」とは、直径が1μm未満の気泡を含む水であって、より正確には、ナノバブルを混入させた水である。「ナノバブルを混入させた水」に関して付言すると、ナノバブル水の生成に使用する水(ナノバブル水の原水であり、例えば、不純物を含む井水)であって、その性質等に起因して不可避的にナノバブルを含んでいる水は、上記の「ナノバブルを混入させた水」から除外される。
【0015】
なお、ナノバブル水に含まれる気泡の直径(粒子径)、並びに、後述する気泡の最頻粒子径および気泡の個数は、水中の気泡のブラウン運動移動速度をナノ粒子トラッキング解析法によって測定した値であり、本明細書では、ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)により測定した数値を採用する。ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)では、直径(粒子径)は、粒子のブラウン運動の速度を計測し、その速度から算出することができ、最頻粒子径は、存在するナノ粒子の粒子径分布から、モード径として確認することができる。
【0016】
本発明によれば、果樹類に属する植物体にナノバブル水を施用することにより、栽培地等を問わず、比較的簡単な操作により、果実の品質を向上させることが可能である。
これは、詳細には明らかではないが、本発明者が推察するに、ナノバブル水の施用により、植物体の病虫害に対する耐性が向上する等し、その結果、最終的に養分が蓄積される果実の品質が向上すると考えられる。このように本発明では、果実の品質を向上させるにあたり、ナノバブル水を施用しさえすればよく、特殊な肥料を調達したり照射光を調整したりする必要がなく、また、栽培場所の立地条件及び広さ等の影響も受け難い。したがって、本発明により、場所等を問わず、より容易に果実の品質を向上させることが可能となる。
【0017】
なお、本発明において、果実の品質は、サイズ及び重量の大小以外の性質を意味する。また、果実の品質には、形状、色及び傷の有無等といった外見から評価される品質と、糖度(熟度)及び酸度等といった含有成分から評価される品質と、食感及び美味しさといった人の感性に基づいて評価される品質とが含まれる。
【0018】
果実の品質は、果実の種類毎に変わり、また、生産者間又は地域間で相違することもある。日本では、一般的に、各種類の果実の品質が秀、優及び良を含む多段階に等級分けされる場合、あるいは、良品から粗悪品までの範囲に亘って品質を多段階に等級分けする場合がある。
果実の品質に関する基準の例として、ミカン、サクランボ、ブドウ、モモ、リンゴ、カキ、ナシ及び西洋ナシの各々について設定された等級区分を挙げ、各果実の等級区分について説明する。なお、以下に説明する等級区分は、あくまでも一例であり、前述したように生産者又は地域に応じて変わり得る。
【0019】
(ミカンの品質について)
ミカンの品質は、下記の表1に示すように糖度(熟度)によって「特選」、「秀」、「優」、「良」及び「規格外」の5等級に区分される。また、同表に示すように品種間で各等級の該当条件が相違することがある。なお、ミカンの等級は、下記の表1に示された項目以外の項目(例えば、形状及び着色度等)によって定められる場合もある。
【0020】
【0021】
(サクランボの品質について)
サクランボの品質は、下記の表2に示すように着色面積(果実における着色部分の面積比率であり、着色度と同義)、形状及び熟度等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。なお、サクランボの各等級については、表2の基準とは別の基準があってもよく、後述する試験2では、表2とは異なる区分(表18参照)で等級を区別している。
【0022】
【0023】
(ブドウの品質について)
ブドウの品質は、下記の表3に示すように形状、色及び糖度(熟度)等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。また、ブドウの品質に関しては、表4~7に示すように、品種の違い又は栽培方法(ハウス栽培であるか露地栽培であるか)の違いに応じて各等級の該当条件が相違する。なお、ブドウの各等級については、表3~7に記載の基準とは別の基準があってもよく、後述する試験3では、表3~7とは異なる区分(表20参照)で等級を区別している。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
(モモの品質について)
モモの品質は、下記の表8に示すように形状、色及び糖度(熟度)等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。また、モモの品質に関しては、表9~10に示すように、栽培方法(ハウス栽培であるか露地栽培であるか)の違いに応じて各等級の該当条件が相違する。なお、モモの各等級については、表8~10に記載された基準とは別の基準があってもよく、後述する試験4では、表8~10とは異なる区分(表22参照)で等級を区別している。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
(リンゴの品質について)
リンゴの品質は、下記の表11に示すように着色及び形状等によって「秀」、「優」、「良」及び「並」の4等級に区分される。なお、リンゴの各等級については、表11に記載された条件とは別の条件があってもよく、後述する試験6では、表11とは異なる条件(表25参照)で等級を分類している。
【0034】
【0035】
(カキの品質について)
カキの品質は、下記の表12~13に示すように形状及び色等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。また、カキの品質に関しては、品種間で各等級の該当条件が相違することがある。
【0036】
【0037】
【0038】
(ナシの品質について)
ナシの品質は、下記の表14に示すように形状、色及び熟度等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。また、ハウス栽培されるナシの品質に関しては、下記の表15に示すように、上記の3等級に「並」が加わって4等級に区分される。
【0039】
【0040】
【0041】
(西洋ナシの品質について)
西洋ナシの品質は、下記の表16に示すように形状及び色等によって「秀」、「優」及び「良」の3等級に区分される。
【0042】
【0043】
以上までに説明してきたように品種間で果実の品質基準が相違するが、本発明によれば、ナノバブル水を施用することで様々な果実の品質を向上させることが可能であり、具体的には、各果実について品質の等級のうち上位の等級に該当する果実の比率、例えば「秀」、若しくは「秀」よりも上位の等級である「特秀」に該当する果実の比率(以下、「秀品率」とも言う。)を増やすことができる(後述の実施例を参照)。つまり、本発明の製造方法を用いることで、通常の製造方法(すなわち、ナノバブル水を用いない製造方法)に比べて、果実の秀品率を高めることが可能である。
なお、参考までに、以下の果実について通常の製造方法で得られる秀品率を示す。ただし、下記の値は、秀品率の参考値であり、当然ながら品種、栽培地域及び栽培者等に応じて変わり得る。
ミカン(品種:青島) 特秀の比率が20%、秀の比率が50%
サクランボ(品種:佐藤錦) 特秀の比率が40%、秀の比率が70%
ブドウ(品種:巨峰) 80%
モモ 10% 特秀の比率が10%、秀の比率が60%
リンゴ(品種:ふじ) 特秀の比率が10%、秀の比率が60%
ナシ 60%
西洋ナシ 70%
【0044】
また、上記の通り、品質基準は品種間で異なるが、各果実の品質の一つである糖度については、本発明によって品種間で共通して改善することができる(後述の実施例を参照)。つまり、本発明の製造方法を用いることで、通常の製造方法(すなわち、ナノバブル水を用いない製造方法)に比べて、品質として果実の糖度を向上(増加)させることが可能である。
なお、参考までに、以下の果実について通常の製造方法で得られる糖度を示す。ただし、下記の値は、各果実の一般的な糖度の参考値であり、当然ながら品種、栽培時期及び栽培地域等に応じて変わり得る。
ミカン(品種:青島) 11度
サクランボ(品種:佐藤錦) 14度
ブドウ(品種:巨峰) 18度
モモ 13度
リンゴ(品種:ふじ) 15度
カキ 15度
ナシ 14度
西洋ナシ 15度
【0045】
また、本発明において、果実品質向上効果をより高める理由から、上記のナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10~500nmであることが好ましく、30~300nmであることがより好ましく、特に、気泡がより長時間残存し得るという理由から、70~130nmであることが更に好ましい。
【0046】
上記のナノバブル水に含まれる気泡を構成する気体は特に限定されないが、水中に長時間残存させる観点から、水素以外の気体が好ましく、具体的には、例えば、空気、酸素、窒素、フッ素、二酸化炭素及びオゾン等が挙げられる。
これらのうち、果実品質向上効果をより一層高める理由から、酸素、窒素、二酸化炭素及びオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含むことが好ましく、また、気泡がより長時間残存することができる理由から、酸素及び/又は二酸化炭素を含むことがより好ましい。
ここで、酸素及び/又は二酸化炭素を含むことは、空気中の酸素濃度よりも高い濃度で含むことをいう。窒素及びオゾンも同様である。なお、酸素の濃度については、気泡中の30体積%以上であることが好ましく、50体積%超100体積%以下であることがより好ましい。また、二酸化炭素の濃度については、気泡中の1体積%以上であることが好ましく、10体積%超100体積%以下であることがより好ましい。
【0047】
上記のナノバブル水は、果実品質向上効果を一層高める理由から、1×108~1×1010個/mlの気泡を有していることが好ましく、特に、気泡の生成時間と気泡の残存性のバランスが良好となる理由から、1×108個/mlより多く、1×1010個/mlより少ない気泡を有していることがより好ましく、5×108~5×109個/mlの気泡を有していることがさらに好ましい。
【0048】
また、果実品質向上効果を更に高める理由から、上記のナノバブル水に含まれる気泡のゼータ電位はマイナス電位であることが好ましく、-20mV以下であることがより好ましく、特に、病虫害への防除効果を高める目的から、-50mV~-30mVであることが更に好ましい。また、ゼータ電位の値は、気泡の種類に応じて変化することが知られており、空気からなる気泡のゼータ電位よりも低い(マイナス側に帯電している)ゼータ電位であると、一段と好ましい。なお、ゼータ電位については、例えば顕微鏡電気泳動法により測定され、同法を採用する公知のゼータ電位測定装置(測定装置の一例としては、Microtrac-bel社製の『Zata View』が挙げられる)によって測定することが可能である。
【0049】
上記のナノバブル水は、水及び気泡以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0050】
また、上記のナノバブル水の生成方法としては、例えば、スタティックミキサー法、ベンチュリ法、キャビテーション法、蒸気凝集法、超音波法、旋回流法、加圧溶解法、及び微細孔法等が挙げられる。
ここで、本発明の品質が向上した果実の製造方法は、上記ナノバブル水を施用する前に、上記ナノバブル水を生成させる生成工程を有してもよい。すなわち、本発明の品質が向上した果実の製造方法は、例えば、貯水タンク、井戸又は農業用水等の水源から水をナノバブル生成装置に取り込んでナノバブル水を生成させる生成工程と、生成したナノバブル水を植物体に施用する施用工程とを有してもよい。
【0051】
なお、上記の生成工程において、水源からの水をナノバブル生成装置に取り込む手法としては、例えば、桶又はポンプ等を用いて水源から汲み上げた水をナノバブル生成装置に供給する手法が挙げられる。また、他の手法としては、例えば、水源とナノバブル生成装置との間に敷設された流路をナノバブル生成装置に繋ぎ、流路からナノバブル生成装置へ水を直接送り込む手法等が挙げられる。
【0052】
また、上記のナノバブル水を生成する装置としては、意図的にラジカルを発生させることがない装置を用いることが好ましく、具体的には、例えば、特開2018-15715号公報の[0080]~[0100]段落に記載されたナノバブル生成装置が挙げられる。なお、上記の内容は本明細書に組み込まれる。
【0053】
上記の特許公報に記載の装置以外にナノバブル水を生成可能な装置としては、例えば、水を吐出する液体吐出機と、その液体吐出機から吐出された水に、気体を加圧して混入させる気体混入機と、気体を混入させた水を内部に通すことにより、水中に微細気泡を生成する微細気泡生成器と、を有する微細気泡生成装置であって、上記の気体混入機が、上記の液体吐出機と上記の微細気泡生成器の間において、加圧された状態で上記微細気泡生成器に向かって流れる液体に、気体を加圧して混入させることを特徴とする
図1に示す微細気泡生成装置が挙げられる。
【0054】
図1に図示のナノバブル生成装置10は、その内部に液体吐出機30、気体混入機40及びナノバブル生成ノズル50を備える。
【0055】
液体吐出機30は、ポンプによって構成され、ナノバブル水の原水(例えば、井戸水)を取り込んで吐出する。気体混入機40は、圧縮ガスが封入された容器41と、略筒状の気体混入機本体42とを有し、液体吐出機30から吐出された水を気体混入機本体42内に流しつつ、気体混入機本体42内に容器41内の圧縮ガスを導入する。これにより、気体混入機本体42内で気体混入水が生成されることになる。
【0056】
ナノバブル生成ノズル50は、その内部に気体混入水が通過することにより、加圧溶解の原理に従って気体混入水中にナノバブルを発生させるものであり、その構造としては、特開2018-15715号公報に記載されたナノバブル生成ノズルと同じ構造が採用できる。ナノバブル生成ノズル50内で生成されたナノバブル水は、ナノバブル生成ノズル50の先端から噴出した後、ナノバブル生成装置10から流出し、不図示の流路内を通じて所定の利用先に向けて送水される。
【0057】
以上のようにナノバブル生成装置10では、気体混入機40が、液体吐出機30とナノバブル生成ノズル50の間において、加圧された状態でナノバブル生成ノズル50に向かって流れる水(原水)に、圧縮ガスを混入させる。これにより、液体吐出機30の吸込み側(サクション側)で気体を水に混入させるときに生じるキャビテーション等の不具合を回避することができる。また、ガスが加圧(圧縮)された状態で水に混入されるので、ガス混入箇所での水の圧力に抗してガスを混入させることができる。このため、ガス混入箇所において特に負圧を発生させなくとも、ガスを適切に水に混入させることが可能となる。
【0058】
さらに、液体吐出機30のサクション側に、井戸や水道等の水源から供給される水の流路が繋ぎ込まれており、その流路において液体吐出機30の上流側から液体吐出機30に流れ込む水の圧力(すなわち、サクション側の水圧)が正圧であるとよい。この場合には、上記の構成がより有意義なものとなる。すなわち、液体吐出機30の上流側の水圧(サクション圧)が正圧となる場合には、液体吐出機30の下流側でガスを水に混入させることになるため、液体吐出機30の下流側でもガスを適切に水に混入させることができるナノバブル生成装置10の構成がより際立つことになる。
【0059】
また、上記のナノバブル水の生成に使用する水(原水)については、特に限定されず、例えば、雨水、水道水、井水、地表水、農業用水、及び蒸留水等を使用することができる。また、原水については、ナノバブル水の発生に供される前に他の処理が施されてもよい。他の処理としては、例えば、pH調整、沈殿、ろ過、及び滅菌(殺菌)等が挙げられる。具体的には、例えば、農業用水を使用する場合、典型的には、沈殿及び/又はろ過した後に使用するとよい。
【0060】
本発明において、上記のナノバブル水の植物体への施用態様は、植物体の栽培方法により異なるため、特に限定されないが、例えば、土耕栽培又は養液土耕栽培(灌水同時施肥栽培)等において上記のナノバブル水を散水(養液土耕栽培では、灌水)する態様が挙げられる。この場合、具体的な散水方法については、特に限定されるものではなく、例えば、植物体の全体にナノバブル水を散布する方法、植物体の一部(例えば、茎又は葉など)にナノバブル水を散布する方法、植物体が植えられた土壌にナノバブル水を散布する方法等が挙げられる。
【0061】
また、上記のナノバブル水の植物体への施用態様としては、土耕栽培又は養液土耕栽培等において上記のナノバブル水が加えられた養分供給材料を供給する態様も考えられる。ここで、「ナノバブル水が加えられた養分供給材料」は、上記のナノバブル水を用いて生成された培養液、上記のナノバブル水を用いて発酵させた肥料、及び、上記のナノバブル水によって希釈された栄養剤等が挙げられる。養分供給材料の供給方法については、特に限定されるものではなく、植物体が植えられた土壌に撒く方法、植物体の全体に掛ける方法、植物体の一部(例えば、茎又は葉など)に塗布する方法、及び、灌水時に培養液を供給する方法等が挙げられる。
【0062】
また、上記のナノバブル水の植物体への施用態様としては、土耕栽培において上記のナノバブル水によって希釈された農薬を散布する態様も考えられる。農薬の散布方法については、植物体の全体に農薬を散布する方法、及び植物体の一部(例えば、茎又は葉など)に水を散布する方法等が挙げられる。
【0063】
さらにまた、上記のナノバブル水の植物体への施用態様は、土耕栽培及び養液土耕栽培以外の栽培方法(例えば、水耕栽培、噴霧耕栽培、及び固形培地耕栽培)にも利用可能である。
【0064】
また、上記のナノバブル水の施用回数については、特に限定されず、果房肥大期間を含む栽培期間中に少なくとも一回以上施用すればよいが、果実品質向上効果をより効果的に発揮させる理由から、複数回施用することが好ましく、例えば、出蕾から収穫時期までの期間内に10回以上施用するのがよい。
【0065】
また、本発明において、上記のナノバブル水を施用する植物体は、果樹類に属する植物体であれば特に限定されないが、本発明の効果が有意義に発揮される観点からは、植物体がバラ科植物、ブドウ科植物、カキノキ科植物又はミカン科植物であることが好ましい。
さらに、バラ科植物の果樹類としては、リンゴ、ナシ、西洋ナシ、サクランボ、ウメ、ビワ、アンズ、モモ、スモモ、及びプルーンが挙げられる。ブドウ科植物の果樹類としては、ブドウ、ヤマブドウ及びノブドウが挙げられる。カキノキ科植物の果樹類としては、カキ、マメガキ、及びロウアガキが挙げられる。ミカン科植物の果樹類としては、ミカン(ウンシュウミカン)、キンカン、グレープフルーツ、レモン、ライム、ユズ、カボス、スダチ、及びシークワーサーが挙げられる。
なお、以上までに挙げた種類のうち、リンゴ、ナシ、西洋ナシ、サクランボ、ブドウ、カキ、モモ及びミカンが特に好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例(試験1~6)を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、試験1~6における等級の判断は、すべて、試験対象とする植物体及びその等級区分に習熟した農家等によって実施された。
【0067】
<試験1の内容>
試験1は、2017年10月中旬から2018年8月下旬にかけて千葉県印西市で栽培したナシ(品種:豊水)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区I: 露地栽培において、下記の方法で井戸水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区II: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区Iでナノバブル水の源水として用いた井戸水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
なお、試験区I、IIは、互いに隣接し、各試験区では、50本のナシを栽培した。また、各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、ナシの病害虫防除暦に基づいて計18回とした。また、各回における農薬の散布量は、両試験区で概ね同様となるように調整し、具体的にはタンク容量600Lのスピードスプレーヤーが1回運転する分の量とした。
【0068】
<ナノバブル水の生成方法>
ナノバブル水は、既存のナノバブル生成装置(株式会社カクイチ社製、200V,10L/minタイプ)を用いて加圧溶解方式にて水中に気泡(ナノバブル)を発生させることで生成した。
なお、ナノバブル水生成用に使用した水としては、上述の通り、井戸水を用いており、気泡を構成する気体の種類は、酸素(工業用酸素、濃度99体積%)であることとした。
また、上記のナノバブル生成装置に用いてナノバブルを発生させる条件は、以下のとおりとした。
水1ml当たりの気泡の数:5×108個/ml
気泡のサイズ(最頻粒子径):100nm
気泡のゼータ電位:-35mV
【0069】
<品質の評価>
(1-1)秀品の個数
各試験区において、収穫数のうち、品質の等級が秀に該当する果実(秀品)、優に該当する果実(優品)、及び良に該当する果実(良品)のそれぞれについて、個数と全数に対する割合を求めた。
【0070】
評価結果を以下に示す。なお、以下に示す収穫数は、出荷可能な個数であり、明らかな廃棄品の個数は下記の収穫数に含まれていない。
試験区Iにおける収穫数:16,000個
秀品の個数:13,000個(81%)
優品の個数: 2,400個(15%)
良品の個数: 600個( 4%)
試験区IIにおける収穫数:15,500個
秀品の個数: 9,000個(58%)
優品の個数: 4,600個(30%)
良品の個数: 1,900個(12%)
【0071】
上述のように、試験区Iでは、試験区IIに比較して秀品率がより高くなり、果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。
なお、果実品質向上の効果は、栽培期間中に既に確認されており、試験区Iでは、
図2に示すように果房肥大期における果実の形状が秀品の形状を満たしている一方、試験区IIでは、
図3に示すように果房肥大期における果実の形状が秀品の形状から外れている。ちなみに、
図4に示すように、秀品の形状(
図4中の右側のナシ)は、秀品ではないものの形状、例えば優品の形状(
図4中の左側のナシ)に比べて、より丸みを有している。
【0072】
(1-2)糖度の測定
各試験区において、収穫されたナシのうち、秀品を無作為で9サンプル抽出し、それぞれの糖度を糖度計で測定した。測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表17に示す。
【0073】
【0074】
上記の表17に示すように、試験区Iにて栽培された秀品の糖度は、試験区IIにて栽培された秀品の糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験1の結果から、ナノバブル水の施用により果実の形状が改善したことから、ナシの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、ナシの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、ナシについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【0075】
<試験2の内容>
試験2は、山形県東根市で栽培したサクランボ(品種:佐藤錦)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区A1: 露地栽培において、井戸水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区A2: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区A1でナノバブル水の源水として用いた井戸水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区A1、A2は、互いに隣接し、各試験区では、25本のサクランボの樹を栽培した。各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、サクランボの病害虫防除暦に基づいて計12回とした。各回における農薬の散布量は、両試験区で概ね同様となるように調整し、タンク容量1000Lのスピードスプレーヤーが1回運転する分の量とした。
また、試験区A1で用いたナノバブル水は、既存のナノバブル生成装置(株式会社カクイチ社製、100V,10L/minタイプ)により、試験1の試験区Iで用いたナノバブル水と同様の条件で生成した。ナノバブル水生成用に使用した気体の種類は、酸素(工業用酸素、濃度99体積%)とした。
【0076】
<品質の評価>
(2-1)秀品の個数
試験2では、収穫されたサクランボに、良に該当するもの(良品)がなかったため、明らかな廃棄品を除き、秀品か優品のいずれかに分類された。そのため、各試験区において、サクランボの収穫数(出荷可能な個数)のうち、品質の等級が秀に該当するもの(秀品)、及び、優に該当するもの(優品)のそれぞれについて、個数と、収穫数に対する割合とを求めた。等級区分の判断は、前述した表2に示すサクランボの等級区分ではなく、下記の表18に記載された等級区分に従って行い、具体的には果実の着色面積に基づいて行った。
【0077】
【0078】
評価結果を以下に示す。
試験区A1における収穫数:170,000個
秀品の個数:153,000個(90%)
優品の個数: 17,000個(10%)
試験区A2における収穫数:160,000個
秀品の個数:120,000個(75%)
優品の個数: 40,000個(25%)
【0079】
上述のように、試験区A1では、試験区A2に比較して秀品率がより高くなり、ナノバブル水による果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。また、果実品質向上の効果は、栽培期間中に既に確認されており、試験区A1では、試験区A2に比べると、収穫直前(具体的には6月13日)の段階での着色面積が大きくなっている。
ちなみに、各試験区で収穫されたサクランボの果実を
図5に示しており、図中の右側が試験区A1で収穫された果実、左側が試験区A2で収穫された果実をそれぞれ示している。この図から分かるように、同じ秀品であっても、試験区A1で収穫されたものの方が、試験区A2で収穫されたものに比べて、着色面積がより大きくなっている。
【0080】
(2-2)糖度の測定
各試験区において、収穫されたサクランボの秀品のうち、着色面積及び大きさが略同一であるものを10サンプルずつ選定し、それぞれの糖度を糖度計で測定した。測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表19に示す。
【0081】
【0082】
上記の表19に示すように、試験区A1にて栽培されたサクランボの糖度は、試験区A2にて栽培されたサクランボの糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験2の結果から、ナノバブル水の施用により着色面積が増加することから、サクランボの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、サクランボの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、サクランボについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【0083】
<試験3の内容>
試験3は、山梨県韮崎市で栽培したブドウ(品種:シャインマスカット)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区B1: 露地栽培において、農業用水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区B2: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区B1でナノバブル水の源水として用いた農業用水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区B1、B2は、互いに隣接し、試験区B1では、15本のブドウの樹を、試験区B2では、10本のブドウの樹をそれぞれ栽培した。各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、ブドウの病害虫防除暦に基づいて計9回とした。なお、各試験区における農薬散布の要領、及び、試験区B1で用いたナノバブル水の生成条件は、試験2と同様である。
【0084】
<品質の評価>
(3-1)秀品の個数
各試験区において、収穫されたブドウの中から出荷可能な房を無作為に抽出し、抽出した房から摘んだ所定個数の果粒のうち、品質の等級が秀に該当するもの(秀品)、優に該当するもの(優品)、及び、良に該当するもの(良品)のそれぞれについて、該当する粒数と、摘んだ果粒の全個数に対する割合とを求めた。
なお、秀品、優品及び良品の区別は、前述した表7に示すシャインマスカットの等級区分ではなく、下記の表20に示す別の等級区分に従い、具体的には糖度、傷及び擦れの有無、並びに1粒重量に基づいて判断した。糖度については、出荷基準を17度をとし、当該出荷基準を満たす糖度であるかどうかを判断した。
【0085】
【0086】
評価結果を以下に示す。
試験区B1における収穫数:1,500個
秀品の個数:1,200個(80%)
優品の個数: 300個(20%)
良品の個数: 0個(0%)
試験区B2における収穫数:1,000個
秀品の個数: 700個(70%)
優品の個数: 200個(20%)
良品の個数: 100個(10%)
【0087】
上述のように、試験区B1では、試験区B2に比較して秀品率がより高くなり、ナノバブル水による果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。なお、各試験区において任意の5房を選定し、それぞれの上部から果粒を2個ずつ計10個の重量を測定したところ、試験区B1では、90gであったのに対し、試験区B2では、85gであった。
【0088】
(3-2)糖度の測定
各試験区において、収穫されたブドウの秀品から果粒を無作為で10サンプルずつ選定し、それぞれの糖度(出荷前の時点の糖度)を非破壊式の測定器で測定した。測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表21に示す。
【0089】
【0090】
上記の表21に示すように、試験区B1にて栽培されたブドウの果粒の糖度は、試験区B2にて栽培されたブドウの果粒の糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験3の結果から、ナノバブル水の施用により、傷及び擦れがない果粒の数が増えたことから、ブドウの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、ブドウの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、ブドウについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【0091】
<試験4の内容>
試験4は、山形県東根市で栽培したモモ(品種:一宮水蜜)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区C1: 露地栽培において、井戸水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区C2: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区C1でナノバブル水の源水として用いた井戸水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区C1、C2は、互いに隣接し、各試験区では3本のモモの樹を栽培した。各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、モモの病害虫防除暦に基づいて計11回とした。なお、各試験区における農薬散布の要領、及び、試験区C1で用いたナノバブル水の生成条件は、試験2と同様である。
【0092】
<品質の評価>
(4-1)秀品の個数
各試験区において、収穫されたモモを、品質の等級が秀又は優に該当するもの、及び、それ以外のもの(廃棄品)のそれぞれについて、個数と、収穫数に対する割合とを求めた。なお、秀品又は優品に該当するか否かについては、前述した表8~10に示すモモの等級区分ではなく、下記の表22に示す別の等級区分を採用した。また、廃棄品は、病害虫による被害を受けたもの、あるいは外観において目立つ傷を有するものである。
【0093】
【0094】
評価結果を以下に示す。
試験区C1における収穫数:550個
秀品の個数:510個(93%)
廃棄品の個数: 40個( 7%)
試験区C2における収穫数:510個
秀品の個数:390個(76%)
廃棄品の個数:120個(24%)
【0095】
上述のように、試験区C1では、試験区C2に比較して秀品率がより高くなり、ナノバブル水による果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。また、果実品質向上の効果は、栽培期間中に既に確認されており、試験区C2では、
図6に示すように葉に褐変した部分が現れて孔が開く病気(ももせん孔病)が確認されたのに対し、試験区C1では、病気の発生が抑えられ、結果として果実が良好に結実するようになった。
【0096】
(4-2)糖度の測定
各試験区において、収穫されたモモの秀品のうち、無作為で6サンプルずつ選定し、それぞれの糖度を測定した。測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表23に示す。
【0097】
【0098】
上記の表23に示すように、試験区C1にて栽培されたモモの糖度は、試験区C2にて栽培されたモモの果粒の糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験4の結果から、ナノバブル水の施用により、果実の形状、色沢及び病虫害等の有無が改善されたから、モモの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、モモの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、モモについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【0099】
<試験5の内容>
試験5は、山形県東根市で栽培した西洋ナシ(品種:ラ・フランス)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区D1: 露地栽培において、井戸水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区D2: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区D1でナノバブル水の源水として用いた井戸水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区D1、D2は、互いに隣接し、各試験区では、20本の西洋ナシの樹を栽培した。各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、西洋ナシの病害虫防除暦に基づいて計16回とした。なお、各試験区における農薬散布の要領、及び、試験区D1で用いたナノバブル水の生成条件は、試験2と同様である。
【0100】
<品質の評価>
(5-1)秀品の個数
各試験区において、収穫された西洋ナシを、品質の等級が秀に該当するもの(秀品)、秀品よりもサイズが小さく若干の傷を有するもの(加工品)、及び、それ以外のもの(廃棄品)という等級区分で区別し、各等級について、個数と、収穫数に対する割合とを求めた。なお、廃棄品は、病害虫による被害を受けたもの、あるいは外観において目立つ傷を有するものである。
【0101】
評価結果を以下に示す。
試験区D1における収穫数:13,000個
秀品の個数:12,300個(94%)
加工品の個数: 500個( 4%)
廃棄品の個数: 200個( 2%)
試験区D2における収穫数:10,000個
秀品の個数:10,000個(84%)
加工品の個数: 1,000個( 8%)
廃棄品の個数: 1,000個( 8%)
【0102】
上述のように、試験区D1では、試験区D2に比較して秀品率がより高くなり、ナノバブル水による果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。つまり、試験区D2では、
図7に示すように果実に害虫被害が確認されたのに対し、試験区D1では、害虫が防除された結果、上記のように秀品に該当する果実の個数が増加した。また、各試験区において西洋ナシ(秀品又は加工品に該当するもの)を無作為で10個ずつ選定し、それぞれの重量を測定して平均値を求めたところ、試験区D1では、296.3gであったのに対し、試験区D2では、282.2gであった。
【0103】
(5-2)糖度の測定
各試験区において、収穫された西洋ナシの秀品の中から無作為で10サンプルずつ選定し、それぞれの糖度を測定した。なお、糖度の測定は、収穫した日(10月14日)から保管期間(通常は約2~3週間)が経過した時点(10月30日)で実施した。
測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表24に示す。
【0104】
【0105】
上記の表24に示すように、試験区D1にて栽培された西洋ナシの糖度は、試験区D2にて栽培された西洋ナシの糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験5の結果から、ナノバブル水の施用により、傷及び病虫害等の有無が改善されたから、西洋ナシの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、西洋ナシの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、西洋ナシについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【0106】
<試験6の内容>
試験6は、長野県長野市で栽培したリンゴ(品種:ふじ)の圃場にて、以下の区分により実施した。
試験区E1: 露地栽培において、水道水を源水として生成したナノバブル水を用いて農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
試験区E2: 露地栽培において、ナノバブル水ではない水(具体的には、試験区E1でナノバブル水の源水として用いた水道水)によって農薬を希釈し、その農薬をスピードスプレーヤー方式にて散布した。
な試験区E1、E2は、互いに隣接し、試験区E1では35本のリンゴの樹を、試験区E2では140本のリンゴの樹をそれぞれ栽培した。各試験区における農薬の散布回数は、同時期とし、リンゴの病害虫防除暦に基づいて計10回とした。なお、各試験区における農薬散布の要領、及び、試験区E1で用いたナノバブル水の生成条件は、試験2と同様である。
【0107】
<品質の評価>
(6-1)秀品の個数
各試験区において、リンゴの収穫数(出荷可能な個数)のうち、品質の等級が秀に該当するもの(秀品)、優に該当するもの(優品)、及び、良に該当するもの(良品)のそれぞれについて、個数と、収穫数に対する割合とを求めた。等級の判断は、前述した表11に則った区分、具体的には、下記の表25に記載された区分に従い、主として果実の形状及び色に基づいて行った。
【0108】
【0109】
評価結果を以下に示す。
試験区E1における収穫数: 42,000個
秀品の個数:18,900個(45%)
優品の個数:21,000個(50%)
良品の個数: 2,100個( 5%)
試験区E2における収穫数:160,000個
秀品の個数:56,000個(35%)
優品の個数:88,000個(55%)
良品の個数:16,000個(10%)
【0110】
上述のように、試験区E1では、試験区E2に比較して秀品率がより高くなり、ナノバブル水による果実品質向上効果が発揮されたことが分かった。
【0111】
(6-2)糖度の測定
各試験区において、収穫されたリンゴの秀品の中から無作為で12サンプルずつ選定し、それぞれの糖度を糖度計で測定した。測定結果及び各試験区における測定結果の平均値を下記の表26に示す。
【0112】
【0113】
上記の表26に示すように、試験区E1にて栽培されたリンゴの糖度は、試験区E2にて栽培されたリンゴの糖度よりも高く、ナノバブル水の施用によって品質としての糖度が向上(増加)したことが明らかとなった。
試験6の結果から、ナノバブル水の施用により、果実の形状及び色沢が改善されたから、リンゴの品質として、外見から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。また、ナノバブル水の施用により糖度が上昇したことから、リンゴの品質として、含有成分から評価される品質がナノバブル水によって向上することが確認できた。以上から、本発明により、リンゴについて、外見、含有成分及び感性等についての品質が総合的に向上することが理解できる。
【符号の説明】
【0114】
10 ナノバブル生成装置
30 液体吐出機
40 気体混入機
41 容器
42 気体混入機本体
50 ナノバブル生成ノズル