(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】半導体製造装置用ヒータ
(51)【国際特許分類】
H05B 3/10 20060101AFI20220517BHJP
H05B 3/74 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
H05B3/10 C
H05B3/74
(21)【出願番号】P 2022510795
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2021040196
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2021044405
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山名 啓太
(72)【発明者】
【氏名】▲のぼり▼ 和宏
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10403535(US,B2)
【文献】特開2003-313078(JP,A)
【文献】特表2015-514661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
H05B 3/74
C04B 35/581
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
550℃での体積抵抗率が3×10
9
Ωcm以上である、イットリウムアルミネートを含むAlNセラミック基体に、抵抗発熱体が埋設された半導体製造装置用ヒータであって、
前記抵抗発熱体は、Mo製であり、
前記AlNセラミック基体には、前記抵抗発熱体に接するように前記抵抗発熱体を取り囲む第1環状層と、前記第1環状層を取り囲む第2環状層とが存在し、前記第1環状層は、前記第2環状層に比べてY含有量が多くて層幅が広い、
半導体製造装置用ヒータ。
【請求項2】
前記AlNセラミック基体は、
AlN焼結粒子の平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下であり、
AlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが分散した状態で存在する、
請求項1に記載の
半導体製造装置用ヒータ。
【請求項3】
前記第1環状層は、前記抵抗発熱体を連続的に取り囲み、
前記第2環状層は、前記第1環状層を連続的に取り囲む、
請求項
1又は2に記載の半導体製造装置用ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlNセラミック基体及び半導体製造装置用ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用ヒータとしては、特許文献1に示されるように、AlNセラミック基体と、そのAlNセラミック基体の内部に埋設された抵抗発熱体とを備えたものが知られている。こうした半導体製造装置用ヒータは、AlNセラミック基体の表面に載置されたウエハを加熱するのに用いられる。また、半導体製造装置用ヒータとしては、特許文献2に示されるように、AlNセラミック基体の内部に抵抗発熱体と静電電極とが埋設されたものも知られている。こうした半導体製造装置用ヒータでは、抵抗発熱体からウエハへ電流がリークしたり静電電極からウエハへ電流がリークしたりすると、ウエハがダメージを受けることになる。そのため、AlNセラミック基体の体積抵抗率を高い値に制御することが好ましい。この点に鑑み、特許文献3には、AlNセラミック基体として、AlN原料粉末に焼結助剤としての酸化イットリウム粉末を添加した混合粉末を顆粒化し、その顆粒で円盤形状の成形体を作製し、その成形体を1850~1890℃でホットプレス焼成させたものが開示されている。そのAlNセラミック基体の550℃での体積抵抗率は1×109~2.6×109Ωcmと高い値になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-153194号公報
【文献】特開2005-281046号公報
【文献】特許第6393006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、550℃での体積抵抗率が1×109~2.6×109ΩcmのAlNセラミック基体を用いた場合、AlNセラミック基体を流れるリーク電流を十分に阻止できないことがあった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高温での体積抵抗率が従来に比べて更に高いAlNセラミック基体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のAlNセラミック基体は、
イットリウムアルミネートを含むAlNセラミック基体であって、
550℃での体積抵抗率が3×109Ωcm以上である、
ものである。
【0007】
このAlNセラミック基体は、高温での体積抵抗率が従来に比べて更に高い。そのため、このAlNセラミック基体を、半導体製造装置用ヒータの抵抗発熱体を埋設するAlNセラミック基体として用いた場合、AlNセラミック基体をリーク電流が流れるのを十分に阻止することができる。
【0008】
なお、体積抵抗率が5×109Ωcm以上であればリーク電流を更に抑制できるので好ましく、1×1010Ωcm以上であればセラミック基体の厚さを更に薄くできるのでより好ましい。また、イットリウムアルミネートとしては、例えばY4Al2O9(YAM)やYAlO3(YAL)などが挙げられる。
【0009】
本発明のAlNセラミック基体において、AlN焼結粒子の平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下であることが好ましく、AlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが分散した状態で存在することが好ましい。こうすれば、イットリウムアルミネートが微細かつ均一に分散した状態になる。そのため、イットリウムアルミネートの電流パスが生じるのを防止することができ、AlNセラミック基体の高温での体積抵抗率を高くすることができる。
【0010】
本発明の半導体製造装置用ヒータは、上述したAlNセラミック基体に抵抗発熱体が埋設されたものである。
【0011】
この半導体製造装置用ヒータでは、AlNセラミック基体の高温での体積抵抗率が従来に比べて更に高い。そのため、AlNセラミック基体をリーク電流が流れるのを十分に阻止することができる。
【0012】
本発明の半導体製造装置用ヒータにおいて、前記抵抗発熱体は、Mo製であることが好ましく、前記AlNセラミック基体には、前記抵抗発熱体に接するように前記抵抗発熱体を取り囲む第1環状層と、前記第1環状層を取り囲む第2環状層とが存在し、前記第1環状層は、前記第2環状層に比べてY含有量が多くて層幅が広いことが好ましい。第1環状層は、抵抗発熱体を連続的に取り囲んでいてもよく、第2環状層は、第1環状層を連続的に取り囲んでいてもよい。第2環状層は、環状の一部に途切れた箇所を有する形状で、且つ、途切れた箇所を仮想的に繋げたとすると一本の輪(スムーズな輪)になる形状であってもよい。また、第1環状層の幅方向に分布するY含有量の単位幅当たりの平均値が、第2環状層の幅方向に分布するY含有量の単位幅当たりの平均値に比べて多くてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】実施例1のAlNセラミック焼結体12のMoを含む断面を撮影したSEM写真。
【
図5】実施例1のAlNセラミック焼結体12のMoを含む断面の模式図。
【
図6】実施例1のEPMA分析を実施した結果を示すグラフ。
【
図7】比較例1のAlNセラミック焼結体のMoを含む断面を撮影したSEM写真。
【
図8】比較例1のAlNセラミック焼結体のMoを含む断面の模式図。
【
図9】比較例1のEPMA分析を実施した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な一実施形態である半導体製造装置用ヒータ10について以下に説明する。
図1は半導体製造装置用ヒータ10の平面図、
図2は
図1のA-A断面図である。なお、
図1の1点鎖線はゾーンの境界を示す。また、
図1には、内周側及び外周側抵抗発熱体30,40を隠れ線(点線)で示したが、RF電極20は省略した。
【0015】
半導体製造装置用ヒータ10は、円盤状のAlNセラミック基体12にRF電極20、内周側抵抗発熱体30及び外周側抵抗発熱体40を埋設したものである。
【0016】
AlNセラミック基体12は、イットリウムアルミネート(例えばYALやYAMなど)を含み、上面にウエハ載置面12aが設けられている。AlNセラミック基体12の550℃での体積抵抗率は、3×109Ωcm以上であり、5×109Ωcm以上であることが好ましく、1×1010Ωcm以上であることがより好ましい。AlNセラミック基体12は、上方からみたときに内周側ゾーンZinと外周側ゾーンZoutに分かれている。内周側ゾーンZinは、円形ゾーンであり、その直径はAlNセラミック基体12の直径よりも小さい。外周側ゾーンZoutは、内周側ゾーンZinを取り囲む環状ゾーンである。
【0017】
RF電極20は、円形の金属メッシュ(例えばMoコイル)であり、ウエハ載置面12aと略平行に設けられている。RF電極20は、内周側抵抗発熱体30及び外周側抵抗発熱体40よりも、ウエハ載置面12aの近くに埋設されている。RF電極20の直径は、AlNセラミック基体12の直径よりもやや小さい。ウエハ載置面12aと間隔をあけて配置される平行平板電極(図示せず)とRF電極20との間には、高周波電圧が印加される。RF電極20は、RF接続部材22に接続されている。RF接続部材22は、上端がRF電極20の下面に接続され、下端がAlNセラミック基体12の下面12bから露出している。RF接続部材22は、内周側抵抗発熱体30の配線パターンの間隙を通過するように設けられている。RF電極20と平行平板電極との間に高周波電圧を印加する際には、RF接続部材22を利用する。
【0018】
内周側抵抗発熱体30は、金属コイル(例えばMoコイル)であり、ウエハ載置面12aと略平行に設けられている。内周側抵抗発熱体30は、AlNセラミック基体12の中央付近に設けられた一対の端子32,34の一方から内周側ゾーンZinの全体にわたって一筆書きの要領で交差することなく配線されたあと一対の端子32,34の他方に至るように設けられている。一対の端子32,34は、一対の内周側接続部材36,38に接続されている。一対の内周側接続部材36,38の下端は、AlNセラミック基体12の下面12bから露出している。内周側抵抗発熱体30を発熱させる際には、一対の内周側接続部材36,38を利用して一対の端子32,34の間に電圧を印加する。
【0019】
外周側抵抗発熱体40は、金属コイル(例えばMoコイル)であり、ウエハ載置面12aと略平行に設けられている。外周側抵抗発熱体40は、AlNセラミック基体12の中央付近に設けられた一対の端子42,44の一方から内周側ゾーンZinを通過して外周側ゾーンZoutに引き出されたあと外周側ゾーンZoutの全体にわたって一筆書きの要領で交差することなく配線され、その後、内周側ゾーンZinに引き戻されて一対の端子42,44の他方に至るように設けられている。一対の端子42,44は、一対の外周側接続部材46,48に接続されている。一対の外周側接続部材46,48の下端は、AlNセラミック基体12の下面12bから露出している。外周側抵抗発熱体40を発熱させる際には、一対の外周側接続部材46,48を利用して一対の端子42,44の間に電圧を印加する。外周側抵抗発熱体40は、内周側抵抗発熱体30と同一平面上に設けられている。
【0020】
次に、半導体製造装置用ヒータ10の使用例について説明する。まず、半導体製造装置用ヒータ10を図示しないチャンバ内に設置する。そして、半導体製造装置用ヒータ10のウエハ載置面12aにウエハWを載置し、内周側抵抗発熱体30の接続部材36,38に外部電源を接続して一対の端子32,34の間に電圧を印加する。それと共に、外周側抵抗発熱体40の接続部材46,48に別の外部電源を接続して一対の端子42,44の間に電圧を印加する。これにより、内周側抵抗発熱体30と外周側抵抗発熱体40が発熱してウエハWを所定温度に加熱する。本実施形態では、内周側ゾーンZinと外周側ゾーンZoutとは、個別に温度制御可能である。この状態で、ウエハWの上方に離れて配置された図示しない平行平板電極とRF電極20との間に高周波電圧を印加し、ウエハWに半導体チップを作製するために必要な各種処理を施す。処理終了後、RF電極20への高周波電圧の印加や内周側及び外周側抵抗発熱体30,40への電圧印加を終了し、ウエハWをウエハ載置面12aから取り外す。
【0021】
次に、半導体製造装置用ヒータ10の製造例について説明する。まず、AlN原料粉末を用意する。AlN原料粉末は、O,C,Ti,Caを少量含んでいてもよい。AlN原料粉末中、Oは0.65~0.90質量%、Cは220~380質量ppm、Tiは95質量ppm以下、Caは250質量ppm以下含まれるようにするのが好ましい。AlN原料粉末の平均粒径は、焼成後のAlN焼結粒子の平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下となるように設定するのが好ましく、例えば1.5μm以上2.0μm以下が好ましい。
【0022】
続いて、用意したAlN原料粉末に焼結助剤としてY2O3粉末を添加して混合して混合粉末とし、これをスプレードライにて顆粒にする。Y2O3は混合粉末全体に対して4~6質量%となるように添加する。Y2O3粉末の平均粒径は、サブミクロンオーダーが好ましい。混合方法としては、有機溶剤を使用した湿式混合を採用してもよいし、ボールミルや振動ミル、乾式袋混合等に例示される乾式混合を採用してもよい。
【0023】
続いて、混合粉末の顆粒を用いて、内部にRF電極20や内周側及び外周側抵抗発熱体30,40を埋設して成形することにより、成形体を作製する。そして、この成形体を焼成することによりAlN焼結体とする。これにより、半導体製造装置用ヒータ10が得られる。焼成方法は、例えばホットプレス焼成などを用いることができる。ホットプレス焼成時の最高温度(焼成温度)は、1650℃以上1750℃以下、好ましくは1670℃以上1730℃以下の範囲で設定するのが好ましい。焼成温度でのキープ時間は0.5~100時間、プレス圧力は5~50MPa、雰囲気は窒素雰囲気か真空雰囲気(例えば0.13~133.3Pa)とすることが好ましい。ホットプレス焼成を行う際、最高温度に到達するまでの間(1500℃から最高温度より10℃低い温度までの間)で、少なくとも1時間以上キープする操作を1回以上行うことが好ましい。
【0024】
得られた半導体製造装置用ヒータ10のAlNセラミック基体12の断面を撮影したSEM写真を見たとき、AlN焼結粒子の平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下であることが好ましく、そのAlN焼結粒子同士の粒界にAlN焼結粒子よりも細かいイットリウムアルミネートが分散した状態で存在していることが好ましい。AlN焼結粒子の平均粒径がこれより大きいと、AlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが濡れた状態で存在して電流パスを形成しやすくなるため、高温での体積抵抗率が十分高くならない。これに対して、AlN焼結粒子の平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下だと、AlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが分散した状態で存在するため、電流パスが形成されず、高温での体積抵抗率が十分高くなる。
【0025】
また、内周側及び外周側抵抗発熱体30,40にMoを用いた場合、AlNセラミック基体12には、
図2の拡大図に示すように、内周側抵抗発熱体30に接するように内周側抵抗発熱体30を連続的に(つまり途切れることなく)取り囲む第1環状層L1と、第1環状層L1を連続的に取り囲む第2環状層L2とが現れる。第1環状層L1は、第2環状層L2に比べてY含有量が多くて層幅が広い。すなわち、第1環状層L1はYリッチ層、第2環状層L2はYプア層である。こうした微構造は、外周側抵抗発熱体40の周辺でも見られる。第1環状層L1がYリッチ層になる理由は以下のように考えられる。
【0026】
焼成温度が1750℃を超えると、Mo製の内周側抵抗発熱体30に接する領域のY濃度は低下する。焼成温度が1750℃を超えると、Moは酸素との親和性が高いためMoの周辺のイットリウムアルミネートから酸素を奪おうとするのに対し、Moの周辺のイットリウムアルミネートは酸素を奪われたくないためMoから離れた位置へ移動すると考えられる。それにより、焼成温度が1750℃を超えると、AlNセラミック基体12のうちMo製の内周側抵抗発熱体30に接する領域のY濃度が低下すると考えられる。これが、高温での体積抵抗率が十分高くならない一因になっている可能性があると思われる。
【0027】
一方、焼成温度が1650℃以上1750℃以下であると、Mo製の内周側抵抗発熱体30に接する領域(第1環状層L1)のY濃度は比較的高くなる。焼成温度が1750℃以下だと、Moが周辺のイットリウムアルミネートから酸素を奪う反応が起こり難いため、Moの周辺のイットリウムアルミネートはMoから離れた位置へ移動しにくいと考えられる。それにより、焼成温度が1650℃以上1750℃以下であると、AlNセラミック基体12のうちMo製の内周側抵抗発熱体30に接する領域(第1環状層L1)のY濃度は低下せずYリッチ層になると考えられる。これが、高温での体積抵抗率が十分高くなる一因になっている可能性があると思われる。
【0028】
以上説明した本実施形態の半導体製造装置用ヒータ10によれば、AlNセラミック基体12の高温(550℃)での体積抵抗率が3×109Ωcm以上であり、従来に比べて更に高い。そのため、AlNセラミック基体12をリーク電流が流れるのを十分に阻止することができる。なお、体積抵抗率が5×109Ωcm以上であればリーク電流を更に抑制できるので好ましく、1×1010Ωcm以上であればセラミック基体の厚さを更に薄くできるのでより好ましい。
【0029】
また、AlNセラミック基体12中のAlN焼結粒子の平均粒径は1.5μm以上2.5μm以下であることが好ましく、AlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが分散した状態で存在することが好ましい。こうすれば、イットリウムアルミネートが微細かつ均一に分散した状態になる。そのため、イットリウムアルミネートの電流パスが生じるのを防止することができ、AlNセラミック基体12の高温での体積抵抗率を高くすることができる。
【0030】
更に、内周側及び外周側抵抗発熱体30,40は、Mo製であることが好ましく、AlNセラミック基体12には、抵抗発熱体30,40に接するように抵抗発熱体30,40を連続的に取り囲む第1環状層L1と、第1環状層L2を連続的に取り囲む第2環状層L2とが現れ、第1環状層L1は、第2環状層L2に比べてY含有量が多くて層幅が広いことが好ましい。こうした構造は、高温での高い体積抵抗率に何らかの貢献をしていると考えられる。こうした構造は、ホットプレス焼成を行う際、最高温度に到達するまでの間(1500℃から最高温度より10℃低い温度までの間)で、少なくとも1時間以上キープする操作を1回以上行うことによって、生じやすい。
【0031】
更にまた、半導体製造装置用ヒータ10は、AlN粉末とY2O3粉末との混合粉末(Y2O3粉末は混合粉末全体の4質量%以上6質量%以下)にRF電極20や内周側及び外周側抵抗発熱体30,40を埋設して成形することにより成形体を得たあと、焼成時の最高温度を1650℃以上1750℃以下に設定して成形体をホットプレス焼成することにより得られたものである。そのため、AlNセラミック基体12をリーク電流が流れるのを十分に阻止することができる半導体製造装置用ヒータ10を比較的容易に製造することができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
例えば、上述した実施形態では、AlNセラミック基体12にRF電極20を埋設したが、RF電極20を省略してもよいし、RF電極20を静電電極に置き換えてもよいし、RF電極20を静電電極と兼用してもよい。静電電極を設けた場合、静電電極に電圧を印加することによりウエハWをウエハ載置面12aに吸着保持することができる。
【0034】
上述した実施形態では、RF電極20として、金属メッシュを例示したが、金属板を採用してもよい。また、内周側及び外周側抵抗発熱体30,40として、金属コイルを例示したが、金属リボンや金属メッシュを採用してもよい。また、RF電極20や内周側及び外周側抵抗発熱体30,40は、導電ペーストを所定形状又は所定パターンとなるように印刷して形成してもよい。
【0035】
上述した実施形態では、内周側ゾーンZinに内周側抵抗発熱体30を埋設し、外周側ゾーンZoutに外周側抵抗発熱体40を埋設したが、AlNセラミック基体12を3つ以上のゾーンに分割して各ゾーンに抵抗発熱体を埋設してもよい。あるいは、AlNセラミック基体12を複数のゾーンに分割することなく1本の抵抗発熱体を全体にわたって配線してもよい。
【0036】
上述した実施形態では、内周側抵抗発熱体30と外周側抵抗発熱体40を同一平面上に埋設したが、両者を異なる面に埋設してもよい。
【0037】
上述した実施形態では、半導体製造装置用ヒータ10を例示したが、RF電極20や内周側及び外周側抵抗発熱体30,40をAlNセラミック基体12に埋設することなく、AlNセラミック基体12を単独で作製してもよい。
【0038】
上述した実施形態では、第2環状層L2は、第1環状層L1を連続的に取り囲む形状としたが、特にこれに限定されない。例えば、
図3に示すように、第2環状層L2は、連続的ではなく、環状の一部に途切れた箇所L2aを有する形状であってもよい。第2環状層L2は、途切れた箇所L2aを仮想的に繋げたとすると一本の輪(スムーズな輪)になる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0040】
[実施例1]
まず、AlN原料粉末を用意した。このAlN原料粉末に焼結助剤としてY2O3粉末を5質量%添加してボールミルにより混合して混合粉末とし、これをスプレードライにて顆粒化した。Y2O3は混合粉末全体に対して5質量%となるように添加した。続いて、混合粉末の顆粒を用いて、円盤形状の成形体を作製した。成形体には、RF電極20と内周側及び外周側抵抗発熱体30,40を埋設した。そして、この成形体をホットプレス焼成することにより半導体製造装置用ヒータ10を作製した。ホットプレス焼成では、焼成時の最高温度(焼成温度)を1720℃、焼成温度でのキープ時間を2時間、プレス圧力を20MPa、雰囲気を窒素雰囲気とした。なお、ホットプレス焼成では、最高温度に到達するまでの間(1500℃から最高温度より10℃低い温度までの間)で、1時間キープする操作を2回以上行った。
【0041】
AlNセラミック基体12に含まれる結晶相をX線回折により同定した。X線回折は、0.5g程度の粉末をBruker AXS製D8 ADVANCEで測定した。測定条件は、CuKα線源、管電圧40kV、管電流40mAとした。測定結果をリートベルト解析し、結晶相の同定と定量化を行った。XRDプロファイルから同定された結晶相はAlN,YAM,YALであり、TiNは確認されなかった。
【0042】
[比較例1]
最高温度を1850℃としたこと及び最高温度に到達するまでの間でキープする操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして半導体製造装置用ヒータを作製した。比較例1も、XRDプロファイルから同定された結晶相はAlN,YAM,YALであり、TiNは確認されなかった。
【0043】
[体積抵抗率]
実施例1の半導体製造装置用ヒータ10につき、AlNセラミック基体12の550℃での体積抵抗率を測定した。測定は、次のようにして行った。ウエハ載置面12aにSiウエハWを載せ、550℃でウエハWとRF電極20(金属メッシュ)との間に電圧を印加したときのリーク電流(ウエハWとRF電極20との間を流れる電流)を測定した。RF電極20の直径はφ355.6mm、誘電層(ウエハ載置面12aとRF電極20との間の層)の膜厚は1.02mm、印加電圧は660Vとした。実施例1の半導体製造装置用ヒータ10を複数作製し、リーク電流を測定したところ、40mA台であった。AlNセラミック基体12の550℃での体積抵抗率を、リーク電流から間接的に計算したところ、平均値は1.2×1010Ωcmであった。一方、比較例1も実施例1と同様にしてリーク電流を測定したところ、280mA台であり、AlNセラミック基体の550℃での体積抵抗率の平均値は2.4×109Ωcmであった。
【0044】
[微構造]
実施例1のAlNセラミック焼結体12のMoを含む断面を撮影したSEM写真からAlN焼結粒子の平均粒径を求めたところ、1.9μmであった。そのため、実施例1では、微細なAlN焼結粒子同士の粒界にイットリウムアルミネートが均一に分散していると判断した。比較例1についても同様にして平均粒径を求めたところ、4.5μmであり、実施例1と比べて大きな粒子であった。なお、平均粒径は、二次電子像(倍率3000倍)を取得し、その画像上に直線を引き、40個の粒子を横切る線分の長さをそれぞれ測定し、それらの平均値として算出した。
【0045】
図4は実施例1のAlNセラミック焼結体12のMo(内周側抵抗発熱体30)を含む断面を撮影したSEM写真であり、
図5はその模式図である。
図4及び
図5からわかるように、Moに接するようにMoを連続的に(途切れることなく)取り囲む第1環状層L1と、第1環状層L1を連続的に取り囲む第2環状層L2とが観察された。第1環状層L1は、白くて細かい斑点(イットリウムアルミネート由来のY)が多く分散していたが、第2環状層L2は、そうした斑点がほとんどなくほぼ黒に近かった。
図6は、
図4の矢印方向に沿ってMo及びYのそれぞれについてEPMA分析を実施した結果を示すグラフである。
図6では、Mo濃度が急峻に立ち上がる部分及び急峻に立ち下がる部分を、抵抗発熱体(Mo)とAlNセラミック焼結体との境界とみなした。第1環状層L1のY濃度は比較的高かったが、第2環状層L2のY濃度はほとんどゼロであった。このことから、第1環状層L1はYリッチ層であり、第2環状層L2はYプア層であることがわかった。また、第1環状層L1の層幅は、第2環状層L2の層幅よりも広かった。
【0046】
図7は比較例1のAlNセラミック焼結体のMoを含む断面を撮影したSEM写真であり、
図8はその模式図である。
図7及び
図8からわかるように、Moに接するようにMoを取り囲む第1層と、第1層を取り囲む第2層とが観察された。第1層は、斑点がほとんどなくほぼ黒に近い層であり、第2層は、斑点が比較的多く存在していた。第2層は連続しておらず不連続であった。
図7の矢印方向に沿ってMo及びYのそれぞれについてEPMA分析を実施した結果を
図9に示す。
図9では、Mo濃度が急峻に立ち上がる部分及び急峻に立ち下がる部分を、抵抗発熱体(Mo)とAlN焼結体との境界とみなした。第1層のY濃度はほとんどゼロであり、第2層のY濃度は比較的高かった。このことから、比較例1の第1層はYプア層であり、第2層はYリッチ層であること、つまり実施例1とは逆であることがわかった。
【0047】
本出願は、2021年3月18日に出願された日本国特許出願第2021-44405号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、半導体製造装置用ヒータに利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 半導体製造装置用ヒータ、12 AlNセラミック基体、12a ウエハ載置面、12b 下面、20 RF電極、22 RF接続部材、30 内周側抵抗発熱体、32,34 端子、36,38 内周側接続部材、40 外周側抵抗発熱体、42,44 端子、46,48 外周側接続部材、L1 第1環状層、L2 第2環状層、W ウエハ、Zin 内周側ゾーン、Zout 外周側ゾーン。
【要約】
本発明のAlNセラミック基体は、イットリウムアルミネートを含むAlNセラミック基体であって、550℃での体積抵抗率が3×109Ωcm以上のものである。