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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/02 20060101AFI20220518BHJP
   F16G 13/06 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
F16G13/02 B
F16G13/06 E
F16G13/06 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018056150
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019168034
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】521229304
【氏名又は名称】ゼクサスチェン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 亮一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-078067(JP,A)
【文献】特開2010-106962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、
両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、
両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、
前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、
を有し、
前記ピンの外面または前記ブシュの内面の少なくとも一方に、前記ピンまたは前記ブシュの周方向の所定の範囲に、前記ピンの軸方向に略平行な3本以上の溝が形成され、前記溝には、前記溝の形状に応じた形状の、潤滑剤が含浸された樹脂部材が配置され、
前記所定の範囲において、前記ピンまたは前記ブシュの周方向に対する両端部に位置する前記溝の体積が、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の体積よりも小さいことを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の深さが、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の深さよりも浅いことを特徴とする請求項1記載のチェーン。
【請求項3】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の幅が、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン。
【請求項4】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の長さが、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の長さよりも短いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のチェーン。
【請求項5】
前記所定の範囲は、チェーンに張力がかかった際に、前記ピンと前記ブシュとが接触する側であって、前記ピンまたは前記ブシュの略半周側であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のチェーン。
【請求項6】
前記樹脂部材の断面形状が略円形または略楕円形であり、前記ピンの外周面または前記ブシュの内周面から前記樹脂部材の一部が突出することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性および耐久性に優れたチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンは、複数の外プレートおよび内プレートが、ピンおよびブシュを介して屈曲自在に連結されて構成される。チェーンの使用時には、チェーンの屈曲に伴い、ピンの外面とブシュの内面とが摺動する。このため、この部位の摩耗を防ぐとともに、チェーンの屈曲動作を滑らかにするため、ピンとブシュとの間には定期的に給油を施す必要がある。
【0003】
給油作業は工数を要するため、給油間隔は長い方が望ましい。このため、ピン自体に潤滑剤を保持させる方法が提案されている。このようなチェーンとしては、例えば、ピンの外周面に溝を設け、溝に潤滑油を保持させる方法がある。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3126970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、溝に給油を行うとしても、使用時に溝から潤滑油が流出し、油切れを起こす恐れがある。このため、溝を設けたとしても、それなりの頻度では、給油が必要である。また、溝を形成することで、ピンの強度が落ちるため、チェーンの耐久性が落ちる要因となる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、耐久性に優れ、給油頻度を低減することが可能なチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達するために本発明は、両端にピン嵌合孔を有する一対の外プレートと、両端にブシュ嵌合孔を有する一対の内プレートと、両端が前記ブシュ嵌合孔に嵌合され、貫通孔を有するブシュと、前記貫通孔に挿通され、両端が前記ピン嵌合孔に嵌合されるピンと、を有し、前記ピンの外面または前記ブシュの内面の少なくとも一方に、前記ピンまたは前記ブシュの周方向の所定の範囲に、前記ピンの軸方向に略平行な3本以上の溝が形成され、前記溝には、前記溝の形状に応じた形状の、潤滑剤が含浸された樹脂部材が配置され、前記所定の範囲において、前記ピンまたは前記ブシュの周方向に対する両端部に位置する前記溝の体積が、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の体積よりも小さいことを特徴とするチェーンである。
【0008】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の深さが、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の深さよりも浅くてもよい。
【0009】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の幅が、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の幅よりも狭くてもよい。
【0010】
前記所定の範囲において、前記両端部に位置する前記溝の長さが、前記両端部に位置する前記溝で挟まれる少なくとも一つの前記溝の長さよりも短くてもよい。
【0011】
前記所定の範囲は、チェーンに張力がかかった際に、前記ピンと前記ブシュとが接触する側であって、前記ピンまたは前記ブシュの略半周側であることが望ましい。
【0012】
前記樹脂部材の断面形状が略円形または略楕円形であり、前記ピンの外周面または前記ブシュの内周面から前記樹脂部材の一部が突出してもよい。
【0013】
本発明によれば、ピンまたはブシュの接触面に設けた溝に、潤滑剤が含浸された樹脂部材が配置される。このため、潤滑剤を効率よく保持し、流出を防止することができるとともに、樹脂部材自体の潤滑性によって、金属同士の摺動を低減することもできる。また、この際、所定の範囲において、ピンまたはブシュの周方向に対する両端部に位置する溝の体積を、その溝で挟まれる少なくとも一つの溝の体積よりも小さくすることで、ピン等の強度低下を抑制しつつ、より潤滑性を要求される周方向の中央部近傍の潤滑性を向上させることができる。
【0014】
この場合、部位によって溝の深さを変えることで体積を変えてもよく、溝の幅を変えて体積を変えてもよい。また、部位によって、溝の長さを変えてもよい。いずれにしても、ピンやブシュ、樹脂部材の加工が容易である。
【0015】
また、チェーンに張力がかかった際に、ピンとブシュとが接触する側の半周側の範囲内に溝を配置することで、ピン等の強度低下を最低限に抑えることができる。
【0016】
また、樹脂部材の断面形状を略円形または略楕円形とし、ピンの外周面またはブシュの内周面から樹脂部材の一部を突出させることで、チェーンに張力が付与された際、樹脂部材が変形して潰れ、溝と樹脂部材との隙間を埋めて、樹脂部材を溝内に収容することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐久性に優れ、給油頻度を低減することが可能なチェーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】チェーン1を示す分解斜視図。
図2】(a)はチェーン1を示す組み立て斜視図、(b)は(a)のA-A線断面図。
図3】ピン9を示す図で、(a)は平面図、(b)は側面図。
図4】ピン9aを示す側面図。
図5】(a)はブシュ7aの側面図、(b)はブシュ7bの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、チェーン1を示す分解斜視図であり、図2(a)は組み立て斜視図である。チェーン1は、主に、外プレート3a、3b、内プレート5a、5b、ブシュ7、ピン9等から構成される。
【0020】
外プレート3a、3bは、板状部材であり、長手方向の両端部近傍に貫通孔であるピン嵌合孔13が設けられる。また、同様に、内プレート5a、5bも、外プレート3a、3bと略同外形の板状部材であり、長手方向の両端部近傍に貫通孔であるブシュ嵌合孔17が設けられる。
【0021】
ブシュ7は、内部に貫通孔である孔11が設けられる筒状部材である。また、ピン9はブシュ7よりもやや長さの長い棒状部材である。また、ピン9の外径は、ブシュ7(孔11)の内径よりもわずかに小さい。なお、ピン9の詳細は後述する。
【0022】
図2(b)は、図2(a)のA-A線断面図である。チェーン1は、一対の外プレート3a、3bが対向して配置され、それぞれの内側に一対の内プレート5a、5bが互いに対向するように配置され、ブシュ7およびピン9で連結されて構成される。
【0023】
ブシュ7の両端部は内プレート5a、5bのそれぞれの対向する部位のブシュ嵌合孔17に嵌合されて固定される。ブシュ7の孔11には、ピン9が挿通される。ブシュ7の両端から突出するピン9の両端部は、外プレート3a、3bのそれぞれの対向する部位のピン嵌合孔13に嵌合されて固定される。
【0024】
すなわち、ピン9によって外プレート3a、3bが連結されて固定され、ブシュ7によって内プレート5a、5bが連結されて固定される。この際、ピン9の外径がブシュ7の内径よりも小さいため、ピン9はブシュ7に対して自由に回動することができる。したがって、連結された状態のチェーン1は、連結部において自由に回動し、屈曲することができる。
【0025】
なお、外プレート3a、3b、内プレート5a、5b、ブシュ7、ピン9は、ある程度の強度を有すればよく、例えばステンレス鋼を用いることができる。
【0026】
次に、ピン9の詳細について説明する。図3はピン9を示す図であり、図3(a)はピン9の平面図、図3(b)は側面図である。
【0027】
ピン9の本体部19の両端部には、外プレート嵌合部23が設けられる。外プレート嵌合部23は、本体部19よりもわずかに外径が小さく、前述した外プレート3a、3bのピン嵌合孔13に嵌合する部位である。
【0028】
本体部19の外周面には、ピン9の軸方向に略平行に複数の溝21a、21bが設けられる。溝21a、21bは、ピン9の外プレート嵌合部23以外の範囲の略全長に一直線状に連続して形成される。すなわち、溝21a、21bは、ブシュ7と接触する可能性がある部位のピン9の全長に形成される。溝21bは、少なくとも、周方向の両端部に位置する溝を含む。溝21aは、溝21bで挟まれた範囲に形成される。
【0029】
なお、溝21a、21bの本数は図示した例には限られず、少なくとも3本以上あればよい。すなわち、少なくとも2本の溝21bと、溝21bに挟まれる1本以上の溝21aが設けられれば良い。また、溝21a、21bは、チェーン1に張力がかかった際に、ピン9とブシュ7とが接触する側(図2のE部)の略半周側の所定の範囲内に配置され、他方の略半周には、溝21a、21bを形成しなくてもよい。
【0030】
それぞれの溝21a、21bには、溝21a、21bの断面形態(深さおよび幅)に応じた樹脂部材25が配置される。樹脂部材25は、潤滑剤が含浸された部材であり、例えばポリエチレンなどの多孔質体である。なお、潤滑剤としては、例えば、フッ素系の潤滑油が適用される。樹脂部材25の外面は、ピン9の外面と略同一面上またはわずかにピン9の外面から突出するように配置される。
【0031】
図3(b)に示すように、溝21aと溝21bは、周方向の幅が異なる。より詳細には、周方向の両端部に位置する溝21bの幅(図中D)が、溝21bで挟まれる少なくとも一つの溝21aの幅(図中C)よりも狭い。なお、溝21a、21bのそれぞれの幅と深さは、長手方向に一定である。すなわち、周方向に対する両端部に位置する溝21bの体積(溝21bに挿入される樹脂部材25の体積)は、溝21bで挟まれる少なくとも一つの溝21aの体積(溝21aに挿入される樹脂部材25の体積)よりも小さい。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によれば、チェーン1が連結部で回動する際に、ピン9とブシュ7との摺動部に潤滑剤が塗布される。このため、ピン9とブシュ7との摺動部の摩耗を抑え、チェーン1の動作を滑らか動作させることができる。また、ピン9の外周面に潤滑剤が含浸された樹脂部材25を配置したため、長期にわたってブシュ7とピン9との間の潤滑を行うことができる。このため、給油間隔を長くすることができる。
【0033】
また、周方向の両端部の溝21bは、幅が狭く設計される。このため、ピン9の断面積を確保することができ、強度低下を抑制することができる。一方、特に潤滑性が要求される周方向の中央近傍の溝21aの幅を広くし、樹脂部材25の体積を大きくすることで、より多くの潤滑剤を保持することができ、高い潤滑性を発揮させることができる。
【0034】
また、チェーン1は、その進行方向に力が加わるため、ピン9とブシュ7とが強く接触して摺動する部位にのみ溝21a、21bを形成することで、ピン9の強度低下の影響を抑制し、ピン9の強度を確保することができる。
【0035】
次に、他の実施の形態について説明する。図4は、溝21a、21bの形状が異なるピン9aを示す図である。ピン9aは、ピン9と異なり、溝21bの深さ(図中F)が、溝21aの深さ(図中E)に対して、相対的に浅い。この場合も、周方向に対する両端部に位置する溝21bの体積(溝21bに挿入される樹脂部材25の体積)は、溝21bで挟まれる少なくとも一つの溝21aの体積(溝21aに挿入される樹脂部材25の体積)よりも小さくなる。
【0036】
このように、周方向の両端部の溝21bは、深さが浅く形成される。このため、ピン9の断面積を確保することができ、強度低下を抑制することができる。一方、特に潤滑性が要求される周方向の中央近傍の溝21aの深さを深くし、樹脂部材25の体積を大きくすることで、より多くの潤滑剤を保持することができ、高い潤滑性を発揮させることができる。
【0037】
なお、溝21a、21bの体積を変化させることができれば、両端部に位置する溝21bの長さを、溝21bで挟まれる少なくとも一つの溝21aの長さよりも短くしてもよい。また、幅、深さ、長さのそれぞれを組み合わせて、溝21a、21bの体積を変えてもよい。なお、図示した例では、溝21a、21bがそれぞれ2本である例を示したが、体積の大きい溝21aを1本とし、溝21bを3本としてもよい。すなわち、少なくとも、周方向の両端部に位置する溝21bの体積が、この両端部の溝21bで挟まれる少なくとも1本の溝21aの体積よりも小さければよい。
【0038】
また、図5(a)に示すように、ブシュ7aの内周面に溝21a、21bを設けてもよい。この場合にも、溝21a、21bに樹脂部材25が配置され、ブシュ7aの内面に樹脂部材25が露出する。溝21a、21bは、ブシュ7aの内面の約半周の所定の範囲に、少なくとも3本以上の複数本それぞれ軸方向に平行に配置される。このように、ピン側に溝21a、21bを形成して樹脂部材25を配置するのではなく、ブシュ側に溝21a、21bを形成して樹脂部材25を配置してもよい。
【0039】
なお、この場合にも、溝21aと溝21bの深さ、幅、長さを変えて、周方向の両端部の溝21bの体積を、この両端部の溝21bで挟まれた少なくとも一つの溝21aの体積よりも小さくすればよい。
【0040】
また、図5(b)に示すブシュ7bのように、溝21a、21bに対して、内面側に突出するように略円形または略楕円形の樹脂部材25を配置してもよい。このように、略円形または楕円形の一部を、ブシュ7bの内面に突出させることで、孔11に挿入されたピン9によって樹脂部材25が強く押圧される。このため、樹脂部材25が変形し、溝21a、21b内に押し込まれる。溝21a、21bの形状は、完全に樹脂部材25の形状と一致させることは困難であるが、樹脂部材25を変形させて押し込むことで、樹脂部材25を溝21a、21bに隙間なく配置することができる。
【0041】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば、本発明は、上述した各実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、ブシュ7bの樹脂部材25を、ピン側に適用して、ピンの外周に樹脂部材25を突出させてもよい。また、ピンとブシュの両者に溝を形成して、それぞれ樹脂部材25を配置してもよい。また、本発明のチェーンは、上述したピン等を有すればよく、さらにローラ等の他の構成を用いてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1………チェーン
3a、3b………外プレート
5a、5b………内プレート
7、7a、7b………ブシュ
9、9a………ピン
11………孔
13………ピン嵌合孔
17………ブシュ嵌合孔
19………本体部
21、21a………溝
23………外プレート嵌合部
25………樹脂部材
図1
図2
図3
図4
図5