(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】溶解性ナノファイバー材料および高効率検体回収用の同材料を含む検体回収キット
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20220518BHJP
G01N 1/12 20060101ALI20220518BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220518BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
G01N1/04 G
G01N1/04 W
G01N1/12 B
G01N1/28 J
G01N1/28 X
G01N33/48 S
(21)【出願番号】P 2019538375
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 US2017067882
(87)【国際公開番号】W WO2018132244
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-14
(32)【優先日】2017-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522130472
【氏名又は名称】ルナ ラブズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ティソン、クリストファー・ケー.
(72)【発明者】
【氏名】バトラー、ブレイン
(72)【発明者】
【氏名】パターソン、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、ニコライ
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-515037(JP,A)
【文献】特開2014-227631(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0132667(KR,A)
【文献】国際公開第2015/107565(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0033336(US,A1)
【文献】米国特許第09480966(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/48-33/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血検体からのDNAの抽出を容易にして回収するための回収キットであって、前記キットは、
シリカカラムまたは官能化磁気ビーズベースのDNA単離技術によってDNAの抽出を可能にするのに十分な量の全血を収集し、保持するように適合されたスワブであって、約30,000~約300,000g/molの重量平均分子量を有する酢酸セルロースを5~50重量/体積%含む紡糸溶液から電界紡糸された平均直径が約100nm~約500nmの不織布の形態の酢酸セルロースナノファイバーを備える検体収集
スワブ、および、
前記酢酸セルロースナノファイバーを約20℃で撹拌せずに約15分間以内に溶解
し、それによって、前記全血検体からのDNAと前記溶解した酢酸セルロースナノファイバーからの酢酸セルロースを含むDNA抽出溶液を形成するのに十分な有効量の
約1~約10Mのグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)を含む溶解用液体
、を具備
し、
前記検体収集スワブは、前記シリカカラムまたは官能化磁気ビーズベースのDNA単離技術によって抽出した場合に、前記DNA抽出溶液に溶解した酢酸セルロースナノファイバーの量がDNAの回収を実質的に阻止するには不十分であるような、1mg~約50mgの前記不織布の形態の酢酸セルロースナノファイバーを含む、キット。
【請求項2】
前記溶解用液体が、最大で約99重量%の第一級アルコールを含む、請求項
1に記載のキット。
【請求項3】
前記第一級アルコールが、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
2に記載のキット。
【請求項4】
前記酢酸セルロースナノファイバーが、20~50%のアセチル化度を有する電界紡糸した酢酸セルロースから形成されている、請求項
1に記載のキット。
【請求項5】
シリカカラムまたは官能化磁気ビーズベースのDNA単離技術によって、全血検体からのDNAの抽出を容易にして回収するための方法であって、前記方法は以下の工程:
(a)
請求項1に記載の回収キットを用意すること
;
(b)
全血検体が前記酢酸セルロースナノファイバーに収集されるように、前記回収キットの検体収集スワブに全血を接触させることにより全血検体を得ること;
(c)前記回収キットの検体収集スワブの前記酢酸セルロースナノファイバーによって収集された前記全血検体を有する前記スワブを、前記回収キットの溶解用液体に入れること;および
(d)前記酢酸セルロースナノファイバーを前記溶解用液体に溶解させ、前記シリカカラムまたは官能化磁気ビーズベースのDNA単離技術によって抽出した場合に、DNAの回収を実質的に阻止するには不十分な量の前記溶解した酢酸セルロースと前記全血検体からのDNAを含有する前記DNA抽出溶液を形成させること;
を含
む方法。
【請求項6】
前記酢酸セルロースナノファイバーが、20~50%のアセチル化度を有する酢酸セルロースから形成されている、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、(a1
)前記スワブの前記ナノファイバーを
全血検体と接触させることにより、前記
全血検体を前記スワブの前記ナノファイバーにより捕捉させることを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、前記
回収キットの検体収集スワブの前記酢酸セルロースナノファイバーによって収集された前記全血検体を有する前記スワブを前記溶解用液体に浸漬して
、前記酢酸セルロースナノファイバーを溶解させることを含む、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
[政府の権利]
本発明は、国防高等研究計画庁(Defense Advanced Research Projects Agency)(DARPA)第D14PC0010号および米陸軍-陸軍研究局(US Army-Army Research Office)(USAARO)契約第W911NF-15-P-0070号およびW911NF-16-C-0113号による政府の支援により行われた。政府は、本発明に対する特定の権利を有する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年1月13日に出願された米国仮出願第62/445,868号に基づき、それからの優先権の利益を主張し、その全体の内容が参照によりここに明確に組み込まれる。
【0003】
[分野]
ここで開示される態様は、生物検体回収のために有利に使用され得る溶解性酢酸セルロースナノファイバー材料、たとえば、溶解性酢酸セルロースナノファイバー材料を含む、生物学的捕集剤からなるキット、および接触後に酢酸セルロースナノファイバー材料が溶解性である検体回収液体に一般に関する。
【0004】
[背景および概要]
新しい感染症の出現、および以前はワクチン接種や治療により制御された疾患の再流行は、前例のない公衆衛生の問題を生み出し、世界的な健康と国家安全の両方にとって重大な脅威になっている。人々や商品が世界中を動き回ることにより、原因病原体(複数可)を同定できる前に、局所的な発生が世界的な大流行になる機会が増えてきた。最近の重症急性呼吸器症候群(SARS)、多剤耐性結核、エボラウイルス性出血熱、ウエストナイルウイルス性脳炎、意図的炭疽、およびH5N1ウイルスのヒトへの感染の疾患流行により、世界的なヘルス・セキュリティに対する懸念が高まった。これらの脅威を緩和するために、バイオセキュリティ、バイオサーベイランスおよび医学的な対応策にかなりの資源が投入されてきた。感染性微生物を速やかに検出し、同定する能力は、周期的および散発的発生、新興病原体ならびにバイオテロの薬品の正確な診断に重要である。過去15年間で分子診断および病原体同定のための核酸系検出の使用に大きな技術の進歩があった。これは、臨床検査施設で同定することができる病原体の範囲を著しく拡大した。正確な検出には、高品質の生物検体が必要であり、それは、適切な収集、輸送、および貯蔵に依存する。
【0005】
正確で高感度な検出の最重要な側面の1つは、試験のためのできるだけ多くの試料の回収および試料同定である。採血では、これは、合理的タイムラインおよび痛覚閾値内でできるだけ多くの容量を得ることを意味する。しかし、他の手段を用いて得られる検体では、捕捉材を検体に変えることは極めて重要である。試料収集のために最も頻繁に使用される技術の1つは、診断試験へ移すための鼻または他の体液の捕捉用に使用される「スワブ」である。検体試料が収集される場合は、回収工程時に試料がしばしば損失する。(鼻汁は、本書で代表的試料として使用されているが、同じ問題が、鼻咽頭用綿棒、腟用または直腸用綿棒、または検体、たとえば実質的に任意の表面上に新しく堆積または乾燥した血液のいずれか、精液、唾液、または他の生物試料に対して存在する。)従来、スワブは、機械的に撹拌されて試料を回収したが、検出に必要なタンパク質、核酸、または酵素は、しばしば不可逆的にスワブ材料に結合する。スワブ内での機械的捕獲も可能である。
【0006】
さらに、捕捉材は、通過する大量の液体または気相材料から分析用の検体を捕捉するフィルターの形態で使用することができる。これは、検体の捕捉が、単純な拡散により起こる、または材料上の気体または液体の能動的なポンプ動作を使用することができる、受動的に設定された材料とすることができる。捕捉材は、経時的な捕捉の分析が可能になるテープ上に、または所定の捕捉時間で総量の材料を収集するのに使用される単一の静止フィルター上にスプールされるシステムで使用することができる。
【0007】
臨床、環境、または法医学的サンプリング時に可能な最大量の試料を捕捉し、次いで捕捉した検体を100%回収することは、疾患の診断、生物もしくは化学テロ事件または環境災害の同定にとって重要であり、および法医学的分析の成功にとって不可欠である。試料収集のために使用される既存のスワブまたはフィルターは、低い液体吸収および試料捕捉(植毛スワブ)または低い試料回収(従来の巻き付けた綿のスワブ)のいずれかである。重要な検体を捕捉することができ、試料またはその後の分析を危うくすることなく、捕捉した試料を容易に、速やかに、および完全に回収することができる材料を開発する必要がある。
【0008】
非血液関連病原体用の診断は、しばしば検体収集の道具としてスワブを使用する。たとえば、スワブは、A群連鎖球菌(Group A Streptococcus)用の喉の検体、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、インフルエンザウイルスおよびRSウイルス(RSV)用の鼻および鼻咽頭の検体、ナイセリア・ゴノレー(Neisseria gonorrhea)およびクラミジアトラコマチス(Chlamydia trachomatis)用の女性の子宮頸管または男性の尿道の検体、およびウイルス性胃腸炎用の大便用スワブを収集するのに使われる。スワブは、サンプリング部位として適切な先端部の大きさ/形状を有するべきであり、スワブ先端部の材料および微細構造は、試料マトリックス成分(たとえば、ヒト細胞、体液、および他の汚染物質)の存在下で効果的な試料捕捉および標的回収をもたらすべきである。市販のスワブは、現在、種々のスワブ先端部材料(たとえば、ナイロン、レーヨン、綿、ポリエステル、ポリウレタン、およびアルギン酸ポリマー)ならびに微細構造/形状(たとえば、密着巻き付け、編目、植毛ファイバー、および網状)を用いて利用されている。検査室環境では、スワブは、通常、ボルテックスミクシングにより撹拌されて、生体物質を伝達流体に放出し、それは、培養、免疫測定(ELISA)により分析され、またはさらに、核酸(PCR)を分析するために精製される。以下の表1は、既存のスワブ先端部組成物および代表メーカーおよび用途のリストを示す。
【0009】
【0010】
低吸収性システム(植毛、発泡体、ニットパターン)は、通常、試料の回収が確実に最大化されるように設計される。これらのスワブは、検体のスワブへの捕獲または非特異的結合を確実に最小化し、それによって回収率を高めるように設計される。したがって、これらのスワブシステムは、回収のために捕捉効率を犠牲にする。
【0011】
通常、密着巻き付けファイバーからなる高吸収性システムは、検体捕捉が確実に最大化されるように設計される。これらのシステムは、かなりの量を吸収することができるが、スワブ先端部内のバクテリア、ウイルス、および細胞片の不可逆的非特異的結合および/または捕獲のため、回収率が低い(2-10%しかない)。
【0012】
アルギン酸カルシウムスワブは、特定の緩衝剤に溶解するが、非常に高い粘度の液体試料を生じ、これは、下流での加工にしばしば適合しない。
【0013】
したがって、当該技術分野で求められてきたことは、所望の検体の実質的に完全な捕捉を保証することができ、さらに分解のために容易に溶解することができる材料である。ここで開示される態様が目指すものは、そのような要求を満たすことである。
【0014】
一般に、ここで開示される態様は、種々の制御された緩衝溶液に完全に溶解することができるナノファイバー材料システムの形態である。材料は、約20~約20000nm、たとえば、約100~約500nmの範囲の平均直径を有するナノファイバーに電界紡糸された酢酸セルロースからなる。電界紡糸は、非常に小さなファイバーが生じるように、不織布ポリマーマットがポリマー溶液から調製される技法である。この小さなファイバー直径は、独自の特性、たとえば、高い表面積、高い見掛けの気孔率、および低い総質量を生じる。酢酸セルロースは、その相対的低コストおよび種々の緩衝剤に溶解する能力のため、検体収集材料として有利である。
【0015】
本発明のこれらおよび他の側面は、現在好ましい例示的な態様の以下の詳細な説明を慎重に考慮するとより明確になるであろう。
【0016】
添付の図面を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、アセタート基を周囲に有する酢酸セルロースの構造を模式的に描写する化学式である。
【
図2】
図2は、ニードル式電界紡糸装置で個々に製造された、酢酸セルロースナノファイバーおよび対応して得られたスワブの改良を示す写真である。
【
図3】
図3は、様々なイオン液体と接触後の酢酸セルローススワブの像を示す写真である。
【
図4】
図4は、脱イオン(DI)水中での種々の濃度のグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)中の酢酸セルロースナノファイバースワブ材料の溶解を示す写真である。撹拌なしで3分間浸漬後に撮影された像。
【
図5】
図5は、標準綿スワブ(右端のスワブ)と比べた、多試料DNA溶解緩衝液での浸漬後の酢酸セルロースナノファイバースワブ(左側の2つのスワブ)を示す写真である。
【
図6】
図6は、いくつかの市販のスワブおよび本発明のスワブに対するDNAの回収(20μl血液試料、Qiagen QIAmp DNA Investigator Kitから緩衝剤を供給されたQiagen EZ1自動システム)のグラフ表示である。
【発明の詳細な説明】
【0018】
高捕捉と高回収の両方を有する材料の必要性に対処するため、種々の液体に溶解する酢酸セルロースナノファイバースワブまたはフィルター材が、ここで開示される態様により提供される。スワブまたはフィルター材は、塩、洗剤またはアルコールを含有する従来の水性緩衝液中で安定であり、したがって、通常のサンプリング工程時または日常の環境の作業時にスワブの劣化または溶解はない。しかし、材料の完全溶解は、グアニジニウムイソチオシアネート(GITC)の溶解有効量を有する緩衝剤中で1分間未満(撹拌を伴う)で起きる。
【0019】
ここで開示される材料の態様は、診断(医療)スワブ、法医学的(サンプリング)スワブ、試料「ワイプ」として、またはろ過材料として、特に有用である。ある好ましい態様では、鼻または鼻咽頭のサンプリング用の材料が提供されるが、他の使用が考えられる。たとえば、スワブは、喉の検体、子宮頸管または男性の尿道の検体、および大便の検体を収集するために使用することができる。スワブは、生物試料の法医学標本、または残留化学物質を収集するために使用することもできる。フィルター材は、環境モニタリングまたは標的空中微粒子篩過のために使用することができる。ここで開示される様々なデバイスは、特定の最終用途のために必要となり得る織布および/または不織布の形態の溶解性ナノファイバー材料を含んでもよい。
【0020】
ここで開示される態様によるナノファイバー材料を有するスワブは、サンプル収集のための標準的な手法に従い使用されるように設計され、その後の検体回収は、所望のスワブ溶解緩衝剤(約1~約10M GITC、たとえば約3~約6M GITCまたは約4M GITCの溶解有効量を必然的に含まなければならない)中で生じることになる。溶解緩衝剤は、不織布ナノファイバー捕捉材(たとえば、スワブの収集の形態である)を含有するキットに含めてもよく、またはエンドユーザーにより別に取得される緩衝剤でもよい。市販の細胞溶解緩衝液の一例は、一般的に用いられるLife Technologies製のMagMAX(商標)PCR DNAおよびRNA単離キットにより提供されるもので、これはGITCを含有する。スワブの溶解を誘発する既存のキットに付属する緩衝剤を選択することにより、本発明によるスワブの態様は、検体の加工に変化を必要とせずに実施することができる。ろ過用途では、材料は、フィルター膜間に保持され、または担体構造に接着/付着されると考えることができる。材料は、非生物検体収集および分析に使用することができる可能性もある。たとえば、水またはガス水路などでの微量金属分析。すべての用途(スワブ/フィルター)で、システムの鍵は、検体捕捉の容易さと完全な検体回収のためのナノファイバーの溶解である。
【0021】
A.酢酸セルロースナノファイバー
上記のように、ここで開示される態様は、酢酸セルロース(CA)ナノファイバー、たとえば、一緒にまたは他の非CA糸またはファイバーと製織されたCAナノファイバーの不織布塊および/または糸および/またはフィラメントの形態であるCAナノファイバーを必然的に含む。
図1に示すように、酢酸セルロースは、ここで開示される不織布ナノファイバーウェブ材料中で使用されるべき好ましいポリマーであり、木材パルプを分解し、それを硫酸の存在下で酢酸および無水酢酸と反応させることによりセルロースから誘導されるセルロースの酢酸エステルである。次いで、制御された部分的加水分解を行って、硫酸基およびアセタート基を除去する。最も一般的なCAファイバーは、グルコース当たり平均して1未満~3個のアセタート基を有する。ここで開示される態様のためのCAナノファイバーを調製するために使用される溶媒は、クロロホルム、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、アセトン、アセチルアセトン、トルエン、カルビノール、第一級アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、およびプロパノール)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジメチルアミルアミン(DMAA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、ジクロロエタン(DCE)、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、酢酸、塩酸、フッ化水素酸および同の様々な混合物を含む。
【0022】
ここで開示される態様で使用してもよい酢酸セルロースの重量平均分子量(MW)は、約30,000~約300,000g/molである。不織布ナノファイバーを製造するために、先に記載したような溶媒または溶媒混合物中で、約5~約50重量/体積%、たとえば、約10~約20重量/体積%の酢酸セルロースを使用してもよい。ここに記載される不織布ナノファイバー収集材料を形成するために十分に使用することができる1つの現在好ましい酢酸セルロースは、25~50%、たとえば、約40%のアセチル化度を有してもよい。
【0023】
ニードル式とニードルフリーの両方の電界紡糸システムは、酢酸セルロースナノファイバーの製造用として十分に使用することができ、ここに記載されるスワブおよびフィルターでの使用のためのナノファイバー材料を形成する。得られるナノファイバー直径が、約20~約2000nm、たとえば約100~約500nmであり、不織布マット厚さが、約5~約5000μm、たとえば、約50~約500μmであるならば、製造方法は、それほど重大ではない。
【0024】
個々のナノファイバーは、不定の長さの連続フィラメントであってもよい。あるいは(またはさらに)、ここでのデバイスの態様は、約0.75インチ~約7インチ、通常、約3インチ~約7インチの長さを有するステープルファイバーを含んでもよい。したがって、デバイスが織布ナノファイバーの布地を含むそれらの態様では、個々の糸は、連続フィラメントおよび/または紡いだステープルファイバーからなる多芯糸であってもよい。特定の織物パターンは重要ではない。
【0025】
従来のニードル式電界紡糸は、シリンジポンプを使用する高帯電のシリンジからのポリマー溶液の強制吐出に依存している。帯電したポリマーは、アース付き収集表面に向けて一定の距離を移動しているので、ニードル先端部からのポリマー溶液の流れは、テーラーコーンの形成を生じる。ニードルフリーシステム、たとえばElmarcoから市販されているナノスパイダー(NanoSpider)(登録商標)電界紡糸技術またはStellenbosch Nanofiber Companyから市販されているボール系電界紡糸システムは、当該のポリマーの薄膜でコーティングされた高帯電基板に依存する、これらのファイバーの製造のために使用してもよい。電圧が十分高い場合は、ポリマー溶液の強制吐出が起こり、数十または数百のナノファイバーが同時に製造される。当業者であれば、ここで開示される検体回収キットでの使用に適したナノファイバーが、実質的に任意の従来のファイバー形成方法、たとえば自己集合、紡糸口金押出し、エレクトロスプレーにより、または当該技術分野で公知の他の製造技術を使用して製造することができることを理解するであろう。
【0026】
酢酸セルロースは、シリカカラムのDNAの収率または官能化磁気ビーズ系DNA単離を妨げることになることは一般的に理解されている。この理由のため、DNA抽出で使用する場合、ここに記載される様々な生物学的収集デバイスの酢酸セルロースの量を制限することが必要かもしれない。高GITC抽出緩衝剤を有する市販のDNA抽出キット(たとえば、ThermoFisher Prepfiler(商標)法医学的DNA抽出キット、Qiagen(登録商標)EZ1 DNA Investigatorキット、Promega DNA IQ(登録商標)システム)は、最適化されて、DNA抽出を実施する一般的に用いられる量の材料と共に作動する。
【0027】
例として、市販の標準抽出プロトコールで含むことが許容される酢酸セルロースの量は、50mgの酢酸セルロース材料を超えるべきではなく、たとえば、1mg~50mgの範囲の酢酸セルロース材料である。生物試料収集デバイスを設計する際に、デバイス全体で使用する材料の量は、酢酸セルロース50mg以下に制限されなければならない、または設計は、収集デバイスの50mg以下のみのサブセットの酢酸セルロースが、DNA抽出のために使用される方法を提供すべきである。
【0028】
B.制御溶解用の緩衝溶液
下流での検出に利用できるようにするため、すべての生物検体(病原体、タンパク質など)、微量金属または当該の他の被検体の速やかな放出を促進するために、電界紡糸した酢酸セルロースファイバースワブの速く完全な溶解が実現することが、ここで開示される態様にとって重要である。高温および長い期間は、生物検体試料分析に適合しないので、溶解緩衝溶液は、a)適度な周囲温度(たとえば、約20℃の室温)、b)最小の撹拌要件、c)短い時間枠、およびd)捕捉した生物検体試料または被検体に劣化がないの条件で、酢酸セルロースナノファイバーを溶解する能力がなければならない。これらの要件を実現するために、酢酸セルロースナノファイバー材料の制御溶解が、グアニジニウムイソチオシアネート(GITC)、たとえば1~10MのGITC溶液、通常、約3~約6M GITC(たとえば、約4M GITC)の溶解有効量を含有する溶液と接触することにより実施されることが必要である。さらに、酢酸セルロースナノファイバー-含有収集デバイスを用いて使用されるDNA抽出法は、様々なDNA抽出方法で使用される液体試薬の体積、量、および濃度を増加することにより最適化されて、生体物質の回収を最大化することができる。
【0029】
溶解緩衝剤は、第一級アルコール、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノールなどを最大で99重量%さらに含んでもよく、たとえば70重量%未満、通常、約10重量%~約70重量%、たとえば、約30重量%~約50重量%の量で存在し得る。第一級アルコールをGITCと組み合わせて使用する場合は、溶解緩衝剤中のGITCの濃度を、たとえば、約1~約4M(GITC)に減らしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下の変数を使用する以下の材料は、ここで開示される態様のナノファイバー材料を実験室規模で製造するために首尾よく使用することができる。
【0031】
【0032】
製造方法、ファイバーの回収方法、溶媒、および利用するCAの濃度、これらすべてが、以下で議論するように、スワブの吸収および放出速度に影響を及ぼす。酢酸セルロースの使用は、以下で議論するように、種々の低コスト合成方法が可能であり、速やかな溶解が可能になるので、ここで開示される態様の重要な側面である。化学的性質(酢酸セルロース)と材料形態(ナノファイバー)を組み合わせると、検体の効果的捕捉および回収に必要な独自の挙動が得られる。
【0033】
代表的な酢酸セルロースナノファイバー材料、およびそのような方法により作製し、得られる材料を先端部に付けたスワブの顕微鏡写真を
図2に示す。
図2に示す材料は、酢酸セルロースナノファイバー(および結果として得られたスワブ)製造の改良を示し、材料の第一世代は、ニードル式電界紡糸装置で個々に製造され、他方、その後のスワブ材料は、「ナノスパイダー(登録商標)システム」として知られるパイロットスケール製造システムで製造された。このシステムにより、1日当たり約10平方フィートの規模の製造が可能になり、1日当たり約10,000平方フィートを製造するシステムに直接スケールアップすることができる。
【0034】
酢酸セルロースは、他の合成ポリマーを用いて共電界紡糸して、特定の用途用の向上した機械的特性をもたらしてもよい。たとえば、酢酸セルロースは、少量(たとえば、50重量%未満、好ましくは20重量%未満)のポリウレタンを用いて共電界紡糸して、法医学的用途で粗くまたは複雑な表面のサンプル収集のための柔軟性のより高い材料を得ることができる。20重量%のポリウレタンを用いて共電界紡糸した酢酸セルロースの特定の混合物が形成され、緩衝溶液中で完全なスワブ溶解が観察された。酢酸セルロースを用いて共電界紡糸することができる、ポリウレタン以外の追加のコポリマーは、非限定例として、スターチ、グルテン、コラーゲン、ナイロン-6、ポリ(D、L-乳酸)(PDLLA)、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン(PCL)、ナイロン6/12およびそれらの混合物を含む。
【0035】
約50重量%未満、通常、20重量%未満(たとえば、約1~約20重量%)の濃度で酢酸セルロースを用いて電界紡糸してもよい例示的な界面活性剤には、TRITON(商標)X-100非イオン界面活性剤、TWEEN(登録商標)80非イオン界面活性剤などが含まれる。
【0036】
例示的緩衝溶液は、酢酸セルロース溶解用の小さなモル分率のイオン液体を含有する有機電解質溶液を含む。これらの溶液は、未加工のセルロースを3分間未満で[1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩化物(BMIMCl)+1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)]、および場合によってはさらに瞬時に[1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート(EMIMAcO)+DMI]溶解することが観察された。イオン液体は高価であるため、スワブを溶解するためにグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)、カオトロピック塩の使用を調査した。
図4に示すように、少なくとも4M GITCの濃度を含有する液体が、第一級アルコール(たとえば、エタノール)がない場合に適切な時間枠(室温(20℃)で15分間未満)内で完全に溶解するために必要である。さらに、標準溶解緩衝液もスワブを溶解できることが確認された。一成分としてGITCを含有する多試料DNA溶解緩衝液(MagMAX(商標)キット、Life Technologies)での3分間の浸漬後に、
図5に示すように、スワブはほぼ完全に溶解する。標準綿スワブ(
図5の右側)は、明確な溶解を示さない。
【0037】
以下の表3に示す多数の微生物に対して、スワブを評価した。
【0038】
【0039】
法医学的用途用の乾燥全血からのDNAの捕捉および回収も調査した。酢酸セルロースナノファイバーを含有するスワブを使用(DI水約50μLを用いて予め湿潤した後)して、所定数の乾燥赤血球を表面から捕捉した。次いで、自動試料回収およびDNA分析のためにQiagen EZ1 Biostationを利用した。結果は、EZ1 Biostation(Qiagen、自動)を用いて分析する場合、種々の他のスワブと比較して向上した回収率を示した。これは、以下の表4に示すように、20μLでの他のすべての試験した法医学的サンプリングスワブと比較して実質的に改善している。
図6に図示するように、5μL血液の捕捉および回収の性能は、植毛スワブと同等である。
【0040】
【0041】
スワブは、患者からの試料収集または様々な表面(基板)からの法医学的試料の収集のために製造してもよい。スワブは、種々の既存のもしくは開発用の分子診断デバイスへの直接統合のため、または安定化緩衝剤もしくは輸送用マトリックスを用いる使用のために利用してもよいと考えられる。これらの安定化システムは、従来のUniversal Transport Matrix(UTM、ウイルス)、アミーズ培地または寒天培地、または他のゲル、液体、媒体、もしくは緩衝剤とすることができ、これらは試料内のバクテリアもしくはウイルス活性のいずれか、またはDNA、RNA、およびタンパク質を安定化する。スワブは当然、輸送時にスワブの溶解が確実に起きず、研究室の適切な回収緩衝剤へ確実に移すために、特定の輸送用培地に溶解してはならない。ここで開示される態様による酢酸セルローススワブについて、以下の表5に示す輸送用培地との適合性(48時間超溶解なし、貯蔵後のDNA/RNA回収が実証される)が確認された。これに関して、GITCを全く含有しない培地または緩衝剤を試験したが、スワブの溶解または劣化の徴候は得られなかったことが示される。
【0042】
【0043】
法医学的試料の使用では、スワブは、予め湿潤して届くか、または湿潤させるかのいずれかの後に乾燥試料を収集し、次いで、診断検査所への輸送のために乾燥貯蔵容器に移されることになる(場合によっては乾燥剤を用いる)。フィルターとしての使用では、ナノファイバー膜は、担体構造に取り付けられ、次いで、分析の前に乾式または湿式貯蔵のため除去されることになる。
【0044】
本発明を、最も実用的で好ましい態様と現在考えられるものに関連して記述してきたが、本発明は開示される態様に限定されず、それどころか、その趣旨および範囲内に含まれる様々な改変および等価の配置を網羅することを意図することを理解されたい。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] グアニジニウムイソチオシアネート(GITC)の溶解有効量を含む液体との接触時に溶解することができる酢酸セルロースナノファイバーを含む、生物検体回収材料。
[2] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約20~約20000nmの平均直径を有する、[1]に記載の材料。
[3] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、不織布または織布構造の形態である、[1]に記載の材料。
[4] 前記材料が、約5~約5000μmの厚さを有する、[1]に記載の材料。
[5] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、電界紡糸されている、[1]に記載の材料。
[6] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約30,000~約300,000g/molの重量平均分子量を有する酢酸セルロースを5~50重量/体積%含む溶液から電界紡糸されている、[5]に記載の材料。
[7] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、20~50%のアセチル化度を有する、電界紡糸した酢酸セルロースから形成されている、[1]に記載の材料。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の前記生物検体回収材料を備える、検体収集デバイス。
[9] 前記デバイスが、スワブ、フィルターまたは表面ワイプである、[8]に記載の検体収集デバイス。
[10] 前記デバイスが、50mg未満の前記酢酸セルロースナノファイバーを備える、[9]に記載の検体収集デバイス。
[11] 酢酸セルロースナノファイバーを備える検体収集デバイス、および、前記酢酸セルロースナノファイバーを約20℃で撹拌せずに約15分間以内に溶解するのに十分な有効量のグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)を含む溶解用液体を具備する生物検体回収キット。
[12] 前記溶解用液体が、約1~約10MのGITCを含む、[11]に記載のキット。
[13] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、不織布または織布構造の形態である、[11]に記載のキット。
[14] 前記デバイスが、スワブ、フィルターまたは表面ワイプである、[13]に記載のキット。
[15] 前記検体収集デバイスが、50mg未満の前記酢酸セルロースナノファイバーを備える、[14]に記載のキット。
[16] 前記溶解用液体が、最大で約99重量%の第一級アルコールを含む、[11]に記載のキット。
[17] 前記第一級アルコールが、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択される少なくとも1つである、[16]に記載のキット。
[18] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約50~約5000nmの平均直径を有する、[11]に記載のキット。
[19] 前記材料が、約5~約5000μmの厚さを有する、[11]に記載のキット。
[20] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、電界紡糸されている、[11]に記載のキット。
[21] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約30,000~約300,000g/molの重量平均分子量を有する酢酸セルロースを5~50重量/体積%含む溶液から電界紡糸されている、[11]に記載のキット。
[22] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、20~50%のアセチル化度を有する電界紡糸した酢酸セルロースから形成されている、[11]に記載のキット。
[23](a)分析すべき生物試料を含有する酢酸セルロースナノファイバーを含む生物検体回収材料を用意すること;および
(b)前記酢酸セルロースナノファイバーを溶解するために、前記酢酸セルロースナノファイバーをグアニジニウムイソチオシアネート(GITC)の有効量を含む溶解用液体に接触させることにより前記酢酸セルロースナノファイバーを溶解し、それによって前記生物検体を回収すること
を含む生物試料を得る方法。
[24] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約20~約5000nmの平均直径を有する、[23]に記載の方法。
[25] 前記材料が、約50~約500μmの厚さを有する、[23]に記載の方法。
[26] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、電界紡糸されて、その不織布塊を形成している、[20]に記載の方法。
[27] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、約30,000~300,000g/molの重量平均分子量を有する酢酸セルロースを5~50重量/体積%含む溶液から製造されている、[23]に記載の方法。
[28] 前記酢酸セルロースナノファイバーが、20~50%のアセチル化度を有する酢酸セルロースから形成されている、[23]に記載の方法。
[29] 工程(a)が、(a1)前記酢酸セルロースナノファイバーを含むスワブを用意すること、および(a2)前記スワブの前記ナノファイバーを標的位置と接触させることにより、前記生物検体を前記スワブの前記ナノファイバーにより捕捉させることを含む、[23]に記載の方法。
[30] 前記溶解用液体が、約1~約10MのGITCを含む、[23]に記載の方法。
[31] 前記溶解用液体が、最大で約99重量%の第一級アルコールを含む、[30]に記載のキット。
[32] 前記第一級アルコールが、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群から選択される少なくとも1つである、[31]に記載のキット。
[33] 工程(b)が、前記生物検体回収材料を前記溶解用液体に浸漬して、それの前記酢酸セルロースナノファイバーを溶解させることを含む、[23]に記載の方法。