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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20180101AFI20220518BHJP
   A01G 27/06 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
A01G9/02 F
A01G27/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020102466
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021193928
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】516180737
【氏名又は名称】大幅 元吉
(74)【代理人】
【識別番号】100154335
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】大幅 元吉
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102171(JP,A)
【文献】特開2010-110297(JP,A)
【文献】特開2016-007364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 - 9/08
A01G 27/00 -27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に通水孔が設けられた以外は開口部が存在しない貯水容器と、土壌が収容されるとともに底部に透水性を有する植物栽培容器と、前記貯水容器の底面から前記植物栽培容器の底面までの間に敷かれた潅水シートと、を有し、
前記貯水容器と前記植物栽培容器とを間隔が生じるように設置し、その間隔に位置する前記潅水シートを前記植物栽培容器が前記貯水容器より上方となるように垂直方向に折り曲げることにより、前記植物栽培容器と前記貯水容器との高低差を一定に保持し、
前記通水孔を介して前記貯水容器より前記潅水シートに浸透した水により、前記植物栽培容器と前記潅水シートとが密着し、前記土壌が乾燥すると前記潅水シートに毛管負圧が発生して、この毛管負圧に対応する水量の潅水が前記土壌に行われることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記貯水容器の底部の形状と、前記通水孔の位置、形状および大きさとが、下記(1)~(3)の条件を満たす請求項1に記載の植物栽培装置。
(1)前記貯水容器内の水が重力により前記通水孔を介して漏れない
(2)前記潅水シートの前記貯水容器が置かれた部分の水分が不飽和状態の際には、当該シートに前記通水孔を介して前記貯水容器内の水が供給される一方、前記潅水シートの前記貯水容器が置かれた部分の水分が飽和状態の際には、当該シートへの貯水容器内の水の供給が停止される
(3)前記貯水容器の底面と前記潅水シートとの接触面積が、前記潅水シートの毛管現象を妨げないように狭められている
【請求項3】
前記貯水容器は底部に斜面が形成され、この斜面に前記通水孔が前記貯水容器の置かれた前記潅水シート面と接する位置に直径2~7mmの円形状に設けられ、
前記貯水容器は、底面に周方向に沿って一定間隔で形成された凸部により前記潅水シート面と接する請求項1または2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記潅水シートを垂直方向に折り曲げることによる植物栽培容器と前記貯水容器との高低差は、当該潅水シートの含水率と前記土壌の水分とを考慮して決定される請求項からのいずれかに記載の植物栽培装置
【請求項5】
前記潅水シートを垂直方向に折り曲げることによる植物栽培容器と前記貯水容器との高低差は、8~10cmである請求項からのいずれかに記載の植物栽培装置
【請求項6】
前記潅水シートは、垂直方向に懸垂させた際に最大で20cmの高さまで水を吸い上げることが可能な不織布である請求項1からのいずれかに記載の植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潅水シートの毛管現象により潅水を行う植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
底面給水法は、土壌表面の通気性を維持しながら、植物の吸水量に見合う分量の水を給水できるので、優れた潅水方法としてよく知られている。この方法は、たとえば図6に示すように、土壌の入ったポット等の栽培容器Cの下方に水タンク(貯水容器)Aを設け、ここから紐状あるいは布状の潅水シートBにて、その上方に位置する土壌に潅水する方法であり、これにより土壌に植えられた植物Dを栽培する。
【0003】
この方法によれば、水タンクを満水にしておけば、しばらくは水やりの心配はいらず、室内やベランダのみならず、屋外などで植物を栽培する場合を含めて広く使用されている。たとえば、本出願人が提案する特許文献1の植物栽培装置もこの方法を活用した提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-221150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の底面給水法では、水タンクの水位が次第に低下するに連れ、土壌の水分が減少し、常に水分が変動する懸念がある。そのため、加湿状態を余儀なくされる。
【0006】
また、水タンクが栽培容器の下方に位置する構成上、水がタンク内に、どの程度だけ残っているかを判断し難い。
【0007】
さらに、水タンクへの注水口が大気に開放されているため、害虫が侵入するなどして衛生的な管理上の問題がある。また、水タンクが開放されていることに伴い、水タンクが広い自由表面を有し、夏場などの激しい蒸発作用で、養液を混合させた場合に、その濃縮も起こり易い。
【0008】
底面給水法は、80年以上の歴史がある方法であるが、これらの問題は、当該方法の利便性が注目されるあまり陰に隠れ、見過ごされて来たと言える。
【0009】
本発明の目的は、これらの問題がない植物栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、次の知見を得た。つまり、底部に通水孔が設けられた以外は開口部が存在しない貯水容器と土壌が収容された透水性の植物栽培容器とを潅水シート上に置き、通水孔を介して潅水シートに水を浸透させ、この潅水シートの毛管現象にて土壌に潅水を行う。これにより、土壌水分量を一定に保ち、貯水容器からの吸水量の計量を容易とし、かつ、その衛生確保や水面からの蒸発の防止ができると言う知見である。
【0011】
本発明は、この本発明者の知見に基づき、上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0012】
<1> 底部に通水孔が設けられた以外は開口部が存在しない貯水容器と、土壌が収容されるとともに底部に透水性を有する植物栽培容器と、前記貯水容器の底面から前記植物栽培容器の底面までの間に敷かれた潅水シートと、を有し、前記貯水容器と前記植物栽培容器とを間隔が生じるように設置し、その間隔に位置する前記潅水シートを前記植物栽培容器が前記貯水容器より上方となるように垂直方向に折り曲げることにより、前記植物栽培容器と前記貯水容器との高低差を一定に保持し、前記通水孔を介して前記貯水容器より前記潅水シートに浸透した水により、前記植物栽培容器と前記潅水シートとが密着し、前記土壌が乾燥すると前記潅水シートに毛管負圧が発生して、この毛管負圧に対応する水量の潅水が前記土壌に行われることを特徴とする植物栽培装置である。
【0014】
> 前記貯水容器の底部の形状と、前記通水孔の位置、形状および大きさとが、下記(1)~(3)の条件を満たす<1>に記載の植物栽培装置である。
(1)前記貯水容器内の水が重力により前記通水孔を介して漏れない
(2)前記潅水シートの前記貯水容器が置かれた部分の水分が不飽和状態の際には、当該シートに前記通水孔を介して前記貯水容器内の水が供給される一方、前記潅水シートの前記貯水容器が置かれた部分の水分が飽和状態の際には、当該シートへの貯水容器内の水の供給が停止される
(3)前記貯水容器の底面と前記潅水シートとの接触面積が、前記潅水シートの毛管現象を妨げないように狭められている
【0015】
> 前記貯水容器は底部に斜面が形成され、この斜面に前記通水孔が前記貯水容器の置かれた前記潅水シート面と接する位置に直径2~7mmの円形状に設けられ、前記貯水容器は、底面に周方向に沿って一定間隔で形成された凸部により前記潅水シートと接する<1>または<2>に記載の植物栽培装置である。
【0016】
> 前記潅水シートを垂直方向に折り曲げることによる植物栽培容器と前記貯水容器との高低差は、当該潅水シートの含水率と前記土壌の水分とを考慮して決定される<>から<>のいずれかに記載の植物栽培容器である。
【0017】
> 前記潅水シートを垂直方向に折り曲げることによる植物栽培容器と前記貯水容器との高低差は、8~10cmである<>から<>のいずれかに記載の植物栽培容器である。
【0018】
> 前記潅水シートは、垂直方向に懸垂させた際に最大で20cmの高さまで水を吸い上げることが可能な不織布である<1>から<>のいずれかに記載の植物栽培装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の植物栽培装置は、貯水容器の底部に設けられた通水孔を介して潅水シートに水を浸透させ、植物栽培容器の土壌が乾燥すると潅水シートに毛管負圧が発生して、この毛管負圧に対応する水量の潅水が土壌に行われるので、土壌水分量を一定に保つことができる。また、蓋付貯水容器の底面から植物栽培容器の底面までの間に潅水シートが敷かれているので、貯水容器内からの吸水量を計量し易い。さらに、貯水容器は、通水孔以外は開口部が存在しないので、害虫の侵入などがなく衛生を確保できるとともに、水面からの蒸発を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の植物栽培装置の概略構成図である。
図2図2は、植物栽培容器の詳細についての説明図である。
図3図3は、植物栽培容器と貯水容器との高低差と、潅水シートの含水率との関係を示すグラフである。
図4図4(a)は通水孔の詳細についての説明図であり、図4(b)は貯水容器底部の形状についての説明図である。
図5図5は、本発明の植物栽培装置の一例を示す写真である。
図6図6は、従来の底面給水法による植物栽培装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の植物栽培装置の概略構成図であり、図2は植物栽培容器の詳細についての説明図である。また、図3は植物栽培容器と貯水容器との高低差と、潅水シートの含水率との差関係を示すグラフ、図4(a)は通水孔の詳細についての説明図、図4(b)は貯水容器底部の形状についての説明図、図5は本発明の植物栽培装置の一例を示す写真である。
【0022】
図1に示すように、本発明の植物栽培装置1は、貯水容器2と、潅水シート3と、植物栽培容器4とを備え、この植物栽培容器4に土壌が収容され、この土壌内に栽培される植物Pが植えられる。
【0023】
潅水シート3は、少なくとも貯水容器2の底面から植物栽培容器4の底面までの間に、両容器全体が載るように敷かれている。また、貯水容器2と植物栽培容器4とは、潅水シート3上に間隔が生じるように置かれており、この間隔部分の潅水シート3が垂直方向に折り曲げられ、植物栽培容器4が貯水容器2より上方に位置するように一定の高低差hが設定されている。
【0024】
植物栽培容器4は、潅水シート3が接触する面において、透水性を有し、根の侵入を防止することが必要である。そこで、植物栽培容器4の底部には、防根透水布カップ5が設けられている。詳しくは、図2に示すように、防根透水布カップは、植物栽培容器の底面の孔より挿入されており、このカップの底が潅水シート面と同一面をなすようにして、潅水シートとの密着を促している。これにより、土壌-防根透水布カップ-潅水シートがそれぞれ密着するように接触し、水の輸送性を高めている。防根透水布カップとしては、透水性の付与と根の侵入防止機能を有するカップであれば、通常知られたものを適宜選択すればよく、たとえば、東洋紡STC社製の防根透水シートBKS0812Gを素材とした防根透水布カップを、好適に用いることができる。
【0025】
貯水容器2は、図1では見えないが、底部に通水孔が設けられており、この通水孔を介して潅水シート3に給水するようになっている。一方、通水孔以外は開口部が存在しないように、内部に水や養液を入れた後は、蓋により密閉される。この貯水容器2は、内部の水等の残量を目視で把握し易いように、一部または全部が透明であることが好ましく、目盛りを付すと、精確に計量できるので、より好ましい。このような透明の容器としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレートからなり、いわゆるPETボトルと呼ばれる市販の飲料容器の使用済みのものが、敢えて購入する必要がないので好適に用いることができる。
【0026】
潅水シート3は、垂直方向に懸垂させた際に20cm程度の高さまで水を吸い上げることが可能な、高い吸収性を有するシートが好ましい。そのようなシートとしては、通常使用される多孔質かつ親水性の繊維シートから適宜選択すればよいが、市販品としては、たとえば、東洋紡STC社製のコスモ(登録商標)A-1(以下、単に「A-1」と称する。)を、特に好適に用いることができる。
【0027】
潅水シート3を垂直に折り曲げることによる高低差hは、潅水シートBの含水率と土壌の水分とを考慮して決定する。
【0028】
たとえば、潅水シート3として、上述のA-1を使用した場合の含水率の測定データを、図3に示す。図3において、含水率の測定は、気温20℃、相対湿度50%の環境下にて、潅水シート3を垂直方向に懸垂し、本発明の植物栽培装置1の貯水容器2から浸透した水を吸水させて12時間経過し、潅水シート3の水分が定常状態に達した後に行った。図3に示すように、潅水シート3の含水率は、高低差h=0cmで100%、つまり飽和の状態から次第に減少し、h=20cmで0%、つまり乾燥状態となる。一方、土壌の水分特性は、固相・液相・気相の三相の割合と構成資材による。そして、植物の適する土壌水分は、経験的知見が考慮される。これによれば、たとえば、市販の培養土を用いた草花や作物の植栽では、hは8~10cm程度が好適である。
【0029】
潅水シート3に給水を行う貯水容器2と、その通水孔は、下記の三条件を満たすように、貯水容器2の底部の形状と、前記通水孔の位置、形状および大きさとが決定される。
(1)貯水容器2内の水が重力により通水孔を介して漏れない。
(2)潅水シート3の貯水容器2が置かれた部分の水分が不飽和状態の際には、潅水シート3に通水孔を介して貯水容器2内の水が供給される一方、潅水シート3の貯水容器2が置かれた部分の水分が飽和状態の際には、潅水シート3への貯水容器内の水の供給が停止される。
(3)貯水容器2の底面と潅水シート3との接触面積が、潅水シート3の毛管流動現象を妨げないように狭められている。
【0030】
この三条件を満たすために、図4(a)に示すように、貯水容器2として、底部に斜面があるボトルを用い、通水孔は、貯水容器の斜面に、貯水容器の最も下方の位置、つまり潅水シート3の表面と接する位置に、円形状に設けられる。また、通水孔を介して供給される水の量は、通水孔の直径に依存するため、土壌と植物とにより形付けられる系の最大吸水量に見合う大きさに決定され、通常2~10mm程度であり、2~9mm程度が好ましく、図4(a)にもあるように2~7mm程度が、より好適である。なお、図4(a)中、Z方向から矢視した通水孔の図における点線は、通水孔を大きく形成する場合の配置を示している。
【0031】
また、通水孔は、必ずしも上述の三条件を満たさなくても、たとえば、貯水容器2の底面に水平に設けたり、貯水容器2の底部の角を含むように斜めに切断することで開孔して、上述した2~7mm程度の好適な大きさに形成してもよい。さらに、この通水孔は、表面張力の差異等の貯水容器2内に入れて使用する水や養液の性質、貯水容器2の底部の形状との関係などを考慮しながら、上述の三条件を満たすように、若干大きめな径に形成してもよいし、たとえば楕円形等の若干異なる形状としてもよい。
【0032】
一方、図4(b)に示すように、貯水容器の底部には、底面に円周方向に沿って四か所に平面視で楕円形をなす凸部が形成されており、この凸部が貯水容器の最下方位置となり、潅水シート3と接するようになっている。つまり、凸部のみで潅水シート3と接するようにしてシートとの接触面積を狭くしている。ここで、図4(b)の例では、凸部は長径15mm、短径10mmの楕円形からなり、貯水容器の最下方位置から15mmの位置まで斜面が形成され、径方向の凸部間は最下方位置から上方に3mm凹んでいる。ただし、具体的な貯水容器の底部形状は、図4(b)に示した配置に限らず、貯水容器の貯水容積に応じ、上述の三条件を満たすよう適宜に設計すればよい。
【0033】
このような構成としたことにより、本発明の植物栽培装置1では、通水孔から水の表面張力を破って潅水シート3に水が浸み出す。また、土壌への給水の駆動力は、土壌の乾燥により発生する潅水シート3の毛管負圧となる。つまり、土壌の乾燥により潅水シート3から水が吸い上げられ、潅水シート3は次第に乾燥して毛管負圧が上昇する。その値が貯水容器内の負圧より大きくなると、力学的な平衡状態が破れ、貯水容器からその分の水が吸い出される。そのため、潅水シート3は、毛管負圧に対応する量の潅水を過不足なく行う給水センサの役割を果たすことになる。
【0034】
従来の底面給水法では、水の輸送は、植物の吸水によって土壌が乾燥すると負圧が発生し、この負圧を駆動力とする毛管現象により土壌粒子の隙間を通って水が吸い上げられる。土壌―植物―大気連続体(SPAC)モデルにしたがうと、この時の吸水量は、土壌の水ポテンシャル(Ψs)と水タンク水面の水ポテンシャル(Ψw=0)の差に比例することになる(P.J.Kramer,「水環境と植物」養賢堂 1986,pp.195-206)。そのため、土壌水分量は土壌と水面の高低差h図6参照)の変化に伴い常に変動する。
【0035】
これに対して本発明は、マリオットの法則にしたがうマリオット方式と言える。つまり、潅水シート3上に置かれた貯水容器2の底に通水孔が設けられており、これを介して給水されるため、土壌と潅水シート3下端との間の水ポテンシャル差(高低差hに相当)を常に一定値に維持することができる。貯水容器2の底が潅水シート3と非接触の状態では、通水孔には水の自由表面が形成され、水は流出しない。そして、貯水容器2の底が潅水シート3と接触すると、通水孔の自由表面は重力により下側に湾曲する形状をなして潅水シート3と接する。そのため、潅水シート3上に貯水容器2を置いた場合、潅水シート3の水分が不飽和状態であれば、通水孔を介して吸水が行われ、飽和状態になると同時に、この吸水現象は止まる。一方、土壌が乾燥して負圧が発生する場合、それに連なる潅水シート3の保持する水分が、負圧を駆動力とする毛管流動により土壌に流入するため、潅水シート3の貯水容器2と接する場所の水分は不飽和状態となり、通水孔からその負圧差に見合う水が貯水容器2から流出する。つまり、通水孔と接する潅水シート3が不飽和状態になると吸水が始まるので、給水センサがONになるのと同様の挙動をし、飽和状態に達すると吸水が終わるので、給水センサがOFFになるのと同様の挙動をすることになるのである。
【0036】
以上の構成および作用により、本発明は、下記(a)~(h)のようなメリットが得られることになる。
(a)センサや制御装置を一切、使わない自立型装置である。
(b)通水孔は、植物栽培装置の規模・目的により適宜に設計できる。
(c)貯水容器として満水ボトルを置くのみで、常に等しい土壌水分が維持できる。
(d)水が密閉管理され、水面蒸発や養液の濃縮が起こらない。
(e)通水孔以外に開口部が一切、存在しないので、衛生かつ安全な給水ができる。
(f)給水は1ccレベルで、常時、精密に行うことができる。
(g)透明な貯水容器では、吸水現象を気泡の動きから観察できる。
(h)貯水容器に目盛りを付せば、吸水量を即座に精確に計量できる。
【0037】
このように、本発明は、従来の諸問題を確実に解消して、多様なニーズに応えることが可能となる。
【0038】
本発明の植物栽培容器1を用いる場所としては、室内、ベランダ、屋外を想定している。ここで、屋外の場合、降雨で土壌水分は加湿状態となり、雨水は重力により排水される。この際に、潅水シート3の水分は、定常状態となるまで、排水は続く。この排水中は当然、潅水シート3は飽和状態となっており、貯水容器からの水の流れが遮断され、雨水が貯水容器に浸入しない。これにより、水は混濁することなく衛生的に維持できる。また、液肥などの養液を混入してある場合でも、そのままの濃度が維持される。したがって、潅水シート3の自立潅水作用が、土壌の乾燥時のみならず、加湿時でも発揮されることとなる。つまり、潅水シート3は、土壌の水分を、常時、最適値に維持できるような制御作用を果たすことができる。
【0039】
[実施例]
貯水容器2として使用済みのPETボトルを用い、潅水シート3として東洋紡STC社製のA-1を使用し、かつ、植物栽培容器4として、市販の植栽ポットの底部に、防根透水シートBKS0812Gを素材とした防根透水布カップ5を挿入し、図5に示すように、本発明の植物栽培装置10を実際に作製した。貯水容器2に液肥を含む水を入れるとともに、植物栽培容器4に市販の培養土を入れ、この培養土内に植物Pを植えて2か月半に亘って栽培したところ、図5からわかるように、植物Pは健常な状態で生育することができた。このことからも、本発明の植物栽培装置では、潅水シートを実質的な給水センサとして、植物に最適な土壌水分を、無動力で維持できていると言える。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、本発明の植物栽培装置は、上記実施の形態に限定されず、その範囲内で想定されるあらゆる技術的思想を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、室内、ベランダ、屋外などで潅水シートの毛管現象により潅水を行って植物を栽培する際に、広く用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1,10 植物栽培装置
2 貯水容器
3 潅水シート
4 植物栽培容器
5 防根透水布カップ
P 植物
(植物栽培容器と貯水容器との)高低差

図1
図2
図3
図4
図5
図6