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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】同期電動機の位置センサレス制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20220518BHJP
   H02P 6/18 20160101ALI20220518BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P6/18
H02P27/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018041263
(22)【出願日】2018-03-07
(65)【公開番号】P2019161705
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小川 優司
(72)【発明者】
【氏名】守屋 英朗
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-199389(JP,A)
【文献】国際公開第2012/153794(WO,A1)
【文献】特開2007-014198(JP,A)
【文献】特開2017-073877(JP,A)
【文献】特開2004-180354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
H02P 6/18
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の電流指令に基づき電圧ベクトルを生成する電圧ベクトル生成部と、前記電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子とを有し、前記電圧ベクトルに応じて前記スイッチング素子を駆動させることにより、同期電動機に電圧を出力する同期電動機の位置センサレス制御装置であって、
前記電圧ベクトル生成部は、前記電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルに設定する制御を含むものであり、
現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、前記検出信号と前記規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、前記磁極位置誤差補正値に基づいて前記推定磁極位置を補正するセンサレス制御部を備え
前記センサレス制御部は、前記複数相に含まれた2相の一方の前記検出信号と他方の前記規範信号との積と、前記複数相に含まれた2相の他方の前記検出信号と一方の前記規範信号との積との差に基づいて、前記電流偏差差分を検出することを特徴とする同期電動機の位置センサレス制御装置。
【請求項2】
前記センサレス制御部は、前記複数相に含まれた2相の一方の前記検出信号と他方の前記規範信号との積と、前記複数相に含まれた2相の他方の前記検出信号と一方の前記規範信号との積との差を、ローパスフィルタを通して、前記電流偏差差分を検出する請求項に記載の同期電動機の位置センサレス制御装置。
【請求項3】
前記検出信号は、所定時間ごとの電流変化量に基づいて得られる請求項1又は2に記載の同期電動機の位置センサレス制御装置。
【請求項4】
d軸及びq軸の電流指令とd軸及びq軸の電流検出値に基づき電圧ベクトルを生成するPWM制御部と、前記電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子とを有し、前記電圧ベクトルに応じて前記スイッチング素子を駆動させることにより、同期電動機に電圧を出力する同期電動機の位置センサレス制御装置であって、
前記PWM制御部は、前記電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルに設定する制御を含むものであり、
現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、前記検出信号と前記規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、前記磁極位置誤差補正値に基づいて前記推定磁極位置を補正するセンサレス制御部を備え
前記センサレス制御部は、前記d軸の前記検出信号と前記q軸の前記規範信号との積と、前記q軸の前記検出信号と前記d軸の規範信号との積との差に基づいて、前記電流偏差差分を検出することを特徴とする同期電動機の位置センサレス制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置センサを用いて同期電動機の磁極位置を検出することなく、同期電動機を駆動制御する同期電動機の位置センサレス制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機(以下、必要に応じて単にモータという)の高出力化を行うためには、モータを高周波領域で駆動する必要がある。
【0003】
特許文献1には、高周波領域でモータを駆動することに適した電圧ベクトル制御による制御装置が提案されている。
【0004】
また、断線防止や部品コスト低減の面から、位置センサによりモータの磁極位置を検出することなく、モータを駆動制御する位置センサレス制御が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-184395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、特許文献1の電圧ベクトル制御装置を用いた高周波領域でのモータ制御に、位センサレス制御を採用することを考える。
【0007】
電圧ベクトル制御において、ゼロ電圧ベクトル設定時は,モータの入力電圧はゼロになり、誘起電圧だけを検出することができる可能性があるためである。
【0008】
この時の状態を具体的に説明すると、下記のようになる。
V = L*di/dt + R*i + e (1)
e = -Ke * ω * sin(ω*t) (2)
L*di/dt >> R*i (3)
【0009】
ここで、Vはモータの入力電圧、eは誘起電圧、di/dtは単位時間当たりの電流変化量である。ゼロ電圧ベクトル設定時の等価回路は、図8(a)になり、Vはゼロになる。
このとき、式(1)~(3)は、下記のようになる。
di/dt = (Ke*ω/L)*sin(ωt) (4)
【0010】
式(4)により、電流変化量di/dtを算出してプロットすると、図8(b)のように、誘起電圧は正弦波状になる。誘起電圧が正弦波状であれば、例えば、ゼロクロスタイミングに基づいて、モータの磁極位置を推定できる。
【0011】
しかし、モータの駆動周波数が高周波領域においては、モータ電流の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により、図9に示すように、電流変化量(誘起電圧)が正弦波状にならない。したがって、単にゼロクロスタイミングを利用するだけでは、高周波領域においてやはりモータの磁極位置を誘起電圧に基づいて適正に推定できないという課題が残る。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、同期電動機の位置センサレス制御装置において、同期電動機の磁極位置を適正に推定し、高周波領域でも対応可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を講じたものである。
【0014】
すなわち、本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置は、複数相の電流指令に基づき電圧ベクトルを生成する電圧ベクトル生成部と、前記電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子とを有し、前記電圧ベクトルに応じて前記スイッチング素子を駆動させることにより、同期電動機に電圧を出力する同期電動機の位置センサレス制御装置であって、前記電圧ベクトル生成部は、前記電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルに設定する制御を含むものであり、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、前記検出信号と前記規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、前記磁極位置誤差補正値に基づいて前記推定磁極位置を補正するセンサレス制御部を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明では、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、検出信号と規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正する。したがって、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号は、同期電動機の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により正弦波状でないが、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての正弦波状の規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正することにより、特に、中高速,高周波域において、電圧が印加されてないゼロ電圧ベクトル出力時に検出される検出信号に基づいて同期電動機の磁極位置を適正に推定できる。
【0016】
しかも、本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置において、前記センサレス制御部は、前記複数相に含まれた2相の一方の前記検出信号と他方の前記規範信号との積と、前記複数相に含まれた2相の他方の前記検出信号と一方の前記規範信号との積との差に基づいて、前記電流偏差差分を検出する。
【0017】
本発明では、複数相に含まれた2相の一方の検出信号と他方の規範信号との積と、複数相に含まれた2相の他方の検出信号と一方の規範信号との積は,同振幅,同位相差であって、それらの差は直流成分のみとなり、複数相に含まれた1相のみに着目して電流偏差差分を検出する場合と比べ、処理負荷が小さくなる。
【0018】
本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置において、前記センサレス制御部は、前記複数相に含まれた2相の一方の前記検出信号と他方の前記規範信号との積と、前記複数相に含まれた2相の他方の前記検出信号と一方の前記規範信号との積との差を、ローパスフィルタを通して、前記電流偏差差分を検出する。
【0019】
本発明では、複数相に含まれた2相の一方の検出信号と他方の規範信号との積と、複数相に含まれた2相の他方の検出信号と一方の規範信号との積の差から、高周波ノイズ分を除去できる。したがって、電流偏差差分の検出精度が向上する。
【0020】
本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置において、前記検出信号は、所定時間ごとの電流変化量に基づいて得られる。
【0021】
本発明では、電流変化量のみに基づいて検出信号を容易に得られる。
【0022】
本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置は、d軸及びq軸の電流指令とd軸及びq軸の電流検出値に基づき電圧ベクトルを生成するPWM制御部と、前記電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子とを有し、前記電圧ベクトルに応じて前記スイッチング素子を駆動させることにより、同期電動機に電圧を出力する同期電動機の位置センサレス制御装置であって、前記PWM制御部は、前記電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルに設定する制御を含むものであり、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、前記検出信号と前記規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、前記磁極位置誤差補正値に基づいて前記推定磁極位置を補正するセンサレス制御部を備え、前記センサレス制御部は、前記d軸の前記検出信号と前記q軸の前記規範信号との積と、前記q軸の前記検出信号と前記d軸の規範信号との積との差に基づいて、前記電流偏差差分を検出することを特徴とする。
【0023】
本発明では、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、検出信号と規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正する。したがって、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号は、同期電動機の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により正弦波状でないが、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての正弦波状の規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正することにより、PWM変調法を用いた位置センサレス制御装置においても、同期電動機の磁極位置を適正に推定できる。
しかも、本発明に係る同期電動機の位置センサレス制御装置において、前記センサレス制御部は、前記d軸の前記検出信号と前記q軸の前記規範信号との積と、前記q軸の前記検出信号と前記d軸の規範信号との積との差に基づいて、前記電流偏差差分を検出する。
本発明では、前記d軸の前記検出信号と前記q軸の前記規範信号との積と、前記q軸の前記検出信号と前記d軸の規範信号との積は,同振幅,同位相差であって、それらの差は直流成分のみとなり、d軸又はq軸のみに着目して電流偏差差分を検出する場合と比べ、処理負荷が小さくなる。
【発明の効果】
【0024】
以上、本発明によれば、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおける同期電動機の実磁極位置についての検出信号は、同期電動機の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により正弦波状でないが、前回の制御周期のときの同期電動機の推定磁極位置についての正弦波状の規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正することにより、特に、中高速,高周波域において、電圧が印加されてないゼロ電圧ベクトル出力時に検出される検出信号に基づいて同期電動機の磁極位置を適正に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る電圧形インバータ装置の概略構成を示す制御ブロック図である。
図2図1の制御ブロック図を詳細に示した図である。
図3】ゲート回路の概略構成を示す回路図である。
図4】実施形態に係る電圧形インバータ装置で生成される電圧ベクトルを示す図である。
図5】電流偏差ベクトル図において、3相の電流偏差を2軸に変換する際の座標系を示す図である。
図6】電流偏差ベクトル図において、各領域を示す図である。
図7】電流偏差ベクトル図において、電流偏差ベクトルの一例を示す図である。
図8】誘起電圧の検出原理を説明する図である。
図9】モータ電流から抽出した誘起電圧成分を示す図である。
図10】センサレス制御回路の制御を示す図である。
図11】電圧ベクトルの定義を説明する図である。
図12】検出信号ΔIu、ΔIwと規範信号Iun、Iwnとに基づいて電流偏差差分ΔIdcの算出する制御を示す図である。
図13図12の制御における波形の変化を示す図である。
図14】電流偏差差分ΔIdcに基づいて推定磁極位置θest(n)を補正する制御を示す図である。
図15】本発明の変形例に係る電圧形インバータ装置の概略構成を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
(全体構成)
本発明の実施形態に係る電圧形インバータ装置1(位置センサレス制御装置)は、3相の電流指令に基づいて電圧ベクトルを生成し、その電圧ベクトルに応じて複数のスイッチング素子31,32,41,42,51,52を駆動させることにより、モータ2に電圧を出力する装置である。なお、モータ2は、三相交流モータである。
【0028】
電圧形インバータ装置1は、図1に示すように、出力電圧ベクトル制御回路3と、インバータ回路4と、電流検出回路5と、センサレス制御回路6と、速度検出回路7とを備える。
【0029】
詳細には、図2に示すように、電圧形インバータ装置1は、電流指令生成部11と、2相3相変換部12と、電圧ベクトル生成部13と、ゲート指令生成部14と、ゲート回路15と、3相2相変換部16と、トルク推定部17と、電流検出回路5と、センサレス制御回路(センサレス制御部)6と、速度検出回路7とを備える。
【0030】
電流指令生成部11は、外部からトルク指令Trqが入力される。電流指令生成部11は、入力されたトルク指令Trqに基づいて、d軸及びq軸の電流指令Id,Iqを生成する。
【0031】
2相3相変換部12は、電流指令生成部11から出力されたd軸及びq軸の電流指令Id,Iqを、3相の電流指令Iu,Iv、Iwに変換する。具体的には、2相3相変換部12は、d軸及びq軸の電流指令Id,Iq及びセンサレス制御回路6から出力された推定磁極位置θest を用いて、U相、V相及びW相の各電流指令Iu,Iv、Iwを生成する。
【0032】
電圧ベクトル生成部13は、3相の電流指令Iu,Iv、Iw及びモータ2の3相の出力電流Iu,Iv,Iwを用いて電流偏差ベクトルを算出し、電流偏差ベクトル図において電流偏差ベクトルが属する領域に応じて、電圧ベクトルを設定する。電圧ベクトル生成部13は、設定した電圧ベクトルを電圧ベクトル指令Vectとして出力する。
【0033】
電圧ベクトル生成部13は、電流偏差算出部20と、電流偏差ベクトル演算部21と、電流偏差ベクトル領域判定部22と、電圧ベクトル設定部23と、記憶部24とを有する。電圧ベクトル生成部13の詳しい構成については後述する。
【0034】
ゲート指令生成部14は、電圧ベクトル生成部13から出力された電圧ベクトル指令Vectに基づいて、ゲート回路15を駆動させるためのゲート指令Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成する。ゲート指令生成部14は、U相、V相及びW相の各相において、ゲート回路15の後述するスイッチングアーム30,40,50のスイッチング素子31,32,41,42,51,52に対する指令を生成する。
【0035】
具体的には、ゲート指令生成部14は、U相のスイッチングアーム30における上アームのスイッチング素子31に対するゲート指令Upと、下アームのスイッチング素子32に対するゲート指令Unと、V相のスイッチングアーム40における上アームのスイッチング素子41に対するゲート指令Vpと、下アームのスイッチング素子42に対するゲート指令Vnと、W相のスイッチングアーム50における上アームのスイッチング素子51に対するゲート指令Wpと、下アームのスイッチング素子52に対するゲート指令Wnとを生成して、出力する。
【0036】
なお、ゲート指令生成部14によって生成されるゲート指令Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnは、各スイッチング素子をON状態またはOFF状態にする信号を含む。
【0037】
ゲート回路15は、3相のブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子31,32,41,42,51,52を有する。具体的には、図3に示すように、ゲート回路15は、モータ2のU相、V相及びW相の各相にそれぞれ接続されたスイッチングアーム30,40,50を有する。スイッチングアーム30では、一対のスイッチング素子31,32が直列に接続されている。同様に、スイッチングアーム40では、一対のスイッチング素子41,42が直列に接続されている。同様に、スイッチングアーム50では、一対のスイッチング素子51,52が直列に接続されている。
【0038】
なお、スイッチングアーム30,40,50における一方のスイッチング素子31,41,51が、それぞれ、スイッチングアーム30,40,50の上アームに対応する。スイッチングアーム30,40,50における他方のスイッチング素子32,42,52が、それぞれ、スイッチングアーム30,40,50の下アームに対応する。
【0039】
本実施形態において、スイッチング素子31,32,41,42,51,52は、例えばIGBTが用いられる。なお、スイッチング素子31,32,41,42,51,52は、MOSFETなどの他のスイッチングデバイスであってもよい。
【0040】
スイッチング素子31,32,41,42,51,52には、それぞれ、ダイオード31a,32a,41a,42a,51a,52aが並列に設けられている。ダイオード31a,32a,41a,42a,51a,52aは、スイッチング素子31,32,41,42,51,52に流れる電流とは逆方向への電流の流れを許容するように設けられている。ダイオード31a,32a,41a,42a,51a,52aは、いわゆる還流ダイオードである。
【0041】
ゲート回路15のスイッチング素子31,32,41,42,51,52は、それぞれ、ゲート指令生成部14から出力されたゲート指令Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに応じて、ON状態またはOFF状態になるように構成されている。図4に、ゲート回路15の出力電圧の電圧ベクトル図を示す。図4において、V0及びV7は、各相で電位差が生じないゼロ電圧ベクトルである。なお、図4において、V1では、U相に電圧が発生し、V2では、V相に電圧が発生し、V4では、W相に電圧が発生する。
【0042】
以下の説明において、各電圧ベクトルに応じてスイッチング素子31,32,41,42,51,52のON/OFF状態を示す際には、上アームのスイッチング素子がON状態であり、下アームのスイッチング素子がOFF状態を“1”とし、上アームのスイッチング素子がOFF状態であり、下アームのスイッチング素子がON状態を“0”とする。そして、W相のスイッチング状態を3桁目、V相のスイッチング状態を2桁目、U相のスイッチング状態を1桁目とする3桁の数字によって、電圧ベクトルを表現する。
【0043】
例えば、電圧ベクトルV1であれば、V1=[001]と表記する。この場合、各アームのスイッチング素子は、W相の上アームのスイッチング素子がOFF状態で且つW相の下アームのスイッチング素子がON状態であり、V相の上アームのスイッチング素子がOFF状態で且つV相の下アームのスイッチング素子がON状態であり、U相の上アームのスイッチング素子がON状態で且つW相の下アームのスイッチング素子がOFF状態であ
る。なお、ゼロ電圧ベクトルは、V0、V7の場合であり、V0=[000](各相の下
アームのスイッチング素子が全てON状態)、V7=[111](各相の上アームのスイ
ッチング素子が全てON状態)と表記される。
【0044】
3相2相変換部16は、図2に示すように、モータ2の出力電流Iu,Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。具体的には、3相2相変換部16は、モータ2のU相電流Iu及びW相電流Iwに基づいて、d軸電流Id及びq軸電流Iqを求める。
【0045】
トルク推定部17は、3相2相変換部16から出力されたd軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、モータ2の出力トルクを推定する。
【0046】
電流検出回路5は、モータ2の出力電流Iu,Iwを検出する。
【0047】
なお、電流検出回路5において検出する出力電流は、Iu,Iw以外の組み合わせでもよい。したがって、電流検出回路5は、U相、V相、W相のいずれか2相の出力電流を検出するものであってよい。
【0048】
センサレス制御回路6は、電流検出回路5から出力されたモータ2の出力電流Iu,Iwに基づいて、モータ2の磁極位置を推定する。センサレス制御回路6の制御については後述する。
【0049】
速度検出回路7は、センサレス制御回路6から出力されたモータ2の推定磁極位置θestに基づいてモータ2の磁極速度ωestを推定する。
【0050】
(電圧ベクトル生成部)
次に、電圧ベクトル生成部13の構成を、図1から図7を用いて詳細に説明する。
【0051】
既述のように、電圧ベクトル生成部13は、電流偏差算出部20と、電流偏差ベクトル演算部21と、電流偏差ベクトル領域判定部22と、電圧ベクトル設定部23と、記憶部24とを有する。
【0052】
電流偏差算出部20は、3相の電流指令Iu,Iv、Iwとモータ2の3相の出力電流Iu,Iv,Iwとを用いて、各相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを計算する。
【0053】
具体的には、電流偏差算出部20は、以下の式によって、3相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを求める。
Δiu=Iu-Iu
Δiv=Iv-Iv
Δiw=Iw-Iw
【0054】
電流偏差ベクトル演算部21は、電流偏差算出部20によって算出された各相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを用いて、電流偏差ベクトルを求める。具体的には、電流偏差ベクトル演算部21は、電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを用いて、電流偏差ベクトルの大きさを求める。
【0055】
具体的には、電流偏差ベクトル演算部21は、下式によって、3相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを、図5に示すような2軸の電流偏差Δiα,Δiβに変換した後、それらの2乗の和を求めることにより、電流偏差ベクトルの大きさに相当するΔiを算出する。
Δiα=√(3/2)×Δiu
Δiβ=√(1/2)×(Δiv-Δiw)
Δi=(Δiα+Δiβ
【0056】
電流偏差ベクトル領域判定部22は、電流偏差ベクトル演算部21によって算出された3相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwを用いて、電流偏差ベクトルが、図6に示すような電流偏差ベクトル図におけるいずれの領域に属するかを判定する。ここでは、図6に示すように、電流偏差ベクトル図において、60度ずつに領域を分けた場合、電流偏差ベクトルが領域A1からA6のいずれの領域に属するかを判定する。
【0057】
具体的には、電流偏差ベクトル領域判定部22は、3相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwのうち2相間での電流偏差の絶対値の差を求めて、その差が0以上かどうかによって、電流偏差ベクトルが属する領域を絞り込んだ後、3相の電流偏差Δiu,Δiv,Δiwが0以上かどうかによって、電流偏差ベクトルが属する領域を特定する。
【0058】
例えば、|Δiu|―|Δiv|≧0、|Δiv|―|Δiw|≧0及び|Δiw|―|Δiu|<0の場合には、電流偏差ベクトルは、図6の領域A1か領域A4に属する。そして、Δiu≧0であれば、電流偏差ベクトルは図6の領域A1に属し、Δi<0であれば、電流偏差ベクトルは図6の領域A4に属する。
【0059】
電圧ベクトル設定部23は、ゲート回路15のスイッチング素子31,32,41,42,51,52が動作する際のスイッチングモードの判定を行うとともに、判定されたモードと電流偏差ベクトル図において電流偏差ベクトルが属する領域とに応じて、電圧ベクトルを設定する。
【0060】
具体的には、電圧ベクトル設定部23は、図7に示すように、電流偏差ベクトルXの大きさを用いてスイッチングモードの判定を行う。本実施形態では、電圧ベクトル設定部23は、電流偏差ベクトルの大きさが、第1所定値P以下かどうか、及び、該第1所定値Pよりも大きい第2所定値Q以下かどうかを判定する。図7に示す例では、電流偏差ベクトルX(図7の太線矢印)は、その大きさが第1所定値P以上で且つ第2所定値Qよりも小さい。
【0061】
なお、第1所定値Pは、モータ2の出力にあまり影響のない電流偏差ベクトルの大きさに設定される。また、第2所定値Qは、モータ2の出力に与える影響とスイッチング損失及び電流歪率に与える影響とを考慮した場合に、モータ2の出力に与える影響よりもスイッチング損失及び電流歪率に与える影響の方が大きくなるような電流偏差ベクトルの大きさに設定される。
【0062】
電圧ベクトル設定部23は、電流偏差ベクトルの大きさが第1所定値P以下の場合には、スイッチングモードを還流モードにする。具体的には、電圧ベクトル設定部23は、電流偏差ベクトルの大きさが第1所定値P以下の場合、出力する電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルV0,V7のいずれかに設定する。したがって、V0,V7ベクトルを選択してゲート出力する場合,モータ電流は還流する。
(センサレス制御回路6)
【0063】
本実施形態の電圧形インバータ1の位置センサレス制御において、モータ2の磁極位置を推定する方法について、図10に示すフローを用いて説明する。
【0064】
本実施形態では、図11(a)のように、U相(図4のU相に相当)をモータ2の磁極位置を推定する上での原点とする。U相ベクトルを基準として、U相ベクトルとモータ2の永久磁石のN極方向がなす角度を実角度θ(モータ2の実際の角度)とする。
【0065】
また、図11(b)のように、後述する磁極位置誤差θhに基づいて、推定磁極位置θestが実角度θになるように、磁極位置を推定している。
【0066】
図10に示すフローが開始すると(開始)、まず、電圧ベクトル設定部23で設定されている電圧ベクトルが、ゼロ電圧ベクトル(V0,V7)であるか否か判断する。(ステップ1)
【0067】
ゼロ電圧ベクトル(V0,V7)が設定されている場合、センサレス制御回路6は、モータU相の検出信号ΔIuおよびW相の検出信号ΔIwを検出する。検出信号ΔIu は、U相のゼロ電圧ベクトル設定時の電流変化量di /dt である 。
【0068】
本実施形態では、微分時間である dtを固定することで,検出信号ΔIuを予め設定した期間の電流変化量として扱う。検出信号ΔIwについても、検出信号ΔIuと同様に検出する。(ステップ2)
【0069】
検出信号ΔIu、ΔIwを検出した後、センサレス制御回路6は、モータU相の規範信号Iun、W相の規範信号Iwnを算出する。図12に示すように、規範信号Iunは、モータ2の推定磁極位置θest(推定電気角)に基づいて,三角関数テーブル等を参照して算出する。本実施形態では、規範信号としてSin関数値を用いる。
【0070】
また、規範信号Iunは、W相のモータ電流は、U相のモータ電流に対して2π/3位相が進んでいる(2π/3の位相差がある)ため、推定磁極位置θestに対して2π/3の位相差を考慮して算出する。(ステップ3)
【0071】
規範信号Iun、Iwnを算出した後、センサレス制御回路6は、検出信号ΔIu、ΔIwと規範信号Iun、Iwnにより電流偏差差分ΔIdcを算出する。
【0072】
図13に示すように、電流偏差差分ΔIdcは、ΔIu*Iwn(検出信号ΔIuと規範信号Iwnの乗算値)および ΔIw*Iun(規範信号Iunと検出信号ΔIwの乗算値)を減算して算出する。
【0073】
検出信号ΔIuの位相は,U相の誘起電圧の実際の位相であり、規範信号Iunの位相は推定磁極位置θestに基づく位相である。同様に、検出信号ΔIwの位相は,W相の誘起電圧の実際の位相であり、規範信号Iwnの位相は、推定磁極位置θestに基づく位相である。
【0074】
よって、電流偏差差分ΔIdcは、ΔIu*Iwnの振幅、位相およびΔIw*Iunの振幅、位相が一致していれば、ΔIu*IwnとΔIw*Iunの振幅差、位相差がゼロになる。
【0075】
一方、ΔIu*Iwnの振幅、位相およびΔIw*Iunの振幅、位相が一致しなければ、ΔIu*IwnとΔIw*Iunの位相差に応じた値になる(ステップ4)
【0076】
次に、電流偏差差分ΔIdcの算出方法について、具体的に説明する。
【0077】
U相の規範信号IunおよびW相の規範信号Iwnは、下記のようになる。
【0078】
ここで、規範信号Iwnは、上述のように、推定磁極位置θestに対して、2π/3の位相差を考慮する必要がある。
Iun(t)= sin(ω*t) (5)
Iwn(t)= sin(ω*t-2π/3) (6)
【0079】
U相の検出信号ΔIuおよびU相の検出信号ΔIwは、下記のようになる。ここで、Keは逆起電力定数,Lはインダクタンス、ωはモータ速度、φはモータの実際の位相と推定磁極の位相差である。
ΔIu(t)= Ke / L * ω*sin(ω*t+φ) (7)
ΔIw(t)= Ke / L * ω*sin(ω*t-2π/3+φ) (8)
【0080】
ΔIu*IwnおよびΔIw*Iunは、式(5)~(8)から、下記のようになる。
ΔIw(t)*Iun(t) = Ke / L * ω*sin(ω*t-2π/3+φ)* sin(ω*t)
= -Ke /2 L * ω*(cos(2ω*t+φ-2π/3)-cos(φ-2π/3)) (9)
ΔIu(t)*Iwn(t) = Ke / L * ω*sin(ω*t+φ)* sin(ω*t-2π/3)
= -Ke /2 L * ω*(cos(2ω*t+φ-2π/3)-cos(φ+2π/3)) (10)
よって、電流偏差差分ΔIdcは、式(9)、(10)から、下記のようになる。
【0081】
ΔIdc(t) = ΔIw(t)*Iun(t)-ΔIu(t)*Iwn(t)
= Ke /2 L * ω*(cos(φ+2π/3)-cos(φ-2π/3))
= -Ke /L * sin2π/3* ω* sinφ (11)
【0082】
ここで、sinφ =φと近似すると、下記のようになる。
ΔIdc(t) =-Ke /L * sin2π/3* ω*φ (12)
【0083】
式(12)で算出された電流偏差差分ΔIdcを、LPF(ローパスフィルタ)でノイズ分を除去して、モータ速度ω=モータ推定速度ω_estとすると、下記のようになる。
ΔIdc(t) = -√3 / 2 * Ke / L * ω_est(t) * φ (13)
【0084】
特に、モータのイナーシャが大きい場合、モータ速度ωの変動が小さいので,ΔIdc(t)は、φの比例関数とみなせる。
【0085】
図10のステップ4で、電流偏差差分ΔIdcを算出した後、センサレス制御回路6は、磁極位置誤差補正値θhを算出する。図14に示すように、電流偏差差分ΔIdcを目標値Ioに近づけるフィードバック回路を構成する。具体的には、電流偏差差分ΔIdcをゼロに近づけるために、目標値Ioをゼロとして制御を行い、磁極位置の推定に使用する操作量である磁極位置誤差補正値θhを算出する。ここで適用する制御は、PLL制御、P制御やPI制御などを指す。(ステップ5)
【0086】
磁極位置誤差補正値θhを算出した後、センサレス制御回路6は、磁極位置誤差補正値θhに基づいて、前回の推定磁極位置θest[n]を補正する。具体的には、図14に示すように、前回の推定磁極位置θest[n]を磁極位置誤差補正値θhで減算して、現在の推定磁極位置θest[n+1]とし、推定磁極位置を更新する。(ステップ6)
【0087】
現在の推定磁極位置θest[n+1]を算出した後、センサレス制御回路6は、現在の推定磁極位置θest[n+1]を推定磁極位置θestとして、2相3相変換部12に入力する。また、ステップ1に戻り、磁極位置の推定を続ける(ステップ7)
【0088】
一方、図10のステップ1において、ゼロ電圧ベクトル以外の電圧ベクトル(V1~V6)が設定されている場合、電流変化量di /dtに基づいて、モータ2の磁極位置を推定できない。よって、ゼロ電圧ベクトル設定時に推定した最新の推定磁極位置θest1および最新のモータ推定速度ω_estを利用して、モータ2の磁極位置を推定する。
【0089】
まず、センサレス制御回路6は、電圧形インバータ1の制御周期におけるモータ2の磁極位置の進角Δθestを算出する。(ステップ8)
【0090】
磁極位置の進角Δθestを算出した後、センサレス制御回路6は、ゼロ電圧ベクトル設定時に推定した最新の推定磁極位置θest1に、磁極位置の進角Δθestを加算して、モータ2の現在の磁極位置θest[n+1]を算出する。(ステップ9)
【0091】
現在の推定磁極位置θest[n+1]を算出した後、センサレス制御回路6は、現在の推定磁極位置θest[n+1]を推定磁極位置θestとして、2相3相変換部12に入力する。また、ステップ1に戻り、磁極位置の推定を続ける(ステップ10)
【0092】
次に、電流偏差差分ΔIdcの具体的な算出方法は、下記のようになる。
Δθest = ω_est *Ts (14)
θest[n+1] = θest[n]+ Δθest (15)
【0093】
ここで、Δθest はモータ2の磁極位置の進角、Tsは電圧形インバータ1の制御周期である。
【0094】
本実施形態の電圧形インバータ装置1は、3相の電流指令に基づいて電圧ベクトルを生成する電圧ベクトル生成部13と、電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子31、32、41、42、51、52とを有し、電圧ベクトルに応じてスイッチング素子を駆動させることにより、モータ2に電圧を出力するモータ2の電圧形インバータ装置1であって、電圧ベクトル生成部13は、電圧ベクトルをゼロ電圧ベクトルに設定する制御を行うものであり、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおけるモータ2の実磁極位置についての検出信号ΔIu、ΔIwと、前回の制御周期のときのモータ2の推定磁極位置についての規範信号Iun、Iwnとに基づいて、検出信号と規範信号との電流偏差差分ΔIdcに応じた磁極位置誤差補正値θhを算出し、磁極位置誤差補正値θhに基づいて、磁極推定位置を補正するセンサレス制御部6を備える。
【0095】
したがって、本実施形態の電圧形インバータ装置1では、現在の制御周期のときのゼロ電圧ベクトルにおけるモータ2の実磁極位置についての検出信号は、モータ2の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により正弦波状でないが、前回の制御周期のときのモータ2の推定磁極位置について正弦波状の規範信号との電流偏差差分ΔIdcに応じた磁極位置誤差補正値θhに基づいて、推定磁極位置を補正することにより、特に、中高速,高周波域において、電圧が印加されてないゼロ電圧ベクトル出力時に検出される検出信号に基づいて、モータ2の磁極位置を適正に推定できる。
【0096】
本実施形態の電圧形インバータ装置1において、センサレス制御部6は、3相に含まれたU相の検出信号ΔIuとW相の規範信号Iwnとの積と、W相の検出信号ΔIwとU相の規範信号Iunとの積との差に基づいて、電流偏差差分ΔIdcを検出する。
【0097】
これにより、電圧形インバータ装置1では、3相に含まれたU相の検出信号ΔIuとW相の規範信号Iwnとの積と、W相の検出信号ΔIwとU相の規範信号Iunとの積は,同振幅,同位相差であって、それらの差は直流成分のみとなり、3相に含まれた1相のみに着目して、電流偏差差分ΔIdcを検出する場合と比べ、処理負荷が小さくなる。
【0098】
本実施形態の電圧形インバータ装置1において、センサレス制御部6は、3相に含まれたU相の検出信号ΔIuとW相の規範信号Iwnとの積と、W相の検出信号ΔIwとU相の規範信号Iunとの積との差を、ローパスフィルタを通して、電流偏差差分ΔIdcを検出する。
【0099】
これにより、電圧形インバータ装置1では、3相に含まれたU相の検出信号ΔIuとW相の規範信号Iwnとの積と、W相の検出信号ΔIwとU相の規範信号Iunとの積との差から、高周波ノイズ分を除去できる。したがって、電流偏差差分ΔIdcの検出精度が向上する。
【0100】
本実施形態の電圧形インバータ装置1において、検出信号ΔIu、ΔIwは、所定時間ごとの電流変化量に基づいて得られる。
【0101】
これにより、電圧形インバータ装置1では、電流変化量のみに基づいて検出信号を容易に得られる。
【0102】
以上説明したように、本発明では、位置センサを有しない電圧形インバータ装置1でも,高精度に、同期電動機を駆動制御できる。
【0103】
本発明は、電圧形インバータに位置センサレス制御を適用したが、一般的な電流制御方法である,dq軸ベクトル制御に基づいた三角波比較のPWM変調方式を採用する必要がない。
【0104】
dq軸ベクトル制御系で一般的な中高速域の位置センサレス制御である拡張誘起電圧方式では,モータのモデルを用いたオブザーバによって磁極推定しているが,モデル誤差などの影響や,オブザーバの演算負荷が大きいのに対し、本発明では、モデルパラメータ変動の影響を受けず,少ない演算量で磁極位置を推定できる。
【0105】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0106】
上記実施形態の電圧形インバータ装置1は、dq軸ベクトル制御系(PWM制御)でない場合を説明したが、本発明は、dq軸ベクトル制御系(PWM制御)に適用可能である。
【0107】
即ち、本発明のインバータ制御装置(位置センサレス制御装置)101は、図15に示すように、d軸及びq軸の電流指令とd軸及びq軸の電流検出値に基づきPWM変調法によって複数相に対する電圧ベクトルを生成するPWM制御部103と、PWM制御部103が生成した電圧ベクトルに応じて駆動される複数のスイッチング素子を有するインバータ回路115と、電流検出回路5と、3相2相変換部16と、センサレス制御回路106と、速度検出回路7とを有し、PWM制御部103を通じてスイッチング素子を駆動させることにより、モータ2に電圧を出力するモータ2の位置センサレス制御装置であって、PWM制御部103は、各相の下アームのスイッチング素子が全てON状態である第1状態(ゼロ電圧ベクトルV0に相当)、及び、各相の上アームのスイッチング素子が全てON状態である第2状態(ゼロ電圧ベクトルV7に相当)となる制御を含むものであり、センサレス制御部106は、現在の制御周期のときの第1状態または第2状態におけるモータ2の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときのモータ2の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、検出信号と規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正する。
【0108】
センサレス制御部106におけるセンサレス制御は、上記実施形態のセンサレス制御部6におけるセンサレス制御と同様である。
【0109】
これにより、上記の実施形態と同様に、現在の制御周期のときの第1状態または第2状態におけるモータ2の実磁極位置についての検出信号と、前回の制御周期のときのモータ2の推定磁極位置についての規範信号とに基づいて、検出信号と規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値を算出し、磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正する。したがって、現在の制御周期のときの第1状態または第2状態におけるモータ2の実磁極位置についての検出信号は、モータ2の検出誤差、電流検出処理の分解能の精度,ノイズなどの影響により正弦波状でないが、前回の制御周期のときのモータ2の推定磁極位置についての正弦波状の規範信号との電流偏差差分に応じた磁極位置誤差補正値に基づいて推定磁極位置を補正することにより、PWM変調法を用いた位置センサレス制御装置においても、モータ2の磁極位置を適正に推定できる。
【0110】
上記実施形態は、位置センサを有しない電圧形インバータ装置1、101について説明したが、位置センサを有する電圧形インバータ装置に,本発明を適用可能である。本発明を適用することにより、磁極位置検出系の2重化による異常検知(故障,断線・コネクタ抜けなど)や,センサ検出値の補正に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1、101 電圧形インバータ装置
2 モータ
6、106 センサレス制御回路
13 電圧ベクトル生成部
31、32、41、42、51、52 スイッチング素子
103 PWM制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15