(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ガラス繊維を製造するためのノズルチップ、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/083 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
C03B37/083
(21)【出願番号】P 2019502947
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 JP2018006603
(87)【国際公開番号】W WO2018159469
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017037449
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017173652
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 剛
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真規
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226579(JP,A)
【文献】特開2010-150127(JP,A)
【文献】特開平6-234540(JP,A)
【文献】特開平6-228806(JP,A)
【文献】国際公開第1999/028543(WO,A1)
【文献】特開2000-344541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B37/08-37/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス融液が貯留される貯留槽の底面部から下方へ突出させて用いられる、断面形状が扁平状のガラス繊維を製造するためのノズルチップにおいて、
前記ノズルチップは、白金又は白金合金からなる一対の長辺壁と一対の短辺壁と、前記長辺壁と短辺壁とで形成された、ガラス融液を排出するためのノズル孔を備えるノズルを、備え、
前記ノズル孔は、水平断面が扁平状の孔形状を有し、
各長辺壁は、ガラス融液の排出側に切り欠きを有し、前記切り欠きの幅は、前記ノズル孔の扁平状の孔形状の長手方向中心軸の長さの10~55%であり、
前記一対の長辺壁は、前記ノズル孔の前記中心軸を対称軸として対称の形状であ
り、
前記切り欠きの形状は、矩形状であることを特徴とする、ノズルチップ。
【請求項2】
前記切り欠きを、前記長辺壁の排出側中央に備えることを特徴とする、請求項1に記載のノズルチップ。
【請求項3】
前記切り欠きによる開口部の面積(2つの切り欠きの面積の総和)が、前記一対の長辺壁と前記一対の短辺壁の内周の総面積(この総面積には切り欠きによる開口部の面積も含む)の1%~45%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のノズルチップ。
【請求項4】
ノズル孔の、(長手方向中心軸の長さ)/(短手方向最長部の長さ)が2~8であることを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれかに記載のノズルチップ。
【請求項5】
前記長辺壁の切り欠き側の端面は、前記長辺壁の厚みが前記切り欠き側へ向かって漸減することによって生じる勾配面を備え、
前記勾配面は、ノズル孔側に向いていることを特徴とする、請求項1乃至
4のいずれかに記載のノズルチップ。
【請求項6】
扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維の製造方法であって、
ガラス融液が貯留された貯留槽の底面に固定された、請求項1乃至
5のいずれかに記載のノズルチップのノズル孔にガラス融液を導通する工程と、
前記ノズル孔からガラス融液を引き出して排出することで、ガラス融液を急冷し繊維化する工程と、を備えるガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面が扁平状のガラス繊維を製造するための白金又は白金合金からなるノズルチップ、及び、該ノズルチップを用いてガラス繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断面が扁平形状などの非円形のガラス繊維は、樹脂等との複合化で、断面が円形の通常のガラス繊維よりも強度向上が望めること、樹脂との複合成形品のそりを防止することができることから、フィラー材料として広範に使用されている。これは、非円形であればガラス繊維同士が重なりやすく、樹脂と混合して成形する場合の樹脂の流動性が向上し、ガラス繊維の含有率が高くてもガラス繊維の分散性が良好であるためと考えられている。非円形のガラス繊維の作製プロセスは、円形のガラス繊維と同様の作製プロセスではあるが、断面を非円形とするために、ガラス融液をガラス繊維として引き出すためのノズルチップに特殊な構造が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、断面が扁平形状のガラス繊維を製造するためのノズルチップであって、長辺壁と短辺壁からなるノズル壁の長辺壁側の先端部に切り欠きを設けたノズルチップが開示されている。断面が扁平形状のガラス繊維の製造のためには、ガラス融液を排出する端部の断面が扁平形状のノズルチップから、ガラス融液を引き出して排出し、ガラス融液を急冷し繊維化する必要がある。ガラス融液の繊維化の際には、ガラス融液の表面張力が高く、融液が丸くなろうとすることから、これに対抗することが、断面が扁平形状のガラス繊維を製造するポイントとなる。
【0004】
例えば、特許文献1では、ガラス融液を排出する端部の断面が楕円形状のノズルの長辺壁の片側の先端に切り欠きを備えることで、切り欠き構造の無い側で、ガラス融液を保温して、流動するガラス融液の形を維持しつつ、切り欠き構造を備えた側のガラス融液の粘度を高くして、ガラスが丸くなろうとする力に対抗している。また、特許文献2では、ノズルの長辺壁の片側の先端に切り欠きを備えたノズルを切り欠きが向かい合うようにプレートに挿入している。また、特許文献3では、扁平形状ノズルの長辺壁の片側、又は両側に、広範な切り欠きを設け、その切り欠きを通じて冷却気体で、ノズル内の長辺側のガラス融液の粘度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO99/028543号
【文献】特開2003-048742号公報
【文献】特開2010-163342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
断面形状が非円形、例えば楕円形のガラス繊維と、樹脂との複合化で、樹脂の強度向上を望む場合、その断面形状は長手方向中心軸を対称軸として対称であることが好ましい。断面が非円形状であることに加え、その断面形状が長手方向中心軸を対称軸として対称である場合は、長手方向中心軸を対称軸として非対称の場合と比べて、ガラス繊維同士が重なりやすくなる。これは、ガラス繊維と樹脂とを混合して成形するときの樹脂の流動性の向上にも寄与する。
【0007】
断面形状が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維を製造する場合、ガラス融液をガラス繊維として排出するためのノズルチップの形状を、ガラス繊維の断面形状に近い形状、すなわち、扁平状に突出した、一対の長辺壁と一対の短辺壁と、前記長辺壁と短辺壁とで形成された、ガラス融液を排出するためのノズル孔を備えるノズルを、備えるものとする必要がある。これに加え、ノズル孔内を流れるガラス融液の温度プロファイルを、両長辺壁で同等とする必要がある。
【0008】
特許文献1、2に開示されたノズルチップは、断面が扁平状のガラス繊維を製造するという視点からは優れた方法であるが、ノズルチップの各長辺壁に接するガラス融液の温度プロファイルを同等とすることは難しい。すなわち、両長辺壁に接するガラス融液の粘度が異なるものとなることから、断面形状が楕円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維を製造するためにはさらなる工夫が必要となる。
【0009】
また、ノズルチップの耐熱性と耐浸食性の観点から、ノズルチップは白金又は白金合金からなるものとすることが好ましい。しかしながら、これら部材とガラス融液の濡れ性は良いので、切り欠き部と壁部におけるガラス融液の流動性の差異が大きくなり、特許文献3のような、広範な切り欠きを設けた場合、ノズル孔内のガラス融液の流れの安定性が低下する。
【0010】
本発明は、以上を鑑み、ノズルチップを白金又は白金合金からなるものとし、断面形状が扁平状のガラス繊維を製造しやすいノズルチップ、及び扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一のノズルチップは、ガラス融液が貯留される貯留槽の底面部から下方へ突出させて用いられる、断面形状が扁平状のガラス繊維を製造するためのノズルチップにおいて、前記ノズルチップは、白金又は白金合金からなる一対の長辺壁と一対の短辺壁と、前記長辺壁と短辺壁とで形成された、ガラス融液を排出するためのノズル孔を備えるノズルを、備え、前記ノズル孔は、水平断面が扁平状の孔形状を有し、各長辺壁は、ガラス融液の排出側に切り欠きを有し、前記切り欠きの幅は、前記ノズル孔の扁平状の孔形状の長手方向中心軸の長さの10~55%であり、前記一対の長辺壁は、前記ノズル孔の前記中心軸を対称軸として対称の形状であることを特徴とする。
【0012】
前記ノズルチップでは、各長辺壁の、ガラス融液の排出側に切り欠きを設け、前記一対の長辺壁の形状は、前記ノズル孔の長手方向中心軸を対称軸として対称、すなわち両切り欠きの大きさを同一又は略同一としているので、ノズルの各長辺壁に接するガラス融液の温度プロファイルを同等としやすくなる。従来技術からすると、断面形状が非円形のガラス繊維を製造するための要素は、
1)片側の長辺壁では、ガラス融液の白金ノズルの濡れ性を利用して、流動するガラス融液の形を維持すること、そのためには、片側の長辺壁は切り欠きの無い構造とすることが有利である。
2)もう片側の長辺壁側のみに、切り欠きを設けて、ガラス融液の粘度を高くして、ガラスが丸くなろうとする力に対抗することを満たすこと
であると考えられてきた。
【0013】
本発明のノズルチップは、1)、2)の要素を満たすものではない。それにもかかわらず、各長辺壁に切り欠きを設け、各長辺壁を対称構造とすることに加え、前記切り欠きの幅を、前記ノズル孔の長手方向中心軸の長さの10~55%とすることで、意外なことに、断面形状が楕円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維を製造せしめることができる。
【0014】
前記切り欠き幅が、前記ノズル孔の長手方向中心軸の長さの10%未満の場合、前記2)で述べたような切り欠きによる効果が得られにくくなる。他方、前記切り欠き幅が、前記ノズル孔の長手方向中心軸の長さの55%超の場合、切り欠きの有る部位と無い部位におけるガラス融液の流動性の差異が大きくなり、ノズル孔内のガラス融液の流れの安定性が低下し、ガラスの流出時に脈動などが発生しやすくなる。これらを考慮すると、前記切り欠きの幅を、前記ノズル孔の長手方向中心軸の好ましくは15%~55%、より好ましくは20%~55%、またさらに好ましくは20~50%としてもよい。
【0015】
本発明の第二のノズルチップは、前記第一のノズルチップにおいて、前記切り欠きを、前記長辺壁のノズル孔の排出側中央に備えることを特徴とするものである。前記一対の長辺壁を、このような構造とすることで、前記2)で述べたような切り欠きによる効果が生じやすくなり、ひいては断面形状が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維の製造がより容易なものとなる。
【0016】
本発明の第三のノズルチップは、前記第一、第二のノズルチップにおいて、前記切り欠きによる開口部の面積(2つの切り欠きの面積の総和)が、前記一対の長辺壁と前記一対の短辺壁の内周の総面積(この総面積には切り欠きによる開口部の面積も含む)の1%~45%であることを特徴とするものである。以下、この比率を「開口部の面積比」と表記する。開口部の面積比を、この範囲とすることで、前記2)で述べたような切り欠きによる効果が生じやすくなる。開口部の面積比が1%未満の場合、この効果が生じにくくなる。他方、45%超の場合、ノズル孔内のガラス融液の流れの安定性が低下し、ガラスの流出時に脈動などが発生しやすくなる。これらを考慮すると、開口部の面積比は、好ましくは3%~40%、より好ましくは5%~35%としてもよい。
【0017】
本発明の第四のノズルチップは、前記第一、第二、第三のノズルチップにおいて、前記切り欠きの形状は、矩形状としたものである。切り欠きの形状を矩形状とすることで、ノズルチップ製作時の加工がより容易になる。また、切り欠きの形状を矩形状とすることで、切り欠きによるガラス融液の冷却効果を最大化することができる。さらには、ガラス融液の流れを安定化させることに奏功し、ガラス流出時に脈動などの不具合が発生しにくくなる。
【0018】
本発明の第五のノズルチップは、前記第一、第二、第三、第四のノズルチップにおいて、ノズル孔の、(長手方向中心軸の長さ)/(短手方向最長部の長さ)を、2~8としたものである。この比を、この範囲とすることで、長軸の長さと短軸の長さに差異のある非円形のガラス繊維を製造することが容易になる。この比が2未満の場合、ノズルチップ形状が円形に近くなり、非円形のガラス繊維を製造することが難しくなる。他方、この比が8超の場合、長軸の長さが長くなりすぎるため、同じ面積内に配置できるノズルチップ数が少なくなる。これらを考慮すると、この比は、好ましくは3~8、より好ましくは3~6としてもよい。
【0019】
本発明の第六のノズルチップは、前記第一、第二、第三、第四、第五のノズルチップにおいて、前記長辺壁の切り欠き側の端面は、前記長辺壁の厚みが前記切り欠き側へ向かって漸減することによって生じる勾配面を備え、前記勾配面は、ノズル孔側に向いていることを特徴としたものである。ノズル孔側に向いた勾配面を有することで、切り欠き部から長辺壁外へのガラス融液の漏れ出しが抑制され、ノズルチップやベースプレートがガラス融液で汚れにくくなる。この効果によって、ノズルチップ周辺の温度を均一に保ちやすくなり、ひいては断面が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維の製造がより容易なものとなる。
【0020】
さらには、本発明の、扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維の製造方法は、前記第一、第二、第三、第四、第五、第六のノズルチップを活用するものであり、ガラス融液が貯留された貯留槽の底面に固定されたノズルチップのノズル孔にガラス融液を導通する工程と、
前記ノズル孔からガラス融液を引き出して排出することで、ガラス融液を急冷し繊維化する工程と、を備えるものである。この製造方法により、断面形状が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維を効率的に製造することができるようになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガラス繊維を製造するためのノズルチップは、断面形状が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維の製造効率の向上に奏功する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のノズルチップ1の典型例の要部を示す斜視図である。
【
図2】
図1のノズルチップ1の要部を詳細に説明する図面である。
【
図3】ノズルチップ1の他の態様をノズル孔3側から観察したときの要部を示す図である。
【
図4】本発明のノズルチップ1の使用例の要部を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施例1で得られたガラス繊維の断面形状を電界放出形走査電子顕微鏡によって観察し、観察結果を写真に投影したものを示す図である。
【
図6】本発明の比較例2で得られたガラス繊維の断面形状を電界放出形走査電子顕微鏡によって観察し、観察結果を写真に投影したものを示す図である。
【
図7】本発明のノズルチップ1につき、第六のノズルチップ1の典型例の要部を詳細に説明する図である。
【
図8】ノズルチップ1の切り欠き4側の端面の断面の態様例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
断面が扁平状のガラス繊維を製造するためのノズルチップは、断面が扁平状の孔形状を有している。以下は、代表的な孔形状である長円形状に基づいて説明するが、断面形状の例としては、長円形状に限られず、矩形状、楕円形状、台形状、の他、ひょうたん形状、ダンベル形状、三角形状などの形状が挙げられ、これらに類する形状も含まれる。本明細書において、ノズル孔の扁平状の孔形状の長手方向中心軸の長さは孔形状が長円形の場合、長軸に相当する。
【0024】
本発明のノズルチップを、図面を用いて説明する(以下の説明は、前記第一、二、三、四、五、六、のノズルチップを包含する)。
図1は、本発明のノズルチップ1の典型例の要部を示す斜視図である。
図2中(a)の図面は、
図1のノズルチップ1を長辺壁21側から観察したときのもので、ノズルチップ1の長辺壁21側の要部を詳細に説明するもの、
図2中(b)の図面は、
図1のノズルチップ1をノズル孔3側から観察したときのもので、ノズルチップ1のノズル孔3側の要部を詳細に説明するものである。
図7は、長辺壁21の切り欠き4側の端面であって、長辺壁21の厚みが切り欠き4側へ向かって漸減することによって生じる勾配面を備え、前記勾配面はノズル孔3側に向いたノズルチップの要部を示す図面である。
図8は、
図1のノズルチップ1の切り欠き4側の端面の断面の態様例を示す図である。
【0025】
ノズルチップ1は、ガラス融液が貯留される貯留槽6の底面部5(ベースプレート)から下方へ突出したノズル孔3を形成する突出部2からなる。前記突出部2は、切り欠き4を備える一対の長辺壁21と、一対の短辺壁22とを備え、前記ノズル孔は、水平断面が扁平状の孔形状で、前記ノズル孔3は、前記底面部5から、突出部2の先端(ガラス融液の排出側)へと貫通する構造となっている。長辺壁と短辺壁の各部材は、白金、又は白金合金からなる。前記白金合金の例として、白金をベースにして、ロジウム、金、パラジウム、銀などの貴金属との組み合わせによる合金、又は、前記貴金属や前記合金にジルコニアなどの微粒子が分散された強化金属などが挙げられる。
【0026】
ノズルチップ1の強度を勘案すると、白金にロジウムが5~30重量%含まれた白金ロジウム合金、及び前記白金ロジウム合金にジルコニア微粒子が分散された強化白金ロジウム合金を各部材に用いることが好ましい。前記ノズルチップ1は、ノズルチップとして切削加工、鋳造加工、パイプ潰し加工、引き延ばし加工などにより製作した後に、穴あけ加工された白金又は白金合金の板(ベースプレート)に挿入、溶接加工しても良いし、ベースプレートを直接切削加工してベースプレートと一体型のノズルチップを製作しても良い。各部材は、同じ金属でも、異なる金属であっても良い。また、各部材の厚みは、0.05mm~5mmとしてよく、各部材は共通の厚みのものとしてもよい。
【0027】
また、前記一対の長辺壁21は、前記ノズル孔3の水平断面の長円の長軸を対称軸として対称の形状で、前記切り欠き4を備える。前記切り欠き4による開口部とは、前記長辺壁21の切り欠き4側の端面の最頂部212で囲まれたところを指す。前記切り欠き4の形状はノズルチップ作製時の加工のし易さから矩形状とするのが好ましい。前記切り欠き4の幅及び高さは、前記最頂部212を基準として表す。
【0028】
前記切り欠き4の幅は、ノズル孔3の長軸の長さの10~55%、好ましくは15%~55%、より好ましくは20%~55%とされる。(ノズル孔3の長手方向中心軸の長さ)/(短手方向最長部の長さ)の比は2~8、好ましくは3~8、より好ましくは3~6とすることができる。各軸の具体的な長さについては、所望するガラス繊維の繊維径により選択され、長軸は、例えば2mm~10mm、好ましくは2mm~8mm、短軸は、例えば0.3mm~2mm、好ましくは0.5~2mmとすることができる。前記切り欠き4の幅とは、前記切り欠き4による開口部の水平方向の、前記長辺壁21の切り欠き側の端面211の最頂部212間の距離を指す。
【0029】
また、前記突出部2の長さは、ガラス融液のノズルチップからの引き出し量を考慮して決定され、例えば、0.5mm~7mm、好ましくは、0.5mm~5mmとすることができる。前記ノズルチップの容積は、ノズル孔3の断面積と前記突出部2の長さから計算され、例えば0.3~140mm3、好ましくは0.5~80mm3である。
【0030】
切り欠き4の高さは、突出部2の長さ(底面部5から突出部2の先端までの長さ)の2%~80%とすることが好ましい。前記切り欠き4の高さが、2%未満の場合、ガラス融液への冷却効果が充分となりにくいことがある。他方、前記切り欠き4の高さが、80%超の場合、ガラス融液のノズル孔3での流動性が低くなることがある。これらを考慮すると、前記切り欠き4の高さを、好ましくは、前記突出部2の長さの2%~60%、より好ましくは10%~60%としてもよい。前記切り欠きの高さとは、前記切り欠き4による開口部の鉛直方向の、前記長辺壁21の切り欠き側の端面の最頂部212から前記突出部2の先端までの距離を指す。
【0031】
前記切り欠き4による開口部の面積(2つの切り欠き4の面積の総和)は、前記一対の長辺壁21と前記一対の短辺壁22の内周の総面積(この総面積には切り欠き4による開口部の面積も含む)の1%~45%、好ましくは3%~40%、より好ましくは5%~35%とされる。
【0032】
また、前記切り欠き4は、前記長辺壁21のノズル孔3の排出側中央に備えることが好ましく、また、その形状が矩形状であることが好ましい。切り欠き4の容積(
図1の例では、切り欠き4の幅と高さと奥行き(ノズルチップの厚みに相当する)で形成された領域)は、前記ノズルチップの容積の1~35%とすることが好ましい。
図1の例では、長辺壁21は、平面状の領域で、短辺壁22は、曲面状の領域となっている。
【0033】
また、前記長辺壁の切り欠き側の端面211は、前記長辺壁21の厚みが前記切り欠き4側へ向かって漸減することによって生じる勾配面を備えてもよい。前記勾配面は、ノズル孔3側に向いているのが好ましい。
図7に、前記勾配面を設けたノズルチップ1の態様の一例を示す。勾配面の傾斜は、任意の角度とすることができ、例えば、15°~80°としてもよい。また、勾配面の幅は、前記長辺壁21の切り欠き4側の端面の最頂部212から、底面部5までの距離、又は、前記長辺壁21と前記短辺壁22との境界までの距離をそれぞれ上限として、任意の値とすることができる。同様に、勾配面の深さは、長辺壁21の厚みを上限として、任意の値とすることができる。ここで、勾配面の深さ、及び幅は
図7の図示にて定義されたものとする。
【0034】
前記勾配面は、前記長辺壁21の切り欠き側の端面の長さ方向全体にわたって設けてもよいし、一部に設けても良い。しかし、前記勾配面は、前記長辺壁21の切り欠き側の端面の長さ方向全体にわたって設けた方がノズルチップやベースプレートが汚れ難く好ましい。また、前記勾配面の傾斜角度、幅、深さなどは、各部で共通の値としても、異なる値としてもよい。
図1のノズルチップ1の切り欠き4側の端面の断面の態様例を
図8に例示する。
図8(a)は、切り欠き4側の端面に勾配面を設けていないもの、
図8(b)、(c)及び(d)は、切り欠き4側の端面にノズル孔3側に向いた勾配面を設けたものを現している。さらに、前記勾配面は平面、曲面、多面的表面の何れかの面を有していれば良いが、加工のし易さから平面が好ましい。
【0035】
ノズルチップ1の他の態様を
図3に例示する。
図3に例示されたノズルチップ1は、ノズル孔3側から観察したときの要部を示すものである。
図3(a)は、ノズル孔の形状が矩形状のもの、
図3(b)は、ノズル孔の形状が楕円形状のもの、
図3(c)は、台形状のものを表している。さらに
図3(c)の変形態様として、各辺が丸みを帯びたものも挙げることができる(図示省略)し、他に、ひょうたん形状、ダンベル形状、三角形状などの形状としてもよい。ノズル孔の形状は、ノズル製作の容易性と、断面形状が非円形で、長手方向中心軸を対称軸として対称であるガラス繊維の得やすさを考慮すると、
図1に示す断面が長円の形状か、
図3(a)に示す断面が長方形の形状が好ましく、特には、
図1に示す形状のものが好ましい。
【0036】
次に前記ノズルチップ1を使用したガラス繊維の製造例を説明する。
図4は、本発明のノズルチップ1の使用例の要部を模式的に示す図である。
【0037】
扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維GFは、
ガラス融液が貯留された貯留槽6の底面に固定された、前記ノズルチップ1のノズル孔3にガラス融液を導通する工程と、
前記ノズル孔3からガラス融液GMを引き出して排出することで、ガラス融液を急冷し繊維化する工程と、を経て製造することができる。
【0038】
前記ノズルチップ1は、底面部5に固定され、1~5000個並べて使用される。ノズルチップ数が多くなれば、同時に生産できるガラス繊維の本数が多くなるため、ノズルチップ数は生産性に大きく関係する。しかし、一枚の底面部5に形成するノズルチップ数が5000個を超えると、底面部5が広くなりすぎるため、熱が各ノズルチップに均等にかかりにくいなどの不具合が現れる場合がある。これを考慮すると、前記ノズルチップ数は50~1000個が好ましい。
【0039】
底面部5は、ノズルチップ1と同じ白金、又は白金合金を用いることができる。特に強度を勘案すると、白金にロジウムが5~30重量%含まれた白金ロジウム合金、及び前記白金ロジウム合金にジルコニア微粒子が分散された強化白金ロジウム合金を各部材に用いることが好ましい。
【0040】
前記ノズルチップ1の周辺には、ガラス繊維の冷却を促すために適宜冷却フィン8を配置しても良い。前記冷却フィンは、ガラス繊維を紡糸する際に常用される既知の冷却フィンを使用してもよい。前記冷却フィンは、銅、銀、金、鉄、ニッケル、クロム、白金、ロジウム、パラジウム、及びこれらの合金からなる熱伝導度の高い金属からなるものを使用することができる。冷却フィンによる冷却だけでは冷却が不十分な場合においては、冷却フィンの中に水などの液体を流すことで、さらに冷却を促すことができる。前記冷却フィン8の設置場所は特に指定されるものでは無いが、冷却フィン8の設置高さは、冷却フィン8の上端が前記切り欠き4と対向するように配置してもよい。
【0041】
貯留槽6に貯留されたガラス融液は、ノズル孔3を通じて引き出され、冷却過程を経て、ガラス繊維化される。引き出されたガラスは、巻取り機7等で引っ張ることで繊維化が促進される。ガラス繊維を構成するガラスとしては、既知のガラス組成のものを用いることができる。既知のガラス組成としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、ECRガラス、Aガラス、ARガラスなどが挙げられる。これらの中でも、Eガラスはガラス中のアルカリ成分が少ない組成であるため、アルカリの溶出が発生しにくく、樹脂と複合化した場合に樹脂材料への影響が少ないので好ましい。ガラス融液の温度はガラスの組成によっても異なるが、Eガラス組成の場合はノズルチップ1を通る時の温度が1100~1350℃となるように調整することが好ましい。
【0042】
前記ノズルチップ1より出てきたガラスは、コレットを備えた巻取り機などにより高速で引っ張られることが好ましい。その引張速度は適宜調整することができ、好ましくは100~5000m/分とされる。引張速度が速くなればよりガラス繊維は細いものとなり、また引張速度が遅くなればガラス繊維は太いものとなるため、引張速度はガラス繊維の形状設計の観点から決められる。ガラス繊維はコレットを備えた巻取り機の他に、種々の方法で引っ張ることができる。例えば、ガラス繊維を引っ張りながら切断を行うダイレクトチョッパーを用いれば、チョップドストランドを好適に作製することができる。
【0043】
以上の操作で、扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維GFを得ることができる。ノズル孔の扁平状の断面形状に対応して得られるガラス繊維GFの、扁平状の断面形状の例としては、長円形、ひょうたん形、ダンベル形などの形状が挙げられ、これらに類する形状も含まれる。前記ガラス繊維GFの断面の大きさは、前記ノズル孔3の大きさ、ガラス融液やノズルチップの温度、及び巻取り機7の巻取り速度などによって適宜設計され、例えば長手方向中心軸の長さは4~80μm、好ましくは10~60μm、短手方向中心軸の長さは1~20μm、好ましくは2.5~15μmとすることができる。また、長軸の長さを短軸の長さで除した扁平率は、例えば2~10などとすることができる。
【0044】
前記ガラス繊維は、巻取り機などで巻取られる前にアプリケーターなどを用いて、適宜集束剤を塗布してもよい。前記集束剤としては、界面活性剤、シランカップリング剤、pH調整剤、及び樹脂などから形成される既知の集束剤を用いることができる。粉砕などの加工を行う場合においては、集束剤を用いない場合もあるが、これら集束剤塗布の有無は繊維の用途に従って適宜設計される。
【0045】
得られた前記ガラス繊維には、切断や粉砕、加熱、織物化、抄紙化、撚りをかけるなどの加工を適宜加えることができる。これらの加工により、チョップドストランドやチョップドストランドマット、ミルドファイバー、サーフェイスマット、ガラスペーパー、ガラス繊維織物、ロービングクロスなどの形状とすることができる。
【0046】
扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維は、樹脂と複合化されることで、繊維強化樹脂物品とすることができる。該ガラス繊維と複合化される樹脂は、既知の樹脂を用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ABS樹脂、メタロセン樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマーなどが挙げられる。繊維強化樹脂物品中には、ガラス繊維を、0.01~80重量%含んでいてもよい。本発明の長手方向中心軸を対称軸として対称で、非円形の断面のガラス繊維は、ガラス繊維同士がより重なり合い易くなっているので、繊維強化樹脂物品中のガラス繊維量を30重量%以上とする場合においても、ガラス繊維量を増やすことで強度の改善に寄与し、かつ射出成形などの成形時に発生しやすいそりも抑制することが可能である。
【0047】
当該ガラス繊維と樹脂との複合化には、複合化する樹脂の特性に合わせて、既知の混練方法及び装置を用いることができる。熱可塑性樹脂であれば、加熱溶融式の混練機を用いることが好ましく、単軸混練機、二軸混練機、単軸混練押出機、二軸混練押出機、加熱装置を備えたニーダーやミキサーなどを用いることができる。
【0048】
また、当該ガラス繊維と樹脂が混練された繊維強化樹脂物品は、複合体の特性や形状に合わせて、既知の成形方法を用いることができる。熱可塑性樹脂であれば射出成形法やブロー成形法、熱硬化性樹脂であればハンドレイアップ法、スプレーアップ法、引抜成形法、SMC法、BMC法、トランスファー成形法などが挙げられる。本発明の長手方向中心軸を対称軸として対称で、非円形の断面のガラス繊維は、ガラス繊維同士がより重なり合い易くなっているので、射出成形法を用いる場合においても成形品のそりを防止することができるので好ましい。成形された複合体(当該ガラス繊維を含む繊維強化樹脂物品)は、強度や耐熱性、耐薬品性が要求される自動車、電子機器などの部品や筐体として用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。本実施例で得られたガラス繊維は、以下に述べる方法にて評価された。
【0050】
〔ガラス繊維の評価方法〕
作製されたガラス繊維の束を冷間埋込樹脂(丸本ストルアス、エポフィックス)で固め、切断面を研磨した。その後、得られた研磨面を電界放出形走査電子顕微鏡(S―4500、日立製作所)により観察し、繊維断面から長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称である形状か判定した。また、10本の繊維の長軸、及び短手方向の最長部(短軸)を測長し、長軸の平均値、短軸の平均値、及び扁平率として長軸を短軸で除した値の平均値を算出した。さらに、扁平率については平均に対する標準偏差の百分率を計算し、扁平率の標準偏差(%)とした。
【0051】
実施例1
ガラス貯留槽6の底面に
図1に示す形状を備えるノズルチップ1を設置し、前記ガラス貯留槽6内で、1160℃で溶融されたEガラス組成のガラス融液GMを、ノズル孔3を通じて引き出し、引き出されたガラスを958m/分で巻き取って、ガラス繊維を得た。
【0052】
使用したノズルチップ1は、長辺壁及び短辺壁の部材の厚みが0.3mmで、ノズル孔3の水平断面の長軸が4mm、短軸が1mm、突出部の長さが3mm、切り欠き4の幅が1.2mm(ノズル孔3の長軸に対して30%)であり、切り欠き4の高さが1.8mm、切り欠き4の形状が矩形状の構造を備えるものであった。また、開口部の面積比は21%であった。
【0053】
得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された(ガラス繊維断面の電界放出形走査電子顕微鏡による観察結果を
図5に示す)。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは21.9μm、短手方向長さの最大値は5.2μmであり、扁平率は4.2であった。また、扁平率の標準偏差は6.7%と扁平率のばらつきが少ないものであった。
【0054】
実施例2
ガラス貯留槽内でのガラス融液の温度を1180℃とした以外は、実施例1と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは20.1μm、短手方向長さの最大値は8.2μmであり、扁平率は2.5であった。また、扁平率の標準偏差は7.1%と扁平率のばらつきが少ないものであった。
【0055】
実施例3
ノズルチップの切り欠き4の幅を1.6mm(ノズル孔3の長手方向中心軸の長さに対して40%)とし、開口部の面積比を28%とした以外は、実施例2と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは23.9μm、短手方向長さの最大値は8.1μmであり、扁平率は3.0であった。また、扁平率の標準偏差は21.5%と扁平率のばらつきが少ないものであった。
【0056】
実施例4
ノズル孔3の長軸を5.4mm、短軸を1mm、突出部の長さを3mm、切り欠き4の幅を1.2mm(ノズル孔3の長手方向中心軸の長さに対して22%)、切り欠き高さを1.8mm、開口部の面積比を15%とした以外は、実施例1と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは22.5μm、短手方向長さの最大値は9.1μmであり、扁平率は2.5であった。また、扁平率の標準偏差は3.7%と扁平率のばらつきが少ないものであった。
【0057】
実施例5
ノズル孔3の長軸を4.8mm、短軸を1.2mm、突出部の長さを3mm、切り欠き4の幅を1.6mm(ノズル孔3の長手方向中心軸の長さに対して33%)、切り欠き高さを1.8mm、開口部の面積比を20%としたノズルチップを使用し、ガラス貯留槽内でのガラス融液の温度を1190℃とした以外は、実施例1と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは31.3μm、短手方向長さの最大値は10.3μmであり、扁平率は3.0であった。また、扁平率の標準偏差は3.4%と扁平率のばらつきの少ないものであった。
【0058】
実施例6
切り欠き4の幅を2.0mm(ノズル孔長手方向中心軸の長さに対して42%)とし、開口部の面積比を25%とした以外は、実施例5と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは37.8μm、短手方向長さの最大値は9.5μmであり、扁平率は4.0であった。また、扁平率の標準偏差は4.9%と扁平率のばらつきの少ないものであった。
【0059】
実施例7
ノズルチップ1の長辺壁21の切り欠き4側端面において、長辺壁21の厚みが切り欠き4側へ向かって漸減することによって生じる勾配面を備え、前記勾配面はノズル孔3側に向いており、前記6面の勾配面全ては、前記勾配面の幅は0.2mm、前記勾配面の深さは0.3mm、前記勾配面の傾斜角度は56.3°としたこと(ノズルチップ1の要部を
図7に示す)以外は、実施例5と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは34.4μm、短手方向長さの最大値は9.1μmであり、扁平率は3.8であった。また、扁平率の標準偏差は2.9%と扁平率のばらつきの少ないものであった。さらに、このノズルチップ形状は、切り欠き4の内側に設けたノズル孔3側に向いた勾配面によって、切り欠き4からノズル長辺壁21、さらにはベースプレート5へのガラス融液の漏れ広がりが抑制されるため、勾配面を設けないノズルチップと比べてノズルチップやベースプレートが汚れにくいものであった。
【0060】
実施例8
切り欠き4を、ノズル孔3側からベースプレート側に向かって幅が漸減する台形とした。切り欠き4の形状について、ノズル孔3側の幅を2.0mm、ベースプレート側の幅を1.2mmとし、切り欠き高さを1.8mmの台形状とすることで、開口部の面積比を20%とした。それ以外は、実施例5と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。ガラス繊維を連続して紡糸することは可能であったが、一部、ガラス融液が切り欠きの斜辺を伝って片側の短辺壁22に偏りながら流出する、いわゆる脈動現象が発生した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平状の断面を有し、長手方向中心軸(長軸)を対称軸として対称であるガラス繊維であることが確認された。得られた繊維の長手方向中心軸の長さは26.2μm、短手方向長さの最大値は11.2μmであり、扁平率は2.3であった。また、扁平率の標準偏差は29.5%であり、矩形状の切り欠きを備えた実施例1などのノズルと比較すると、扁平率のばらつきの大きいものであった。
【0061】
比較例1
切り欠き4の幅を2.4mm(ノズル孔3の長手方向中心軸の長さに対して60%)とし、開口部の面積比を42%とした以外は、実施例1と同じ条件にてガラス繊維を得ようとしたが、繊維が切れて紡糸することができなかった。ガラス融液のノズル孔3内でのガラス融液の流動性の安定性が低いことが原因と考えらえる。
【0062】
比較例2
片側の長辺壁21に切り欠きを設けないこと以外は、実施例2と同じ条件でガラス繊維を紡糸した。得られた繊維を上記ガラス繊維の評価方法に沿って評価したところ、扁平な断面形状の長手方向中心軸を対称軸として対称である扁平状の断面を有するガラス繊維を得ることはできなかった(ガラス繊維断面の電界放出形走査電子顕微鏡による観察結果を
図6に示す)。
【符号の説明】
【0063】
1 ノズルチップ
2 突出部
21 長辺壁
211 長辺壁21の切り欠き4側の端面
212 長辺壁21の切り欠き4側の端面の最頂部
22 短辺壁
3 ノズル孔
4 切り欠き
5 底面部
6 貯留槽
7 巻取り機
8 冷却フィン