(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】医療画像処理システムおよび医療画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220518BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220518BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220518BHJP
G06T 3/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
A61B6/03 360D
A61B6/03 375
A61B6/03 360G
A61B5/055 380
G06T1/00 290
G06T3/00
(21)【出願番号】P 2018105427
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2017109503
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】七戸 金吾
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-161675(JP,A)
【文献】特開平5-095932(JP,A)
【文献】特開2007-144056(JP,A)
【文献】特開2010-104563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
A61B 5/055
G06T 1/00-1/40、3/00-5/50、9/00-9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像処理ユニットを備える医療画像処理システムであって、
前記画像処理ユニットは、
(a)所定の関心領域における第1の解剖学的オブジェクトを識別する処理と、
(b)前記所定の関心領域における第2の解剖学的オブジェクトを識別する処理と、
(c)前記第1の解剖学的オブジェクトと前記第2の解剖学的オブジェクトとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(d)前記重なり部において、前記第1および第2の解剖学的オブジェクトのうち少なくとも一方を変形または移動させ、オブジェクトどうしが重なっていない状態とする処理と、
を行うように構成されている、
医療画像処理システム。
【請求項2】
前記第1の解剖学的オブジェクトが動脈の三次元モデルであり第2の解剖学的オブジェクトは静脈の三次元モデルであって、
前記画像処理ユニットは、
(d′)前記重なり部において、前記静脈の三次元モデルを変形または移動させ、動脈および静脈が重なっていない状態とする、
請求項1に記載の医療画像処理システム。
【請求項3】
前記画像処理ユニットは、さらに、
(e1)検出された重なり部の数が所定数を超えているか否かを判定し、
(e2)所定の値を超えていた場合には、その旨を示すメッセージまたは警告を表示する、
請求項1または2に記載の医療画像処理システム。
【請求項4】
前記第1の解剖学的オブジェクトは、造影剤を注入して時刻t1に撮影された断層画像に基づいて作成されたものであり、
前記第2の解剖学的オブジェクトは、造影剤を注入して、時刻t1よりも所定時間だけ後の時刻t2に撮影された断層画像に基づいて作成されたものである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の医療画像処理システム。
【請求項5】
画像処理ユニットを備える医療画像処理システムであって、
前記画像処理ユニットは、
(a)所定の関心領域における第1の解剖学的オブジェクトを識別する処理と、
(b)前記所定の関心領域における第2の解剖学的オブジェクトを識別する処理と、
(c)前記第1の解剖学的オブジェクトと前記第2の解剖学的オブジェクトとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(g)少なくとも1箇所の前記重なり部に関し、前記解剖学的オブジェクトに対応した、当該オブジェクトの元データである断層画像を表示する処理と
を行うように構成されている、
医療画像処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療画像処理システムおよび医療画像処理方法等に関し、特には、血管の走行状態の確認がより行い易い医療画像処理システムおよび医療画像処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療の画像診断装置として、CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、超音波診断装置、血管造影(アンギオグラフィ)撮像装置等が知られている。
【0003】
また、例えばCT装置等で血管の造影画像を撮像し、三次元モデルを生成することも実用化されている。造影剤を注入して撮像を行うことで、血管を、周囲の組織や構造体から区別しやすくなる。血管は、また、MRI装置やアンギオグラフィ装置を使用して画像化することも可能である。
【0004】
特許文献1には、脳血管の解析に関する技術が開示されており、特には、造影剤が動脈に到達する時間と検査領域に到達する時間の差に起因した問題を解決するためにCTカーブを時間軸方向にシフトさせることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の開示からも理解されるように、造影剤を注入して例えば動脈の造影画像と静脈の造影画像を得ようとした場合、それぞれへの到達時間の違いから、それらは異なるタイミングで撮像されることとなる。つまり、造影剤が比較的早く到達する動脈については
図12に示すように時刻t1で撮像が行われ、その後所定の時間をあけた時刻t2のタイミングで静脈の撮像が行われることとなる。
【0007】
このような撮像手法の場合、例えば脳などの場合には問題は生じにくいものの、胃や肺といったそれ自体が動く臓器に関しては次のような問題が生じうる。すなわち、時刻t1から時刻t2の間で臓器が動き、それに伴って動脈および静脈も変位することから、時刻t1の「動脈」の画像と、時刻t2の「静脈」の画像とを重畳して表示しようとしたときに、正しい位置関係で表示されないという問題である。
【0008】
図13、
図14を参照して具体例について説明する。
図13は、血管に造影剤を注入するとともに動脈および静脈の画像をそれぞれ異なるタイミング(時刻t1、t2)で撮像し、それを三次元モデル化したものである。
図13では、符号31が動脈モデルであり、符号33が静脈モデルを示している。そして、この例では、動脈モデル31が静脈モデル33よりも紙面手前側を走行しているような画像となっている。なお、本明細書では「動脈31」および「静脈33」という表現も用いるものとする。
【0009】
一方、
図14は、患者の実際の血管の走行状態を模式的に示したものである。同図に示すように、実際には、動脈31は静脈33の手前側ではなく、奥側を走行している。
図13の例で、動脈31が静脈33よりも手前側を走行しているような画像が生成された理由としては、次のような点が挙げられる。
【0010】
すなわち、時刻t1のタイミングでは動脈および静脈は比較的手前側に存在しており、その位置で撮像されたデータに基いて作成されたのが動脈モデル31であるのに対して(時刻t1では静脈は三次元モデル化されない)、時刻t2では、動脈および静脈が奥側へと移動し、その位置で撮像されたデータに基いて作成されたのが静脈モデル33となり(時刻t2では動脈は画像化されない)、このような位置ずれに起因して、2本の血管の位置関係が見た目上不正確に表示されたものである。
【0011】
このように、動脈および静脈を造影撮像しそれぞれを三次元モデル化して表示しようとした場合には、従来、時刻t1と時刻t2との間の臓器および血管等の動きに起因した血管モデルの位置ずれの問題点が存在していた。
【0012】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、血管の走行状態の確認がより行い易い医療画像処理システムおよび処理方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一形態の~は下記の通りである:
画像処理ユニットを備える医療画像処理システムであって、
前記画像処理ユニットは、
(a)所定の関心領域における動脈の三次元モデルを識別する処理と、
(b)前記所定の関心領域における静脈の三次元モデルを識別する処理と、
(c)前記動脈の三次元モデルと前記静脈の三次元モデルとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(d)前記重なり部において、前記動脈の三次元モデルおよび静脈の三次元モデルのうち少なくとも一方を変形または移動させ、動脈および静脈が重なっていない状態とする処理と、
を行うように構成されている、
医療画像処理システム。
【0014】
(用語の説明)
・「造影剤」の具体例としては、ヨード濃度240mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度3.3mPa・s、比重1.268~1.296)、ヨード濃度300mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度6.1mPa・s、比重1.335~1.371)、ヨード濃度350mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度10.6mPa・s、比重1.392~1.433)等がある。
・「画像処理ユニット」とは、例えば、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)とメモリとインターフェース等を有し、メモリ内に格納されたコンピュータプログラムを実行することで様々な機能を実現するコンピュータユニットまたはプロセッサユニットであってもよい。一例で、コンピュータユニットまたはプロセッサユニットは、CPU、ROM、RAM、およびI/F等のハードウェアを有しプログラムが実装されたいわゆるワンチップマイコンであってもよい。他にも、制御部は、電気回路として設けられたものであってもよい。
・「部(「セクション」、「ユニット」または「モジュール」等としても表現できる)」に関し、本明細書で例えば「(機能の名称)」+「ユニット」等で表わされるものは、コンピュータの機能として実現可能なものである。このような「部」は、システムにおけるいずれの機器に備わっていてもよい。また、必ずしも1つの機器内に備わっている必要はなく、相当する機能が2つ以上の機器に分散して備えられていてもよい。さらに、通信ネットワーク(LANまたはWAN)を介して、所定の1つまたは複数の「部」のみが外部の機器に備えられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、血管の走行状態の確認がより行い易い医療画像処理システムおよび処理方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一形態に係る医療画像処理システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】病院システムのネットワークを示す図である。
【
図3】本発明の一形態に係る医療画像処理方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】造影剤を注入して撮像した断層画像の模式図である。
【
図5】動脈および静脈の重なり部に関し静脈を部分的に変形する例の模式図である。
【
図6】動脈および静脈の重なり部に関し静脈を移動する例の模式図である。
【
図7】血管の断面形状を変更する例の模式図である。
【
図8】動脈と静脈とが重なる場合の表示の仕方の一例を示す図である。
【
図9】動脈と静脈とが重なる場合の表示の仕方の別の例を示す図である。
【
図10】モデルどうしが重なる状態を示す図である。
【
図11】一方のモデルを移動させた状態を示す図である。
【
図12】動脈モデルの撮像時刻と静脈モデルの撮像時刻が異なることを示す図である。
【
図13】動脈および静脈を三次元モデル化して表示した一例を模式的に示す図である。
【
図14】実際の血管の走行状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面を参照して以下に説明する。なお、以下では具体的な構成や方法の手順を例として説明を行うが、本発明は必ずしもそれらに限定されるものではない。
【0018】
[構成]
本実施形態の医療画像処理システム300は、
図1に示すように、この例では、CPUおよびメモリ等を有する画像処理ユニット350と、記憶デバイスである記憶部360と、入力デバイス361と、外部機器等との接続を行うインターフェース363等を備えている。また、図示は省略するものの、ネットワークに接続するためのモジュールや、無線通信モジュール等が設けられていてもよい。
【0019】
医療画像処理システム300は、例えば、撮像装置(モダリティ)に直接接続されて使用されるものであってもよいし、または、
図2に示すように、病院システムのネットワークに接続されて使用されるものであってもよい。病院システムは、限定されるものではないが、ネットワークに接続された次のような機器の1つまたは複数を備えている:撮像装置1、薬液注入装置10、病院情報システムであるHIS(Hospital Information System)21、放射線科情報システムであるRIS(Radiology Information System)22、画像保存通信システムであるPACS(Picture Archiving and Communication Systems)23等。
【0020】
(撮像装置)
撮像装置1は、
図2では1つのみが描かれているが、例えばX線CT装置とアンギオグラフィ(血管造影)装置といったように複数台接続されていてもよい。
【0021】
(薬液注入装置)
薬液注入装置10としては、少なくとも造影剤を注入する造影剤注入装置であってもよく、具体的には、薬液が充填された容器(一例でシリンジ)から薬液を押し出す駆動機構と、その動作を制御する制御回路とを備えたものであってもよい。一例として、注入ヘッドとコンソールとを備えた造影剤注入装置を利用することができる。
【0022】
注入ヘッドは、基本的には、1本または複数本(例えば2本)のシリンジを保持するシリンジ保持部と、そのシリンジのピストンを前進および/または後退させる1つまたは複数のピストン駆動機構と、制御回路(制御部)とを有する。シリンジの装着方法としては、主に、(i)シリンジ保持部がヘッド上面の凹部として形成されそこにシリンジがセットされるいわゆるサイドローディングのタイプと、(ii)シリンジ保持部がヘッド前面に形成されシリンジの基端部が保持されるいわゆるフロントローディングのタイプとがある。本発明の一形態においては、いずれのタイプの注入ヘッドをも含む。また、シリンジ内から薬液を送出するもの以外として、例えば所定の収納体内から薬液を押し出すことにより薬液を送出する方式するものも本願の「注入ヘッド」に含まれ得る。
【0023】
コンソールは、薬液の注入条件(つまり、注入ヘッドのピストン駆動機構をどのように動作させるか)を決定するための条件設定画面のデータを格納し、また、ディスプレイにその画面を表示する。別の言い方をすれば、コンソールは、注入条件を決定するためのグラフィカルユーザインターフェースを提供する。また、注入中における薬液の圧力検出やその表示を行う機能、ならびに、注入条件および/または注入結果のデータを保存したり、外部に送信したりする機能も有する。
【0024】
(医療画像表示システム)
再び
図1を参照し、医療画像処理システム300の構成について説明する。入力デバイス361としては、例えばキーボードやマウス等といった一般的なデバイスが挙げられる。必要に応じて、音声入力のためのマイクや、ジェスチャ入力のためのセンサデバイスなどを利用してもよい。
【0025】
インターフェース363は外部の種々の機器等との接続を行うためのものであり、図では1つのみ示されているが、当然ながら複数設けられていてもよい。接続の方式(通信の方式)は有線であっても無線であってもよい。
図1の例では、インターフェース363に撮像装置1が接続されており、これにより、撮像装置1からのデータが医療画像処理システム300に読み込まれるようになっている。別の態様では、ネットワーク経由でデータが医療画像処理システム300に読み込まれる。
【0026】
記憶部360は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、および/またはメモリなどで構成されたものであってもよく、OS(Operating System)のプログラムや、本発明の一形態に係る医療画像処理プログラムが格納されていてもよい。
【0027】
また、各種処理に用いるその他のプログラムや、テーブル、データ等を必要に応じ格納する。コンピュータプログラムは、制御部のメモリにロードされることによって実行され、CPUなどのハードウェアと協働し、これにより本実施形態のような機能を備えた制御部を構成するものであってもよい。コンピュータプログラムは、任意のネットワークを介して必要時に外部機器からその全部または一部がダウンロードされるものであってもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード(登録商標)、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD-ROM、MO、DVD、および、Blu-ray(登録商標)Disc等の任意の「可搬の物理媒体」を含むものとする。本実施形態の医療画像表示装置は、上記のような記憶媒体を読み込むためのスロット(不図示)が設けられていてもよい。
【0028】
医療画像処理システム300は、ディスプレイ200に所定の情報を表示するように構成されている。ディスプレイ200としては、特に限定されるものではないが、LCD(Liquid Crystal Display)ディスプレイや有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ等を利用可能である。ディスプレイ200は、医療画像処理システム300が1つの筐体として構成されている場合、その一部にも一体的に設けられたものであってもよい。あるいは、本体部(不図示)とは別体に構成され、接続して使用されるものであってもよい。
【0029】
(画像処理ユニットの構成)
医療画像の処理機能を実現するため、本実施形態の画像処理ユニット350は、血管識別機能、重なり検出機能、血管の位置特定機能、血管を変形および/または移動させる機能、アラーム機能を実行するように構成されている。これらの機能は、コンピュータプログラムの命令にしたがって実現されるものであってもよい。
【0030】
[動作の一例]
次いで、
図3のフローチャートを参照しながら、医用画像処理の一例について説明する。
【0031】
まず、ステップS1において、例えばX線CT装置で患者の所定の関心領域(例えば腹部、特には一例で胃部分の血管)の撮像を行い、元画像となる二次元断層画像のデータを取得する。撮像は、造影剤注入後、時刻t1、t2において行う(
図12参照)。そして、取得した断層画像データに基づいて、三次元の血管モデルを生成する。ここで、造影剤が到達する時間が相対的に早い動脈については、時刻t1の断層画像データに基づき、動脈の三次元モデルを生成する。一方、静脈については、時刻t1から所定時間後の時刻t2の断層画像データに基づき、三次元モデルを生成する。そして、これらを組み合せて血管全体の三次元モデルとする。
【0032】
なお、断層画像データから三次元モデルを生成する手法としては、従来公知のものを適宜利用可能であるので、詳細な説明は省略する。三次元モデルの生成は、医療画像処理システム300によって行われてもよいし、または、ワークステーション等の他の端末で行われてよい。後者の場合、医療画像処理システム300は、生成された血管の三次元モデルを読み込むこととなるが、読込みは、上記端末からデータを直接読み込んでもよいし、または、任意のデータサーバ(不図示)等に保存されたものを読み込むものであってもよい。
【0033】
次いで、ステップS2において、動脈モデル31と静脈モデル33(
図13参照)の識別を行う。この識別は、それぞれモデルの属性情報を利用して行うことができる。例えば、臓器や血管などに対して属性情報を予め付与し、別々のオブジェクトとして保存されたデータを用いるものであってもよい。この場合、オブジェクトごとに、一例として、そのオブジェクトを音声認識するための名称の情報(例えば「静脈」といった語句)、判別用のシリーズデスクリプションの情報(例えば静脈であればSVC)、そのオブジェクトを表示する際の色の情報、オフセット値の情報(例えば静脈CT値が動脈よりも低い場合などに使用する)、表示する際の透過度の情報の少なくとも1つが関連付けられていてもよい。こうしたデータは、CSVデータやテーブルとして保存されていてもよい。さらに、オブジェクト同士が重なった際に、どちらのオブジェクトを優先的に表示させるかの情報(優先/非優先)が含まれていてもよい。
【0034】
次いで、ステップS3において、動脈31と静脈33との重なり部の検出を行う。この検出に関しても、従来公知の方法で実施することが可能である。重なり部の検出は、例えば、ボクセルデータが重複している部分を重なり部と判定するものであってもよい。
【0035】
限定されるものではないが、重なり部と判定された個所については、例えばそこが視覚的に強調される(一例で、矢印や円のような要素がその個所に表示される)構成であることが、一形態において、好ましい。こうすることで、医師等が、重なり部の存在を容易に視認できるものとなる。
【0036】
ステップS3において重なり部が検出された場合、次いで、ステップS4において、各重なり部における動脈および静脈の位置の特定を行う。この血管位置特定は、三次元モデルデータに基づいてではなく、元画像である二次元断層画像データに基づいて行う。具体的には、例えば
図4に模式的に示すように、断層画像30における動脈31と静脈33の位置に基づいて、両者の位置関係を特定する。
【0037】
図13のような三次元モデルデータは、前述したような理由から、動脈と静脈との位置関係が不正確である場合があるが、断層画像データ(
図4参照)は同一時刻に動脈および静脈を撮像したものであり、両者の位置関係が正確に表れているためである。なお、この断層画像は時刻t2のデータである。
【0038】
次いで、ステップS5において、動脈モデル31および静脈モデル33の移動または変形を行い、両血管が重ならない状態とする。このための手法としては、例えば、重なっている動脈モデル31と静脈モデル33の一方または両方を移動または変形させるものであってもよい。「移動または変形」としては、例えば
図5に模式的に示すように血管の一部(重なっている部分やその近傍領域)のみを変形させるような態様であってもよい。この変形は、一例で、血管の中心線であるパスの形状を変形することで実施されるものであってもよい。
【0039】
または、
図6に模式的に示すように、部分的もしくは全体的に血管の位置をオフセット(移動)させる態様であってもよい。こうした移動または変形の処理は、全ての重なり部について行ってもよいし、1個所または数カ所のみについて行ってもよい。一例として、移動または変形の処理を行うか否かが、重なりの度合いによって決定される構成としてもよい(重なりの度合い大きいものについては処理を行い、重なりの程度が小さいものについては処理を行わない等)。
【0040】
動脈または静脈のいずれを移動させるかに関しては、具体的な例として、動脈モデル31は移動させず、静脈モデル33のみを移動または変形させるようにしてもよい。この場合、移動または変形される静脈モデルの方の正確性が低下したものとなるが、この種の血管三次元画像の利用の場面では、動脈の走行状態を確認できることがより優先的となることが多いため、動脈モデルをより正確に表すことができる上記処理は、一形態において、好ましい。他の態様としては、それぞれの血管モデルを、互いに遠ざけるように移動又は変形させるようにしてもよい。動脈モデル31と静脈モデル33の移動量は同一であってもよいし、異らせてもよい(例えば、静脈モデル33の移動量を動脈モデル31の移動量よりも大きくする)。
【0041】
以上一連の手法によれば、従来、位置関係が不明りょうとなる可能性があった三次元血管モデルを、より正確な位置関係でモデル化して表示することが可能となる。その結果、例えば術前に医師等が当該三次元モデルを見ながら血管走行状態の確認や手術のシミュレーションを行う場合でも、不正確な情報を提示することなく、より高信頼性の手術を行うことが可能となる。
【0042】
(断面変形)
例えば、上記では「変形」として、血管を湾曲させる例を示したが、他にも、
図7のような変形の態様としてもよい。この例では、動脈31および静脈33が部分的に重なっているが、それぞれの血管の断面形状を変形させ、互いに重ならないように変形している。一例として、重複する部分が生じないように、それぞれの血管の断面を略D字形に変形させてもよい。
【0043】
なお、必ずしも「略D字形」である必要はなく、任意の形状に変更させ得る。また、この例では両方の血管を変形させているが、一方のみ(一例で静脈のみ)を変形させるようにしてもよい。
【0044】
(元画像表示)
また、上記では、血管どうしの重複があった場合に、動脈モデル31と静脈モデル33の一方または両方を移動または変形させる例を示したが、重複している箇所に関する元画像(すなわち二次元の断層画像)を表示するようにしてもよい。このように元画像を表示することで、医師は、三次元モデルではなく実際の断層画像に基いて、血管の正確な医師関係を把握することができる。この元画像の表示に際して、例えば、重複している箇所がある旨を示すメッセージを表示したり、元画像の確認を促すようなメッセージを表示したりするようにしてもよい。また、アイコンの選択や音声入力、ジェスチャ入力など、所定の入力が行われた際に、二次元画像を表示するようにしてもよい。表示する元の断層画像は、複数の撮像時刻のうちの任意の1つのものまたは組合せであってもよい。
【0045】
このような元画像表示は、動脈モデル31と静脈モデル33の一方または両方を移動または変形させる処理を実施しつつ行われてもよいし、または、そのような処理はせずに元画像を表示する処理のみを行う構成としてもよい。
【0046】
(アラーム)
本発明の一形態として、検出された重なり部の数が所定数を超えていた場合には、アラームを出すようにしてもよい。この所定数に関しては、予め設定されている値を適宜変更できるようになっていてもよいし、または、医師等によって所望の数値が入力されるものであってもよい。
【0047】
アラームは、ディスプレイ200に表示されるメッセージ、音声および/または音による警告、振動による警告などであってもよい。このようにアラームが発せられる構成の場合、医師等は、当該画像データが動脈モデルおよび静脈モデルのずれの程度が大きいこと(一例)を確認でき、したがって、必要に応じて、造影撮像を再度行うといった対処をとることが可能となる。
【0048】
(記録)
重なり部の数や、どのような態様で血管の移動および変形を実施したか等の情報に関し、医療画像処理システム300または外部の任意のデータサーバ等に保存するようにしてもよい。こうした情報は、例えば病院システムのサーバ等に保存され、事後的に確認できるようになっていることが、一形態において、好ましい。
【0049】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上記例に限定されるものではない。本明細書の所定の実施態様として開示された技術的事項は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の実施態様と組み合わせることができる。
【0050】
上記の実施形態では、X線CT装置で撮像したデータを用いて三次元モデルを生成する例を示したが、当然ながら、他のモダリティ(例えばMRI装置、アンギオグラフィ装置等)で撮像したデータを利用するものであってもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、血管の重なりを例として説明したが、本発明は、例えば、血管以外の解剖学的構造体が重なる場合にも応用可能である。解剖学的構造体としては、例えば、骨、神経、リンパ管などが挙げられる。なお、この場合、本発明の一形態は次のように表現されるものであってもよい:
(a)所定の関心領域における第1の解剖学的構造体の三次元モデルを識別する処理と、
(b)前記所定の関心領域における第2の解剖学的構造体の三次元モデルを識別する処理と、
(c)それらが重なっている重なり部を検出する処理と、
(d)前記重なり部において、両三次元モデルのうち少なくとも一方を変形または移動させ、モデルどうしが重なっていない状態とする処理と、
を行うように構成されている、システムまたは方法。
【0052】
本発明における1つの特徴としては、第1のモデル(オブジェクト)と第2のモデル(オブジェクト)との重なり部を検出するとともに、それを重なっていない状態に変形または移動させる点にあるが、第1のモデルおよび第2のモデルは、異なる時刻、日時に撮像されたデータに基いて作成されたものであってもよい。また、モデルどうしの位置合わせが必要な場合には、必要に応じてお位置合わせを行った後に処理を行うようにしてもよい。ここで、位置合わせとしては、剛体位置合わせまたは非剛体位置合わせを利用可能である。
【0053】
(他の態様)
上述したように、第1のオブジェクト(例えば時刻t1のデータに基づいて生成された動脈モデル)と第2のオブジェクト(例えば時刻t2のデータに基づいて生成された動脈モデル)とが部分的に重なる場合がある。この場合の表示の仕方に関し、
図8のような態様としてもよい。まず、
図8(a)のように、動脈モデル131と静脈モデル133とが重なる状態を想定する。また、いずれのモデルを優先表示させるかのデータが予め設定されているとする(具体的な一例としては、システムが当該データを予めテーブルデータとして持っている)。
【0054】
この場合の画像処理として、
図8(b)に示すように、動脈モデル131を優先的に表示し、静脈モデル133については動脈モデル131の背面に表示するようにしてもよい。動脈モデル131、静脈モデル133は、この例では、読み込まれたデータの位置情報のままであり、移動や変更の処理はなされていない。限定されるものでないが、優先的に表示されるモデルについては元のままの形状で表示し、非優先的なモデルについては画像の一部を切り欠いて表示するようにしてもよい。
図8(b)の状態で、例えば操作者が静脈モデル133を選択すると、表示が切り替わり、静脈モデル133が優先表示され、動脈モデル131が背面に表示されるようになっていてもよい。なお、このような表示切替を行うためのトリガとしては、非優先となっているモデルを選択すること以外にも、例えば、アイコンの選択や音声入力、ジェスチャ入力など、他の種々の入力方式を利用してもよい。
【0055】
上記では、2つのモデル131、133の位置は変えずにいずれを優先的に表示するかの例について説明したが、
図9のように、一方のモデルを移動させるようにしてもよい。まず、
図9(a)のように動脈モデル131と静脈モデル133とが重なっている状態を想定する。また、いずれのモデルを移動させるか(あるいは移動させないか)のデータが予め用意されているとする。
【0056】
ここでは、動脈モデル131は移動させず静脈モデル133を移動させるように予め設定されているものとする。この場合、
図9(b)のように、動脈モデル131は移動させず、静脈モデル133のみを所定方向に所定距離だけ移動させて表示するようにしてもよい。どの方向に移動させるかに関しては、予め特定の方向に設定されていてもよいし、または、システムが周囲の他のオブジェクトとの位置関係から判断して移動させる方向を決定するような方式であってもよい。移動させる距離に関しては、双方が十分に分離される程度の距離であることが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。移動させたあとのそれぞれのモデルの形状としては、読み込まれたデータの形状のままとすることが、一形態において好ましい。つまり、この形態では、血管の位置自体は動かされているものの、モデルの形状はもとのデータのままであるので、操作者は、血管がどのような形状であるかを確認することができる。
【0057】
図10のような2つのモデル131′、133′の重なり状態において、例えば、一方のモデル131′を移動させる場合に、その移動方向を操作者が選択できる構成としてもよい。具体的には、アイコンなどのグラフィカルユーザインターフェース(例えば矢印の画像ボタン等)を介して、または、音声入力を介して、移動方向の入力を行ってもよい。
図11(a)は、モデル133′は移動させず、一方のモデル131′のみを上方に移動させた例であり、
図11(b)は、下方に移動させた例である。
【0058】
以上に説明した技術的特徴は次のように記載することができる。
C1.次の処理を行うように構成された医療画像処理システム:
-第1のモデルと第2のモデルとが重なっているか否かを判定する処理と、
-それぞれのモデルの表示に関し、優先的に表示させる(または表示させない)ことを示す優先表示情報を参照する処理と、
-モデルどうしが重なっている場合に、前記優先表示情報にしたがって、一方のモデルを優先的に表示させる(つまり、形状の変更を伴わない、前面側での表示)処理。
【0059】
C2.次の処理を行うように構成された医療画像処理システム:
-第1のモデルと第2のモデルとが重なっているか否かを判定する処理と、
-モデルを移動させて両モデルを分離する際に、どのモデルを移動させずどのモデルを移動させるかを示すモデル移動情報を参照する処理と、
-モデルどうしが重なっている場合に、前記モデル移動情報にしたがって、モデルを移動変形させて血管モデルを分離表示する処理。
【0060】
なお、どのモデルを移動させずどのモデルを移動させるかを示す情報としては、予めテーブルなどで用意されたデータであってもよいし、操作者によって入力されたものであってもよい。また、情報としては、どのモデルを移動させないかの情報のみ、どのモデルを移動させるかの情報のみ、またはそれらの組合せのいずれであってもよい。
C3.さらに、操作者による、モデルの移動方向の入力を受け付ける処理を行う。
C4.さらに、操作者による、モデルの移動距離の入力を受け付ける処理を行う。
【0061】
(付記)
本明細書は下記の発明を開示する(なお、括弧中の符号は本発明を何ら限定するものではない):
1.画像処理ユニット(350)を備える医療画像処理システムであって、
上記画像処理ユニットは、
(a)所定の関心領域における動脈の三次元モデル(第1の解剖学的オブジェクト)を識別する処理と、
(b)上記所定の関心領域における静脈の三次元モデル(第2の解剖学的オブジェクト)を識別する処理と、
(c)上記動脈の三次元モデルと上記静脈の三次元モデルとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(d)上記重なり部において、上記動脈の三次元モデルおよび静脈の三次元モデルのうち少なくとも一方を変形または移動させ、動脈および静脈が重なっていない状態とする処理と、
を行うように構成されている、医療画像処理システム。
【0062】
2.上記画像処理ユニットは、(d′)上記重なり部において、上記静脈の三次元モデルを変形または移動させ、動脈および静脈が重なっていない状態とする、上記記載の医療画像処理システム。
【0063】
3.上記画像処理ユニットは、さらに、
(e1)検出された重なり部の数が所定数を超えているか否かを判定し、
(e2)所定の値を超えていた場合には、その旨を示すメッセージまたは警告を表示する、上記記載の医療画像処理システム。
【0064】
4.上記動脈の三次元モデルは、造影剤を注入して時刻t1に撮影された断層画像に基づいて作成されたものであり、
上記静脈の三次元モデルは、造影剤を注入して、時刻t1よりも所定時間だけ後の時刻t2に撮影された断層画像に基づいて作成されたものである、
上記記載の医療画像処理システム。
【0065】
A1.画像処理ユニット(350)を備える医療画像処理システムであって、
上記画像処理ユニットは、
(a)所定の関心領域における動脈の三次元モデルを識別する処理と、
(b)上記所定の関心領域における静脈の三次元モデルを識別する処理と、
(c)上記動脈の三次元モデルと上記静脈の三次元モデルとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(g)少なくとも1箇所の上記重なり部に関し、三次元モデルの元データである断層画像を表示する処理と
を行うように構成されている、医療画像処理システム。
【0066】
なお、上記A1でいう動脈の三次元モデルおよび静脈の三次元モデルは、それぞれ、第1の解剖学的オブジェクトおよび第2の解剖学的オブジェクトと読み替えてもよい。つまり、本発明は、動脈や静脈以外の血管を対象とした立体的オブジェクトや、血管以外の解剖学的構造体を対象とした立体的オブジェクトを取り扱う際にも応用可能である。オブジェクトどうしが重なっている場合に、その元データである断層画像(この断層画像では、同時刻に第1のオブジェクトと第2のオブジェクトとが撮像されるため、両者が正確な位置関係を保ち、それらが重なり合うことはない)を表示するようにすることが好ましい。
【0067】
B1.医療画像処理方法であって、
(a)所定の関心領域における動脈の三次元モデルを識別する処理と、
(b)上記所定の関心領域における静脈の三次元モデルを識別する処理と、
(c)上記動脈の三次元モデルと上記静脈の三次元モデルとが重なっている重なり部を検出する処理と、
(d)上記重なり部において、上記動脈の三次元モデルおよび静脈の三次元モデルのうち少なくとも一方を変形または移動させ、動脈および静脈が重なっていない状態とする処理と、
を行う医療画像処理方法。また、1つまたは複数のコンピュータ(プロセッサ)に上記各処理を実行させる命令を含むコンピュータプログラム、コンピュータプログラム媒体。
【符号の説明】
【0068】
1 撮像装置
10 薬液注入装置
30 断層画像
31 動脈(動脈モデル)
33 静脈(静脈モデル)
200 ディスプレイ
300 医療画像処理システム
350 画像処理ユニット