(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】気道通気状態キャリブレーションシステム及び睡眠時の気道変形予測システム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220518BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
A61B6/03 360G
A61B6/03 370Z
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2019503110
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2018007780
(87)【国際公開番号】W WO2018159759
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017038358
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 智憲
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 要一
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006633(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0293156(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0028393(KR,A)
【文献】高田 哲志 他,「鼻腔の実形状モデル内呼吸気流の非定常数値シミュレーション」,第26回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,2014年01月12日,pp. 525-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部と、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部と、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素の画素濃度値の範囲を調整する調整部と、
を備えるモデル生成装置。
【請求項2】
前記鼻腔モデル生成部は、
空気の画素濃度値に近い第1の画素濃度値と、該第1の画素濃度値よりも高い第2の画素濃度値とで規定される範囲にある画素濃度値を有する画素に基づいて、前記鼻腔モデルを生成し、
前記調整部は、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが一致するように、前記第2の画素濃度値を調整する、
請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項3】
前記調整部は、
実測された鼻腔抵抗値に対して、前記鼻腔抵抗値算出部で求められた鼻腔抵抗値が高い場合には、前記第2の画素濃度値をより高い値に変更し、
実測された鼻腔抵抗値に対して、前記鼻腔抵抗値算出部で求められた鼻腔抵抗値が低い場合には、前記第2の画素濃度値をより低い値に変更する、
請求項2に記載のモデル生成装置。
【請求項4】
前記調整部は、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが近づいていくにつれて、前記第2の画素濃度値の変更量を小さくする、
請求項3に記載のモデル生成装置。
【請求項5】
覚醒しているときの被検者の顎顔面部の3次元画像データから、前記調整部で調整された特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出された画素で構成される3次元画像データに基づいて、
覚醒時の上気道
の形状モデルを生成
し、寝ているときの前記被検者の顎顔面部の3次元画像データから、前記調整部で調整された特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出された画素で構成される3次元画像データに基づいて、睡眠時の上気道の形状モデルを生成する上気道モデル生成部を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載のモデル生成装置。
【請求項6】
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成ステップと、
前記鼻腔モデル生成ステップで生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求めるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップで求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するまで、前記鼻腔モデル生成ステップで鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整ステップと、
を含むモデル生成方法。
【請求項7】
コンピュータを、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整部、
として機能させるプログラム。
【請求項8】
請求項
5に記載のモデル生成装置と、
複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルと睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成部と、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定部と、
を備える睡眠時の気道変形予測システム。
【請求項9】
前記変換式生成部は、
複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルから得られる覚醒時の上気道の特定部位の位置情報と、睡眠時の上気道の形状モデルから得られる睡眠時の当該特定部位の位置情報とを用いた回帰分析により、前記変換式の変換係数を生成する、
請求項8に記載の睡眠時の気道変形予測システム。
【請求項10】
前記変換式は、
覚醒時の上気道の特定部位の位置座標の項と、覚醒時の上気道の3次元モデルを用いた流体解析により得られた前記特定部位に生ずる圧力の項と、を含む線形結合式である、
請求項9に記載の睡眠時の気道変形予測システム。
【請求項11】
前記変換式は、
無呼吸低呼吸指数の項をさらに含む線形結合式である、
請求項10に記載の睡眠時の気道変形予測システム。
【請求項12】
前記変換式は、
被検者の肥満度に関する指数の項をさらに含む線形結合式である、
請求項10又は11に記載の睡眠時の気道変形予測システム。
【請求項13】
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成ステップと、
前記鼻腔モデル生成ステップで生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求めるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップで求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するまで、前記鼻腔モデル生成ステップで鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整ステップと、
複数の被検者における
覚醒しているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる覚醒時の上気道の形状モデルと
寝ているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成ステップと、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定ステップと、
を含む睡眠時の気道変形予測方法。
【請求項14】
コンピュータを、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整部、
複数の被検者における
覚醒しているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる覚醒時の上気道の形状モデルと
寝ているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成部、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道通気状態キャリブレーションシステム及び睡眠時の気道変形予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS;Obstructive Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に上気道が閉塞して呼吸障害が生じ、全身に様々な悪影響を及ぼす呼吸器系の疾患である。閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下、単に、睡眠時無呼吸症候群という)は、夜間に十分な睡眠が得られず日中に過度の眠気を催すようになることから、重大交通事故の原因として注目されている。
【0003】
睡眠時無呼吸症候群の診断を行う方法が従来より提案されている。例えば、非特許文献1には、3次元CT画像に基づいて上気道の流体モデルをコンピュータ上に構築し、その流体モデルを用いた流体解析を行って、睡眠時無呼吸症候群の診断を行う方法が提案されている。この方法によれば、上気道内の圧力分布、空気の速度分布に基づいて、通気障害部位をある程度、絞り込むことができる。
【0004】
睡眠時無呼吸症候群は、成人の発症頻度は4%、小児の場合は年齢を問わず幼児期から思春期まで2%と言われているように、比較的高頻度でかかる疾患である。にもかかわらず、睡眠時無呼吸症候群では、原因部位の有効な特定方法がいまだ確立されていないため、十分な治療成績が得られていないのが実情である。上記非特許文献1で提案された方法は、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を絞り込む数少ない有効な方法ではあるが、以下のような不都合のため、必ずしも有効な治療成績が得られるとは限らない。
【0005】
(1)上気道のシミュレーションモデルは、変形しない剛体としてモデル化されている。このため、上気道の弾性変形を考慮した流体解析が実現できないので、上気道の閉塞を再現することができない。
【0006】
(2)モデル化されているのは上気道のみであり、睡眠時無呼吸症候群の根本的な原因部位であることが多い上気道の周囲の組織についてはモデル化されておらず、上気道の周囲の組織の変形を再現できていない。このため、診断を行う者は、根本的な原因部位を流体の解析結果から間接的に推定するしかない。
【0007】
例えば、睡眠時無呼吸症候群の原因部位として最も主なものに、仰向位での重力による舌の落ち込みに伴う上気道の狭窄化がある。しかしながら、非特許文献1に開示された技術では、上気道の周囲の組織である舌についてはモデル化されておらず、重力による舌の落ち込みに伴う上気道の狭窄化をシミュレーションで再現できていない。このため、この技術では、睡眠時無呼吸症候群の原因が、仰向位での重力による舌の落ち込みに伴う上気道の狭窄化であることを、特定するのが困難になる。
【0008】
(3)シミュレーションモデルを用いた流体解析において想定される上気道中の空気の流れが一方向となっており、空気の流れが双方向となる実際の呼吸の様相(呼気吸気の周期的変化)とは異なっている。このため、実際の呼吸の様相に従った上気道内の流体の流れを再現できていない。
【0009】
そこで、呼吸器系の疾患について、例えば、特許文献1には、より確実に良好な治療成績を得ることができる診断装置、診断システム、診断方法及びプログラムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Iwasaki et al, "Evaluation of upper airway obstruction in Class II children with fluid-mechanical simulation",[online], February 2011、Vol 139, Issue 2, American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の診断では、気道モデルが、実際の気道を正確に再現するものであることが要求される。しかしながら、実際には、生成される気道モデルが、実際の気道を正確に再現するものであるか否かについて確認する手段は未だ提供されていないのが実情である。
【0013】
また、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の上気道における原因部位は患者によって様々である。OSASの治療方法は原因部位によって異なるため、原因部位を特定することが治療の第一歩となる。原因部位を特定するため、X線、CT(MRI(Magnetic Resonance Imaging))、内視鏡等により、被検者の上気道の状態を計測することなどが行われている。しかしながら、覚醒中と睡眠中とでは上気道の状態が異なっており、その計測結果からOSASの原因部位を特定するのは容易ではない。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、被検者の鼻腔を正確に再現した鼻腔モデルを構築することができるモデル生成装置、モデル生成方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を正確に特定することができる睡眠時の気道変形予測システム、気道変形予測方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るモデル生成装置は、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部と、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部と、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素の画素濃度値の範囲を調整する調整部と、
を備える。
【0017】
この場合、前記鼻腔モデル生成部は、
空気の画素濃度値に近い第1の画素濃度値と、該第1の画素濃度値よりも高い第2の画素濃度値とで規定される範囲にある画素濃度値を有する画素に基づいて、前記鼻腔モデルを生成し、
前記調整部は、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが一致するように、前記第2の画素濃度値を調整する、
こととしてもよい。
【0018】
また、前記調整部は、
実測された鼻腔抵抗値に対して、前記鼻腔抵抗値算出部で求められた鼻腔抵抗値が高い場合には、前記第2の画素濃度値をより高い値に変更し、
実測された鼻腔抵抗値に対して、前記鼻腔抵抗値算出部で求められた鼻腔抵抗値が低い場合には、前記第2の画素濃度値をより低い値に変更する、
こととしてもよい。
【0019】
前記調整部は、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と実測された鼻腔抵抗値とが近づいていくにつれて、前記第2の画素濃度値の変更量を小さくする、
こととしてもよい。
【0020】
覚醒しているときの被検者の顎顔面部の3次元画像データから、前記調整部で調整された特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出された画素で構成される3次元画像データに基づいて、覚醒時の上気道の形状モデルを生成し、寝ているときの前記被検者の顎顔面部の3次元画像データから、前記調整部で調整された特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出された画素で構成される3次元画像データに基づいて、睡眠時の上気道の形状モデルを生成する上気道モデル生成部を備える、
こととしてもよい。
【0021】
本発明の第2の観点に係るモデル生成方法は、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成ステップと、
前記鼻腔モデル生成ステップで生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求めるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップで求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するまで、前記鼻腔モデル生成ステップで鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整ステップと、
を含む。
【0022】
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整部、
として機能させる。
【0023】
また、本発明の第4の観点に係る睡眠時の気道変形予測システムは、
前記上気道モデル生成部を備える本発明の第1の観点に係るモデル生成装置と、
複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルと睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成部と、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定部と、
を備える。
【0024】
この場合、前記変換式生成部は、
複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルから得られる覚醒時の上気道の特定部位の位置情報と、睡眠時の上気道の形状モデルから得られる睡眠時の当該特定部位の位置情報とを用いた回帰分析により、前記変換式の変換係数を生成する、
ようにしてもよい。
【0025】
前記変換式は、
覚醒時の上気道の特定部位の位置座標の項と、覚醒時の上気道の3次元モデルを用いた流体解析により得られた前記特定部位に生ずる圧力の項と、を含む線形結合式である、
こととしてもよい。
【0026】
前記変換式は、
無呼吸低呼吸指数の項をさらに含む線形結合式である、
こととしてもよい。
【0027】
前記変換式は、
被検者の肥満度に関する指数の項をさらに含む線形結合式である、
こととしてもよい。
【0028】
本発明の第5の観点に係る気道変形予測方法は、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成ステップと、
前記鼻腔モデル生成ステップで生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求めるシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップで求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するまで、前記鼻腔モデル生成ステップで鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整ステップと、
複数の被検者における覚醒しているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる覚醒時の上気道の形状モデルと寝ているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成ステップと、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定ステップと、
を含む。
【0029】
本発明の第6の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデルを生成する鼻腔モデル生成部、
前記鼻腔モデル生成部で生成された前記鼻腔モデルを用いた流体解析により、鼻腔抵抗値を求める鼻腔抵抗値算出部、
前記鼻腔抵抗値算出部で求められる鼻腔抵抗値と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値とが一致するように前記鼻腔モデル生成部で鼻腔モデルを生成するために抽出される画素濃度値の範囲を調整する調整部、
複数の被検者における覚醒しているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる覚醒時の上気道の形状モデルと寝ているときの顎顔面部の3次元画像データから得られる睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、最適化手法により、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する変換式生成部、
被検者の覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を、生成された変換式に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道の特定部位の位置情報を推定する推定部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、鼻腔抵抗値が実測値と一致する鼻腔モデルを生成することができるので、被検者の鼻腔を正確に再現した鼻腔モデルを構築することができる。
【0031】
また、本発明によれば、複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルと睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、覚醒時の上気道の形状モデルから睡眠時の上気道の形状モデルを被検者毎に統計的に予測することができるので、睡眠時の上気道の形状を明らかにして、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の原因部位を正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る診断システムの概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】コンピュータのハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図3】上気道、舌、軟口蓋の3次元画像の一例を示す図である。
【
図4】上気道、舌、軟口蓋及び骨の3次元画像の一例を示す図である。
【
図5】顎周りの筋肉等の軟組織の3次元画像の一例を示す図である。
【
図6】上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状のメッシュモデルの一例が示されている。
【
図7】鼻腔モデルを生成する構成を示すブロック図である。
【
図8】CT値の設定範囲によって異なる鼻腔モデルを示す図である。
【
図9】CT値の範囲と物質との関係を示す図である。
【
図10】鼻腔抵抗値の差と画像濃度値の変更量との関係を示す図である。
【
図11】上気道の3次元画像の一例を示す図である。
【
図12】呼吸1周期に渡る鼻腔と咽頭との境界における断面平均圧力の一例を示す図である。
【
図13A】仰向けになっていないときの上気道の断面の一例を示す図である。
【
図13B】仰向けになったときの上気道の断面の一例を示す図である。
【
図14】呼吸に伴う流体構造連成解析による咽頭上気道部分の圧力分布の一例が示されている。
【
図15】呼吸に伴う流体構造連成解析による咽頭上気道部分の変位分布の一例が示されている。
【
図18】鼻腔部分STLデータの生成、記憶処理のフローチャートである。
【
図19】シミュレーション実行工程のフローチャートである。
【
図20】流体構造連成解析のシミュレーションの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図21】各要素が受ける力を模式的に示す図である。
【
図23】この発明の実施の形態2に係る診断システムの概略的な構成を示すブロック図である。
【
図24】変更前の上気道及び上気道の周囲の組織を模式的に示す図である。
【
図25】変更後の上気道及び上気道の周囲の組織を模式的に示す図である。
【
図26】この発明の実施の形態に係る気道変形予測システムの概略的な構成を示すブロック図である。
【
図27】気道変形予測システムの気道変形予測の動作(予測処理)のフローチャートである。
【
図28】
図27の変換式生成工程のサブルーチンのフローチャートである。
【
図29】
図27の予測工程のサブルーチンのフローチャートである。
【
図30】睡眠時無呼吸症候群の原因部位を例示する図である。
【
図31】覚醒時、睡眠時及び睡眠時に気道が閉塞している状態のときに撮像された被検者の顎顔面部のCT画像である。
【
図32A】覚醒時における上気道形状モデルを示す画像である。
【
図32B】睡眠時における上気道形状モデルを示す画像である。
【
図33A】被検者の顎顔面部における上気道の位置を示す図である。
【
図34】上気道における各部位およびその間隔を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1について説明する。
【0035】
図1に示すこの実施の形態1に係る診断システム100は、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を特定すべく、被検者である人体の上気道の通気状態をコンピュータ上で再現するために用いられる。診断システム100は、被検者の上気道の通気状態を再現するために、X線CT(Computer Tomography)装置等により取得された被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データに基づいて、顎顔面部における上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状のモデルと、上気道内の空気の流体モデルとを生成する。上気道とは、鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭までをいう。
【0036】
さらに、診断システム100は、上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状のモデルと、上気道内の空気の流体モデルとを用いて、流体構造連成解析のシミュレーションを行う。上気道、周囲の組織の3次元形状のモデル及び上気道内の空気の流体モデルにそれぞれ固有の物性値を与え、流体構造連成解析のシミュレーションを行えば、呼吸に合わせて変動する上気道、周囲の組織の変形と上気道内の呼吸による空気の流れとの相互作用を明らかにすることができ、上気道中の空気の流れ(圧力分布、流速分布)と、呼吸中の周囲の組織の変形による上気道の変形を両方正確に再現することができる。これらの再現により、睡眠時無呼吸症候群の原因部位をより正確に特定することができる。
【0037】
図1に示すように、診断システム100は、撮像装置1とコンピュータ2とを備える。撮像装置1とコンピュータ2との間は、通信ネットワークで接続されている。この通信ネットワークにより、撮像装置1とコンピュータ2との間でデータの送受信が可能となる。
【0038】
撮像装置1は、X線CT装置である。撮像装置1は、被検者の顎顔面部の3次元X線CT画像を撮像する。撮像装置1は、X線管と検出器とを備える。X線CTスキャンが実行されると、X線管から照射され、被検体を透過したX線が検出器により検出される。検出器の検出結果は、生データとして撮像装置1に保存される。
【0039】
さらに、撮像装置1において、保存された生データに基づいて画像再構成処理を施すことにより被検者の顎顔面部の横断面データ(スライス画像データ)が生成される。さらに、撮像装置1は、スライス画像データに基づいて、被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データを生成する。この3次元画像データは、3次元の各位置での物質の状態を示す画素濃度値(CT値(Hu))を有する画素によって構成される画像データである。
【0040】
以上のようにして、被検体の顎顔面部の内部の3次元画像データが得られる。得られた3次元画像データは、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)データとして、通信ネットワークを介してコンピュータ2に送信される。
【0041】
DICOMデータとは、DICOM規格に基づいて生成されたデータをいう。DICOM規格は、主に医療用画像データのフォーマットとして用いられている。DICOMデータは、上記3次元画像データとDICOM規格に準じた付帯情報とで構成される。付帯情報は、患者情報、撮影条件情報、画像情報及び表示情報等の画像データの属性情報であり、DICOMデータにタグ情報として埋め込まれる。
【0042】
コンピュータ2は、受信したDICOMデータに含まれる3次元X線CT画像データに基づいて、被検体の顎顔面部における上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状のモデルを生成する。このモデルは、有限要素法に基づいて生成される。このモデルは、節点を境界とする有限数の要素に物体を分割することにより生成される。すなわち、生成される上気道及び上気道の周囲の組織のモデルは、複数の要素が節点でメッシュ状に接合されて構成されたいわゆるメッシュモデルとなる。要素の分割は、医療用画像データを構成するボクセルデータを基準として行うようにすればよい。
【0043】
さらに、コンピュータ2は、上気道及びその顎顔面の周囲の組織の3次元形状のメッシュモデルに、それぞれ固有の物性値を与え、被検者の呼吸に伴う流体構造連成解析シミュレーションを行って、上気道の通気状態に関する情報を取得する。
【0044】
図1のコンピュータ2のハードウエア構成を示す
図2に示すように、コンピュータ2は、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36を備える。主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36はいずれも内部バス30を介して制御部31に接続されている。
【0045】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されている。このCPUが、外部記憶部33に記憶されているプログラム39を実行することにより、
図1に示すコンピュータ2の各構成要素が実現される。
【0046】
主記憶部32は、RAM(Random-Access Memory)等から構成されている。主記憶部32には、外部記憶部33に記憶されているプログラム39がロードされる。この他、主記憶部32は、制御部31の作業領域(データの一時記憶領域)として用いられる。
【0047】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD-RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD-RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部33には、制御部31に実行させるためのプログラム39があらかじめ記憶されている。また、外部記憶部33は、制御部31の指示に従って、このプログラム39の実行の際に用いられるデータを制御部31に供給し、制御部31から供給されたデータを記憶する。
【0048】
操作部34は、キーボード及びマウスなどのポインティングデバイス等と、キーボード及びポインティングデバイス等を内部バス30に接続するインターフェイス装置から構成されている。操作部34を介して、操作者が操作した内容に関する情報が制御部31に入力される。
【0049】
表示部35は、CRT(Cathode Ray Tube)またはLCD(Liquid Crystal Display)又は有機EL(ElectroLuminescence)などから構成され、操作者が操作情報を入力する場合は、操作用の画面が表示される。表示部35には、後述のとおり、被検者の上気道の形状、通気状態に関する情報などが表示される。
【0050】
通信部36は、シリアルインターフェイスまたはパラレルインターフェイスから構成されている。通信部36が、通信ネットワークを介して、撮像装置1と接続され、撮像装置1から送られた3次元X線CT画像データを受信する。
【0051】
図1に示すコンピュータ2の各種構成要素は、
図2に示すプログラム39が、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36などをハードウエア資源として用いて実行されることによってその機能を発揮する。
【0052】
図2に示すようなハードウエア構成を有するコンピュータ2は、その機能構成として、
図1に示すように、記憶部10と、データ取得部11と、モデル生成部12と、流体解析部13と、シミュレーション実行部14と、出力部15と、を備える。
【0053】
記憶部10は、
図2に示すハードウエア構成のうち、
図2の外部記憶部33に対応する。記憶部10は、各種データを記憶する。記憶部10によって記憶されるデータの1つにDICOMデータ21がある。
【0054】
データ取得部11は、
図2に示すハードウエア構成のうち、制御部31及び通信部36に対応する。データ取得部11は、撮像装置1から送信された顎顔面部の3次元X線CT画像データ(DICOMデータ)を受信する。データ取得部11は、受信したDICOMデータ21を記憶部10に記憶する。
【0055】
モデル生成部12は、
図2に示すハードウエア構成のうち、制御部31に対応する。モデル生成部12は、記憶部10に記憶されたDICOMデータ21、すなわち被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データを入力する。モデル生成部12は、DICOMデータ21に基づいて、有限要素法を用いて、上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状モデルと、上気道内の空気の流体モデルとを生成する。
【0056】
上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状モデルは、各組織の構造及び形状の変形を示す支配方程式に基づいて構築される。上気道の周囲の組織としては、骨、舌、軟口蓋、顎顔面の筋肉等の軟組織が含まれる。
【0057】
流体モデルは、流体の圧力及び流速等を空気の流れに関する情報を変数とする流体の支配方程式(例えば、ベルヌーイの方程式、ナビエストークスの方程式等)に基づいて構築される。
【0058】
図3には、上気道、舌、軟口蓋の3次元画像の一例が示されている。A1の部分が上気道であり、A2の部分が軟口蓋であり、A3の部分が舌である。
図3に示すように、舌A3、軟口蓋A2は、上気道A1に隣接する上気道の周囲の組織である。舌A3は、睡眠時無呼吸症候群の主な原因部位として知られている。仰向位に寝たときに、舌A3が、落ち込んで、上気道を圧迫するためである。
【0059】
図4では、上気道、軟口蓋、舌に加え、骨の3次元画像が示されている。A4の部分が骨である。
図4に示すように、上気道、舌、軟口蓋の周りには、下顎骨及び頸椎が存在する。下顎骨及び頸椎についても、上気道の周囲の組織として、それらの3次元形状モデルが生成される。
【0060】
図5には、顎周りの筋肉、脂肪等の軟組織の3次元画像の一例が示されている。このような顎周りの軟組織についても、上気道の周囲の組織として、3次元形状モデルが生成される。顎周りの軟組織の肥大化は、呼吸に多大な影響を与えるためである。
【0061】
図6には、上気道、舌、軟口蓋、骨、顎周りの軟組織の部分の3次元形状のメッシュモデルの一例が示されている。これらの3次元形状のモデルでは、各組織の境界面において、要素同士を結ぶ節点が共通となっている。このため、上気道及びその周囲の領域が、1つの3次元形状モデルとみなすことができるように形成されている。このようにすれば、各組織の変形により、隣接する組織も変形していく様子を3次元形状モデルにより、再現することが可能になる。
【0062】
モデル生成部12は、上気道については、鼻腔の部分と、咽頭以下の部分とに分けて、3次元形状のモデルを生成する。鼻腔の部分についてはSTL(Standard Triangulated Language)データとして生成される。STLデータとは、立体を近似するために使用される三角パッチの3点を表わすデータであり、物体表面が三角形パッチ(ファセット)による多角形として表されている。
【0063】
鼻腔のSTLデータ、すなわち鼻腔の3次元モデルである鼻腔モデルの生成方法について詳細に説明する。
図7には、モデル生成部12を中心とする鼻腔モデルを生成するための構成が示されている。
図7に示すように、モデル生成部12は、鼻腔モデル生成部41と、鼻腔抵抗値算出部42と、調整部43と、を備える。
【0064】
鼻腔モデル生成部41は、DICOMデータ21に含まれる被検者の鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔の3次元形状モデルである鼻腔モデル50を生成する。生成された鼻腔モデル50は、記憶部10に記憶される。被検者の鼻腔の3次元画像データとしては、
図8(A)の白枠で示すように、鼻から咽頭までの部分の3次元画像データが抽出される。鼻腔モデル生成部41は、鼻腔の3次元画像データから、特定の範囲、例えば-1000~-200Huの範囲のCT値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて鼻腔モデルを生成する(
図8(B)参照)。この他、鼻腔モデル生成部41は、例えば-1000~-300Hu、-1000~-400Huの範囲のCT値を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて鼻腔モデルを生成することも可能である(
図8(C)、
図8(D)参照)。
【0065】
図9に示すように、空気のCT値は約-1000Huとなり、水は0Huとなる、被検者の軟組織のCT値は、それらの間の値をとる。一般に、CT値は撮影条件(被検者の軟組織、金属等、撮影機器等)の影響を受けるため、
図8(B)~
図8(D)に示すように、CT値の設定範囲によって、生成される鼻腔モデルの形状が変わる。
【0066】
CT値の設定範囲によって生成される鼻腔モデルの形状が異なってくるため、本実施の形態では、被検者の実際の鼻腔の形状に最も近い鼻腔モデルが得られるようにCT値の範囲のキャリブレーションを行う。キャリブレーションには、鼻腔抵抗値が用いられる。鼻腔抵抗値とは、臨床で用いられている鼻腔通気状態を評価する指標データである。鼻腔抵抗値は、鼻腔通気計により測定される。鼻腔抵抗値は、単位はPa/ml/sであり、鼻腔抵抗値の正常値は0.5Pa/ml/s程度といわれている。
【0067】
鼻腔抵抗値算出部42は、鼻腔モデル生成部41で生成された鼻腔モデル50を用いた流体解析により、鼻腔抵抗値51を求める。求められた鼻腔抵抗値51は、記憶部10に格納される。一方、記憶部10には、鼻腔通気計により測定された実測値である鼻腔抵抗値52も記憶されている。
【0068】
調整部43は、鼻腔抵抗値算出部42で求められた鼻腔抵抗値51と鼻腔通気計により実測された鼻腔抵抗値52とが一致するように鼻腔モデル生成部41で鼻腔モデル50を生成するために抽出される画素の画素濃度値の範囲を調整する。調整部43は、流体解析により求められる鼻腔抵抗値51が、鼻腔通気計により実測された鼻腔抵抗値52と一致する鼻腔モデル50を、鼻腔部分STLデータ22として、記憶部10に記憶する。
【0069】
より具体的には、鼻腔モデル生成部41は、空気の画素濃度値に近い第1の画素濃度値CT1(例えば-1000Hu)と、第1の画素濃度値CT1よりも高い第2の画素濃度値CT2(例えば-400~-200Huの範囲のCT値)とで規定される範囲にある画素濃度値を有する画素に基づいて、鼻腔モデル50を生成する。調整部43は、鼻腔抵抗値算出部42で求められる鼻腔抵抗値51と鼻腔通気計により実測された鼻腔抵抗値52とが一致するように、第2の画素濃度値CT2を調整する。
【0070】
調整部43は、鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値52に対して、鼻腔抵抗値算出部42で求められた鼻腔抵抗値51が高い場合には、第2の画素濃度値CT2をより高い値に変更する。また、調整部43は、鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値52に対して、鼻腔抵抗値算出部42で求められた鼻腔抵抗値51が低い場合には、第2の画素濃度値CT2をより低い値に変更する。さらに、調整部43は、鼻腔抵抗値算出部42で求められる鼻腔抵抗値51と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値52とが近づいていくにつれて、第2の画素濃度値CT2の変更量を小さくする。以下では、鼻腔抵抗値51をR1とし、鼻腔抵抗値52をR2とする。このようにすれば、調整部43によってCT値の範囲を調整していくにつれて、過度なオーバーシュートや遅れを発生させることなく、CT値の範囲を最適値に漸近させていくことができる。
【0071】
例えば、
図10に示すように、流体解析による鼻腔抵抗値R1と鼻腔通気計による鼻腔抵抗値R2との差(R1-R2)が+0.5Pa/ml/s(以下、単位は省略する)以上である場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2を+100Hu増加させて、鼻腔モデル50を再生成する。同様に、R1-R2が、+0.3以上+0.5未満の場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を+50Huとして鼻腔モデル50を再生成する。R1-R2が、+0.1以上+0.3未満の場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を+20Huとして鼻腔モデル50を再生成する。R1-R2が、+0.05以上+0.1未満の場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を+10Huとして鼻腔モデル50を再生成する。R1-R2が、
-0.05より大きく+0.05未満の場合には、調整部43は、両者は一致するものとして、その鼻腔モデル50が、鼻腔部分STLデータ22として、記憶部10に記憶する。
【0072】
さらに、R1-R2が、-0.05以下で-0.1より大きい場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を-10Huとして鼻腔モデル50を再生成する。また、R1-R2が、-0.1以下で-0.3より大きい場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を-20Huとして鼻腔モデル50を再生成する。R1-R2が、-0.3以下で-0.5より大きい場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を-50Huとして鼻腔モデル50を再生成する。R1-R2が-0.5以下である場合には、鼻腔モデル生成部41は、第2の画素濃度値CT2の変更量を-100Huとして鼻腔モデル50を再生成する。
【0073】
このように、モデル生成部12は、R1-R2に基づいて、第2の画素濃度値CT2を変更しながら、鼻腔モデル50を生成し、鼻腔抵抗値51が鼻腔通気計の測定結果と一致する鼻腔モデル50を、鼻腔部分STLデータ22として、記憶部10に記憶する。
【0074】
図11には、上気道の3次元画像の一例が示されている。
図11では、線Lより上の部分が、鼻腔部分となっている。ここでは、線Lより上の部分が、鼻腔部分STLデータ22として記憶部10に記憶される。
【0075】
モデル生成部12は、咽頭以下の上気道については、3次元形状のメッシュモデルとして生成される。生成された咽頭以下の上気道の3次元形状のメッシュモデル及び他の組織の3次元形状メッシュモデルは、3次元形状モデルデータ23として、記憶部10に格納される。
【0076】
流体解析部13は、
図2に示すハードウエア構成のうち、制御部31に対応する。流体解析部13は、鼻腔部分STLデータ22を用いて、鼻腔については剛体として、呼吸1周期に渡る流体解析を行って、鼻腔の通気状態に関する情報を算出する。鼻腔については、その内部構造が複雑であり、気道の形状にほとんど変化がなく、流体構造連成解析が困難であるためである。算出される鼻腔の通気状態に関する情報としては、例えば、鼻腔内の圧力分布がある。
【0077】
流体解析部13は、鼻腔内の圧力分布に基づいて、鼻腔と咽頭との境界における断面平均圧力P(t)を算出する。
図12には、呼吸1周期に渡る鼻腔と咽頭との境界における断面平均圧力P(t)の一例が示されている。
図12に示すように、断面平均圧力P(t)は、周期Tで呼気と吸気とを繰り返す。呼気において鼻腔内の空気は外気圧に対して正圧となり、吸気において、鼻腔内の空気は外気圧に対して負圧となる。
【0078】
シミュレーション実行部14は、
図2に示すハードウエア構成のうち、制御部31に対応する。シミュレーション実行部14は、モデル生成部12で生成された3次元形状モデル及び流体モデルに固有の物性値を与え、被検者の呼吸に伴う上気道、周囲の組織及び上気道内の空気の流体構造連成解析のシミュレーションを行うことにより、呼吸に合わせて変動する上気道の通気状態に関する情報を算出する。
【0079】
流体構造連成解析のシミュレーションとは、流体の流れが及ぼす力によって固体構造物が変形する現象を解析する数値解析シミュレーションである。睡眠時無呼吸症候群は、上気道の周囲の組織が根本的な原因部位であることが多い。このため、上気道の周囲の組織を含めて流体構造連成解析のシミュレーションを行って、睡眠時の上気道の周囲の組織の変形を再現するようにすれば、睡眠時無呼吸症候群の原因部位をより正確に特定することができる。
【0080】
3次元形状モデルの固有の物性値には、各組織のヤング率、線膨張係数、ポアソン比、せん断弾性係数等があり、流体については空気の粘性係数、密度、体積弾性率、レイノルズ数などがある。これらの物性値としては、物性値データ25として記憶部10に記憶されたものが用いられる。物性値として、その組織の物性値として既知のものを用いてもよいが、被検者ごとに測定したものを用いてもよい。
【0081】
シミュレーション実行部14は、算出された呼吸1周期に渡る鼻腔と咽頭との境界における断面平均圧力P(t)を初期条件として、鼻腔を除く上気道及び周囲の組織の3次元形状のメッシュモデルを用いて被検者の呼吸に伴う上気道及び周囲の組織の流体構造連成解析のシミュレーションを行う。
【0082】
シミュレーション実行部14は、周囲の組織の3次元形状のモデルを重力により変形させた状態で、被検者の呼吸に伴う上気道及び周囲の組織の流体構造連成解析のシミュレーションを行う。
【0083】
図13Aには、仰向けになっていないときの上気道の断面の一例が示されており、
図13Bには、仰向けになったときの上気道の断面の一例が示されている。
図13A及び
図13Bを比較するとわかるように、仰向けになった場合の方が、上気道が狭くなっている。これは、舌の部分が重力により沈下し、上気道を圧迫しているためである。
【0084】
このように、シミュレーション実行部14は、重力を考慮して流体構造連成解析のシミュレーションを行うので、被検者の姿勢に応じて変形する上気道を正確に再現した状態で、上気道の通気状態を算出することが可能となる。
【0085】
シミュレーション実行部14は、上気道における空気の流れに関する情報及び上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状モデルの変形状態を算出する。シミュレーション実行部14は、上気道における空気の流れに関する情報として、上気道における圧力分布、流速分布又は上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状モデルの変位分布を算出する。これらの情報は、シミュレーション結果データ26として記憶部10に記憶される。
【0086】
出力部15は、
図2のハードウエア構成における制御部31及び表示部35に対応する。出力部15は、上気道内の圧力分布、流速分布又は上気道等の変形状態を表示する。
【0087】
図14には、呼吸に伴う流体構造連成解析による咽頭気道部分の圧力分布の一例が示されている。また、
図15には、呼吸に伴う流体構造連成解析による咽頭上気道部分の変位分布の一例が示されている。
図14では、圧力が高くなればなるほど色が濃くなるように表示されている。
図15では、変位が大きくなればなるほど色が濃くなるように表示されている。
図14に示す圧力分布では、上気道の上の方の圧力が高くなっている。また、
図15に示す変位分布では、局所的に変位が大きくなっている場所はない。
【0088】
図1に戻り、出力部15は、流体構造連成解析のシミュレーションにより変形する上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状も合わせて表示出力することが可能である。
【0089】
次に、この診断システム100による診断処理の流れについて説明する。
図16に示すように、まず、撮像装置1において撮像工程を行う(ステップS1)。この撮像工程において、被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データが得られる。この3次元画像データは、コンピュータ2に送られ、データ取得部11により、DICOMデータ21として、コンピュータ2の記憶部10に記憶される。
【0090】
続いて、コンピュータ2は、モデル生成工程を行う(ステップS2)。モデル生成工程では、モデル生成部12は、上気道については、鼻腔部分の3次元形状のモデルと、鼻腔以外の部分の3次元形状のモデルとを分けて生成する。
図17に示すように、続いて、モデル生成部12は、鼻腔部分のSTLデータを生成し、鼻腔部分STLデータ22として記憶部10に記憶する(ステップS21)。
【0091】
ステップS2
1では、
図18に示すように、調整部43は、画素抽出範囲の設定を行う(ステップS51)。ここでは、画素抽出範囲(第1の画素濃度値CT1、第2の画素濃度値CT2)として、初期値が設定される。
【0092】
続いて、鼻腔モデル生成部41は、設定された画素抽出範囲の画素濃度値(CT値)を有する画素を抽出し、抽出した画素で構成される3次元画像データに基づいて、鼻腔モデル50を生成する(ステップS52)。
【0093】
続いて、鼻腔抵抗値算出部42は、鼻腔モデル生成部41で生成された鼻腔モデル50を用いた流体解析により、鼻腔抵抗値51を算出する(ステップS53)。さらに、調整部43は、鼻腔抵抗値51,52が一致するか否かを判定する(ステップS54)。
【0094】
一方、鼻腔抵抗値51,52が一致しなければ(ステップS54;No)、調整部43は、画素抽出範囲を再び設定する(ステップS51)。この場合、第2の画素濃度値CT2の変更量は、
図10に示すテーブルに従って、鼻腔抵抗値R1,R2の差R1-R2に応じた量とする。
【0095】
鼻腔抵抗値51,52が一致した場合(ステップS54;Yes)、調整部43は、その鼻腔モデル50を、鼻腔部分STLデータ22として決定し、記憶部10に記憶する(ステップS55)。このようにして、ステップS53で求められる鼻腔抵抗値R1と鼻腔通気計により測定された鼻腔抵抗値R2とが一致するまで、鼻腔モデル生成部41で鼻腔モデル50を生成するために抽出される画素濃度値の範囲が調整される。これにより、鼻腔部分STLデータ22は、鼻腔の形状を正確に反映したものとなる。
【0096】
図17に戻り、続いて、モデル生成部12が、被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データ(DICOMデータ21)に基づいて、上気道及び周囲の組織の3次元形状モデル及び上気道内の流体モデルを生成して、3次元形状モデルデータ23として、記憶部10に記憶する(ステップS22)。なお、ステップS22でも、上気道モデル生成部としてのモデル生成部12は、被検者の顎顔面部の内部の3次元画像データから、調整部43で調整された特定の範囲の画素濃度値を有する画素を抽出し、抽出された画素で構成される3次元画像データに基づいて、上気道の組織の3次元形状モデルを生成するのが望ましい。このようにすれば、実際の上気道と合致する正確な3次元形状モデルを生成することができる。
【0097】
続いて、流体解析部13は、鼻腔部分STLデータ22に基づいて、鼻腔部分の流体解析を行い、鼻腔内の圧力分布を算出し、鼻腔内圧力分布データ24として、記憶部10に記憶する(ステップS23)。流体解析は、鼻腔部分が剛性であり変形しないものとして行われる。流体解析部13は、流体解析により得られた圧力分布に基づいて、鼻腔と咽頭との間の平均断面圧力P(t)を算出して、あわせて鼻腔内圧力分布データ24に含んで記憶部10に記憶する(ステップS24)。
【0098】
図16に戻り、続いて、コンピュータ2は、シミュレーション実行工程を行う(ステップS3)。シミュレーション実行工程では、
図19に示すように、シミュレーション実行部14は、記憶部10に記憶された物性値データ25を参照して、上気道及び周囲の組織の物性値をそれぞれの3次元形状モデルに設定する(ステップS31)。
【0099】
例えば、咽頭以下の上気道の3次元形状モデルについては、各組織に固有のヤング率、ポアソン比などの物性値が3次元形状モデルに設定される。例えば、舌の3次元形状モデルについては、舌の物性値が設定され、軟口蓋の3次元形状モデルについては、軟口蓋の物性値が設定され、骨の3次元形状モデルについては、骨の物性値が設定され、顎周りの軟組織の3次元形状モデルについては、軟組織の物性値が設定される。
【0100】
続いて、シミュレーション実行部14は、重力方向を設定する(ステップS32)。この設定は操作部34の操作入力により行われる。例えば、仰向位での上気道の通気状態を診断する場合には、被検者の後頭部側が下側として設定される。
【0101】
続いて、シミュレーション実行部14は、流体構造連成解析のシミュレーションを行う(ステップS33)。上気道及び周囲の組織の3次元形状のモデルと上気道の流体モデルとは一体化された状態でシミュレーションが行われる。
【0102】
このシミュレーションでは、上気道における鼻腔と咽頭との間の平均断面圧力P(t)が、初期条件として用いられる。そして、上気道内の空気の流れを解析する流体解析と、上気道及び周囲の組織の変形を解析する構造解析とが、それらの3次元形状のモデルと流体モデルとの相互の影響を考慮して同時に行われ、一呼吸における上気道内の圧力分布、流速分布及び上気道の変位分布が算出される。
【0103】
図20には、ステップS33において行われる流体構造連成解析のシミュレーションの処理の流れが示されている。まず、シミュレーション実行部14は、重力計算を行って、周囲の組織の3次元形状のモデルを変形させた状態とする(ステップS41)。この状態で、上気道及び周囲の組織を含む3次元形状モデルは、
図13Bに示される状態となる。
【0104】
図21には、仰向位における上気道及び上気道の周辺の組織が模式的に示されている。
図21に示すように、被検者が仰向けに寝ている場合、上気道A1は、舌A3と下側の骨A4との間に上下に挟まれるようになる。さらに、重力Gによる舌A3の落ち込みにより、上気道A1は、変形して、起きている状態よりも狭くなっている。
【0105】
図20に戻り、シミュレーション実行部14は、まず、上気道A1内の流体モデルA5の流体解析を行い、上気道内の圧力Pを求める(ステップS42)。ここで、シミュレーション実行部14は、流体解析により求められた圧力P(
図21参照)に基づいて、上気道A
1の内壁面(境界面)への荷重条件を求める。
【0106】
続いて、シミュレーション実行部14は、荷重条件を境界条件として上気道A1及び周囲の組織の構造解析を行って、重力Gと圧力Pとが均衡する状態での上気道の内壁面の変位(例えば、
図21のΔx)等を求める(ステップS43)。シミュレーション実行部14は、構造解析によって求められた内壁面の変位に基づいて、上気道及び上気道の周囲の組織のモデルの3次元形状を更新する。
【0107】
続いて、シミュレーション実行部14は、終了条件を満たしているか否かを判定する(ステップS44)。終了条件は、荷重条件及び壁面の変位が許容範囲内に収束することとすることができる。
【0108】
終了条件を満たさない場合(ステップS44;No)、シミュレーション実行部14は、構造解析によって変位した内壁面に基づいて、流体解析を行う(ステップS42)。このように、ステップS42→S43→S44が繰り返される。この繰り返しにより、荷重条件(圧力P)及び内壁面の変位(Δx)が、一定の値に収束していく。
【0109】
図21に示すように、呼吸中、吸気段階において、上気道内には負圧Pが発生する。この負圧Pにより、上気道がさらに狭くなり、その境界面が変位する。このシミュレーションでは、上気道内の流体モデルを用いた流体解析と、上気道及び周囲の組織のモデルを用いた構造解析とが繰り返し行われ、各境界要素における許容範囲内に収束した最終的な荷重条件(圧力P)及び内壁面の変位(Δx)の集合が、上気道における圧力分布や変位分布として求められる。
【0110】
上気道内の圧力Pと、重力Gとにより、均衡がとれた状態となり、終了条件が満たされると(ステップS44;Yes)、シミュレーション実行部14は、シミュレーションを終了して、シミュレーション結果を記憶部10に記憶する(ステップS45)。これにより、流体構造連成解析のシミュレーションが終了する。記憶部10に記憶されるシミュレーション結果データ26は、終了条件が満たされた時点での、上気道内の圧力分布、上気道の変位分布、上気道の周囲の組織の変形した3次元形状などのデータである。
【0111】
図19に戻り、続いて、出力部15は、シミュレーション結果を表示出力する(ステップS34)。これにより、表示部35に、上気道内の圧力分布及び流速分布、上気道の周囲の組織の変形した3次元形状のモデルなどが表示される。
【0112】
出力部15に表示されたシミュレーション結果を見れば、被検者の上気道における呼吸中の圧力分布及び上気道の変形、周囲の組織の変形等を知ることができる。これらの情報に基づいて、上気道のどの部分が狭窄しているかを検出することができる。上気道が狭窄している部分がわかれば、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を特定するのは容易である。
【0113】
このように、出力部15は、上気道内の圧力分布又は上気道の変位分布とともに、上気道の周囲の組織のモデルの3次元形状の変形を表示することができるようになっている。このようにすれば、上気道内の狭窄が、周囲の組織のどの部分によってもたらされているのかをより正確に特定することができるようになる。
【0114】
例えば、
図22に示すように、B1の部分で圧力が極端に高い場合には、鼻腔が睡眠時無呼吸症候群の原因として考えられる。鼻閉や鼻カタルなどである。この場合には、治療すべき部位は、鼻である。
【0115】
また、B2の部分で圧力が極端に高い場合には、アデノイドが睡眠時無呼吸症候群の原因として考えられる。この場合には、アデノイドの切除が適切な治療方法として挙げられる。
【0116】
また、B3の部分で圧力が極端に高い場合には、口蓋扁桃が睡眠時無呼吸症候群の原因として考えられる。この場合には、治療すべき部位は、軟口蓋である。
【0117】
B4の部分で圧力が極端に高い場合には、顎の部分が、睡眠時無呼吸症候群の原因として考えられる。この場合には、治療すべき部位は、下顎となる。上歯と下歯との噛み合わせの矯正又は減量などが主な治療方法となる。
【0118】
また、睡眠時無呼吸症候群の原因部位は1つとは限らない。
図22に示すB1~B4の部位のうち、複数の部位が原因部位となっていることもある。この実施の形態に係る流体構造連成解析のシミュレーションを行えば、複数の部位が睡眠時無呼吸症候群の原因となっていることも突き止め易くなる。
【0119】
以上詳細に説明したように、この実施の形態によれば、上気道のみならずその周囲の組織の3次元形状のモデルを用いて流体構造連成解析のシミュレーションを行う。この解析により、呼吸に伴う上気道内の空気の流れのほか、上気道及びその周囲の組織の変形をも算出することができる。実際の睡眠時における上気道及びその周囲の組織の状態を、シミュレーションにより再現することができるので、呼吸器系の疾患の原因部位をより正確に特定することができる。この結果、より確実に呼吸器系疾患の良好な治療成績を得ることができる。
【0120】
また、本実施の形態によれば、鼻腔抵抗値51が実測値である鼻腔抵抗値52と一致する鼻腔モデル50を生成することができるので、被検者の鼻腔を正確に再現した鼻腔モデル50を構築することができる。さらに、較正された画素抽出範囲で、上気道全体の3次元形状モデルを生成することができるので、実際の睡眠時における上気道及びその周囲の組織の状態を、シミュレーションにより、忠実に再現することができるので、呼吸器系の疾患の原因部位をより正確に特定することができる。この結果、より確実に呼吸器系疾患の良好な治療成績を得ることができる。
【0121】
また、鼻腔抵抗値51と鼻腔抵抗値52との差に応じた第2の画素濃度値CT2の変更量は、
図10に示すものには限られない。より大きい値でもよいし、より小さな値でもよい。また、鼻腔抵抗値51と鼻腔抵抗値52との差に応じた第2の画素濃度値CT2の変更量の変化はより大きくてもよいし、小さくてもよい。第2の画素濃度値CT2の変更量は一定であってもよい。
【0122】
また、本実施の形態では、第2の画素濃度値CT2のみを変更したが、第1の画素濃度値CT1も変更するようにしてもよい。すなわち、抽出する画素濃度値の範囲全体を変更するようにしてもよい。
【0123】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。
【0124】
この発明の実施の形態2に係る診断システムは、呼吸器系疾患である睡眠時無呼吸症候群の治療計画の立案に用いられる。
【0125】
図23に示すように、この実施の形態に係る診断システム100では、出力部15が、モデル生成部12で生成された上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状モデルを表示出力することができるうえ、コンピュータ2に変更部16が設けられている点が、上記実施の形態1と異なっている。
【0126】
出力部15は、操作入力に応じて、記憶部10に記憶された鼻腔部分STLデータ22及び3次元形状モデルデータ23に基づいて、上気道及び上気道の周囲の組織を表示出力する。
【0127】
ユーザは、出力部15で表示出力された上気道及び上気道の周囲の組織の3次元モデルを見ながら、操作部34を操作して(例えばマウスの操作により)、3次元モデル内の特定の領域を指定する。操作部34から入力される操作入力は制御部31に入力され、制御部31はその操作入力に応じた処理を行う。この処理が、
図23の変更部16に対応する。
【0128】
例えば、操作部34の操作入力により、特定の領域として
図24に示す領域Dが指定されたとする。この場合、変更部16は、操作部34の操作入力に応じて、指定された領域Dを切除するように、上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状メッシュモデルを変更する。出力部15では、変更後の上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状メッシュモデルが表示される。このように、変更部16は、操作入力に従って、上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状メッシュモデルを変更する。
【0129】
図25には、指定された領域Dの切除後の上気道及び該上気道の周囲の組織が示されている。変更後の3次元モデルは、3次元形状モデルデータ23として記憶部10に記憶される。変更された領域Dが鼻腔部分である場合には、変更後の鼻腔部分のSTLデータが、鼻腔部分STLデータ22として記憶部10に記憶される。
【0130】
変更部16による変更が完了した後、シミュレーション実行部14は、変更部16で編集され記憶部10に記憶された上気道及び上気道の周囲の組織の3次元形状メッシュモデルを用いて被検者の呼吸に伴う上気道及び上気道の周囲の組織の流体構造連成解析のシミュレーションを行って、上気道における空気の流れに関する情報及び上気道の変形に関する情報を算出する。算出されたシミュレーション結果は、シミュレーション結果データ26として記憶部10に記憶され、出力部15により、表示出力される。この情報を参照すれば、指定領域Dを削除した後の、上気道の通気状態を確認することが可能となる。
【0131】
以上詳細に説明したように、この実施の形態によれば、変更部16により変更された上気道及びその周囲の組織の3次元形状のモデルを用いて、流体構造連成解析のシミュレーションを行う。このシミュレーションにより、治療後の上気道の通気状態に関する情報を予測することができる。術後の睡眠時における上気道及びその周囲の組織の状態を、シミュレーションにより予測することができるようになれば、最適な組織の切除量などを術前に求めることができ、適切な治療計画を立てることができる。この結果、より確実に呼吸器系疾患の良好な治療成績を得ることができる。
【0132】
前述のように、睡眠時無呼吸症候群の原因部位は1カ所でない場合もある。この場合、この実施の形態に係る診断システム100を用いて、原因部位として疑われるそれぞれの組織の3次元形状を変更し、シミュレーションを行って上気道の通気状態がどのように変化するかを解析することにより、複合的な原因部位を的確に特定することも可能である。
【0133】
上記各実施の形態に係る被検者については、特に制限はない。子供であっても成人であっても、睡眠時無呼吸症候群の診断及び治療を行うことが可能である。小児の睡眠時無呼吸症候群は、発育に深刻な影響を及ぼす。睡眠時無呼吸症候群は、ダウン症の小児では、発症率が50%を超えるとも言われている。このため、睡眠時無呼吸症候群の正確な原因部位の特定は、社会にとって多大な利益をもたらす。睡眠時無呼吸症候群の原因部位を正確に特定することができれば、医療費を大幅に削減することができるうえ、重大事故を未然に防止することができるので、経済損失を低減し、より安全な社会を実現することができる。
【0134】
上記各実施の形態では、弱連成の手法(時差解法)で、流体構造連成解析を行ったが、流体と構造の支配方程式を厳密に同時に満たすように解く強連成(一体型解法)等で、流体構造連成解析を行うようにしてもよい。このように流体構造連成解析のシミュレーションの手法は、上述したものに限らず、様々な方法を適用可能である。
【0135】
上記各実施の形態では、有限要素法を用いて上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状モデルと、前記上気道内の空気の流体モデルとを生成したが、これには限られない。例えば、有限要素法の他、有限差分法、境界要素法、有限体積法等の数値解析手法を用いて、上気道及び該上気道の周囲の組織の3次元形状モデルと、前記上気道内の空気の流体モデルとを生成するようにしてもよい。
【0136】
実施の形態3.
図26に示すこの実施の形態3に係る気道変形予測システム100’は、
図1に示す診断システム100の構成をすべて含むうえ、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を特定すべく、被検者である人体の睡眠時の上気道の通気状態をコンピュータ上で予測するために用いられる。気道変形予測システム100’は、被検者の上気道の通気状態を再現するために、X線CT(Computer Tomography)装置等により取得された被検者の上気道の計測データに基づいて、睡眠時の上気道の変形を予測する。本実施の形態では、主として咽頭、喉頭の形状の変化について取り扱う。
【0137】
図26に示すように、気道変形予測システム100’は、撮像装置1と、コンピュータ2と、計測装置3と、を備える。撮像装置1とコンピュータ2との間は、通信ネットワークで接続されている。この通信ネットワークにより、撮像装置1とコンピュータ2との間でデータの送受信が可能となる。
【0138】
撮像装置1は、X線CT装置である。撮像装置1は、被検者の顎顔面部の3次元X線CT画像を撮像する。撮像装置1は、上記実施の形態に係る撮像装置1と同じである。
【0139】
コンピュータ2は、受信したDICOMデータに含まれる3次元X線CT画像データに基づいて、被検者の睡眠時の上気道の変形を予測する。この予測は、回帰分析等の最適化手法を用いて行われる。
【0140】
このコンピュータ2の構成は、
図2のコンピュータ2のハードウエア構成と同じである。
図26に示すコンピュータ2の各種構成要素は、
図2に示すプログラム39が、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36などをハードウエア資源として用いて実行されることによってその機能を発揮する。
【0141】
図2に示すようなハードウエア構成を有するコンピュータ2は、その機能構成として、
図26に示すように、記憶部10と、生理データ生成部11’と、上気道モデル生成部12’と、流体解析部13’と、変換式生成部14’と、推定部15’と、を備える。
【0142】
記憶部10は、
図2に示すハードウエア構成のうち、
図2の外部記憶部33に対応する。記憶部10は、各種データを記憶する。記憶部10によって記憶されるデータには、生理データ20’、睡眠時上気道形状モデル21’、覚醒時上気道形状モデル22’、覚醒時圧力データ23’、変換式パラメータ24’及び上気道形状予測モデル25’がある。
【0143】
生理データ生成部11’は、
図2に示すハードウエア構成のうち、制御部31及び通信部36に対応する。生理データ生成部11’は、計測装置3で計測された被検者の各種データを入力する。このようなデータには、被検者の体重、身長などの体型に関するデータや、睡眠時における呼吸の状態、血圧、血中酸素など、被検者に関する様々なデータがある。生理データ生成部11’は、受信したデータに基づいて、睡眠時の上気道の変形に関連する各種生理データを生成する。生成されたデータは、生理データ20’として、複数の被検者のものが記憶部10に記憶される。
【0144】
上気道モデル生成部12’は、撮像装置1から送信された顎顔面部の3次元X線CT画像データ(DICOMデータ)を受信する。上気道モデル生成部12’は、受信したDICOMデータに基づいて、各種上気道データを生成して、記憶部10に記憶する。
【0145】
上気道モデル生成部12’は、被検者が覚醒しているときに撮像されたDICOMデータ(例えば、
図31(A)参照)から生成した上気道形状モデル(例えば、
図32A参照)を、覚醒時上気道形状モデル22’として記憶部10に記憶する。一方、上気道モデル生成部12’は、被検者が寝ているときに撮像されたDICOMデータ(例えば、
図31(B)、
図31(C)参照)から生成した上気道形状モデル(例えば、
図32B参照)を、睡眠時上気道形状モデル21’として記憶部10に記憶する。覚醒時上気道形状モデル22’及び睡眠時上気道形状モデル21’は、統計処理に十分な複数の被検者のものが記憶されている。
【0146】
流体解析部13’は、覚醒時上気道形状モデル22’を用いた流体解析を行って、その上気道内における圧力データ(例えば、
図33A、
図33B参照)を算出する。この圧力データは、覚醒時圧力データ23’として記憶部10に記憶される。覚醒時圧力データ23’は、覚醒時上気道形状モデル22’における被検者毎に生成され記憶されている。
【0147】
変換式生成部14’は、生理データ20’、睡眠時上気道形状モデル21’、覚醒時上気道形状モデル22’及び覚醒時圧力データ23’を入力する。変換式生成部14’は、複数の被検者における覚醒時の上気道の形状モデルと睡眠時の上気道の形状モデルとを用いて、覚醒時の上気道の特定部位の位置情報を
睡眠時の当該特定部位の位置情報に変換する変換式を生成する。
図31(A)と
図31(C)、あるいは
図32Aと
図32Bとを比較するとわかるように、覚醒時と睡眠時とでは同じ被検者でも、上気道の形状が異なる。変換式生成部14’は、このような違いを変換式に表現し、その変換式を生成する。
【0148】
ここで、変換式について説明する。まず、覚醒時の上気道のある特定部位の位置座標を(Xpre,Ypre,Zpre)とし、睡眠時のその特定部位の位置座標を(Xpost,Ypost,Zpost)とする。また、覚醒時にその特定部位に係る気道内の圧力をPとする。覚醒時の上気道のある特定部位の位置座標(Xpre,Ypre,Zpre)と、睡眠時のその特定部位の位置座標(Xpost,Ypost,Zpost)との関係は、以下の3つの線形結合式で表される。
Xpost=Xpre+a×P+b×AHI+c×BMI+…+d …(1)
Ypost=Ypre+e×P+f×AHI+g×BMI+…+h …(2)
Zpost=Zpre+i×P+j×AHI+k×BMI+…+l …(3)
ここで、a~lは、各項の係数である。
【0149】
AHI(Apena Hypopnea Index)は、無呼吸低呼吸指数である。睡眠中の無呼吸とは、呼吸が10秒以上止まる状態を指し、1時間に無呼吸が起こる回数を無呼吸指数AIという。また低呼吸とは、呼吸による換気が10秒以上50%以下に低下する状態を指し、1時間に低呼吸が起こる回数を低い呼吸指数(HI)という。睡眠中の1時間の無呼吸と低呼吸の回数の合計が無呼吸低呼吸指数(AHI)となる。
【0150】
また、BMI(Body Mass Index)は、体重と身長との関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数である。
【0151】
変換式生成部14’は、複数の被検者における覚醒時の上気道位置座標データ(Xpre,Ypre,Zpre)と、睡眠時の上気道位置座標データ(Xpost,Ypost,Zpost)、AHI、BMIと、式(1)~(3)に代入して、回帰分析を行い、予測される睡眠時の上気道の位置座標データと、実測データ(Xpost,Ypost,Zpost)との残差が最小となるような係数a~lを算出する。算出された係数a~lは、変換式パラメータ24’として記憶部10に記憶される。
【0152】
推定部15’は、新たに得られた被検者の覚醒時上気道形状モデル22’を、生成された変換式(1)~(3)(変換式パラメータ24’の係数が設定された変換式)に代入することにより、当該被検者の睡眠時の上気道形状予測モデル25’を生成する。生成された上気道形状予測モデル25’において、気道が細く又はつぶれている箇所がある場合には、その箇所が、睡眠時無呼吸症候群の原因部位であると疑われる。
【0153】
次に、この気道変形予測システム100’による気道変形予測の流れについて説明する。
図27に示すように、まず、撮像装置1が、被検者のDICOMデータを撮像し、計測装置3が、被検者の生理データ20’を計測する撮像・計測工程を行う(ステップS1’)。これにより、撮像装置1から被検者の顎顔面部のDICOMデータ(
図31(A)、
図31(B))がコンピュータ2に送られ、また、計測装置3から被検者の生理データ20’がコンピュータ2に送られる。
【0154】
上気道モデル生成部12’は、DICOMデータに基づいて睡眠時上気道形状モデル21’と覚醒時上気道形状モデル22’とを生成して記憶部10に記憶する。また、生理データ生成部11’は、計測装置3の計測結果に基づいてAHI,BMIなどの変換式の各項に定義された諸値を算出し、生理データ20’として記憶部10に記憶する。
【0155】
続いて、コンピュータ2は、流体解析を行い、流体解析工程を行う(ステップS2’)。具体的には、流体解析部13’は、覚醒時上気道形状モデル22’を用いて流体解析を行い、覚醒時圧力データ23’(
図33B参照)を生成して記憶部10に記憶する。
【0156】
続いて、コンピュータ2は、変換式を生成する変換式生成工程を行う(ステップS3’)。具体的には、
図28に示すように、変換式生成部14’は、変換式の係数a~
lに仮の値を設定する、すなわち変換式パラメータの仮設定を行う(ステップS31’)。続いて、変換式生成部14’は、覚醒時の上気道の特定部位の位置座標(Xpre,Ypre,Zpre)、その特定部位の圧力値P、AHI、BMI等を入力することにより、変換式を算出する(ステップS32’)。続いて、変換式生成部14’は、変換式の算出結果と、睡眠時の位置座標の実測値との残差を算出する(ステップS33’)。
【0157】
続いて、変換式生成部14’は、終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS34’)。終了条件は、例えば、残差が許容範囲内であることである。
【0158】
終了条件を満たさないと判定されると(ステップS34’;No)、変換式生成部14’は、変換式パラメータの仮設定(係数a~lの値を変更)を行い(ステップS31’)、変換式を算出し(ステップS32’)、残差を算出し(ステップS33’)、終了条件の判定を行う(ステップS34’)。
【0159】
このように、終了条件を満たすようになるまで、ステップS31’→S32’→S33’→S34’が繰り返され、残差が終了条件を満たす最適な変換式パラメータ(係数a~l)が探索される。
【0160】
終了条件を満たすようになると(ステップS34’;Yes)、変換式生成部14’は、その時点での変換式の係数(変換式パラメータ24’)を記憶部10に記憶する(ステップS35’)。
【0161】
図27に戻り、続いて、コンピュータ2は、予測工程を行う(ステップS4’)。具体的には、
図29に示すように、まず、撮像装置1で予測対象となる被検者の覚醒時での撮像を行い、計測装置3を用いて被検者の生理データ20’の計測を行い、その結果を、コンピュータ2に送信する(ステップS41’)。これにより、上気道モデル生成部12’は、受信した結果に基づいて、覚醒時上気道形状モデル22’を生成して記憶部10に記憶し、生理データ生成部11’は、生理データ20’を生成して記憶部10に記憶する。
【0162】
続いて、流体解析部13’は、覚醒時上気道形状モデル22’を用いて流体解析を行って、覚醒時圧力データ23’(
図33B参照)を生成し、記憶部10に記憶する(ステップS42’)。
【0163】
続いて、推定部15’は、変換式パラメータ24’を読み込んで、変換式の係数a~lとして設定し、覚醒時上気道形状モデル22’の位置座標(Xpre,Ypre,Zpre)を代入して、睡眠時の位置座標(Xpost,Ypost,Zpost)を算出し、上気道形状予測モデル25’を生成する(ステップS43’)。そして、推定部15’は、上気道形状予測モデル25’を記憶部10に記憶する(ステップS44’)。ここで必要であれば、上気道形状予測モデル25’が表示部35に表示される。これにて処理が終了する。
【0164】
なお、本実施の形態では、上気道全体の形状を予測する場合について説明した。しかしながら、本発明はこれには限られない。上気道の特定部位に絞って、睡眠時のその位置座標の変化を予測するだけでもよい。そのような特定部位には、例えば
図34(A)に示すRA-P、RA-A、TSA-P、TSA-A、OA-P、OA-A、HA-P、HA-Aなどがある。
図34(B)におけるwRA、wTSA、wOA、wHAは、各特定部位の間隔、すなわちその部位での気道の幅である。
【0165】
表示された上気道形状予測モデル25’を見れば、被検者の睡眠時の上気道の形状を確認することができる。これらの情報に基づいて、上気道のどの部分が狭窄しているかを検出することができる。上気道が狭窄している部分がわかれば、睡眠時無呼吸症候群の原因部位を特定するのが容易になる。
【0166】
例えば、
図30に示すように、B1の部分、すなわち鼻の粘膜に炎症を起こしている場合には、投薬などで炎症を抑えることが適切な治療法として考えられる。
【0167】
また、B2の部分、鼻の奥が腫れている場合には、手術による切除を行うことが適切な治療法として考えられる。
【0168】
また、B3の部分、喉の奥が分厚くなっている場合には、CPAP等の器械を永続的に使用することが適切な治療法として考えられる。
【0169】
また、B4の部分、扁桃腺が腫れている場合には、手術により扁桃腺を切除することが適切な治療法として考えられる。
【0170】
また、上気道の下側がつぶれているか細くなっている場合には、B5の部分(下顎)が、原因部位として考えられる。この場合には、治療すべき部位は、下顎となる。上歯と下歯との噛み合わせの矯正、減量、下顎を前に出す手術、マウスピースの使用などが主な治療方法となる。
【0171】
また、睡眠時無呼吸症候群の原因部位は1つとは限らない。
図30に示すB1~B5の部位のうち、複数の部位が原因部位となっていることもある。この実施の形態に係る上気道の睡眠時の変形の予測を行えば、複数の部位が睡眠時無呼吸症候群の原因となっていることも突き止め易くなる。
【0172】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、複数の被検者における覚醒時上気道形状モデル22’と睡眠時上気道形状モデル21’とから最適化手法を用いて推定された変換式を用いて、覚醒時の上気道の形状から睡眠時の上気道の形状を被検者毎に統計的に予測することができるので、睡眠時の上気道の形状を明らかにして、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の原因部位を正確に特定することができる。
【0173】
なお、上記実施の形態では、変換式にボディマス指数の項を設定したが、本発明はこれには限られない。例えば、ボディマス指数に変えて、肥満度を表す他の指数(例えば体重/身長、脂肪率、ローレル指数、肥満度)を用いるようにしてもよい。
【0174】
上記各実施の形態では、撮像装置1とX線CT装置としたが、この発明はこれには限られない。MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置又は超音波診断装置を撮像装置1としてもよい。さらに、X線CT装置、MRI装置、超音波診断装置から得られる複数の3次元画像データから1つの3次元画像データを生成し、生成された画像データから、各組織の3次元形状のモデルを生成するようにしてもよい。
【0175】
また、上記実施の形態では、回帰分析により変換式の係数を最適化したが、本発明はこれには限られない。遺伝的アルゴリズム等、他の最適化手法を用いて最適な変換式のパラメータを求めるようにしてもよい。この場合、標準から著しく外れたデータは、最適化から除外するようにしてもよい。
【0176】
上記各実施の形態では、睡眠時無呼吸症候群の診断及び治療を行う場合について説明したが、この発明はこれには限られない。呼吸器系の疾患であって上気道の形状に係る疾患であれば、診断及び治療に評価システムを用いることができる。また、高血圧等の症状の原因の特定にもこの発明を用いることができる。
【0177】
その他、コンピュータ2のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0178】
制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び通信部36、内部バス30などから構成されるコンピュータ2の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行するコンピュータ2を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することでコンピュータ2を構成してもよい。
【0179】
コンピュータ2の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0180】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0181】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0182】
なお、本願については、2017年3月1日に出願された日本国特許出願2017-38358号を基礎とする優先権を主張し、本明細書中に日本国特許出願2017-38358号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、睡眠時無呼吸症候群(OSAS)等の上気道の疾患の原因部位の特定に利用することができる。
【符号の説明】
【0184】
1 撮像装置、2 コンピュータ、3 計測装置、10 記憶部、11 データ取得部、12 モデル生成部、13 流体解析部、14 シミュレーション実行部、15 出力部、16 変更部、21 DICOMデータ、22 鼻腔部分STLデータ、23 3次元形状モデルデータ、24 鼻腔内圧力分布データ、25 物性値データ、26 シミュレーション結果データ、30 内部バス、31 制御部、32 主記憶部、33 外部記憶部、34 操作部、35 表示部、36 通信部、39 プログラム、41 鼻腔モデル生成部、42 鼻腔抵抗値算出部、43 調整部、50 鼻腔モデル、51,52 鼻腔抵抗値、100 診断システム、11’ 生理データ生成部、12’ 上気道モデル生成部、13’ 流体解析部、14’ 変換式生成部、15’ 推定部、20’ 生理データ、21’ 睡眠時上気道形状モデル、22’ 覚醒時上気道形状モデル、23’ 覚醒時圧力データ、24’ 変換式パラメータ、25’ 上気道形状予測モデル、100’ 気道変形予測システム