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特許7075132血液脳関門モデルならびにそれを作製する方法および使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】血液脳関門モデルならびにそれを作製する方法および使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20220518BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220518BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220518BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220518BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C12N5/079
C12M1/00 A
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019505398
(86)(22)【出願日】2017-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 US2017045458
(87)【国際公開番号】W WO2018027112
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】62/370,907
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/524,877
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ウィックス,ロバート・ティー
(72)【発明者】
【氏名】アタラ,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,グッドウェル
(72)【発明者】
【氏名】ウィックス,エリザベス・イー
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/100695(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0015395(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0127800(US,A1)
【文献】Biomicrofluidics,2015年,No.9,Article No.054124
【文献】Fluids and Barriers of the CNS,2013年,Vol.10, No.1,Article No.33
【文献】PLOS ONE,2016年,Vol.11, No.3,e0150360
【文献】Journal of Neurochemistry,2011年,Vol.119, No.3,p.507-520
【文献】Scientific Reports,2014年,Vol.4,Article No.04160
【文献】Scientific Reports,2013年,Vol.3,Article No.01500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/079
C12M 1/00
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロサイト、周皮細胞、内皮細胞神経細胞、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの6つの細胞種を含み、スフェロイドの形態である、血液脳関門のインビトロモデル。
【請求項2】
前記神経細胞が、初代神経細胞または神経前駆細胞(例えば、多能性神経幹細胞)を含、請求項1に記載のインビトロモデル。
【請求項3】
前記内皮細胞が、初代内皮細胞または内皮前駆細胞を含む、請求項1または2に記載のインビトロモデル。
【請求項4】
前記アストロサイトが、初代アストロサイトまたはアストロサイト前駆細胞を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項5】
前記周皮細胞が、初代周皮細胞または周皮前駆細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項6】
前記神経細胞、内皮細胞、アストロサイト、および/または周皮細胞がヒトのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項7】
前記内皮細胞が、微小血管内皮細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項8】
前記内皮細胞が、ヒト脳微小血管内皮細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項9】
前記6つの細胞種が、30%の内皮細胞、15%の周皮細胞、15%のアストロサイト、15%のオリゴデンドロサイト、5%のミクログリア、および20%の神経細胞の量でスフェロイド中に存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項10】
前記スフェロイドが、タイトジャンクションおよび/または接着結合を発現する、請求項1~のいずれか1項に記載のインビトロモデル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のインビトロモデルを含むマイクロ流体デバイスであって、前記スフェロイドが、液体(例えば、培地、血液もしくはその画分、または代用血液)と流体接触および/または流体連通している、マイクロ流体デバイス。
【請求項12】
血液脳関門を通過する化合物をスクリーニングする方法であって、
請求項1~10のいずれか1項に記載のインビトロモデルまたは請求項11に記載のマイクロ流体デバイスを提供するステップと、
前記モデルに前記化合物を適用するステップと、
前記スフェロイドを通る前記化合物の透過を検出するステップと、これにより血液脳関門を通る前記化合物の通過を検出する、
を含む、方法。
【請求項13】
血液脳関門による化合物に対する生理的反応を判定する方法であって、
請求項1~10のいずれか1項に記載のインビトロモデルまたは請求項11に記載のマイクロ流体デバイスを提供するステップと、
前記モデルに前記化合物を適用するステップと、
前記スフェロイドからの生理的反応を検出するステップと、これにより血液脳関門による前記化合物に対する生理的反応を判定する、
を含む、方法。
【請求項14】
前記生理的反応が、障害、瘢痕組織形成、感染、細胞増殖、細胞遊走、熱傷、細胞死、マーカー放出、および/または遺伝子発現の変化を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2016年8月4日に出願された米国特許仮出願第62/370,907号および2017年6月26日に出願された米国特許仮出願第62/524,877号の利益を主張し、それぞれの開示は、その全体が参照により本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
血液脳関門(BBB)は、脳への外来物質の侵入を防ぐ脳の動的要素である。Ballabh et al.The blood-brain barrier:an overview:structure,regulation,and clinical implications.Neurobiol Dis.2004;16(1):1-13。このため、BBBは、多くの神経学的疾病および神経学的障害に対する治療の選択肢を制限する。
【0003】
この制限を克服するため、集束超音波のような技術および特定の薬物の研究が行われてきた。Etame et al.Focused ultrasound disruption of the blood-brain barrier:a new frontier for therapeutic delivery in molecular neurooncology.Neurosurg Focus.2012;32(1):E3。しかし、現時点で、BBBの動的性質を制御する機構についてはほとんどわかっていない。インビトロモデルおよび動物モデルは、成人ヒトBBBの生理的性質を再現することができない、かつ/またはハイスループット試験に対応するよう設計されていない。Naik et al.In vitro blood-brain barrier models:current and perspective technologies.J Pharm Sci.2012;101(4):1337-54、Lancaster et al.,Cerebral organoids model human brain development and microcephaly.Nature,2013.501(7467):p.373-9。
【0004】
さらに、インビボ動物モデルもまた、常にヒトの病的状態に類似しているわけではない。大規模動物試験後の臨床試験で、薬物の約90%が脱落することは、現行モデルにおける制限に起因するであろう。
【0005】
したがって、血液脳関門およびヒト脳組織に関連する研究および試験に使用できるインビトロ系を改良する必要性が未だある。
【発明の概要】
【0006】
本明細書で提供されるのは、血液脳関門のインビトロモデルである。いくつかの実施形態において、このモデルは、内皮細胞層、ならびに神経細胞ならびに任意選択的に、アストロサイト、周皮細胞、オリゴデンドロサイト、およびミクログリアのうちの1種または複数を含む脳組織層(または神経細胞層、これらの用語は、神経細胞を含む層を示すため、本明細書において互換的に使用される)を含む。いくつかの実施形態において、このモデルは、前記内皮細胞層(例えば、内皮細胞単層)と前記神経細胞層の間に多孔質膜をさらに含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、神経細胞は、初代神経細胞、神経前駆細胞、および/またはiPSC由来細胞を含む。いくつかの実施形態において、内皮細胞は、初代内皮細胞(例えば、初代脳微小血管内皮細胞)または内皮前駆細胞を含む。いくつかの実施形態において、アストロサイトは、初代アストロサイト、アストロサイト前駆細胞、および/またはiPSC由来アストロサイトを含む。いくつかの実施形態において、周皮細胞は、初代周皮細胞または周皮前駆細胞を含む。いくつかの実施形態において、神経細胞、内皮細胞、アストロサイト、および/または周皮細胞は、ヒト細胞である。
【0008】
いくつかの実施形態において、オリゴデンドロサイトは、初代オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆細胞を含む。いくつかの実施形態において、ミクログリアは、初代ミクログリアまたはミクログリア前駆細胞を含む。いくつかの実施形態において、オリゴデンドロサイトおよび/またはミクログリアは、ヒト細胞である。
【0009】
いくつかの実施形態において、内皮細胞層は、血管の形状、すなわち、液体の流通を可能にする中空の管状で提供される。いくつかの実施形態において、神経細胞層は、管状の血管構造物の外側に位置する。
【0010】
本明細書に教示されるような血液脳関門のインビトロモデルを含むマイクロ流体デバイスであって、内皮細胞層が、液体(例えば、培地、緩衝液、血液またはその画分、人工代用血液など)と流体接続している、マイクロ流体デバイスも提供される。
【0011】
いくつかの実施形態において、神経細胞層は、液体(例えば、培地、緩衝液、人工脳脊髄液など)と流体接続しており、任意選択的に、前記液体が前記内皮細胞層と流体接続している液体とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】血液脳関門の血管モデルの設計を示す図である。中央の円は、内皮細胞を含む溶解性の管腔を表しており、これはアストロサイトおよび周皮細胞に取り囲まれている。
図2】バイオプリントされた微小血管の画像を示す図である。微小血管には、平滑筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、およびアストロサイトをフィブリン中に含めたものをプリントした。画像化によって、犠牲的な管腔の溶解後4日目に明らかにされた予測される管腔を伴った、パラフィン包埋した構造物のH&E染色が描出される。GFAP染色によって、アストロサイトの予測位置が確認された。
図3】8週間を超えて問題なく培養された、プリントされた神経細胞を示す図である。プリントされた神経細胞は分化し、適切な細胞形態を示した。
図4A】毛細血管の神経血管単位(NVU)の概略図を示す。中心には、ヒト脳の微小血管内皮細胞(hBMEC)およびヒト脳の微小血管周皮細胞(hBMP)を含有する犠牲的なゼラチン管腔があり、犠牲的なゼラチン管腔を直接取り囲んでいるのは、ヒトアストロサイト(hA)を含有するフィブリンゲルであり、hAを含有するフィブリンゲルを取り囲んでいるのは、細胞を含まないフィブリンゲルである。
図4B】微小動脈(micro-arteriole)のNVUの概略図を示す。中心には、hBMECを含む犠牲的なゼラチン管腔があり、犠牲的なゼラチン管腔を直接取り囲んでいるのは、hBMPおよびhBSMCを含有するフィブリンゲルであり、そのフィブリンゲルを取り囲んでいるのは、hAおよびRenCellを含有するフィブリンゲルであり、そのフィブリンゲルを取り囲んでいるのは、細胞を含まないフィブリンゲルである。
図4C】前記構造物に使用してもよい、2D培養中の初代ヒト細胞種を示す写真である。
図5】フィブリンゲルでプリントされ、神経分化培地で72時間および神経維持培地で50日間まで培養されたiPSC由来神経前駆細胞の細胞生存率を明示する画像である。パネルA~Cは、95%を超える生存率を示す。パネルDの構造物は、βIIIチューブリンおよびDAPIに対する免疫蛍光染色を行い、これは、それぞれ細胞分化および細胞核を判定するために実施された。
図6】パネル1(最上部左)および2(最下部左)は、それぞれ10日目および21日目におけるバイオプリントされた神経血管単位の細胞生存率を示す図である。画像2は、二光子顕微鏡で撮影されており、管腔への細胞遊走を示す。微小血管は、平滑筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、アストロサイト、およびがRenCellを含むフィブリンでプリントされた。パネルAおよびB:凍結切断した微小血管のH&E染色。パネルCのスライドをさらに固定し、矢印で示される管腔中の褐色に染色された内皮細胞のマーカーであるCD31に対して染色した。パネルDのスライドをA、Bのように調製し、続いて、予測されたアストロサイトの局在を示すアストロサイトのマーカーであるGFAPに対して染色した。
図7】キシレンを使用して脱色し、続いて、CD31およびGFAPに対して免疫蛍光染色した構造物の細胞を示す図である。フィブリンゲルの自家蛍光があるとしても、管腔におけるCD31染色は明瞭である。横断面をGFAPに対して染色した。最下部右パネルは、GFAP染色があまり明瞭ではないが、脱色によって組織サンプルが破壊される可能性があるため、脱色は実施されなかったことを示す。4日目に、管腔は明瞭となっている。しかし、7日目までに、管腔の閉塞が明らかとなっている(最上部右パネル)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化される場合があり、本明細書に明記される実施形態に限定されると解釈されるべきでなく、むしろ、本開示が詳細で完全なものとなり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるために、これらの実施形態が提供される。
【0014】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみの説明を目的とするものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で用いる場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形も含むことを意図する。本明細書で使用する場合、「含む」または「含んでいる」という用語は、述べられた特徴、整数、ステップ、作業、要素、成分、および/もしくは群、またはその組合せの存在を明示するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、作業、要素、成分、および/もしくは群、またはその組合せの存在または追加を排除するものではないことが、さらに理解されるであろう。
【0015】
本明細書で使用される場合、「および/または(もしくは)」という用語は、任意のおよびすべての可能な組合せまたは関連する列挙された項目のうちの1つもしくは複数を含み、代わりに(「または」)で解釈する場合は組合せの欠如も含む。
【0016】
別段の定めがない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されるような用語は、本明細書および請求項の文脈におけるそれらの意味に一致する意味を有すると解釈されるべきであること、ならびに本明細書で明確にそう定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことが、さらに理解されるであろう。公知の機能または構成について、簡潔および/または明瞭を期すため、詳細に記載されないことがある。
【0017】
本明細書で使用される場合、「哺乳動物」は、ヒト対象(および細胞供給源)およびイヌ、ネコ、マウス、サルのような(例えば、研究または獣医学的目的用)非ヒト対象(および細胞供給源または細胞種)のいずれも指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、「細胞」は、概して、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、マウス、ウサギ、ラットなどの細胞のような哺乳動物の細胞である。いくつかの好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞である。適当な細胞は公知であり、市販されている、および/または公知の技術に従って生成され得る。いくつかの実施形態において、細胞はドナーから採取され、継代される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「オルガノイド」は、臓器またはその一部の機能性および/または組織学的構造を模倣して形成した、または臓器またはその一部の機能性および/または組織学的構造に似ている、人工のインビトロ三次元構造物を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「培地」は、任意の天然または人工の増殖培地(通常、水性液体)であって、本発明を実施するために使用される細胞を維持する補足物および増殖因子で調整した増殖培地であってもよい。その例としては、これらに限定されないが、必須培地もしくは最小必須培地(MEM)またはイーグル最小必須培地(EMEM)およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)のような、その変形、ならびに内皮増殖培地(EGM)が挙げられる。本発明において有用な他の液体としては、緩衝液、血液、血清、血漿、リンパ液、脳脊髄液などが挙げられ、その合成模倣物も挙げられる。例えば、Doi他による米国特許第8,409,624号を参照されたい。いくつかの実施形態において、増殖培地、緩衝液などとしては、pH変色指示薬(例えば、I、フェノールレッド)および/または補足物(例えば、血清、F-12)などが挙げられる。
【0021】
本明細書に引用されるすべての米国特許参考文献の開示は、その全体が参照によって本明細書の一部をなすものとする。
【0022】
1.血液脳関門モデルおよびそれを作製する方法。
本明細書で提供されるのは、インビトロ血液脳関門モデルであり、いくつかの実施形態において、このモデルは、アストロサイト、周皮細胞、および内皮細胞のうちの1つまたは複数を含む内皮細胞層を有する。いくつかの実施形態において、内皮細胞層は、アストロサイト、周皮細胞、内皮細胞(例えば、脳微小血管内皮細胞)からなる自己組織化オルガノイドのようなオルガノイドを含む。いくつかの実施形態において、このモデルは、神経細胞を含む神経細胞層をさらに含む。いくつかの実施形態において、このモデルは、前記内皮細胞層と前記神経細胞層の間に多孔質膜を有する。
【0023】
いくつかの実施形態において、このモデルは、内皮細胞、アストロサイト、および周皮細胞を含む。いくつかの実施形態において、このモデルは、神経細胞を含む脳組織層(または神経細胞層、これらの用語は、神経細胞を含む層を示すため、本明細書において互換的に使用される)をさらに含む。いくつかの実施形態において、神経細胞は、電気的に活性である。例えば、Hickman他による米国特許出願公開第2014/0206028号を参照されたい。
【0024】
内皮細胞層、ならびに神経細胞ならびに任意選択的に、さらにアストロサイト、周皮細胞、オリゴデンドロサイト、およびミクログリアのうちの1種または複数を含む脳組織層(または神経細胞層)が含まれる血液脳関門のインビトロモデルも提供される。いくつかの実施形態において、このモデルは、前記内皮細胞層(例えば、内皮細胞単層)と前記神経細胞層の間に多孔質膜をさらに含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、本発明のインビトロ血液脳関門モデルは、多孔質膜への内皮細胞層(例えば、アストロサイト、周皮細胞、および内皮細胞からなる自己組織化オルガノイドを含む)の堆積、および多孔質膜の反対側への哺乳動物神経細胞の生細胞を含む神経細胞層の堆積によって作成することができる。
【0026】
いくつかの実施形態において、本発明のインビトロ血液脳関門モデルは、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、および神経細胞を含有するオルガノイドに脳微小血管内皮細胞および周皮細胞を加えることによって作成することができる。いくつかの実施形態において、本発明のインビトロ血液脳関門モデルは、細胞を含むヒドロゲルに内皮細胞を加えることによって作成される。ヒドロゲルに封入された細胞は、周皮細胞、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、および神経細胞のうちの1種または複数を含んでいてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、インビトロ血液脳関門モデルは、血管を模倣するため、管形状で提供される。いくつかの実施形態において、血管形状の形成後、その管腔に微小血管内皮細胞を灌流させてもよい。いくつかの実施形態において、内皮細胞を、犠牲的なヒドロゲルに用いてもよく、血管の内部に適用(例えば、バイオプリント)してもよい。犠牲的なヒドロゲル(例えば、ゼラチン)は、その後、増殖条件下の培地に溶解し、内皮細胞を管腔に付着させてもよい。いくつかの実施形態において、多孔質膜(存在する場合)は、管形状で提供される。
【0028】
細胞は、樹立された培養物、ドナー、生検、またはその組合せから得てもよい。いくつかの実施形態において、細胞は、幹細胞または前駆細胞(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC))である。いくつかの実施形態において、細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、iPSC由来細胞(例えば、iPSC由来アストロサイト、iPSC由来神経幹細胞など)である。いくつかの実施形態において、細胞は継代される。
【0029】
細胞の堆積または播種は、これらに限定されないが、拡散/塗布、コーティング、噴霧などを含む任意の適当な技術によって実施することができる。いくつかの実施形態において、堆積ステップは、「インクジェット」式プリンティングおよびシリンジ注入式プリンティングの両方を含む任意の適当な技術に従ったプリンティング(または「バイオプリンティング」)によって実施される。このようなバイオプリンティングを実施するための装置は既知であり、例えば、Boland他、米国特許第7,051,654号、Yoo他、米国特許出願公開第2009/0208466号、およびKang他、米国特許出願公開第2012/0089238号に記載されている。
【0030】
いくつかの実施形態において、細胞は、ヒドロゲル担体のような担体で供給してもよいし、および/またはバイオプリントしてもよい。本明細書で用いる場合、「ヒドロゲル」は、任意の適当なヒドロゲルであってもよい。概して、ヒドロゲルは水を含み、さらにポリアルキレンオキシド、ポロキサミン、セルロース、ヒドロキシアルキル化セルロース、ポリペプチド、多糖類、炭水化物、タンパク質、その共重合体、もしくはその組合せからなるまたはこれらから得られ、より具体的には、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)-コーポリプロピレンオキシド)ブロック共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、アルギン酸塩、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、オボアルブミン、その共重合体、もしくはその組合せからなるまたはこれらから得られ、それらのすべてが、好ましくは、公知の技術または当業者にとって明らかなその変法に従って、様々な程度に架橋されている。例えば、米国特許第8,815,277号、第8,808,730号、第8,754,564号、第8,691,279号を参照されたい。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、フィブリンを含み、トロンビンを用いたプリンティングの際に架橋されてもよい。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、哺乳動物またはヒトの脳由来細胞外マトリックスを含んでいてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、例えば、ヒドロゲルを、プリンティング後に液状化、可溶化またはそれ以外の方法により除去して、プリントされた構造物中に中空空間を形成することが可能である点で、このようなヒドロゲルは、「犠牲的な(sacrificial)」ヒドロゲルである。犠牲的なヒドロゲルの例としては、これら限定されないが、糖、ゼラチン、塩、低分子量水溶性ポリマー、生分解性ポリマー、およびその組合せが挙げられる。例えば、Thomas他による米国特許第7,731,988を参照されたい。
【0032】
いくつかの実施形態において、脳微小血管内皮細胞(例えば、ヒト脳微小血管内皮細胞)および/または脳周皮細胞(例えば、ヒト脳微小血管周皮細胞)は、犠牲的なヒドロゲルで提供され、その後、ヒドロゲルは、血液脳関門構造物中で前記細胞に取り囲まれた明瞭な管腔を形成するために除去される。
【0033】
上記のとおり、いくつかの実施形態において、多孔質膜は、モデルの内皮細胞層と神経細胞層の間に配置されていてもよい。多孔質膜は、ポリマー物質であってもよいし、またはポリマー物質を含んでいてもよい。ポリマー物質は、ポリスチレンのような合成物であってもよいし、または脱細胞化した細胞外マトリックスのような天然の組織から得てもよい。いくつかの実施形態において、膜は、片側または両側を、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジン、および/または多糖類でコートされる。
【0034】
他の実施形態において、インビトロ血液脳関門モデルは、多孔質膜を含まない。
【0035】
いくつかの実施形態において、このモデルは、マイクロ流体デバイスで提供することができる。細胞を支持するために有用なマイクロ流体デバイスの種々の形状は、インビトロ血管モデルの形態を含み、当該分野で公知である。例えば、参照によって本明細書に組み込まれる、Hoganson他による米国特許出願公開第2011/0053207号、Ingber他による米国特許出願公開第2014/0038279号、Bhatia and Ingber,“Microfluidic organs-on-chips,”Nature Biotechnology32:760-772(2014)を参照されたい。
【0036】
概して、本明細書に教示されるような血液脳関門モデルを含むマイクロ流体デバイスは、その中に血液脳関門モデルを受け入れるような寸法を有する空洞であって、内皮細胞層および神経細胞層が、このモデルの内皮細胞層と流体接触している第1の空洞または間隙とこのモデルの神経細胞層と流体接触している第2の空洞または間隙の間の境界を明確にするような空洞を備えていてもよい。流体は、培地または緩衝液のような液体であってもよい。このデバイスはさらに、各空洞の流体入口および流体出口、そこに接続した流体貯留部(例えば、培地貯留部)などを備えていてもよい。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に教示されるような血液脳関門モデルは、内皮細胞層にずり応力を与え、血液脳関門の形成を促しつつ流体の流通(例えば、マイクロ流体の流体の流通)を可能にするような寸法を有する管腔を備えていてもよい。流体は、このモデルの内皮細胞層と接触しており、血液脳関門における拡散機構および輸送機構によって、脳組織への栄養分配が示される。
【0038】
2.使用方法。
本明細書に記載されているインビトロ血液脳関門モデルは、薬剤の血液脳関門通過の薬力学的試験または薬物動態試験などに関する化合物または治療法のスクリーニングまたは試験(例えば、有効性、毒性、または他の代謝活性もしくは生理活性)のための生きた動物を用いた試験に代わるものとして使用することができる。このような試験は、その生成物の構成細胞の生存を維持する条件下(例えば、酸素化培養培地中)の、本明細書に記載されているインビトロ血液脳関門モデルを提供すること、試験する化合物(例えば、候補薬物)を細胞に適用すること(例えば、内皮層への投与によって)、その後、内皮層を通る化合物の透過および/または他の生理的反応(例えば、障害、瘢痕組織形成、感染、細胞増殖、熱傷、細胞死、ヒスタミン放出のようなマーカー放出、サイトカイン放出、遺伝子発現の変化など)を検出することによって実施でき、これは、前記化合物が、哺乳動物対象に全身的に(例えば、経脈管的に)送達された場合、血液脳関門を透過することができるかどうかおよび/または脳内での治療的有効性、毒性、または他の代謝活性もしくは生理活性を有するかどうかを示すことがある。インビトロ血液脳関門の対照サンプルを、同様の条件下で維持し、これに対照化合物(例えば、生理食塩水、化合物の溶媒、または担体)を適用することで、比較結果が得られる、または過去データとの比較もしくは試験化合物の複数の希釈濃度を用いて得られたデータとの比較などに基づいて障害を判定することができる。
【0039】
試験化合物が免疫学的活性を有するかどうかを判定する方法としては、血液脳関門モデルのミクログリアまたはアストロサイトによる免疫グロブリン産生、ケモカイン産生、およびサイトカイン産生に関する試験、または神経細胞層への好中球のような自然免疫細胞およびマクロファージの遊走を評価することによる試験を挙げることができる。
【0040】
本明細書に教示されるモデルを用いて試験し得る血液脳関門(例えば、ヒト血液脳関門)を通過する方法としては、これら限定されないが、異なる細胞間のタイトジャンクションの透過、細胞層を介した受動拡散、受容体媒介トランスサイトーシス、および/または細胞流出の抑制を評価することが挙げられる。Wicks et al.,Chapter 15:Transport of nanoparticles across the blood-brain barrier.NANONEUROSURGERY AND NANONEUROSCIENCE(Kateb and Heiss,eds.)New York:Taylor and Francis,2013を参照されたい。
【0041】
いくつかの実施形態において、このモデルは、対象由来のモデルから得た少なくとも数種類の細胞を用いた、薬剤の血液脳関門通過の薬力学的試験または薬物動態試験などに関する、対象に対して個別の試験(例えば、有効性、毒性、または他の代謝活性もしくは生理活性)に使用することができる。例えば、対象の線維芽細胞は、人工多能性幹細胞(例えば、人工多能性神経幹細胞)に誘導されてもよく、その後この細胞は、例えば、神経細胞、オリゴデンドロサイト、内皮細胞、アストロサイト、ミクログリアなど、このモデルのための1種または複数の細胞種に誘導される。例えば、Yamanaka他による米国特許第9,506,039号、米国特許出願公開第2010/0021437号を参照されたい。
【0042】
いくつかの実施形態において、インビトロ血液脳関門モデルは、血液脳関門の機能に影響を及ぼすと考えられる公知の遺伝子変異、例えば、De Vivo疾患の原因として知られているグルコーストランスポータータイプ1(GLUT1)の欠損を有する細胞、および/またはアルツハイマー病に関与する、Aβ1-42のような特定のタンパク質を発現もしくは過剰発現する細胞を含む。
【0043】
以下の非限定的な実施例において、本発明をより詳細に説明する。
【実施例
【0044】
[実施例1]
我々は、血液脳関門の再現可能な血管モデルをバイオプリントするように努めた。これの構成要素は、このモデルの血管管腔部分を取り囲んでいる層のための電気的に活性な神経細胞をプリントするためのものである。
【0045】
概念実証として、皮質組織を、ReNcellVMヒト神経前駆細胞株を使用してプリントした。この細胞は、ゼラチン35mg/mL、フィブリノーゲン10mg/mL、グリセロール10mg/mL、およびヒアルロン酸10mg/mLを含有するヒドロゲルでプリントされた。プリンティング後、直ちにトロンビン2mg/mLを用いて、ヒドロゲルを架橋させた。プリントされた構造物は、1cm×1cm×300μmであった。生存可能なReNcellを問題なくプリントした後、プリントされた構造物を、増殖因子(EGFおよびFGF)を含まないDMEM/F12で培養し、この細胞を、成熟した神経細胞の集団に分化させた。βIIIチューブリンの発現によって確認された分化の成功後、続いて、上記と同じヒドロゲルで、人工多能性幹細胞-ヒト由来神経幹細胞をプリントし、細胞の分化は、さらにβIIIチューブリンの発現によって確認された。
【0046】
プリントされた構造物を7週間培養し続け、細胞生存率は、5週間にわたり少なくとも80%であった。ReNcellおよびiPSc-ヒト由来神経幹細胞の両方において細胞の分化は、30日目までに識別可能となり、分化した神経細胞に特異的なマーカーであるβ3チューブリンの発現によって確認された。
【0047】
プリントされた構造物中の神経細胞の電気活性およびシナプス形成を分析してもよい。神経幹細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、アストロサイト、およびミクログリアを含有するバイオプリントされた構造物を形成してもよい。
【0048】
[実施例2]
スフェロイド培養系を用いたヒト皮質モデル。血液脳関門(BBB)の破壊による脳血管透過性の亢進は、脳組織における脳の恒常性、神経細胞の機能、および栄養の分配が不安定化することがわかっている。BBBは、主に内皮細胞間に形成されるタイトジャンクション(TJ)および接着結合(AJ)の動的構造を介してこれらの機能を調節する。BBBの不可欠な選択性の特性は、多くの神経学的疾病および神経学的障害に対する治療の選択肢を制限する。
【0049】
現時点で、BBBの動的性質を制御する機構についてはほとんどわかっていない。これまでのところ、ほとんどのインビトロモデルは、内皮細胞、周皮細胞、およびアストロサイト(1-4)を用いるのみである。例えば、Spampinato et al.Astrocytes contribute to AB-induced blood brain barrier damage through activation of endothelial MMP9.J Neurochem.2017、Parmies et al.A human brain microphysiological system derived from induced pluripotent stem cells to study neurological diseases.ALTEX.2016 Nov 24、Brown et al.Recreating blood-brain barrier physiology and structure on chip:a novel neurovascular microfluidic bioreactor.Biomicrofluidics.2015;9:054124を参照されたい。これらのモデルは、神経細胞、ミクログリア、およびオリゴデンドロサイトのような脳皮質中の他の細胞種の役割を度外視している。したがって、血液脳関門の3Dスフェロイドモデルは、正常なヒト脳組織を再現するため、すべての主要な細胞種を用いて形成された。
【0050】
<細胞の入手および増殖>
初代ヒト内皮細胞、周皮細胞、アストロサイト、およびミクログリアを用いた。iPSC由来神経前駆幹細胞およびオリゴデンドロサイト前駆細胞を用いた。次にスフェロイドの形成に使用する前に、この細胞を増殖させた。使用された細胞は、4継代~13継代の間であった。
【0051】
<スフェロイドの製造>
内皮細胞、周皮細胞、およびアストロサイトのスフェロイドを、それぞれ1:1:3の割合で、懸滴法を用いて培養した。これらは、合計1500個の細胞を使用して作成され、直径を平均約200ミクロンに維持した。比較のため、アストロサイトのみのスフェロイドを、同じプロトコールを用いて形成した。スフェロイド中の特定の細胞の位置を、ThermoFisher Scientific社の細胞追跡色素であらかじめ染色することによって確定した。懸滴プロトコール後、30%の内皮細胞、15%の周皮細胞、15%のアストロサイト、15%のオリゴデンドロサイト、5%のミクログリア、および20%の神経細胞からなる、6つの細胞種のスフェロイドをさらに培養し、その後、40%のアストロサイト培地(Sciencell)、30%のEGM2(Lonza)、および30%の神経維持培地XF(Axol Bioscience)で増殖させた。48時間毎に新たな培地で交換した静置培養で、スフェロイドを維持した。
【0052】
<スフェロイドの特徴付け>
スフェロイドの生存率を、2μMのCalcein AMと4μMのEthD-1の溶液を用いて評価した。この溶液中のスフェロイドを、室温で15分間インキュベートし、その後、PBSで洗浄後にFLUOVIEW FV10i(Olympus)を使用して画像化した。生存可能なスフェロイドを、35日間まで静置培養で維持した。
【0053】
スフェロイドを4%のホルムアルデヒドで固定し、10日目および21日目に、TJ、AJ、および細胞特異的マーカーに対する免疫組織化学検査(immunohistochemistry)を実施した。調整を加え、十分に確立された全組織の免疫蛍光染色プロトコール後、細胞特異的マーカーを標的とする、TJ、AJ、および細胞特異的マーカーに対する免疫組織化学検査を実施した。我々は、アストロサイト(5)についてはGFAPマーカー、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMVEC)についてはCD31、周皮細胞(6)については血小板由来増殖因子受容体-β(PDGFR)、ミクログリア(7)についてはイオン化カルシウム結合アダプター分子1(Iba1)、オリゴデンドロサイト(8)についてはO4、および神経細胞(10)については神経細胞特異的エノラーゼ(9)を標的とするであろう。
【0054】
<スフェロイドの結果および意義>
データから、6つの細胞種のスフェロイドにおける極めて高い細胞生存率およびTJおよびAJの発現が実証された。このスフェロイドモデルは、創薬ならびに神経毒性および細胞毒性の試験における用途を有する。このモデルは、人工多能性幹細胞(iPSC)から得られた代表的な細胞種を使用することで、個別の患者特異的な血液脳関門疾患モデルのための手段として役立つ可能性もある。
【0055】
[実施例3]
機能的な皮質組織のバイオプリンティング。実現性を確立するため、バイオプリントされる皮質組織を、この部分の神経細胞をプリントするのみに簡潔化した。神経細胞を、上記で概要を述べたように調製したフィブリンヒドロゲルに懸濁し、ITOP3プリンティングシステムを使用してプリントした。Nature Biotech.2016 March;Kang et al。フィブリノーゲンを架橋するためのトロンビンでの短いインキュベーション期間後、GDNFおよびcAMPを添加したReNcell VM維持培地で、構造物を培養した。7日目、14日目、および21日目に、生存率アッセイを実施した。
【0056】
プリントされた構造物を、70日間まで分化培地で培養した。βIIIチューブリン-神経細胞分化マーカーの発現を評価するため、プリントされた構造物を、4%のパラホルムアルデヒドで4℃にて30分間固定し、その後、DAKOタンパク質ブロックで一晩インキュベートした。タンパク質ブロックの除去後、一次抗体(抗βIIIチューブリン抗体)を、1:500の割合で加え、4℃にて一晩インキュベートした。洗浄後、二次抗体を、1:1000の濃度で加え、4℃にて一晩インキュベートした。最終的に、構造物を、1:1000の濃度のDAPIに対して30分間染色した後、Olympus Fluoview FV10iを用いて画像化し、分析した。
【0057】
脳実質を再現するすべての細胞種を用いた微小血管のバイオプリンティング。使用された細胞は、ヒト脳微小血管内皮細胞(hBMEC)、初代細胞;ヒト脳微小血管周皮細胞(hP)、初代細胞;ヒトアストロサイト(hA)、初代細胞;神経細胞(iPSC由来神経幹細胞-臍帯血-CD34+細胞)(hiPSC-NSC);オリゴデンドロサイト-iPSC由来オリゴデンドロサイト前駆細胞)(hiPSC-OPC);ヒトミクログリア(hM)、初代細胞であった。3Dバイオプリンティングの準備として、各細胞種を培養で増殖させた。3つの細胞種であるhBMEC、hBMP、およびhAを含有する、三次元バイオプリントされる微小管構造物を設計してプリントし、先の3つの細胞種にヒト脳平滑筋細胞(hBSMC)を追加して含有する微小動脈NVUも形成した。ヒト大脳皮質の6つすべての細胞種であるhBMEC、hBMP、hA、hiPSC-NSC、hiPSC-OPC、およびhMを含有するヒト神経血管単位の設計もプリントすることができる。
【0058】
図1は、血液脳関門の血管モデルの設計を示す。中央の円は、アストロサイトおよび周皮細胞に取り囲まれた、内皮細胞を含む溶解性の管腔を表す。
【0059】
図2は、バイオプリントされた微小血管の画像を示す。微小血管は、平滑筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、およびアストロサイトをフィブリン中に含めたものによりプリントされた。画像化によって、犠牲的な管腔の溶解後4日目に明らかにされた予測される管腔を伴った、パラフィン包埋した構造物のH&E染色が描出される。GFAP染色によって、予測されたアストロサイトの位置が確認された。
【0060】
モデルに用いられる4つの細胞種のため、分離した初代ヒト細胞を入手した。使用された細胞は、4継代~13継代の間であった。スフェロイドおよびプリントされた構造物を、1日置きに交換する増殖培地を用いた静置培養で維持した。スフェロイドおよびプリントされた構造物を4%のホルムアルデヒドで固定し、TJ、AJ、および細胞特異的マーカーに対する免疫組織化学検査を実施した。スフェロイドおよびプリントされた構造物の生存率を、2μMのCalcein AMと4μMのEthD-1の溶液を用いて評価した。
【0061】
スフェロイド中のクローディン5、PDGFR、O4、βIIIチューブリン、α-SMA、CD31、VE-カドヘリン、Glut1、シナプトフィジン、PSD95、GFAP、ZO-1、およびMDR-1の発現を確認した。クローディン5およびZO-1は、タイトジャンクションのマーカーである。MDR-1は、脳実質から薬物のような外来物質を能動的に輸送する輸送タンパク質である。アストロサイトのマーカーであるGFAPも検出した。スフェロイド中のこれらのマーカーを同定するため、4%のパラホルムアルデヒドで4℃にて30分間固定した。抗原回復のため、スフェロイドを、0.5%のトリプシンに4℃にて20分間懸濁した。その後、スフェロイドを、DAKOタンパク質ブロックで一晩インキュベートした。その後、それぞれの一次抗体を1:500の割合で加え、さらに4℃にて一晩放置した。スフェロイドの洗浄後、二次抗体を1:1000の濃度で加え、4℃にて一晩インキュベートした。スフェロイドを、1:1000の濃度のDAPIに対して30分間染色した後、Olympus Fluoview FV10iを用いて画像化した。
【0062】
生存可能なスフェロイドを35日間まで維持した。スフェロイドは、BBBタンパク質のマーカーの発現を示した。3つすべての細胞種を用いたスフェロイドは、不可欠なBBBタンパク質の発現において、単細胞スフェロイドと比較して顕著な違いを示した。
【0063】
プリントされた神経細胞は、8週間を超えて問題なく培養された。プリントされた神経細胞は分化し、図3に示すとおり、適切な細胞形態を示した。
【0064】
[実施例4]
ヒト神経血管単位の三次元バイオプリンティング。BBBは、主に内皮細胞の間に形成されるタイトジャンクション(TJ)および接着結合(AJ)の動的構造を介してそのバリア機能を調節する。毛細血管のBBBは、ヒト脳微小血管内皮細胞(hBMEC)、ヒト脳微小血管周皮細胞(hBMP)、ヒトアストロサイト(hA)、および神経細胞からなる。微小血管の細動脈の部位には、ヒト脳平滑筋細胞(hBSMC)も存在する。これらの細胞種の構成は、神経血管単位(NVU)と呼ばれる。三次元バイオプリンティングを使用して、我々は、機能的な血液脳関門を伴うヒトNVUの標準化された実験室モデルの開発に努める。このモデルは、創薬および神経毒性試験における用途を有するであろう。さらに、人工多能性幹細胞(iPSC)から得られた代表的な細胞種の使用によって、個別の患者特異的な血液脳関門疾患モデルは、実現可能と思われる。
【0065】
4種の三次元バイオプリントされたNVU構造物を設計した:1)成熟した神経細胞、および任意選択的にオリゴデンドロサイト、アストロサイト、および/またはミクログリアを有する皮質組織、2)3つの細胞種(hBMEC)、hBMP、およびhAを含有する毛細血管NVU、3)先の3つの細胞種にhBSMCを追加して含有する微小動脈NVU、ならびに4)神経細胞、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ミクログリア、周皮細胞、および脳微小血管内皮細胞を含有する皮質NVU。初代ヒト細胞または細胞から得られた人工多能性幹細胞を、モデルに使用した。3Dバイオプリンティングの準備として、各細胞種を2D培養で増殖した。使用された細胞は、継代4~継代11の間であった。
【0066】
皮質組織単位に関しては、2千万個のRenCell VM細胞(ヒト神経前駆細胞)をフィブリンヒドロゲルに再構成し、続いて、シリコーン型中にバイオプリントした。毛細血管NVU構造物(図4A)に関しては、マイクロ押出式(microextrusion)バイオプリンティングの準備として、2千万個のhAをフィブリンゲルに組み込んだ。管腔形成のための犠牲的な層として、hBMPおよびhBMECをゼラチンに組み込んだ。微小動脈NVU構造物(図4B)に関しては、2千万個のhAをフィブリンゲルに組み込むと共に、hBMPおよびhBSMCを個別のゲルに一緒に組み込んだ。hBMECをゼラチン犠牲的な層に組み込んだ。構造物を、1日置きに交換する内皮増殖培地(EGM2、Lonza)を用いた静置培養で維持した。プリントされた構造物を、様々な時点で固定し、βIIIチューブリン、CD31、およびGFAPに対して染色した。4日目および7日目、構造物をH&E染色で処理した。アストロサイトのマーカーであるGFAPおよび内皮細胞のマーカーであるCD31に対する免疫組織化学検査を実施した。プリントされた構造物の生存率を、10日目に、2μMのCalcein AMと4μMのEthD-1の溶液を用いて評価した。
【0067】
構造物をH&E染色で処理したところ、4日目には、構造物が静置培養で明瞭な管腔を維持しており、7日目には、管腔中の細胞増殖が明らかとなった(図6)。神経細胞分化マーカーであるβIIIチューブリン、アストロサイトのマーカーであるGFAP、および内皮細胞のマーカーであるCD31に対して免疫蛍光法を実施したところ、4日目には、明瞭な細胞層が明らかとなった。10日目の生存率評価によって、90%を超える細胞生存率が明らかとなった。
【0068】
バイオプリントされたNVU構造物によって、4日目に存在する明瞭な管腔を有する細胞の層形成が明らかとなっている(図7)。内皮細胞およびアストロサイトの免疫組織化学検査によって、4日目には、これらの細胞種が見込まれた位置にあることが示されている。生存率アッセイによって、バイオプリントされて維持された構造物内の細胞の4日目における高い細胞生存率が示されている(図6)。
【0069】
管腔の開通性および内皮細胞層のタイトジャンクション形成の発生を評価するため、バイオプリントされた構造物を、動的マイクロ流体培養条件に置く。
【0070】
バイオプリントされたNVU血液脳関門は、さらに特徴付けられ、ヒト皮質の他の代表的な細胞種、例えば神経細胞、オリゴデンドロサイト、およびミクログリアなどをさらに包含させることが実証される。
【0071】
疾患特異的なNVU構造物は、公知の遺伝子変異を有するiPSC細胞種を組み込んで作成される。Kimbrough,I.et al.,Vascular amyloidosis impairs the gliovascular unit in a mouse model of Alzheimer’s disease.BRAIN 2015:138:3716-3733を参照されたい。
【0072】
[文献]
【表1A】
【表1B】
【0073】
以上は本発明の例示であり、本発明を限定するものとはみなされないものとする。本発明は以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の均等物も本明細書に含まれる。
図1
図2
図3
図4A-4C】
図5
図6
図7