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特許7075135増殖因子を標的とする二機能性分子を使用したがんの治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】増殖因子を標的とする二機能性分子を使用したがんの治療方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220518BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20220518BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20220518BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220518BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220518BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220518BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220518BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220518BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/22
C07K14/475
A61K39/395 T
A61K47/68
A61K49/00
A61K31/7068
A61P35/00
A61P11/00
A61P17/02
A61P9/12
A61P3/10
A61P27/02
C12N15/13
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019530363
(86)(22)【出願日】2017-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2017046934
(87)【国際公開番号】W WO2018035119
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】62/375,894
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519052787
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オヴ メリーランド、バルティモア
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】マオ、リ
(72)【発明者】
【氏名】レン、ヘニング
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】mAbs,2015年,vol.7, issue 5,p.931-945
【文献】Clin Cancer Res,2013年,vol.19,p.3567-3576
【文献】Molecular Cancer Therapeutics,2012年,vol.11, no.7,p.1477-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12P 21/00-21/08
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)肝がん由来増殖因子(HDGF)に結合する抗原結合部位、及び(2)各々が血管内皮増殖因子(VEGF)-A、VEGF-C、VEGF-Eから選択される増殖因子に独立して特異的に結合する少なくとも2つの受容体ドメインを含む、HDGF特異的な二機能性抗体。
【請求項2】
前記抗原結合部位がマウス、ヒト、ウサギ又はラットのCDRから選択されるCDRを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記CDRがマウスCDRである、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体がヒト化されているか、又はキメラである、請求項2に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体がレポーター分子又はエフェクター分子に連結されている、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記レポーター分子が、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、燐光分子、化学発光分子、発色団、発光分子、光親和性分子、リガンド、着色粒子及びビオチンからなる群から選択される、請求項に記載の抗体。
【請求項7】
前記エフェクター分子が、毒素、アポトーシス分子、抗腫瘍剤、治療用酵素及びサイトカインからなる群から選択される、請求項に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗腫瘍剤が、ゲムシタビン、ペメトレキセド、シスプラチン、ドセタキセル、ビノレルビン、ドキソルビシン、6-フルオロウラシル、エルロチニブ、ゲフィチニブ及びクリゾチニブからなる群から選択される、請求項に記載の抗体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体及び医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
がん化学療法薬を更に含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記がん化学療法薬がゲムシタビンである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
非経口、静脈内、局所 (local)又は局所(topical)投与用に製剤化されている、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
1~3週間毎に、5~25mg/kgの量の抗体を投与するために製剤化されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
被検体における過剰増殖性細胞の増殖を低減するための組成物であって、HDGFとVEGFの発現を下方制御し、過剰増殖性細胞の増殖を低減するのに効果的である量の、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体を含む、組成物。
【請求項15】
過剰増殖性細胞が線維芽細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞又はがん細胞である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記がん細胞が、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
がん化学療法薬を更に含む、請求項1416のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記がん化学療法薬がゲムシタビンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
HDGFとVEGFの発現の同時低減を、それを必要とする患者においてするための組成物であって、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体を含む、組成物。
【請求項20】
前記患者が、間質性肺疾患、ケロイド、肺線維症、特発性肺線維症、肺高血圧症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択される過剰増殖状態に罹患している、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
がん化学療法薬を更に含む、請求項19又は20に記載の組成物。
【請求項22】
前記がん化学療法薬がゲムシタビンである、請求項21に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)(35 U.S.C§119(e))の定めにより、2016年8月16日
に出願された米国仮特許出願第62/375,894号(その内容全体が、参照により完全に本明細書に記載されているかのように本明細書に取り込まれる)についての利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
肺がん及び肺線維症 (PF)を含む肺疾患は、世界的に死亡の原因の上位となっている。PFは、肺の瘢痕化を起こし得る間質性肺疾患と呼ばれる、関連の疾患のファミリーの一つ
である。肺組織が瘢痕化するので、それは人の呼吸能力を妨げる。細胞(例、線維芽細胞
又はがん細胞)の過剰増殖は、例えばケロイド、特発性肺線維症及び肺がん等の様々なタ
イプの医学的な状態(即ち、過剰増殖状態)を引き起こし得る。ケロイドは、創傷の治癒過程において、線維芽細胞の過剰増殖の結果として、主にコラーゲンからなる異常に形成された瘢痕の一種である。ケロイド瘢痕は良性で伝染性がない一方で、それは重度のかゆみ、痛み及び肌の質感の変化を伴う場合がある。一方で、間質性肺疾患、特に、特発性肺線維症は、生命を脅かすものであり、現在治療法はない。
【0003】
肝がん由来増殖因子(HDGF)は、ヒト肝がん由来細胞株により馴化した培地から特定されたヘパリン結合増殖因子である。それは、様々な種類の細胞において、分裂促進活性を生成する。通常、HDGFは、胚発生中の平滑筋、腸及び内皮において高度に発現するが、生後は発現しない。それはまた血管新生にも関係している。高レベルのHDGFが、様々なヒトのがんにおいて観察されている。具体的には、HDGFは、肺がんにおいて過剰発現しており、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞のための新規な分裂促進増殖因子である。HDGFの高い発現はまた、ケロイド瘢痕組織においても見出し得るが、通常の瘢痕組織においては見出し得ない。がんの進行におけるHDGFの分子機構は殆ど理解されていないが、我々は、HDGFが下方制御されている肺がん細胞は、in vivoで有意により小さい腫瘍を形成す
ることを実証した(Zhang J.ら、「Down-regulation of hepatoma-derived growth factor inhibits anchorage-independent growth and invasion of non-small cell lung cancer cells」Cancer Res 2006;66:18-23)。肺の疾患は、効果的に治療することが困難なままである。それゆえ、細胞(即ち、線維芽細胞、がん細胞)の異常増殖に起因する疾患を予防及び治療する新規な戦略のニーズがある。
【発明の概要】
【0004】
発明の要旨
損傷し、瘢痕化し、又はがん性である組織において、HDGF及び他の過剰生産された血管新生因子 (即ち、VEGF及びTGF-β)を同時に標的とする、単一な二機能性キメラ抗体を用
いて、過剰増殖状態 (例、ケロイド、間質性肺疾患、肺がん)を治療できることを発見し
た。単一な分子を使用して、これらの増殖因子を同時に標的とすることによって、より容易な投与及び効能の改善が可能になる。
【0005】
本発明の実施形態としては、HDGFに特異的な少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、並びに血管内皮増殖因子(VEGF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)か
ら選択される増殖因子にも特異的に結合する少なくとも1つの受容体ドメインを含む、肝
がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体(例、H3K、hH3K、H3T及びhH3T)が挙げられる。CDRは、マウス、ヒト、ウサギ、ラット又は他の哺乳動物のCDRから選択し得、好ましくは、マウスCDRである。抗体は、ヒト化され得るか、又はキメラであり得、血管内
皮増殖因子(VEGF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)(即ち、TGFβサブタイプ1、サブタイプ2及びサブタイプ3から選択されるTGFβ)から選択される増殖因子に、その各々が独立して結合する、2つの受容体ドメインを含む。本発明のある態様にお
いては、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体は、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、燐光分子、化学発光分子、発色団、発光分子、光親和性分子、リガンド、着色粒子又はビオチンからなる群から選択されるレポーター分子に連結される。別の方法では、抗体は、毒素、及びアポトーシス誘導分子、抗腫瘍剤、治療用酵素又はサイトカインからなる群から選択されるエフェクター分子に連結される。幾つかの態様においては、抗腫瘍剤は、ゲムシタビン(gemcitabine)、ペメトレキセド(pemetrexed)、シスプ
ラチン(cisplatin)、ドセタキセル(docetaxel)、ビノレルビン(vinorelbine)、ド
キソルビシン(doxorubicin)、6-フルオロウラシル(6-fluorouracil)、エルロチニブ
(erlotinib)、ゲフィチニブ(gefitinib)及びクリゾチニブ(crizotinib)からなる群から選択される。
【0006】
幾つかの実施形態においては、医薬的に許容される担体と共に、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を含む医薬組成物、並びにそれらを含むキットが提供される。医薬組成物は、非経口、静脈内又は局所(topical)投与用に製剤化し得る。好ましくは
、医薬組成物は、1~3週間毎に5~25 mg/kgの量で投与するために製剤化される。
【0007】
更なる実施形態としては、HDGFとVEGFの発現又はHDGFとTGFβの発現を下方制御する量
の肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を、被検体に投与することにより、被検体における過剰増殖性細胞の増殖を低減する方法が挙げられ、過剰増殖性細胞の異常増殖を低減するのに効果的である。幾つかの実施形態においては、過剰増殖性細胞は、線維芽細胞又はがん細胞であり得る。がん細胞は、肺、膵臓、結腸、卵巣、肝臓、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択され得る。
【0008】
他の実施形態においては、HDGF特異的な二機能性抗体、又はHDGF特異的な二機能性抗体の組合せ (例、hH3K及びhH3T)を投与することにより、HDGFとVEGFの発現、又はHDGFとTGFβの発現の同時低減を、それを必要とする被検体においてする方法が提供される。二機能性抗体はまた、必要とされる部位に対する、抗体の徐放を可能にし得る、デバイスに取り込み得る。幾つかの実施形態においては、デバイスは、足場、孔質材料、マイクロカプセル化材料又は注入デバイス (例、冠状動脈ステント又は創傷被覆材)であり得る。必要と
する被検体は、間質性肺疾患、ケロイド、肺線維症、特発性肺線維症、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択される過剰増殖状態に罹患している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のある実施形態を更に示すために包含される。本発明は、本明細書において示された特定の実施形態の詳細な説明と組合せた、1
以上のこれらの図面を参照することによって、より良く理解され得る。
図1図1は、H3K又はH3Tとして言及される特定の実施形態の二機能性キメラ抗体ベースの標的化タンパク質 (hc-H3-V-T-トラップ)を示す模式図である。
図2図2A及び図2Bは、hc-抗HDGF H3及びhc-H3-V/T-トラップについての免疫沈降のデータを示すウェスタンブロットの画像である。
図3図3は、様々な治療を受けたPDXモデル2131-8の増殖曲線を示す図であり、抗HDGF抗体が腫瘍の薬剤耐性を阻害することを示す。分化に乏しい肺腺がんである、ヒト患者由来の腫瘍ゼノグラフ(Xenograph)(PDX)モデル2131-8を、無胸腺ヌードマウスの脇腹に移植した。樹立した腫瘍 (150~400 mm3、1群当たり10腫瘍)を、化学療法、又は化学療法と抗体の組合せレジメンで治療した。治療群A (一番上の曲線):PBS;治療群B (上から三番目の曲線):ゲムシタビン、1.2mg/kg;治療群C (一番下の曲線):ゲムシタビン、1.2 mg/kgと12.5mg/kgの抗HDGF H3;治療群D (上から二番目の曲線):ゲムシタビン、1.2 mg/kgと12.5 mg/kgの抗HDGF H3/VEGFトラッパー(H3K)。腫瘍が退縮するか、又は過剰な腫瘍による負荷のために屠殺するまで、3日毎に薬剤を腹腔内に投与した。
図4図4A及び図4Bは、二機能性抗体によって誘導された腫瘍(体積)の寛解の延長、及び治療群C (図4A)及び治療群D (図4B)において治療した10人の個体における各個体の腫瘍体積のプロットを示す、2つの図である。ジェムザール及び抗体を投与した動物において、完全な腫瘍寛解の後、治療を終了した;各曲線は、1匹の動物を表す。治療群C:ジェムザール及び抗HDFG H3で治療した;治療群D:ジェムザール及び抗HDGF/VEGFトラッパー(H3K)で治療した。
図5図5は、ブレオマイシン(bleomycin)(動物1匹当たり36 ug)を用いて、麻酔下で、C57/B6マウス (5~6週齢、1群当たり7匹)の気管内に投与して治療した後の結果を示す図である。抗体を、24時間後に、以下の処理群:(1) 対照 (PBS、菱形);(2) マウス抗HDGF H3及び抗HDGF C1を各125 ug (H3+C1、四角);並びに(3) 抗HDGF H3 250 ug及びアバスチン(Avastin)100 μg (H3+A、三角)に腹腔内投与した。その後、3日毎に、合計6用量について治療を行い、毎日、動物をモニタリングした。
図6図6は、以下の処理群:(1) 対照 (PBS、菱形);(2) 抗HDGF H3及び抗HDGF C1を各125 ug (H3+C1、四角);(3) キメラ抗HDGF H3/VEGFトラッパー及び抗HDGF C1を各125 ug (H3K+C1、三角);並びに(4) キメラ抗HDGF H3/TGFBトラッパー及び抗HDGF C1を各125 ug (h3T+C1、x)に従って、抗体を腹腔内投与してプライミングしたマウス (5~6週齢、1群当たり7匹)の結果を示す図である。ブレオマイシン (動物1匹当たり36 ug)を、24時間後、麻酔下で気管内に投与した。再度、3日目に抗体を投与し(ブレオマイシン注入の24時間後)、その後、3日毎に、合計7用量 (プライミングを含む)について投与した。毎日、動物をモニタリングした。
図7図7A及び図7Bは、ブレオマイシン治療後に、高レベルに維持されたHDGF発現の結果の画像である。図7A:ウェスタンブロットにおける、A549肺がん細胞タンパク質抽出物中における、様々な抗HDGF抗体による、ネイティブ及び転写後修飾されたHDGFの再構成。図7B:ブレオマイシン治療した肺由来のタンパク質抽出物の抗HDGF抗体染色。C57マウスの肺に対して、ブレオマイシン又はPBSを気管内に投与した。治療の24又は48時間後に、肺組織を切除し、プロテイナーゼ阻害剤及び1% Triton X-100を含む溶解バッファー中でホモジェナイズした。上清を、SDSゲルによって分離し、ニトロセルロース膜上にブロットし、抗HDGF抗体を用いて染色した。1と記されたレーンはPBS処理した肺を示す;2と記されたレーンはブレオマイシン治療の24時間後を示す;3と記されたレーンはブレオマイシン治療の48時間後を示す。
図8図8A図8B図8C及び図8Dは、抗HDGF抗体による、ブレオマイシンによって損傷した肺組織中の線維症阻害の画像である。マウスにブレオマイシンを気管内投与した;抗HDGF H3及びC1を、24時間後に投与した。次いで、1週間後にマウスを屠殺した。肺を切除し、4%ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、次いで4 umの切片を切り出した。ヘマトキシリン及びエオシンを用いて組織切片を染色した。図8A:正常な肺;図8B:ブレオマイシンのみ;図8C:ブレオマイシン及びPBSによる偽処理;並びに図8D:ブレオマイシン及び抗HDGF治療。
図9図9は、哺乳動物細胞における組換え抗体の発現用のベクターの模式図である(pLVBHNの発現カセット)。
図10図10A及び図10Bは、ヒト化H3Kによる、HDGFの免疫沈降の図である。HDGFを結合するために肺がん細胞溶解物と共に、ヒト化H3をインキュベートした。プロテインGビーズを用いて免疫複合体を捕捉し、ウェスタンブロッティングによって分析した。HHと記されたレーンは、ヒト化重鎖-Vトラップ及びヒト化軽鎖を使用して生成した;HMと記されたレーンは、ヒト化重鎖-Vトラップ及びキメラ軽鎖を使用して生成した。図10Aは、マウス抗HDGF H3抗体を用いた染色を示す。図10Bは、ヤギ抗ヒトIgG HRPコンジュゲートを用いて再染色したブロットを示す。
図11図11A図11B及び図11Cは、ヒトNSCLC PDX腫瘍MDA274を有するヌードマウスの、表示された抗がん治療に対する応答を示す、一連の3つのグラフである。図11Aは、5つの治療レジメンのまとめを示す。図11B及び図11Cは、個々のマウスの腫瘍体積を示す。実施例7を参照。
図12図12A図12B及び図12Cは、処理ナイーブ腫瘍 (図12A)、ジェムザール及び抗VEGF処理を用いて処理した腫瘍 (図12B)、並びにジェムザール及びH3Kを用いて処理した腫瘍 (図12C)のMDA 2131抗SOX2免疫組織化学的染色を示す一連の3つの写真である。
図13図13A図13B及び図13Cは、処理ナイーブ腫瘍 (図13A)、ジェムザール及び抗VEGF処理を用いて処理した腫瘍 (図13B)、並びにジェムザール及びH3Kを用いて処理した腫瘍 (図13C)のMDA 2131-8抗CD34免疫組織化学的染色を示す一連の3つの写真である。
図14図14A図14B及び図14Cは、処理ナイーブ腫瘍 (図14A)、ジェムザール及び抗VEGF処理を用いて処理した腫瘍 (図14B)、並びにジェムザール及びH3Kを用いて処理した腫瘍 (図14C)のMDA 2131-8抗CD31免疫組織化学的染色を示す一連の3つの写真である。
図15-1】図15A及び図15Bは、例示的なVEGFトラッパー分子を示す略図である。
図15-2】図15A及び図15Bは、例示的なVEGFトラッパー分子を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施形態の詳細な説明
1.序論
本明細書に記載された通り、過剰増殖状態を治療するための抗体ベースの治療戦略を生み出すために努力し、表1に示す一団の抗HDGF抗体を生成した(C1、C4、H3、cH3、hH3、H3K、hH3K、H3T、hH3T及びL5-9)。増殖因子を標的とする新規の二機能性分子(例、H3K、hH3K、H3T及びhH3T)を用いて、ケロイド瘢痕又は肺線維症を引き起こす線維芽細胞の異
常増殖を治療すること、及び肺がんを治療することにより、HDGFだけでなく、過剰生産された2つの血管新生因子の一方又は両方 (即ち、VEGF及びTGFβ)も、より効果的に同時に
標的とすることが可能となる。
【0011】
【表1】
【0012】
それゆえ、実施形態は、少なくとも1つのHDGFに特異的な相補性決定領域(CDR)、及び血管内皮増殖因子(VEGF)又はトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)から選択
される増殖因子に特異的に結合する少なくとも1つの受容体ドメインを含む、肝がん由来
増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体に関する。幾つかの実施形態においては、医薬的に許容される担体と共に、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を含む、医薬組成物が提供される。更なる実施形態としては、HDGFとVEGFの発現又はHDGFとTGFβの
発現を下方制御する量で、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を被検体に投与することにより、被検体における過剰増殖性細胞の増殖を低減する方法であって、過剰増殖性細胞の異常増殖を低減するのに効果的である、方法が挙げられる。抗体及び二機
能性抗体は、これらの因子を産生する細胞中で、これらの因子の発現を低減せず、これらの因子の受容体を有する細胞(例、線維芽細胞、血管内皮細胞又はがん細胞)に対する、これらの因子の結合をブロックしたに過ぎなかった。それゆえ、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を投与することにより、HDGFとVEGFの発現、又はHDGFとTGFβ
の発現 (又はその両方)の同時低減を、それを必要とする被検体においてする方法が提供
される。必要とする被検体は、間質性肺疾患、ケロイド、肺線維症、特発性肺線維症、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症及び扁平上皮がんからなる群から選択される過剰増殖状態に罹患している。
【0013】
2.定義
特段の定めがない限り、本明細書において用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当該技術分野において、その出願当時に、一般的に理解されていたのと同じ意味を有することが意図される。本明細書に記載されたのと類似又は同等の様々な方法及び材料を、本発明の実施又は試験において使用し得るが、好適な方法及び材料を以下に記載する。しかしながら、当業者は、使用及び記載された方法及び材料が例であり、本発明の用途に好適である唯一の物でない場合があることを理解すべきである。更に、特に明示的に逆の定めをしない限り、測定値にはばらつきが内在しており、本明細書で与えられる任意の温度、重量、体積、時間間隔、pH、塩分、モル濃度若しくは重量モル濃度、範囲、濃度及び任意の他の測定値、数量又は多くの表現は、凡そであることが意図され、正確又はクリティカルな数値でないことも理解されるべきである。そのため、本発明に適切な場合、当業者によって理解されるように、例えば、以下:そのような特徴で(so dimensioned)、約(about)、約(approximately)、実質的に、本質的に、から本質的になる、含む及び有効量等の特許出願において通常用いられる、凡その若しくは相対的な用語及び、程度の用語を使用して、本発明の様々な態様を記載することが適切である。
【0014】
一般的に、本明細書に記載された細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質、並びに核酸化学及びハイブリダイゼーションとの関連で使用される命名法及び技術は、当該技術分野において周知のものであり、普通に使用される。特に別段の指示がない限り、本発明の方法及び技術は、一般的に、当該技術分野において周知である従来の方法によって、並びに本明細書全体で引用及び検討される様々な一般的及びより具体的な参考文献において記載されている通りに、実施される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y. (1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates (1992、and Supplements to 2002);Harlow and
Lan、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold
Spring Harbor、N.Y. (1990);Principles of Neural Science(第4版)Eric R. Kandel、James H. Schwartz、Thomas M. Jessell editors. McGraw-Hill/Appleton & Lange:New York、N. Y. (2000)を参照。別段の定めがない限り、本明細書において用いられる全
ての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0015】
本明細書において用いられる場合、用語「抗体」は、典型的な生理学的条件下で、抗原に特異的に結合する能力を有する、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子のフラグメント、又はそれらのいずれかの誘導体若しくは変異体を意味する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、用語「キメラ抗体 (cAb)」は、可変領域がある種に由来し(例、齧歯類に由来し)、定常領域が例えばヒト等の異なる種に由来する、抗体を意味する。キメラ抗体は、抗体工学によって生成し得る。「抗体工学」は、抗体の様々な種類の改変について総称的に使用される用語であり、当業者に周知な工程である。特に、キメラ抗体は、当該技術分野において公知である標準的なDNA技術を使用して生成し得る
。従って、キメラは、遺伝学的又は酵素学的に改変された組換え抗体であり得る。キメラ抗体を生成することは、当業者の知識の範囲内であり、従って、本発明によるキメラ抗体の生成は、本明細書に記載された以外の方法によって行ってもよい。治療用途のキメラモノクローナル抗体は、抗体の免疫原性を低減するために開発されている。典型的には、それらは、目的の抗原に特異的である非ヒト (例、マウス)可変領域、及びヒトの定常の抗
体重鎖及び軽鎖ドメインを含み得る。キメラ抗体の文脈で用いられる場合、用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の両方のCDR及びフレーム
ワーク領域を含む領域を指す。キメラ抗体は、マウスのようなある種に由来する抗原結合領域 (重鎖及び軽鎖の可変ドメイン、VH及びVL)と、例えばウサギ等の別の種に由来する
定常ドメイン (エフェクター領域)とを融合することによって作製される。キメラ抗体は
、オリジナルの抗体の抗原特異性及びアフィニティーを保持している。
【0017】
本明細書において用いられる場合、用語「ヒト化抗体」は、ヒト抗体の定常ドメイン、並びにヒト可変ドメインに対して高いレベルの配列相同性を有するように改変した非ヒト及びヒト可変ドメインを含む、遺伝的に改変された非ヒト抗体を指す。これは、相同なヒトアクセプターのフレームワーク領域 (FR)と一体化して抗原結合部位を形成する、抗体
の相補性決定領域(CDR)を移植することによって獲得し得る。親抗体の結合アフィニテ
ィー及び特異性を完全に再構成するために、親抗体 (即ち、非ヒト抗体)に由来するフレ
ームワークの残基を、ヒトのフレームワーク領域に置換すること(復帰突然変異)を必要とする場合がある。構造ホモロジーモデリングは、抗体の結合特性に重要である、フレームワーク領域中のアミノ酸残基を特定するために役立つ場合がある。従って、ヒト化抗体は、任意選択で、非ヒトアミノ酸配列に対する1以上のアミノ酸の復帰突然変異を含む、非
ヒトCDR配列、主としてヒトのフレームワーク領域、及び完全なヒト定常領域を含み得る
。任意選択で、例えばアフィニティー及び生化学的特性等の好ましい性質を有するヒト化抗体を取得するために、必ずしも復帰突然変異ではない追加的なアミノ酸の修飾を適用しても良い。本発明の任意の態様又は実施形態によるヒト化又はキメラ抗体は、「ヒト化又はキメラH3抗体」(例、H3K又はH3T)と称する場合がある。非ヒト起源の抗体のアミノ酸配列は、ヒト起源の抗体とは異なっており、それゆえ、非ヒト抗体は、ヒト患者に投与した場合に、免疫原性である可能性がある。しかしながら、抗体が非ヒト起源であるにも関わらず、そのCDR断片は、その標的となる抗原に結合する抗体の能力に関与しており、ヒト
化は抗体の特異性及び結合アフィニティーを維持することを目的とする。従って、非ヒト治療抗体のヒト化は、ヒトにおけるその免疫原性を最小化するために行われる一方で、同時にそのようなヒト化抗体は、非ヒト起源の抗体の特異性及び結合アフィニティーを維持している。
【0018】
本明細書において用いられる場合、用語「免疫グロブリン重鎖」、「免疫グロブリンの重鎖」又は「重鎖」は、免疫グロブリンの一方の鎖を指すことが意図される。典型的には、重鎖は、重鎖可変領域 (本明細書においては、VHと省略する)、及び免疫グロブリンの
アイソタイプを決める重鎖定常領域 (本明細書においては、CHと省略する)からなる。典
型的には、重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。重鎖定常領域は、ヒンジ領域を更に含み得る。本明細書において用いられる場合、用語「免疫グロブリン」は、1対の軽(L)い低分子量鎖及び1対の重(H)い鎖の、2対のポリペプチド鎖からなり、4本全てがジスルフィド結合によって相互に結合している可能性がある、1クラスの構造的
に関連した糖タンパク質を指すことが意図される。免疫グロブリンの構造は良く調べられている。免疫グロブリンの構造内においては、2本の重鎖は、いわゆる「ヒンジ領域」に
おいてジスルフィド結合を介して相互に結合している。重鎖におけるのと同じように、典型的には、各軽鎖は、幾つかの領域;軽鎖可変領域 (本明細書においては、VLと省略する)及び軽鎖定常領域 (本明細書においては、CLと省略する)を含む。典型的には、軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。更に、VH及びVL領域は、フレームワーク領域 (FR)と呼ばれる、より保存されている領域が組み入れられている、相補性決定領域(CDR)とも
呼ばれる、超可変性の領域 (又は配列において超可変であっても良く及び/又は構造的に決定されたループの形態であっても良い超可変領域)に更に細分することができる。典型
的には、VH及びVLの各々は、3つのCDRと4つのFRとからなり、N末端からC末端に以下:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順で配置されている。CDR配列は、当該技術分野において公知である方法を使用して、決定しても良い。
【0019】
本明細書において用いられる場合、用語「Fab抗原結合領域」は、N末端からC末端の方
向に、少なくともヒンジ領域、VL及びVH領域、並びにCL及びCH1領域を含む領域を指す。
それは抗原に結合し、重鎖及び軽鎖の各々の1つの定常ドメインと1つの可変ドメインとからなる。
【0020】
本明細書において用いられる場合、用語「Fc-エフェクター結合領域」は、N末端からC
末端の方向に、少なくともヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域を含む領域を指す。Fc領域は、ヒンジ領域のN末端にCH1領域を更に含む場合がある。
【0021】
本明細書において用いられる場合、用語「ヒンジ領域」は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を指す。従って、例えば、ヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、Kabatに記載の通りEuナ
ンバリングに従って、アミノ酸216~230に対応する。
【0022】
本明細書において用いられる場合、用語「アイソタイプ」は、重鎖定常領域の遺伝子によってコードされる、免疫グロブリンのクラス (例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD
、IgA、IgE若しくはIgM)又はその任意のアロタイプを指す。従って、一実施形態においては、抗体は、IgG1クラスの免疫グロブリンの重鎖又はその任意のアロタイプを含む。更に、各重鎖のアイソタイプは、カッパ (κ)又はラムダ (λ)軽鎖のいずれかと組合され得る。
【0023】
本明細書において用いられる場合、用語「過剰増殖状態」は、細胞(例、内皮細胞、周
皮細胞、平滑筋細胞)の異常増殖による、病気又は障害又は疾患を指す。好ましい実施形
態においては、細胞の例は線維芽細胞、がん細胞及び血管内皮細胞である。
【0024】
本明細書において用いられる場合、用語「被検体」は、哺乳動物、例、ヒト、イヌ、ウシ、ウマ、カンガルー、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット及びトランスジェニックな非ヒト動物を含むが、それらに限定されない生物を指す。本明細書において用いられる同義語としては、「患者」及び「動物」が挙げられる。
【0025】
本明細書において用いられる場合、用語「治療有効量」は、被検体において意図される治療効果、例、疾患若しくは病気の重篤度、又は疾患若しくは病気の症状を、無くすこと(eliminating)又は低減すること(reducing)又は緩和すること(mitigating)を達成
する治療剤の量を意味する。1用量の投与によって、完全な治療効果は必ずしも現れるも
のでなく、一連の用量の投与後にのみ現れても良い。従って、治療有効量は、1回以上の
投与で投与されても良い。
【0026】
本明細書において用いられる場合、用語「治療する(treating)」は、例えば、例、疾患の1以上の症状を緩和する、軽減する(alleviating)又は改善する(ameliorating);疾患の程度を軽くする(diminishing);疾患の進行を遅延させる(delaying)又は緩や
かにする(slowing);疾患の指標(metric)(統計)を改善する(ameliorating)及び
抑える(palliating)又は安定化する(stabilizing)等の臨床的な結果を含む、有益な
又は望ましい結果を得るための工程を行うことを意味する。該効果は、病気若しくは疾患又はそれらの症状を、完全に又は部分的に予防するという観点で予防的であっても良く、及び/或いは病気若しくは疾患及び/又は病気若しくは疾患に起因する悪影響を、部分的
又は完全に治療するという観点で治療的であっても良い。「治療」は、取られる手段を指す。それは、哺乳動物、特に、ヒトにおける病気又は疾患の任意の治療を含み得、以下:(a) 病気又は疾患に罹患しやすい可能性があるが、まだそれに罹患していると診断されていない被検体における、病気又は疾患又はそれらの症状が生じるのを予防すること;(b) 例えばその発症を止めること(arresting)等の病気又は疾患又はそれらの症状を阻害す
ること;及び(c) 例えば、例、治療有効量の抗体を投与することによって、病気又は疾患又はそれらの症状の退縮を引き起こす等の、病気又は疾患又はそれらの症状を、緩和すること(relieving)、軽減すること(alleviating)又は改善すること(ameliorating)が含まれる。
【0027】
3.背景
A.HDGF
1994年に、研究員らは、Nakamura, H.ら「Molecular cloning of complementary DNA for a novel human hepatoma-derived growth factor: its homology with high mobility
group-1 protein」、J. Biol. Chem. 269:25143-25149、1994において、新規なヒトHDGFについて記載した。HDGFは、ヒト肝がん由来細胞株HuH-7の馴化培地から精製された。N
末端のアミノ酸配列に基づいて、同じ細胞株のcDNAライブラリーからcDNAを分子クローニングした。cDNAは2.4 kb長で、推定されたアミノ酸配列は、シグナルペプチド様のN末端
の疎水性配列を持たない240アミノ酸を含んでいた。免疫蛍光研究によって、研究員らは
、HDGFが肝がん細胞の細胞質中に局在していることを示した。ノザンブロットによって、HDGFが、正常な組織及び腫瘍細胞株には、遍在的に発現していることが示された。次いで、それは線維芽細胞の分裂促進活性を有する新規なヘパリン結合タンパク質であることが示唆された。市販の単一染色体のハイブリッドパネルのPCRスクリーニングによって、研
究員らは、HDGFをX染色体にマッピングした、Wanschura, Sら、「Mapping of the gene encoding the human hepatoma-derived growth factor(HDGF) with homology to the high-mobility group (HMG)-1 protein to Xq25」、Genomics 32:298-300、1996において
、HDGFをコードする遺伝子について記載した。FISHによって、彼らは、局在をXq25へ絞り込んだ。しかしながら、その後、国際放射線ハイブリッドマッピングコンソーシアムは、HDGF遺伝子を染色体1にマッピングした。Amberger、J. S. Personal Communication. Baltimore、Md. 12/11/2007は、ゲノム配列(ビルド36.2)を含むHDGF配列 (GenBank D16431)
のアライメントに基づいて、局在を1q21へ絞り込んだ。ハツカネズミ(Mus musculus)におけるHDGFはアクセッション番号NP_032257を有する。
【0028】
B.VEGF
Gospodarowiczら(1989)及びFerrara and Henzel (1989)によって、VEGFとして知られる別の増殖因子が、ウシ下垂体濾胞-星状(folliculo-stellate)細胞の馴化培地から精製された。タンパク質の生物学的活性をモニタリングするために、内皮細胞増殖アッセイを使用した。元々、血管透過性亢進因子 (VPF)として知られていた血管内皮増殖因子(VEGF)は、脈管形成及び血管新生を刺激する細胞によって産生されるシグナルタンパク質である。VEGFは、血液の循環が不十分、例えば低酸素条件等である場合に、組織に対する酸素供給を回復させる、より大きなシステムの一部である。気管支喘息及び糖尿病においては、血清VEGFの濃度が高いことが注目されている。正常なVEGFの機能は、胚発生の間における新しい血管、負傷後の新しい血管、運動後の筋肉、及び閉塞血管を迂回するための新しい血管(側副血行路)を作製することである。
【0029】
VEGFが過剰に発現される場合、疾患の一因となり得る。十分な血液の供給がなければ、固形がんは制限されたサイズを超えて増殖できない。VEGFを発現し得るがん細胞は、増殖し、転移することができる。VEGFの過剰発現は、眼の網膜及び身体の他の部分における血管疾患を引き起こし得る。例えば、アフリベルセプト(aflibercept)、ベバシズマブ(bevacizumab)及びラニビズマブ(ranibizumab)等の薬剤は、VEGFを阻害し得、これらの
疾患を調節又は緩やかにする(slow)ことができる。
【0030】
より具体的には、VEGFは、増殖因子のサブファミリー、シスチンノット増殖因子の血小板由来増殖因子ファミリーである。それらは、脈管形成 (胚循環系のde novo形成)及び血管新生 (既存の血管系に由来する血管の増殖)の両方に関与する、重要なシグナル伝達タ
ンパク質である。VEGFファミリーは、哺乳動物においては、5つのメンバー:VEGF-A、胎
盤増殖因子 (PGF)、VEGF-B、VEGF-C及びVEGF-Dを含む。
【0031】
【表2】
【0032】
VEGF-Aは、乳がんにおける悪い予後と相関している。数多くの研究によって、VEGFを過剰発現している腫瘍においては、全生存期間及び無病生存期間が低下することが示されている。VEGF-Aの過剰発現は、転移の過程における早期のステップである、「血管新生」スイッチに関与するステップの場合がある。VEGF-Aは悪い生存と相関しているが、腫瘍の進行における、その作用の正確な機構は不明瞭なままである。VEGF-Aはまた、関節リウマチにおいては、TNF-αに応答して放出され、それによって内皮透過性が上昇し、腫脹し、また血管新生が刺激される。VEGF-Aはまた、糖尿病性網膜症 (DR)にも関係がある。糖尿病
を有する人々の網膜における微小循環の問題は、網膜虚血を引き起こし得、結果としてVEGF-Aが放出される。このことは、網膜及び眼内の他の場所において、新たな血管の作製を引き起こし得、視界を脅かす可能性がある変化を予告する。VEGF-Aは、先進国の高齢者の失明の主な原因となっている、滲出型加齢黄斑変性症 (AMD)の疾患の病理において役割を果たす。AMDの血管の病理は、糖尿病性網膜症とある程度の類似性を有するが、疾患の原
因及び血管新生の典型的なソースは、2つの疾患の間で異なっている。一旦、放出される
と、VEGF-Aは、幾つかの応答を誘発し得る。それは、細胞を生存、移動又は更に分化させる場合がある。そのため、VEGFは、がんの治療の潜在的な標的である。最初の抗VEGF薬である、ベバシズマブという名のモノクローナル抗体は2004年に承認された。患者の約10~15%は、ベバシズマブ療法の恩恵を受けている;しかしながら、ベバシズマブの有効性の
バイオマーカーはまだ知られていない。血清VEGF-Dレベルは、血管肉腫を有する患者において有意に上昇している。肺気腫に罹患している患者では、肺動脈中のVEGFレベルが低下していることが見出されている。腎臓においては、糸球体におけるVEGF-Aの発現の上昇は、蛋白尿と関係する糸球体肥大を直接引き起こす。VEGFにおける変化は、早発性子癇前症の前兆であり得る。
【0033】
C.TGFβ
トランスフォーミング増殖因子ベータ (TGF-β)として知られる増殖因子は、全て白血
球細胞の系譜によって産生される、3つの異なるアイソフォーム (TGF-β1~3、HGNCシン
ボルではTGFB1、TGFB2、TGFB3)及び他の多くのシグナル伝達タンパク質を含む、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーに属する多機能なサイトカインである。活性化したTGF-βは、他の因子と共に複合体を形成し、1型及び2型の両方の受容体サブユニットからなる、TGF-β受容体に結合するセリン/スレオニンキナーゼ複合体を形成する。TGF-βの結合後、2型受容体キナーゼは、シグナル伝達カスケードを活性化する1型受容体キナーゼを、リン酸化し、活性化する。このことによって、様々な下流の基質及び制御タンパク質の活性化がおこり、多くの免疫細胞の分化、走化性、増殖及び活性化において機能する様々な標的遺伝子の転写が誘導される。
【0034】
TGF-βは、他の2つのポリペプチドである、潜在型TGF-ベータ結合タンパク質 (LTBP)及び潜在型関連ペプチド (LAP)と複合体化する潜在型で、マクロファージを含む、多くの種類の細胞によって分泌される。例えばプラスミン等の血清プロテイナーゼは、複合体からの活性型TGF-βの放出を触媒する。このことは、しばしば、潜在型TGF-β複合体が、そのリガンドであるトロンボスポンジン-1(TSP-1)を介してCD36に結合する、マクロファー
ジの表面上で起こる。マクロファージを活性化する炎症性の刺激は、プラスミンの活性化を促進することによって、活性型TGF-βの放出を促進する。マクロファージはまた、形質細胞によって分泌されるIgGが結合した潜在型TGF-β複合体をエンドサイトーシスするこ
とができ、次いで細胞外液に活性型TGF-βを放出し得る。その機能の中でも重要であるのが、炎症過程、特に、腸[4]における制御である。TGF-βはまた、幹細胞の分化並びにT細胞の制御及び分化において重要な役割を果たす。そうであるから、それは、がん、自己免疫疾患及び感染症の分野において非常に良く研究されたサイトカインである。
【0035】
TGFβスーパーファミリーは、内在的な増殖阻害タンパク質を含み;TGFβの発現の増大がしばしば、多くのがんの悪性度及びTGFβに対する細胞の増殖阻害応答の不具合と相関
する。次いで、その免疫抑制性の機能が優先するようになり、発がんに繋がる。その免疫抑制性の機能の異常制御はまた、自己免疫疾患の発症に関連するが、それらの効果は、他のサイトカインが存在する環境によって媒介される。
【0036】
基本的な3つの型は以下:
・ TGFベータ1―TGFB1
・ TGFベータ2―TGFB2
・ TGFベータ3―TGFB3
である。
【0037】
TGF-βアイソフォームのペプチド構造は、非常に良く類似している (70~80%程度の相同性)。それらは全て大きいタンパク質前駆体としてコードされている;TGF-β1は390ア
ミノ酸を含み、TGF-β2及びTGF-β3は各々、412アミノ酸を含む。それらは各々、細胞か
らの分泌に必要である20~30アミノ酸のN末端シグナルペプチド、潜在型関連ペプチド (LAP)と呼ばれるプロ領域、及びタンパク質分解によってプロ領域からそれが放出されるの
に続いて、成熟TGF-β分子となる112~114アミノ酸のC末端領域を有する。成熟TGF-βタ
ンパク質はダイマー化し、多くの保存された構造モチーフを有する25 KDaの活性タンパク質を生成する。TGF-βは、そのファミリーの中で保存されている、9つのシステイン残基
を有する。8つは、タンパク質内でジスルフィド結合を形成し、TGF-βスーパーファミリ
ーに特徴的な、システインノット構造をつくる。9番目のシステインは、別のTGF-βタン
パク質の9番目のシステインと共にジスルフィド結合を形成し、ダイマーを生成する。TGF-β中の他の多くの保存された残基は、疎水性相互作用によって、二次構造を形成すると
考えられる。5番目と6番目の保存されたシステインの間の領域は、タンパク質の表面に露出する、TGF-βタンパク質の中では最も異なっている領域を有し、TGF-βの受容体結合及
び特異性と関連している。
【0038】
正常な細胞においては、そのシグナル伝達経路を介して作用するTGFβは、G1期で細胞
周期を止めて、増殖を停止し、分化を誘導し、又はアポトーシスを促進する。多くのがん細胞においては、TGFβのシグナル伝達経路の要素が変異しており、TGFβはもはや、細胞を調節していない。これらのがん細胞は増殖する。その周囲の間質細胞 (線維芽細胞)も
また増殖する。両方の細胞は、それらのTGFβの産生を増加させる。このTGFβは、その周囲の間質細胞、免疫細胞、内皮細胞及び平滑筋細胞に対して作用する。それは、がんをより侵襲的にする、免疫抑制及び血管新生を引き起こす。TGFβはまた、通常、炎症(免疫
)反応によりがんを攻撃するエフェクターT細胞を、炎症反応を抑える制御性(サプレッ
サー)T細胞に変換する。
【0039】
4.概要
HDGF、VEGF及びTGFβは、例えばケロイド、肺線維症及び肺がん等の過剰増殖状態にお
いて、過剰発現される。過剰発現は、攻撃的な生物学的な性状及び悪い臨床転帰と相関している。HDGFに特異的なモノクローナル抗体、並びにそれらのキメラ及びヒト化型 (即ち、H3、C1、C4及びL5-9)は、既に我々が開発しており、表1において提供され、Ren, H.ら
、「Antibodies targeting hepatoma-derived growth factor as a novel strategy in treating lung cancer」Mol Cancer Ther. 2009 May;8 (5):1106-1112において記載され、本明細書に取り込まれる。Renらは、抗HDGFが、非小細胞肺がんの異種移植モデルにお
いて、腫瘍の増殖の阻害に効果的であることを究明した。モノクローナル抗体H3を、ベバシズマブ又はゲムシタビンのいずれかと組合せた場合、腫瘍増殖阻害が増大する。ここでは、腫瘍組織中の2つの追加的な増殖因子 (VEGF及びTGFβ)を同時に標的とするための、
キメラ及びヒト化二機能性抗体を作製した (即ち、H3K、hH3K、H3T及びhH3T)。患者由来
腫瘍異種移植マウスモデルにおいては、二機能性抗体H3Kを用いた治療は、腫瘍の薬剤耐
性と干渉し、長期間の寛解を実証した。肺線維症のマウスモデルにおいては、ブレオマイシンによって誘発された損傷の前又は後の、様々な組合せの抗HDGF抗体は、生存及び線維症の阻害に対する治療効果を示した。理論に拘束されることはないが、二機能性抗体 (即ち、H3K、hH3K、H3T及びhH3T)を用いた線維芽細胞の異常増殖の治療は、HDGFとVEGF、又
はHDGFとTGFβを、同時に標的とするという観点で、改善された応答を提供するであろう
。VEGFトラップ又はTGFβトラップを用いた、HDGFを標的とするこの新規な分子は、単一
分子として投与することがより容易であり、同等又はより良い効果を提供することにより治療を促進する一方で、がん細胞におけるADCCを引き起こす。表1に記載された抗体を使
用した、線維芽細胞の異常増殖を低減する戦略もまた、本明細書において提供される。
【0040】
5.実施形態
それゆえ、本発明の実施形態は、HDGFに特異的な少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、並びに血管内皮増殖因子(VEGF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ
)から選択される増殖因子に特異的に結合する少なくとも1つの受容体ドメインを含む、
肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体分子 (例、H3K、hH3K、H3T及びhH3T)
を含む。他の実施形態においては、一本鎖抗体(scFv)が作製され、様々な機能的な成分と組合され得る。幾つかの実施形態においては、医薬的に許容される担体と共に、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を含む、医薬組成物が提供される。医薬組成物は、非経口、静脈内又は局所 (topical)投与用に製剤化し得る。好ましくは、医薬組成物は、1~3週間毎に、5~25 mg/kgの量で投与するために製剤化される。更なる実施形態
としては、HDGFとVEGFの発現、又はHDGFとTGFβの発現を下方制御する量で、肝がん由来
増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を、被検体に投与することによって、被検体における過剰増殖性細胞の増殖を低減する方法が挙げられ、過剰増殖性細胞の異常増殖を低減するのに効果的である。幾つかの実施形態においては、過剰増殖性細胞は、線維芽細胞若しくはがん細胞、又は血管内皮細胞であり得る。がん細胞は、肺、膵臓、結腸、卵巣、肝
臓、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択し得る。そして、他の実施形態においては、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を投与することにより、HDGFとVEGFの発現、又はHDGFとTGFβの発現の同時低減を、それを必要とする被検体において
するための方法が提供される。必要とする被検体は、間質性肺疾患、ケロイド、肺線維症、特発性肺線維症、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症及び扁平上皮がん、からなる群から選択される過剰増殖状態に罹患している。
【0041】
A. 二機能性分子及びそれらの作製方法
本発明の幾つかの実施形態には、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性のキメラ又はヒト化抗体 (例、H3K hH3K、H3T又はhH3T)が含まれ、各々は、HDGFに特異的な少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、並びに血管内皮増殖因子(VEGF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)から選択される増殖因子に特異的に結合する少なくと
も1つの受容体ドメインを含む。CDRは、マウス、ヒト、ウサギ、ラットのCDR、好ましく
は、マウスのCDRから選択し得る。抗体はヒト化されていても、キメラであっても良く、
各々が、血管内皮増殖因子 (VEGF-A、VEGF-C及びVEGF-E)、並びにトランスフォーミング
増殖因子ベータ(TGFβ)(即ち、TGFβサブタイプ1、サブタイプ2及びサブタイプ3から選択されるTGFβ)から選択される増殖因子に独立して結合する、2つの受容体ドメイン (例
、VEGFR2)を含む。ある態様においては、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性
抗体は、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、燐光分子、化学発光分子、発色団、発光分子、光親和性分子、リガンド、着色粒子又はビオチンからなる群から選択されるレポーター分子に連結される。別の方法では、抗体は、毒素、アポトーシス分子、抗腫瘍剤、治療用酵素又はサイトカインからなる群から選択されるエフェクター分子に連結される。幾つかの態様においては、抗腫瘍剤は、ゲムシタビン、ペメトレキセド、シスプラチン、ドセタキセル、ビノレルビン、ドキソルビシン、6-フルオロウラシル、エルロチニブ、ゲフィチニブ及びクリゾチニブからなる群から選択される。
【0042】
実施形態には、特異的な抗原に結合する免疫学的なタンパク質である抗体が含まれる。ヒト及びマウスを含む殆どの哺乳動物においては、抗体は、対となる重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖から構築される。各々の鎖は、個々の免疫グロブリン (Ig)ドメインから構成
され、従って、一般的な用語の免疫グロブリンは、そのようなタンパク質について使用される。各々の鎖は、可変領域及び定常領域として言及される、2つの異なる領域から構成
される。軽鎖及び重鎖可変領域は、抗体間で相当の配列多様性を示し、標的抗原への結合に関与している。定常領域は、配列の多様性がより小さく、多くの天然タンパク質への結合に関与しており、重要な生化学的なイベントを誘発する。ヒトにおいては、IgA (サブ
クラスIgA1及びIgA2を含む)、IgD、IgE、IgG (サブクラスIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)並びにIgMを含む、5つの異なるクラスの抗体が存在する。これらの抗体のクラスの間
の区別できる特徴はそれらの定常領域であるが、そのV領域においてはより微妙な相違し
か存在しない場合がある。IgG抗体は、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる、テトラマータ
ンパク質である。IgG重鎖は、N末端からC末端の方向に、それぞれ重鎖可変ドメイン、重
鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2及び重鎖定常ドメイン3を指す、VH-CH1-CH2-CH3の
順で(また、それぞれ、重鎖可変ドメイン、定常γ1ドメイン、定常γ2ドメイン及び定常γ3ドメインを指す、VH-Cγ1-Cγ2-Cγ3として言及される)、連結されている、4つの免
疫グロブリンドメインからなる。IgG軽鎖は、N末端からC末端の方向に、それぞれ軽鎖可
変ドメイン及び軽鎖定常ドメインを指す、VL-CLの順で連結されている、2つの免疫グロブリンドメインからなる。
【0043】
【化1】
【0044】
幾つかの実施形態においては、キメラ抗体は、マウスのような非ヒトのソースに由来する遺伝物質と、ヒトに由来する遺伝物質とを組合せることによって作製した抗体である。一般的に、キメラ抗体はヒトのが約2/3であり、それらを治療的な処置に使用する場合に、非ヒト動物に由来する異物の抗体に対する反応のリスクが低減される。同様にして作製されるが90%近くのヒト遺伝物質を含む、ヒト化抗体は、緊密に関連する概念である。組
換え技術を使用して、人々は複数のソースから遺伝物質を切り出し得、プライシングし得、それを一緒に融合し得る。キメラ抗体は、動物の遺伝物質との潜在的な反応についての懸念に対処するために、遺伝暗号の一部をヒト遺伝子で置換し、培養液中で動物細胞を用いて発現させた抗体を含む。
【0045】
幾つかの実施形態における、抗体のFab抗原結合領域の可変領域は、分子の抗原結合決
定基を含み、従って、その標的抗原に対する抗体の特異性を決定する。同じクラス内の他の抗体からは、配列の殆どが異なっているため、可変領域は、そう呼ばれる。配列の可変性の大半は、相補性決定領域(CDR)に生じている。VH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3と名付けられた、合計6つのCDRが、重鎖及び軽鎖毎に各々3つずつ存在する。好ましい実施形態においては、CDRは、HDGFに対するマウスCDRである。
【0046】
【化2】
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
【0049】
好ましい実施形態においては、CDRはHDGFに対するマウスCDRである。CDRの外側の可変
領域は、フレームワーク (FR)領域として言及される。CDRほど多様でないが、異なる抗体間では、FR領域において配列可変性が生じている。全体として、この特徴的な抗体の構造は安定な足場(FR領域)を提供し、それによって、幅広い抗原に対する特異性を得るために、免疫系により、相当な抗原結合の多様性(CDR)が探索され得る。様々な生物種に由
来し、幾つかは抗原と結合しておらず、幾つかは抗原との複合体である、多様な可変領域フラグメントについて、多くの高分解能での構造が入手可能である。抗体の可変領域の配列及び構造的な特徴は、良く調べられており(参照により全体が取り込まれる、Moreaら
、1997、Biophys Chem 68:9-16;Moreaら、2000、Methods 20:267-279)、抗体の保存さ
れた特徴によって、豊富な抗体の改変技術(参照により全体が取り込まれる、Maynardら
、2000, Annu Rev Biomed Eng 2:339-376)を開発することが可能となった。例えば、1つの抗体、例えば、マウス抗体に由来するCDRを、別の抗体、例えば、ヒト抗体のフレーム
ワーク領域に移植することができる。当該技術分野においては、「ヒト化」として言及されるこの過程は、非ヒト抗体と比較して、抗体治療における免疫原性を低減する。例えば、VH-C.ガンマ.1及びVH-CLを含む抗原結合フラグメント (Fab)、VH及びVLを含む可変フラグメント (Fv)、同じ鎖において一緒に連結されているVH及びVLを含む一本鎖可変フラグ
メント(scFv)、並びに多様な他の可変領域フラグメントを含む、可変領域を含むフラグメントは、抗体の他の領域が無い状態で存在し得る(参照により全体が取り込まれる、Littleら、2000、Immunol Today 21:364-370)。
【0050】
Fabフラグメントは、VL、VH、CL及びCH Iドメインからなる一価のフラグメントである
; F(ab')2フラグメントは、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された、2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメントである;Fdフラグメントは、VH及びCH1ドメインからなる;Fvフラグメントは、抗体のシングルアームのVL及びVHドメインからなる;並びにdAbフラグメント(Wardら、Nature 341:544 546、1989)はVHドメインからなる。一本鎖
抗体(scFv)は、単一なタンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーを介して、VL及びVH領域が対となり一価の分子を形成している、抗体である (Birdら、Science 242:423 426、1988及びHustonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 5883、1988)
。そのようなリンカー分子は通常、当該技術分野において公知であり、それぞれが参照に
より全体が各々取り込まれる、米国特許出願番号第20130245233 A1号、Denardoら、(1998) Clin Cancer Res. 4(10):2483-90;Petersonら、(1999) Bioconjug. Chem. 10(4):553-7;及びZimmermanら、(1999) Nucl. Med. Biol. 26(8):943-50に記載されている。ダイアボディは、VH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現しているが、同じ鎖上の2
つのドメイン間で対になれるには短すぎるリンカーを使用しており、それにより該ドメインを別の鎖上の相補的なドメインと対にさせ、2つの抗原結合部位を作り出している、二
価、二重特異的又は二機能性の抗体である(例、Holliger, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444 6448、1993、及びPoljak, R. J.,ら、Structure 2:1121 1123、1994を参照)。二重特異的にするために、1以上のCDRを、共有結合又は非共有結合のいずれかにより、分子に取り込み得る。
【0051】
Fc-エフェクター結合領域は、細胞の受容体の多様性に関与しており、それにより抗体-媒介性のエフェクター機能が引き起こされる、Fcドメインと呼ばれる定常領域を含むフラグメントである。Fcドメインは、Fab領域によって決定される特異性、及び自然免疫系と
獲得免疫系の細胞の間の架け橋として作用する。両方の種類の治療抗体の注目すべき共通の特徴は、IgGのFcドメインの重要性であり、それはFc受容体 (FcR)ファミリーメンバー
の関与によって、抗体誘発性エフェクター機能を媒介する免疫細胞と、抗体の優れた特異性とを繋いでいる。抗体依存性細胞傷害 (ADCC)においては、エフェクター細胞 (ナチュ
ラルキラー細胞、マクロファージ、単球及び好酸球)の表面上のFcvRは、それ自身が標的
細胞に結合する、IgGの、Fc領域に結合する。治療抗体の細胞傷害活性を増大させるため
に、抗体のFc領域を改変することは、幾つかの実施形態においては好ましい。好ましい実施形態においては、Fc-エフォート(effort)領域はヒトVEGF/TGFβトラップを含む。増
殖因子受容体ダイマーはGFダイマーに結合する。重鎖との融合によって、GFの結合に必要とされ得るか又はそれを増大し得る、受容体ダイマーが作製される。
【0052】
好ましい実施形態においては、抗HDGFハイブリドーマBalb/cマウスを、フロイントアジュバント中で組換えHDGFを用いて免疫した。免疫した動物に由来する脾細胞 (solenocyte)をP3x63Ag8.653細胞と融合し、培養上清中のHDGF反応性についてスクリーニングした。
陽性クローンを特定し、抗HDGF抗体の分泌を、がん細胞溶解物及び精製HDGFのイムノブロット分析によって確認した。抗HDGF抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、cDNAに逆
転写した。Ig可変領域を増幅するために設計されたプライマー(Larrick、J.W.ら、1989. Biochem. Biophys. Res. Comm. 160、1250. Jones、S.T. and Bendig、M.M. 1991. Biotechnology 9、88)を、マウスIgの重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを増幅するために使用し
た。増幅した産物をクローニングし、シーケンスした。http://www.bioinf.org.uk/abs/
に記載された通りに、マウスIgの重鎖及び軽鎖、並びにCDRをコードするcDNA配列を特定
した。マウス抗体可変ドメイン (VH及びVL)をコードするDNAフラグメントを、標準的な分子生物学技術によって、ヒトIgG1のカウンターパート(count part)の定常領域のN末端
に移植し、哺乳動物の発現ベクターにそれぞれクローニングした。キメラ抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを、1:2の比で、Expi293細胞 (Invitrogen(登録商標))に共トランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフ
によって、馴化培地から抗体を精製した。Martin A.C.R. (http://www.bioinf.org.uk/abs/)に記載された通りに、マウスIgの重鎖及び軽鎖、並びにCDRをコードするcDNA配列を特定した。次いで、ヒトIg G1 Vh中のCDRを、対応するマウスCDRで置換することによって、ヒト化抗HDGF Vh配列を作製した。次いで、ヒト化配列をコードするDNA配列を合成し、ヒトIgG1重鎖定常領域のN末端に移植し、哺乳動物の発現ベクターにクローニングし、ヒト
化Ig重鎖発現コンストラクトを生成する。同様に、ヒト化VL発現コンストラクトを作製した。ヒト化抗HDGF抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを使用して、1:2の比で、Expi293細胞をトランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフによって、馴化培地から抗体を精製した。
【0053】
Fc融合増殖因子結合ドメイン (GFトラッパー)の構築は、ヒトVEGF受容体2 (キナーゼ挿入ドメイン受容体)のアミノ酸残基122~残基327 (NP_002253に基づく)のドメイン2及び3 (D2及びD3)に対応するDNAフラグメントを含んでおり、HEK293 cDNAから増幅した。ポリGlySerリンカー、(GlyGlyGlyGlySer) 2又は(G4S)2を介して、増幅した配列を、ヒトIgG1重
鎖のC末端で融合した。完全長の抗HDGF抗体重鎖-VEGFトラッパー配列を哺乳動物の発現プラスミドにクローニングした。
【0054】
Fc-TGFBトラッパーの構築は、ヒト肺cDNAから増幅した、ヒトTGFBR2細胞外ドメインの
アミノ酸残基27~残基184 (NP_001020018に基づく)に対応するDNAフラグメントを含んで
いた。ポリGlySerリンカー、(GlyGlyGlyGlySer)2又は(G4S)2を介して、増幅した配列を、ヒトIgG1重鎖のC末端で融合した。完全長の抗HDGF抗体重鎖-TGFBトラッパー配列を、哺乳動物の発現プラスミドにクローニングした。組換え抗HDGF抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを、1:2の比で、Expi293細胞 (Invitrogen(登録商標))に共トランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフによって、馴化
培地から抗体を精製した。
【0055】
キメラ抗体は、非ヒト (例えばマウス等)抗体の全ての定常領域配列を、ヒト起源の定
常領域配列で置換することによって、又はその逆で、生成し得る。従って、完全な非ヒト可変領域配列がキメラ抗体中に維持されている。従って、本発明によるキメラ抗体は、好適な発現系において、非ヒト可変重鎖、非ヒト可変軽鎖配列、ヒト定常重鎖及びヒト定常軽鎖配列を発現する工程を含む方法によって生成し得、それにより、完全長キメラ抗体が生成される。代替的な方法を使用してもよい。キメラ抗体のそのような生成方法は、当業者の知識内であり、従って、当業者は、本発明によるキメラ抗体をどのように生成するかを知り得る。
【0056】
本明細書において用いられる場合、用語「組換えヒト抗体」は、例えば、(a) ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物 (例、マウス)から単離した抗
体、(b) 宿主細胞にトランスフェクトした組換え発現ベクターを使用して発現される抗体、(c) 組換え体のヒト抗体コンビナトリアルライブラリーから単離した抗体、及び(c) ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む、任意の他
の方法によって、調製、発現、作製又は単離された抗体、等の、組換え方法によって、調製、発現、作製又は単離された全てのヒト抗体を含むことが意図される。好ましくは、そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列に由来する、可変領域及び定常領域を有する。しかしながら、ある実施形態においては、そのような組換えヒト抗体は、in vitroでの突然変異生成 (又は、ヒトIg配列についてトランスジェニックな動物が使用される場合、in vivoでの体細胞突然変異生成)に供し得、従って、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列のVH及びVL配列に由来し、関連する一方で、in vivoでは、生殖細胞系列のヒト抗体レパートリーの範囲内に天然では存在し
ない場合がある。抗原結合部分としては、とりわけ、標的のセラミドに特異的な抗原結合をもたらすのに十分である免疫グロブリンの少なくとも1部を含む、Fab、Fab'、F(ab')2
、Fv、dAb、及び相補性決定領域(CDR)フラグメント、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ及びポリペプチドが挙げられる。また、抗体の定義には、T15ペプチドに
化学的に結合するもの又はヒトIgG1の骨格に遺伝的に改変したものを含む、スーパー抗体が含まれる (Y. Zhao、D. Lou、J. Burkett and H. Kohler. Enhanced Anti-B-cell Tumor Effects with Anti-CD20 SuperAntibody. J. Immunotherapy、25:57-62、2002を参照)。免疫グロブリンのサブタイプは任意のサブタイプであり得る;典型的には、IgG及びIgMが使用されるが、IgA、IgE等もまた効果的であり得る。
【0057】
好ましい実施形態においては、キメラ抗体は1以上の結合部位を有し得、二機能性の肝
がん由来増殖因子(HDGF)特異的なキメラ又はヒト化抗体 (例、H3K hH3K、H3T又はhH3T)
である。1超の結合部位が存在する場合、該結合部位は互いに同一であっても良く、又は
異なっていても良い。例えば、天然で生じた免疫グロブリンは2つの同一な結合部位を有
し、一本鎖抗体又はFabフラグメントは1つの結合部位を有する一方で、「二重特異的」又は「二機能性」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0058】
幾つかの実施形態においては、キメラH3重鎖のカルボキシ末端は、可溶性のVEGF受容体
(VEGFトラッパー)に融合される。好ましくは、VEGFトラッパーは、リンカーを介して、
カルボキシ末端で、VEGF受容体2 (VEGFR2)リガンド結合ドメインと別のタンパク質とを融合することによって作製される。この例においては、リガンド結合ドメインは、VEGFR2のD2及びD3に由来する配列からなる;ここでリンカー配列はG4Sのタンデムリピートである
が、例えばポリペプチド又は合成リンカー等の他の種類のリンカーであり得る。幾つかの実施形態においては、VEGFトラッパーは、VEGFR1、VEGFR2若しくはVEGFR3のリガンド結合ドメイン;又はVEGFR1、VEGFR2若しくはVEGFR3から選択されるD2ドメイン、及びVEGFR1、VEGFR2若しくはVEGFR3から選択されるD3ドメインからなる、ハイブリッド(lybrid)なリガンド結合ドメイン;又はECDを含むD2ドメインとECDを含むD3ドメインとの融合からなるハイブリッドECDを使用して構築される。例えばVEGFトラッパーの構築についての図15A及び15Bを参照。
【0059】
理論に拘束されることはないが、I型膜貫通タンパク質/I型受容体に由来する可溶性の受容体を作製する方法の大部分は、以下:1) 受容体タンパク質の自然のトポロジー、2) しばしばダイマー化するリガンドを結合する際に、これらの受容体の多くがダイマー化する必要性、3) 抗体に対する類似性のための好ましいPKのために、N末端の細胞外ドメインを、FcフラグメントのN末端に融合することである。Fc融合タンパク質としての発現は最
も簡単な方法であるが、それがGFダイマーの結合の前又はその際にダイマーを形成し得る限り、VEGFRのモノマー又はダイマーの共有結合又は非共有結合によるコンジュゲーショ
ンによって、多機能な分子又はナノ粒子を作製することができる。
【0060】
VEGFトラッパーは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。好ましくは、VEGFトラ
ッパーを含む実施形態は、ヒトIgG重鎖のカルボキシ末端で融合したVEGFトラッパーを有
する。以下の例においては、ヒトIgG1重鎖定常領域及びVEGF結合ドメインは、配列番号2
中に示される。他の実施形態においては、VEGFトラッパーは、キメラH3重鎖のカルボキシ末端で融合した。以下の例においては、ヒトIgG1重鎖定常領域及びVEGF結合ドメインは、配列番号3中に示される。代替的に、VEGFトラッパーは、配列番号4中に示される通り、他の実施形態においては、ヒト化抗HDGF H3重鎖 (変異ペプチド)のカルボキシ末端で融合した。この例においては、TGFBトラッパーは、配列番号5中のリンカーを介したカルボキシ
末端での融合として示される。リンカーは(G4S)2である。他の代替的な実施形態としては、ヒトIgG重鎖 (配列番号6)のカルボキシ末端で融合したTGFBトラッパーが挙げられる。
更に代替的な実施形態においては、TGFBトラッパーは、キメラ抗HDGF H3重鎖 (配列番号7)のカルボキシ末端で融合した。他の実施形態においては、TGFBトラッパーは、ヒト化抗HDGF H3重鎖 (変異ペプチド) (配列番号8)のカルボキシ末端で融合した。
【0061】
B. 生物学的に活性のあるフラグメント及び変異体
上記に示される通り、本明細書において用いられる場合、用語「抗体」としては、特に明記しない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、例えば抗原に結合する等の、特異的に相互作用する能力を保持している抗体の任意のフラグメントが挙げられる。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって実行され得ることが示されている。用語「抗体」内に包含される結合フラグメントの例としては、(i) Fab'若しくはFab
フラグメント、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価のフラグメント、又はWO2007059782に記載された一価の抗体(Genmab A/S);(ii) F(ab')2フラグメント、ヒンジ領域でジ
スルフィド架橋によって連結された、2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメント;(
iii) VH及びC.H1ドメインから本質的になるFdフラグメント;並びに(iv) 抗体のシングルアームのVL及びVHドメインから本質的になるFvフラグメントが挙げられる。更に、Fvフラグメントの2つのドメイン、VL及びVHは別々の遺伝子にコードされるが、それらをVL及びVH領域が対になって一価の分子を形成する一本のタンパク質鎖(一本鎖抗体又は一本鎖Fv
(scFv)として知られる、例えば、Birdら、Science 242、423-426 (1988)、及びHuston
ら、PNAS USA 85、5879-5883 (1988)を参照)とすることができる合成リンカーによって
、組換え法を使用して、連結され得る。そのような一本鎖抗体は、特に断りのない限り、又は文脈によって明示されない限り、用語、抗体の中に包含される。一般的に、そのようなフラグメントは抗体の意味の中に含まれるが、それらは総称的に、また各々独立して、本発明の固有の特徴であり、様々な生物学的特性及び有用性を示す。本発明の文脈における、これらの及び他の有用な抗体フラグメントが本明細書において更に検討される。また、特に指定のない限り、用語、抗体としてはまた、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体 (mAbs)、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びに、例えば酵素的な分解、ペプチド合成
及び組換え技術等の任意の公知の技術によって提供される、抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体フラグメント (抗原結合フラグメント)が挙げられることが理解され
るべきである。生成された抗体は、任意のアイソタイプを有し得る。
【0062】
本明細書において用いられる場合、抗体の「生物学的な活性を有するフラグメント」は、HDGFに対する結合アフィニティーを保持している任意のフラグメントを意味する。フラグメントは、オリジナルの抗体に由来する1以上のCDR領域を保持している。CDRは、抗原
に結合する抗体の部位であり、殆どの場合、その抗体に特有のものである。フラグメントが抗原に対する結合を保持するために、3D構造を有する一組のCDRを、それらが結合ポケ
ット等を形成するように組合されるように有する必要がある。生物学的な活性を有するフラグメントはまた、アミノ酸配列における違いが少なくとも75%、より好ましくは、少な
くとも80%、90%、95%、及び最も好ましくは、99%の配列同一性を維持し、並びに分子が結合のためのそのアフィニティーを保持している限り、わずかな違いを含み得る。
【0063】
二機能性キメラ抗体の「変異体」又はそのフラグメントは、例えば、列挙された疾患を治療又は緩和する(mitigating)ことを意図した目的のために、抗体の結合アフィニティー及び/又は他の生物学的特性が改善され得る、本明細書に記載された抗体のアミノ酸配列の改変(複数可)を含む。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変更を導入することによってか、又はペプチド合成によって、調製し得る。そのような改変としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失及び/又は挿入及び/又は置換が挙げられる。最終的なコンストラクトがHDGFに対する望ましいアフィニティーを有する限り、最終的なコンストラクトに行き着くために、欠失、挿入及び置換の任意の組合せが為され得る。アミノ酸の変更は、配列が作製されるときに、対象の抗体のアミノ酸配列に導入され得る。
【0064】
抗体のフラグメント又は類似体は、本明細書の教示に従って、当業者により、容易に調製され得る。フラグメント又は類似体の好ましいアミノ末端及びカルボキシ末端は、機能的なドメインの境界の近傍に生じる。構造的及び機能的なドメインは、公的又は私的な配列データベースに対して、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列のデータを比較することによって特定され得る。好ましくは、公知の構造及び/又は機能の他のタンパク質において生じる、配列モチーフ又は予測されたタンパク質の立体構造領域を特定するために、コンピュータ化した比較方法が使用される。公知の三次元構造にフォールドするタンパク質配列を特定するための方法は公知である。Bowieら、Science 253:164 (1991)。
【0065】
C. 医薬組成物
幾つかの実施形態においては、医薬的に許容される担体と共に、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物は、非経口、静
脈内又は局所 (topical)投与用に製剤化しても良い。好ましくは、医薬組成物は、1~3週間毎に、5~25 mg/kgの量で投与するために製剤化される。医薬組成物は、当該技術分野
において公知である従来の技術に従って、医薬的に許容される担体又は希釈剤、並びに他の任意の公知なアジュバント及び賦形剤と共に製剤化し得る。
【0066】
医薬的に許容される担体又は希釈剤、並びに他の任意の公知なアジュバント及び賦形剤が、本発明のヒト化又はキメラ抗体及び選択した投与の方法について好適なはずである。医薬組成物の担体及び他の構成要素にとっての適合性は、抗原結合における本発明の選択した化合物又は医薬組成物の望ましい生物学的特性について、有意にネガティブな影響がないこと(例、実質的より小さい影響(10%以下の相対的な阻害、5%以下の相対的な阻害
等))に基づいて決定される。
【0067】
医薬的に許容される担体としては、本発明のヒト化又はキメラ抗体と生理学的に適合する、任意及び全ての好適な溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張な剤、抗酸化剤及び吸収遅延剤等が挙げられる。本発明の医薬組成物中で使用し得る、好適な水性及び非水性の担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、エタノール、デキストロース、ポリオール (例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの好適な混合物、例えばオリーブオイル、コーンオ
イル、ピーナッツオイル、綿実油及びごま油等の植物油、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、トラガカントガム及び例えばオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステル、並びに/又は様々な緩衝剤が挙げられる。他の担体は、医薬の技術分野において周知である。
【0068】
医薬的に許容される担体としては、滅菌された水性の溶液又は分散液、及び滅菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。医薬的に活性がある物質のためのそのような媒体及び剤の使用は、当該技術分野において公知である。任意の従来の媒体又は剤が、活性化合物と適合しない場合を除いて、本発明の医薬組成物中でのそれらの使用が期待される。「活性化合物」について言及する場合、本発明によるヒト化又はキメラ抗体について言及することも期待される。
【0069】
例、例えばレシチン等のコーティング物質の使用によって、分散液のケースにおける必要な粒子サイズを維持することによって、及び界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。
【0070】
本発明の医薬組成物はまた、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、界面活性剤 (例、例えばTween-20又はTween-80等の非イオン性界面活性剤)、安定剤 (例、糖類又はタンパク質を含
まないアミノ酸)、防腐剤、組織固定剤、可溶化剤及び/又は医薬組成物中に含めること
が好適な他の物質を含み得る。
【0071】
患者に有毒であることなしに、特定の患者、組成物及び投与の方法にとって望ましい治療応答を達成するのに効果的である有効成分の量が得られるように、本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投薬量のレベルは変動しても良い。選択した投薬量のレベルは、使用される本発明の特定の組成物又はそのアミドの活性、投与経路、投与の時間、使用されている特定の化合物の排出速度、治療の期間、他の薬剤、使用される特定の組成物と組合せて使用される化合物及び/又は材料、治療されている患者の年齢、性別、体重、病気、一般的健康状態及び既往歴等の医療業界では周知の要因を含む、様々な薬物動態学的要因に依存するであろう。
【0072】
医薬組成物は、任意の好適な経路及び様式によって投与され得る。in vivo及びin vitroでの、本発明のヒト化又はキメラ抗体を投与する好適な経路は、当該技術分野において
周知であり、当業者によって選択され得る。
【0073】
一実施形態においては、本発明の医薬組成物は非経口で投与される。本明細書において用いられる場合、表現「非経口投与」及び「非経口投与される」は、通常、注射による、腸内投与及び局所 (topical)投与以外の投与の様式を意味し、表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、局所 (local)注射、経気管、皮下、表皮下(subcuticular)、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外並びに胸骨内の注射及び注入が挙げられる。
【0074】
一実施形態においては、医薬組成物は、静脈内又は皮下への注射又は注入によって投与される。本発明の医薬組成物はまた、選択した投与経路にとって適切である、例えば、医薬組成物の保存可能期間又は有効性を増大し得る、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、保存剤又は緩衝剤等の1以上の補助剤を含み得る。本発明のヒト化又はキメラ抗体は、急速
な放出から化合物を保護するであろう担体と共に調製され得る (例えばインプラント、経皮パッチ及びマイクロカプセル封入送達システムを含む徐放製剤等)。そのような担体と
しては、ゼラチン、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸等の生分解性、生体適合性のポリマー(単独若しくはワックスを伴う)又は当該技術分野において周知である他の物質が挙げられ得る。一般的に、そのような製剤を調製するための方法は、当業者に公知である。
【0075】
一実施形態においては、本発明のヒト化又はキメラ抗体は、in vivoでの適切な分布を
保証するために製剤化し得る。非経口投与用の医薬的に許容される担体としては、滅菌された水性の溶液又は分散液、及び滅菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。医薬的に活性な物質のためのそのような媒体及び剤の使用は、当該技術分野において公知である。任意の従来の媒体又は剤が活性化合物と不適合である場合を除き、本発明の医薬組成物中でのそれらの使用が期待される。他の活性化合物又は治療化合物がまた、組成物中に取り込まれ得る。
【0076】
典型的には、注射用の医薬組成物は製造及び保存の条件下で、滅菌されており、安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロ乳化剤、リポソーム、又は高濃度の薬剤に好適な他の規則的な構造として製剤化され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール (例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及
びそれらの好適な混合物、例えばオリーブオイル等の植物油、並びに例えばオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルを含む、水性又は非水性の溶媒又は分散媒であり得る。例、例えばコーティング剤として適用し得るレシチン等の乳化剤の使用によって、分散液のケースにおける必要な粒子サイズを維持することによって、及び界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。多くのケースにおいては、組成物中に等張剤、例えば、糖、例えばグリセロール等のポリアルコール、マンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期の吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸塩及びゼラチンを、組成物中に含めることによって、もたらされ得る。滅菌注射溶液は、例、上記において列記した通り、1成分の又は
成分を組合せた、適切な溶媒中で、必要とされる量で活性化合物を取り込むことによって、必要に応じて、続く滅菌精密ろ過によって調製され得る。一般的に、分散剤は、活性化合物を、基本分散媒及び、例、上記において列記したもの、に由来する必要とされる他の成分を含む、滅菌したビヒクル中に取り込むことによって、調製される。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末のケースにおいては、調製の方法の例は、既にろ過滅菌したその溶液に由来する有効成分及び任意の追加的な望ましい成分の粉末を産生する、吸引乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥(lyophilization))である。
【0077】
滅菌注射溶液は、上記において列記した、1成分の又は成分を組合せた、適切な溶媒中
で、必要とされる量で活性化合物を取り込むことによって、必要に応じて、続く滅菌精密ろ過によって調製され得る。一般的に、分散剤は、基本分散媒及び上記において列記したものに由来する他の必要な成分を含む滅菌ビヒクルに、活性化合物を取り込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末のケースにおいては、調製方法の例は、既にろ過滅菌したその溶液に由来する有効成分及び任意の追加的な望ましい成分の粉末を産生する、吸引乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥(lyophilization))である。
【0078】
D. 治療用途
キメラ抗体は、治療用途のために開発された。そのような治療法に関連する代表的な刊行物としては、いずれも参照により全体が取り込まれる、Chamowら、1996、Trends Biotechnol. 14:52-60;Ashkenaziら、1997、Curr. Opin. Immunol. 9:195-200、Craggら、1999、Curr. Opin. Immunol. 11:541-547;Glennieら、2000、Immunol. Today 21:403-410、McLaughlinら、1998、J. Clin. Oncol. 16:2825-2833、及びCobleighら、1999、J. Clin.
Oncol. 17:2639-2648が挙げられる。現在、抗がん療法については、死亡率における任意のわずかな改善が成功を定義する。本明細書において開示された、あるIgG変異体は、標
的とするがん細胞の更なる増殖を制限するか、又はそれを少なくとも部分的に破壊する抗体の能力を増大している。
【0079】
抗体の抗腫瘍効能は、例えばADCC、ADCP及びCDC等の細胞傷害性エフェクター機能を媒
介する能力を増大することを介する。例としては、両方が、参照により全体が取り込まれる、Clynesら、1998、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:652-656;Clynesら、2000、Nat. Med. 6:443-446、及びCartronら、2002、Blood 99:754-758が挙げられる。
【0080】
ヒトIgG1は、治療目的のために最も一般的に使用される抗体であり、工学研究の大部分は、この文脈において構成されている。しかしながら、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む、IgGのクラスの様々なアイソタイプは、特有の物理的、生物学的及び臨床的な特性を有
している。当該技術分野においては、改良されたIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4変異体を設計するニーズが存在する。ネイティブのIgGポリペプチドと比較して、FcRnに対する結合を
改善するために、及び/又はin vivoでの半減期を増加させるために、そのような変異体
を設計する更なるニーズが存在する。本出願は、これらの及び他のニーズを満たしている。
【0081】
更なる実施形態としては、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を、HDGFとVEGFの発現、若しくはHDGFとTGFβの発現、又はVEGF及びTGFβの両方の発現を下方制御する量で、被検体に投与することによって、被検体における過剰増殖性細胞の増殖を低減する方法であって、過剰増殖性細胞の異常増殖を低減するのに効果的な方法が挙げられる。これらの抗体の混合物 (即ち、H3K+H3T)、又は例えばセツキシマブ(cetuximab)若しくはハーセプチン(Herceptin)等の他の抗体ベースの薬剤と共に、共投与することがで
きる。幾つかの実施形態においては、過剰増殖性細胞は、線維芽細胞、又はがん細胞、又は血管内皮細胞であり得る。がん細胞は、肺、膵臓、結腸、卵巣、肝臓、神経膠芽腫及び扁平上皮がんからなる群から選択され得る。
【0082】
幾つかの実施形態においては、肝がん由来増殖因子(HDGF)特異的な二機能性抗体を投与することによって、HDGFとVEGFの発現、又はHDGFとTGFβの発現の同時低減を、それを
必要とする被検体においてする、方法が提供される。必要とする被検体は、間質性肺疾患、ケロイド、肺線維症、特発性肺線維症、肺がん、膵臓がん、結腸がん、卵巣がん、肝臓がん、神経膠芽腫、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症及び扁平上皮がんからなる群から選択される過剰増殖状態に罹患している。
【0083】
別の態様においては、本発明は、疾患の治療において使用するための、本明細書に記載された任意の態様又は実施形態において定義された通りの、本発明のヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物に関する。
【0084】
本発明のヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物は、任意のがんの治療において(as in)使用され得る。例えば、ヒト化又はキメラ抗体は、例えば、がん、炎症又は自己
免疫障害等の障害を治療又は予防するために、培養液中、細胞に対して、例、in vitro若しくはex vivoで、又はヒト被検体に対して、例、in vivoで、投与し得る。本明細書において用いられる場合、用語「被検体」は、典型的には、ヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物に応答するヒトである。被検体としては、例えば、標的機能を調節することによってか、又は直接的若しくは間接的に細胞の死滅を導くことによって、矯正(corrected)又は改善(ameliorated)し得る障害を有するヒト患者が挙げられ得る。
【0085】
別の態様においては、本発明は、例えばケロイド又は肺線維症又は糖尿病性網膜症、又は加齢黄斑変性症等の過剰増殖状態の治療又は予防をするための方法であって、前記方法が治療有効量の本発明のヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物を、それを必要とする被検体に投与することを含む、方法を提供する。典型的には、該方法は、ヒト化又はキメラ抗体を、障害を治療又は予防するために効果的な量で、被検体に投与することを含む。
【0086】
特定の一態様においては、本発明は、肺がんの治療をする方法であって、本明細書に記載された任意の態様及び実施形態において定義された通りの、本発明のヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物を、それを必要とする被検体に投与することを含む、方法に関する。
【0087】
別の態様においては、本発明は、本明細書に記載された任意の態様又は実施形態において定義された通りの使用又は方法であって、前記ヒト化又はキメラ抗体が、VEGF若しくはTGFβ又はその両方(both VEGF or TGFβ or both)、及びがん特異的な標的、又は例え
ば、HDGF等の、がんで過剰発現されているか、又はがんと関連する標的に、特異的に結合する二機能性抗体であり、前記疾患が、例えば乳がん、前立腺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、卵巣がん、胃がん、結腸直腸がん、食道がん、並びに頭部及び頸部の扁平上皮がん、子宮頸がん、膵臓がん、精巣がん、悪性メラノーマ、軟組織がん (例、滑膜肉腫)、
不活性の又は悪性の(indolent or aggressive)形態のB細胞リンパ腫、慢性リンパ性白
血病又は急性リンパ性白血病等の、がんである、使用又は方法に関する。
【0088】
E. 投薬量及び投与
ヒト化又はキメラ抗体にとっての効率的な投薬量及び投薬レジメンは、治療される疾患又は病気に依存し、当業者が決定し得る。
【0089】
当該技術分野において通常の技能を有する臨床医は、必要な医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方し得る。例えば、臨床医は、医薬組成物中で使用されるヒト化又はキメラ抗体の投薬を、望ましい治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで開始することができ、望ましい効果が得られるまで、投薬量を次第に増加させることができる。一般的に、本発明の組成物の好適な用量は、特定の投薬レジメンに従って、治療効果を生成するために効果的な最も低い用量である、ヒト化又はキメラ抗体の量であろう。そのような有効用量は、一般的に上記の要因に依存するであろう。
【0090】
例えば、治療用途のための「有効な量」は、疾患の進行を安定化するその能力によって、測定し得る。化合物の、がんを阻害する能力は、例えば、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデルの系において評価し得る。代替的には、組成物のこの特性は、技能を有
する臨床医に公知であるin vitroアッセイによって、細胞の増殖を阻害するか、又は細胞傷害性を誘導する、ヒト化又はキメラ抗体の能力を試験することによって評価し得る。治療有効量の治療化合物、即ち、本発明によるヒト化若しくはキメラ治療抗体、又は医薬組成物は、腫瘍サイズを低減し得るか、又は別の方法で被検体における症状を改善し得る。当業者は、例えば被検体の大きさ、被検体の症状の重篤度、及び特定の組成物又は選択した投与の経路等の要因に基づいて、そのような量を決定することができる。
【0091】
本発明のヒト化又はキメラ抗体の例示的で限定されない治療有効量の範囲は、約0.001
~30 mg/kg、例えば約0.001~20 mg/kg等、例えば約0.001~10 mg/kg等、例えば約0.001
~5 mg/kg等、例えば、約0.001~2 mg/kg、例えば約0.001~1 mg/kg等、例えば、約0.001、約0.01、約0.1、約1、約5、約8、約10、約12、約15又は約18 mg/kgである。
【0092】
上記の治療方法及び使用における投薬レジメンは、最適で望ましい応答 (例、治療応答)を提供するために調整されている。例えば、単回のボーラスが投与され得、数回に分け
られた用量が経時的に投与され得、又は用量は治療状況の緊急性によって、症状に応じて、比例的に減少若しくは増加させ得る。
【0093】
一実施形態においては、治療の効能は、治療の期間、例、所定の時点でモニタリングされる。
【0094】
望ましい場合、医薬組成物の一日の有効用量は、1日間に亘って適切な間隔を空けて、
別々に投与される、2、3、4、5、6以上の副次的用量として、任意選択で、単位剤型で、
投与され得る。別の実施形態においては、ヒト化若しくはキメラ抗体、又は医薬組成物は、望ましくない任意の副作用を最小化するために、例えば24時間超等の長期間に亘るゆっくりとした継続的な注入によって投与される。
【0095】
本発明のヒト化又はキメラ抗体を単独で投与することが可能である一方で、上記のように医薬組成物として、医薬的に許容される担体と共にヒト化又はキメラ抗体を投与することが好ましい。
【0096】
有効用量の本発明のヒト化又はキメラ抗体はまた、週1回、2週に1回又は3週に1回の投
薬期間を使用して投与され得る。投薬期間は、例、8週間、12週間又は臨床的な向上が確
立されるまでに制限され得る。代替的には、有効用量の本発明のヒト化又はキメラ抗体は、2週間毎、3週間又は4週間毎に投与され得る。好ましい投与は、1~3週間毎に、5~25 mg/kgである。
【0097】
一実施形態においては、ヒト化又はキメラ抗体は、mg/m2で計算した1週間当たりの投薬量で、注入によって投与され得る。そのような投薬量は、例えば、mg/kgの投薬量に基づ
き得る。そのような投与は、例、1~8回、例えば3~5回等、繰り返し得る。投与は、2~24時間、例えば2~12時間の期間等に亘り、継続的な注入によって実行し得る。一実施形態においては、ヒト化又はキメラ抗体は、有害な副作用を低減するために、例えば24時間超等の長期間に亘り、ゆっくりとした継続的な注入によって投与され得る。
【0098】
一実施形態においては、ヒト化又はキメラ抗体は、1週間に1回投与される場合、8回ま
で、例えば4~6回等、固定用量として計算された1週間当たりの投薬量で投与され得る。
そのようなレジメンは、必要に応じて、1回以上、例えば、6カ月後又は12カ月後に繰り返し得る。そのような固定用量は、例えば、70 kgの推定体重を用いて、上記で提供されるmg/kgの投薬量に基づき得る。投薬量は、例えば、生物学的試料を取り出し、本発明のヒト化又はキメラ抗体の結合領域を標的とする抗イディオタイプ抗体を使用して、投与の際の血中における本発明のヒト化又はキメラ抗体の量を測定することによって、決定又は調整
し得る。
【0099】
一実施形態においては、ヒト化又はキメラ抗体は、例、例えば6カ月以上の期間に亘っ
て、1週間に1回等の、維持療法によって投与され得る。
【0100】
ヒト化又はキメラ抗体はまた、がんの発生のリスクを低減するため、がんの進行におけるイベントの発生開始を遅延させるため及び/又はがんが寛解している場合には再発のリスクを低減するため予防的に、投与され得る。
【0101】
非経口組成物は、投与の容易さ及び投薬量の均一性のために単位剤型に製剤化し得る。本明細書において用いられる場合、単位剤型は、治療される被検体にとって、単位投薬量として適した物理的に分かれた単位を指し;各単位は、必要な医薬的な担体との関連で望ましい治療効果を生成するために計算された、所定量の活性化合物を含む。本発明の単位剤型のための仕様は、(a) 活性化合物の特有の性質及び達成される特定の治療効果、及び(b) 個体における過敏症(sensitivity)の治療のために、そのような活性化合物を配合
することの、当該技術分野において固有の限界によって管理され、直接的に依存する。
【0102】
本発明によるヒト化又はキメラ抗体を含む医薬組成物は、例えば糖尿病性網膜症及び加齢黄斑変性症等の眼の病気の治療のための医薬的に許容される担体、補助剤又はビヒクル中において、溶液、懸濁液、又は局所的な (topical)眼科的投与のための他の投薬形態として製剤化されるであろう。好ましい実施形態としては、製剤化の容易さ、及び病気に冒された眼において1~2滴の溶液によって、これらの組成物を眼に容易に投与できる被検体の能力のために、水溶液が挙げられる。しかしながら、組成物はまた、懸濁液、粘性若しくは半粘性のゲル、又は他の型の固形若しくは半固形の組成物であり得る。製剤中に含められ得る追加的な成分としては、担体、等張化剤、防腐剤、可溶化剤、無毒な賦形剤、鎮痛剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、共溶媒、及び増粘剤が挙げられる。
【0103】
ヒト化又はキメラ抗体はまた、過剰増殖状態 (例、肺線維症、ケロイド、間質性肺疾患及び肺がん)の発症のリスクを低減するため、がんの進行におけるイベントの発生開始を
遅延させるため及び/又はがんが寛解している場合には再発のリスクを低減するため、予防的に、投与され得る。このことは、他の生物学的要因のために、存在することが知られる腫瘍を見つけることが困難である患者においては、特に有用であり得る。
【0104】
F. 診断への適用
本発明のヒト化又はキメラ抗体はまた、本明細書に記載された通り、ヒト化又はキメラ抗体を含む組成物を使用して、診断目的のために使用され得る。従って、本発明は、本明細書に記載されたヒト化又はキメラ抗体を使用する、診断方法及び組成物を提供する。そのような方法及び組成物は、例えば疾患を検出する又は特定するといった、純粋な診断目的のため、及び治療的な処置の進行をモニタリングする、疾患の進行をモニタリングする、治療後の状態を評価する、疾患の再発をモニタリングする、疾患の発症のリスクを評価する等のために使用し得る。
【0105】
一態様においては、本発明のヒト化又はキメラ抗体は、例えば、目的の、及びヒト化又はキメラ抗体が結合する、特異的な標的を発現している細胞が疾患の指標であるか又は病因に関与する疾患を診断することにおいて等、ex vivoで、患者から採取した試料中の標
的のレベル又は細胞表面上に、所望の標的を発現している細胞のレベルを検出することによって、使用される。このことは、例えば、抗体が標的に結合することが可能となる条件下で、テストされる試料を、任意選択で、対照試料と共に、本発明によるヒト化又はキメラ抗体と接触させることによって、達成され得る。次いで、複合体の形成が検出され得る(例、ELISAを使用して)。テスト試料と共に対照試料を使用する場合、両方の試料中に
おける、ヒト化若しくはキメラ抗体、又は抗体標的複合体のレベルが分析され、対照試料と比較して、テスト試料中におけるヒト化若しくはキメラ抗体、又は抗体標的複合体のレベルが統計的に有意により高いことが、テスト試料中の標的のレベルがより高いことを示す。
【0106】
本発明のヒト化又はキメラ抗体が使用され得る、従来の免疫アッセイの例としては、限定されないが、ELISA、RIA、FACSアッセイ、プラズモン共鳴アッセイ、クロマトグラフィーアッセイ、組織免疫組織化学、ウェスタンブロット、及び/又は免疫沈降、マイクロアレイを含む免疫蛍光アッセイ法が挙げられる。
【0107】
従って、一実施形態においては、本発明は、HDGF発現細胞の関与又は蓄積によって特徴付けられる疾患の診断方法であって、本明細書に記載された任意の態様又は実施形態による抗体、二重特異的な抗体、組成物又は医薬組成物を、被検体に投与することを含み、任意選択で、該抗体が検出可能な標識によって標識されている、方法に関する。
【0108】
一実施形態においては、本発明は、試料中における、標的又は標的を発現している細胞の存在の検出方法であって、以下:試料中において、ヒト化又はキメラ抗体が標的に結合することができる条件下で、試料を、本発明のヒト化又はキメラ抗体と接触させること;及び複合体が形成されたかどうかを分析することを含む、方法に関する。典型的には、試料は生物学的な試料である。
【0109】
一実施形態においては、試料は、特異的な標的及び/若しくは標的を発現している細胞を含むことが知られるか若しくは含むことが疑われる組織の試料、細胞を含む若しくは含まない非組織試料又は液体である。例えば、標的の発現のin situでの検出は、患者から
組織学的標本を回収すること、及びそのような標本に対して本発明のヒト化又はキメラ抗体を提供することによって、達成され得る。ヒト化又はキメラ抗体は、標本に対して、ヒト化又はキメラ抗体を適用することによってか、又は重層することによって提供し得、次いで、好適な方法を使用して検出される。次いで、標的又は標的発現細胞の存在のみならず、検査した組織中における標的又は標的発現細胞の分布(例、がん細胞の拡がりを評価する文脈において)もまた決定することができる。本発明を使用することによって、当業者は、幅広い組織学的方法のいずれか(例えば染色手順等)を、そのようなin situでの
検出を達成するために改変しても良いことを容易に理解するであろう。
【0110】
上記のアッセイにおいては、ヒト化又はキメラ抗体は、結合した抗体が検出されることを可能にするために、検出可能な物質で標識し得る。代替的には、結合した(一次の)特異的なヒト化又はキメラ抗体が、検出可能な物質で標識され、特異的なヒト化又はキメラ一次抗体に結合する抗体によって検出され得る。更に、上記のアッセイにおいては、本明細書に記載された任意の態様又は実施形態による抗体又は二重特異的な抗体を含む診断組成物を使用しても良い。従って、一態様においては、本発明は、本明細書に記載された任意の態様又は実施形態による抗体又は二重特異的な抗体を含む診断組成物に関する。
【0111】
in vitroでの診断技術において使用される、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体、二次抗体及び/又は基準標的にとって好適な標識としては、限定されないが、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質及び放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ベータ-ガラクトシダ
ーゼ及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ;好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド及びフィコエリトリンが挙げられ;発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ;好適な放射性物
質の例としては、125I、131I、35S及び3Hが挙げられる。
【0112】
G. キット
本発明はまた、上記の障害の治療において使用するためのキット(又は製品)を提供する。本発明のキットには、精製し改変したポリペプチドコンジュゲートを含む、1以上の
容器及び疾患の治療のためにコンジュゲートを使用するための説明書が含まれる。例えば、説明書は、例えばがん(例、結腸、食道、胃、頭部及び頸部、肺、卵巣、又は膵臓のがん)等の疾患を治療するための、改変したポリペプチドコンジュゲートの投与についての説明を含む。キットは、個体が疾患を有するかどうか、及び疾患のステージを特定することに基づいて、治療に好適な個体を選択することの説明を更に含み得る。
【0113】
一般的に、改変したポリペプチドコンジュゲートの使用に関する説明書は、投薬量、投薬スケジュール及び意図される治療のための投与経路についての情報を含む。容器は、単位用量、大量包装(例、複数用量の包装)又は副次的単位用量であり得る。典型的には、本発明のキット中で供給される説明書は、ラベル又は添付文書(例、キット中に含まれる紙のシート)上に記載された説明書であるが、機械で読み取り可能な説明書(例、磁気又は光学保存ディスクに保有される説明書)もまた許容される。
【0114】
本発明のキットは、好適にパッケージングされる。好適なパッケージングとしては、バイアル、ボトル、ビン、可撓性のパッケージング(例、密封マイラー又はプラスチック袋)等が挙げられるが、それらに限定されない。例えば吸入器、経鼻投与デバイス (例、アトマイザー)又は例えばミニポンプ等の注入デバイス等の、特定のデバイスと組合せた、
使用のためのパッケージもまた検討される。キットは、滅菌された点検口を有し得る(例えば、容器は、静脈内輸液バッグ、又は皮下注射針によって貫通できるストッパーを有するバイアルであり得る)。容器はまた、滅菌された点検口を有し得る(例えば、容器は、静脈内輸液バッグ、又は皮下注射針によって貫通できるストッパーを有するバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本明細書に記載された改変されたポリ
ペプチドである。容器は、医薬的に活性な第二の剤を更に含み得る。
【0115】
キットは、任意選択で、例えば緩衝剤及び解釈的な情報等の追加的な構成要素を提供し得る。通常、キットは、容器、及び容器の上の又はそれと関連するラベル又は添付文書(複数可)を含む。
【0116】
従って、一態様においては、本発明は、試料中の増殖因子 (HDGF、VEGF及びTGFβ)の存在を検出するためのキットであって、以下;a) 抗体又は二機能性抗体と、所望の標的と
の複合体の形成が可能となる条件下で、試料を、本発明による抗体又は二重特異的な抗体と接触させること;及びb) 複合体が形成されているかどうかを分析することの工程を含
む、キットを提供する。幾つかの実施形態においては、抗ヒト又は抗マウスIgG抗体は、
結合を検出するために使用し得る。結合を検出するための電子光学的手法を使用し得る、ある種のアレイ又はマイクロ流体デバイス中で、抗体を使用することも可能である。この例は、表面相互作用及び光学又は表面原子間力の走査に基づく、表面プラズモン共鳴又は他の方法である。
【0117】
一実施形態においては、本発明は、がんの診断用のキットであって、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体、及び標的に対する標的特異的なヒト化又はキメラ抗体の結合を検出するための1以上の試薬を含む容器を含む、キットを提供する。試薬としては、例えば、蛍
光タグ、酵素タグ、又は他の検出可能なタグが挙げられ得る。試薬はまた、二次若しくは三次抗体、又は酵素反応用の試薬を含み得、該酵素反応によって可視化され得る産物が生成される。一実施形態においては、本発明は、診断キットであって、好適な容器(複数可)中の、標識の性質に依存する、標識されたか又は未標識の形態の1以上の本発明の標的
特異的なヒト化又はキメラ抗体、間接的なアッセイのインキュベーションのための試薬、及びそのようなアッセイにおける検出のための物質又は誘導体化剤を含む、キットを提供する。対照試薬(複数可)及び使用のための説明書もまた含まれ得る。
【0118】
診断キットはまた、組織試料又は宿主中において標的の存在を検出するための、例えば標識された標的特異的抗体等の、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体を用いた使用のために供給され得る。本明細書の他の箇所に記載された、そのような診断キット及び治療用途のキットにおいては、典型的には、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体は、単独であるか、又は標的細胞若しくはペプチドに特異的な追加的な抗体とコンジュゲートされているかのいずれかで、容器中で凍結乾燥された形態で提供され得る。典型的には、医薬的に許容される担体(例、不活性な希釈剤)及び/又はその成分、例えばトリス、リン酸又は炭酸バッファー等、安定剤、防腐剤、殺生物剤、不活性なタンパク質、例、血清アルブミン等がまた含まれ(典型的には、混合するために別々の容器中で)、並びに追加的な試薬(やはり、典型的には、別々の容器(複数可)中で)が含まれる。あるキットにおいては、典型的には、別々の容器中に存在する、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体に結合することができる二次抗体もまた含まれる。典型的には、二次抗体は、本発明の標的特異的なヒト化又はキメラ抗体と類似する様式で、標識にコンジュゲートされ、製剤化される。上記及び本明細書の他の箇所に記載の方法を使用して、標的特異的なヒト化又はキメラ抗体は、がん/腫瘍細胞のサブセットを定義するため、並びにそのような細胞及び関連する腫瘍組織を特徴付けるために使用し得る。
【0119】
H. 治療剤
抗体にコンジュゲートし得るか、又は本明細書に記載された抗体療法と併せて使用され得る多くの治療剤が利用可能である。実施形態においては、細胞傷害剤、抗血管新生剤、プロアポトーシス剤、抗生物質、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、ケモカイン、薬剤、プロドラッグ、毒素、酵素又は他の剤を含むが、それに限定されない治療剤が、本明細書に記載された抗体/ペプチドリガンド複合体を使用する場合、補助的な療法として使用され得る。本発明において有用である薬剤は、例えば、抗有糸分裂、抗キナーゼ、アルキル化、代謝拮抗物質、抗生物質、アルカロイド、抗血管新生、プロアポトーシス剤及びそれらの組合せからなる群から選択される医薬的な特性を有し得る。他の例としては、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル、ドキソルビシン、シスプラチン(cisplatinum)、リシン(ricin)が挙げられる。
【0120】
説明を目的とする、以下の記載においては、本発明の十分な理解を提供するために、多くの特定の詳細な事項が記載される。しかしながら、これらの特定の詳細な説明なしで本発明が実施され得ることは、当業者にとって明らかであろう。本発明が容易に理解され、実用的な効果をもたらすために、これより、特定の好ましい実施形態が、以下の限定されない実施例によって記載される。
【実施例
【0121】
6. 実施例
本発明は、限定するものとして解釈されるべきでない以下の実施例に記載の実験によって、本明細書において説明される。本出願の全体に亘り引用された全ての参考文献、係属中の特許出願及び公開された特許の内容は、参照することにより本明細書に明確に組み込まれる。当業者は、本発明が、多くの異なる形態において具体化され得、本明細書に記載された実施形態に限定されるものとして解釈されるべきでないことを理解するであろう。むしろ、本開示によって本発明が当業者に完全に伝わるように、これらの実施形態が提供される。前述の説明に示された教示の利益を受ける、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の多くの変形及び他の実施形態に想到するであろう。特定の用語が使用されるが、特に断りのない限り、当該技術分野におけるのと同様に、それらは使用される。
【0122】
実施例1.抗HDGF抗体を分泌するハイブリドーマクローンC1、C4、H3及びL5-9の生成
二機能性抗体ベースの治療ストラテジーを探索するために、ネイティブのHDGFに結合する、表1において既に記載した通りの一団の抗HDGF抗体(HDGF-C1、-C4、-H3及びL5-9)を作製した。幾つかの実施形態においては、抗体はIgG1であり、HDGFを認識し、HDGFの改変した形態若しくは変異体、又はフラグメントを認識し得る。HDGFをコードするcDNAフラグメントをPCR増幅し、pGEX-4-T1 ベクター (GE Health Care、Piscataway、NJ)にクローニングした。得られたプラスミド、pGST-HDGFを使用し、大腸菌株BL21 (DE)3中でGST-HDGF融
合タンパク質を生成した。GSTアフィニティークロマトグラフィーを使用して組換えタン
パク質を精製した。次いで、該融合タンパク質を用いてBalb/cマウスを免疫し、2回追加
免疫を行った。最後の追加免疫から3日後、マウスを屠殺し、脾細胞をP3X63Ag8.653細胞
と融合し、続けて選択培地中で培養した。抗HDGF抗体を分泌するハイブリドーマクローンを特定し、検証した。ラージスケールでの抗体生成のために、ハイブリドーマ細胞を、Nutridoma CS (Roche Applied Science、Indianapolis、IN)を補充したRPMI 1640中で培養
した。プロテインGアガロース(GE Health Care)アフィニティークロマトグラフを使用し
て、抗体を精製した。次いで、精製した抗体を透析し、0.22 μmのフィルターを通して濾過滅菌した。シーケンス分析によって、以下の表2に記載の抗体クローンC1、C4、H3及びL5-9の以下のアミノ酸配列が示された。
【0123】
【表3】
【0124】
実施例2. ヒト化抗HDGF H3抗体 (hH3)
マウスH3の相補性決定領域(CDR)をヒトIgG1フレームワークに移植することによって
、ヒト化抗HDGF H3 (hH3)を作製した。モノクローナル・マウスH3抗体の作製方法は、Ren、H.ら、「Antibodies targeting hepatoma-derived growth factor as a novel strateg
y in treating lung cancer」Mol Cancer Ther. 2009 May;8 (5):1105-1112に記載されている。
【0125】
CDR移植法によって、ヒト化H3 (hH3)モノクローナル抗体を生成するために、H3のヒト
化を行った。通常、齧歯類抗体は、ヒトに対して免疫原性であり得、HAMA (ヒト抗マウス抗体)応答又はアナフィラキシーショックを含む、非常に深刻な副作用を引き起こし得る
。このCDR移植アプローチを用いて、マウスMabの抗原結合部位を作り出すCDRループを、
対応するヒトフレームワーク領域に移植する。最初に、表2に示した通り、H3の軽鎖及び
重鎖の可変配列を決定した。そうするために、H3ハイブリドーマ細胞を遠心分離によって回収し、全RNAを細胞から抽出した。標準的なプライマーセットを使用して、全RNAをcDNA合成に使用し、H3のV領域の遺伝子を増幅し、クローニングし、シーケンスした。
【0126】
選択したヒトフレームワーク配列中に各CDRという合成配列となるように、CDR配列をこれらのVL及びVH中に移植した。哺乳動物の発現ベクターにおいてヒト化H3 IgG1を構築す
るために、pLVBHNベクターを使用した。以下は簡易なベクターマップである。ベクターを幾つかのソースから合成した (例、図9を参照)。しかしながら、それは任意の哺乳動物の発現ベクターから発現させ得る。組換え抗体の発現用ベクターの骨格は、LTR、psi、RRE
、WPREを含むpTRIPZ (Open biosystems又はGE Dh治療群acon)から改変されており;CMVプロモーターはpHTN (Promega)に由来する。しかしながら、組換え抗体を発現させるために、任意の哺乳動物の発現ベクターを使用し得る。InvitrogenのExpi293システムを使用し
て、一過性のトランスフェクションを使用した。配列は以下において提供される;CDRは
太字で強調されている。
【0127】
2.1 ヒト化H3重鎖可変領域、成熟配列。配列番号17。
【0128】
【化5】
【0129】
2.2 ヒト化H3軽鎖可変領域、成熟配列。配列番号18。
【0130】
【化6】
【0131】
2.3 ヒト化H3重鎖、成熟配列。配列番号19。
【0132】
【化7】
【0133】
2.4 ヒト化H3軽鎖、成熟配列。配列番号20。
【0134】
【化8】
【0135】
実施例3:キメラH3抗体 (cH3)の構築
マウス抗HDGF H3の可変領域をヒトIgG1 定常領域と融合することによって、キメラH3を構築した。配列は以下において提供される;ヒトIgG1定常領域は太字で強調されている。
【0136】
表3. マウス由来の可変領域とヒトIgG1定常領域とを有するキメラH3配列
3.1 重鎖。配列番号21。
【0137】
【化9】
【0138】
3.2 軽鎖。配列番号22。
【0139】
【化10】
【0140】
実施例4:キメラ二機能性抗体H3K及びH3Tの構築
抗HDGFハイブリドーマを生成する方法
フロイントアジュバント中の組換えHDGFを用いて、Balb/cマウスを免疫した。免疫した動物由来の脾細胞をP3x63Ag8.653細胞と融合させ、培養上清中のHDGF反応性についてスクリーニングした。陽性クローンを特定し、がん細胞溶解物及び精製HDGFのイムノブロット分析によって抗HDGF抗体の分泌を確認した。
【0141】
抗HDGF抗体のアミノ酸配列の決定
抗HDGF抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、cDNAへと逆転写した。Ig 可変領域を増幅するために設計したプライマー (Larrick, J.W.ら、1989. Biochem. Biophys. Res. Comm. 160, 1250。Jones、S.T. and Bendig, M.M. 1991. Biotechnology 9, 88。)を使用して、マウスIgの重鎖及び軽鎖をコードするcDNAを増幅した。増幅した産物をクローニングし、シーケンスした。http://www.bioinf.org.uk/abs/に記載された通りに、マウスIg
の重鎖及び軽鎖並びにCDRをコードするcDNA配列を特定した。
【0142】
キメラ抗体の生成
標準的な分子生物学技術によって、マウス抗体の可変領域 (VH及びVL)をコードするDNAフラグメントを、それらのヒトIgG1カウンターパート(count part)の定常領域N末端に
移植し、それぞれ哺乳動物の発現ベクターにクローニングした。キメラ抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを、Expi293細胞 (Invitrogen)に、1:2の比で共トランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフによって、馴化
培地から抗体を精製した。
【0143】
マウス抗HDGF抗体H3のヒト化
Martin A.C.R. (http://www.bioinf.org.uk/abs/)によって記載された通りに、マウスIgの重鎖及び軽鎖並びにCDRをコードするcDNA配列を特定した。次いで、ヒトIg G1 Vh中のCDRを、対応するマウスCDRで置換することによって、ヒト化抗HDGF Vh配列を作製した。
次いで、ヒト化配列をコードするDNA配列を合成し、ヒトIgG1重鎖定常領域のN末端に移植し、哺乳動物の発現ベクターにクローニングし、ヒト化Ig重鎖の発現コンストラクトを生成する。同様に、ヒト化VL発現コンストラクトを作製した。ヒト化抗HDGF抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを使用して、1:2の比でExpi293細胞をト
ランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフによって、馴化培地か
ら抗体を精製した。
【0144】
Fc融合増殖因子結合領域 (GFトラッパー)の構築
Fc-VEGFトラッパーの構築:ヒトVEGF受容体2 (キナーゼ挿入ドメイン受容体)のドメイ
ン2及び3 (D2及びD3)に対応するDNAフラグメント、アミノ酸残基122~残基327 (NP_002253に基づく)を、HEK293 cDNAから増幅した。増幅した配列を、ポリGlySerリンカー(GlyGlyGlyGlySer)2又は(G4S)2を介して、ヒトIgG1重鎖のC末端で融合した。完全長の抗HDGF抗体の重鎖-VEGFトラッパー配列を哺乳動物の発現プラスミドにクローニングした。
【0145】
Fc-TGFBトラッパーの構築:ヒトTGFBR2細胞外ドメインに対応するDNAフラグメント、アミノ酸残基27~残基184 (NP_001020018に基づく)を、ヒト肺cDNAから増幅した。増幅した配列を、ポリGlySerリンカー、(GlyGlyGlyGlySer)2又は(G4S)2を介して、ヒトIgG1重鎖のC末端で融合した。完全長の抗HDGF抗体の重鎖-TGFBトラッパー配列を哺乳動物の発現プラスミドにクローニングした。
【0146】
組換え抗体 (キメラ及びトラッパー)の生成
組換え抗HDGF抗体を生成するために、重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドをExpi293
細胞 (Invitrogen)に1:2の比で共トランスフェクトした。プロテインGアフィニティークロマトグラフによって、馴化培地から抗体を精製した。
【0147】
実施例5. H3Kキメラ二機能性抗体を用いたMDA-2131-8 PDX細胞の処理
分化に乏しい肺腺がんのヒト患者に由来する腫瘍ゼノグラフ(xenograph)(PDX)モデル2131-8を、無胸腺ヌードマウスの脇腹に移植した。図3に示す通り、樹立した腫瘍 (1群当たり、150~400 mm3、10腫瘍)を化学療法、又は化学療法と抗体の組合せレジメンで治療
した。治療群A:PBS;治療群B:ゲムシタビン、1.2mg/kg;治療群C:ゲムシタビン1.2 mg/kg及び12.5mg/kgの抗HDGF H3;治療群D:ゲムシタビン 1.2 mg/kg 及び12.5mg/kgの抗HDGF H3/VEGFトラッパー(H3K)。腫瘍が退縮するまでか、又は過剰な腫瘍による負荷のた
めに屠殺するまで、3日毎に薬剤を腹腔内に投与した。図3に示す通り、H3K二機能性抗体
は、延長した腫瘍の寛解を誘導する。ジェムザール及び抗体を投与した動物における、完全な腫瘍寛解の後に、治療を終了した。治療の再発をモニタリングした。治療群C:ジェ
ムザール及び抗HDFG H3で治療した;治療群D:ジェムザール及び抗HDGF/VEGFトラッパー
(H3K)で治療した。図4は、抗HDGF及び化学治療における延長した寛解、並びにh3k及び
化学治療群における再発がなお一層少ないことを示す。
【0148】
実施例6. ブレオマイシン治療は肺線維症を誘導した
図5は、麻酔下で、ブレオマイシン (動物1匹当たり36ug)を、C57/B6マウス (5~6週齢
、1群当たり7匹)の気管内に投与した後のマウスの生存についての結果を示す。以下の処
理群:1) マウス抗HDGF H3及び抗HDGF C1を各々125ug (H3+C1);2) 抗HDGF H3を250ug及
びアバスチンを100 μg (H3+A);3) PBS、において、24時間後に抗体を腹腔内に投与した。その後、3日毎に、合計6用量について治療を施した。毎日、動物をモニタリングした。図6において提供されたデータについては、以下の処理群:1) 抗HDGF H3及び抗HDGF C1を各々125ug (H3+C1);2) キメラ抗HDGF H3/VEGFトラッパー及び抗HDGF C1を各々125ug (H3K+C1);3) キメラ抗HDGF H3/TGFBトラッパー及び抗HDGF C1を各々125ug;4) PBS対照群 (PBS)に従って、マウス (5~6週齢、1群当たり7匹)を、抗体の腹腔内投与でプライミングした。24時間後に、麻酔下でブレオマイシン (動物1匹当たり36ug)を気管内に投与した。3日目に、再び抗体を投与し (ブレオマイシン注入の24時間後)、その後、3日毎に、合計7用量 (プライミングを含む)について投与した。毎日、動物をモニタリングした。これら
のデータは、ブレオマイシン注入の前又は後の、抗HDGF抗体の投与が、発症を遅らせ、肺線維症による動物の死亡率を低減したことを示す。図7は、マウス肺における、ブレオマ
イシン治療後の高レベルで維持されたHDGFの発現を示す。図8は、ブレオマイシンで治療
した動物における組織学的変化を示す。ブレオマイシン治療後のマウス肺における線維芽細胞の過剰増殖は、治療しなかったか、又は偽の(PBS)治療を行った動物においてみられ
た(図8B及び図8C)一方で、抗HDGFによる治療は肺線維症の重篤度を低減する。
【0149】
実施例7. 抗がん治療に対するヒトNSCLC PDX腫瘍MDA274の応答
ヒトNSCLC PDX腫瘍MDA274を有するヌードマウスを抗がん治療に供した。上記の実施例5に記載した方法を使用して、やはり分化に乏しい肺の腺がんである、2人目の異なるヒト
患者に由来する腫瘍ゼノグラフ(PDX)モデルを、無胸腺ヌードマウスの脇腹に移植した。
薬剤を3日毎に投与した。
【0150】
図11に示す通り、樹立した腫瘍(1群当たり10腫瘍)を、化学療法、又は化学療法と抗体
の組合せレジメンで治療した。腫瘍体積を3日毎に測定した。図11Aは、5つの治療レジメ
ン後の平均腫瘍体積のまとめを示す。菱形は陰性対照 (PBS)治療を示し;四角は化学療法
(ゲムシタビン、50 mg/kg、及びペメトレキセド、30 mg/kg)を示し;三角は上記の化学
療法及び抗VEGF抗体、12.5 mg/kgを示し;Xは上記の化学療法及び抗HDGF抗体、12.5 mg/kgを示し;アスタリスクは上記の化学療法及びH3K (抗HDGF/抗VEGF二機能性抗体)12.5 mg/kgを示す。
【0151】
図11B及び図11Cは、上記の化学療法及び抗VEGF 抗体 (図11B)、並びに上記の化学療法
及びH3K抗HDGF/抗VEGF二機能性抗体からなる治療を行った、個々のマウスの腫瘍体積を示す。進行がみられない生存は、いつも決まって、化学療法 (ゲムシタビン/ペメトレキセ
ド)及びH3K群において観察された(図11Cを参照)。
【0152】
実施例8. 免疫組織化学的染色
MDA 2131-8 (PDX) 腫瘍を有するマウスを、腫瘍体積が30%及び70%減少した時点で安楽
死させ、腫瘍を切除した (約500 mm3)。従って、体積が30%及び70%減少した腫瘍組織を回収した。
【0153】
以下の通り、組織を調製した。組織を4%ホルムアルデヒド-PBS中で固定し、パラフィン中に包埋した。包埋した組織から4ミクロン (4μm)の切片を切り出し、Superfrost(登録商標)プラスマイクロスコープスライド上にマウントした。スライドを55℃でベーキングし、キシレン中で脱パラフィンし、続けて段階的な濃度のアルコール溶液中で再水和した。次いで、抗原を賦活化するためにスライドを100℃で30分間、50 mM Tris-HCl、pH 8.5
中で処理し、3%の過酸化水素中で急冷し(quenched)、1%ヤギ血清中でブロッキングした。製造業者が推奨する希釈 (1:100~1:1000)で、一次抗体を添加し、4℃で終夜、組織
切片と共にインキュベートした。その次の日、PBSを用いて切片を洗浄し、次いで発色剤
としてジアミノベンジジン(DAB)を使用して、VECTORSTAIN ABC(登録商標)HRPキット
又はVector MOM Elite(登録商標)HRPキットを用いて、製造業者の標準的なプロトコー
ルに従って発色させた。発色させた切片を、ヘマトキシリンで対比染色し、段階的な濃度のアルコール及びキシレン中で脱水し、Permount(登録商標)マウンティング剤中でマウントした。結果は、20×の倍率で図12図13及び図14中に示す。
【0154】
図12については、Cell Signaling Technology(登録商標)CST3579の抗SOX2抗体を用いてMDA2131-8組織を染色した。図12A:処理ナイーブ腫瘍;図12B:ゲムシタビン及び抗VEGF処理、腫瘍体積30%減少時;図12C:ゲムシタビン及びH3K二機能性抗体処理、腫瘍体積30%減少時。これらの結果は、抗VEGF処理と比較して、H3Kで処理した試料についてのSOX2陽性腫瘍細胞の有意な減少を示す。SOX2は分化していない胚性幹細胞の細胞の複製を維持するために必須な幹細胞因子である。それは、幾つかのがん細胞で再発現し、より侵襲的な腫瘍表現型及び薬剤耐性と相関している。
【0155】
図13については、MDA2131-8組織を、Abcam(登録商標)ab81289の抗CD34抗体を用いて
染色した。図13A:処理ナイーブ腫瘍;図13B:ゲムシタビン及び抗VEGF処理で腫瘍体積70%減少時;図13C:ゲムシタビン及びH3K二機能性抗体処理、腫瘍体積70%減少時。CD34は、造血及び間葉幹細胞、並びに内皮前駆細胞のマーカーである。それゆえ、これらの結果は、抗VEGFを用いて処理した腫瘍において有意な量のCD34陽性の血管系が残っている一方で、H3K処理した腫瘍においては、無傷のCD34染色血管系が見られなかったことを示す。
【0156】
図14については、MDA2131-8組織を、Invitrogen(登録商標)170700の抗CD31抗体を用
いて染色した。図14A:処理ナイーブ腫瘍;図14B:ゲムシタビン及び抗VEGF処理、腫瘍体積70%減少時;図14C:ゲムシタビン及びH3K二機能性抗体処理、腫瘍体積70%減少時。CD31は内皮細胞のマーカーである。それゆえ、これらの結果は、抗VEGFを用いて処理した腫瘍において有意な量のCD31陽性の血管系が残っている一方で、H3K処理した腫瘍においては
、無傷のCD31染色血管系が見られなかったことを示す。
【0157】
参考文献
本明細書で引用した全ての参考文献は、参照することにより、全体が本明細書に取り込まれる。
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
【配列表】
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