(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
G01M7/02 J
(21)【出願番号】P 2021517104
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(86)【国際出願番号】 CN2020084541
(87)【国際公開番号】W WO2020216092
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】201910332626.5
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519211959
【氏名又は名称】上海理工大学
【氏名又は名称原語表記】University Of Shanghai For Science And Technology
【住所又は居所原語表記】China District, Shanghai, Yangpu, Jungong Road, No.516
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杜 妍辰
(72)【発明者】
【氏名】張 洪源
(72)【発明者】
【氏名】林 俊文
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103383298(CN,A)
【文献】NORDMARK, Arne et al.,Simulation and stability analysis of impacting systems with complete chattering,Journal of Computational and Nonlinear Dynamics,米国,American Society of Mechanical Engineers (ASME),2009年,Vol. 58, No. 1,pp. 85-106,[検索日2022.04.11]インターネット:<URL : https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-01304375/document>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00- 7/08
G06F 17/00-17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの質量体がいずれも固定的に拘束されない状況の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方であって、
第1解モデルを確立し、第1解モデル及びモデル入力パラメータに基づき、フラッター終了時刻t
∞のパラメータを取得するステップS2と、
第2解モデルを確立し、第2解モデル及びモデル入力パラメータ
に基づき、フラッター終了時刻t
∞時の2つの質量体の位置パラメータx
∞、y
∞を取得するステップS3と、
ことを特徴とする非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方。
【請求項2】
ステップS2において、第1解モデルは
である
ことを特徴とする請求項1に記載の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方。
【請求項3】
ステップS3において、第2解モデルは
である
ことを特徴とする請求項1に記載の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方。
【請求項4】
ステップS4において、第3解モデルは
である
ことを特徴とする請求項1に記載の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方。
【請求項5】
前記反発係数の値は0~1の範囲をとる
ことを特徴とする請求項1に記載の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了時のパラメータの求め方。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的運動数値シミュレーションの分野に属し、特に非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突は、機械的な運動の過程で避けられない現象である。復元力の作用により、繰り返しの小さな振幅の衝突が発生することがよくあり、一般的にフラッターと呼ばれる。フラッター過程は、2つの衝突質量体が完全に同期運動して粘性を生じるまで続き、完全フラッターと呼ばれる。完全フラッターは、数え切れない回数衝突することを意味し、数値シミュレーションに大きな困難をもたらし、主に以下のように表現する。(1)フラッター振幅が小さく、数値シミュレーション丸め誤差が大きい。(2)衝突の回数が多く、エンドレスループに入りやすい。(3)小さい振幅の衝突を無視すると、発生する誤差は無視できなくなる。現在、固定拘束付きの衝突、すなわち衝突に関与する両質量体のうちの一方が固定されて動かない場合に対し、予備的な解決策がある。
【0003】
しかし、最も一般的な二重衝突質量体はいずれも固定的に拘束されない状況に対し、その運動過程が複雑であるため、非常に簡略化された方法でシミュレーションすることがよく使用され、以下の欠陥をもたらす。(1)小さいフラッター運動を直接無視し、最終結果の誤差が大きくなる。(2)上記の比較的小さいフラッター運動のために計算時間を増加させ、計算時間が長く、効率が低い。そのため、現在、シミュレーション過程における欠陥を解決する効果的な方法がなく、非固定拘束フラッターシミュレーションの問題は、既に衝突研究の分野における技術的なネックとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フラッター過程をスキップしてフラッター終了の時刻とこの時刻での2つの衝突質量体の位置及び速度とを直接取得することができ、それによりシミュレーション計算がエンドレスループを超えて計算精度を大幅に向上させることができる非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方を提供することである。上記目的を達成するために、本発明が採用した技術的解決手段は以下のとおりである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方であって、
フラッター時刻t0時のモデル入力パラメータを取得し、前記モデル入力パラメータは2つの質量体の質量比、各質量体の位置座標、速度、加速度及び反発係数を含み、前記質量比及び反発係数はいずれも定数であるステップS1と、
第1解モデルを確立し、第1解モデル及びモデル入力パラメータに基づき、フラッター終了時刻t∞のパラメータを取得するステップS2と、
第2解モデルを確立し、第2解モデル及びモデル入力パラメータを基づき、フラッター終了時刻t∞時の2つの質量体の位置パラメータを取得するステップS3と、
第3解モデルを確立し、第3解モデル及びモデル入力パラメータを基づき、フラッター終了時刻t∞時の2つの質量体の速度パラメータを取得するステップS4と、を含む
ことを特徴とする非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方。
【0006】
好ましくは、ステップS2において、第1解モデルは
である。
【0007】
好ましくは、ステップS3において、第2解モデルは
である。
【0008】
好ましくは、ステップS4において、第3解モデルは
である。
【0009】
好ましくは、前記反発係数の値は0~1の範囲をとる。
【発明の効果】
【0010】
従来技術と比べ、本発明の利点は、あるフラッター時刻から数値シミュレーションを直接継続して終了し、フラッター過程をスキップしてフラッター終了の時刻とこの時刻での2つの衝突質量体の位置及び速度とを直接取得することができることであり、それにより計算精度を向上させ、且つ大量の計算時間を節約する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施例のバネプロトンシステム図である。
【
図3】本発明の一実施例における両質量体の相対変位の時間変化曲線である。
【
図4】本発明の一実施例における両質量体の相対速度の時間変化曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、模式図を参照して本発明の非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方についてより詳細に説明し、ここで、本発明の好ましい実施例を示しており、本発明の有利な効果を実現する限り、当業者であれば、ここで説明された本発明を修正することができることを理解されるべきである。そのため、以下の説明は、当業者であれば広く理解されるべきであり、本発明を限定するものではない。
【0013】
図1に示すように、非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方であって、ステップS1~S4を含み、具体的には以下のとおりである。
【0014】
【0015】
ステップS2:第1解モデルを確立し、第1解モデル及びモデル入力パラメータに基づき、フラッター終了時刻t
∞のパラメータを取得する。第1解モデルは式(1)に示すようになる。
【0016】
ステップS3:第2解モデルを確立し、第2解モデル及びモデル入力パラメータに基づき、フラッター終了時刻t
∞時の2つの質量体の位置パラメータを取得する。第2解モデルは式(2)~(3)に示すようになる。
【0017】
ステップS4:第3解モデルを確立し、第3解モデル及びモデル入力パラメータに基づき、フラッター終了時刻t
∞時の2つの質量体の速度パラメータを取得する。第3解モデルは以下のようになる。
【0018】
本実施形態では、反発係数rの値は0~1の範囲をとる。
【0019】
図2に示すように、バネ1、台車2、2つの質量体で1つのバネプロトンシステムを構成する。台車2の質量はMであり、ボール3は台車2の内部のキャビティ4に置かれる。ボール3は水平方向に自由移動可能であり、ボール3の質量はmである。台車2の変位をxとし、ボール3の変位をyとし、いずれも水平右方向を正方向とし、バネ1が平衡位置にある時に、x座標及びy座標の原点は台車2の中心と一致する。バネ1の剛性K=1000N・m
-1、減衰係数C=10N・s・m
-1、台車2の質量M=10kg、ボール3の質量m=0.5kg、台車キャビティ4の自由長5mm、加振力F
0=100N、加振周波数Ω=10Hzである。
【0020】
従来技術における数値シミュレーション方法を用い、t=0.1181031sである時にボール3が台車2に衝突したことがわかり、この時刻をt0時刻とし、この時刻の台車2及びボール3の運動パラメータを表1に示す。それぞれ数値シミュレーション方法及び本発明の方法を用い、フラッター終了時刻t∞=0.1379127sを得て、この時刻の台車2及びボール3の運動パラメータも表1に示す。
【0021】
【0022】
表1から明らかなように、本発明の方法を用いて得られる計算結果の精度は高く、変位及び速度の相対誤差はいずれも0.07%未満である。計算時間では、数値シミュレーションを用いる時、1回のフラッターの計算時間は約50sであるが、本発明の方法を用いると、フラッター終了時の運動パラメータを直接得ることができる。上記のフラッター過程は、数値シミュレーションにおいて数百~数千万回繰り返し発生するため、全体的に見ると、計算効率を大幅に向上させることができる。
【0023】
【0024】
本実施例では、この方法は以下の利点を有する。(1)この方法は一般性があり、利用範囲が広い。この方法は、2つの衝突質量体がいずれも非固定拘束であって、2つの衝突質量体がいずれも可変加速度を有することを許容する場合に適用可能であり、そのため、一般的なフラッター衝突の場合に属する。また、以下のような特別な場合もある。一般的なボールが落下して跳ね返って衝突するのは、一方が固定拘束(大地)であり、他方が固定加速度(重力加速度)である場合に属し、本方法の応用の特殊な場合であり、一般的なバネプロトンシステムと固定バッフルとの衝突であれば、一方が固定拘束(バッフル)であり、他方が可変加速度である場合に属し、本方法の応用の特殊な場合でもある。以上の2つの場合は、いずれも質量比μmを+∞とし、固定拘束の初期速度、初期加速度はいずれも0に設定することができる。本発明の方法を用いて計算し、フラッター終了時、2つの衝突質量体の速度はいずれも0であり、固定拘束の解に収束する。従って、固定拘束の場合は本発明の特殊な場合であると考えられる。本発明は固定拘束の制限がなく、最も一般的な非固定拘束の場合に適用することができるため、広い使用範囲を有する。
【0025】
(2)この方法は、解を求める速度が速く、効率が高い。
式(1)~(4)は、t0時刻の位置、速度と加速度及びrとμmの2つの定数のみを使用し、従って、t0時刻において衝突によるフラッター終了時の時刻とその時2つの衝突質量体の位置及び速度とを計算することができる。従来の方法では、計算精度を向上させるために、反復ステップは一般的に小さい値をとり、多くの逐次反復をもたらし、計算時間が長い。本発明は、1つのステップで最終結果を得ることを実現すると同時に、従来の計算において克服することが困難な無限回数の衝突によるエンドレスループになる問題を回避する。
【0026】
3. この方法は計算精度が高く、誤差が小さい。
【0027】
加速度が一定のシステムに対して、本発明は何ら誤差を持たない。加速度可変のシステムに対して、t0時刻の2つの衝突質量体の相対速度が十分に小さいため、フラッター過程全体が継続する時間は十分に小さく、この期間は加速度が一定であると仮定してもよい。一般的には、フラッター期間の加速度の変化量が1%未満であれば、本方法による計算結果の精度を保証することができる。このことは、非線形衝突等の初期値に対する敏感な問題の数値シミュレーションにとって、非常に必要である。
【0028】
以上のように、本発明の実施例が提供した非固定拘束両質量体に基づく完全フラッター終了パラメータの求め方において、あるフラッター時刻から数値シミュレーションを直接継続して終了し、フラッター過程をスキップしてフラッター終了の時刻とこの時刻での2つの衝突質量体の位置及び速度とを直接取得することができ、それにより計算精度を向上させ、且つ大量の計算時間を節約する。
【0029】
上記は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を何ら制限するものではない。当業者であれば、本発明の技術的解決手段から逸脱しない範囲で、本発明に開示された技術的解決手段及び技術的内容をいずれかの形で置換又は修正するなどの変更は、いずれも本発明の技術的解決手段の内容から逸脱することなく、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 バネ、2 台車、3 ボール、4 キャビティ。