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特許7075176水素含有液の水素含有量低下抑制剤及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】水素含有液の水素含有量低下抑制剤及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/68 20060101AFI20220518BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C02F1/68 520B
C02F1/68 520D
C02F1/68 510B
C02F1/68 530A
C02F1/68 540D
A23L2/00 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016089728
(22)【出願日】2016-04-27
(65)【公開番号】P2017196572
(43)【公開日】2017-11-02
【審査請求日】2018-12-11
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】大光 太朗
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0008849(US,A1)
【文献】特開2006-255613(JP,A)
【文献】特開2010-005530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/68
B01F1/00
A23L2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンから選択される1または2からなる二価金属陽イオンを有効成分とする水素含有液の水素濃度低下抑制剤を含有する容器詰水素含有飲料であって、
該飲料液中の二価金属陽イオン濃度が10.0mg/100mL~60.0mg/100mLであり、
該飲料液中のマグネシウムイオン濃度が2.48mg/100mL以上である
ことを特徴とする容器詰水素含有飲料。
【請求項2】
水素含有量が2.0ppm以上であることを特徴とする、請求項に記載の容器詰水素含有飲料。
【請求項3】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンから選択される1または2からなる二価金属陽イオンを含む液体溶媒であって、該二価金属陽イオン濃度が10.0mg/100mL~60.0mg/100mLであり、前記マグネシウムイオン濃度が2.48mg/100mL以上である液体溶媒に、分子状水素を溶解及び/又は分散することを特徴とする、容器詰水素含有飲料における水素濃度の低下を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有液の水素含有量低下抑制剤及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法に係るものであって、特に、所定の金属陽イオンを液体溶媒中に所定の濃度で溶存させることで、液体溶媒中に水素を溶解及び/又は分散させた場合に、長時間に亘り水素含有量の低下を抑制し得る水素含有量低下抑制剤及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我国における清涼飲料製品は、生活スタイルの変化や飲食に対する嗜好の変化に呼応して、多種多様化の一途を辿っている。
また、近年の健康志向の高まりによって、ミネラルウォーターや無糖茶系飲料に代表される止渇性飲料や、コーヒー飲料等に代表される嗜好性飲料だけではなく、身体に対する生理活性機能を具備すること謳った特定保健用食品(所謂トクホ)や、機能性表示食品の対象となる飲料についても高い注目が集まっている。
【0003】
また、一般的に、茶のカテキン、コーヒーのクロロゲン酸、ブルーベリー等の果実由来のアントシアニン等のポリフェノール類、クエン酸、必須アミノ酸、食物繊維、及びミネラル等の成分は、身体に対して好影響を与えうる旨、既に消費者に認知されている。
これらの成分を含有する飲料は、前記の特定保健用食品や機能性表示食品には該当しなくても、当該成分の効果がテレビ、雑誌と云った様々な媒体を介して消費者に紹介されることで消費者がこれらの成分を含む飲料製品を選択する一つの動機付けとなっている。
【0004】
飲料液に含まれる様々な溶質成分の内、身体に対して好影響を与える溶質成分は、固体や液体物質のみならず気体成分であってもよい。
例えば、炭酸水の二酸化炭素による血行促進効果、酸素の疲労回復効果等が既に知られている。
また、前記の他、気体溶質としての水素が近年注目されており、水素を含有する所謂水素水と称される清涼飲料が既に上市され、その商品種類も増加傾向にある。
【0005】
前記水素水は、水中に水素を溶解及び/又は分散させたものであって、水素が体内の活性酸素除去することにより、疲労回復の他、ストレス性疾患に対しても効果を発揮すると期待されている。
但し現時点においては、前記水素水を飲用した場合の体内における水素の具体的な挙動、身体への作用メカニズムについては依然研究中であって、詳細は不明な点もある。
しかしながら、水素水の飲用により、糖尿病をはじめとする疾患の改善、ダイエット効果、アンチエイジング効果等が確認された旨で複数の論文発表がなされており、今後作用メカニズムの解明が進めば、更にその需要が高まってくると考えられる。
【0006】
前記水素水において、水中に含まれる水素の含有量は最も重要な要素であり、水素が有効成分として作用することを鑑みれば、その含有量は高いほうが望ましい。
しかしながら、水素は水に対して難溶解性であって、その飽和溶解量は、20℃で0.806mg/100mL(約1.6mg/L(1.6ppm))、0℃で0.974mg(1.9mg/L(1.9ppm))と微量であり、且つ非常に軽い気体であることから、一旦溶解した水素が短時間で外部に抜け出てしまいやすい。
水素の抜け出しを完全に防ぐことは非常に困難であることから、水素濃度の低下を可能な限り抑制する方法が強く求められている。
【0007】
一般的に、液体溶媒に対する気体の溶解量は、ヘンリーの法則に従う。すなわち、「揮発性の溶質を含む希薄溶液が気相と平衡にあるときには、気相内の溶質の分圧は溶液中の濃度に比例する」ことから、液体溶媒に接する気体の圧力を上昇させることで気体溶質の溶解量を増やすことができる。
前記ヘンリーの法則の作用を利用すれば、例えば水に標準大気圧下における飽和溶解量を超えて水素を溶解させること自体は困難ではなく、既に数種の方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、水素を水に溶解させる方法として、圧力容器内に水素を高圧状態で充填し、上記圧力容器内にシャワー状に水を散水することよって水素と水を接触させる方法が開示されている。
また、特許文献2及び特許文献3には、気体透過膜で水と1.2~2.0気圧(約0.12MPa~0.20MPa)程度に加圧された水素の相とを仕切り、上記気体透過膜を介して水素を水中に溶解させる方法が開示されている。
上記特許文献1~3に開示された手法により、水素を、飽和溶解量を超過して水に溶解させることが可能である。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~3に係る発明は、水素を高圧下で水中に過飽和状態で溶解させるための手法であって、開示された手法で水素水を製造し、所定容器に封入したとしても、容器内のヘッドスペースにおける水素ガスの分圧に従い、溶解した水素が短時間で水中から抜け出ていく。
また、大気圧下で容器を開封した場合、大気中の水素分圧が非常に小さいため、高圧で水素ガスを溶解させても、水中で過飽和状態となっている水素は短時間で飲料液から抜け出てしまう。従って、いずれの場合も水素濃度の低下を効果的に抑制することはできなかった。
【0009】
また、水素水の製造方法として、中空糸膜を介して0.2MPa<P≦0.4MPの高圧で水素を水中に吹き込み、水素ガスを500nm未満のコロイド様の気泡の状態で水中に存在させる方法が提案されている(特許文献4)。
特許文献4に係る方法は、特許文献1乃至3と比較して、細かい気泡が水中を浮遊することで、水素の含有量を高い状態で保持しうる水素水を製造することが可能である。
しかしながら、水素が非常に抜け出しやすい特徴を有することから、特許文献4に示す水素の充填方法の工夫の他にも、容器に封入した場合に容器からの水素の抜け出しを防ぐため為の工夫も重要であり、具体的には、アルミパウチやアルミのボトル缶といった容器形態が好適な容器形態として提案されている。
しかしながら、水素の充填方法の工夫及び水素水を充填する容器形態の工夫のみでは、水素含有液における水素の含有量低下の抑制には未だ不十分であった。
【0010】
また、水素を含有させる液体溶媒自体に、水素含有量の低下を抑制する機能を保有させることについては、現在まで何らの有効手段も検討もされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許3606466号公報
【文献】特許4551964号公報
【文献】特開2013-169153号公報
【文献】特許5746411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、水等の液体溶媒中に溶解及び/又は分散させた水素含有液において、水素含有量低下を抑制する水素含有量低下抑制剤、及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
水素を液体溶媒に溶解及び/又は分散させる場合、以下式で定義される液体溶媒の硬度(mg/L)が120未満の、所謂軟水であることが望ましいと従来は考えられていた。
(式)
硬度≒ カルシウム濃度×2.5 + マグネシウム濃度 ×4.1(単位は全て(mg/L))
しかしながら、本願の発明者は、水素を溶解及び/又は分散させる液体溶媒において、二価金属陽イオンの濃度を4.0mg/100mL以上という、軟水と比較して高い濃度範囲に調整することによって、液体溶媒中に溶解及び/又は分散させた水素が外部に抜け出し難くなり、水素含有量の低下を抑制しうるという全く新しい知見を見出し、本願発明を完成するに至った。
【0014】
なお、本願において「溶解」と、「分散」の語は以下の通り区別したものとして定義する。
本願において「溶解」とは、液体溶媒に対して気体、液体、若しくは固体が混合し、「均一な液相(単一相)を形成」した状態として定義される(化学辞典第7刷P1468 株式会社東京化学同人発行)。
また一方、本願において「分散」とは、ある物質系が他の液体溶媒中に細粒として均一に浮遊した状態をいい、特に液体溶媒中における上記物質系の粒径が10-5~10-7cmにある系の状態と定義される状態をいう(化学辞典第7刷P1278 株式会社東京化学同人発行)。以下、本願の説明において溶解、分散の語は上記定義に従った意味を有する。
【0015】
即ち本願発明は、
(1)
二価金属陽イオンを有効成分とする水素含有液の水素濃度低下抑制剤。
(2)
前記二価金属陽イオンがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンから選択される1または2以上からなることを特徴とする1の水素含有液の水素濃度低下抑制剤。
(3)
前記二価金属陽イオンがカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンからなることを特徴とするとする1又は2の水素含有液の水素濃度低下抑制剤。
(4)
前記二価金属陽イオンが金属塩に由来することを特徴とする1~3いずれかの水素含有液の水素濃度低下抑制剤。
(5)
前記金属塩が塩化物であることを特徴とする4の水素含有液の水素濃度低下抑制剤。
(6)
1~5いずれかの水素濃度低下抑制剤を含有することを特徴とする容器詰水素含有飲料。
(7)
飲料液中の二価金属陽イオン濃度が4.0mg/100mL~60.0mg/100mLであることを特徴とする6の容器詰水素含有飲料。
(8)
1~5いずれかの水素濃度低下抑制剤を含有する液体溶媒に、分子状水素を溶解及び/又は分散させる工程を有することを特徴とする水素含有液の水素濃度低下抑制方法。
(9)
液体溶媒中において、二価金属陽イオン濃度が4.0mg/100mL~60.0mg/100mL範囲となるように前記水素濃度低下抑制剤を含有させることを特徴とする8の水素含有液の水素濃度低下抑制方法。
(10)
更に液体溶媒の硬度が120以上となるように前記水素濃度低下抑制剤を含有させることを特徴とする9の水素含有液の水素濃度低下抑制方法。
(11)
前記液体溶媒が水であることを特徴とする8~10いずれかの水素含有液の水素濃度低下方法。
(12)
1~5いずれか1の水素濃度低下抑制剤を含む液体溶媒に、分子状水素を溶解及び/分散させる工程を備えることを特徴とする水素含有液の製造方法。
(13)
前記水素含有液の水素含有量を2.0ppm以上に調整することを特徴とする12の水素含有液の製造方法。
(14)
前記水素含有液を所定の容器に封入する工程を含むことを特徴とする12又は13の水素含有液の製造方法。
の各発明から構成される。
【発明の効果】
【0016】
本願発明は、前記構成を具備することによって、水等の液体溶媒中に溶解及び/又は分散させた水素含有液において、水素含有量低下を抑制する水素含有量低下抑制剤、及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法水素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る水素含有液の製造方法の一実施の形態を示し、中空糸膜からなる気体透過膜を介して液体溶媒中に水素を分散させる方法を示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.液体溶媒
本実施形態における水素含有液の液体溶媒は、二価金属陽イオン濃度を4.0mg/100mL~60.0mg/100mLを含有していれば特にその種類は問わず、水、果汁、野菜汁、コーヒー抽出液、茶抽出液、乳等の飲用に適した液体溶媒が想定される。
但し、本実施形態にあっては、他の含有成分の影響を鑑み、液体溶媒は、糖分、脂肪分、タンパク質、及びその他植物抽出成分等を含まない水であることが最も望ましい。
また、液体溶媒は予め脱気処理で溶存気体を除去しておくことが望ましい。
【0019】
2.二価金属陽イオン
本実施形態において液体溶媒中に含まれる二価金属陽イオンは、本願発明に係る濃度範囲であれば身体に対する有害性が無く、また、若しくは且つ液体溶媒が水である場合にも、呈味性に大きな影響を与えないものが望ましい。
二価金属陽イオンには、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄(2価)イオン、ニッケル(2価)イオン、及び銅(2価)イオン等が存在するが、水素含有液を飲用に供することを鑑みると、比較的摂取許容量が多い、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンから選択されることが望ましく、本実施形態にあってはカルシウムイオンとマグネシウムイオンであることが最も望ましい。
また、これらの二価金属陽イオン濃度の調整方法としては、液体溶媒が水の場合、硬度が既知である複数種のミネラルウォーターの混合等による調整や、イオン交換等で脱イオンした水に対して別途金属塩を添加して調整する方法、及びこれらを組み合わせた方法を選択してもよい。
また、液体溶媒に添加する金属塩としては、例えばカルシウムイオンを例とすれば場合、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等など食品添加物が例示される。
なお、金属塩を添加することによって二価金属陽イオン濃度を調整する場合、予めイオン交換膜等を用いて、脱イオン処理を行った脱イオン水を用いることもできる。
【0020】
液体溶媒中の二価金属陽イオン濃度は4.0mg/100mL~60.0mg/100mLであって、4.0mg/100mL~55mg/mLがより好ましく、10.0mg/100mL~55.0mg/100mLであることが更に好ましく、18.0mg/100mL~55.0mg/Lが最も望ましい。
二価金属陽イオン濃度が上記の範囲である場合、水素含有量の低下抑制効果がより顕著となる。
また、硬度換算(硬度 (mg/L) ≒ カルシウム(イオン)濃度 (mg/L)×2.5 + マグネシウム(イオン)濃度 (mg/L)×4.1で算出した値)は、120以上であって、120~1500が望ましく、300~1470mg/Lがより好ましく、485~1470mg/Lが最も望ましい。二価金属陽イオン濃度と同様に、本数値範囲とすることで、水素含有量の低下抑制効果がより顕著となる。
(二価金属陽イオンの測定方法)
液体溶媒中の各ミネラル量は、原子吸光法、イオンクロマトグラフ法及び誘導結合プラズマ発光分析法等の分析方法を適宜選択することが可能であるが、微量な金属元素の定量が可能であり、試料の形態にも依存しないという利点を有する原子吸光法が望ましい。
【0021】
3.液体溶媒への水素の充填方法
本実施形態において、液体溶媒に水素を充填する方法としては特に手段を問わない。
従って、従来の水素水の製造において行われている、高圧下での過飽和溶解、マイクロバブル等で液体溶媒へ水素を吹き込んで溶解させる等の方法を選択することができるが、本実施形態にあっては、充填直後の水素濃度をより高く確保することを鑑み、中空糸膜からなる気体透過膜を介して液体溶媒に水素を分散させる方法で水素を液体溶媒中に分散させる方法を選択することが望ましい。
以下液体溶媒が水である場合を例に本実施形態を説明する。
【0022】
(気体透過膜)
本実施形態において用いられる気体透過膜は、所謂均質膜に分類され従来から気体成分の分離に用いられていたものである。
前記気体透過膜は、気体透過量比Ar/N=2以上の気体透過性能を備えた均質膜であり、加圧に対する強度保持の為、膜厚が20~80μmであることが望ましく、30~80μmがより望ましく、40~60μmであることが更に望ましい。
また、前記気体透過膜の素材としては、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、シリコーンゴムから選択できるが、シリコーンゴムから形成された気体透過膜が最も好適である。
なお、シリコーンゴムはポリジメチルシロキサンから形成されていることが望ましい。
【0023】
(気体透過性能)
本実施形態においては、前記気体透過膜の気体透過性能は、気体透過量比Ar(アルゴン)/N(窒素)が2以上のものを用いることが望ましい。上記気体透過量比とは、アルゴン、及び窒素を、それぞれ透過膜に接する面における圧力を1.0kgf/cmに保った時の気体透過量を測定しその比率を算出したものである。
(水素の透過機構)
本実施形態に出用いられる均質膜である気体透過膜は、非多孔質膜の一形態であり、多孔質膜に見られるような微細孔は存在しない。
水素の透過は、
(1)水素透過膜への気体分子の溶解
(2)水素透過膜中の気体分子通過
(3)水素透過膜からの気体分子放出
の3段階の機構によって実現される。
本実施形態にあっては、水素で満たされ、且つ所定の圧力に調整された密閉空間において、水と水素とを仕切るように気体透過膜が配置される。配置された気体透過膜において、気体側に接している面で、前述(1)の溶解機構が作用して気体透過膜素材に水素が溶解する。
気体透過膜素材に溶解した水素は(2)で気体透過膜素材の分子格子の間隙を介して水側に移動し、水に接している面において、上述の(3)の分子放出機構が作用して、気相状態を保持したまま、水中に極微細気泡の形態で放出される。
【0024】
(中空糸膜)
本実施形態にあっては透過対象である水素の接触面積を増大させるともに、装置構成が簡易であって且つ透過効率を向上させるという観点から、前記気体透過膜は、中空糸膜状の形態であることが望ましい。
中空糸膜とは気体透過膜の一利用形態であって、細いストロー状の細管に形成された膜体をいう。上記中空糸膜を多数本束ねた中空糸膜束からなる中空糸膜モジュールは、塩化ビニルの合成樹脂、若しくはアルミ等の金属で形成されたハウジング容器に密閉状態で格納されている。
一般的に個々の中空糸膜1本当たりの直径(内径)は、数mm~100μm程度であるが、本実施形態にあっては、液体溶媒を効率良く流通させる為に500~100μmに形成されることが望ましく、300~100μmであることが更に望ましい。
また、それぞれの中空糸膜の長さは用途に応じて調整することができるが、長すぎると液体溶媒を流す為の圧力が高くなることから、中空糸膜束の形態で両端の固定部を除いた長さ、所謂有効長が450~100mmに形成されていることが望ましく、300~100mmがより望ましく、250~120mmであることが更に望ましい。
また、中空糸膜の膜厚は10μm~100μm程度に形成されるが、より高い含有量で水素を分散させる為、本実施形態にあっては、20~80μmであることが望ましく、30~80μmがより望ましく、40~60μmが更に望ましい。
【0025】
水中に水素を分散させる手順を図面を用いて以下に説明する。
図1において、10は上記シリコン製の中空糸膜モジュール(以下モジュールと記載する)、11はステンレス若しくは塩化ビニル等の素材からなるハウジング、12は水素の送入口、13は水素送出口、14は中空糸膜束、15はハウジング内部の水素、16は水の入口、17は水素分散後の水の出口をそれぞれ示している。
本モジュール10は水素水の製造ライン(図示せず)中に配設される。
液体溶媒である水は、予め二価金属陽イオンの濃度が本願発明の要件を満たす値に調整されている。
水は16から送入され、中空糸膜束14の各中空糸膜の管内部に流通する。
ハウジング内部に満たされた水素15は、中空糸膜束14の各中空糸膜の外側面部から膜素材であるシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン)に溶解して膜内を通過した後、中空糸膜の内側面部から水中に微細気泡の形態で放出される。
水素の一部は溶解が共に、他は微細気泡の状態で分散され、水素を含有した状態で水が出口17から送出される。
なお、ハウジング11には、水素送入口12及び水素送出口13が設けられ、水素15は試料毎に0.2MPa~0.4MPaの圧力を保持しつつハウジング11内部に還流されている。
【0026】
(水素の加圧)
なお、中空糸膜等の気体透過膜を介して、水中に極微細気泡の状態で水素を送入するためには、水素側の圧力は0.21~0.40MPaであることが好ましく、0.24~0.30MPaがより好ましく、0.25~0.30MPaが更に望ましい。
【0027】
4.水素含有液の形態
水素含有液は、液体溶媒が水の場合、ボトル缶、アルミパウチ等の従来水素水の提供に用いられている形態の容器に封入された容器詰水素含有飲料として提供することもできる。
【0028】
5.水素残存率
水素の濃度低下抑制効果の指標は、「残存率(%)」で表す。本実施形態において残存率は、水素充填直後の水素含有量(ppm)に対する所定時間後の水素含有量(ppm)の百分率である。
また水素含有量の測定は、ニードル型水素濃度測定器等で行うことができる。
【実施例
【0029】
以下前記実施形態に従い、本願の実施例について説明する。
(1) 液体溶媒の調整
本実施例においては、液体溶媒としてカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する水を用いた。
また、比較例試料用の溶媒として、イオン交換樹脂によって金属イオンを除去した脱イオン水を用いた。
なお、本実施例においては、二価金属陽イオン濃度は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの2種のイオンの合計濃度を示している。
イオン濃度の調整は、金属塩を脱イオン水に溶解させる場合、溶解させる金属塩の量、及び当該金属塩のmol質量から換算可能である。
本実施例にあっては、金属塩として塩化カルシウム、塩化マグネシウムを使用し、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの濃度を、金属塩の添加量とmol質量を基に算出した。塩化カルシウムのmol質量は、110.98g/mol、その内カルシウムのmol質量を40g/molとした。また、塩化マグネシウムについては、mol質量は95.21g/mol、内カルシウムのmol質量は24g/molで算出した。
なお、比較例試料として、一価金属塩である塩化ナトリウム、塩化カリウムを脱イオン水に所定濃度溶解させた試料も準備した。
溶解させた金属塩はそれぞれ2.0×10-3mol/Lである。
また、金属塩を添加する液体溶媒、脱イオン水とも、予め-0.08MPaの負圧環境で溶存気体の脱気を行い、その後126℃で30秒間殺菌した後、25℃まで冷却したものを使用した。
本実施例においては、二価金属陽イオンの濃度はVARIAN社製 原子吸光光度計(型番:AA240FS)を使用して定量した。
【0030】
(2)水素水の製造
液体溶媒である水に、水素を含有させる方法としては、前述の通り中空糸膜からなる気体透過膜を介して液体溶媒に水素を分散させる方法を採用した。
気体透過膜としては、ハウジング内に収納されたシリコン製の中空糸膜モジュール(永柳工業株式会社製「ナガセップ」型式:M40-6000)を使用し、前記(1)で調整した液体溶媒である水を流速0.8Lで流すと共に、ハウジング内の水素圧を0.22MPa~0.23Mpaに調整した。
【0031】
また、本実施例において使用する前記仕様の中空糸膜モジュール1モジュールあたりの中空糸膜本数は6000本であり、膜厚は40μmである。また、中空糸膜の長さ(有効長)は、140~440mmの範囲のものを使用した。
なお、水素水中の水素の含有量は、ユニセンス社製、ニードル型水素濃度測定器を用いて測定した。
【0032】
(結果の評価方法)
水素含有量の低下抑制効果は、実施例1、実施例2とも比較例試料における残存率のもっとも低いものと比較し、10%以上の効果が得られたものは◎、5~10%の効果の場合○、5%未満のものを△とした。
【0033】
[実施例1]二価金属陽イオンと一価金属陽イオンとの水素含有量の低下抑制効果比較
実施例1にあっては、以下の条件で実施例試料1、2及び比較例試料1、2を調整した。なお、液体溶媒への水素の充填は前述の中空糸膜を用いた方法を共通的に使用した。各実施例試料及び比較例使用については、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの合計濃度について記載する。なお、比較例試料3として、脱イオン水に実施例試料と同様の方法で水素を分散させたものを準備した。
(実施例試料1)
イオン交換膜によって脱イオン処理をおこなった脱イオン水に塩化カルシウムを0.2×10-3mol/100mL溶解後、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(実施例試料2)
イオン交換膜によって脱イオン処理をおこなった脱イオン水に塩化マグネシウムを0.2×10-3mol/100mL溶解後、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(比較例試料1)
イオン交換膜によって脱イオン処理をおこなった脱イオン水に塩化カリウムを0.2×10-3mol/100mL溶解後、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(比較例試料2)
イオン交換膜によって脱イオン処理をおこなった脱イオン水に塩化ナトリウムを0.2×10-3mol/100mL溶解後、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用して水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
【0034】
前記実施例試料1、2及び比較例試料1、2におけるカルシウムイオン、及びマグネシウムイオン濃度、並びに水素含有量の時間による変化を表1に示す。
なお、金属塩のmol濃度は全て2.0×10-3mol/Lとした。
【0035】
【表1】
【0036】
(考察)
液体溶媒が一価金属陽イオンを含む水の場合、イオン濃度に因らず、脱イオン水と比較しても水素濃度変化に有意な差は見られなかった。
これに対し、二価金属陽イオンを含む水を用いた場合は、脱イオン水と比較して、3時間経過後の水素含有量の低下抑制効果がより顕著であった。
【0037】
[実施例2]イオン濃度変化における水素含有量の低下抑制効果の比較
実施例2にあっては、以下の条件で実施例試料3~8を調整した。なお、液体溶媒への水素の充填は前述の中空糸膜を用いた方法を共通的に使用した。各実施例試料及び比較例使用については、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの合計濃度について記載する。なお、比較例試料4として、脱イオン水に実施例試料と同様の方法で水素を分散させたものを準備した。
【0038】
(実施例試料3)
カルシウムイオン濃度が8.0mg/100mL、マグネシウムイオン濃度が2.6mg/100mLに調整したミネラルウォーターに、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(実施例試料4)
カルシウムイオン濃度が46.8mg/100mL、マグネシウムイオン濃度が7.45mg/100mLのミネラルウォーターに、前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(実施例試料5)
実施例試料9に用いたミネラルウォーターを脱イオン水で2倍に希釈し前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
(実施例試料6)
実施例試料9に用いたミネラルウォーターを脱イオン水で3倍に希釈し前述の条件で中空糸膜モジュールを使用し、水素を分散させた。
水素含有量が安定した後、ステンビーカーに2Lを回収し、15~20℃の室温下においてそのまま3時間放置した。
【0039】
前記実施例試料3~6及び比較例試料4におけるカルシウムイオン、及びマグネシウムイオン濃度、並びに水素含有量の時間による変化を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
(考察)
カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの合計濃度が、本願発明の範囲にある場合、水素残留率に有意な差が見られた。具体的な作用は不明であるが、上記二価金属陽イオンが存在していることによって、水中に分散している水素の離脱を阻害していると考えられる。
【0042】
なお、本実施例において実施例試料1乃至実施例試料6を水素充填直後にアルミパウチ及びアルミニウムボトル缶に封入し、加熱殺菌の上同様の時間が経過後に測定した場合であっても、ほぼ同等の水素含有量低下抑制効果が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、所定の金属陽イオンを液体溶媒中に所定の濃度で溶存させることで、液体溶媒中に水素を溶解及び/又は分散させた場合に、長時間に亘り水素含有量の低下を抑制し得る水素含有量低下抑制剤及び水素含有液の水素含有量低下抑制方法、並びに水素含有液の製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 中空糸膜モジュール
11 ハウジング
12 水素送入口
13 水素送出口
14 中空糸膜束
15 水素
16 水入口
17 水出口
図1