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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220518BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220518BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20220518BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/34 N
H03H9/17 F
H03H3/02 B
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016199115
(22)【出願日】2016-10-07
(65)【公開番号】P2017095797
(43)【公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-09-03
(31)【優先権主張番号】1517879.1
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512221197
【氏名又は名称】エスピーティーエス テクノロジーズ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン アール.バージェス
(72)【発明者】
【氏名】ロンダ ハインドマン
(72)【発明者】
【氏名】アミット ラストギ
(72)【発明者】
【氏名】スコット ヘイモア
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン フラゴス
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181185(JP,A)
【文献】特開2015-162905(JP,A)
【文献】特開2002-294441(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0246305(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
H03H 9/17
H03H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれた少なくとも1つの添加剤元素を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜をパルスDC反応性スパッタリングすることによる堆積方法であって、該方法は、
膜支持体に課される電気バイアス電力を用いて、パルスDC反応性スパッタリングにより膜支持体上に添加剤含有窒化アルミニウム膜の第一の層を堆積させる工程、及び
膜支持体に課される電気バイアス電力を用いず、又は、第一の層のスパッタリング堆積の間に課される電気バイアス電力よりも低い、膜支持体に課される電気バイアス電力を用いて、パルスDC反応性スパッタリングにより第一の層上に添加剤含有窒化アルミニウム膜の第二の層を堆積させる工程
を含み、
前記第二の層は前記第一の層と同一の組成を有するとともに、
前記第二の層を堆積させる際の電気バイアス電力を変更することで、連続単一堆積に比べ欠陥密度の低い添加剤含有窒化アルミニウム膜であって、膜全体の応力が伸長性または圧縮のいずれかである膜を得る、
方法であって、
前記欠陥密度における欠陥は、面外結晶子欠陥(out of plane crystalite defect)である、
方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの添加剤元素は0.5At%~40At%の範囲、好ましくは2At%~15At%の範囲、そして最も好ましくは3At%~10At%の範囲の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記添加剤含有窒化アルミニウム膜はSc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる1つの添加剤元素を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記第一の層は70Wより大きい電気バイアス電力を用いて堆積される、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第一の層は250W未満の電気バイアス電力を用いて堆積される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第二の層は125W未満の電気バイアス電力を用いて堆積される、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
膜支持体に課される電気バイアス電力はRF電力である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記反応性スパッタリングは単一のターゲットを用いて行われる、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第一の層は前記第二の層よりも低い伸長性である、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記第一の層は厚さが20~150nmの範囲である、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが0.3ミクロン以上であり、好ましくは、0.6ミクロン以上である、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが2.0ミクロン以下である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第二の層の上に添加剤含有窒化アルミニウム膜のさらなる層を堆積させない、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記第一の層及び第二の層を堆積させる工程は添加剤含有窒化アルミニウム膜が4つ以上の層を含むように周期的に行なわれる、請求項1~13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる少なくとも1つの添加剤元素を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜であって、該膜は同一の組成の第一の層及び第二の層を含み、ここで、第一の層及び第二の層は各々結合応力(associated stress)を有し、第一の層の応力は第二の層の応力よりも伸長性が小さく、膜全体として伸長性の応力を有し、連続単一堆積に比べ面外結晶子欠陥(out of plane crystalite defect)の密度の低い添加剤含有窒化アルミニウム膜。
【請求項16】
Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる少なくとも1つの添加剤元素を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜であって、該膜は同一の組成の第一の層及び第二の層を含み、ここで、第一の層及び第二の層は各々結合応力(associated stress)を有し、第一の層の応力は第二の層の応力よりも伸長性が小さく、膜全体として圧縮性の応力を有し、連続単一堆積に比べ面外結晶子欠陥(out of plane crystalite defect)の密度の低い添加剤含有窒化アルミニウム膜。
【請求項17】
請求項15又は16記載の添加剤含有窒化アルミニウム膜を含む圧電性デバイス。
【請求項18】
BAWデバイスの形態である、請求項17記載の圧電性デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルスDC反応性スパッタリングにより、添加剤含有窒化アルミニウム膜を堆積する方法に関する。本発明はこれらの膜自体及びこれらの膜を含む圧電性デバイスにも関する。
【背景技術】
【0002】
AIN薄膜の製造には、少なからずその圧電特性を理由として、興味が持たれている。潜在的に重要な用途はバルク音響波(BAW)周波数共鳴デバイスである。BAWデバイスは2つの電極の間に挟まれた共鳴性圧電層(通常、窒化アルミニウム)からなる。これは、該デバイスが高い除去性、低い損失及び非常に低い温度ドリフトを有する小型で安価な精密フィルタを製造するために使用することができるので、モバイル通信産業のための技術実現手段である。スパッタされた窒化アルミニウムは、その比較的に高い圧電定数を主たる理由として、BAWフィルタの製造において広く使用されており、その圧電定数は一般的な四面体結合したバイナリ半導体の中で最も高い。しかしながら、窒化アルミニウム膜は生来的にかなり低い電気機械結合係数を有することが欠点であり、そのことは窒化アルミニウム含有フィルタの達成可能なバンド幅の限界を決めている。
【0003】
窒化アルミニウム薄膜の圧電特性を改良するために、Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfなどの金属添加剤を取り込むことが提案されている。例えば、スカンジウムはアルミニウムの代わりに合金に取り込むことができる。Sc-N結合は1.9AのAl-N結合長さよりも0.35A長いので、結合長さのこの差異のために膜内に応力を生じる。可変的な結合長さの結果として、合金材料はより柔軟になる。しかしながら、より大きな単位格子で、電気機械結合係数が有意に改良される。このことは図1に見ることができ、図1は純粋な窒化アルミニウム膜と比較したAl93.9Sc6.1Nの応力の百分率としての電気機械結合係数を示す。0膜応力で、Al93.9Sc6.1N膜は、純粋な窒化アルミニウム膜の6.2%の結合係数に対して、約8%の結合係数を示す。このことは結合係数の約30%の相対的な改良を表す。組成がAl100-xScxNの形態で表現されるときに、値100-x及びxは百分率として表現され、百分率としてのxは化学量論的な用語での0.0xと等しいことができることが理解される。
【0004】
より伸長性の膜でより高い結合係数が高い達成されることも図1において理解される。しかしながら、高く応力がかけられた膜は大寸法のBAW製造には適さない。というのはクラック及びピールを起こしやすいからである。このことは後に製造プロセスにおいて信頼性に関する問題を生じることがある。約300mmよりも厚いAlScN膜で観察される別の問題はスカンジウム含有分が増加すると製品品質の悪化に苦しむ傾向があることである。これは膜の表面から突出している配向性が混乱された結晶粒の形成に起因する表面粗さとして明らかになる。三元系窒化物Al100-xScxNにおいて、幾つかの競合する安定相が存在する。しかしながら、ウルツ鉱Al100-xScxN形態は非平衡状態である。そのため、応力又はスカンジウム濃度の、例えば、粒界での小さな変化は比較的に容易に別の結晶配向の核となることができる。例えば、図2において、同一のPVD堆積パラメータを用いた、典型的な(a)1.5ミクロン窒化アルミニウム膜及び(b)1.5ミクロンAl94Sc6N膜のSEM画像を示す。図2(a)に示す窒化アルミニウム膜は滑らかであり、欠陥がなく、そして比較的に造形されておらず、図2(b)に示された三元系スカンジウム合金から形成された膜は膜中に埋め込まれた高密度の錐体結晶子を有する。これらの欠陥は結合係数及び膜の品質係数を低減するように作用する。さらに、これらの欠陥はリソグラフィー/エッチングなどのさらなる下流での加工及び膜上での追加の層の堆積で問題を生じさせる。かなりの欠陥量であるにも関わらず、AlScN膜は良好なc-軸配向及び1.5°未満の測定XRD(0002)FWHM(半値全幅)は純粋な窒化アルミニウム膜の結果に匹敵する。このことは、欠陥レベルを低減する方法を発見できれば、スパッタリングされたAlScN膜が高性能BAWフィルタの製造の優れた候補になりうることを確認する。高体積の商業用BAW製造を考えるためには、20未満/100平方ミクロンの欠陥レベルは要求される。最終的な商業化のためのさらなる条件は経済的に実現可能な様式で方法を実施することができることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも幾つかのその実施形態において、上記の問題の1つ以上に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によると、Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれた少なくとも1つの添加剤元素を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜をパルスDC反応性スパッタリングすることによる堆積方法は提供され、該方法は、
膜支持体に課される電気バイアス電力を用いて、パルスDC反応性スパッタリングにより膜支持体上に添加剤含有窒化アルミニウム膜の第一の層を堆積させる工程、及び
膜支持体に課される電気バイアス電力を用いず、又は、第一の層のスパッタリング堆積の間に課される電気バイアス電力よりも低い、膜支持体に課される電気バイアス電力を用いて、パルスDC反応性スパッタリングにより第一の層上に添加剤含有窒化物膜の第二の層を堆積させる工程
を含み、第二の層は第一の層と同一の組成を有する。
【0007】
このように、比較的に低いレベルの欠陥を含む、改良された膜を得ることができる。
該少なくとも1つの添加剤元素は0.5At%~40At%の範囲、好ましくは2At%~15At%の範囲、そして最も好ましくは3At%~10At%の範囲の量で存在することができる。これらの濃度で、化合物はドープされたAlNでない合金であると考えられることができる。
添加剤含有窒化アルミニウム膜はSc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる1つの添加剤元素を含むことができる。これらの実施形態において、添加剤含有窒化アルミニウム膜は三元合金であることができる。好ましくは、添加剤含有窒化アルミニウム膜はAl1-xScxNである。
【0008】
第一の層は70Wより大きい電気バイアス電力を用いて堆積されうる。第一の層は250W未満の電気バイアス電力を用いて堆積されうる。第一の層は75~200Wの範囲の電気バイアス電力を用いて堆積されうる。
【0009】
第二の層は125W未満の電気バイアス電力を用いて堆積されうる。
【0010】
膜支持体に課される電気バイアス電力はRF電力であることができる。
【0011】
反応性スパッタリングはマグネトロンを用いて行うことができる。
反応性スパッタリングは単一のターゲットを用いて行うことができる。一般に、ターゲットはアルミニウム及び少なくとも1つの添加剤元素から形成された複合材ターゲットであろう。複数のターゲットの使用も可能であるが、経済的には魅力が少ないようである。
【0012】
反応性スパッタリングは窒素を含む気体雰囲気中で行うことができる。気体雰囲気は窒素とアルゴンなどの不活性ガスの混合物を含むことができる。
【0013】
一般に、第一の層は第二の層よりも低い伸長性である。いかなる特定の理論又は推測に限定されることも望まないが、第一の層の堆積の間のより高い電気バイアス電力の使用は第二の層よりも低い伸長性である第一の層をもたらすものと考えられる。ここでも、いかなる特定の理論又は推測に限定されることも望まないが、第一の層は第二の層の成長を整列させるのを補助し、比較的に低いレベルの欠陥を有する膜となることができるものと考えられる。
【0014】
第一の層は厚さが250nm未満であることができる。第一の層は厚さが20~150nmの範囲であることができる。
【0015】
添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが0.3ミクロン以上であることができる。好ましくは、添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが0.6ミクロン以上である。より好ましくは、添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが1.0ミクロン以上である。添加剤含有窒化アルミニウム膜は厚さが2.0ミクロン以下であることができる。しかしながら、より厚い膜は本発明の範囲内である。
【0016】
幾つかの実施形態において、第二の層の上に窒化アルミニウムを含むさらなる層を堆積させない。換言すると、添加剤含有窒化アルミニウム膜は第一の層及び第二の層から本質的になる。
【0017】
他の実施形態において、第一の層及び第二の層をスパッタ堆積する工程は添加剤含有窒化アルミニウム膜が4つ以上の層を含むように周期的に行う。例えば、前記工程は4つの層を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜を製造するように周期的に2回行うことができ、又は、工程は6つの層を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜を製造するように周期的に3回行うことができる。他の変更は本発明の範囲に入る。
【0018】
本発明の第二の態様によると、本発明の第一の態様に係る方法により製造される添加剤含有窒化アルミニウム膜は提供される。
【0019】
本発明の第三の態様によると、Sc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる少なくとも1つの添加剤元素を含む添加剤含有窒化アルミニウム膜は提供され、該膜は同一の組成の第一の層及び第二の層を含み、ここで、第一の層及び第二の層は各々結合応力(associated stress)を有し、第一の層の応力は第二の層の応力よりも顕著でない(less positive)。
【0020】
本発明の第四の態様によると、本発明の第二の態様又は第三の態様に係る添加剤含有窒化アルミニウム膜を含む圧電性デバイスは提供される。圧電性デバイスはBAWデバイスであることができる。一般に、BAWデバイスは第一の電極及び第二の電極を含み、添加剤含有窒化アルミニウム膜は第一の電極と第二の電極との間に配置される。
【0021】
本発明は上記に記載されるとおりであるが、本発明は、上記の特徴、以下の記載、図面又は特許請求の範囲のすべての発明的組み合わせにまで拡張される。例えば、本発明の1つの態様に関係して記載されたすべての特徴は本発明の別の態様に関係しても開示されたものと考えられる。
【0022】
本発明に係る膜、デバイス及び方法の実施形態を添付の図面を参照してここに記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】Al93.9Sc6.1N及び純粋なAlN膜の膜応力の関数としての結合係数を示す。
図2】同一のプロセス条件下に堆積された典型的な1.3ミクロン厚さの(a)AlN膜及び(b)Al94Sc6N膜の表面のSEM画像を示す。
図3】Al94Sc6N膜の連続堆積及び二工程堆積に関する、プラテンRFバイアスの関数としての欠陥密度及び膜応力を示す。
図4】高バイアス初期工程を用いたAlScN膜の膜の(a)中央及び(b)縁での表面のSEM画像を示す。
図5】連続堆積を用いて堆積されたAlScN膜の膜の(a)中央及び(b)縁での表面のSEM画像を示す。
図6】連続堆積及び種々の厚さの第一の堆積膜での二工程堆積を用いて製造された1200nmのAl94Sc6N膜の欠陥密度を示す。
図7】(a)単一の従来技術の連続堆積において、(b)高RFバイアス及び低RFバイアスを用いた3回の堆積のサイクルを用いて、そして(c)高RFバイアスの第一の層で第一の工程を用いた二工程堆積を用いて、堆積されたAlScN膜の欠陥レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発明者は添加剤含有窒化アルミニウム膜をスパッタ堆積するための有利な方法を発見した。添加剤含有窒化アルミニウム膜はSc、Y、Ti、Cr、Mg及びHfから選ばれる少なくとも1つの添加剤元素を含む。Al100-xScxN膜(式中、x=6である)に関する結果を下記に示す。しかしながら、その方法は、一般に、上記で議論した他の添加剤元素及び膜中の他の添加剤の濃度にも適用可能である。添加剤含有窒化アルミニウム膜はAl100-xxターゲット(式中、Xは添加剤元素を表す)から反応性パルスDCスパッタ堆積を用いて製造される。第一の工程において、添加剤含有窒化アルミニウム膜の第一の層はプラテンなどの膜支持体上でスパッタ堆積される。RF電気バイアス電力を第一の層の堆積の間にプラテンに課す。その後、添加剤含有窒化アルミニウム膜の第二の層を第一の層の上に堆積させる。第二の層の堆積の間に、RFバイアス電力をプラテンに課し、該電力は第一の層の堆積の間に課されたRFバイアス電力よりも低い。あるいは、第二の層はプラテンにRFバイアスを課すことなく、堆積されうる。
【0025】
膜はパルスDC反応性スパッタリングにより堆積される。アルゴン及び窒素雰囲気下におけるスパッリングのために複合材アルミニウムスカンジウムターゲットを使用することができる。本発明で使用でき、又は、本発明での使用のために容易に適用されうる装置に関する詳細は当業者によく知られており、例えば、本願出願人の欧州特許出願公開第2871259号に記載される装置であり、その全内容を参照により本明細書中に取り込む。
【0026】
本発明を用いて、単一の面外結晶子欠陥(out of plane crystallite defect)の成長を実質的に低減することが可能であることを発見した。このことにより、添加剤含有窒化アルミニウム合金膜の良好な大量製造を可能とするのに十分に低い欠陥レベルで滑らかな表面をもって膜を堆積させることが可能になる。このことはまた、BAWフィルタなどの関連圧電性デバイスの良好な大量製造の道を開く。比較的に厚い添加剤含有窒化アルミニウム膜はこのようにして堆積されることができ、例えば、膜は厚さが1~2ミクロン範囲である。しかしながら、より小さい又は大きい厚さの膜も堆積されうる。一般に、第一の層の厚さは比較的に小さい。第一の層の代表的な、しかし限定しない厚さの範囲は約20~100nmである。
【0027】
1200nmのAl0.94Sc006N膜を、この方法を用いて単一のターゲットを用いてスパッタ堆積した。これらの膜はプラテンに対して高いRFバイアスを用いて製造された90nmの第一の層、及び、プラテンに対して低いRFバイアスを用いて堆積された1110nmの第二の層を含む。この組成の膜を従来技術の既知のタイプの連続単一スパッタ堆積も用いて堆積した。150mmウエハ上で行った実験の典型的な堆積パラメータを表1に示す。典型的なプロセス圧力は4~12mTorrの範囲である。60nm/分を超える堆積速度はこれらの条件を用いて達成された。
【0028】
【表1】
【0029】
図3は連続単一堆積及び本発明の二工程法の両方の膜の欠陥密度(欠陥/100平方ミクロン)及び応力(MPa)を示す。データはプラテンに対して課したRFバイアス(80W、100W、120W)の関数として示している。図3において、ハッチ付きバーとして示した欠陥データは連続単一堆積により製造した膜に関する。欠陥密度は20欠陥/100平方ミクロンを超えたままであるが、RFバイアスを増加させることが欠陥率を改良したことは理解されるべきである。しかしながら、高いRFバイアスで改良された欠陥率は圧縮性膜を生じさせる(連続単一堆積膜の応力データは黒色正方形として示されている)ことも理解されうる。対照的に、本発明の二工程スパッタ堆積はすべてのRFバイアス電力で20欠陥/100平方ミクロン未満の優れた欠陥率値となる(ハッチなしバー)。二工程法により製造された膜の全体としての応力は変動しており、そして非常に強い伸長性値から非常に強い圧縮性値(中空正方形)の範囲であることが理解されうる。このことにより、使用者は優れた欠陥率値を得ながら、堆積膜の応力を選択することが可能になる。
【0030】
膜品質の改良は図4及び5において明らかに見ることができる。図4は本発明の二工程法を用いて堆積されたAl0.94Sc0.06N膜の中央及び縁でのSEM画像を示す。図6は連続スパッタ堆積を用いた伸長性Al0.94Sc0.06N膜の中央及び縁のSEM画像を示す。図3に示す欠陥密度データは膜の中央で測定された。欠陥レベルは膜の中央と縁との間で非常に大きく変動することができる。これはマグネトロンスパッタリングシステムにより堆積された膜を横切って生来的に起こる中央-縁応力変動に関係しているようである。このことはDCマグネトロンにより生じる膜を横切るプラズマ密度の変動及びプラテンを横切る中央-縁温度変動に起因する可能性がある。表2は単一連続堆積及び本発明の二工程法により製造される膜の中央から縁への欠陥密度の変化を示す。表2は、欠陥密度が、膜の全領域にわたり、二工程法で20の欠陥/100平方ミクロン未満に維持されたことを示す。さらに、これらの膜の応力は高度に圧縮性から高度に伸長性へと調節可能である。実際、最も低い欠陥密度は製造された最も伸張性である膜で観察された。この膜は最も高い結合係数も示すようである。さらに、すべての膜は優れたc-軸配向性を示し、FWHM<1.5°であった。これは高容量製造環境でのBAW製造のためのさらなる要求を満たす。表2はまた、単一の連続堆積により製造される膜に横切って観察される欠陥密度は本発明の二工程法を用いて製造されるすべての膜よりも劣っていることを示す。
【0031】
【表2】
【0032】
実験はまた、二工程法を用いて製造された膜の欠陥密度に対する第一の層の厚さの効果を調べるために行った。一般的なプロセス条件を用いて、適度に延伸性(約200MPa)のAl0.94Sc0.06N膜を製造し、ここで第一の層の厚さは25nm~90nmで変化させた。図6はまた、連続の単一堆積技術を用いて堆積した同一の組成及び厚さの膜に対して測定した欠陥密度を示す。調べたすべての膜の厚さは1200nmであった。本発明の二工程法を用いて製造したすべての膜は第一の層のすべての厚さで膜品質の有意な改良を示す。単一の連続スパッタ堆積技術を用いて製造した膜と比較して、欠陥密度は約10:1だけ低減した。第一の層(プラテンに対して高RFバイアスで製造)がわずか25nm厚さであるときに、優れたデータが得られる。第一の層の厚さを増加させることは欠陥密度の統計的に有意な改良をさらには現わさない。
【0033】
上記の実験は添加剤含有窒化アルミニウム膜の2つの層を構成する膜であって、ここで、第一の層をプラテンに課された比較的に高いRFバイアスを用いてスパッタ堆積し、次いで、より低いRFバイアス電力を用いた第二の層のスパッタ堆積を行う膜に関する。添加剤含有窒化アルミニウム膜のさらなる層を堆積させることも本発明の範囲に入る。特に、第一の層及び第二の層のスパッタ堆積を周期的な様式で行うことが可能である。
【0034】
膜欠陥密度が比較的に高いRFバイアス及びより低いRFバイアスを用いた交互の工程を用いて改良されるかどうかを調べる実験を行った。AlScN膜は200WのRFバイアスでの第一の工程及び80WのRFバイアスでの第二の工程の3つの順次のサイクルにより製造されるスタックとして膜を堆積させた。高RFバイアス電力工程を行い、50nm厚さの層を製造し、低RFバイアス電力工程を行い、400nm厚さの層を製造した。3回のサイクルを行い、それにより、膜は3つの層が高RFバイアスを用いて製造した比較的に薄い層であり、3つの層が低RFバイアスを用いて製造した比較的に厚い層である、6つの層を含む。膜の中央、中間部分及び縁で欠陥密度を測定した。結果を図7(b)に示す。比較として、図7(a)は単一の連続堆積を用いて得られた、同一の組成及び同様の厚さの膜から得られた欠陥密度データを示す。図7(c)は本発明の二工程法を用いて製造された同一の組成及び同様の厚さの膜であって、ここで、50nm厚の第一の層は150WのRFバイアス電力を用いて堆積された膜で得られた欠陥密度を示す。欠陥密度に関して、最良の結果は二工程法を用いて得られた。しかしながら、6層スタックで観測された欠陥密度も優れており、そして単一の連続堆積により得られる膜に対してかなりの改良を表す。合計厚さが1.5ミクロンを超える膜などの比較的に厚い添加剤含有窒化アルミニウム膜を製造するのに、周期的な方法は特に有用であることができるものと考えられる。
【0035】
いかなる特定の理論又は推測により限定されることも望まないが、第一の層の堆積の間のより高い電気バイアス電力の使用は第二の層よりも伸張性が低い第一の層を生じさせることができるものと考えられる。また、いかなる特定の理論又は推測により限定されることも望まないが、第一の層は第二の層のスパッタ堆積プロセスの間の膜成長を整列させることを補助しうるものと考えられる。層のプロセス条件は膜応力又は電気機械結合係数などの、膜の1つ以上の特性を最適化するために使用者により変更されうる。本発明の添加剤含有窒化アルミニウム膜は広範な最終用途において利用でき、そのうち、BAWデバイスは1つの例である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7