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特許7075196プラズマ化学蒸着処理および方法を実行するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】プラズマ化学蒸着処理および方法を実行するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/511 20060101AFI20220518BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C23C16/511
H05H1/46 B
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017194237
(22)【出願日】2017-10-04
(65)【公開番号】P2018115387
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】2017575
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】507112468
【氏名又は名称】ドラカ・コムテツク・ベー・ベー
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン ストラーレン、マテーウス ヤコブス ニコラース
(72)【発明者】
【氏名】ミルセビク、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】クラブスハイス、ハーチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブルールス、トン
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144845(JP,A)
【文献】特開平05-345982(JP,A)
【文献】特表2005-539348(JP,A)
【文献】特開2013-107820(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105411(WO,A1)
【文献】特開2007-204774(JP,A)
【文献】特開2005-150473(JP,A)
【文献】特表2002-500280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H05H 1/00- 1/54
H01Q 13/00-13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ化学蒸着処理を実行する方法であって、
―装置を与えるステップと、
―前記装置を、プラズマ化学蒸着処理を実行するために、スリット部の最大サイズが動作周波数の波長の半分より小さいような動作周波数で動作させるステップと、
を備え、
前記装置は、外側円柱壁およびそれと同軸の内側円柱壁が与えられた円柱共振器を主として備え、
前記外側円柱壁と前記内側円柱壁とは、前記外側円柱壁と前記内側円柱壁との間に前記動作周波数で動作可能な共振キャビティを画定し、
前記共振キャビティは、前記内側円柱壁および前記外側円柱壁の円柱軸を取り囲む円周方向に延びており、
前記外側円柱壁は、入力導波管に接続可能な入力ポートを含み、
前記内側円柱壁は、前記内側円柱壁および前記外側円柱壁の円柱軸を取り囲む円周方向に延びるスリット部を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記装置は、前記動作周波数の波長の3分の1より大きい外径を有する基材管を、同軸上に取り囲むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラズマ化学蒸着処理を実行する装置であって、
外側円柱壁およびそれと同軸の内側円柱壁が与えられた円柱共振器を主として備え、
前記外側円柱壁および前記内側円柱壁は、前記外側円柱壁と前記内側円柱壁との間に、動作周波数で動作可能な共振キャビティを画定し、
前記共振キャビティは、前記外側円柱壁および前記内側円柱壁の円柱軸を取り囲む円周方向に延びており、
前記外側円柱壁は、入力導波管に接続可能な入力ポートを含み、
前記内側円柱壁は、前記円柱軸を取り囲む円周方向に延びるスリット部を含み、
前記スリット部の開口を定める最大サイズは、前記動作周波数の波長の半分より小さい
ことを特徴とする装置。
【請求項4】
前記スリット部の円周方向のサイズは、前記動作周波数の波長の半分より小さい
ことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記スリット部は、前記円柱軸を取り囲む2つのスリット線上に交互に配置されている
ことを特徴とする請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
前記スリット部は、円柱方向に互いにオフセットしている
ことを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記スリット部の円柱方向の幅のサイズは、前記スリット部の円周方向のサイズより小さい
ことを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記内側円柱壁は、2つまたは4つのスリット部を有する
ことを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記スリット部は、円周方向に均等に配分されている
ことを特徴とする請求項3から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記円柱軸に対して対称的に配置された、スリット部の少なくとも1つの対を含む
ことを特徴とする請求項3から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
少なくとも1つのスリット部は、他のスリット部の断面領域と異なる断面領域を有する
ことを特徴とする請求項3から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記共振キャビティの円柱方向の長さは、前記円柱軸への半径距離に依存して変化する
ことを特徴とする請求項3から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記動作周波数でマイクロ波を発生するように構成されたマイクロ波生成機をさらに備える
ことを特徴とする請求項3から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記スリット部の開口を定める最大サイズは、長さ寸法である
ことを特徴とする請求項3から13のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ化学蒸着処理を実行するための方法に関する。本方法は、装置を与えるステップを備える。この装置は、外側円柱壁およびそれと同軸の内側円柱壁とが与えられた円柱共振器を主として備える。外側円柱壁と内側円柱壁とは、外側円柱壁と内側円柱壁との間に、動作周波数で動作可能な共振キャビティを画定する。共振キャビティは、内側円柱壁および外側円柱壁の円柱軸を取り囲む円周方向に延びる。外側円柱壁は、入力導波管に接続可能な入力ポートを含む。内側円柱壁は、円柱軸を取り囲む円周方向に延びるスリット部を含む。本方法は、この装置を動作周波数で動作させるステップをさらに備える。
【背景技術】
【0002】
DrakaComteqB.V.により出願された欧州特許出願公開第2605267号公報は、光ファイバを製造する装置を開示する。プラズマ活性化学蒸着(PCVD)処理では、蒸着は基材管の内部で行われる。この処理では、共振器はマイクロ波源(典型的にはマグネトロン)から供給を受ける。マイクロ波のパワーは基材管の内部にプラズマを形成する。このプラズマが反応を起動し、基材管内部に薄いクォーツ層の堆積が起こる。基材管と共振器とは炉の内部に設置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば生産性向上を目的に、より大きな基材管、特により大きな径を持つ管を作成するためにPCVD処理を大規模化する場合、クォーツ蒸着には高い回転対称性が求められる。これは、プラズマの不安定性を引き起こしプラズマの点滅現象を誘引するモードホップの発生機会を低減させるためと、PCVD炉など周囲との相互作用により発生したマイクロ波振動に起因する厚さおよび屈折率における半周期的な軸変動を最小化するためである。半周期的な軸変動は、作成されたファイバの品質パラメータ、例えば減衰量(OTDRテスト)、および/または、シングルモードファイバの場合モードフィールド径の均一性、および/または、グレーデッドインデックスマルチモードファイバの場合アルファ値の一様性などに大きな影響を与える可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、前文に従い、比較的より大きな径を持つ基材管を処理する方法を提供することにある。前文に従い、本発明に係る装置は、スリット部の開口を定める最大サイズが動作周波数の波長の半分より小さいような動作周波数で動作する。一般に、スリット部の開口を定める最大サイズは、その長さまたは幅の大きい方の値である。
【0005】
スリット部の円周長などの最大サイズが動作周波数の波長の半分より小さいスリット部を利用することで、伝播モードがスリット部を通して伝播せず、非伝播モードのみがスリット部を通して放射するだろう。
【0006】
本発明は、少なくとも部分的には、非伝播電磁モードが電磁モードの放射伝播を抑制する一方、プラズマ供給のための電磁エネルギーを安定的に輸送するために非伝播電磁モードを効率的に利用することができる、という洞察に基づく。非伝播モードのパワーは放射方向に沿って指数関数的に減衰するため、特定の非伝播電磁モード(通常は最高次の非伝播モード)が支配的となる。これによりモードホッピングが発生する機会が低減される。より高い次数のモードの影響はすべて最小化される。反射した後スリット部を通してキャビティ内に戻る電磁放射もまた、非伝播電磁モードのもののみが存在し得る。その後、指数関数的に減衰する現象により、キャビティとの任意の相互作用が低減される。これは共振器の安定性向上に寄与する。任意の内側管状空間内に起動された電磁モードもまた、該管状空間における電磁スポットの空間的変動に起因する非伝播電磁モードタイプのものである。結果として、基材管の軸端における任意の反射と、共振器のキャビティとの間の相互作用は、小さなもののみが存在する。キャビティおよびプラズマ自身における電磁的振る舞いは一層安定的となり、厚さおよび屈折率における半周期的な軸変動は低減される。
【0007】
さらに、特に径を拡大した基材管を用いた場合、非伝播モードを利用して伝播モードを抑制することにより、円周方向にさらに均一なプラズマ分布が得られる。こうして、クォーツ蒸着における回転対称性を改善することができる。
【0008】
安定的なプラズマは、動作波長の3分の1より大きい外径を持つ基材管で得られることが実験的に示されている。
【0009】
本明細書全体を通して、波長または動作波長は、キャビティと共振器の内側との間、すなわち管状内側空間に延びるスリット部で形成される放射状導波管における波長であることに注意されたい。スリット部が開いているとき、波長は、必然的に自由空間における波長に等しい。しかしながら、スリット部がガラスのような特定の物質で満たされているときは、波長は、前記特定の物質の屈折率に等しいファクターで減衰する。
【0010】
一般にマイクロ波は、各スリット部を放射状に内側に向けて通過することができ、これにより基材管内部にプラズマが生成される。好ましくは、通過するそれぞれのマイクロ波のエネルギー強度は実質的に等しい。これにより、装置の動作中、バランスされたプラズマ配置が得られる。
【0011】
本発明は装置にも向けられる。
【0012】
本発明に係るさらなる有用な実施形態は、以下の請求項に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、例示のみを用いて、下記の添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1】本発明に係る装置の第1の実施形態の模式的な断面側面図である。
図2】スリット部を通して放射した電磁モードの残存パワーを示すグラフである。
図3】本発明に係る装置の第2の実施形態の模式的な斜視図である。
図4図3に示される装置の円柱壁の模式的な投影図である。
図5】本発明に係る方法のフロー図である。 図面は、本発明に係る好適な実施形態を概説するだけのものである。図面において、同じ参照番号は、同じまたは対応する部品を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、プラズマ化学蒸着処理を実行するための装置の模式的な断面側面図である。装置1は、主として円柱状の共振器2を備える。この装置はまた、マグネトロンやクライストロンなどのマイクロ波生成機から共振器2にマイクロ波Wを導波するための入力導波管3を備える。この装置は、プラズマ化学蒸着を実行するために、操作的に使用される。
【0015】
共振器2には、外側円柱壁4と内側円柱壁8とで境界付けられ、動作周波数fで動作可能な共振キャビティ5が与えられる。キャビティ5は、内側円柱壁8および外側円柱壁4の円柱軸Cを取り囲む円周方向Ciに沿って延びる。一般にキャビティ5は、円柱軸Cに対して回転対称な形をなす。共振器2には、図3に示されるように、共振キャビティ5を円柱方向に境界付ける側壁部6aおよび6bがさらに与えられる。
【0016】
内側円柱壁8は、共振キャビティ5を円柱軸Cに向けて半径方向の内向きに境界付ける。一方外側円柱壁4は、共振キャビティ5を半径方向の外向きに境界付ける。実際このようにして、キャビティ5は環状に形成される。
【0017】
外側円柱壁は、入力導波管3に接続された入力ポート7を含む。
【0018】
内側円柱壁8は、円柱軸Cを取り囲む円周方向Ciに延びるスリット部9aおよび9bを含む。スリット部9aおよび9bを与えることにより、マイクロ波のエネルギーは、共振キャビティ5から、共振器2に取り囲まれた管状内側空間10内に入ることができる。
【0019】
装置1は、プラズマ化学蒸着処理を行う間の動作温度を調整するために、炉(図示せず)の内部に設置される。
【0020】
装置の動作中、マグネトロンやクライストロンなどのマイクロ波生成機(図示せず)によって生成されたマイクロ波は、入力導波管3(導波管とも呼ばれる)に入射された後、導波管を通って共振器2に向けて伝播する。マイクロ波生成機は、動作周波数fのマイクロ波を生成するように構成される。マイクロ波は、別の仕方で、例えば追加的な導波管のアセンブリを介して導波管3に入射されてもよいことに留意すべきである。マイクロ波のエネルギーは、キャビティ5内で蓄積される。マイクロ波のエネルギーの一部は、スリット部9aおよび9bを通して管状内側空間10に入る。そしてこのエネルギーは、プラズマ化学蒸着(PCVD)処理を実行するために、前記管状内側空間10に設置された基材管11の内部25にプラズマを生成する。基材管11は外径20を持つ。この外径20は、動作波長の3分の1より大きくてよい。適切なガス流(例えば、SiCl、O、GeCl、N、および/または、ホウ素やフッ素を含むガス)を調整し、選択的に共振器2を基材管11の長さにわたり往復運動させることにより、管状内側空間10に挿入された基材管11上にガラス物質が蒸着される。これにより、内部に複数のガラス層が蒸着された管が与えられる。このような管は、つぶされて(collpsed)固体プリフォームやコアロッドが形成されてもよい。これらの固体プリフォームやコアロッドは、ガラスファイバを製造するために、さらなる処理を受けてもよい。
【0021】
スリット部9aおよび9bは、順番に円周方向Ciに延びるが、円柱方向CDに互いにオフセットしている、スリット部の対9aおよび9bを形成する。代替的に、スリット部は互いにオフセットしていない。
【0022】
図1において、スリット部9aおよび9bの各々は、円周方向Ciの半周にわたって伸びている。図1に示されるように、スリット部が互いにオフセットしている場合、第1のスリット部9aの円周終点P1は、第2のスリット部9bの円周始点と実質的に一致する。一方、第2のスリット部9bの円周終点P2は、第1のスリット部9aの円周始点と実質的に一致する。
【0023】
一般にスリット部9aおよび9bは、円周方向Ciで重なり合わない。しかしスリット部が互いにオフセットしている場合、ある程度の、例えば円周長の約10%より小さい重なり合いが与えられてもよい。スリット部9aおよび9bの対は、円柱方向CDで見たとき、管状内側空間10周囲の反対側で互いに向き合う。交互に配置されたスリット部9aおよび9bは、円周方向Ciの全周にわたって伸びるスリット配置を形成する。キャビティ5は、対応するスリット部9aおよび9bに隣接し、円柱軸Cを取り囲んで円周方向Ciの一部にわたって延びる、2つのキャビティ部品を含む。
【0024】
スリット部9aと9bとの間のオフセットD(図3を参照)は、動作プラズマ波長λの約4分の1であるように選択されてよく、これにより、炉壁との電磁的相互作用の効果が最小化される。一般にスリット部9aと9bとの間のオフセットDは、約5mmより大きくてよく、好ましくは約30mmから約50mmまでであってよい。
【0025】
図示されたスリット部9aおよび9bは、円周方向Ciの円周長サイズaと、円柱方向CDの幅サイズbとを備え、円柱部分を含む通常の幾何学配置を有する(図3を参照)。スリット部9aおよび9bの幅bは、円周方向Ciに沿って一定であってよい。同様に円周長は、円柱方向CDに沿って一定であってよい。図示された実施形態では、円周長aおよび幅bは、スリット部9aおよび9bの開口を定める。一般に幅bは、円周長aより小さい。原理的にスリット部は、図示されるように内側円柱壁8に沿って長方形であってもよいし、あるいは曲線ポリゴン、楕円、円といった他の幾何学形状であってもよい。
【0026】
スリット部9aおよび9b自体は、キャビティ5と、共振器2の内側すなわち管状内側空間10との間に延びる、短い放射導波管であると考えることができる。放射導波管のサイズは、スリット部の円周長aと幅bとにより、および、内側円柱壁8の厚さと深さとにより定められる。
【0027】
スリット部の円周サイズは、動作周波数f(すなわち、共振器2に向けて伝播し、管状内側空間10に入射するマイクロ波の周波数)の波長λの半分より小さい。動作周波数は、約900MHzと約928MHzとの間にあってもよく、あるいは約2.4GHzと約2.5GHzとの間にあってもよく、あるいは約5.725GHzと約5.875GHzとの間にあってもよい。一例として動作周波数は、約2.46GHzであるように選択されてよい。
【0028】
スリット部9aおよび9bの円周長サイズaが動作周波数fの波長λの半分より小さいように装置1を構成することにより、放射導波管のすべてのモードは非伝播モードとなる。一般に、本発明の一態様に従い、スリット部の開口を定める最大サイズが動作周波数fの波長λの半分より小さい場合、スリット部によって形成される放射導波管は、非伝播モードのみを許す。従って、スリット部の最大延長は、いずれの方向であっても、動作周波数fの波長λの半分より小さい。一例として、スリット部9aおよび9bの円周長aは、動作周波数fの波長λの3分の1である。しかしながら、円周長aはこれより大きくてもよく、例えば動作周波数fの波長λの半分より若干小さくてもよい。あるいは円周長aはもっと小さくてもよく、例えば動作周波数fの波長の4分の1であってもよい。好ましくは、少なくとも1つのスリット部は、例えば伝達されるパワーを調整するために、他のスリット部の断面領域と異なる断面領域を有する。
【0029】
特定の断面領域、例えばスリット部の特定の幅bを選択することにより、前記スリット部を通して伝達されるエネルギーの量を設定することができる。一般に、より大きな断面領域により、より大きなパワーを管状内側空間10内に伝達することができる。好ましくは、それぞれのスリット部を通過するマイクロ波のエネルギーは実質的に等しい。これにより、装置の動作中、バランスされたプラズマ配置が得られる。従って、入力導波管3に隣接するスリット部は、比較的小さな断面領域を有してよい。一方、入力導波管3からより離れたところにあるスリット部は、比較的大きな断面領域を有してよい。便利なことに、内側円柱壁に沿った四辺形状の幾何学形状を持つスリット部の場合、円周長aを一定に保ったまま幅bを変化させることにより、断面を変化させることができる。代替的に、スリット部同士は同じ大きさであってもよい。
【0030】
図2は、スリット部9を通って放射した電磁モードのうち残存しているパワーを、前記スリット部9の深さ(これは内側円柱壁8の厚さに等しい)の関数として示すグラフ30である。グラフ30は、下図3に示される円の4分の1に沿って延びるスリット部を通って伝播する各電磁モードE(1、0)、E(2、0)、E(0、1)、E(1、1)およびE(0、2)に相当する、第1、第2、第3、第4および第5曲線F2-F6を示す。
【0031】
F2-F6のすべての曲線は、内側円柱壁8の厚さの関数として、指数関数的に減衰する振る舞いをする。対応する電磁モードのタイプは、いわゆる非伝播モードである。これは、スリット部の開口が動作周波数の波長に比べて小さすぎるため、伝播する波が存在しないことを意味する。換言すれば、このときの動作周波数は、最低次モードのカットオフ周波数より低い。さらに換言すれば、このときの動作周波数の波長は、最低次モードのカットオフ波長より長い。このときすべてのモードは非伝播モードとなる。
【0032】
この観点からすると、内側円柱壁8の全周にわたって延びるスリットがないため、基本モード、すなわち(0、0)モード(これはカットオフ周波数を持たない)は、管状内側空間10内に入射されない点に留意すべきである。
【0033】
指数関数的に減衰する振る舞いに起因して、1つの非伝播モードのみが、管状内側空間10内への放射エネルギーに主要な寄与を持つ。
【0034】
一般にスリット部(これは物理ポートとも呼ばれる)の各々は、潜在的に複数の導波モードを含む導波管であると考えられてよい。マイクロ波を正確に記述するため、各モードは別々のポートとして表現することができる。しかしながら、モードに相当するこれらのポートは滅多に励起されない、および/または、著しくパワーが減衰するため、実際には無視することができる。
【0035】
スリット部内部の伝播特性は、その横方向の形状およびサイズに依存する。スリット部の円柱方向CDの最大延長をbとおく。そして、スリット部の開口面における横方向、すなわち円周方向Ci(円形状のφ)の最大延長をaとおく。さらに、導波管の長さ(これはスリットの深さ/高さに等しい)をLとおく。すると、E型またはH型モード(m、n)に関するカットオフ波長は、以下に等しい(または、横開口が長方形でない場合は、以下より小さい)。
【数1】
【0036】
スリットに配置された物質(典型的には空気だが、クォーツやその混合物であってもよい)の内部における電磁波の波長が(m、n)モードのカットオフ波長より長い場合、(m、n)モードは非伝播モードとなる。そうでない場合は伝播モードとなる。2.45GHzでの空気内における波長は約122mmである。
【0037】
開口が管を完全に取り囲んでいる場合は、(0、0)モード(すなわちm=0かつn=0)のみが存在することに注意されたい。また(0,0)モードは常に伝播モードであることにも注意されたい。スリットの幅bまたは共振器の内部周長が少なくとも波長に等しい場合、その次のモードは伝播モードとなる。後者の場合この波長は、2.45GHzで動作しているとき、内側円柱壁8の約39mmの直径に相当する。
【0038】
管を完全に取り囲むスリットの最低次のモードの横方向の関数的振る舞いは、以下のように表される。
【数2】
【数3】
【数4】
【0039】
E(m、0)モードに関し、cos mφ=0の対称面は磁気壁であり、sin mφ=0(m≠0)の対称面は電気壁であることに注意されたい。E(0、n)モードは対称面としての磁壁を持ち、H(0、n)モードは対称面としての電気壁を持つことに注意されたい。
【0040】
スリット全体が2つの同一の部分に分かれている場合、m=0のものはない。2つのカップルされていないE(m、0)モードは、スリット全体の中の1つのE(m、0)モードに相当する。スリット全体が4つの同一の部分に分かれている場合、4つのカップルされていないE(m、0)モードは、スリット全体の中の1つのE(2m、0)モードに相当する。
【0041】
スリット部内部の伝播モードの減衰は無視できる。なぜなら、これは短い金属壁上の吸収にのみ起因するからである。スリット部内部の非伝播モードの減衰は、長さLおよびモードの次数(m、n)に依存する。スリット部が局所的に平面内で延びている場合、強度の減衰は
【数5】
に等しい。
ここで
【数6】
である。
【0042】
円状や楕円状に曲がった金属が周りを取り囲んでいるといったように、スリットが局所的に曲がっている場合、減衰はより強くなるだろう。
【0043】
図3を参照して下記で説明される4つのスリット部配置を持つ典型的な装置のスリット部内部のパワー減衰が、図2に示される。
【0044】
図3は、本発明に係る装置1の第2の実施形態の斜視図を模式的に示す。ここでは内側円柱壁8は、円柱軸Cを取り囲む円周方向Ciに延びる4つのスリット部9a-dを含む。再び、スリット部9a-dの開口を定める最大サイズは、動作周波数fの波長λの半分より小さい。これにより、非伝播モードのみがスリット部9a-dを通過することができる。
【0045】
図1のスリット部と同様、図3のスリット部9a-dは、内側円柱壁8上で円柱軸Cを囲む2つのスリット線12a-b上に交互に配置される。スリット線12a-bは、円柱軸方向CDに互いにオフセットしている。好ましくは隣接するスリット部9の円周オフセットは、360度をスリット部の数で割った度数である。図3に示される実施形態では、360度を4で割った90度である。こうすると、スリット部9は円周方向Ciに概ね均等に分散される。これにより、スリット部9は全体で、内側円柱壁8上で実質的に円柱軸Cを囲む。
【0046】
さらにスリット部は、円柱軸Cに関して反対側に対称的に配置される、スリット部の2つの対9a、c;9b、dを含む。
【0047】
例えば内側円柱壁の直径や意図した動作波長に応じて、内側円柱壁8は、2または4より多いスリット部、例えば3、5、6、7、8あるいはそれより多いスリット部を含んでもよいことに注意されたい。対称性の理由から、スリット部の数は偶数であることが好ましい。
【0048】
スリット部は、上述の交互配置に代えて、単一のスリット線上にアラインメントされてもよいことにさらに注意されたい。
【0049】
一般に内側円柱壁8内のスリット部9の幾何学構造は、円周方向Ciが長さ寸法パラメータlに変換されるように、前記壁8を平面に投影することによっても記述できる。幾何学的にはこの変換は、前記壁8内で円柱方向Cに平行に延びる切断線CTに沿って切り開いたときの内側円柱壁8の表現である。ここで前記壁8は、折り広げられ、平面内に延ばされる。
【0050】
図4は、円柱壁8の投影の模式図を示す。ここで円周方向Ciは長さ寸法パラメータlに変換される。投影された円柱壁におけるスリット部9a-dは、円柱方向CDの長さaおよび幅bでパラメータ化した長方形の幾何学構造を持つ。投影された平面におけるスリット部9a-dの最大のサイズは長さ寸法である。すなわちこのサイズは長さ方向lの長さaであり、これは動作周波数fの波長λの半分より小さい。
【0051】
前述のように、スリット部9は別の形状、例えば正方形、ポリゴン、円、楕円その他の曲線であってよい。図4に、特別な非長方形の形状を持つ追加的なスリット部9eが示される。追加的なスリット部9eは、長さa’および幅b’の最小値(依然として追加的なスリット部9eを内包している)でパラメータ化された長方形の輪郭9’で取り囲まれる。長さa’および幅b’の大きい方の値(図示の例では、長さa’の長さ寸法)は、追加的なスリット部9eの最大寸法であると考えられ、これは動作周波数fの波長λの半分より小さい。すると、追加的なスリット部9eで定まる放射導波管におけるすべてのモードは非伝播モードとなる。
【0052】
図5は、本発明に係る方法のフローチャートを示す。方法100は、プラズマ化学蒸着処理を実行するために使われる。本方法は、装置110を与えるステップを備える。装置110は、外側円柱壁およびそれと同軸の内側円柱壁が与えられた円柱共振器を主として備える。外側円柱壁と内側円柱壁とは、外側円柱壁と内側円柱壁との間に、動作周波数で動作可能な共振キャビティを画定する。共振キャビティは、内側円柱壁および外側円柱壁の円柱軸を取り囲む円周方向に延びる。外側円柱壁は、入力導波管に接続可能な入力ポートを含む。内側円柱壁は、円柱軸を取り囲む円周方向に延びるスリット部を含む。本方法は、この装置を、スリット部のサイズが動作周波数の波長の半分より小さいような動作周波数で動作させるステップ120をさらに備える。
【0053】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。多数の変形が可能であることが理解できるだろう。
【0054】
一例として、共振キャビティの円柱方向CDの長さは、円柱軸Cへの半径距離の関数として定数であってもよい。しかし別の実施形態では、共振キャビティの円柱方向CDの長さは、円柱軸Cへの半径距離の関数として変化してもよい。前者の場合、キャビティは、円柱方向CDに沿って概ね均一であってよい。後者の場合、キャビティは、半径方向内側により複雑な境界を有してよい。これは、例えばマッチングおよび/または弧の最小化のためであり、例えば欧州特許出願公開第2594660号明細書に記載されているように、円柱軸Cと同軸の円錐の表面を部分的に含んでもよい。
【0055】
内側および外側円柱壁は、円その他の閉曲線輪郭(楕円やポリゴンなど)の形状の断面輪郭を有してもよいことに注意されたい。
【0056】
これらのおよびその他の実施形態が、以下の請求項で定義される発明の範囲に含まれることは当業者に明らかであろう。記述の明確性と簡潔性を目的に、本明細書では、発明の特徴は、同一のまたは異なる実施形態の一部として記述される。しかしながら、発明の範囲は、記述された特徴のすべてまたは一部の組み合わせを有する実施形態も含んでよいことが理解できるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5