(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ポリカーボネート系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220518BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220518BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20220518BHJP
C08G 64/08 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K7/14
C08L33/12
C08G64/08
(21)【出願番号】P 2018008858
(22)【出願日】2018-01-23
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】片野 博友
(72)【発明者】
【氏名】豊田 智子
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-246343(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203917(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/203916(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159025(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159024(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/051557(WO,A1)
【文献】特開平03-243656(JP,A)
【文献】特開2012-236944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 7/14
C08L 33/12
C08G 64/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート系樹脂と、(B)重量平均分子量5,000~30,000のメチルメタクリレート単位を含む重合体と、(C)ガラス繊維含有しており、
前記(A)成分のポリカーボネート系樹脂が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートブロックと、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロックとを有する、一分子中のSi量が1~10質量%の範囲であり、粘度平均分子量が10,000~40,000であるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体であり、
(A)成分と(B)成分の合計量中の(A)成分の含有割合が65~93質量%、(B)成分の含有割合が7~35質量%であり、
さらに(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)ガラス繊維4~20質量部を含有している、ポリカーボネート系樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート系樹脂組成物から得られる成形体の全光線透過率(ASTMD1003-00)が80%以上である、ポリカーボネート系樹脂組成物。
【化1】
(一般式(I)中、
R
1
およびR
2
は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基を示し、
Xは単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO
2
-、-O-またはCO-を示し、
aおよびbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。
一般式(II)中、
R
3
およびR
4
は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を示し、
平均繰り返し数nは、ポリオルガノシロキサンブロック中のシロキサン繰り返し単位の合計数を示す。)
【請求項2】
(A)成分の含有割合が70~90質量%、(B)成分の含有割合が10~30質量%、(C)成分の含有割合が(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して4~
11質量部である、請求項1記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項
1または2記載のポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明で、機械的強度のよい成形体が得られるポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電子機器ハウジングは薄肉の成形体からなるものであり、機械的強度が高いことが要求され、さらに意匠性を高める観点から着色し易いように透明性が高いことが要求される。
特許文献1、2の発明は、ポリカーボネート樹脂と重量平均分子量5,000~30,000のメチルメタクリレート単位を含む重合体を含むポリカーボネート系樹脂組成物であり、耐衝撃性、耐傷つき性(耐スクラッチ性)、透明性が良い成形体が得られることが記載され、電子機器、通信機器のハウジング用途などが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-153442号公報
【文献】特開2016-153443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透明で、機械的強度のよい成形体が得られるポリカーボネート系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(A)ポリカーボネート系樹脂と(B)重量平均分子量5,000~30,000のメチルメタクリレート単位を含む重合体を含有しており、
前記(A)成分のポリカーボネート系樹脂が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートブロックと、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロックとを有する、粘度平均分子量が10,000~40,000であるポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体であり、
(A)成分と(B)成分の合計量中の(A)成分の含有割合が65~93質量%、(B)成分の含有割合が7~35質量%であり、
さらに(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)ガラス繊維4~60質量部を含有している、ポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。
【0006】
【0007】
(一般式(I)中、
R1およびR2は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基を示し、
Xは単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-またはCO-を示し、
aおよびbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。
一般式(II)中、
R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を示し、
平均繰り返し数nは、ポリオルガノシロキサンブロック中のシロキサン繰り返し単位の合計数を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物から得られる成形体は、透明性および機械的強度に優れている。
このため前記成形体は所望の色に着色することができ、耐久性も良い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ポリカーボネート系樹脂組成物>
(A)成分のポリカーボネート系樹脂は、一般式(I)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートブロックと、一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロックとを有するポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体である。
【0010】
【0011】
(一般式(I)中、
R1およびR2は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルコキシ基を示し、
Xは単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-またはCO-を示し、
aおよびbは、それぞれ独立に0~4の整数を示す。
一般式(II)中、
R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を示し、
平均繰り返し数nは、ポリオルガノシロキサンブロック中のシロキサン繰り返し単位の合計数を示す。)
【0012】
(A)成分は、粘度平均分子量が10,000~40,000であり、好ましくは10,000~30,000である。
一般式(I)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートブロックと一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリオルガノシロキサンブロックは、(A)成分が上記粘度範囲になるようにそれぞれの繰り返し単位数が調整される。
粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出することができる(特開2008-202012号公報参照)。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0013】
(A)成分のポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体は、一分子中のSi量が1~10質量%の範囲であるものが好ましい。
【0014】
(B)成分のメチルメタクリレート単位を含む重合体は、表面硬度向上剤として作用するものであり、重量平均分子量5,000~30,000の重合体であり、好ましくは重量平均分子量10,000~25,000の重合体である。
重量平均分子量は、テトラヒドロフラン溶媒を用いたGPC測定により求めた標準ポリスチレン換算値とする。
【0015】
(B)成分は、メチルメタクリレート単位を20質量%以上含有するものが好ましく、40質量%以上含有するものがより好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。本発明では、前記割合は原料基準値と実測値のいずれも同じとする。
【0016】
(B)成分を共重合体にするときの共重合成分としては、
メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸エステル、
エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルが挙げられ、これらから選ばれる1または2以上を使用することができる。
これらの中でもフェニルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレートなどの芳香族(メタ)アクリレートが好ましい。
【0017】
(B)成分は、メチルメタクリレート単位と芳香族(メタ)アクリレート単位を含む共重合体が好ましく、メチルメタクリレート単位の割合は、20~95質量%が好ましく、40~95質量%がより好ましく、60~95質量%がさらに好ましく、芳香族(メタ)アクリレート単位の割合は、5~80質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
【0018】
(B)成分は、ガラス転移点(Tg)が90~120℃のものが好ましく、90~110℃のものがより好ましい。
ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下、昇温速度20℃/分の条件で測定した値を示す。
(B)成分は、特開2010-116501号公報の特許請求の範囲および実施例などにおいて表面硬度向上剤として記載されている共重合体を使用することができる。
【0019】
(A)成分と(B)成分の合計量100質量%中の割合は、(A)成分65~93質量%であり、70~90質量%が好ましく、(B)成分7~35質量%であり、10~30質量%が好ましい。
【0020】
(C)成分のガラス繊維は、公知のEガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラスからなるものを使用することができるが、Eガラスからなるガラス繊維が好ましい。
(C)成分のガラス繊維の含有割合は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して(C)4~60質量部であり、好ましくは4~50質量部である。
(C)成分のガラス繊維は、組成物から得られる成形体の透明性との関係からは、(C)成分のガラス繊維の含有割合を4~20質量部の範囲に制限して、ポリカーボネート系樹脂組成物から得られる成形体の全光線透過率(ASTMD1003-00)が80%以上になるようにすることもできる。
【0021】
本発明の組成物は、必要に応じて、特許文献1、2に記載の炭素数15~19の飽和アルコールと炭素数16~22の飽和脂肪酸からなるエステル化合物、特許文献1、2に記載のリン系安定剤などの安定剤を含有することができる。
【0022】
本発明の組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、架橋剤、核剤、カップリング剤、分散剤、消泡剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤などを含んでいてもよい。
【0023】
本発明の組成物は、例えば、各成分をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式または湿式で混合して調製してもよい。
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸または二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製する方法、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製する方法を適用することができる。
【0024】
<ポリカーボネート系樹脂組成物の成形体>
本発明の成形体は、上記したポリカーボネート系樹脂組成物を使用して、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形などによって、用途に応じた所望形状の成形体にすることができる。
【0025】
本発明の成形体は、全光線透過率(ASTMD1003-00,厚み3mm)が80%以上であるものが好ましく、85%以上であるものがより好ましい。
本発明の成形体は透明度が高く、ポリカーボネート系樹脂組成物に着色剤を含有させることで所望の色(例えば、漆黒、メタリック)に着色することができるため、製品(成形体)の意匠性や美観を向上させることができる。
【実施例】
【0026】
実施例および比較例
表1、表2に示す配合(質量%、質量部)で各成分を配合し、ヘンシェルミキサーで混合した。
その後、前記混合物を押出機に供給して250℃で溶融混練し、ペレットを得た。
【0027】
(成形品の曲げ強度、弾性率の評価)
上記で得られた各組成物のペレットをそれぞれ120℃で3時間乾燥した後に、射出成型機(住友重機械製SH-100)を用いて設定温度270℃、射出圧力200MPaでISO試験法に準じた試験片を作製した。
作製した試験片を用いてISO 178に準じ、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。それらの結果から、曲げ強度が100MPa以上、曲げ弾性率が3000MPa以上を良好とした。
【0028】
(成形品の透明性の評価)
上記で得られた各組成物のペレットをそれぞれ120℃で3時間乾燥した後に、射出成型機(住友重機械製SH100)を用いて設定温度270℃、射出圧力200MPaで透明性評価用試験片(50×90×3mmのカラープレート)を作製した。
作製した試験片を用いて、JIS K7361に準じ、透明性評価用試験片の全光線透過率を測定した。得られた結果から70%以上を良好とした。
【0029】
(成形品の視認性の評価)
上記で得られた各組成物のペレットをそれぞれ120℃で3時間乾燥した後に、射出成型機(住友重機械製SH100)を用いて設定温度270℃、射出圧力200MPaで透明性評価用試験片(50×90×3mmのカラープレート)を作製した。
作成した試験片を新聞紙の上に置き、文字の鮮明度を30cm離れたところから目視評価した。
○:よく見える。
△:ぼんやりと見える。
×:見えにくい。
【0030】
<使用成分>
(A)成分
PDMS-PC:ポリカーボネート中にシロキサン分子を共重合したシロキサンポリカーボネートコポリマー(出光興産株式会社製,タフロンネオ RC1760)(粘度平均分子量17000,Si量約6質量%)
(B)成分
表面硬度向上剤:メタクリル酸アリール・メタクリル酸アルキル・アクリル酸アルキル共重合体(三菱レイヨン株式会社製,メタブレン H-880)
(C)成分
ガラス繊維(GF):Eガラス繊維(日本電気硝子株式会社製,ECS03 T-187)
(その他)
酸化防止剤:ホスファイト系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製,IRGAFOS168)
【0031】
【0032】
【0033】
表1の実施例に示すように、本発明の構成要件を満足するものについては、要求性能を満たしていた。
一方、表2の比較例に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、以下のような欠点を有していた。
比較例1は、(C)成分の含有量が少ないため、曲げ強度、曲げ弾性率が不良となった。
比較例2、3は、(A)成分と(B)成分の含有量が外れているため、比較例2は全光線透過率が、比較例3は曲げ強度と視認性が不良となった。
比較例4は、(C)成分の含有量が多いため、全光線透過率と視認性が不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物から得られる成形体は、例えば、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車などの輸送車両分野、家具・建材などの住宅関連分野、雑貨分野などの各パーツ、ハウジングなどに使用することができる。