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特許7075235ティルティングパッドジャーナル軸受及びこれを用いた回転機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ティルティングパッドジャーナル軸受及びこれを用いた回転機械
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/03 20060101AFI20220518BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20220518BHJP
   F16C 37/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
F16C17/03
F16C33/10 Z
F16C37/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018029607
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019143740
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直彦
(72)【発明者】
【氏名】市村 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基喜
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-332359(JP,A)
【文献】実開昭52-085053(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/03
F16C 33/10
F16C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ハウジングに形成された給油孔を介して給油対象となる軸受パッドと当該軸受パッドの回転軸回転方向の上流側の隣の軸受パッドとの間の空間へ潤滑油を供給するようにした油浴式のティルティングパッドジャーナル軸受であって、
前記軸受パッドの位置により前記給油孔の前記空間側の開口部と前記空間との周方向の相対位置が異なるようにしたティルティングパッドジャーナル軸受において、
回転軸の重力方向真下に軸受パッドaが配置されており、前記軸受パッドa及び前記軸受パッドaの前記回転軸回転方向の下流側に位置する隣の軸受パッドbでは、前記開口部が前記空間の前記回転軸回転方向の上流側に配置されていることを特徴とするティルティングパッドジャーナル軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のティルティングパッドジャーナル軸受において、
前記軸受パッドaの前記回転軸回転方向の上流側に位置する隣の軸受パッドe及び前記軸受パッドbの前記回転軸回転方向の下流側に位置する隣の軸受パッドcでは、前記開口部が前記空間の周方向の中央位置に配置されていることを特徴とするティルティングパッドジャーナル軸受。
【請求項3】
請求項2に記載のティルティングパッドジャーナル軸受において、
前記軸受パッドcの前記回転軸回転方向の下流側及び前記軸受パッドeの前記回転軸回転方向の上流側に位置する軸受パッドdでは、前記開口部が前記空間の前記回転軸回転方向の下流側に配置されていることを特徴とするティルティングパッドジャーナル軸受。
【請求項4】
回転軸と、前記回転軸を支持するラジアル軸受とを備えた回転機械であって、
前記ラジアル軸受として請求項1乃至3の何れか一項に記載のティルティングパッドジャーナル軸受を用いたことを特徴とする回転機械
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティルティングパッドジャーナル軸受及びこれを用いた遠心圧縮機などの回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機のような高速回転機械においては、ティルティングパッドジャーナル軸受が使用される。ティルティングパッドジャーナル軸受においては、油膜においてせん断発熱により油膜温度が上昇する。特に、遠心圧縮機など高速回転の機械においては、軸表面の速度(以下、周速)が高く、温度上昇も大きいため、軸受の損傷を引き起こす可能性がある。これを回避するため、例えば、特許文献1に記載のように、上方のパッドへ潤滑油を給油する給油孔の断面積を他の給油孔よりも小さく設けて、回転軸の負荷が主に作用する下方のパッドには潤滑油を充分に給油するとともに比較的負荷の小さい上方のパッドには下方のパッドよりも少ない適量の潤滑油を供給することにより、軸受全体では潤滑油の給油量を少なくして、パッドの温度上昇を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-26129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軸受のように、給油孔の断面積(径)をパッド毎に異なるものとすることにより給油量を調整する構造では、運転状態(例えば回転軸の周速)に関わらず、パッド毎の給油量の差は給油孔の径の差により決まってしまうことになる。しかしながら、例えば、高周速条件下においては負荷側のパッドの温度上昇がより大きくなることから、高周速条件下において負荷側のパッドへの給油量をより多くすることができれば、軸受温度の上昇を抑制して回転機械の高速化を実現できる。
【0005】
本発明の目的は、高周速条件下において負荷側の軸受パッドへの給油量をより多くすることで負荷側の軸受パッドの温度上昇を抑制することが可能なティルティングパッドジャーナル軸受及びそれを用いた回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転機械の回転軸の径方向荷重を支えるティルティングパッドジャーナル軸受であって、軸受パッドの摺動部へ潤滑油を供給する給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向の相対的な位置を、軸受パッドの位置により異ならせるようにしたものである。
給油孔の開口部は給油対象となる軸受パッドとその隣の上流側の軸受パッドとの間の軸受パッド間に位置する。例えば、回転軸の径方向荷重を支える回転軸下側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の上流側とする。または、回転軸の径方向荷重を支える側とは反対側の回転軸上側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の下流側とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転機械の運転状態により各軸受パッドへの給油量の差を変更させることが可能で、高周速条件下において負荷側の軸受パッドへの給油量をより多くすることができ、高周速条件下において負荷側の軸受パッドの温度上昇を抑制することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の概略を示す横断面図である。
図2】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の概略を示す縦断面図である。
図3】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の詳細な構造を示す部分横断面図である。
図4】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の詳細な構造を示す部分横断面図である。
図5】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の給油孔流量と回転軸の回転速度の関係を示すグラフである。
図6】本発明の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の軸受パッド表面温度低減効果を示すグラフである。
図7】本発明の他の実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の詳細な構造を示す部分横断面図である。
図8】本発明のティルティングパッドジャーナル軸受を適用した回転機械の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
先ず、図1図2を参照しながら本発明の一実施例であるティルティングパッドジャーナル軸受の全体構造を説明する。なお、ティルティングパッドジャーナル軸受の全体構造はこれに限定されるものではない。
【0010】
図1はティルティングパッドジャーナル軸受の全体構造の概略を示す横断面図である。図2はティルティングパッドジャーナル軸受の概略を示す縦断面図である。
図1及び図2に示すティルティングパッドジャーナル軸受100は、回転軸1の径方向荷重を支持する油浴式ジャーナル軸受である。図1に示すように、ティルティングパッドジャーナル軸受100は、複数の軸受パッド(単に「パッド」ともいう)2a、2b、2c、2d、2e(2a~2e)と、複数のピボット4と、円筒状の軸受ハウジング(単に「ハウジング」ともいう)5と、軸受ケーシング20を備えている。図1では5個の軸受パッド2a~2eが、回転軸1の外周面に対向するように回転軸1の周方向に配設されている。各軸受パッド2a~2eの背面部には、曲率を有するピボット4が取り付けられている。各ピボット4は、軸受ハウジング5の内壁部と点、線又は面で接触している。これにより、各軸受パッド2a~2eは、ピボット4を介して搖動可能に軸受ハウジング5により支えられている。なお、ピボット4は、軸受ハウジング5の内壁部に設け、軸受パッド2a~2eを点、線又は面で支える構造としてもよい。軸受ケーシング20は、図2に示すように、内周が軸受ハウジング5の外周と接しこれを保持する。
【0011】
軸受ハウジング5の外周面には、周方向に連通した円環状の導油溝(ハウジング外周溝)50が設けられている。また、軸受ハウジング5には、導油溝50から径方向内側に向かって給油孔8a、8b、8c、8d、8e(8a~8e)が複数設けられている。給油孔8a~8eは軸受ハウジング5の内周面に開口部7a、7b、7c、7d、7e(7a~7e)を有する。給油孔8a~8eは軸受パッド2a~2e毎に設けられる。言い換えれば、給油孔の数は軸受パッドの個数と同じである(図1では軸受パッド2a~2eに対応して5個)。また、給油孔8a~8eは軸受ハウジング5の外周の導油溝50の底面から軸受ハウジング5の内周面に貫通するように設けられ、軸受ハウジング5の内周面に開口部7a~7eが形成される。給油孔8a~8eの開口部7a~7eは、給油孔8a~8eを介して供給される潤滑油が給油される軸受パッド2a、2b、2c、2d、2eと回転方向Rと逆側(回転方向上流側)の隣の軸受パッド2e、2a、2b、2c、2dとの間の空間10に面するように形成される。例えば、給油孔8aの開口部7aは軸受パッド2aと軸受パッド2eとの間の空間10に位置する。各空間10は、開口部7a~7e及び給油孔8a~8eにより導油溝50と連通している。
【0012】
軸受ケーシング20には、径方向内側に向かって導油溝50に連通する導油孔21が設けられている。導油孔21には、主給油管130が接続され、主給油管130に設けたポンプ120により油槽110から潤滑油が主給油管130を通って供給される。導油孔21に送られた潤滑油は、導油溝50に流入して軸受ハウジング5の周方向に沿って流れ、給油孔8a~8eにより分配されて軸受内(軸受パッド間の周方向の空間10)へ流入する。
【0013】
図2に示すように、軸受ハウジング5の軸方向の両側面にはシール9が設けられている。シール9は環状の部材で形成されている。シール9の内周は、軸受ハウジング5の内周よりも回転軸1側に位置し、シール9の内周と回転軸1の外周と間には隙間が形成されている。軸受内へと流入した潤滑油は、シール9によって軸受内部に貯留され、軸受内は潤滑油で満たされる油浴状態となる。すなわち、回転軸1、軸受ハウジング5、及びシール9によりパッド収納空間が形成され、パッド収納空間内に潤滑油が満たされることになる。そして、導油孔21から供給された油量と、同量の潤滑油が回転軸1とシール9の隙間から排出される。一般的に、回転軸1と軸受パッド2a~2eの隙間よりも、回転軸1とシール9の隙間のほうが大きくなるよう設計されている。
【0014】
図1に示す回転方向Rに向かって回転軸1が回転すると、給油孔8a~8eから軸受内に流入した潤滑油は、一旦パッド間の空間10を経由して、回転軸1と軸受パッド2a~2eの内周面との間である摺動部11へと供給される。すると、摺動部11に薄い流体膜(油膜)が形成され、油膜内部に圧力が発生し、ティルティングパッドジャーナル軸受は、回転軸と軸受パッドの接触を防止しつつ回転軸の径方向荷重Wを負担することができる。回転軸1の回転に伴い、油膜の内部には、せん断応力が生じ、その結果、発熱する(せん断発熱)。空間10にある潤滑油は、回転軸1の運動により、矢印Xで示すような渦状の流れが誘起される。
【0015】
次に、図3及び図4を用いて、本発明の実施例の詳細構造を説明する。図3及び図4は、図1のティルティングパッドジャーナル軸受を部分的に拡大して示したものである。
【0016】
図3においては、矢印Wで示す荷重方向側(負荷側/重力方向で見て下側)に配置された軸受パッド2a及びその回転方向上流側に位置する軸受パッド2eを回転軸1及び軸受ハウジング5とともに示す。軸受パッド2aに供給される潤滑油は、軸受パッド2eと2aとの間の空間を介して供給される。軸受パッド2eと2aとの間の空間には、給油孔8aと、軸受パッド2eと2aとの間の軸受ハウジング5内周面に設けられた開口部7aを介して潤滑油が供給される。開口部7aは、本実施例では、軸受パッド2eと2aとのパッド間周方向中央位置3aよりも上流側(回転方向逆側)に設けられている。言い換えれば、負荷側の軸受パッドへ給油する給油孔では開口部が上流側の軸受パッド後端の近傍に設けられている。
【0017】
図4においては、矢印Wで示す荷重方向逆側(非負荷側/重力方向で見て上側)に配置された軸受パッド2d及びその回転方向上流側に位置する軸受パッド2cを回転軸1及び軸受ハウジング5とともに示す。軸受パッド2dに供給される潤滑油は、軸受パッド2cと2dとの間の空間を介して供給される。軸受パッド2cと2dとの間の空間には、給油孔8dと、軸受パッド2cと2dとの間の軸受ハウジング5内周面に設けられた開口部7dを介して潤滑油が供給される。開口部7dは、本実施例では、軸受パッド2cと2dとのパッド間周方向中央位置3dよりも下流側(回転方向側)に設けられている。言い換えれば、非負荷側の軸受パッドへ給油する給油孔では開口部が下流側の軸受パッド先端の近傍に設けられている。
【0018】
上述の説明から分かるように、本実施例では、給油孔と当該給油孔により供給される潤滑油が給油される軸受パッドの周方向の相対位置が負荷側と非負荷側では異なっている。言い換えれば、軸受パッドの周方向の位置により、給油孔の開口部と当該給油孔から潤滑油が供給される軸受パッド間の空間との周方向の相対位置が異なっている。
【0019】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
【0020】
図3に示す構成においては、給油孔8aより流入する潤滑油は、矢印Yに示すように空間10に流入する。このとき、空間10においては、回転軸1の運動により誘起された、矢印Xにて示される渦状の流れが生じている。2つの流れが合流する開口部7aにおいて、矢印Yと矢印Xとはほぼ同じ方向となっているため、渦状の流れに巻き込まれるように給油孔8aから潤滑油が流入する。回転軸1の回転速度の増加に伴い渦状流れの流速が増加すると、巻き込む潤滑油の流量も増加するため、給油孔8aを通過する潤滑油の流量も増加する。これより、回転軸1の回転速度と給油孔8aを通過する潤滑油の流量との関係は、図5の曲線Aのようになる。
【0021】
図5は、給油孔における潤滑油の流量(矢印Yの流量)と回転軸の回転速度の関係を示すグラフである。
図5においては、図3に示した給油孔8aおよび図4に示した給油孔8dを通過する流量について、回転軸1の回転速度に対する変化を示しており、それぞれ曲線A(開口部7aが上流側の軸受パッド後端の近傍に位置する給油孔8aを通過する潤滑油の流量曲線)および曲線D(開口部7dが下流側の軸受パッド先端の近傍に位置する給油孔8dを通過する潤滑油の流量曲線)が対応する。図5から分かるように、給油孔の開口部と当該給油孔から潤滑油が供給される軸受パッド間の空間との周方向の相対位置が異なるようにすることにより、回転機械の回転速度に応じて給油量の差が大きくなっている。このことから、軸受パッドの位置により、給油孔の開口部と当該給油孔から潤滑油が供給される軸受パッド間の空間との周方向の相対位置が異なるように設けることにより、回転軸の回転速度が上昇した際に、軸受パッド間に流入する低温の潤滑油の流量を軸受パッド間ごとに調整することができ、任意の軸受パッドの油膜入口温度を低減することができる。本発明は、このような知見に基づいている。
【0022】
そして、本実施例では、図5に示すように、回転速度の上昇とともに給油孔8aから流入する潤滑油(空間10内にある潤滑油よりも低温の潤滑油)の流量が増加するため、空間10の温度上昇を抑えることが可能となる。これにより、負荷側の軸受パッド2aと回転軸1との間に形成される油膜入口温度も抑えられるため、負荷側における油膜温度ひいては軸受パッド表面温度を全体的に抑えることができる。
【0023】
一方、図4に示す構成においては、給油孔8dより流入する流れと、空間10において生じている渦状の流れが合流する開口部7dにおいて、矢印Yと矢印Xとはほぼ反対方向となっている。渦状の流れに抗わなくてはならないため、給油孔8dから空間10へは潤滑油が流入しにくくなる。回転軸1の回転速度の増加に伴い渦状流れの流速が増加すると、さらに流入しにくくなるため、給油孔8dを通過する潤滑油の流量は低下する。これより、回転軸1の回転速度と給油孔8dを通過する潤滑油の流量との関係は、図5の曲線Dのようになる。回転速度の上昇とともに給油孔8dから流入する流量が低下するため、空間10の温度は上昇しやすくなる。これにより、非負荷側の軸受パッド2dと回転軸1との間に形成される油膜入口温度も上昇し、非負荷側における油膜温度ひいては軸受パッド表面温度は全体的に高くなる。しかしながら、軸受全体としては、次に説明するように、非負荷側の軸受パッドの表面温度が高くなっても問題は生じない。
【0024】
軸受全体としての効果について、図6を用いて説明する。図6は、軸受パッド表面温度分布を示すグラフである。
図6においては、軸受パッド2a、2b、2c、2d、2eの内周側表面温度の分布を示している。点線は、従来構造の軸受パッド表面温度分布であり、実線は本実施例によるティルティングパッド軸受の軸受パッド表面温度分布を示す。ここで、従来構造とは、回転軸に掛る荷重方向との位置関係に関わらず、給油孔と軸受パッドとの相対位置が同一(具体的には何れの軸受パッドについても給油孔の開口部が軸受パッド間の周方向中央)である構造を指す。
【0025】
本発明の実施例の給油孔の開口部の軸受パッド間の周方向位置は次のようになっている。すなわち、給油孔8aの開口部7aについては図3に示すように軸受パッド間の周方向上流側に配置され、給油孔8dの開口部7dについては図4に示すように軸受パッド間の周方向下流側に配置されている。また、図1に示す軸受構造では、軸受温度が高くなるのは、通常、重力方向で見て真下にある軸受パッドとその一つ下流の軸受パッドであることから、給油孔8bの開口部7bについては、図1に示すように、すなわち、給油孔8aの開口部7aと同様に、軸受パッド間の周方向上流側に配置されている。また、給油孔8cの開口部7cおよび給油孔8eの開口部7eについては、図1に示すように、軸受パッド間の周方向中央位置に配置されている(従来構造の周方向位置と同じ。)。
【0026】
先に説明したように、本実施例の構造を用いた場合は、従来構造と比較し、軸受パッド2aの表面温度は低い。一方で、従来構造と比較し、軸受パッド2dの表面温度は高い。しかしながら、軸受パッド2dは荷重(負荷)方向逆側に配置されているために油膜のせん断発熱は小さく、軸受パッド2aよりも低い温度となっている。したがって、軸受全体としては、高周速条件下においても本実施例により軸受パッド表面の最高温度を低く保つことができ、信頼性の高いティルティングパッドジャーナル軸受を提供することができる。
【0027】
また、本実施例では、軸受パッドの摺動部へ潤滑油を供給する給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向の相対的な位置を、軸受パッド毎に任意に設定可能である。これにより、軸受パッドへの給油量を軸受パッドの周方向位置に応じて容易に調整することができ、しかも、回転機械の運転状態(回転速度、周速)に応じて各軸受パッドへの給油量の差を異ならせることができるので、軸受の設計の自由度が増す。
【0028】
また、上述の実施例では、回転軸の径方向荷重を支える回転軸下側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の上流側とし、回転軸の径方向荷重を支える側とは反対側の回転軸上側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の下流側としているが、例えば、回転軸の径方向荷重を支える回転軸下側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の上流側とし、その他の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の周方向中央としても良い。この場合、上述の実施例よりも効果が期待できないが負荷側の軸受パッド間への潤滑油の供給がされ易くなり、負荷側の軸受パッドへの給油量を従来構造よりも多くすることができる。同様に、回転軸の径方向荷重を支える側とは反対側の回転軸上側の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の回転軸の回転方向の下流側とし、その他の軸受パッドでは給油孔の開口部の当該軸受パッドに対する周方向位置を軸受パッド間の周方向中央としても良い。この場合、上述の実施例よりも効果が期待できないが、非負荷側では軸受パッド間への流入量が抑制されることから、負荷側の軸受パッドを含む他の軸受パッドへの給油量が従来構造よりも増加する。
【0029】
また、上述の実施例では、重力方向で見て真下に軸受パッド2aを設けた構造であることから、軸受パッド2bに潤滑油を給油する給油孔8bの開口部7bも周方向上流側としているが、重力方向で見て真下が軸受パッド間となる構造(ロードビトウィーンパッドタイプの軸受)では、荷重を支える両側の軸受パッドに給油する給油孔の開口部をパッド間の周方向上流側に設けるようにするのが良い。
【0030】
また、上述の実施例では、負荷側の給油孔8aの孔全体(開口部7aの開口全体)がパッド間周方向中央位置3aよりも上流側に配置されるようにしているが、矢印Yの流れを矢印Xの渦状流れと同じ方向とするという観点では、少なくとも給油孔(開口部)の周方向中央位置が軸受パッド間の周方向中央位置よりも上流側とすれば本実施例の効果が期待できる。ただし、本実施例の効果をより確実に得るためには、給油孔(開口部)の全体を軸受パッド間の周方向中央位置よりも上流側に配置することが望ましく、さらに、図3に示すように、給油孔8a(開口部7a)の上流側の内周部が軸受パッド2eの下流側の側面の径方向の延長線と略一致するようにすることが望ましい。これらは、非負荷側の給油孔8dについても同様なことが言える。すなわち、非負荷側については、矢印Yの流れを矢印Xの渦状流れと反対の方向とするという観点では、少なくとも給油孔(開口部)の周方向中央位置が軸受パッド間の周方向中央位置よりも下流側とすれば本実施例の効果が期待できる。また、本実施例の効果をより確実に得るためには、給油孔(開口部)の全体を軸受パッド間の周方向中央位置よりも下流側に配置することが望ましく、さらに、図4に示すように、給油孔8d(開口部7d)の下流側の内周部が軸受パッド2dの上流側の側面の径方向の延長線と略一致するようにすることが望ましい。
【0031】
また、上述の実施例では、給油孔8a~8eの径は同一としているが、負荷側の給油孔の径を非負荷側の給油孔の径よりも大きくすることにより負荷側の軸受パッドへの給油量をさらに多くするようにしても良い。
【0032】
次に本発明の他の実施例については、図7により説明する。図7は、本実施例のティルティングパッドジャーナル軸受の詳細な構造を示す負荷側の部分断面図(上述の実施例の図3に対応する部分断面図)である。なお、本実施例において、上記実施例と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0033】
図7において図3と異なる点は、給油孔8aの開口部7aの回転方向下流側の軸受ハウジング5の内周面に凸部6が設けられている点である。本実施例では、凸部6は、開口部7aの軸方向幅と同じ軸方向幅を有し、また、渦状の流れが当該凸部6の箇所を滑らかに流れるように、軸受ハウジング5の内周面側の周方向幅が大きくなるように傾斜を有している。空間10における渦状流れは、凸部6があることにより方向が変えられ、開口部7aの近くにおける矢印Xの流れは矢印Yとより一致することになる。これにより、渦状の流れに巻き込まれるように給油孔8aから潤滑油が流入しやすくなる。これにより、軸受パッド間の空間10への低温の潤滑油の流入量が多くなり、温度上昇を効果的に抑えることが可能となり、負荷側の軸受パッド2aと回転軸1との間に形成される油膜入口温度も抑えられるため、油膜温度ひいては軸受パッド表面温度を全体的に抑えることができる。したがって、本実施例においても軸受パッド表面の最高温度を低く保つことができ、信頼性の高い軸受を提供することができる。
【0034】
上述した本発明の実施例におけるティルティングパッドジャーナル軸受の特徴は、例えば、次のように纏めることができる。
(1)回転軸の外周側に配置された複数の軸受パッドと、軸受パッドが揺動可能なように保持する円筒状のハウジングと、ハウジングに設けられた円環状のハウジング外周溝と、回転軸と間隙を保ちながらハウジング軸方向端部の内周面に設けられるシールとを備えるティルティングパッドジャーナル軸受において、複数の軸受パッドの間のハウジング内周面とハウジング外周溝とを連通する、複数の軸受パッドと同数の給油孔を、軸受パッドの位置により給油孔と軸受パッドとの周方向の相対位置が異なるように設ける。
(2)上記(1)において、好ましくは、回転軸に掛る荷重方向側に配置される軸受パッドの回転方向逆側に設けられる給油孔は、軸受パッドとその回転方向逆側の軸受パッドとの間の周方向中央位置よりも回転方向逆側に設置されており、また、回転軸に掛る荷重逆方向に配置される軸受パッドの回転方向逆側に設けられる給油孔は、軸受パッドとその回転方向逆側の軸受パッドとの間の周方向中央位置よりも回転方向側に設置されている。
【0035】
(3)上記(1)または(2)において、好ましくは、回転軸に掛る荷重方向に配置される軸受パッドの回転方向逆側の給油孔の軸受ハウジング側開口部の回転方向側に凸部が設けられている。
【0036】
<ティルティングパッドジャーナル軸受を適用した回転機械の構成例>
次に、図8を用いて本発明のティルティングパッドジャーナル軸受を適用した回転機械の構成例を説明する。図8は、代表的なターボ機械の1つである遠心圧縮機の全体構造を示す縦断面図である。
【0037】
図8において、遠心圧縮機800は、円筒状などに形成され静止部(ステータ)となるケーシング801と、このケーシング801内にラジアル軸受802、803及びスラスト軸受804により支持されて回転可能に設けられた回転軸805と、この回転軸805に装着された複数段(図8では5段)の羽根車806とを備えている。回転軸805と羽根車806によりロータ807を構成している。なお、本実施例では、1本の回転軸805に羽根車806を多段に設けた一軸多段遠心圧縮機を例に説明するが、羽根車806が1段のみの単段遠心圧縮機にも同様に適用できるものである。
【0038】
ケーシング801には、1段目の羽根車806に作動流体である気体を導入する吸込流路808と、各段の羽根車806から出た気体の運動エネルギーを圧力エネルギーに変換するディフューザ809と、このディフューザ809からの圧縮された気体を次段の羽根車806に導入する戻り流路810と、最終段の羽根車806から出た気体をケーシング801外に吐出するための吐出流路811などが設けられている。
【0039】
ロータ807の回転軸805は、ケーシング801の吸込側(図8中の左側)端部及び吐出側(図8中の右側)端部に設けられたラジアル軸受802、803を介し回転可能に支持されている。また、回転軸805の吸込側端部にはスラスト荷重を受けるスラスト軸受804が設けられ、回転軸805における最終段の羽根車806の吐出側にはスラスト荷重を相殺するバランスピストン812が設けられている。
【0040】
回転軸805の吐出側端部には、モータ等の駆動機(図示省略)が連結されており、この駆動機によってロータ807を回転駆動する。また、ロータ807が回転することにより、気体が吸込流路808から吸い込まれて、複数段の羽根車806で順次圧縮され、最終的に吐出流路811から吐出されるようになっている。
【0041】
上述の構成において、ラジアル軸受802、803に本発明のティルティングパッドジャーナル軸受が用いられている。遠心圧縮機を小型・高速化させるためには、軸受周速を増加させる必要がある。軸受周速の増加に伴い軸受温度は上昇し軸受損傷のリスクが増大する。ラジアル軸受802、803として、本発明のティルティングパッドジャーナル軸受を用いることにより、高周速条件下において負荷側パッドへの給油量をより多くすることができ、高周速条件下において負荷側パッドの温度上昇を抑制することが可能となる。この結果、軸受温度の上昇を抑制して、遠心圧縮機の小型・高速化を実現できる。言い換えれば、本実施例のティルティングパッドジャーナル軸受を遠心圧縮機に適用すると、回転速度を増加することが出来るため、高圧または大流量の遠心圧縮機を実現することができる。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:回転軸、2a、2b、2c、2d、2e:軸受パッド、3a、3d:パッド間周方向中央位置、4:ピボット、5:軸受ハウジング、6:凸部、7a、7b、7c、7d、7e:開口部、8a、8b、8c、8d、8e:給油孔、9:シール、10:パッド間の空間、20:軸受ケーシング、50:導油溝(ハウジング外周溝)、100:ティルティングパッドジャーナル軸受、110:油槽、120:ポンプ、130:主給油管、X:パッド間の渦状の流れ、Y:給油孔から流出する潤滑油の流れ、R:回転方向、W:荷重方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8