(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】車線逸脱防止制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220518BHJP
B60W 30/12 20200101ALI20220518BHJP
B62D 12/02 20060101ALI20220518BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220518BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/12
B62D12/02
G08G1/16 D
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2018043334
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優太
(72)【発明者】
【氏名】島崎 健太
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-536632(JP,A)
【文献】特開2017-146653(JP,A)
【文献】特開2011-003075(JP,A)
【文献】特開2002-352373(JP,A)
【文献】特開平08-205306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B60W 30/12
B62D 12/02
G08G 1/16
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御を実行する車線逸脱防止制御部を有する車両の車線逸脱防止制御装置であって、
自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行か否かを判断する牽引走行判断部と、
前記牽引走行時に自車両のカーブへの進入状態が安全か否かを判断
し、自車両の前記カーブへの進入状態が安全と判断した場合、前記車線を形成する左右の区画線のうちの前記カーブの外側となる区画線に対してのみ前記車線逸脱防止制御を変更可能とするカーブ進入状態判断部と、
前記牽引走行時に、前記車線を形成する左右の区画線のうちの前記カーブの外側となる区画線を逸脱するか否かを判断するカーブ外側逸脱判断部と、
前記カーブの外側となる区画線からの自車両の逸脱量の許容限界を規定する逸脱許容量を算出する逸脱許容量算出部と、
自車両の前記カーブへの進入状態が安全と判断され、且つ自車両が前記カーブの外側となる区画線を逸脱すると判断された場合、前記車線逸脱防止制御部に、前記カーブの外側となる区画線からの自車両の逸脱を前記逸脱許容量まで許容して前記車線逸脱防止制御を実行するよう指示する車線逸脱許容指示部と
を備えることを特徴とする車線逸脱防止制御装置。
【請求項2】
前記逸脱許容量算出部は、
前記カーブの外側への逸脱先に障害物が存在する場合、或いは前記カーブの外側となる区画線に隣接して、自車両に対向して走行する他車両の対向車線が設けられている場合、前記逸脱許容量を0とすることを特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止制御装置。
【請求項3】
前記逸脱許容量算出部は、
前記逸脱許容量を前記カーブの曲率と自車両及び前記被牽引車両を含めた連結車両の全長との少なくとも一方に基づいて算出し、前記カーブの曲率が大きくなるほど前記逸脱許容量を大きくし、前記連結車両の全長が長くなるほど前記逸脱許容量を大きくすることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の車線逸脱防止制御装置。
【請求項4】
前記逸脱許容量算出部は、前記逸脱許容量を、前記カーブの外側となる区画線から車幅方向に一定の距離だけ離れた値として算出することを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の車線逸脱防止制御装置。
【請求項5】
前記カーブ進入状態判断部は、少なくとも前記カーブへの進入前速度が前記カーブの曲率に基づいて設定されるカーブ進入速度閾値以下であるか否かにより、前記カーブへの進入状態が安全か否かを判断することを特徴とする
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車線逸脱防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行する車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、電動モータを介して操舵角を制御可能な電動パワーステアリング装置等の操舵装置を備え、カメラやレーダ装置等によって認識した車両周囲の外部環境に基づいて、ドライバの操舵操作を支援する操舵支援制御が知られている。
【0003】
この操舵支援制御の1つとして、自車両の走行車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御があるが、走行路の形状によっては、車線逸脱防止制御の実行がかえってドライバに違和感を与えてしまう場合がある。
【0004】
このため、例えば、特許文献1には、曲線路の内側方向に逸脱する傾向がある場合で、かつ逸脱方向の車線後方に自車両と略同方向に走行する接近車両が存在する場合に、自車両へのヨーモーメントの付与を行い、かつ当該ヨーモーメントの付与により逸脱を回避した後、自車両を減速することにより、運転者に違和感を与えることのない車線逸脱防止の制御を実現する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自車両の後部に被牽引車両を連結して牽引走行している場合には、カーブを通過する際、被牽引車両の内輪差によるカーブ内側への逸脱や、被牽引車両の側方の歩行者や二輪車等との接触を防止するため、ドライバが意図的に自車両を大回りさせるように操舵し、カーブ外側方向に自車両を若干逸脱させようとする場合がある。このような場合、ドライバの意図に反して車線逸脱防止制御が介入すると、ドライバに違和感を与えるばかりでなく、ドライバが所望する経路で走行することが困難となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、被牽引車両を連結しての牽引走行でカーブを通過する際に、カーブ外側方向への逸脱に対してドライバの操舵意図に反する車線逸脱防止制御の介入を抑制し、安全を確保しながらドライバへの違和感を低減することのできる車線逸脱防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による車線逸脱防止制御装置は、自車両が走行する車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御を実行する車線逸脱防止制御部を有する車両の車線逸脱防止制御装置であって、自車両の後部に被牽引車両を連結して走行する牽引走行か否かを判断する牽引走行判断部と、前記牽引走行時に自車両のカーブへの進入状態が安全か否かを判断し、自車両の前記カーブへの進入状態が安全と判断した場合、前記車線を形成する左右の区画線のうちの前記カーブの外側となる区画線に対してのみ前記車線逸脱防止制御を変更可能とするカーブ進入状態判断部と、前記牽引走行時に、前記車線を形成する左右の区画線のうちの前記カーブの外側となる区画線を逸脱するか否かを判断するカーブ外側逸脱判断部と、前記カーブの外側となる区画線からの自車両の逸脱量の許容限界を規定する逸脱許容量を算出する逸脱許容量算出部と、自車両の前記カーブへの進入状態が安全と判断され、且つ自車両が前記カーブの外側となる区画線を逸脱すると判断された場合、前記車線逸脱防止制御部に、前記カーブの外側となる区画線からの自車両の逸脱を前記逸脱許容量まで許容して前記車線逸脱防止制御を実行するよう指示する車線逸脱許容指示部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被牽引車両を連結しての牽引走行でカーブを通過する際に、カーブ外側方向への逸脱に対してドライバの操舵意図に反する車線逸脱防止制御の介入を抑制し、安全を確保しながらドライバへの違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】トレーラ牽引時のカーブ内側寄りの走行状態を示す説明図
【
図3】トレーラ牽引時にカーブ外側への逸脱を許容した走行状態を示す説明図
【
図4】車線逸脱防止制御装置の機能構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両であり、車体後部に被牽引車両(トレーラ)100を連結するためのヒッチ2を備えている。車両(自車両)1は、ヒッチ2のヒッチボール2aにトレーラ100のジョイント101を連結することにより、トレーラ100を牽引しながら走行することができる。
【0012】
自車両1の走行は、複数の制御装置からなる走行制御系によって制御され、トレーラ100の牽引走行時においても、ドライバに対する運転支援を行う。車両1の走行制御系を構成する各制御装置はマイクロコンピュータを中心として構成され、主として、外部環境認識装置11、乗員状態検知装置12、ナビゲーション装置13、駆動制御装置14、操舵支援制御装置15が車内ネットワークを形成する通信バス50を介して双方向通信可能に接続されて構成されている。
【0013】
外部環境認識装置11は、カメラやレーダ装置等の自車両周囲の物体を検出する各種センサによる自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、GPS衛星等からの信号に基づく自車両位置の測位情報、ナビゲーション装置13からの地図情報、例えば、道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、車線を区画する区画線の種別、車線数等の走行制御用データを含む高精細の地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0014】
本実施の形態においては、外部環境認識装置11は、車載のカメラによる画像認識処理を主として、ナビゲーション装置13からの地図情報や交通情報等を加えて自車両周囲の外部環境を認識する。この外部環境認識装置11による自車両外部の認識情報は、駆動制御装置14に送られ、経路に沿った自動走行や追従走行等の操舵制御や障害物との衝突防止のためのブレーキ制御用の制御データとして用いられる。
【0015】
車載のカメラとして、自車両1には、車外の前方領域を撮像する前方カメラ3、自車両1の後方領域を撮像する後方カメラ4、ドライバの状態を撮像する車内カメラ5が搭載されている。前方カメラ3及び後方カメラ4で撮像した各画像は、外部環境認識装置11に送られて処理され、車内カメラ5で撮像した画像は、乗員状態検知装置12に送られて処理される。
【0016】
前方カメラ3は、本実施の形態においては、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラ3a,3bで構成されるステレオカメラである(以下では、前方カメラ3は、適宜、ステレオカメラ3と記載する場合がある)。ステレオカメラ3を構成する2台のカメラ3a,3bは、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期のカメラであり、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、所定の基線長で固定されて配置されている。
【0017】
外部環境認識装置11は、ステレオカメラ3で撮像した自車両1の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、ステレオマッチング処理により、左右画像の対応位置の画素ずれ量(視差)を求め、画素ずれ量を輝度データ等に変換して距離画像を生成する。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両1の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、自車両1が走行する車線を形成する左右の区画線として白線、道路側方のガードレールや側壁等の障害物、自車両1の前方を走行する先行車両等が3次元的に認識される。
【0018】
車線を形成する区画線としての白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域を白線候補点として抽出する。
【0019】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0020】
例えば、白線を2次曲線で近似する場合、白線候補点のデータ点群に対して最小二乗法を適用して、以下の(1)式で示すような2次曲線で白線を表すことができる。ここでは、左右の白線を代表して(1)式で示すが、詳細には、(1)式中の係数A,B,Cを、左右の白線のそれぞれに対して求める。
X=A・Z2+B・Z+C …(1)
【0021】
(1)式の係数A,B,Cは、白線によって形成される車線の経路成分を表している。係数Aは車線の曲率成分を表し、係数Bは自車両1に対する車線のヨー角成分(自車両1の前後方向軸と車線の接線との間の角度成分)、係数Cは自車両1に対する車線の横方向(X軸方向)の位置成分(横位置成分)を表している。
【0022】
尚、本実施の形態においては、車線を形成する区画線として道路の白線を画像認識する例をついて説明するが、区画線は、白線に限定されることなく、地図データから取得した車線情報や自車両1の位置情報等に基づいて設定されるラインとしても良い。
【0023】
乗員状態検知装置12は、車内カメラ5で撮像したドライバの画像から、運転中のドライバの状態を検知し、ドライバ状態が正常か否かを判断する。例えば、車内カメラ5の撮像画像からドライバの視線挙動の変化や瞳孔面積の変化を検出し、これらの変化に基づいてドライバが覚醒状態にあるか否かを判断する。
【0024】
例えば、ドライバの視線挙動を検出してドライバ状態を判断する場合、角膜上の虚像が眼球運動によって平行移動するのを、瞳孔中心を基準として検出する。そして、前方カメラ3で検出した先行車両等に対するドライバの視線挙動のばらつきを評価し、ドライバが覚醒状態にあるか否かを判断する。
【0025】
また、ドライバの瞳孔面積の変化からドライバ状態を判断する場合には、車内カメラ5の撮像画像におけるドライバの瞳孔面積の減少率を算出する。そして、所定時間内で瞳孔面積の減少率が閾値を上回った時間が一定以上となった場合、ドライバの覚醒度が低下していると判断する。
【0026】
ナビゲーション装置13は、地図データベース13aを備え、GPS衛星等の複数の航法衛星からの信号や車載センサ(ジャイロセンサや車速センサ等)からの信号に基づいて自車両1の位置を測位し、地図データベース13aと照合する。そして、地図上の位置情報、及び路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報に基づいて、走行経路案内や交通情報を表示装置(図示省略)に表示してドライバに提示する。
【0027】
また、地図データベース13aには、ドライバに対する経路案内や車両の現在位置を表示する際に参照されるナビゲーション用の地図データに加え、自動運転を含む運転支援制御を行う際に参照される走行制御用の高精細の地図データが格納されている。
【0028】
ナビゲーション用の地図データは、現在のノードに対して前のノードと次のノードとがそれぞれリンクを介して結びつけられており、各リンクには、道路に設置された信号機、道路標識、建築物等に関する情報が保存されている。
【0029】
一方、走行制御用の高精細の地図データは、ノードと次のノードとの間に、複数のデータ点を有している。このデータ点には、自車両1が走行する道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、道路の白線の種別、レーン数等の走行制御用データが、データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0030】
駆動制御装置14は、各種センサ類からの信号及び通信バス50を介して送信される各種制御情報に基づいて、エンジン、自動変速機、ブレーキ装置等を制御する。尚、ここでの駆動制御装置14は、エンジン、自動変速機、ブレーキ装置を個別に制御する装置群を総称するものとする。
【0031】
エンジン制御としては、例えば、吸入空気量、スロットル開度、エンジン水温、吸気温度、空燃比、クランク角、アクセル開度、その他の車両情報に基づき、燃料噴射制御、点火時期制御、電子制御スロットル弁の開度制御等の制御を主要として実行する。
【0032】
また、変速機制御として、変速位置や車速等を検出するセンサ類からの信号や通信バス50を介して送信される各種制御情報に基いて、自動変速機に供給する油圧を制御し、予め設定された変速特性に従って自動変速機を制御する。
【0033】
また、ブレーキ制御として、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御する。更に、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ制御や横すべり防止制御等を行う。
【0034】
操舵支援制御装置15は、自車両1の自動運転やドライバの運転を支援する運転支援制御を実行する。例えば、外部環境の認識結果から自車両1が走行する目標コースを設定し、この目標コースに追従して走行するよう操舵制御し、ドライバの操舵操作をアシストするアシストトルク、更には自動走行の操舵トルクを、電動パワーステアリング(EPS;Electric Power Steering)装置30を介して出力する。
【0035】
尚、EPS装置30は、ラックアンドピニオン式等の操舵機構に連設される電動モータと、この電動モータを駆動制御する制御部を有する周知の装置であり、その詳細な説明は省略する。
【0036】
操舵支援制御装置15の操舵制御における目標コースは、外部環境認識装置11による外部環境の認識結果に基づいて設定される。例えば、自車両1を車線中央に維持する車線維持制御では、自車両1の左右の白線の幅方向の中央位置が目標コースとして設定される。
【0037】
操舵支援制御装置15は、自車両1の車幅方向の中心位置を目標コースに一致させる目標操舵角を設定し、操舵制御の舵角が目標操舵角となるよう、EPS装置30のモータ駆動電流を制御する。尚、目標コースは、操舵支援制御装置15ではなく、外部環境認識装置11等の他の制御装置で設定するようにしても良い。
【0038】
また、操舵支援制御装置15は、自車両1を車線中央に維持する車線維持制御に加えて、自車両1の車線から逸脱を防止する車線逸脱防止制御を実行する。具体的には、操舵支援制御装置15は、外部環境認識装置11からの情報及び自車両1の運転状態に基づいて、自車両1の進行方向が車線を形成する左右の区画線(左右の白線)の一方に対して逸脱方向を向いている場合、自車両1が逸脱方向の区画線(白線)を跨ぐまでの車線逸脱推定時間Ttlcを算出し、車線逸脱推定時間Ttlcが自車両1の車速Vと車線の曲率κとによって決定される閾値以下の場合、車線逸脱防止制御を開始する。
【0039】
ここで、自車両1の後部にトレーラ100を連結しての牽引走行でカーブを通過する場合には、ドライバが意図的に自車両1をカーブ外側にはみ出させて大回りするように操舵する場合が想定される。従って、操舵支援制御装置15は、カーブ内側方向とカーブ外側方向とで車線逸脱防止制御の介入形態を変更することで、安全を確保しながらドライバへの違和感を低減する。
【0040】
すなわち、
図2に示すように、自車両1がカーブの内側となる区画線Linから逸脱する虞がある場合、操舵支援制御装置15は、従来と同様、車線逸脱防止制御を介入させて、車線からの逸脱を防止する。一方、
図3に示すように、カーブの外側となる区画線Loutに対しては、操舵支援制御装置15は、区画線Loutから逸脱する虞がある場合であっても、状況に応じて区画線Loutからの自車両1の逸脱を所定の範囲内で許容する。
【0041】
このため、操舵支援制御装置15は、
図4に示すように、車線からの逸脱を防止する通常の車線逸脱防止制御を実行する車線逸脱防止制御部16に対して、牽引走行時の状況に応じてカーブの外側となる区画線からの逸脱を許容するための機能部を備えている。具体的は、操舵支援制御装置15は、通常の車線逸脱防止制御部16に加えて、牽引走行判断部17、カーブ進入状態判断部18、カーブ外側逸脱判断部19、逸脱許容量算出部20、車線逸脱許容指示部21を備えている。
【0042】
詳細には、車線逸脱防止制御部16は、車線からの逸脱を防止するための目標旋回量となる目標ヨーレートγtgtを算出する。この目標ヨーレートγtgtは、以下の(2)式に示すように、自車両1に車線逸脱抑制の挙動を発生させるヨーレートγturnと、車線の曲率に応じたヨーレートγlaneとを加算して算出される。
γtgt=γturn+γlane …(2)
【0043】
(2)式において、車線逸脱抑制の挙動を発生させるヨーレートγturnは、例えば、以下の(3)式に示すように、自車両1の車線に対するヨー角(対車線ヨー角)θyawと、前述した車線逸脱推定時間Ttlcとに基づいて算出することができる。
γturn=θyaw/Ttlc …(3)
【0044】
また、車線の曲率に応じたヨーレートγlaneは、例えば、以下の(4)式に示すように、車速センサ6で検出した自車両1の車速Vと、外部環境認識装置11で取得した車線の曲率κとに基づいて算出することができる。
γlane=κ・V …(4)
【0045】
更に、車線逸脱防止制御部16は、目標ヨーレートγtgtを実現するための目標操舵トルクTtgtを算出し、EPS装置30に対する指示トルクとして出力する。EPS装置30は、操舵機構から出力される操舵トルクが目標操舵トルクTtgtとなるよう、電動モータの駆動電流を制御する。
【0046】
目標操舵トルクTtgtは、例えば、以下の(5)式に示すように、目標ヨーレートγtgtとヨーレートセンサ7によって検出した自車両1の実ヨーレートγとの偏差に基づくフィードバックトルクTfbと、車速V及び車線の曲率κに基づくヨーレートγlaneを所定の変換ゲインでトルク変換したフィードフォワードトルクTffとを加算して算出される。
Ttgt=Tfb+Tff …(5)
【0047】
牽引走行判断部17は、後方カメラ4で撮像した自車両1の後方の画像に基づいて、自車両1の後部にトレーラ100が連結されているか否かを検知し、トレーラ100が連結された状態で走行しているか否かを判断する。例えば、後方カメラ4によって撮像された画像中に所定以上の大きさの物体の存在が認識され、且つ、自車両1の走行中に画像中の物体の領域が操舵角に対して所定以上に変化しない場合、自車両1の後部にトレーラ100を連結して牽引走行していると判断することができる。
【0048】
尚、牽引走行判断部17の機能は、操舵支援制御装置15に設けることなく、外部環境認識装置11に設けるようにしても良い。
【0049】
この場合、例えば、ヒッチ2にトレーラ100のジョイント101が連結されたときにオンする電気的なスイッチを設け、このスイッチのオンオフによってトレーラ100の連結を検知するようにしても良いが、機械的な連結機構により、連結可能なトレーラが限定される場合がある。本実施の形態においては、後方カメラ4の画像によってトレーラ100の連結を検知するため、連結するトレーラ側の制約を小さくすることができる。
【0050】
カーブ進入状態判断部18は、自車両1を運転するドライバの状態、カーブ進入前の車速、ドライバのブレーキ操作状態を調べ、牽引走行時の自車両1のカーブ進入状態が安全か否かを判断する。乗員状態検知装置12によって検知されたドライバの状態が正常でない場合、自車両1が安全にカーブを走行できないと判断して、車線逸脱防止制御部16に通知して車線逸脱に備えると共に、駆動制御装置14を介した退避制御に移行する。
【0051】
乗員状態検知装置12によって検知されたドライバの状態が正常である場合には、少なくともカーブ進入前の自車両1の車速(カーブ進入前速度)Vが、安全にカーブを走行できる閾値(カーブ進入速度閾値)Vsafe以下か否かにより、自車両1のカーブへの進入状態が安全か否かを判断する。カーブ進入前速度Vがカーブ進入速度閾値Vsafe以下の場合、自車両1のカーブ進入状態が安全であり、安全にカーブを走行できると判断する。
【0052】
一方、カーブ進入前速度Vがカーブ進入速度閾値Vsafeを超えている場合には、更に、ドライバが確実にブレーキを操作して自車両1の車速Vをカーブ進入速度閾値Vsafe以下とする減速度が発生しているか否かを調べる。そして、ブレーキ操作によってカーブ進入前速度Vをカーブ進入速度閾値Vsafe以下とする減速度が発生している場合、自車両1が安全にカーブを走行できると判断する。
【0053】
カーブ進入速度閾値Vsafeは、曲率κのカーブを安全に走行できる速度の上限を定めるものである。例えば、車速Vでの曲率半径R(R=1/κ)の定常円旋回を想定し、以下の(6)式における横加速度Acを道路設計上の安全値(定数)とした場合、カーブ進入速度閾値Vsafeは、曲率κに対して、
図5に示すような特性となる。
1/R=Ac×(1/V
2) …(6)
【0054】
カーブ外側逸脱判断部19は、牽引走行時に自車両1がカーブの外側となる区画線を逸脱するか否かを判断する。前述したように、自車両1が車線(区画線)を逸脱するか否かは、車線逸脱推定時間Ttlcによって判断することができ、自車両1の進行方向がカーブの外側となる区画線に対して逸脱方向を向いており、車線逸脱推定時間Ttlcが閾値以下となる場合、自車両1がカーブの外側となる区画線を逸脱すると判断する。
【0055】
逸脱許容量算出部20は、ドライバの意図的な大回りの操舵操作による自車両1のカーブの外側となる区画線からの逸脱に対して、自車両1の逸脱量の許容限界を規定する逸脱許容量Xoverを算出する。逸脱許容量Xoverは、カーブの外側となる区画線から車幅方向に一定の距離だけ離れた値(例えば、逸脱側の白線から3m程度)としても良く、カーブの曲率と自車両1及びトレーラ100を含めた連結車両の全長との少なくとも一方に基づいて算出するようにしても良い。
【0056】
カーブの曲率や連結車両の全長によって逸脱許容量を算出する場合、カーブの曲率が大きくなるほど、逸脱許容量を大きくし、連結車両の全長が長くなるほど、逸脱許容量を大きくする。連結車両の全長は、自車両1の既知の全長とユーザの入力等によるトレーラ100の全長とに基づいて取得する。
【0057】
但し、カーブ外側の逸脱先にガードレールや側壁等が存在する場合、或いは、カーブの外側となる区画線に隣接して更に車線が設けられており、その隣接車線が自車両1に対向して走行する他車両の対向車線である場合には、Xover=0として逸脱を許容しない。
【0058】
車線逸脱許容指示部21は、自車両1のカーブ進入状態が安全と判断され、且つ自車両1がカーブの外側となる区画車線を逸脱すると判断された場合、車線逸脱防止制御部16に、自車両1のカーブの外側となる区画線からの逸脱を、逸脱許容量Xoverまで許容して車線逸脱防止制御を実行するよう指示する。
【0059】
所定範囲の逸脱を許容する車線逸脱防止制御は、例えば、自車両1に車線逸脱抑制の挙動を発生させるヨーレートγturnに対して、(3)式中の車線逸脱推定時間Ttlcを修正することで実現することができる。例えば、逸脱許容量Xoverと車速Vに基づいて修正係数を設定し、この修正係数を車線逸脱推定時間Ttlcに乗算することにより、逸脱を許容する場合の車線逸脱推定時間を修正することができる。これは、換言すれば、道路の白線に対して、白線の横位置を逸脱許容量Xoverだけオフセットさせた区画線を設定し、このオフセットさせた区画線に対して車線逸脱防止制御を行うこととも言える。
【0060】
次に、操舵支援制御装置15における車線逸脱防止制御について、
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0061】
この車線逸脱防止制御では、最初のステップS1において、操舵支援制御装置15は、後方カメラ4で撮像した画像に基づいて、被牽引車両(トレーラ100)の有無を検知し、ステップS12でトレーラ100を連結しての牽引走行中か否かを判断する。
【0062】
トレーラ100を連結せずに自車両1単独での走行中である場合、ステップS2からステップS12に進む。ステップS12では、操舵支援制御装置15は、自車両1が車線を逸脱するか否かを判断し、車線を逸脱すると判断される場合、逸脱側の車線に対する通常の車線逸脱防止制御を実行する。
【0063】
一方、トレーラ100を連結しての牽引走行中である場合には、ステップS2からステップS3へ進み、操舵支援制御装置15は、自車両1の進行路(自車両1が走行する車線)の曲率κを取得する。本実施の形態においては、進行路の曲率κは、車線を形成する左右の区画線(白線)の各々に対して取得する。白線を前述の(1)式によって近似する場合、左右それぞれの白線の曲率は、(1)式における2次曲線の係数Aに基づいて求めることができる。
【0064】
尚、地図データベース13aに高精細の地図データを保有している場合には、地図データベース13aから自車両1の現在位置の道路の曲率と車線幅を読み込み、左右それぞれの区画線の曲率を求めるようにしても良い。
【0065】
その後、ステップS3からステップS4へ進み、ステップS3で取得した曲率κが閾値κs以上か否かを調べる。閾値κsは、進行路が曲線路であるか否かを判断するための閾値であり、例えば曲率半径150m程度以下を曲線路として想定している。
【0066】
ステップS4で曲率κが閾値κs未満で直線路と判断される場合、ステップS4からステップS12へ進み、通常の車線逸脱防止制御を実行可能とする。一方、ステップS4で曲率κが閾値κs以上で曲線路と判断される場合には、ステップS4からステップS5へ進み、操舵支援制御装置15は、乗員状態検知装置12からの情報に基づいてドライバ状態が正常か否かを調べる。
【0067】
乗員状態検知装置12によってドライバに何らかの異常が検知されており、ドライバ状態が正常でない場合には、ステップS5から前述のステップS12へ進み、車線逸脱に備えて通常の車線逸脱防止制御を実行可能状態とする。一方、ドライバ状態が正常の場合には、ステップS5からステップS6へ進む。
【0068】
ステップS6では、自車両1のカーブ進入前速度Vが安全にカーブを走行できる閾値であるカーブ進入速度閾値Vsafe以下か否かを調べる。そして、V>Vsafeの場合、ステップS6からステップS7へ進み、自車両1のカーブ進入前の減速状態(カーブ前減速状態)が予め設定した減速条件を満足するか否かを調べる。カーブ前減速状態が減速条件を満足しない場合には、ステップS7からステップS12へ進んで、通常の車線逸脱防止制御を実行可能状態とする。
【0069】
カーブ前減速状態に対する減速条件は、ブレーキスイッチがオンでドライバがブレーキペダルを確実に踏んでおり、且つ、カーブ進入前速度Vをカーブ進入速度閾値Vsafe以下とすることのできる減速度が得られる条件である。但し、このときの減速度は、車両挙動の不安定化を招く虞がない減速度を上限として、例えば、0.1G程度以下の減速度であることが望ましい。
【0070】
一方、ステップS6においてV≦Vsafeの場合、或いはステップS7においてカーブ前減速状態に対する減速条件を満足する場合には、ステップS6或いはステップS7からステップS8へ進む。ステップS8では、操舵支援制御装置15は、自車両1がカーブの外側となる区画線を逸脱する可能性があるか否かを判断する。
【0071】
自車両1がカーブの外側となる区画線を逸脱する可能性がないと判断される場合、ステップS8からステップS12へ進み、カーブ内側となる区画線からの逸脱に備えて通常の車線逸脱防止制御を実行可能状態とする。自車両1がカーブの外側となる区画線を逸脱する可能性があると判断される場合には、ステップS8からステップS9へ進む。
【0072】
ステップS9では、操舵支援制御装置15は、逸脱先が対向車線であるか、或いは逸脱先にガードレールや側壁等の障害物があるか否かを調べる。逸脱先が対向車線、或いは逸脱先にガードレールや側壁等の障害物がある場合には、ステップS9からステップS12へ進んで通常の車線逸脱防止制御を実行可能とする。
【0073】
一方、逸脱先が対向車線でなく、逸脱先にガードレールや側壁等の障害物がない場合には、ステップS9からステップS10へ進み、カーブの外側となる区画線からの逸脱許容量Xoverを算出する。そして、ステップS11において、逸脱許容量を考慮した車線逸脱防止制御を実行し、自車両1のカーブの外側となる区画線からの逸脱を、逸脱許容量Xoverまで許容する。
【0074】
このように本実施の形態においては、トレーラ100を連結しての牽引走行でカーブを通過する際に、カーブ内側方向に逸脱する可能性がある場合には、従来と同様、車線逸脱防止制御を介入させる一方、カーブ外側方向に逸脱する可能性がある場合には、カーブ進入状態が安全か否かを判断し、安全と判断された場合、カーブの外側となる区画線からの逸脱を、逸脱許容量Xoverまで許容し、カーブ外側方向への逸脱に対してドライバの操舵意図に反する車線逸脱防止制御の介入を抑制する。これにより、安全を確保しながらドライバへの違和感を低減することができ、また、ドライバが所望する経路での走行が可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1 自車両
2 ヒッチ
3 前方カメラ
4 後方カメラ
5 車内カメラ
6 車速センサ
7 ヨーレートセンサ
11 外部環境認識装置
12 乗員状態検知装置
13 ナビゲーション装置
13a 地図データベース
14 駆動制御装置
15 操舵支援制御装置
16 車線逸脱防止制御部
17 牽引走行判断部
18 カーブ進入状態判断部
19 カーブ外側逸脱判断部
20 逸脱許容量算出部
21 車線逸脱許容指示部
30 EPS装置
100 トレーラ