(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】樹脂複合成形体および樹脂複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220518BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B32B27/36
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018057625
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】長縄 信夫
(72)【発明者】
【氏名】植村 裕司
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190016(JP,A)
【文献】特表2009-511829(JP,A)
【文献】特開平04-093239(JP,A)
【文献】特開2005-178061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)100質量部に対して、非結晶性樹脂(x2)を0.5~100質量部含んでなり、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)の非結晶性樹脂(x2)がスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂を含み、前記スチレン系樹脂が芳香族ビニルとシアン化ビニルの共重合によるAS樹脂であり、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を構成成分とする熱可塑性エラストマー樹脂(y1)を含んでなり、融点が210℃未満であることを特徴とする樹脂複合成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のハードセグメント(a1)は、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位、および/またはイソフタル酸またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位と、からなることを特徴とする請求項
1に記載の樹脂複合成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のソフトセグメント(a2)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体からなることを特徴とする請求項1
または2に記載の樹脂複合成形体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂複合成形体を製造する方法であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)または前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材を金型内に配置し、該金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂組成物を射出融着させて接合することを特徴とする樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体は、前記金型内に配置した部材がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材であり、前記金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂組成物が熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)であることを特徴とする請求項
4に記載の樹脂複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる部材と、熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなる部材とが接合している樹脂複合成形体および該樹脂複合成形体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性の硬質樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂(以下PBT樹脂と略す場合もある)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、及び成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品などが挙げられる。
【0003】
また、熱可塑性エラストマー樹脂の中でも結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントを有するポリエステル系熱可塑性エラストマーは振動吸収性、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的特性や、低温特性、高温特性に優れることから自動車用途部品、電気・電子部品、シート、フィルム、繊維などの産業資材などの分野で広く使用されている。
【0004】
近年、各種用途に対して、様々な要求特性があり、単一素材では達成できない場合が多い。他樹脂との接合による樹脂複合成形体により、それぞれの要求性能を満たすことで実用化できる場合が多く、他樹脂と接合できる素材が求められている。特に熱可塑性の硬質樹脂と熱可塑性エラストマー樹脂との樹脂複合成形体は強度、剛性等の特性と振動吸収性およびグリップ性、パッキン、防水シール性などの特性を両立することが可能となる。
【0005】
これまでに樹脂複合成形体を作製するため、接着剤、ネジ止め、熱板溶着、超音波溶着、などの接合方法が用いられてきた。しかし、これらの接合方法について、幾つかの問題点が指摘されている。例えば、接着剤を用いると、接着剤が硬化するまでの工程的な時間のロスや環境への負荷が問題となる。また、ネジ止めでは、締結の手間やコストが増大し、熱板溶着や超音波溶着では、熱や振動などによる製品の損傷が懸念される。これに対して、射出成形を用いて射出融着する方法は溶着に伴う熱や振動による製品のダメージが少なく、高い生産性の観点から好ましく用いられる。
【0006】
射出融着による樹脂複合成形体の形成として、例えば変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含有するポリアミド樹脂組成物とポリエステル系熱可塑性エラストマーとからなる樹脂複合成形体が特許文献1に開示されている。しかしながら、ポリアミド樹脂組成物は吸湿によって強度が低下するため実用性が不十分であった。また、ABS樹脂とPBT樹脂を含有するポリエステル系熱可塑性エラストマーとからなる樹脂複合成形体が特許文献2に、PBT樹脂やポリカーボネート樹脂やABS樹脂とポリエステル系熱可塑性エラストマーとからなる樹脂複合成形体が特許文献3に、PBT樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂とアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを含有するポリエステル系熱可塑性エラストマーとからなる積層体が文献4に、PBT樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂と芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を含有するポリエステル系熱可塑性エラストマーとからなる積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-008696号公報
【文献】特開2010-001363号公報
【文献】特開2004-143349号公報
【文献】特開2011-219526号公報
【文献】特開2011-256252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~4に記載の樹脂複合成形体は、何れも接合強度が十分ではないという課題があった。本発明は、従来技術における問題点の解決を課題として鋭意検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明は、異種材料間の接合強度が高く、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機的特性に優れたPBT樹脂組成物からなる部材と特定の熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなる部材とが接合している樹脂複合成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の樹脂複合成形体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)100質量部に対して、非結晶性樹脂(x2)を0.5~100質量部含んでなり、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を構成成分とする熱可塑性エラストマー樹脂(y1)を含んでなり、融点が210℃未満であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の樹脂複合成形体は、上記発明において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)の非結晶性樹脂(x2)がスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の樹脂複合成形体は、上記発明において、前記熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のハードセグメント(a1)は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位と、からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の樹脂複合成形体は、上記発明において、前記熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のソフトセグメント(a2)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体からなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、上記本発明の樹脂複合成形体を製造する方法であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)または前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材を金型内に配置し、該金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂組成物を射出融着させて接合することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、上記製造方法の発明において、前記金型内に配置した部材がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材であり、前記金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂組成物が熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、本発明は、異種材料間の接合強度が高く、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機的特性に優れた、PBT樹脂組成物からなる部材と特定の熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなる部材とが接合している樹脂複合成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体である。
【0018】
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂組成物(X)のポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(x1)は、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4-ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし、重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲、例えば20重量部程度以下、他の共重合成分を含んでもよい。これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、流動性の観点から250℃、1000gfで測定したときのメルトフローレート(MFR)が1g/10分~60g/10分であることが好ましく、5g/10分~60g/10分であることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを用いることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および重縮合反応を経る方法、ならびに直接重合による重縮合反応による方法(直接重合法)のいずれも適用することができる。カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。
【0021】
触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらの触媒を2種以上併用することもできる。
【0022】
ポリブチレンテレフタレートのカルボキシル基量の観点から、これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。
【0023】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)のカルボキシル基量は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)との射出溶着性を向上させるという観点から10eq/t以上であることが好ましい。ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0024】
PBT樹脂組成物(X)の非結晶性樹脂(x2)とは、とは、一般にガラス様の性質をもち、加熱した際に明確な融点を示さず、ガラス転移温度を示すだけである。
【0025】
非晶性樹脂の例としてポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、スチレン系樹脂が挙げられる。この中で、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)との相溶性の観点から好ましい。
【0026】
PBT樹脂組成物(X)の非結晶性樹脂(x2)として用いるスチレン系樹脂とは、スチレン構造単位、すなわち芳香族ビニル単位を含有する重合体であれば任意である。
【0027】
例えば、(イ)ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体などの共役ジエン系ゴムにスチレン、α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルおよびアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル、必要に応じてメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートおよびブチルメタクリレートなどの他の重合性単量体をグラフト重合して得られるABS樹脂、(ロ)上記に例示した芳香族ビニルとシアン化ビニルの共重合によるAS樹脂、(ハ)上記に例示した共役ジエン系ゴムと芳香族ビニルの共重合によるHI(ハイインパクト)-ポリスチレン樹脂、(ニ)上記に例示した芳香族ビニルからなるポリスチレン樹脂、(ホ)上記の芳香族ビニルとジエンとのブロック共重合体である。
【0028】
上記(ホ)ブロック共重合体としては、その構成単位が、ジエンが水添されていても未水添であってもよい。このようなジエンとは、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ブタジエンおよび1,3-ペンタジエンなどの1種または2種以上の水添または未水添共役ジエンであり、未水添のものとしては1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく使用でき、ブロック共重合体の具体例としては、水添または未水添SBS樹脂(スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体)および水添または未水添SIS樹脂(スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体)などが挙げられ、水添スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体(SEBS樹脂)が好ましく用いられる。
【0029】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)と上記スチレン系樹脂との相溶性を向上し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)との射出溶着性を向上させるという観点からエポキシ基含有ビニル系共重合体を用いることが望ましい。
【0030】
さらに、上記エポキシ基含有スチレン系樹脂のエポキシ基としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルエタクリレートなどが挙げられ、なかでもグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0031】
非結晶性樹脂(x2)として用いるポリカーボネート系樹脂は、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応により得られる。ジヒドロキシ化合物は、脂環族化合物などであってもよいが、好ましくは芳香族化合物(特にビスフェノール化合物)である。
【0032】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノール類[例えば、ビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;ビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトンなど]が挙げられる。好ましいポリカーボネート系樹脂には、ビスフェノールA型ポリカーボネートが含まれる。
【0033】
本発明で用いる非結晶性樹脂(x2)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)100質量部としたとき、0.5~100質量部である。その含有量が0.5質量部未満であると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体の射出溶着強度が十分発現しない。また、その含有量が100質量部を超えるとPBT樹脂組成物(X)の耐熱性が低下する。さらには射出溶着強度の点から3.0質量部以上含んでなることが好ましく、5.0質量部以上含んでなることがより好ましい。また、50.0質量部以下含んでなることが好ましく、20.0質量部以下含んでなることがより好ましい。
【0034】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分、強化繊維、無機充填剤、エラストマ-、難燃剤、離型剤、燐系抗酸化剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、滑剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0035】
強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維および有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、アクリル等)等を使用することが可能である。強化繊維により、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。1種または2種以上の強化繊維を併用することも可能であるが、ガラス繊維を含んでなるのが最も好ましい。
【0036】
ガラス繊維の具体例としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。強化繊維の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の樹脂中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。
【0037】
本発明における強化繊維の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(x1)100質量部に対して10~60重量部である。強化繊維の含有量が10重量部未満であると、樹脂組成物の機械特性が劣り、60重量部を超えると樹脂組成物の流動性が低下するため好ましくない。
【0038】
また、無機充填剤としては、セラミック繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト等の一般無機繊維、炭酸カルシウム、高分散性珪酸塩、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、ガラスビーズ、石英粉、珪砂、ウォラストナイト、カーボンブラック、硫酸バリウム、焼石膏、炭化珪素、アルミナ、ボロンナイトライトや窒化珪素等の粉粒状物質、板状の無機化合物、ウィスカー等が含まれる。これらの無機充填剤は、必要に応じ1種又は2種以上を併用混合使用できる。
【0039】
エラストマーとしては、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレンアジペートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリブチレンアジペートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリーεーカプロラクトンブロック共重合体などのポリエステル系エラストマー、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・ペンテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタンジエン共重合体、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体などのオレフィン系エラストマー、ポリエステルあるいはポリエーテルポリオールとイソシアナート化合物の反応により得られるウレタン系エラストマー、ポリアミド6,11,12などの結晶性ポリアミドとポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルやポリブチレンアジペートのような脂肪族ポリエステルからなるポリアミド系エラストマー、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体を金属イオンで分子鎖間を架橋したアイオノマ系のエラストマー、エチレンとアクリル酸エチルの共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体などのエチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、コアシェルゴムおよびこれらの酸変性やエポキシ変性物等が挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0040】
難燃剤としては、具体的には、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤などが挙げることができ、これらは各々単独、あるいは混合物の形で用いることができ、好ましくは臭素系難燃剤と無機系難燃剤の混合物が挙げられる。
【0041】
本発明で用いる臭素系難燃剤の具体例としては、テトラブロムビスフェノール-A、テトラブロビスフエノール-A誘導体、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、テトラブロムビスフェノール-A-カーボネートオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、N,N´-エチレン-ビス-テトラブロモフタルイミドなどが挙げられる。なかでも、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、テトラブロムビスフェノール-A-カーボネートオリゴマーまたはポリマーが好ましい。
【0042】
本発明で用いる無機系難燃剤としては、水酸化マグネシウム水和物、水酸化アルミニウ ム水和物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ 酸化亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、ホウ酸亜鉛などを挙げることができる。なかでも、三酸化アンチモンが好ましい。
【0043】
離型剤としては、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス、蜜ろう、 ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油及びその誘導体、脂肪酸及びその誘導体等の油脂系ワックスが挙げられる。
【0044】
燐系抗酸化剤の例としては、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0045】
安定剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物、ならびに2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンのようなベンゾフェノン系化合物、モノまたはジステアリルホスフェート、トリメチルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0046】
これらの各種添加剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。
【0047】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0048】
紫外線吸収剤としては、例えば2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、また2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’- ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’- ビス(α,α’-ジメチルベンジル )フェニルベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルプチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、メチル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオナートとポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0049】
また、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4- ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ- 1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3-オキシ-[4-(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができ、かかる光安定剤は上記紫外線吸収剤や各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0050】
着色剤は、有機染料、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。
【0051】
滑剤は(ポリ)グリセリンや(ポリ)ペンタエリスリトールとカブロン酸、エナンチル酸、ノナン酸、カプリン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベへン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソノナン酸、アラギン酸、モンタン酸等の脂肪族モノカルボン酸等の脂肪酸のエステルなどが挙げられる。
【0052】
その他蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、エステル交換反応抑制剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などを挙げることができる。
【0053】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材は、射出成形、押出成形など各種方法により成形加工することが可能である。なかでも射出成形または射出融着による加工が気密性を高める点で好ましい。
【0054】
(2)熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)が構成成分である熱可塑性エラストマー樹脂(y1)を含んでなり、融点が210℃未満である。
【0055】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のハードセグメント(a1)は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0056】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)は、融点が210℃未満である。本発明において、熱可塑性エラストマー樹脂(y1)の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定され、測定された融点が210℃未満に存在することを意味する。融点が210℃以上の熱可塑性エラストマー樹脂(y1)を使用する場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)との接合強度が低くなる。
【0057】
熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のハードセグメント(a1)を主として構成する芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6一ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0058】
さらに、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらに、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0059】
芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体として、好ましくはテレフタル酸、ジメチルテレフタレート、イソフタル酸、ジメチルイソフタレートであり、より好ましくはテレフタル酸とイソフタル酸である。さらに前記ジカルボン酸を2種以上使用することも好ましく、例えばテレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸などの組み合わせが挙げられる。ジカルボン酸成分を2種以上使用することでハードセグメント(a1)の結晶化度を下げることができ、柔軟性を付与することも可能で、かつ他の熱可塑性樹脂との熱接着性が向上する。
【0060】
次に、前記芳香族ジカルボン酸等とエステルを形成するジオールについて説明する。本発明に使用するジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましい。かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。これらのジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0061】
かかるハードセグメント(a1)の好ましい例は、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるもの、イソフタル酸またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるもの、およびその両者の共重合体が好ましい。
【0062】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)のソフトセグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルである。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。
【0063】
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらのソフトセグメント(a2)として、得られる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペートなどの使用が好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールの使用が好ましい。また、これらのソフトセグメント(a2)の数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0064】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)において、ハードセグメント(a1)とソフトセグメント(a2)の共重合量は、通常、ハードセグメント(a1)を5~80質量%、ソフトセグメント(a2)を20~95質量%であり、好ましくはハードセグメント(a1)を10~75質量%、ソフトセグメント(a2)を25~90質量%である。
【0065】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂(y1)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルコールジエステルなどのエステル形成性誘導体、過剰量のジオール(低分子量グリコール)およびソフト低融点重合体セグメント(a2)成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、および芳香族ジカルボン酸と過剰量のジオールおよびソフト低融点重合体セグメント(a2)成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0066】
このような熱可塑性エラストマー樹脂(y1)の市販品としては、東レ・デュポン株式会社製“ハイトレル”等がある。
【0067】
また、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、他の樹脂成分、強化繊維、無機充填剤、種々の添加剤を添加することができる。例えばタルクなど公知の結晶核剤や滑剤などの成形助剤、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、芳香族アミン系化合物である酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸化チタン、カーボンブラックなどの紫外線遮断剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系化合物である耐光剤、耐加水分解改良剤、顔料や染料などの着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、充填剤、可塑剤、離型剤、燐系抗酸化剤、安定剤などを任意に含有することができる。
【0068】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材は、射出成形、押出成形など各種方法により成形加工することが可能である。なかでも射出成形または射出溶着による加工が気密性を高める点で好ましい。 本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とを接合させる方法に特に制限はなく、加熱接合する方法、射出成形または押出成形する方法等が挙げられる。ここで、加熱接合する方法としては、例えばレーザー光を照射して加熱接合する方法、熱板にて加熱接合する方法、高周波を使用して加熱接合する方法、金属プレスなどを加熱して加熱接合する方法等が挙げられる。
【0069】
加熱接合する具体的方法としては、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材とを接するように重ね、まず熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材との接合部分を加熱溶融させ、溶融させた熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材をポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材に接合させ、その後冷却することで樹脂複合成形体を得ることができる。さらに接合させる際に接合部を加圧すると、接合強度、気密性が高くなるので好ましい。
【0070】
また、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)または前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材を射出成形金型にインサートし、前記射出成形金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂部材を射出融着させて接合する方法(2色成形)は、溶着に伴う熱による製品ダメージが少なく、高い生産性の観点からより好ましい。
【0071】
さらに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材と、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)からなる部材とが接合している樹脂複合成形体は、前記金型内に配置した部材がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材であり、前記金型内に配置した部材を構成する樹脂組成物とは別の溶融した樹脂組成物が熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)であることが、より好ましい。
【0072】
射出成形金型を開いて前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)からなる部材をインサートし、金型を閉め、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出して接合する方法は低い温度での溶着が可能であり、熱による製品ダメージがより少なく、高い生産性の観点から特に好ましい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。この発明の要旨の範囲内で、適宣変更して実施することができる。
【0074】
以下に、実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%及び部は、断りのない場合すべて質量基準である。また例中に示される物性は次のように測定した。
【0075】
[PBT物性評価方法]
(1)引張特性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で試験片を射出成形で得て、ISO527-1,2に準拠し、引張強度を測定した。
【0076】
(2)曲げ弾性率
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で試験片を射出成形で得て、ISO178に準拠し、曲げ弾性率を評価した。
【0077】
(3)耐熱性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で試験片を射出成形で得て、ISO75-1,2に準拠し、フラットワイズ、1.80MPa応力での荷重たわみ温度を測定した。
【0078】
[表面硬度(デュロメーターD)]
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)をJIS K7215-1986に従って、23℃で測定した。
【0079】
[機械的特性]
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)をJIS K7113-1995に従って、23℃における引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率を測定した。
【0080】
[熱融着接着力]
まず、120℃で3時間乾燥したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)ペレットを使用して、
図1に示す巾20mm、長さ60mm、厚み1mmのL字形状成形品を、シリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で射出成形により作製した。
図1の(ロ)は横から見た図であり、(イ)が上から見た図である。成形されたL字形状成形品(A)を
図2に示す逆T字形状の金型にセットした。この後、80℃で3時間乾燥した熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)ペレットを、シリンダー温度230℃、250℃、金型温度50℃、射出速度30mm/秒、充填に必要な最低保持圧力+2MPaの保持圧力で射出成形し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなる成形品(B)と、上記成形品(A)とが接合した複合成形品を得た。これを23℃、50%RHにて1日放置後、
図3に示す方向で、歪み速度50mm/分の条件で引張試験を実施し、得られた最大張力を熱融着接着力として測定した。
【0081】
[参考例]
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)]
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
<x1>ポリブチレンテレフタレート樹脂、東レ(株)社製“1100S”を用いた。
【0082】
<x2-1>アクリロニトリル/スチレン共重合体として、スチレンとアクリロニトリルを懸濁重合してビーズ状の変性ビニル系共重合体を調製した。アクリロニトリル/(B-2)スチレン共重合体各成分の重量比は24/76重量部であり、還元粘度が0.79であるものを用いた。
【0083】
<x2-2>アクリロニトリル/スチレン/グリシジルメタクリレート共重合体。スチレンとアクリロニトリル、グリシジルメタクリレートを懸濁重合してビーズ状の変性ビニル系共重合体を調製した。アクリロニトリル/スチレン/グリシジルメタクリレート共重合体各成分の重量比は23.9/75.8/0.3重量%であり、還元粘度が0.49である。
【0084】
<x2-3>出光石油化学社製ポリカーボネート樹脂“タフロン”A-1900(粘度平均分子量:19000)を用いた。
【0085】
<x3-1>繊維径約13μmのチョップドストランド状のガラス繊維、日本電気硝子社製“T-187”を用いた。
【0086】
<x4-1>(C)α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体として、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体(ARKEMA製“ロタダー”(登録商標)AX8840(商品名)、MFR:5g/10分(190℃、2.16kgf))を用いた。
【0087】
[熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-1)]
テレフタル酸348部、イソフタル酸100部、1,4-ブタンジオール390部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール500部を、チタンテトラブトキシド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込んだ。190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物にN,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)(BASF社製)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間45分重合を行った。得られたポリマ(熱可塑性エラストマー樹脂(y1-1))を水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なって、熱可塑性エラストマー樹脂(y1-1)が配合されてなる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-1)ペレットとした。
【0088】
このようにして得られた熱可塑性エラストマー樹脂(y1-1)の温度200℃、荷重2160gで測定した溶融粘度指数(MFR)(ASTM D1238-1990に従って測定)は、13g/10分、融点は163℃の熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-1)のデュロメーターDで測定した表面硬度は40Dであった。
【0089】
[熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-2)]
テレフタル酸50.5部、1,4-ブタンジオール43.8部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール35.4部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.02部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ-n-ブチルチタネート0.2部を追添加し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバガイギー社製「イルガノックス1098」)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。
【0090】
得られたポリマーを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。
得られたペレットを、回転可能な反応容器に仕込み、系内の圧力を27Paの減圧とし、170~180℃で約24時間回転させながら加熱して固相重合を行った。熱可塑性エラストマー樹脂(y1-2)が配合されてなる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-2)ペレットが得られた。
【0091】
得られた熱可塑性エラストマー樹脂組成物(y1-2)の温度220℃、荷重2160gで測定した溶融粘度指数(MFR)(ASTM D1238-1990に従って測定)は、8g/10分、融点は208℃の熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-2)のデュロメーターDで測定した表面硬度は55Dであった。
【0092】
[実施例1~19]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)、両者の熱融着力を評価した結果を表1、表2、表3に示す。得られた結果は、何れも高い熱溶着力を示した。
【0093】
なお、判定は、以下のように行った。
【0094】
実施例1~3と11~13および比較例1については、230℃での熱融着力が300N/20mm以上である場合〇、熱融着力が300N/20mm未満の場合×とした。
【0095】
実施例4~10と14~19および比較例2~5については、230℃での熱融着力が390N/20mm以上かつ荷重たわみ温度が150℃以上である場合◎、230℃での熱融着力が200N/20mm以上390N/20mm未満かつ荷重たわみ温度が150℃以上の場合が〇、熱融着力が200N/20mm未満の場合もしくは荷重たわみ温度が150℃未満の場合を×とした。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
[比較例1~5]
表2、表3に示したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(X)、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を実施例と同様に評価した。上記の通り、熱溶着力もしくは荷重たわみ温度のいずれかが低くなった。
【符号の説明】
【0100】
(A) 樹脂部材
(B) 他の樹脂組成物
(C) 引張試験方向