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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】地盤改良構造および掘削方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/12 20060101AFI20220518BHJP
   E02D 29/05 20060101ALI20220518BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20220518BHJP
   E02D 5/54 20060101ALI20220518BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20220518BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
E02D31/12
E02D29/05 A
E02D3/12 101
E02D3/12 102
E02D5/54
E02D5/80 Z
E02D17/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018093007
(22)【出願日】2018-05-14
(65)【公開番号】P2019199693
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】安永 正道
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-182509(JP,A)
【文献】特開2003-278142(JP,A)
【文献】特開2007-224645(JP,A)
【文献】特開平11-247174(JP,A)
【文献】特開2013-117479(JP,A)
【文献】特開平11-200393(JP,A)
【文献】特開平06-116974(JP,A)
【文献】特開2003-171949(JP,A)
【文献】特開2001-279659(JP,A)
【文献】特開昭52-053522(JP,A)
【文献】特開2000-045264(JP,A)
【文献】特開平04-114888(JP,A)
【文献】特開2001-072181(JP,A)
【文献】特開昭59-029900(JP,A)
【文献】特開2002-047676(JP,A)
【文献】特開平06-041990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/12
E02D 29/05
E02D 3/12
E02D 5/54
E02D 5/80
E02D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を固化材により改良して形成された人工不透水層を有する地盤改良構造であって、
前記人工不透水層は、複数の支点において地下水の揚圧力に対して支持され、
前記支点は前記人工不透水層の両側の山留壁であり、前記山留壁の間で前記人工不透水層が設けられ、
前記人工不透水層の上面は水平面であり、
前記人工不透水層の下面は、前記支点の間の中間部における高さと、前記支点の位置における高さの違いにより、上方凸状に形成されることを特徴とする地盤改良構造。
【請求項2】
前記人工不透水層は、前記支点の間の中間部における厚さと、前記支点の位置における厚さが異なることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良構造。
【請求項3】
前記下面は、上凸となる円弧状に形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の地盤改良構造。
【請求項4】
前記下面の前記支点側の両端部に傾斜面が設けられ、
前記下面の前記中間部に水平面が設けられ、
前記傾斜面は、前記中間部側に行くにつれ高くなるよう傾斜し、
前記水平面は、前記傾斜面の上端同士を接続することを特徴とする請求項1または請求項2記載の地盤改良構造。
【請求項5】
前記人工不透水層の下面は、水平方向に対し傾斜した傾斜面を有し、前記傾斜面は複数の段部により段状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の地盤改良構造。
【請求項6】
地盤を固化材により改良して人工不透水層を設ける工程(a)と、
前記人工不透水層の上方の地盤の掘削を行う工程(b)と、
を有し、
前記人工不透水層は、複数の支点において地下水の揚圧力に対して支持され、
前記支点は前記人工不透水層の両側の山留壁であり、前記山留壁の間で前記人工不透水層が設けられ、
前記人工不透水層の上面は水平面であり、
前記人工不透水層の下面は、前記支点の間の中間部における高さと、前記支点の位置における高さの違いにより、上方凸状に形成されることを特徴とする掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良構造および地盤の掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の構築時には地盤の掘削を行う。その際、適切な深度に不透水層が有る場合は、不透水層に達する山留壁を構築した後、切梁・腹起しを掛けながら山留壁の内側の地盤を掘削する。山留壁は外側の地盤からの土圧に抵抗するほか、地下水を遮水する遮水壁としても機能する。
【0003】
一方、適切な深度に不透水層が無い場合、山留壁の内側の地盤を改良して人工の不透水層(以下、人工不透水層という)を形成することがある(例えば、特許文献1~6)。
【0004】
人工不透水層の厚さは、地下水の揚圧力によって人工不透水層に生じる曲げモーメントやせん断力に耐え得るものとする。人工不透水層は山留壁の間に設けられ、山留壁の変形を防止する地中梁としても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-209998号公報
【文献】特開平11-247174号公報
【文献】特開2003-171949号公報
【文献】特開2001-182088号公報
【文献】特開2004-27722号公報
【文献】特開2015-229822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
山留壁の離れ(スパン)が大きくなると、人工不透水層にかかる工期やコストが増加する問題がある。すなわち、人工不透水層の応力度は両側の山留壁を支点とした単純梁に一様な揚圧力が加わっているものとして求められ、山留壁のスパン(支点間距離)が大きくなると揚圧力によって生じる曲げモーメントやせん断力の最大値が大きくなる。そのため人工不透水層の厚さや強度を大きくする必要が生じ、工期やコストの面から地盤改良による人工不透水層とは別の方法を採用せざるを得ない場合もある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、人工不透水層にかかる工期やコストを抑えることのできる地盤改良構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、地盤を固化材により改良して形成された人工不透水層を有する地盤改良構造であって、前記人工不透水層は、複数の支点において地下水の揚圧力に対して支持され、前記支点は前記人工不透水層の両側の山留壁であり、前記山留壁の間で前記人工不透水層が設けられ、前記人工不透水層の上面は水平面であり、前記人工不透水層の下面は、前記支点の間の中間部における高さと、前記支点の位置における高さの違いにより、上方凸状に形成されることを特徴とする地盤改良構造である。
【0009】
本発明では、人工不透水層の下面を上記のように凸状に形成することで、地下水の揚圧力により人工不透水層に生じるせん断力や曲げモーメントの分布に応じて、あるいは人工不透水層が地下水の揚圧力に効果的に抵抗できるように、人工不透水層の形状を最適化して改良土量等を減らし、工期やコストを抑えることができる。
【0010】
前記人工不透水層は、前記支点の間の中間部における厚さと、前記支点の位置における厚さが異なることが望ましい。
本発明では、人工不透水層の下面の凸形状によって、人工不透水層の厚さを、地下水の揚圧力により人工不透水層に生じるせん断力や曲げモーメントの分布に応じて最適化できる。
【0011】
例えば前記人工不透水層は、前記支点の間の中間部における厚さが、前記支点の位置における厚さより小さい。
地下水の揚圧力が人工不透水層に一様に加わる場合、揚圧力により人工不透水層に生じるせん断力は支点側で大きくなり、曲げモーメントは支点の間の中間部で大きくなる。せん断力の最大値に対して必要となる地盤改良厚が、曲げモーメントの最大値に対して必要となる地盤改良厚より大きい場合は、上記のように支点の間の中間部における人工不透水層の厚さを支点の位置における厚さよりも小さくすることで、上記のせん断力や曲げモーメントの分布に対し人工不透水層の厚さを最適化できる。
【0012】
あるいは、前記人工不透水層は、前記支点の間の中間部における厚さが、前記支点の位置における厚さより大きくてもよい。
地下水の揚圧力が小さい場合や改良土の強度が大きい場合など、人工不透水層の形状を主として地下水の揚圧力により生じる曲げモーメントによって定めることのできる場合がある。この場合は、支点の間の中間部における人工不透水層の厚さを支点の位置における厚さよりも大きくすることで、曲げモーメントの分布に対し人工不透水層の厚さを最適化できる。
【0013】
前記下面は、上凸となる円弧状に形成されることも望ましい。
また前記下面の前記支点側の両端部に傾斜面が設けられ、前記下面の前記中間部に水平面が設けられ、前記傾斜面は、前記中間部側に行くにつれ高くなるよう傾斜し、前記水平面は、前記傾斜面の上端同士を接続することも望ましい。
【0014】
前記人工不透水層下面、水平方向に対し傾斜した傾斜面を有し、前記傾斜面は複数の段部により段状に形成される。
本発明では人工不透水層を地盤改良によって形成することから、人工不透水層の上面や下面に傾斜を設けて凸状にする場合、その傾斜面を段状のものとできる。
【0015】
第2の発明は、地盤を固化材により改良して人工不透水層を設ける工程(a)と、前記人工不透水層の上方の地盤の掘削を行う工程(b)と、を有し、前記人工不透水層は、複数の支点において地下水の揚圧力に対して支持され、前記支点は前記人工不透水層の両側の山留壁であり、前記山留壁の間で前記人工不透水層が設けられ、前記人工不透水層の上面は水平面であり、前記人工不透水層の下面は、前記支点の間の中間部における高さと、前記支点の位置における高さの違いにより、上方凸状に形成されることを特徴とする掘削方法である。
第2の発明は、第1の発明の地盤改良構造を形成して地盤の掘削を行う掘削方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、人工不透水層にかかる工期やコストを抑えることのできる地盤改良構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ポンプ室1を示す図。
図2】ポンプ室1の構築方法について示す図。
図3】ポンプ室1の構築方法について示す図。
図4】傾斜面41を示す図。
図5】地下水の揚圧力A、人工不透水層4の曲げモーメントMとせん断力S、および必要な地盤改良厚を示す図。
図6】人工不透水層4aを示す図。
図7】人工不透水層4bを示す図。
図8】ボックスカルバート10を示す図。
図9】人工不透水層4cを示す図。
図10】地下水の揚圧力Aと人工不透水層4cの軸圧縮力Nを示す図。
図11】ポンプ室1aの構築方法について示す図。
図12】ポンプ室1aの構築方法について示す図。
図13】ポンプ室1aの構築方法について示す図。
図14】人工不透水層4’の支点を示す図。
図15】中間杭5、5’の配置が異なる例。
図16】グラウンドアンカー8を用いた地盤改良構造を示す図。
図17】ポンプ室1bの構築方法について示す図。
図18】ポンプ室1bの構築方法について示す図。
図19】ポンプ室1bの構築方法について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
(1.ポンプ室1)
図1は、本発明の実施形態に係る地盤改良構造を利用して構築されるポンプ室1を示す図である。
【0020】
ポンプ室1は、火力発電所、原子力発電所などで海水を冷却水として使用するために用いられる。海水は、取水口、取水路を通ってポンプ室1に導かれ、循環水ポンプによって発電所のタービン室に供給される。
【0021】
ポンプ室1は地盤2に構築される地下構造物であり、コンクリートによって形成された底版11と側壁12からなる函状の躯体を有する。側壁12の間の中間部にはコンクリートによる分流壁13が設けられる。
【0022】
なお図1の符号4は人工不透水層であるが、これについては後述する。
【0023】
(2.ポンプ室1の構築方法)
図2、3はポンプ室1の構築方法について示す図である。本実施形態ではポンプ室1の構築に先立って地盤改良構造を形成し、その後地盤2の掘削が行われるが、以下ではその掘削方法についても説明する。
【0024】
すなわち、本実施形態では、ポンプ室1を構築する際、まず図2(a)に示すように山留壁3を地盤2に施工する。
【0025】
山留壁3は地盤2の掘削箇所(ポンプ室1の構築箇所)の両側に設けられる。山留壁3は外側の地盤2からの土圧に抵抗するとともに、地下水の遮水を行う遮水壁としても機能する。山留壁3は特に限定されず、鋼矢板壁、鋼管矢板壁、芯材入りのソイルモルタル壁などを用いることができる。
【0026】
山留壁3を施工した後、図2(b)に示すように山留壁3の間で地盤2の改良を行い、人工不透水層4を形成する。これにより、人工不透水層4を含む地盤改良構造が形成される。本実施形態では人工不透水層4が山留壁3の底部に当たる深さで形成され、人工不透水層4の下端と山留壁3の下端がほぼ同じ深さにある。
【0027】
人工不透水層4と山留壁3の間には付着力が生じ、この付着力は地下水の揚圧力に対する抵抗力を人工不透水層4に与える。すなわち、人工不透水層4は、山留壁3の位置を支点として地下水の揚圧力に対し支持される。
【0028】
人工不透水層4の上面は水平方向に形成される水平面であるが、人工不透水層4の下面は、山留壁3の間の中間部における高さと山留壁3の位置における高さの違いによって上方に凸となっている。そのため、人工不透水層4の厚さ(地盤改良厚)は山留壁3の間の中間部と山留壁3の位置とで異なり、中間部での厚さが山留壁3の位置における厚さよりも小さくなっている。
【0029】
人工不透水層4の下面では、山留壁3側の両端部に傾斜面41が、山留壁3の間の中間部に水平面42が設けられる。傾斜面41は、山留壁3の間の中間部側に行くにつれ高くなるよう直線状に傾斜する。水平面42は傾斜面41の上端同士を接続する。
【0030】
人工不透水層4の形成方法(地盤2の改良方法)は特に限定されず、例えば既知の噴射混合攪拌工法、機械混合攪拌工法、薬液注入工法などを用い、セメントミルクなどの固化材で地盤2を固化して改良することにより人工不透水層4を形成できる。これらの工法では施工深度を段階的に変更しながら地盤改良を行うことから、人工不透水層4の傾斜面41は、実際には図4に示すように複数の段部411から構成される。
【0031】
こうして人工不透水層4を形成した後、図3(a)に示すように山留壁3の間にある人工不透水層4の上方の地盤2を床付け位置まで掘削する。地盤2の掘削時には必要に応じて切梁(不図示)を山留壁3の間に架け渡す。
【0032】
その後、図3(b)に示すようにポンプ室1の構築を行う。本実施形態では切梁や山留壁3をポンプ室1の構築時に撤去するが、山留壁3は残置する場合もある。また本実施形態では掘削時の床付け位置(ポンプ室1の底版11の下面位置に対応する)を人工不透水層4の上面としているが、それより高い位置でもよい。その場合はポンプ室1の底版11と人工不透水層4の間に地盤2が介在する。なお、ポンプ室1の外面の位置は山留壁3の内面の位置に対応しているが、ポンプ室1の外面の位置はそれより内側でも良い。
【0033】
前記した人工不透水層4の形状は、地下水の揚圧力により人工不透水層4に生じる曲げモーメントやせん断力の分布に応じて人工不透水層4の厚さを最適化するように定められたものであり、これにより人工不透水層4の改良土量等を減らして工期やコストを抑えることができる。
【0034】
すなわち、図5(a)のように地下水の揚圧力Aが人工不透水層4に一様に加わる場合、人工不透水層4を山留壁3の位置を支点(図中▽参照)として支持される単純梁としたときに、人工不透水層4に生じる曲げモーメントM(t・m/m)とせん断力S(t/m)の概略を示したものが図5(b)である。なおせん断力Sについては絶対値を示している。
【0035】
図5(c)は、曲げモーメントMに対し必要となる地盤改良厚h1(m)とせん断力Sに対し必要となる地盤改良厚h2(m)を示したものであり、h1、h2はそれぞれ以下の式(1)、(2)で算出することができる。式(1)、(2)において、b(m)は改良土の奥行き方向(図5(a)等の紙面法線方向に対応する)の単位長さであり、例えばb=1とする。また、σ(tf/m2)、τ(tf/m2) はそれぞれ改良土の圧縮許容応力度とせん断許容応力度である。
h1=(6・M/(σ・b))0.5…(1)
h2=S/(τ・b)…(2)
【0036】
図5(b)、(c)に示すように、人工不透水層4に一様な揚圧力Aが加わる場合、人工不透水層4に生じるせん断力Sは山留壁3の位置で大きくなり、曲げモーメントMは山留壁3の間の中間部で大きくなる。またこの例では、せん断力Sの最大値に対して必要となる地盤改良厚h2が、曲げモーメントの最大値に対して必要となる地盤改良厚h1より大きい。
【0037】
本実施形態の人工不透水層4の下面の形状は、図5(c)の実線Bに示すように、曲げモーメントMに対し必要となる地盤改良厚h1とせん断力Sに対し必要となる地盤改良厚h2のいずれも満たし、且つ改良土量をできるだけ少なくするように考慮した結果、前記のように山留壁3の位置で人工不透水層4が厚く形成され、山留壁3の間の中間部で人工不透水層4がそれよりも薄く形成されるように、上方に凸状としたものである。
【0038】
これにより、図5(c)の鎖線Cに示すように必要な地盤改良厚の最大値に合わせて地盤改良厚を一定にする(人工不透水層4の下面を水平とする)場合に比べ、改良土量を30%程度低減できる。
【0039】
なお、本実施形態の人工不透水層4に代えて、当該人工不透水層4を上下反転させた形状の人工不透水層を用いることも可能であり、これは後述する図6、7の例でも同様である。例えば本実施形態では、人工不透水層4を上下反転して下面を水平面、上面を下に凸状とすることでも実線Bに示す地盤改良厚を実現できる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、人工不透水層4の凸形状によって、地下水の揚圧力Aにより人工不透水層4に生じるせん断力Sや曲げモーメントMの分布に応じて人工不透水層4の厚さを最適化し、改良土量等を減らして工期やコストを抑えることができる。
【0041】
すなわち、地下水の揚圧力Aが人工不透水層4に一様に加わる場合、揚圧力Aにより人工不透水層4に生じるせん断力Sは山留壁3の位置で大きくなり、曲げモーメントMは山留壁3の間の中間部で大きくなる。せん断力Sの最大値に対して必要となる地盤改良厚h2が、曲げモーメントMの最大値に対して必要となる地盤改良厚h1より大きい場合は、山留壁3の間の中間部における人工不透水層4の厚さを山留壁3の位置における厚さよりも小さくすることで、上記のせん断力Sや曲げモーメントMの分布に対し人工不透水層4の厚さを最適化できる。
【0042】
また本実施形態ではせん断力Sに耐えるべく人工不透水層4の山留壁3側の端部を厚くしているので、山留壁3と一体に挙動し実質的な支点として機能する人工不透水層4の範囲が内側に拡がり、実質的な支点間距離が小さくなって人工不透水層4に生じる曲げモーメントMの最大値が小さくなる効果も期待できる。そのため、山留壁3の間の中間部での人工不透水層4の厚さをより小さくすることも可能である。
【0043】
また本実施形態では、人工不透水層4を地盤改良によって形成することから、傾斜面41は複数の段部411により構成される段状のものとできる。
【0044】
しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば人工不透水層4の形状は、曲げモーメントMに対し必要となる地盤改良厚h1とせん断力Sに対し必要となる地盤改良厚h2のいずれも満たし、且つ改良土量をできるだけ少なくするように定めればよく、前記の実施形態で示したものに限らない。
【0045】
例えば図5(c)の破線B’に示すように地盤改良厚を設定することで、図6に示すように人工不透水層4aの下面を上方に凸となる略円弧状の曲面とすることも可能である。この場合も人工不透水層4aの下面に傾斜面43を有することとなるが、この傾斜面43も図4の例と同様複数の段部により段状に構成される。
【0046】
また、地下水の揚圧力Aが小さい場合や改良土の強度が大きい場合など、人工不透水層の形状を主として曲げモーメントMによって定めることのできる場合がある。曲げモーメントMのみを考慮する場合では、図7に示すように、人工不透水層4bの下面を下方に凸となる略円弧状の曲面にし、山留壁3の間の中間部での人工不透水層4bの厚さを、山留壁3の位置における厚さより大きくしてもよい。人工不透水層4bの下面の傾斜面44は図4の例と同様複数の段部により段状に構成される。
【0047】
また、本実施形態はポンプ室1の例を挙げて説明したが、これに限ることはなく、ポンプ室1の上流側に設けられる取水ピット、またタービン室から放出された海水を放水路に放水する放水ピットなどにも適用できる。また分流壁13は省略される場合もある。
【0048】
さらに、本実施形態はその他の地下構造物の構築時にも適用可能であり、例えば図8のような道路トンネルなどのボックスカルバート10の構築時にも適用できる。図8のボックスカルバート10は底版110、側壁120、中壁(あるいは柱)130、頂版140を有する。図8は2連形式のボックスカルバート10の例であるが、4連形式のボックスカルバートや中壁130の無い1連形式のボックスカルバートなどにも同様に適用できる。ボックスカルバート10の構築方法は前記と略同様である。ただし、頂版140を構築した後、その上部は埋戻土で埋め戻される。
【0049】
また、本実施形態では山留壁3が奥行き方向(図2(a)等の紙面法線方向に対応する)に延長し、人工不透水層4、4a、4bの断面形状も奥行き方向で一定であるが、例えば山留壁3が円筒状に形成される場合もあり、この場合は平面のそれぞれの方向の断面が前記した人工不透水層4、4a、4bの断面形状となればよい。例えば図7の人工不透水層4bの場合、山留壁3が円筒状であれば、平面のそれぞれの方向の断面が図7のような形状となるように、その下面をレンズ状とする。
【0050】
以下、本発明の別の例を第2、3の実施形態として説明する。第2、3の実施形態は第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0051】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、図9に示すように人工不透水層4cの上面および下面が下方に凸となる略円弧状の曲面であり、人工不透水層4cの上面および下面の山留壁3の間の中間部における高さが、山留壁3の位置における高さよりも下にある。人工不透水層4cの上面および下面の傾斜面45、46は図4の例と同様複数の段部により段状に構成される。なお図9は山留壁3の間の地盤2を床付け位置まで掘削した状態であり、本実施形態では人工不透水層4cと床付け位置の間に地盤2が介在する。
【0052】
本実施形態では、これにより人工不透水層4cを下方に凸となる略円弧のアーチ状に形成し、地下水の揚圧力に効果的に抵抗できるように人工不透水層4cの形状を最適化する。
【0053】
すなわち、本実施形態では図10(a)に示すようにアーチ状の人工不透水層4cが地下水の揚圧力Aに対し軸圧縮力Nによって抵抗し、その力を山留壁3に伝達する。これにより、人工不透水層4cに高い耐力を与えて人工不透水層4cの厚さや強度を抑えることができる。
【0054】
この場合、人工不透水層4cに必要な地盤改良厚t(m)は、下記の式(3)で表すことができる。式(3)において、σ(tf/m2)は改良土の圧縮許容応力度である。またN(t/m)は軸圧縮力である。
t=N/σ…(3)
【0055】
ここで、軸圧縮力Nは下記の式(4)で表すことができる。
N=w・R…(4)
【0056】
式(4)のw(t/m2)は地下水の揚圧力Aの値である。またR(m)はアーチ半径であり、人工不透水層4cのスパンL(m)とライズh(m)を用いて下記の式(5)で表すことができる(図10(b)参照)。
R=L/(8・h)+h/2…(5)
【0057】
このように、本実施形態では、アーチ状の人工不透水層4cが地下水の揚圧力Aに対しその軸圧縮力Nによって抵抗し、これにより人工不透水層4cに高い耐力を与えて人工不透水層4cの厚さや強度を抑えることができる。人工不透水層4cの厚さは、軸圧縮力Nに耐え、これを山留壁3に伝達できるように定められるが、本実施形態では人工不透水層4cの全体を薄くできることから第1の実施形態に比べても改良土量を少なくできる。また本実施形態でも人工不透水層4cの下端と山留壁3の下端がほぼ同じ深さにあるが、人工不透水層4cを薄くする結果、山留壁3の根入れ深さも小さくなり工期やコストを低減できる。
【0058】
なお、上記の地盤改良厚tを満たしたうえで、第1の実施形態と同様、山留壁3の位置における人工不透水層4cの厚さを山留壁3の間の中間部より大きくすることも可能である。また前記した図7の例においても、地下水の揚圧力が大きくなり上面にクラックが発生するようなケースでは、本実施形態と同様、軸圧縮力によって揚圧力に抵抗するアーチ状の抵抗機構が生じると考えられる。
【0059】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、切梁の支持用の中間杭を利用して人工不透水層に生じる曲げモーメントやせん断力を小さくし、人工不透水層にかかる工期やコストを低減する例である。
【0060】
すなわち、本実施形態では、ポンプ室を構築する際、まず図11(a)に示すように山留壁3と中間杭5を地盤2に施工する。
【0061】
中間杭5(中間柱ともいう)は山留壁3の間に打設する鋼製の鉛直材であり、切梁の支持を行うためのものである。本実施形態では中間杭5が山留壁3のスパン中央部で設けられる。中間杭5としては例えばH形鋼を用い、その下端をコンクリート等による固定部6で固定する。
【0062】
こうして山留壁3と中間杭5を施工した後、図11(b)に示すように山留壁3の間で地盤2の改良を行い、人工不透水層4’を形成する。これにより、人工不透水層4’を含む地盤改良構造が形成される。
【0063】
人工不透水層4’は山留壁3の底部に当たる深さで形成され、前記と同様、人工不透水層4’の下端と山留壁3の下端の位置はほぼ一致する。また中間杭5の下部は人工不透水層4’に埋設される。特に本実施形態では、中間杭5の下部が人工不透水層4’を貫通してその下端が人工不透水層4’より深い位置にある。
【0064】
人工不透水層4’を形成した後、図12(a)、(b)に示すように、山留壁3の間の地盤2の掘削と切梁7の設置を繰り返す。切梁7の一端は腹起し70を介して山留壁3に接続し、他端は中間杭5に取り付ける。これにより山留壁3と中間杭5の間で切梁7を支持させる。
【0065】
こうして山留壁3の間の地盤2を図13(a)に示すように床付け位置まで掘削した後、図13(b)に示すようにポンプ室1aの構築を行う。ポンプ室1aの構築時、中間杭5と切梁7は適当な時点で撤去する。例えば切梁7はポンプ室1aの底版11と側壁12を下から順に構築するのに応じて下段から順に撤去し、側壁12を頂部まで構築した後中間杭5を底版11上で切断して撤去し、その後分流壁13を構築する。
【0066】
本実施形態では中間杭5の下端が人工不透水層4’より深い位置にあり、中間杭5の人工不透水層4’以深の部分によって人工不透水層4’をその下方の地盤2にアンカーし、地下水の揚圧力に対する抵抗力を中間杭5の位置で人工不透水層4’に与えて人工不透水層4’の浮き上がりを防止する。
【0067】
これにより、図14に示すように、地下水の揚圧力Aに対し人工不透水層4’を支持する支点(図中▽で示す)を、山留壁3の位置に加えて中間杭5の位置で新たに形成することができる。
【0068】
従来の構造では人工不透水層4’の支点が山留壁3の位置のみであり、支点間距離が山留壁3の離れ(スパン)となっていたのが、中間杭5の位置に揚圧力Aに抵抗する支点が新たに追加されることにより支点間距離が従来の1/2となる。そのため、揚圧力Aによって人工不透水層4’に生じる曲げモーメントとせん断力の最大値はそれぞれ従来の1/4、1/2となる。
【0069】
これにより、人工不透水層4’を薄くしたり強度を抑えたりすることができ、人工不透水層4’にかかる工期やコストを抑えることができる。なお、人工不透水層4’の形状は、上記のように中間杭5の位置が新たな支点となることから、図2(b)等で説明した人工不透水層4と同様の形状が各山留壁3と中間杭5の間で計2つ形成されたものとなる。
【0070】
このように、本実施形態によれば、切梁7の支持用の中間杭5を利用して、山留壁3の間で人工不透水層4’に地下水の揚圧力Aに対する抵抗力を与え、揚圧力Aに対し人工不透水層4’を支持する支点を新たに形成することができる。これにより人工不透水層4’の支点間距離が小さくなり、地下水の揚圧力Aにより人工不透水層4’に生じる曲げモーメントやせん断力を小さくすることができる。そのため、人工不透水層4’を薄くしたり強度を抑えたりすることができ、人工不透水層4’にかかる工期やコストをさらに抑えることができる。
【0071】
なお、中間杭5は切梁7の座屈防止の目的もあることから、山留壁3のスパンが大きい場合には山留壁3の間に複数本の中間杭5が配置される場合もある。例えば図15(a)のように山留壁3のスパンを3分割するように中間杭5を2本配置する場合、地下水の揚圧力Aにより人工不透水層4”に生じる曲げモーメントとせん断力の最大値はそれぞれ従来の1/9、1/3となる。この場合の人工不透水層4”の形状は、図2(b)等で説明した人工不透水層4と同様の形状が、各山留壁3と中間杭5の間および2本の中間杭5の間で計3つ形成されたものになる。
【0072】
また、山留壁3の間の中間杭を全て支点として機能させる必要は無く、一部のみ支点として機能させてもよい。例えば山留壁3の間に3本の中間杭を設ける場合、図15(b)に示すように中央の中間杭5のみ本実施形態の構成を有するものとし、その他の中間杭は本実施形態の構成を持たず支点として機能しない、下端が人工不透水層4’に支持された通常の中間杭5’とできる。この場合の人工不透水層4’の形状は、図2(b)等で説明した人工不透水層4と同様の形状が、各山留壁3と中央の中間杭5の間で計2つ形成されたものになる。
【0073】
一方、山留壁3の間の中間杭を全て通常の中間杭5’とする場合は、図15(c)のように山留壁3の間に第1の実施形態と同様の人工不透水層4を設ければよい。図15(c)は中間杭5’を山留壁3の間に1本配置する例であるが、中間杭5’を山留壁3の間に複数本配置する場合も同様である。
【0074】
なお本実施形態では、それぞれの例において、人工不透水層の形状が、図2(b)等で説明した人工不透水層4の形状を山留壁3と中間杭5の間、中間杭5の間、山留壁3の間のいずれかに設けたものとなっているが、これに代えて、その他の形状、例えば図6、7、9等で説明した人工不透水層4a、4b、4cの形状を山留壁3と中間杭5の間、中間杭5の間、山留壁3の間のいずれかに設けたものとしてもよい。通常の中間杭5’が有る場合についても、図15(b)~(d)のように中間杭5’に関係なく山留壁3と中間杭5の間、中間杭5の間、山留壁3の間のいずれかに人工不透水層4a、4b、4cの形状を設ければ良い。なお、アーチ状の人工不透水層4c(図9参照)の場合、図15(d)に示すように中間杭5’の下端は人工不透水層4c上の地盤で支持されることになる。
【0075】
また、支点を形成するための機構(支点形成機構)は中間杭5の人工不透水層4’以深の部分に限らず、図16のようにグラウンドアンカー8を用いてもよい。
【0076】
この例では中間杭5の下部が人工不透水層4’を貫通せず中間杭5の下端が人工不透水層4’の内部にあるが、その代わりにグラウンドアンカー8の下端がコンクリート等の固定部6aで人工不透水層4’より深い位置の地盤2に固定され、グラウンドアンカー8の上端は中間杭5の頂部に固定されて緊張される。
【0077】
これによりグラウンドアンカー8と中間杭5を用いて人工不透水層4’をその下方の地盤2にアンカーすることができ、上記と同様、人工不透水層4’に地下水の揚圧力Aに対する抵抗力を与え、揚圧力Aに対し人工不透水層4’を支持する支点を中間杭5の位置で新たに形成することができる。またこの例ではグラウンドアンカー8の緊張力によって高い抵抗力を与えることができる。
【0078】
さらに、図17(a)に示すように山留壁3、中間杭5および人工不透水層4’を構築した後、図17(b)に示すように山留壁3の間の地盤2の掘削と分流壁13のコンクリートを打設して図18(a)に示すように切梁7の設置を行う工程を上から順に繰り返すことで、図18(b)に示すように山留壁3の間の地盤2を床付け位置まで掘削してもよい。
【0079】
これにより、中間杭5を介して人工不透水層4’に上方からのコンクリート荷重を与えることができ、人工不透水層4’に地下水の揚圧力Aに対する抵抗力を与えて中間杭5の位置で人工不透水層4’に支点を形成することができる。なお、この例では中間杭5の下端が固定部6により人工不透水層4’内に固定される。
【0080】
ポンプ室はその後図19に示すように構築されるが、この例では本設の分流壁13が逆巻き工法で先行して構築されるので、ここではポンプ室1bの底版11と側壁12のみ構築すればよい。また前記と異なり、中間杭5は撤去せず残置される。
【0081】
この例では地上部分で支点形成機構を設けることができるので施工も容易であり、コンクリートを逆巻き工法で施工しポンプ室1bの本設の分流壁13として利用することでポンプ室1bの構築にかかる工期の延長も防止できる。
【0082】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0083】
1、1a、1b:ポンプ室
2:地盤
3:山留壁
4、4’、4”、4a、4b、4c:人工不透水層
5:中間杭
6、6a:固定部
7:切梁
8:グラウンドアンカー
10:ボックスカルバート
11、110:底版
12、120:側壁
13:分流壁
41、43、44、45、46:傾斜面
42:水平面
130:中壁
140:頂版
411:段部
図1
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