(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】廃棄物処分場の埋め立て方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220518BHJP
B09B 1/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B09B3/00 304H
B09B1/00 A ZAB
(21)【出願番号】P 2018151864
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【氏名又は名称】田中 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-237712(JP,A)
【文献】特開2002-201472(JP,A)
【文献】特開2000-237735(JP,A)
【文献】特開2016-043332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水したアルカリ性廃棄物を圧送管内に送り込むとともに、該圧送管内に二酸化炭素を含む中和ガスを供給し、前記アルカリ性廃棄物を前記中和ガスによって
挟まれた多数の塊状に分断させた状態
の廃棄物プラグとして圧送し、
圧送中に前記アルカリ性廃棄物に前記中和ガスを混錬させた処理済み廃棄物を廃棄物処分場に投入することを特徴とする廃棄物処分場の埋め立て方法。
【請求項2】
前記中和ガスは、二酸化炭素濃度が4~20%である請求項1に記載の廃棄物処分場の埋め立て方法。
【請求項3】
事前の実験において、所定の液固比に調整した前記アルカリ性廃棄物に所定の二酸化炭素濃度の中和ガスを混錬させ、所定のpHまで低下するまでに要する時間を計測し、その結果に基づいて前記アルカリ性廃棄物の液固比及び圧送距離を調整する請求項1又は2に記載の廃棄物処分場の埋め立て方法。
【請求項4】
火力発電所、焼却施設又は工場から排出される排気ガスを前記中和ガスとして供給する請求項1~3の何れか一に記載の廃棄物処分場の埋め立て方法。
【請求項5】
前記アルカリ性廃棄物に酸を添加した水を加水する請求項1~4の何れか一に記載の廃棄物処分場の埋立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃止後に土地資源として有効活用が期待される海面廃棄物処分場等の廃棄物処分場の埋め立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却灰、石炭灰等のアルカリ性廃棄物は、海面廃棄物処分場で処分されることも多く、石炭灰については、加水してスラリー状とした後、ポンプ圧送により隣接する廃棄物処分場に埋め立てられることが知られている。
【0003】
しかしながら、この種のアルカリ性廃棄物には、多くのカルシウムが含有されており、このアルカリ性廃棄物が投入された廃棄物処分場の保有水は、高アルカリとなることが多く、雨水の浸透に伴って高アルカリの浸出水が発生する。
【0004】
一方、埋立て終了後の廃棄物処分場跡地は、廃止基準等を満たすことによって、土地資源として有効に活用することができるようになるが、埋立て終了後も長期間pHや化学的酸素要求量(以下、CODという)の基準を満たすことができず、廃棄物処分場を廃止できない場合がある。
【0005】
特に、海面廃棄物処分場においては、その保有水が中性付近からpH13以上まで幅広い値を示し、4割程度の廃棄物処分場では、排水基準のpH9.0を超えており、CODについても同様に、4割程度の廃棄物処分場で基準の90mg/Lを超えているという調査報告もされている。
【0006】
そこで、従来では、焼却灰等を湿潤状態で大気に晒し、二酸化炭素によって炭酸化するエージング処理による重金属類の不溶化、分級処理による汚染物質の除去や細粒分の選別等によって埋め立て材を前処理し、早期安定化を図る方法が知られている。
【0007】
また、予め廃棄物処分場の建設時に吐出管を廃棄物の貯留空間の底面に敷設しておき、その吐出管より二酸化炭素等の中和ガスを供給し、埋立て地盤を中和する方法も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エージング処理や分級処理による従来の技術は、主に重金属や化学的酸素要求量(COD)や全窒素(T-N)を対象としており、pHに対する有効な対策となり得ていなかった。
【0010】
一方、特許文献1の如き従来の技術では、二酸化炭素を含む中和ガスを供給するための吐出管を予め敷設しなければならず、規模が大きく内水位が高い海面廃棄物処分場や、既に廃棄物を受け入れている海面廃棄物処分場に適用することが困難であるという問題があった。
【0011】
また、中和ガスは、吐出管より吐出されるため、吐出管の埋設位置によって中和ガスの影響が及ぶ範囲が限定的となるという問題もあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、早期廃止が可能な廃棄物処分場の埋め立て方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、加水したアルカリ性廃棄物を圧送管内に送り込むとともに、該圧送管内に二酸化炭素を含む中和ガスを供給し、前記アルカリ性廃棄物を前記中和ガスによって挟まれた多数の塊状に分断させた状態の廃棄物プラグとして圧送し、圧送中に前記アルカリ性廃棄物に前記中和ガスを混錬させた処理済み廃棄物を廃棄物処分場に投入することにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記中和ガスは、二酸化炭素濃度が4~20%であることにある。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、事前の実験において、所定の液固比に調整した前記アルカリ性廃棄物に所定の二酸化炭素濃度の中和ガスを混錬させ、所定のpHまで低下するまでに要する時間を計測し、その結果に基づいて前記アルカリ性廃棄物の液固比及び圧送距離を調整することにある。
【0016】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1~3の何れか一の構成に加え、火力発電所、焼却施設又は工場から排出される排気ガスを前記中和ガスとして供給することにある。
【0017】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1~4の何れか一の構成に加え、前記アルカリ性廃棄物に酸を添加した水を加水することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る廃棄物処分場の埋め立て方法は、請求項1に記載の構成を具備することによって、処分場に投入される廃棄物のpHを低減することができ、埋立て完了後早期に処分場を廃止することができる。
【0019】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することによって、アルカリ性廃棄物のpHを低減することができる。
【0020】
さらに、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、事前調査に基づいて効果的な条件設定ができ、効率よく廃棄物の中和を行うことができる。
【0021】
さらにまた、本発明において、請求項4に記載の構成を具備することによって、火力発電所、焼却施設又は工場より排出される排気ガスを利用し、効率的に廃棄物の中和を図ることができる。
【0022】
また、本発明において、請求項5に記載の構成を具備することによって、十分に圧送距離を確保し難い場合、中和ガスの二酸化炭素濃度が低い場合、アルカリ性廃棄物のpHが高い場合等に、必要に応じてpHの低下を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る廃棄物処分場の埋め立て方法の実施態様を示す概略図である。
【
図2】
図1中の圧送管路内の状態を説明するための部分拡大断面図である。
【
図3】同上の廃棄物処分場の埋め立て方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明に係る廃棄物処分場の埋め立て方法の実施態様を
図1~
図3に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は海面廃棄物処分場、符号2は圧送装置である。
【0025】
この海面廃棄物処分場1は、遮水護岸によって区画された貯留空間3が形成され、この貯留空間3内に焼却施設・石炭火力発電所等の廃棄物排出源4から発生した廃棄物を投入し、埋め立てるようになっている。
【0026】
この廃棄物処分場1の埋め立ては、
図1に示す圧送装置2を使用し、加水してアルカリ性廃棄物5を流動性を有する状態にして圧送管6内に送り込むとともに、圧送管6内に二酸化炭素を含む中和ガス7を供給し、アルカリ性廃棄物5を中和ガス7によって多数の塊状の廃棄物プラグ8に分断させた状態で圧送し、廃棄物プラグ8に中和ガス7を混錬させた処理済み廃棄物9を廃棄物処分場1に投入するようになっている。
【0027】
圧送装置2は、符号10~13の構成を具備するものとし、符号10は、加水してアルカリ性廃棄物5を、スラリー状等の流動性を有する状態にする加水処理手段、符号11は加水処理手段10において流動性を有する状態としたアルカリ性廃棄物5を圧送管6内に送り出す廃棄物供給手段、符号12は圧送用気体供給口、符号13は中和ガス圧送用のポンプである。
【0028】
そして、圧送装置2は、ガス供給源14より供給された中和ガス7を圧送用気体供給口12より圧送管6内に高圧で注入することによって、
図2に示すように、アルカリ性廃棄物5が中和ガス7によって挟まれた多数の塊状、即ち、廃棄物プラグ8,8…となって搬送される。
【0029】
加水処理手段10は、火力発電所等の廃棄物排出源4より排出された石炭灰、焼却灰等のアルカリ性廃棄物5を加水処理し、流動性を有する状態に調節するようになっている。
【0030】
中和ガス7は、火力発電所、焼却施設又は工場等のガス供給源14より、二酸化炭素濃度が4~20%、温度が60~200℃の状態でポンプ13に供給され、ポンプ13で所定の圧力に圧縮され、圧縮された状態で圧送管6内に注入されるようになっている。
【0031】
この中和ガス7は、例えば、焼却施設又は工場等のガス供給源14において、ボイラから1100℃程度まで加熱されたガスが脱硝装置、電気集塵機、脱硫装置等の処理装置を順次経ることによって60~200℃程度まで冷却された状態でポンプ13に供給される。
【0032】
また、二酸化炭素濃度は、ガスを排出するガス供給源14の態様によって異なり、例えば、発電所の場合で12~14%、製鉄所の場合で約20%、清掃工場の場合で約4~10%となって排出される。
【0033】
次に、この装置を使用した具体的な埋め立て方法について
図3を基づいて説明する。
【0034】
先ず、事前準備として、焼却施設・石炭火力発電所等の廃棄物排出源4より排出された焼却灰、石炭灰等のアルカリ性廃棄物5の粒度、pH等を確認するとともに(s1)、ガス供給源14より供給される中和ガス7の二酸化炭素濃度、ガス採取位置等を確認する(s2)。
【0035】
次に、事前準備で確認された中和ガス7の二酸化炭素濃度に基づき、事前試験を行う(s3)。
【0036】
事前試験は、100ml容器に50mlの純水を満たし、その容器に所定の液固比(L/S)となるようにアルカリ性廃棄物5(焼却灰、石炭灰)を投入し、蓋をした後、容器上部に所定の二酸化炭素濃度の中和ガス7を置換し、それぞれ一定時間振とう機によって攪拌した後、各攪拌時間のpHを測定した。
【0037】
【0038】
この実験例では、二酸化炭素濃度10%の中和ガス7を使用し、それぞれ液固比(L/S)1、液固比(L/S)2、液固比(L/S)3とした場合の攪拌時間に対するpHを測定した。
【0039】
図4に示すように、使用した焼却灰、石炭灰は、ともに攪拌時間の経過とともにpHが低下することが確認でき、液固比が2以上の場合に攪拌時間1分以上で海面処分場の浸出水の基準pH5~9を満たした。
【0040】
この結果から二酸化炭素濃度10%の条件において、液固比2以上、圧送時間(混錬時間)1分以上を必要とすることが確認される。
【0041】
そして、事前実験から得られた結果に基づいて、アルカリ性廃棄物5への加水量(液固比)、最小圧送距離、中和ガス供給量を設定し(s4)、実際の現地の状況に合わせて圧送管6を調節して設置し、実際の埋め立て作業(s5)を開始する。
【0042】
埋め立て作業は、先ず、廃棄物排出源4より排出された焼却灰、石炭灰を必要に応じて解砕、篩い分けした後、その焼却灰、石炭灰に対し加水処理手段10で所定量の加水をし、液固比を調整してアルカリ性廃棄物5を流動性を有する状態に生成し、それを廃棄物供給手段11に投入する。
【0043】
尚、十分に圧送管6の圧送距離を確保し難い場合、中和ガス7の二酸化炭素濃度が低い場合、アルカリ性廃棄物5のpHが高い場合等には、中和を促進するために必要に応じてアルカリ性廃棄物5に酸を添加した水を加水して流動性を有する状態にするようにしてもよい。
【0044】
廃棄物供給手段11に投入されたアルカリ性廃棄物5は、圧送管6内に送り込まれ、そこに圧送用気体供給口12を通して高圧の二酸化炭素を含む中和ガス7が送り込まれる。
【0045】
これによって、圧送管6内に送り込まれた流動性を有する状態のアルカリ性廃棄物5は、中和ガス7によって挟まれた多数の塊状の廃棄物プラグ8として圧送管6内を移動する。
【0046】
圧送管6路中を移動する廃棄物プラグ8は、
図2に示すように、圧送管6との摩擦によって内部に生ずる乱流15の攪拌効果によって廃棄物プラグ8の前後を挟む中和ガス7を内部に取り込み、それと混錬される。
【0047】
また、圧送管6路中を移動する廃棄物プラグ8は、設定された最小圧送距離以上の距離を移動することによって、所定の混錬時間が確保され、中和された状態の処理済み廃棄物9となって圧送管6の先端より廃棄物処分場1の貯留空間3内に投入される。
【0048】
そして、廃棄物処分場1の貯留空間3に投入された処理済み廃棄物9のpH、浸出水のpHを定期的に観測し(s6)、pHが所定の数値まで低下していない場合には、条件を見直し(s7)、加水量を増やす、加水に酸を添加した水を使用する、加水する際の酸の濃度を変更する、中和ガス7の供給量を増やす、最小圧送距離を長くする等の対応を行う(s8)。
【0049】
そして、上記の工程を経て、貯留空間3の圧送管6吐出口周辺の埋め立てが進行したときは、s4の工程で設定された条件に基づき圧送管6を移動させ、貯留空間3への吐出口位置を変更して埋め立てを行う(s5)。
【0050】
そして、必要に応じて条件の見直し(s7)及び対応実施(s8)を行いつつ、圧送管設置・埋立て作業(s5)、モニタリング(s6)を貯留空間3が満たされるまで繰り返す。
【0051】
このように構成された廃棄物処分場1の埋め立て方法は、圧送用の気体に二酸化炭素を含む中和ガス7を使用することによって、廃棄物プラグ8が管中混合効果によって廃棄物プラグ8の前後を挟む中和ガス7と混錬され、pHが低減された状態で廃棄物処分場1に投入されるので、処分場に投入されるアルカリ性廃棄物5のpHを低減することができ、埋立て完了後に即時又は早期に処分場を廃止することができる。
【0052】
また、この方法では、事前試験に基づいて効果的な条件設定ができ、効率よく廃棄物の中和を行うことができる。
【0053】
さらに、この方法では、焼却灰や石炭灰に鉛等が含まれる場合には、二酸化炭素を含む中和ガス7との反応によって炭酸化が進行し、鉛等の不溶化処理も併せて行われる。また、二酸化炭素を含むガスを中和に使用するため、中和ガスを過剰に供給した場合でも、pHが極端に低下して重金属が溶出することは無い。
【0054】
尚、上述の実施例では、中和ガス7として火力発電所、焼却施設又は工場の排出ガスを使用した場合について説明したが、中和ガス7の供給源は、これに限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1 海面廃棄物処分場
2 圧送装置
3 貯留空間
4 廃棄物排出源
5 アルカリ性廃棄物
6 圧送管
7 中和ガス
8 廃棄物プラグ
9 処理済み廃棄物
10 加水処理手段
11 廃棄物供給手段
12 圧送用気体供給口
13 ポンプ
14 ガス供給源
15 乱流