(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】熱伝導性パテ組成物、並びにそれを用いた熱伝導性シート及び電池モジュール
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C09K5/14 101E
C09K5/14 102E
(21)【出願番号】P 2018178763
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】厨子 敏博
(72)【発明者】
【氏名】芦田 桂子
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-2179(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129600(WO,A1)
【文献】特開2011-99003(JP,A)
【文献】特開2011-157428(JP,A)
【文献】特開2008-115356(JP,A)
【文献】特開2005-42096(JP,A)
【文献】特開2004-130646(JP,A)
【文献】特開昭59-138449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/14
H05K7/20
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状ポリマーと、水酸化アルミニウムと、ベントナイトとを含有し、前記水酸化アルミニウムの含有量が前記液状ポリマー100質量部に対して150質量部以上1000質量部以下であり、且つ前記ベントナイトの含有量が前記液状ポリマー100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である熱伝導性パテ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された熱伝導性パテ組成物において、
前記液状ポリマーが、液状ポリブタジエン、又は、液状ポリブタジエンと液状ポリブテンとの混合物を含む熱伝導性パテ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された熱伝導性パテ組成物において、
前記水酸化アルミニウムの平均粒径が0.5μm以上100μm以下である熱伝導性パテ組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された熱伝導性パテ組成物において、
前記水酸化アルミニウムの粒度分布が複数のピークを有する熱伝導性パテ組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された熱伝導性パテ組成物において、
前記ベントナイトが、交換性塩基が有機アミンで置換されて有機化処理された有機ベントナイトを含む熱伝導性パテ組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された熱伝導パテ性組成物をシート状に成形した熱伝導性シート。
【請求項7】
請求項6に記載された熱伝導性シートを有する電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性パテ組成物、並びにそれを用いた熱伝導性シート及び電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池モジュールの高エネルギー化や電子・電気回路基板の素子の高密度化に伴い、それら二次電池モジュール、電子・電気回路基板等の発熱する物品から発生する熱量が多くなり、その熱を効率的に放熱させる手段として、熱伝導シートが用いられている。
【0003】
一方、寒冷地などで使用される二次電池モジュール、電子・電気回路基板等に対しては、二次電池モジュール、電子・電気回路基板を作動させる前に、一旦温めることが必要になり、その場合、外部(ヒータ等)から熱を効率よく二次電池モジュール、電子・電気回路基板に与える必要がある。
【0004】
そうした中、近年、二次電池モジュールや電子・電気回路基板の表面との接触面積を大きくして熱伝導性(放熱性、与熱性)を高めるため、熱伝導シートの柔軟性を向上させる開発が進められている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-141443号公報
【文献】特開2017-069341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、表面形状に追随して変形することにより高い熱伝導性(放熱性、与熱性)を得ることができる熱伝導性パテ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液状ポリマーと、水酸化アルミニウムと、ベントナイトとを含有し、前記水酸化アルミニウムの含有量が前記液状ポリマー100質量部に対して150質量部以上1000質量部以下であり、且つ前記ベントナイトの含有量が前記液状ポリマー100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である熱伝導性パテ組成物である。
【0008】
本発明は、本発明の熱伝導パテ性組成物をシート状に成形した熱伝導性シートである。また、本発明は、本発明の熱伝導性シートを有する電池モジュールである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所望する物品に接触させるとき、その表面形状に追随して変形させることができるので、広い面積で物品に接触することとなり、それにより高い熱伝導性(放熱性、与熱性)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図1AにおけるIII-III断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物は、液状ポリマーと、水酸化アルミニウムと、ベントナイトとを含有する。水酸化アルミニウム及びベントナイトは、液状ポリマー中に分散している。
【0013】
本出願における「液状ポリマー」とは、常温・常圧(25℃、1気圧)で液状であるポリマーをいう。液状ポリマーとしては、例えば、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリブテン、液状エチレンプロピレン共重合体などの液状ポリオレフィン;液状シリコーン;液状アクリル;液状ウレタン等が挙げられる。液状ポリマーは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、液状ポリオレフィンを含むことがより好ましい。液状ポリマーは、燃焼時のハロゲンガスの発生を防ぐ観点から、分子中にハロゲン元素を含まないことが好ましい。
【0014】
液状ポリマーは、液状ポリブタジエンを含むことが好ましく、液状ポリブタジエンのみで構成されていてもよい。また、液状ポリマーは、比較的低粘度の液状ポリブタジエンと高粘度の液状ポリブテンとの混合物を含むことが好ましく、それらの液状ポリブタジエンと液状ポリブテンとの混合物のみで構成されていてもよい。液状ポリマーが液状ポリブタジエンと液状ポリブテンとの混合物を含む場合、液状ポリブタジエンの含有量の液状ポリブテンの含有量に対する質量比(液状ポリブタジエンの含有量/液状ポリブテンの含有量)は、難燃性を高めるとともに、粘着性を付与して物品との密着性を高める観点から、好ましくは20/80以上99/1以下、より好ましくは30/70以上60/40以下である。
【0015】
水酸化アルミニウムは、熱伝導性パテ組成物に難燃性を付与する粒状物である。実施形態に係る熱伝導性パテ組成物の難燃性の指標の酸素指数は、好ましくは50以上、より好ましくは65以上である。水酸化アルミニウムの平均粒径は、熱伝導性とともに軟度を高める観点から、好ましくは0.5μm以上100μm以下、より好ましくは15μm以上60μm以下である。
【0016】
水酸化アルミニウムの粒度分布は、熱伝導性とともに液状ポリマーへの分散性及び難燃性を高める観点から、複数のピークを有することが好ましい。したがって、水酸化アルミニウムは、平均粒径が異なる複数種を含むことが好ましい。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムは、平均粒径が10μmよりも大きく100μm以下の水酸化アルミニウムAと、平均粒径10μm以下の水酸化アルミニウムBとを、水酸化アルミニウムA100質量部に対して、水酸化アルミニウムB50質量部以上200質量部以下の割合で含み、粒度分布が、平均粒径が10μmよりも大きく100μm以下の第1ピークと、平均粒径10μm以下の第2ピークとを有していてもよい。また、水酸化アルミニウムは、平均粒径が0.5μm以上10μm未満の水酸化アルミニウムX、平均粒径が10μm以上30μm未満の水酸化アルミニウムY、及び平均粒径が30μm以上100μm以下の水酸化アルミニウムZのうちの2種以上を、水酸化アルミニウムY及びZ100質量部に対して水酸化アルミニウムX50質量部以上200質量部以下の割合で含み、粒度分布が、平均粒径が30μm以上100μm以下の第1ピークと、平均粒径0.5μm以上30μm未満の第2ピークとを有していてもよい。
【0017】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物における水酸化アルミニウムの含有量は、熱伝導性とともに加工性を高める観点から、液状ポリマー100質量部に対して、150質量部以上1000質量部以下であり、好ましくは400質量部以上700質量部以下、より好ましくは450質量部以上650質量部以下である。
【0018】
ベントナイトは、SiO2とAl2O3を主成分とする各種のモンモリロン石(例えば、モンモリロン石、マグネシアンモンモリロン石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロン石、アルミニアンノントロナイト、サボー石、アルミニアンサボー石、ヘクトライト、ソーコナイト、ボルコンスコアイト等)を主成分とした粘土類である。ベントナイトは、モンモリロン石以外に、タンパク石、セキエイチョウ石、フッ石、火山ガラス等を含んでいてもよい。また、ベントナイトは、液状ポリマーへの分散性を高める観点から、Na、Ca、Mg等の交換性塩基が有機アミンで置換されて有機化処理された有機ベントナイトを含むことが好ましい。
【0019】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物におけるベントナイトの含有量は、熱伝導性とともに軟度を高める観点から、液状ポリマー100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下であり、好ましくは7質量部以上15質量部以下、より好ましくは9質量部以上13質量部以下である。
【0020】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物のJIS H7903:2008に準じて測定される熱伝導度(一方向熱流定常比較法(SCHF) 測定温度:33℃)は、好ましくは0.5W/m・K以上、より好ましくは2.0W/m・K以上、更に好ましくは3.0W/m・K以上である。
【0021】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物の軟度の指標としてのJIS A5752:1994に準じて測定される針入量(測定温度:23±3℃)は、好ましくは50mm以上、より好ましくは75mm以上であり、好ましくは110mm以下である。
【0022】
このような実施形態に係る熱伝導性パテ組成物は、ニーダー等の混練機に、液状ポリマー、水酸化アルミニウム、及びベントナイトを投入し、混練加工温度を20℃以上80℃以下に管理しつつ、混練加工時間を30分以上60分間以下として混錬することにより作製することができる。
【0023】
以上の構成の実施形態に係る熱伝導性パテ組成物によれば、液状ポリマーと、水酸化アルミニウムと、ベントナイトとを含有し、水酸化アルミニウムの含有量が液状ポリマー100質量部に対して150質量部以上1000質量部以下であり、且つベントナイトの含有量が液状ポリマー100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることにより、所望する物品に接触させるとき、その表面形状に追随して変形させることができるので、広い面積で物品に接触することとなり、それにより高い放熱性(又は与熱性)を得ることができる。加えて、水酸化アルミニウムは難燃剤としても機能することから、実施形態に係る熱伝導性パテ組成物は高いノンハロ難燃性(酸素指数65以上)を得ることができる。
【0024】
実施形態に係る熱伝導性パテ組成物からは、これを押出機による押出し成形やプレス機によるプレス成形等の公知の成形方法でシート状に成形することにより熱伝導性シートを作製することができる。このような熱伝導性シートは、物品に応じた適当な大きさに切り出し、所望する物品の表面に貼設するとともに適当な荷重を与えてやると、物品の表面形状に追随して変形し、広い面積で物品の表面に接触して高い放熱性(又は与熱性)を示す。熱伝導性シートの厚さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上で、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。
【0025】
ここで、物品としては、例えば、二次電池モジュールや電子・電気回路基板等が挙げられる。
【0026】
図1A及びBは、二次電池モジュール10を示す。この二次電池モジュール10は、モジュール本体11と、実施形態に係る熱伝導性パテ組成物をシート状に成形した第1及び第2の熱伝導性シート12とを有する。モジュール本体11は、複数本の二次電池111と、一対の電池ホルダー112とを有する。
【0027】
複数本の二次電池111は、それぞれが円柱状に形成されており、相互に間隔をおいて並行に設けられている。一対の電池ホルダー112は、それぞれがプレート状に形成されており、一方が複数本の二次電池111の一端側及び他方がそれらの他端側にそれぞれ設けられている。各電池ホルダー112は、複数本の二次電池111のそれぞれに対応するように有底円筒孔状の電池保持部112aが形成されており、その電池保持部112aに二次電池111の端部を嵌合保持するように構成されている。各電池保持部112aの底面部の中央には丸孔112bが形成されており、その丸孔112bを介して二次電池111に電線が接続されるように構成されている。
【0028】
第1の熱伝導性シート12は、並行に設けられた複数本の二次電池111の外側の凹凸表面を覆うように設けられている。第1の熱伝導性シート12は、その取付時に外側から押圧されることにより、
図2に示すように、複数本の二次電池111の表面形状に追随して変形してモジュール内部の相互に隣接する二次電池111間に流入し、それにより広い面積で二次電池111に接触することとなって高い放熱性(又は与熱性)を得ることができる。
【0029】
第2の熱伝導性シート12は、一対の電池ホルダー112のそれぞれの外側の凹凸表面に貼設するように設けられている。第2熱伝導性シート12は、その取付時に外側から押圧されることにより、
図3に示すように、電池ホルダー112の表面形状に追随して変形して丸孔112bに流入し、それにより二次電池111に接触することとなって高い放熱性(又は与熱性)を得ることができる。
【0030】
電子・電気回路基板の凹凸表面としては、例えば、抵抗、コンデンサー、半導体素子、LEDなどの素子や配線が高密度に設けられた素子側表面や多数のはんだ付跡が設けられた裏面側表面等が挙げられる。そのような電子・電気回路基板の凹凸表面に上記熱伝導性シートを貼設することにより、高い放熱性(又は与熱性)を得ることができる。
【実施例】
【0031】
(熱伝導性パテ組成物)
<実施例1>
液状ポリブタジエン50質量部と液状ブテン50質量部との混合物を液状ポリマーとし、この液状ポリマー100質量部に対して、水酸化アルミニウムとして、平均粒径が8μmの水酸化アルミニウムX 170質量部、平均粒径27μmの水酸化アルミニウムY 170質量部、及び平均粒径55μmの水酸化アルミニウムZ 110質量部を配合するとともに、交換性塩基が有機アミンで置換されて有機化処理された有機ベントナイト11質量部を配合し、容量2Lのニーダーで、混練加工温度を20℃以上80℃以下に管理しつつ、混練加工時間を40分として混錬することにより調製した熱伝導性パテ組成物を実施例1とした。
【0032】
<実施例2>
水酸化アルミニウムZを液状ポリマー100質量部に対して310質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例2とした。
【0033】
<実施例3>
液状ポリブタジエン30質量部と液状ブテン70質量部との混合物を液状ポリマーとしたことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例3とした。
【0034】
<実施例4>
液状ポリブタジエン70質量部と液状ブテン30質量部との混合物を液状ポリマーとしたことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例4とした。
【0035】
<実施例5>
液状ポリブタジエン100質量部を液状ポリマーとしたことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例5とした。
【0036】
<実施例6>
液状ポリブタジエン100質量部を液状ポリマーとしたことを除いて実施例2と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例6とした。
【0037】
<実施例7>
水酸化アルミニウムとして、水酸化アルミニウムZのみを液状ポリマー100質量部に対して500質量部配合したことを除いて実施例5と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を実施例7とした。
【0038】
<比較例1>
ベントナイトを配合していないことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を比較例1とした。
【0039】
<比較例2>
水酸化アルミニウムを配合していないことを除いて実施例1と同様にして調製した熱伝導性パテ組成物を比較例2とした。
【0040】
【0041】
(試験方法)
<加工性>
実施例1~7及び比較例1~2のそれぞれについて、押出機により押出し成形し、厚さ3mmの熱伝導性シートが得られた場合をA判定とし、得られなかった場合をB判定とした。
【0042】
<熱伝導度>
実施例1~7及び比較例1~2のそれぞれについて、JIS H7903:2008に準じて、一方向熱流定常比較法(SCHF)により熱伝導度(測定温度:33℃)を測定した。
【0043】
<軟度>
実施例1~7及び比較例1~2のそれぞれについて、JIS A5752:1994に準じて、軟度の指標として針入量(測定温度:23±3℃)を測定した。
【0044】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
表2によれば、実施例1~7は、厚さ3mmの熱伝導性シートが得られるとともに、熱伝導度及び軟度のいずれも高い水準であることが分かる。一方、比較例1は、厚さ3mmの熱伝導性シートが得られず、熱伝導度及び軟度のいずれも測定すらできなかった。比較例2は、厚さ3mmの熱伝導性シートが得られ、十分な軟度を有するものの、熱伝導度の水準が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、熱伝導性パテ組成物、並びにそれを用いた熱伝導性シート及び電池モジュールについて有用である。
【符号の説明】
【0048】
10 二次電池モジュール
11 モジュール本体
111 二次電池
112 電池ホルダー
112a 電池保持部
112b 丸孔
12 熱伝導性シート