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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220518BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220518BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220518BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J201/00
C09J133/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018190407
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020061423
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】杉村 敏正
(72)【発明者】
【氏名】大西 謙司
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 裕
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-34117(JP,A)
【文献】特開2017-66395(JP,A)
【文献】特開2016-29161(JP,A)
【文献】特開2018-9049(JP,A)
【文献】特開2014-82498(JP,A)
【文献】特開2017-183642(JP,A)
【文献】特開2018-19022(JP,A)
【文献】特開2017-183705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/38
C09J 201/00
C09J 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、
前記ダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、
放射線硬化前の前記粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaであり、
温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の前記粘着剤層と前記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上である、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層が、窒素原子含有モノマー由来の構成単位を含む第1アクリル系ポリマーを含有する、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項3】
前記窒素原子含有モノマー由来の構成単位は(メタ)アクリロイルモルホリン由来の構成単位を含む、請求項2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシングダイボンドフィルムに関する。より詳細には、本発明は、半導体装置の製造過程で使用することができるダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ダイボンディング用のチップ相当サイズの接着フィルムを有する半導体チップ、すなわち、ダイボンディング用接着剤層付き半導体チップを得る過程で、ダイシングダイボンドフィルムが使用される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムは、加工対象である半導体ウエハに対応するサイズを有し、例えば、基材及び粘着剤層からなるダイシングテープと、その粘着剤層側に剥離可能に密着しているダイボンドフィルム(接着剤層)とを有する。
【0003】
ダイシングダイボンドフィルムを使用して接着剤層付き半導体チップを得る手法の一つとして、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドしてダイボンドフィルムを割断させるための工程を経る手法が知られている。この手法では、まず、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハを貼り合わせる。この半導体ウエハは、例えば、後にダイボンドフィルムに共だって割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように加工されたものである。
【0004】
次に、ダイシングテープ上のダイボンドフィルムを割断させるために、エキスパンド装置を使用してダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープを半導体ウエハの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばす。このエキスパンド工程では、ダイボンドフィルムにおける割断箇所に相当する箇所でダイボンドフィルム上の半導体ウエハにおいても割断が生じ、ダイシングダイボンドフィルム又はダイシングテープ上にて半導体ウエハが複数の半導体チップに個片化される。
【0005】
次に、ダイシングテープ上の割断後の複数のダイボンドフィルム付き半導体チップについて離間距離を広げるために、再度のエキスパンド工程を行う。次に、例えば洗浄工程を経た後、各半導体チップをそれに密着しているチップ相当サイズのダイボンドフィルムと共に、ダイシングテープの下側からピックアップ機構のピン部材によって突き上げてダイシングテープ上からピックアップする。このようにして、ダイボンドフィルムすなわち接着剤層付き半導体チップが得られる。この接着剤層付き半導体チップは、その接着剤層を介して、実装基板等の被着体にダイボンディングによって固着されることとなる。
【0006】
以上のように使用されるダイシングダイボンドフィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-2173号公報
【文献】特開2010-177401号公報
【文献】特開2016-115804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、半導体の高容量化のニーズにより回路層の多層化や、シリコン層の薄層化が進んでいる。しかし、回路層の多層化により回路層の厚さ(総厚み)が増加することで、回路層に含まれる樹脂の割合が増加する傾向があり、これによって、多層化された回路層と、薄層化されたシリコン層との線膨張率の差が顕著になり、半導体チップが反りやすくなる。このため、従来のダイシングダイボンドフィルムを用いた場合、特に、ダイシング後に得られる、ダイボンドフィルム付きの回路層が多層化された半導体チップは、エキスパンド工程(後述のクールエキスパンド及び常温エキスパンド)及びその後(例えば、洗浄工程、ピックアップするまでの間等)において、ダイシングテープの粘着剤層とダイボンドフィルムとの界面で剥離(浮き)が発生しやすいという問題があった。浮きが発生すると、エキスパンド工程後(洗浄工程、ハンドリング時等)に半導体チップが滑落しやすい。
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、クールエキスパンド時及び常温エキスパンド時、並びにその後において、接着剤層と粘着剤層との間で浮きが起こりにくいダイシングダイボンドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、放射線硬化前の上記粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaであり、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の上記粘着剤層と上記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上である、ダイシングダイボンドフィルムを用いると、クールエキスパンド時及び常温エキスパンド時、並びにその後において、接着剤層と粘着剤層との間で浮きが起こりにくいことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、放射線硬化前の上記粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaであり、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の上記粘着剤層と上記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上である、ダイシングダイボンドフィルムを提供する。
【0012】
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープ及び接着剤層を備える。ダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する。接着剤層は、ダイシングテープにおける粘着剤層に剥離可能に密着している。ダイシングテープの粘着剤層は、放射線硬化前の当該粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaであり、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の上記粘着剤層と上記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上である。このような構成のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造過程で接着剤層付き半導体チップを得るために使用することができる。
【0013】
半導体装置の製造過程においては、上述のように、接着剤層付き半導体チップを得るために、ダイシングダイボンドフィルムを使用して行うエキスパンド工程、すなわち、割断のためのエキスパンド工程を実施する場合がある。このエキスパンド工程では、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープ上の接着剤層に適切に割断力が作用することが必要である。本発明のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの粘着剤層は、上述のように、当該粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaである。上記ナノインデンテーション法による硬さは、圧子を粘着剤層表面に押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを、負荷時及び除荷時に渡り連続的に測定し、得られた負荷荷重-押し込み深さ曲線から求められる。このように、上記ナノインデンテーション法による硬さは、粘着剤層表面の物理的特性を表す指標である。本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける粘着剤層の、このような上記ナノインデンテーション法による硬さが0.04MPa以上であることにより、粘着剤層表面がやわらかく、粘着剤層と接着剤層との密着性を適度とすることができ、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制することができる。また、上記ナノインデンテーション法による硬さが0.8MPa以下であることにより、粘着剤層と接着剤層との密着性が強くなりすぎることを抑制し、後述のピックアップ工程では割断後の接着剤層付き半導体チップが粘着剤層から良好に剥離でき、良好なピックアップを実現することが可能である。なお、放射線硬化前の粘着剤層の上記ナノインデンテーション法による硬さが上記範囲内である。
【0014】
また、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおいて、上述のように、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、上記粘着剤層と上記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上である。上記剥離力が0.3N/20mm以上であると、粘着剤層と接着剤層との密着性を適度とすることができ、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制することができる。
【0015】
また、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおいて、上記粘着剤層は、窒素原子含有モノマー由来の構成単位を含む第1アクリル系ポリマーを含有することが好ましい。また、上記窒素原子含有モノマー由来の構成単位として、(メタ)アクリロイルモルホリン由来の構成単位を含むことが好ましい。上記粘着剤層がこのような第1アクリル系ポリマーを含むと、上記ナノインデンテーション法による硬さを上記範囲内とし、且つ上記剥離力を上記範囲内とすることが容易であり、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制しつつ、後述のピックアップ工程では割断後の接着剤層付き半導体チップが粘着剤層から良好に剥離でき、良好なピックアップを実現することが容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、接着剤層付き半導体チップを得るためにダイシングダイボンドフィルムが使用されるエキスパンド工程及びその後において、接着剤層と粘着剤層との間で浮きが起こりにくい。特に、回路層が多層化された半導体チップを用いた場合にも浮きが起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態を示す断面模式図である。
図2図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法における一部の工程を表す。
図3図2に示す工程の後に続く工程を表す。
図4図3に示す工程の後に続く工程を表す。
図5図4に示す工程の後に続く工程を表す。
図6図5に示す工程の後に続く工程を表す。
図7図6に示す工程の後に続く工程を表す。
図8図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図9図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図10図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図11図1に示すダイシングダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法の変形例における一部の工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ダイシングダイボンドフィルム]
本発明のダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、上記ダイシングテープにおける上記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層と、を備える。本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態について、以下に説明する。図1は、本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態を示す断面模式図である。
【0019】
図1に示すように、ダイシングダイボンドフィルム1は、ダイシングテープ10と、ダイシングテープ10における粘着剤層12上に積層された接着剤層20とを備え、半導体装置の製造において接着剤層付き半導体チップを得る過程でのエキスパンド工程に使用することのできるものである。
【0020】
ダイシングダイボンドフィルム1は、半導体装置の製造過程における加工対象の半導体ウエハに対応するサイズの円盤形状を有する。ダイシングダイボンドフィルム1の直径は、例えば、345~380mmの範囲内(12インチウエハ対応型)、245~280mmの範囲内(8インチウエハ対応型)、195~230mmの範囲内(6インチウエハ対応型)、又は、495~530mmの範囲内(18インチウエハ対応型)にある。ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。
【0021】
(基材)
ダイシングテープにおける基材は、ダイシングテープやダイシングダイボンドフィルムにおいて支持体として機能する要素である。基材としては、例えば、プラスチック基材(特にプラスチックフィルム)が挙げられる。上記基材は、単層であってもよいし、同種又は異種の基材の積層体であってもよい。
【0022】
上記プラスチック基材を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルイミド;アラミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリフェニルスルフィド;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。基材において良好な熱収縮性を確保して、後述の常温エキスパンド工程においてチップ離間距離をダイシングテープ又は基材の部分的熱収縮を利用して維持しやすい観点から、基材は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分として含むことが好ましい。
【0023】
なお、基材の主成分とは、構成成分中で最も大きな質量割合を占める成分とする。上記樹脂は、一種のみを使用されていてもよいし、二種以上を使用されていてもよい。粘着剤層が後述のように放射線硬化型粘着剤層である場合、基材は放射線透過性を有することが好ましい。
【0024】
基材がプラスチックフィルムである場合、上記プラスチックフィルムは、無配向であってもよく、少なくとも一方向(一軸方向、二軸方向等)に配向していてもよい。少なくとも一方向に配向している場合、プラスチックフィルムは当該少なくとも一方向に熱収縮可能となる。熱収縮性を有していると、ダイシングテープの、半導体ウエハの外周部分をヒートシュリンクさせることが可能となり、これにより個片化された接着剤層付きの半導体チップ同士の間隔を広げた状態で固定できるため、半導体チップのピックアップを容易に行うことができる。基材及びダイシングテープが等方的な熱収縮性を有するためには、基材は二軸配向フィルムであることが好ましい。なお、上記少なくとも一方向に配向したプラスチックフィルムは、無延伸のプラスチックフィルムを当該少なくとも一方向に延伸(一軸延伸、二軸延伸等)することにより得ることができる。
【0025】
基材及びダイシングテープは、加熱温度100℃及び加熱時間処理60秒の条件で行われる加熱処理試験における熱収縮率が、1~30%であることが好ましく、より好ましくは2~25%、さらに好ましくは3~20%、特に好ましくは5~20%である。上記熱収縮率は、MD方向及びTD方向の少なくとも一方向の熱収縮率であることが好ましい。
【0026】
基材の粘着剤層側表面は、粘着剤層との密着性、保持性等を高める目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等の物理的処理;クロム酸処理等の化学的処理;コーティング剤(下塗り剤)による易接着処理等の表面処理が施されていてもよい。また、帯電防止能を付与するため、金属、合金、これらの酸化物等を含む導電性の蒸着層を基材表面に設けてもよい。密着性を高めるための表面処理は、基材における粘着剤層側の表面全体に施されていることが好ましい。
【0027】
基材の厚さは、ダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムにおける支持体として基材が機能するための強度を確保するという観点からは、40μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは55μm以上、特に好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材の厚さは、200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0028】
(粘着剤層)
ダイシングダイボンドフィルムにおける粘着剤層は、上述のように、粘着剤層表面の、温度23℃、周波数100Hzの条件におけるナノインデンテーション法による硬さが0.04~0.8MPaであり、好ましくは0.05~0.8MPa、より好ましくは0.05~0.7MPaである。上記ナノインデンテーション法による硬さが0.04MPa以上であることにより、粘着剤層表面がやわらかく、粘着剤層と接着剤層との密着性を適度とすることができ、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制することができる。また、上記ナノインデンテーション法による硬さが0.8MPa以下であることにより、粘着剤層と接着剤層との密着性が強くなりすぎることを抑制し、後述のピックアップ工程では割断後の接着剤層付き半導体チップが粘着剤層から良好に剥離でき、良好なピックアップを実現することが可能である。なお、放射線硬化前の粘着剤層の上記ナノインデンテーション法による硬さが上記範囲内である。また、本明細書において、「放射線硬化前」とは、放射線照射により粘着剤層が硬化していない状態をいい、粘着剤層が後述の放射線硬化型粘着剤層でない場合も含む。
【0029】
上記ナノインデンテーション法による硬さは、圧子を粘着剤層表面に押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを、負荷時及び除荷時に渡り連続的に測定し、得られた負荷荷重-押し込み深さ曲線から求められる。このように、上記ナノインデンテーション法による硬さは、粘着剤層表面の物理的特性を表す指標である。上記粘着剤層のナノインデンテーション法による硬さは、荷重:1mN、負荷・除荷速度:0.1mN/s、保持時間:1sの条件下でのナノインデンテーション試験により得られる硬さである。
【0030】
ダイシングテープの粘着剤層は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有することが好ましい。上記アクリル系ポリマーは、ポリマーの構成単位として、アクリル系モノマー(分子中に(メタ)アクリロイル基を有するモノマー成分)に由来する構成単位を含むポリマーである。上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むポリマーであることが好ましい。なお、アクリル系ポリマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。また、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)を表し、他も同様である。
【0031】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(ラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等が挙げられる。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のフェニルエステル、ベンジルエステルが挙げられる。アルコキシ基を有する炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルにおける炭化水素基中の1以上の水素原子をアルコキシ基に置換したものが挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸の2-メトキシメチルエステル、2-メトキシエチルエステル、2-メトキシブチルエステル等が挙げられる。上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0033】
上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、エステル部における炭素数の総数(アルコキシ基を有する場合はアルコキシ基における炭素数を含む総数)が6~10であることが好ましい。特に、炭化水素基の炭素数の総数が6~10である炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。これらの場合、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の浮きの抑制性と、ピックアップ工程における良好なピックアップ性とをより容易に両立させることができる。
【0034】
アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分におけるアルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルの割合は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上である。さらに好ましくは40モル%以上である。
【0035】
なお、本明細書において、上記モノマー成分には、粘着剤層への放射線照射前の、ポリマーに取り込まれた段階において放射線重合性基を有する化合物(例えば、ラジカル重合性官能基及び第1の官能基を有する架橋剤)は含まれないものとする。
【0036】
上記アクリル系ポリマーは、ポリマーの構成単位として、窒素原子含有モノマー由来の構成単位を含むポリマー(「第1アクリル系ポリマー」と称する場合がある)であることが好ましい。この場合、上記ナノインデンテーション法による硬さを上記範囲内とし、且つ上記剥離力を上記範囲内とすることが容易であり、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制しつつ、後述のピックアップ工程では割断後の接着剤層付き半導体チップが粘着剤層から良好に剥離でき、良好なピックアップを実現することが容易となる。
【0037】
上記窒素原子含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリン等のモルホリノ基含有モノマー、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー等が挙げられる。上記窒素原子含有モノマーは、中でも、モルホリノ基含有モノマー(特に、(メタ)アクリロイルモルホリン)を含むことが好ましい。上記窒素原子含有モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0038】
上記ナノインデンテーション法による硬さを上記範囲内とし、且つ上記剥離力を上記範囲内とすることをより容易とする観点から、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における第1アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における窒素原子含有モノマー由来の構成単位の割合は、1モル%以上が好ましく、より好ましくは2モル%以上である。また、上記割合は、30モル%以下が好ましく、より好ましくは20モル%以下である。
【0039】
上記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、上記窒素原子含有モノマー以外に、上記アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー等の官能基含有モノマー等が挙げられる。
【0040】
上記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0041】
上記酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。上記ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
上記グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等が挙げられる。
【0043】
上記スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0044】
上記リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等が挙げられる。
【0045】
上記他のモノマー成分としては、中でも、ヒドロキシ基含有モノマーが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)である。すなわち、上記アクリル系ポリマーは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。上記他のモノマー成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における、窒素原子含有モノマーと上記他のモノマー成分の合計割合は、60モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下である。
【0046】
アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分におけるヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位の割合は、5モル%以上が好ましく、より好ましくは10モル%以上である。また、上記割合は、例えば80モル%以下であり、70モル%以下、60モル%以下であってもよい。
【0047】
また、第1アクリル系ポリマーは、ヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位と共に、イソシアネート基及びラジカル重合性官能基を有する化合物由来の構造部を有することが好ましい。上記ラジカル重合性官能基としては、放射線重合性を有する炭素-炭素二重結合が挙げられ、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基、メタクリロイル基)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0048】
第1アクリル系ポリマーが、ヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位と、イソシアネート基及びラジカル重合性官能基を有する化合物由来の構造部とを有する場合、第1アクリル系ポリマーにおける、イソシアネート基及びラジカル重合性官能基を有する化合物由来の構造部の、ヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位に対するモル比率は、0.7以上が好ましく、より好ましくは0.75以上である。また、上記モル比率は、0.9以下が好ましく、より好ましくは0.85以下である。上記モル比率が上記範囲内であると、上記ナノインデンテーション法による硬さを上記範囲内とし、且つ上記剥離力を上記範囲内とすることをより容易とすることができる。
【0049】
イソシアネート基及びラジカル重合性官能基を有する化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。中でも、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。
【0050】
第1アクリル系ポリマーを含む上記アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。上記多官能性モノマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(例えば、ポリグリシジル(メタ)アクリレート)、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の分子内に(メタ)アクリロイル基と他の反応性官能基を有する単量体等が挙げられる。上記多官能性モノマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルによる粘着性等の基本特性を粘着剤層12において適切に発現させるためには、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における上記多官能性モノマーの割合は、40モル%以下が好ましく、より好ましくは30モル%以下である。
【0051】
アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを含む一種以上のモノマー成分を重合に付すことにより得られる。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等が挙げられる。
【0052】
アクリル系ポリマーの質量平均分子量は、30万以上が好ましく、より好ましくは35万~100万である。質量平均分子量が30万以上であると、粘着剤層中の低分子量物質が少ない傾向にあり、接着剤層や半導体ウエハ等への汚染をより抑制することができる。
【0053】
粘着剤層あるいは粘着剤層を形成する粘着剤は、架橋剤を含有していてもよい。例えば、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを用いる場合、アクリル系ポリマーを架橋させ、粘着剤層中の低分子量物質をより低減させることができる。また、アクリル系ポリマーの質量平均分子量を高めることができる。上記架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物(ポリフェノール系化合物等)、アジリジン化合物、メラミン化合物等が挙げられる。架橋剤を使用する場合、その使用量は、ベースポリマー100質量部に対して、5質量部程度以下が好ましく、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0054】
粘着剤層は、ダイシングダイボンドフィルムの使用過程において外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤層(粘着力低減可能型粘着剤層)であってもよいしダイシングダイボンドフィルムの使用過程において外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤層(粘着力非低減型粘着剤層)であってもよく、ダイシングダイボンドフィルムを使用して個片化される半導体ウエハの個片化の手法や条件等に応じて適宜に選択することができる。
【0055】
粘着剤層が粘着力低減可能型粘着剤層である場合、ダイシングダイボンドフィルムの製造過程や使用過程において、粘着剤層が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを使い分けることが可能となる。例えば、ダイシングダイボンドフィルムの製造過程でダイシングテープの粘着剤層に接着剤層を貼り合わせる時や、ダイシングダイボンドフィルムがダイシング工程に使用される時には、粘着剤層が相対的に高い粘着力を示す状態を利用して粘着剤層から接着剤層等の被着体の浮きを抑制・防止することが可能となる一方で、その後、ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープから接着剤層付き半導体チップをピックアップするためのピックアップ工程では、粘着剤層の粘着力を低減させることで、ピックアップを容易に行うことができる。
【0056】
このような粘着力低減可能型粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、放射線硬化性粘着剤、加熱発泡型粘着剤等が挙げられる。粘着力低減可能型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を用いてもよいし、二種以上の粘着剤を用いてもよい。
【0057】
上記放射線硬化性粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、又はX線の照射により硬化するタイプの粘着剤を用いることができ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化性粘着剤)を特に好ましく用いることができる。
【0058】
上記放射線硬化性粘着剤としては、例えば、上記アクリル系ポリマー等のベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する添加型の放射線硬化性粘着剤が挙げられる。
【0059】
上記放射線重合性のモノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等挙げられる。上記放射線重合性のオリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等の種々のオリゴマーが挙げられ、分子量が100~30000程度のものが好ましい。粘着剤層を形成する放射線硬化性粘着剤中の上記放射線硬化性のモノマー成分及びオリゴマー成分の含有量は、上記ベースポリマー100質量部に対して、例えば5~500質量部、好ましくは40~150質量部程度である。また、添加型の放射線硬化性粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0060】
上記放射線硬化性粘着剤としては、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化性粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化性粘着剤を用いると、形成された粘着剤層内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制することができる傾向がある。
【0061】
上記内在型の放射線硬化性粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマー(特に、上記第1アクリル系ポリマー)が好ましい。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素-炭素二重結合の導入方法としては、例えば、第1の官能基を有するモノマー成分を含む原料モノマーを重合(共重合)させてアクリル系ポリマーを得た後、上記第1の官能基と反応し得る第2の官能基及び放射線重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を、炭素-炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0062】
上記第1の官能基と上記第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基等が挙げられる。これらの中でも、反応追跡の容易さの観点から、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせ、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが好ましい。中でも、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製することは技術的難易度が高く、一方でヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーの作製及び入手の容易性の観点から、上記第1の官能基がヒドロキシ基であり、上記第2の官能基がイソシアネート基である組み合わせが好ましい。イソシアネート基及び放射性重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、上述のイソシアネート基及びラジカル重合性官能基を有する化合物が挙げられる。また、ヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーとしては、上述のヒドロキシ基含有モノマーや、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテル等のエーテル系化合物に由来する構成単位を含むものが挙げられる。
【0063】
上記放射線硬化性粘着剤は、光重合開始剤を含有することが好ましい。上記光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナート等が挙げられる。上記α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。上記アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフエノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等が挙げられる。上記ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等が挙げられる。上記ケタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。上記芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロリド等が挙げられる。上記光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム等が挙げられる。上記ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。上記チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。放射線硬化性粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば0.05~20質量部である。
【0064】
上記加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤、熱膨張性微小球等)を含有する粘着剤である。上記発泡剤としては、種々の無機系発泡剤や有機系発泡剤が挙げられる。上記無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等が挙げられる。上記有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等の塩フッ化アルカン;アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等のヒドラジン系化合物;p-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等のセミカルバジド系化合物;5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系化合物;N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ系化合物等が挙げられる。上記熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。上記加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタン等が挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルべーション法や界面重合法等によって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。上記殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等が挙げられる。
【0065】
上記粘着力非低減型粘着剤層としては、例えば、感圧型粘着剤層が挙げられる。なお、感圧型粘着剤層には、粘着力低減可能型粘着剤層に関して上述した放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層を予め放射線照射によって硬化させつつも一定の粘着力を有する形態の粘着剤層が含まれる。粘着力非低減型粘着剤層を形成する粘着剤としては、一種の粘着剤を用いてもよいし、二種以上の粘着剤を用いてもよい。また、粘着剤層の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、一部が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。例えば、粘着剤層が単層構造を有する場合、粘着剤層の全体が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、粘着剤層における所定の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤層であり、他の部位(例えば、半導体ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤層であってもよい。また、粘着剤層が積層構造を有する場合、積層構造における全ての粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよいし、積層構造中の一部の粘着剤層が粘着力非低減型粘着剤層であってもよい。
【0066】
放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層(放射線未照射放射線硬化型粘着剤層)を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤層(放射線照射済放射線硬化型粘着剤層)は、放射線照射によって粘着力が低減されているとしても、含有するポリマー成分に起因する粘着性を示し、ダイシング工程等においてダイシングテープの粘着剤層に最低限必要な粘着力を発揮することが可能である。放射線照射済放射線硬化型粘着剤層を用いる場合、粘着剤層の面広がり方向において、粘着剤層の全体が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であってもよく、粘着剤層の一部が放射線照射済放射線硬化型粘着剤層であり且つ他の部分が放射線未照射の放射線硬化型粘着剤層であってもよい。なお、本明細書において、「放射線硬化型粘着剤層」とは、放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層をいい、放射線硬化性を有する放射線未照射放射線硬化型粘着剤層及び当該粘着剤層が放射線照射により硬化した後の放射線硬化済放射線硬化型粘着剤層の両方を含む。
【0067】
上記感圧型粘着剤層を形成する粘着剤としては、公知乃至慣用の感圧型の粘着剤を用いることができ、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を好ましく用いることができる。粘着剤層が感圧型の粘着剤としてアクリル系ポリマーを含有する場合、当該アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含むポリマーであることが好ましい。上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーとして説明されたアクリル系ポリマーを採用することができる。
【0068】
粘着剤層又は粘着剤層を形成する粘着剤は、上述の各成分以外に、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、着色剤(顔料、染料等)等の公知乃至慣用の粘着剤層に用いられる添加剤が配合されていてもよい。上記着色剤としては、例えば、放射線照射により着色する化合物が挙げられる。放射線照射により着色する化合物を含有する場合、放射線照射された部分のみを着色することができる。上記放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物であり、例えば、ロイコ染料等が挙げられる。上記放射線照射により着色する化合物の使用量は特に限定されず適宜選択することができる。
【0069】
粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、粘着剤層が放射線硬化性粘着剤から形成された粘着剤層である場合に当該粘着剤層の放射線硬化の前後における接着剤層に対する接着力のバランスをとる観点から、1~50μm程度が好ましく、より好ましくは2~40μm、さらに好ましくは5~30μmである。
【0070】
(接着剤層)
接着剤層は、ダイボンディング用の熱硬化性を示す接着剤として機能を有し、さらに必要に応じて半導体ウエハ等のワークとリングフレーム等のフレーム部材とを保持するための粘着機能を併有する。接着剤層は、引張応力を加えることによる割断が可能であり、引張応力を加えることにより割断させて使用される。
【0071】
接着剤層及び接着剤層を構成する接着剤は、熱硬化性樹脂と例えばバインダー成分としての熱可塑性樹脂とを含んでいてもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。接着剤層を構成する接着剤が、熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む場合、当該粘着剤は熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)を含む必要はない。接着剤層は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。
【0072】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いために接着剤層による接合信頼性を確保しやすいという理由から、アクリル樹脂が好ましい。
【0073】
上記アクリル系樹脂は、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含むことが好ましい。当該アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを形成するアルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとして例示されたものが挙げられる。
【0074】
上記アクリル樹脂は、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマー成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基含有モノマーや、各種の多官能性モノマー等が挙げられ、具体的には、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを構成する他のモノマー成分として例示されたものを使用することができる。
【0075】
接着剤層が、熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂とともに含む場合、当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。ダイボンディング対象の半導体チップの腐食原因となり得るイオン性不純物等の含有量の少ない傾向にあるという理由から、上記熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0076】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、グリシジルアミン型のエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0077】
エポキシ樹脂の硬化剤として作用し得るフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。上記フェノール樹脂は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。中でも、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させる傾向にある観点から、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。
【0078】
接着剤層において、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該フェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.7~1.5当量となる量で含まれる。
【0079】
接着剤層が熱硬化性樹脂を含む場合、上記熱硬化性樹脂の含有割合は、接着剤層において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤層の総質量に対して、5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%である。
【0080】
接着剤層が熱硬化性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂におけるアクリル樹脂は、好ましくは、アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多い構成単位として含む。当該アルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、上述の粘着剤層に含まれ得るアクリル系ポリマーを形成するアルコキシ基を有していてもよい炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルとして例示されたものが挙げられる。
【0081】
一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。中でも、グリシジル基、カルボキシ基が好ましい。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂、カルボキシ基含有アクリル樹脂が特に好ましい。
【0082】
また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂とともに硬化剤を含むことが好ましく、当該硬化剤としては、例えば、上述の粘着剤層形成用の放射線硬化性粘着剤に含まれ得る架橋剤として例示されたものが挙げられる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、硬化剤としてポリフェノール系化合物を用いることが好ましく、例えば上述の各種フェノール樹脂を用いることができる。
【0083】
ダイボンディングのために硬化される前の接着剤層について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、接着剤層に含まれ得る上述の樹脂の分子鎖末端の官能基等と反応して結合し得る多官能性化合物を架橋成分として接着剤層形成用樹脂組成物に配合しておくのが好ましい。このような構成は、接着剤層について、高温下での接着特性を向上させる観点で、また、耐熱性の改善を図る観点で好ましい。
【0084】
上記架橋成分としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等が挙げられる。また、上記架橋成分としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
【0085】
接着剤層形成用樹脂組成物における架橋成分の含有量は、当該架橋成分と反応して結合し得る上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成される接着剤層20の凝集力向上の観点からは0.05質量部以上が好ましく、形成される接着剤層20の接着力向上の観点からは7質量部以下が好ましい。
【0086】
接着剤層は、フィラーを含有することが好ましい。接着剤層へのフィラーの配合により、接着剤層の導電性や、熱伝導性、弾性率等の物性を調整することができる。フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、特に無機フィラーが好ましい。
【0087】
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカの他、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状等の各種形状を有していてもよい。上記フィラーとしては、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0088】
上記フィラーの平均粒径は、0.005~10μmが好ましく、より好ましくは0.005~1μmである。上記平均粒径が0.005μm以上であると、半導体ウエハ等の被着体への濡れ性、接着性がより向上する。上記平均粒径が10μm以下であると、上記各特性の付与のために加えたフィラーの効果を十分なものとすることができると共に、耐熱性を確保することができる。なお、フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(例えば、商品名「LA-910」、株式会社堀場製作所製)を用いて求めることができる。
【0089】
接着剤層は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等が挙げられる。上記他の添加剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0090】
上記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0091】
上記シランカップリング剤としては、例えば、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0092】
上記イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、ケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)等が挙げられる。
【0093】
金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、ビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。
【0094】
上記トリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6’-t-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、1-(2’,3’-ヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、メチル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート等が挙げられる。
【0095】
また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物等の所定の水酸基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのような水酸基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、ピロガロール等が挙げられる。
【0096】
接着剤層の厚さ(積層体の場合は、総厚み)は、特に限定されないが、例えば1~200μmである。上限は、100μmが好ましく、より好ましくは80μmである。下限は、3μmが好ましく、より好ましくは5μmである。
【0097】
ダイシングダイボンドフィルムにおいて、上述のように、温度23℃、剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、上記粘着剤層と上記接着剤層との間の剥離力が0.3N/20mm以上であり、好ましくは0.5N/20mm以上、より好ましくは0.7N/20mm以上である。上記剥離力が0.3N/20mm以上であると、粘着剤層と接着剤層との密着性を適度とすることができ、エキスパンド工程及びその後における粘着剤層と接着剤層との間の剥離(浮き)が生じるのを抑制することができる。また、上記剥離力は高いほど好ましいが、その上限は、例えば、10N/20mmであってもよく、5.0N/20mmであってもよく、3.0N/20mmであってもよい。なお、放射線硬化前の粘着剤層の上記剥離力が上記の値である。
【0098】
上記T型剥離試験については、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して行われる。その試験に供される試料片は、次のようにして作製することができる。ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出す。
【0099】
ダイシングダイボンドフィルムは、セパレータを有していてもよい。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムごとに、セパレータを有するシート状の形態であってもよいし、セパレータが長尺状であってその上に複数のダイシングダイボンドフィルムが配され且つ当該セパレータが巻き回されてロールの形態とされていてもよい。セパレータは、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層の表面を被覆して保護するための要素であり、ダイシングダイボンドフィルムを使用する際には当該フィルムから剥がされる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類等が挙げられる。セパレータの厚さは、例えば5~200μmである。
【0100】
本発明のダイシングダイボンドフィルムの一実施形態であるダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、次の通りにして製造される。
【0101】
まず基材11は、公知乃至慣用の製膜方法により製膜して得ることができる。上記製膜方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出法、ドライラミネート法等が挙げられる。
【0102】
次に、基材11上に、粘着剤層12を形成する粘着剤及び溶媒等を含む、粘着剤層を形成する組成物(粘着剤組成物)を塗布して塗布膜を形成した後、必要に応じて脱溶媒や硬化等により該塗布膜を固化させ、粘着剤層12を形成することができる。上記塗布の方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の公知乃至慣用の塗布方法が挙げられる。また、脱溶媒条件としては、例えば、温度80~150℃、時間0.5~5分間の範囲内で行われる。
【0103】
また、セパレータ上に粘着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、上記の脱溶媒条件で塗布膜を固化させて粘着剤層12を形成してもよい。その後、基材11上に粘着剤層12をセパレータと共に貼り合わせる。以上のようにして、ダイシングテープ10を作製することができる。
【0104】
接着剤層20について、まず、樹脂、フィラー、硬化触媒、溶媒等を含む、接着剤層20を形成する組成物(接着剤組成物)を作製する。次に、接着剤組成物をセパレータ上に塗布して塗布膜を形成した後、必要に応じて脱溶媒や硬化等により該塗布膜を固化させ、接着剤層20を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の公知乃至慣用の塗布方法が挙げられる。また、脱溶媒条件としては、例えば、温度70~160℃、時間1~5分間の範囲内で行われる。
【0105】
続いて、ダイシングテープ10及び接着剤層20からそれぞれセパレータを剥離し、接着剤層20と粘着剤層12とが貼り合わせ面となるようにして両者を貼り合わせる。貼り合わせは、例えば圧着により行うことができる。このとき、ラミネート温度は特に限定されず、例えば、30~50℃が好ましく、より好ましくは35~45℃である。また、線圧は特に限定されず、例えば、0.1~20kgf/cmが好ましく、より好ましくは1~10kgf/cmである。
【0106】
上述のように、粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合に接着剤層20の貼り合わせより後に粘着剤層12に紫外線等の放射線を照射する時には、例えば基材11の側から粘着剤層12に放射線照射を行い、その照射量は、例えば50~500mJであり、好ましくは100~300mJである。ダイシングダイボンドフィルム1において粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(照射領域R)は、通常、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。部分的に照射領域Rを設ける場合、照射領域Rを除く領域に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に放射線を照射して照射領域Rを形成する方法も挙げられる。
【0107】
以上のようにして、例えば図1に示すダイシングダイボンドフィルム1を作製することができる。
【0108】
[半導体装置の製造方法]
本発明のダイシングダイボンドフィルムを用いて、半導体装置を製造することができる。具体的には、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおける上記接着剤層側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける工程(「工程A」と称する場合がある)と、相対的に低温の条件下で、本発明のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドして、少なくとも上記接着剤層を割断して接着剤層付き半導体チップを得る工程(「工程B」と称する場合がある)と、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープをエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる工程(「工程C」と称する場合がある)と、上記接着剤層付き半導体チップをピックアップする工程(「工程D」と称する場合がある)とを含む製造方法により、半導体装置を製造することができる。
【0109】
工程Aで用いる上記複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハは、以下のようにして得ることができる。まず、図2(a)及び図2(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30aを形成する(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。
【0110】
そして、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1を半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30aをダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成する。分割溝30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図2~4では分割溝30aを模式的に太線で表す)。
【0111】
次に、図2(c)に示すように、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT1の剥離とを行う。
【0112】
次に、図2(d)に示すように、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化する(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される。
【0113】
半導体ウエハ30Aは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側で連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Aにおける連結部の厚さ、すなわち、半導体ウエハ30Aの第2面Wbと分割溝30aの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmであり、好ましくは3~20μmである。
【0114】
(工程A)
工程Aでは、ダイシングダイボンドフィルム1における接着剤層20側に、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体、又は複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを貼り付ける。
【0115】
工程Aにおける一実施形態では、図3(a)に示すように、ウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ30Aをダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20に対して貼り合わせる。この後、図3(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT2を剥がす。
【0116】
ダイシングダイボンドフィルム1における粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合には、ダイシングダイボンドフィルム1の製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aの接着剤層20への貼り合わせの後に、基材11の側から粘着剤層12に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50~500mJ/cm2であり、好ましくは100~300mJ/cm2である。ダイシングダイボンドフィルム1において粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0117】
(工程B)
工程Bでは、相対的に低温の条件下で、ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10をエキスパンドして、少なくとも接着剤層20を割断して接着剤層付き半導体チップを得る。
【0118】
工程Bにおける一実施形態では、まず、ダイシングダイボンドフィルム1におけるダイシングテープ10の粘着剤層12上にリングフレーム41を貼り付けた後、図4(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム1をエキスパンド装置の保持具42に固定する。
【0119】
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を、図4(b)に示すように行い、半導体ウエハ30Aを複数の半導体チップ31へと個片化するとともに、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して、接着剤層付き半導体チップ31を得る。
【0120】
クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Aの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Aの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。
【0121】
このエキスパンドは、ダイシングテープ10において15~32MPa、好ましくは20~32MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは0.1~100mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは3~16mmである。
【0122】
工程Bでは、複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハ30Aを用いた場合、半導体ウエハ30Aにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、工程Bでは、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝の垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。エキスパンドによる割断の後、図4(c)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。
【0123】
(工程C)
工程Cでは、相対的に高温の条件下で、上記ダイシングテープ10をエキスパンドして、上記接着剤層付き半導体チップ同士の間隔を広げる。
【0124】
工程Cにおける一実施形態では、まず、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)を、図5(a)に示すように行い、接着剤層付き半導体チップ31間の距離(離間距離)を広げる。
【0125】
工程Cでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を再び上昇させ、ダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10をエキスパンドする。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、例えば0.1~10mm/秒であり、好ましくは0.3~1mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。後述のピックアップ工程にてダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、工程Cでは接着剤層付き半導体チップ31の離間距離を広げる。エキスパンドにより離間距離を広げた後、図5(b)に示すように、突き上げ部材43を下降させて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態を解除する。
【0126】
エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上の接着剤層付き半導体チップ31の離間距離が狭まることを抑制する観点では、エキスパンド状態を解除するより前に、ダイシングテープ10における半導体チップ31保持領域より外側の部分を加熱して収縮させることが好ましい。
【0127】
工程Cの後、接着剤層付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ10における半導体チップ31側を水等の洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて有していてもよい。
【0128】
(工程D)
工程D(ピックアップ工程)では、個片化された接着剤層付き半導体チップをピックアップする。工程Dにおける一実施形態では、必要に応じて上記クリーニング工程を経た後、図6に示すように、接着剤層付き半導体チップ31をダイシングテープ10からピックアップする。例えば、ピックアップ対象の接着剤層付き半導体チップ31について、ダイシングテープ10の図中下側においてピックアップ機構のピン部材44を上昇させてダイシングテープ10を介して突き上げた後、吸着治具45によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材44の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材44の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
【0129】
上記半導体装置の製造方法は、工程A~D以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、一実施形態においては、図7(a)に示すように、ピックアップした接着剤層付き半導体チップ31を、被着体51に対して接着剤層21を介して仮固着する(仮固着工程)。
【0130】
被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、配線基板、別途作製した半導体チップ等が挙げられる。接着剤層21の仮固着時における25℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.2MPa以上が好ましく、より好ましくは0.2~10MPaである。接着剤層21の上記剪断接着力が0.2MPa以上であるという構成は、後述のワイヤーボンディング工程において、超音波振動や加熱によって接着剤層21と半導体チップ31又は被着体51との接着面でずり変形が生じるのを抑制して適切にワイヤーボンディングを行うことができる。また、接着剤層21の仮固着時における175℃での剪断接着力は、被着体51に対して0.01MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01~5MPaである。
【0131】
次に、図7(b)に示すように、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。
【0132】
半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現でき、接着剤層21を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、銅線等を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃であり、好ましくは80~220℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
【0133】
次に、図7(c)に示すように、被着体51上の半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。
【0134】
封止工程では、接着剤層21の熱硬化が進行する。封止工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53を形成する。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。封止工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。
【0135】
封止工程で封止樹脂53の硬化が十分に進行しない場合には、封止工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程を行う。封止工程において接着剤層21が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共に接着剤層21の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
【0136】
上記の実施形態では、上述のように、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を完全に熱硬化させることなくワイヤーボンディング工程が行われる。このような構成に代えて、上記半導体装置の製造方法では、接着剤層付き半導体チップ31を被着体51に仮固着させた後、接着剤層21を熱硬化させてからワイヤーボンディング工程を行ってもよい。
【0137】
上記半導体装置の製造方法においては、他の実施形態として、図2(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、図8に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。図2(c)を参照して上述した過程を経た後、図8に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ分割体30Bを形成する。
【0138】
上記ウエハ薄化工程では、分割溝30aが第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30aに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30aと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Bを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、図2(a)及び図2(b)を参照して上述したように形成する分割溝30aの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。
【0139】
図8では、第1の手法を経た分割溝30a、又は、第2の手法を経た分割溝30a及びこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、半導体ウエハ分割体としてこのようにして作製される半導体ウエハ分割体30Bを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図3から図7を参照して上述した各工程を行ってもよい。
【0140】
図9(a)及び図9(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ分割体30Bをダイシングダイボンドフィルム1に貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。
【0141】
当該実施形態における工程Bでは、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ分割体30Bの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ分割体30Bの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。
【0142】
このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。
【0143】
このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ分割体30Bの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝30aの図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
【0144】
上記半導体装置の製造方法においては、さらなる他の実施形態として、工程Aにおいて用いる半導体ウエハ30A又は半導体ウエハ分割体30Bに代えて、以下のようにして作製される半導体ウエハ30Cを用いてもよい。
【0145】
当該実施形態では、図10(a)及び図10(b)に示すように、まず、半導体ウエハWに改質領域30bを形成する。半導体ウエハWは、第1面Wa及び第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。
【0146】
そして、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3を半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わせた後、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光をウエハ加工用テープT3とは反対の側から半導体ウエハWに対して分割予定ラインに沿って照射して、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bを形成する。改質領域30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。
【0147】
半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30bを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているが、当該実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
【0148】
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
【0149】
次に、図10(c)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化させ、これによって複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Cを形成する(ウエハ薄化工程)。
【0150】
上記半導体装置の製造方法では、工程Aにおいて、個片化可能は半導体ウエハとしてこのようにして作製される半導体ウエハ30Cを半導体ウエハ30Aの代わりに用い、図3から図7を参照して上述した各工程を行ってもよい。
【0151】
図11(a)及び図11(b)は、当該実施形態における工程B、すなわち半導体ウエハ30Cをダイシングダイボンドフィルム1に貼り合わせた後に行う第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。
【0152】
クールエキスパンド工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43を、ダイシングダイボンドフィルム1の図中下側においてダイシングテープ10に当接させて上昇させ、半導体ウエハ30Cの貼り合わせられたダイシングダイボンドフィルム1のダイシングテープ10を、半導体ウエハ30Cの径方向及び周方向を含む二次元方向に引き伸ばすようにエキスパンドする。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば5~28MPa、好ましくは8~25MPaの範囲内の引張応力が生じる条件で行う。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43を上昇させる速度)は、好ましくは1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。
【0153】
このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルム1の接着剤層20を小片の接着剤層21に割断して接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、クールエキスパンド工程では、半導体ウエハ30Cにおいて脆弱な改質領域30bにクラックを形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、クールエキスパンド工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生じる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間のクラック形成箇所の図中垂直方向に位置する箇所が割断されることとなる。
【0154】
また、上記半導体装置の製造方法において、ダイシングダイボンドフィルム1は、上述のように接着剤層付き半導体チップを得る用途に使用することができるが、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合における接着剤層付き半導体チップを得るための用途にも使用することができる。そのような3次元実装における半導体チップ31間には、接着剤層21と共にスペーサが介在していてもよいし、スペーサが介在していなくてもよい。
【実施例
【0155】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における粘着剤層の、アクリル系ポリマーP2を構成する各モノマー成分の組成を表1に示す。但し、表1において、組成物の組成を表す各数値の単位は、モノマー成分に関する数値は相対的な“モル”であり、モノマー成分以外の各成分に関する数値は当該アクリル系ポリマーP2100質量部に対する “質量部”である。
【0156】
実施例1
(ダイシングテープ)
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)100モルと、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)20モルと、これらモノマー成分の総量100質量部に対して2質量部の重合開始剤としての過酸化ベンゾイルと、重合溶媒としてのトルエンとを含む混合物を、61℃で6時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。
【0157】
次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、50℃で48時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は16モルである。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.01質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP2(不飽和官能基含有イソシアネート化合物由来の構成単位を含むアクリル系ポリマー)を含有するポリマー溶液を得た。
【0158】
次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して2質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」、東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア127」、BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤組成物を得た。
【0159】
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して粘着剤組成物を塗布して粘着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について120℃で2分間の加熱による脱溶媒を行い、PETセパレータ上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。
【0160】
次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面に基材としてのEVA樹脂フィルム(厚さ125μm、日東電工株式会製)を室温で貼り合わせた。この貼り合わせ体について、その後に50℃で24時間の保存を行った。以上のようにして実施例1のダイシングテープを作製した。
【0161】
(接着剤層)
アクリル系ポリマーA1(商品名「テイサンレジン SG-P3」、ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、固形フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」、23℃で固形、明和化成株式会社製)12質量部と、シリカフィラー(商品名「SO-C2」、平均粒径は0.5μm、株式会社アドマテックス製)100質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分の濃度が18質量%になるように濃度を調整し、接着剤組成物を得た。
【0162】
次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の脱溶媒を行った。以上のようにして、実施例1における厚さ15μmの接着剤層をPETセパレータ上に作製した。
【0163】
(ダイシングダイボンドフィルムの作製)
実施例1のダイシングテープからPET系セパレータを剥離し、露出した粘着剤層に実施例1の接着剤層を貼り合わせた。貼り合わせには、ハンドローラーを用いた。このようにして実施例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0164】
実施例2~17及び比較例1~9
粘着剤層の作製において、表1及び2に示すように、アクリル系ポリマーP1を形成するモノマー組成、MOIの配合量、光重合開始剤の種類若しくは配合量、ポリイソシアネート化合物の種類若しくは配合量などを変更したこと以外は実施例1と同様にしてダイシングテープ及びダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0165】
なお、表1及び2において、「EA」はエチルアクリレート、「BA」はブチルアクリレート、「2MEA」は2-メトキシエチルアクリレート、「4HBA」は4-ヒドロキシブチルアクリレート、「AM」はアクリロイルモルホリン、「イルガキュア184」は商品名「イルガキュア184」(BASF社製)、「イルガキュア651」は商品名「イルガキュア651」(BASF社製)、「イルガキュア369」は商品名「イルガキュア369」(BASF社製)、「イルガキュア2959」は商品名「イルガキュア2959」(BASF社製)、「コロネートHL」は商品名「コロネートHL」(東ソー株式会社製)をそれぞれ示す。
【0166】
<評価>
実施例及び比較例で得られたダイシングダイボンドフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0167】
(ナノインデンテーション法による硬さ)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムについて、粘着剤層上から接着剤層を剥離し、粘着剤層の剥離面について、ナノインデンター(商品名「TriboIndenter」、HYSITRON Inc.社製)を用い、以下の条件で、粘着剤層表面のナノインデンテーション測定を行った。そして、得られた硬さを表1に示す。
使用圧子:Berkovich(三角錐型)
測定方法:単一押し込み測定
測定温度:23℃
周波数:100Hz
押し込み深さ設定:500nm
荷重:1mN、
負荷速度:0.1mN/s
除荷速度:0.1mN/s
保持時間:1s
【0168】
(T型剥離試験)
実施例及び比較例でそれぞれ得られた各ダイシングダイボンドフィルムについて、次のようにして粘着剤層と接着剤層との間の剥離力を調べた。まず、各ダイシングダイボンドフィルムから試験片を作製した。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、当該裏打ちテープを有するダイシングダイボンドフィルムから、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出した。そして、試験片について、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用してT型剥離試験を行い、剥離力(N/20mm)を測定した。本測定においては、温度条件を23℃とし、剥離速度を300mm/分とした。測定結果を表に示す。
【0169】
(接着剤層付き半導体チップの浮き)
レーザー加工装置として商品名「ML300-Integration」(株式会社東京精密製)を用いて、12インチの半導体ウエハの内部に集光点を合わせ、格子状(10mm×10mm)の分割予定ラインに沿ってレーザー光を照射し、半導体ウエハの内部に改質領域を形成した。レーザー光の照射は、下記の条件で行った。
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz
パルス幅 30ns
出力 20μJ/パルス
レーザー光品質 TEM00 40
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 50倍
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 60%
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 100mm/秒
【0170】
半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30bを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているが、当該実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
【0171】
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
【0172】
半導体ウエハ内部に改質領域を形成した後、半導体ウエハの表面にバックグラインド用保護テープを貼り合わせ、バックグラインダー(商品名「DGP8760」、株式会社ディスコ製)を用いて半導体ウエハの厚さが30μmになるように裏面を研削した。
【0173】
実施例及び比較例で得られたダイシングダイボンドフィルムに、改質領域が形成された半導体ウエハとダイシングリングを貼り合わせた。そして、ダイセパレーター(商品名「DDS2300」、株式会社ディスコ製)を用いて、半導体ウエハ及び接着剤層の割断を行った。具体的には、まず、クールエキスパンダーユニットで、温度-15℃、クールエキスパンド時の速度(エキスパンド速度)200mm/秒、エキスパンド量14mmの条件でクールエキスパンドを行って半導体ウエハを割断させた。そして、接着剤層がダイシングテープから浮いている部分の面積(接着剤層全体の面積を100%としたときの浮いている接着剤層付き半導体チップの面積の割合)を顕微鏡で観察した。クールエキスパンド工程における浮きについて、浮きが無い又は許容範囲内であれば○、浮きが目立って有る場合を×として評価した。結果を表に示す。
【0174】
半導体ウエハ及び接着剤層の割断後、上記クールエキスパンダーユニットをそのまま用いて、室温、エキスパンド速度1mm/秒、エキスパンド量5mmの条件で常温エキスパンドを行った。そして、接着剤層がダイシングテープから浮いている部分の面積(接着剤層全体の面積を100%としたときの浮いている接着剤層付き半導体チップの面積の割合)を顕微鏡で観察した。常温エキスパンド工程における浮きについて、浮きが無い又は許容範囲内であれば○、浮きが目立って有る場合を×として評価した。また、常温エキスパンド後23℃で30分間放置した後の浮き(経時での浮き)についても、上記の評価基準に従って評価を行った。結果を表に示す。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
実施例1~17のダイシングダイボンドフィルムによると、クールエキスパンド工程及び常温エキスパンド工程、さらには経時後において、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの浮きを生じることなく接着剤層の割断を良好に行うことができた上に、ピックアップ工程において、接着剤層付き半導体チップを適切にピックアップすることができた。
【符号の説明】
【0178】
1 ダイシングダイボンドフィルム
10 ダイシングテープ
11 基材
12 粘着剤層
20,21 接着剤層
W,30A,30C 半導体ウエハ
30B 半導体ウエハ分割体
30a 分割溝
30b 改質領域
31 半導体チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11