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特許7075342PVD層及び被覆切削工具を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】PVD層及び被覆切削工具を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220518BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220518BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20220518BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20220518BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C23C14/06 H
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B51/00 J
C23C14/24 F
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018532458
(86)(22)【出願日】2016-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2016081989
(87)【国際公開番号】W WO2017108833
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】15201990.7
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン, ラース
(72)【発明者】
【氏名】サライヴァ, マルタ
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501371(JP,A)
【文献】特開2012-001383(JP,A)
【文献】特開2011-127165(JP,A)
【文献】特開2008-240079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
B23B 27/14
B23C 5/16
B23B 51/00
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金の基材上に被覆を製造する方法であって、被覆が、式MeSiAl(式中、x+y+z=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1、及び
0≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.1、又は
0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.75、
Meは、IUPACの元素周期表の4族、5族、及び6族の一又は複数の金属である)の化合物であるPVD層(A)を含み、PVD層(A)が、約12%未満のデューティサイクル及び約10kHz未満のパルスバイアス周波数を用いて、約-40から約-450Vのパルスバイアス電圧を基材に印加するカソードアーク蒸着によって蒸着される、方法。
【請求項2】
デューティサイクルが、約2から約10%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パルスバイアス周波数が、約0.1から約8kHzである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
パルスバイアス電圧が、約-50から約-350Vである、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
超硬合金の基材及び被覆を備える被覆切削工具であって、被覆が、式MeSiAl(式中、x+y+z=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1、及び
0≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.1、又は
0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.75、
Meは、IUPACの元素周期表の4族、5族、及び6族の、一又は複数の金属である)の化合物であるPVD層(A)を含み、PVD層(A)が、≦0.3度(2θ)である、X線回折における立方晶(111)ピークのFWHM(半値全幅)値を有する結晶性である、被覆切削工具。
【請求項6】
PVD層(A)が、X線回折における立方晶(111)ピークのFWHM値≦0.25度(2θ)を有する、請求項5に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
PVD層(A)が、≧0.6である、X線回折におけるピーク高さ強度比I(111)/I(200)を有する、請求項5又は6に記載の被覆切削工具。
【請求項8】
PVD層(A)が、>-3GPaである残留応力を有する、請求項5から7の何れか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項9】
PVD層(A)が、その表面にファセット結晶粒を含む、請求項5から8の何れか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項10】
PVD層(A)の厚さが、約0.5から約20μmである、請求項5から9の何れか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項11】
PVD層(A)が、
式TiZrCrSiAl
(式中、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦0.4、0≦t≦0.1、p+q+r+s+t=1、
0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1)
又は
式TiZrCrSiAl
(式中、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.75、p+q+r+s+t=1、
0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1)
の化合物である、請求項5から10の何れか一項に記載の被覆切削工具。
【請求項12】
PVD層(A)の式において、0.9≦p≦1、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.1である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項13】
PVD層(A)の式において、0.25≦p≦0.9、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0.1≦t≦0.75である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項14】
PVD層(A)の式において、0≦p≦0.1、0≦q≦0.1、0.2≦r≦1、0≦s≦0.1、0.1≦t≦0.8である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項15】
PVD層(A)の式において、0.1≦p≦0.5、0.1≦q≦0.5、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0.25≦t≦0.6である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項16】
PVD層(A)の式において、0≦p≦0.1、0.4≦q≦1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.5である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項17】
PVD層(A)の式において、0.2≦p≦0.6、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0<s≦0.1、0.35≦t≦0.75である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項18】
PVD層(A)の式において、0.7≦p≦0.95、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0.01<s≦0.3、0≦t≦0.1である、請求項11に記載の被覆切削工具。
【請求項19】
PVD層(A)の式において、0≦a≦0.25、0.75≦b≦1、0≦c≦0.05、a+b+c=1である、請求項5から18の何れか一項に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、一態様において、PVD層を製造する方法に関連し、さらなる態様において、被覆切削工具に関連する。
【0002】
背景技術
概論
物理蒸着(PVD)は、例えば、硬質金属の基材に耐摩耗性被覆をもたらすための周知の技術である。この被覆は、金属加工用の切削工具、例えばインサート及びドリルとして適用される。
【0003】
一般に用いられるPVD法には、アーク蒸着、マグネトロンスパッタリング、及びイオンプレーティングが挙げられる。他のPVD法よりもアーク蒸着法が有利な点には、一般に、基盤をなす基材又は層へのより良好な接着、及びより高い蒸着率が挙げられる。
【0004】
しかし、アーク蒸着法によって製造された層において、一般に、上部から拡大して見たときに、視認される個々の結晶粒の任意の特徴を含まず、「スミアアウト(smeared out)」と見える格子欠陥に富んだ被覆をもたらす。点欠陥などの欠陥により、被覆の残留圧縮応力が増すことになる。
【0005】
一方、スパッタ層において、より低い欠陥密度、より高い結晶化度、及び場合により表面に結晶ファセット(crystal facet)が得られる可能性がある。
【0006】
アーク蒸着法では、アーク電流を金属ターゲットに印加して、真空チャンバ内で金属蒸気若しくはプラズマを生成する。バイアス電圧を基材に印加し、一方でターゲットはカソード表面として機能する。アークは着火され、小さな発光領域が形成され、気化したカソード材が高速で基材へ向かってカソードから放たれる。通常のセットアップでは、被覆に含まれる所望の金属又は金属の組み合わせの一又は複数のターゲットが用いられ、蒸着法は、被覆される化合物に応じて、反応ガスが存在する状態で実施される。一般に、反応ガスとして、金属窒化物が所望される場合、窒素が用いられ、金属炭化物にはメタン又はエタンが用いられ、金属炭窒化物にはメタン又はエタンと共に窒素が用いられ、金属カルボキシ窒化物を蒸着するために、酸素がさらに添加される。
【0007】
被覆される基材に印加されるバイアス電圧は、DCモード又は時変モード(time varying mode)で印加することができる。時変モードは、例えば、バイアス電圧を交互に付けたり、消したりすることによって、電圧が経時的に変化するパルスモードであることができる。蒸着の間のバイアスパルス周期の全時間のうち、「オン時間(on-time)」、すなわちバイアスが印加されている時間のパーセントは、「デューティサイクル」と称される。
【0008】
パルスモードのバイアス電圧の周波数は、通常kHzで表される。
【0009】
一般に用いられる金属加工用の切削工具の分野では、PVD被覆は、元素周期表の4族、5族、及び6族の金属、及びAl、及びSiの窒化物、炭窒化物、及びカルボキシ窒化物である。
【0010】
PVD層では残留圧縮応力のある一定のレベルが度々所望されているが、残留圧縮応力は、基盤をなす層又は基材への接着に悪影響を及ぼすリスクのために、好ましくは、高すぎてはならない。
【0011】
被覆が、基材への接着、及び耐剥離性に関して優れた特性を有し、またクレータ耐摩耗性及び/又は逃げ面耐摩耗性などの優れた耐摩耗性も有する、被覆切削工具が絶えず求められている。
【0012】
さらに、基材への良好な接着など、アーク蒸着層からの一般的な利点を有する他に、さらに低い点欠陥密度(low point defect density)などの低レベルの格子欠陥を有する、アーク蒸着PVD層が必要とされている。
【0013】
定義
用語「デューティサイクル」は、バイアス電圧が「オン」である、すなわち完全なパルス周期(「オン時間」+「オフ時間」)の間の作動している時間のパーセントを意味する。
【0014】
用語「パルスバイアス周波数」は、1秒あたりの完全なパルス周期の数を意味する。
【0015】
用語「FWHM」は、X線回折ピークの、そのピーク強度の半分での角度(2θ)の幅である「半値全幅」を意味する。
【0016】
用語「FWQM」は、X線回折ピークの、そのピーク強度の1/4での角度(2θ)の幅である「1/4値全幅」を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試料1-3の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図2】試料4-8の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図3】試料9-12の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図4】試料13-17の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図5】試料4の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図6】試料5の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図7】試料6の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図8】試料13の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図9】試料14の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図10】試料15の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図11】試料16の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図12】試料4の表面のSEM画像を示す図である。
図13】試料18-20の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図14】試料21-23の被覆の、組み合わせたX線回折図を示す図である。
図15】試料18の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図16】試料19の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図17】試料20の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図18】試料21の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図19】試料22の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
図20】試料23の(111)ピーク周辺のX線回折図を拡大した部分を示す図である。
【0018】
発明の概要
本発明は、基材上に被覆を製造する方法であって、被覆は、式MeSiAl(式中、x+y+z=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1、及び0≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.1、又は0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.75、
Meは、IUPACの元素周期表の4族、5族、及び6族の一又は複数の金属である)の化合物であるPVD層(A)を含み、PVD層(A)は、約12%未満のデューティサイクル及び約10kHz未満のパルスバイアス周波数を用いて、約-40から約-450Vのパルスバイアス電圧を基材に印加するカソードアーク蒸着によって蒸着される、方法に関連する。
【0019】
一実施態様において、デューティサイクルは、約11%未満であってもよい。デューティサイクルは、さらに約1.5から約10%、又は約2から約10%であってもよい。
【0020】
一実施態様において、デューティサイクルは、約10%未満であってもよい。デューティサイクルは、さらに1.5から約8%、又は約2から約6%であってもよい。
【0021】
「オフ時間」の間、電位は、好適には変動している。
【0022】
パルスバイアス周波数は、約0.1kHzより高くてもよく、又は約0.1から約8kHz、又は約1から約6kHz、又は約1.5から約5kHz、又は約1.75から約4kHzであってもよい。
【0023】
パルスバイアス電圧は、約-40から約-450V、又は約-50から約-450V、又は約-55から約-450Vであってもよい。
【0024】
用いられるパルスバイアス電圧の最適の範囲は、用いられる特定のPVDリアクターに応じて変わる可能性がある。
【0025】
一実施態様において、パルスバイアス電圧は、約-55から約-400V、又は約-60から約-350V、又は約-70から約-325V、又は約-75から約-300V、又は約-75から約-250V、又は約-100から約-200Vであってもよい。
【0026】
他の実施態様において、パルスバイアス電圧は、約-45から約-400V、又は約-50から約-350V、又は約-50から約-300Vであってもよい。
【0027】
パルスバイアス電圧は、好適には単極である。
【0028】
PVD層(A)は、好適には、チャンバ温度400-700℃の間、又は400-600℃の間、又は450-550℃の間で蒸着される。
【0029】
PVD層(A)は、好適には、米国特許出願公開第2013/0126347号に開示されたように、両カソードがその周りに配置されたリング型アノードを備えているカソードアセンブリを装備し、磁場に、ターゲット表面から出て、アノードに入る力線をもたらすシステムを用いた、PVD真空チャンバ中で蒸着される。
【0030】
PVD層(A)を蒸着する間のガス圧は、約0.5から約15Pa、又は約0.5から約10Pa、又は約1から約5Paであってもよい。
【0031】
基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素、及び高速度鋼の群から選択することができる。
【0032】
基材は、好適には切削工具として形づくられる。
【0033】
切削工具は、金属加工用の、切削工具インサート、ドリル、又はソリッドエンドミルであってもよい。
【0034】
本発明は、基材及び被覆を備える被覆切削工具であって、被覆は、式MeSiAl(式中、x+y+z=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1、及び0≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.1、又は0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.75、Meは、IUPACの元素周期表の4族、5族、及び6族の、一又は複数の金属である)の化合物であるPVD層(A)を含み、PVD層(A)は、≦0.3度(2θ)である、X線回折における立方晶(111)ピークのFWHM(半値全幅)値を有する結晶性である、被覆切削工具にさらに関連する。
【0035】
本明細書に記載のPVD層(A)のさらに可能性のある特徴は、方法で定められたPVD層(A)と、被覆切削工具で定められたPVD層(A)との両方を示す。
【0036】
PVD層(A)のX線回折解析を実施すると、非常に鋭い立方晶回折ピークが観測される。これは、高い結晶性を意味する。また好適には、先行技術の方法により、通常、好ましい(200)配向をもたらす、いくつかの層組成で、好ましい(111)面外結晶配向が得られる。こうした層組成は、例えば、Ti0.33Al0.67N、Ti0.5Al0.5N、(Ti,Si)N、及びCr0.3Al0.7Nである。
【0037】
PVD層(A)は、好適には、XRD回折の立方晶(111)ピークについて、≦0.25度(2θ)、又は≦0.2度(2θ)、又は≦0.18度(2θ)である、FWHM値を有する。PVD層(A)がTiNである場合、さらに、≦0.16度(2θ)である、XRD回折における立方晶(111)ピークのFWHM値であることができる。
【0038】
PVD層(A)は、好適には、XRD回折の立方晶(111)ピークについて、≦0.6度(2θ)、又は≦0.5度(2θ)、又は≦0.45度(2θ)、又は≦0.4度(2θ)、又は≦0.35度(2θ)、又は≦0.3度(2θ)である、FWQM(1/4値全幅)値を有する。PVD層(A)がTiNである場合、さらに、≦0.25度(2θ)である、XRD回折の立方晶(111)ピークのFWQM値であることができる。
【0039】
PVD層(A)は、好適には、≧0.6、又は≧0.7、又は≧0.8、又は≧0.9、又は≧1、又は≧1.5、又は≧2、又は≧3、又は≧4である、X線回折のピーク高さ強度比I(111)/I(200)を有する。
【0040】
本明細書で用いられるピーク高さ強度I(111)及びI(200)、並びにFWHM値及びFWQM値を決定するのに用いられる(111)ピークは、Cu-Kα2除去済み(stripped)である。
【0041】
PVD層(A)は、好適には、>-3GPa、又は>-2GPa、又は>-1GPa、又は>-0.5GPa、又は>0GPaである残留応力を有する。
【0042】
PVD層(A)は、好適には、<4GPa、又は<3GPa、又は<2GPa、又は<1GPaである残留応力を有する。
【0043】
PVD層(A)の残留応力は、I.C.Noyan、J.B.Cohen、Residual Stress Measurement by Diffraction and Interpretation、Springer-Verlag、New York、1987(p117-130)に記載されている、周知のsinψ法を用いたX線回折測定によって評価される。例えば、V Hauk、Structural and Residual Stress analysis by Nondestructive Methods、Elsevier、Amsterdam、1997も参照されたい。測定は、CuKα放射線を(200)反射に用いて実施される。側傾法(ψジオメトリ)は、選択されたsinψ範囲内の等距離の、6個から11個、好ましくは8個のψ角で用いられた。90°のΦセクター内のΦ角の等距離分布が好ましい。二軸応力状態を確かめるために、試料を、ψで傾けながら、Φ=0及び90°で回転させることになる。せん断応力が存在する可能性があるか調べることを推奨し、したがって負及び正のψ角を測定することになる。オイラー1/4-クレードルの場合、これは、様々なψ角について、Φ=180及び270°においても試料を測定することによって成し遂げられる。測定は、可能な限り平坦な表面で、好ましくは切削工具インサートの逃げ面側で実施されることになる。残留応力値を計算するには、ポアソン比ν=0.22及びヤング率E=447GPaを用いるべきである。データは、好ましくは(200)反射にある、Bruker AXS製のDIFFRACPlus Leptos v.7.8などの市販のソフトウェアを用いて、疑似フォークト関数によって評価される。全応力値は、得られた二軸応力の平均として計算される。
【0044】
PVD層(A)は、好適には、その表面にファセット結晶粒を含む。本明細書において、ファセットは、粒に平坦な面があること意味する。
【0045】
PVD層(A)のファセット結晶粒は、好適には、PVD層(A)の表面積の、>50%、又は>75%、又は>90%を占める。
【0046】
PVD層(A)の厚さは、好適には、約0.5から約20μm、又は約0.5から約15μm、又は約0.5から約10μm、又は約1から約7μm、又は約2から約5μmである。
【0047】
PVD層(A)は、好適には、式TiZrCrSiAl(式中、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦0.4、0≦t≦0.1、p+q+r+s+t=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1、又は式TiZrCrSiAl、0≦p≦1、0≦q≦1、0≦r≦1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.75、p+q+r+s+t=1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、a+b+c=1)の化合物である。
【0048】
好適には、PVD層(A)の式において、0≦a≦0.75、0.25≦b≦1、0≦c≦0.1、又は0≦a≦0.5、0.5≦b≦1、0≦c≦0.1、又は0≦a≦0.25、0.75≦b≦1、0≦c≦0.05、又は0≦a≦0.1、0.9≦b≦1、0≦c≦0.02、又はa=0、b=1、c=0、a+b+c=1である。
【0049】
一実施態様において、PVD層(A)は、Ti、Zr、Cr、Si、及びAlの少なくとも2種を含む化合物である。
【0050】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0.9≦p≦1、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.1、又は0.95≦p≦1、0≦q≦0.05、0≦r≦0.05、0≦s≦0.05、0≦t≦0.05、又は0.98≦p≦1、0≦q≦0.02、0≦r≦0.02、0≦s≦0.02、0≦t≦0.02である。本実施態様において、PVD層(A)の一例はTiNである。
【0051】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0.25≦p≦0.9、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0.1≦t≦0.75、又は0.3≦p≦0.7、0≦q≦0.05、0≦r≦0.05、0≦s≦0.05、0.3≦t≦0.7、又は0.33≦p≦0.6、0≦q≦0.02、0≦r≦0.02、0≦s≦0.02、0.4≦t<0.67である。本実施態様において、PVD層(A)の一例はTi0.33Al0.67Nである。
【0052】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0≦p≦0.1、0≦q≦0.1、0.2≦r≦1、0≦s≦0.1、0.1≦t≦0.8、又は0≦p≦0.05、0≦q≦0.05、0.25≦r≦0.75、0≦s≦0.05、0.3≦t≦0.75、又は0≦p≦0.02、0≦q≦0.02、0.25≦r≦0.35、0≦s≦0.05、0.6≦t≦0.75である。本実施態様において、PVD層(A)の一例は、Cr0.3Al0.7Nである。
【0053】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0.1≦p≦0.5、0.1≦q≦0.5、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0.25≦t≦0.6、又は0.1≦p≦0.4、0.15≦q≦0.4、0≦r≦0.05、0≦s≦0.05、0.4≦t≦0.55、又は0.2≦p≦0.4、0.15≦q≦0.3、0≦r≦0.02、0≦s≦0.02、0.45≦t≦0.55である。本実施態様において、PVD層(A)の一例は、Ti0.3Zr0.2Al0.5Nである。
【0054】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0≦p≦0.1、0.4≦q≦1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0≦t≦0.5、又は0≦p≦0.05、0.5≦q≦1、0≦r≦0.05、0≦s≦0.05、0.1≦t≦0.45、又は0≦p≦0.02、0.5≦q≦0.8、0≦r≦0.02、0≦s≦0.02、0.2≦t≦0.4である。本実施態様において、PVD層(A)の一例は、Zr0.65Al0.35Nである。
【0055】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0.2≦p≦0.6、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0≦s≦0.1、0.35≦t≦0.75、又は0.3≦p≦0.5、0≦q≦0.05、0≦r≦0.05、0.01≦s≦0.08、0.4≦t≦0.6、又は0.3≦p≦0.5、0≦q≦0.02、0≦r≦0.02、0.02≦s≦0.07、0.45≦t≦0.6である。本実施態様において、PVD層(A)の一例は、Ti0.4Si0.05Al0.55Nである。
【0056】
一実施態様では、PVD層(A)の式において、0.7≦p≦0.95、0≦q≦0.1、0≦r≦0.1、0.01≦s≦0.3、0≦t≦0.1、又は0.75≦p≦0.95、0≦q≦0.05、0≦r≦0.05、0.02≦s≦0.25、0≦t≦0.05、又は0.8≦p≦0.95、0≦q≦0.02、0≦r≦0.02、0.05≦s≦0.2である。本実施態様において、PVD層(A)の例は、Ti0.91Si0.09N、Ti0.87Si0.13N、Ti0.85Si0.15N、Ti0.82Si0.18N、及びTi0.78Si0.22Nである。
【0057】
PVD層(A)を含む被覆は、好適には、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素、及び高速度鋼の群から選択される基材に蒸着される。
【0058】
被覆切削工具の被覆のPVD層(A)は、好適には、アーク蒸着によって蒸着される。
【0059】
被覆切削工具の被覆のPVD層(A)は、好適には、本発明の方法によって蒸着される。
【0060】
一実施態様において、被覆は、基材に最も近い、例えば、TiN、CrN、又はZrNの最内部結合層を含む。結合層の厚さは、約0.1から約1μm、又は約0.1から約0.5μmであってもよい。最内部結合層は、PVD層(A)を蒸着するのに用いたものよりも、異なる方法パラメータ、例えば、パルスバイアスの代わりにDCバイアスを用いて蒸着してもよく、こうした最内部結合層は、PVD層(A)と実質的に同じ元素組成のものであってもよい。
【0061】
被覆切削工具の基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素、及び高速度鋼の群から選択することができる。
【0062】
被覆切削工具は、金属加工用の、切削工具インサート、ドリル、又はソリッドエンドミルであってもよい。
【0063】
実施例
実施例1
Ti0.33Al0.67N層をジオメトリSNMA120804の焼結超硬合金切削工具インサートブランクに蒸着した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、及びWC残部であった。超硬合金ブランクを、Advanced Plasma Optimizerアップグレードを備えたOerlikon Balzer INNOVAシステムであるPVD真空チャンバで被覆した。PVD真空チャンバには、6個のカソードアセンブリを装備されていた。アセンブリは、それぞれ1個のTi0.33Al0.67合金ターゲットを備えていた。カソードアセンブリを、チャンバの2つの高さ(level)に配置した。両カソードがその周りに配置されたリング型アノードを備えており(米国特許出願公開第2013/0126347号に開示されたように)、システムは、磁場に、ターゲット表面から出て、アノードに入る力線をもたらす(米国特許出願公開第2013/0126347号参照)。
【0064】
チャンバを、高真空(10-2Pa未満)までポンプダウンし、チャンバ内部に設置されたヒータで350-500℃まで加熱し、この特定の場合には500℃まで加熱した。次いで、ブランクをArプラズマで30分間エッチングした。
【0065】
17種の様々な蒸着を、様々な方法条件で行った。DCバイアス電圧とパルスバイアス電圧との両方を試した。パルスバイアスの様々なバイアス電圧について、デューティサイクル及びパルスバイアス周波数を試験した。
【0066】
チャンバ圧をNガス3.5Paに設定し、ある一定のDCバイアス電圧又は単極パルスバイアス電圧(チャンバ壁に対して)のいずれかをブランクアセンブリに印加した。パルスバイアスについて、ある一定のデューティサイクル及びパルスバイアス周波数で印加した。カソードは、アーク放電モードで、電流200A(それぞれ)で60分間流した。厚さ約3μmの層を蒸着した。
【0067】
方法パラメータの異なる組み合わせを表1に示す。
【0068】
X線回折(XRD)解析を、2D検出器(VANTEC-500)及び集束平行ビームMontelミラーを備えたIμS X線源(Cu-Kα、50.0kV、1.0mA)を装備したBruker D8 Discover回折計を用いて、被覆インサートの逃げ面で実施した。被覆切削工具インサートは、試料の逃げ面が試料ホルダーの基準面と平行であること、また逃げ面が適切な高さにあることを確認して、試料ホルダーに取り付けた。被覆切削工具からの回折強度は、関連するピークが生じる、したがって少なくとも35°-50°が含まれる2θ角周辺で測定された。バックグラウンド減算及びCu-Kα2除去を含むデータ解析を、PANalytical’s X’Pert HighScore Plusソフトウェアを用いて行った。疑似フォークト関数をピーク解析に用いた。得られたピーク強度に薄膜補正を適用しなかった。(111)ピーク又は(200)ピークと、PVD層に帰属しない、例えばWCなどの基材反射の、任意の回折ピークとの、起こり得るピークの重複は、ピーク強度及びピーク幅を決定するときに、ソフトウェア(組み合わさったピークのデコンボリューション)によって補正した。
【0069】
図1は、DCバイアス電圧を用いた、被覆試料1-3の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示す。図2は、-300Vパルスバイアス電圧を用い、デューティ比及びパルスバイアス周波数を変化させた、被覆試料4-8の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示す。図3は、-300Vパルスバイアスを用い、デューティ比及びパルス周波数を変化させた、被覆試料9-12の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示す。図4は、パルスバイアス電圧を、固定されたデューティ比及びパルスバイアス周波数で変化させた、被覆試料13-17の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示す。
【0070】
本発明に従って製造された試料4-6及び試料13-16が鋭い(111)ピークを示すことは明らかである。図5-7は、試料4-6の、(111)ピーク周辺の回折図を拡大した部分(Cu-Kα2除去済み)を示す。図8-11は、試料13-16の、(111)ピーク周辺の回折図を拡大した部分(Cu-Kα2除去済み)を示す。試料4-6及び試料13-16の(111)ピークのFWHM値及びFWQM値、並びにI(111)/I(200)の比を決定した。
【0071】
図12は、試料4の表面のSEM画像を示す。結晶粒は、明らかに表面全体にわたってファセットされている。
【0072】
結果を表2に示す。
【0073】
実施例2
表3に列挙した層は、それぞれジオメトリSNMA120804の焼結超硬合金切削工具インサートブランクに、実施例1と同じ組成で、また実施例1と同じPVD真空チャンバ及び同じ手順を用いるが、Ti0.33Al0.67合金ターゲットをそれぞれ、Tiターゲット、Cr0.30Al0.70合金ターゲット、Ti0.30Zr0.20Al0.50合金ターゲット、Zr0.65Al0.35合金ターゲット、又はTi0.85Si0.15合金ターゲットに変えて蒸着した。実施例1の試料4と同じバイアスパラメータ及び圧力パラメータを用いた。表3を参照されたい。
【0074】
図13は、試料18-20の被覆の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示し、全て鋭い(111)ピークを示している。図14は、試料21-23の被覆の、組み合わせたX線回折図(Cu-Kα2未除去)を示し、全て鋭い(111)ピークを示している。図15-20は、(111)ピーク周辺の回折図を拡大した部分(Cu-Kα2除去済み)を示す。FWHM値及びFWQM値を計算し、残留応力測定を実施した。結果をまとめた表4を参照されたい。
【0075】
試料18-23は、X線回折で非常に狭い(111)ピークを有する被覆をもたらすと結論付けられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20