(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】安全確認支援システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
B66B31/00 D
(21)【出願番号】P 2019109127
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土本 秀男
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
(72)【発明者】
【氏名】白 石
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218330(JP,A)
【文献】特開2014-65554(JP,A)
【文献】特開2013-180856(JP,A)
【文献】特開平8-198566(JP,A)
【文献】特開2013-234042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0134523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する安全確認支援システムにおいて、
前記作業者の動きを検出するセンサ端末と、
前記作業者に携帯され、前記センサ端末と通信自在に接続された第1の保守端末と、
前記共同作業者に携帯され、前記第1の保守端末と通信自在に接続された第2の保守端末と
を備え、
前記センサ端末は、
前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出した場合に、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知し、
前記第2の保守端末は、
前記所定操作が行われたことを前記センサ端末から通知された場合に、前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始の許否を前記共同作業者に問い合わせ、問合せ結果を前記第1の保守端末を経由して前記センサ端末に送信し、
前記センサ端末は、
前記第2の保守端末から与えられた前記問合せ結果が前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始を許可しないものであった場合、又は、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知してから一定期間内に前記問合せ結果を受信しなかった場合には、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させないように前記作業者に警告する
ことを特徴とする安全確認支援システム。
【請求項2】
前記センサ端末は、
3軸方向の加速度をそれぞれ検出する加速度センサと、
前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったときに、前記加速度センサから出力される加速度情報のモデルデータが格納された記憶装置と
を備え、
前記加速度センサから出力された前記加速度情報を前記モデルデータと比較することにより、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の安全確認支援システム。
【請求項3】
前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作は、ブザー音を発報させる操作であり、
前記センサ端末は、周囲音を集音するマイクロホンをさらに備え、
前記モデルデータには、所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったときに前記マイクロホンから出力される前記ブザー音の音声情報も含まれ、
前記センサ端末は、
前記マイクロホンから出力された前記音声情報を前記モデルデータと比較することにより前記ブザー音が発報されたことを検出した場合に、前記加速度センサから出力された前記加速度情報を前記モデルデータと比較することにより、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出する
ことを特徴とする請求項2に記載の安全確認支援システム。
【請求項4】
前記センサ端末及び前記第1の保守端末間は、所定の近距離通信規格に準拠した第1の通信回線を介して接続され、
前記第1の保守端末及び前記第2の保守端末間は、所定の遠距離通信規格に準拠した第2の通信回線を介して接続された
ことを特徴とする請求項1に記載の安全確認支援システム。
【請求項5】
前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動は、
前記作業者が屈み、前記エスカレータ装置の運転パネルのブザースイッチの鍵穴に操作キーを挿入し、当該操作キーを時計回り方向に捻ることによりブザー音を発報させた後に、前記操作キーを反時計回り方向に回転させて初期位置に戻し、前記操作キーを前記ブザースイッチの前記鍵穴から引き抜く行動である
ことを特徴とする請求項1に記載の安全確認支援システム。
【請求項6】
エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する安全確認支援システムにおいて実行される安全確認支援方法であって、
前記安全確認支援システムは、
前記作業者の動きを検出するセンサ端末と、
前記作業者に携帯され、前記センサ端末と通信自在に接続された第1の保守端末と、
前記共同作業者に携帯され、前記第1の保守端末と通信自在に接続された第2の保守端末と有し、
前記センサ端末が、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出した場合に、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知する第1のステップと、
前記第2の保守端末が、前記所定操作が行われたことを前記センサ端末から通知された場合に、前記エスカレータ装置の停止又は稼動の許否を前記共同作業者に問い合わせ、問合せ結果を前記第1の保守端末を経由して前記センサ端末に送信する第2のステップと、
前記センサ端末が、前記第2の保守端末から与えられた前記問合せ結果が前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始を許可しないものであった場合、又は、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知してから一定期間内に前記問合せ結果を受信しなかった場合には、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させないように前記作業者に警告する第3のステップと
を備えることを特徴とする安全確認支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全確認支援システム及び方法に関し、特に、エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する安全確認支援システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレベータ装置では、乗りかごが昇降する昇降路の規模を縮小化すべく、昇降路内の省スペース化が進められている。一方で、昇降路内で保守点検を行う作業者にとっては、作業を行うためのスペースが少なくなるため適切な安全対策が必要となる。
【0003】
この点について、例えば特許文献1には、点検作業者と共同で作業する共同作業者が所有する通信端末に送信する運転確認信号に対応して運転許可信号を送信する通信端末の数が、登録された共同作業者の人数に等しくない場合にはエレベータの保守運転の実施を不能にさせるように制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エスカレータ装置の保守点検作業も、エレベータ装置と同様に、作業者及び共同作業者が協力して行うのが一般的である。
【0006】
しかしながら、多くの場合、エスカレータ装置は、エレベータ装置の昇降路のように閉鎖された空間ではなく、屋外や屋内の開放された場所に設置される。このためエスカレータ装置の保守点検作業時に周辺の環境音によって共同作業者が作業者からの指示又は安全確認を聞き取れない場合や、作業者が環境音を共同作業者からの応答と誤認識することがあり、このような場合に、作業者が不安全な状態でエスカレータ装置を運転又は停止させてしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、エスカレータ装置の保守点検作業の安全性を格段的に向上させ得る安全確認支援システム及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明においては、エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する安全確認支援システムにおいて、前記作業者の動きを検出するセンサ端末と、前記作業者に携帯され、前記センサ端末と通信自在に接続された第1の保守端末と、前記共同作業者に携帯され、前記第1の保守端末と通信自在に接続された第2の保守端末とを設け、前記センサ端末が、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出した場合に、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知し、前記第2の保守端末が、前記所定操作が行われたことを前記センサ端末から通知された場合に、前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始の許否を前記共同作業者に問い合わせ、問合せ結果を前記第1の保守端末を経由して前記センサ端末に送信し、前記センサ端末が、前記第2の保守端末から与えられた前記問合せ結果が前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始を許可しないものであった場合、又は、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知してから一定期間内に前記問合せ結果を受信しなかった場合には、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させないように前記作業者に警告するようにした。
【0009】
また本発明においては、エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する安全確認支援システムにおいて実行される安全確認支援方法であって、前記安全確認支援システムは、前記作業者の動きを検出するセンサ端末と、前記作業者に携帯され、前記センサ端末と通信自在に接続された第1の保守端末と、前記共同作業者に携帯され、前記第1の保守端末と通信自在に接続された第2の保守端末と有し、前記センサ端末が、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作のための一連の行動を前記作業者が行ったことを検出した場合に、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知する第1のステップと、前記第2の保守端末が、前記所定操作が行われたことを前記センサ端末から通知された場合に、前記エスカレータ装置の停止又は稼動の許否を前記共同作業者に問い合わせ、問合せ結果を前記第1の保守端末を経由して前記センサ端末に送信する第2のステップと、前記センサ端末が、前記第2の保守端末から与えられた前記問合せ結果が前記エスカレータ装置の運転の停止又は開始を許可しないものであった場合、又は、前記所定操作が行われたことを前記第1の保守端末を経由して前記第2の保守端末に通知してから一定期間内に前記問合せ結果を受信しなかった場合には、前記エスカレータ装置の運転を停止又は開始させないように前記作業者に警告する第3のステップとを設けるようにした。
【0010】
本発明の安全確認支援システム及び方法によれば、周囲音により作業者及び共同作業者が音声による意思疎通を正しく行えない環境下であっても共同作業者が意図しないタイミングでエスカレータ装置の運転が作業者により停止又は開始されることを有効に防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エスカレータ装置の保守点検作業の安全性を格段的に向上させ得る安全確認支援システム及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態による安全確認支援システムの全体構成を示す概念図である。
【
図2】センサ端末、作業者側保守端末、及び、共同作業者側保守端末の構成例を示すブロック図である。
【
図3】(A)~(C)は、ブザー音発報操作時における加速度信号の説明に供する波形図であり、(D)は、ブザー音発報操作時における音声信号の説明に供する波形図である。
【
図4】安全確認支援処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図5】作業者側保守端末が表示するメッセージの説明に供する図である。
【
図7】(A)及び(B)は、作業者側保守端末が表示するメッセージの説明に供する図である。
【
図8】作業者動作監視処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0014】
(1)本実施の形態による安全確認支援システムの構成
図1において、1は全体として本実施の形態による安全確認支援システムを示す。この安全確認支援システム1は、作業者3が携帯するセンサ端末5及び保守端末(以下、これを作業者側保守端末と呼ぶ)6と、共同作業者4が携帯する保守端末(以下、これを共同作業者側保守端末と呼ぶ)7とから構成される。
【0015】
センサ端末5は、例えば、作業者3の手首に着装する腕時計タイプのウェアラブル装置であり、作業者3の腕(手首)の3軸(x軸、y軸及びz軸)方向の動きを検出したり、周囲音を集音するセンシング機能を備える。またセンサ端末5には、Bluetooth(登録商標)等の所定の近距離通信規格に準拠した近距離通信回線を介して作業者側保守端末6との間で通信を行う近距離通信機能も搭載される。
【0016】
作業者側保守端末6及び共同作業者側保守端末7は、いずれもスマートフォンなどのタブレットから構成される通信端末装置であり、4G又は5GやWi-Fi(Wireless Fidelity)などの所定の遠距離通信規格に準拠した遠距離無線通信回線を介して相互に通信可能な状態に接続される。これら作業者側保守端末6及び共同作業者側保守端末7は、必要時に必要なコマンドや情報をかかる遠距離無線通信回線を介して送受する。
【0017】
図2は、センサ端末5、作業者側保守端末6及び共同作業者側保守端末7の具体的な構成例を示す。この
図2に示すように、センサ端末5は、送受信部10、CPU(Central Processing Unit)11、加速度センサ12、マイクロホン13、スピーカ14、記憶部15及び操作判定部16を備えて構成される。
【0018】
送受信部10は、作業者側保守端末6との通信時におけるプロトコル制御を行う通信装置であり、CPU11は、センサ端末5全体の動作制御を司るプロセッサである。また加速度センサ12は、3軸方向の加速度をそれぞれ検出して各軸方向の加速度信号を出力する3軸加速度センサから構成される。マイクロホン13は、周囲の音を集音する集音装置であり、スピーカ14は必要時に必要な音声メッセージを出力するための音響出力装置である。
【0019】
記憶部15は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性の半導体メモリから構成される。記憶部15には、CPU11が実行する各種プログラムのほか、送受信部10が作業者側保守端末6と通信する際に必要となる当該作業者側保守端末6の通信アドレス17と、モデルデータ18とが格納される。また記憶部15には、加速度センサ12から出力された加速度信号や、マイクロホン13から出力された音声信号のうちの直前の一定期間(例えば1~2分)分が格納される。
【0020】
なおモデルデータ18及び操作判定部16の詳細については後述する。操作判定部16は、専用のハードウェアから構成されていても、また記憶部15に格納された対応するプログラムをCPU11が実行することにより具現化されるソフトウェア構成の機能部であってもよい。
【0021】
作業者側保守端末6は、送受信部20、CPU21、表示部22、記憶部23及びセンサ端末操作部24を備えて構成される。
【0022】
送受信部20は、センサ端末5や共同作業者側保守端末7との通信時におけるプロトコル制御を行う通信装置であり、CPU21は、作業者側保守端末6全体の動作制御を司るプロセッサである。また表示部22は、例えば液晶パネルや有機EL(Electro-Luminescence)パネルなどから構成され、必要な情報を表示するために利用される。
【0023】
記憶部23は、センサ端末5の記憶部15と同様に、フラッシュメモリ等の不揮発性の半導体メモリから構成される。記憶部15には、CPU21が実行する各種プログラムのほか、センサ端末5と通信する際に必要となる当該センサ端末5の対応する近距離通信回線上の通信アドレスと、共同作業者側保守端末7と通信する際に必要となる当該共同作業者側保守端末7の対応する遠距離通信回線上の通信アドレスとが格納される。
【0024】
センサ端末操作部24の詳細については後述する。センサ端末操作部24は、専用のハードウェアから構成されていても、また記憶部23に格納された対応するプログラムをCPU21が実行することにより具現化されるソフトウェア構成の機能部であってもよい。
【0025】
共同作業者側保守端末7は、送受信部30、CPU31、表示部32、スピーカ33、バイブレータ34、記憶部35及び操作許否応答部36を備えて構成される。
【0026】
送受信部30は、作業者側保守端末6との通信時におけるプロトコル制御を行う通信装置であり、CPU31は、共同作業者側保守端末7全体の動作制御を司るプロセッサである。また表示部32は、作業者側保守端末6の表示部22と同様に、例えば液晶パネルや有機ELパネルなどから構成され、必要な情報を表示するために利用される。
【0027】
スピーカ33は、必要時に警告音等を出力するための音響出力装置であり、バイブレータ34は、必要時に共同作業者側保守端末7を振動させる振動装置である。記憶部35は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性の半導体メモリから構成される。記憶部35には、CPU31が実行する各種プログラムのほか、送受信部30が作業者側保守端末6と通信する際に必要となる当該作業者側保守端末6の通信アドレス37が格納される。
【0028】
操作許否応答部36の詳細については後述する。操作許否応答部36は、専用のハードウェアから構成されていても、また記憶部35に格納された対応するプログラムをCPUが実行することにより具現化されるソフトウェア構成の機能部であってもよい。
【0029】
(2)本実施の形態による安全確認支援機能
次に、本安全確認支援システム1に搭載された安全確認支援機能について説明する。この安全確認支援機能は、エスカレータ装置2の保守点検作業時に作業者3及び共同作業者4間で行われる安全確認を支援する機能である。
【0030】
これに際して、まず、本実施の形態のエスカレータ装置2の保守点検作業において、作業者3がエスカレータ装置2を停止させたり、停止中のエスカレータ装置2を稼動させる際の手順について説明する。
【0031】
作業者3は、エスカレータ装置2を保守点検する際、まず、
図1に示す操作キー40をエスカレータ装置2に設けられた運転パネル41のブザースイッチ42の鍵穴(図示せず)に挿入し、操作キー40を時計回り方向に捻ることにより運転パネル41のスピーカ44からブザー音を発報させて周囲に危険を知らせる。また作業者3は、この後、操作キー40を反時計回り方向に回転させて初期位置に戻し、操作キー40をブザースイッチ42の鍵穴から引き抜く。以下においては、このようなブザー音を発報させるための一連の行動からなる操作をブザー音発報操作と呼ぶものとする。
【0032】
次いで、作業者3は、操作キー40をエスカレータ装置2の運転パネル41の運転スイッチ43の鍵穴(図示せず)に挿入して時計回り方向に捻ることによりエスカレータ装置2の踏段2Aを停止させた後、操作キー40を反時計回り方向に回転させて初期位置に戻し、その後、操作キー40を運転スイッチ43の鍵穴から引き抜く。以上により、エスカレータ装置2の運転が停止される。そして作業者3は、この後、エスカレータ装置2の保守点検を開始する。
【0033】
また作業者3は、保守点検作業の終了後、上述のブザー音発報操作を行うことにより運転パネル41のスピーカ44からブザー音を発報させて周囲に危険を知らせる。そして作業者3は、この後、操作キー40を運転パネル41の運転スイッチ43の鍵穴に挿入して反時計回り方向に捻ることによりエスカレータ装置2の踏段2Aを再稼動させた後、操作キー40を時計回り方向に回転させて初期位置に戻し、その後、操作キー40を運転スイッチ43の鍵穴から引き抜く。以上により、エスカレータ装置2の運転が再開される。
【0034】
ここで、
図3(A)~(D)は、エスカレータ装置2の運転を停止又は開始させるに際して作業者3が上述のブザー音発報操作を行ったときに、センサ端末5の加速度センサ12(
図2)が検出する作業者3の腕(手首)の3軸方向の加速度と、このときマイクロホンが集音する周囲音とのモデルパターンを表す。
【0035】
すなわち
図3(A)~(C)は、それぞれブザー音発報操作時に加速度センサ12から出力されるx軸方向(
図3(A))、y軸方向(
図3(B))及びz軸方向(
図3(C))の加速度信号SIG1~SIG3の波形をそれぞれ表し、
図3(D)は、そのときマイクロホン13から出力される音声信号SIG4の波形を表す。
【0036】
なお、
図3では、
図1に示すように、矢印xで示す
図1の右方向をx軸の正方向、矢印yで示す
図1の下方向をy軸の正方向、矢印zで示す
図1の紙面表側から紙面裏側に向かう方向をz軸の正方向としており、さらにエスカレータ装置2の運転パネル41(
図1)では、ブザースイッチ42(
図1)の右側に運転スイッチ43(
図1)が設けられているものとしている。
【0037】
この
図3に示すように、作業者3がブザー音発報操作を行う場合、まず、作業者3が操作キー40をエスカレータ装置2の運転パネル41のブザースイッチ42の鍵穴に挿入すべく屈むために、加速度センサ12がy軸の正方向の加速度を検知する(時刻t0~時刻t1)。
【0038】
次に、作業者3が操作キー40を運転パネル41のブザースイッチ42の鍵穴に挿入する際に加速度センサ12がz軸の正方向の加速度を検知し(時刻t1~時刻t2)、その後、作業者3がブザースイッチ42の鍵穴に挿入した操作キー40を時計回り方向に捻る際に加速度センサ12がx軸の正方向及びy軸の正方向の加速度を検知する(時刻t2~時刻t3)。
【0039】
そして作業者3がブザースイッチ42の鍵穴に挿入した操作キー40を時計回り方向に捻っている間、運転パネル41のスピーカ44からブザー音が発報され、このブザー音をマイクロホン13が集音することにより、ブザー音の発報期間だけ所定の信号レベルに立ち上がる音声信号がマイクロホン13から出力される(時刻t3~時刻t4)。
【0040】
この後、作業者3が操作キー40を反時計回りに捻って初期位置にまで戻す際に加速度センサ12がx軸の負方向及びy軸の負方向の加速度を検知し(時刻t4~時刻t5)、さらに作業者3が操作キー40をブザースイッチ42の鍵穴から引き抜く際に加速度センサ12がz軸の負方向の加速度を検知する(時刻t5~時刻t6)。
【0041】
そして、この後、エスカレータ装置2の運転を停止させるべく作業者3が操作キー40を運転パネル41の運転スイッチ43の鍵穴の位置まで移動させる際に加速度センサ12がx軸の正方向の加速度を検知する(時刻t6~時刻t7)。
【0042】
このように作業者がブザー音発報操作を行う場合、センサ端末5は、加速度センサ12の出力として
図3(A)~(C)のような波形の加速度信号SIG1~SIG3が得られ、マイクロホン13の出力として
図3(D)のような波形の音声信号SIG4が得られることになる。
【0043】
そこで、本安全確認支援システム1の場合、センサ端末5は、マイクロホン13から出力された音声信号SIG4を監視し、当該音声信号SIG4に基づいてブザー音が発報されたことを検知した場合に、そのブザー音の発報期間の前後で加速度センサ12から出力されたx軸方向、y軸方向及びz軸方向の各加速度信号SIG1~SIG3に基づいてブザー音発報操作が行われた否かを判定するようになされている。そしてセンサ端末5は、ブザー音発報操作が行われたと判定した場合には、これを作業者側保守端末6を経由して共同作業者側保守端末7に通知(以下、この通知をブザー音発報操作検出通知と呼ぶ)する。
【0044】
また共同作業者側保守端末7は、かかるブザー音発報操作検出通知を受信した場合、エスカレータ装置2の運転を停止/開始させることの許否を問い合わせるメッセージを表示する。そして共同作業者側保守端末7は、このメッセージに対する共同作業者4(
図1)の問合せ結果を作業者側保守端末6を経由してセンサ端末5に送信する。
【0045】
センサ端末5は、この問合せ結果が不許可であった場合や、かかる問合せ結果を一定時間内に得られなかった場合には、エスカレータ装置2の運転を停止/開始しないように警告するための所定の音声メッセージを出力する。また、このとき作業者側保守端末6は、エスカレータ装置2の運転を停止/開始しないように警告するための所定のメッセージを表示する。
【0046】
以上のような本実施の形態による安全確認支援機能を実現するための手段として、
図1に示すように、センサ端末5には操作判定部16が設けられると共に、当該センサ端末5の記憶部15にはモデルデータ18が格納されている。また作業者側保守端末6にはセンサ端末操作部24が設けられると共に、共同作業者側保守端末7には操作許否応答部36が設けられている。
【0047】
モデルデータ18は、作業者3が上述のブザー音発報操作を行ったときに加速度センサ12が検出するであろうx軸方向、y軸方向及びz軸方向の各加速度のモデル(
図3(A)~(C)について上述した加速度信号SIG1~SIG3のディジタルデータ)と、その際マイクロホン13により集音されるであろう周囲音のモデル(
図3(D)について上述した音声信号SIG4のディジタルデータ)とを表すデータである。なお、センサ端末5が複数パターンのモデルデータ18を記憶部15に保持していてもよい。
【0048】
また操作判定部16は、加速度センサ12から出力されるx軸、y軸及びz軸の各加速度信号SIG1~SIG3及びマイクロホン13から出力される音声信号SIG4と、モデルデータ18とに基づいて、作業者3がブザー音発報操作を行ったときにこれを検知するなどの機能を備える。
【0049】
一方、センサ端末操作部24は、センサ端末5から送信されてきた上述のブザー音発報操作検出通知を共同作業者側保守端末7に転送したり、共同作業者側保守端末7から送信されてきた上述の問合せ結果をセンサ端末5に転送するなどの機能を備える。
【0050】
さらに操作許否応答部36は、かかるブザー音発報操作検出通知が作業者側保守端末6から与えられた場合にエスカレータ装置2の運転の停止/開始の許否を問い合わせる
図6について後述する許否入力画面50を表示し、エスカレータ装置2の運転を停止/開始させることに対する共同作業者4の問合せ結果を作業者側保守端末6に送信する機能を備えている。
【0051】
図4は、安全確認支援機能に関連してこれら操作判定部16、センサ端末操作部24及び操作許否応答部36が連携して行う一連の処理(以下、これを安全確認支援処理と呼ぶ)の流れを示す。
【0052】
この安全確認支援処理では、まず、操作判定部16が、加速度センサ12から出力されるx軸方向、y軸方向及びz軸方向の各加速度信号SIG1~SIG3と、マイクロホン13から出力される音声信号SIG4とに基づいて、作業者3の動作を監視し、作業者3が上述のブザー音発報操作を行ったか否かを判定する作業者動作監視処理を実行する(S1)。
【0053】
具体的に、操作判定部16は、マイクロホン13から出力される音声信号SIG4に基づいてブザー音の発報の有無を監視する。そして操作判定部16は、ブザー音の発報を検知した場合、その前後に加速度センサ12から出力されたx軸方向、y軸方向及びz軸方向の加速度信号SIG1~SIG3と、モデルデータ18(
図2)とを比較することにより、かかるブザー音の発報前に作業者3が
図3について上述した時刻t1~時刻t2、時刻t2~時刻t3及び時刻t3~時刻t4の各動作をこの順番に一定時間内に連続して行い、かつかかるブザー音の発報後に作業者3が
図3について上述した時刻t4~時刻t5、時刻t5~時刻t6及び時刻t6~時刻t7の各動作をこの順番に一定時間内に連続して行ったか否かを判定する。
【0054】
そして操作判定部16は、かかる作業者動作監視処理により作業者3がブザー音発報操作を実行したことを検出した場合には、その旨のブザー音発報操作検出通知を作業者側保守端末6に送信する(S2)。
【0055】
作業者側保守端末6のセンサ端末操作部24は、かかるブザー音発報操作検知通知を受信すると、これを共同作業者側保守端末7に転送する(S3)。なお、このときセンサ端末操作部24が、例えば
図5に示すような共同作業者4からの応答があるまではエスカレータ装置2の運転を停止/開始しないように警告するメッセージを表示部22(
図2)に表示させるようにしてもよい。
【0056】
共同作業者側保守端末7の操作許否応答部36は、かかるブザー音発報操作検知通知を受信すると、ブザー音発報操作検知通知を受信したことを共同作業者4に知らせるための所定の音をスピーカ33から出力させたり、バイブレータ34を起動して共同作業者側保守端末7を振動させる。また操作許否応答部36は、これと併せて、例えば
図6に示すように、エスカレータ装置2の運転を停止(又は開始)しても良いか否かを共同作業者4に問い合わせるメッセージ51と、OKボタン52及びNOボタン53とが表示された許否入力画面50を表示部32(
図2)に表示させる(S4)。
【0057】
そして操作許否応答部36は、この許否入力画面50において共同作業者4によりOKボタン52がタップされた場合には、エスカレータ装置2の運転を停止/開始しても良い旨の応答(以下、これを許可応答と呼ぶ)を作業者側保守端末6に送信する一方、NOボタン53がタップされた場合には、エスカレータ装置2の運転を停止/開始してはいけない旨の応答(以下、これを不許可応答と呼ぶ)を作業者側保守端末6に送信する(S5)。
【0058】
作業者側保守端末6のセンサ端末操作部24は、上述したブザー音発報操作検知通知に対する共同作業者側保守端末7からの応答が許可応答であった場合には、例えば
図7(A)に示すようなメッセージを表示部22(
図2)に表示させると共に(S6)、かかる許可応答をセンサ端末5に転送する(S7)。かくして、センサ端末5の操作判定部16は、この許可応答を受信すると、エスカレータ装置2の運転を停止/開始しても良い旨の音声メッセージをスピーカ14(
図2)から出力させる(S8)。
【0059】
これに対して、センサ端末操作部24は、ブザー音発報操作検知通知に対する共同作業者側保守端末7からの応答が不許可応答であった場合には、例えば
図7(B)に示すようなメッセージを表示部22に表示させると共に(S6)、共同作業者側保守端末7からの不許可応答をセンサ端末5に転送する(S7)。
【0060】
またセンサ端末5の操作判定部16は、かかる不許可応答を受信した場合や、ブザー音発報操作検知通知を作業者側保守端末6に送信してから一定時間内に共同作業者側保守端末7からの応答を受信できなかった場合には、エスカレータ装置2の運転を停止/開始しないように警告する音声メッセージをスピーカ14から出力させる(S8)。
【0061】
なお、上述した
図4のステップS1においてセンサ端末5の操作判定部16により実行される作業者動作監視処理の具体的な処理内容を
図8に示す。操作判定部16は、センサ端末5の電源が投入されるとこの
図8に示す作業者動作監視処理を開始し、まず、マイクロホン13から出力される音声信号SIG4の波形が、モデルデータ18における
図3(D)の時刻t3~時刻t4について上述したブザー音を集音したときの音声信号SIG4の波形と許容範囲内で一致するのを待ち受ける(S10)。
【0062】
そして操作判定部16は、やがて音声信号SIG4の波形が
図3(D)の時刻t3~時刻t4の波形と許容範囲内で一致することによりかかるブザー音が発報されたことを検知すると、そのブザー音が発報された前後に加速度センサ12から出力された加速度信号SIG1~SIG3のサンプリング値と、記憶部15(
図2)に格納されているモデルデータ18(
図2)におけるブザー音が発報された前後の各加速度信号SIG1~SIG3のデータ値とをそれぞれ比較する(S11)。
【0063】
そして操作判定部16は、ステップS11の比較結果に基づいて、ブザー音発報操作が作業者3により行われたか否かを判断する(S12)。この判断は、かかるブザー音が発報された前後に加速度センサ12から出力されたx軸方向、y軸方向及びz軸方向の各加速度信号SIG1~SIG3における、
図3について上述した時刻t0~時刻t1、時刻t1~時刻t2、時刻t2~時刻t3の各波形(サンプリング値)、及び、時刻t4~時刻t5、時刻t5~時刻t6及び時刻t6~時刻t7の各波形(サンプリング値)と、モデルデータ18におけるブザー音が発報された前後の各加速度信号SIG1~SIG3の時刻t0~時刻t1、時刻t1~時刻t2、時刻t2~時刻t3の各波形(データ値)、及び、時刻t4~時刻t5、時刻t5~時刻t6及び時刻t6~時刻t7の各波形(データ値)とがいずれも許容範囲内で一致しているか否かを判定することにより行われる。
【0064】
そして、かかるブザー音が発報された前後に加速度センサ12から出力された各加速度信号SIG1~SIG3のサンプリング値と、モデルデータ18におけるブザー音の前後の各加速度信号SIG1~SIG3のデータ値とが予め設定された許容範囲内において一致していない場合、操作判定部16は、ブザー音発報操作が作業者3により行われていないと判断して、ステップS10に戻り、この後、ステップS10以降の処理を上述と同様に繰り返す。
【0065】
これに対して、かかるブザー音が発生した前後に加速度センサ12から出力された各加速度信号SIG1~SIG3のサンプリング値と、モデルデータ18におけるブザー音の前後の各加速度信号SIG1~SIG3のデータ値とが予め設定された許容範囲内において一致している場合、操作判定部16は、ブザー音発報操作が作業者3により行われたと判断して、その旨を作業者側保守端末6に通知する(S13)。なお、このステップS13の処理は、
図4のステップS2の処理に相当する。そして操作判定部16は、ステップS10に戻り、この後、ステップS10以降の処理を上述と同様に繰り返す。
【0066】
(3)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の安全確認支援システム1では、センサ端末5が、周囲音や作業者3の動作を監視し、ブザー音発報操作を作業者3が行ったことを検出した場合にこれを共同作業者側保守端末7に通知し、共同作業者側保守端末7が、エスカレータ装置2の運転の停止又は開始の許否を共同作業者4に問い合わせてその問合せ結果をセンサ端末5に通知し、当該問合せ結果がエスカレータ装置2の運転の停止又は開始を不許可とするものであった場合や、かかる問合せ結果が一定時間内に得られなかった場合に、センサ端末5がエスカレータ装置2の運転の停止や開始を行わないように作業者3に警告する。
【0067】
従って、本安全確認支援システム1によれば、周囲音により作業者3及び共同作業者4が音声による意思疎通を正しく行えない環境下であっても共同作業者4が意図しないタイミングでエスカレータ装置2の運転が作業者3により停止又は開始されることを有効に防止することができる。従って、本実施の形態によれば、エスカレータ装置2の保守点検作業の安全性を格段的に向上させ得る安全確認支援システムを実現することができる。
【0068】
(4)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、安全確認支援システム1をエスカレータ装置2を対象装置とする保守点検作業時に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エスカレータ装置2以外を対象装置とする保守点検作業時にも広く適用することができる。
【0069】
この場合において、上述の実施の形態においては、対象装置の運転を停止又は開始させる前の所定操作がブザー音を発報させるブザー音発報操作である場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その対象装置に応じた操作であればよい。
【0070】
また上述の実施の形態においては、センサ端末5が作業者側保守端末6を経由して共同作業者側保守端末7にブザー音発報操作検出通知を送信するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、センサ端末5が直接共同作業者側保守端末7にブザー音発報操作検出通知を送信するようにしてもよい。
【0071】
さらに上述の実施の形態においては、センサ端末5が、加速度センサ12から出力される3軸方向の加速度信号SIG1~SIG3に基づいて作業者3の動作を検出し、作業者3がブザー音発報操作を行った場合にこれを検出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、センサ端末5を、ビデオカメラなどの撮像装置と、その撮像画像を画像認識する画像認識装置などにより構成し、センサ端末5が、画像認識処理により作業者3がブザー音発報操作を行った場合にこれを検出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、エスカレータ装置の保守点検作業時に行われる作業者及び共同作業者間の安全確認を支援する種々の安全確認支援システムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1……安全確認支援システム、2……エスカレータ装置、3……作業者、4……共同作業者、5……センサ端末、6……保守端末(作業者側保守端末)、7……保守端末(共同作業者側保守端末)、16……操作判定部、24……センサ端末操作部、36……操作許否応答部、40……操作キー、41……運転パネル、42……ブザースイッチ、43……運転スイッチ、50……許否入力画面、SIG1~SIG3……加速度信号、SIG4……音声信号。