IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関東電化工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-五フッ化リンの製造方法 図1
  • 特許-五フッ化リンの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】五フッ化リンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/10 20060101AFI20220518BHJP
【FI】
C01B25/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019505998
(86)(22)【出願日】2018-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2018009462
(87)【国際公開番号】W WO2018168752
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2017047045
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝川 剛
(72)【発明者】
【氏名】片山 慎介
(72)【発明者】
【氏名】大前 理
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-062259(JP,A)
【文献】特開平05-279003(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102757027(CN,A)
【文献】特開平10-245211(JP,A)
【文献】特表2002-519294(JP,A)
【文献】特開2012-126621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三塩化リン及び塩素をこれらよりも大過剰の無水フッ化水素液体と混合して反応させて五フッ化リンを生じさせる五フッ化リンの製造方法であって、
無水フッ化水素の量が、該フッ化水素と混合させる三塩化リン1モルに対して20モル以上であり、無水フッ化水素の量は、該フッ化水素と混合させる塩素1モルに対しても20モル以上であり、
フッ化水素と三塩化リン及び塩素とを混合させて五フッ化リンを生成させる際の反応温度が-10℃以上19℃以下であり、
五フッ化リンの生成により生じた反応熱を、フッ化水素の蒸発潜熱により除去しつつ、無水フッ化水素の液面の低下量に応じたフッ化水素量を供給する、五フッ化リンの製造方法。
【請求項2】
前記無水フッ化水素液体を循環させ、その状態下で三塩化リン及び塩素を該無水フッ化水素液体と混合する、請求項1に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項3】
前記無水フッ化水素液体を循環経路において循環させる、請求項2に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項4】
前記無水フッ化水素液体を反応槽内において攪拌して循環させる、請求項2に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項5】
蒸発したフッ化水素を冷却して液化させ、液化物を前記無水フッ化水素液体に合流させる 、請求項1~4の何れか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項6】
五フッ化リンの生成反応が、-10kPaG以上50kPaG以下の条件で行われる、請求項1~5の何れか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項7】
使用する塩素の量が、三塩化リンに対して塩素当量で0.18当量以上1.20当量以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項8】
前記無水フッ化水素液体に三塩化リン及び塩素を連続的に投入する、請求項1~7の何れか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五フッ化リンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
五フッ化リン(PF)は、各種ヘキサフルオロリン酸塩、中でも特に、リチウム電池、リチウムイオン二次電池等の電解質として用いられる六フッ化リン酸リチウムの原料として有用な物質である。また、五フッ化リンは、有機合成反応の触媒や半導体材料のドーピング剤としても用いられている。
【0003】
五フッ化リンの製造方法として、特許文献1には、五塩化リン(PCl)をHF薬液中に添加してPFを合成する方法が記載されている。この方法では、吸湿性が高い固体であるためにハンドリング性に難点があるPClを連続的かつ定量的にHF薬液中に添加する必要があり、反応の制御が難しかった。
【0004】
また、特許文献2には、三塩化リン(PCl)とHFとを反応させて、PFガスを生成させ(第一フッ素化工程)、生成したPFガスとClガスとを反応させて、ガス状のPFClを生成させ(塩素化工程)、更にPFClとHFとを反応させてPFを生成させる(第二フッ素化工程)方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-175216号公報
【文献】特開平11-171517号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法は多段階の工程が必要となるため、反応に必要な装置が大掛かりとなり、生産工程も複雑になるため、製造コストも高額となる。
【0007】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消しうる五フッ化リンの製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、三塩化リン及び塩素に対し大過剰の無水フッ化水素液体を用い、これらの混合により生じる反応の反応熱によりフッ化水素を蒸発させることで、安全かつ安定的に五フッ化リンを製造できることを知見した。
【0009】
本発明はこの知見に基づくものであり、三塩化リン及び塩素をこれらよりも大過剰の無水フッ化水素液体と混合して反応させて五フッ化リンを生じさせる五フッ化リンの製造方法であって、
五フッ化リンの生成により生じた反応熱を、フッ化水素の蒸発潜熱により除去する、五フッ化リンの製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の製造方法に用いる装置の一例である。
図2図2は、本発明の製造方法に用いる装置の別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の五フッ化リンの製造方法(以下、単に「本製造方法」ともいう)を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0012】
本製造方法では、リン源として、三塩化リン(PCl)を使用する。三塩化リンは、室温で液体である。このため 固体の五塩化リン(PCl)を用いる場合に比べて取り扱い易く、禁水状態での取り扱いも容易で加水分解を容易に抑制できるため、最終製品の純度の安定化が可能となる。また、三塩化リンは安価で高純度品が入手し易い。
【0013】
本製造方法では、酸化剤として塩素を使用する。塩素は安価で入手しやすい。塩素は反応装置に投入する際に、気体であっても液体であってもかまわない。本製造方法において、塩素は気体として反応装置に投入された場合、通常、気体の状態で無水フッ化水素と混合されて三塩化リンと反応する。また塩素は、液体として反応装置に投入された場合、塩素を気体として反応装置に投入された場合と同様、三塩化リンと反応しうる。
【0014】
本製造方法で使用するフッ化水素は無水フッ化水素である。無水フッ化水素における水分は、通常、質量基準で1000ppm以下であり、好ましくは600ppm以下である。
【0015】
本製造方法では、三塩化リン及び塩素に対して大過剰の無水フッ化水素を使用する。三塩化リン、塩素及びフッ化水素を反応させて五フッ化リンを生成させる反応の反応式は、下記の通りであるが、この反応は大量の反応熱が発生する。本製造方法では大過剰の無水フッ化水素が液媒として働き、反応熱が生成しても無水フッ化水素が気化して、無水フッ化水素液体から蒸発潜熱分の反応熱量を奪うことにより、無水フッ化水素液体中の反応熱が除かれる。これにより、反応中の反応液の温度が安定しているため、簡便な反応工程により安全に五フッ化リンを製造することができる。
【0016】
PCl+Cl+5HF→PF+5HCl
【0017】
本明細書でいう大過剰とは、無水フッ化水素の量が、該フッ化水素と混合させる三塩化リン1モルに対して20モル以上であることが好ましい。無水フッ化水素は更に、該フッ化水素と混合させる塩素1モルに対しても20モル以上であることが好ましい。運転安定性の点から、無水フッ化水素の量は、該フッ化水素と混合させる三塩化リン1モルに対して80モル以上であることがより好ましく、200モル以上であることが特に好ましく、400モル以上が一層好ましい。更に、該フッ化水素と混合させる塩素1モルに対しても20モル以上であることが好ましく、80モル以上であることがより好ましく、200モル以上であることが特に好ましく、400モル以上が一層好ましい。
ここでいうフッ化水素と混合させる三塩化リン及び塩素の量とは、後述するように、反応装置に仕込んだ無水フッ化水素に三塩化リン及び塩素を添加する場合には、これらの添加量を指す。
【0018】
大過剰の無水フッ化水素と三塩化リン及び塩素とを混合させる際には無水フッ化水素を三塩化リン及び塩素に添加してもよく、無水フッ化水素に三塩化リン及び塩素を添加してもよいが、安全性や温度の安定性等の点から、無水フッ化水素に三塩化リン及び塩素を添加することが好ましい。無水フッ化水素に三塩化リン及び塩素を添加する場合、大過剰の無水フッ化水素液体に対し、三塩化リン及び塩素は同時に添加してもよく、三塩化リン及び塩素の何れか一方を先に添加してもよい。反応効率を高め、副生物の生成を防止する観点から、本製造方法において使用する塩素の量は、三塩化リン1モルに対して塩素当量で0.18モル以上1.20モル以下であることが好ましく、0.50モル以上1.10モル以下であることがより好ましく、0.80モル以上1.05モル以下であることが更に好ましい。
【0019】
大過剰の無水フッ化水素液体に対し、三塩化リン及び塩素は連続的に投入してもよく、断続的に投入してもよく、一回にまとめて投入してもよい。三塩化リン及び塩素は連続的に投入することが、フッ化水素と混合しやすく、反応効率を高めるために好ましい。ここでいう連続的とは、好ましくは例えば10秒間以上の間、好ましくは1分間以上の間、0.1g/秒以上で添加を継続することをいう。
【0020】
フッ化水素と三塩化リン及び塩素とを混合させて五フッ化リンを生成させる際の反応温度は-10℃以上とすることが、フッ化水素と三塩化リン及び塩素との反応効率を高めるために好ましい。一方、前記の反応温度は19℃以下とすることがフッ化水素の液体状態を維持して反応中の温度安定性を得やすいために好ましい。これらの観点から、五フッ化リンの生成反応の反応温度は、-10℃以上19℃以下であることが好ましく、-5℃以上15℃以下であることがより好ましい。ここでいう反応温度とは、大過剰の無水フッ化水素に三塩化リン及び塩素を添加し混合する際における該無水フッ化水素液体の温度である。
【0021】
五フッ化リンの生成反応は、-10kPaG以上50kPaG以下の圧力下で行うことが、反応効率を高める点やフッ化水素の蒸発量を制御する点から好ましい。この観点から、より好ましくは、五フッ化リンの生成反応は、-5kPaG以上30kPaG以下の圧力下で行うことが好ましく、更に好ましくは、0kPaG以上20kPaG以下の圧力下で行うことが好ましい。
【0022】
本反応は、バッチ式反応装置で行ってもよく、連続式反応装置で行ってもよい。通常、反応装置は耐腐食性の部材で構成される。
【0023】
大過剰の無水フッ化水素液体は、これを循環させた状態で、三塩化リン及び塩素を該無水フッ化水素液体と混合することが、温度安定性や反応の均一化を図る点などから好ましい。
循環させた状態とは、一回りして元の位置に帰ることを繰り返す状態を指す。
無水フッ化水素液体を循環させる方法としては、無水フッ化水素液体を反応槽内において攪拌して循環させる方法、及び、無水フッ化水素液体を循環経路において循環させる方法が挙げられる。ここでいう循環経路とは、ある位置から始まり、当該位置に帰還する経路であり、例えば環状、U字状やC字状といった形状の管を設けることにより形成される。U字状やC字状の管はその両端部が、同じ一つの貯留槽に接続するか、又は互いに連通する2以上の異なる貯留槽にそれぞれ接続することで循環経路を形成できる。循環経路を構成する貯留槽を循環貯留槽ともいう。
【0024】
本製造方法では、気化した無水フッ化水素を捕集した上で冷却し、液化した上で、液化物を、反応装置における無水フッ化水素液体と合流させることが好ましい。このようにすることで、反応装置内の無水フッ化水素液体の量が大きく変化することを抑制できる。また冷却したフッ化水素を大過剰の無水フッ化水素液体に戻すことで、このフッ化水素液体の温度をより一層低下させやすく、反応温度のコントロールがしやすい。また、五フッ化リンの生成反応に伴い生じる気相にはフッ化水素以外に、反応生成物である五フッ化リン及び塩化水素が含まれるが、五フッ化リン及び塩化水素はフッ化水素よりも沸点が大幅に低い。このため、気相中においてフッ化水素のみを液化しやすく、この液化によりフッ化水素を目的物である五フッ化リンから容易に分離できる。
【0025】
以下では、本製造方法を、五フッ化リンの製造装置に係る図に基づき更に詳述する。
図1に示す反応装置10は、無水フッ化水素の循環を、反応槽20の中における無水フッ化水素液体を攪拌することにより行うものである。
【0026】
図1の反応装置10においては、反応槽20内に無水フッ化水素が仕込まれている。反応槽20内には、回転モータ17に接続した回転軸18と、回転軸18に固定された攪拌翼19とが設けられている。攪拌翼19は所要量の無水フッ化水素中に位置する高さに固定されている。この反応装置10は、回転モータ17の回転により、攪拌翼19が回転軸18周りに回転すると、この回転に伴い反応槽20内の無水フッ化水素液体が回転軸18周りに流動するようになされている。この回転軸18周りの流動が、無水フッ化水素の循環に該当する。攪拌翼19の種類は、一般的なパドル翼、タービン翼、アンカー翼を始め、様々な攪拌翼を使用でき、特に限定しない。回転軸18の回転速度は例えば10rpm以上3000rpm以下が挙げられる。
【0027】
図1には、反応槽20内に三塩化リンを流入させる導入経路11と塩素を流入させる導入経路12とがそれぞれ設けられている。図1の各経路11、12、13、34、36、37は管状部材により構成される。図1に示す例では、2つの導入経路11及び12は、それぞれ無水フッ化水素液体の液面8よりも下まで延びている。
【0028】
更に図1に示す反応装置10には、反応槽20に貯留された無水フッ化水素の液中から発生する気体を無水フッ化水素液体の外に導出する気体導出経路34が設けられている。この気体導出経路34の途中には、前記経路34中の気体を冷却可能な熱交換器35が設けられている。熱交換器35は、適当な冷媒と、前記経路34中の気体との間で熱交換をさせるものであり、前記経路34中の気体をフッ化水素の沸点(19.5℃)未満、且つ、五フッ化リンの沸点(-84.8℃)以上に冷却可能である。なお、本製造方法における副生物である塩化水素の沸点は-85.1°Cであるからこの範囲での温度であれば通常、塩化水素が液化することはない。好ましい冷却温度は-80℃以上-10℃以下である。気体導出経路34は熱交換器35の下流において、液体帰還経路36と、気体排出経路37とに分離している。液体帰還経路36は熱交換器35により冷却されて生じた液体を、反応槽20内に戻すものであり、また気体排出経路37は冷却後の気体を反応系外に排出する。
【0029】
更に、反応装置10には、無水フッ化水素を反応槽20に導入するための導入経路13が設けられている。反応装置10には、反応槽20中の無水フッ化水素の液面8の高さを測定するセンサ(不図示)が設けられており、センサは不図示の制御機能と接続している。制御機能はセンサにより無水フッ化水素の液面8が低くなったことを検出した場合に、この低下量に対応したフッ化水素量を算出し、液面8の低下量に対応する量を供給するように無水フッ化水素の導入経路13を開閉操作するバルブ(不図示)を制御することができる。このように、反応槽20における無水フッ化水素の液量を一定に制御することが好ましい。
【0030】
以上の構成を有する反応装置10において、五フッ化リンを製造する場合には、まず、回転モータ17を回転させて回転軸18及び攪拌翼19を回転させ、反応槽20中に無水フッ化水素液体を回転軸18周りに流動させて、無水フッ化水素を反応槽20中に循環させる。この状態下において、三塩化リン導入経路11及び塩素導入経路12により、三塩化リン及び塩素を大過剰の無水フッ化水素中に導入して、無水フッ化水素と混合させる。これにより、ガス状の五フッ化リン及びガス状の塩化水素が生じるとともに、五フッ化リンの生成反応の反応熱によりフッ化水素が気化する。その蒸発潜熱により反応熱を除去するため、無水フッ化水素液体中の温度が一定に保たれる。気化したフッ化水素は、五フッ化リン及び塩素と混合された状態で、気体導出経路34に導かれて熱交換器35に到達する。熱交換器35に到達したフッ化水素は、冷却され、液体帰還経路36を通じて反応槽20に戻され、大過剰の無水フッ化水素液体と合流する。一方、五フッ化リン及び塩化水素の混合気体は気体排出経路37により系外に排出される。五フッ化リン及び塩化水素の混合気体から五フッ化リンを単離することは、蒸留等の公知の分離方法により行うことができる。
【0031】
以上の通り、本製造方法では、大過剰の無水フッ化水素液体を用いることで、温度安定性及び安全性を確保しながら非常に簡便な方法で五フッ化リンを製造できる。
【0032】
次に、攪拌式の代わりに循環経路を用いて五フッ化リンを製造する場合の本製造方法の例を、図2に基づき説明する。図2の各経路13、31、41、42、34、36、37は管状部材により構成される。図2において図1と同様の構成を有するものは、図1と同様の符号を付して説明を省略する。
【0033】
図2に示す反応装置10’は、攪拌翼等を有しない代わりに、無水フッ化水素を循環させるための循環用経路31を有している。循環用経路31は、一箇所が欠損した環状の管状をしている。ここでいう一箇所が欠損した環状の形状はC字状と呼ばれることもある。循環用経路31はその両端、具体的には、吸い込み側の端部31a及び吐き出し側端部31bが何れも、無水フッ化水素が貯留及び循環される循環貯留槽30と接続している。ここでいう無水フッ化水素が循環貯留槽30において循環されるとは、循環貯留槽30内において無水フッ化水素が攪拌されることを意味するのではなく、循環貯留槽30内の無水フッ化水素が循環用経路31を通って循環されることを意味する。しかしながら、循環貯留槽30において無水フッ化水素を攪拌してもよい。このような構成により、循環貯留槽30及び循環用経路31が、図2に示す形態における循環経路29を構成している。無水フッ化水素液体の循環中、反応装置10’に存在する無水フッ化水素液体総量の80体積%以上が循環貯留槽30中に存在するようになされていることが、反応温度の安定性等の点から好ましい。
反応装置10’には、循環用経路31の途中に循環の動力を与える循環ポンプ32が設けられている。これにより、反応装置10’においては、循環用経路31の吸い込み側端部31aにおいて、循環貯留槽30から無水フッ化水素液体を吸い込み、吐き出し側端部31bにおいて、循環貯留槽30中に無水フッ化水素液体を吐き出すようになされている。また循環用経路31における循環ポンプ32の下流には、三塩化リンの導入経路41及び塩素の導入経路42が接続しており、無水フッ化水素の循環用経路31中に三塩化リン及び塩素を導入可能になされている。図2においては無水フッ化水素の循環用経路31において、三塩化リンの導入経路41が塩素の導入経路42よりも上流側に接続するようになされているが、接続方法はこれに限定されない。
なお、図2の反応装置10’においては、気体導出経路34は、循環貯留槽30における無水フッ化水素液体中から気体を導出するように設けられている。また、図2の反応装置10’においては、循環用経路31とは別に、循環貯留槽30に無水フッ化水素を導入するための導入経路13が設けられている。この導入経路13を用いても図1における液面8の高さに基づく制御と同様の制御を行うことができる。
【0034】
以上の構成の図2の反応装置10’により五フッ化リンを製造する際には、循環ポンプ32を稼働し、循環貯留槽30及び循環用経路31において、無水フッ化水素液体を循環させ、この状態下において三塩化リン及び塩素を無水フッ化水素中に導入して、無水フッ化水素と混合させる。図2に示す反応装置10’による製造方法によっても、図1に示す装置を用いた方法と同様に、簡便な装置にて五フッ化リンを安全かつ効率よく製造でき、装置を小型化しながら大量生産が可能となる。
【0035】
更に図2に示す方法によれば、三塩化リン及び塩素の導入箇所(導入経路41及び42)の下流側に位置する循環貯留槽30における無水フッ化水素の存在量とは別に無水フッ化水素の循環量を調整することができるので、反応速度の制御がより一層容易であり、このためにより一層安全に反応を進行させることができる。
【0036】
図2の反応装置10’においては、循環用経路31による1分当たりの循環量は、反応装置10’に当初仕込んだ無水フッ化水素液体量の5体積%以上70体積%以下であることが、大過剰の無水フッ化水素を循環用経路31により循環させることによる反応効率向上の効果を得やすい点や、反応制御が行いやすい点から好ましい。また、反応効率を向上させ、また反応制御を行いやすい点から、循環経路29(循環用経路31又は循環貯留槽30)に1分あたり流入させる三塩化リンの量は、前記の1分当たりの無水フッ化水素の循環量に対して、0.001モル%以上1.0モル%以下であることが好ましい。同様の理由から、循環経路29(循環用経路31又は循環貯留槽30)に1分あたり流入させる塩素の量は、前記の1分当たりの無水フッ化水素の循環量に対して、0.001モル%以上1.0モル%以下であることが好ましい。
【0037】
以上の反応装置10及び10’の構成材料、特に上記の各経路及び反応槽や循環貯留槽の構成材料としてはフッ化水素の腐食作用に対して抵抗力がある材料が挙げられ、特にフッ化水素に対して耐腐食性のある金属が好ましく、当該金属としては例えば、ハステロイ、インコネル、モネル、ステンレス鋼、鉄鋼等が挙げられる。
【0038】
以上の通り、好ましい実施形態に基づき本製造方法を説明したが、本製造方法はこれに限定されない。例えば、反応熱により気化したフッ化水素は液化せずにそのまま系外に排出してもよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0040】
〔実施例1〕
図1に示す、反応装置10を用いた。反応装置10はフッ化水素に対して耐腐食性のある金属から構成されるものであった。
反応装置10の反応槽20内に無水フッ化水素液体 30kgを仕込み、回転モータ17に接続した回転軸18と、回転軸18に固定された攪拌翼19を使用し、回転軸18及び攪拌翼19を 100rpmで回転させることにより、反応槽20内の無水フッ化水素液体を循環させた。三塩化リン液体 1860g及び塩素ガス 1020gをそれぞれ60分間かけて反応槽20に連続的に一定速度で投入し、0.5kPaGの圧力下にて無水フッ化水素と反応させた。反応熱によりフッ化水素(HF)の一部が気化し、生成物である五フッ化リン(PF)及び副生物である塩化水素(HCl)とともに、気体導出経路34により熱交換器35に導出され、熱交換器35により-30℃に冷却された。これにより気化したフッ化水素(HF)は冷却されて、液化して、液化物が反応槽20に戻され、反応槽20中の無水フッ化水素液体と合流した。一方、五フッ化リン(PF)及び塩化水素(HCl)は気相として回収された。三塩化リン投入量に対する、五フッ化リン(PF)の回収量は、97モル%であった。また反応装置10の運転中、液面8の高さが一定となるようにフッ化水素(HF)流入量が制御されており、反応槽20における無水フッ化水素液体の温度は、6℃付近で一定となった。
【0041】
〔実施例2〕
図2に示す反応装置10’を用いた。反応装置10’はフッ化水素に対して耐腐食性のある金属から構成されるものであった。
反応装置10’の循環貯留槽30に無水フッ化水素液体 940kgを仕込み、ポンプ32を使用し、循環用経路31内に無水フッ化水素液体を循環させた。更に、無水フッ化水素液体を1分当たりの循環量が、反応装置10’に当初仕込んだ無水フッ化水素液体量の50体積%となるようにした。無水フッ化水素液体の循環中、反応装置10’に存在する無水フッ化水素液体総量の80体積%以上が循環貯留槽30中に存在していた。三塩化リン液体 6440g及び塩素ガス 3210gをそれぞれ100分間かけて循環貯留槽30に連続的に一定速度で投入し、3kPaGの圧力下にて無水フッ化水素と反応させた。反応熱によりフッ化水素(HF)の一部が気化し、生成物である五フッ化リン(PF)及び副生物である塩化水素(HCl)とともに、気体導出経路34により熱交換器35に導出され、熱交換器35により-30℃に冷却された。これにより気化したフッ化水素(HF)は冷却されて、液化して、循環貯留槽30に戻された。一方、五フッ化リン(PF)及び塩化水素(HCl)は気相として回収された。三塩化リン投入量に対する、五フッ化リン(PF)の回収量は、96モル%であった。また反応装置10’の運転中、液面8の高さが一定となるようにフッ化水素(HF)流入量が制御されており、循環貯留槽30における無水フッ化水素液体の温度は、10℃付近で一定となった。
【0042】
以上より、本発明の製造方法によれば、簡便な装置にて五フッ化リンを安全に且つ安定的に五フッ化リンを製造できることが判る。従って、本発明の製造方法によれば、装置を小型化しながら五フッ化リンの大量生産を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の五フッ化リンの製造方法は、安価で入手しやすい原料を用い簡便な反応装置で、安全に且つ容易に五フッ化リンを大量生産することができる。
図1
図2