(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】グリース組成物及びこれを塗布した摺動部材
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20220518BHJP
C10M 169/00 20060101ALI20220518BHJP
C10M 107/38 20060101ALN20220518BHJP
C10M 105/54 20060101ALN20220518BHJP
C10M 119/22 20060101ALN20220518BHJP
C10M 143/00 20060101ALN20220518BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220518BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220518BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20220518BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20220518BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220518BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220518BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220518BHJP
F16C 33/10 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M169/00
C10M107/38
C10M105/54
C10M119/22
C10M143/00
C10N20:02
C10N50:10
C10N20:04
C10N20:06 Z
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 Z
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2019521965
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2018010074
(87)【国際公開番号】W WO2018220945
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017105792
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-008818(JP,A)
【文献】特開平07-173483(JP,A)
【文献】特開2012-236935(JP,A)
【文献】特許第6122191(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/02
C10M 119/22
C10M 107/38
C10M 105/54
F16C 33/10
C10N 20/02
C10N 50/10
C10N 20/04
C10N 20/06
C10N 40/02
C10N 30/06
C10N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)40℃における動粘度が2~110mm
2/秒である、下記一般式(1)
RfO(CF
2CF
2O)
m(CF
2O)
nRf (1)
(式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、m、nはそれぞれ0以上の整数であり、mとnの和は30~190であり、CF
2CF
2O基およびCF
2O基は主鎖中にランダムに結合されている)で表わされるパーフルオロポリエーテル、
(B)40℃における動粘度が2~100mm
2/秒である、下記一般式(2)
RfO(CF(CF
3)CF
2O)
p(CF
2O)
rRf (2)
(式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、pは正の数であり、rは0
より大きい数であり、pとrの和は5~50であり、CF(CF
3)CF
2O基およびCF
2O基は主鎖中にランダムに結合されている)で表わされるパーフルオロポリエーテル、および
(C)一次粒子径が1μm以下であるフッ素樹脂粉末
を含有するグリース組成物であって、フッ素樹脂粉末の含有量がグリース組成物重量を基準として25~40重量%であり、パーフルオロポリエーテル(A)とパーフルオロポリエーテル(B)の重量比が15:85~70:30である、グリース組成物。
【請求項2】
さらに、(D)粘度平均分子量50万~700万のポリオレフィン粒子であって、粒子径が10~200μmの範囲にあるものを、グリース組成物重量を基準として1.5~10重量%の範囲で含有する、請求項1のグリース組成物。
【請求項3】
一般式(1)中のm/nが1以上であり、一般式(2)中のp/
rが10以上である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂粉末が乳化重合によって得られたものである、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項5】
摺動面に請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物を塗布した摺動部材であって、グリース組成物の油膜厚さが0.2μm以上である、摺動部材。
【請求項6】
-40℃~200℃の温度範囲で作動する、請求項5に記載の摺動部材。
【請求項7】
自動車または産業機械の部品として用いられる、請求項5に記載の摺動部材。
【請求項8】
摺動部材が、回転摺動部材である、請求項5記載の摺動部材。
【請求項9】
金属部材、樹脂部材またはこれらの組み合わせからなる回転摺動部材であって、その摺動面に0.25~0.50μmの油膜厚さの請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物からなる潤滑皮膜を供えた、回転摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や産業機械で用いられる摺動部材、及びこれに用いられるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気機器、情報機器、建設機械、産業機械、工作機械などの各種機械の摺動部には、その潤滑性を向上するために、通常グリースが用いられている。これらのうちでも、自動車の部品に関しては、夜間温度が零下数十度となる寒冷地での極低温での使用から、夏場の炎天下にさらされた際の高温下における使用まで、広い温度範囲で良好に作動することが求められる。さらに近年は、自動車室内の静寂性を高める観点から、自動車の内部構造は、遮音性が高くなるような設計がなされ、自動車部品の作動音を遮断することが行われている。しかし、自動車室内に用いる部品に関しては、その部品自体の作動音を可能なかぎり下げる必要があった。
【0003】
パーフルオロポリエーテルは、その優れた熱安定性、低揮発性、耐腐食性、低反応性などから、各種機械の摺動部材用のグリースとして好適である。特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、広い温度範囲での作動性を改善するなどの目的で、主鎖構造の異なる二種類のパーフルオロポリエーテルを混合して用いる方法が提案されている。しかし、これらの文献で実際に用いられているパーフルオロポリエーテルは、その粘度について規定がないか、または粘度の高いものが用いられている。粘度の高いパーフルオロポリエーテルが用いられた場合は、極低温での作動性が悪く、自動車用途などの極低温での良好な作動性が求められる用途においては問題があった。また、これらの文献には、自動車室内部品に用いられる場合などに求められる、作動音の低減方法については開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-147380号公報
【文献】特開2013-53318号公報
【文献】特許6122191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、極低温から高温までの広い温度範囲での作動性が良好であり、また作動音が低減された摺動部材及びこれに用いるグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、分子構造が異なり、それぞれ特定の粘度範囲を有する二種類のパーフルオロポリエーテルに、特定量のフッ素樹脂粉末を添加したグリース組成物が上記問題点を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様は、(A)40℃における動粘度が2~110mm2/秒である、一般式(1):RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf(式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、m、nはそれぞれ0以上の整数であり、mとnの和は30~190であり、CF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合されている)で表わされるパーフルオロポリエーテル、(B)40℃における動粘度が2~100mm2/秒である、一般式(2):RfO(CF(CF3)CF2O)p(CF2O)rRf(式中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、pは正の数であり、rは0以上の数であり、pとrの和は5~50であり、CF(CF3)CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合されている)で表わされるパーフルオロポリエーテル、および(C)一次粒子径が1μm以下であるフッ素樹脂粉末を含有するグリース組成物であって、フッ素樹脂粉末の含有量がグリース組成物重量を基準として25~40重量%であり、パーフルオロポリエーテル(A)とパーフルオロポリエーテル(B)の重量比が15:85~70:30である、グリース組成物である。上記グリース組成物は、さらに、(D)粘度平均分子量50万~700万のポリオレフィン粒子であって粒子径が10~200μmの範囲にあるものを、グリース組成物重量を基準として1.5~10重量%の範囲で含有することが好ましい。
【0008】
本発明の第二の態様は、摺動面に前記グリース組成物を塗布した摺動部材であって、グリース組成物の油膜厚さが0.2μm以上である、摺動部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温から高温までの広い温度範囲での作動性が良好で、かつ作動音が低減された摺動部材及びこれに用いるグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
パーフルオロポリエーテル(A):
本発明の第一の態様であるグリース組成物に用いられる(A)成分は、40℃における動粘度が2~110mm2/秒である、一般式(1)で表わされるパーフルオロポリエーテルである。
RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf (1)
【0011】
一般式(1)中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、例としてトリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基が挙げられる。好ましくは、Rfはトリフルオロメチル基である。
【0012】
一般式(1)中、m、nはそれぞれ0以上の整数である。mとnの和は30~190である。m、nの比(m/n)は、好ましくは1以上である。なお、一般式(1)において、CF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合されている。
【0013】
パーフルオロポリエーテル(B):
本発明のグリース組成物に用いられる(B)成分は、40℃における動粘度が2~100mm2/秒である、下記一般式(2)で表わされるパーフルオロポリエーテルである。
RfO(CF(CF3)CF2O)p(CF2O)rRf (2)
【0014】
一般式(2)中、Rfは炭素数1~4のパーフルオロ低級アルキル基であり、具体的には上記一般式(1)の項において述べたものと同様である。
【0015】
一般式(2)中、pは正の数であり、rは0以上の数であり、pとrの和は5~50である。p、rの比は、好ましくは10以上であるなお、一般式(2)において、CF(CF3)CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合されている。また、pが正の数であるので、一般式(2)において、分岐単位は必ず含まれる。
【0016】
パーフルオロポリエーテル(A)とパーフルオロポリエーテル(B)の重量比は、15:85~70:30である。パーフルオロポリエーテル(A)の重量比が上記範囲よりも低い場合は、低温での作動性が悪くなる。一方でパーフルオロポリエ-テル(B)の重量比が上記範囲よりも低い場合は、得られたグリース組成物を塗布した際に目的とする厚みを得ることができず、作動音を低減することができない。パーフルオロポリエーテル(A)とパーフルオロポリエーテル(B)の重量比は、好ましくは20:80~70:30、さらに好ましくは25:75~65:35である。
【0017】
フッ素樹脂粉末:
本発明のグリース組成物に用いられる(C)成分は、一次粒子径が1μm以下であるフッ素樹脂粉末である。フッ素樹脂粉末としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルキレン樹脂などが用いられる。これらのうちでも、PTFEが好ましい。フッ素樹脂粉末は、それぞれの単量体を乳化重合、懸濁重合、溶液重合などの方法によって重合して得られるが、本発明では、乳化重合によって得られたフッ素樹脂粉末が好ましい。乳化重合で得られたフッ素樹脂粉末は比表面積が大きく吸油量も大きくなるため、グリース組成物中で分離しにくく、安定なグリース組成物が得られるためである。フッ素樹脂粉末の平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000である。フッ素樹脂粉末の平均分子量は、示差走査熱量分析あるいは、粘弾性やメルトフローレート測定で得られた値から計算することができる。
【0018】
フッ素樹脂粉末の一次粒子径は、1μm以下、好ましくは0.5μm以下である。フッ素樹脂粉末の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0019】
フッ素樹脂粉末の含有量は、グリース組成物重量を基準として25~40重量%であり、好ましくは30~40重量%である。フッ素樹脂粉末の含有量が25重量%未満であると、得られたグリース組成物が柔らか過ぎて、作動音が大きくなる。一方でフッ素樹脂粉末の含有量が40重量%より多いと、得られたグリース組成物が硬過ぎて、低温時の作動性が悪くなる。
【0020】
本発明のグリース組成物は、さらに、潤滑性能(特にトルク)を維持しつつ、回転等の摺動に伴って発生する音に対する静音性および消音性の改善のために、(D)粘度平均分子量50万~700万のポリオレフィン粒子であって粒子径が10~200μmの範囲にあるものを、グリース組成物重量を基準として1.5~10重量%の範囲で含有することが好ましい。ポリオレフィン粒子の粘度平均分子量は、好ましくは100万~500万であり、さらに好ましくは100万~300万である。ポリオレフィン粒子の粘度平均分子量が50万未満であると、グリースの耐熱性が低下する場合がる。一方で粘度平均分子量が700万より大きいと耐衝撃性が著しく悪化し始めるため静音性および消音性が改善されない。
尚、本発明における粘度平均分子量は、JIS K7367に従って測定することができ、ポリオレフィン粒子を溶媒に溶かした溶液の極限粘度を測定し、次に示す式により粘度平均分子量を求めることができる。
【0021】
極限溶液粘度=係数(K)×粘度平均分子量α
(Kおよびαは定数である)。
【0022】
また、ポリオレフィン粒子の粒子径(一次粒子径)は、平均粒子径が10~200μmであり、好ましくは10~50μm、さらに好ましくは10~30μmである。平均粒子径はSEM観察により測定した値であるが、コールターカウンタなどを用いて測定することもできる。ポリオレフィン粒子の平均粒子径が10μm以下であると摺動部材間の距離が小さくなり静音性および消音性の改善がされにくい。一方、平均粒子径が200μmを超えるとグリースが流動しにくくなるため潤滑性能(特にトルク)が低下する場合がある。ポリオレフィンの具体例としてはポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられるが、適度な硬度を持つ点からポリエチレンが好ましい。また、ポリオレフィンの含有量は、グリース組成物重量を基準として1.5~10重量%の範囲であり、好ましくは1.5~7.5重量%、さらに好ましくは1.7~5.0重量%の範囲である。含有量が1.5重量%未満だと、技術的効果特に静音性が実現できない場合がある。含有量が10重量%を超えると、増粘により取扱作業性、トルクの増加等の潤滑性の低下およびグリースの耐熱性が低下する場合がある。
【0023】
本発明のグリース組成物は、上記(A)乃至(D)成分のほか、従来より公知の他の成分、例えば固体粒子、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、基油拡散防止剤、腐食防止剤、金属不活性剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。また、それら通常の添加剤以外に、合成、再生、天然の各種繊維物や、ゴムダスト、カシューダスト等の粘着物質を加えることもできる。
【0024】
固体粒子としては、本発明にかかるグリース組成物に所望の機能を付与する成分である。固体粒子の種類は特に制限されるものではないが、補強性充填剤;増稠剤;耐摩耗剤;顔料;色材;紫外線吸収剤;熱伝導性充填剤;導電性充填剤;絶縁材等の機能性粒子が例示される。なお、一部の粒子は、複数の機能性粒子として配合することができる。
【0025】
酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2、6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニチアジン等のアミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0026】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0027】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等が挙げられる。
【0028】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはこれらのエステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド等が挙げられる。
【0029】
基油拡散防止剤としては、シリコーン油、フッ素系シラン化合物、末端をアルコール、エステルなどで変性したパーフルオロポリエーテル油、アクリル系ブロック共重合体等が挙げられる。
【0030】
本発明のグリース組成物のちょう度は、好ましくは250~350、さらに好ましくは265~310である。グリース組成物のちょう度は、JIS K2220に規定される方法によって測定することができる。
【0031】
本発明のグリース組成物は、従来より公知の方法によって調整することができる。
【0032】
本発明のグリース組成物は、ゴム部材、樹脂部材、金属部材セラミックス等からなる摺動部材の表面に塗布することで潤滑皮膜を形成することができる。好適には、金属部材、樹脂部材またはこれらの組み合わせからなる摺動部材、特に、部材の円周方向への回転運動を伴う回転摺動部材に適用することができ、このような運動を行う摺動部材の摩擦を効率よく低減できる。
【0033】
本発明の第二の態様は、摺動面に前記グリース組成物を塗布した摺動部材であって、グリース組成物の油膜厚さが0.2μm以上である、摺動部材である。グリース組成物の油膜厚さが0.2μm以上であると、摺動部材の作動音を低減することができる。グリース組成物の油膜厚さは、好ましくは0.25μm以上である。グリース組成物の油膜厚さは、特開2009-007562号公報に記載されているように、EHL試験機を用い、光干渉法によって測定することができる。本発明のグリース組成物は、0.2μm以上の油膜厚さ、すなわち、厚塗りが可能であるので、その油膜厚さの上限は特に制限されるものではないが、実用上、1.0μm以下であってよく、0.5μm以下としてもよい。特に、回転摺動部材に適用する場合、0.25~0.50μmの範囲が好適である。
【0034】
摺動部材の材質としては、金属、プラスチック、ゴム及びこれらの組み合わせがある。プラスチック製摺動部材としては、ドアパネル、インストルメントパネル、ドアロック、ギア、ベルトテンショナー、定着ベルト、加圧ベルト、パッド、その他自動車用、複写機用、プリンター用等の摺動部材;タイミングベルト、コンベアベルト、サンルーフ用ボディシール、グラスラン、ウェザーストリップ、オイルシール、パッキン、ワイパーブレード、ドクターブレード、帯電ローラー、現像ローラー、トナー供給ローラー、転写ローラー、ヒートローラー、加圧ローラー、クリーニングブレード、給紙ローラー、搬送ローラー、ドクターブレード、中間転写ベルト、中間転写ドラム、ヒートベルト等が例示される。金属製摺動部材としては電磁弁、電動バルブ、クランクシャフト、コンプレッサーシャフト、スライドベアリング、ギア、オイルポンプギア、ピストン、ピストンリング、ピストンピン、ガスケット、ドアロック、ガイドレール、シートベルトバックル、ブレーキパッド、ブレーキパッドクリップ、ブレーキシム、ブレーキインシュレーター、ヒンジ、ネジ、加圧パッド、エアシリンダー、電動シリンダー、電動アクチュエーター、その他自動車用、複写機用、プリンター用、および産業機械用(半導体製造装置および発光デバイス/ディスプレイ製造装置を含む)等の摺動部材等が例示される。ゴム製摺動部材としてはタイミングベルト、コンベアベルト、サンルーフ用ボディシール、グラスラン、ウェザーストリップ、オイルシール、パッキン、ワイパーブレード、ドクターブレード、帯電ローラー、現像ローラー、トナー供給ローラー、転写ローラー、ヒートローラー、加圧ローラー、クリーニングブレード、給紙ローラー、搬送ローラー、ドクターブレード、中間転写ベルト、中間転写ドラム、ヒートベルト、その他自動車用、複写機用、プリンター用、および産業機械用等の駆動部材、摺動部材、搬送部等が例示される。摺動部材の形態も特に限定されるものではなく、例えば、繊維状のもの又は繊維を含有するものであってもよい。繊維状摺動部材又は繊維を含有する摺動部材としては、例えば、車両用シート、カーペット、タイヤコード、シートベルト等が挙げられる。
【0035】
本発明のグリース組成物を適用した部材の用途としては、何ら制約はなく、例えば、家電、船舶、鉄道、航空機、機械(産業用生産装置を含む)、構造物、自動車補修、自動車、建築、建材、繊維、皮革、文房具、木工、家具、雑貨、鋼板、缶、電子基板、電子部品、印刷等の用途に用いることができる。これらの中でも、本発明のグリース組成物は、その性質から特に自動車および産業機械の用途に有用である。
【0036】
本発明のグリース組成物は、-40℃~200℃の温度範囲で良好に作動することができる点が特徴である。特に、-40℃でのトルクを減少させない点で、本発明のグリース組成物は極低温での作動が必要な自動車や産業機械向けの用途に最適である。さらに、追加の(D)成分を一定量添加することにより、潤滑性および耐熱性および低温動作性を実質的に損なうことなく、回転音を抑制し、高い静音化を実現できる利点がある。
【0037】
本発明の摺動部材としては、特に回転摺動部材が好ましい。回転摺動部材としては、ロータリーシャフト、軸受、ギア、各種ベルト、各種ヒートローラー、ステアリングロールコネクターなどが挙げられるが上記に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1~4及び比較例1~5
各成分を表1に示す割合(重量部)で均一に混合し、三本ロールミルで混練し、脱泡を行いグリース組成物を得た。実施例1~4及び比較例1~5にて用いられた各成分は、以下の通りである。
【0040】
A1:フォンブリン(Fomblin)M15(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製):40℃の動粘度 85mm2/秒
A2:フォンブリンM30(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製):40℃の動粘度 159mm2/秒
B1:フォンブリンY25(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製):40℃の動粘度 80mm2/秒
B2:フォンブリンY15(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製):40℃の動粘度 56mm2/秒
B3:フォンブリンY45(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製):40℃の動粘度 147mm2/秒
C1:ゾニール(Zonyl) TLP-10F-1(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製):一次粒子径0.1~0.3μm
C2:ルブロン(Lubron) L-2(ダイキン工業株式会社製):一次粒子径0.2~0.4μm
D:粘度平均分子量約200万、SEM観察法による平均粒子径22μmのポリエチレンパウダー(SEMは日本電子(株)製 JSM-6010LAを用い、200倍で観察した)
【0041】
【0042】
得られたグリース組成物について、混和ちょう度、油膜厚さ、-40℃でのトルク、蒸発量を分析し、結果を表1に併記する。なお、各種試験方法については以下の通りである。
【0043】
混和ちょう度:混和ちょう度は、JIS K2220 7に規定された方法で測定した1/2スケールでの測定結果である。
―40℃のトルク:直径25mmのパラレルプレートを用いて、アントンパール社製回転式レオメータMCR302を用いて測定した。ギャップを0.2mm、温度を-40℃に設定し、85rpmで6秒間回転させたときのトルクの平均値である。
蒸発量:蒸発量は、SAE AS8660に規定された方法で、100℃で24時間試験した結果である。
油膜厚さ:特開2009-007562号公報に記載されているようなEHL試験機を用い、光干渉法により測定した結果である。試験条件は下記のとおりである。
鋼球:材質SUJ-2、直径25.4mm
ディスク:硬質ガラスの表面にクロムコーティングしたもの
速度:0.001から1.0m/sで測定し0.1m/sの油膜厚さを測定(100%転がり)、試料温度:25℃、荷重:4N(ヘルツ圧:160MPa)
作動音:前述の-40℃でのトルクの測定した際に、異音の発生状況を確認した。なお判定基準は次の通りである。◎:10秒間以上異音の発生なし ○:6秒間異音の発生なし、△:6秒間の一部で異音の発生あり、×:6秒間の大部分で異音の発生あり。