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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】容量が調節可能なピペット
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20220518BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20220518BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B01L3/02 D
F16H25/20 E
F16H3/089
【請求項の数】 19
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020136605
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2021030227
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】19 191 903.4
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505404725
【氏名又は名称】エッペンドルフ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】ピーター モリトル
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン テッシュ
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/060331(WO,A1)
【文献】特開2010-089082(JP,A)
【文献】特開平07-185361(JP,A)
【文献】特表2004-509731(JP,A)
【文献】特開2011-115759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0083969(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0014696(US,A1)
【文献】米国特許第05531131(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
F16H 25/20
F16H 3/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量を調節することができるピペットであって、
・棒状のハウジング(2)と、
・前記ハウジング(2)の下端にピペット先端部(8)を解放可能に保持する少なくとも1つの座(7)と、
・前記ハウジング(2)内に固定して配置され、内部を変位可能である変位要素(12)を有する変位チャンバ(9)を備えている変位装置と、
・前記変位チャンバ(9)を前記座(7)の開口部(11)へと接続する接続チャネル(10)と、
・下端において前記変位要素(12)に結合し、前記ハウジング(2)内で長手方向に変位可能な、前記変位要素(12)を前記変位チャンバ(9)内で変位させるためのストロークロッド(17)と、
・前記ストロークロッド(17)の上端に接続され、前記ハウジング(2)から突出する制御ボタン(18)と、
・前記ストロークロッド(17)の外周のストッパ要素(26)と、
・前記ストロークロッド(17)を案内する中央スピンドル孔(19)を有し、前記ストッパ要素(26)のための上部ストッパ(25)を下部に有するねじスピンドル(20)と、
・前記ハウジング(2)内の固定された位置に配置され、前記ねじスピンドル(20)が雄ねじ(21)によって螺合する雌ねじ(22)と、
・前記上部ストッパ(25)の下方に前記上部ストッパ(25)から離れて配置された前記ストッパ要素(26)のための下部ストッパ(58)と、
・前記ハウジング(2)内に回転可能に取り付けられ、前記ねじスピンドル(20)の少なくとも1つのキャッチ(27)が係合する長手方向に延びる少なくとも1つの溝(29)を内周に有しているキャッチスリーブ(30)と、
・前記キャッチスリーブ(30)の回転を検出するように設計および配置された容量の表示用のカウンタ(45)と、
・前記ハウジング(2)内に回転可能に取り付けられた調節スリーブ(32)と、
・前記ハウジングの外部からアクセス可能であり、前記調節スリーブ(32)へと接続された調節要素(33)と、
・前記ハウジング内に回転可能に取り付けられ、前記調節スリーブ(32)および前記キャッチスリーブ(30)に平行であるトランスデューサシャフト(39)と
を備えており、
前記調節スリーブ(32)は、入力シャフトを有し、前記キャッチスリーブ(30)は、出力シャフトを有し、前記トランスデューサシャフト(39)は、前記ハウジング(2)の外部からアクセス可能なシフト要素(65)を備えるシフト装置(64)を有しているスパーギアボックス(62)として設計されたギアボックス(63)のカウンタシャフトを有し、前記ギアボックス(63)は、前記シフト要素(65)を操作することによって、前記調節スリーブ(32)の回転速度と前記キャッチスリーブ(30)の回転速度との間のギア比が異なる種々のシフト段を切り替えるように設計されている、ピペット。
【請求項2】
前記調節スリーブ(32)または前記キャッチスリーブ(30)は、異なる直径を有する複数の歯(34、35)を外周に有し、前記トランスデューサシャフト(39)は、異なる直径を有する複数の歯(41、42)を有し、前記シフト装置(64)は、歯(34、35;41、42)の種々のペアによる種々のシフト段にて、前記トランスデューサシャフト(39)を前記調節スリーブ(32)またはキャッチスリーブ(30)に接続するように設計されている、請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
前記キャッチスリーブ(30)は、第1の歯(31)を外周に有し、前記調節スリーブ(32)は、外周の第2の歯(34)と、前記第2の歯の上方の第3の歯(35)とを有し、前記第2の歯(34)は、前記第3の歯(35)とは異なる直径を有し、前記トランスデューサシャフト(39)は、前記第1の歯(31)と噛み合う第4の歯(40)と、前記第4の歯(40)の上方の第5の歯(41)と、前記第5の歯(41)の上方の第6の歯(42)とを有し、前記第5の歯(41)および前記第6の歯(42)は、異なる直径を有し、前記シフト装置は、選択的に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)に噛み合わせると同時に、前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)から外し、または前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)に噛み合わせると同時に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)から外すことで、前記調節スリーブ(32)および前記トランスデューサシャフト(39)を互いに対して軸方向に変位させるように設計されており、前記調節スリーブ(32)の回転速度と前記キャッチスリーブ(30)の回転速度との間の伝達比を変更できる、請求項1または2に記載のピペット。
【請求項4】
前記第4の歯(40)は、前記第5の歯(41)と同じ直径および同じ数の歯を有する、請求項3に記載のピペット。
【請求項5】
前記第1の歯(31)および前記第2の歯(34)は、同じ数の歯および同じ直径を有する、請求項4に記載のピペット。
【請求項6】
前記第1の歯(31)および前記第2の歯(34)は、異なる数の歯および同じ直径を有する、請求項4に記載のピペット。
【請求項7】
前記第4の歯(40)および前記第5の歯(41)は、異なる直径を有する、請求項3に記載のピペット。
【請求項8】
前記カウンタ(45)は、前記キャッチスリーブ(30)の外周上の第1の歯(31)に係合する駆動歯車(47)を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項9】
前記調節スリーブ(32)は、前記キャッチスリーブ(30)へと押し込まれる、請求項1~8のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項10】
前記シフト装置(64)は、前記調節スリーブ(32)を前記ハウジング(2)に対して軸方向に変位させて、選択的に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)に噛み合わせると同時に、前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)から外し、または前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)に噛み合わせると同時に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)から外すように設計されている、請求項~9のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項11】
前記シフト装置(64)は、前記トランスデューサシャフト(39)を前記ハウジング(2)に対して軸方向に変位させて、選択的に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)に噛み合わせると同時に、前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)から外し、または前記第3の歯(35)を前記第6の歯(42)に噛み合わせると同時に、前記第2の歯(34)を前記第5の歯(41)から外すように設計されている、請求項~10のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項12】
前記ハウジング(2)内に支えられ、前記ストロークロッド(17)または前記変位要素(12)に当接し、前記制御ボタン(18)が前記ストッパ要素(26)によって放されているときに、前記ストロークロッド(17)を前記上部ストッパ(25)に接触した状態に保持する第1のばね装置(15)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項13】
前記シフト装置(64)を特定のシフト段へと調節する優先位置の調節のための装置を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項14】
前記装置は、第2のばね装置の優先位置を調節するための装置である、請求項13に記載のピペット。
【請求項15】
前記トランスデューサシャフト(39)は、前記調節スリーブ(32)と前記カウンタ(45)との間の空き空間に配置される、請求項1~14のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項16】
前記カウンタ(45)は、前記調節スリーブ(32)に平行な回転軸を有するカウンタローラ(51)を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項17】
前記調節要素は、前記調節スリーブ(32)の上端の調節リング(33)である、請求項1~16のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項18】
前記調節スリーブ(32)は、前記ハウジング(2)内で軸方向に変位可能であり、前記シフト要素(65)は、前記調節スリーブ(32)の上端に配置される、請求項1~17のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項19】
前記制御ボタン(18)および前記調節スリーブ(32)は、共同回転用の接続のための装置によって共同回転するように接続され、前記制御ボタン(18)が同時に前記調節スリーブ(32)を調節するための前記調節要素でもあるように、軸方向に互いに対して変位可能であるように互いに接続される、請求項1~16のいずれか一項に記載のピペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量を調節することができるピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
ピペットは、とくには実験室において液体の分注に使用される。この目的のために、ピペット先端部が、その上端によって、ピペットの座にしっかりと固定される。座は、一般に、ピペットのハウジングに対する円錐形または円筒形の突出部であり、ピペット先端部をその管状の本体の上部開口部によって固定することができる。ピペット先端部は、その管状の本体の下部開口部を通して液体を吸い上げたり、送出したりすることができる。空気置換式ピペットは、座の開口部を介して連通するピペット先端部に接続された空気の変位装置を備える。液体がピペット先端部へと吸い込まれ、さらにピペット先端部から排出されるように、空気バッファが変位装置によって動かされる。これを達成するために、変位装置は、変位可能な変位要素を備えた変位チャンバを有する。変位装置は、典型的には、変位可能なピストンが内部に配置されたシリンダである。
【0003】
使用後に、ピペット先端部は、座から取り外され、新しいピペット先端部と交換される。これにより、後の分注における液体の移入による汚染を防止することができる。一般に、ピペットは、ピペット先端部を把持することなくボタンを操作することによって、ピペット先端部を排出できるようにする排出装置を有する。単回使用のピペット先端部は、通常は、プラスチックからなる。
【0004】
プランジャが、シリンダ内でプランジャを移動させるように機能する駆動装置に連結される。駆動装置は、ストッパ要素によって上部ストッパと下部ストッパとの間を移動することができるストロークロッドを有する。シリンダへの空気の吸い上げの開始時に、ストッパ要素は下部ストッパに位置している。シリンダからの空気の排出の開始時に、ストッパ要素は上部ストッパに位置している。吸引および放出される液体の量は、上部ストッパと下部ストッパとの間のストロークロッドの行程に依存する。
【0005】
容量固定のピペットにおいては、上部ストッパと下部ストッパとの間の距離が不変である。容量を調節することができるピペットにおいては、上部ストッパの位置が変更可能である。既知のピペットは、ハウジング内に固定して配置されたスピンドルナットにおいて調節することができるねじスピンドルの下部側に上部ストッパを有する。ねじスピンドルを調節するために、調節装置が利用可能であり、調節装置は、カウンタの形態で調節後の容量を表示するための表示装置に連結される。
【0006】
独国特許第4335863号明細書(特許文献1)および米国特許第5,531,131号(特許文献2)が、操作ボタンがハウジングの上部から突出しているピペットを記載しており、操作ボタンは、下端においてプランジャへと接続されたストロークロッドの上端に接続されている。ストロークロッドは、ねじスピンドルおよび下部ストッパの通過チャネルを通って案内される。外向きに突出するビードの形態のストッパが存在し、ねじスピンドルの下部に位置する上部ストッパと下部ストッパとの間のストロークロッドの移動を制限する。復帰ばねの力に逆らって操作要素を押し込むことにより、プランジャは、ストッパ要素が下部ストッパに当接するまで、シリンダの奥深くに移動する。操作要素が放されると、プランジャは、復帰ばねの作用の結果として、ストッパ要素がねじスピンドルに当接するホーム位置に復帰する。ねじスピンドルを調節するための調節装置は、ハウジング内に回転可能に取り付けられ、上部においてハウジングから突出する調節スリーブを有し、調節スリーブにおいて、操作ボタンが軸方向に変位可能である。調節スリーブは、その内周の軸方向の溝と、ねじスピンドルの上端から半径方向に突出するキャッチとによって、ねじスピンドルと一緒に回転するように接続されている。調節スリーブを回転させることにより、上部ストッパを備えたねじスピンドル、したがって容量を、調節することができる。調節スリーブは、カウンタの平歯車への共通のシャフト上の2つの結合平歯車へと結合装置によってはまり合いにて結合する平歯車を下端に有している。シフト装置によって、2つの結合平歯車が取り付けられているシャフトを変位させて、結合装置を切り離すことができる。これにより、ピペットを工場において較正することができる。
【0007】
欧州特許第1743701号(特許文献3)および米国特許第8,133,453号(特許文献4)が、シリンダに対して下部ストッパを保持するホルダの位置を調節するための調節装置と、ホルダの位置を表示するための表示装置とをさらに有する上述の形式のピペットを記載している。これにより、較正の変更および工場での較正の復元がユーザにとってより容易になる。
【0008】
国際公開特許第01/61308号(特許文献5)が、容量の微調節のためにプランジャロッドに回転不能に結合したねじロッドを有する手動調節式のピペットを記載しており、このネジロッドは、ハウジング内に回転不能に配置されたナットにおいて変位可能である。プランジャの上端位置において、プランジャロッド上のフランジ要素が、ねじスピンドルの下側に当接する。容量の迅速な調節のために、プランジャロッドは、スピンドルナットを下部に有する軸方向に変位可能なスリーブによって案内される。ロック機構が、ロック位置においてスリーブの軸方向の変位を防止し、ロックが解除されると、迅速な調節のためにスリーブを解放する。調節後の容量は、プランジャロッドの位置を検出する位置センサによって確認される。プランジャユニットは、上端に制御ボタンを有し、制御ボタンによって容量の微調節ならびにピペット先端部による液体の吸引および排出のどちらも制御される。したがって、ピペット操作の最中に容量が変更される可能性がある。さらに、機械部品および電子部品に鑑みて、ピペットが複雑である。
【0009】
米国公開特許第2019/0083969号(特許文献6)および米国公開特許第2019/0083970号(特許文献7)が、ピペットの容量を迅速に調節する機構を記載している。1つの種類の設計は、入力シャフトおよび出力シャフトを備える遊星歯車が配置されるピペットのハウジングに挿入されるフレームを有する。モードセレクタが、遊星歯車の入力に接続される。モードセレクタを、入力シャフトの回転によって遊星歯車の出力シャフトの1:1の比率での回転が生じるように遊星歯車が切り離される直接駆動位置と、入力シャフトの回転によって出力シャフトの倍速での回転が生じるように遊星歯車が係合する速度増幅位置との間で変位させることができる。別の種類の設計は、ピペットのハウジングへと挿入されるキャリアを有し、キャリア上には、入力シャフトと、出力シャフトと、これに平行なシャフトと、入力シャフト上の平歯車と、これと噛み合う平行シャフト上の平歯車と、出力シャフト上の平歯車と、これと噛み合う平行シャフト上の平歯車と、入力シャフト上および出力シャフト上の2つの平歯車とこれに平行なシャフト上の2つの平歯車との間のドグクラッチとを有する歯車列が存在する。入力シャフトと出力シャフトとを結合させることにより、入力シャフトの回転が1:1の比率で出力シャフトの回転に変換される直接駆動が実現される。他のドグクラッチを係合させることにより、入力の回転によって倍速での出力の回転が生じる増速状態が実現される。欠点は、構造的にきわめて複雑であり、この迅速な調節の機構が、ねじスピンドルの上方においてピペットのハウジング内の長手方向部分を占めるがゆえに、大きな空間が必要になることである。さらに、分注速度の調節が、直接駆動モードにおいて入力シャフトの速度が出力シャフトの速度と同じであるという点で、制限される。
【0010】
上述の欠点は、欧州特許第2329885号(特許文献8)による遊星歯車でのピペットの迅速な調節においても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許第4335863号明細書
【文献】米国特許第5,531,131号
【文献】欧州特許第1743701号
【文献】米国特許第8,133,453号
【文献】国際公開特許第01/61308号
【文献】米国公開特許第2019/0083969号
【文献】米国公開特許第2019/0083970号
【文献】欧州特許第2329885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この背景に対して、本発明の目的は、容量の微調節および容量の迅速な調節を可能にするピペットであって、構造的にあまり複雑でなく、空間をあまり必要としないピペットを創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴を備えたピペットによって達成される。ピペットの好都合な実施形態が、従属請求項に明記される。
【0014】
本発明によれば、容量を調節することができるピペットであって、
・棒状のハウジングと、
・ハウジングの下端にピペット先端部を解放可能に保持する少なくとも1つの座と、
・ハウジング内に固定して配置され、内部を変位可能である変位要素を有する変位チャンバを備えている変位装置と、
・変位チャンバを座の開口部へと接続する接続チャネルと、
・下端において変位要素に結合し、ハウジング内で長手方向に変位可能な、変位要素を変位チャンバ内で変位させるためのストロークロッドと、
・ストロークロッドの上端に接続され、ハウジングから突出する制御ボタンと、
・ストロークロッドの外周のストッパ要素と、
・ストロークロッドを案内する中央スピンドル孔を有し、ストッパ要素のための上部ストッパを下部に有するねじスピンドルと、
・ハウジング内の固定された位置に配置され、ねじスピンドルが雄ねじによって螺合する雌ねじと、
・上部ストッパの下方に上部ストッパから離れて配置されたストッパ要素のための下部ストッパと、
・ハウジング内に回転可能に取り付けられ、ねじスピンドルの少なくとも1つのキャッチが係合する長手方向に延びる少なくとも1つの溝を内周に有しているキャッチスリーブと、
・キャッチスリーブの回転を検出するように設計および配置された容量の表示用のカウンタと、
・ハウジング内に回転可能に取り付けられた調節スリーブと、
・ハウジングの外部からアクセス可能であり、調節スリーブへと接続された調節要素と、
・ハウジング内に回転可能に取り付けられ、調節スリーブおよびキャッチスリーブに平行であるトランスデューサシャフトと
を備えており、
調節スリーブは、入力シャフトを有し、キャッチスリーブは、出力シャフトを有し、トランスデューサシャフトは、ハウジングの外部からアクセス可能なシフト要素を備えるシフト装置を有しているスパーギアボックスとして設計されたギアボックスのカウンタシャフトを有し、ギアボックスは、シフト要素を操作することによって、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間のギア比が異なる種々のシフト段を切り替えるように設計されている。
【0015】
容量を調節するために、ねじスピンドルと一緒に回転するように接続され、上端にてハウジングから突出する上述の先行技術からなる調節スリーブの代わりに、本発明によるピペットは、ねじスピンドルと一緒に回転するように接続されたキャッチスリーブと、キャッチスリーブとは別個であり、容量を調節するようにハウジング内に回転可能に取り付けられた調節スリーブとを有する。調節スリーブは、ドライブシャフトを形成し、キャッチスリーブは、ギアボックスとして設計された平歯車のドライブシャフトを形成する。これは、調節スリーブおよびキャッチスリーブに平行に配置されたカウンタシャフトとして機能するトランスデューサシャフトをさらに有する。ギアボックスは、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間のさまざまなギア比(伝達比)を有するさまざまなシフト段を切り替えることができるシフト装置を備える。切り替えのために、シフト装置は、ハウジングの外部からアクセスすることができるシフト要素を有する。どのシフト段が選択されているかに応じて、調節スリーブの回転速度が同じでも、キャッチスリーブ、ひいてはねじスピンドルを、より高速または低速で回転させることができる。キャッチスリーブの回転が、カウンタによって検出および表示される。したがって、容量の調節を2つの異なる速度レベルで実行することが可能である。速い速度レベルは、容量の大まかではあるが迅速な調節を可能にし、遅い速度レベルは、調節プロセスの終わりにおいて容量を容易かつ精密に調節することを可能にする。調節機構の構造的な複雑さがわずかであることは、スパーギアボックスの入力シャフトおよび出力シャフトが、これまで使用されていた調節スリーブと置き換えられ、追加の構成要素として追加されるのではないため、有利である。別の利点は、キャッチスリーブと調節スリーブとを調節機構に統合できるため、必要とされる空間が小さいことである。キャッチスリーブがねじスピンドルを受け入れ、調節スリーブをキャッチスリーブへと押し込むことができる。結果として、調節機構のためにピペットのハウジング内に追加の長手方向部分を用意する必要がない。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、調節スリーブまたはキャッチスリーブは、異なる直径を有する複数の歯を外周に有し、トランスデューサシャフトは、異なる直径を有する複数の歯を有し、シフト装置は、歯の種々のペアによる種々のシフト段にて、トランスデューサシャフトを調節スリーブまたはキャッチスリーブに接続するように設計される。この実施形態において、さまざまなシフト段での回転がトランスデューサシャフトによって伝達される。この実施形態は、1:1未満の伝達比を可能にする。結果として、入力シャフトおよび出力シャフトが直接ギアにおいて互いに直接接続され、カウンタシャフトによる回転の伝達が存在しないギアボックスと比べて、最大の伝達比と最小の伝達比との間の比率(広がり)がより大きいギアボックスを設計することができる。別の実施形態によれば、ギアボックスは、1:1の伝達比を有する直接ギアへの切り替えが不可能であるように設計される。これにより、構造的な複雑さを軽減することができる。
【0017】
「歯の直径」は、その中間点が2つの噛み合う平歯車の中間点内にあり、2つの平歯車のピッチ点において互いに接触するピッチシリンダまたはピッチ円の直径であると理解される。ピッチ円は、ピッチ円上の2つのフランクの間の距離(ピッチp)が標準化されたモジュールm=p:πによって決定されるときの分割円に対応する。
【0018】
別の実施形態によれば、シフト装置は、調節スリーブおよびトランスデューサスリーブ、またはトランスデューサスリーブおよびキャッチスリーブを、互いに対して軸方向に変位させるように設計される。この実施形態によれば、調節スリーブ、トランスデューサシャフト、およびキャッチスリーブの構成要素のうちの少なくとも1つを、ハウジング内で軸方向に変位させることができる。別の実施形態によれば、シフト装置は、調節スリーブ、トランスデューサシャフト、およびキャッチスリーブの構成要素のうちの少なくとも1つに結合し、これらの構成要素のうちの2つを互いに対して軸方向に変位させる追加の装置である。別の実施形態によれば、調節スリーブまたはトランスデューサスリーブまたはキャッチスリーブは、同時にシフト装置またはシフト装置の構成要素でもある。この実施形態において、調節スリーブまたはトランスデューサシャフトまたはキャッチスリーブは、ギアボックスの種々のシフト段の切り替えのために、シフト装置またはシフト装置の構成要素として同時に使用される。
【0019】
別の実施形態によれば、ギアボックスは、直接ギアを有する。この実施形態において、ギアボックスは、入力シャフトが出力シャフトに直接接続されるシフト段を有する。別のシフト段において、入力シャフトの回転運動がトランスデューサシャフトを介して出力シャフトに伝達される。
【0020】
別の実施形態によれば、ギアボックスは、2つ以上のシフト段を備えるように設計される。この目的で、調節スリーブおよびトランスデューサシャフトに追加の歯を配置することができる。2つ以上のシフト段を備えたギアボックスは、直接ギアを持たないギアボックスまたは直接ギアを有するギアボックスであってもよい。
【0021】
別の実施形態によれば、キャッチスリーブは、第1の歯を外周に有し、調節スリーブは、外周の第2の歯と、第2の歯の上方の第3の歯とを有し、第2の歯は、第3の歯とは異なる直径を有し、トランスデューサシャフトは、第1の歯と噛み合う第4の歯と、第4の歯の上方の第5の歯と、第5の歯の上方の第6の歯とを有し、第5の歯および第6の歯は、異なる直径を有し、シフト装置は、選択的に、第2の歯を第5の歯に噛み合わせると同時に、第3の歯を第6の歯から外し、または第3の歯を第6の歯に噛み合わせると同時に、第2の歯を第5の歯から外すことで、調節スリーブおよびトランスデューサシャフトを互いに対して軸方向に変位させるように設計されており、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間の伝達比を変更できる。この場合、第1の歯が、キャッチスリーブと一緒に回転するように接続され、第2および第3の歯が、調節スリーブと一緒に回転するように接続され、第4、第5、および第6の歯が、トランスデューサシャフトと一緒に回転するように接続される。この実施形態においては、調節スリーブの歯が、異なるシフト段においてトランスデューサシャフトの歯と係合する。シフト段に応じて、歯の異なるペアが互いに係合する。トランスデューサシャフトの回転は、追加の歯によってキャッチスリーブに伝達される。これにより、調節スリーブとキャッチスリーブとの間、したがってねじスリーブとカウンタとの間に、異なる伝達比が生成される。速度レベルは、調節スリーブ上の異なる直径を有する歯およびトランスデューサシャフト上の異なる直径を有する歯によって決まる。調節スリーブおよびトランスデューサシャフトの歯のどのペアが係合しているかに応じて、ねじスピンドルは、より迅速に回転し、またはよりゆっくりと回転する。別の実施形態によれば、ギアボックスは、1:1の伝達比を有する直接ギアへの切り替えが不可能であるように設計される。
【0022】
別の実施形態によれば、第4の歯は、第5の歯と同じ直径および同じ数の歯を有する。この実施形態において、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間の伝達比は、第2の歯が第1の歯と同じ数の歯および同じ直径を有し、第2の歯が第5の歯に係合しているとき、1:1である。
【0023】
別の実施形態によれば、第4の歯は、同時に第5の歯でもある。この実施形態において、第4の歯および第5の歯は、単一の歯へと組み合わせられる。結果として、第4の歯および第5の歯は、同じ直径および同じ数の歯を有する。第4の歯は、第1の歯と恒久的に係合し、第2の歯も、第5の歯も形成する第4の歯と係合させることができる。第4の歯が第1の歯および第2の歯と同時に係合するように、それらはトランスデューサシャフトの充分な長さについて形成される。別の実施形態によれば、第4の歯と第5の歯とは、異なる歯である。第4の歯および第5の歯は、互いに離れて配置されてもよく、または互いに直接隣接し、互いに対して周方向のオフセットを有することができる。
【0024】
別の実施形態によれば、第4の歯と第5の歯とは、異なる直径を有する。第4の歯および第5の歯は、互いに離れて配置されてもよく、または互いに直接隣接でき、第4の歯と第5の歯との間に段が形成される。第4の歯と第5の歯とで直径が異なる結果として、第2の歯が第5の歯と係合するとき、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間の伝達比は、1:1とは異なる。これにより、1:1未満の伝達比が達成可能になる。
【0025】
別の実施形態によれば、第4の歯および第5の歯は、同じ直径および同じ数の歯を有し、第1の歯および第2の歯は、異なる数の歯および同じ直径を有する。これにより、第1の歯の輪郭と第2の歯の輪郭との間で周方向の輪郭のずれが生じる。結果として、第2の歯が第5の歯と係合するとき、調節スリーブおよびキャッチスリーブは異なる回転速度を有する。別の実施形態によれば、第1の歯および第2の歯の数は、歯1つだけ異なる。別の実施形態によれば、第2の歯は、第1の歯よりも多い数の歯を有する。これにより、調節スリーブの回転速度とキャッチスリーブの回転速度との間の伝達比が、1:1未満になる。この実施形態は、第1の歯と第5の歯とが異なる直径を有する実施形態よりも、製造に関してより有利である。
【0026】
別の実施形態によれば、カウンタは、キャッチスリーブの外周上の第1の歯に係合する駆動ギアを有する。この実施形態において、カウンタは機械的に駆動される。好ましくは、カウンタは、機械式カウンタであり、とくにはローラカウンタである。別の実施形態において、カウンタは、電気機械式カウンタまたは電子式カウンタである。電気機械式カウンタまたは電子式カウンタは、キャッチスリーブの回転を検出するセンサが発生させる電気インパルスによっても制御可能である。キャッチスリーブの回転は、ねじスピンドルの回転を検出することによって直接検出することも可能である。「キャッチスリーブの回転」は、完全な回転もしくは部分的な回転の回数として表すことができ、または角度で表すことができるホーム位置に対するキャッチスリーブの位置を指す。
【0027】
別の実施形態によれば、調節スリーブは、キャッチスリーブと同心に配置される。別の実施形態によれば、調節スリーブは、キャッチスリーブへと押し込まれる。これにより、きわめてコンパクトな設計が可能になる。
【0028】
別の実施形態によれば、シフト装置は、調節スリーブをハウジングに対して軸方向に変位させて、選択的に、第2の歯を第5の歯に噛み合わせると同時に、第3の歯を第6の歯から外し、または第3の歯を第6の歯に噛み合わせると同時に、第2の歯を第5の歯から外すように設計されている。したがって、種々のシフト段の切り替えは、調節スリーブがハウジング外にまたはハウジング内に少々変位するという点において可能になる。別の実施形態によれば、シフト装置は、調節スリーブに結合され、そこから離れて設計されたシフト装置であり、軸方向に調節スリーブを変位させるように設計されている。別の実施形態によれば、調節スリーブは、同時にシフト装置またはその構成要素である。この実施形態において、ハウジングから突出する調節スリーブの部分は、シフト要素として使用されることが可能である。前記部分を把持し、調節スリーブをハウジング内により深くまたはハウジング外により遠くに変位させることにより、シフト要素は、ギアボックスを異なるシフト段に切り替えるために作動可能である。この実施形態において、調節スリーブは、異なるシフト段を切り替えるためと容量を調節するための両方に使用される。
【0029】
別の実施形態によれば、シフト装置は、トランスデューサシャフトをハウジングに対して軸方向に変位させて、選択的に、第2の歯を第5の歯に噛み合わせると同時に、第3の歯を第6の歯から外し、または第3の歯を第6の歯に噛み合わせると同時に、第2の歯を第5の歯から外すように設計されている。これにより、ギアボックスが切り替わるとき、容量が誤って再調節されること、または容量を調節するとき、意図せずギアボックスを切り替えることを防ぐことが可能になる。別の実施形態によれば、シフト装置は、トランスデューサシャフトに結合され、そこから離れて設計されるシフト装置であり、トランスデューサシャフトを軸方向に変位させるように設計されている。別の実施形態によれば、トランスデューサシャフトは、同時にシフト装置またはその構成要素である。別の実施形態によれば、トランスデューサシャフトの部分またはシフトレバーは、ハウジングから突出するトランスデューサシャフトに結合する。トランスデューサシャフトの部分またはハウジングから突出するシフトレバーは、ギアボックスを種々のシフト段に切り替えるために外から作動可能であるシフト要素である。
【0030】
別の実施形態は、ハウジング内に支えられ、ストロークロッドまたは変位要素に当接し、制御ボタンがストッパ要素によって放されているときに、ストロークロッドを第1のストッパに接触した状態に保持する第1のばね装置を有する。これにより、ストッパ要素が上部ストッパに対して配置されるまで制御ボタンを放したあと、ストロークロッドが上部に単独で変位可能になる。別の実施形態によれば、ストロークロッドは、下部ストッパに達した後、あるいは上部ストッパ上のストッパ要素に接触するまでオーバーストロークを実行したあと、制御ボタンまたは制御要素の手段によって変位する。
【0031】
別の実施形態によれば、ピペットは、特定のシフト段にシフト装置を調節する優先位置を調節するための装置を有する。これにより、ユーザがピペットを使用する前に、ピペットが特定のシフト段に調節されていると推測することが可能である。
【0032】
別の実施形態によれば、前記装置は、第2のばね装置の優先位置を調節するためのものである。
【0033】
別の実施形態によれば、トランスデューサシャフトは、調節スリーブとカウンタとの間の空き空間に配置される。別の実施形態によれば、トランスデューサシャフトは、調節スリーブとカウンタとの間の楔形の空き空間に配置される。その結果、調節機構に必要な空間が軽減される。
【0034】
別の実施形態によれば、カウンタは、調節スリーブに平行な回転軸を有するカウンタローラを有する。別の実施形態によれば、カウンタは、回転カウンタである。別の実施形態によれば、トランスデューサシャフトは、カウンタローラと調節スリーブとの間の楔形の空き空間に配置される。
【0035】
別の実施形態によれば、調節要素は、調節スリーブの上端の調節リングである。ハウジングの外側から到達可能な調節リングを回転させることにより、容量を調節することが可能である。調節スリーブの上端上の調節リングは、同時にシフト装置のシフト要素となり得る。
【0036】
別の実施形態によれば、制御ボタンおよび調節スリーブは、共同回転用の接続のための装置によって共同回転するように接続され、制御ボタンが同時に調節スリーブを調節するための調節要素でもあるように、軸方向に互いに対して変位可能であるように互いに接続される。
【0037】
別の実施形態によれば、シフト要素は、ハウジングの外側からスライドまたはスイッチ作動が可能である。
【0038】
別の実施形態によれば、変位装置は、シリンダとして設計された変位チャンバおよびシリンダ内に変位可能なプランジャとして設計された変位要素を備える。
【0039】
本発明は、添付の例示的な実施形態の図面を使用して、下記で更に詳しく説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明によるピペットを左側から縦断面で示す
図2】同じピペットを右側から縦断面で示す
図3.1】同じピペットの調節機構を右側から拡大側面図で示す
図3.2】同じピペットの調節機構を拡大正面図で示す
図3.3】同じピペットの調節機構を左側から拡大側面図で示す
図3.4】同じピペットの調節機構を拡大背面図で示す
図4.1】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を右側から拡大側面図で示す
図4.2】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を拡大正面図で示す
図4.3】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を左側から拡大側面図で示す
図4.4】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を拡大背面図で示す
図5.1】右側から分解側面図で同じ調節機構を示す
図5.2】同じ調節機構を分解正面図で示す
図5.3】同じ調節機構を左側から分解側面図で示す
図5.4】同じ調節機構を分解背面図で示す
図6】同じ直径の異なる数の歯を備える第1および第2の歯を平面図で示す
図7.1】シフトレバーを備える異なる調節機構を右側から拡大側面図で示す
図7.2】シフトレバーを備える異なる調節機構を拡大正面図で示す
図7.3】シフトレバーを備える異なる調節機構を左側から拡大側面図で示す
図7.4】シフトレバーを備える異なる調節機構を拡大背面図で示す
図8.1】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を右側から拡大側面図で示す
図8.2】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を拡大正面図で示す
図8.3】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を左側から拡大側面図で示す
図8.4】異なるシフト段に切り替えられた同じ調節機構を拡大背面図で示す
【発明を実施するための形態】
【0041】
本出願において、用語「上」および「下」、「上方」および「下方」、「平面図」および「底面図」、ならびに「裏面」および「下面」ならびに「水平」および「垂直」などといったこれらの派生語は、座を備えたハウジングが垂直下方に向けられたピペットの配置に関する。この配置において、座に取り付けられたピペット先端部を、液体を吸い込み、または送出するために、下方に配置された容器に向けることができる。
【0042】
図1および図2によれば、本発明によるピペット1は、下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4とを備えた棒状のハウジング2を有する。下部ハウジング部分3は、円錐形の床部を備える筒状の本体5を上部に有し、この円錐形の床部から、細い管状のわずかに円錐形のアタッチメント6が下方へと突出し、アタッチメント6は、下部にピペット先端部8を取り付けるための座7を有している。アタッチメント6内には、変位チャンバ9が、接続チャネル10によって座7の下部側の開口部11へと接続されたシリンダの形態で形成されている。
【0043】
さらに、下部ハウジング部分3は、床部の上側のシールシステム13によってシリンダ11へと案内される変位装置のプランジャの形態の変位要素12を備える。変位要素12は、上端にプレート14を有し、プレート14は、中央のドーム状の凹所を上面に有している。つる巻ばねの形態の第1のばね装置15が、プレート14と床部の上面との間に配置される。第1のばね装置15は、本体5に接続されたシールキャップ16に対してプレート14を下方から押し、シールキャップ16は、プレート14への上方からのアクセスを可能にする通路を中央に有している。
【0044】
上部ハウジング部分4は、プレート14の上面に当接するストロークロッド17を含む。ストロークロッド17の下端は、プレート14の凹所に係合する。制御ボタン18が、上部においてストロークロッド17に取り付けられ、ハウジング2の上端から外部に突出している。
【0045】
ストロークロッド17は、上部ハウジング部分4に配置されたねじスピンドル20の中央スピンドル孔19を通って案内される。ねじスピンドル20は、上部ハウジング部分4内の第1のキャリア24へと下部において保持されたストローク体23の雌ねじ22へとねじ込むことができる雄ねじ21を外側に有する。ストローク体23は、スピンドルナットを形成する。
【0046】
ねじスピンドル20の下面は、ストロークロッド17の外周の環状ビードの形態のストッパ要素26のための上部ストッパ25である。
【0047】
ねじスピンドル20は、半径方向外側へと突出するリブ28(図5を参照)によってキャッチスリーブ30の軸方向の溝29へと係合するキャッチ27と一緒に回転するように上端において接続される。キャッチスリーブ30は、ねじスピンドル20と同心に配置され、ストローク体23の外周に回転可能に取り付けられる。キャッチスリーブ30は、外周の下端に周状の第1の歯31を有する。これは、とくには図3図5に示されている。
【0048】
調節スリーブ32が、キャッチスリーブ30へと押し込まれる。調節スリーブ32は、キャッチスリーブ30の外周に回転可能に取り付けられ、キャッチスリーブ30上の2つのバリアの間を軸方向に変位可能に案内される。調節スリーブ32の上端は、ハウジング2の上端から外へと突出している。この場所において、調節スリーブ32は外周に調節リング33を有し、調節リング33は外周に波形を有している。
【0049】
調節スリーブ32は、下縁において外周を取り囲む第2の歯34と、さらにいくらか上方において外周を取り囲む第3の歯35とを有する。第1の歯31および第2の歯34は、同じ直径および同じ数の歯を有する。第3の歯35は、第2の歯34よりも直径が大きく、歯の数が多い。
【0050】
中間ディスク36によって、第2の歯34は上側において閉じられており、第3の歯35は下側において閉じられている。調節スリーブ32の変位に関して、ディスク36の下側が下部バリア37を形成し、ディスク36の上側が上部バリア38を形成する。
【0051】
第1の支持体24上に、トランスデューサシャフト39が、キャッチスリーブ30および調節スリーブ32に隣接して回転可能に取り付けられる。トランスデューサシャフト39は、下部に第4の歯40を備え、その上方に第5の歯41を備え、その上方に第6の歯42を備える。第4の歯40および第5の歯41は、同じ直径および同じ数の歯を有し、単一の歯43に組み合わせられる。第6の歯42は、第5の歯41から離れて配置される。第5の歯41よりも直径が小さく、歯の数が少ない。
【0052】
トランスデューサシャフト39は、上部において、上部ハウジング部分4に固定された第2のキャリア44に回転可能に取り付けられる。
【0053】
さらに、ローラカウンタの形態のカウンタ45が、第1のキャリア24と第2のキャリア44との間に保持されている。ローラカウンタのカウンタローラシャフト46が、下部において第1のキャリア24に取り付けられ、上部において第2のキャリア44に取り付けられている。上部において、第2のキャリア44は、ハウジング内の突出部に当接する。さらに、駆動歯車47が、第1のキャリア24に回転可能に取り付けられ、共通のシャフト上の異なる直径を有する2つの平歯車48、49を備える。小径の平歯車48は、キャッチスリーブ30の第1の歯31と噛み合い、大径の平歯車49は、ローラカウンタの最初のローラ上の駆動ピニオン50と噛み合う。
【0054】
カウンタ45の数字ホイール51を、透明カバー53を有する上部ハウジング部分4の窓52を通してハウジング2の外部から視認することができる(図2)。
【0055】
上部ハウジング部分4において、ポット状のホルダ54が、ストローク体23の下方に配置されている。ホルダ54は、ハウジング2内に固定された第3のキャリア57の雌ねじ56へとねじ込まれる雄ねじ55を有する。
【0056】
ホルダ54は、ホルダ54の下向きに曲がった上縁59の下方に保持されるキャップ状の下部ストッパ58を含む。ホルダ54の床部61に当接するつる巻ばねの形態のオーバーストロークばね60が、下部58を上縁59に押し付ける。ストロークロッド17は、下部ストッパ58の中央通路を通り、オーバーストロークばね60およびホルダ54の床部61の中央通路を通って案内される。
【0057】
調節スリーブ32はドライブシャフトであり、キャッチスリーブ30はドライブシャフトであり、トランスデューサシャフト39は、スパーギアボックス62として設計されたギアボックス63のカウンタシャフトである。さまざまな段の間の切り替えが、調節スリーブ32を図3および図4に示される下方シフト位置(微調節位置)ならびに図4に示される上方シフト位置(迅速調節位置)へと軸方向に動かすことによって達成される。図3の微調節位置において、調節スリーブ32は、第5の歯41の上側の下部バリア37に接触するまで、可能な限り下方へと動かされ、迅速調節位置において、調節スリーブ32は、第6の歯42の下側の上部バリア38に接触するまで、上方へと動かされる。したがって、調節スリーブ32は同時に、ギアボックスの切り替えシフト装置64でもあり、調節リング33は、シフト装置64のシフト要素65である。
【0058】
典型的な実施形態において、ギアボックス63はいかなる優先位置も有さず、したがってギアボックスは、常に最後に調節されたシフト段を保持する。本発明は、例えば第2のばね装置によって実現されるギアボックスの優先位置を有する他の種類の実施形態を含む。
【0059】
調節スリーブ32の回転時に、キャッチスリーブ30も、調節後のシフト段に対応して回転する。キャッチスリーブ30によって、ねじスピンドル20は、ハウジングに対して固定された雌ねじ22へとねじ込まれ、上部ストッパ25は、回転方向に応じて上下に移動する。これにより、容量を決定する上部ストッパ25と下部ストッパ58との間の距離が変化する。設定された容量を、キャッチスリーブ30によって駆動ギア47を介して駆動されるカウンタ45から読み取ることができる。
【0060】
イジェクタロッド67上のイジェクタボタン66が、上部ハウジング部分4の上縁領域において調節スリーブ32の隣に据えられている。イジェクタロッド67は、上部ハウジング部分4を通ってストロークロッド17と平行に延びている。下部が、アタッチメント6上に可動に配置されたイジェクタスリーブ69の横方向の締結ショルダ68に接続されている。
【0061】
つる巻ばねとして設計されたイジェクタばね70が、上部ハウジング部分4に配置され、一端がハウジング2内に支えられ、他端がイジェクタロッド67に接触する。イジェクタばね70が、イジェクタスリーブ67がアタッチメント6に当接するように、イジェクタロッド67を上方に押す。
【0062】
下部ハウジング部分3および上部ハウジング部分4は、スナップ接続71によって互いに接続される。
【0063】
ピペット操作の前に、ユーザは、所望の容量を調節することができる。これを達成するために、ユーザは、所望の容量がカウンタ45によって表示されるまで、調節リング33を回転させる。容量を調節するために、ユーザは、2つの速度レベルの間で選択が可能である。詳しくは、最後に調節された容量が、調節されるべき容量から大きく外れている場合、ユーザは、最初に迅速シフト段を選択することができる。ギアボックスがまだ迅速シフト段に調節されていない場合、ユーザは、調節リング33を把持し、調節スリーブ32を図3の微調節位置からハウジング2の外へともう少し引き出して、図4に示される迅速調節位置にする。
【0064】
第1の迅速調節位置においては、キャッチスリーブ30の第1の歯31が、トランスデューサシャフト39の第4の歯40と係合し、調節スリーブ32の第3の歯35が、トランスデューサシャフト39の第6の歯42と係合する。これにより、調節スリーブ32の回転速度が、キャッチスリーブ30のより高い回転速度へと変換され、したがってユーザは、調節されるべき容量の近くへと迅速に容量を調節することができる。
【0065】
所望の容量を精密に調節するために、ユーザは、低速シフト段を選択することができる。これを達成するために、ユーザは、調節リング33上の調節スリーブ32をハウジング2へと下方に、図3に示される微調節位置まで押し込む。この位置において、第1の歯31は第4の歯40と係合し、第2の歯34は第5の歯41と係合する。結果として、調節スリーブ32を特定の回転速度で回転させると、キャッチスリーブ30は、迅速シフト段よりも遅い速度で回転する。典型的な実施形態の歯によれば、第1の歯31および第2の歯34ならびに第4の歯40および第5の歯41の各々が対応する歯の数および直径を有するがゆえに、調節スリーブ32の回転速度が、キャッチスリーブ30の回転速度と同じである。
【0066】
容量の精密な調節の前または後に、ユーザは、ピペット1を座7によってピペット先端部8の上部開口部72へと押し込むことによって、ピペット先端部8をピペット1に固定することができる。ピペット操作のために、ユーザは、最初に制御ボタン18を下方に押し、その結果、ストッパ要素26が上部ストッパ25によって下部ストッパ58に対して変位する。その際に、ストロークロッド17が変位要素12を下方に押し、第1のばね装置15に力が蓄えられる。次いで、ユーザは、ピペット先端部8をその下部開口部73によってサンプル流体に浸し、制御ボタン18を離す。その結果として、第1のばね要素15が、ストッパ要素26が上部ストッパ25に当接するまで、変位要素12およびストロークロッド17を押し上げる。その際に、調節された容量に対応する量の液体が、ピペット先端部8に吸い上げられる。
【0067】
この量の液体を排出するために、ユーザは、下部開口部73を別の容器の上方に位置させてピペット先端部8を保持し、制御ボタン18を再び下方に押し下げる。下部ストッパ58に到達した後に、ユーザは、オーバーストロークばね60の抵抗に打ち勝ちながら制御ボタン18をさらに深く押し込むことで、ピペット先端部8から液体の残量を排出することができる。
【0068】
次いで、ユーザは、同じやり方でさらなる液体をピペット操作することができ、またはサンプル液体を変更するために、イジェクタボタン66を押すことによってピペット先端部8を下方に排出することができる。その際に、イジェクタスリーブ69が、ピペット先端部8を座7からこすり落とす。イジェクタボタン66が放されると、イジェクタばね70が、イジェクタロッド67を再び図示のホーム位置へと移動させる。
【0069】
次いで、さらなるピペット操作を、同じ調節済みの容量で実行することができ、または調節されるべき新たな容量で実行することができ、調節は上述のとおりに実行可能である。
【0070】
図6が、別の典型的な実施形態の第1および第2の歯31’、34’を示している。これは、第1の歯31’および第2の歯34’が同じ直径を有するが、第1の歯31’の歯の数が第2の歯34’よりも1つ少ない点で、上述の実施形態と相違する。結果として、第1の歯31’は、第2の歯34’よりも大きいピッチを有する。この平面図は、第1の歯31’と第2の歯34’との間に歯の輪郭のずれが結果として存在することを示している。
【0071】
この典型的な実施形態においても、第4の歯40および第5の歯41はそれぞれ、同じ直径および同じ数の歯を有する。これにより、低速シフト段が係合しているとき、調節スリーブ32の1回転につき、キャッチスリーブ30の回転は1回転よりもわずかに少ない。結果として、調節スリーブ32の回転速度は、キャッチスリーブ30の回転速度よりも速い。高速シフト段においては、キャッチスリーブ30は、調節スリーブ32の回転時に、上述の典型的な実施形態と同様に回転する。全体として、伝達比のやや大きな広がりが、これによって達成される。
【0072】
図7および図8の調節機構は、調節スリーブ32ではなく、シフト装置64の構成要素であるトランスデューサシャフト39が、軸方向に変位可能なやり方でハウジング2内に保持される点で、図3および図4の調節機構から相違する。したがって、2つのバリアが、調節スリーブ32の軸方向の変位を防止する。トランスデューサシャフト39の軸方向の変位は、その2つの端部が、対応する変位を可能にする第1のキャリア24内および第2のキャリア44内のベアリングに係合することで可能にされる。
【0073】
トランスデューサシャフト39から垂直に外側へと突出するシフトレバー74が、トランスデューサシャフト39に据えられている。シフトレバー74は、シフト装置64のシフト要素65である。シフトレバー74は、トランスデューサシャフト39の周囲の溝に保持される。これを達成するために、シフトレバー74は、例えば、フォーク状の端部などでトランスデューサシャフト39に留められる。シフトレバー74は、シフトレバー74を軸方向に変位させることによってトランスデューサシャフトを上下に変位させることができるようにリング溝に係合しており、トランスデューサシャフト39は、シフトレバー74に対して回転可能である。
【0074】
シフトレバー74は、外側の端部によって、ハウジング2の垂直方向のスロットから外向きに突出し、したがって外側から変位させることが可能である。
【0075】
トランスデューサシャフト39の下方への変位は、第4の歯40の下側が第1のキャリア24に接触することによって制限され(図8を参照)、トランスデューサシャフト39の上方への変位は、シフトレバー74が第2のキャリア44に接触することによって制限される(図7を参照)。
【0076】
図7において、シフト装置64は、調節スリーブ32の回転によってねじスピンドル20のゆっくりとした調節が生じる微調節位置に切り替えられている。図8において、シフト装置64は、調節スリーブ32の回転によってねじスピンドル20の迅速な調節が生じる迅速調節位置に切り替えられている。
【0077】
さらに、図7および図8の調節機構は、図3および図4の調節機構と同じ特性を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8