IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社酉島製作所の特許一覧

特許7075466振動機械の異常診断装置および異常診断方法
<>
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図1
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図2
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図3
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図4
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図5
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図6
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図7
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図8
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図9
  • 特許-振動機械の異常診断装置および異常診断方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】振動機械の異常診断装置および異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220518BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020191191
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】本崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村木 良民
(72)【発明者】
【氏名】野呂 貴之
(72)【発明者】
【氏名】槻木 佑馬
(72)【発明者】
【氏名】桐畑 洸
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-170625(JP,A)
【文献】特開2016-057250(JP,A)
【文献】特開2009-243908(JP,A)
【文献】特開2007-108189(JP,A)
【文献】特開2004-212225(JP,A)
【文献】特開平07-159231(JP,A)
【文献】特開2011-247695(JP,A)
【文献】特開2011-247696(JP,A)
【文献】特開昭62-008023(JP,A)
【文献】特開2014-170009(JP,A)
【文献】特開平10-176949(JP,A)
【文献】特開2005-121639(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0008445(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01M 13/00-13/045
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え
前記記憶部は、複数の基準データを記憶しており、
前記診断部は、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、振動機械の異常診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記比較を所定の周波数帯域ごとの平均値、実効値、最小値、または最大値で行う、請求項1に記載の振動機械の異常診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記基準データのピーク値と、前記診断データのピーク値との間で比較を行う、請求項1に記載の振動機械の異常診断装置。
【請求項4】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え、
前記診断部は、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、動機械の異常診断装置。
【請求項5】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含
前記診断では、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、振動機械の異常診断方法。
【請求項6】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含み、
前記準備では、複数の前記基準データを準備し、
前記診断では、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、振動機械の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動機械の異常診断装置および異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械などの振動機械では、振動情報を利用した異常診断が実施されている。特許文献1には、そのような振動情報を利用した回転機械の診断方法が開示されている。特許文献1の診断方法においては、回転機械の振動情報から算出した複数の有次元振動パラメータから、主成分分析法で状態評価指数を算出し、状態評価指数に基づき回転機械の良否判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-58191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような診断方法では、回転機械の経時的な変化を捉えることが難しい。また、様々な有次元振動パラメータを用意する必要があり、診断方法として複雑である。また、振動情報にインバータなどのキャリア周波数の影響がある場合に当該影響を除去する必要もある。総じて、異常診断の精度および簡便性に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、振動機械の異常診断装置および異常診断方法において、診断の精度および簡便性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え
前記記憶部は、複数の基準データを記憶しており、
前記診断部は、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、振動機械の異常診断装置を提供する。
【0007】
この構成によれば、診断対象の振動機械の経時的に変化する振動データから診断データを生成し、同じ診断対象の振動機械の基準データと比較して異常診断を行っている。従って、比較対象のデータが同じ振動機械からのものであるため、振動データの経時的な変化を捉えることができ、高精度の異常診断が可能となる。例えば、インバータを利用した振動機械では、インバータのキャリア周波数の影響が過去の振動データと現在の振動データの両方に同様に付加される。従って、これらの差分をとることでインバータのキャリア周波数の影響を受けずに異常診断を行うことができ、簡便である。また、振動データを経時的に取得して診断データとして利用するので、振動データの経時的な変化が大きくなった場合に異常を検知できる。なお、ここでの振動機械は、振動を発生し得る機械を広く指し、例えば回転機械、レシプロ機械、および水が流れる配管などを含む。また、振動データは、振動加速度および振動速度などであり得る。また、振動機械の正常運転におけるインバータのキャリア周波数の変更や運転モードの変更に伴う振動の変化を異常状態と誤診断することを抑制できる。
【0008】
前記診断部は、前記比較を所定の周波数帯域ごとの平均値、実効値、最小値、または最大値で行ってもよい。
【0009】
この構成によれば、所定の周波数帯域ごとに異常診断できる。従って、異常原因を周波数帯域に応じて特定することもできる。所定の周波数帯域は、振動機械の種類や取得する振動データの周波数域に応じて適宜設定すればよい。また、上記実効値とは、時間平均的な大きさ(強度)を表す量で、2乗値の平均の平方根である。
【0010】
前記診断部は、前記基準データのピーク値と、前記診断データのピーク値との間で比較を行ってもよい。
【0011】
この構成によれば、異常診断を簡易に行うことができる。また、ピーク値をとる大きな振動は異常につながることが多く、ピーク値を比較することで異常診断の精度を高めることができる。ここでのピーク値の比較は、大きい値から順に複数点で行われてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え、
前記診断部は、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、振動機械の異常診断装置を提供する
【0013】
この構成によれば、診断対象の振動機械の経時的に変化する振動データから診断データを生成し、同じ診断対象の振動機械の基準データと比較して異常診断を行っている。従って、比較対象のデータが同じ振動機械からのものであるため、振動データの経時的な変化を捉えることができ、高精度の異常診断が可能となる。例えば、インバータを利用した振動機械では、インバータのキャリア周波数の影響が過去の振動データと現在の振動データの両方に同様に付加される。従って、これらの差分をとることでインバータのキャリア周波数の影響を受けずに異常診断を行うことができ、簡便である。また、振動データを経時的に取得して診断データとして利用するので、振動データの経時的な変化が大きくなった場合に異常を検知できる。なお、ここでの振動機械は、振動を発生し得る機械を広く指し、例えば回転機械、レシプロ機械、および水が流れる配管などを含む。また、振動データは、振動加速度および振動速度などであり得る。また、波形全体を画像として比較できるため、診断精度を向上できる。例えば、一致度が50%以下の場合に異常と診断してもよい。
【0014】
本発明の第の態様は、
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含み、
前記診断では、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、振動機械の異常診断方法を提供する。
【0015】
本発明の第4の態様は、
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含み、
前記準備では、複数の前記基準データを準備し、
前記診断では、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、振動機械の異常診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動機械の異常診断装置および異常診断方法において、異常診断の精度および簡便性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】振動機械の異常診断装置の概略構成図。
図2】本発明の第1実施形態に係る異常診断装置の制御ブロック図。
図3】第1実施形態の異常診断方法を示すフローチャート。
図4】基準データと診断データの波形を示すグラフ。
図5図4の基準データD0に対応する棒グラフ。
図6図4の診断データD4に対応する棒グラフ。
図7】第1変形例における基準データを示す折れ線グラフ。
図8】第1変形例における診断データを示す折れ線グラフ。
図9】第2変形例における診断データと基準データとの差分を示す折れ線グラフ。
図10】第2実施形態の異常診断方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態の振動機械1の異常診断装置10は、振動機械1の振動データを取得し、当該振動データから異常を診断するものである。振動機械1は、振動を発生し得る機械を広く指し、例えば回転機械、レシプロ機械、および液体が流れる配管などを含む。以下では、エアコンなどの空気調和機に使用されるファン2のモータ1を振動機械1の一例として説明する。
【0020】
エアコンに使用されるファン2は、モータ1によって駆動され、室内に温度調整された空気を送風する。モータ1は、インバータ3によって回転数を調整される。インバータ3は、制御装置4によって制御される。
【0021】
モータ1には、振動センサ5が取り付けられている。振動センサ5は、モータ1の振動データを計測し、異常診断装置10に送信する。振動データは、振動加速度および振動速度などであり得る。ここでは、振動データの一例として振動加速度を挙げて説明する。振動センサ5は、所定の間隔(例えば1日1回)でモータ1の振動加速度を計測し、異常診断装置10に送信している。本実施形態では、振動センサ5は、1~10000Hzの周波数範囲で振動加速度を計測する。代替的には、振動センサ5は、任意の周波数範囲で振動データを計測し得る。例えば、振動センサ5は、10000Hzより大きな周波数まで振動データを取得してもよい。
【0022】
図2を参照して、異常診断装置10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)等のハードウェアと、それらに実装されたソフトウェアとにより構成されている。異常診断装置10は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ワークステーション、またはタブレット端末のような情報処理装置で構成され得る。
【0023】
異常診断装置10は、記憶部11と、処理部12と、表示部13とを有している。処理部12は、機能的構成として、取得部12aと、変換部12bと、診断部12cとを含んでいる。これらは、ハードウェア資源であるプロセッサと、ソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。
【0024】
記憶部11は、モータ1の過去の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶している。過去の振動データは、正常な運転状態を維持しているときのものである。また、記憶部11には、処理部12で稼働するプログラムも記録されている。記憶部11は、可搬性を有する記録媒体であってもよいし、処理部12と一体的に構成されていてもよい。
【0025】
取得部12aは、振動センサ5から振動データを経時的に受信する。取得部12aと振動センサ5との間のデータの授受の態様は、有線であってもよいし、無線であってもよい。
【0026】
変換部12bは、取得部12aで取得した振動データをフーリエ変換して診断データとする。ここでは、フーリエ変換の一例として高速フーリエ変換(FFT)を使用する。このフーリエ変換により、振動データを周波数分析することができる。また、変換部12bでの変換は、取得部12aによって振動データが取得されるたびに実行される。従って、周波数分析結果の経時的な変化を確認できる。
【0027】
診断部12cは、基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを経時的に比較して基準データから診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する。比較の具体的な方法については後述する。
【0028】
表示部13は、処理部12による診断結果を表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等により構成される。本実施形態では、表示部13には、診断部12cによって異常があるとの診断結果が出された場合にその診断結果が表示される。ただし、表示部13には、診断部12cによって異常がないとの診断結果が出た場合にもその診断結果が表示されてもよい。
【0029】
図3を参照して、本実施形態の異常診断装置10が実行する異常診断方法について説明する。
【0030】
本実施形態の異常診断方法を開始すると(ステップS3-1)、取得部12aによって振動データを取得する(ステップS3-2)。次いで、取得部12aによって取得された振動データを変換部12bによってフーリエ変換して診断データとする(ステップS3-3)。そして、診断部12cによって、記憶部11に記憶された基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを比較し、基準データから診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する(ステップS3-4)。異常があると診断されない場合(N:ステップS3-4)、振動データを取得する処理に戻り(ステップS3-2)、以降の処理を繰り返す。診断部12cによって異常があると診断された場合(Y:ステップS3-4)、診断結果として異常があることを表示部13に表示し(ステップS3-5)、一連の処理を終了する(ステップS3-6)。
【0031】
図4を参照して、本実施形態で比較するデータを例示する。図4は、3つの軸(スペクトル値、周波数、および日付)を有する3次元グラフである。このグラフでは、基準データと、診断データとが1Hz刻みでそれぞれ示されている。
【0032】
図4の最も左に位置する波形データD0は、基準データであり、正常データとして記憶部11に記憶されている。図4の左から2番目以降の波形データD1~D9は診断データであり、2週間に一度の間隔で取得された振動データ(例えばモータ1の振動の加速度データ)がフーリエ変換されたものである。
【0033】
図4のグラフでは、2019年5月12日の診断データD4が基準データD0と比べてF1,F2(Hz)付近においてそれぞれ卓越している(グラフ中のA部分を参照)。詳細には、2019年5月12日より前の診断データD1~D3において、そのような卓越したスペクトルは確認されず、2019年5月12日より後の診断データD5~D9においては同じ周波数付近で卓越したスペクトルが確認できる。
【0034】
図5は、図4の基準データD0に対応する棒グラフを示している。図6は、図4の診断データD4に対応する棒グラフを示している。図5,6では、横軸が周波数を示している。周波数は1~10000Hzまでを所定の分割幅で区分して示されている。縦軸は、区分された各周波数範囲におけるスペクトルの平均値を示している。なお、所定の分割幅については、1~10000Hzまでを等分割してもよいし、任意に分割幅を変更してもよい。
【0035】
図5,6を比較すると、14番目の周波数範囲であるF1(Hz)付近の周波数範囲で、診断データD4のスペクトルの平均値が基準データD0のスペクトルの平均値に比べて著しく大きくなっていることが確認できる。同様に、16番目の周波数範囲であるF2(Hz)付近の周波数範囲で、診断データD4のスペクトルの平均値が基準データD0のスペクトルの平均値に比べて著しく大きくなっていることが確認できる。
【0036】
本実施形態では、診断部12cは、診断データD1~D9のいずれかの特定の周波数範囲のスペクトルの平均値が、基準データの同じ周波数範囲のスペクトルの平均値よりも例えば30%以上大きくなった場合に異常と診断する。図5,6の例では、F1(Hz)付近およびF2(Hz)付近の周波数範囲において、診断データD4のスペクトルの平均値が基準データD0のスペクトルの平均値に比べてそれぞれ2倍以上大きくなっている。従って、診断部12cによって異常と診断される。なお、異常と診断するための比較の閾値は30%以外であってもよく、診断対象とする振動機械の種類などに応じて任意に設定され得る。
【0037】
本実施形態によれば、モータ1の経時的に変化する振動データから診断データを生成し、過去に取得した同じモータ1の基準データと比較して異常診断を行っている。従って、比較対象のデータが同じモータ1からのものであるため、振動データの経時的な変化を捉えることができ、高精度の異常診断が可能となる。また、本実施形態では、インバータ3によってモータ1の回転数を制御しているため、インバータ3のキャリア周波数において振動データにノイズが付加され得る。しかし、インバータ3のキャリア周波数の影響は過去の振動データと現在の振動データの両方に同様に付加される。従って、これらの差分をとることでインバータ3のキャリア周波数のノイズの影響を抑制して簡便に異常診断を行うことができる。また、振動データを経時的に取得して診断データとして利用するので、振動データの経時的な変化が大きくなった場合に異常を検知できる。
【0038】
また、本実施形態によれば、所定の周波数帯域ごとに異常診断できる。従って、異常原因を周波数帯域に応じて特定することもできる。例えば、低周波数域(例えば、1000Hz以下)で異常と診断された場合、モータ1の偏重(アンバランス)や偏心(ミスアライメント)、モータ1の設置のガタつきなどが想定される。また、振動機械として液体が流れる配管を対象とした場合には配管内の過少流量などが想定される。また、高周波数域(例えば、5000Hz以上)で異常と診断された場合、モータ1とファン2とを機械的に接続する軸部材を支持する軸受部分の損傷ないしグリス切れなどが想定される。
【0039】
なお、本実施形態では、特定の周波数範囲のスペクトルの平均値を確認して基準データと診断データとを比較したが、比較する値は特定の周波数範囲のスペクトルの実効値、最小値、または最大値などであってもよい。
【0040】
(第1変形例)
図7,8を参照して、診断部12cによる診断データと基準データとの比較の方法として、ピーク値を使用してもよい。
【0041】
第1変形例では、診断部12cは、基準データのピーク値と診断データのピーク値を大きい順に比較し、所定以上異なる場合に異常と診断する。以下、具体例について説明する。
【0042】
図7は基準データを示し、図8は診断データを示している。図7,8の横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトルを示している。
【0043】
図7のグラフにおいて、最も大きな第1ピークが符号P7-1で示され、2番目に大きな第2ピークが符号P7-2で示されている。同様に、図8において、最も大きな第1ピークが符号P8-1で示され、2番目に大きな第2ピークが符号P8-2で示されている。
【0044】
図7,8の例では、基準データの第1ピーク値約4.5(P7-1)に比べて診断データの第1ピーク値約5.1(P8-1)が13%程度大きい。また、基準データの第2ピーク値約3.6(P7-1)に比べて診断データの第2ピーク値約4.2(P8-1)が17%程度大きい。
【0045】
診断部12cでは、上記のようにピーク値同士が大きい順に比較される。異常があると診断する閾値を上記実施形態と同じく30%に設定した場合、図7,8の例では、当該30%を超える比較結果が確認できないため、異常があると診断されない。ただし、比較するピーク値の数は1つまたは3つ以上であってもよく、閾値も30%に限定されない。
【0046】
第1変形例によれば、周波数範囲によらずに単純にピーク値を大きい順に比較するため、容易に異常診断を行うことができる。具体的には、図7,8の例に示すように、基準データの第1ピークP7-1と、診断データの第1ピークP8-1とは、互いに周波数が異なっている。従って、このような場合、異なる周波数のピーク値同士を比較することになる。ただし、上記実施形態のように特定の周波数範囲を設定し、当該特定の周波数範囲でのピーク値同士を比較してもよい。
【0047】
また、ピーク値をとる大きな振動は異常につながることが多く、ピーク値を抽出して比較することで異常診断の精度を高めることができる。
【0048】
(第2変形例)
図9を参照して、診断部12cによる診断データと基準データとの比較の方法として、診断データと基準データとの差分波形を利用してもよい。
【0049】
第2変形例では、診断部12cは、診断データのスペクトル値から基準データのスペクトル値を引いて得られる波形(差分波形)がスロープ波形となった場合に異常と診断する。以下、具体例について説明する。
【0050】
図9の横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトルを示している。図9は診断データの波形から基準データの波形を差し引いた差分値を示している。
【0051】
図9のグラフにおいて、周波数が10000Hzの近傍においてスロープ波形が確認できる(符号P9部分を参照)。ここで、スロープ波形とは、周波数範囲として2000Hz付近からそれよりも低周波数側にかけて、または9000Hz付近からそれよりも高周波数側にかけてFFTスペクトルがスロープ状に上昇していく波形をいう。
【0052】
図9のグラフでは、9001~10000Hzにおいて周波数が増えるにつれてスペクトル値が約0.2から約1.6まで8倍程度増加している。従って、当該周波数範囲でスロープ波形が確認されるため、診断部12cにおいて当該周波数範囲に異常があると診断される。
【0053】
本変形例によれば、スロープ波形は異常が発生しやすく、当該波形の発生を検知することで、一層高精度に異常診断を行うがことができる。
【0054】
(第3変形例)
第3変形例では、診断部12cでの比較を画像認識に基づいて行う。
【0055】
診断部12cは、診断データを入力されると、診断データの波形画像を生成し、記憶部11に記憶された基準データの波形画像との一致度を算出する。診断部12cは、一致度が所定以下である場合に異常と診断する。
【0056】
上記診断は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)などのニューラルネットワークによって基準データを教師データとして学習した学習済みモデルを利用する。学習済みモデルは、診断部12cに含まれ、一致度が所定以下の場合に異常があるとの診断を行う。学習済みモデルは、例えば、一致度が50%未満である場合に異常であると診断してもよい。
【0057】
第3変形例によれば、波形全体を画像として比較できるため、診断精度を向上できる。
【0058】
(第2実施形態)
第2実施形態のモータ(振動機械)1の異常診断装置10は、異常診断方法において第1実施形態と異なる。これ以外に関しては、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0059】
本実施形態では、制御装置4およびインバータ3によってモータ1が制御され、モータ1が複数の運転モードで駆動される。例えば、複数の運転モードは、冷房モード、暖房モード、および送風モードを含む。
【0060】
記憶部11には、上記複数の運転モードに対応した複数の基準データを記憶されている。詳細には、記憶部11には、上記各運転モードに対して少なくとも1つの基準データが記憶されている。例えば、記憶部11には、冷房モード、暖房モード、および送風モードに対応する基準データが5個ずつの合計15個記憶されていてもよい。
【0061】
診断部12cは、複数の基準データのそれぞれに対して診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、複数の比較結果のうち1つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する。
【0062】
図10を参照して、本実施形態の異常診断装置10が実行する異常診断方法について具体的に説明する。
【0063】
本実施形態の異常診断方法を開始すると(ステップS10-1)、取得部12aによって振動データを取得する(ステップS10-2)。次いで、取得部12aによって取得された振動データを変換部12bによってフーリエ変換して診断データとする(ステップS10-3)。そして、診断部12cによって、記憶部11に記憶された1つの基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを比較し、基準データから診断データが所定以上異なっているか否かを判定する(ステップS10-4)。
【0064】
上記判定処理(ステップS10-4)において差異が所定以上大きくない場合(N:ステップS10-4)、振動データを取得する処理に戻り(ステップS10-2)、以降の処理を繰り返す。差異が所定以上大きい場合(Y:ステップS10-4)、記憶部11に記憶された別の基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを比較し、基準データから診断データが所定以上異なっているか否かを判定する(ステップS10-5)。
【0065】
上記判定処理(ステップS10-5)において差異が所定以上大きくない場合(N:ステップS10-5)、振動データを取得する処理に戻り(ステップS10-2)、以降の処理を繰り返す。また、差異が所定以上大きい場合(Y:ステップS10-5)、記憶部11に記憶された別の基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを比較し、基準データから診断データが所定以上異なっているか否かを判定する(ステップS10-6)。
【0066】
上記ステップS10-4からステップS10-6のように比較処理を全ての基準データに対して実行し、全ての基準データに対して診断データが所定以上大きい場合(Y:ステップS10-6)、診断結果として異常があることを表示部13に表示し(ステップS10-7)、一連の処理を終了する(ステップS10-8)。換言すれば、複数の比較結果のうち1つでも異常でない診断結果が得られた場合(N:ステップS10-4、S10-5、またはS10-6)には全体結果として異常でないと診断される。
【0067】
本実施形態によれば、モータ1の正常運転における運転モードの変更に伴う振動の変化を異常と誤診断することを抑制できる。仮に、本実施形態と異なり、基準データが1つしか用意されてない場合、運転モードを冷房モードから暖房モードに切り替えた際に振動の様子が変わり、単なる運転モードの変化を伴う正常な運転を異常状態と誤診断するおそれがある。しかし、本実施形態では、冷房モードと暖房モードのそれぞれに対応する基準データが用意されていることで、上記誤診断を抑制し、診断精度を向上できる。
【0068】
また、運転モードごとに基準データと診断データを比較するのではなく、得られた診断データに対して他の全ての運転モードの基準データを比較することができる。これにより、運転モードを限定して診断を行うことによる誤診断を抑制できる。
【0069】
例えば、一般に冬には暖房モードでの使用が想定される。そのため、当該想定に基づいて、仮に、冬の時期には暖房モードの基準データに限定して診断を行うように設定すると、冬に冷房モードが使用された場合に誤診断するおそれがある。しかし、本実施形態では、冬の時期であっても冷房モードに対応する基準データをも使用して診断を行うことができるため、そのような誤診断を抑制できる。代替的には、1つの運転モードに対してインバータ3のキャリア周波数のみを変更した場合の複数の基準データが設定されてもよい。これにより、同じ運転モードにおいてインバータ3のキャリア周波数が変更された場合の誤診断を抑制できる。また、以下の第1変形例に示すように、時期に応じた基準データの設定が有用な場合もあることに留意すべきである。
【0070】
(第1変形例)
第1変形例では、時期によって異なる運転モードに対応した基準データを正常データとして記憶部11に記憶させ、診断部12cにて時期に応じて当該基準データと診断データとの比較を行う。例えば、夏には冷房モードに対応した基準データを正常データとして記憶部11に記憶させ、冬には暖房モードに対応した基準データを正常データとして記憶部11に記憶させ、診断部12cにて時期に応じて各基準データと診断データとの比較を行う。
【0071】
実際上、例えば、1年を1月1日~3月31日、4月1日~6月30日、7月1日~9月30日、および10月1日~12月31日のように4つの期間に分け、各期間に応じた基準データを正常データとして記憶部11に記憶させ、診断部12cにて各時期に応じて各基準データと診断データとの比較を行ってもよい。
【0072】
診断部12cは、上記4つの時期に応じて診断データと比較する基準データを使い分けることができる。これにより、比較診断する基準データの数を減少できるため、計算コストを低減できる。
【0073】
(第2変形例)
第2変形例では、自動運転モードに応じた複数の基準データを正常データとして記憶部11に記憶させ、自動運転モード実行時には当該基準データに基づいて診断部12cにて異常診断を行う。
【0074】
自動運転モードでは、運転モードが自動的に切り替えられることがある。本変形例では、自動運転モードごとに切り替えられ得る複数の基準データを記憶部11に記憶させ、診断部12cにてこれら複数の基準データのそれぞれと診断データとの比較をそれぞれ行う。診断部12cは、複数の比較結果のうち1つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する。
【0075】
第2変形例によれば、自動運転モードのように自動的に運転モードが切り替えられる場合にも。各運転モードの基準データを正常データとして設定して診断できるので、正確な異常診断を行うことができる。
【0076】
(第3変形例)
第3変形例では、運転モードごとに基準データを記憶部11に記憶させる。診断部12cは、モータ1の現在の運転モードを把握し、当該運転モードに対応する基準データと診断データとを比較して異常診断を行う。
【0077】
第3変形例によれば、現在の運転モードに応じた基準データを使用して異常診断を行うため、実際に則した正確な異常診断を行うことができる。
【0078】
(第4変形例)
第4変形例では、モータ1のメンテナンス後のデータを基準データとして機器型番ごとに記憶部11に記憶させ、当該機器型番ごとに診断部12cにおいて当該基準データを使用して診断を行う。
【0079】
第4変形例によれば、メンテナンス後の正常運転している可能性が高いデータを基準データとして使用できるため、異常診断の精度を向上できる。
【0080】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態や変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0081】
また、診断部12cでの比較方法として、診断データの波形から基準データの波形を差し引いた波形(差分波形)のスペクトルが周波数の増加につれて所定以上の割合で増加する場合に異常と診断してもよい。また、当該差分波形のスペクトルの所定周波数範囲での合計値(積分値)や平均値、最大値、最小値、または相関などの各指標値に基づいて異常診断を行ってもよい。
【0082】
また、診断部12cでの比較手法として既存の統計的手法を用いてもよい。統計的手法としては、例えば、スピアマンの順位相関係数、ピアソン積率相関係数、共分散、ヒストグラム、公差法、KLダイバージェンス、またはJSダイバージェンスなどを使用した手法を挙げることができる。いずれの統計的手法においても診断部12cは、診断データが基準データから所定以上異なる場合に異常と診断する。
【符号の説明】
【0083】
1 モータ(振動機械)
2 ファン
3 インバータ
4 制御装置
5 振動センサ
10 異常診断装置
11 記憶部
12 処理部
12a 取得部
12b 変換部
12c 診断部
13 表示部
【要約】
【課題】振動機械の異常診断装置および異常診断方法において、診断の精度および簡便性を向上させる。
【解決手段】モータ1の異常診断装置10は、モータ1の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部11と、モータ1の振動データを経時的に取得する取得部12aと取得部12aで取得した振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部12bと、基準データのスペクトル値と診断データのスペクトル値とを経時的に比較して基準データから診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部12cとを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10