(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】溶接部靭性に優れた低温用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220518BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20220518BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C22C38/00 302B
C22C38/50
C21D8/02 D
(21)【出願番号】P 2020534170
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 KR2018009605
(87)【国際公開番号】W WO2019124671
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-05
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178946
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハク‐チョル
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199983(JP,A)
【文献】特開2016-183387(JP,A)
【文献】特開2013-014811(JP,A)
【文献】特開2011-219848(JP,A)
【文献】特開2015-086403(JP,A)
【文献】国際公開第2007/080645(WO,A1)
【文献】特許第6394835(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、Ti:0.005~0.015%、N:60ppm以下、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物からなり、
入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上であることを特徴とする溶接部靭性に優れた低温用鋼材。
【請求項2】
前記鋼材の降伏強度が585MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材。
【請求項3】
前記鋼材の衝撃遷移温度が-196℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材。
【請求項4】
前記鋼材の厚さが5~50mmであることを特徴とする請求項1に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材。
【請求項5】
重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、N:60ppm以下、Ti:0.005~0.015%、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物からなるスラブを1100~1200℃の温度に再加熱するスラブ再加熱段階と、
前記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る熱間圧延段階と、
前記熱延鋼材を空冷する段階と、
前記空冷された鋼材を800~950℃に再加熱した後、水冷によって焼入れする単相域熱処理焼入れ段階と、
前記単相域熱処理焼入れ後、鋼材を680~750℃の二相域区間に再加熱した後、水冷によって焼入れする二相域熱処理焼入れ段階と、
前記二相域熱処理焼入れ後、鋼材を570~620℃の区間に再加熱して焼戻ししてから空冷する段階と、を含
み、
前記二相域熱処理焼入れ後、空冷された鋼材は、入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上であることを特徴とする溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記熱間圧延時に熱間仕上げ圧延温度は700~1000℃であることを特徴とする請求項5に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記焼戻しは1.9t+40~80分[tは鋼材の厚さ(mm)]間行われることを特徴とする請求項5に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記熱延鋼材の厚さが5~50mmであることを特徴とする請求項5に記載の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部靭性に優れた低温用鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、ニッケルを含有する溶接部靭性に優れた低温用鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などによる世界的な環境規制の強化に伴い、エコ燃料への関心が高まっている。代表的なエコ燃料であるLNG(Liquefied Natural Gas)は、関連技術の発展によるコスト削減及び効率性の増加により、世界中のLNG消費が増加しつつあり、1980年には、6ヶ国において2,300万トンに過ぎなかったLNG消費は、約10年ごとにその規模が2倍ずつ増加している状況にある。このようなLNG市場の拡大及び成長に伴い、LNG生産国間では従来稼動していた設備を改造又は増設している。また、天然ガス産出国では、新規にLNG市場に進出するために、生産設備を増設しようとする動きがある。
【0003】
LNG貯蔵容器は、設備の目的(貯蔵用タンク、輸送用タンク)、設置位置、内外部タンクの形式など、様々な基準によって分類される。このうち、内部タンクの形式、すなわち、材料及び形状によって9%Ni鋼内部タンク、メンブレン内部タンク、コンクリート内部タンクに分けられるが、最近、LNG輸送の安定性を向上させるために、9%Ni鋼を用いた形式のLNG貯蔵容器の使用が陸上貯蔵用タンクから輸送用タンク分野にまで拡大されるにつれて、9%Ni鋼に対する世界的な需要が増加する傾向にある。
【0004】
一般に、LNG貯蔵容器の材料として使用されるためには、極低温で優れた衝撃靭性を有しなければならず、構造物の安定性のために、高い強度水準及び延性が必要である。9%Ni鋼は、通常、圧延後にQT(Quenching-Tempering)あるいはQLT(Quenching-Lamellarizing-Tempering)の熱処理工程を経て生産され、このような工程を通じて微細な結晶粒を有するマルテンサイト基地に軟質相の残留オーステナイトを2次相として有することで、極低温での良好な衝撃靭性を示す。しかしながら、9%Ni鋼の場合、靭性を確保するために高いNi含量を有しなければならないため、高価な元素であるNiの価格変動に応じて鋼材の価格が上昇するようになり、これが鋼材使用者には負担になるという問題点がある。
【0005】
このような9%Ni鋼の価格上の問題点を緩和させるために、既存の9%Ni鋼に比べて低いNi含量を有する低Ni型鋼材の開発及び規格制定などが一部の鉄鋼メーカーの主導で行われている。また、Ni低減による靭性低下という問題を解決するために、QLTあるいはDQLT(Direct Quenching-Lamellarizing-Tempering)工程を活用して、靭性向上に大きな影響を与えるL工程を含ませることで、既存の9%Ni鋼に比べてNiの添加量を20%程度低減することができた。
【0006】
しかしながら、Ni添加量を20%低減する代わりに、硬化能の確保のために他の合金元素を添加しなければならないため、合金コストの削減量が大きくなく、さらに、一部の鉄鋼メーカーでは、QLT工程の代わりにDQLT工程を導入して、粒度の微細化のために熱処理前の圧延時に極低温圧延を適用しているため、圧延の生産性が著しく低下するという問題点を依然として抱えている。
また、低温用Ni鋼において、最も靭性を確保しなければならない部位は溶接部であり、溶接部の場合、高温の入熱を受け、既存の母材における微細組織が変わるため、衝撃靭性を保証するのに困難を伴う。
【0007】
溶接熱影響部の場合、Ac3温度以下に加熱されるSCHAZ部(Sub-Critical Heat Affected Zone)の場合には、一部の組織のみが逆変態するため、さらなる組織微細化及びTempering効果により靭性を確保しやすいが、CGHAZ(Coarse Grain Heat Affected Zone)部の場合、高温に加熱されることで、既存の低温圧延及び熱処理により微細化した母材の微細組織が全て粗大化するため、衝撃靭性の確保が難しい。しかし、既存の9%Ni鋼に比べてNiを20%低減させた低Ni型鋼材の場合は、Niの低減によって溶接熱影響部の衝撃靭性が大幅に低下するという問題点を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的とするところは、溶接部靭性に優れた低温用鋼材を提供することにある。
また他の目的とするところは、溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶接部靭性に優れた低温用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、Ti:0.005~0.015%、N:60ppm以下、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物からなり;
入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]の〔FL~FL+1mm〕部の電子線後方散乱回折法(EBSD法)で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線(FL)の〔FL~FL+1mm〕の領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上であることを特徴とする。
【0010】
前記鋼材の降伏強度は585MPa以上であることがよい。
前記鋼材の衝撃遷移温度は-196℃以下であることが好ましい。
前記鋼材の厚さは5~50mmであることができる。
【0011】
本発明の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、N:60ppm以下、Ti:0.005~0.015%、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物からなるスラブを1100~1200℃の温度に再加熱するスラブ加熱段階と、
前記再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る熱間圧延段階と、
前記熱延鋼材を空冷する段階と、
前記空冷された鋼材を800~950℃に再加熱した後、水冷によって焼入れする単相域熱処理焼入れ段階と、
前記単相域熱処理焼入れ後、鋼材を680~750℃の二相域区間に再加熱した後、水冷によって焼入れする二相域熱処理焼入れ段階と、
前記二相域熱処理焼入れした後、鋼材を570~620℃の区間に再加熱して焼戻ししてから空冷する段階と、を含むことを特徴とする。
【0012】
前記鋼材の製造方法において、前記熱間圧延時に熱間仕上げ圧延温度は700~1000℃であることがよい。
前記焼戻しは1.9t+40~80分[tは鋼材の厚さ(mm)]間行われることが好ましい。
前記熱延鋼材の厚さは5~50mmであることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、本発明の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法は、溶接部靭性に優れた低温タンク用Ni鋼材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、従来の低Ni型鋼材の溶接部における靭性低下という問題点を解決するために、Tiを添加し、Ti/N比を2.5~4の範囲に制御することにより、入熱量5~50kJ/cmの範囲で溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]の溶融線(FL)から周囲1mmの範囲の〔FL~FL+1mm〕部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)を50μm以下に制御した。これにより、溶融線[Fusion Line(FL)]及び〔FL~FL+1mm〕の領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上となるように溶接熱影響部の靭性を向上させたものである。
【0015】
以下、本発明の好ましい一側面による溶接部靭性に優れた低温用鋼材について説明する。
本発明の溶接部靭性に優れた低温用鋼材は、重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、Ti:0.005~0.015%、N:60ppm以下、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物からなる。
【0016】
C:0.02~0.06重量%(以下、単に「%」とも記す)
Cは、マルテンサイト変態生成を促進し、Ms温度(マルテンサイト変態温度)を下げて粒度を微細化させ、焼戻し時に粒界及び相境界への拡散により残留オーステナイトを安定化させるのに重要な元素であり、母材の強度及び靭性を確保するために0.02%以上添加することが好ましい。しかし、C含量が増加するほど溶融線(FL)~FL+1mmの強度を増加させて靭性を低下させるという問題が発生するため、その含量の上限は0.06%に限定することが好ましい。
【0017】
Ni:6.0~7.5%
Niは、マルテンサイト/ベイナイト変態を促進して母材の強度を向上させ、溶接熱影響部に生成されたマルテンサイト組織の靭性を向上させる最も重要な元素である。本発明で提案する溶接熱影響部の衝撃靭性を満たすためには、6.0%以上添加することが好ましい。しかし、Niが7.5%を超えて添加される場合、高い硬化能によるマルテンサイトの強度上昇によって靭性低下が発生する可能性があるため、前記Ni含量は6.0~7.5%に制限することが好ましい。
【0018】
Mn:0.4~1.0%
Mnは、C/Niとマルテンサイト/ベイナイト変態を促進して母材の強度を向上させる元素であり、0.4%以上添加することが好ましい。しかし、Mn含量が1.0%を超える場合、溶接熱影響部の強度上昇によって靭性が低下する可能性があるため、前記マンガンの含量は0.4~1.0%に制限することが好ましい。より好ましいMnの含量は0.5~0.9%である。
【0019】
Si:0.02~0.15%
Siは、脱酸剤としての役割を果たし、且つ、焼戻し時に炭化物の生成を抑制して残留オーステナイトの安定性を向上させるため、0.02%以上含有することが好ましい。しかし、Si含量が多すぎると、溶接熱影響部の強度が増加して衝撃靭性が低下するため、前記Siの含量は0.02~0.15%に制限することが好ましい。
【0020】
Mo:0.02~0.3%
Moは、硬化能向上元素であって、冷却時にマルテンサイト/ベイナイト生成を促進する元素であり、0.02%以上添加された場合に、実際に硬化能を向上させる役割を果たす。しかし、0.3%を超えて添加される場合、硬化能が過度に上昇して、溶接部の強度上昇による靭性低下が発生する可能性があるため、Moの含量は0.02~0.3%に制限することが好ましい。
【0021】
Cr:0.02~0.3%
Crは、硬化能向上元素であって、冷却時にマルテンサイト/ベイナイト生成を促進する元素であり、固溶強化による強度の確保に寄与するため、0.02%以上添加する必要がある。しかし、0.3%を超えて添加される場合、硬化能が過度に上昇して、溶接部の強度上昇による靭性低下が発生する可能性があるため、本発明においてCrの含量は0.02~0.3%に制限することが好ましい。
【0022】
P:50ppm以下、S:10ppm以下
PとSは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて、脆性を誘発する元素であり、溶接部の衝撃靭性を低下させ、高温割れを発生させる虞があるため、Pは50ppm以下に、Sは10ppm以下に制限することが好ましい。
【0023】
Ti:0.005~0.015%及びTi/Nの重量%比:2.5~4
Tiは、Nと反応して高温でTiNを生成させ、生成されたTiNは、再結晶域圧延あるいは溶接時に溶融線(FL)付近が高い温度に加熱されるときにオーステナイト結晶粒の成長を妨げ、最終粒度を微細化させることができる。TiNが生成されて結晶粒の成長を妨げるためには0.005%以上添加しなければならないが、0.015%を超えて添加される場合、焼戻し時にTi(C、N)の複合炭化物になり、粗大化して、靭性を低下させる虞があるため、Tiの含量は0.005~0.015%に制限することが好ましい。
また、TiとNは、重量%で、3.4:1で結合するため、Ti/Nの比が2.5以下と非常に低い場合は、残留Nが靭性を低下させるという問題が発生する虞があり、Ti/Nが4以上の場合、高温で粗大なTiN晶出物が生成されて衝撃靭性を低下させる虞がある。したがって、Ti/Nの重量%比は2.5~4に制限することが好ましい。
【0024】
N:60ppm以下
N(窒素)は、Tiと結合してTiNを生成させることで、高温でのオーステナイト粒度の成長を防止する役割を果たす。しかし、Tiと結合していない遊離(Free)のNが鋼中に含有される場合、衝撃靭性の低下を引き起こす虞があるため、その含量は60ppm以下に制限することが好ましい。
【0025】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の鉄鋼製造過程では、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造における技術者であれば誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0026】
本発明の好ましい一側面による溶接部靭性に優れた低温用鋼材は、入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]の〔FL~FL+1mm〕部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線[Fusion Line(FL)]からFLの周囲1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上である。
【0027】
前記鋼材の微細組織は、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイト、及び残留オーステナイトを含む。
前記溶接部の微細組織は、マルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトを含むことがよい。
鋼材にはTiN析出あるいはTi(C、N)析出物が生成されることが好ましい。
前記鋼材の降伏強度は585MPa以上であることがよい。
前記鋼材の衝撃遷移温度は-196℃以下であることが好ましい。
前記鋼材の厚さは5~50mmであることができる。
【0028】
以下、本発明の好ましい他の一側面による溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法について説明する。
本発明の好ましい他の一側面による溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.02~0.06%、Ni:6.0~7.5%、Mn:0.4~1.0%、Si:0.02~0.15%、Mo:0.02~0.3%、Cr:0.02~0.3%、P:50ppm以下、S:10ppm以下、Ti:0.005~0.015%、N:60ppm以下、Ti/Nの重量%比:2.5~4、残りの鉄(Fe)及びその他の不可避不純物を含むスラブを1100~1200℃の温度に加熱するスラブ加熱段階と、
前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る熱間圧延段階と、
前記熱延鋼材を空冷する段階と、
前記で空冷された鋼材を800~950℃に再加熱した後、水冷によって焼入れする単相域熱処理焼入れ段階と、
前記単相域熱処理焼入れしてから鋼材を680~750℃の二相域区間に再加熱した後、水冷によって焼入れする二相域熱処理焼入れ段階と、
前記二相域熱処理焼入れ後、鋼材を570~620℃の区間に再加熱して焼戻してから空冷する段階と、を含む。
【0029】
本発明の鋼材製造過程は、スラブ加熱-熱間圧延-熱間圧延後の空冷-オーステナイト単相域熱処理焼入れ-二相域熱処理焼入れ-焼戻し及び焼戻し後の空冷の過程を含む。
【0030】
スラブ加熱、熱間圧延、及び熱間圧延後の空冷
前記の組成で構成されるスラブを加熱する。前記加熱は1100~1200℃で行うことが好ましいが、これは鋳造組織の除去及び成分の均質化のためである。
前記のように加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を得る。加熱されたスラブは、その形状の調整のために、加熱後に熱間圧延(粗圧延及び仕上圧延)を行う。本熱間圧延により鋳造中に形成されたデンドライトなどの鋳造組織の破壊とともに、粗大なオーステナイトの再結晶によって粒度を小さくする効果も得ることができる。熱間圧延終了後、空冷によって常温まで冷却を行う。
このとき、熱間仕上げ圧延温度は700~1000℃であることがよい。
前記熱延鋼材の厚さは5~50mmであることができる。
【0031】
単相域熱処理焼入れ
前記のように空冷された鋼材を800~950℃に再加熱した後、水冷によって焼入れする単相域熱処理焼入れを行う。
熱間圧延後、空冷された鋼材をオーステナイト単相域まで加熱して熱処理してから焼入れを行う。本単相域熱処理焼入れの目的は、熱処理によるオーステナイト粒度の微細化、及び冷却時に微細なパケットを有するマルテンサイト/ベイナイト組織を得ることである。オーステナイト単相域で十分な再結晶を引き起こし、微細な粒度を保持するためには、本単相域焼入れの熱処理温度は800~950℃で行うことが好ましい。
【0032】
二相域熱処理焼入れ
前記単相域熱処理焼入れを行ってから鋼材を680~750℃の二相域区間に再加熱した後、水冷によって焼入れする二相域熱処理焼入れを行う。
前記のように単相域熱処理焼入れした鋼材をオーステナイトとフェライトの二相域に再加熱し、熱処理後に焼入れを行う。本発明の二相域熱処理焼入れ工程の目的は、従来の二相域熱処理時に微細化した組織をさらに微細化することである。二相域熱処理を行う場合、旧オーステナイト粒界及び焼入れ後のマルテンサイトラス(lath)の間でオーステナイトが新たに生成されるようになり、二相域であるため全体ではなく一部のみがオーステナイトに逆変態することで、焼入れ時に逆変態したオーステナイトが再び微細なマルテンサイトに変態するようになって、より微細な組織を確保することができる。また、二相域熱処理時にオーステナイトに逆変態しなかったマルテンサイトでは、成分がマルテンサイトラスの境界に移動することにより、その後の焼戻し時に残留オーステナイトをより容易に生成できるシード(seed)を形成させる。
【0033】
焼戻し及び焼戻し後の空冷
本発明の極低温溶鋼は、焼戻し時に基地組織の軟化による衝撃靭性の向上とともに、-196℃でも安定した残留オーステナイトを生成させて、衝撃靭性を向上させる。620℃を超える温度で焼戻しする場合、微細組織内に生成されるオーステナイトの安定度が低下する。これにより極低温でオーステナイトがマルテンサイトに変態しやすくなって衝撃靭性が低下する虞があるため、焼戻し温度は570~620℃の範囲で行うことが好ましい。
このとき、焼戻しは(1.9t+40~80)分[tは鋼材の厚さ(mm)]間行うことができる。
【0034】
上述の溶接部靭性に優れた低温用鋼材の製造方法によると、降伏強度が585MPa以上であり、衝撃遷移温度が-196℃以下であり、そして、入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上である、溶接部靭性に優れた低温用鋼材を製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、これから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0036】
下記表1に示した組成のとおり構成された厚さ250mmの鋼スラブを、下記表2の条件で熱間圧延して、下記表2に示す厚さを有する鋼材を得た後、下記表2の条件で焼入れ及び焼戻し処理を行った。このとき、焼戻し時間は(1.9t+40~50)分[tは鋼材の厚さ(mm)]であった。前記のように製造された鋼材に対して、母材の降伏強度(MPa)及び母材の衝撃遷移温度(℃)、並びに溶接熱影響部特性を評価し、その結果を下記表3に示した。溶接熱影響部の評価のために5~50kJ/cmの入熱量で溶接を行い、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部の衝撃靭性及び結晶粒サイズを観察し、その結果を下記表3に示した。
溶接部の組織は、いずれもマルテンサイトと焼戻しマルテンサイトとを含んでいる。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
前記表1から3に示したように、比較例1の場合、本発明で提示するTiの上限より高い値を有する。これによりTi/N比が本発明で提示する範囲より高く、多量のTiの添加による粗大なTiN相が晶出され、焼戻し時にTiCが多量に生成されることで、母材が高い強度を有するようになった。これにより、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0041】
比較例2の場合、本発明で提示するTiの下限より低い値を有するため、Ti/N比が本発明で提示する範囲より低く、溶接熱影響部には十分なTiN相が生成されなかった。これにより、溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以上であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0042】
比較例3の場合、本発明で提示するTi/N比が本発明で提示する範囲より低いため、溶接熱影響部に十分なTiN相が微細に生成された。これにより、溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であるが、TiNとして析出できなかったFree Nの量が高いため、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0043】
比較例4の場合、本発明で提示するCの上限より高い値を有することで、過度な硬化能により高い強度値を有する。これにより、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0044】
比較例5の場合、本発明で提示するNiの下限より低い値を有することで、硬化能不足により母材の降伏強度が585MPa以下であり、Ni添加量の不足による靭性低下が発生して、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0045】
比較例6の場合、本発明で提示するMoとCrの上限より高い値を有することで、過度な硬化能により高い強度値を有する。これにより、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶接熱影響部である溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0046】
比較例7の場合、本発明で提示するSi、及びPとSの上限より高い値を有することで、溶接部の強度上昇及びPとSの偏析による脆性が誘発された。これにより、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶接熱影響部である溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0047】
比較例8の場合、本発明で提示するMnの上限より高い値を有することで、過度な硬化能により高い強度値を有する。これにより、母材の衝撃遷移温度が-196℃以上であり、溶接熱影響部である溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以下であることが分かる。
【0048】
一方、本発明で提示した成分範囲を満たし、Ti/Nの重量%比が2.5~4の範囲を満たす発明例1~6の場合、母材の降伏強度が585MPa以上であり、衝撃遷移温度が-196℃以下であり、TiN析出により入熱量5~50kJ/cmで溶接された溶接部の溶接熱影響部において、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mm部のEBSD方法で測定された15度以上の境界角を有する有効結晶粒サイズ(Effective grain size)が50μm以下であり、溶融線[Fusion Line(FL)]~FL+1mmの領域で測定された衝撃靭性が-196℃において70J以上を満たすことが分かる。