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特許7075494シュードペドバクターサルタンス由来フコース転移酵素を用いた2’-フコシルラクトースの生産方法
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  • 特許-シュードペドバクターサルタンス由来フコース転移酵素を用いた2’-フコシルラクトースの生産方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】シュードペドバクターサルタンス由来フコース転移酵素を用いた2’-フコシルラクトースの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220518BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20220518BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220518BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20220518BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220518BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/12
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/52 Z
C12N15/61
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020544739
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 KR2019001837
(87)【国際公開番号】W WO2019194410
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0039121
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0017144
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517399125
【氏名又は名称】アドヴァンスド プロテイン テクノロジーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Advanced Protein Technologies Corp.
【住所又は居所原語表記】147, Gwanggyo-ro, Yeongtong-gu, Suwon-si, Gyeonggi-do 16229, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】シン,チョル ス
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヨン ハ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヨン ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ボ ミ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン キョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ガ ウン
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1544184(KR,B1)
【文献】国際公開第2017/188684(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153300(WO,A1)
【文献】J.Biotechnol.,2015年,Vol.210,p.107-115
【文献】Bioprocess Biosyst. Eng.,2013年,Vol.36,p.749-756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 19/12
C12N 15/54
C12N 15/60
C12N 15/52
C12N 15/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来した配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)が発現するように形質転換され、GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GDP-D-mannose-4,6-dehydratase)が発現するように形質転換され、GDP-L-フコースシンターゼ(GDP-L-fucose synthase)が発現するように形質転換され、ラクトースパーミアーゼ(lactose permease)が発現するように形質転換され、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase)及びGTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylyltransferase)を保有していることを特徴とする、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物。
【請求項2】
前記組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)及びコリネバクテリウムサーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)の中から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物。
【請求項3】
前記配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)は、配列番号4に記載の核酸配列に暗号化されたことを特徴とする、請求項1に記載の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物。
【請求項4】
前記組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase)が過剰発現(overexpression)するように形質転換され、GTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylytransferase)が過剰発現するように形質転換されたことを特徴とする、請求項1に記載の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物。
【請求項5】
ラクトース添加の培地にて、請求項1の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を培養することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの生産方法。
【請求項6】
前記培地は、グルコースをさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の2’-フコシルラクトースの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2’-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose,2’-FL)の生産方法に関し、より具体的には、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来したフコース転移酵素(fucosyltransferase)を挿入した、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物で2’-フコシルラクトースを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の母乳には、200余種以上の独特の構造を持つオリゴ糖(human milk oligosaccharides,HMO)が、他の哺乳類の乳に比べて非常に高い濃度(5~15g/L)で存在する。HMOは、D-グルコース(Glc)、D-ガラクトース(Gal)、N-アセチルグルコサミン(N-aetylグルコサミン、GlcNAc)、L-フコース(L-fucose,Fuc)、及びシアル酸(sialc acid)[Sia;N-acetyl neuraminic acid(Neu5Ac)]で構成されている。
【0003】
HMOの構造は非常に多様で複雑なため、異なる残基及びグリコシル結合を有する200個程度の異性体が、互いに異なる重合度(DP3-20)で存在しうる。ただし、構造的複雑性にもかかわらず、HMOはいくつかの共通した構造を示すが、大部分のHMOは、還元末端にラクトース(Galβ1-4Glc)残基を有する。ラクトースのGalは、α-(2,3)-とα-(2,6)-結合により、それぞれ3-シアリルラクトース(3-sialyllactose)又は6-シアリルラクトース(6-sialyllactose)の形態にシアル化し、α-(1,2)-とα-(1,3)-結合により、それぞれ2-フコシルラクトース(2’-fucosyllactose,2’-FL)又は3-フコシルラクトース(3’-fucosyllactose,3-FL)の形態にフコシル化(fucosylation)されうる。
【0004】
母乳において、最も含有量の高いオリゴ糖3種を含めて137種のオリゴ糖がフコシル化されていて約77%を占め、残りのオリゴ糖は、大部分がシアル化されたもの(39個)であって、約28%を占める。特に、2-フコシルラクトース及び3-フコシルラクトースは、腸内乳酸菌の生育を手伝うプレバイオティック(prebiotic)効果、病原菌感染の予防、免疫システムの調節及び頭脳の発達など、乳児の発達及び健康に肯定的影響を及ぼす様々な生物学的活性を提供する主要なHMOであるので、幼児期の母乳の授乳は非常に重要である、と専門家たちは強調している。
【0005】
しかしながら、女性の約20%は、フコシルオリゴ糖(fucosyl-oligosaccharides)を合成するフコース転移酵素(fucosyltransferase)の変異のため、体内でそれらを十分に合成できないものとして知られている。このため、フコシルラクトースの産業的生産が必要なのが実情である。
【0006】
一方、フコシルラクトースの生産方法には、母乳から直接抽出する方法、及び、化学的又は酵素的方法で合成する方法がある。直接抽出する方法は、母乳供給の限界及び低い生産性が問題であり、化学的合成法は、高価の基質、低い異性体選択性(stereo-selectivity)及び生産収率、毒性の有機溶媒の使用などの問題がある。また、酵素的合成法は、フコースの供与体(donor)として用いられるGDP-L-フコースが非常に高価であり、また、フコース転移酵素の精製に高いコストがかかるという問題点がある。
【0007】
上記のような問題点から、直接抽出、化学的又は酵素的生産法はフコシルラクトースの大量生産に適用し難く、その解決策として、微生物を用いた2’-フコシルラクトースの生産が提案されている。微生物を用いた2’-フコシルラクトースの生産の従来技術は、大部分が、組換え大腸菌を用いたものである。しかし、実験用に用いられる大部分の大腸菌は、実際には病原菌でないにもかかわらず、消費者には有害な菌との認識が強い。
【0008】
また、大腸菌の細胞膜成分がエンドトキシンとして作用し得るため、2’-フコシルラクトースの生産において分離精製に多くのコストがかかる。このため、食品及び医薬品の素材であるフコシルラクトースを生産する宿主細胞として、大腸菌を利用するには、困難があるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、食品及び医薬品の素材であるフコシルラクトースを生産する宿主細胞として、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来したフコース転移酵素(fucosyltransferase)を挿入した、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を用いて2’-フコシルラクトースを生産する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来した配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)が発現するように形質転換され、GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GDP-D-mannose-4,6-dehydratase)が発現するように形質転換され、GDP-L-フコースシンターゼ(GDP-L-fucose synthase)が発現するように形質転換され、ラクトースパーミアーゼ(lactose permease)が発現するように形質転換され、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase)及びGTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylyltransferase)を保有していることを特徴とする、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を提供する。
【0011】
本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、好ましくは、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)及びコリネバクテリウムサーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)の中から選ばれるいずれか一つであるとよい。。
【0012】
本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物において、前記配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)は、好ましくは、配列番号4に記載の核酸配列に暗号化されたものがよい。
【0013】
本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物において、前記組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、好ましくは、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase)が過剰発現(overexpression)するように形質転換され、GTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylytransferase)が過剰発現(overexpression)するように形質転換されたものがよい。
【0014】
また、本発明は、ラクトース添加の培地に、前記本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を培養することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの生産方法を提供する。
【0015】
本発明の2’-フコシルラクトースの生産方法において、前記培地は、好ましくはグルコースをさらに含むとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来したフコース転移酵素(fucosyltransferase)を挿入した組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、従来の大腸菌に比べて安全でありながらも、高濃度、高収率、及び高い生産性で、2’-フコシルラクトースを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】pFGW(Ps)プラスミドの模式図である。
図2】pXILプラスミドの模式図である。
図3】pFGW(Hp)プラスミドの模式図である。
図4】ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された、組換え菌株の培養結果である(●:乾燥細胞重量、■:ラクトース、▼:グルコース、◆:2’-FL、◇:ラクテート、○:アセテート)。
図5】ペドバクターサルタンス(Pedobacter saltans)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された、組換え菌株の培養結果である(●:乾燥細胞重量、■:ラクトース、▼:グルコース、◆:2’-FL、◇:ラクテート、○:アセテート)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来した配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)が発現するように形質転換され、GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GDP-D-mannose-4,6-dehydratase)が発現するように形質転換され、GDP-L-フコースシンターゼ(GDP-L-fucose synthase)が発現するように形質転換され、ラクトースパーミアーゼ(lactose permease)が発現するように形質転換され、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomurase)及びGTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylyltransferase)を保有していることを特徴とする、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を提供する。
【0019】
本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、好ましくは、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)及びコリネバクテリウムサーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)の中から選ばれるいずれか一つであるとよい。
【0020】
一方、ブレビバクテリウムフラバム(Brevibacterium flavum)は、現在、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)に分類されるので、ブレビバクテリウムフラバム(Brevibacterium flavum)菌株も本発明の範疇に含まれる。
【0021】
また、ユニプロット(UniProt)データベースによれば、ブレビバクテリウムサッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)は、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の同義語として用いられており、ブレビバクテリウムラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)もコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の別名とされているので、ブレビバクテリウムサッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)及びブレビバクテリウムラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)も本発明の範疇に含まれる(W.LIEBL et al.,INTERNATIONAL JOURNAL OF SYSTEMATIBCA CTERIOLOGY,Apr.1991,p.255-260;LOTHAR EGGELING et al.,JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING Vol.92,No.3,201-213.2001;Jill A.Haynes et al.,FEMS Microbiology Letters 61(1989)329-334)。
【0022】
本発明者らは、以前に、大韓民国登録特許第10-17312630000号(2017.04.24)を通して、コリネバクテリウムを用いた2’-フコシルラクトースの生産方法について特許を取得したことがある。本発明では、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)から由来したフコース転移酵素(fucosyltransferase)を、コリネバクテリウムに挿入することによって、既存のヘリコバクターピロリ(Helicovacter pylori)から由来したフコース転移酵素(fucosyltransferase)を、コリネバクテリウムに挿入することによって生産された2’-フコシルラクトースに比べて、著しく多量の2’フコシルラクトースを得ることができた。
【0023】
一方、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)又はコリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)は、従来に使用した大腸菌とは違い、GRAS(generally recognized as safe)と認められた菌株であるだけでなく、エンドトキシンを生産せず、食品添加物であるアミノ酸及び核酸の産業的生産に広く用いられている菌株である。したがって、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)又はコリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)は、食品及び医薬品の素材の生産に適した菌株であるといえ、安全性の面において消費者の心配を払拭できるという長所がある。
【0024】
一方、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)及びコリネバクテリウムサーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)を含むコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、大腸菌とは菌株自体の遺伝的特性が異なるため、大腸菌に適用した戦略とは異なる戦略を用いる必要がある。2’-フコシルラクトースを生産するためには、大腸菌であっても、コリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物であっても、基本的に、外来のα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)を導入しなければならないというのは同一であるが、コリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物であると、この他に、さらに、GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GDP-D-mannose-4,6-degydratase,Gmd)、GDP-L-フコースシンターゼ(GDP-L-fucose synthase,WcaG)、及びラクトースパーミアーゼ(lactose permease,LacY)を導入する必要がある。
【0025】
ここで、本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物において、前記配列番号5に該当するアミノ酸配列を有するα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)は、好ましくは配列番号4に記載の核酸配列に暗号化されたものがよく、前記GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GDP-D-mannose-4,6-dehydratase,Gmd)、GDP-L-フコースシンターゼ(GDP-L-fucose synthase,GDP-4-keto-6-deoxymannose-3,5-epimerase-4-reductase,WcaG)及びラクトースパーミアーゼ(lactose permease,LacY)を暗号化する遺伝子は、周知のものを使用できるが、好ましくは、大腸菌から由来したものを使用するとよい。ただし、ラクトースパーミアーゼ(lactose permease,LacY)は、菌株の外部に存在するラクトースを菌株の内部に輸送することに関与する酵素であるが、本発明においてLacオペロンは、ラクトースを流入するために導入しているので、敢えてlacA遺伝子まで導入する必要はなく、lacY遺伝子を導入するだけで足りる。
【0026】
一方、組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase,ManB)、GTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylyltransferase,ManC)を暗号化する遺伝子を、自分自身で保有していて発現させることができるので、敢えてこの酵素を過剰発現させる必要はないのであるが、大量生産のためには、この酵素を過剰発現させなければならない。したがって、本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物において、前記組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物は、好ましくは、ホスホマンノムターゼ(phosphomannomutase)が過剰発現するように形質転換されるとともに、GTP-マンノース-1-ホスフェートグアニリルトランスフェラーゼ(GTP-mannose-1-phosphate guanylytransferase)が過剰発現するように形質転換されたものがよい。
【0027】
また、本発明は、ラクトース添加の培地にて、前記本発明の組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物を培養することを特徴とする2’-フコシルラクトースの生産方法を提供する。下記の本発明の実験による場合、既存の菌株を使用する場合に比べて、より、高濃度、高収率、高い生産性で、2’-フコシルラクトースを組換えコリネバクテリウム属(Corynebacterium SP.)微生物から生産することができた。
【0028】
一方、本発明の2’-フコシルラクトースの生産方法において、前記培地は、好ましくは高濃度のグルコースをさらに含むことがよい。グルコースが培地に追加されることによって菌株の生育が活発になり、より高い生産性で2’-フコシルラクトースを生産することができる。
【0029】
一方、前記本発明の2’-フコシルラクトースの生産方法は、好ましくは、グルコース又はラクトースをさらに供給する流加式培養がよい。流加式培養によってグルコース又はラクトースを持続して供給すると、細胞の成長をより増大させ、高純度、高収率、高生産性でフコシルラクトースを生産できるからである。流加式培養に関する細部の枝葉の技術も、当業界における公知技術を用いることができ、それについては記載を省略する。
【0030】
以下、本発明の内容を、下記実施例を用いて、より詳細に説明する。ただし、本発明の権利範囲は、下記実施例に限定されず、それと等価の技術的思想の変形も含む。
【0031】
一方、下記では宿主細胞としてコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)だけを用いて効果を確認したが、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)と、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウムサーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウムフラバム(Brevibacterium flavum)、及び、ブレビバクテリウムラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)は、形質転換システムが同一に適用され得るので、同一の効果が期待できる。
【0032】
[製造例1:組換えプラスミドの作製]
プラスミドの作製及び2’-フコシルラクトース(fucosyllactose,2’-FL)の生産のために、それぞれ、大腸菌(Escherichia coli)K-12 MG1655及びコリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032を使用した。
【0033】
pFGW(Ps)プラスミドを構築するために、大腸菌であるK-12 MG1655のゲノム(genomic)DNAから、2つのDNAプライマー(primer)GW-F及びGW-Rを用いたPCR反応によって、gmd-wcaG遺伝子クラスター(cluster)を増幅した。また、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032のゲノムDNAから、2つのDNAプライマーSod-F及びSod-Rを用いたPCR反応によって、Sod遺伝子のプロモーターを増幅した。この後、2つのDNAプライマーSod-F及びGW-Rを用いて、オーバーラップ(overlap)PCR反応によって、pSod-Gmd-WcaG DNA切片を合成した。
【0034】
また、pXMJ19プラスミド(plasmid)から、2つのDNAプライマーTer-F及びTer-Rを用いたPCR反応を用いて転写終結配列を増幅した。この後、前記合成したpSod-Gmd-WcaG及び転写終結配列を鋳型として、2つのDNAプライマーSod-F及びTer-Rを用いたPCR反応によって、pSod-Gmd-WcaG-ter配列を合成し、これを、制限酵素BamHIで切り取ったpCES208プラスミドに挿入してpGWプラスミドを構築した。
【0035】
また、コリネバクテリウムグルタミクムATCC 13032のゲノムDNAから、2つのDNAプライマーTuf-F1及びTuf-R1を用いたPCR反応によって、Tuf遺伝子プロモーターを増幅した。また、合成されたシュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)DSM12145由来α-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)から、2つのDNAプライマーFT(Ps)-F及びFT(Ps)-Rを用いたPCR反応によって、α-1,2-フコース転移酵素を増幅した。この後、2つのプライマーTuf-F及びFT(Ps)-Rを用いてオーバーラップ(overlap)PCR反応によって、pTuf-FT(Ps)DNA切片を合成した。前記構築されたpGWプラスミドに、制限酵素NotIを処理してpTuf-FT(Ps)を挿入することによってpFGW(Ps)プラスミドを構築した。
【0036】
一方、pXILプラスミドを構築するために、大腸菌K-12 MG1655のゲノムDNAから、2つのDNAプライマーilvC-lacY-F及びlacY pX-Rを用いたPCR反応によって、lacY遺伝子を増幅した。また、コリネバクテリウムグルタミクムATCC 13032のゲノムDNAから、2つのDNAプライマーpX-ilvC-F及びilvC-lacY-Rを用いたPCR反応によって、ilvC遺伝子のプロモーターを増幅した。この後、2つのDNAプライマーpX-ilvC-F及びlacY pX-Rを用いて、オーバーラップ(overlap)PCR反応によって、pilvC-lacY DNA切片を合成し、これを、制限酵素NotI及びEcoRIが処理されたpXプラスミド(pXMJ19)に挿入してpXILプラスミドを構築した。
【0037】
一方、pFGW(Hp)ベクターを構築するために、前記構築されたpGWプラスミドを利用したのであり、コリネバクテリウムグルタミクムATCC 13032のゲノムDNAから、2つのDNAプライマーTuf-F1及びTuf-R2を用いたPCR反応によって、Tuf遺伝子プロモーターを増幅し、コリネバクテリウムグルタミクムのコドンを最適化(codon optimization)して合成されたヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)ATCC 700392由来のα-1,2-フコース転移酵素(α-1,2-fucosyltransferase)から、2つのDNAプライマーFT(Hp)-F及びFT(Hp)-Rを用いたPCR反応によって、α-1,2-フコース転移酵素を増幅した後、2つのプライマーTuf-F1及びFT(Hp)-Rを用いて、オーバーラップ(overlap)PCR反応によって、pTuf-FT(Ps)DNA切片を合成した。前記構築されたpGWプラスミドに制限酵素NotIを処理してpTuf-FT(Hp)を挿入することによってpFGW(Hp)プラスミドを構築した。
【0038】
本製造例で使用した菌株(strain)、プライマー(primer)、プラスミド(plasmid)、核酸及びアミノ酸の配列は、下記の表1~4に記載している。
【0039】
[表1]菌株
【0040】
[表2]核酸及びアミノ酸配列
【0041】
[表3]プライマー
【0042】
[表4]プラスミド
【0043】
[実施例1:シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株の培養]
pFGW(Ps、図1)及びpXIL(図2)が挿入されたコリネバクテリウムグルタミクム(C.glutamicum)ATCC 13032を、カナマイシン(kanamycin)25μg/mL及びクロラムフェニコール(chloramphenicol)5μg/mLを含有する5mLのBHI(Brain Heart Infusion)培地が入れられた実験において、30℃、250rpmで12時間、種菌培養した。図1は、pFGW(Ps)プラスミドの模式図であり、図2は、pXILプラスミドの模式図である。
【0044】
回分式培養は、50mLの最小培地((NHSO 20g/L、尿素(ウレア)5g/L、KHPO 1g/L、KHPO 1g/L、MgSO・7HO 0.25g/L、MOPS 42g/L、CaCl 10mg/L、ビオチン0.2mg/L、プロトカテク酸30mg/L、FeSO・7HO 10mg/L、MnSO・HO 10mg/L、ZnSO・7HO 1mg/L、CuSO 0.2mg/L、NiCl・6HO 0.02mg/L、グルコース40g/L、ラクトース10g/L、pH7.0)50mLが入れられた250mLフラスコを利用し、30℃、250rpmで90時間行った。
【0045】
[比較例1:ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株の培養]
実施例1においてpFGW(Ps、図1)をpFGW(Hp、図3)に変更した以外は同一の培養方法を用いた。図3は、pFGW(Hp)プラスミドの模式図である。
【0046】
[実験例1:実施例1及び比較例1の組換え菌株における2’-FL生産の比較]
実施例1及び比較例1で製造された組換え菌株における2’-FL(2’-フコシルラクトース)の生産量を比較した(図4図5、表5)。図4は、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株の培養結果であり、図5は、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株の培養結果である(●:乾燥細胞重量、■:ラクトース、▼:グルコース、◆:2’-FL、◇:ラクテート、○:アセテート)。
【0047】
[表5]
【0048】
実験の結果、シュードペドバクターサルタンス(Pseudopedobacter saltans)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株が、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)由来のフコース転移酵素(fucosyltransferase)が挿入された組換え菌株に比べて、2’-フコシルラクトースの生産性が、2倍程度高いことが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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