(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造
(51)【国際特許分類】
F16C 13/00 20060101AFI20220518BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20220518BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
F16C13/00 Z
F16B4/00 D
F16H63/34
(21)【出願番号】P 2021518243
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018357
(87)【国際公開番号】W WO2020225865
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】株式会社NITTAN
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】本間 弘一
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 高
(72)【発明者】
【氏名】川口 享士
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴史
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038208(WO,A1)
【文献】実開平2-21356(JP,U)
【文献】特開平6-249218(JP,A)
【文献】実開平5-96523(JP,U)
【文献】特開2006-301333(JP,A)
【文献】特開2008-64128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00
F16B 4/00
F16H 63/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を軸方向に摺動するピストンに一体化されたピストンロッドと、前記ピストンロッドに設けられた該ピストンロッドと直交する方向に貫通する長穴と、前記長穴を挟んで対向する一対の長穴形成壁にそれぞれ設けられた前記ピストンロッドの軸と直交する方向に延びる第1貫通孔及び第2貫通孔と、前記第2貫通孔に圧入固定されたピンに内接孔を介して回転自在に支承された転動ローラと、を備え、前記第2貫通孔の内径が第1貫通孔の内径および前記転動ローラに設けた前記内接孔の内接円径よりも小さく形成され、前記一対の長穴形成壁間に第1貫通孔から内接孔まで全て揃うように前記転動ローラを配置した状態で、前記第1貫通孔、内接孔の順に前記ピンを挿通し、更に該ピンの先端部が第2貫通孔に圧入された、ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造であって、
圧入された前記ピンの先端部が露呈する前記第2貫通孔の内周縁部には、テーパー形状の孔側面取り部が周設されるとともに、前記ピンの先端部の外周縁部には、テーパー形状または少なくとも第2貫通孔の内周面への接触部位に円弧部を含む円弧形状のピン側面取部が周設されたことを特徴とする、ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造。
【請求項3】
前記ピンは、該ピンを圧入する前記第2貫通孔の圧入面に対応する位置において、前記ピン側面取部の基端部に隣接して形成される圧入部と、前記圧入部の外周に周設される円環溝を有し、
前記圧入部の通過によって前記第2貫通孔の圧入面に形成される弾性復帰部が前記円環溝に侵入して係合することを特徴とする、請求項1または2に記載の転動ローラのピストンロッドへの組み付け構造。
【請求項4】
前記転動ローラの支承軸である前記ピンには、前記ピンの先端部の外径よりも大きな大径部が前記円環溝の基端側に連続して形成され、前記大径部の先端は、前記ピンを前記第2貫通孔に圧入する際に、前記第2貫通孔の基端周縁部に当接する位置に形成されたことを特徴とする、請求項3に記載の転動ローラのピストンロッドへの組み付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリンダ内を摺動するピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造に関する技術。
【背景技術】
【0002】
引用文献1の
図2及び
図5に示すようにパーキング装置に用いられる油圧アクチュエータは、シリンダ内を軸方向に摺動するピストンロッドを一体化したピストンを備え、ピストンロッドには、該ピストンロッドを横切って軸方向に延びる長穴が設けられ、長穴の内側には、ローラベアリングを構成する転動ローラが収容されている。転動ローラは、長穴を横切るように配設された回動支軸であるピンに支承されている。また、ピストンロッドは、その側方に設けられた磁気ロック装置のロックシャフトが転動ローラに係合しつつ長穴に向かって進退動作すること
によって、軸方向の移動を制御される。
【0003】
引用文献1の
図5において転動ローラを支承するピンは、一対の長穴形成壁にそれぞれ設けられた貫通孔の一方に圧入固定されている。即ち、ピンは、圧入力の節約と圧入時間の短縮化の観点
から、対向する一対の貫通孔のうち、ピンを挿入する側と反対側の貫通孔
にのみ、先端部を圧入されている。ピンは、先端側の貫通孔への圧入代(ピンの貫通孔との接触面積)が
大きいほど、貫通孔への固定保持力が大きくなるため、ピンの先端部は、ピストンロッドの外周面とほぼ面一となる位置まで圧入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ピンを貫通孔に圧入する場合、ピン先端の外周縁部と貫通孔の内周面との間に作用する剪断力により、貫通孔の内周面がピンの進行方向に塑性変形することで、ピンの先端を露出させる貫通孔の開口周縁部が盛り上がったり、貫通孔の内周面が削れて、貫通孔の開口周縁部に糸バリが発生することがある。このようにして、ピンをピストンロッドの貫通孔に圧入する際に貫通孔の開口周縁部に形成される盛り上がりや糸バリを原因として、ピストンロッドの摺動面に発生する突出部は、シリンダに対するシリンダロッドの摺動動作を妨げるおそれがあるため、切削や研削によって取り除く作業工数や作業時間の増加による製造コストの増加が問題となっていた。上記課題に鑑み、本願発明は、ピンをシリンダロッドの貫通孔に圧入しても、シリンダロッドの摺動面に突出部を発生させずに、低コストで行われる、ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シリンダ内を軸方向に摺動するピストンに一体化されたピストンロッドと、前記ピストンロッドに設けられた該ピストンロッドと直交する方向に貫通する長穴と、前記長穴を挟んで対向する一対の長穴形成壁にそれぞれ設けられた前記ピストンロッドの軸と直交する方向に延びる第1貫通孔及び第2貫通孔と、前記第2貫通孔に圧入固定されたピンに内接孔を介して回転自在に支承された転動ローラと、を備え、前記第2貫通孔の内径が第1貫通孔の内径および前記転動ローラに設けた前記内接孔の内接円径よりも小さく形成され、前記一対の長穴形成壁間に第1貫通孔から内接孔まで全て揃うように前記転動ローラを配置した状態で、前記第1貫通孔、内接孔の順に前記ピンを挿通し、更に該ピンの先端部が第2貫通孔に圧入された、ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造であって、圧入された前記ピンの先端部が露呈する前記第2貫通孔の内周縁部には、テーパー形状の孔側面取部が設けられるとともに、前記ピンの先端部の外周縁部には、テーパー形状または少なくとも第2貫通孔の内周面への接触部位に円弧部を含む円弧形状のピン側面取部が設けられるようにした。
【0007】
(作用)ピンを第2貫通孔に圧入する際に、ピンと第2貫通孔の内周面との間には、糸バリが発生せず、また、ピストンロッドの第2貫通孔の内周面とピンとの間に作用す剪断力によって、第2貫通孔の内周面に盛り上がりが発生しても、その盛り上がりは、孔側面取部に発生する。孔側面取部に発生した盛り上がりは、孔側面取部とピン側面取部との間に収納されて、ピストンロッドの摺動面に突出しない。
【0008】
また、前記ピンは、該ピンを圧入する前記第2貫通孔の圧入面に対応する位置において、ピン側面取部の基端部に隣接して形成される圧入部と、前記圧入部の外周に周設される円環溝を有し、前記圧入部の通過によって前記第2貫通孔の圧入面に形成される弾性復帰部が前記円環溝に侵入して係合することが望ましい。
【0009】
(作用)ピストンロッドの第2貫通孔の圧入面は、ピンの圧入部によって半径方向外側に弾性変形し、該圧入部の通過後に、圧入部の円環溝に向かって半径方向内側に弾性復帰し、弾性復帰部は、ピンの円環溝の開口縁部に係合する。
【0010】
また、前記円環溝の内周面の少なくとも一部に、前記弾性復帰部が圧接密着して係合することが望ましい。
【0011】
(作用)ピンをピストンロッドの第2貫通孔に圧入する際に、圧入部の通過によって、第2貫通孔の内周面の弾性復帰部は、ピンの円環溝の開口縁部のみならず、内周面の少なくとも一部に密着係合する。
【0012】
また、前記転動ローラの支承軸である前記ピンには、前記ピンの先端部の外径よりも大きな大径部が円環溝の基端側に連続して形成され、前記大径部の先端が前記ピンを前記第2貫通孔に圧入する際に、前記第2貫通孔の基端周縁部に当接する位置に形成されることが望ましい。
【0013】
(作用)ピンをピストンロッドの第2貫通孔に圧入する際に、ピンの円環溝の基端側に連続して形成された大径部が、ピストンロッドの第2貫通孔の基端周縁部に当接することで、ピストンロッドの第2貫通孔に対するピンの先端方向への移動を制限する。
【発明の効果】
【0014】
ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造によれば、ピンをピストンロッドの第2貫通孔に圧入しても、ピストンロッドの摺動に悪影響を及ぼす糸バリや盛り上がりを、ピストンロッドの摺動面に突出させないため、ピストンロッドへの転動ローラを支承したピンの組付けを、低コストで行うことが出来る。
【0015】
ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造によれば、ピンをピストンロッドの第2貫通孔に圧入する際に、第2貫通孔の圧入面の一部に形成される弾性復帰部が、半径方向内側に向かってピン側に弾性復帰し、ピン側の円環溝の開口縁部に係合しつつ該円環溝に侵入することによって、ピンを軸方向に移動不能な状態に位置決めして抜け止めする。ピンは、圧入部がピストンロッドの弾性復帰部を除く圧入面から受ける半径方向内側の弾性復帰力に加え、円環溝の開口縁部に係合するピストンロッド側の弾性復帰部によって、一掃強固にピストンロッドの第2貫通部の内周面に位置決め固定される。
【0016】
ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造によれば、ピンをピストンロッドの第2貫通孔に圧入する際に、第2貫通孔の内周面の一部である弾性復帰部が、ピン側の円環溝の開口縁部に係合しつつ該円環溝に侵入することで、ピンを抜け止めすることに加え、弾性復帰部が円環溝の内周面の少なくとも一部に密着係合することで、第2貫通孔に固定した後のピンのピストンロッドに対する揺動を抑制し、ピンをピストンロッドの第2貫通孔の内周面に一掃強固に固定する。
【0017】
ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造によれば、ピン側に形成された大径部がピストンロッドの第2貫通孔の基端周縁部に当接することで、第2貫通孔内のピンをピストンロッドに対して先端部側に移動不能に位置決めし、ピンをピストンロッドの第2貫通孔の内周面に一掃強固に固定する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造を示す第1実施例に関するピストンロッドの斜視図。
【
図2】ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造を示す第1実施例に関するピストンロッドを横置きしたものの側面図。
【
図3】第1実施例のピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造を示す、
図2のI-I断面図。
【
図4】ピン側面取部、孔側面取部及びピンの円環溝を示す
図3の拡大部分断面図。
【
図5】
図4に示すピンの円環溝の変形例を示す拡大部分断面図。
【
図6】ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造の第2実施例を示す軸方向断面図。
【
図7】ピン側面取部、孔側面取部及びピンの円環溝を示す
図6の拡大部分断面図。
【
図8】
図7に示すピン側の面取部の変形例を示す拡大部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から
図3によりピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造に関する第1実施例を説明する。
【0020】
図1及び
図2に示すピストンロッド1は、円柱形状を有し、基端部1aにピストンロッド1よりも大きな外径を有するピストン
2が一体化されている。ピストンロッド1とピストン2は、図示しないシリンダ内に収納されて、パーキングブレーキのオンとオフとを切り換える油圧アクチュエータ(図示せず)を構成する。ピストンロッド1は、シリンダ(図示せず)の小円筒内に係合し、ピストン2は、シリンダ(図示せず)の大円筒に係合し、共に油圧と油圧に抗するバネ(図示せず)の反力によって軸方向に往復揺動し、パーキングブレーキのオンとオフとの切り替えに利用される。
【0021】
図1及び
図2に示すピストンロッド1は、先端に軸方向(ピストンロッド1の中心軸線L1に沿った方向)への切欠部1bを介して対向して設けられた一対の壁部(1c,1d)
と、一対の壁部に対向するように設けられた一対の同大の孔(1e、1f)を有する。また、ピストンロッド1の中央部近傍には、ピストンロッドの中心軸線L1と直交する方向に貫通する長穴3と、長穴3を挟んで対向する一対の長穴形成壁(4,5)が形成される。
【0022】
図2と
図3に示す
ように、一対の長穴形成壁(4,5)には、それぞれピストンロッドの中心軸線L1と直交する方向(直線L2に沿った方向)に貫通する第1貫通孔6と第2貫通孔7が形成される。一対の第1貫通孔6と第2貫通孔7は、それぞれ円孔として形成され、かつ対向する位置に形成される。一対の長穴形成壁(4,5)は、共に肉厚t1を有するように形成され、
図4に示す
ように、ピストンロッド1の外周面1g側に開口する外周側開口部7aの内周縁部には、テーパー形状の孔側面取部7bが形成され、孔側面取部7bを除く第2貫通孔7の内周面は、ピン8を圧入される圧入面7cとなる。
【0023】
図2と
図3に示す第2貫通孔7は、ピン8の先端を圧入するため、ピン8に対してしまりばめと
なるように、ピン8の外径d1よりも内径D2を微小長さだけ小さく形成される。第1貫通孔6と転動ローラ10の内接孔9(ピン8を複数の円柱形状の転動体10aにそれぞれ内接させつつ挿入するための孔)は、ピン8を挿入出来れば良いため、ピンに対して中間ばめまたは隙間ばめと
なるように、第1貫通孔6の内径D1及び内接孔9の内接円径D3(各転動体10aとピン8との内接点を結んでなる内接円の径)
を、それぞれ第2貫通孔7の内径D2よりも大きくし、かつピン8の外径d1と同一または微小長さだけ大きく形成される。長穴3には、後述する手段で第1貫通孔6と第2貫通孔7に配置かつ固定されたピン8を
介して、転動ローラ10が回動可能に支承される。尚、転動ローラ10は、転動
ベアリングで、後述する第2実施例の転動ローラ34のように内輪を有するものとしても良い。ピン8を係合させる転動ローラ10の内接孔9は、長穴3の内側で第1貫通孔6及び第2貫通孔7と同一の中心軸線L2を有するように揃えて配置される。
【0024】
図1及び
図2に示すようにピストン2は、有底円筒状に形成されて、中央に円柱形の台座部2aを有する
と共に、先端の外周にシリンダ(図示せず)の大円筒内を摺動するフランジ部2bを有する。また、ピストン2は、台座部2aをピストンロッド1の基端部1aに接合され
ること
によって、ピストンロッド1と同軸(中心軸線L1)になるよう一体化される。ピストンロッド1の外周面1gは、図示しないシリンダの小円筒内を摺動し、フランジ部2bは、シリンダ(図示せず)の大円筒内を摺動する。ピストンロッド1とピストン2は、長穴3と転動ローラ10との間の隙間
3aに、図示しない静止ピン
等が中心軸線L1と直交する方向に差し込まれること
によって、中心軸線L1方向へ揺動不能に保持される。
【0025】
図3と
図4に示すようにピン8は、先端部8aの外周縁部にテーパー形状のピン側面取部11を有する。テーパー形状のピン側面取部11は、ピン8の中心軸線L2に沿った方向
に対して、20°超かつ30°以下の傾きを持つように形成されることが望ましく、更には、0°超かつ20°以下の傾きを持つように形成されることがより望ましい。ピン側面取部11の傾きが20°超30°以下の場合、ピン側面取部11の基端部11aは、第2貫通孔7の圧入面7c
に対して、孔側面取部7bとピン側面取部11の内側に収納可能な極めて少量の糸バリしか形成しなくなり、ピン側面取部11の傾きが0°超20°以下の場合、ピン側面取部11の基端部11aは、第2貫通孔7の圧入面7cに対して糸バリを形成しなくなる。
【0026】
また、
図4に示すように、ピン側面取部11の基端部11aには、圧入部12が隣接するように形成され、更に圧入部12には、ピン8の中心軸線L2を中心として外周面を周回する凹型の円環溝13が形成される。円環溝13は、ピン8を圧入する長穴形成壁5の第2貫通孔7の圧入面7cに対応する位置に形成される。具体的には、長穴形成壁5の厚さt1
に対して、ピン側面取部11の軸方向長さをh1とすると、圧入部12は、中心軸線L2に沿ってピン側面取部11の基端部11aから基端部方向にt1-h1離れた位置12a(以降は圧入部12の基端部12aとする)までの範囲に形成され、円環溝13は、ピン側面取部11の基端部11aから圧入部の基端部12aの範囲内に形成されて、その全域で圧入面7cに対向する。
【0027】
ここで、
図3と
図4により、ピン8によるピストンロッド1への転動ローラ10の組み付けについて説明する。尚、
図4と後述する
図5においては、説明の便宜上、転動ローラ10の記載を省略している。まず、転動ローラ10の内接孔9を一対の長穴形成壁(4,5)の第1貫通孔6及び第2貫通孔7に揃えるようにしつつ、転動ローラ10を長穴3の長穴形成壁(4,5)の間に配置する。次に、ピン8の先端部8aを長穴形成壁4の第1貫通孔6から転動ローラ10の内接孔に順に挿通し、最後に長穴形成壁5の第2貫通孔7に挿通させる。第2貫通孔7の内径D2は、ピン8の外径d1よりも微小長さ小さく、しまりばめとなるように形成されているため、ピン8は、先端部8aが外周側開口部7aと面一になるように、圧入部12を第2貫通孔7の圧入面7cに圧入される。
【0028】
図4に示す
ように、ピン8の圧入部12を第2貫通孔7に圧入すると、第2貫通孔7は、ピン側面取部11の基端部11aよりも先端側の内周壁を圧入部12によって先端方向に押圧されること
によって、孔側面取部7bの基端部の近傍に盛り上がりを生じ、または、ピン側面取部11の基端部11aによって圧入面7cの一部を
削られて、孔側面取部7bとピン側面取部11との間に形成される収容領域14内に収容可能な程度の少量の糸バリを生じる。孔側面取部7bに発生した盛り上がりや圧入面7cから生じた少量の糸バリは、いずれも第2貫通孔7の
内側で、孔側面取部7bとピン側面取部11との間に形成される収容領域14内に収容されるため、ピストンロッド1の外周面1gに突出してピストンロッド1の摺動を妨げることがない。
【0029】
一方、
図3,
図4に示すように第2貫通孔7の内周壁である圧入面7cは、ピン側面取部11の基端部11aよりも基端側の
部位が、ピンの圧入部12によってピン8の半径方向外側に弾性変形し、圧入面7cの一部は、先端側圧入部(基端部11aと円環溝13の先端部13aとの間の部位)の
通過後に、円環溝13に向かって半径方向内側に弾性復帰する。円環溝13に向かって復帰することで形成される弾性復帰部15は、ピン8の円環溝13の開口縁部、即ち先端部13aと基端部13bに係合しつつ円環溝13の内側に侵入する。ピン8は、圧入部12を第2貫通孔7の圧入面7cに圧入固定されることに加え、更に円環溝13に侵入した長穴形成壁5の弾性復帰部
15が、先端部13aと基端部13bに押圧された状態で係合する
ことで、中心軸線L2に沿った方向に抜け止めされることにより、長穴形成壁5の第2貫通孔7に一層強固に固定される。
【0030】
尚、円環溝13の軸方向長さ(中心軸線L2に沿った方向の長さ)は、t1-h1よりも短く形成され、かつ円環溝13の先端部13aと基端部13bは、ピン側面取部11の基端部と、圧入部12の基端部12aにそれぞれ隣接しないように形成されることが望ましい。その場合、第2貫通孔7に圧入されたピン8の圧入部12が、円環溝13の先端側と基端側の両側で第2貫通孔7の圧入面7cに面接触しつつそれぞれ密着することにより、第2貫通孔7内のピン8は、中心軸線L2に対して傾かずに固定される。
【0031】
尚、
図5は、ピンに形成する円環溝の変形例を示すものである。
図5に示すピン18は、円環溝19の形成位置が、第1実施例の円環溝13よりも中心軸線L2に沿って基端部方向にずれた位置に周設されること
によって、円環溝19の一部が第2貫通孔7の圧入面7cに対応する位置に形成されている他、ピン8と共通の構成を有する。
【0032】
具体的には、
図5の円環溝19においては、先端部19aが第2貫通孔7の圧入面7cに対応する位置に形成され、基端部19bが第2貫通孔7の基端部7dよりも中心軸線L2に沿ってピン8の基端側に形成されている。その結果、第2貫通孔7に圧入されるピン18の圧入部20は、第1実施例のピン側面取部11と同じように傾いて形成されたピン側面取部21の基端部
21aと、円環溝19の先端部19aの間に形成され、第2貫通孔7の圧入面7cの基端部7dの近傍部位は、圧入部20の
通過後に、円環溝19に向かって半径方向内側に弾性復帰する。円環溝19に向かって弾性復帰することで形成される弾性復帰部22は、ピン18の円環溝19の先端部19aに係合しつつ円環溝19の内側に侵入する。
【0033】
図5に示すピン18は、圧入部20を第2貫通孔7の圧入面7cに圧入固定されることに加え、円環溝19に侵入した長穴形成壁5の弾性復帰部
22が、先端部19aに押圧された状態で係合することにより、中心軸線L2に沿って基端側に抜け止めされる
ことで、長穴形成壁5の第2貫通孔7に一層強固に固定される。
【0034】
次に、図6と図7により、ピストンロッドへの転動ローラの組み付け構造に関する第2実施例を説明する。
図7と後述する
図8においては、説明の便宜上転動ローラ34の記載を省略している。第2実施例の組み付け構造は、ピン28の形状と、ピン28に対応する転動ローラ34の形状及びピン28を挿通する長穴形成壁4’の第1貫通孔6’の
内径が、それぞれ第1実施例のピン8の形状,長穴形成壁4に形成される第1貫通孔6の内径及び転動ローラ10の形状と異なる他、第1実施例と共通の構成を有する。従って、ピン28、長穴形成壁4’の第1貫通孔6’及び転動ローラ34についてのみ説明する。
【0035】
図6と
図7に示すようにピン28は、先端部28aの外周縁部にテーパー形状のピン側面取部29を有する。また、ピン側面取部29は、ピン28の中心軸線L2に沿った方向に対して30°程度の傾きを持つように形成されることに加え、ピン側面取部29の面取先端部29a及び面取基端部29bが、それぞれ別途面取加工を施されること
によって、円弧部として形成されている。円弧形状を有する面取基端部29bは、第2貫通孔7の圧入面7cとの間に局所的な摩擦力を発生しないこと
によって、圧入面7cに糸バリを形成しなくなる
点で、第1実施例のピン8に形成されたピン側面取部11より望ましい。
【0036】
また、
図6と
図7に示す
ように、ピン28のピン側面取部29には、圧入部30が隣接するように形成され、圧入部30には、ピン28の中心軸線L2を中心として外周面を周回する凹型の円環溝31が形成され、圧入部30の基端部30aには、大径部32が隣接するように形成される。円環溝31は、全域において第2貫通孔7の圧入面7cに対向し、大径部32は、ピン28の先端部28aの外径、即ち圧入部30の外径d1よりも大きな外径d2を有するように形成される。また、圧入部30の基端部30aに隣接する大径部32の先端部32aは、ピン28の先端部28aから基端部方向に長穴形成壁5の厚さt1分だけ離れた位置に形成され、第2貫通孔7の先端方向へのピン28の抜け止めとして機能する。
【0037】
尚、
図6及び
図7に示す凹型の円環溝31は、ピン28の圧入部30を第2貫通孔7に圧入する
際に、圧入面7cによって形成される弾性復帰部33を圧接密着させる
ように、弾性復帰部33の半径方向内側への突出長さよりも浅く形成されるようにする。また、円環溝31の軸方向長さは、ピン側面取部29の軸方向長さをh2とすると、t1-h2よりも短く形成され、かつ円環溝31の先端部31aと基端部31bは、面取基端部29bと、圧入部30の基端部30aにそれぞれ隣接しないように形成されることが望ましい。その場合、第2貫通孔7に圧入されたピン28の圧入部
30が、円環溝31の先端側と基端側の両側で圧入面7cに面接触しつつそれぞれ密着することにより、第2貫通孔7内のピン28は、中心軸線L2に対して傾かずに固定される。
【0038】
また、
図6と
図7に示すように、第1実施例と同じ形状を有する長穴形成壁5の第2貫通孔7は、ピン28の先端を圧入するため、ピン28に対してしまりばめとなる
ように、ピン28の外径d1よりも内径D2を微小長さだけ小さく形成される。また、
図6に示す長穴形成壁4’の第1貫通孔6’と転動ローラ34の内接孔35は、ピン28の大径部32を挿入出来れば良いため、ピンに対して中間ばめまたは隙間ばめとなる
ように、第1貫通孔6’の内径D1’及び内接孔35の内接円径D3’(ピン28を内接させる内輪34bの内径)をそれぞれ第2貫通孔7の内径D2よりも大きくし、かつピン28の大径部32の外径d2と同一または微小長さだけ大きく形成される。尚、転動ローラ34は、転動ベアリングであり、第1実施例のローラ10の
ように、内輪を有さずに転動体34aによってピン28の外周面に接触しつつ支持するものとしても良い。
【0039】
図6と
図7に示すピン28によるピストンロッドへの転動ローラ34の組み付けは、以下のように行われる。まず、転動ローラ34の内接孔35を一対の長穴形成壁(4’,5)の第1貫通孔6’及び第2貫通孔7に揃えるようにしつつ、転動ローラ34を長穴3’の長穴形成壁(4’,5)の間に配置する。次に、ピン28の先端部28aと大径部
32を、長穴形成壁4’の第1貫通孔6’から転動ローラ34の内接孔35に順に挿通し、最後に大径部32の先端部32aが長穴形成壁5の内周面5bに当接
するまで、ピン28の先端部28aを長穴形成壁5の第2貫通孔7に挿通させる。第2貫通孔7の内径D2は、ピン28に対してしまりばめとなるように形成されているため、ピン28は、先端部28aが外周側開口部7aと面一になる
ように、圧入部30を第2貫通孔7の圧入面7cに圧入される。ピン28は、圧入部30を第2貫通孔7の圧入面7cに圧入固定されると共に、大径部32によって先端部
28aが、第2貫通孔7の外周側開口部7aと面一になるように抜け止めされつつ先端方向に抜け止めされる。転動ローラ34は、ピン28の大径部32に回動可能に支承される。
【0040】
図7に示す
ように、ピン28の圧入部30を第2貫通孔7に圧入すると、第2貫通孔7は、面取基端部29bよりも先端側の内周壁を圧入部30によって先端方向に押圧されること
によって、孔側面取部7bの基端部の近傍に盛り上がりを生じる。しかし、孔側面取部7bに発生した盛り上がりは、第2貫通孔7の内側で孔側面取部7bとピン側面取部29との間に形成される第2貫通孔7の収容領域36内に留まり、ピストンロッドの長穴形成壁5の外周面5aに
突出しないため、ピストンロッドの摺動を妨げることがない。
【0041】
一方、
図6,
図7に示すように第2貫通孔7の内周壁である圧入面7cは、ピン側面取部29の面取基端部29bよりも基端側の
部位が、ピンの圧入部30によってピン28の半径方向外側に弾性変形し、圧入面7cの一部は、先端側圧入部(面取基端部29bと円環溝31の先端部31aとの間の部位)の
通過後に、円環溝31に向かって半径方向内側に弾性復帰する。円環溝31に向かって復帰することで形成される弾性復帰部33は、ピン28の円環溝31の開口縁部、即ち先端部31aと基端部31bに押圧された状態で係合しつつ円環溝31の内側に侵入し、ピン28の半径方向内側に突出する弾性復帰部33の先端部は、円環溝31の底部31cに押圧されて圧接密着する。ピン28は、弾性復帰部33が、円環溝31の先端部31aと基端部31bの双方に押圧係合される
ことで、中心軸線L2に対する抜け止め作用を発揮することに加え、円環溝31に侵入した
先端部が、底部31cを含む円環溝31の内周面の少なくとも一部に密着係合することによって、長穴形成壁5の第2貫通孔7に対する揺動を抑制されて一層強固に固定される。
【0042】
尚、
図8は、第2実施例のピン28に形成するピン側面取部の変形例を示すものである。
図8に示すピン38は、テーパー形状のピン側面取部の先端部と基端部を円弧形状に形成
した、第2実施例のピン側面取部29と異なり、先端部38aの
外周縁部に、全体として円弧形状となるピン側面取部38bを有するものであり、ピン側面取部38bの形状が異なる他、第2実施例のピン28と共通の構成を有する。
【0043】
図8に示す
ように、全体として円弧形状を有するように形成されたピン側面取部38bは、基端部38cにおいて圧入部30と連続し、第2貫通孔7の圧入面7cに接触する基端部38cは、圧入面7cとの間に局所的な摩擦力を発生しないこと
によって、圧入面7cに糸バリを形成しなくなる、若しくは形成しにくくなる点
で、第1実施例のピン8に形成されたピン側面取部11より望ましい。また、
図8に示す
ように、ピン38の圧入部30を第2貫通孔7に圧入すると、第2貫通孔7は、基端部38cよりも先端側の
内周壁が圧入部30によって先端方向に押圧されることで、孔側面取部7bの基端部の近傍に盛り上がりを生じる。しかし、孔側面取部7bに発生した盛り上がりは、第2貫通孔7の内側で孔側面取部7bとピン側面取部38bとの間に形成される第2貫通孔7の収容領域39内に留まり、ピストンロッドの長穴形成壁5の外周面5aに突出
しないため、ピストンロッドの摺動を妨げることがない。
【0044】
尚、第2実施例のピン28に形成される大径部32は、第1実施例のピン8における圧入部12の基端部12aに隣接するように形成されることによって、ピン8の先端方向への抜け止めとしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ピストンロッド
2 ピストン
3,3’ 長穴
4,4’,5 長穴形成壁
6,6’ 第1貫通孔
7 第2貫通孔
7b 孔側面取部
7c 圧入面
8 ピン
8a 先端部
9 内接孔
10 転動ローラ
11 ピン側面取部
12 圧入部
13 円環溝
15 弾性復帰部
18 ピン
19 円環溝
20 圧入部
21 ピン側面取部
22 弾性復帰部
28 ピン
29 ピン側面取部
29a 面取先端部(円弧部)
29b 面取基端部(円弧部)
30 圧入部
31 円環溝
32 大径部
32a 先端部
33 弾性復帰部
34 転動ローラ
35 内接孔
38 ピン
38b ピン側面取部(円弧部)
38c 基端部
D1,D1’ 第1貫通孔の内径
D2 第2貫通孔の内径
D3,D3’ 内接孔の内接円径