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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-17
(45)【発行日】2022-05-25
(54)【発明の名称】2液型塗料組成物及び塗装物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20220518BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220518BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220518BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20220518BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220518BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D167/00
C09D7/41
C09D7/61
B05D3/12
B05D7/24
B32B27/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021551407
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037276
(87)【国際公開番号】W WO2021066055
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2019179026
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弘二
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴公
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/145242(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/010539(WO,A1)
【文献】特開2004-162066(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162868(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/141305(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤とを含む2液型塗料組成物であって、
前記主剤が、(A)ポリカーボネート系ポリウレタン、(B)ポリエステル樹脂、及び水を含み、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタンが、0.01~0.1μmの平均粒子径を有し、前記(B)ポリエステル樹脂が、0.01μm以下の平均粒子径を有し、
前記硬化剤が、(C)親水性ポリイソシアネート化合物を含み、
前記(C)親水性ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基(NCO)と、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタン及び前記(B)ポリエステル樹脂中の水酸基(OH)のモル比NCO/OHが、1.6~2.0である、
2液型塗料組成物。
【請求項2】
前記(B)ポリエステル樹脂の水酸基価が、100~200mgKOH/gである、請求項1に記載の2液型塗料組成物。
【請求項3】
前記(C)親水性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率が、15~25%である、請求項1又は2に記載の2液型塗料組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタンと前記(B)ポリエステル樹脂の固形分質量比が、8:2~6:4である、請求項1~3のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物。
【請求項5】
前記主剤が、カーボンブラック、金属顔料及び有機顔料からなる群から選択される着色剤を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物の前記主剤と前記硬化剤とを配合してなる、水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の水性塗料組成物を塗装して形成された塗膜。
【請求項8】
架橋密度が、1.4×10-3~1.7×10-3mol/mLである、請求項7に記載の塗膜。
【請求項9】
Owens-Wendt式から算出される表面自由エネルギーが、50mN/m以上である、請求項7又は8に記載の塗膜。
【請求項10】
基材と、前記基材の表面上の請求項7~9のいずれか1項に記載の塗膜とを含む、塗装物。
【請求項11】
前記基材が、プラスチックである、請求項10に記載の塗装物。
【請求項12】
基材の塗装方法であって、以下の工程、
請求項1~5のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物の前記主剤と前記硬化剤とを混合して、水性塗料組成物を得る工程、
前記水性塗料組成物を基材の表面に塗布する工程、
前記塗布した水性塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程、
を含む、方法。
【請求項13】
前記乾燥を、70℃~90℃で20~40分、続いて常温で48時間以上行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記塗膜が、25μm~45μmの厚さを有する、請求項12又は13に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液型塗料組成物並びにそれから得られる水性塗料組成物、塗膜及び塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品は、可塑性を持つ高分子物質の成形体であり、携帯電話、家電製品、OA機器等に利用されており、該プラスチック成形品の表面は、装飾を施したり又は機能を付与したりするために塗装されている場合がある。そのため、プラスチックを塗装するための塗料(プラスチック用塗料)は、装飾を施す他、プラスチック成形品の用途に応じて、塗膜に耐摩耗性、耐変退色性、耐皮脂性、高光沢性、高耐候性、電気絶縁性等の機能を付与することが求められる場合がある。
【0003】
特に、人の肌や手が長時間接触するようなプラスチック成形品(例えば、携帯電話の外装部材や自動車内装部材)については、汗、ハンドクリーム、日焼け止め、サンオイル等の成分である乳酸に対する耐性(耐乳酸性)や、皮脂中に含まれる成分であるオレイン酸に対する耐性(耐オレイン酸性)に優れることが求められる。また、自動車内装部材については、高光沢感や艶消し感を求められる場合もある。
【0004】
自動車内装用塗料としては、従来から、溶剤系ラッカー塗料や溶剤系2液硬化型ウレタン塗料が用いられている。一方、環境規制が厳しくなってきたことから、塗料業界では有機溶剤を使用した溶剤系塗料から水を使用した水性塗料への転換がなされつつある。しかしながら、水性塗料においては、十分な耐乳酸性や耐オレイン酸性を有する塗膜は得られなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、優れた耐乳酸性及び耐オレイン酸性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル樹脂及び水を含む主剤と、親水性ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤とを、主剤中の水酸基(OH)と硬化剤中のイソシアネート基(NCO)とのモル比が特定の範囲となるように配合することによって解決できることが見出された。すなわち、本発明は、下記〔1〕~〔14〕に関するものである。
【0007】
〔1〕主剤と硬化剤とを含む2液型塗料組成物であって、
前記主剤が、(A)ポリカーボネート系ポリウレタン、(B)ポリエステル樹脂、及び水を含み、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタンが、0.01~0.1μmの平均粒子径を有し、前記(B)ポリエステル樹脂が、0.01μm以下の平均粒子径を有し、
前記硬化剤が、(C)親水性ポリイソシアネート化合物を含み、
前記(C)親水性ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基(NCO)と、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタン及び前記(B)ポリエステル樹脂中の水酸基(OH)のモル比NCO/OHが、1.6~2.0である、
2液型塗料組成物。
〔2〕前記(B)ポリエステル樹脂の水酸基価が、100~200mgKOH/gである、前記〔1〕に記載の2液型塗料組成物。
〔3〕前記(C)親水性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率が、15~25%である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の2液型塗料組成物。
〔4〕前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタンと前記(B)ポリエステル樹脂の固形分質量比が、8:2~6:4である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物。
〔5〕前記主剤が、カーボンブラック、金属顔料及び有機顔料からなる群から選択される着色剤を更に含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物の前記主剤と前記硬化剤とを配合してなる、水性塗料組成物。
〔7〕前記〔6〕に記載の水性塗料組成物を塗装して形成された塗膜。
〔8〕架橋密度が、1.4×10-3~1.7×10-3mol/mLである、前記〔7〕に記載の塗膜。
〔9〕Owens-Wendt式から算出される表面自由エネルギーが、50mN/m以上である、前記〔7〕又は〔8〕に記載の塗膜。
〔10〕基材と、前記基材の表面上の前記〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の塗膜とを含む、塗装物。
〔11〕前記基材が、プラスチックである、前記〔10〕に記載の塗装物。
〔12〕基材の塗装方法であって、以下の工程、
前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の2液型塗料組成物の前記主剤と前記硬化剤とを混合して、水性塗料組成物を得る工程、
前記水性塗料組成物を基材の表面に塗布する工程、
前記塗布した水性塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程、
を含む、方法。
〔13〕前記乾燥を、70℃~90℃で20~40分、続いて常温で48時間以上行う、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕前記塗膜が、25μm~45μmの厚さを有する、前記〔12〕又は〔13〕に記載の塗装方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、優れた耐乳酸性及び耐オレイン酸性を有する塗膜を形成できる水性塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、主剤と硬化剤とを含む2液型塗料組成物であって、
前記主剤が、(A)ポリカーボネート系ポリウレタン、(B)ポリエステル樹脂、及び水を含み、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタンが、0.01~0.1μmの平均粒子径を有し、前記(B)ポリエステル樹脂が、0.01μm以下の平均粒子径を有し、
前記硬化剤が、(C)親水性ポリイソシアネート化合物を含み、
前記(C)親水性ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基(NCO)と、前記(A)ポリカーボネート系ポリウレタン及び前記(B)ポリエステル樹脂中の水酸基(OH)のモル比NCO/OHが、1.6~2.0である、
2液型塗料組成物である。
【0010】
(A)ポリカーボネート系ポリウレタン
本発明の主剤は、ポリカーボネート系ポリウレタンを含む。ポリウレタンは、その内部にウレタン結合、ウレア結合等を有することから、強固な水素結合により強く凝集したハードセグメントと、ポリエステル又はポリオール部分からなるフレキシブルなソフトセグメントから構成される。ポリカーボネート系ポリウレタンとは、ソフトセグメントを形成するポリオールがポリカーボネートポリオールであるポリウレタンを意味する。
【0011】
ソフトセグメントを形成するポリカーボネートポリオールは、例えば、ジアルキルカーボネート類等のカーボネート類とグリコールとの反応によって得ることができ、分子量500~3000の分子鎖中にカーボネート基と水酸基をそれぞれ2つ以上有するポリオールをいう。カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロプルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート、ジアミルカーボネート、ジへキシルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジヘプチルカーボネート、ジオクチルカーボネート、ジシクロプロピルカーボネート等が挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2,2´-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、p-キシレンジオール、p-テトラクロロキシレンジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、(3(4),8(9)-ビス-(ヒドロキシメチル)-トリシクロデカンジメチロール、ビス-ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン、ジ(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0012】
主剤中、ポリカーボネート系ポリウレタンは、0.01~0.1μm、好ましくは0.015~0.07μm、より好ましくは0.02~0.05μmの平均粒子径を有する分散粒子として存在する。平均粒子径が上記範囲内であれば、水中での分散状態が安定している。平均粒子径は、動的光散乱法、レーザー回折法などによって測定することができる。
【0013】
ポリカーボネート系ポリウレタンは、好ましくは100~300mgKOH/g、より好ましくは150~250mgKOH/g、更により好ましくは180~220mgKOH/gの水酸基価を有する。水酸基価は、試料1gを中和するのに必要となるKOHの質量(mg)に相当する値を意味する。水酸基価が上記範囲内であれば、硬化剤中の(C)親水性ポリイソシアネート化合物と適度な反応性を有し、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成できる。
【0014】
市販のポリカーボネート系ポリウレタンとしては、例えばDPU2035ba(ダイセル・オルネクス社製)、ニッポラン976(東ソー社製)、NeoRez R4000(DSM Coating Resins社製)等がある。
【0015】
主剤におけるポリカーボネート系ポリウレタンの含有量は、主剤の総質量に基づき、例えば、16~32質量%であり、好ましくは18~27質量%である。含有量が上記範囲内であれば、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成することができる。
【0016】
(B)ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸とポリオールとを重縮合させることで得られる樹脂である。ポリカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、クロレンド酸、テトラクロロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸、スベリン酸、2-メチルコハク酸、3,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルコハク酸、オクテニルコハク酸、ドデセニルコハク酸等を挙げることができ、存在する場合には前記のカルボン酸の代わりにこれらの無水物を使用してもよい。また、ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピルビン酸塩、ジメチロールシクロヘキサン、トリメチロールプロパン、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールベンゼン、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート等を挙げることができる。ポリエステル樹脂の種類は、使用するポリカーボネート系ポリウレタンの種類に応じて適宜決定できる。ポリカーボネート系ポリウレタンとの相溶性の良いポリエステル樹脂を用いることで、高光沢の塗膜を形成することができる。
【0017】
主剤において、ポリエステル樹脂は、0.01μm以下、例えば0.001~0.01μmの平均粒子径を有する。平均粒子径が上記範囲内であれば、水中に安定して溶存している。平均粒子径は、動的光散乱法、レーザー回折法などによって測定することができる。
【0018】
ポリエステル樹脂は、好ましくは100~200mgKOH/g、より好ましくは120~180mgKOH/gの水酸基価を有する。水酸基価が上記範囲内であれば、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成することができる。
【0019】
ポリエステル樹脂は、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成できることから、アミンで中和された水溶性のポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0020】
市販のポリエステル樹脂としては、例えばResydrol AN6617、AN6481、Setal 6306、Setaqua BE270(ダイセル・オルネクス社製)等がある。
【0021】
主剤におけるポリエステル樹脂の含有量は、主剤の総質量に基づき、例えば、5~15質量%であり、好ましくは6~13質量%である。含有量が上記範囲内であれば、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成することができる。
【0022】
本発明の主剤において、ポリカーボネート系ポリウレタン(A成分)とポリエステル樹脂(B成分)の固形分質量比は、8:2~6:4であることが好ましく、75:25~65:35であることがより好ましい。(A):(B)の固形分質量比が上記範囲内であれば、本発明の塗料組成物から形成される塗膜の架橋密度及び表面自由エネルギーを所望の範囲内にすることができ、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成することができる。
【0023】
本発明の主剤は、水を含む。主剤における水の含有量は、主剤の総質量に基づき、例えば、30~70質量%であり、好ましくは40~60質量%である。水の含有量が上記範囲内であれば、従来の溶剤系塗料よりも環境への悪影響が低減された水性塗料を得ることができる。
【0024】
(C)親水性ポリイソシアネート化合物
本発明の硬化剤は、親水性ポリイソシアネート化合物を含む。親水性ポリイソシアネートは、水との親和性を有する親水性基と疎水性部分を含み、水中では、疎水性部分が集まってミセル構造をとることで、容易かつ安定して分散することができる。そのため、主剤と混合した場合には、イソシアネートと水との反応を抑制して、ポリカーボネート系ポリウレタン及びポリエステル樹脂の架橋を促進することができる。親水性基としては、例えば、アルコキシポリアルキレンオキシ基(炭素数が例えば2~50)、カルボキシル基、スルホ基、及びこれらの塩(例えば、金属塩、アンモニウム塩、アミン塩)等が挙げられる。親水性ポリイソシアネートとしては、アンモニウム塩を形成するスルホ基を有するポリイソシアネート等を好適に用いることができる。また、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成できることから、HMDI系のポリイソシアネートであることが好ましい。
【0025】
親水性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率は、好ましくは10~30%、より好ましくは15~25%、更により好ましくは19~22%である。ここで、イソシアネート基含有率とは、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基量を質量分率で表したものであり、JIS K1603-1に従って測定することができる。イソシアネート基含有率が上記範囲内であれば、主剤との反応により、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成できる。
【0026】
親水性ポリイソシアネート化合物の酸価は、好ましくは0~30mgKOH/gであり、より好ましくは5~15mgKOH/gである。酸価が上記範囲内であれば、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れた塗膜を形成できる。
【0027】
市販の親水性ポリイソシアネートとしては、例えば、住化コベストロウレタン社製のバイヒジュールXP2655、3100、302、304、305、XP2451/1、XP2487/1、XP2457、401、XP2759等、旭化成社製のデュラネートWB40、WT30、WT20、WL70、WR80等、BASF社製のBasonat HW1000、HW2000等がある。
【0028】
本発明の塗料組成物は、主剤と硬化剤とを含む2液型塗料組成物である。本発明の2液型塗料組成物において、硬化剤における(C)親水性ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基(NCO)と、主剤における(A)ポリカーボネート系ポリウレタン及び(B)ポリエステル樹脂中の水酸基(OH)のモル比NCO/OHは、1.6~2.0であり、好ましくは1.7~1.9であり、より好ましくは1.8である。NCO/OH比を上記範囲内とすることによって、本発明の塗料組成物を用いて形成される塗膜の架橋密度を所望の範囲内にすることができ、優れた耐乳酸性及び耐オレイン酸性が付与される。上記モル比NCO/OHは、(A)ポリカーボネート系ポリウレタン及び(B)ポリエステル樹脂の水酸基価から算出されるOH量と、(C)親水性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基含有率より算出されるNCO量のモル比率として導くことができる。
【0029】
本発明の塗料組成物は、顔料を含んでもよい。顔料としては、着色顔料、体質顔料及び金属顔料等が挙げられ、塗膜の着色やツヤ、塗装作業性、塗膜の強度、物性等に応じて適宜選択して使用できる。着色顔料は、公知の材料が使用でき、例えば、酸化チタン及びカーボンブラック等の無機顔料やフタロシアニン系顔料及びアゾ系顔料等の有機顔料が挙げられる。また、体質顔料も、公知の材料が使用でき、例えば、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられる。金属顔料としては、光輝顔料又は鱗片状顔料、例えば、アルミニウム粉顔料、ニッケル粉顔料、金粉、銀粉、ブロンズ粉、銅粉、ステンレス粉顔料、マイカ(雲母)顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料や、金属コーティングした硝子粉、金属コーティングしたマイカ粉、金属コーティングしたプラスチック粉、及び鱗片状酸化鉄顔料等が挙げられる。顔料は主剤と硬化剤のいずれにも配合できるが、主剤に配合するのが好ましい。
【0030】
本発明の塗料組成物は、上記A~C成分や顔料の他に、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、溶剤、pH調整剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。特に、シリカ粒子を塗料組成物に配合することで、艶消し感のある塗膜を形成することができる。これらの任意成分は、主剤及び硬化剤のいずれに配合してもよく、両方に配合してもよい。
【0031】
本発明の2液型塗料組成物は、常法に従って調製が可能である。例えば、各原料を均一に混合して主剤及び硬化剤を別個に調製してもよい。塗装直前に主剤と硬化剤を混合することにより、水性塗料組成物が調製される。
【0032】
本発明の2液型塗料組成物を用いる塗装方法は、主剤と硬化剤とを混合して、水性塗料組成物を得る工程、水性塗料組成物を基材の表面に塗布する工程、塗布した水性塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程を含む。
【0033】
主剤と硬化剤の混合には、従来公知の混合手段を特に制限なく用いることができる。主剤と硬化剤の混合比は、混合直後の水性塗料組成物における上記モル比NCO/OHが1.6~2.0となる量で適宜調節できる。水性塗料組成物を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。水性塗料組成物を塗布する際、粘度を調節するために水で希釈してもよい。水性塗料組成物の塗布量は、基材の種類や用途に応じて変えることができるが、通常、54~81g/m2であり、64~75g/m2であることが好ましい。なお、基材表面に形成される塗膜の膜厚は、水性塗料組成物の塗布量に依存するが、25~45μm、例えば30~40μmであることが好ましい。膜厚が上記範囲内であれば、過度の硬化時間を要することなく十分な耐乳酸性及び耐オレイン酸性を有する塗膜が得られる。
【0034】
乾燥手段には特に制限はなく、例えば、加熱して乾燥させてもよく、常温(例えば約25℃)で自然乾燥させてもよい。加熱と自然乾燥の両方を組み合わせるのが好ましい。例えば、70~90℃、好ましくは85℃~95℃で、20~40分、好ましくは25~35分乾燥させた後、更に常温で48時間以上、好ましくは60~80時間乾燥させることが好ましい。このような乾燥条件であれば、意図する性能を有する塗膜を形成させるのに十分である。
【0035】
形成される塗膜は、例えば、1.4×10-3~1.7×10-3mol/mL、好ましくは1.5×10-3~1.7×10-3mol/mLの架橋密度を有する。架橋密度が上記範囲内であれば、基材に対する付着性並びに耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れる。架橋密度は、RSA-G2(TA instruments社製)を用いて所定の条件下で測定される平坦領域貯蔵弾性率及びその絶対温度に基づき、以下の式に基づいて求めることができる。
n=E’/3RT
n:架橋密度(mol/mL)(1/n:架橋間分子量)
R:気体定数(8.31×106 Pa・cc/mol・K)
T:平坦領域貯蔵弾性率の絶対温度(K)
E’:平坦領域貯蔵弾性率(Pa)
【0036】
また、塗膜は、Owens-Wendt式から算出される表面自由エネルギーが、50mN/m以上、例えば60~80mN/mであることが好ましい。Owens-Wendt式とは、下記に示される表面自由エネルギーの理論式のひとつであり、固体の未知の表面自由エネルギー(γd S+γp S)を、表面自由エネルギーが既知である2種の液体との接触角の測定値から算出することができる

γL(1+cosθ)=2(γd Sγd L1/2+2(γp Sγp L1/2
γL:液体表面自由エネルギー(既知)
γd S:固体表面自由エネルギー 分散成分
γd L:液体表面自由エネルギー 分散成分(既知)
γp S:固体表面自由エネルギー 極性成分
γp L:液体表面自由エネルギー 極性成分(既知)
θ:接触角(測定値)

本発明の場合、塗膜が、式中の表面自由エネルギーが未知である固体に該当し、接触角を測定する2種の液体が、式中の表面自由エネルギーが既知である液体に該当する。表面自由エネルギーが上記範囲内であれば、汗や皮脂が塗膜表面に対して濡れ広がりやすく、汗や皮脂による塗膜へのダメージを分散することができる。
【0037】
水性塗料組成物を塗布する基材は特に限定されず、基材の用途に応じて、様々な種類及び形状のものを選択することができる。基材としては、例えば、PPE(ポリフェニレンエーテル)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系重合体;ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂及びABS樹脂等のプラスチック基材が挙げられる。
【0038】
本発明はまた、基材と、基材の表面上の塗膜とを含む塗装物に関し、前記塗膜は、本発明の上記水性塗料組成物を塗装して形成されたものである。
【0039】
本発明の塗料組成物は、各種の無機物、金属、木材、プラスチック等の様々な基材に適応できる。本発明の塗装物は、耐乳酸性及び耐オレイン酸性に優れるため、人の肌や手が長時間接触するようなプラスチック成形品、具体的には、自動車及び二輪車の内装部材及び外装部材、オーディオ、ビデオ、テレビ等の家電製品用部材、携帯電話、プリンター、パソコン等の事務機器用部材に特に有用である。
【実施例
【0040】
<塗料調製>
表1に示される配合で主剤の原料を混合し、ディスパーで10分間撹拌し、実施例1~3及び比較例1~5の主剤を調製した。実施例1~3のいずれの主剤においても、ポリカーボネート系ポリウレタンは30nmの平均粒子径を有する分散粒子として存在し、ポリエステル樹脂は水中に溶解していた。その後、調製した主剤に、表1に示される配合で各々の硬化剤を加え、ディスパーでさらに5分間撹拌し、実施例1~3及び比較例1~5の水性塗料組成物をそれぞれ調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
※1:ダイセル・オルネクス社製、ディスパージョン(平均粒子径30nm)、固形分37% (含有水分56%)、ワニスOH価70.3mgKOH/g(固形分換算190mgKOH/g)
※2:ダイセル・オルネクス社製、固形分65%(含有水分0%)、ワニスOH価106(固形分換算163mgKOH/g)
※3:住化コベストロウレタン社製:固形分45%(含有水分46%)、ワニスOH価49.5(固形分換算110mgKOH/g)
※4:トーヨーカラー社製カーボンブラック:顔料分20%(含有水分60%)
※5:ジメチルエタノールアミン
※6:ビックケミージャパン社製
※7:ビックケミージャパン社製
※8:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
※9:住化コベストロウレタン社製、固形分100%、イソシアネート基含有率21.2%、酸価10mgKOH/g
※10:住化コベストロウレタン社製、固形分100%
【0043】
<試験片作成>
上記で調製した各水性塗料組成物を、スプレー塗装に適した粘度に脱イオン水で希釈後、ABS-PC樹脂板にエアスプレー塗装で、乾燥塗膜の厚さが30±5μmになるよう塗装後、80℃で30分間乾燥し、さらに常温にて72時間静置してそれぞれの試験片を得た。
【0044】
得られた各試験片について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
<外観評価>
ブツ、ワレ、シワ、ハジキ、ハガレ、フクレなどの塗膜異常の有無を目視で確認した。
【0046】
<付着性評価>
JIS K 5600-5-6(クロスカット法)に準じて、塗装後の塗膜に2mm角の碁盤目10×10マスの切り込みを入れ、碁盤目部分にセロハンテープを貼着し、急激に剥がした後に、塗面に残ったゴバン目塗膜の数を評価した。
○:剥離塗膜なし
△:切れ込みに沿って一部塗膜の欠落が見られる
×:塗膜の剥離が見られる
【0047】
<耐乳酸性評価>
試験片に10%乳酸水溶液を0.2ml滴下し、80±2℃で24時間放置した後、ガーゼで拭き取り、セロハンテープを密着して剥離した。
○:塗膜に変色、しみ、膨潤、軟化、剥がれなどの異常がない
△:塗膜に若干の変色、膨潤、軟化などが見られる
×:塗膜に著しい膨潤、軟化又は剥離が見られる
【0048】
<耐オレイン酸性評価>
試験片に10%オレイン酸石油ベンジン溶液を0.2ml滴下し、80±2℃で24時間放置した後、ガーゼで拭き取り、セロハンテープを密着して剥離した。
○:塗膜に変色、しみ、膨潤、軟化、剥がれなどの異常がない
△:塗膜に若干の変色、膨潤、軟化などが見られる
×:塗膜に著しい膨潤、軟化又は剥離が見られる
【0049】
<架橋密度>
RSA-G2(TA instruments社製)を用いて下記の条件下で測定される平坦領域貯蔵弾性率及びその絶対温度に基づき、以下の式に基づいて求めた。
~測定条件~
周波数:1Hz
歪み:0.05%
温度範囲:-50~200℃
昇温速度:5℃/min
測定長さ:24mm
幅:8mm

~算出式~
n=E’/3RT
n:架橋密度(mol/mL)(1/n:架橋間分子量)
R:気体定数(8.31×106 Pa・cc/mol・K)
T:平坦領域貯蔵弾性率の絶対温度(K)
E’:平坦領域貯蔵弾性率(Pa)
【0050】
<塗膜の表面自由エネルギー>
塗装後の塗膜表面に、蒸留水を1滴滴下したときの接触角と、流動パラフィンを1滴滴下したときの接触角の値から、Owens-Wendt式を用いて、塗膜の表面自由エネルギーを算出した。
【0051】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の塗料組成物は、自動車及び二輪車の内装部材及び外装部材、オーディオ、ビデオ、テレビ等の家電製品用部材、携帯電話、プリンター、パソコン等の事務機器用部材用の塗料として特に有用である。