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特許7075566抗菌性金属イオンにより抗菌性を有するカチオン染色繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】抗菌性金属イオンにより抗菌性を有するカチオン染色繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20220519BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20220519BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220519BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M13/463
D06M101:32
D06M101:28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018042401
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019143276
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】399082058
【氏名又は名称】株式会社ミューファン
(72)【発明者】
【氏名】嶌崎 佐太郎
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108203(JP,A)
【文献】特開平03-241068(JP,A)
【文献】特開平03-130465(JP,A)
【文献】特開2007-177350(JP,A)
【文献】特開2010-275678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
請求項1、2、乃至は3に記載の布地からなる繊維製品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
絹、アクリル、ポリエステルといった動物繊維、合成繊維にカチオンである抗菌性金属イオンによる永続的な抗菌性金属イオンによる抗菌機能を実現出来る技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン染色は、カチオン染料の持つカチオンと被染色体である糸、乃至は該糸を構成原料の少なくとも一部とする布地が持つアニオンが電気結合をして染着できる染色法である。アクリル繊維やカチオン染色用のポリエステル繊維も同じメカニズムで多量のアニオンを有する。
この場合、該糸や該布地にはアニオンが残留し抗菌性金属イオンもカチオンである事から、両イオンは電気結合をし、抗菌性金属イオンによる抗菌性は発現できない。抗菌性金属はイオン化して初めて抗菌力を発揮できるので、イオン状態にない抗菌性金属に抗菌機能はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-147774 日本エクスラン工業株式会社
【文献】特開2013-199718 三菱レーヨン株式会社
【文献】特開2013-076188 東レ株式会社
【文献】特許第4196175号 株式会社ミューファン
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カチオン染色の被染色体である糸や布地には豊富なアニオン基があり、染料にはカチオン基が多く存在する。凡そ100℃以下の温度で両イオンは電気結合により糸や布地に染着する。
しかし、アニオン量よりカチオン量が多すぎると染めむらや企画している色の実現が問題となるので、カチオン染料の投入量はf値やk値といった投入染料の限界量値が定められていて、どうしてもアニオン基の残留が起こる。
【0005】
片や、抗菌性金属による抗菌性を糸や布地に発現させるのは、該金属イオンであり該金属はカチオンになって抗菌性を発揮する。ゼオライトやシリカなどに担持された抗菌性金属イオンは少なくとも一部が錯体化されていても、該イオンの抗菌媒体への担持方法はナトリウムやカルシウムといったカチオンと置換させるために抗菌性金属イオンはカチオンである。しかし被染色体である糸や布地には多くのアニオンが残留しているので、該イオンが溶出しても電気結合により抗菌性金属イオンはイオンではなくなる。
【0006】
繊維に利用される抗菌性金属イオンは、溶出するイオンが銀なら濃度はせいぜいppbオーダーであり、銅や亜鉛でも2桁ppmオーダー程度に過ぎないので、抗菌性金属イオンが糸や布地に残留するアニオンを全て消費させ本来の抗菌性金属イオンの抗菌性を発揮出来ない。又、JIS-L-1902による抗菌試験は洗濯0回と洗濯10回後程度まで、或は50回後の試料を対象におこなわれ、抗菌活性値が2.0以上のデータを示すものが有効とされることから、抗菌性金属から溶出される金属イオンが糸や布地に残留するアニオンを全て消費させることはできず、抗菌性のあるカチオン染色繊維の実現は抗菌性金属イオンでは難しいとされていたため、第4級アンモニウム塩といった化学物質の抗菌性発現に頼って来た。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アニオンを多量に残留させている糸や布地からアニオンを全て消費させるためには残留アニオン量に匹敵する、乃至はより多くのカチオン量を持つ、例えばカチオン性界面活性剤や一部のヘアリンスにも市中に存在するカチオン性液剤で電気結合を促し、その後の洗浄により糸や布地をノニオン化するためカチオン染色後の処理をすることで抗菌性金属イオンを活性化できる状況を整えられる。
【0008】
カチオン剤とすればいわゆる逆性石鹸が挙げられる。第4級アンモニア塩溶液はその代表例であるが、カチオン染色後の糸や布地を1~3%程度の濃度の温度40℃前後の条件で10分程度浸漬してその後に十分な洗浄を行うと糸、或は布地に残留するアニオンを消費させることが出来る。合成繊維糸の原料段階で熱溶融している状態に銀系抗菌剤を配合して紡糸された抗菌性合成繊維から溶出してくる抗菌性金属イオンも十分抗菌機能を発揮できる。尚、アニオン消費を促す逆性石鹸やカチオン性液剤の濃度や温度・時間条件は上記例に限られるものではない。
【0009】
上記と同様の処理を行う事で、特許文献4に記載の積層糸を撚糸した糸や織込や編込された布地も抗菌性を発揮できる。
【発明の効果】
【0010】
カチオン染色を行ったアクリル繊維やポリエステル繊維による糸や布地の抗菌性を発現されるため、繊維業界は数々の挑戦を行っている。例えばアクリル樹脂を溶融させた状態で抗菌剤である第4級アンモニウム塩を配合した後に紡糸して糸を製造し、該糸を20~30重量%で均等に織る、編むなどで得た布地の抗菌性を実現しているが、該抗菌剤の溶出速度が遅い乃至は該抗菌剤濃度が不十分に課題を解決できないが、本発明はその課題を解決できる。(特許文献3を参照)
又、抗微生物性や消臭機能を有するアクリル繊維もあるが、機能の実現は化学物質によるもので、抗菌性金属イオンによるものではない。(特許文献1・2を参照)
【発明を実施するための形態】
【0011】
糸や布地をカチオン染色により着色した後に、カチオン剤の一つである第4級アンモニウム塩溶液を1~3%程度の濃度に40℃前後の温水で調整し、抗菌性金属イオンによる抗菌機能をセルロース繊維や分散染料染色型のポリエステルでは十分に発現できるが、カチオン染色では発揮できない糸や布地を10分程度浸漬した後に、水道水で十分洗浄し、その後乾燥すると糸や布地に残留するアニオンを消費させてしまう事が可能になる。
【0012】
本発明はあくまでも第4級アンモニウム塩液剤を抗菌剤としているのではなく、第4級アンモニウム塩溶液以外のカチオン性液剤でも足りて、糸や布地に残留するアニオンを中和、消費させるものである。ただ、本発明による方法により第4級アンモニウム塩溶液で処理した被染色体である糸や布地は、洗浄を含む染色工程を経ても、第4級アンモニウム塩が幾ばくか残留し洗濯0回ではJIS-L-1902の抗菌試験では有効値が出る可能性はあるが、洗濯10回後やより多数の洗濯後の試料では有効値はでない。
【実施例1】
【0013】
アクリル混率100%のセーターには特許文献4に記載の純銀蒸着層を2枚の9μ厚のポリエステルフィルムでサンドイッチ状にもつ偏平な銀糸とウーリーナイロン12d/2本左右逆に撚糸された糸が8mm間隔でほぼ全体に編込まれていた。第4級アンモニウム塩溶液の一種であるベンザルコニウム塩化物溶液(商品名オスバン<登録商標> 日本製薬株式会社製)を温水で濃度1%、水温40℃に調整し、プラスチックボールに注ぎ、前記銀糸の撚糸が編込まれた該セーターの袖の一部を切り出し、10分間浸漬して乾燥させたものを試料として、(一財)ボーケン品質評価機構に抗菌試験を依頼した。
【0014】
試料を10回洗濯後に、菌種を黄色ブドウ球菌として行った抗菌試験では抗菌活性値=3.7と有効なデータを得る事が出来た。
【0015】
上記と同じセーターの袖の一部を本発明による処理をせずに、(一財)ボーケン品質評価機構に同様の抗菌試験を依頼した。洗濯10回後の抗菌試験データは抗菌活性値=-0.1という有効値では無かった。通常糸や布地の洗濯0回の抗菌試験では、構成繊維や染色後の染料や助剤の残留により有効値を得る事がありうるが、該試験機関の洗濯後試料は残留物が洗い流され、試料本来の機能性が確認される。
【実施例2】
【0016】
ポリエステルの経編生地であって、65%がカチオン染色可能なポリエステル糸からなり35%が分散染料染色可能なポリエステル糸からなる生地を、カチオン染色のみを施してビジネスシャツ用布地を得た。該布地には均等に7mm間隔で上記にある撚糸をされた銀糸が編込まれていた。該布地を凡そA4サイズに2枚切り出し、検体試料には上記と同じベンザルコニウム塩化物溶液(商品名オスバン<登録商標> 日本製薬株式会社製)を温水で濃度1%、水温40℃に調整し、プラスチックボールに注ぎ、10分間浸漬して乾燥させたものを試料として(一財)ボーケン品質評価機構に洗濯10回後の抗菌試験の依頼を行った。
【0016】
抗菌試験の結果は、検体試料では抗菌活性値=4.7で有効なデータを得た。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明による糸や布地に残留するアニオンを中和して消費させた糸や布地は、抗菌性金属イオンによる本来あるべき抗菌性の発現を可能にし、繊維業界にとって大きな意味、意義を有する。
実施例に挙げたアクリルセーターのみではなく、アクリル毛布といった寝具や肌着など繊維製品の衛生管理を考慮し抗菌性に意義や意味のある製品にも付加価値を与える事が出来る。又、分散染料によるポリエステル繊維の染色では不可能な鮮やかな発色が可能なカチオン染色ポリエステル繊維やアクリル繊維及びカチオン染色可能な絹やそれらの製品は、安全で有効で持続性のある抗菌性金属イオンによる抗菌性の付与が可能になった事で、大いに産業上の利用可能範囲を広げるものである。