(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】ナノ粒子複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/51 20060101AFI20220519BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20220519BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K47/40
A61K47/28
(21)【出願番号】P 2018079648
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】森部 久仁一
(72)【発明者】
【氏名】東 顕二郎
(72)【発明者】
【氏名】植田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】石本 有紗
(72)【発明者】
【氏名】笹子 浩史
(72)【発明者】
【氏名】神山 和夫
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-017434(JP,A)
【文献】特開2015-054829(JP,A)
【文献】国際公開第2009/005005(WO,A1)
【文献】Hiroshi Sasako et al.,A novel capsule-like structure of micro-sized particles formed by phytosterol ester and γ-cyclodextrin in water,Food Chemistry,2016年,Vol.210,269-275
【文献】第31回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集,2014年,pp.94-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体
であって、遊離ステロールエステルからなるコア部分と、ステロールエステル/シクロデキストリン包接化合物からなるシェル部分とを有するコアシェル構造である複合体。
【請求項2】
動的光散乱粒度分布計により測定した平均体積粒子径が10~900nmである、請求項
1記載の複合体。
【請求項3】
ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体の製造方法であって1)ステロールエステルを溶媒に溶解してステロールエステル溶液を得る工程と、
2)ステロールエステル溶液をシクロデキストリン水溶液中に注いで、液滴界面を通して拡散することにより遊離したステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を調製する工程と、
を含む製造方法。
【請求項4】
ステロールエステル1質量部に対して、シクロデキストリン3~50質量部を用いる請求項
3記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含有するナノ粒子複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬物送達システムの設計において、ナノ粒子システムが注目されている。薬物をナノ粒子システムに封入することで、経口投与あるいは経皮投与した際には薬物の吸収性を改善することができる。また、ナノ粒子システムとすることでマイクロ粒子と比較して、分散安定性の高い懸濁液が調製され、注射による投与等が可能となる。
【0003】
特許第5137212号公報には、医薬品原料など、植物ステロールエステル(PSE)、及びシクロデキストリンを含む複合体が記載されている。この複合体は、医薬品原料などを、PSEに溶解し、これをシクロデキストリン及び水を含む混合物に混合することによって製造される。得られた複合体は遊離ステロールエステルからなるコア部分、及びステロールエステル/γ―シクロデキストリン包接化合物からなるシェル部分を有するコアシェル構造であることが示されている。また、この複合体は、マスキング能を発揮するために、遊離ステロールエステルの存在が重要である可能性が示されている(H. Sasako et. al., Food Chemistry, 2016, 210, 269-275参照)。しかしながら、得られた複合体の粒状物は、その粒径が5μm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Sasako et. al., Food Chemistry, 2016, 210, 269-275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内包成分の生物学的利用能の向上や医薬品への応用のため、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を提供する。
また、本発明は、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体の製造方法を提供し、この製造方法は、
1)ステロールエステルを溶媒に溶解してステロールエステル溶液を得る工程と、
2)ステロールエステル溶液をシクロデキストリン水溶液中に注いで、液滴界面を通して拡散することにより遊離したステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を調製する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ナノサイズの、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1において得られた複合体の粒度分布測定の結果を示す図である。
【
図2】実施例1において得られた複合体の極低温透過型電子顕微鏡観察の結果を示す図である。
【
図3】実施例1において得られた複合体の示差走査熱量測定の結果を示す図である。
【
図4】実施例1において得られた複合体のX線回折測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のナノ粒子複合体は、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む。
本発明において使用するステロールエステルとは、ステロールの水酸基に脂肪酸がエステル結合することによって得られる物質である。ステロールエステルの製造方法としては、例えば酵素を利用した酵素方法などが挙げられる。酵素方法としては、触媒としてリパーゼなどを利用し、ステロールと脂肪酸とを混合し、反応(30~50℃で48時間程度)させることによってステロールエステルを得る方法などが挙げられる。また、その他の合成方法としては、大豆などから生成された植物性ステロールを菜種油、コーン油などから得られた脂肪酸で、触媒の存在下で脱水することにより、エステル化してステロールエステルを得る方法などが挙げられる。
ステロールは、特に限定されるものではなく、動物由来のステロールであってもよく、また植物由来のステロールであってもよい。動物由来のステロールとしては、例えばコレステロールなどが挙げられる。また、植物性ステロールとしては、植物油脂中に含まれるステロールなどが挙げられ、例えば大豆、菜種、綿実などの植物油脂から抽出・精製されたものであり、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、フコステロール、ジメチルステロールなどを含む混合物であってもよい。例えば、大豆ステロールには、53~56%のシトステロール、20~23%のカンペステロール及び17~21%のスチグマステロールが含まれる。植物性ステロールとして、「フィトステロール F」(タマ生化学工業株式会社製)として市販されているものを使用することもできる。
【0011】
脂肪酸としては、植物由来のもの、例えば菜種油、パーム油由来のものであってもよく、又は動物由来のものであってもよい。例えば、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、パルミトオレイン酸、ラウリン酸などが挙げられる。
好ましい植物ステロールエステルとしては、大豆由来の植物ステロールと菜種油由来の脂肪酸から得られる植物ステロールや大豆及び菜種由来の植物ステロールとパーム油由来の脂肪酸から得られる植物ステロールエステルなどが挙げられる。前者には、三栄源エフ・エフ・アイ(株)の「サンステロールNO.3」などがあり、後者には、タマ生化学(株)の「植物ステロール脂肪酸エステル」などがある。
医薬品用途、すなわち製薬上の観点から好ましいステロールエステルとしては、不純物を含まず、品質が一定な純品のコレステロールエステルが挙げられる。具体的には、オレイン酸コレステリル、リノール酸コレステリル、パルミチン酸コレステリル、ラウリン酸コレステリル、カプリル酸コレステリル、酢酸コレステリルが挙げられる。
本発明のナノ粒子複合体中のステロールエステルの含有量は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。
【0012】
本発明において使用するシクロデキストリンとは、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖のことである。シクロデキストリンとしては、ブドウ糖の数が6つのα-シクロデキストリン、7つのβ-シクロデキストリン、8つのγ-シクロデキストリンの何れも使用できるが、人の消化酵素で分解されると共に水への溶解性が高いという点からγ-シクロデキストリンが好ましい。
本発明のナノ粒子複合体中のシクロデキストリンの含有量は、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。
【0013】
本発明のナノ粒子複合体は、さらに医薬品又は食品原料を含んでもよい。医薬品又は食品原料としては、特に制限はないが、医薬品原料や、刺激のある味及び/又は香りを有する原料、あるいは保存中に減退しやすく不安定である原料を対象とする場合に特に有効である。本発明のナノ粒子複合体においては、医薬品又は食品原料を、ステロールエステル中に取り込んでもよい。医薬品又は食品原料を、ステロールエステルに溶解した状態で、ナノ粒子複合体のコア部分に取り込んでもよい。したがって、本発明のナノ粒子複合体に含有させてもよい医薬品又は食品原料としては、前記の状態で、ステロールエステル中に取り込むことができれば、特に制限はない。
このことから、医薬品又は食品原料が親油性成分である場合には、ステロールエステルとの親和性がよいため、そのままステロールエステル及びシクロデキストリンと混合してナノ粒子複合体を形成することができる。
こうした親油性成分としては、例えば、医薬品原料であるシクロスポリンA、タクロリムス等の免疫抑制剤、イトラコナゾール、リトナビル等の抗感染症薬、ニフェジピン、フェロジピン等の循環器官用薬、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン等のステロイド、インドメタシン、ナプロキセン等の抗炎症薬、フェノフィブレート、プロブコール等の高脂血症薬、カルバマゼピン、フェニトイン等の抗てんかん薬などが挙げられる。
また、食品原料などである、親油性の辛味成分の1つであるカプサイシン類が挙げられる。このカプサイシン類の中には、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、バニリルノナンアミド、バニリルブチルエーテルが含まれる。トウガラシオレオレジンなどのトウガラシ抽出物は、カプサイシンを多く含み、カプサイシン類を含む原料として好適に使用することができる。
【0014】
また、カプサイシン類以外の親油性成分としては、ショウガの辛味成分である(6)-ジンゲロール、(6)-ショウガオール、ジンゲロン、(8),(10)-ショウガオール、コショウの辛味成分であるピペリン、ピペラニン、サンショウの辛味成分であるサンショオールなどが挙げられる。ショウガ、コショウ、サンショウの辛味成分を含む原料としては、コショウ抽出物、ショウガ抽出物、サンショウ抽出物を夫々好適に使用することができる。
また、辛味成分の他にも、苦味のある親油性成分を含むウコン抽出物といった親油性の苦味成分も使用することができる。さらに、上記の香辛料親油成分だけでなく、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの不飽和脂肪酸も使用することができる。
また、本発明のナノ粒子複合体は、親油性成分が、例えば水との相互作用により、又は水存在下において光、酵素、酸素、熱などとの相互作用により分解されることを抑制することができる。すなわち、本発明のナノ粒子複合体は親油性成分を安定化し、その保存性を向上させる。したがって、前記親油性成分として、例えばカプサイシン類と類似構造を持った辛味のない物質、例えばカプシノイド類、不飽和脂肪酸、ウコンの色素成分であるクルクミンなどについても好適に使用することができ、これらの安定性向上に効果がある。
【0015】
医薬品又は食品原料が親水性成分である場合には、ステロールエステルとの親和性を高めるために、界面活性剤で表面処理された親水性成分であるのが好ましい。こうした親水性成分としては、アセトアミノフェン、アンチピリン等の鎮痛解熱薬、アモキシシリン、サルファ剤などの抗感染症薬、シメチジン、プロプラノロール等の循環器官用薬、カフェイン、ビタミンB群、ベタニン、イソベタニンなどが挙げられる。
カフェインはコーヒーや紅茶などに含まれる成分である。強い苦味を有するが、眠気防止やストレス緩和、肥満予防などの生理効果があることが知られている。
ビタミンB群は水溶性ビタミンのうち、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチンの8種類の総称で、ビタミンB複合体とも呼ばれる。大豆などの豆・種子類や豚・牛レバーなどに含まれるものが多い。生体内では、補酵素の原料として利用される為、体内の物質代謝には不可欠である。
ベタニン、イソベタニンは赤ビートに含まれる赤色色素の主成分であり、天然食用色素として利用されている。鮮やかな赤色で、pHによる色調変化が少なく、pH4~7の範囲で安定である事が知られているが、熱に対して不安定である。
本発明のナノ粒子複合体中の医薬品又は食品原料の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.01~1.5質量%である。
【0016】
本発明のナノ粒子複合体は、1)ステロールエステルを溶媒に溶解してステロールエステル溶液を得る工程と、2)ステロールエステル溶液をシクロデキストリン水溶液中に注いで、液滴界面を通して拡散することにより遊離したステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を、調製する工程とにより得ることができる。
ステロールエステルを溶解する溶媒としては、水溶性溶媒である限り特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンなどが挙げられる。好ましくは、エタノールである。ステロールエステル溶液中のステロールエステルの濃度は、飽和濃度以下であればよく、好ましくは0.01~0.15質量%である。ステロールエステル溶液には、医薬品又は食品原料が添加されていてもよい。ステロールエステル溶液中の医薬品又は食品原料の濃度は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.03~3.3質量%である。
得られたステロールエステル溶液は、次いでシクロデキストリン水溶液中に注がれる。シクロデキストリン水溶液中のシクロデキストリンの濃度は、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%である。これにより、液滴界面を通してステロールエステルが拡散し、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体が生成する。これを回収することにより、本発明のステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を得ることができる。
前記の調製において、ステロールエステル1質量部に対して、シクロデキストリン3~50質量部、好ましくは10~30質量部を用いることが望ましい。
また、ステロールエステル溶液を、45~80℃に調温したシクロデキストリン溶液に添加するのがよい。ステロールエステル溶液を、攪拌しながら、例えば、ホモジナイザーにより1000~30000rpmで攪拌しながら、毎分一定の速度で、例えば、0.2~5mlの速度で添加するのがよい。添加完了後、混合液をさらに撹拌するのがよく、例えば、ホモジナイザーなどにより1000~30000rpmで5~30分間攪拌するのがよい。混合液より、溶媒を減圧蒸留など適宜の手段で除去して、ナノ粒子複合体を回収することができる。
以上の条件によって、本発明のステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体を得ることができる。また、本発明の遊離ステロールエステルからなるコア部分と、ステロールエステル及びシクロデキストリン包接化合物からなるシェル部分とを有するコアシェル構造のナノ粒子複合体を得ることができる。
【0017】
本発明のナノ粒子複合体は、ステロールエステル及びシクロデキストリンを含むナノ粒子複合体の構造、好ましくは、遊離ステロールエステルからなるコア部分と、ステロールエステル及びシクロデキストリン包接化合物からなるシェル部分とを有するコアシェル構造を有する。
また、本発明のナノ粒子複合体は、好ましくは、略球状であり、例えば、約10~900nm、好ましくは、約50~700nmの粒子径(すなわち、粒子の最長寸法での直径)を有する。上記の粒子径のナノ粒子は、哺乳動物被験体に経口で送達することに効果的なナノ粒子となる。
本発明のナノ粒子複合体は任意の形態とすることができ、例えば賦形剤を使用するなどして、粉状物や顆粒状物にすることもできる。また、水などの溶媒に分散又は乳化させた液状物やペースト状物の形態であってもよい。
このようにして得られる本発明のナノ粒子複合体は、親油性成分の刺激のある味及び/又は香りが効果的に抑制されるという利点を有する。本発明のナノ粒子複合体における刺激のある味及び/又は香りの抑制は、例えば甘味成分などを加える、いわゆるマスキングとはそのメカニズムが異なっている。本発明のナノ粒子複合体に含まれる親油性成分は、遊離のステロールエステルに溶解していると考えられ、味の受容体と結合できない形態になっていると考えられる。
また、本発明のナノ粒子複合体は、油成分の分離が生じないという利点を有している。因みに、ステロールエステルの代わりに他の油を用いて複合体を製造した場合、均質な複合体を得ることができず油成分の分離が生じるために、飲料などに配合したときには、油成分が浮遊し、容器内面に付着するという問題がある。これに対して、本発明のナノ粒子複合体は、ステロールエステルを用いることによって均質な複合体を得ることができ、油成分の分離が生じることがなく、飲料などに配合しても油成分が容器内面に付着することがないという利点を有している。
更に、本発明のナノ粒子複合体は熱に安定であり、例えば医薬品原料や飲食品に配合して65~100℃に加熱しても、加熱殺菌処理などによる熱変性を防ぎ、親油性成分の刺激のある味及び/又は香りを抑制することができると共に、油成分の分離が生じない。
【0018】
本発明のナノ粒子複合体は、水に分散しやすいことから医薬品、飲食品、化粧品などに配合することができ、種々の組成物として提供することができる。
より具体的には、本発明のナノ粒子複合体を配合した医薬品としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、経口ゼリー剤、注射剤、吸入剤、皮膚などに適用する製剤などを挙げることができる。ここで、本発明の複合体を用いて製薬する場合を例に挙げると、例えば、本発明のナノ粒子複合体に賦形剤、結合剤、崩壊剤を添加して造粒したものに滑沢剤を加えることで、顆粒剤を製造することができる。また顆粒剤をカプセルに充填することでカプセル剤を、打錠することで錠剤を製造することができる。また、本発明の複合体に水を加えて懸濁液とすることで、注射剤あるいは皮膚などに適用する製剤を製造することができる。
本発明のナノ粒子複合体を配合した飲食品としては、例えば、飲料やゼリー、タブレットなどを挙げることができる。ここで、本発明の複合体を飲料に配合する場合を例に挙げると、例えば、本発明のナノ粒子複合体を水に加え、これに酸味料を添加してpHを4.0以下、好ましくは2.5~3.5とし、これに甘味料や果汁、香料、色素、ビタミンCなどの原料に添加混合し、65~100℃に加熱して殺菌処理を施し、容器に充填密封することにより加熱殺菌済の容器入り飲料を製造することができる。また、上記原料にゲル化剤を添加することにより容器入りゼリーを製造することもできる。
【0019】
また、前記複合体、水及び増粘剤を含み、前記複合体が水中に分散した形態の液状組成物を提供することもできる。すなわち、増粘剤を含ませることで前記複合体が水中に分散保持された液状組成物を提供することができる。また、この液状組成物は、例えば容器入り飲料などの容器入り液状組成物として提供することもでき、この場合には、容器内において油成分の分離が生じることがなく、油成分が容器内面に付着することがないという利点を有している。
ここで増粘剤としては、例えば、ジェランガム、発酵セルロース、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、タラガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、CMC(カルボキシメチルセルロース)、カラギナン、微結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられる。これらの中でも、複合体が水中に均一に分散させ且つ経口摂取したときの口当たりが良いとの観点から、発酵セルロースを使用するのが好ましい。
増粘剤の量としては、前記複合体を水中に分散させることのできる量であれば特に制限はないが、例えば液状組成物に対して0.01~1.0重量%含有させるのがよい。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
ステロールエステル(Alfa Aesar社製 オレイン酸コレステリル(ChO))10mgをエタノール10mlに溶解した溶液を、γ-シクロデキストリン(シクロケム社製 CAVAMAX W8 Food(CD))500mgを水25mlに溶解し50℃に調温したγ-シクロデキストリン溶液に、上記ステロールエステル溶液をホモジナイザーにより20000rpmで攪拌しながら、毎分1mlの速度で添加した。添加完了後、さらに15分間ホモジナイザーにより20000rpmで攪拌した後、エタノールを減圧蒸留で除去して複合体を回収した。
粒度分布、極低温透過型電子顕微鏡観察、X線回折、及び示差走査熱量分析により、得られた複合体が、遊離ステロールエステルからなるコア部分、及びステロールエステル/シクロデキストリン包接化合物(ChO/CD包接体)からなるシェル部分を有するコアシェル構造のナノ粒子の複合体であることを確認した。
粒度分布は、複合体懸濁液を測定器の測定範囲の濃度となるように蒸留水で希釈して測定した(
図1)。測定には日機装製の動的光散乱粒度分布計(ナノトラックUPA-UT 151)を用いた。粒度は単峰性を示し、平均体積粒子径は213nmであった。
極低温透過型電子顕微鏡観察は、Cryo-TEM(日本電子社製 JEM-2100F)を用いて行った(
図2)。複合体を懸濁し、2μLグリッドに添加した。余剰のサンプルを濾紙で吸い取った後に液体エタンで凍結し、液体窒素環流下で液体エタンを拭き取った。複数の略球状の粒子が観察された。粒子は外側と内側でコントラストがあり、コアシェル構造物であることが分かる。
示差走査熱量分析は、示唆走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製 DSC-6100)を用いて行った(
図3)。複合体を50μlの水に懸濁し、DSC用70μl銀容器に50μl採取した。リファレンスには水を用い、温度範囲は-10℃~180℃、昇温速度は2℃/分とした。ChOの融点由来のピークと、ChO/CD包接体由来のピークが観察された。ピーク温度は非特許文献2と一致しており、非特許文献2と同様に遊離のChOとChO/CD包接体が存在する粒子であることが示された。ChO/CD包接体由来のピークは90℃以上で吸熱を示しており、複合体は水分散液において90℃までの耐熱性を持つことが示された。
X線回折は、複合体を50μlの水に懸濁し、X線回折装置(Bruker社製 D8 ADVANCE)XRDを用いて測定した(
図4)。
図4において、●はtetragonal-columnar型のγーシクロデキストリン結晶に由来する回折ピークであり、ChO/CD包接化合物を含有することが分かる。
【0021】
[比較例1]
85℃に調温したステロールエステル(三栄源エフ・エフ・アイ社製「サンステロールNo.3」)27gを、γ-シクロデキストリン154gを水154gに溶解し85℃に調温したγ-シクロデキストリン溶液に加え、ホモジナイザーにより3000rpmで50分攪拌を行い、複合体を得た。
レーザー回折・散乱式粒度分布計により、得られた複合体の平均体積粒子径が、5.5μmであることを確認した。
【0022】
[比較例2]
85℃に調温したステロールエステル(三栄源エフ・エフ・アイ社製「サンステロールNo.3」)25gを、γ-シクロデキストリン154gを水308gに溶解し85℃に調温したγ-シクロデキストリン溶液に加え、ホモジナイザーにより2000rpmで5分間攪拌した後、さらに高圧ホモジナイザーにより1000kg/cm2で処理を行い、複合体を得た。
レーザー回折・散乱式粒度分布計により、得られた複合体の平均体積粒子径が、6.5μmであることを確認した。
【0023】