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特許7075597デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのCRISPR/CAS関連の方法および組成物
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  • 特許-デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのCRISPR/CAS関連の方法および組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのCRISPR/CAS関連の方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220519BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220519BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220519BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
A61K48/00
A61P21/04
A61K35/76
C12N5/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018558287
(86)(22)【出願日】2017-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 US2017031351
(87)【国際公開番号】W WO2017193029
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】62/332,297
(32)【優先日】2016-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】517372508
【氏名又は名称】エディタス・メディシン、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】バムクロット デイヴィッド エイ
(72)【発明者】
【氏名】ハストン ニコラス シー
(72)【発明者】
【氏名】タイコー ジョシュア シー
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン-ハム ジャクリーン
(72)【発明者】
【氏名】ガーズバック チャールズ エイ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/197748(WO,A1)
【文献】Nat Commun,2015年,6:6244,doi:10.1038/ncomms7244
【文献】Genome Biology,2015年,16:257,doi: 10.1186/s13059-015-0817-8
【文献】Molecular Therapy,2015年,Vol.23, supplement 1,S224, 561
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/864
C12N 15/09
C12N 15/12
A61K 48/00
A61P 21/04
A61K 35/76
C12N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子と、
(b)第2のgRNA分子と、
(c)NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1つのCas9分子と
を含むCRISPR/Cas9システムであって、
前記第1のgRNA分子と第2のgRNA分子のそれぞれが、19~24ヌクレオチド長のターゲティングドメインを有し、かつ、前記システムが、ヒトDMD遺伝子のエクソン51にそれぞれ隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成することによってエクソン51を含むジストロフィン遺伝子のセグメントを欠失させるように構成され、
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子が、以下からなる群から選択される、システム
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号8に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号12に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号13に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号16に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
【請求項2】
前記セグメントが、約800~900、約1500~2600、約5200~5500、約20,000~30,000、約35,000~45,000、または約60,000~72,000塩基対の長さを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのCas9分子が、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのCas9分子が、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
ウイルスベクターによりコードされる、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
医薬品に使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のシステムを含む組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載のシステムを含む細胞。
【請求項11】
細胞中で変異ジストロフィン遺伝子修正に使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステムであって、ヒトDMD遺伝子のエクソン51にそれぞれ隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成することによってエクソン51を含むジストロフィン遺伝子のセグメントを欠失させるように構成される、システム。
【請求項12】
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子が、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(iii)配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、請求項11に記載のシステム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2016年5月5日に出願された米国仮特許出願第62/332,297号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
配列表
本明細書は、配列表(2017年5月5日に「028193-9231-WO00 As Filed Sequence Listing」という名前のテキストファイルとして電子的に提出されたもの)を参照する。この「.txt」ファイルは、2017年5月5日に作成され、サイズは62,346バイトである。配列表の内容全体を、参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0003】
本開示は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)9に基づくシステムおよびウイルス送達システムを使用する遺伝子発現の改変、遺伝子のゲノム操作およびゲノム改変の分野に関する。本開示はまた、筋肉(例えば骨格筋および心筋)での遺伝子のゲノム操作およびゲノム改変の分野にも関する。
【0004】
合成転写因子は、哺乳動物システムにおける多くの異なる医学的用途および科学的用途(例えば、組織再生の刺激、薬物スクリーニング、遺伝的欠陥の補償、抑制された腫瘍抑制因子の活性化、幹細胞分化の制御、遺伝子スクリーニングの実施および合成遺伝子回路の作成)のために遺伝子発現を制御するように操作されている。これらの転写因子は、内因性遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーを標的とし得る、または導入遺伝子の調節のために哺乳動物のゲノムに直交する配列を認識するように意図的に設計され得る。ユーザーにより定義される配列を標的とする新規転写因子を設計するための最も一般的な戦略は、ジンクフィンガータンパク質および転写アクチベーター様エフェクター(TALE)のプログラム可能なDNA結合ドメインをベースとしている。これらのアプローチの両方は、これらのドメインのタンパク質-DNA相互作用の原理を、独自のDNA結合特異性を有する新規のタンパク質の設計に適用することが含まれる。これらの方法は多くの用途で広く成功しているが、タンパク質-DNA相互作用を操作するために必要なタンパク質工学は面倒な可能性があり、且つ専門知識を必要とする。
【0005】
加えて、この新規のタンパク質は必ずしも有効であるとは限らない。この理由はまだ分かっていないが、ゲノム標的部位へのタンパク質結合に対するエピジェネティックな改変およびクロマチン状態の効果に関連している可能性がある。加えて、この新規のタンパク質および他の成分が各細胞に送達されることを確実にすることには課題が存在する。この新規のタンパク質およびその複数の成分を送達するための既存の方法として、コピー数の差異に起因して各細胞中での高度に可変な発現レベルに至る別々のプラスミドおよびベクターの細胞への送達が挙げられる。加えて、遺伝子導入後の遺伝子活性化はプラスミドDNAの希釈に起因して一過性であり、一時的な遺伝子発現は、治療効果を誘導するのに十分ではない可能性がある。さらに、このアプローチは、容易には遺伝子導入されない細胞型には適していない。そのため、この新規のタンパク質の別の制限は転写活性化の効力である。
【0006】
部位特異的なヌクレアーゼを使用して、標的とするゲノム遺伝子座で部位特異的な二本鎖切断を導入することができる。このDNA開裂は天然のDNA修復機構を刺激し、2種の可能な修復経路のうちの一方に至る。ドナー鋳型の非存在下では、この切断は、DNAの小さい挿入または欠失が起こるエラーが発生し易い修復経路である非相同末端結合(NHEJ)により修復される。この方法を使用して、標的とする遺伝子配列の読み枠を意図的に破壊し得る、欠失させ得る、または改変し得る。しかしながら、ドナー鋳型がヌクレアーゼと共に提供される場合、細胞機構は、この切断を相同組換えにより修復し、この相同組換えは、DNA切断の存在下では桁違いに増強される。この方法を使用して、標的部位でDNA配列中に特定の変化を導入することができる。遺伝子操作されたヌクレアーゼは、様々なヒト幹細胞および細胞株での遺伝子編集ならびにマウス肝臓での遺伝子編集に使用されている。しかしながら、これらの技術の実施での大きな障害は、有効で効率的であり且つゲノム改変の成功を容易にする方法によるインビボでの特定の組織への送達である。
【0007】
遺伝性の遺伝子疾患は、米国では、子供への破壊的な影響を与える。これらの疾患は、現在、治療法がなく、症状を軽減する試みによって管理することしかできない。数十年間、遺伝子治療の分野は、これらの疾患に対する治療法を約束してきた。
【0008】
しかし、細胞および患者への治療遺伝子の安全かつ効率的な送達に関する技術的な障害により、この手法は制限されてきた。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、最も一般的な遺伝性の単一遺伝子疾患であり、男性の3500人に1人が発症する。DMDは、ジストロフィン遺伝子内の遺伝性突然変異または自然突然変異の結果である。ジストロフィンは、筋細胞の完全性および機能の調節に関与するタンパク質複合体の重要な構成要素である。DMD患者は概して、小児期には自身を身体的に支える能力を失い、十代にはますます弱まり、二十代には死亡する。DMDのための現在の実験的遺伝子治療戦略は、一過性の遺伝子送達媒体の反復投与を必要とする、または外来遺伝子物質のゲノムDNAへの永続的な組込みに依存する。これらの方法は両方とも、安全性に深刻な懸念を有する。さらに、これらの戦略は、大きく且つ複雑なDMD遺伝子配列を送達することができないことにより制限されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の主題は、第1のガイドRNA(gRNA)分子と、第2のgRNA分子と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1つのCas9分子とをコードするベクターを提供し、ここでは、第1のgRNA分子と第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24ヌクレオチド長のターゲティングドメインを有し、かつベクターは、ヒトDMD遺伝子のエクソン51にそれぞれ隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成することによって、エクソン51を含むジストロフィン遺伝子のセグメントを欠失させるように構成される。特定の実施形態では、セグメントは、約800~900、約1500~2600、約5200~5500、約20,000~30,000、約35,000~45,000、または約60,000~72,000塩基対の長さを有する。特定の実施形態では、セグメントは、約806塩基対、約867塩基対、約1,557塩基対、約2,527塩基対、約5,305塩基対、約5,415塩基対、約20,768塩基対、約27,398塩基対、約36,342塩基対、約44,269塩基対、約60,894塩基対、および約71,832塩基対からなる群から選択される長さを有する。特定の実施形態では、セグメントは、806塩基対、867塩基対、1,557塩基対、2,527塩基対、5,305塩基対、5,415塩基対、20,768塩基対、27,398塩基対、36,342塩基対、44,269塩基対、60,894塩基対、および71,832塩基対からなる群から選択される長さを有する。
【0010】
さらに、本開示の主題は、第1のガイドRNA分子と、第2のgRNA分子と、少なくとも1つのCas9分子とをコードするベクターを提供し、ここでは、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、以下からなる群から選択される:
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号8に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号12に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号13に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号16に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子。
【0011】
特定の実施形態では、少なくとも1つのCas9分子は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。特定の実施形態では、少なくとも1つのCas9分子は、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。
【0012】
特定の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクターである。特定の実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0013】
本開示の主題はまた、上記のベクターを含む細胞を提供する。本開示の主題はさらに、上記のベクターを含む組成物を提供する。
【0014】
本開示の主題はさらに、細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正する方法であって、上記のベクターを細胞に投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子は、未成熟終止コドン、遺伝子欠失による破壊された読み枠、異所性スプライス受容部位、または異所性スプライス供与部位を含む。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子の修正は、相同組換え修復を含む。特定の実施形態では、本方法はさらに、ドナーDNAを細胞に投与することを含む。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子は、未成熟終止コドンおよび切断された遺伝子産物をもたらすフレームシフト変異を含む。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子の修正は、ヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合を含む。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子の修正は、未成熟終止コドンの欠失、破壊された読み枠の修正、またはスプライス受容部位の破壊もしくはスプライス供与配列の破壊によるスプライシングの調節を含む。特定の実施形態では、変異ジストロフィン遺伝子の修正は、エクソン51の欠失を含む。特定の実施形態では、細胞は、筋芽細胞である。特定の実施形態では、細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している対象由来である。特定の実施形態では、細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患しているヒト対象由来の筋芽細胞である。特定の実施形態では、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、以下からなる群から選択される:(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(iii)配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子。特定の実施形態では、第1のgRNA分子が、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含み、かつ、第2のgRNA分子が、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む。
【0015】
さらに、本開示の主題は、変異ジストロフィン遺伝子を有する、その必要がある対象を治療する方法であって、上記のベクターを対象に投与することを含む方法を提供する。特定の実施形態では、対象は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している。特定の実施形態では、本方法は、対象の筋肉にベクターを投与することを含む。特定の実施形態では、筋肉は、骨格筋または心筋である。特定の実施形態では、骨格筋は、前脛骨筋である。特定の実施形態では、ベクターは、対象の骨格筋に注射される。特定の実施形態では、ベクターは、対象に全身的に注射される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】HEK293T細胞における本開示のベクターの欠失効率を示す。
図2】DMD筋芽細胞における本開示のベクターの欠失効率を示す。
図3】DMD筋芽細胞試料における本開示のベクターの配列決定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に記載した遺伝子コンストラクト、組成物、および方法は、ゲノムを編集する、例えば、遺伝子疾患、例えばDMDに関与するジストロフィン遺伝子内の変異の影響を修正または低減するために使用することができる。遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子に対するDNAターゲティング特異性を提供する少なくとも1対のガイドRNA分子と、少なくとも1つのCas9分子とを含む。
【0018】
本開示の主題はまた、ジストロフィン遺伝子を標的にするために、CRISPR/CRISPR関連(Cas)9に基づくシステムおよび複数のgRNAを送達するための、遺伝子コンストラクト、組成物、および方法を提供する。本開示の主題はまた、骨格筋および心筋に、遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を送達するための方法を提供する。ベクターは、改変されたAAVベクターを含めたAAVであり得る。本開示の主題は、治療用途のためにヒトゲノムを書き換えるための手段、および基礎科学用途のための標的モデル種を提供する。
【0019】
遺伝子編集は、組織ごとに異なる細胞周期および複雑なDNA修復経路に大きく依存している。骨格筋は、細胞あたり100個超の核を有する大きな筋線維からなる、非常に複雑な環境である。遺伝子治療および生物学は、概して、数十年間、インビボ送達の障害によって制限されてきた。これらの課題には、インビボでの担体の安定性、正しい組織を標的にすること、十分な遺伝子発現および活性な遺伝子産物を得ること、ならびに遺伝子編集ツールによく見られる、活性に打ち勝つ可能性がある毒性を回避することが含まれる。プラスミドDNAの直接注射などの他の送達ビヒクルは、他の状況における骨格筋および心筋では、遺伝子を発現するように働くが、検出可能なレベルのゲノム編集を達成するためのこれらの部位特異的ヌクレアーゼと共には働かない。
【0020】
AAVベクター内では、多くの遺伝子配列が、不安定、したがって送達不可能であるが、CRISPR/Casシステムは、AAVベクター内で安定である。CRISPR/Casシステムが、送達および発現される場合、骨格筋組織中で活性なままである。CRISPR/Casシステムのタンパク質安定性および活性は、組織型および細胞型に大きく依存する。これらの活性かつ安定なCRISPR/Casシステムは、骨格筋の複雑な環境における遺伝子配列を改変することが可能である。本開示の主題は、効率的でありかつ成功裡のゲノム改変を容易にする活性な形態のこのクラスの治療薬を、骨格筋または心筋に送達する方式を記載する。
【0021】
このセクションおよび本明細書での開示全体で使用するセクションの表題は、単に構成を目的とするだけであり、限定することを意図するものではない。
【0022】
1.定義
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本文書が支配する。好ましい方法および材料が以下に説明されているが、本明細書で説明されたものと類似のまたは等価の方法および材料を本開示の主題の実施または試験で使用することができる。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で開示された材料、方法および例は一例に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0023】
本明細書で別に定義されない限り、本開示に関して使用される科学および技術用語は、当業者によって普通に理解される意味を有するものとする。例えば、本明細書に記載した細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関して使用される、あらゆる学術用語、およびこれらの技術は、周知でありかつ当技術分野で普通に使用されるものである。用語の意味および範囲は、明確であるべきである;しかし、いずれかの潜在的あいまい性の場合には、本明細書で提供する定義が、あらゆる辞書または外部の定義よりも先行する。さらに、文脈によって他に必要とされない限り、単数の用語には、複数形が含まれるものとし、複数の用語には、単数形が含まれるものとする。
【0024】
用語「含む」、「含まれる」、「有すること」、「有する」、「することができる」、「含有する」、およびこれらの異形は、本明細書で使用する場合、追加の作用または構造可能性を排除しない、制約のない移り変わる語句、用語、または単語であることが意図される。単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈によって他に明確に指示しない限り、複数の指示内容が含まれる。本開示はまた、明確に説明してもしなくても、本明細書で提供される実施形態または要素を「含む」、「~からなる」、および「本質的に~からなる」、他の実施形態を意図する。
【0025】
本明細書の数値範囲の列挙については、それぞれその間にある数が、同じ程度の正確性で、明確に意図される。例えば、6~9の範囲については、6および9に加えて、数値7および8が意図され、範囲6.0~7.0については、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0が、明確に意図される。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「約(about)」または「約(approximately)」は、当業者によって決定される特定の値に関して許容される誤差範囲内を意味し、この誤差範囲は、この値がどのようにして測定されるかまたは決定されるか(即ち、測定システムの限界)によってある程度決まるだろう。例えば、「約」は、当分野での慣習に従って、3または3超の標準偏差内を意味することができる。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%の範囲を意味し得、好ましくは最大10%の範囲を意味し得、より好ましくは最大5%の範囲を意味し得、より好ましくはさらに最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物系または生物学的プロセスに関して、この用語は、ある値の1桁内を意味し得、好ましくは5倍以内を意味し得、より好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0027】
本明細書で互換的に使用される「フレームシフト」または「フレームシフト変異」は、1つ以上のヌクレオチドの付加または欠失がmRNA内のコドンの読み枠のずれをもたらす、遺伝子変異の種類を指す。読み枠のずれは、ミスセンス変異または未成熟終止コドンなどの、タンパク質翻訳でのアミノ酸配列の変更をもたらす可能性がある。
【0028】
本明細書で使用される「融合タンパク質」は、元々は別のタンパク質をコードしている2つ以上の遺伝子の連結を介して作製されたキメラタンパク質を指す。融合体遺伝子の翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性をもつ単一のポリペプチドをもたらす。
【0029】
本明細書で使用される「遺伝子コンストラクト」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNA分子を指す。コード配列には、核酸分子が投与される個人の細胞における発現を誘導することが可能なプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節エレメントに作動可能に連結された開始および停止シグナルが含まれる。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「発現可能な形態」は、個人の細胞内に存在する場合にコード配列が発現されることとなるような、タンパク質をコードするコード配列に作動可能に連結された必須の調節エレメントを含有する遺伝子コンストラクトを指す。
【0031】
本明細書で互換的に使用される「変異遺伝子」または「変異した遺伝子」は、検出可能な変異を受けている遺伝子を指す。変異遺伝子は、遺伝子の正常な伝達および発現に影響を与える、遺伝材料の喪失、獲得、または交換などの変化を受けている。本明細書で使用される「破壊された遺伝子」は、未成熟終止コドンをもたらす変異を有する変異遺伝子を指す。破壊された遺伝子産物は、完全長の破壊されていない遺伝子産物に対して切断されている。
【0032】
本明細書で使用される「正常遺伝子」は、遺伝材料の喪失、獲得、または交換などの変化を受けていない遺伝子を指す。正常遺伝子は、正常な遺伝子伝達および遺伝子発現を受ける。
【0033】
本明細書で使用される「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、共有結合によって共に連結された、少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。単鎖の描写はまた、相補鎖の配列も定義する。したがって、核酸は、描写した単鎖の相補鎖も包含する。所与の核酸と同一の目的のために、核酸の多くのバリアントを使用することができる。したがって、核酸は、実質的に同一な核酸およびその相補体も包含する。単鎖は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的配列とハイブリッド形成することができるプローブを提供する。したがって、核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリッド形成するプローブも包含する。
【0034】
核酸は、一本鎖または二本鎖であり得るし、二本鎖配列と一本鎖配列の両方の部分を含有することもできる。核酸は、DNA、ゲノムDNAとcDNAの両方、RNA、またはハイブリッドであり得、ここでは、核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組み合わせ、およびウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、およびイソグアニンを含めた塩基の組み合わせを含有することができる。核酸は、化学合成方法によって、または組換え方法によって得ることができる。
【0035】
本明細書で使用される「作動可能に連結された」は、遺伝子の発現が、遺伝子と空間的に連結されたプロモーターの制御下であることを意味する。プロモーターは、その制御下の遺伝子の5’(上流)または3’(下流)に位置することができる。プロモーターと遺伝子との距離は、プロモーターが由来する遺伝子における、プロモーターと、プロモーターが制御する遺伝子との距離とほぼ同じであり得る。当技術分野で公知であるように、この距離のバリエーションは、プロモーター機能の喪失を伴わずに適応させることができる。
【0036】
本明細書で互換的に使用される「未成熟終止コドン」または「アウトオブフレーム終止コドン」は、野生型遺伝子には通常見られない位置での終止コドンをもたらす、DNAの配列内のナンセンス変異を指す。未成熟終止コドンは、完全長型のタンパク質と比較して切断されているまたは短いタンパク質をもたらす可能性がある。
【0037】
本明細書で使用される「プロモーター」は、細胞における核酸の発現を付与する、活性化する、または促進することが可能である、合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに促進するための、かつ/または、空間的発現および/または同じものの時間的発現を変更するための、1以上の特異的な転写調節配列を含むことができる。プロモーターはまた、転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置することができる遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントを含むことができる。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、および動物を含めた起源から得ることができる。プロモーターは、発現が起こる細胞、組織、または器官に対して、または発現が起こる発生段階に対して、または生理的ストレス、病原体、金属イオン、もしくは誘発物質などの外部刺激に応答して、遺伝子成分の発現を恒常的または変動的に調節することができる。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレーター-プロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、SV40初期プロモーターまたはSV40後期プロモーター、およびCMV IEプロモーターが挙げられる。
【0038】
本明細書で使用される「骨格筋」は、体性神経系の制御下にあり、かつ腱として公知のコラーゲン線維の束によって骨に付着している、横紋筋の種類を指す。骨格筋は、時として口語的に「筋肉線維(muscle fiber)」と呼ばれる、筋細胞(myocyte)として公知の個々の成分、または「筋肉細胞(muscle cell)」で構成されている。筋細胞は、筋形成として公知のプロセスにおいて、発達性の筋芽細胞(筋肉細胞をもたらす、ある種類の胚性前駆細胞)の融合体から形成される。これらの長い円柱形の多核細胞は、筋線維(myo fiber)とも呼ばれる。特定の実施形態では、「骨格筋状態」は、筋ジストロフィー、老化、筋変性、創傷治癒、および筋力低下または筋萎縮症などの、骨格筋に関連する状態を指す。
【0039】
本明細書において互換的に使用される「心筋(cardiac muscle)」または「心筋(heart muscle)」は、心臓の壁および組織学的基礎で見られる一種の不随意性の横紋筋(心筋(myocardium))を意味する。心筋は、心筋細胞(cardiomyocyte)または心筋細胞(myocardiocyte)で作られている。心筋細胞は骨格筋細胞上の条線と同様の条線を示すが、多核骨格筋とは異なり唯一の固有の核を含む。特定の実施形態では、「心筋状態」は、心筋に関連する状態(例えば、心筋症、心不全、不整脈および炎症性心疾患)を指す。
【0040】
本明細書で互換的に使用される「対象」および「患者」は、限定はされないが、哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザルまたはアカゲザル、チンパンジーなどのサル)、およびヒト)を含めた、あらゆる脊椎動物を指す。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。対象または患者は、他の形態の治療を受けていてもよい。
【0041】
本明細書で使用される「標的遺伝子」は、既知のまたは推定上の遺伝子産物をコードする、あらゆるヌクレオチド配列を指す。標的遺伝子は、遺伝子疾患に関与する変異した遺伝子であり得る。特定の実施形態では、標的遺伝子は、ヒトジストロフィン遺伝子である。特定の実施形態では、標的遺伝子は、変異ヒトジストロフィン遺伝子である。
【0042】
本明細書で使用される「標的領域」は、それに対するガイドRNAが結合および切断するように設計される、標的遺伝子の領域を指す。
【0043】
核酸に関して本明細書で使用される「バリアント」は、(i)参考ヌクレオチド配列の一部もしくは断片;(ii)参考ヌクレオチド配列の相補体、もしくはその一部;(iii)参考核酸と実質的に同一である核酸、もしくはその相補体;または(iv)ストリンジェントな条件下で参考核酸とハイブリッド形成する核酸、その相補体、もしくはそれと実質的に同一な配列を意味する。ペプチドまたはポリペプチドに関する「バリアント」は、アミノ酸の挿入、欠失、または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物活性を保持する。バリアントは、少なくとも1つの生物活性を保持するアミノ酸配列を有する参考タンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質も意味することができる。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸を、類似の性質(例えば、荷電領域の親水性、程度、および分布)の別のアミノ酸と置き換えることは、典型的には微小な変化を伴うものと当技術分野で認識されている。これらの微小な変化は、当技術分野で理解されている通り、アミノ酸の疎水性指標(hydropathic index)を考慮することによって、ある程度特定することができる。Kyte et al.,J.Mol.Biol.157:105-132(1982)。アミノ酸の疎水性指標は、その疎水性および電荷の考慮に基づいている。類似の疎水性指標のアミノ酸が、置換されてもまだ、タンパク質機能を保持できることが、当技術分野で公知である。一態様では、±2の疎水性指標を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性はまた、生体機能を保持するタンパク質をもたらすであろう置換を明らかにするために使用することができる。ペプチドという状況でのアミノ酸の親水性の考慮は、そのペプチドの最大の局所的平均親水性の算出を可能にする。互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸での置換を実施することができる。アミノ酸の疎水性指標と親水性値はどちらも、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。この知見と一致して、生体機能と適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、大きさ、および他の性質によって明らかにされる、アミノ酸、特にそのアミノ酸の側鎖の相対的類似性に依存することが理解されよう。
【0044】
本明細書で使用される「ベクター」は、複製開始点を含有する核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体、または酵母人工染色体であり得る。ベクターは、DNAまたはRNAベクターであり得る。ベクターは、自己複製する染色体外のベクター、例えば、DNAプラスミドであり得る。例えばベクターは、1つのCas9分子と、一対のgRNA分子をコードすることができる。
【0045】
2.ジストロフィン遺伝子のゲノム編集のための遺伝子コンストラクト
本開示の主題は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のゲノム編集またはゲノム変更のための遺伝子コンストラクトを提供する。
【0046】
特定の実施形態では、ジストロフィンは、筋肉線維の細胞骨格を、細胞膜を通して周囲の細胞外基質に連結するタンパク質複合体の一部である、棒状の細胞質タンパク質を指す。ジストロフィンは、筋肉細胞の完全性および機能の調節を担う細胞膜のジストログリカン複合体に、構造安定性を提供する。特定の実施形態では、ジストロフィン遺伝子(または「DMD遺伝子」)は、遺伝子座Xp21の2.2メガ塩基である。一次転写物は、約2,400kbであり、成熟したmRNAは、約14kbである。79個のエクソンが、3500超のアミノ酸であるタンパク質をコードする。
【0047】
本開示の遺伝子コンストラクトは、少なくとも1つのCas9分子またはCas9融合タンパク質と、少なくとも1つの(例えば2つの)gRNA分子とを含む、CRISPR/Cas9システムをコードする。本開示の主題はまた、こうした遺伝子コンストラクトを含む組成物を提供する。遺伝子コンストラクトは、機能的な染色体外分子として、細胞内に存在することができる。遺伝子コンストラクトは、線状ミニ染色体(セントロメアを含めて)、テロメア、またはプラスミドもしくはコスミドであり得る。
【0048】
遺伝子コンストラクトはまた、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスを含めた、組換えウイルスベクターのゲノムの一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、細胞内で生存する弱毒化した生きている微生物または組換え微生物ベクター中の遺伝材料の一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、核酸のコード配列の遺伝子発現のための調節エレメントを含むことができる。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、開始コドン、終止コドン、またはポリアデニル化シグナルであり得る。
【0049】
特定の実施形態では、遺伝子コンストラクトは、ベクターである。ベクターは、少なくとも1つのCas9分子と、少なくとも1つのgRNA分子(例えば、2個で一組のgRNA分子)とをコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり得;ベクターは、哺乳類の細胞において、少なくとも1つのCas9分子と、少なくともgRNA分子とを発現させることが可能である。ベクターは、プラスミドであり得る。ベクターは、インビボ遺伝子治療のために使用することができる。
【0050】
特定の実施形態では、AAVベクターは、ヒトおよびいくつかの他の霊長類の種を感染させる、パルボウイルス(Parvoviridae)科のディペンドウイルス(Dependovirus)属に属する、小さいウイルスである。
【0051】
コード配列は、安定性および高レベルの発現のために最適化することができる。ある種の場合には、コドンは、分子内結合が原因で形成されるものなどの、RNAの二次構造形成を低下させるように選択される。
【0052】
ベクターは、CRISPR/Cas9に基づくシステムの上流であり得る開始コドン、およびCRISPR/Cas9に基づくシステムまたは部位特異的ヌクレアーゼコード配列の下流であり得る終止コドンをさらに含むことができる。開始および停止コドンは、CRISPR/Cas9に基づくシステムまたは部位特異的ヌクレアーゼコード配列と共に、フレーム内であり得る。ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づくシステムに作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる。CRISPR/Cas9に基づくシステムに作動可能に連結されたプロモーターは、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、例えばウシ免疫不全ウイルス(BIV)長い末端反復(LTR)プロモーター、モロニ―ウイルスプロモーター、トリ白血病ウイルス(ALV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターであり得る。プロモーターはまた、ヒトユビキチンC(hUbC)、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはヒトメタロチオネインなどの、ヒト遺伝子由来のプロモーターであり得る。プロモーターはまた、天然または合成の、筋肉または皮膚特異的なプロモーターなどの、組織特異的プロモーターであり得る。こうしたプロモーターの例は、その内容全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20040175727号明細書に記載されている。
【0053】
ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づくシステムの下流であり得るポリアデニル化シグナルを含むことができる。ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナル、LTRポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナル、またはヒトβ-グロビンポリアデニル化シグナルであり得る。SV40ポリアデニル化シグナルは、pCEP4ベクター(Invitrogen,San Diego,CA)由来のポリアデニル化シグナルであり得る。
【0054】
ベクターはまた、DNA発現のための、CRISPR/Cas9に基づくシステムの上流のエンハンサーを含むことができる。エンハンサーは、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはウイルスエンハンサー、例えばCMV、HA、RSV、またはEBVに由来するものなどであり得る。ポリヌクレオチド機能エンハンサーは、それぞれの内容が参照によって完全に組み込まれる米国特許第5,593,972号明細書、米国特許第5,962,428号明細書、および国際公開第94/016737号パンフレットに記載されている。ベクターはまた、ベクターを染色体外に維持するために、哺乳類の複製開始点を含むことができ、細胞内でベクターの複数のコピーを産生することができる。ベクターはまた、調節配列を含むことができ、調節配列は、ベクターが投与される哺乳類またはヒト細胞における遺伝子発現のために十分に適合させることができる。ベクターはまた、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)などのレポーター遺伝子および/またはハイグロマイシン(「Hygro」)などの選択可能マーカーを含むことができる。
【0055】
ベクターは、常用の技術、および容易に入手可能な出発材料によってタンパク質を産生するための、発現ベクターまたはシステムであり得る(参照によって完全に組み込まれる、Sambrook et al.,Molecular Cloning and Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbor(1989))。
【0056】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、対象の骨格筋または心筋におけるジストロフィン遺伝子をゲノム編集するために使用することができる。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、遺伝子疾患および/または他の骨格筋もしくは心筋状態、例えばDMDに関与するジストロフィン遺伝子内の変異の影響を修正または低減することにおいて使用することができる。
【0057】
2.1 ジストロフィン
ジストロフィンは、筋線維の細胞骨格を、細胞膜を通して周囲の細胞外基質に連結するタンパク質複合体の一部である、棒状の細胞質タンパク質である。ジストロフィンは、細胞膜のジストログリカン複合体に、構造安定性を提供する。ジストロフィン遺伝子は、遺伝子座Xp21の2.2メガ塩基である。一次転写物は、約2,400kbであり、成熟したmRNAは、約14kbである。79個のエクソンが、3500超のアミノ酸であるタンパク質をコードする。正常な骨格筋組織は、ほんの少しの量のジストロフィンしか含有しないが、ジストロフィンの欠如または異常発現により、重度および不治の症状が発症する。ジストロフィン遺伝子内のいくつかの変異により、罹患した患者では、ジストロフィン欠損および重度のジストロフィー表現型がもたらされる。ジストロフィン遺伝子内のいくつかの変異により、罹患した患者では、部分的に機能性のジストロフィンタンパク質およびかなり軽度のジストロフィー表現型がもたらされる。
【0058】
特定の実施形態では、「機能性遺伝子」は、機能性タンパク質に翻訳されるmRNAに転写される遺伝子を指す。
【0059】
特定の実施形態では、「部分的に機能性の」タンパク質は、変異遺伝子(例えば、変異ジストロフィン遺伝子)によってコードされ、かつ、機能性タンパク質よりも低いが非機能性タンパク質よりも高い生物活性を有するタンパク質を指す。
【0060】
DMDは、ジストロフィン遺伝子内のナンセンスまたはフレームシフト変異をもたらす、遺伝性突然変異または自然突然変異の結果である。天然に存在する変異およびその結果は、DMDについて、比較的よく理解されている。桿状ドメイン内に含有されるエクソン45~55領域(例えばエクソン51)内に生じるインフレーム欠失は、高度に機能性のジストロフィンタンパク質を産生することができ、多くの保因者は無症候であるか、軽い症状を呈することが公知である。さらに、60%超の患者は、理論上は、ジストロフィン遺伝子のこの領域内のエクソンを標的にする(例えば、エクソン51を標的にする)ことによって治療することができる。mRNAスプライシング中に非必須エクソンをスキップし(例えば、エクソン51スキッピング)、内部的に欠損しているが機能性のジストロフィンタンパク質を産生させることによって、DMD患者における破壊されたジストロフィン読み枠を修復する取り組みが行われている。内部ジストロフィンエクソンの欠失(例えば、エクソン51の欠失)は、適切な読み枠を保持するが、それほど重症ではないベッカー型筋ジストロフィーを引き起こす。
【0061】
特定の実施形態では、読み枠を修復するためのエクソン51の改変(例えば、例えばNHEJによるエクソン51の欠失または切除)は、DMD対象の最大17%、また、欠失変異を有するDMD対象の最大21%の表現型を回復させる(Flanigan et al.,Human Mutation 2009;30:1657-1666.Aartsma-Rus et al.,Human Mutation 2009;30:293-299.Bladen et al.,Human Mutation 2015;36(2))。
【0062】
特定の実施形態では、ジストロフィン遺伝子のエクソン51は、ジストロフィン遺伝子の51番目のエクソンを指す。エクソン51は、DMD患者では、フレーム破壊欠失に頻繁に隣接しており、オリゴヌクレオチドに基づくエクソンスキッピングについての臨床試験において標的とされている。エクソン51スキッピング化合物エテプリルセンについての臨床試験は、最近、ベースラインと比較して平均47%のジストロフィン陽性線維を伴う、48週にわたる有意な機能性の利益を報告した。エクソン51の変異は、NHEJに基づくゲノム編集による永続的な修正に理想的に適している。
【0063】
2.2.ジストロフィン遺伝子に特異的なCRISPR/Casシステム
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)に特異的であるCRISPR/Casシステムをコードする。「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート」および「CRISPR」は、本明細書で互換的に使用される場合、配列決定された細菌の約40%および配列決定された古細菌の90%のゲノムで見られる複数の短いダイレクトリピートを含む遺伝子座を指す。CRISPR系は、ある形態の獲得免疫を提供する、侵入するファージおよびプラスミドに対する防御に関与する、微生物ヌクレアーゼ系である。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR介在性の核酸切断の特異性をプログラミングすることが可能な、CRISPR関連(Cas)遺伝子と、ノンコーディングRNAエレメントとの組み合わせを含有する。スペーサーと呼ばれる、外来DNAの短い部分が、ゲノムのCRISPRリピート間に組み込まれ、過去の曝露の「メモリー」として働く。Cas9は、sgRNAの3’末端との複合体を形成し、このタンパク質-RNA対は、sgRNA配列の5’末端と、プロトスペーサーとして公知であるあらかじめ定義された20bp DNA配列との間の相補的塩基対合によって、そのゲノム上の標的を認識する。この複合体は、crRNA内のコードされた領域を介して、病原体DNAの相同遺伝子座、すなわち、病原体ゲノム内のプロトスペーサー、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer-adjacent motif)(PAM)に誘導される。ノンコーディングCRISPRアレイは、ダイレクトリピート内で転写および切断されて、個々のスペーサー配列を含有する短いcrRNAとなり、これが、Casヌクレアーゼを標的部位(プロトスペーサー)に誘導する。発現されるsgRNAの20bp認識配列を単に交換することによって、Cas9ヌクレアーゼを、ゲノム上の新しい標的に誘導することができるようになる。CRISPRスペーサーは、真核生物におけるRNAiと同様の方式で外来性遺伝因子を認識および発現停止させるために使用される。
【0064】
特定の実施形態では、相補性は、互いに逆平行に整列させた時に各位置のヌクレオチド塩基が相補的となるような、2つの核酸配列間に共有される性質を指す。
【0065】
3つのクラスのCRISPR系(I型、II型、およびIII型エフェクター系)が公知である。II型エフェクター系は、単一のエフェクター酵素、Cas9を使用して、4つの連続的ステップで、標的DNA二本鎖破壊を行って、dsDNAを切断する。複合体として作用する複数の異なるエフェクターを必要とするI型およびIII型エフェクター系と比較して、II型エフェクター系は、真核細胞などの代替状況において機能することができる。II型エフェクター系は、長い前駆‐crRNA(これは、スペーサー含有CRISPR遺伝子座から転写される)、Cas9タンパク質、およびtracrRNA(これは、前駆‐crRNAプロセシングに関与する)からなる。tracrRNAは、前駆‐crRNAのスペーサーを隔てている反復領域とハイブリッド形成し、したがって、内在性RNase IIIによるdsRNA切断を開始する。この切断に、Cas9による各スペーサー内の第2の切断現象が続き、tracrRNAおよびCas9と結合されたままである成熟crRNAが産生され、Cas9:crRNA-tracrRNA複合体が形成される。
【0066】
Cas9:crRNA-tracrRNA複合体は、DNA二重鎖をほどき、crRNAとの配列マッチングを探索して切断する。標的認識は、標的DNA内の「プロトスペーサー」配列と、crRNA内の残存するスペーサー配列との間の相補性の検出時に発生する。Cas9は、正しいプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)もプロトスペーサーの3’末端に存在する場合に、標的DNAの切断を媒介する。プロトスペーサーターゲティングについては、配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、すなわちDNA切断に必要とされるCas9ヌクレアーゼによって認識される短い配列の直後でなければならない。別のII型系は、異なるPAM要件を有する。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)CRISPR系は、5’-NRG-3’(ここで、Rは、AまたはGのいずれかである)としての、かつ、ヒト細胞におけるこの系の特異性を特徴付ける、このCas9(SpCas9)のためのPAM配列を有することができる。CRISPR/Cas9システムの独自の能力は、2つ以上のgRNAを伴う単一のCas9タンパク質を同時発現させることによって、複数の異なるゲノム上遺伝子座を同時に標的にする、直接的な能力である。例えば、遺伝子改変された系において、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)II型系は、本来は「NGG」配列(ここで、「N」は、いずれかのヌクレオチドであり得る)を使用することを好むが、「NAG」などの他のPAM配列も受け入れられる(Hsu et al., Nature Biotechnology(2013)doi:10.1038/nbt.2647)。同様に、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のCas9(NmCas9)は、通常、NNNNGATT(配列番号17)という天然のPAMを有するが、高度に縮重したNNNNGNNN(配列番号18)PAMを含めた様々なPAMにわたって活性を有する(Esvelt et al.Nature Methods(2013)doi:10.1038/nmeth.2681)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRR(R=AまたはG)(配列番号22)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRN(R=AまたはG)(配列番号23)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRT(R=AまたはG)(配列番号24)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRV(R=AまたはG)(配列番号25)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。上述の実施形態では、Nは任意のヌクレオチド残基であり得、例えばA、G、CまたはTのいずれかであり得る。Cas9分子を操作して、このCas9分子のPAM特異性を変更することができる。
【0067】
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の遺伝子改変された形態のII型エフェクター系は、ゲノム工学のために、ヒト細胞において機能することが示された。この系では、Cas9タンパク質は、合成によって再構成された「ガイドRNA」(「gRNA」、また、本明細書ではキメラ一本鎖ガイドRNA(「sgRNA」)と互換的に使用され、一般に、RNase III およびcrRNAプロセシングの必要性を不要にするcrRNA-tracrRNA融合体である)によって、ゲノム上の標的部位に誘導された。本明細書で提供するのは、ゲノム編集、および遺伝性疾患の治療における使用のためのCRISPR/Cas9に基づく編集システムである。CRISPR/Cas9に基づく編集システムは、遺伝性疾患、老化、組織再生、または創傷治癒に関与する遺伝子を含めた、あらゆる遺伝子を標的にするように設計することができる。CRISPR/Cas9に基づくシステムは、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質と、少なくとも1つのgRNAとを含むことができる。特定の実施形態では、システムは2種のgRNA分子を含む。Cas9融合タンパク質は、例えば、トランス活性化ドメインなどの、Cas9にとって内在性であるものとは異なる活性を有するドメインを含むことができる。
標的遺伝子(例えば、ジストロフィン遺伝子、例えばヒトジストロフィン遺伝子)は、細胞の分化にもしくは遺伝子の活性化が所望され得る任意の他のプロセスに関与し得る、または変異(例えばフレームシフト変異もしくはナンセンス変異)を有し得る。この標的遺伝子が、未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位または異所性スプライス供与部位を生じる変異を有する場合、CRISPR/Cas9に基づくシステムを、この未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位または異所性スプライス供与部位の上流または下流のヌクレオチド配列を認識してこの配列に結合するように設計することができる。このCRISPR-Cas9に基づくシステムを使用して、スプライス受容体またはスプライス供与体を標的として未成熟終止コドンのスキッピングを誘導することによりまたは破壊された読み枠を回復させることにより正常な遺伝子スプライシングを破壊することもできる。このCRISPR-Cas9に基づくシステムは、ゲノムのタンパク質コード領域へのオフターゲット変化を媒介する場合もあるし媒介しない場合もある。
【0068】
2.2.1 Cas9分子およびCas9融合タンパク質
CRISPR/Cas9に基づくシステムは、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質を含むことができる。Cas9タンパク質は核酸を開裂するエンドヌクレアーゼであり、CRISPR遺伝子座によりコードされ、且つII型CRISPRシステムに関与する。Cas9タンパク質は、以下が挙げられるがこれらに限定されないあらゆる細菌または古細菌の種に由来し得る:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(S.aureus)、アシドボラックス・アヴェナエ(Acidovorax avenae)、アクチノバチルス・プルロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、アクチノバチルス・スイス(Actinobacillus suis)、アクチノマイセス種(Actinomyces sp.)、シクリフィルス・デニトリフィカンス(cycliphilus denitrificans)、アミノモナス・パウシボランス(Aminomonas paucivorans)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・スミシイ(Bacillus smithii)、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)、バクテロイデス種(Bacteroides sp.)、ブラストピレルラ・マリナ(Blastopirellula marina)、ブラディリゾビウム種(Bradyrhizobium sp.)、ブレビバチルス・ラテロスポラス(Brevibacillus laterosporus)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)、カンジダツス・プニセイスピリルム(Candidatus Puniceispirillum)、クロストリジウム・セルロリチカム(Clostridium cellulolyticum)、クロストリジウム・パーフリンゲン(Clostridium perfringens)、コリネバクテリウム・アクコレン(Corynebacterium accolens)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、コリネバクテリウム・マトルコチイ(Corynebacterium matruchotii)、ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter shibae)、ユウバクテリウム・ドリクム(Eubacterium dolichum)、ガンマプロテオバクテリア(gamma proteobacterium)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、ヘモフィルス・パラインフルエンザエ(Haemophilus parainfluenzae)、ヘモフィルス・スプトラム(Haemophilus sputorum)、ヘリコバクター・カナデンシス(Helicobacter canadensis)、ヘリコバクター・シナエディ(Helicobacter cinaedi)、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)、イリオバクター・ポリトロパス(Ilyobacter polytropus)、キンゲラ・キンガエ(Kingella kingae)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、リステリア・イバノビイ(Listeria ivanovii)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リステリアセアエ・バクテリア(Listeriaceae bacterium)、メチロシスチス種(Methylocystis sp.)、メチロシナス・トリコスポリウム(Methylosinus trichosporium)、モビルンカス・ムリエリス(Mobiluncus mulieris)、ナイセリア・バシリフォルミス(Neisseria bacilliformis)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ナイセリア・フラベッセンス(Neisseria flavescens)、ナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica)、ナイセリア種(Neisseria sp.)、ナイセリア・ワズワーシイ(Neisseria wadsworthii)、ニトロソモナス種(Nitrosomonas sp.)、パルビバクラム・ラバメンティボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、ファスコラークトバクテリウム・スクシナテュテンス(Phascolarctobacterium succinatutens)、ラルストニア・シジジイ(Ralstonia syzygii)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドブラム種(Rhodovulum sp.)、シモンシエラ・ムエレ(Simonsiella muelleri)、スフィンゴモナス種(Sphingomonas sp.)、スポロラクトバチルス・ビネア(Sporolactobacillus vineae)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、サブドリグラヌルム種(Subdoligranulum sp.)、チストレラ・モビリス(Tistrella mobilis)、トレポネーマ種(Treponema sp.)またはベルミネフロバクター・エイセニア(Verminephrobacter eiseniae)。特定の実施形態では、Cas9分子は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9分子である。特定の実施形態では、Cas9分子は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子である。
【0069】
あるいはまたはさらに、CRISPR/Cas9に基づくシステムは、融合タンパク質を含むことができる。融合タンパク質は、第1のポリペプチドドメインが、Casタンパク質を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、核酸会合活性、メチル化酵素活性、または脱メチル化酵素活性などの活性を有する、2つの異種ポリペプチドドメインを含むことができる。融合タンパク質は、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、核酸会合活性、メチル化酵素活性、または脱メチル化酵素活性などの活性を有する第2のポリペプチドドメインと融合された、Cas9タンパク質または変異したCas9タンパク質を含むことができる。
【0070】
(1)転写活性化活性
第2のポリペプチドドメインは、転写活性化活性、すなわち、トランス活性化ドメインを有することができる。例えば、ヒト遺伝子などの内在性の哺乳類遺伝子の遺伝子発現は、iCas9とトランス活性化ドメインとの融合タンパク質を、gRNAの組み合わせを介して哺乳類のプロモーターに標的化させることによって達成することができる。トランス活性化ドメインには、VP16タンパク質、VP16の倍数タンパク質、例えばVP48ドメインもしくはVP64ドメインなど、またはNF κB転写活性化因子活性のp65ドメインが含まれ得る。例えば、融合タンパク質は、iCas9-VP64であり得る。
【0071】
(2)転写抑制活性
第2のポリペプチドドメインは、転写抑制活性を有することができる。第2のポリペプチドドメインは、クルッペル関連ボックス(Kruppel-associated box)活性、例えばKRABドメインなど、ERFリプレッサードメイン活性、Mxilリプレッサードメイン活性、SID4Xリプレッサードメイン活性、Mad-SIDリプレッサードメイン活性、またはTATAボックス結合タンパク質活性を有することができる。例えば、融合タンパク質は、dCas9-KRABであり得る。
【0072】
(3)転写終結因子活性
第2のポリペプチドドメインは、転写終結因子活性を有することができる。第2のポリペプチドドメインは、真核生物翻訳終結因子(eukaryotic release factor)1(ERF1)活性または真核生物翻訳終結因子3(ERF3)活性を有することができる。
【0073】
(4)ヒストン修飾活性
第2のポリペプチドドメインは、ヒストン修飾活性を有することができる。第2のポリペプチドドメインは、ヒストン脱アセチル化酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストン脱メチル化酵素、またはヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有することができる。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、p300もしくはCREB-結合タンパク質(CBP)タンパク質、またはその断片であり得る。例えば、融合タンパク質は、dCas9-p300であり得る。
【0074】
(5)ヌクレアーゼ活性
第2のポリペプチドドメインは、Cas9タンパク質のヌクレアーゼ活性とは異なるヌクレアーゼ活性を有することができる。ヌクレアーゼ、またはヌクレアーゼ活性を有するタンパク質は、核酸のヌクレオチドサブユニット間のホスホジエステル結合を切断することが可能な酵素である。ヌクレアーゼは、通常、さらにエンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼに分類されるが、いくつかの酵素は、どちらのカテゴリーにも属することができる。よく知られているヌクレアーゼは、デオキシリボヌクレアーゼおよびリボヌクレアーゼである。
【0075】
(6)核酸会合活性
第2のポリペプチドドメインは、核酸会合活性を有することができる。または、核酸結合タンパク質-DNA結合ドメイン(DBD)は、二本鎖または一本鎖DNAを認識する少なくとも1つのモチーフを含有する、独立に折り畳まれたタンパク質ドメインである。DBDは、特定のDNA配列(認識配列)を認識する、またはDNAに対する一般的親和性を有することができる。核酸会合領域は、ヘリックス-ターン-ヘリックス領域、ロイシンジッパー領域、ウィングドヘリックス領域、ウィングドヘリックス-ターン-ヘリックス領域、ヘリックス-ループ-ヘリックス領域、免疫グロブリンフォールド、B3ドメイン、ジンクフィンガー、HMG-ボックス、Wor3ドメイン、TALエフェクターDNA結合ドメインからなる群から選択される。
【0076】
(7)メチル化酵素活性
第2のポリペプチドドメインは、メチル基を、DNA、RNA、タンパク質、小分子、シトシン、またはアデニンに転移させることと関与するメチル化酵素活性を有することができる。第2のポリペプチドドメインは、DNAメチルトランスフェラーゼを含むことができる。
【0077】
(8)脱メチル化酵素活性
第2のポリペプチドドメインは、脱メチル化酵素活性を有することができる。第2のポリペプチドドメインは、核酸、タンパク質(特にヒストン)、および他の分子から、メチル(CH3-)基を除去する酵素を含むことができる。あるいは、第2のポリペプチドは、DNAを脱メチル化するための機構において、メチル基をヒドロキシメチルシトシンに変換することができる。第2のポリペプチドは、この反応を触媒することができる。例えば、この反応を触媒する第2のポリペプチドは、Tet1であり得る。
【0078】
Cas9分子またはCas9融合タンパク質は、1種または複数種のgRNA分子と相互作用し得、このgRNA分子と共同して、標的ドメインを含む部位に局在化し、特定の実施形態ではPAM配列に局在化する。Cas9分子またはCa9融合タンパク質のPAM配列を認識する能力を、例えば既に説明されている形質転換アッセイ(Jinek 2012)を使用して決定することができる。
【0079】
特定の実施形態では、Cas9分子またはCas9融合タンパク質の標的核酸と相互作用してこの標的核酸を開裂する能力は、PAM配列依存性である。PAM配列は標的核酸中の配列である。特定の実施形態では、標的核酸の開裂はPAM配列の上流で起こる。異なる細菌種由来のCas9分子は、異なる配列モチーフ(例えばPAM配列)を認識することができる。特定の実施形態では、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCa9分子は配列モチーフNGGを認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばMali 2013を参照されたい)。特定の実施形態では、S.サーモフィラス(S.thermophilus)のCas9分子は配列モチーフNGGNG(配列番号19)および/またはNNAGAAW(W=AまたはT)(配列番号20)を認識し、これらの配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばHorvath 2010;Deveau 2008を参照されたい)。特定の実施形態では、S.ミュータンス(S.mutans)のCas9分子は配列モチーフNGGおよび/またはNAAR(R=AまたはG)(配列番号21)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばDeveau 2008を参照されたい)。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRR(R=AまたはG)(配列番号22)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRN(R=AまたはG)(配列番号23)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRT(R=AまたはG)(配列番号24)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRV(R=AまたはG)(配列番号25)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。上述の実施形態では、Nはあらゆるヌクレオチド残基であり得、例えばA、G、CまたはTのいずれかであり得る。Cas9分子を操作して、このCas9分子のPAM特異性を変更することができる。
【0080】
特定の実施形態では、ベクターは、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1種のCas9分子をコードする。特定の実施形態では、この少なくとも1種のCas9分子は黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。特定の実施形態では、この少なくとも1種のCas9分子は変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。
【0081】
Casタンパク質を、ヌクレアーゼ活性が不活性化されるように変異させることができる。エンドヌクレアーゼ活性を有しない不活性化Cas9タンパク質(「iCas9」、「dCas9」とも称される)は最近、立体障害を介して遺伝子発現を抑制するために、gRNAによって細菌、酵母およびヒト細胞において遺伝子を標的としている。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9配列に関連する例示的な変異として、D10A、E762A、H840A、N854A、N863Aおよび/またはD986Aが挙げられる。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9配列に関連する例示的な変異として、D10AおよびN580Aが挙げられる。特定の実施形態では、Cas9分子は変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。特定の実施形態では、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子はD10A変異を含む。この変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9をコードするヌクレオチド配列を配列番号34に示し、以下に記載する。
【化1】
【0082】
特定の実施形態では、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子はN580A変異を含む。この変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子をコードするヌクレオチド配列を配列番号35に示し、以下に記載する。
【化2】
【0083】
Cas9分子をコードする核酸は合成核酸配列であることができる。例えば、この合成核酸分子を化学的に改変することができる。この合成核酸配列はコドン最適化され得、例えば、少なくとも1つの非共通(non-common)コドンまたは低共通(less-common)コドンが共通コドンで置き換えられている。例えば、この合成核酸は、最適化されたメッセンジャーmRNA(例えば、例えば本明細書で説明されている哺乳類の発現系での発現に最適化されている)の合成を指示することができる。
【0084】
加えて、またはあるいは、Cas9分子またはCas9ポリペプチドをコードする核酸は核局在化配列(NLS)を含むことができる。核局在化配列は当分野で既知である。
【0085】
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCas9分子をコードする例示的なコドン最適化核酸配列を配列番号26示し、以下に記載する。
【化3】
【化4】
【0086】
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9分子の対応するアミノ酸配列を配列番号27に示し、以下に記載する。
【化5】
【0087】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードする例示的なコドン最適化核酸配列を配列番号28~32に示し、以下に記載する。
【0088】
配列番号28を以下に記載する。
【化6】
【0089】
配列番号29を以下に示す。
【化7】
【0090】
配列番号30を以下に示す。
【化8】
【0091】
配列番号31を以下に示す。
【化9】
【0092】
配列番号32を以下に示す。
【化10】
【0093】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子のアミノ酸配列を、以下に提供する配列番号33に示す。
【化11】
【0094】
2.2.2.gRNA分子
CRISPR/Cas9システムは、少なくとも1つのgRNA分子、例えば、2つのgRNA分子を含む。gRNA分子は、CRISPR/Cas9に基づくシステムのターゲティングを提供する。gRNAは、2種のノンコーディングRNA:crRNAおよびtracrRNAの融合体である。gRNAは、相補的塩基対形成を介して、ターゲティング特異性を付与する20bpプロトスペーサーをコードする配列を所望のDNA標的と交換することによって、任意の所望のDNA配列を標的にすることができる。gRNAは、II型エフェクターシステムに含まれる天然に存在するcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する。この二重鎖は、例えば、42ヌクレオチドのcrRNAと75ヌクレオチドのtracrRNAを含むことができ、Cas9が標的核酸を切断するためのガイドとして作用する。本明細書で互換的に使用される「標的領域」、「標的配列」、または「プロトスペーサー」は、CRISPR/Cas9に基づくシステムが標的にする標的遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)の領域を指す。CRISPR/Cas9に基づくシステムは、異なるDNA配列を標的にする、2つ以上のgRNAを含むことができる。これらの標的DNA配列は、オーバーラップしていることが可能である。標的配列またはプロトスペーサーの後に、プロトスペーサーの3’末端のPAM配列が続く。別のII型システムは、異なるPAM要件を有する。
【0095】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばAAVベクター)によりコードされるgRNA分子の数は、少なくとも1個のgRNA、少なくとも2個の異なるgRNA、少なくとも3個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも5個の異なるgRNA、少なくとも6個の異なるgRNA、少なくとも7個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも9個の異なるgRNA、少なくとも10個の異なるgRNA、少なくとも11個の異なるgRNA、少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも13個の異なるgRNA、少なくとも14個の異なるgRNA、少なくとも15個の異なるgRNA、少なくとも16個の異なるgRNA、少なくとも17個の異なるgRNA、少なくとも18個の異なるgRNA、少なくとも18個の異なるgRNA、少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも45個の異なるgRNAまたは少なくとも50個の異なるgRNAであることができる。本開示のベクターによりコードされるgRNAの数は、少なくとも1個のgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも16個の異なるgNRA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも4個のgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも16個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、8個の異なるgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、8個の異なるgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも16個の異なるgRNA、または8個の異なるgRNA~少なくとも12個の異なるgRNAであることができる。特定の実施形態では、この遺伝子コンストラクト(例えばAAVベクター)は、1種のgRNA分子(即ち第1のgRNA分子)と任意選択でCas9分子とをコードする。特定の実施形態では、遺伝子コンストラクト(例えばAAVベクター)は、2つのgRNA分子、すなわち、第1のgRNA分子、および第2のgRNA分子をコードする。
【0096】
gRNA分子はターゲティングドメインを含み、このターゲティングドメインは、PAM配列が続く標的DNA配列の相補ポリヌクレオチド配列である。gRNAは、ターゲッティングドメインの5’末端で「G」を含むことができる。gRNA分子のターゲティングドメインは、少なくとも10個の塩基対、少なくとも11個の塩基対の少なくとも12個の塩基対、少なくとも13個の塩基対、少なくとも14個の塩基対、少なくとも15個の塩基対、少なくとも16個の塩基対、少なくとも17個の塩基対、少なくとも18個の塩基対、少なくとも19個の塩基対、少なくとも20個の塩基対、少なくとも21個の塩基対、少なくとも22個の塩基対、少なくとも23個の塩基対、少なくとも24個の塩基対、少なくとも25個の塩基対、少なくとも30個の塩基対、または少なくとも35個の塩基対であることができる。特定の実施形態では、gRNA分子のターゲティングドメインは19~24個のヌクレオチドの長さを有する。特定の実施形態では、gRNA分子のターゲティングドメインは21個のヌクレオチドの長さである。特定の実施形態では、gRNA分子のターゲティングドメインは22個のヌクレオチドの長さである。
【0097】
gRNAは、ジストロフィン遺伝子のエクソン、イントロン、プロモーター領域、エンハンサー領域、転写領域のうちの少なくとも1つを標的とすることができる。特定の実施形態では、このgRNA分子はヒトジストロフィン遺伝子のイントロン50を標的とする。特定の実施形態では、このgRNA分子はヒトジストロフィン遺伝子のイントロン51を標的とする。
【0098】
2.2.3.ジストロフィン遺伝子を変更すること
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)を標的にする少なくとも1つのgRNA分子をコードする。この少なくとも1つのgRNA分子は、標的領域と結合および認識することができる。標的領域は、修復プロセス中の挿入または欠失が、フレーム変換によってジストロフィン読み枠を修復するように、潜在的なアウトオブフレーム終止コドンのすぐ上流に選択することができる。標的領域はまた、修復プロセス中の挿入または欠失が、スプライス部位破壊およびエクソン排除によって、スプライシングを妨害し、ジストロフィン読み枠を修復するような、スプライス受容部位またはスプライス供与部位であり得る。標的領域はまた、修復プロセス中の挿入または欠失が、終止コドンを除去または破壊することによってジストロフィン読み枠を修復するような、異所性終止コドンであり得る。
【0099】
単一のまたは多重のgRNAを、エクソン51での変異ホットスポットを標的とすることにより、またはおよびエクソン内の小さい挿入および欠失を導入することにより、またはエクソン51の排除により、ジストロフィン読み枠を回復させるように設計することができる。本開示のベクターによる処理後、インビトロで、デュシェンヌ患者の筋肉細胞中においてジストロフィン発現を回復させることができる。遺伝的に修正された患者細胞の免疫不全マウスへの移植後に、ヒトジストロフィンをインビボで検出した。意義深いことに、CRISPR/Cas9システムの特有の多重遺伝子編集能力は、普遍的なまたは患者特異的な遺伝子編集アプローチにより患者の変異の最大62%を修正し得る、この変異ホットスポット領域の大きな欠失を効率的に生じさせることを可能にする。
【0100】
本開示のベクターは、ジストロフィン遺伝子、例えばヒトジストロフィン遺伝子内の欠失をもたらすことができる。特定の実施形態では、このベクターは、ジストロフィン遺伝子の標的位置に隣接する2つのイントロン(第1のイントロンおよび第2のイントロン)内に2つの二本鎖切断(第1の二本鎖切断および第2の二本鎖切断)を形成することによってジストロフィン標的位置を含むジストロフィン遺伝子のセグメントを欠失させるように構成される。「ジストロフィン標的位置」は、本明細書に記載した通りのジストロフィンエクソン標的位置またはジストロフィンエクソン内標的位置であり得る。ジストロフィンエクソン標的位置の欠失は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している対象のジストロフィン配列を最適化することができる。例えば、これは、コードされるジストロフィンタンパク質の機能または活性を増大させる、または、対象の疾患状態の改善をもたらすことができる。特定の実施形態では、ジストロフィンエクソン標的位置の切除は、読み枠を修復する。ジストロフィンエクソン標的位置は、ジストロフィン遺伝子の1つ以上のエクソンを含むことができる。特定の実施形態では、ジストロフィン標的位置は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のエクソン51を含む。
【0101】
特定の実施形態では、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、筋変性および最終的に死をもたらす、劣性遺伝の致死的なX連鎖性障害を指す。DMDは、一般的な遺伝性の単一遺伝子性疾患であり、男性の3500人に1人に発症する。DMDは、ジストロフィン遺伝子のナンセンスまたはフレームシフト変異をもたらす、遺伝性変異または自然突然変異の結果である。DMDを引き起こすジストロフィン変異の大多数は、ジストロフィン遺伝子において読み枠を破壊して早期翻訳終結を引き起こす、エクソンの欠失である。DMD患者は、典型的には、小児期に自分自身の身体を支える能力を失い、10代の間に次第に筋力が低下するようになり、20代で死亡する。
【0102】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のエクソン51での非常に効率的な遺伝子編集を媒介することができる。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、DMD患者由来の細胞におけるジストロフィンタンパク質発現を修復する。
【0103】
エクソン51は、DMDでは、フレーム破壊欠失に頻繁に隣接している。エクソンスキッピングによる、ジストロフィン転写物からのエクソン51の除去を使用して、全てのDMD患者のおよそ15%を治療することができる。このクラスのジストロフィン変異は、NHEJに基づくゲノム編集およびHDRによる永続的な修正に理想的に適している。本明細書に記載した遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ヒトジストロフィン遺伝子内のエクソン51の標的とされる改変のために開発されてきた。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ヒトDMD細胞に導入され、読み枠を修正するための効率的な遺伝子改変および変換を媒介する。タンパク質修復は、フレーム修復に伴い、CRISPR/Cas9に基づくシステムで処理された細胞の混合集団(bulk population)において検出される。
【0104】
特定の実施形態では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、2個で一組のgRNA分子、すなわち、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのPAMを認識する少なくとも1つのCas9分子またはCas9融合タンパク質とをコードし、ここでは、ベクターは、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51にそれぞれ隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成することによってエクソン51を含むジストロフィン遺伝子のセグメントを欠失させるように構成される。
【0105】
本開示のベクターの欠失効率は、欠失サイズ、すなわち、ベクターによって欠失されるセグメントのサイズに関連し得る。特定の実施形態では、具体的な欠失の長さまたはサイズは、標的とされる遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)内のPAM配列間の距離によって決定される。特定の実施形態では、ジストロフィン遺伝子のセグメントの具体的な欠失は、その長さ、およびそれが含む配列(例えばエクソン51)に関して定義され、標的遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)内の特定のPAM配列に隣接して作製される切断の結果である。
【0106】
特定の実施形態では、欠失サイズは、約800~72,000塩基対(bp)、例えば、約800~900、約900~1000、約1200~1400、約1500~2600、約2600~2700、約3000~3300、約5200~5500、約20,000~30,000、約35,000~45,000、または約60,000~72,000である。特定の実施形態では、欠失サイズは、約800~900、約1500~2600、約5200~5500、約20,000~30,000、約35,000~45,000、または約60,000~72,000bpである。特定の実施形態では、欠失サイズは、806塩基対、867塩基対、1,557塩基対、2,527塩基対、5,305塩基対、5,415塩基対、20,768塩基対、27,398塩基対、36,342塩基対、44,269塩基対、60,894塩基対、または71,832塩基対である。特定の実施形態では、欠失サイズは、約900~1000、約1200~1400、約1500~2600、約2600~2700bp、または約3000~3300である。特定の実施形態では、欠失サイズは、972bp、1723bp、893bp、2665bp、1326bp、2077bp、1247bp、3019bp、1589bp、2340bp、1852bp、および3282bpからなる群から選択される。特定の実施形態では、欠失サイズは、約150キロ塩基対(kb)よりも大きい、例えば、約300~400kbである。特定の実施形態では、欠失サイズは、約300~400kbである。特定の実施形態では、欠失サイズは、341kbである。特定の実施形態では、欠失サイズは、約100~150kbである。特定の実施形態では、欠失サイズは、146,500bpである。
【0107】
特定の実施形態では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、少なくとも1つのCas9分子またはCas9融合タンパク質と、それぞれその内容全体が参照によって組み込まれるPCT/US16/025738号明細書に開示されている、表1から選択される2個で一組のgRNA分子とをコードする。
【0108】
【表1-1】
【表1-2】
【0109】
特定の実施形態では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、少なくとも1つのCas9分子、第1のgRNA分子、および第2のgRNA分子をコードし、ここでは、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、以下からなる群から選択される:
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号5に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号7に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号6に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号8に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号9に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号12に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号13に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子;および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号10に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号16に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される。
【0110】
特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。特定の実施形態では、AAVベクターは、改変されたAAVベクターである。改変されたAAVベクターは、増進された心筋および骨格筋組織指向性を有することができる。改変されたAAVベクターは、哺乳類の細胞において、本明細書に記載したCRISPR/Cas9システムを送達および発現させることができる。例えば、改変されたAAVベクターは、AAV-SASTGベクターであり得る(Piacentino et al.(2012)Human Gene Therapy 23:635-646)。改変されたAAVベクターは、本明細書に記載したCRISPR/Cas9システムを、骨格筋および心筋にインビボで送達することができる。改変されたAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、およびAAV9を含めた1つ以上のいくつかのカプシド型に基づくことができる。改変されたAAVベクターは、全身および局所送達によって骨格筋または心筋に効率的に形質導入する、AAV2/1、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8、AAV2/9、AAV2.5、およびAAV/SASTGベクターなどの、代替の筋肉指向性のAAVカプシドを有するAAV2シュードタイプに基づくものであり得る(Seto et al.Current Gene Therapy(2012)12:139-151)。
【0111】
3.組成物
本開示の主題は、上に記載した遺伝子ベクターを含む組成物を提供する。この組成物は、医薬組成物中であり得る。この医薬組成物は、使用される投与方式に従って製剤化することができる。医薬組成物が、注射用医薬組成物である場合、これは、無菌、パイロジェンフリー、かつ粒子状物質フリーである。等張性製剤が使用されることが好ましい。一般に、等張性のための添加剤は、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースを含むことができる。特定の実施形態では、リン酸緩衝生理食塩水などの等張性溶液が好ましい。安定剤としては、ゼラチンおよびアルブミンが挙げられる。特定の実施形態では、血管収縮剤が、製剤に添加される。
【0112】
上記組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含むことができる。薬学的に許容し得る賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、または希釈剤としての機能性分子であり得る。薬学的に許容し得る賦形剤は、遺伝子導入促進剤(これには界面活性剤が含まれ得る)、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、ベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレン、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、もしくはナノ粒子、または他の公知の遺伝子導入促進剤であり得る。
【0113】
遺伝子導入促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。遺伝子導入促進剤は、ポリ-L-グルタミン酸であり、より好ましくは、ポリ-L-グルタミン酸は、骨格筋または心筋におけるゲノム編集のための組成物中に、6mg/ml未満の濃度で存在する。遺伝子導入促進剤はまた、界面活性剤、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、およびベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレンを含むことができ、また、遺伝子コンストラクトと共に、ヒアルロン酸も使用することができる。特定の実施形態では、上記組成物をコードするDNAベクターはまた、遺伝子導入促進剤、例えば脂質、リポソーム(レシチンリポソーム、もしくは当技術分野で公知の他のリポソームを含めて)、DNA-リポソーム混合物としてのもの(例えば国際公開第09324640号パンフレット参照)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、またはナノ粒子、または他の公知の遺伝子導入促進剤を含むことができる。好ましくは、遺伝子導入促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。17.
【0114】
4.変異遺伝子を修正するおよび対象を治療する方法
本開示の主題は、対象における変異遺伝子を修正する方法を提供する。
【0115】
特定の実施形態では、修正することは、切断されているタンパク質をコードするまたはタンパク質をまったくコードしない変異遺伝子を、完全長の機能性または部分的に完全長の機能性タンパク質発現が得られるように変化させることを含む。変異遺伝子を修正することは、変異を有する遺伝子の領域を置き換えること、または変異遺伝子全体を、相同組換え修復(HDR)などの修復機構を用いて、変異を有しない遺伝子のコピーと置き換えることを含むことができる。変異遺伝子を修正することはまた、この遺伝子内の二本鎖切断をもたらし、次いでこの遺伝子を非相同末端結合(NHEJ)を使用して修復することによって、未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位、または異所性スプライス供与部位をもたらすフレームシフト変異を修復することを含むことができる。NHEJは、修復中に少なくとも1つの塩基対を付加または欠失させることができ、これは、適切な読み枠を修復するおよび未成熟終止コドンを除去することができる。変異遺伝子を修正することはまた、異所性スプライス受容部位またはスプライス供与配列を破壊することを含むことができる。修正することはまた、2つのヌクレアーゼ標的部位間のDNAを除去することによって、適切な読み枠を修復するために、同じDNA鎖上での2種のヌクレアーゼの同時作用によって、非必須遺伝子セグメントを欠失させることと、NHEJによってDNA切断を修復することとを含むことができる。
【0116】
特定の実施形態では、「相同組換え修復」または「HDR」は、大抵は細胞周期のG2およびS期において、DNAの相同の断片が核内に存在する場合に、二本鎖DNA損傷を修復するための、細胞における機構を指す。HDRは、修復を誘導するためのドナーDNA鋳型を使用し、また、ゲノムに対する特定の配列変化(全遺伝子の、標的とされる付加を含めて)を作り出すために使用することができる。ドナー鋳型が、CRISPR/Cas9に基づくシステムと共に提供される場合、細胞機構は、相同組換えによって切断を修復することとなり、これは、DNA切断の存在下で、数桁増強される。相同のDNA断片が存在しない場合、代わりに非相同末端結合が起こり得る。
【0117】
特定の実施形態では、ドナーDNAまたはドナー鋳型は、対象となる遺伝子の少なくとも一部分を含む二本鎖DNA断片または分子を指す。ドナーDNAは、完全に機能性のタンパク質または部分的に機能性のタンパク質をコードすることができる。
【0118】
特定の実施形態では、「非相同末端結合(NHEJ)経路」は、相同の鋳型を必要とせずに、切断末端を直接的に連結することによって、DNA内の二本鎖切断を修復する経路を指す。NHEJによる、鋳型に依存しないDNA末端の再連結は、DNA切断点にランダムな微小挿入および微小欠失(インデル)を導入する、確率的な、誤りがちな修復プロセスである。この方法は、標的とされる遺伝子配列を意図的に破壊する、欠失させる、または読み枠変更するために使用することができる。NHEJは、典型的には、修復を誘導するための、マイクロホモロジーと呼ばれる短い相同のDNA配列を使用する。これらのマイクロホモロジーは、しばしば、二本鎖切断の末端の単鎖オーバーハング中に存在する。このオーバーハングが完璧に適合する場合、NHEJは通常、切断を正確に修復し、一方で、ヌクレオチドの喪失をもたらす不正確な修復も起こり得るが、これは、オーバーハングが適合しない場合には、はるかに一般的である。特定の実施形態では、NHEJは、ヌクレアーゼ介在性のNHEJであり、これは、特定の実施形態では、Cas9分子が二本鎖DNAを切断して開始されるNHEJを指す。本方法は、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を、骨格筋または心筋におけるゲノム編集のために、対象の骨格筋または心筋に投与することを含む。特定の実施形態では、ゲノム編集は、変異遺伝子または正常遺伝子などの遺伝子をノックアウトすることを含む。ゲノム編集は、対象となる遺伝子を変化させることによって、疾患を治療する、または筋肉修復を増強するために使用することができる。
【0119】
本明細書に開示するCRISPR/Cas9システムを骨格筋または心筋に送達するための遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物の使用は、修復鋳型またはドナーDNA(これらは、遺伝子全体、または変異を含有する領域を置き換えることができる)と共に、完全に機能性または部分的に機能性のタンパク質の発現を修復することができる。CRISPR/Cas9システムは、標的とされるゲノム遺伝子座に部位特異的二本鎖切断を導入するために使用することができる。部位特異的二本鎖切断は、CRISPR/Cas9システムが、標的DNA配列に結合し、それによって標的DNAの切断が可能になる場合にもたらされる。CRISPR/Cas9に基づくシステムは、その高速の成功裡かつ効率的な遺伝子改変のおかげで、ゲノム編集の進歩という利点を有する。このDNA開裂は天然のDNA修復機構を刺激し得、以下の2つの可能な修復経路のうちの1つをもたらす:相同組換え修復(HDR)経路または非相同末端結合(NHE J)経路。
【0120】
本開示の主題は、修復鋳型を伴わないCRISPR/Cas9システムによる遺伝子編集を対象とし、この遺伝子編集により、読み枠を効率的に修正し、遺伝性疾患に関与する機能的タンパク質の発現を回復させることができる。本開示のCRISPR/Cas9システムは、相同組換え修復またはヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合(NHEJ)に基づく修正手法(これらは、相同組換えまたは選択に基づく遺伝子修正を受け入れない可能性がある、増殖が制限された初代細胞株における効率的な修正を可能にする)の使用を含むことができる。この戦略は、活性なCRISPR/Cas9システムの迅速且つ頑強なアセンブリを、フレームシフト、未成熟終止コドン、異所性スプライス供与部位または異所性スプライス受容部位を生じる非必須コード領域中の変異により生じる遺伝性疾患の処置に効率的な遺伝子編集方法と統合する。
【0121】
内因性の変異遺伝子からのタンパク質発現の回復は、鋳型なしのNHEJ介在性のDNA修復によるものであることができる。標的遺伝子RNAを標的とする一過性の方法とは対照的に、過渡的に発現されたCRISPR/Cas9システムによるゲノム中の標的遺伝子読み枠の修正により、それぞれ改変された細胞およびその後代の全てによって、永久に回復された標的遺伝子発現をもたらすことができる。
【0122】
ヌクレアーゼ介在性のNHEJ遺伝子修正は、変異した標的遺伝子を修正し、HDR経路に勝る、いくつかの潜在的利点を提供することができる。例えば、NHEJは、非特異的挿入変異をもたらす可能性があるドナー鋳型を必要としない。HDRと対照的に、NHEJは、細胞周期の全ての期において効率的に作動するので、循環と、有糸分裂後の細胞(筋線維など)との両方において効率的に利用することができる。これは、オリゴヌクレオチドに基づくエクソンスキッピング、または終止コドンの薬物によって強いられるリードスルーに代わる、頑強な永続的な遺伝子修復を提供し、理論上はわずか1つの薬物治療しか必要としない可能性がある。CRISPR/Cas9に基づくシステムを使用する、NHEJに基づく遺伝子修正は、本明細書に記載したプラスミド電気穿孔手法に加えて、細胞および遺伝子に基づく療法のための他の既存のエクスビボおよびインビボプラットフォームと組み合わせることができる。例えば、mRNAに基づく遺伝子導入による、または、精製された細胞透過性タンパク質としてのCRISPR/Cas9に基づくシステムの送達は、挿入変異のいかなる可能性も回避するであろうDNAフリーのゲノム編集手法を可能にすることができる。
【0123】
内在性の変異した遺伝子からのタンパク質発現の修復は、相同組換え修復を含むことができる。上に記載した通りの方法は、細胞にドナー鋳型を投与することをさらに含む。ドナー鋳型は、完全に機能性または部分的に機能性のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。例えば、ドナー鋳型は、小型化されたジストロフィンコンストラクト(ミニジストロフィン(「minidys」)と呼ばれる)、変異ジストロフィン遺伝子を修復するための完全に機能性のジストロフィンコンストラクト、または相同組換え修復後に変異ジストロフィン遺伝子の修復をもたらすジストロフィン遺伝子の断片を含むことができる。
【0124】
本開示の主題は、細胞における変異遺伝子(例えば、変異ジストロフィン遺伝子、例えば、変異ヒトジストロフィン遺伝子)を修正し、DMDなどの遺伝子疾患に罹患している対象を治療する方法を提供する。この方法は、上に記載した通りの本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を、細胞または対象に投与することを含むことができる。
【0125】
5.疾患を治療する方法
本開示の主題は、その必要がある対象を治療する方法を提供する。この方法は、上に記載した通りの本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を、対象の組織に投与することを含む。特定の実施形態では、この方法は、上に記載した通りの本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を、対象の骨格筋または心筋に投与することを含む。特定の実施形態では、対象は、変性もしくは筋力低下を引き起こす骨格筋または心筋状態、または遺伝子疾患に罹患している。特定の実施形態では、対象は、上に記載した通りのデュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している。a.デュシェンヌ型筋ジストロフィー
【0126】
本方法は、上に記載した通り、ジストロフィン遺伝子を修正し、上記変異したジストロフィン遺伝子の完全に機能性または部分的に機能性のタンパク質発現を回復させるために使用することができる。ある種の態様および実施形態では、本開示の主題は、患者におけるDMDの影響(例えば、臨床症状/徴候)を低減するための方法を提供する。ある種の態様および実施形態では、本開示の主題は、患者におけるDMDを治療するための方法を提供する。ある種の態様および実施形態では、本開示の主題は、患者におけるDMDを予防するための方法を提供する。ある種の態様および実施形態では、本開示の主題は、患者におけるDMDのさらなる進行を予防するための方法を提供する。
【0127】
6.送達の方法
本明細書で提供されるのは、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物を細胞に送達するための方法である。この送達は、細胞において発現され、かつ細胞の表面に送達される核酸分子としての、遺伝子コンストラクトまたはそれを含む組成物の遺伝子導入または電気穿孔であり得る。これらの核酸分子は、BioRad Gene Pulser XcellまたはAmaxa Nucleofector lib装置または他の電気穿孔装置を使用して電気穿孔することができる。BioRad電気穿孔溶液、Sigmaリン酸緩衝生理食塩水(製品#D8537)(PBS)、Invitrogen OptiMEM I(OM)、またはAmaxa Nucleofector溶液V(N.V.)を含めた、いくつかの様々な緩衝液を使用することができる。遺伝子導入は、Lipofectamine 2000などの遺伝子導入試薬を含むことができる。
【0128】
遺伝子導入細胞は、組織への、したがってベクターの哺乳類の細胞への送達時に、少なくとも1つのCas9分子と2つのgRNA分子を発現することとなる。遺伝子コンストラクトまたはそれを含む組成物を、哺乳類に投与して、遺伝子発現を変更する、またはゲノムを再操作もしくは変更することができる。例えば、遺伝子コンストラクトまたはそれを含む組成物を、哺乳類に投与して、哺乳類におけるジストロフィン遺伝子を修正することができる。哺乳類は、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、スイギュウ、ウシ科動物(bovid)、シカ、ハリネズミ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、またはニワトリ、好ましくはヒト、ウシ、ブタ、またはニワトリであり得る。
【0129】
少なくとも1つのCas9分子および2個で一組のgRNA分子をコードする遺伝子コンストラクト(例えばベクター)を、インビボでの電気穿孔を伴うおよび伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも称される)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、ならびに/または組換えベクターにより哺乳類に送達することができる。この組換えベクターを任意のウイルス型により送達することができる。このウイルス型は、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルスおよび/または組換えアデノ随伴ウイルスであることができる。
【0130】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を細胞に導入して、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)を遺伝的に修正することができる。特定の実施形態では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を、DMD患者由来の筋芽細胞に導入する。特定の実施形態では、遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物をDMD患者由来の繊維芽細胞に導入し、遺伝的に修正された繊維芽細胞をMyoDで処理して筋芽細胞への分化を誘導し得、この筋芽細胞を対象(例えば、対象の損傷を受けた筋肉)に移植して、修正されたジストロフィンタンパク質が機能することを検証し得る、および/または対象を処置し得る。この改変された細胞は、幹細胞(例えば、誘導された多能性幹細胞)、骨髄由来前駆細胞、骨格筋前駆細胞、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中胚葉性血管芽細胞(mesoangioblast)、およびMyoD形質導入細胞もしくはPax7形質導入細胞、または他の筋原性前駆細胞であることもできる。例えば、CRISPR/Cas9に基づくシステムは、誘導された多能性幹細胞のニューロン分化または筋原性分化を引き起こすことができる。
【0131】
6.投与の経路
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物は、経口的に、非経口的に、舌下に、経皮的に、直腸内に、経粘膜的に、局所的に、吸入を介して、頬側投与を介して、胸膜内に、静脈内に、動脈内投与を介して、腹腔内投与を介して、皮下に、筋肉内投与を介して、鼻腔内投与を介して、くも膜下腔内投与を介して、関節内投与を介して、およびこれらの組み合わせを含めた、様々な経路によって、対象に投与することができる。特定の実施形態では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)または組成物は、筋肉内に、静脈内に、またはこれらの組み合わせで、対象(例えば、DMDに罹患している対象)に投与される。獣医学的使用については、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)または組成物は、通常の獣医学診療に従って、適切に許容される製剤として投与することができる。獣医師は、ある特定の動物にとって最も適した投薬レジメンおよび投与の経路を容易に決定することができる。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物は、従来のシリンジ、無針注射装置、「微粒子銃(microprojectile bombardment gone guns)」、または他の物理的方法、例えば電気穿孔(「EP」)、「水力学的方法」、または超音波によって投与することができる。
【0132】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物は、インビボ電気穿孔を伴うおよび伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、組換えベクター(組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスなど)を含めたいくつかの技術によって、哺乳類に送達することができる。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物は、骨格筋または心筋に注射することができる。例えば、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはそれを含む組成物は、前脛骨筋に注射することができる。
【0133】
7.細胞型
これらの送達方法および/または送達の経路のいずれかを無数の細胞型(例えば、DMDの細胞に基づく治療用に現在研究中の細胞型)と共に利用することができ、この細胞型として以下が挙げられるがこれらに限定されない:不死化筋芽細胞、例えば野生型およびDMD患者由来の株、例えばΔ48-50 DMD、DMD8036(del48-50)、C25C14およびDMD-7796細胞株、原発性DMD皮膚線維芽細胞、誘導された多能性幹細胞、骨髄由来前駆細胞、骨格筋前駆細胞、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中胚葉性血管芽細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、間葉系前駆細胞、造血性幹細胞、平滑筋細胞、およびMyoD形質導入細胞もしくはPax7形質導入細胞、または他の筋原性前駆細胞。ヒト筋原性細胞の不死化を使用して、遺伝的に修正された筋原性細胞のクローンを誘導することができる。細胞をエクスビボで改変して、遺伝的に修正されたジストロフィン遺伝子を含み且つゲノムのタンパク質コード領域中に他のヌクレアーゼ導入変異がない不死化DMD筋芽細胞のクローン集団を単離して増殖させることができる。
【実施例
【0134】
本明細書で説明された本開示の方法の他の適切な改変および適応が容易に適用可能であり且つ認識可能であり、ならびに本開示または本明細書で開示された態様および実施形態の範囲から逸脱することなく適切な等価物を使用して行なわれ得ることが当業者に容易に明らかであるだろう。これまで本開示を詳細に説明したが、以下の実施例を参照することにより本開示がより明確に理解されるだろう。この実施例は、本開示のいくつかの態様および実施形態を説明することのみを単に意図しており、本開示の範囲を限定するとみなすべきではない。本明細書で言及される全ての学術誌参考文献、米国特許および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
本開示の主題は複数の態様を有し、以下の非限定的な実施例により説明される。
【0136】
実施例1-不死化DMD患者筋芽細胞におけるAAVベクターによるヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51の欠失
それぞれが、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子と表1における12種のgRNA対リストから選択される一対のgRNA分子とをコードする12種のプラスミドAAVベクターを作製した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子Cas9分子をコードする、コドン最適化された核酸配列は、配列番号29に記載されている。12種のプラスミドAAVベクターのうち、gRNA対(84+68)、(82+68)、および(62+38)をコードする3種のプラスミドAAVベクターを、それぞれ、HEK293T細胞に遺伝子導入し、不死化ヒトDMD患者筋芽細胞に電気穿孔した。細胞を分化させ、RNAおよびタンパク質を収集した。gDNAおよびcDNAに対してエンドポイントPCRおよびドロップレットデジタルPCRを、タンパク質に対してウエスタンブロットを実施した。
【0137】
方法および材料
エクソン48~50の欠失を含む不死化ヒトDMD患者筋芽細胞を、20% FBS、1%抗生物質、1% GlutaMAX、50μg/mLフェチュイン、10ng/ulヒト上皮増殖因子、1ng/ml塩基性ヒト線維芽細胞増殖因子、および10μg/mlヒトインスリンを添加した骨格筋培地(PromoCell)内で培養した。プラスミドを、不死化ヒトDMD患者筋芽細胞に電気穿孔した。例えば、不死化ヒトDMD患者筋芽細胞を、以前に最適化された条件を使用して、電気穿孔緩衝液としてPBSを用いるGene Pulser XCellを使用して、10μgプラスミドを電気穿孔した。電気穿孔後、細胞を3日間インキュベートし、次いで、ゲノムDNAを、DNEasy Blood and Tissue Kitを使用して回収および収集した。ドロップレットデジタルPCR(「ddPCR」)のために、50ngのゲノムDNAを使用した。プラスミドの欠失効率を、PCT出願番号PCT/US16/025738号明細書に記載されている通りに、ddPCRによって測定した。欠失バンドを検出するためのエンドポイントPCRのために、100ngのゲノムDNAを使用した。検出された欠失バンドについて、配列決定を実施した。
【0138】
残りの電気穿孔した筋芽細胞を、標準の培養培地を、1%抗生物質と1%インスリン-トランスフェリン-セレンを添加したDMEMと置き換えることによって、筋線維に分化させた。細胞を、6~7日間、分化させ、次いで、RNEasy Plus Mini Kitを使用してRNAを単離した。RNAを、VILO cDNA合成キットを使用してcDNAに逆転写した。タンパク質を、収集、およびプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むRIPA緩衝液への溶解によって、分化した細胞から回収した。試料を、4~12% NuPAGE Bis-Trisゲル(MES緩衝液中)に流した。タンパク質を、ニトロセルロース膜に転写し、次いで、ウエスタンブロットを、少なくとも1時間ブロッキングした。ジストロフィン発現のために使用した一次抗体は、1:1000のMANDYS8であった。
【0139】
結果
遺伝子導入したHEK293T細胞における、gRNA対(84+68)、(82+68)、および(62+38)をそれぞれコードする3種のプラスミドAAVベクターの欠失効率を、図1に示す。不死化DMD患者筋芽細胞における、これらの3種のプラスミドAAVベクターの欠失効率を、図2に示す。遺伝子導入したH293T細胞と不死化DMD患者筋芽細胞の両方について、陰性対照として黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9を使用した。筋芽細胞欠失効率は、HEK293T細胞欠失効率とよく相関していた。
【0140】
プラスミドAAVベクターに対して、欠失バンドを検出した。gRNA対(84+68)をコードするプラスミドAAVベクターによる、欠失バンドについての配列決定結果を、図3に示す。図3に示す通り、gRNA対(84+68)をコードするプラスミドAAVベクターは、ヒトジストロフィン遺伝子の正確な予測されたエクソン51の欠失を媒介した。
【0141】
実施例2-ヒトジストロフィン遺伝子を含むヒト化マウスにおけるAAVベクターによるヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51の欠失
ヒト化マウスモデルを含めたマウスモデルは、ヒトおよび動物対象における疾患の治療または予防のための本明細書に開示するものなどの組成物および方法を、評価するおよび適合させるのに有用であると考えられる。例えば、E.Nelson et al.,Science 10.1126/science.aad5143(2015)、M.Tabebordbar et al.,Science (2015).10.1126/science.aad5177、およびLong et al.,Science(2016;Jan 22);351(6271):400-403(これらは全て、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる)を参照のこと。例えば、当業者は、DMDのヒト化マウスモデルにおいて観察される遺伝子型および/または表現型の変化が、本開示の組成物および方法で治療されたヒト患者における遺伝子型および/または表現型の変化を予測するものであり得ることを認識するであろう。特に、ヒト化マウスモデルにおいて疾患(または疾患様)遺伝子型または表現型を取り返すのに効果的である方法または組成物を、当分野の技術者が、ヒト対象における治療用途に容易に適合させることができ、こうした適合は、本開示の範囲内である。
【0142】
DMDの、あるヒト化マウスモデルは、C.E.Nelson et al.,Science 10.1126/science.aad5143(2015)によって記載されているmdxマウスモデルに基づいている。mdxマウスは、完全長のジストロフィンmRNA転写物の産生をもたらし、かつ、切断されているジストロフィンタンパク質をコードする、マウスジストロフィン遺伝子のエクソン23内のナンセンス変異を保有する。これらの分子的変化は、mdx筋肉における攣縮および強縮力の低下を含めた機能変化を伴う。mdxマウスは、エクソン52の欠失を含む全長ヒトジストロフィン導入遺伝子の付加によってヒト化された(「mdx △52マウス」)。
【0143】
mdx △52マウスは、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9分子と、ヒトジストロフィン遺伝子のイントロン51およびイントロン52をそれぞれ標的にする一対のgRNAとを含むCRISPR/Cas9システムを、ヒトジストロフィン導入遺伝子を含有するmdxマウスの胚に注射することによって作製した。mdx △52マウスの心臓および前脛骨筋には、ジストロフィンタンパク質は検出されなかった。
【0144】
ある実験では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9と、表1に記載のターゲティング配列を含む一対のgRNAとをコードするAAVベクターが、例えば、複数のmdx △52マウスのそれぞれの右の脛骨に投与される。これらのmdx △52マウスの左の前脛骨筋は、対側対照として使用し、治療も空ベクターも受けない。ベクターの投与後の様々な時点で、マウスを安楽死させ、組織診断、タンパク質抽出、および/または核酸抽出のために、組織を回収する。治療後の編集、および細胞および分子的な変化の程度は、上に記載した通りにおよびNelson et al.に記載されている通りに判定することができる。
【0145】
別の実験では、Cas9と、上に記載した通りのgRNA対とをコードするAAVベクターが、例えば血管内注射によって、mdx △52マウスに全身的に投与され、上に記載したのとほぼ同じ方式で分析される。この実験、上に記載した実験、および/または他の類似の実験の結果を使用して、特定のガイド対を治療効果について評価および順位付けする、またAAVベクターおよび投薬プロトコルを設計および/または最適化する、また本開示による特定の組成物および方法の臨床的有用性の可能性を判定することができる。
【0146】
前述の詳細な説明および付随する実施例は、単に実例に過ぎず、本開示の主題の範囲への制限と受け取るべきではなく、本開示の主題の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によってのみ定義されることが理解されよう。
【0147】
開示された実施形態に対する様々な変更および改変は、当業者には明らかであろう。限定はされないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、中間体、合成物、組成物、製剤、または使用の方法に関するものを含めた、こうした変更および改変を、その趣旨および範囲から逸脱せずに行うことができる。
図1
図2
図3
【配列表】
0007075597000001.app