(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】歯車精度の評価方法および評価装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/021 20190101AFI20220519BHJP
G01B 21/02 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
G01M13/021
G01B21/02 Z
(21)【出願番号】P 2021068565
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000205568
【氏名又は名称】大阪精密機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】森脇 一郎
(72)【発明者】
【氏名】射場 大輔
(72)【発明者】
【氏名】植田 昌蔵
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185166(JP,A)
【文献】特開2018-146503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/021
G01B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車測定機によって測定された歯車の各歯の偏差データに基づいて精度を評価する歯車精度の評価方法であって、
前記歯車の基礎円上に隣に並んだ2つの前記歯の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの前記歯に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出するステップと、
前記周期的な偏差を抽出するステップが前記歯車の回転位相が進む方向の前記歯に対して順番に実施されることにより、前記歯車の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成するステップと、
を備えることを特徴とする歯車精度の評価方法。
【請求項2】
前記周期的な偏差を抽出するステップの前に、前記歯車測定機によって測定された前記歯車の前記歯の偏差データに対してガウシアンフィルタを適用し、所定の周波数成分の偏差データを抽出するステップを備える
ことを特徴とする請求項1記載の歯車精度の評価方法。
【請求項3】
歯車測定機によって測定された歯車の各歯の偏差データに基づいて精度を評価する歯車精度の評価装置であって、
前記歯車の基礎円上に隣に並んだ2つの前記歯の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの前記歯に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出する偏差抽出部と、
前記偏差抽出部による周期的な偏差の抽出が前記歯車の回転位相が進む方向の前記歯に対して順番に実施されることにより、前記歯車の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成する評価データ作成部と
を備えることを特徴とする歯車精度の評価装置。
【請求項4】
前記歯車測定機によって測定された前記歯車の前記歯の偏差データから所定の周波数成分の偏差データを抽出するガウシアンフィルタを備える
ことを特徴とする請求項3記載の歯車精度の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車精度の評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円筒歯車の精度評価については、対象となる歯車の形状偏差をJIS B 1757-1 (2012)の規格によって評価された歯車測定機を用いて計測し、JIS B 1702-1:2016(円筒歯車-精度等級第1部:歯車の歯面に関する誤差の定義および許容値)で定義された精度等級に従い、歯形・歯すじ、そしてピッチの偏差を評価してきた。
【0003】
実際に、基準円直径とモジュールの大きさに従って、単一ピッチ誤差、累積ピッチ誤差、全歯形誤差、全歯すじ誤差等を評価することで、精度等級に振り分けてきた。このJIS B 1702-1は2013年に発行された国際規格ISO 1328-1を基として作成された日本工業規格であるが、1976年に発行された廃止規格であるJIS B 1702:1976を時代に合わせて修正してきた規格であり、ISOに準拠させるため精度等級の見直しや言葉の定義の変更があったものの、根本的な変更は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、歯車対がかみ合うと、軸回転周波数と歯数によって決まるかみ合い振動およびその高調波成分が発生するが、これらの想定された振動数以外の成分が発生することがあり、ゴーストノイズと呼ばれ原因の特定が困難とされる。高精度の歯車対を用いても、低ノイズ、低振動の例えばトランスミッションを実現できない場合は、こうした想定外の要因の発生が挙げられる。すなわち、こうした要因を除去し、静粛なトランスミッションを構成するためには精度等級以外の評価項目が必要であることを意味しており、現在のJISで規定された評価精度の項目だけでは不十分である。全歯のピッチ誤差、歯形誤差、歯すじ誤差の生波形をグラフとして番号順に並べた歯車精度検査成績シート上で見比べ、かみ合い振動とその高調波成分以外の要因となる因子を抽出するのは知識や経験がなければ困難である。この場合、精度評価項目として、それぞれの各歯の歯形誤差、歯すじ誤差のグラフから傾き(歯形勾配誤差、歯すじ傾斜誤差)や振幅(全歯形誤差、歯形形状誤差、全歯すじ誤差、歯すじ形状誤差)について導出し、全歯の結果から最大値を精度等級の評価に用いていた。これらの評価指標は、歯車形状の最大誤差から精度等級を決定することになり、いわゆるある歯の最悪値を特徴量として評価しているに過ぎない。実際に歯車は回転しながら利用されるため、円周上に配置された各歯が順番に相手歯車とかみ合っていくことになるが、各歯で個別に測定された偏差を順番に並べ、歯車全体を俯瞰して偏差を評価する方法はなかった。そのため、幾何形状の誤差として測定された各歯の偏差データの生波形から振動に繋がる形状偏差を評価するという問題を解決することはできていない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ゴーストノイズ等のノイズ発生原因を簡単に推定できる歯車精度の評価方法および評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯車精度の評価方法は、歯車測定機によって測定された歯車の各歯の偏差データに基づいて精度を評価する歯車精度の評価方法であって、前記歯車の基礎円上に隣に並んだ2つの前記歯の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの前記歯に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出するステップと、前記周期的な偏差を抽出するステップが前記歯車の回転位相が進む方向の前記歯に対して順番に実施されることにより、前記歯車の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成するステップと、を備える。
【0008】
本発明の歯車精度の評価装置は、歯車測定機によって測定された歯車の各歯の偏差データに基づいて精度を評価する歯車精度の評価装置であって、前記歯車の基礎円上に隣に並んだ2つの前記歯の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの前記歯に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出する偏差抽出部と、前記偏差抽出部による周期的な偏差の抽出が、前記歯車の回転位相が進む方向の前記歯に対して順番に実施されることにより、前記歯車の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成する評価データ作成部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歯車測定機によって計測された歯車の形状偏差について、個別に評価するのではなく、回転位相に従って変化していく隣り合う歯に残された偏差間の周期性を相互相関関数によって抽出し、それを歯車の回転位相が進む順に並べて表記することによって、歯車全体の形状偏差を俯瞰して観察、評価することが可能となり、これまでには困難であった、ゴーストノイズ等のノイズ発生原因を簡単に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の一実施の形態を示す評価装置のブロック図である。
【
図3】歯車精度の評価方法のフローチャートである。
【
図4】歯車測定機によって測定された歯車の1つの歯の偏差データのグラフである。
【
図5】ガウシアンフィルタを適用した偏差データのグラフである。
【
図6】良品の場合の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを示すグラフである。
【
図7】不良品の場合の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に歯車10を示す。歯車10は、基礎円11上に並んで設けられた複数の歯12を備えている。そして、歯車測定機によって、各歯12の歯形、歯すじ等の偏差が測定される。
【0013】
また、
図2に歯車精度の評価装置20を示す。評価装置20は、例えばコンピュータによって構成されている。評価装置20は、歯車測定機21によって測定された各歯12の偏差データを取得し、この取得した偏差データから各歯12の歯形偏差、歯すじ偏差等の偏差データ間の関係性を、歯車10がかみ合う順番ごとに整理して可視化することで振動の要因となる偏差を、歯車10の全体を俯瞰して評価可能としている。
【0014】
評価装置20は、ガウシアンフィルタ22と、偏差抽出部23と、評価データ作成部24とを備えている。ガウシアンフィルタ22は、歯車測定機21によって測定された歯車10の歯12の偏差データから所定の周波数成分の偏差データを抽出する。偏差抽出部23は、歯車10の基礎円11上に隣に並んだ2つの歯12の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの歯12に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出する。評価データ作成部24は、偏差抽出部23による周期的な偏差の抽出が、歯車10の回転位相が進む方向の歯12に対して順番に実施されることにより、歯車10の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成する。評価データは、例えばグラフである。
【0015】
評価装置20には、評価データを出力する出力部25が接続されている。出力部25はディスプレイやプリンタ等が含まれる。なお、出力部25は評価装置20の一部であってもよい。
【0016】
次に、歯車精度の評価方法を、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0017】
評価装置20は、歯車測定機21によって測定された歯車10の各歯12の偏差データを取得する(ステップS1)。
図4には1つの歯12の偏差データを示す。
【0018】
評価装置20は、取得された各歯12の偏差データに対してガウシアンフィルタ22を適用し、このフィルタリング処理で歯12の歯面上に残された偏差から着目する周波数成分の偏差データを抽出する(ステップS2)。例えば、表面性状に関連した粗さデータについては周期が短く振動に与える影響も小さいことから、このフィルタリング処理で除去し、また、歯研仕上げ加工で歯面に残されたうねり成分については抽出する。さらに、直流成分は振動に寄与しないため、元の偏差データから除去する。
図5にはフィルタリング処理によって抽出された偏差データを示す。
【0019】
そして、評価装置20の偏差抽出部により、歯車10の基礎円11上に隣に並んだ2つの歯12の偏差データ(x(t)およびy(t))間の関係を次の数1の相互相関関数(Rxy)の式によって求め、2つの歯12に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出する(ステップS3)。
【0020】
【0021】
2つ並んだ歯12の偏差データ(x(t)およびy(t))間の関係を相互相関関数の式で求める手順を、歯車10の回転位相が進む方向の歯12に対して順番に実施することにより(ステップS4)、評価装置20の評価データ作成部24によって、かみ合う順番に並べた回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成する(ステップS5)。
【0022】
評価データは例えば
図6または
図7に示すグラフとして作成され、出力部25のディスプレイに表示またはプリンタでプリントアウトされる。
【0023】
そして、歯車10の仕上げ加工が適切であり、隣接する歯12が同様の偏差を持つ場合、
図6に示すように、かみ合い振動とその高調波成分が主となる振動が発生し、この場合の回転位相と周期的な偏差との関係は、横軸であるシフト量が0の位置で大きな値をとり、それ以外のシフト量の位置でその値が減少していく。縦軸である回転位相の方向には同じシフト量の位置では大きな変化は発生しない。
【0024】
それに対して、歯車10の仕上げ加工が不良であり、ゴーストノイズ等が発生する歯車10は、セッティングが不適切な状態で加工されているため、
図7に示すように、歯面上に残された加工痕が通常(
図6)ではない周期として残されることになる。これらの歯面上に残された波形は単一では確認が困難であるが、回転位相と周期的な偏差との関係のグラフを作成することにより、特殊な周期性が目視でも簡単に確認できることになる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、歯車測定機21によって計測された歯車10の形状偏差について、個別に評価するのではなく、回転位相に従って変化していく隣り合う歯12に残された偏差間の周期性を相互相関関数によって抽出し、それを歯車10の回転位相が進む順に並べて表記することによって、歯車10の全体の形状偏差を俯瞰して観察、評価することが可能となり、これまでには困難であった、ゴーストノイズ等のノイズ発生原因を簡単に推定できる。
【符号の説明】
【0026】
10 歯車
11 基礎円
12 歯
20 評価装置
21 歯車測定機
22 ガウシアンフィルタ
23 偏差抽出部
24 評価データ作成部
【要約】
【課題】ゴーストノイズ等のノイズ発生原因を簡単に推定できる歯車精度の評価方法を提供する。
【解決手段】歯車測定機によって測定された歯車の各歯の偏差データに基づいて精度を評価する歯車精度の評価方法である。歯車の基礎円上に隣に並んだ2つの歯の偏差データ間の関係を相互相関関数によって求め、2つの歯に跨って歯面上に残された周期的な偏差を抽出するステップと、周期的な偏差を抽出するステップが歯車の回転位相が進む方向の前記歯に対して順番に実施されることにより、歯車の回転位相と周期的な偏差との関係の評価データを作成するステップと、備える。
【選択図】
図3