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特許7075638主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/117 20060101AFI20220519BHJP
   B23Q 3/12 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
B23B31/117 601A
B23Q3/12 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021049575
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2021-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521123998
【氏名又は名称】株式会社MCK
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】金松 実
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-195940(JP,U)
【文献】米国特許第04617846(US,A)
【文献】米国特許第04789280(US,A)
【文献】実開昭52-028791(JP,U)
【文献】国際公開第2013/125326(WO,A1)
【文献】特開2017-221990(JP,A)
【文献】特開平08-281504(JP,A)
【文献】特開2000-061715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00 - 31/39
B23Q 3/06 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを主軸先端に装着して使用する主軸装置において、
前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に備えた第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に備えた第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバーは主軸筒内で一部が重複するように直列に配置させられ、
前記第1のドローバーは駆動手段によって駆動され前記主軸筒内を進退可能とされるとともに、前記第2のドローバーは前記主軸筒基部方向に付勢手段によって付勢されており、前記第1のドローバーの前進に伴って前記第2のドローバーは前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動されて前記付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、
前記第1のドローバーが第1の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに前記第2のドローバーを押動し、押動された前記第2のドローバーが前記付勢手段の付勢力に抗して進出することで前記第2のクランプ機構も解除され、
前記第1のドローバーが前記第1の進出位置よりも後退した第2の進出位置に移動することに伴って前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動されるとともに、前記第2のドローバーへの押動作用が解除され前記第2のドローバーが前記付勢手段の付勢力によって後退することで前記第2のクランプ機構が作動されることを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記第1のドローバーは前記第2のドローバーの内周面に接する外周面を備え、前記内周面と前記外周面に案内されて前後にスライド移動することを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記第1のクランプ機構と前記第2のクランプ機構とは前後方向にずれた位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の主軸装置。
【請求項4】
前記第1のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第1の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記第2のドローバーの内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第1のクランプ機構が解除されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項5】
前記第2のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第2の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記主軸筒の内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第2のクランプ機構が解除されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項6】
前記第1の進出位置から前記第2の進出位置に前記第1のドローバーが後退する際に、前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構が作動された後に前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項7】
前記第1のドローバー及び前記第2のドローバーと前記主軸筒との間には前記第1のドローバー及び前記第2のドローバーの軸方向の進退を許容し、前記主軸筒に対する周方向の相対回動を規制する規制手段が配設されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項8】
前記ホルダーが前記主軸筒の先端に形成されたホルダー装着穴に装着されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項9】
前記ホルダーには前記ホルダー装着穴に装着される装着部から後方に突出する可動式のレバー部材が形成されるとともに前記レバー部材には前記第1の被クランプ部が形成され、前記装着部には前記レバー部材を包囲する位置に前記第2の被クランプ部が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の主軸装置。
【請求項10】
前記第1のドローバーは第2の進出位置で前記第1のクランプ機構を作動させて前記レバー部材に形成された前記第1の被クランプ部をクランプし、前記第2の進出位置よりも後退した第3の進出位置に前記レバー部材を移動させることを特徴とする請求項9に記載の主軸装置。
【請求項11】
前記第1の被クランプ部にはクランプ状態で前記第1のクランプ機構と係合する第1の係合部が形成されていることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項12】
前記第2の被クランプ部にはクランプ状態で前記第2のクランプ機構と係合する第2の係合部が形成されていることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の主軸装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の主軸装置を搭載した工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを主軸先端に装着されて使用する主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルダーとして工具もワークもどちらも取り付け可能な工作機械の主軸に装着する多機能ホルダーが出願人によって開発されている。そのようなホルダーを主軸に装着する際にホルダー保持機構、そのようなホルダー保持機構を有する主軸装置等もホルダーと同時に開発されている。これらの技術が開示されている先行技術として特許文献1を示す。特許文献1の主軸装置ではこのような多機能ホルダーを装着するための独自のクランプ構造を備えている。具体的には、例えばその図2に示すように、ホルダー自体をクランプ(把持する)ための外掴み機構(外ドローバ85、外ボール92a等から構成される)と、ホルダーのチャック機構を開閉するための可動式のプルスタッドのヘッドをクランプするための内掴み機構(内ドローバ84、内ボール92b等から構成される)を備える構成が採用されている。つまり、内側と外側に二重の被クランプ部を有する多機能ホルダーをクランプするための機構である。そして、主軸上部に配置された2つのシリンダ装置(2重押引機構9a)によって外ドローバ85と内ドローバ84をそれぞれ別個に進退させてクランプ動作をさせるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-284768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、二つの被クランプ部をクランプするために上記のように2つのシリンダ装置を別個に主軸装置に配置させることは、主軸装置を大型化・重量化させることとなり、かつ複数のシリンダ装置が必要であるため高コスト化する。また、2つのシリンダ装置の動作を制御しなければならず操作上も面倒である。また、メンテナンス上でも不利である。
そのため、例えばシリンダ装置のような駆動手段を1つだけ使用して上記のようなホルダーの内側と外側の2箇所をクランプする機構が求められていた。
本発明は、このような問題点に鑑み主たる目的として、1つの駆動手段を駆動させることで多機能ホルダーの内外の2箇所をクランプすることができる主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1の手段では、内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有する工具用又はワーク用のホルダーを主軸先端に装着して使用する主軸装置において、前記ホルダーの前記第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に備えた第1のドローバーと、前記ホルダーの前記第2の被クランプ部をクランプする第2のクランプ機構を前端側に備えた第2のドローバーとを備え、前記第1のドローバーと前記第2のドローバーは主軸筒内で一部が重複するように直列に配置させられ、前記第1のドローバーは駆動手段によって駆動され前記主軸筒内を進退可能とされるとともに、前記第2のドローバーは前記主軸筒基部方向に付勢手段によって付勢されており、前記第1のドローバーの前進に伴って前記第2のドローバーは前記第1のドローバーに直接的又は間接的に押動されて前記付勢手段による付勢力に抗して前進させられるように構成され、前記第1のドローバーは第1の進出位置で前記第1のクランプ機構が解除されるとともに前記第2のドローバーを押動し、押動された前記第2のドローバーが前記付勢手段の付勢力に抗して進出することで前記第2のクランプ機構も解除され、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置よりも後退した第2の進出位置に移動することに伴って前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動されるとともに、前記第2のドローバーへの押動作用が解除され前記第2のドローバーが前記付勢手段の付勢力によって後退することで前記第2のクランプ機構が作動されるようにした。
これによって、一台の駆動手段によって第1のドローバーを進退させるだけで、第2のドローバーをその動作に追随して進退させることができ、その結果第1のドローバーの第1のクランプ機構でホルダーの第1の被クランプ部をクランプし、第2のドローバーの第2のクランプ機構でホルダーの第2の被クランプ部をクランプすることができる。また、逆にクランプ動作の解除(アンクランプ)も一台の駆動手段によって可能となる。つまり、一台の駆動手段によってホルダーの2つの被クランプ部をクランプし、またアンクランプすることができるため、主軸装置の小型化・低コスト化に貢献することとなる。
ここで、第1のドローバーが第2の進出位置に移動することに伴って第1のクランプ機構が作動され、これに伴って第2のクランプ機構も作動されることになるが、第1のクランプ機構と第2のクランプ機構が同時に作動されてもよく、第1のクランプ機構よりも先に第2のクランプ機構が先に作動してもよい。
【0006】
「第1のドローバー」はホルダーの第1の被クランプ部をクランプする第1のクランプ機構を前端側に備えている。前端側とは主軸先端側となる。ホルダーの第1の被クランプ部は第2のドローバーとの関係で定まり内側となる場合も外側となる場合もある。
「第2のドローバー」はホルダーの第2の被クランプ部をクランプする第21のクランプ機構を前端側に備えている。
「駆動手段」は例えば、油圧シリンダ装置、エアシリンダ装置、モータ装置等がよい。モータ装置は交流式でも直流式のどちらもよい。
「付勢手段」は常時第2のドローバーを主軸筒基部方向に付勢する手段であり、第2のドローバーを基準となる原位置に保持させる機能を有する。付勢手段は例えば、バネ装置であれば例えばコイルばね、皿ばね、板ばね等がよい。エアシリンダ装置、油圧シリンダ装置を使用するようにしてもよい。
「被クランプ部」は、クランプ機構によってクランプ(掴む)できる形状である必要がある。被クランプ部は、例えば張り出し部を有したりクランプ側の部材が嵌まり込む形状であることがよい。それによって被クランプ部がクランプ機構と干渉してホルダーの取り出し方向への移動が阻止されるためである。
「クランプ機構」は、被クランプ部に対して例えば主軸の径方向に進退する干渉体を有する構造であることがよい。そして、被クランプ部が挿通される通路内に出没して被クランプ部をクランプすることがよい。干渉体の形状は例えばボール状、円筒状、樽状であることがよい。あるいは干渉体を例えばコレットのような軸を中心に揺動して主軸の径方向に進退するようにしてもよい。
「第2のドローバーが第1のドローバーに直接的又は間接的に押動される」ため、第1のドローバーが第2のドローバーに接して押動してもよく、他の部材を介して押動してもよい。
【0007】
また、第2の手段として、前記第1のドローバーは前記第2のドローバーの内周面に接する外周面を備え、前記内周面と前記外周面に案内されて前後にスライド移動するようにした。
これによって、第1のドローバーが進退する際に、あるいは第1のドローバーに押動されて第2のドローバが進出する際等の両者の相対的な進退動作において中心軸を一致させてがたつかずに移動させることができる。
また、第3の手段として、前記第1のクランプ機構と前記第2のクランプ機構とは前後方向にずれた位置に配置されている前記第1のクランプ機構よりも前記第2のクランプ機構は前記主軸先端寄りに配置されているようにした。
これによって、ホルダーの第1の被クランプ部と第2の被クランプ部の位置が前後にずれている場合に対応しやすく、第1のクランプ機構と第2のクランプ機構が同じ位置にないため両者が干渉してしまうこともない。
【0008】
また、第4の手段として、前記第1のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第1の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記第2のドローバーの内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第1のクランプ機構が解除されるようにした。
具体的な第1のクランプ機構のクランプ状態からの解除構造の構成である。これによって、第1のクランプ機構のホルダーの第1の被クランプ部へのクランプ状態から解除(アンクランプ)することができる。
また、第5の手段として、前記第2のクランプ機構は前記主軸の径方向に進退する干渉体を有し、前記第1のドローバーが前記第1の進出位置に配置された状態において、前記第2の被クランプ部をクランプする前記干渉体が、前記主軸筒の内周面に形成された収容部に面した位置に配置されることによって前記第2のクランプ機構が解除されるようにした。
具体的な第2のクランプ機構のクランプ状態からの解除構造の構成である。これによって、第2のクランプ機構のホルダーの第2の被クランプ部へのクランプ状態から解除(アンクランプ)することができる。
ここでは干渉体が径方向に進出して被クランプ部をクランプし、そのクランプ状態が保持されることでホルダーは装着される。ホルダーの取り外し方向への移動を阻止する係合部があるとなおよい。径方向に進退する干渉体としては、例えば上記のようなボール等やコレットや割爪めを配置してもよい。
【0009】
また、第6の手段として、前記第1の進出位置から前記第2の進出位置に前記第1のドローバーが後退する際に、前記第2のドローバーの前記第2のクランプ機構が作動された後に前記第1のドローバーの前記第1のクランプ機構が作動するようにした。
このように時間差で第2のクランプ機構が作動された後に第1のクランプ機構が作動されるようにすることで、ホルダーの誤装着を防止することができる。例えばホルダーが正しく主軸装置に装着されて第2のクランプ機構によってクランプされ、その後に第1のクランプ機構が可動式のプルスタッドのヘッドをクランプするというような二段階のクランプ動作が可能となるため、ホルダーが正しく主軸装置に装着される前の例えば傾いた状態でプルスタッドをクランプしてしまったり、第1のクランプ機構がうまく作動しなかったりというような不具合が生じにくくなる。
また、第7の手段として、前記第1のドローバー及び前記第2のドローバーと前記主軸筒との間には前記第1のドローバー及び前記第2のドローバーの軸方向の進退を許容し、前記主軸筒に対する周方向の相対回動を規制する規制手段が配設されるようにした。
これによって、主軸が回転する際に第1のドローバーと第2のドローバーを主軸筒の回転と同期して回転させることができる。また、第1のドローバーと第2のドローバーは主軸の軸方向に進退可能な構造であるが、その動作も許容されることとなる。具体的には例えば、第1のドローバー(及び第2のドローバー)から主軸とに向かって突起体を配置し、この部材が軸方向に移動できるような軸径の幅に形成した長孔を主軸に形成するように実現する。逆に主軸側に突起体を配置して第1のドローバー(及び第2のドローバー側に長孔を形成するようにしてもよい。
【0010】
また、第8の手段として、前記ホルダーが前記主軸筒の先端に形成されたホルダー装着穴に装着されているようにした。
つまり、ホルダーが主軸装置のホルダー装着穴に装着され、自身の第1の被クランプ部と第2の被クランプ部が第1のクランプ機構と第2のクランプ機構にクランプされている状態である。
「ホルダー」は内側と外側に二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とをその基部側に有している。工具用又はワーク用としていずれでも使用できる汎用性の高い多機能ホルダーであることがよい。第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とを有していても例えば工具用に特化したホルダーであってもよい。第1の被クランプ部と第2の被クランプ部の2つのクランプする部分があると、ホルダーの引っ張り力が向上するため、特に高負荷の切削に適する。この場合は多機能ホルダーではなく工具ホルダーとして機能する。
多機能ホルダーとした場合に、工具用としては、例えば、マシニングセンタのATC(自動工具交換装置:Automatic Tool Change)において用意される例えばフライス、ドリル、エンドミル、バイト、リーマ等の種々の加工工具を先端側にチャック機構によってチャッキングして装着して使用することができる。ワークの場合にはワークを直接的又は間接的に先端側にチャック機構によってチャッキングして装着し、例えばNC加工機でこのワークを加工することができる。チャック機構にはクランプ機構も含む。例えば、第1の被クランプ部をプルスタッドのようなレバー部材に形成させ、第1の被クランプ部を押引することでチャック機構を開閉させる。第2の被クランプ部はホルダー装着穴に装着される装着部に形成し、第2の被クランプ部によってホルダーを主軸筒の先端に装着するようにするとよい。
【0011】
また、第9の手段として、前記ホルダーには前記ホルダー装着穴に装着される装着部から後方に突出する可動式のレバー部材が形成されるとともに前記レバー部材には前記第1の被クランプ部が形成され、前記装着部には前記レバー部材を包囲する位置に前記第2の被クランプ部が形成されているようにした。
このようなホルダーに対してはレバー部材の第1の被クランプ部に対して第1のクランプ機構をクランプし、装着部側の第2の被クランプ部に対して第2のクランプ機構をクランプすることになる。
また、第10の手段として、前記第1のドローバーは第2の進出位置で前記第1のクランプ機構を作動させて前記レバー部材に形成された前記第1の被クランプ部をクランプし、前記第2の進出位置よりも後退した第3の進出位置に前記レバー部材を移動させるようにした。
第3の進出位置までレバー部材を移動させることで、レバー部材と連動する機構を動作させることができる。つまり、第1の被クランプ部をクランプすることで第1のドローバーによってレバー部材を操作することができることとなる。
【0012】
また、第11の手段として、前記第1の被クランプ部にはクランプ状態で前記第1のクランプ機構と係合する第1の係合部が形成されているようにした。
単にクランプするだけではなく、第1のクランプ機構と係合する第1の係合部を第1の被クランプ部に設けることで、しっかりと強い力でクランプしていなくとも第1のドローバーを進退させる際にこの第1の係合部を介してレバー部材を押引することができる。
また、第12の手段として、前記第2の被クランプ部にはクランプ状態で前記第2のクランプ機構と係合する第2の係合部が形成されているようにした。
単にクランプするだけではなく、第2のクランプ機構と係合する第1の係合部を第1の被クランプ部に設けることで、しっかりと強い力でクランプしていなくともホルダー本体を所定の位置に保持することが可能となる。
上記第1の係合部又は第2の係合部は、例えばクランプされた状態で第1のクランプ機構又は第2のクランプ機構と係合されることでホルダーが後退できないような張り出し状の形状であることがよい。例えば、突起であったり、外方に膨出した膨出体を有していたり、フランジ状であったり、第1のクランプ機構や第2のクランプ機構が嵌まり合う関係の形状であったりすることがよい。
また、第13の手段として、第1~第13の手段のいずれかに記載の主軸装置を搭載した工作機械とすることがよい。
工作機械としては、NC工作機械やマシニングセンタがよい。マシニングセンタでは特にATC(自動工具交換装置)の主軸装置として使用することがよい。
上述した第1~第13の手段の各発明は、任意に組み合わせることができる。特に、第1の手段の構成を備えて、第2~第13の手段の各発明の少なくともいずれか1つの構成と組み合わせを備えるとよい。第1~第13の手段の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記発明では、一台の駆動手段によってホルダーの2つの被クランプ部をクランプし、またアンクランプすることができるため、主軸装置の小型化・低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態の自動工具交換装置の一部破断縦断面図。
図2A】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置において、ホルダーを装着する直前及び取り外した直後の状態を説明する装置要部の縦断面図。
図2B】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置において、第1のドローバーを後退させて装着部をクランプした状態を説明する装置要部の縦断面図。
図2C】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置において、第1のドローバーを後退させて装着部及びプルスタッドをクランプした状態を説明する装置要部の縦断面図。
図2D】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置において、図2Cのクランプ状態から更に第1のドローバーを後退させてホルダーからプルスタッドが引き出された状態を説明する装置要部の縦断面図。
図3】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置の要部の側面図。
図4A】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーと第2のドローバーが内外のボールが出没自在となる位置に進出している状態を説明する拡大説明図。
図4B】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置のクランプ機構周辺において、図4Aの状態で装着途中あるいは取り外し途中の装着部とプルスタッドがいずれもクランプされていない状態を説明する拡大説明図。
図4C】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーと第2のドローバーが図4Bの状態から後退して装着部がクランプされている状態を説明する拡大説明図。
図4D】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーが図4Cの状態から後退して装着部に加えてプルスタッドがクランプされている状態を説明する拡大説明図。
図4E】同じ実施の形態の自動工具交換装置の主軸装置のクランプ機構周辺において、第1のドローバーが図4Dの状態からさらに後退してホルダーからプルスタッドを引き出した状態を説明する拡大説明図。
図5】第1のドローバー先端の部分拡大斜視図。
図6】チャック開放状態にあるチャックホルダーの(a)は正面図、(b)は底面図。
図7】チャック閉鎖状態にあるチャックホルダーの(a)は正面図、(b)は底面図。
図8】工具チャックホルダーの(a)は正面図、(b)は縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて実施の形態を説明する。
図1に示すように、主軸ユニット1は、主軸装置2と、主軸装置2の周囲に配設されたベアリングユニット3及びモータ装置4とを主要な構成としている。まず、主軸ユニット1の概要について説明する。以下の説明では、主軸ユニット1は鉛直方向に主軸装置2が配置されるものとして、主軸装置2の先端側は下部側とする。
図1及び図2A図2Dに示すように、合金製の主軸装置2は略円筒形形状の主軸筒5を備えている。主軸筒5は上下方向に連通された通路を備え、外周形状が真円形状とされている。主軸筒5内には第1のドローバー6と第2のドローバー7が収容されている。主軸筒5の上部位置には回転シリンダ装置8が配設されている。
ベアリングユニット3はベアリング10、ベアリング押さえ11、ベアリングケース12から構成されている。主軸装置2はベアリングユニット3のベアリング10とベアリング押さえ11によって主軸筒5が支持されて中心軸Oの回りに回転可能とされる。ベアリングケース12は回転しない部分として主軸装置2を支持する。
モータ装置4はベアリングユニット3の上部位置に配設されている。主軸装置2はモータ装置4の回転力によって中心軸Oの回りに回転させられる。モータ装置4はハウジング13内に収容されたステータ14とロータ15を備えている。本実施の形態ではモータ装置4として6相交流サーボモータを使用する。ベアリングケース12に固定されたハウジング13と、ハウジング13に固定されたステータ14は主軸装置2の回転しない部分とされ、主軸筒5に固着されたロータ15は主軸装置2と一緒に回転する。モータ装置4のハウジング13の上部位置には主軸筒5を包囲する押さえプレート17が配設されている。押さえプレート17の透孔17aの内周にはベアリング16が配設されており、主軸筒5の上部位置主軸筒5を回転可能に支持している。
【0016】
次に、主軸装置2についてより詳しく説明する。
主軸装置2は大きく主軸筒5側と回転シリンダ装置8側とに上下に分けられている。回転シリンダ装置8は主軸筒5と連結されて一体的に回転する下部ハウジング19と、回転しない部分となる上部ハウジング20とを備えている。下部ハウジング19内には図示しないシリンダとピストンが配設されている。ピストンから下垂されたピストンロッド21先端(下端)は主軸筒5内に進出させられ、第1のドローバー6の上端に連結されている。主軸筒5の先端には後述するチャックホルダー51を取り付けるためのテーパ状の内周面を有するホルダー装着穴18が形成されている。
図1及び図2A図2Dに示すように、主軸筒5内に収容された第1のドローバー6と第2のドローバー7は一部が重複するように直列に配設されている。第1のドローバー6は横断面における外形が円形形状となるように構成され、主軸筒5内において主軸筒5内周面に沿ってスライド移動可能とされている。
【0017】
第1のドローバー6は3つの径の異なる部分から構成されている。すなわち、第1のドローバー6は、主軸筒5の上部内周面5aと接するもっとも径の大きな第1の大径部6Aと、第1の大径部6A前方のもっとも径の小さな小径部6Bと、小径部6B先端に連結された中間の大きさの径の第2の大径部6Cを有している。小径部6Bと第2の大径部6Cは第2のドローバー7内に収容されている。
第2の大径部6Cの前端は第2の大径部6Cと同じ外形に構成された円筒形状に形成された円筒部6Dとされている。円筒部6Dの内部空間は後述するチャックホルダー51のプルスタッド55後端を収容しクランプする位置となる。第1のドローバー6の軸心位置には上下に連通するクーラント用通路24が形成されている。
第1のドローバー6の第1の大径部6Aには規制手段としての円柱形状の第1の連結ピン22が両側に張り出すように装着されている。図3に示すように、主軸筒5には上部側内周面5aに面した位置に一対の第1の長孔23が対向して形成されている。第1の長孔23は主軸筒5の軸方向に平行となるように長径側が配置されている。第1の長孔23の短径側の幅は第1の連結ピン22の直径と一致(実際にはスライドできるようにわずかに短径幅が広い)する。第1の連結ピン22は第1の長孔23内にスライド移動可能に嵌挿されている。第1のドローバー6の小径部6Bの基部が接続されている第1の大径部6A先端面は第2のドローバー7を押動する押動面29とされている。
【0018】
第2のドローバー7も横断面における外形が円形形状となるように構成され、主軸筒5内において主軸筒5内周面に沿ってスライド移動可能とされている。第2のドローバー7は2つの径の異なる部分から構成されている。第2のドローバー7は第1のドローバーの小径部6Bを収容する小径部7Aと、小径部7Aの前側に形成され主軸筒5の下部内周面5bと接する大径部7Bとから構成されている。小径部7A内における内周面7aは第1のドローバー6の小径部6Bと密着し、大径部7B内における内周面7bは第1のドローバーの第2の大径部6Cと密着する。
つまり、第2のドローバー7は第1のドローバー6のスライド移動を許容し、かつ第1のドローバー6のスライド動作を案内する部材となる。
第2のドローバー7の基端には主軸筒5の上部内周面5aと接するスライドカラー25が固着されている。スライドカラー25は第2のドローバー7が主軸筒5の上部内周面5aに対して上下方向にスライド移動する際の案内となる。
第2のドローバー7の小径部7Aには、スライドカラー25と隣接した位置に規制手段としての円柱形状の第2の連結ピン26が両側に張り出すように装着されている。図3に示すように、主軸筒5には上部側内周面5aに面した位置に一対の第2の長孔27が対向して形成されている。第2の長孔27は主軸筒5の軸方向に平行に長径側が配置されている。第2の長孔27の短径側の幅は第2の連結ピン26の直径と一致(実際にはスライドできるようにわずかに短径幅が広い)する。第2の連結ピン26は第2の長孔27内にスライド移動可能に嵌挿されている。
第2のドローバー7の小径部7Aと主軸筒5の間には付勢手段としての皿バネ集合体28が配設されている。皿バネ集合体28は複数の皿バネを縦列に配置して小径部7Aに嵌挿させた部材であって、配設状態で第2のドローバー7側の第2の連結ピン26を上方に常時押圧して付勢力を発生させている。第2のドローバー7はこの付勢力によって全体として常時上方に押動状態とされている。
第1のドローバー6と第2のドローバー7の先端は同じ進出位置ではなく、常に第2のドローバー7が第1のドローバー6よりも前方に突出した状態で配置される。
【0019】
次に第1のドローバー6と第2のドローバー7のクランプ機構について図2A図2D図4A図4E及び図5に基づいて説明する。
、第1のドローバー6は後述するチャックホルダー51のプルスタッド55側をクランプし、第2のドローバー7は後述するチャックホルダー51の装着部53側をクランプする。
図5に示すように、第1のドローバー6の円筒部6Dには周方向に所定間隔で複数の第1の透孔31が形成されている。各第1の透孔31は第1のドローバー6の円筒部6Dの径方向内外に連通される円径の開口部を有している。各第1の透孔31は内側の開口部径が外側の開口部径よりも小さく内壁がテーパ状となるように構成されている。各第1の透孔31内には第1のボール32が収容されている。第1のボール32の径は第1の透孔31の内側の開口部径より大きく、外側の開口部径よりも小さく構成されている。
第2のドローバー7の先端寄り位置にも周方向に所定間隔で複数の第2の透孔33が形成されている。第2の透孔33の構成は第1の透孔31と同じであるため省略する。また、各第2の透孔33内には第2のボール34が収容されている。第2のボール34の構成・動作は第1のボール32と同じであるため省略する。
【0020】
第2のドローバー7の大径部7Bの内側であって第2の透孔33よりも上方位置には周方向に所定間隔で第1の凹部35が形成されている。
第1の凹部35は円形の開口部形状とされ第1の透孔31の外側の開口部径と同じ径で構成されている。第1の凹部35は第1のボール32が第1の透孔31内でもっとも内側に進出した状態(図4Aの状態)における第1のボール32の突出量よりもわずかに深い凹部形状となるように構成されている。つまり、第1の凹部35が第1の透孔31に照合された状態で第1のボール32は外側に後退し、もっとも第1の凹部35内に没した状態では第1のボール32は第1のドローバー6の面(つら)から突出することはない。第1の凹部35の壁面は第1の透孔31へ出没しやすいようにテーパ状に形成されている。
第1の凹部35は第1のドローバー6と第2のドローバー7の相対的な位置関係によって第1の透孔31に照合される。第1の凹部35と第1の透孔31が照合されると第1のボール32は遊嵌状態となるため外側に退避可能となり、アンクランプ状態となる。一方、照合されていない場合には第1のボール32が第1の透孔31の内側には若干先端側が突出した状態で内外に移動できず保持されるためクランプ状態となる。本実施の形態ではクランプとは複数の第1のボール32でチャックホルダー51のプルスタッド55や装着部53の軸状の部分をその周囲から押さえ込むことである。
【0021】
主軸筒5の下部内周面5bであってホルダー装着穴18の基部側の近傍位置には周方向に所定間隔で第2の凹部37が形成されている。
第2の凹部37は第2のドローバー7が主軸筒5に干渉するのを避けるために第2の透孔33よりも大きな径に構成されている。また、第2の凹部37が第2の透孔33に照合された状態で第2のボール34がもっとも後退し、第2の凹部37に没した状態では第2のボール34が第2のドローバー7の面(つら)から突出することはないことは、第1のドローバー6側と同様である。第2の凹部37の壁面は第2の透孔33へ出没しやすいようにテーパ状に形成されている。
第2の凹部37は第2のドローバー7が所定の進出位置に配置されることで第2の透孔33に照合される。上記と同様に照合状態で第2のボール34は遊嵌状態となるため外側に退避可能となり、アンクランプ状態となる。一方、照合されていない場合には第2のボール34が若干先端側が突出した状態で内外に移動できず保持されるためクランプ状態となる。
第1の透孔31、第1のボール32、第1の凹部35等によって第1のドローバー6と第2のドローバー7間に第1のクランプ機構が構成される。
第2の透孔33、第2のボール34、第2の凹部37等によって主軸筒5と第2のドローバー7と間に第2のクランプ機構が構成される。
【0022】
ホルダー装着穴18先端にはチャックホルダー51を主軸装置2に取り付けた際にチャックホルダー51側と噛み合ってチャックホルダー51の周方向への回転を阻止するためのキー39が装着されている。回転シリンダ装置8の上部ハウジング20は主軸装置2の回転に伴って連れ回りしないための回り止めステー40が上部ハウジング20と押さえプレート17との間に連結されている。回転シリンダ装置8にはピストン(ピストンロッド21)の進出位置を検出するドグ41と近接センサ42(進出量検出手段)が配設されている。押さえプレート17上には回転量検出センサ44が設置されている。主軸装置2とともに回転するリング43の速度を検出して図示しないコンピュータ装置に出力してモータ装置4の回転数を制御する。
このように構成された主軸ユニット1はマシニングセンタ内において図示しないサドルに搭載され、図示しないコンピュータ装置の制御によってワークを加工する。
【0023】
本実施の形態では図6及び図7に示す3つ爪のチャックホルダー51を主軸装置2のホルダー装着穴18に装着するものとする。チャックホルダー51は図示しないチャック機構が収容されたホルダー本体52と主軸装置2に装着するための装着部53とから構成されている。装着部53はホルダー本体52と一体的に形成された円錐形状の突起体である。装着部53の外周形状はホルダー装着穴18の内周形状に対応する。ホルダー本体52には3つの爪部54が移動可能に取り付けられている。図6(a)(b)の状態が爪部54がもっとも開き、図7(a)(b)の状態が爪部54がもっとも閉じた状態とされる(チャックした状態)。装着部53の後端からはプルスタッド55が突出させられている。プルスタッド55はホルダー本体52内のチャック機構にレバー部材として連結されており、プルスタッド55が後方に進出する(引っ張られる)ことで爪部54は開いた状態から閉じた状態となる。
プルスタッド55の先端には係合部としての外方に張り出した略楕円体形状の膨出部56が一体的に形成されている。装着部53の先端は円板状に外方に張り出した係合部としてのフランジ部57が一体的に形成されている。フランジ部57に隣接した装着部53とフランジ部57と間には係合部としてのくびれ部58が形成されている。くびれ部58は装着部53の連続したテーパ形状に対して不連続な窪みが全周にわたって首輪状に形成された部分である。フランジ部57はチャックホルダー51のホルダー装着穴18への装着時(テーパ面同士の密着状態)でホルダー装着穴18よりも奥に配置される。
次に、図2A図2D図4A図4Eに基づいて主軸ユニット1における主軸装置2へのチャックホルダー51のクランプ及びアンクランプ動作について説明する。チャックホルダー51を主軸装置2に装着させる際のチャックホルダー51状態は図6(a)(b)の爪部54がもっとも開いた状態がデフォルトである。
【0024】
A.図2A及び図4Aはピストンロッド21が下動して第1のドローバー6がもっとも進出(下降)させられた位置であって第1のクランプ機構も第2のクランプ機構も解除された状態である。この進出位置は第1の進出位置に相当する。尚、この位置は近接センサ42で判断されている。
第1の進出位置を図2AにおいてS1とし第1の連結ピン22の位置を基準とする。このS1位置においては、第1のドローバー6が第2のドローバー7を押動面29によってスライドカラー25とともに後方から押動し、この押圧力によって皿バネ集合体28の付勢力に抗して皿バネ集合体28を圧縮し(押し返し)、第2のドローバー7を下動させた状態である。このとき、第1の透孔31内の第1のボール32は第1の凹部35方向への移動が許容され、第2の透孔33内の第2のボール34も第2の凹部37方向への移動が許容されるため、図4Aのように第1及び第2のクランプ機構ともにアンクランプ状態となっている。
この状態でチャックホルダー51を主軸装置2のホルダー装着穴18に装着させていく。ホルダー装着穴18よりも奥側に装着部53とプルスタッド55が進出しても図4Bに示すようにプルスタッド55の膨出部56や装着部53のフランジ部57が第1のボール32(第2のボール34)に干渉して進出が妨害されることはない。
B.次いで、所定の制御動作によってピストンロッド21が第1の進出位置から第1のドローバー6を後退(上昇)させていく。第1のドローバー6が図2Bに示すようにS1からS2に至ると、皿バネ集合体28への押圧力が解除されるため、皿バネ集合体28の付勢力によって第2のドローバー7が後退していく。第2のドローバー7が後退することでまずチャックホルダー51の装着部53の先端のくびれ部58が第2のクランプ機構によってクランプされる。しかし、この時第1のクランプ機構はまだ作動しない。第1のドローバー6の後退に伴って第2のドローバー7がともに後退するため第1のクランプ機構の第1の凹部35は第1の透孔31に面して第1のボール32は後退可能な状態を維持しているからである(図4Cの状態)。
【0025】
C.更に、図2Cに示すように第1のドローバー6がS2からS3に後退していくと、第2のドローバー7に対して第1のドローバー6は相対的に後退することとため、第1の凹部35が移動し、チャックホルダー51のプルスタッド55(の膨出部56の根元のくびれたコーナー部分)も第1のクランプ機構によってクランプされる。この状態の第1のドローバー6の進出位置が第2の進出位置となる。この状態で前後二箇所の被クランプ部においてチャックホルダー51はしっかりと主軸装置2に固定されることとなる(図4Dの状態)。
D.更に、図2D及び図4Eに示すように第1のドローバー6がS3からS4に後退していくと、第1のボール32がプルスタッド55の膨出部56と係合するため、プルスタッド55は後方(上方)に引き出されることとなり、チャックホルダー51が図6の状態から図7の状態に変位する(爪部54が閉じる)。工作機械全体の制御としては、C.からD.に移行する間にチャックホルダー51の爪部54に工具等が取り付けられることになる。
このように主軸装置2にチャックホルダー51を装着した状態から逆にチャックホルダー51を取り外す場合には、上記とは逆に上昇状態のピストンロッド21を進出(下降)させ、D.から順にA.に至るように制御する。
【0026】
上記のように構成することで、実施の形態の主軸ユニット1では次のような効果が奏される。
(1)内側と外側(及び前後)の二重の被クランプ部を有するチャックホルダー51をクランプするために1つのシリンダ装置8のみを駆動させてクランプすることができる。1つのシリンダ装置8のみで実現しているため、主軸ユニット1及び主軸装置2を小型化、軽量化することができる。
(2)ピストンロッド21の進退だけで第1のドローバー6を介して第2のドローバー7を動作させるような機構であり、第2のドローバー7は第1のドローバー6と皿バネ集合体28で進退するため、シンプルな構成で故障しにくい。
(3)第1のドローバー6と第2のドローバー7は直列に配置され、かつ一部重複しているため、主軸装置2の全長や全幅を小型化することができる。
(4)クランプ動作においては、先にチャックホルダー51の装着部53を第2のドローバー7による第2のクランプ機構が作動し、その後にチャックホルダー51のプルスタッド55を第1のドローバー6による第1のクランプ機構が作動してクランプするように時間差でクランプ動作が行われるため、確実に先にチャックホルダー51をホルダー装着穴18に固定することができ、プルスタッド55のクランプの誤動作、例えばプルスタッド55が動いていたり振動していたりして第2のボール34が所定位置でしっかりクランプできないようなクランプミスが生じにくい。
(5)第1のドローバー6は主軸筒5と第2のドローバー7の内周面をそれぞれ案内として進退するため、進退に伴う振動が生じにくい。また、第2のドローバー7も主軸筒5と第1のドローバー6を案内とするため、第2のドローバー7も進退に伴う振動が生じにくい。
【0027】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態ではチャック機能を備えたチャックホルダー51をクランプする対象とした例を説明したが、主軸装置2には他のホルダーを装着させるようにしてもよい。例えば、図8(a)(b)に示すような、工具ホルダー60を使用してもよい。工具ホルダー60はホルダー本体61と装着部62を備えている。ホルダー本体61内の取り付け穴61aには図示しない工具の基部が固定されるようになっている。装着部62後端からはスタッド63が突出させられている。スタッド63は進退しない構成である。スタッド63の先端には係合部としての外方に張り出した略楕円体形状の膨出部64が一体的に形成されている。装着部62の先端は円板状に外方に張り出した係合部としてのフランジ部65が一体的に形成されている。フランジ部65に隣接した装着部62とフランジ部65と間には係合部としてのくびれ部69が形成されている。この工具ホルダー60においては装着部62とスタッド63の形状はチャックホルダー51の装着部53と進出していない状態のプルスタッド55と同形状に構成されている。
このような工具ホルダー60も上記のように主軸装置2に2箇所の被クランプ位置で装着することができるため、工具ホルダー60を内外及び前後において主軸装置2にしっかりと取り付けることができる。
【0028】
・上記実施の形態では駆動手段としてシリンダ装置8を例示したが、第1のドローバー6を進退させるためには、これ以外の駆動手段、例えばモータ装置を使用することができる。シリンダ装置8も油圧式、空圧式のどちらも使用することが可能である。
・第2のドローバー7を付勢する手段、装置として、他のバネ装置を使用してもよい。また、付勢する装置としてシリンダ装置を使用するようにしてもよい。
・モータ装置4として6相交流サーボモータ以外のモータや、交流方式ではなく直流方式のモータ装置を使用してもよい。
・クランプ機構の径方向に進退する干渉体として、上記では一例として第1及び第2のボール32、34を使用したが、それ以外にもコレットや割爪めを配置して径方向に揺動するように進退するようなクランプ機構であってもよい。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0029】
2…主軸装置、6…第1のドローバー、7…第2のドローバー、8…駆動手段としての回転シリンダ装置、28…付勢手段としての皿バネ集合体、51…ホルダーとしてのチャックホルダー、55…レバー部材としてのプルスタッド、58、69…第2の被クランプ部としての装着部のくびれ部、60…ホルダーとしての工具ホルダー、63…レバー部材としてのスタッド。
【要約】
【課題】1つの駆動手段で多機能ホルダーの内外の2箇所をクランプすることができる主軸装置及び主軸装置を搭載した工作機械等を提供すること。
【解決手段】二重に配置された第1の被クランプ部と第2の被クランプ部とを有するホルダーを主軸先端に装着して使用する主軸装置において、第1のドローバー6と第2のドローバー7は主軸筒内で重複しかつ直列に配置させられ、第1のドローバー6がピストンロッド21によって押動されて進出すると、それと共に第2のドローバー7は皿バネ集合体28の付勢力に抗して前進させられ、第2のクランプ機構も解除される。第1のドローバー6が第1の進出位置から後退することに伴って第1のドローバー6の第1のクランプ機構が作動され、第2のドローバー7への押動作用が解除されて第2のドローバー7が皿バネ集合体28の付勢力によって後退することで第2のクランプ機構も作動される。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8