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特許7075649生物活性成分を内包した中空シリカナノ粒子、調製プロセス、および、その応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】生物活性成分を内包した中空シリカナノ粒子、調製プロセス、および、その応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20220519BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220519BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20220519BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20220519BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220519BHJP
   A61K 38/02 20060101ALN20220519BHJP
   A61K 31/7052 20060101ALN20220519BHJP
   A61K 39/00 20060101ALN20220519BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20220519BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20220519BHJP
   A61K 38/43 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/69
C01B33/18 Z
B82Y5/00
B82Y40/00
A61K38/02
A61K31/7052
A61K39/00 G
A61K39/395 M
A61K45/00
A61K38/43
【請求項の数】 28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017157917
(22)【出願日】2017-08-18
(65)【公開番号】P2018115145
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】62/376,920
(32)【優先日】2016-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503209342
【氏名又は名称】ナショナル タイワン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モウ チュン-ユアン
(72)【発明者】
【氏名】コウ ナイ-ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー シ-ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェン イ-ピン
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-530031(JP,A)
【文献】特表2010-509404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
C01B 33/18
B82Y 5/00
B82Y 40/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルのそれぞれがメソ細孔を有し、閉じた中空空間を囲み、最も内側の前記閉じた中空空間は任意で固体のシリカコアをなす多層シリカシェルと、
前記閉じた中空空間に内包された1つ以上の生物活性成分と、
を含み、
前記生物活性成分のサイズは、前記生物活性成分を内包する前記シェルの細孔径より大きく、
前記閉じた中空空間のそれぞれにおける前記生物活性成分は、同じか、または、異なる、
シリカナノ粒子。
【請求項2】
約20nm~500nmの粒径を有する、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項3】
約20nm~150nmの粒径を有する、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項4】
前記シェルは、2つ以上である、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項5】
前記シェルのそれぞれは、有機シリカ残基を有する、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項6】
前記シェルの前記細孔径は、5nm未満である、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項7】
前記シェルのそれぞれの厚みは、約2nm~15nmである、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項8】
前記中空空間のサイズは、調整可能である、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項9】
前記シェル間の前記閉じた中空空間距離は、約2nm~75nmである、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項10】
表面修飾したまたはしない前記生物活性成分は、水相に分散または溶解される、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項11】
前記生物活性成分は、酵素、タンパク薬物、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物である、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項12】
前記酵素は、アガルシダーゼ、イミグルセラーゼ、タリグルセラーゼ、ベラグルセラーゼ、アルグルセラーゼ、セベリパーゼ、ラロニダーゼ、イデュルスルファーゼ、エロスルファーゼ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルタミナーゼ、アルギニンデイミナーゼ、アルギナーゼ、メチオニナーゼ、システイナーゼ、ホモシステイナーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、尿酸オキシダーゼ、カタラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、または、グルタチオンペルオキシダーゼを含む、請求項11に記載のシリカナノ粒子。
【請求項13】
前記シェルのそれぞれの外面には、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、または、腫瘍標的リガンドが結合する、請求項1に記載のシリカナノ粒子。
【請求項14】
シリカナノ粒子を調製する方法であって、
(a)油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、1つ以上の生物活性成分を任意で含む第1の水相と、任意で共活性剤とを供給することによって、油中水型(W/O)マイクロエマルションを形成するステップ(a-1)、および、油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、任意で共活性剤とを供給することによって、混合物を形成するステップ(a-2)のうちの1つを実行するステップと、
(b)前記ステップ(a-1)の前記W/Oマイクロエマルションに反応開始剤を添加するか、または、前記ステップ(a-2)の前記混合物に水溶性反応開始剤を添加することによって、前記第1の水相に前記生物活性成分が含まれる場合、W/Oマイクロエマルションを形成し、前記生物活性成分と結合する表面を有する、および/または、前記生物活性成分を内包するシリカナノコアを形成するステップと、
(c)生物活性成分を含む第2の水相を供給するステップと、
(d)アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を導入することにより、前記ステップ(b)の前記シリカナノコア、前記第1の水相に前記生活活性成分が含まれる場合における前記ステップ(b)の前記第1の水相に含まれる前記生物活性成分および前記ステップ(c)で導入された前記第2の水相に含まれる前記生物活性成分を囲むさらなるシリカ層を形成するステップと、
(e)任意で前記ステップ(c)および(d)を1回以上繰り返すステップと、
(f)前記W/Oマイクロエマルションを不安定化させ、前記マイクロエマルションから形成された粒子を収集するステップと、
(g)前記ステップ(f)で収集された前記粒子を水性洗浄相に分散させることによって、シリカナノ粒子を得るステップと、
を含み、
前記ステップ(d)および(e)、および、任意で前記ステップ(a)における前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、少なくとも1つの有機アルコキシシランを含み、
前記生物活性成分のサイズは、前記生物活性成分を内包するシリカシェルの細孔径より大きい、
方法。
【請求項15】
前記ステップ(a-1)における前記1つ以上の生物活性成分を任意で含む第1の水相と、前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源とを導入する順序を逆にする、または同時に導入する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記油相は、ドデカン、デカン、オクタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリグリセリド油、または、植物油を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記界面活性剤は、非イオン界面活性剤からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記非イオン界面活性剤は、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、グルコシドアルキルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、グリセロールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ブロックコポリマー、ポロキサマー、コカミドモノエタノールアミン、コカミドジエタノールアミン、酸化ラウリルジメチルアミン、または、ポリエトキシ化獣脂アミンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、同じかまたは異なる、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ケイ酸ナトリウム、または、その混合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記有機アルコキシシランは、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン(PEG-トリメトキシシラン)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、メチルホスホン酸(3-トリヒドロキシシリル)プロピル(THPMP)、トリアセトキシメチルシラン(MTAS)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、トリメトキシシリルプロピル修飾(ポリエチレンイミン)、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、双性イオン性シラン、または、その混合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、TEOとAPTMSとの混合物、THPMPとAPTMSとTEOSとの混合物、または、EDTASとAPTMSとTEOSとの混合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記ステップ(e)が用いられた場合、前記シリカナノ粒子のシェルの数は、前記アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源、洗浄時間、および、洗浄温度に基づき決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記第1および第2の水相は、水、水性緩衝液、ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液、アルカノリック水溶液、または、共活性剤含有水溶液を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ステップ(a)、(c)、および、(e)の前記生物活性成分は、それぞれ同じかまたは異なる、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
表面修飾をしたまたはしない前記生物活性成分は、前記第1および第2の水相に分散または溶解される、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記生物活性成分は、酵素、タンパク薬物、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記酵素は、アガルシダーゼ、イミグルセラーゼ、タリグルセラーゼ、ベラグルセラーゼ、アルグルセラーゼ、セベリパーゼ、ラロニダーゼ、イデュルスルファーゼ、エロスルファーゼ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルタミナーゼ、アルギニンデイミナーゼ、アルギナーゼ、メチオニナーゼ、システイナーゼ、ホモシステイナーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、尿酸オキシダーゼ、カタラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、または、グルタチオンペルオキシダーゼを含む、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2016年8月19日に出願された米国仮出願第62/376,920号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、生物活性成分を供給するドラッグデリバリシステムとしての中空シリカナノ粒子に関する。特に、本発明は、1つ以上の生物活性成分をその間に閉じ込めた多層シリカシェルを有するシリカナノ粒子、および、それらのドラッグデリバリにおける応用に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質または核酸などの高分子を治療薬として用いる新しい治療学の発達により、このような高分子を適切な細胞内標的に届けるための新しく有効なアプローチが必要とされている。ナノ粒子の技術は、薬理学およびドラッグデリバリの分野での応用が見出されている。
【0004】
ナノキャリアは、ポリマー、リポソーム、および、シリカナノ粒子などの無機ナノ粒子を含む高分子デリバリのために開発された。さまざまなシリカナノ粒子の中でも、中空シリカナノ粒子(HSN)は、細孔容積が大きく、化学/熱的に安定し、担持容量が大きく、表面特性が調整可能であり、生体適合性に優れるといった特有の物理的/化学的特性を有するので、ドラッグデリバリシステムとしての大きな可能性をもつとみなされている。一般的な固体のメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)とは異なり、HSNは、その特有の形態、すなわち、薄い多孔質シェル、および、中空の内部空間を有することによって、大きい化学種(生物活性成分など)を内包でき、大きい化学種を担持する容量も大きいので、触媒作用、生物医学などにおける応用の有効性も高まっている。HSNの形態および特徴は、用途によって異なる合成法に依存するところが大きい。
【0005】
中空シリカナノ粒子の合成法として従来知られているハードテンプレート法は、固体の剛体粒子(ポリスチレン粒子など)をコアテンプレートとして用い、テンプレートの材料は、シリカとは異種のものを用いる。これを前提として、コアテンプレートは焼成、溶媒の溶解、または、他の手段によってエッチングされ、閉じたシリカシェル内には中空空間ができる(非特許文献1)。このような方法では、ナノ粒子のサイズ、形状、および、キャビティのサイズの均一性は、正確に制御できるものの、テンプレートのエッチングに時間がかかる上に、合成プロセスを多段階で行うことが要求されるため、時間の浪費、および/または、複雑である。
【0006】
ソフトテンプレート法も、同じくコアシェル構造からコアテンプレートをエッチングして中空シリカナノ粒子を形成する概念を用いているが、このコアテンプレートは、ハードテンプレート法で用いられるものよりも“柔らかい”。例えば、柔らかいコアテンプレートは、シリカとは異種の材料からなるミセル、エマルション、小胞、または、気泡などの柔軟な液体“粒子”であり得る。しかしながら、これらの方法によって調製されるHSNは、ソフトテンプレートの柔軟性が原因で、見た目がふぞろいであり、粒径分布が広いと一般的にみなされている。例えば、シリカシェル構造が強固になる前に、水中油型(O/W)エマルション中の油がメソ細孔から漏れ出てしまった場合には、特殊なキッパーのようなHSNが形成されるだろう。(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、テンプレートのエッチングによって生物活性成分の活性が損なわれるおそれがあるので、エッチングの前に生物活性成分を入れることはできない。上記方法に加えて、構造が異なる選択的なエッチング方法は、中空シリカナノ粒子を合成する異なる概念を示す。このような方法では、ナノ粒子内で異なる構造を有する、すなわち、異なる場所では強度が異なる、特に、内層が外層より壊れやすいシリカナノ粒子を形成するために異なるシリカ源が用いられる。そのような現象は、最も一般的なストーバー法を含む、いくつかのゾル・ゲル法で見られた。したがって、ナノ粒子の壊れやすい部分を選択的にそっと取り除くことにより、中空空間が形成される。壊れやすい部分の選択的な除去は、特に、シリカナノ粒子を製造している間に特定の設計によって構造差の度合いが高くなった場合には、比較的制御可能である。
【0008】
マイクロエマルション系での合成を利用することによって、HSNにデノボ酵素を内包する方法がチャン等によって開示されている(非特許文献3)。しかしながら、構造差によって選択的にエッチングする方法は、ハードまたはソフトテンプレート法を用いた場合に起きる問題をどうにか防ぐことができるかもしれないが、中空シリカナノ粒子の収率がきわめて低い(20mLの油に対して多くても約10mg)。さらに、これらの方法によって調製されるナノ粒子は、凝集する傾向にあり、これは非常に解決するのが難しい課題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Li,Y.;Shi,J.中空構造を有するメソポーラス材料:化学合成、機能化、および、応用;Adv Mater 2014,26,3176-3205
【文献】Tsou,C.-J.;Hung,Y.;Mou,C.-Y.広範囲pHナノセンサとしての応用のためのシェルの厚みおよび細孔径分布が調整可能な中空メソポーラスシリカナノ粒子。微孔質およびメソポーラス材料;2014,190,181-188
【文献】細胞内生体触媒のための酵素内包中空シリカナノ粒子。ACS Appl Mater Interfaces 2014,6,6883-6890;タンパク質療法のための中空シリカナノスフェアへの酵素の細胞内移植:スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼのカスケード系。Small 2014,10,4785-4795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、ドラッグデリバリシステムとしての中空シリカナノ粒子を改良する必要があり、そのような中空シリカナノ粒子を合成する簡単で費用効率の高い方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本出願は、以下の解決策を提供する。
【0012】
特に、ドラッグデリバリシステムとしての機能を果たすことができるシリカナノ粒子であって、中空シリカナノ粒子(HSN)を提供する。第1に本願は、多層シリカシェルを含むシリカナノ粒子を提供する。最も内側の閉じた中空空間は任意で固体のシリカコアをなし、閉じた中空空間には1つ以上の生物活性成分が内包される。生物活性成分は、生物活性成分を内包するシェルの細孔径より大きく、中空空間のそれぞれにおける生物活性成分は、同じか、または、異なる。第2に、本願は、シリカナノ粒子を調製する方法を提供する。
【0013】
方法は、(a)油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、1つ以上の生物活性成分を任意で含む水相と、任意で共活性剤とを供給することにより、油中水型(W/O)マイクロエマルションを形成するステップ(a-1)、または、油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、任意で共活性剤とを供給することによって、混合物を形成するステップ(a-2)のうちの1つを実行するステップと、(b)ステップ(a-1)のW/Oマイクロエマルションに反応開始剤を添加するか、または、ステップ(a-2)の混合物に水溶性反応開始剤を添加することによってW/Oマイクロエマルションを形成し、生物活性成分と結合する表面を有する、および/または、生物活性成分を内包するシリカナノコアを形成するステップと、(c)生物活性成分を含む水相を供給するステップと、(d)アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を導入することにより、ステップ(b)のシリカナノコアを囲むさらなるシリカ層を形成するステップと、(e)任意でステップ(c)および(b)を1回以上繰り返すステップと、(f)W/Oマイクロエマルションを不安定にさせるために不安定な条件を導入し、マイクロエマルションから形成された粒子を収集するステップと、(g)ステップ(f)で収集された粒子を水性洗浄相に分散させることによって、シリカナノ粒子を得るステップと、を含み、ステップ(d)および(e)、および、任意でステップ(a)におけるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、少なくとも1つの有機アルコキシシランを含み、生物活性成分のサイズは、生物活性成分を内包したシリカシェルの細孔径より大きい。
【0014】
本願は、上記のような方法によって調製される製品も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)~(F)は、対照のシリカナノ粒子、および、本発明のシリカナノ粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を示す。
図2】(A)および(B)は、本発明のシリカナノ粒子の窒素の収着等温線を示す。
図3】(A)および(B)は、アスパラギナーゼ、PEG修飾アスパラギナーゼ、および、本発明のシリカナノ粒子の酵素活性試験の結果を示す。
図4】PEG修飾アスパラギナーゼ、対照のシリカナノ粒子、および、本発明のシリカナノ粒子によるMOLT-4白血病細胞の細胞毒性の分析結果を示す。
図5】(A)および(B)は、本発明のシリカナノ粒子に基づく、(MOLT-4細胞における)細胞内への取り込み効率の分析結果を示す。
図6】遊離アスパラギナーゼ、対照のシリカナノ粒子、および、本発明のシリカナノ粒子による、MOLT-4白血病細胞のアポトーシスを引き起こす能力の試験結果を示す。
図7】本発明のシリカナノ粒子を循環から除去した結果を示す。
図8】IVIS蛍光イメージングシステムによる本発明の粒子の生体内分布の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示内容の理解を容易にすべく、本開示にて用いられる用語を以下に定義する。
【0017】
明細書および請求項における単数形は、特に明示しない限り複数形も含む。また、記載のない限り、記載されたすべての例または例示のための単語(例えば、“などの”)は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明をよりわかりやすく例示するために用いているにすぎない。
【0018】
本明細書に記載されたいかなる数値範囲もすべての部分範囲を含むことが意図される。例えば、“50~70℃”の範囲は、最小値50℃と最大値70℃との間のすべての部分範囲および特定の値を含み、例えば、58℃~67℃、53℃~62℃、および、60℃または68℃なども含む。本開示の数値範囲は、連続しているので、それらは、最小値と最大値との間の各数値を含む。明記しない限り、本明細書に示されるさまざまな数値範囲は、およその範囲である。
【0019】
本明細書において、用語“約”は、値をどのように測定または決定するかに部分的に依存するが、当業者によって測定された所定の値の許容偏差のことを指す。本明細書において、特に明記しない限り、接頭語“ナノ”は、約300nm以下のサイズを意味する。本明細書において、特に明記しない限り、接頭語“メソ”は、IUPAC(国際純正応用化学連合)による定義とは異なり、約5nm以下のサイズを意味する。
【0020】
本明細書にて用いられる用語“シラン”とは、SiHの誘導体を指す。通常、4つの水素の少なくとも1つが以下に記載するようなアルキル基、アルコキシル基、アミノ基などの置換基と置換される。本明細書にて用いられる用語“アルコキシシラン”とは、ケイ素原子と直接結合する少なくとも1つのアルコキシル置換基を有するシランのことを指す。本明細書にて用いられる用語“有機アルコキシシラン”とは、ケイ素原子と直接結合する少なくとも1つのアルコキシル置換基、および、少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有するシランのことを指す。本明細書にて用いられる用語“ケイ酸塩源”とは、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケートなどのオルトケイ酸の塩形態またはエステル形態として見なされ得る物質のことを指す。任意で、ヒドロカルビル置換基は、さらに置換されるか、または、ヘテロ原子に割り込まれてよい。
【0021】
本明細書にて用いられる用語“ヒドロカルビル”とは、炭化水素から誘導される一価の基のことを指す。本明細書にて用いられる用語“炭化水素”とは、炭素原子および水素原子のみからなる分子のことを指す。炭化水素の例は、これらに限定されないが、(シクロ)アルカン、(シクロ)アルケン、アルカジエン、芳香族などを含む。ヒドロカルビルが上記のようにさらに置換される場合、置換基は、ハロゲン、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基などであってよい。ヒドロカルビルが上記のようにヘテロ原子に割り込まれる場合、ヘテロ原子は、S、O、または、Nであってよい。本発明によれば、ヒドロカルビルは、好ましくは1~30の炭素原子からなる。
【0022】
本明細書にて用いられる用語“アルキル”とは、好ましくは1~30の炭素原子、より好ましくは1~20の炭素原子からなる飽和、直鎖、または、分岐鎖アルキルのことを指す。アルキルの例は、これらに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、2-エチルブチル、n-ペンチル、イソペンチル、1-メチルペンチル、1,3-ジメチルブチル、n-ヘキシル、1-メチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、1-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、1,1,3-トリメチルヘキシル、1,1,3,3-テトラメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、1-メチルウンデシル、ドデシル、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルヘキシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシルなどを含む。本明細書にて用いられる用語“アルコキシル”または“アルコキシ”は、式“-O-アルキル”を有する基を意味する。この式における“アルキル”の定義は、上記のような“アルキル”の意味を有する。
【0023】
本明細書にて用いられる用語“シクロアルキル”とは、3~10の環炭素原子、より好ましくは3~8の環炭素原子、および、任意で環にアルキル置換基を含む飽和または一部不飽和の環状炭素ラジカルを意味する。シクロアルキルの例としては、これらに限定されないが、シクロプロピル、シクロプロペニル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-シクロヘキセン-1-イルなどが挙げられる。
【0024】
本明細書にて用いられる用語“ハロゲン”または“ハロ”は、フッ素、塩素、臭素、または、ヨウ素を示す。
【0025】
本明細書にて用いられる用語“アミノ”は、式-NRからなる官能基を意味する。RおよびRは、それぞれハロゲンまたは上記のようなヒドロカルビル基を示している。
【0026】
本明細書にて用いられる用語“水相”とは、水と実質的に混和できる位相を意味する。水相の例としては、これらに限定されないが、水そのもの、水性緩衝液、ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液、アルカノリック水溶液などが挙げられる。水相は、合成の需要、および/または、水相に存在する物質の安定性に基づき、酸性、中性、または、アルカリ性に調整されてよい。
【0027】
本明細書にて用いられる用語“油相”とは、上記のような水相と実質的に混ざらない位相を意味する。油相の例は、これらに限定されないが、ヘキサン、デカン、オクタン、ドデカン、シクロヘキサンなどの液体の置換または非置換(シクロ)アルカン、および、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの置換または非置換芳香族溶剤などが挙げられる。
【0028】
本明細書にて用いられる用語“生物活性成分”とは、生物体内で活性を有する物質を指す。生物活性成分の例は、これに限定されないが、酵素、タンパク薬物、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物などが挙げられる。
【0029】
[生物活性成分を内包する中空シリカナノ粒子]
本発明の一態様では、多層シリカシェルを含むシリカナノ粒子が提供される。シェルのそれぞれがメソ細孔を有し、閉じた中空空間を囲む。最も内側の閉じた中空空間は任意でメソ細孔を有する固体のシリカコアをなす。中空空間には、1つ以上の生物活性成分が内包される。生物活性成分のサイズは、生物活性成分を内包するシェルの細孔径より大きく、中空空間のそれぞれにおける生物活性成分は、同じか、または、異なってよい。
【0030】
本発明のシリカナノ粒子の一実施形態では、ナノコアと、少なくとも1つの閉じたシェルとを有するコア-シェル構造を有し、ナノコアとシェルとの間は空間になっている。一実施形態では、ナノコアは、固体である。他の実施形態では、ナノコアは、中空であり、よって、中空の閉じたシェルと考えられ得る。一実施形態では、シリカナノ粒子は、中空のナノコア、および、1つの外側シェルを有する。すなわち、合計2つの閉じたシェルを有する。他の実施形態では、シリカナノ粒子は、固体のナノコア、および、1つの外側の閉じたシェルを有する。一実施形態では、シリカナノ粒子は、中空のコア、および、2つ以上の閉じたシェルを有する。すなわち、合計3つ以上の閉じたシェルを有する。他の実施形態では、シリカナノ粒子は、固体のナノコア、および、2つ以上の外側の閉じたシェルを有する。
【0031】
本発明の中空シリカナノ粒子の粒径は、最も外側の閉じたシェルの外径によって定義される。一実施形態では、本発明のシリカナノ粒子は、約20nm~500nm、好ましくは、約20nm~150nm、より好ましくは、100nm未満または30nm未満の粒径を有する。
【0032】
一実施形態では、本発明のシリカナノ粒子のシェルは、それぞれの厚みが少なくとも約2nm、少なくとも約3nm、または、少なくとも約5nm、最大でも約15nm、最大でも約12nm、または、最大でも約10nmであるか、または、厚みは、上記の上限値および下限値のいかなる組み合わせによって生じる範囲内に収まる。
【0033】
本発明の中空シリカナノ粒子のナノコアおよびシェルは、メソポーラスであり、メソ細孔のサイズは、約5nm以下、好ましくは約3nm以下、より好ましくは、約2nm以下である。
【0034】
一実施形態では、各シェルは、閉じた中空空間を囲み、ナノコアとシェルとの間、または、シェル間の距離は、約75nm未満、好ましくは、約2nm~75nm、より好ましくは、約2nm~50nmである。
【0035】
一実施形態では、シェルの外面および内面は、別々に修飾されないかまたは修飾されてよい。シェル表面の修飾は、初めから行うか、または、ポスト修飾であってよい。修飾の例は、これに限定されないが、ポリ(エチレングリコール)(PEG)修飾、ポリエチレンイミン(PEI)修飾、メチルホスホン酸3-(トリヒドロキシシリル)プロピル(THPMP)修飾、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)修飾、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン修飾、N-[3-(トリメトキシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(TA-トリメトキシシラン)修飾、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)修飾、双性イオン性シラン修飾などの親水性修飾;抗体修飾、リンカー修飾、腫瘍標的リガンド修飾などのバイオマーカによる修飾といった特異的修飾;または、例えば、電荷の種類または分布の変更など、シェルの表面性質の修飾といった非特異的修飾などが挙げられる。
【0036】
中空シリカナノ粒子は、空間に内包された1つ以上の生物活性成分を有する。一実施形態では、生物活性成分は、各シェルの間に閉じ込められる。一実施形態では、中空シリカナノ粒子は、固体のナノコア、および、1つの外側の閉じたシェルを有し、ナノコアと外側の閉じたシェルとの間に生物活性成分が閉じ込められる。他の実施形態では、ナノコアおよび最も外側のシェルの表面に生物活性成分が結合されてよい。一実施形態では、生物活性成分は、メソ細孔より大きいサイズを有する。さらなる実施形態では、中空シリカナノ粒子には、メソ細孔以下のサイズを有する追加の治療薬が初めから入っていてもよいし、または、受動的に受け入れてもよい。
【0037】
一実施形態では、生物活性成分は、水溶性のもの、または、水相に分散または溶解させることができるように表面修飾がなされたものから選ばれてよい。一実施形態では、生物活性成分は、酵素、タンパク薬物、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物である。酵素の例としては、これに限定されないが、アガルシダーゼ、イミグルセラーゼ、タリグルセラーゼ、ベラグルセラーゼ、アルグルセラーゼ、セベリパーゼ、ラロニダーゼ、イデュルスルファーゼ、エロスルファーゼ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルタミナーゼ、アルギニンデイミナーゼ、アルギナーゼ、メチオニナーゼ、システイナーゼ、ホモシステイナーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、尿酸オキシダーゼ、カタラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、または、グルタチオンペルオキシダーゼが挙げられる。
【0038】
さらなる治療薬の例としては、これらに限定されないが、ドキソルビシン、クルクミン、パクリタキセル、イキサベピロン、ゲムシタビン、イリノテカン、SN-38、5-FU、ダウノルビシン、ドセタキセルなどが挙げられる。
【0039】
本発明のシリカナノ粒子は、学説にとらわれることなく、内包された生物活性剤のタイプおよび量、多層の層の数、および、シリカナノ粒子のシェル表面への修飾にもよるが、約400m/g以下、例えば、50~200m/gのBET表面積を有する。
【0040】
本発明のシリカナノ粒子は、例えば、これに限定されないが、構造差による選択的エッチング法などによって調製されてよい。好ましくは、本発明のシリカナノ粒子は、調製中に焼成されない。これを前提として、本発明のシリカナノ粒子は、好ましくは、ナノコアおよび閉じたシェル内またはその表面に、例えば、有機アルコキシシラン残基などの有機シリカ残基を有する。
【0041】
[生物活性成分を内包するシリカナノ粒子の調製方法]
本発明は、生物活性成分を内包するシリカナノ粒子を調製する方法を提供する。
方法は、以下のステップを含む。(a)油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、1つ以上の生物活性成分を任意で含む水相と、任意で共活性剤とを供給することによって、油中水型(W/O)マイクロエマルションを形成するステップ(a-1)、および、油相と、界面活性剤と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源と、任意で共活性剤とを供給することによって、混合物を形成するステップ(a-2)のうちの1つを実行するステップと、(b)ステップ(a-1)のW/Oマイクロエマルションに反応開始剤を添加するか、または、ステップ(a-2)の混合物に水溶性反応開始剤を添加することによってW/Oマイクロエマルションを形成し、その後、生物活性成分と結合する表面を有する、および/または、生物活性成分を内包するシリカナノコアを形成するステップと、(c)生物活性成分を含む水相を設けるステップと、(d)アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を導入することにより、ステップ(b)のシリカナノコアを囲むさらなるシリカ層を形成するステップと、(e)任意でステップ(c)および(d)を1回以上繰り返すステップと(f)W/Oマイクロエマルションを不安定にさせるために不安定な条件を導入し、マイクロエマルションから形成された粒子を収集するステップと、(g)ステップ(f)で収集された粒子を水性洗浄相に分散させることによって、シリカナノ粒子を得るステップと、を含み、ステップ(d)および(e)、および、任意でステップ(a)におけるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、少なくとも1つの有機アルコキシシランを含み、生物活性成分のサイズは、生物活性成分を内包するシリカシェルの細孔径より大きい。
【0042】
ステップ(a-1)において、油相、界面活性剤、および、水相の量は、それらの物質を混合した後に油中水型(W/O)マイクロエマルションが形成されるように選択される。一般的に、W/Oマイクロエマルションを形成する際の油相の量は、界面活性剤および水相の量より多い。W/Oマイクロエマルションを形成する手段は、周知であり、本発明では、生物活性成分の活性を損なわない手段が用いられ得る。油層、水相、生物活性成分、アルコキシシラン、および、ケイ酸塩源の定義および例は、先に詳しく説明したとおりである。
【0043】
W/Oマイクロエマルションを形成するために用いられる界面活性剤は、一般的に用いられており、周知のものである。本発明では、好ましくは、非イオン界面活性剤が用いられる。非イオン界面活性剤の例としては、これらに限定されないが、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(例えば、CO-520)、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、グルコシドアルキルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、グリセロールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ポロキサマー、コカミドモノエタノールアミン(コカミドMEA)、コカミドジエタノールアミン(コカミドDEA)、酸化ラウリルジメチルアミン、ポリエトキシ化獣脂アミンなどが挙げられる。
【0044】
任意で共活性剤が用いられることにより、マイクロエマルションの形成を容易にするか、または、マイクロエマルションを安定させる。共活性剤の例は、これらに限定されないが、ヘキシルアルコールなどのアルカノール、ポリエチレングリコール400(PEG400)、PEG600などが挙げられる。
【0045】
必要に応じて、少量の共溶媒を水相に導入することにより、生物活性成分がよく分散または溶解するようになり得る。共溶媒の例としては、これらに限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、PEI、PEG、ポリリジン、ポリアルギニン、アルギニン溶液、グルタミン酸溶液、アルギニン-グルタミン酸混合溶液、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、トリス緩衝液、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0046】
一実施形態では、ステップ(a-1)におけるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の前に、任意で1つ以上の生物活性成分を含む水相が供給される。他の実施形態では、ステップ(a-1)における1つ以上の生物活性成分を任意で含む水相の前に、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源が供給される。さらなる他の実施形態では、1つ以上の生物活性成分を任意で含む水相と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源とはステップ(a-1)で同時に供給される。つまり、1つ以上の生物活性成分を任意で含む水相と、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源とをステップ(a-1)で導入する順序を逆にするかまたは同時にしてもよい。
【0047】
他の実施形態では、ステップ(a-2)が採用される。すなわち、油相、界面活性剤、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源、および、任意の共活性剤が供給されることによって、混合物が形成される。
【0048】
次に、ステップ(b)として、反応開始剤を添加してシリカの形成を誘導する。ステップ(b)では、反応開始剤は、シリカを形成するための反応を引き起こす物質であり得る。反応開始剤の例は、これらに限定されないが、例えば、塩酸、硫酸といった酸または酸性水溶液などの酸性物質;アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液といった塩基またはアルカリ性水溶液などのアルカリ性物質;塩、塩の水溶液、および、緩衝液、例えば、フッ化ナトリウム、リン酸緩衝液を含むイオン源などが挙げられる。一実施形態では、ステップ(a-2)が採用された場合、ステップ(b)で導入される反応開始剤は、水溶性反応開始剤であり、W/Oマイクロエマルションの形成を誘発するだけでなく、シリカを形成するための反応も引き起こす。反応が開始すると、シリカナノコアが形成され、生物活性成分がシリカナノコアの表面と結合する、および/または、シリカナノコアに内包される。
【0049】
一実施形態では、ステップ(a-1)で生物活性成分を含まない水相が用いられた場合、ステップ(b)で形成されるシリカナノコアが新たに生物活性成分と結合する、および/または、生物活性成分を内包することはないだろう。一実施形態では、ステップ(a-1)で生物活性成分を含む水相が用いられた場合、ステップ(b)で形成されるシリカナノコアは、生物活性成分と結合する、および/または、生物活性成分を内包するだろう。
【0050】
続くステップ(c)および(d)において、生物活性成分を含むさらなる水相、および、さらなるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源がそれぞれ導入される。そして、シリカナノコアを内包するさらなるシリカ層が形成され、二層のシリカ粒子となる。
【0051】
二層シリカ粒子を形成すると、ステップ(c)および(d)がステップ(e)のように任意でさらに1回以上繰り返され、既存のシリカ粒子を囲むさらなる多数の層(第3層、第4層...等)が形成される。
【0052】
ステップ(f)でW/Oマイクロエマルションを不安定にする条件を導入し、その結果マイクロエマルションから形成された粒子が収集される。不安定にする条件の例は、これらに限定されないが、アルコール、過剰な界面活性剤などの不安定化剤を添加することを含む。収集された粒子を水、アルカノール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなどのC1-3アルコール)、または、アルカノリック水溶液ですばやくすすいでよい。
【0053】
最終的に、ステップ(f)で収集された粒子は、ステップ(g)のような水性洗浄相に分散され、請求項に記載されたようなシリカナノ粒子が得られる。洗浄相は、水、アルカノール(例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなどのC1-3アルコール)、または、アルカノリック水溶液であり得る。
【0054】
本方法によって生成されるナノコアおよびシェルは、表面にメソ細孔を有する。メソ細孔のサイズは、学説にとらわれることなく、異なるタイプの界面活性剤、共活性剤、および/または、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を用いて、または、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の量によって調整され得る。好ましくは、本方法に用いられるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の総量に対する界面活性剤および共活性剤の総量の比率は、制御される。一実施形態では、比率は、約3.5:1~約9.0:1、好ましくは、約4.5:1~約8.0:1、より好ましくは、約5.5:1~約7.5:1である。
【0055】
一実施形態では、ステップ(e)が採用される場合、すなわち、生物活性成分、および、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を含むさらなる水相が供給されて導入される場合、製造者の要望次第では、ステップ(g)でシェルの数が調整されてよい。シェルの数を決定する要因は、ステップ(c)および(d)を繰り返す回数、これらのステップで用いられるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源のタイプ、ステップ(g)での洗浄時間、ステップ(g)で洗浄を行う温度などを含む。例えば、シリカナノ粒子が二層構造を有する場合、ステップ(e)は少なくとも1回は実行すべきである。一実施形態では、ステップ(e)が1回実行され、洗浄後に一層のみを有するシリカナノ粒子が生成される。また、洗浄の温度および/または時間は、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の洗浄における感受性に基づき決定されてよい。例えば、温度が高いほど洗浄効果は顕著であり、逆もまた同様である。洗浄温度は、例えば、高くても80℃まで、70℃までなどであってもよく、または、大気温度(20℃、25℃、または、37℃)であってよい。一実施形態では、洗浄後のシリカナノコアはまだ固体であるが、シリカナノコアおよび閉じた中空空間を囲む1つ以上のシェルが形成される。一実施形態では、シリカナノコアを含む各層は、閉じた中空空間を囲むシェルである。
【0056】
一実施形態では、ステップ(a)、(d)、および、(e)で用いられるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、同じかまたは異なる。一実施形態では、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ケイ酸ナトリウム、または、その混合物を含む。一実施形態では、有機アルコキシシランは、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン(PEG-トリメトキシシラン)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、メチルホスホン酸(3-トリヒドロキシシリル)プロピル(THPMP)、トリアセトキシメチルシラン(MTAS)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、トリメトキシシリルプロピル(ポリエチレンイミン)、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、双性イオン性シラン、または、その混合物であってよい。一実施形態では、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、TEOSとAPTMSとの混合物、THPMPとAPTMSとTEOSとの混合物、または、EDTASとAPTMSとTEOSとの混合物であってよい。一実施形態では、ステップ(a)で用いられるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、THPMPとAPTMSとTEOSとの混合物、または、EDTASとAPTMSとTEOSとの混合物であってよい。一実施形態では、ステップ(d)および/またはステップ(e)で用いられるアルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源は、APTMSとTEOSとの混合物であってよい。
【0057】
本発明は、上記のような方法のいずれかによって調製されたシリカナノ粒子を提供する。
【実施例
【0058】
以下の実施例は、当業者に本発明の理解をより深めてもらうためのものであって、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0059】
[材料、手法、および、テストモデル]
[PEG修飾アスパラギナーゼ]
従来知られているように、アスパラギナーゼは、急性リンパ性白血病(ALL)を患う患者の治療に有効である。したがって、本発明の生物活性成分の例としてアスパラギナーゼを用いる。水相におけるアスパラギナーゼの溶解性を高めるべく、アスパラギナーゼの表面をSCM(スクシンイミジル)-PEG-MPTMS部分で修飾した。この生成物を以下、PEG修飾アスパラギナーゼと称する。PEG修飾アスパラギナーゼは、学説にとらわれることなく、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源に結合されることができ、このような結合は、続くPEG修飾アスパラギナーゼの内包に有益であろうと考えられる。PEG修飾アスパラギナーゼの調製は、以下に示すとおりである。マレイミド-ポリ(エチレングリコール)-スクシンイミジルエステル(MAL-PEG-SCM)6.4mg、および、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)5μLをアスパラギナーゼ1mgと混合し、混合物をNaHPO緩衝液(50mM、pH7.8)に溶解し、この溶液を温度4℃で6時間撹拌した。その後、生成物(PEG修飾アスパラギナーゼ)を、NaHPO緩衝液(50mM、pH7.8)中で過剰なMAL-PEG-SCM、MPTMS、または、RITC(ローダミンイソチオシアネート)を温度4℃で2日間透析することにより精製し、それらの過剰な薬剤を取り除いた。最終的に、アミコン(登録商標)のウルトラフィルタを用いてPEG修飾アスパラギナーゼを濃縮した。
【0060】
[蛍光色素で標識したアスパラギナーゼ]
蛍光色素に基づくアッセイのため、アスパラギナーゼは、蛍光色素に結合されてよい。蛍光色素は、例えば、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、または、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)である。RITCで標識したPEG修飾アスパラギナーゼの合成は、PEG修飾アスパラギナーゼの合成方法と同様であってよく、RITCをMAL-PEG-SCMおよびMPTMSと共に導入してアスパラギナーゼに共有結合させることができる。
【0061】
[透過型電子顕微鏡(TEM)]
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各層のサイズ、シェルの数および厚み、閉じた中空空間のサイズなど、シリカナノ粒子の外観を直接検査して評価した。75kVの加速電圧で作動する透過型電子顕微鏡(日立H-7100)のTEM画像を撮影し、エタノール中にサンプルを分散させ、炭素被覆銅格子に沈殿する前に30秒間超音波破壊し、空気中で乾燥させた。
【0062】
[動的光散乱(DLS)]
マルバーンゼータサイザーナノZS(マルバーン、イギリス)における動的光散乱を用いて、異なる溶液環境におけるシリカナノ粒子のサイズを測定した。シリカナノ粒子の濃度は、0.2~0.3mg/mLである。異なる溶液中に(溶媒和した)粒子のサイズを以下により分析した。水(pH6~7)、10%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、20%のウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地、10%のウシ胎児血清を含むRPMI培地、および、リン酸緩衝液(pH7.4)。
【0063】
[特性評価のためのアスパラギナーゼ活性試験]
ネスラー法によるアンモニアの検出によってアスパラギナーゼの活性を定量評価した(Mashburn,L.T.およびWriston,J.C、Biochemical and biophysical research communications,1963,12(1),50-55)。特に、アスパラギナーゼ、または、アスパラギナーゼを含むシリカナノ粒子をそれぞれ遠心分離し、0.05M、pH8.6のトリス緩衝液200μL中に分散させ、その基質(すなわち、0.05M、pH8.6のトリス緩衝液中の0.01MのL-アスパラギン1.7mL)を用いて、温度37度で10分~72時間培養した(L-アスパラギンはPro-Specより購入)。並行して、アスパラギナーゼを加えない対照群も同じ条件の元で培養した。1.5Mのトリクロロ酢酸(TCA)100μLを添加して反応をクエンチした。サンプルを遠心分離にかけ、500μLの上澄みを7mLの脱イオン水(比抵抗18.2MΩ)で希釈し、1mLのネスラー試薬(メルクより購入;水酸化カリウムおよびテトラヨージド水銀(II)酸カリウムを含む)と混合し、黄色い溶液(アンモニアを含む)を得た。この混合物を室温で10分間培養し、480nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。硫酸アンモニウムを基準として用い、較正曲線を決定した。アスパラギナーゼの1ユニット(U)は、pH8.6、温度37℃においてアスパラギナーゼによって生成される1分間に1ミリグラムあたりのアンモニアのマイクロモルの量として定義した。
【0064】
[合成の実施例1]
[PEG修飾HSN(中空シリカナノ粒子)の合成]
実施例1A:PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15
20mLのデカン(油相)と、3.5mLのCO-520(界面活性剤)と、1.1mLのヘキシルアルコール(任意の共活性剤)とを混合した。その後、200μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)25μLのAPTMSエタノール溶液とを混合物に添加し、混合物を温度20℃で撹拌した。(APTMSエタノール溶液は、1.4mLのエタノールにAPTMSの原液200μLを溶解させたものから用いた)。15分後、(反応開始剤としての)500μLのNHOH(28~30重量パーセント)を混合物に滴下し、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の加水分解を開始し、シリカナノコアを形成した。2時間後、(2385.2μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む水相としての)水700μLをマイクロエマルションにゆっくり添加した。さらに10分後、300μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)100μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で12時間撹拌することにより、シリカナノコアを囲む第2のシリカ層を形成した。その後、500μLのPEG-トリメトキシシラン、および、50μLのTEOSをそれらの両方に添加することにより、シリカナノ粒子の表面を修飾した。24時間後、95%エタノールを用いて、マイクロエマルション系を不安定化した。結果として生じた粒子を15,500rpmの遠心分離に25分間かけて収集し、エタノールですばやく2回すすいだ。その後、粒子を200mLの脱イオン水中に移し、温度50℃で2時間洗浄した。最終的に、中空シリカナノ粒子(HSN)が形成され、遠心分離によって収集し、エタノールで2回洗った。生成物(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15)を99.5%エタノールに分散して保存した。PEG修飾アスパラギナーゼは、内層と外層との間の空間に内包された。
【0065】
実施例1B:対照群であるアスパラギナーゼを含まない中空シリカナノ粒子(PEG修飾HSN18)を、水相にアスパラギナーゼが含まれないこと以外は実施例1Aと同様の手順で調製した。
【0066】
実施例1C:PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN10
20mLのデカン(油相)と、3.5mLのCO-520(界面活性剤)と、1.1mLのヘキシルアルコール(任意の共活性剤)とを混合した。669.5μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む水350μL(生物活性成分を含む水相としての)を水溶液に添加した。2分後、200μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)25μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で撹拌した。(APTMSエタノール溶液は、1.4mLのエタノールにAPTMSの原液200μLを溶解させたものから用いた)。15分後、(反応開始剤としての)500μLのNHOH(28~30重量パーセント)をマイクロエマルションに滴下し、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の加水分解を開始し、シリカナノコアを形成した。2時間後、666.5μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む水350μL(生物活性成分を含む水相としての)をマイクロエマルションにゆっくり添加した。さらに10分後、300μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)100μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で12時間撹拌することにより、シリカナノコアを囲む第2のシリカ層を形成した。その後、500μLのPEG-トリメトキシシラン、および、50μLのTEOSをそれらの両方に添加することにより、シリカナノ粒子の表面を修飾した。24時間後、95%エタノールを用いて、マイクロエマルション系を不安定化した。結果として生じた粒子を15,500rpmの遠心分離に25分間かけて収集し、エタノールですばやく2回すすいだ。その後、粒子を200mLの脱イオン水中に移し、温度50℃で2時間洗浄した。最終的に、中空シリカナノ粒子(HSN)が形成され、遠心分離によって収集し、エタノールで2回洗った。生成物(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN10)を99.5%エタノールに分散して保存した。PEG修飾アスパラギナーゼは、内層と外層との間の空間だけでなく、内層内の空間にも内包された。
【0067】
[TA-トリメトキシシラン表面修飾によるPEG修飾HSNの合成]
実施例1D:PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17
N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル)]-トリメチルアンモニウムクロリドによってTA-トリメトキシシラン表面修飾されたシリカナノ粒子の調製を以下に示す。20mLのデカン(油相)と、3.5mLのCO-520(界面活性剤)と、1.1mLのヘキシルアルコール(任意の共活性剤)とを混合した。その後、200μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)25μLのAPTMSエタノール溶液とを混合物に添加し、混合物を温度20℃で撹拌した。(APTMSエタノール溶液は、1.4mLのエタノールにAPTMSの原液200μLを溶解させたものから用いた)。15分後、(反応開始剤としての)500μLのNHOH(28~30重量パーセント)を混合物に滴下し、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の加水分解を開始し、2時間でシリカナノコアを形成した。その後、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を加水分解した後に、100μLのN-[3-(トリメトキシシリル)プロピル)]-トリメチルアンモニウムクロリド(TA-トリメトキシシラン,95%)を導入し、2時間撹拌した。その後、(2385.2μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む、水相としての)水700μLをマイクロエマルションにゆっくり添加した。さらに10分後、300μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)100μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で12時間撹拌することにより、シリカナノコアを囲む第2のシリカ層を形成した。その後、500μLのPEG-トリメトキシシラン、および、50μLのTEOSをそれらの両方に添加することにより、粒子の外面を修飾した。24時間後、95%エタノールを用いて、マイクロエマルション系を不安定化した。粒子を15,500rpmの遠心分離に25分間かけて収集し、エタノールですばやく2回すすいだ。その後、粒子を200mLの脱イオン水中に移し、温度50℃で2時間洗浄した。最終的に、HSNが形成され、遠心分離によって収集し、エタノールで2回洗った。生成物(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17)を99.5%エタノールに分散して保存した。
【0068】
実施例1E:対照群であるアスパラギナーゼを含まない中空シリカナノ粒子(PEG修飾HSN19)は、水相にアスパラギナーゼを含まないこと以外は、上記実施例1Dと同様の手順で提供された。
【0069】
実施例1F:PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN11
N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル)]-トリメチルアンモニウムクロリドによってTA-トリメトキシシラン表面修飾されたシリカナノ粒子の調製を以下に示す。20mLのデカン(油相)と、3.5mLのCO-520(界面活性剤)と、1.1mLのヘキシルアルコール(任意の共活性剤)とを混合した。その後、669.5μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む水350μL(生物活性成分を含む水相としての)を混合物に添加した。2分後、25μLのN-[3-(トリメトキシシリル)プロピル)]-トリメチルアンモニウムクロリド(TA-トリメトキシシラン,95%)をマイクロエマルションに導入した。その後、200μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)25μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で撹拌した。(APTMSエタノール溶液は、1.4mLのエタノールに200μLのAPTMSを溶解させたものから用いた)。15分後、(反応開始剤としての)500μLのNHOH(28~30重量パーセント)をマイクロエマルションに滴下し、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源の加水分解を開始し、2時間でシリカナノコアを形成した。その後、アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源を加水分解した後に、25μLのN-[3-(トリメトキシシリル)プロピル)]-トリメチルアンモニウムクロリド(TA-トリメトキシシラン,95%)を導入し、2時間撹拌した。その後、(669.5μgのPEG修飾アスパラギナーゼを含む、水相としての)水350μLをマイクロエマルションにゆっくり添加した。さらに10分後、300μLのTEOSと、(アルコキシシランおよび/またはケイ酸塩源としての)100μLのAPTMSエタノール溶液とをマイクロエマルションに添加し、マイクロエマルションを温度20℃で12時間撹拌することにより、シリカナノコアを囲む第2のシリカ層を形成した。その後、500μLのPEG-トリメトキシシラン、および、50μLのTEOSをそれらの両方に添加することにより、粒子の外面を修飾した。24時間後、95%エタノールを用いて、マイクロエマルション系を不安定化した。粒子を15,500rpmの遠心分離に25分間かけて収集し、エタノールですばやく2回すすいだ。その後、粒子を200mLの脱イオン水中に移し、50℃で2時間洗浄した。最終的に、HSNが形成され、遠心分離によって収集し、エタノールで2回洗った。生成物(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN11)を99.5%エタノールに分散して保存した。PEG修飾アスパラギナーゼは、内層と外層との間の空間だけでなく、内層内の空間にも内包された。
【0070】
異なる洗浄条件を用いることにより、生物活性薬剤を内包し、単層を有するPEG修飾HSNも調製された。
【0071】
これらの合成手順によって得られる粒子の製品収量は、それぞれ、20mLの油に対して約100mgであった。
【0072】
[実施例2]
[TEMおよびDLSの測定]
実施例1で合成したような中空シリカナノ粒子をTEM測定にかけ、結果を図1に示した。それぞれの層が閉じた中空空間を形成するニ層の中空シリカナノ粒子が調製され得たことがわかる。粒径、および、その標準偏差を以下の表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
TEM測定の結果は、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN10、11、15、および、17は、約60~95nmの平均粒径を有し、粒径の標準偏差が小さいことを示唆しており、これは、本開示の粒子の均一性、および、調製方法の優位性を表している。
【0075】
異なる溶液環境において動的光散乱法(DLS)によって測定された中空シリカナノ粒子の粒径を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
DLSによる測定の結果は、PEG修飾HSN18、19、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN10、11、15は、血清含有培地中に約60~110nmの範囲内で分散し得ることを示し、これは、細胞内への取り込みに非常に適していると考えられる。PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17の粒径が大きくなっており、これは、表面修飾によって粒子のゼータ電位が上昇したことによるものかもしれないが、細胞内への取り込みには支障ないサイズである。
【0078】
[窒素吸着等温線、および、BET表面積]
図2は、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17の窒素吸着等温線を示す。これらの等温線によれば、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15のBET表面積は、117.40m/gであり、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17のBET表面積は、120.00m/gであることが分かる。
【0079】
[実施例3]
シリカナノ粒子の潜在的な治療効果を評価すべく、上記手順によって遊離アスパラギナーゼ、および、シリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼの酵素活性を測定した。
【0080】
図3の(A)は、遊離アスパラギナーゼ、および、PEG修飾アスパラギナーゼの酵素活性の測定結果を示す。遊離アスパラギナーゼ、および、修飾アスパラギナーゼは、同様の酵素活性を示した。これは、水溶性、および、PEG修飾アスパラギナーゼとケイ酸塩源との間の結合の確率を高めるためにアスパラギナーゼを表面修飾してもアスパラギナーゼの活性に影響しないことを意味している。
【0081】
図3の(B)は、PEG修飾アスパラギナーゼ、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17の酵素活性の結果を示す。PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17の酵素活性は、10分間または1時間の測定でも遊離アスパラギナーゼの酵素活性と同様であることが観察された。これらの結果は、HSNに内包されたアスパラギナーゼの活性は、あまり変化せず、このことは、治療中の酵素活性の発現におけるシリカナノ粒子の有効性を保証する。
【0082】
[実施例4]
[トリプシン耐性アッセイ]
従来知られているように、アスパラギナーゼによる治療の副作用の1つとして急性膵炎があり、膵臓からトリプシンが分泌されるので、血中トリプシンを増加させる。したがって、アスパラギナーゼは、トリプシンに容易に分解されてしまう。本開示のシリカナノ粒子が、本開示のシリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼをトリプシン分解から保護する効果を決定すべく、遊離アスパラギナーゼ、または、シリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼをトリプシン消化に供し、その後のアスパラギナーゼの活性をアスパラギナーゼ活性アッセイによって決定した。このようにして、アスパラギナーゼを内包したシリカナノ粒子の保護効果を評価すべく、トリプシン耐性試験を行った。
【0083】
0.8Uのアスパラギナーゼをそれぞれが含む遊離アスパラギナーゼ、および、PEG修飾HSNに内包されたアスパラギナーゼを遠心分離にかけ、200μLのトリス緩衝液(0.05M、pH8.6)中に分散させ、トリプシンと混合(NaHPO緩衝液中に40μLあたり1.5U)し、温度37度で2時間トリプシン消化を行った。トリプシン消化の後、サンプルにおけるアスパラギナーゼの活性をアスパラギナーゼ活性アッセイによって決定した。
【0084】
以下の群に対してトリプシン耐性アッセイを行った。遊離アスパラギナーゼ;TA修飾しない二層PEG修飾HSNに内包されたPEG-トリメトキシシラン修飾アスパラギナーゼ(PEG修飾アスパラギナーゼ)(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15);TA修飾した二層PEG修飾HSNに内包されたPEG-トリメトキシシラン修飾アスパラギナーゼ(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17)。すべての群は、0.8Uのアスパラギナーゼを含む。対照群(トリプシン消化されていない遊離アスパラギナーゼ)と比較した各群の相対的なアスパラギナーゼ活性が決定された。結果は、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15、および、17のどちらも6時間以内に約100%の相対活量に達した。一方、トリプシン消化の後の遊離アスパラギナーゼは、8時間以内に10%の相対活量にしか達することができなかった。上記を踏まえると、二層シリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼは、遊離アスパラギナーゼよりもトリプシン消化に対する耐性がある。この結果は、本開示のシリカナノ粒子は、内包したタンパク質/酵素をプロテアーゼ分解から保護する優れた効果をもたらし得ることを示した。
【0085】
[実施例5]
従来知られているように、L-アスパラギンが枯渇すると、腫瘍細胞(急性白血病細胞など)におけるタンパク質合成の阻害を招き、結果として細胞死をもたらす。シリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼの細胞毒性を、以下の実験によって試験した。
【0086】
[細胞培養]
MOLT-4細胞およびJurkat細胞(どちらもヒト急性リンパ性白血病懸濁細胞株であり、バイオリソース・コレクション・アンド・リサーチ・センター(台湾)から入手した)、4T1(他の研究所から寄贈されたマウス乳腺がん細胞株;この腫瘍は、ステージIVのヒト乳がんである)、および、A549(他の研究所から寄贈されたヒト肺がん細胞株)を10%のウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640培地で培養した。バイオリソース・コレクション・アンド・リサーチ・センター(台湾)から入手したBxPc-3(ヒト膵臓がん細胞株)を、温度37℃、湿度5%の二酸化炭素雰囲気下、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、および、10%のウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640培地で培養した。上記した培地は、すべて、100U/mLのペニシリン、および、100μg/mLのストレプトマイシンを含んでいる。懸濁した細胞の密集度が約60~70%に達したときに、二次培養のために採取した。
【0087】
[細胞毒性アッセイ(WST-1アッセイ)]
この実験では、白血病細胞株(MOLT-4、および、Jurkat)、乳がん細胞株(4T1)、および、膵臓がん細胞株(BxPc-3)を、0.4U/mL、0.4U/mL、0.2U/mL、または、1U/mLのアスパラギナーゼを含む遊離アスパラギナーゼ、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17で処理した。PEG修飾HSN18および19は、対照群(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17の対照群であってアスパラギナーゼを内包しないもの)として処理した。特に、急性白血病細胞株(MOLT-4、および、Jurkat)の各ウェル4×10個の細胞、および、4T1細胞株の各ウェル2×10個の細胞を24ウェルプレートに播種し、上記の群で24または72時間処理した。膵臓がん細胞株(BxPc-3)の各ウェル4×10個の細胞を96ウェルプレートに播種し、上記の群で48時間処理した。その後、WST-1試薬(クロンテック)を用いて細胞を温度37℃で30分間培養し、450nmでの吸光度を測定し、マイクロプレートリーダー(バイオラッド、モデル680)を用いて、生細胞により生成された黄色ホルマザン色素を検出した。何も処理を施さない細胞は、細胞生存率100%の対照として用いた。図4に示すように、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17は、いずれも、遊離アスパラギナーゼに匹敵する、MOLT-4白血病細胞株に対する優れた細胞毒性を示した。結果は、アスパラギナーゼがシリカナノ粒子に内包されても、アスパラギナーゼの生物活性にあまり影響しないということを示している。さらに、PEG修飾HSN18および19は、いずれも明らかな細胞毒性を示さなかったので、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17の細胞毒性は、アスパラギナーゼのみに起因すると考えられる。MOLT-4白血病細胞株に加えて、Jurkat白血病細胞株、4T1乳がん細胞株、および、BxPc-3膵臓がん細胞株の毒性アッセイも行った。結果は、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17のいずれも、これらのがん細胞株に対する細胞毒性を示した。
【0088】
[実施例6]
[細胞内取り込みアッセイ]
MOLT-4およびA549細胞内へのシリカナノ粒子の取り込み効率をFACS Caliburフローサイトメトリー(BDバイオサイエンス)により決定した。ナノシリカ粒子内のアスパラギナーゼに結合した赤色発光フルオレセイン色素(ローダミンBイソチオシアナート;RITC)は、粒子の細胞内への取り込み効率を量的に決定するマーカーとして機能した。MOLT-4およびA549細胞の細胞培養条件は、実施例5の記載と同じである。特に、各ウェル1×10個のMOLT-4細胞、または、各ウェル2×10個のA549細胞を6ウェルプレートに播種し、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17(0.9mg粒子/mL)によって血清含有培地で24時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、採取し、遠心分離にかけ、その蛍光シグナルを検出すべく、フローサイトメトリー分析を行った。蛍光シグナルを有する細胞の、総細胞数に対する比率によって、細胞内取り込み率を計算した。平均蛍光強度(MFI)は、蛍光シグナルを有する細胞の蛍光強度の平均値である。図5の(A)に示すように、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17のいずれも、MOLT-4白血病細胞株における良好な細胞内取り込み効率を示し、TA-トリメトキシシランで修飾したPEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17のほうがより高かった。学説にとらわれることなく、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17はTA修飾によってプラスに帯電するので、シリカナノ粒子は、より簡単に細胞に取り込まれるようになった。結果は、細胞内への取り込み効率などの特性を調整するために、シリカナノ粒子へのさまざまな修飾が用いられ得ることを示している。図5の(B)に示すように、2つの群の平均蛍光強度(MFI)は、同様である。PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17は、MOLT-4白血病細胞株だけでなく、A549肺がん細胞株(固形腫瘍細胞株)にも取り込まれ得ることが判明した。
【0089】
[実施例7]
[アポトーシスアッセイ]
アポトーシスのレベルにおけるアスパラギナーゼを用いた治療効果を調査すべく、1×10個のMOLT-4細胞(MOLT-4細胞の細胞培養条件は、実施例2の記載と同様)を6ウェルプレートに播種し、遊離アスパラギナーゼと、0.4U/mLのアスパラギナーゼを含むPEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17と、PEG修飾HSN18および19(PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17の対照群であってアスパラギナーゼを内包しないもの)とによって血清含有培地において温度37℃で24時間処理した。細胞を遠心分離(400g、10分、4℃)にかけて採取し、PBSで洗浄し、4’6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI、1μg/mL)で10分間染色し、PBSで再び洗浄し、6ウェルプレートにおいて1mLのPBSに再懸濁した。倒立蛍光顕微鏡(オリンパス、倍率40倍、紫外線励起用水銀ランプ)によって、細胞の(DNA断片化による)核形態の変化、および、アトポーシス小体を観察した。図6に示すように、遊離アスパラギナーゼ(d)、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15(e)、および、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17(f)で処理されたMOLT-4細胞は、アポトーシスシグナルを示した。結果は、本開示のシリカナノ粒子に内包されたアスパラギナーゼは、遊離アスパラギナーゼと同様に、アポトーシスを引き起こす効力があることを示した。
【0090】
[実施例8]
[シリカナノ粒子の循環からの除去]
PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN(アスパラギナーゼに結合したRITCを有する)をマウスに循環させてその除去率を調べた。特に、4T1腫瘍を有するBALB/cヌードマウス(8週齢)に(PBSに溶解した30mg/mLの)PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17を静脈注射した。マウスの耳の血管を二光子顕微鏡法により観察し、注射後10分、30分、60分、120分の実時間画像を撮影した。図7に示すように、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15の蛍光シグナルは、非常にゆっくり減衰した(図7の上段に示すように、注射後120分を経ても信号はまだ検出できた)。一方、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17の蛍光シグナルは(図7の下段に示すように)、同じ時点においてかなり弱かった。より長い循環時間は、より長い血中半減期を示す。結果は、プラスに帯電したPEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17(TA-トリメトキシシランで修飾した)は、より簡単に血中から除去されることを示唆している。このことにより、TA修飾のような修飾は、血液中のシリカナノ粒子の半減期を調整するために用いられ得ることが推察できる。さらに、血中循環時間が異なるにも関わらず、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17のいずれもよく分散し、血中での明らかな凝集は見られなかった。これは、シリカナノ粒子の生体内での優れた安定性を示唆している。
【0091】
[実施例9]
[体内分布アッセイ]
腫瘍を有するBALB/cヌードマウス(9週齢)に(PBSに溶解した30mg/mLの)PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15および17を静脈注射した。注射の24時間後に、主要臓器(心臓、肺、脾臓、肝臓、および、腎臓を含む)、腫瘍、尿、血液におけるシリカナノ粒子の体内分布をIVIS蛍光イメージングシステム(Lumina)によって観察した。図8に示すように、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15(上段)、およびPEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17(下段)は、主に、肝臓だけでなく、腫瘍内にも閉じ込められた。どちらのナノ粒子も腎臓に見られるが、尿および血液中には目立った信号は見られなかった。結果は、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15は、腫瘍組織内により簡単に閉じ込められ、生物活性成分を腫瘍に届けるより有効な方法をもたらすことを示している。また、PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN15は、ナノ粒子が腫瘍に蓄積されたままでいるよう、ナノ粒子への優れたEPR効果を示した。PEG修飾アスパラギナーゼ内包PEG修飾HSN17が腫瘍にあまり蓄積しないのは、循環からの除去が速いためであると思われる。結果は、シリカナノ粒子の体内分布プロフィールを調整するために、TA修飾のような修飾が用いられ得ることを示唆している。
【0092】
当業者であれば、本願の趣旨および範囲から逸脱せずに、本発明の開示および教示にさまざまな変更および修正が可能であることを理解できよう。上記内容に基づき、本願は、添付の請求項およびその均等物において定義された範囲に収まる限り、いかなる変更および修正も含むものと意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8