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特許7075653αヘルペスウイルス感染を処置する方法及び医薬組成物
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  • 特許-αヘルペスウイルス感染を処置する方法及び医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】αヘルペスウイルス感染を処置する方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220519BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220519BHJP
   C12N 7/06 20060101ALN20220519BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A61K31/7088
A61K48/00
A61P31/22
A61K35/76
C12N7/06
C12N9/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018019505
(22)【出願日】2018-02-06
(65)【公開番号】P2019135930
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第160回日本獣医学会学術集会講演要旨集第377頁
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】田中 聖一
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-513060(JP,A)
【文献】特表2003-530369(JP,A)
【文献】XU X. et al.,Virology Journal,2016年,13:108,DOI 10.1186/s12985-016-0563-x
【文献】STRELOW L. I. et al.,J. Virol.,1995年,Vol.69 No.11,pp.6779-6786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 48/00
A61K 31/33-33/44
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00-7/08
C12N 9/00-9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列およびCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を含む第一の遺伝子を、ヒトを除くウイルス宿主の細胞内に導入することと、
該細胞内のUL41遺伝子を、該ガイドRNAの存在下に該Cas9ヌクレアーゼで切断することと、
を含み、
前記UL41遺伝子に特異的な配列が、配列番号2、5、6および8から11のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を含む、αヘルペスウイルス感染を処置する方法。
【請求項2】
前記ウイルス宿主におけるαヘルペスウイルスの増殖を抑制する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルス宿主が、αヘルペスウイルスが潜伏感染している動物であり、潜伏αヘルペスウイルスの再活性化を抑制する請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の遺伝子が、ベクターに組み込まれている請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の遺伝子が、改変ウイルスに組み込まれている請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記UL41遺伝子に特異的な配列が、配列番号2、5および8から11のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を含む請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
配列番号13、16、17および19から22のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を有するガイドRNA。
【請求項8】
配列番号13、16および19から22のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を有する請求項7に記載のガイドRNA。
【請求項9】
Cas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列と、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列とを有し、
前記ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号2、5、6および8から11のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸分子。
【請求項10】
前記ガイドRNAをコードする塩基配列が、配列番号2、5および8から11のいずれかの塩基配列を含む請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
請求項9または10に記載の核酸分子を含む医薬組成物。
【請求項12】
αヘルペスウイルス感染の処置に用いられる請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、αヘルペスウイルス感染を処置する方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ウイルス感染に対する抗ウイルス処置の標的は、ウイルスの複製サイクルの阻止を目的とし、ウイルスのタンパク質が標的となっている。一方、宿主細胞から潜伏感染したウイルスを根絶するための有効な処置は未だ存在していない。潜伏ウイルスによる潜伏感染においては、宿主の免疫作用が回避され、任意の時点でウイルスが再活性化されるため、宿主の生涯にわたる持続的なリスクとなる。潜伏性ウイルスの一例としては、ヘルペスウイルスが挙げられ、ヘルペスウイルスは最も蔓延している病原体の1つである。
【0003】
豚の神経疾患であるオーエスキー病の病原体であるブタヘルペスウイルス1型、水疱瘡の病原体である水痘-帯状疱疹ウイルスなどのαヘルペスに対する現行ワクチンは、いずれも発症予防を目的とするものであり、ウイルスの潜伏感染およびその後の再活性化を防ぐことはできず、疾病の根絶には繋がらない。例えば、特許文献1には、ガイドされたヌクレアーゼシステムを用いてウイルス感染を選択的に処置するための組成物及び方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-518075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物及び方法では、ヘルペスウイルスの潜伏感染を完全に防ぐことは困難であり、ひとたび潜伏感染が成立するとウイルスの再活性化を抑制することは困難であった。本発明の一態様は、宿主に潜伏感染したαヘルペスウイルスの再活性化を抑制可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列およびCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を含む第一の遺伝子を、ウイルス宿主の細胞内に導入することと、該細胞内のUL41遺伝子を、該ガイドRNAの存在下に該Cas9ヌクレアーゼで切断することを含む、αヘルペスウイルス感染を処置する方法である。
【0007】
前記方法は、ウイルス宿主におけるαヘルペスウイルスの増殖を抑制する方法であってもよく、αヘルペスウイルスが潜伏感染しているウイルス宿主における潜伏αヘルペスウイルスの再活性化を抑制する方法であってもよい。また前記第一の遺伝子は、ベクターに組み込まれていてもよく、改変ウイルスに組み込まれていてもよい。また前記UL41遺伝子に特異的な配列は、配列番号2から11のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を含んでいてもよい。
【0008】
第二態様は、配列番号13から22のいずれかの塩基配列に相補的な塩基配列を有するガイドRNAである。
【0009】
第三態様は、配列番号13から22のいずれかの塩基配列を含む核酸分子である。
【0010】
第四態様は、Cas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列と、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列とを有する核酸分子である。前記ガイドRNAをコードする塩基配列は、配列番号2から11のいずれかの塩基配列を含んでいてもよい。
【0011】
第五態様は、前記核酸分子を含む医薬組成物である。前記医薬組成物は、αヘルペスウイルス感染の処置に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、宿主に潜伏感染したαヘルペスウイルスの再活性化を抑制可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】プラスミドの構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
αヘルペスウイルス感染の処置方法
αヘルペスウイルス感染の処置方法は、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列およびCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を含む第一の遺伝子を、ウイルス宿主の細胞内に導入することと、該細胞内のUL41遺伝子を、該ガイドRNAの存在下に該Cas9ヌクレアーゼで切断することと、を含む。導入された第一の遺伝子によってガイドRNAおよびCas9ヌクレアーゼがウイルス宿主の細胞内で発現することで、例えば、αヘルペスウイルスの活性化の初期に発現するUL41遺伝子を選択的に破壊することができる。これにより、ウイルス宿主におけるαヘルペスウイルスの増殖を抑制することができる。また、αヘルペスウイルスが潜伏感染しているウイルス宿主における潜伏αヘルペスウイルスの再活性化を抑制することができる。
【0015】
αヘルペスウイルス感染の処置方法は、感染に対して施される何らかの処置であればよく、例えば、発症の予防、感染症の治療、改善及び進行の抑制(悪化の防止)、潜伏感染における再活性化の抑制等が挙げられる。
【0016】
処置方法の対象となるαヘルペスウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス(Human herpesvirus 1, Herpes simplex virus 1;HSV-1、Human herpesvirus 2, Herpes simplex virus 2;HSV-2)、水痘-帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)、ブタヘルペスウイルス1型(Suid herpesvirus 1:Pseudorabies virus;PRV)、ヒヒヘルペスウイルス2型(Papiine herpesvirus 2)、オナガザルヘルペスウイルス16型(Cercopithecine herpesvirus 16)、Bウイルス(Macacine herpesvirus 1,Cercopithecine herpesvirus 1)、ウマヘルペスウイルス1型(Equid herpesvirus 1)、ウシヘルペスウイルス1型(Bovine herpesvirus 1)、ウシヘルペスウイルス2型(Bovine herpesvirus 2)等を挙げることができる。
【0017】
αヘルペスウイルスにおけるUL41遺伝子は、例えば、J.Vet.Med.Sci. 72(9):1179-1187,2010等に記載されているように、種々のαヘルペスウイルス株間においてよく保存されており、その遺伝子産物は宿主細胞のタンパク質合成を阻害することが知られている。本発明者らは、αヘルペスウイルスの一種であるPRVの潜伏感染における再活性化機構を解析した結果、再活性化の初期にUL41遺伝子が発現することを見出した。この新たな知見を元に、宿主細胞におけるUL41遺伝子の発現を選択的に抑制することで、宿主に潜伏感染したαヘルペスウイルスの再活性化を抑制する方法の開発に成功した。UL41遺伝子は、種々のαヘルペスウイルス株間における保存性が高いことから、特に相同性の高い配列を標的とすることで、汎用性の高いαヘルペスウイルス感染の処置方法が実現できる。
【0018】
UL41遺伝子の塩基配列の具体例としては、例えば、PRV野生株YS-81に由来するUL41遺伝子の塩基配列(配列番号1)等を挙げることができる。
【0019】
【表1】
【0020】
PRV野生株YS-81に由来するUL41遺伝子に対する、他株のUL41遺伝子の相同性は、例えば、ブタヘルペスウイルスにおいては93%以上であり、サルヘルペスウイルスにおいては74%以上、ウマヘルペスウイルスにおいては70%以上、ウシヘルペスウイルスにおいては76%以上、ヒトヘルペスウイルスにおいても70%以上を示す。なお、遺伝子の相同性は、BLASTプログラムを用いて算出される。
【0021】
本実施態様の処置方法では、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な配列を有するガイドRNAをコードする塩基配列およびCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を有する第一の遺伝子を、ウイルス宿主の細胞内に導入する。ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼを用いて標的遺伝子を切断する方法は、CRISPER-Cas9システムとして知られている。CRISPER-Cas9システムでは、任意のゲノム位置におけるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の上流で配列特異的にDNAを切断するため、短鎖のガイドRNA(gRNA)と、それと複合体化するCas9ヌクレアーゼを利用する。CRISPER-Cas9システムの詳細については、例えば、Cell.Res.23:465-472,2013;Nat.Biotechnol.31:227-229,2013;Nucl.Acids Res.1-11,2013、特開2016-093196号公報等を参照することができる。
【0022】
野生型のCas9ヌクレアーゼは、標的遺伝子の少なくとも2箇所において2本鎖切断を引き起こす。これにより、例えば非相同性末端結合(NHEJ)によって標的遺伝子に小さな挿入欠損が導入されて、標的遺伝子であるUL41遺伝子の発現を抑制することができる。Cas9ヌクレアーゼは、野生型を用いてもよいし、変異型を用いてもよい。
【0023】
ガイドRNAは、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な塩基配列と、さらにCas9ヌクレアーゼをリクルートするのに必要な塩基配列、例えば足場(Scaffold)機能を有する塩基配列とを有する。ガイドRNAがUL41遺伝子に特異的な塩基配列を有することで、UL41遺伝子の特定部位にCas9ヌクレアーゼをリクルートすることができる。リクルートされたCas9ヌクレアーゼによりUL41遺伝子が配列特異的に切断されて、UL41遺伝子の発現が抑制される。
【0024】
UL41遺伝子に特異的な配列とは、UL41遺伝子の対応する塩基配列に対して相補的な塩基配列である。具体的には、UL41遺伝子の塩基配列におけるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列から5’末端側への、例えば20塩基分の塩基配列に相補的な塩基配列を挙げることができる。すなわち、ガイドRNAの3’末端側の20塩基分の塩基配列は、標的遺伝子であるUL41遺伝子の標的位置である塩基配列を特異的に認識し、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前に位置するDNA標的部位へ、RNA-DNA塩基対形成を介してCas9/ガイドRNA複合体をリクルートする。
【0025】
UL41遺伝子に特異的な配列は、UL41遺伝子の塩基配列からPAM配列を検索して選択し、選択されたPAM配列に基づいて決定することができる。UL41遺伝子に特異的な配列は、具体的には、選択されたPAM配列から5’末端側への、例えば20塩基分の塩基配列に相補的な塩基配列とすることができる。選択されるPAM配列としては、UL41遺伝子の発現を抑制できるPAM配列であれば、いずれを選択してもよく、中でもUL41遺伝子の上流側(例えば、5’側から300塩基前後)に位置するPAM配列を選択することが好ましい。またPAM配列は、例えば、配列番号1の塩基配列から選択されてもよいし、配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列から選択されてもよい。
【0026】
ガイドRNAにおけるUL41遺伝子に特異的な配列の認識対象となるUL41遺伝子の塩基配列の具体例としては、例えば下表に示すPRVvhs(配列番号2)、PRVvhs11(配列番号3)、PRVvhs26(配列番号4)、PRVvhs34(配列番号5)、PRVvhs41(配列番号6)、PRVvhs51(配列番号7)、PRVvhs61(配列番号8)、PRVvhs81(配列番号9)、PRVvhs93(配列番号10)、PRVvhs103(配列番号11)等を挙げることができる。中でもPRVvhs、PRVvhs34、PRVvhs41、PRVvhs61、PRVvhs81、PRVvhs93、及びPRVvhs103からなる群から選択される少なくとも1つが好ましく、PRVvhs、PRVvhs34、PRVvhs61、PRVvhs81、PRVvhs93及びPRVvhs103からなる群から選択される少なくとも1つがより好ましい。
【0027】
【表2】
【0028】
ガイドRNAは、UL41遺伝子に特異的な塩基配列に加えて、好ましくは足場配列を含む。足場配列をコードする塩基配列としては、例えば以下の塩基配列を挙げることができる。
【0029】
【表3】
【0030】
したがってガイドRNAをコードする塩基配列の具体例としては、以下に示す塩基配列が挙げられる。
【0031】
【表4】
【0032】
第一の遺伝子が含むガイドRNAをコードする塩基配列としては、ガイドRNAの塩基配列に相補的な塩基配列を用いることができる。またCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列としては、Cas9ヌクレアーゼ遺伝子が組み込まれた市販のベクター等(例えば、pGuide-it-ZsGreen1 Vector(Linear):タカラバイオ社製等)に含まれる塩基配列を用いることができる。第一の遺伝子は、例えば、Cas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列が組み込まれたベクターに、ガイドRNAをコードする塩基配列を有する遺伝子を組み込むことで容易に構築することができる。これにより、同一の核酸分子上にガイドRNAをコードする塩基配列及びCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を有する第一の遺伝子が得られる。またガイドRNAをコードする塩基配列及びCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列は異なる核酸分子上に存在してもよい。
【0033】
第一の遺伝子が導入されるウイルス宿主には、αヘルペスウイルスが感染し得る動物、αヘルペスウイルスに感染し発症している動物、αヘルペスウイルスが潜伏感染している動物等が含まれる。また動物には哺乳動物が含まれ、哺乳動物にはヒトが含まれる。
【0034】
ウイルス宿主の細胞内への第一の遺伝子の導入は、非ウイルスベクター及びウイルスベクターを含む当該技術分野において公知である様々な方法によって行うことができる。非ウイルスベクターによる方法には、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、人工ビリオン等が挙げられ、いずれも公知の方法から適宜選択すればよい。
【0035】
ウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等の通常用いられるウイルスベクターに加えて、αヘルペスウイルスを用いることができる。ウイルスベクターを用いる方法は、ウイルスに第一の遺伝子を発現可能に組み込んだ改変ウイルスを構築することで行うことができる。例えば、αヘルペスウイルスを用いる場合、UL41遺伝子の領域に第一の遺伝子を組み換えることで改変ウイルスを構築することができる。具体的には例えば、サムブロックら(J. Sambrook et al., 1989, Molecular cloning: a laboratory manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Press)によって記載されている公知の遺伝子操作技術ならびに細胞工学技術によって行うことができる。
【0036】
ガイドRNA
本発明の別の態様は、αウイルス感染を処置する方法に用いられるガイドRNAである。ガイドRNAは、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子に特異的な塩基配列と、Cas9ヌクレアーゼの標的部位へのリクルートを可能にする塩基配列とを有して構成される。ガイドRNAの具体例としては、配列番号13から22のいずれかの塩基配列でコードされる核酸分子(例えば、RNA)を挙げることができる。
【0037】
核酸分子
本発明の別の態様は、前記ガイドRNAをコードする塩基配列を含む核酸分子である。当該核酸分子は、ガイドRNAをコードする塩基配列に加えてCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を含んでいてもよく、さらに必要に応じてこれらの遺伝子を効率的に発現させるのに必要なプロモーター等の遺伝子群を含んでいてもよい。
【0038】
本発明に係るαヘルペスウイルス感染を処置する方法は、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子の発現を抑制することで、ウイルスの増殖を抑制とそれによる初感染における発症防御、並びに潜伏ウイルスの再活性化をも抑制するという利点を有する。本方法に用いられる非ウイルスベクターまたはウイルスベクターは、一次投与によってαヘルペスウイルス感染症の発症を抑制することができる。さらに二次投与によって潜伏感染したαヘルペスウイルスの再活性化を抑制することができる。
【0039】
ところでαヘルペスウイルス感染を処置する方法は、αヘルペスウイルスのUL41遺伝子の発現を抑制する方法であれば、Crisper-Cas9システム以外のヌクレアーゼシステムを適用して実施することもできる。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ等を適用して実施することもできる。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
YS-81 UL41遺伝子のクローニング及び塩基配列決定
PRV野外株YS-81ゲノムを鋳型とし、以下に示すプライマー(配列番号23及び24)を用い、94℃×30秒、55℃×30秒、72℃×1分のサイクルを45サイクルのPCRにより、UL41遺伝子を増幅し、pTA2クローニングベクターにダイレクトクローニングした。得られたベクターについて、北海道システムサイエンス社にシークエンスを依頼し、全塩基配列を決定した。決定された塩基配列は、配列番号1として示される塩基配列であった。
【0042】
【表5】
【0043】
pGuide-it-ZsGreen1ベクターの構築
UL41の塩基配列の情報を元にPAM配列を検索し、ガイドRNA(sgRNA)のUL41遺伝子に特異的な配列(以下、ガイド配列ともいう)に対応するUL41遺伝子の塩基配列として以下のPRVvhs配列(配列番号2)を選択した。選択した塩基配列を有するオリゴDNAをシグマ-アルドリッチ社に依頼して合成し、得られたオリゴDNAをpGuide-it-ZsGreen1プラスミドベクター(タカラバイオ社製)にクローニングして、ガイドRNA及びCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を有するプラスミド(pGuide-itCRISPR/Cas9 YSvhs;以下、単に「YSvhs」ともいう)を作製した。得られたプラスミドの構成図を図1に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
同様にして、ガイド配列に対応するUL41遺伝子の塩基配列として下表に示す塩基配列(配列番号3から11)を有するプラスミド(YSvhs11からYSvhs103)をそれぞれ作製した。
【0046】
【表7】
【0047】
プラーク抑制試験
上記で得られたプラスミド1μg/穴をjetPRIME4μlと専用バッファー100μlに混和して、6穴プレートに1×10cellsで播種したブタ腎臓細胞PK-15に接種して、プラスミドを導入した。37℃、5%CO下で24時間培養後に、YS-81 100PFU/穴を接種し、培養5日後にクリスタルバイオレット添加10%ホルマリン溶液で染色して現れたプラークの数を計測した。コントロールとしては、ガイド配列を組み込んでいないpGuide-it-ZsGreen1プラスミドを用いた。結果を下表に示す。なお、プラーク数が少ないほどYS-81に対する抑制効果が大きいことを意味する。
【0048】
【表8】
【0049】
表8から、ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼをコードする塩基配列を有するプラスミドを、ブタ腎臓細胞PK-15に導入しておくことで、YS-81の増殖が抑制されることがわかる。
【0050】
潜伏感染モデルマウスの作製
4週齢Balb/cマウスの腹腔内に、PBS(-)を用いて1:128相当に希釈したブタ抗ウイルス血清を0.25ml前投与した。30分後に同じくPBS(-)で10LD50相当に希釈した野外ウイルスYS-81 0.5mlで腹腔内に投与して攻撃した。攻撃から2カ月以上生残したマウスを潜伏感染モデルマウスとして使用した。
【0051】
脳室内投与による潜伏PRV再活性化抑制試験
潜伏感染モデルマウスの脳内に、プラスミド(pGuide-itCRISPR/Cas9 YSvhs)1μgをTransIT-Neural100μlに混和して接種した。24時間後に塩化アセチルコリン腹腔内接種により潜伏ウイルスの再活性化を行った。以下のようにして、継日的に鼻腔スワブを採取してPCRによりウイルスDNAの検出を行った。
【0052】
鼻腔スワブは、三種混合麻酔(メデトミジン0.3mg/kg、ミダゾラム4mg/kg、ブトルファノール5mg/kg)下で、右鼻孔からMEM培養液100μlを、マイクロピペットを用いて流入させ、洗浄液を綿棒で採取してMEM培養液300μlに混和し、これを鼻腔スワブとした。得られた鼻腔スワブのサンプルは、2倍量のISOGEN(LS)(和光純薬社製)に混和し、キットのプロトコールに従ってDNAを抽出した。
【0053】
ウイルスDNAの検出として、抽出したDNAを鋳型としてgG遺伝子に対するPCR反応を行った。下表に示すプライマーを用い、プログラムは94℃×2分、94℃×1分、56℃×1分、及び72℃×2分のサイクルを30サイクル行い、72℃×7分で伸展させた。増幅産物について1.0%アガロースを用いた電気泳動法により531bpの特異バンドの有無を確認した。結果を表10に示す。なお、表中のMockは、潜伏感染していないBalb/cマウスを意味する。
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
表10から、ガイドRNAとCas9ヌクレアーゼをコードするプラスミドを脳内に接種することで、潜伏感染モデルマウスに再活性化刺激を与えてもウイルスを排泄しないことが分かる。すなわち、プラスミド接種により、潜伏感染モデルマウスにおけるウイルスの再活性化が抑制されることが分かる。なお、χ検定の結果はp=0.005613であった。
図1
【配列表】
0007075653000001.app