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  • 特許-線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置 図1
  • 特許-線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置 図2
  • 特許-線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置 図3
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  • 特許-線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/50 20060101AFI20220519BHJP
   H05H 1/26 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
C23C16/50
H05H1/26
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019512615
(86)(22)【出願日】2017-09-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017072635
(87)【国際公開番号】W WO2018050562
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】93222
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】518008275
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティトゥート オブ サイエンス アンド テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ビュロウ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ショケ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ゴーラン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド,マシュー
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012104224(DE,A1)
【文献】特表2012-528452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0236374(US,A1)
【文献】特開2008-028231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0063966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の基材(4)用の放電後プラズマ被覆装置(2)であって、
作業方向(30)に軸線方向に移動する前記基材(4)と前駆物質(8)とを受け入れる内側の筒状の壁(3)上の内側の筒状の電極(6)と、
前記内側の電極(6)と同軸で、それを囲んでいる外側の筒状の電極(10)と、
を有し、
前記内側及び外側の電極(6、10)は、プラズマ気体(12)が前記電極の間に供給され、それによって励起されたときにプラズマを生成するように電源が供給されるように構成されており、プラズマ励起気体(19)は、前記作業方向(30)に軸線方向に流れ、前記内側の筒状の壁(3)の前記方向(30)の端部の被覆領域(16)で前記前駆物質(8)と反応し、
前記内側の筒状の電極(6)は、少なくとも前記外側の電極(10)の端部まで、好ましくはそれを超えて、前記被覆領域(16)に向けて、前記作業方向(30)に軸線方向に延びていることと、少なくとも1個の誘電性の筒状の壁(14)が前記内側の電極(6)と前記外側の電極(10)との間を軸線方向に延びていることとを特徴とする、
放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項2】
前記被覆領域(16)は、前記プラズマ励起気体(19)が前記基材(4)に直接接触できるようになっている、請求項1に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項3】
前記被覆領域(16)は、前記内側の筒状の壁(3)に直接隣接している、請求項1または2に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項4】
少なくとも1個の誘電性の筒状の壁が前記外側の電極(10)を超えて前記作業方向(30)に軸線方向に延びている、請求項1から3のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項5】
前記内側の筒状の電極(6)は、前記内側の筒状の壁(3)を囲んでいる請求項1から4のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項6】
前記内側の筒状の電極(6)は、前記内側の筒状の壁(3)の一部分に沿って軸線方向に延びており、前記の一部分は100%までである、請求項1から5のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項7】
前記誘電性の筒状の壁(14)または少なくとも1個の誘電性の筒状の壁(14)のうちの1個は、前記外側の電極(10)を支持している、請求項1から6のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項8】
前記外側の電極(10)は、前記誘電性の筒状の壁(14)の一部分に沿って軸線方向に延びており、前記の一部分は少なくとも10%であって100%までであることが好ましい、請求項7に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項9】
少なくとも1個の誘電性の筒状の壁(14)は、石英、アルミナ、二酸化ケイ素、ガラス及びそれらの任意の組み合わせから選択される材料を含むがこれらには限定されない誘電性材料で作られている、請求項1から8のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項10】
前記外側の電極を支持している前記誘電性の筒状の壁(14)は、第1の誘電性の筒状
の壁であって、
前記内側の筒状の電極(6)と前記第1の誘電性の筒状の壁(14)との間を延びている第2の誘電性の筒状の壁を有する、
請求項7または8のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項11】
環状空間(15)が、前記外側の電極(10)を支持している前記誘電性の筒状の壁(14)と前記内側の筒状の電極(6)との間、または前記第1及び前記第2の誘電性の筒状の壁の間に設けられており、
前記空間にプラズマ気体(12)を供給してプラズマを生成するように構成されており、軸線方向において前記被覆領域(16)の反対側に位置しているコネクタ(20)を有する、
請求項7または10に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項12】
前記内側の筒状の壁(3)は、前記被覆領域(16)を軸線方向に変位させるように、装置の他の部分に対して軸線方向に移動可能な、請求項1から11のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項13】
パルス状高電圧または交番高電圧を供給するように構成されている電源(18)をさらに有し、前記内側の電極(6)が電気的に接地され、前記外側の電極(10)には前記高電圧が電気的に供給されるように構成されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項14】
前記電源(18)の高電圧は1kVと50kVとの間である、及び/または、前記電源によって前記電極(10)に供給される電流は1000mA未満である、請求項13に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項15】
前記被覆領域(16)を囲んでいる閉じ込めチューブをさらに有する、請求項1から14のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置(2)。
【請求項16】
線状の基材(4)を、内側の筒状の電極(6)と外側の筒状の電極(10)とを備える放電後プラズマ被覆装置(2)を使用して連続被覆する方法であって、
被覆領域(16)に向けて軸線方向に流れるプラズマ励起気体(19)を生成するように、前記外側及び内側の電極(10、6)に高電圧を供給しプラズマ気体(12)を前記電極間に供給しながら、前記基材(4)と前駆物質(8)とを前記内側の筒状の電極(6)を通して作業方向(30)に移動させ、前記プラズマ励起気体(19)は前記前駆物質(8)と前記基材(4)上で化学的に反応するステップを有し、
前記放電後プラズマ被覆装置は、請求項1から15のいずれか1項に記載の放電後プラズマ被覆装置であることを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記前駆物質(8)は、液相または気相で搬送気体と共に注入される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆物質(8)と前記搬送気体との混合物は、内側の筒状の壁(3)を通って、前記プラズマ気体(12)及びプラズマ励起気体(19)の気体速度に対して低い、等しい、または高い、好ましくは等しいまたは高い気体速度で移動する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基材(4)は、前記内側の電極(6)を通って移動する前に、前記前駆物質(8)に浸される、または前記基材(4)に前記前駆物質(8)が噴霧される、またはしみ込まされる、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電後プラズマ被覆装置に関する。より具体的には、本発明は、線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の特許文献1は、放電後プラズマを使用して導電線を処理する装置及び方法を開示している。プラズマ装置は、線の処理用の放電後領域内にプラズマジェットの出口用ノズル開口の付いた放電室を備えるプラズマノズルを有している。放電室は、処理する導線を誘導できる内側のチューブを有しており、チューブは電気的な絶縁材料から作られており、放電後領域に隣接している。放電室は、チューブの一部を囲んでいる内部の筒状の電極と、内部電極と同心でノズル開口に向けて放電室に沿って軸線方向に延びている外部の筒状の電極とを有している。気体が2個の電極の間に注入され、高周波電圧が内部電極に印加されて、電気アークを放電室内に発生させ、高エネルギー密度プラズマを発生させる。また、電気アークは放電後領域まで延びて、導線と反応することができる。内側の電極は、放電後領域から離れていなければならず、そうでなければ、導線基材に電気アークが発生することになる。また、高電圧及び電流が、電極の間の半径方向の距離及び内側の電極と放電後領域との間の必要な距離を考慮して、電極に供給される。本装置は、そのため有機被覆及び熱敏感基材に適合しておらず、それは、高エネルギー密度プラズマが、被覆の前駆物質及び基材を劣化させることがあるからである。
【0003】
従来技術の特許文献2は、線を処理するプラズマ装置を開示している。装置は、線を受け入れる長さ方向の経路を囲んでいる導電性接触チューブを有している。接触チューブに隣接している誘電性スリーブは、線を囲んでおり、線と共に円環状の気体通路を画成する。気体が、隣接している入口によって接触チューブに向けられ、化学前駆物質が線の通路内に注入される。電極と導電性チューブとの間の高周波、高誘電性信号によって、プラズマを生成する誘電体バリア放電を発生させるように、電極スリーブが誘電性スリーブを囲んでいる。化学前駆物質は、プラズマに直接接触しており、それによって前駆物質の分裂を促進し、したがって処理の効果を低下させることがある。この装置は、熱敏感前駆物質及び基材に適合していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/191012号
【文献】米国特許出願公開第2005/0236374号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の従来技術の少なくとも1個の欠点を克服する解決策を提供する。より具体的には、本発明は、導電性または非導電性の線状の基材上、特に、熱敏感性の基材上へ、連続的で、一様で、効率的な有機または無機放電後プラズマ被覆をする装置を提供する技術的な問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、線状の基材用の放電後プラズマ被覆装置であって、作業方向に軸線方向に移動する基材と前駆物質とを受け入れる内側の筒状の壁上にある内側の筒状の電極と、内側の電極と同軸で、それを囲んでいる外側の筒状の電極とを有し、内側及び外側の電極は、プラズマ気体が電極の間に供給されて励起されたときにプラズマを生成するように電源が供給されるよう構成されており、プラズマ励起気体は、作業方向に軸線方向に流れ、内側の筒状の壁の作業方向の端部に位置する被覆領域で前駆物質と反応し、特筆すべきは、内側の筒状の電極は、少なくとも外側の電極の端部まで、好ましくはそれを超えて、被覆領域に向けて、作業方向に軸線方向に延びており、少なくとも1個の誘電性の筒状の壁が内側の電極と外側の電極との間を軸線方向に延びている、放電後プラズマ被覆装置に関する。
【0007】
好ましい実施態様によれば、被覆領域は、プラズマ励起気体が基材に直接接触できるようになっている。
【0008】
好ましい実施態様によれば、被覆領域は、内側の筒状の壁に直接隣接している。
【0009】
好ましい実施態様によれば、少なくとも1個の誘電性の筒状の壁が外側の電極を超えて作業方向に軸線方向に延びている。
【0010】
好ましい実施態様によれば、内側の筒状の電極は、内側の筒状の壁を囲んでいるか、内側の筒状の壁によって構成されている。
【0011】
好ましい実施態様によれば、内側の筒状の電極は、導電性材料または、導電性材料及び誘電性材料の組み合わせで作られている内側の筒状の壁で構成されている。
【0012】
好ましい実施態様によれば、内側の筒状の電極は、内側の筒状の壁を囲んでいるか、内側の筒状の壁に取り付けられている。
【0013】
好ましい実施態様によれば、内側の筒状の電極は、内側の筒状の壁の一部分に沿って軸線方向に延びており、一部分とは内側の筒状の壁の軸線方向に100%までである。
【0014】
好ましい実施態様によれば、誘電性の筒状の壁または少なくとも1個の誘電性の筒状の壁のうちの1個は、外側の電極を支持している。
【0015】
好ましい実施態様によれば、外側の筒状の電極は、誘電性の筒状の壁の一部分に沿って軸線方向に延びており、一部分とは、誘導性の筒状の壁の軸線方向に少なくとも10%であって100%までであることが好ましい。
【0016】
好ましい実施態様によれば、少なくとも1個の誘電性の筒状の壁は、石英、アルミナ、二酸化ケイ素、ガラス及びそれらの任意の組み合わせから選択される材料を含むがこれらには限定されない誘電性材料で作られている。
【0017】
好ましい実施態様によれば、外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁は、第1の誘電性の筒状の壁であって、装置は、内側の筒状の電極と第1の誘電性の筒状の壁との間を延びている第2の誘電性の筒状の壁を有している。
【0018】
好ましい実施態様によれば、環状空間が、外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁と内側の筒状の電極との間、または第1及び第2の誘電性の筒状の壁の間に設けられており、装置は、前述の空間にプラズマ気体を供給してプラズマを生成するように構成されたコネクタを有しており、コネクタは軸線方向において被覆領域の反対側に位置している。
【0019】
好ましい実施態様によれば、プラズマは、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、水素、及びそれらの任意の組み合わせを含むこともあるが、それらには限定されない非凝縮性気体から生成される。
【0020】
好ましい実施態様によれば、前駆物質は、少なくとも1個の化学的生成物を有している。
【0021】
好ましい実施態様によれば、内側の筒状の壁は、被覆領域を軸線方向に変位させるように、装置の他の部分に対して軸線方向に移動可能である。
【0022】
好ましい実施態様によれば、装置は、パルス状高電圧または交番高電圧を供給するように構成されている電源をさらに有し、また、装置は、好ましくは内側の電極が電気的に接地され、好ましくは外側の電極に高電圧が電気的に供給されるように構成されている。
【0023】
好ましい実施態様によれば、電源の高電圧は1kVと50kVとの間である、及び/または、電源によって電極に供給される電流は1000mA未満である。
【0024】
好ましい実施態様によれば、装置は、被覆領域を囲んでいる閉じ込めチューブをさらに有している。
【0025】
本発明は、線状の基材を、内側の筒状の電極と外側の筒状の電極とを備えている放電後プラズマ被覆装置を使用して連続被覆する方法にも関し、本方法は、被覆領域に向けて軸線方向に流れるプラズマ励起気体を生成するように、外側及び内側の電極に高電圧を供給しプラズマ気体を電極間に供給しながら、基材と前駆物質とを内側の電極を通して作業方向に移動させ、被覆領域においてプラズマ励起気体は前駆物質と基材上で化学的に反応し、特筆すべきは、放電後プラズマ被覆装置は、本発明によるものである。
【0026】
好ましい実施態様によれば、前駆物質は、液相または気相で搬送気体と共に注入される。
【0027】
好ましい実施態様によれば、前駆物質と搬送気体との混合物は、内側の筒状の壁を通って、プラズマ気体及びプラズマ励起気体の気体速度に対して低い、等しい、または高い、好ましくは等しいまたは高い気体速度で移動する。
【0028】
好ましい実施態様によれば、基材は、内側の筒状の壁を通って移動する前に、前駆物質に浸され、または前駆物質を噴霧され、またはしみ込まされる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、前駆物質分子及び被覆される基材に高エネルギープラズマ粒子が与える衝撃を配置によって回避することに特に関する。また、熱敏感基材上への蒸着を可能にする。基材は、プラズマに直接接触しておらず、その被覆は、放電において存在する電気フィラメントによる衝撃を受けない。同軸の構成によって、複雑な表面上においてさえ、一様なプラズマ及び一様な被覆の生成が可能になる。装置は、導電性及び非導電性の基材に使用できる。装置は、放電後構成及び低温蒸着によって、無機、有機、または有機/無機薄膜の蒸着を可能にする。本装置を使用して蒸着可能な無機材料は、SiO、TiO、SiO/TiOとすることができるが、これらには限定されない。本装置を使用して蒸着可能な有機材料は、水酸基、カルボキシル基、アミン基、エポキシ基、アクリル基、硫化基、塩化基などの反応基を含む機能材料を含んでいる。得ることが可能な無機/有機構造には、SiOxCyHz、SiOxCyHz/TiOが含まれるが、これらには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の放電後プラズマ被覆装置の模式図である。
図2】本発明の放電後プラズマ被覆装置の長さ方向の断面図である。
図3】本発明の放電後プラズマ被覆装置の断面図である。
図4】Nプラズマ放電後におけるHMDSO注入を使用して得られた被覆のFTIRスペクトルの図である。
図5】Nプラズマ放電後におけるMMA注入を使用して得られた被覆のFTIRスペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1から3は、要素の正確な比率を定めていない。
【0032】
添付の図1、2、及び3を参照すると、符号2は、本発明の放電後プラズマ被覆装置を示している。放電後プラズマ被覆装置2は、筒状の形状を有しており、被覆される線状の基材4を受け入れるように構成されている内側の筒状の壁3を有している。線状の基材4は、本明細書では点線で示している被覆領域16内で被覆されるよう内側の筒状の壁3を通って軸線方向に作業方向30に移動することができる。被覆領域16は、内側の筒状の壁3に隣接しており、プラズマ励起気体19が基材4に直接接触することができる。プラズマ励起気体19(つまり、装置のプラズマ区域を通過し、プラズマからのエネルギー種によって活性化しているプラズマ気体)は、作業方向30に軸線方向に流れ、被覆領域16において前駆物質8と反応する。前駆物質8は、前駆物質気体流の形態であることが好ましい。被覆は、基材4、プラズマ励起気体19、及び前駆物質8が混合される被覆領域16において実施される。
【0033】
内側の筒状の壁3は、プラズマ励起気体19及び前駆物質気体流8を分離するとともに直接的なプラズマ相互作用から基材4を保護するように構成されている。内側の筒状の壁3は、非多孔質材料から作られている。内側の筒状の壁3は、図2及び3に示しているように導電性材料から作られている内側の筒状の電極6によって直接囲まれている。しかし、好ましい実施態様として、内側の筒状の壁3は、内側の電極6を構成することができる。そのため、内側の筒状の壁3は、導電性材料または、導電性材料及び誘電性材料の組み合わせから作ることができる。
【0034】
内側の筒状の電極6は、同軸の外側の筒状の電極10によって囲まれている。2個の電極6及び10は、プラズマ気体12がそれらの間に供給され、それによってプラズマ気体が励起されたときに、プラズマを生成するように電源が供給されるように構成されている。内側の筒状の電極6は、少なくとも外側の電極10の端部まで、好ましくはそれを超えて、被覆領域16に向けて軸線方向に延びている。外側電極の端部は、作業方向30にある。プラズマ励起気体19は、作業方向30において外側の電極10の端部で発生する。被覆領域16は、プラズマ励起気体19、基材4、及び前駆物質8が混合される領域に該当している。
【0035】
内側の筒状の壁3は、被覆領域16を軸線方向に変位させるように、装置2の他の部分に対して軸線方向に移動可能である。
【0036】
装置は、2個の電極6及び10の間を軸線方向に延びている少なくとも1個の誘電性の筒状の壁14をさらに有している。この電極組成物、いわゆる誘電体バリア放電(DBD)は、電気アークの形成を回避し、一様な低エネルギー密度プラズマの生成を可能にする。好ましい実施態様として、誘電性の筒状の壁14は、2個の電極6及び10の間を軸線方向に延びており、外側の電極10を支持している。外側の電極10は、誘電性の筒状の壁14の一部分、好ましくは誘電性の筒状の壁の長さの少なくとも10%であって100%までの部分に沿って軸線方向に延びている。任意で、内側の筒状の電極6上でそれを囲んでいる第2の誘電性の筒状の壁(不図示)を使用して、2個の誘電体を備える対称な構成で、DBD放電を形成することができる。
【0037】
誘電性の筒状の壁は、石英、アルミナ、二酸化ケイ素、ガラス及びそれらの任意の組み合わせから選択される材料を含むがこれらには限定されない誘電性材料で作られている。
【0038】
環状の空間15つまり通路(図3に示す)が、イオン化させる気体を受け入れるために、内側の筒状の電極6と外側の筒状の電極10を支持している誘電性の筒状の壁14との間に設けられている。環状の空間15は、約0.5mmから5mmの幅を有することができる。装置2は、プラズマを生成するように、環状空間15にプラズマ気体12を供給するように構成されているコネクタ20も有している。コネクタ20(図1に示す)は、軸線方向で被覆領域16の反対側に位置している。第2の誘電性の筒状の壁の場合、環状の空間は、第1の誘電性の筒状の壁であり外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁と第2の誘電性の筒状の壁との間とすることができる。
【0039】
装置2は、環状空間15を通って流れているプラズマ気体12をイオン化するためにパルス状高電圧または交番高電圧を供給するように構成されている電源18(図1に示している)をさらに有している。電源18は、内側の電極6が電気的に接地されており、外側の電極10に電気的に高電圧が供給されるようにさらに構成されている。電源18の高電圧は1kVと50kVとの間、より好ましくは1kVと15kVとの間、及び/または、電源によって電極10に供給される電流は1000mA未満である。電源の周波数は、1kHzと100kHzとの間である。一般的に、電源18は、プラズマを発生させるために、低周波数の高電圧を発生することになる。このように、高電圧が外側の電極10に印加されたときに、誘電体バリア放電として知られている現象によって、プラズマが生成される。したがって、内側の筒状の電極6および外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁14との間でプラズマが生成される。プラズマ励起気体19は、プラズマ励起気体19が前駆物質8及び基材4と化学的に反応する被覆領域16に向けて軸線方向に流れることになる。
【0040】
被覆の一様性を改善するために、前駆物質8が内側の筒状の壁3内に基材4と同軸に注入される。前駆物質は、機能的な境界を成長させる無機基(Si、Ti、Zr、Zn、Co、Fe、Pt、Pd、S、B、Cl、P、Mg、Ca、Au、Agを含むがこれらには限定されない原子からなる)をできる限り有する有機化学前駆物質であり、基材の表面への良好な付着を可能にし、対象の化学基を出現させることが好ましい。前駆物質8は、内側の筒状の壁3内に気相または液相で、好ましくは搬送気体と共に注入することができる。前駆物質は、C及びHから構成されていることが好ましく、アルコール、アルカン、アリル、アミド、アミン、カルボン酸、エポシキド等の官能基及び/または不飽和部位を有していてもよい。前駆物質は、たとえば、ヘキサメチルジシロキサン、メタクリル酸メチル、チタンテトライソプロポキシド、アミノプロピルトリエトキシシランとすることができ、気体中で搬送される合成物は、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素、水素、及びそれらの任意の組み合わせからなるがそれらには限定されない。プラズマの高エネルギー種(つまり、電子、イオン)に起因する損傷を防止するために、前駆物質は、搬送気体の流れと共に、どのような流速においても、内側の筒状の壁3内に注入される。前駆物質8と搬送気体からなる混合物が、プラズマ気体12及びプラズマ励起気体19の気体速度に対して低い、等しい、または高い、好ましくは等しいまたは高い気体速度で注入される。あるいは、基材4は、内側の筒状の壁3を通って移動する前に、事前に、前駆物質に浸され、または前駆物質を噴霧され、またはしみ込まされることができる。
【0041】
任意に、プラズマ励起気体19、化学前駆物質8、及び基材4の混合物を限定された体積に閉じ込めるために、外部の閉じ込めチューブ(不図示)を被覆領域16内に設定することができる。閉じ込めチューブは、外側の筒状の壁14の端部の位置であることが好ましい。
【0042】
放電後プラズマ被覆装置2は、たとえば、内径が10mmのガラスで作られている外側の電極を支持する誘電性の筒状の壁14を有することができる。外側の筒状の電極10は、100mmの長さを有することができ、内側の筒状の壁3は、6mmの外径を有することができる。内側の筒状の電極6及び外側の筒状の電極10の厚さは、1μmと1000μmの間であり、典型的には100~300μmである。外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁14と内側の筒状の電極との間の環状空間15は2mmとすることが可能で、環状空間は、内側の筒状の電極の外径と外側の電極を支持している誘電性の筒状の壁の内径との間の空間に対応している。
【0043】
2個の被覆を金属線上で実施した。HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)のモノマーを使用した第1の被覆は、ステンレス鋼で作られている線状の基材上で実施した。流速50l/sのプラズマ気体として窒素を使用した。金属線を装置内で100cm/minの速度で移動させ、HMDSOモノマーを、10l/minの流速のベクトル気体つまり搬送気体と共に装置内に注入した。電源によって供給された電力は80Wであって、信号の周波数は60kHzである。非常に弱い「Si-CH」吸収帯のある「SiO様」被覆を、Bruker Vertex 70 FTIR分光計を使用して基材上で観測し、結果を図4に示している。
【0044】
第2の被覆は、メタクリル酸メチル(MMA)のモノマーを使用してステンレス鋼で作られている線状の基材上で実施した。流速50l/sのプラズマ気体として窒素を使用した。金属線を装置内で100cm/minの速度で移動させ、メタクリル酸メチルモノマーを、50μl/minの流速で、10l/minの流速の搬送気体と共に装置内に注入した。電源によって供給された電力は50Wであって、信号の周波数は60Hzである。被覆は、Bruker Vertex 70 FTIR分光計を使用して分析し、結果を図5に示している。官能基C=Oをもつ有機被覆が観測され、それによって被覆が生成したことが明らかになった。使用されたモノマーは例であって、限定されていない。
図1
図2
図3
図4
図5