(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】細菌感染の予防および治療のためのトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体の新規な使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20220519BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220519BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220519BHJP
A01N 43/90 20060101ALI20220519BHJP
C07D 487/04 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P31/04
A01P3/00
A01N43/90 106
C07D487/04 146
(21)【出願番号】P 2019513341
(86)(22)【出願日】2017-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017068811
(87)【国際公開番号】W WO2018046174
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-01
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513311778
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ド・リエージュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ウリ,セシル
(72)【発明者】
【氏名】ランセロッティ,パトリツィオ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531567(JP,A)
【文献】国際公開第2013/092900(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/034386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A01N 43/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌感染
を治療または予防
するための
医薬組成物であって、式(I):
【化1】
[式中、R
1は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているC
3-5アルキルであり;R
2は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているフェニル基であり;R
3およびR
4は共に、ヒドロキシルであり;Rは、XOHであり、ここで、Xは、CH
2、OCH
2CH
2、または結合である]
で示されるトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導
体(但し、XがCH
2または結合であるとき、R
1はプロピルではなく;XがCH
2であり、R
1がCH
2CH
2CF
3、ブチルまたはペンチルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されて
おり;XがOCH
2CH
2であり、R
1がプロピルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されて
いる)
、またはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物を含む、医薬組成物。
【請求項2】
R
2が、フッ素原子によって置換されているフェニルである、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
Rが、OHまたはOCH
2CH
2OHである、請求項1
または2に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、以下:
(1R-(1α,2α,3β(1R
*,2
*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-((3,3,3-トリフルオロプロピル)チオ)
-3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5
-d)ピリミジン-3-イル)
-5
-(ヒドロキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S-(1α,2α,3β(1R
*,2
*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-(プロピルチオ)
-3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5
-d)ピリミジン-3-イル)
-5
-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ル;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(4-フルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ル;および
(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール;
から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、トリアフルオシル(Triafluocyl)とも呼ばれる(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ルである、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、フルオメタシル(Fluometacyl)とも呼ばれる(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオールである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
表面上のバイオフィルム形成を阻害するための組成物であって、式(I):
【化2】
[式中、R
1は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているC
3-5アルキルであり;R
2は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているフェニル基であり;R
3およびR
4は共に、ヒドロキシルであり;Rは、XOHであり、ここで、Xは、CH
2、OCH
2CH
2、または結合である]
で示されるトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導
体(但し、XがCH
2または結合であるとき、R
1はプロピルではなく;XがCH
2であり、R
1がCH
2CH
2CF
3、ブチルまたはペンチルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されて
おり;XがOCH
2CH
2であり、R
1がプロピルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されて
いる)
、またはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物を含む、組成物。
【請求項8】
R
2が、フッ素原子によって置換されているフェニルである、請求項
7に記載の
組成物。
【請求項9】
Rが、OHまたはOCH
2CH
2OHである、請求項
7または
8に記載の
組成物。
【請求項10】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、以下:
(1R-(1α,2α,3β(1R
*,2
*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-((3,3,3-トリフルオロプロピル)チオ)
-3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)
-5
-(ヒドロキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S-(1α,2α,3β(1R
*,2
*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-(プロピルチオ)
-3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)
-5
-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ル;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(4-フルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ル;および
(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール;
から選択される、請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、トリアフルオシルとも呼ばれる(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオー
ルである、請求項7~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、フルオメタシルとも呼ばれる(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオールである、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の
組成物。
【請求項13】
バイオフィルム形成における殺菌または細菌増殖防止の
エキソビボでの方法であって、有効量の請求項7~12のいずれか一項で定義されるトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体、またはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはそのような塩の溶媒和物を、表面上に適用することを含む、方法。
【請求項14】
有効量が、20~100μg/mlである、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
バイオフィルム形成が、90×10
6CFU/cm
2超を含む成熟工程3にある、請求項
13または14に記載の表面上のバイオフィルム形成における殺菌の方法。
【請求項16】
表面が
、生体材料に属する、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
生体材料が、心血管機器
または血管内留置カテーテルである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
心血管機器が
、心臓弁である、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
心血管機器が
、ペースメーカーである、請求項
17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染の予防および治療のためのトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体の新規な使用に関する。
【0002】
細菌はしばしば、患者の罹患率および死亡率の増加を引き起こし、また健康管理サービスに多額の財政負担を課す、医療関連感染(医療機器関連感染を含む)の原因と見なされる。ペニシリン系、メチシリン系、カルバペネム系、セファロスポリン系、キノロン系、アミノ-グリコシド系およびグリコペプチド系などの様々なクラスに属する抗生物質に対し、ますます多くの細菌が耐性を持つようになっていること、また治癒することが困難になりつつある感染が増加していることから、状況は深刻になっている。
【0003】
抗生物質への耐性の増加は、これらの深刻な感染に利用可能な処置の選択肢が限定されるという理由で、公衆衛生上の増大しつつある問題である。欧州では、抗菌剤耐性は、毎年およそ25,000件の死亡を引き起こす。抗菌剤耐性に関連する臨床上の負担には、一年当たりおよそ15億ユーロ掛かっていると推定される。
【0004】
Review on AMR, Antimicrobial resistance: Tackling a crisis for the health and wealth of nations, 2014に報告されている通り、現在、世界で700,000件の死亡が抗菌剤耐性に起因すると推定される。
【0005】
抗生物質の使用は、とりわけ長期療法または高用量療法において、安全ではない。そのような環境圧は、耐性の細菌や個体群の選択、個体群構造の変化および遺伝子の水平伝播(耐性遺伝子の微生物叢への移動性につながる)のリスク増加を促進する恐れがある。
【0006】
抗生物質処置は、「善玉」菌と「悪玉」菌の両方を標的とする。
【0007】
ヒトの消化管(GI)微生物叢は、約1兆の微生物から成っており、そのほとんどが細菌である。微生物叢と宿主の防御との関係は、健康に寄与する代謝機能および生理学的機能にとって極めて重要である。この有益な相互作用を崩壊させることによって、食事成分、身体的および精神的ストレス、薬物だけでなく、抗生物質も、肥満、炎症および心血管疾患(CVD)のような、いくつかの疾患の発生率を増加させる。CVDは今なお、産業社会における第一位の死亡原因であり、他の国でも発生率が増大している。
【0008】
例えば、マウスにおける、長期の抗生物質処置、GI微生物叢の崩壊およびアテローム性動脈硬化症のリスクの間の直接的な関連が、最近の研究で示された。
【0009】
細菌感染源は多様であり、そして、多数の細菌感染がある。
【0010】
グラム陽性細菌によって引き起こされる感染は、罹患率および死亡率の観点のみならず、患者の管理および感染対策の実施についての支出増加の観点でも、主要な公衆衛生上の負担となっている。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および腸球菌(enterococci)は、病院環境における実証された(established)病原体であり、そして、それらの高頻度の多剤耐性は、療法を複雑にしている。
【0011】
黄色ブドウ球菌は、比較的良性の皮膚感染から、心内膜炎および骨髄炎などの命に関わる疾患に及ぶ、広範な臨床徴候の原因となる、重要な病原体である。それはまた、共生細菌でもある(人口のおよそ30パーセントにコロニーを形成する)。
【0012】
黄色ブドウ球菌(S. aureus)の疫学における2つの主な変化が、1990年代以降に起こった:市中感染型の皮膚感染および軟組織感染の流行(主として、特定のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]株によって推進された)、ならびに医療関連感染(とりわけ、感染性心内膜炎および人工装具感染)の数の増加。
【0013】
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)は、皮膚の正常フローラの最もよく見られる構成要素である。これらの生物は、臨床検体における一般的な汚染因子であると同時に、菌血症および心内膜炎を含む臨床的に重大な感染の作用因子としても認識が高まっている。CoNS感染に特にリスクの高い患者は、人工装具、ペースメーカー、血管内留置カテーテル、および免疫不全宿主を有する患者を含む。
【0014】
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は、集中治療室における血流分離株のおよそ3分の1を占めており、このことから、これらの生物が院内血流感染の最も一般的な原因になっている。
【0015】
腸球菌種は、尿路感染、菌血症、心内膜炎、および髄膜炎を含む様々な感染を引き起こし得る。腸球菌は、細胞壁活性剤(ペニシリン、アンピシリン、およびバンコマイシン)の殺傷効果に対して比較的耐性があり、アミノグリコシド系に対して非透過性である。
【0016】
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、ますます一般的で処置困難な院内感染の原因である。
【0017】
VRE感染の複数の流行が、多様な病院現場(例えば、内科および外科の集中治療室、ならびに内科および小児病棟)において記載されており、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と同じく、VREは、多くの大病院に固有のもの(endemic)である。
【0018】
ベータ溶血性ストレプトコッカス・アガラクティエ(beta-hemolytic Streptococcus agalactiae)(B群連鎖球菌、GBS)は、別のグラム陽性細菌である。同細菌は、新生児において敗血症および/または髄膜炎を引き起こし得る。それはまた、高齢者および免疫不全の成人における罹患率および死亡率の重要な原因でもある。感染の合併症は、敗血症、肺炎、骨髄炎、心内膜炎、および尿路感染を含む。
【0019】
これらの細菌を、とりわけ様々な生体材料上で巧みに生存できるようにする要因は、付着およびバイオフィルムの生成を含む(以下を参照のこと)。
【0020】
上記4種の細菌は、生物的および非生物的なあらゆる表面上にバイオフィルムを形成する能力を有する。バイオフィルム形成の最初の工程は、せん断応力条件においてより強い表面への付着/接着である。この接着の主な原因となるタンパク質は、細菌が表面だけでなく互いに結合してバイオフィルムを生み出すことを可能にする、多糖細胞間アドヘシン(polysaccharide intercellular adhesin)(PIA)である。バイオフィルム形成の第二段階は、成熟バイオフィルムを生じる、群集構造および生態系の発達である。最終段階は、表面からの脱離とその後の他の場所への伝播である。バイオフィルム形成の全ての局面で、細胞間情報伝達を媒介するクオラムセンシング(QS)系が関与する。
【0021】
バイオフィルム中の細菌は、免疫系成分および抗菌剤を含む外的脅威からそれらを保護する、主に多糖、核酸(細胞外DNA)およびタンパク質からなる細胞外高分子物質(EPS)を産生する。さらに、バイオフィルム中の細菌は、代謝が減少しており、このことによって、細菌は抗生物質に対して感受性が低くなる;これは、ほとんどの抗菌剤が、有効であるためにはある程度の細胞活性を必要とするという事実に起因する。そのような耐性を強化する別の要因は、EPS基質バリアの存在のために、バイオフィルム全体への抗生物質の拡散が損なわれることである。
【0022】
また、バイオフィルムにおいて、耐性(天然に存在するものと抗菌剤誘発性のもの)を発達させる機会を増加させる、より高比率のプラスミド交換があることが報告された。
【0023】
バイオフィルムを排除するために開発されている戦略は、バイオフィルム形成における3種の異なる工程を標的とする:最初の段階(すなわち、表面への細菌の接着)の阻害;成熟プロセス、すなわち工程2の間のバイオフィルムアーキテクチャを崩壊すること;QS系、すなわち工程3を阻害すること。
【0024】
これらのバイオフィルムが抗生物質に対して高い耐性を有するため、工程2における微生物増殖およびバイオフィルム形成の制御および防止の必要性が高まっている。感染した医療機器の場合の処置は、保存的な処置または機器の除去と、抗生物質による長期処置の併用であるが、これらのアプローチは、失敗率が高く、また経済的負担が上昇する。
【0025】
こうした理由で、臨床医は、埋め込みの前に抗生物質を供給することによる予防的アプローチの採用しようとする。別の解決策は、医療機器の改造でありえ、例えば、例を少し挙げるだけでも、銀(抗菌特性を有する)またはヒドロゲルおよびポリウレタン(細菌の接着を低下させる)による表面被覆である。
【0026】
Eggiman in American Society for Microbiology Press, Washington, DC 2000. p.247によれば、ペースメーカーおよび埋め込み型除細動器[ICD]は、感染する可能性があり、感染率は0.8~5.7パーセントの範囲である。
【0027】
感染は、機器が入る皮下ポケットまたはリードの皮下セグメントを侵し得る。また、通常、菌血症および/または血管内感染を伴う、リードの静脈を通る分を侵すより深部での感染も起こり得る。
【0028】
機器および/またはポケットそれ自体が、感染源となる(通常、埋め込み時の汚染に起因する)こともあり、二次的に、異なる感染源からの菌血症に至らせることもある。
【0029】
皮膚フローラによるペースメーカーポケットの周術期汚染が、最も一般的な皮下感染源であると思われる。
【0030】
心臓デバイス関連感染性心内膜炎(CDRIE)は、別の命に関わる疾患であり、埋め込み件数の増大(欧州では、1年当たり81000件のペースメーカーの埋め込み)に起因して、発生率が増加している。CDRIEの発生率は、0.14パーセントに達し、ICD埋め込み後ではさらにより高い。
【0031】
黄色ブドウ球菌およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(しばしば表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))は、ジェネレーターポケット感染の65~75パーセントおよびデバイス関連心内膜炎の最大89パーセントを引き起こす。埋め込みの2週間以内に生じるエピソードは、黄色ブドウ球菌に起因する可能性がより高い。
【0032】
感染した医療機器または生体材料の処置の成功は、侵された部分を問わず、一般に、システム全体の除去および原因細菌を標的とする抗生物質の投与を必要とする。重要なことには、薬物療法単独では、高い死亡率および再発のリスクを伴う。
【0033】
人工弁心内膜炎(PVE)は、致命的な結果となる可能性がある重篤な感染である。
【0034】
手術中の直接的汚染によって、または術後最初の数日および数週間における血行性伝播を介して、細菌が人工弁に達する可能性がある。弁縫合リング、心臓弁輪、および固定縫合糸は、弁埋め込み後すぐには内皮化されない(not endothelialized)ので、細菌は縫合経路に沿って、プロテーゼ-弁輪界面へ、また弁周囲組織へ直接接近可能である。これらの構造は、フィブロネクチンおよびフィブリノゲンなどの宿主タンパク質で被覆され、それにいくつかの生物が接着して、感染を開始することができる。
【0035】
人工弁心内膜炎(PVE)を発症するリスクは、術後の最初の3ヶ月間が最も高く、6か月にわたり高いままであり、その後、術後12ヶ月以降、およそ0.4パーセントの年率で徐々に減少する。弁置換術後の最初の一年間のPVEを発症する患者の割合は、積極的経過観察を行う研究で1~3パーセントの範囲であり;5年までで、累積率は、3~6パーセントの範囲である。
【0036】
早期PVE(埋め込みの2ヶ月以内)における最も頻繁に遭遇する病原体は、黄色ブドウ球菌およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である。
【0037】
後期PVE(弁埋め込みの2ヶ月後)における最も頻繁に遭遇する病原体は、連鎖球菌および黄色ブドウ球菌、続いて、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌および腸球菌である。
【0038】
術後の最初の一年間にPVEを引き起こすコアグラーゼ陰性ブドウ球菌は、ほぼ例外なく表皮ブドウ球菌である。これらの生物の84~87パーセントは、メチシリン耐性であり、ひいてはベータ-ラクタム抗生物質の全てに耐性である。
【0039】
2008年フランス調査によれば、PVEは、感染性心内膜炎全体の約20パーセントを占める。PVEは、症例の約30パーセントにおいて健康管理に関係する。黄色ブドウ球菌は、その第一の原因病原体であり、PVEの20パーセント超の原因となっている。重要なことには、1999年のデータと比較したとき、PVE関連死亡率は高いままであり、術後で約40パーセント、そして院内死亡率で25パーセントに達する。
【0040】
人工関節周囲感染(PJI)は、関節置換術の1~2パーセントで起こり、関節形成術の失敗の主要原因である。
【0041】
バイオフィルムは、PJIの病因において重要な役割を果たしている。バイオフィルム内の細菌は、療法に対して耐性になり;結果として、抗菌療法は、バイオフィルムが物理的に崩壊されるか、または外科的創面切除によって除去されることがない限り、成功しないことが多い。
【0042】
人工関節感染は、埋め込み後の症状の発現時期に従って分類される:早期発症型(術後3ヶ月未満)、遅延発症型(術後3~12ヶ月)および後期発症型(術後12ヶ月超)。これらの感染は、以下の特徴を有する。早期発症型感染は通常、埋め込み中に起こり、しばしば、黄色ブドウ球菌などの病原性の強い生物、または混合感染に起因する。遅延発症型感染もまた、通常埋め込み中に起こる。無痛性の所見と整合して、遅延型感染は通常、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌または腸球菌などの、弱病原性の細菌によって引き起こされる。血行性播種から生じる後期発症型感染は、典型的には急性であり、しばしば黄色ブドウ球菌、またはベータ溶血性連鎖球菌に起因する。
【0043】
PJIの管理は一般に、外科手術と抗菌療法の両方からなる。
【0044】
それゆえ、当技術分野において新規抗菌療法が緊急に必要とされている。
【0045】
本発明者らは、驚くべきことに、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が、抗菌活性を有し、宿主哺乳動物における細菌感染の治療または予防において使用することができることを見いだした。
【0046】
本発明者らはまた、そのようなトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体を、バイオフィルム形成の早期段階(例えば、工程1または2)で細菌増殖を制御するための、または、最後の工程3(バイオフィルムが基質形成のその成熟段階に達し、表面からの脱離(その結果としての、細菌の他の場所への伝播を伴う)を開始する)を含む、バイオフィルム形成の全ての工程で殺菌するための方法においても使用することができることを見いだした。
【0047】
それゆえ、第一の態様において、本発明は、細菌感染の治療または予防(そのような処置を必要とする宿主哺乳動物においての)において使用するための、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体を提供する。
【0048】
細菌感染とは、特にグラム陽性細菌感染、例えば肺炎、敗血症、心内膜炎、骨髄炎、髄膜炎、尿路、皮膚、および軟組織感染などを意味する。細菌感染源は、多様であり、例えば埋め込み可能な生体材料の使用によって引き起こされ得る。
【0049】
生体材料とは、宿主哺乳動物において臨床使用するための全ての埋め込み可能な異物、例えば、人工関節、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、血管内留置カテーテル、冠動脈ステント、人工心臓弁、眼内レンズ、歯科インプラントなどを意味する。
【0050】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体とは、以下の式(I):
【化1】
[式中、R
1は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているC
3-5アルキルであり;R
2は、1以上のハロゲン原子によって場合により置換されているフェニル基であり;R
3およびR
4は共に、ヒドロキシルであり;Rは、OHまたはXOHであり、ここで、Xは、CH
2、OCH
2CH
2、または結合である]
で示される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物を意味するが、但し、XがCH
2または結合であるとき、R
1はプロピルではなく;XがCH
2であり、R
1がCH
2CH
2CF
3、ブチルまたはペンチルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されていなければならず;XがOCH
2CH
2であり、R
1がプロピルであるとき、R
2におけるフェニル基は、フッ素によって置換されていなければならないものとする。
【0051】
アルキル基は、単独か別の基の一部としてかにかからわらず、直鎖でありかつ完全に飽和されている。
【0052】
R1は、1以上のフッ素原子によって場合により置換されているC3-5アルキルである。好ましくは、R1は、3,3,3-トリフルオロプロピル、ブチルまたはプロピルである。
【0053】
R2は、フェニルまたは1以上のハロゲン原子によって置換されているフェニルである。好ましくは、R2は、フッ素原子によって置換されているフェニルである。最も好ましくは、R2は、4-フルオロフェニルまたは3,4-ジフルオロフェニルである。
【0054】
Rは、OHまたはXOHであり、ここで、Xは、CH2、OCH2CH2、または結合であり;好ましくは、Rは、OHまたはOCH2CH2OHである。Xが結合であるとき、Rは、OHである。
【0055】
最も好ましいトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、4-フルオロフェニルまたは3,4-ジフルオロフェニルとしてのR2および/またはOCH2CH2OHとしてのRを含むものである。
【0056】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、周知の化合物である。これらは、米国特許第6,525,060号(参照によって組み入れられる)に記載の方法に従って得てもよい。
【0057】
トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、動脈血栓症の初期工程である血小板の接着および凝集に対する医薬として使用される。
【0058】
これらは、ADPに対する血小板P2Y12受容体と可逆的に拮抗することによって作用し、経口投与後に抗血小板効果を提供する。P2Y12は、他のアゴニストに対する血小板の応答を増幅させることによって作用する、血小板によって発現される2つのADP受容体の1つであり、血小板凝集体を安定化させて血栓形成を促進する。結果として、P2Y12阻害剤は、単独でまたはアスピリンとの組み合わせで、冠動脈疾患および末梢血管疾患を有する患者の転帰を有意に改善する。
【0059】
本発明者らは、今般、驚くべきことに、そのようなトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体が抗菌効果も有することを見いだした。
【0060】
好ましいトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、RがOHまたはOCH2CH2OHに等しく、かつ/または、R2が4-フルオロフェニルまたは3,4 ジフルオロフェニルに等しい、誘導体である。
【0061】
最も好ましいトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、
(1R-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-((3,3,3-トリフルオロプロピル)チオ)3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(ヒドロキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-(プロピルチオ)(3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(2-ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(4-フルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール;
およびその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物である。
【0062】
最も好ましいトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、式(II):
【化2】
で定義される通りであり、かつ本明細書において以降トリアフルオシル(Triafluocyl)とも呼ばれる、(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール)、およびその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物である。
【0063】
別の最も好ましいトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、式(III):
【化3】
で定義される通りであり、かつ本明細書において以降フルオメタシル(Fluometacyl)とも呼ばれる、(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール、およびその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物である。
【0064】
本発明によれば、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、患者に数日かけて投与されなければならない(とりわけ、予防の場合)。トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体を、それ自体で、または医薬組成物として、1日当たり1.8gより低い非毒性用量で投与してよい。
【0065】
本発明のさらなる好ましい目的は、細菌感染の予防または治療において使用するための、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体の医薬組成物である。
【0066】
医薬組成物は、生理学的適合性を有する乾燥粉末または液体組成物であってよい。組成物は、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体に加えて、補助物質、保存料、溶媒および/または粘度調節剤を含む。溶媒とは、例えば、水、生理食塩水もしくは任意の他の生理学的溶液、エタノール、グリセロール、植物油などの油またはそれらの混合物を意味する。粘度調節剤とは、例えば、カルボキシメチルセルロースを意味する。
【0067】
本発明のトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体は、経口、静脈内、血管内、筋肉内、非経口、または局所投与を通してその効果を発揮し、かつ、追加的に、非経口投与用組成物、特に注射用組成物または局所投与用組成物に使用することができる。それはまた、ナノ医療用途のためにナノ粒子に装填することもできる。それは、エアロゾル組成物において使用することができる。そのようなエアロゾル組成物は、例えば、溶液、懸濁液、微粒子化した粉末混合物などである。組成物は、噴霧器、定量吸入器もしくは乾燥粉末吸入器またはそのような投与用に設計された任意の機器を使用して投与される。
【0068】
ガレヌス組成物の例は、錠剤、カプセル剤、粉剤、丸剤、シロップ剤、そしゃく剤(chewing)、顆粒剤などを含む。これらは、周知の技術を通して、また賦形剤、滑沢剤、および結合剤などの典型的な添加剤を用いて製造してよい。
【0069】
好適な補助物質および医薬組成物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th ed., 1980, Mack Publishing Co., edited by Oslo et alに記載されている。典型的には、組成物を等張にするために、適切な量の薬学的に許容し得る塩が組成物中に使用される。薬学的に許容し得る物質の例は、生理食塩水、リンガー液およびデキストロース溶液を含む。溶液のpHは、好ましくは、約5~約8であり、より好ましくは、約7~約7.5である。
【0070】
本発明のなおさらなる好ましい目的は、細菌感染の治療または予防(そのような処置を必要とする宿主哺乳動物においての)の方法であって、有効量の、式(I)で定義される通りのトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体、
好ましくは、(1R-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-((3,3,3-トリフルオロプロピル)チオ)3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(ヒドロキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-(プロピルチオ)(3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(2-ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
最も好ましくは、式IIで定義される通りの(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(4-フルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
もしくは、最も好ましくは、式IIIで定義される通りの(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール;
または、その薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物を、宿主に投与することを含む方法である。
【0071】
別の態様において、本発明は、トリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体、
好ましくは、(1R-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-((3,3,3-トリフルオロプロピル)チオ)3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(ヒドロキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S-(1α,2α,3β(1R*,2*),5β))-3-(7-((2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル)アミノ)-5-(プロピルチオ)(3H-1,2,3-トリアゾロ(4,5d)ピリミジン-3-イル)5(2-ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン-1,2-ジオール;
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(4-フルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール);
およびその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物;
そして、最も好ましくは(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール)、またはその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物の、表面、特に生体材料または医療機器の表面上の、バイオフィルムの阻害剤としての使用を提供する。
【0072】
表面上のバイオフィルムの最も好ましい阻害剤は、式III:
【化4】
で定義される通りの(1S,2R,3S,4R)-4-[7-[[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピル]アミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-1,2,3-シクロペンタントリオール、およびその薬学的に許容し得る塩もしくは溶媒和物、またはその溶媒和物またはそのような塩の溶媒和物である。
【0073】
表面とは、ゴムまたはプラスチック表面(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンなど、または共重合体から作られた表面)だけでなく、好ましくは、ステンレス鋼、銀、金、チタン、金属合金、熱分解炭素(pyrolitic carbon)などの金属表面のような、あらゆるタイプの表面を意味する。それはまた、例えばブタまたはウシの心膜などの生物学的材料から作られた、生物学的プロテーゼまたは機器などの生体吸収性表面または生体材料表面上で使用することもできる。
【0074】
表面上のバイオフィルムの阻害とは、工程1における、表面上への細菌の接着の予防または阻害から始まる、バイオフィルム形成の全ての段階におけるその形成の阻害を意味するが、主に、工程2における、表面上での細菌の増殖、繁殖、および微小コロニーの形成の阻害を意味する。バイオフィルムの阻害とはまた、成熟工程3における基質の阻害およびコロニー化工程における基質からの細菌分散の阻害も意味する。バイオフィルムの阻害とはまた、バイオフィルム形成の全ての工程での殺菌も意味する。
【0075】
医療機器とは、上に定義した通りの生体材料だけでなく、細菌汚染がないことを求める医療機器、例えば、創傷包帯、軟組織充填材、根管充填材、コンタクトレンズ、血液バッグなども意味する。
【0076】
本発明に係る最後のさらなる態様は、表面上のバイオフィルム形成中の細菌を殺傷またはその増殖を制御するための方法であって、基板上の細菌接着および生存を減少させている予防工程、またはバイオフィルムが既に存在している段階、またはさらには、より複雑なバイオフィルムのアーキテクチャが確立され、従来の抗菌剤に対するバリアとして細菌を保護している、基質形成を伴う成熟工程のいずれかにおいて、表面にトリアゾロ(4,5-d)ピリミジン誘導体を適用することを含む方法である。
【0077】
表面上の殺菌または細菌増殖防止の方法は、一般に、生体材料または医療機器に適用される。
【0078】
生体材料または医療機器は、好ましくは、人工装具、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、血管内留置カテーテル、冠動脈ステント、心臓弁、眼内レンズなどの、宿主哺乳動物において臨床使用するための埋め込み可能な異物であるが、例えば創傷包帯、局所麻酔薬を含有する軟組織充填材、補助的薬物を有する根管充填材などの、細菌汚染がないことを求める他の医療機器に拡張することもできる。
【0079】
殺菌または細菌増殖防止の方法はまた、そのような抗菌処置を必要とする実験機器の表面に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】黄色ブドウ球菌に対するトリアフルオシルの静菌および殺菌効果を図示する。異なる濃度のトリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOの存在下での、成長曲線(A)および生存数(B)を示す。
【
図2】段階2でのトリアフルオシルによる黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成の阻害を図示する。
【
図3】エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)に対するトリアフルオシルの静菌および殺菌効果を図示する。異なる濃度のトリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOの存在下での、成長曲線(A)および生存数(B)を示す。
【
図4】段階2でのトリアフルオシルによるエンテロコッカス・フェカーリスのバイオフィルム形成の阻害を図示する。
【
図5】表皮ブドウ球菌に対するトリアフルオシルの静菌および殺菌効果を図示する。異なる濃度のトリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOの存在下での、成長曲線(上のパネル)および生存数(下のパネル)。
【
図6】トリアフルオシルによる段階2での表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成の阻害を図示する。
【
図7】トリアフルオシルによる成熟バイオフィルム(段階3:24時間バイオフィルム)の破壊を図示する。トリアフルオシルでの24時間の処置後の表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)のバイオフィルムの生存数(上のパネル)。バイオフィルム中の生細胞の百分率(下のパネル)。
【
図8A】バンコマイシンおよびミノサイクリンと比較した、トリアフルオシルのMRSA株に対する殺菌活性を図示する:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)についての殺傷曲線を図示する。
【
図8B】バンコマイシンおよびミノサイクリンと比較した、トリアフルオシルのGISA株に対する殺菌活性を図示する:グリコペプチド低感受性耐性黄色ブドウ球菌(GISA)についての殺傷曲線を図示する。
【
図8C】バンコマイシンおよびミノサイクリンと比較した、トリアフルオシルのVRE株に対する殺菌活性を図示する:バンコマイシン耐性E.フェカーリス(VRE)についての殺傷曲線を図示する。
【
図9】黄色ブドウ球菌MRSAに対するフルオメタシルの殺菌活性を図示する。
【
図10A】黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成に対する、異なる濃度のフルオメタシルの殺菌活性を図示する。
【
図10B】表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成に対する、異なる濃度のフルオメタシルの殺菌活性を図示する。
【0081】
実施例
以降、以下の非限定的な実施例によって本発明を説明する。
【0082】
本発明者らは、臨床的に有意義なグラム陽性細菌株として黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、およびE.フェカーリスを使用して、インビトロ実験を実施した。
【0083】
欧州抗微生物薬感受性試験委員会(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)(EUCAST)の推奨事項に従って試験を行った。
【0084】
実施例1:(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール)またはトリアフルオシル(Cayman、商品番号15425)の使用
【0085】
黄色ブドウ球菌(American Type Culture Collection, ATCC 25904)をトリプティックソイブロス(Tryptic Soy Broth)(TSB)培地中で一晩増殖させ、新鮮TSB中で1:100希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.25~0.3)まで37℃で好気的にインキュベートした。
【0086】
次いで、漸増濃度のトリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)またはビヒクル(DMSO)を細菌懸濁液5mlに加えた。異なる時間間隔(20~100分)後に、分光光度法(OD600)によって、および適切な培養希釈液をTS寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。
【0087】
静菌および殺菌効果を、トリアフルオシルを用いて測定した。
図1では、漸増濃度(1μg/ml~20μg/ml)のトリアフルオシルの存在下での黄色ブドウ球菌増殖の動力学を、濁度測定(上のグラフ)、および生存計数(下のグラフ)によって測定した。データは、中央値±範囲(n=3)を表す。
*p<0.05;
**p<0.01、
***p<0.001、トリアフルオシル対ビヒクル。
【0088】
図に1示す通り、10μg/mlの濃度のトリアフルオシルは、細菌増殖を阻害できたが、20μg/mlのトリアフルオシルは、強力な殺菌効果を提示した。
【0089】
実施例2:(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール)またはトリアフルオシルのバイオフィルム形成の阻害剤としての使用
【0090】
黄色ブドウ球菌(ATCC 25904)をTSB培地中で一晩増殖させた後、新鮮TSB中で100倍希釈し、そして、細菌培養物がOD6000.6(およそ1~3×108CFU/mlに相当する)に達するまで37℃で好気的にインキュベートした。次いで、細菌培養物を新鮮TSB中で1×104CFU/mlに希釈した。希釈した細菌懸濁液のアリコート800μlを、24ウェルプレートの各ウェルに分注した。細菌を、静止条件下37℃で4時間接着させた。培地を除去した後、ウェルをPBSで2回すすいでプランクトン様の細菌を排除し、0.5%グルコースを補充したTSBを再充填した。
【0091】
次いで、トリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOを所望の濃度で加え、そして、プレートを37℃で20時間インキュベートした。インキュベーション後、ウェルを洗浄し、0.5%(w/v)クリスタルバイオレットで30分間染色して、再度洗浄し、そして、20%酢酸(水中のv/v)を加えることによって色素を可溶化した後、595nmで吸光度を読み取った。
【0092】
黄色ブドウ球菌のバイオフィルムを、漸増濃度のトリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOの存在下でポリスチレン表面上に形成させた。
図2では、バイオフィルム質量を、DMSOの存在下で得られた値に対する百分率として提示した(
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、トリアフルオシル対DMSO、n=4)。
【0093】
トリアフルオシルは、試験した全ての濃度で黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を有意に低下させる。10μg/mlのトリアフルオシルの存在下で、バイオフィルムはポリスチレン表面上に形成され得なかった。
【0094】
実施例3:(1S,2S,3R,5S)-3-[7-[(1R,2S)-2-(3,4-ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]-5-(プロピルチオ)-3H-[1,2,3]-トリアゾロ[4,5-d]ピリミジン-3-イル]-5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,2-シクロペンタンジオール)またはトリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)の使用
【0095】
E.フェカーリス(ATCC 29212)をブレインハートインフュージョン(BHI)培地中で一晩増殖させ、新鮮BHI中で1:100希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.25~0.3)まで37℃で好気的にインキュベートした。
【0096】
次いで、漸増濃度のトリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)またはビヒクルとしてのDMSOを細菌懸濁液5mlに加えた。異なる時間間隔(30~120分)後に、分光光度法(OD600)によって、および適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。
【0097】
静菌および殺菌効果を、トリアフルオシルを用いて測定した。
図3では、漸増濃度(5μg/ml~40μg/ml)のトリアフルオシルの存在下でのE.フェカーリス増殖の動力学を、濁度測定(上のグラフ)、および生存計数(下のグラフ)によって測定した。データは、中央値±範囲(n=3)を表す。
【0098】
図3に示す通り、10μg/mlの濃度のトリアフルオシルは、細菌増殖を阻害できたが、20μg/mlおよびより重要なことには40μg/mlのトリアフルオシルは、強力な殺菌効果を提示した。
【0099】
実施例4:バイオフィルム形成の阻害剤としてのトリアフルオシルの使用
【0100】
E.フェカーリス(ATCC 29212)をBHI培地中で一晩増殖させた後、新鮮TSB中で100倍希釈し、そして、細菌培養物がOD6000.6(およそ2~5×108CFU/mlに相当する)に達するまで37℃で好気的にインキュベートした。次いで、細菌培養物を新鮮TSB中で1×104CFU/mlに希釈した。希釈した細菌懸濁液のアリコート800μlを、24ウェルプレートの各ウェルに分注した。細菌を、静止条件下37℃で4時間接着させた。培地を除去した後、ウェルをPBSで2回すすいでプランクトン様の細菌を排除し、0.5%グルコースを補充したTSBを再充填した。
【0101】
次いで、トリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOを所望の濃度で加え、そして、プレートを37℃で20時間インキュベートした。インキュベーション後、ウェルを洗浄し、0.5%(w/v)クリスタルバイオレットで30分間染色して、再度洗浄し、そして、20%酢酸(水中のv/v)を加えることによって色素を可溶化した後、595nmで吸光度を読み取った。
【0102】
E.フェカーリスのバイオフィルムを、漸増濃度のトリアフルオシルまたはビヒクルとしてのDMSOの存在下でポリスチレン表面上に形成させた。
図2では、バイオフィルム質量を、DMSOの存在下で得られた値に対する百分率として提示した(
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001、トリアフルオシル対DMSO、n=4)。
【0103】
トリアフルオシルは、10μg/mlの出発濃度でE.フェカーリスのバイオフィルム形成を有意に低下させる。40μg/mlのトリアフルオシルの存在下で、バイオフィルムはポリスチレン表面上に形成され得なかった。
【0104】
実施例5:表皮ブドウ球菌に対するトリアフルオシルの時間-殺菌研究
【0105】
トリアフルオシルの抗菌効果を評価するために、本発明者らは、異なるトリアフルオシル濃度の存在下での対数増殖期の表皮ブドウ球菌液相増殖を試験した。この期では、通常、細菌は急速に分裂するので、これらは殺菌活性を有する薬剤に対して高度の感受性を示す。
【0106】
表皮ブドウ球菌のO/N培養物のTSB 50ml中の1:100接種材料を、その対数増殖期(OD600=0.26および約3×108CFU/ml)まで3時間培養した。
【0107】
細菌を、TSB中異なる濃度のビヒクルとしてのDMSOを単独またはトリアフルオシルとの組み合わせで含有する数種のチューブに分割し、220rpmで振盪しながら37℃で100分間増殖させ、OD600を20分毎に測定した。
【0108】
DMSO(0.25%)での増殖と比較して、本発明者らは、10μg/ml~20μg/mlのトリアフルオシルの表皮ブドウ球菌増殖の用量依存的阻害を観察した(
図5)。50μg/mlでは、本発明者らは、わずかな静菌活性を観察し、これは、80分での生存細胞数3×10
8CFU/mlが、アッセイの開始時の未処理対照の細菌数と等しいことによって確認された(
図5)。
【0109】
さらに、本発明者らは、対数増殖期の表皮ブドウ球菌の培養物由来の低密度接種材料(0.08×106CFU/ml)に対するトリアフルオシルの効果を試験した。本発明者らは、トリアフルオシルありまたはなしでの増殖を4時間追跡し、OD600を測定した:既に、5μg/mlのトリアフルオシルは、トリアフルオシルの非存在下での同じ時点の増殖と比較してODを50%減少させた;10μg/mlおよび20μg/mlは、増殖を阻害した(OD値は、増殖の開始時のODに等しい)(データ示さず)。
【0110】
このことは、接種材料の密度が低いほど、細菌の増殖を減速させるかまたは細菌を殺傷するトリアフルオシルの濃度が低いことを意味する。
【0111】
実施例6:トリアフルオシルは、表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成を防止する。
【0112】
バイオフィルム形成に対するトリアフルオシルの効果を研究するために、早期対数増殖期(5×108CFU/ml)の表皮ブドウ球菌を24ウェルプレートにプレーティングし、静止状態にて37℃で4時間ウェルの底に接着させた。4時間のインキュベーション後、プランクトン様の細菌を除去し、そして、接着細菌をTSB中で2回洗浄した。0.25%グルコースを補充したまたは補充していない新鮮TSB培地を、5種の異なる濃度のトリアフルオシルと共にウェルに加え、24時間インキュベートした。ウェルを0.9%NaClで3回洗浄し、dH2O中1%クリスタルバイオレット溶液と共にRTで1時間インキュベートして、バイオフィルムを染色した。
【0113】
ウェルをdH2Oで3回洗浄して、未結合のクリスタルバイオレットを排除し、次いで、10%酢酸400μlを加えて、RTで10分間インキュベートした。吸光度を570nmで3回反復で(in triplicate)測定し、これはバイオフィルムの総バイオマス(生細菌および死細菌)を反映する。
【0114】
トリアフルオシルは、バイオフィルム形成に影響を及ぼした(
図6):既に、5μg/mlで、グルコースの非存在下、トリアフルオシルはバイオフィルム形成を50%阻害したが、グルコースの存在下では、本発明者らは、わずか20μg/mlのトリアフルオシルで50%のバイオフィルム低下を達成する。
【0115】
バイオフィルム形成を少なくとも90%阻害するトリアフルオシルの濃度は、最小バイオフィルム阻害濃度(MBIC)と呼ばれる。表皮ブドウ球菌に対するトリアフルオシルのMBICは、グルコースの存在下および非存在下の両方で50μg/mlである。
【0116】
実施例7:トリアフルオシルは、表皮ブドウ球菌の成熟バイオフィルムを破壊する。
【0117】
別の実験では、本発明者らは、0.5×10
8CFU/mlの表皮ブドウ球菌細胞を4時間接着させ、0.25%グルコースの存在下でさらに24時間バイオフィルムを形成させ、この時点で、本発明者らは、0.25%グルコースを含むTSB中、数種の濃度のトリアフルオシルでバイオフィルムを24時間処理し、生存数(
図7)、ならびに生細胞の百分率を、BacLight細菌生死判別キット(Molecular Probes)を使用して決定した。
【0118】
バイオフィルム分析のために、本発明者らは、まず、バイオフィルムを洗浄して全てのプランクトン様の細菌を排除し、次いで、スクレーパーを使用してバイオフィルムを機械的に剥がした。バイオフィルム由来の凝集体が完全に分離されるようにするために、細胞の懸濁液を針(0.5×16mm)に通過させ、そして、希釈液をTSAプレート上にプレーティングした。
【0119】
最高濃度のトリアフルオシル(50μg/ml)だけが、バイオフィルム中の生存細胞数の低下に有効であり、ほぼ3logの低下(対照の1.1×108CFU/mlから1.5×105CFU/ml)であった。
【0120】
同じ実験で、本発明者らはまた、生細菌および死細菌の割合を決定した。そのために、本発明者らは、Molecular Probes製のLIVE/DEADキットの手順に従った。簡潔に述べると、バイオフィルムを0.9%NaCl溶液に再懸濁し、そして、細胞を、暗所にてSYTO9(緑色蛍光)とヨウ化プロピジウム(PI)(赤色蛍光)の混合物で15分染色した。染色した細胞を96ウェルプレートに移し、そして、Enspire分光光度計を使用して470nmの励起波長および490~700nmの範囲の発光スペクトルで蛍光を測定した。SYTO9色素(緑色蛍光500~520nm)は、全ての細胞(死および生)に浸透してDNAに結合するが、PI(610~630nmの範囲で赤色蛍光)は、損傷した細胞膜を有する死細胞にのみ侵入する。PIおよびSYTO9が同じ細胞内にあるとき、緑色蛍光強度は減少する。それゆえ、死細胞の割合の高い細胞の集団では、より多くのPI染色があるので、緑色蛍光の発光スペクトルの低下がある。蛍光強度の比率(緑色/生)を既知の生細胞の割合に対してプロットすることで標準曲線が得られ、そして、外挿によって本発明者らの試料中の生細胞の割合が得られる(
図7)。トリアフルオシルは、20μg/mlおよび50μg/mlの濃度で、生細菌の割合をそれぞれ80%および30%に低下させた。
【0121】
実施例8:表皮ブドウ球菌に対するトリアフルオシルの抗菌効果:最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)の決定
【0122】
トリアフルオシルの最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)を、表皮ブドウ球菌(ATCC 35984、RP62Aとしても公知)において、EUCAST(欧州抗微生物薬感受性試験委員会)の推奨事項に従って決定した。
【0123】
簡潔に述べると、トリプティックソイアガー(Tryptic Soy Agar)(TSA)プレート上で増殖した単一コロニーを、トリプティックソイブロス(TSB)中に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日にミュラーヒントンブロス(MHB)中の1:50接種材料を好気条件で3時間インキュベートし、そして、3×105CFU/mlに相当する1:100希釈液の接種材料を、異なる濃度のトリアフルオシル(1%DMSO(ビヒクル)中)の存在下または非存在下でインキュベートした。O/N増殖させた後、分光光度計で各培養物のODを600nmで測定した(OD600)。MICは、目で見える細菌増殖がない、すなわち600nmでのΔODがゼロに等しい濃度を表す(ブランクは培地単独である)。
【0124】
本発明者らはまた、MBC(すなわち、液体培養物が、TSAプレート上に広げられたときに、コロニーを全く生じない)を決定した。
【0125】
表皮ブドウ球菌に対するトリアフルオシルのMICは、12±3μg/mlに等しく、そして、MBCは、17±3μg/mlである(2つの生物学的反復、検出限界10-3)。
【0126】
トリアフルオシルによる99.9%の表皮ブドウ球菌を殺傷するための最小継続時間(MDK99.9)(EUCASTに従う耐性測定基準)は、2時間であった。
【0127】
実施例9:黄色ブドウ球菌に対するトリアフルオシルの抗菌効果:最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)の決定
【0128】
臨床的に有意義なグラム陽性細菌株として異なる黄色ブドウ球菌株:ATCC 25904、ATCC 6538、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC BAA-1556、グリコペプチド低感受性耐性(GISA)黄色ブドウ球菌Mu-50(ATCC 700695)を使用して、細菌増殖を防止するために必要な最小濃度である最小阻害濃度(MIC);抗菌剤が特定の微生物を殺傷する最低濃度を決定する最小殺菌濃度(MBC)およびEUCASTに従う耐性測定基準である99.9%の細菌を殺傷するための最小継続時間(MDK99.9)を決定するために、さらなる実験を実施した。
【0129】
MICの決定:異なる黄色ブドウ球菌株から選択された単一コロニーを適切な培地に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日にミュラーヒントンブロス(MHB)中の1:100接種材料を好気条件で3時間インキュベートし(OD=0.08~0.1)、そして、3×105CFU/mlに相当する1:300希釈液の接種材料を、異なる濃度のトリアフルオシル(1%DMSO中)の存在下または非存在下でインキュベートした。O/N増殖させた後、分光光度計で各培養物のODを600nmで測定した(OD600)。MICは、目で見える細菌増殖がない、すなわち600nmでのΔODがゼロに等しい濃度を表す(ブランクは培地単独である)。黄色ブドウ球菌ATCC 25904、ATCC 6538、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC BAA-1556、グリコペプチド低感受性耐性(GISA)、および黄色ブドウ球菌Mu-50(ATCC 700695)に対するトリアフルオシルのMICは、それぞれ、20、20、15、および20μg/mlであった。
【0130】
MBCおよびMDK99.9の決定:異なる黄色ブドウ球菌株から選択された単一コロニーを適切な培地(TSB、またはBHI)に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日に適切な培地中の1:100接種材料を好気条件で2時間インキュベートした。次いで、培養物を、MIC濃度またはより高い濃度のトリアフルオシルで試験する(challenged)。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。24時間内に開始接種材料の少なくとも99.9%を殺傷する濃度は、MBCとして定義される。そして、必要な実時間は、MDK99.9として定義される。黄色ブドウ球菌ATCC 25904、ATCC 6538、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC BAA-1556、グリコペプチド低感受性耐性(GISA)、および黄色ブドウ球菌Mu-50(ATCC 700695)に対するトリアフルオシルのMBCは、それらの各々について20μg/mlであった。黄色ブドウ球菌ATCC 25904、ATCC 6538、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC BAA-1556、グリコペプチド低感受性耐性(GISA)、および黄色ブドウ球菌Mu-50(ATCC 700695)に対するトリアフルオシルのMDK99.9は、それぞれ、10、6、2、および14時間であった。
【0131】
実施例10:E.フェカーリスに対するトリアフルオシルの抗菌効果:最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)の決定
【0132】
臨床的に有意義なグラム陽性細菌株として異なるE.フェカーリス株:バンコマイシン耐性E.フェカーリス(VRE)ATCC BAA-2365、およびE.フェカーリスATCC 29212を使用して、細菌増殖を防止するために必要な最小濃度である最小阻害濃度(MIC);抗菌剤が特定の微生物を殺傷する最低濃度を決定する最小殺菌濃度(MBC)およびEUCASTに従う耐性測定基準である99.9%の細菌を殺傷するための最小継続時間(MDK99.9)を決定するために、さらなる実験を実施した。
【0133】
MICの決定:異なるE.フェカーリス株から選択された単一コロニーを適切な培地に再懸濁し、好気条件(37°Cで、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日にミュラーヒントンブロス(MHB)中の1:100接種材料を好気条件で3時間インキュベートし(OD=0.08~0.1)、そして、3×105CFU/mlに相当する1:300希釈液の接種材料を、異なる濃度のトリアフルオシル(1%DMSO中)の存在下または非存在下でインキュベートした。O/N増殖させた後、分光光度計で各培養物のODを600nmで測定した(OD600)。MICは、目で見える細菌増殖がない、すなわち600nmでのΔODがゼロに等しい濃度を表す(ブランクは培地単独である)。バンコマイシン耐性E.フェカーリス(VRE)ATCC BAA-2365、およびE.フェカーリスATCC 29212に対するトリアフルオシルのMICは、それぞれ、20および40μg/mlであった。
【0134】
MBCおよびMDK99.9の決定:異なるE.フェカーリス株から選択された単一コロニーを適切な培地(TSB、またはBHI)に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日に適切な培地中の1:100接種材料を好気条件で2時間インキュベートした。次いで、培養物を、MIC濃度またはより高い濃度のトリアフルオシルで試験する。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。24時間内に開始接種材料の少なくとも99.9%を殺傷する濃度は、MBCとして定義される。そして、必要な実時間は、MDK99.9として定義される。バンコマイシン耐性E.フェカーリス(VRE)ATCC BAA-2365に対するトリアフルオシルのMBCは、20μg/mlであった。バンコマイシン耐性E.フェカーリス(VRE)ATCC BAA-2365に対するトリアフルオシルのMDK99.9は、24時間であった。
【0135】
実施例11:ストレプトコッカス・アガラクティエに対するトリアフルオシルの抗菌効果:最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)の決定
【0136】
臨床的に有意義なグラム陽性細菌株としてS.アガラクティエ(ATCC 12386)を使用して、細菌増殖を防止するために必要な最小濃度である最小阻害濃度(MIC);抗菌剤が特定の微生物を殺傷する最低濃度を決定する最小殺菌濃度(MBC)およびEUCASTに従う耐性測定基準である99.9%の細菌を殺傷するための最小継続時間(MDK99.9)を決定するために、さらなる実験を実施した。
【0137】
MICの決定:異なるS.アガラクティエ(ATCC 12386)株から選択された単一コロニーを適切な培地に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日にミュラーヒントンブロス(MHB)中の1:100接種材料を好気条件で3時間インキュベートし(OD=0.08~0.1)、そして、3×105CFU/mlに相当する1:300希釈液の接種材料を、異なる濃度のトリアフルオシル(1%DMSO中)の存在下または非存在下でインキュベートした。O/N増殖させた後、分光光度計で各培養物のODを600nmで測定した(OD600)。MICは、目で見える細菌増殖がない、すなわち600nmでのΔODがゼロに等しい濃度を表す(ブランクは培地単独である)。S.アガラクティエ(ATCC 12386)に対するトリアフルオシルのMICは、40μg/mlであった。
【0138】
MBCおよびMDK99.9の決定:S.アガラクティエ(ATCC 12386)から選択された単一コロニーを適切な培地(TSB、またはBHI)に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日に適切な培地中の1:100接種材料を好気条件で2時間インキュベートした。次いで、培養物を、MIC濃度またはより高い濃度のトリアフルオシルで試験する。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。24時間内に開始接種材料の少なくとも99.9%を殺傷する濃度は、MBCとして定義される。そして、必要な実時間は、MDK99.9として定義される。S.アガラクティエ(ATCC 12386)に対するトリアフルオシルのMBCは、40μg/mlであった。S.アガラクティエ(ATCC 12386)に対するトリアフルオシルのMDK99.9は、1時間であった。
【0139】
全ての実験の結果を表1および
図8A、B、Cに図示し、MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌;GISA:グリコペプチド低感受性耐性黄色ブドウ球菌;VRE:バンコマイシン耐性E.フェカーリスなどの耐性株に対するトリアフルオシルの効果を示す。
【0140】
【0141】
図8Aはまた、MRSAに対するトリアフルオシル、バンコマイシンおよびミノサイクリンの抗菌効果の比較を図示する。
【0142】
黄色ブドウ球菌MRSA(ATCC BAA-1556)をブレインハートインフュージョン(BHI)培地中で一晩増殖させ、新鮮BHI中で1:100希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.25~0.3)まで37℃で好気的にインキュベートした。
【0143】
トリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)(20μg/ml)、バンコマイシン(Sigma、4μg/mlまたは10μg/ml)、ミノサイクリン(Sigma、8μg/ml)または溶媒(DMSO)を、黄色ブドウ球菌MRSA懸濁液5mlに加えた。
【0144】
異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって、黄色ブドウ球菌MRSAについての細菌増殖を測定した。
【0145】
トリアフルオシルは、最初の2時間後という早い段階で、黄色ブドウ球菌MRSAの生存数の減少を引き起こしたが、その時点で、バンコマイシンおよびミノサイクリンの、それぞれMICの10倍および8倍に等しい投与量は、効果的でなかったことが明らかに観察される。24時間の実験にわたって、バンコマイシンおよびミノサイクリンの殺菌効果は、トリアフルオシルの殺菌効果よりも有効性が劣ったままであった。
【0146】
図8B)は、黄色ブドウ球菌GISAに対するトリアフルオシルおよびミノサイクリンの抗菌効果の比較を図示する。
【0147】
黄色ブドウ球菌Mu50 GISAをブレインハートインフュージョン(BHI)培地中で一晩増殖させ、新鮮BHI中で1:100希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.25~0.3)まで37℃で好気的にインキュベートした。
【0148】
次いで、トリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)(20μg/ml)、ミノサイクリン(Sigma、8μg/ml)またはビヒクル(DMSO)を細菌懸濁液5mlに加えた。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。
【0149】
ここでもまた、トリアフルオシル(20μg/ml)は、高用量のミノサイクリン(10μg/ml)よりも素早くかつ有効な抗菌効果を有していた。
【0150】
図8Cは、E.フェカーリスVREに対するトリアフルオシルおよびミノサイクリンの比較を図示する。
【0151】
E.フェカーリスVRE(ATCC BAA-2365)をブレインハートインフュージョン(BHI)培地中で一晩増殖させ、新鮮BHI中で1:100希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.2~0.25)まで37℃で好気的にインキュベートした。
【0152】
次いで、トリアフルオシル(Cayman Chemical、商品番号15425)(20μg/ml)、ミノサイクリン(Sigma、10μg/ml)またはビヒクル(DMSO)を細菌懸濁液5mlに加えた。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した。
【0153】
ここで、トリアフルオシル(20μg/ml)は殺菌効果を示したが、高用量のミノサイクリン(10μg/ml)は静菌性だけであった。
【0154】
実施例9:グラム陽性細菌株:黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、E.フェカーリスに対するフルオメタシルの抗菌効果
【0155】
感受性試験:MICおよびMBCの決定:
【0156】
EUCAST(欧州抗微生物薬感受性試験委員会)の推奨事項に従って数種のグラム陽性株に対するフルオメタシルの最小阻害濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)を決定した(表2)。
【0157】
MICの決定のために、単一コロニーを、適切な細菌特異的培地(黄色ブドウ球菌atcc 25904および表皮ブドウ球菌についてはTSB:トリプティックソイブロス、他の全ての株についてはBHI:ブレインハートインフュージョン培地)中に再懸濁して、好気条件(37℃で、220rpmで振盪しながら)で一晩(O/N)培養し、翌日に1:100接種材料をミュラーヒントンブロス(MHB)中、好気条件で3時間インキュベートした(OD600=0.08~0.1)。3×105CFU/mlに相当するMHB培養物の1:300希釈液のさらなる接種材料を、MHB中、異なる濃度のフルオメタシル(1%DMSO中)の存在下又は非存在下で20時間増殖させた。
【0158】
MBCの決定のために、O/N培養物の1:100接種材料(前のように調製した)を、細菌特異的培地中、好気条件で2時間インキュベートした。次いで、培養物をMIC濃度以上のフルオメタシルで試験した。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液を細菌特異的培地寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位(CFU)を計数することによって細菌増殖を測定した。24時間以内に開始接種材料の少なくとも99.9%を殺傷する濃度は、MBCとして定義される。
【0159】
【0160】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するフルオメタシルの時間-殺菌研究
黄色ブドウ球菌MRSA(ATCC BAA-1556)をBHI培地中で一晩増殖させ、次いで、1:100接種材料を新鮮BHI中で希釈し、そして、細菌増殖が対数増殖期に達する(OD600=0.25~0.3)まで37℃で好気的にインキュベートした。培養物を2つに分割し、これらを38μMのフルオメタシル(=18.2μg/ml)またはDMSO(対照)で試験した。異なる時間間隔後に、適切な培養希釈液をBHI寒天プレート上にプレーティングした後、コロニー形成単位を計数することによって細菌増殖を測定した(N=2)。
【0161】
実施例10:バイオフィルム形成に対するフルオメタシルの抗菌効果
黄色ブドウ球菌(ATCC 25904)または表皮ブドウ球菌(ATCC 35984)をTSB培地中で一晩増殖させた後、新鮮TSB中で100倍希釈し、そして、細菌培養物がOD
6000.6(およそ1~3×10
8CFU/mlに相当する)に達するまで37℃で好気的にインキュベートした。次いで、細菌培養物を新鮮TSB中で1×10
4CFU/mlに希釈した。希釈した細菌懸濁液のアリコート800μlを、24ウェルプレートの各ウェルに分注した。細菌を、静止条件下37℃で4時間接着させた。培地を除去した後、ウェルをPBSで2回すすいでプランクトン様の細菌を排除し、所望の濃度のフルオメタシルまたはDMSO単独(対照)を含有する0.5%グルコースを補充したTSBを再充填した。24ウェルプレートを37℃で20時間インキュベートした。次いで、ウェルを洗浄し、0.5%(w/v)クリスタルバイオレットで30分間染色して、PBSで4回すすいだ。20%酢酸(水中のv/v)を加えることによって色素を可溶化した後、595nmで吸光度を読み取った。
図10Aおよび
図10Bは、それぞれ、試験した全ての濃度での黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成に対するフルオメタシルの効果を示す。38μMのフルオメタシルの存在下で、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌は共に、バイオフィルムを形成することが全くできなかった。