(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】細菌感染症用ダチョウ抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220519BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220519BHJP
A23G 3/44 20060101ALI20220519BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P31/04
A23G3/44
A23L33/17
(21)【出願番号】P 2019550487
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2018040729
(87)【国際公開番号】W WO2019088230
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/039828
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508198535
【氏名又は名称】オーストリッチファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康浩
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169142(JP,A)
【文献】特表2013-505289(JP,A)
【文献】特開2017-184669(JP,A)
【文献】Brazilian Journal of Microbiology,2012年,43(2),544-551
【文献】Infection and Immunity,1998年,66(5),2018-2025
【文献】Acta Medica Okayama,2010年,64(3),163-170
【文献】Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis,2009年,57,377-382
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 31/04
A23G 3/44
A23L 33/17
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clostridium difficileを含む消化管内感染性細菌の感染症処置用組成物であって、
Clostridium difficile毒素Aおよび毒素Bのうちの少なくとも1つを免疫原とするダチョウ抗体を含む、組成物。
【請求項2】
前記感染症が消化管感染症である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記感染症が、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸および肛門のうちの少なくとも1つの場所における感染症を含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項4】
前記免疫原が、Clostridium difficile
の毒素A
の免疫原および毒素B
の免疫原を含む、請求項
1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記感染症が、前記細菌の薬剤耐性菌によるものである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
経口投与用の医薬組成物である、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
食品組成物である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
キャンディーである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
Clostridium difficileを含む消化管内感染性細菌の感染症処置用組成物を製造する方法であって、
Clostridium difficile毒素Aおよび毒素Bのうちの少なくとも1つを免疫原として雌ダチョウに接種する工程、
前記雌ダチョウの卵の卵黄から抗体を精製する工程、および
前記抗体を使用して前記組成物を調製する工程
を含む、方法。
【請求項11】
前記免疫原が、Clostridium difficileの毒素Aの免疫原および毒素Bの免疫原を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染症の処置のためのダチョウ抗体含有組成物、およびダチョウ抗体を用いる細菌感染症処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質の開発は進められてきたものの、細菌感染症は依然として重要な治療対象の1つである。また、近年では抗生物質に対して耐性を獲得する薬剤耐性菌も出現し、その感染症が問題となっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者は、細菌由来の成分を免疫原として投与したダチョウから得られた抗体が細菌感染症の処置に有効であることを予想外に発見し、本発明を完成させた。実施例に記載されるように、驚くべきことに、ダチョウ抗体は同じ免疫原を用いてトリから得られた抗体よりも有意に優れた治療効果を有した。さらに、ダチョウ抗体は、免疫原として用いた細菌から派生した薬剤耐性菌による感染にも効果を奏することが予想外に明らかになった。また、本発明のダチョウ抗体は、消化管内で優れた安定性を示すことが予想外に明らかになった。さらに、本発明のダチョウ抗体は、キャンディーとして製剤化した場合に優れた安定性を示すことも予想外に明らかになった。
【0004】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目X1)
消化管内感染性細菌の感染症処置用組成物であって、前記細菌由来成分を免疫原とするダチョウ抗体を含む、組成物。
(項目X2)
前記細菌が、Clostridium difficile、Vibrio cholera、Staohylococcus aureus、緑膿菌、腸内細菌科細菌、エンテロコッカス・フェシウム、ヘリコバクター・ピロリ、カンピロバクター、サルモネラ菌および赤痢菌からなる群から選択される、項目X1に記載の組成物。
(項目X3)
前記感染症が消化管感染症である、項目X1または2に記載の組成物。
(項目X4)
前記感染症が、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸および肛門のうちの少なくとも1つの場所における感染症を含む、項目X1または2に記載の組成物。
(項目X5)
前記細菌由来成分が、前記細菌の菌体、ホモジネート、毒素、酵素、多糖類、色素、細胞壁、細胞質、芽胞、鞭毛、線毛、またはそれらの一部、あるいはこれらの任意の組み合わせを含む、項目X1~4のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X6)
前記細菌が、Clostridium difficileを含む、項目X1~5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X7)
前記免疫原が、Clostridium difficile毒素Aおよび毒素Bのうちの少なくとも1つを含む、項目X6に記載の組成物。
(項目X8)
前記細菌が、Vibrio choleraを含む、項目X1~5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X9)
前記免疫原が、Vibrio cholera毒素を含む、項目X8に記載の組成物。
(項目X10)
前記細菌が、Staphylococcus aureusを含む、項目X1~5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X11)
前記免疫原が、Staphylococcus aureusのホモジネートを含む、項目X10に記載の組成物。
(項目X12)
前記感染症が、前記細菌の薬剤耐性菌によるものである、項目X1~11のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X13)
前記細菌由来成分が、前記細菌のホモジネートを含む、項目X12に記載の組成物。
(項目X14)
前記細菌が、メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含む、項目X8に従属する場合の項目X13に記載の組成物。
(項目X15)
医薬組成物である、項目X1~14のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X16)
経口投与用の医薬組成物である、項目X15に記載の組成物。
(項目X17)
食品組成物である、項目X1~14のいずれか1項に記載の組成物。
(項目X18)
キャンディーである、項目X1~17のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y1)細菌の感染症処置用組成物であって、上記細菌由来成分を免疫原とするダチョウ抗体を含む、組成物。
(項目Y2)上記感染症が消化管感染症である、項目Y1に記載の組成物。
(項目Y3)上記細菌由来成分が、上記細菌の菌体、ホモジネート、毒素、細胞質、細胞壁またはこれらの任意の組み合わせを含む、項目Y1または2に記載の組成物。
(項目Y4)上記細菌がClostridium difficileである、項目Y1~3のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y5)上記免疫原がClostridium difficile毒素Aおよび/または毒素Bである、項目Y4に記載の組成物。
(項目Y6)上記細菌がVibrio choleraである、項目Y1~3のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y7)上記免疫原がVibrio cholera毒素である、項目Y6に記載の組成物。
(項目Y8)上記細菌がStaphylococcus aureusである、項目Y1~3のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y9)上記免疫原がStaphylococcus aureusのホモジネートである、項目Y8に記載の組成物。
(項目Y10)上記感染症が、上記細菌の薬剤耐性菌によるものである、項目Y1~9のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y11)上記細菌由来成分が、上記細菌のホモジネートである、項目Y10に記載の組成物。
(項目Y12)上記細菌がメチシリン耐性Staphylococcus aureusである、項目Y8に従属する場合の項目Y10に記載の組成物。
(項目Y13)医薬組成物である、項目Y1~12のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y14)経口投与用の医薬組成物である、項目Y13に記載の組成物。
(項目Y15)食品組成物である、項目Y1~12のいずれか1項に記載の組成物。
(項目Y16)キャンディーである、項目Y12~15のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0005】
本発明の、細菌由来の成分を免疫原として投与したダチョウから得られた抗体は、細菌感染症の処置に有効であり得る。また、薬剤耐性菌による感染症にも本発明のダチョウ抗体は有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、クロストリディウム・ディフィシル毒素Aによる3T3細胞の細胞変性に対する、ダチョウIgY抗体およびニワトリIgY抗体の効果を示す。
【
図2】
図2は、クロストリディウム・ディフィシル毒素Aによる3T3細胞の細胞変性に対する、ダチョウIgY抗体およびニワトリIgY抗体の効果を示す。
【
図3】
図3は、ダチョウIgY抗体接種マウスにおける、クロストリディウム・ディフィシル毒素A投与後の生存曲線を示す。
【
図4】
図4は、ニワトリIgY抗体接種マウスにおける、クロストリディウム・ディフィシル毒素A投与後の生存曲線を示す。
【
図5】
図5は、ダチョウIgY抗体接種マウスにおける、クロストリディウム・ディフィシル毒素B投与後の生存曲線を示す。
【
図6】
図6は、ニワトリIgY抗体接種マウスにおける、クロストリディウム・ディフィシル毒素B投与後の生存曲線を示す。
【
図7】
図7は、Vibrio choleraの毒素(CT)を免疫原とするダチョウIgY抗体のCTへの反応性を示す。
【
図8】
図8は、ダチョウ抗体とCTとを投与したハムスターの消化管病変の病理解剖写真を示す。
図8AはPre-immune IgYとCTを投与したハムスターの、
図8BはCTで免疫したダチョウIgYとCTを投与したハムスターの結果である。
【
図9】
図9は、ダチョウ抗体キャンディーとCTとを投与したハムスターの消化管病変の病理解剖写真を示す。
図9AはPre-immune IgYキャンディーとCTを投与したハムスターの、
図8BはCTで免疫したダチョウIgYキャンディーとCTを投与したハムスターの結果である。
【
図10】
図10は、ダチョウ抗体キャンディーとCTとを投与したハムスターにおける臓器重量を示す。
【
図11】
図11は、ダチョウIgY抗体によるS.aureusの増殖抑制試験の結果を示す。
【
図12】
図12は、ダチョウIgY抗体によるMRSAの増殖抑制試験の結果を示す。
【
図13】
図13は、ウサギIgG抗体によるS.aureusの増殖抑制試験の結果を示す。
【
図14】
図14は、ウサギIgG抗体によるMRSAの増殖抑制試験の結果を示す。
【
図15】
図15は、C.difficile毒素Aを免疫原とするダチョウ抗体およびニワトリ抗体を経口投与したマウスの糞中の抗体活性を時間経過とともに示す。
【
図16】
図16は、C.difficile毒素Bを免疫原とするダチョウ抗体およびニワトリ抗体を経口投与したマウスの糞中の抗体活性を時間経過とともに示す。
【
図17】
図17は、コレラ毒素を免疫原とするダチョウ抗体およびニワトリ抗体を経口投与したマウスの糞中の抗体活性を時間経過とともに示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0008】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0009】
(定義)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0010】
本明細書において、「約」とは、示される値の±10%の変動までが許容されることを指す。
【0011】
本明細書において、疾患の「処置」とは、疾患の予防および治療の両方の概念を包含する。
【0012】
本明細書において、「被験体」とは、任意のヒトまたは非ヒトの動物を意味する。例えば、本発明の方法および組成物を、細菌感染症に罹患した被験体の治療に、または細菌感染症に罹患するリスクのある被検体の予防に用いることができる。
【0013】
本明細書において、「免疫原」とは、それに結合する抗体を取得しようとする標的物質を指す。免疫原は、例えば、細胞、細胞内成分、細胞外成分、細胞膜、細胞壁、生物の分泌物またはアレルギー物質などであり得、ここで、免疫原は、精製されていても、未精製でもよい。
【0014】
本明細書において、ある細菌の「薬剤耐性菌」とは、当該細菌が変異等により、当該細菌には有効な薬剤(特に、抗生物質)に対する耐性を獲得した細菌をいう。
【0015】
(ダチョウ抗体)
本発明のダチョウ抗体は、細菌由来成分を免疫原として雌ダチョウに接種し、その卵黄から回収することによって得られるIgY抗体であり得る。本明細書において、ある物質を免疫原として得られる抗体には、ダチョウに当該物質を投与した場合に産生される抗体、および抗原結合性を変化させないようにこの抗体を改変した抗体が含まれる。例えば、このような改変された抗体として、CDRを変化させないように改変した抗体、定常ドメインのみを改変した抗体が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、任意の周知の技術を使用してこのような抗体を作製することができる。また、当業者であれば、免疫原である物質が特定されれば、いずれの抗体がこの物質を免疫原として得られる抗体であるかを容易に特定することができる。一つの実施形態では、本発明の抗体は、ダチョウにおいて産生された抗体をさらに改変したものであってもよい。
【0016】
一つの実施形態では、本発明の抗体はポリクローナル抗体であってよく、ここで、ポリクローナル抗体は単一の物質(例えば、単一種の微生物、単一種のタンパク質など)を免疫原として得られる抗体であってもよいし、複数の物質(例えば、複数種の微生物、単一種の微生物における複数種のタンパク質など)を免疫原として得られる抗体であってもよい。一つの実施形態では、本発明の抗体は、単離、精製または濃縮された特定の1種または複数種の抗体であってもよい。一つの実施形態では、本発明の抗体または本発明の抗体のうちの少なくとも1種類は、当該抗体を得る際に使用した免疫原またはその成分に結合または特異的に結合する。
【0017】
細菌由来成分は、細菌に由来する任意の成分であり得、代表的には未処理の菌体、細菌ホモジネート、細菌が産生する毒素、酵素、多糖類、もしくは色素、細菌の細胞壁もしくは細胞質、芽胞、鞭毛または線毛、あるいはそれらの一部であり得、好ましくは細菌のホモジネートまたは毒素であり得る。好ましくは、免疫原としての細菌由来成分はホモジネートである。好ましくは、免疫原としての細菌由来成分は、細菌が産生する毒素、例えば、内毒素、外毒素、莢膜、芽胞であり得る。例えば、細菌成分として、エンテロトキシン、TSST-1、コアグラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、プロテインA、ピオシアニン、ピオベルジン、ピオルビン、エキソトキシンA、ヘモリジン、アルカリペプチダーゼ、エラスターゼ、エキソエンザイムS、ラムノリピド、カビ毒素:マイコトキシンなどが挙げられ、本発明の抗体または本発明の抗体のうちの少なくとも1種は、これらの成分のいずれかに結合または特異的に結合し得る。薬剤耐性菌による感染症の処置のためには、細菌のホモジネートを免疫原としたダチョウ抗体が好ましくあり得る。
【0018】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物において使用される抗体は、Clostridium difficileのホモジネート、毒素Aおよび/または毒素Bを免疫原としてダチョウを免疫することによって得られた抗体であり得る。別の好ましい実施形態においては、本発明の組成物において使用される抗体は、Vibrio choleraのホモジネートおよび/またはコレラ毒素を免疫原としてダチョウを免疫することによって得られた抗体であり得る。別の好ましい実施形態においては、本発明の組成物において使用される抗体は、Staohylococcus aureusのホモジネートおよび/またはコレラ毒素を免疫原としてダチョウを免疫することによって得られた抗体であり得る。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、免疫原は、菌体またはアレルゲンをリン酸緩衝液(PBS)中でホモジナイザーによってホモジナイズすることによって得ることができる。ホモジナイズは、pH約6~約8、好ましくはpH約7において、冷蔵下(4度)で行い得る。ホモジナイザーとしては、タンパク抽出用の高回転の機械を用いることができる。好ましくは、ホモジナイザー後は遠心分離をせずにそのまま、その液体を免疫原として鳥類を免疫する。プロテアーゼ阻害剤や安定化剤は使用しないが、トレハロースを液体の4%となるように追加してもよい。さらに、このようにして得られた液体をアジュバントに混和して免疫してもよいが、アジュバントを用いなくても抗体は産生され得る。
【0020】
本発明はまた、細菌感染症の処置に有用なダチョウ抗体の製造方法も提供し得る。公知の方法を利用して、雌のダチョウから本発明の抗体を取得することができる。免疫の際には、免疫原とともにアジュバンド、塩および安定化剤などの任意の添加成分を利用することができる。また、免疫の際には、免疫原は、任意の好適な条件(例えば、投与量、投与部位、pH、温度など)で投与できる。免疫は、初回免疫の後、追加免疫を行ってもよい。
ダチョウへの免疫は、代表的には、以下のように行われるが、これに限定されない。
・初回免疫:フロイントの完全アジュバントなどの適切なアジュバントに免疫原を混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種する。
・追加免疫:初回免疫後、隔週毎に3回追加免疫する。フロイントの不完全アジュバントなどの適切なアジュバントに免疫原を混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種する。
追加免疫2週後以降に産卵されるダチョウ卵より抗体を精製する。
【0021】
(細菌感染症)
本発明のダチョウ抗体は、細菌由来の成分を免疫原としてダチョウから産生するものであり、当該細菌の感染症の処置に有用であり得る。
【0022】
本発明のダチョウ抗体が感染症処置に有用な細菌は、Clostridium difficile(C.difficile;クロストリディウム・ディフィシル)、Vibrio cholera(V.cholera;ビブリオ・コレラ)、Staohylococcus aureus(S.aureus;黄色ブドウ球菌)、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、腸内細菌科細菌、エンテロコッカス・フェシウム、ヘリコバクター・ピロリ、カンピロバクター、サルモネラ菌、淋病菌、肺炎レンサ球菌、赤痢菌、インフルエンザ菌、結核菌などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のダチョウ抗体は、経口投与した場合であっても消化管全体(胃、小腸および大腸を含む)に活性を保持したまま送達され得るため、消化管の深部(胃、小腸、大腸など)に病巣を形成する細菌による感染症に対しても経口投与による有効な処置を提供し得る。そのため、本発明は、特に経口投与の形態において、消化管内感染性細菌(例えば、上記細菌)を有効に処置する。1つの実施形態において、本発明の抗体により処置される細菌は、Clostridium difficile、Vibrio cholera、Staohylococcus aureus(例えば、薬剤耐性S.aureus)、緑膿菌、腸内細菌科細菌、エンテロコッカス・フェシウム、ヘリコバクター・ピロリ、カンピロバクター、サルモネラ菌および赤痢菌からなる群から選択される消化管内感染性細菌である。
【0023】
本発明のダチョウ抗体は、消化管感染症に有用であり得る。これは、以下に説明するとおり、本発明のダチョウ抗体が、食品(ドリンクを含む)に配合でき、消化管に簡便にアクセスできるからであるが、特に本発明のダチョウ抗体の用途は消化管感染症に限定されない。1つの実施形態において、本発明の抗体は、口内、食道、喉、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸および肛門のうちの少なくとも1つの場所における細菌感染症の処置を目的とし得る。好ましい実施形態において、本発明の抗体は、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸および肛門のうちの少なくとも1つの場所における細菌感染症の処置を目的とし得る。また、本発明のダチョウ抗体は、錠剤、液体、注射薬、皮膚塗布薬、点鼻薬、点眼薬、口腔内スプレー、洗浄薬など任意の剤形で投与され得る。
【0024】
本発明のダチョウ抗体は、細菌の感染症に有用であるだけでなく、当該細菌から派生し、薬剤耐性を獲得した薬剤耐性菌にも有用であり得る。薬剤耐性菌の薬剤耐性獲得のメカニズムはいくつかあるが、代表的には、薬剤分解酵素や修飾酵素の産生能の獲得、薬剤作用部位の変異、菌体内への薬剤侵入孔の減少、薬剤排出機構の獲得・増強などが挙げられる。理論に束縛されることを意図しないが、本発明のダチョウ抗体は、これらの耐性獲得機構とは異なる機構によって細菌の増殖や感染症を抑制することができるため、ある細菌を免疫原として作製したダチョウ抗体が、当該細菌から派生した薬剤耐性菌に対しても効果を発揮するものと考えられる。あるいは、本発明のダチョウ抗体は、細菌が抗生物質・薬剤の耐性のために変異して獲得し産生する蛋白合成酵素(例えば、細菌増殖のための酵素)、薬剤分解酵素などに対してダチョウ抗体が結合し、中和するものと考えられる。
【0025】
したがって、以下の実施例においてはS.aureusを免疫原として作製したダチョウ抗体がメチシリン耐性S.aureusにも有効であった具体例を記載したが、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の細菌と、その細菌から派生した任意の薬剤に対する耐性菌に本発明の原理が適用され得ることが当業者には容易に理解される。
【0026】
(医薬およびその投与)
本発明は、被験体の細菌感染症の処置方法であって、当該細菌を免疫原として作製したダチョウ抗体を当該被験体に投与する工程を包含する処置方法も提供する。
【0027】
本明細書において「医薬」とは、当該分野でもっとも広義に解釈され、任意の薬を含み、薬事法上の医薬品、医薬部外品等のほか、人に適用するものだけでなく、動物に適用するもの(獣医薬)をも包含する概念として使用され、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクスの効果によって、それを必要とする疾患、障害または状態の治療または予防を意図する任意の用途の薬剤、組成物等を包含することが理解される。そのような例として、医療分野、獣医科学等における応用が挙げられる。通常、医薬は固体または液体の賦形剤を含むとともに、必要に応じて安定剤、pH調整剤、固形化剤(例えば、水あめ)、崩壊剤、香味剤、遅延放出剤、滑沢剤、結合剤、着色剤などの添加剤を含むことができる。医薬品の形態は、キャンディー、錠剤、注射剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、徐放製剤などを含むが、これらに限定されない。本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等は、医薬的に許容されうる一般的な担体または賦形剤などの成分と一緒にして医薬組成物とすることができる。
【0028】
本発明の抗体は、哺乳動物、好ましくはヒトに、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、鞘内、経口、局所的または吸入経路によって、ボーラスとしてかまたはある期間にわたる持続的注入によって、薬学的に許容される任意の投薬形態で投与され得る。本発明は特に消化管感染症に有用であり、消化管感染症の処置のためには消化管へ作用を及ぼしやすい経口投与が特に好ましい。1つの実施形態において、本発明の抗体の経口投与により、口内、食道、喉、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸および肛門において治療効果が奏され得る。1つの実施形態において、本発明のダチョウ抗体は、経口投与した場合に、胃を超えてその後の消化管(例えば、小腸および大腸)においても十分量が分解されずに活性であり得るという予想外の性質を示し得るため、特に経口投与による使用に適し得る。さらに消化管からの菌血症、毒血症などにも応用できる(例えば、ダチョウ抗体の注射により)。
【0029】
本発明の抗体の適切な投与量は、処置する細菌感染症の種類、重症度および経過、抗体を予防または治療のどちらの目的で投与するか、以前の治療、被検体の病歴および抗体への応答、ならびに主治医の自由裁量に依存し得る。本発明の抗体は、1回でまたは一連の処置にわたって適切に患者に投与され得る。
【0030】
本発明のダチョウ抗体は、感染症のタイプおよび重症度に応じて、抗体約1μg/kgから約20g/kgが、患者に投与するための最初の候補の投与量であり得る。
【0031】
本発明の抗体は、細菌感染症の処置に有用な他の薬剤(例えば抗生物質)と組み合わせて投与されてもよい。このような他の薬剤としては、βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系、クリンダマイシン系、ゲンタマイシン系、クロラムフェニコール系、マイトマイシン系、バンコマイシン系、メシチリン系、ナイスタチン系、カルバペネム系、アンフォテリシン系、ポリエーテル系、ペプチド系の抗生物質、スルホンアミド系、ニトロフラン系、イソニコチン酸ヒドラジド系、ピラジナマイド系、ヒ素化合物系、アンチモン化合物系、キノリン化合物系の化学療法薬などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
(食品)
本明細書において「食品」とは、当該分野で日常的に使用される意味を有し、人間が食することができるすべての食料(飲料を含む)を指し、一実施形態としては加工品を挙げることができる。たとえば菓子類、乳製品、穀類加工品などの加工食品に、本発明の成分、微生物、化合物、プロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクス等を混入させることができる。また、「健康食品」および「機能性食品」とは、業界で一般的に使用される意味を有し、腸内細菌叢バランスの改善等のプロバイオティクス、プレバイオティクスまたはシンバイオティクスのために特別に処方された、医薬品または一般の食品とは区別される食品の一種を指す。このような食品の例としては、例えば、食事前または食事とともに被験者に一定期間摂取させる食品を想定することができるがこれに限定されない。本発明の食品は、飲料も含み得る。
【0033】
1つの実施形態において、本発明は消化管感染症の処置(治療、予防またはその両方)を企図しているため、消化管において抗体が効力を発揮するように食品に含まれることが好ましい。
【0034】
1つの好ましい実施形態において、本発明の抗体はキャンディーによって被験体に経口投与され得る。
【0035】
特に、ダチョウの場合、卵黄抗体は酸やアルカリに強く、耐熱性が高い。具体的には、120℃でも抗体活性が維持され得る点に留意されたい。また、胃内の低pH環境でも抗体活性は維持され得、小腸内のアルカリ環境でも抗体活性は維持され得る。本発明者は、経口投与した本発明のダチョウ抗体は便中においても活性であり得ることを見出した。胃および小腸の過酷なpH環境および消化管(例えば、胃および小腸)に存在する種々のタンパク質分解酵素の存在にもかかわらず、便中において抗体活性が保持され得ることは予想外の発見であった。1つの実施形態において、キャンディーとして調製した本発明のダチョウ抗体は、ELISAによって評価した場合に、キャンディーとして調製する前の当該抗体と比較して、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも15%、少なくとも10%、少なくとも7%、少なくとも5%、少なくとも2%または少なくとも1%の免疫原結合性を保持する。キャンディー化によってある程度の免疫原結合性の低下が観察される場合もあり得るが、このような場合であっても、キャンディー化は有利であり得る。また、当業者であれば、活性低下を考慮して必要なレベルの活性が得られるようにキャンディーを調製することができる。
【0036】
本発明のキャンディーは、例えば、砂糖と水飴を混合して加熱した飴生地を60~110℃にした状態で、前記飴生地にダチョウ黄卵抗体1部に対して水または食用油脂1部~100部で溶解した溶解抗体を添加し、該溶解抗体が前記飴生地の全体に均一に分散されるまで冷却しながら混練して、そして所望形状に成形することによって製造され得る。このような高温での処理に耐えられるのはダチョウ抗体の1つの特徴である。1つの実施形態において、本発明のダチョウ抗体は、キャンディー内に封入することで、例えば溶液中と比較して、より長期間の保存安定性を達成し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、キャンディー中の自由水の少なさに起因して本発明のダチョウ抗体は安定化され得る。また、キャンディーとして製された本発明のダチョウ抗体は、携行に便利であり得る。
【実施例】
【0037】
(実施例1:ダチョウおよびニワトリにクロストリディウム・ディフィシル毒素を免疫して作製した卵黄抗体の反応性)
抗体作製方法:
Clostridium difficile毒素A(50μg)と毒素B(50μg)(ハーバード大学Ciaran P.Kelly教授提供)の混合液をフロイントの完全アジュバント0.2mLと混和し、いずれも成熟した雌のダチョウおよびニワトリにそれぞれ初回免疫した(計5羽のダチョウおよび5羽のニワトリに接種した)。ダチョウ1羽にもニワトリ1羽にも同量の抗原を接種した点に留意されたい。初回免疫後、2週目と4週目に上記と同量の抗原とフロイントの不完全アジュバントの混和液を、各鳥に追加免疫した。初回免疫後8週目に得られた各鳥からの卵の卵黄より卵黄抗体(IgY)を精製した。得られた卵黄抗体の反応性をELISAにより検証した。
【0038】
ELISA法:
96穴ELISAプレートの各穴に各毒素10μgを別々に固層化した(室温で4時間)。その後、ダチョウ抗体(各3羽のダチョウから得た卵黄からの抗体の混合物)、ニワトリ抗体(各3羽のニワトリから得た卵黄からの抗体の混合物)の段階希釈液(原液は2mg/mL)を各穴に滴下し、室温で1時間反応させた。洗浄後、各抗体に対するHRP標識2次抗体を室温で1時間反応させた。十分な洗浄後、ペルオキシダーゼ用発色キット(S-Bio SUMILON)を用いてプレートリーダーにて吸光度(450nm)を測定した。免疫前の各鳥種の卵黄抗体の2倍以上の吸光度値を示す最大希釈倍率をELISA値として示した。
【0039】
結果:
ダチョウおよびニワトリから毒素AおよびBに反応するIgY抗体が作製された。同量の抗原を免疫したのにもかかわらず、巨大なダチョウでも反応性が高い抗体が産生されており、ダチョウが少量の抗原から高感度の抗体を産生できることが理解される(表1)。毒素Aについてはダチョウ抗体とニワトリ抗体の反応性は同等であるが、毒素Bに関してはニワトリ抗体のほうがダチョウ抗体よりも反応性が高かった。
【0040】
【0041】
(実施例2:クロストリディウム・ディフィシル毒素を免疫して作製したIgY抗体の毒素中和化効果)
実施例1において作製したダチョウ抗体およびニワトリ抗体のクロストリディウム・ディフィシル毒素AおよびBに対する中和活性(不活性化)をin vitroで、およびマウスを用いた動物実験において検証した。
【0042】
In vitroでの中和活性:
96ウェルマイクロプレートに3T3細胞を培養し、各濃度のクロストリディウム・ディフィシル毒素A(10
-3、10
-2、10
-1、1、10μg/mL)を添加した。その後、全てのウェルにリン酸緩衝液(PBS)または実施例1において作製したClostridium difficile 毒素に対するダチョウIgY(ostrich IgY)(5mg/mL)またはニワトリIgY(chicken IgY)(10mg/mL)を添加した。48時間後に顕微鏡下で細胞を観察し、細胞変性効果を示すウェルの割合を算出した(
図1)。
【0043】
同様に96ウェルマイクロプレートに3T3細胞を培養し、各濃度のクロストリディウム・ディフィシル毒素B(10
-8から10
-1μg/mL)を添加した。その後、全てのウェルにリン酸緩衝液(PBS)または実施例1において作製したクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するダチョウIgY(ostrich IgY)(5mg/mL)またはニワトリIgY(chicken IgY)(10mg/mL)を添加した。48時間後に顕微鏡下で細胞を観察し、細胞変性効果を示すウェルの割合を算出した(
図2)。
【0044】
3T3細胞に毒素を添加すると、変性した細胞はウェル内で丸く浮かぶ。20%以上がこのような丸く浮いた細胞になったときに、毒素による細胞変性効果が生じたと判断した。
【0045】
PBS投与群(コントロール)およびニワトリIgY抗体と比較して、ダチョウIgYでは細胞変性効果が著しく抑制された。各毒素に対する反応性(ELISA)はダチョウIgYとニワトリIgYとで顕著な差はないが、細胞に対する毒素の不活性化(中和性)という点においては、ニワトリIgYではほとんど効果がないのに対してダチョウIgYでは予想外に効果的であった。
【0046】
結果として、ダチョウIgYは極めて高い細胞変性の抑制効果を示したが、ニワトリIgYはダチョウIgYの2倍量を添加したにもかかわらず、抑制効果がほとんど示されなかった。
【0047】
動物実験による検証:
クロストリディウム・ディフィシル毒素A
C54BLマウス(6週齢メス)に免疫前ダチョウIgY(preimmune Ostrich IgY)(ネガティブコントロール)または実施例1において作製したクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するダチョウIgY(Ostrich IgY against CDT)を、マウス1匹につきそれぞれ3mg腹腔内投与した(各IgYにつきマウス20匹)。2時間後に、致死量のクロストリディウム・ディフィシル毒素A(200ng/マウス)を腹腔内投与し、その後の生死を経時的に記録した(
図3)。Preimmune IgYを投与したマウスはクロストリディウム・ディフィシル毒素Aにより、100分までに全て死亡したが、クロストリディウム・ディフィシル毒素に対するダチョウIgY投与群では、すべてのマウスが生存した。つまり、クロストリディウム・ディフィシル毒素を免疫原として作製したダチョウIgY抗体はマウス体内でクロストリディウム・ディフィシル毒素Aを中和(不活性化)でき、致死を完全に抑制できることが示された。
【0048】
同様に、C54BLマウス(6週齢メス)に免疫前ニワトリIgY(preimmune Ostrich IgY)(ネガティブコントロール)または実施例1において作製したクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するニワトリIgY(chicken IgY against CDT)をマウス1匹につきそれぞれ6mg腹腔内投与した(各IgYにつきマウス20匹)。2時間後に、致死量のクロストリディウム・ディフィシル毒素A(200ng/マウス)を腹腔内投与し、その後の生死を経時的に記録した(
図4)。Preimmune IgYを投与したマウスもクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するニワトリIgYを投与したマウスもクロストリディウム・ディフィシル毒素Aにより、100分までに全て死亡した。つまり、クロストリディウム・ディフィシルに対するニワトリIgY抗体は、ダチョウIgYの2倍量をマウスに投与したにもかかわらず、クロストリディウム・ディフィシル毒素Aによる致死を全く抑制できないことが示された。
【0049】
クロストリディウム・ディフィシルB:
C57BLマウス(6週齢メス)に免疫前ダチョウIgY(preimmune Ostrich IgY)(ネガティブコントロールとして)または実施例1において作製したクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するダチョウIgY(Ostrich IgY against CDT)をマウス1匹につきそれぞれ3mg腹腔内投与した(各IgYにつきマウス20匹)。2時間後に、致死量のクロストリディウム・ディフィシル毒素B(200ng/マウス)を腹腔内投与し、その後の生死を経時的に記録した(
図5)。Preimmune IgYを投与したマウスはクロストリディウム・ディフィシル毒素Bにより、420分までに全て死亡したが、クロストリディウム・ディフィシル毒素を免疫原として作製したダチョウIgY抗体投与では、すべてが生存した。つまり、クロストリディウム・ディフィシル毒素を免疫原として作製したダチョウIgY抗体はマウス体内でクロストリディウム・ディフィシル毒素Bを中和(不活性化)でき、致死を完全に抑制できることが示された。
【0050】
同様に、C54BLマウス(6週齢メス)に免疫前ニワトリIgY(preimmune Ostrich IgY)(ネガティブコントロールとして)または実施例1において作製したクロストリディウム・ディフィシル毒素に対するニワトリIgY(chicken IgY against CDT)をマウス1匹につきそれぞれ6mg腹腔内投与した(各IgYにつきマウス20匹)。2時間後に、致死量のクロストリディウム・ディフィシル毒素B(200ng/マウス)を腹腔内投与し、その後の生死を経時的に記録した(
図6)。Preimmune IgYを投与したマウスはクロストリディウム・ディフィシル毒素Bにより100分までに全て死亡した。クロストリディウム・ディフィシルに対するニワトリIgY抗体を投与したマウスでは420分後では僅か20%が生存した。つまり、クロストリディウム・ディフィシルに対するニワトリIgY抗体はダチョウIgYの2倍量をマウスに投与したにもかかわらず、クロストリディウム・ディフィシル毒素Bによる致死抑制は極めて低いことが示された。
【0051】
以上のとおり、マウスにクロストリディウム・ディフィシル毒素AおよびBを腹腔内200ng投与すると100%致死が認められるが、毒素投与前にダチョウIgYを腹腔内投与(3mg)しておくと毒素A(
図3)および毒素B(
図5)共に全てが生存した(つまり致死率0%)。しかしながら、ニワトリIgYを腹腔内投与した場合は6mg(ダチョウIgYの2倍量)でも、毒素Aでは致死率が100%(
図4)、Bでは20%(
図6)であった。つまり、ダチョウIgYはマウス体内においてもクロストリディウム・ディフィシル毒素を不活性化でき高い予防・治療効果を有するが、ニワトリIgYはほとんど効果が観察されず、予想外にダチョウIgYが優れていることが明らかになった。
【0052】
(実施例3:コレラ毒素を免疫して作製したダチョウIgY抗体)
要旨:
本実施例においては、ダチョウにVibrio choleraの毒素(CT)を免疫することにより、高感度の抗CTダチョウIgYを作製することに成功した(
図7)。
【0053】
ハムスターを用いた動物実験により、抗CTダチョウIgYの経口投与によりコレラ毒素による症状を抑えられることが判明した(
図8)。理論に束縛されることは望まないが、これは、消化管内でダチョウIgYがコレラ毒素と抗原抗体反応し、その毒性を抑制できるからであると考えられる。
【0054】
さらに、ダチョウIgY含有キャンディーの摂取により、コレラ毒素による症状を抑えられることが判明した(
図9、
図10)。理論に束縛されることは望まないが、これは、消化管内でダチョウIgYキャンディー内からのIgYがコレラ毒素と抗原抗体反応し、毒性を抑制できるからであると考えられる。
【0055】
以上の結果から、ダチョウにより高感度抗体が大量生産でき、さらに経口摂取によりコレラの症状抑制ができることが分かる。したがって、食品として実用化も期待される。また、他の消化管感染症対策用の経口用抗体としても期待される。
【0056】
抗体作製方法:
成熟したメスダチョウを用いた。コレラ毒素(CT)(シグマ・アルドリッチ、東京、日本)(50μg)をフロイントの完全アジュバント0.2mLと混和し、1羽のダチョウに初回免疫した。初回免疫後、2週目と4週目に上記と同量の抗原とフロイントの不完全アジュバントの混和液を追加免疫した。初回免疫後8週目に得られた各鳥からの卵の卵黄より卵黄抗体(IgY)を精製した。得られた卵黄抗体(IgY)の反応性をELISAにより検証した。
【0057】
ELISA法:
96穴ELISAプレートの各穴にCT(10μg)を別々に固層化した(室温で4時間)。その後、ダチョウIgYの段階希釈液(原液は2mg/mL)を各穴に滴下し、室温で1時間反応させ、洗浄後、各抗体に対するHRP標識2次抗体を室温で1時間反応させた。十分な洗浄後、ペルオキシダーゼ用発色キット(S-Bio SUMILON)を用いてプレートリーダーにて吸光度(450nm)を測定した。
【0058】
結果:
CTを免疫して作製したダチョウIgYは免疫前ダチョウIgY(pre-immune IgY)と比較してCTに対して強い反応性を示した(
図7)。ダチョウ卵黄1個から約4gのIgYが精製されたので、高品質(反応性が高い)IgYが大量生産されることになる。
【0059】
チャイニーズハムスターへの抗体投与:
免疫前ダチョウIgY(Pre-immune IgY)(ネガティブコントロール)およびコレラ毒素を免疫して作製したダチョウIgY(Ostrich IgY)それぞれ14mgを成熟したチャイニーズハムスター(12ヶ月齢雌)に経口投与した(各IgYを計10匹に投与)。10分後に、PBSに溶解したコレラ毒素(CT)100μgを各ハムスターに経口投与した。CT投与6時間後に消化管病変を病理解剖により評価した。
【0060】
結果:Pre-immune IgYとCTを投与したハムスター全てにおいて、消化管(特に十二指腸~結腸)の膨大と水溶性内容物の貯留が顕著に認められた(
図8A)。一方、 Ostrich IgYとCTを投与したハムスターにおいて、90%の個体で病変は認められなかった(消化管の膨大など)(
図8B)。
【0061】
結論:コレラ毒素に対するダチョウIgYを経口摂取することでコレラ感染時の毒素による発症が抑制された。
【0062】
(実施例4:キャンディーによる投与)
免疫前ダチョウIgY(Pre-immune IgY)(ネガティブコントロール)または実施例3においてコレラ毒素を免疫原として作製したダチョウIgY(anti CT)を含有した3gのキャンディー(IgY含有量0.2mg)を成熟したチャイニーズハムスター(12ヶ月齢雌)に経口投与した(各IgYキャンディーを計10匹に投与)。
【0063】
キャンディーは、以下のように作製した。まず、メイプルシロップを110℃に加熱し、水分を蒸発させた。70℃に冷却したのちダチョウ抗体液(コレラ毒素に対するダチョウIgY液(15mg/mL、リン酸緩衝液に溶解))を添加し(キャンディー3gにダチョウIgY0.2mgが配合できるように抗体液を添加する)、その後、一気に冷蔵庫において冷却して固形化した。十分に固まった状態で3gずつに切り分け、ハムスターに経口投与した。
【0064】
経口投与は、10分後にコレラ毒素(CT)100μgずつ各ハムスターに行った。CT投与6時間後に消化管病変を病理解剖により評価した。また各臓器の重量を計測し、各IgYキャンディー投与10匹の平均値、SDおよび有意差検定(student t)を行った(*P<0.05 有意差有り)。
【0065】
結果:Pre-immune IgY含有キャンディーとCTを投与したハムスター全てにおいて、消化管(特に十二指腸~結腸)の膨大と水溶性内容物の貯留が顕著に認められた(
図9A)。一方、CTを免疫原としたダチョウIgY含有キャンディーとCTを投与したハムスターにおいては、全ての個体で病変(消化管の膨大など)は認められなかった(
図9B)。臓器重量においても、CTを免疫原として作製したダチョウIgY含有キャンディーの経口投与で各消化管の膨大が抑制された(
図10)
【0066】
結論:コレラ毒素に対するダチョウIgY含有食品を経口摂取することでコレラ感染時の毒素による発症が抑制された。コレラ感染の経口予防薬や治療用の食品となる可能性が示された。
【0067】
(実施例4:薬剤耐性菌に対するダチョウ抗体の有用性)
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(S.aureus;NBRC102135)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌methicillin-resistant Staohylococcus aureus(以下、MRSA)(L20A株JCM16554)の2つの細菌を用いて、ダチョウ抗体の薬剤耐性菌による感染症治療への可能性を検討した。
【0068】
S.aureusの培養懸濁液を遠心分離し、沈殿させた。培養液を取り去り、リン酸緩衝液(pH7)を加え細菌を浮遊させ、ホモジナイザーにて細菌菌体を4℃で破砕した。このホモジネートをダチョウに免疫した。
【0069】
ダチョウへの免疫
初回免疫:フロイントの完全アジュバントにタンパク質量として100μgの上記それぞれのホモジネートを混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
追加免疫:初回免疫後、上記3パターンともに隔週毎に3回追加免疫した。フロイントの不完全アジュバントに100μgの細菌ホモジネート液を混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
【0070】
追加免疫2週後以降に産卵されるダチョウ卵より抗体を精製した。
【0071】
抗体の精製:
卵黄からの抗体(IgY)の精製は以下のように行った。
【0072】
まず、卵黄に5倍量のTBS(20mMTris-HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN3)と同量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌した。そして1MCaCl2/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置した。その後、15000rpmで20分遠心し上清を回収した。次に、最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え4℃で12時間静置した。その後、15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収した。最後に、卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析した。この過程により90%以上の純度のIgYの回収が可能であった。1個の卵黄より2~4gのIgY抗体を精製することができた。
【0073】
ダチョウIgY抗体によるS.aureusおよびMRSAの増殖抑制効果
培養前の細菌液(S.aureusおよびMRSA)のそれぞれに、1mg/mLとなるようにダチョウIgYまたはリン酸緩衝液(PBS)を混和し、それぞれ寒天培地(半径10cmのシャーレに細菌液0.1mlを培養)にて18時間培養した。細菌のコロニーをカウントしPFU(プラークフォーミングユニット)を算出した。
【0074】
結果:S.aureusを免疫して作製したダチョウIgYはS.aureus(
図11)だけでなく、さらにMRSA(
図12)の増殖を顕著に抑制することが判明した。免疫前ダチョウIgY(pre-immune ostrich IgY)(ネガティブコントロール)にはS.aureusおよびMRSA共に抑制効果が認められなかった。したがって、細菌を免疫して作製するダチョウIgYは、多剤耐性菌などの薬剤耐性菌の抑制剤として期待できる可能性が示された。
【0075】
比較例:ウサギIgG抗体による薬剤耐性菌の増殖抑制効果の検討
S.aureusのホモジネートを免疫して作製したウサギIgG(ポリクローナル抗体)を用いて、実施例4と同様にS.aureusおよびMRSAの増殖抑制能を検討した。
【0076】
抗体作製法:
ウサギへの免疫法は、接種場所がウサギ後肢皮内接種である以外はダチョウと同様であった(接種量、回数も同一)。初回免疫の2か月目にウサギより全血液を採取し、血清を分離し、プロテインGカラムにてIgGを精製した。ELISAではS.aureusのホモジネートに対するダチョウIgYおよびウサギIgGの反応性はそれぞれ、ELISA値404,800、ELISA値202,400であり、同等のであった。
【0077】
ウサギIgG(ポリクローナル抗体)によるS.aureusおよびMRSAの増殖抑制効果
培養前の細菌液(S.aureus、MRSA)に10mg/mLとなるようにウサギIgGまたはリン酸緩衝液(PBS)を混和し、それぞれ寒天培地(半径10cmのシャーレに細菌液0.1mlを培養)にて18時間培養した。ウサギIgGを用いたS.aureusおよびMERSの増殖抑制試験には、実施例4のダチョウIgYの10倍量の/mLを用いた点に留意されたい。細菌のコロニーをカウントしPFU(プラークフォーミングユニット)を算出した。
【0078】
結果:S.aureusを免疫して作製したウサギIgGはS.aureusの増殖を抑制した(
図13)一方で、MRSAの増殖は抑制されなかった(
図14)。免疫前ウサギIgG(pre-immune rabbit IgG)(ネガティブコントロール)にはS.aureusおよびMRSA共に抑制効果が認められなかった。したがって、ある細菌を免疫原として作製した抗体が、その細菌から派生した薬剤耐性菌にも効果を有するというダチョウ抗体において見出された事象(実施例4)は、他の生物由来の抗体では見られないダチョウ抗体特異的なものであることが示された。
【0079】
(実施例5:C.difficile成分を免疫原とするダチョウ抗体の消化管内安定性)
実施例1と同様に、C.difficile毒素Aを免疫原として作製したC.difficile毒素Aに対するダチョウIgYまたはニワトリIgYを溶解した水溶液(5mg抗体/mL)を、成熟雌マウス(C57BL)に1mg抗体/匹の用量で経口投与した(各抗体につき5匹)。
投与後、1時間ごとに糞を肛門から回収し、5匹分をまとめて糞の20倍重量のPBSに溶解しELISAに用いた。マウスに経口投与した抗体の10倍希釈液を「抗体液」としてELISAに用いた。
【0080】
C.difficile毒素Bを免疫原とする抗体に関しても同様の実験を行った。すなわち、実施例1と同様に、C.difficile毒素Bを免疫原として作製したC.difficile毒素Bに対するダチョウIgYまたはニワトリIgYを溶解した水溶液(5mg抗体/mL)を、成熟雌マウス(C57BL)に1mg抗体/匹の用量で経口投与した(各抗体につき5匹)。
投与後、1時間ごとに糞を肛門から回収し、5匹分をまとめて糞の20倍重量のPBSに溶解しELISAに用いた。マウスに経口投与した抗体の10倍希釈液を「抗体液」としてELISAに用いた。
【0081】
ELISA測定は、実施例1と同様に実施した。
【0082】
毒素Aおよび毒素Bを免疫原とする抗体の結果を、それぞれ
図15および
図16に示す。投与3時間後以降の結果から、ダチョウから取得した抗C.difficile毒素A抗体および抗C.difficile毒素A抗体はいずれも、糞の中で抗原との結合活性を保持することが判明した。他方、ニワトリ抗体ではこのような活性は認められなかった。この結果は、ダチョウ由来の抗C.difficile毒素A抗体および抗C.difficile毒素B抗体は、経口投与後、胃酸や消化酵素に曝露されるにもかかわらず、消化管内で機能的であることを示す。
【0083】
(実施例6:コレラ成分を免疫原とするダチョウ抗体の消化管内安定性)
実施例3と同様に作製したコレラ毒素に対するダチョウIgYまたはニワトリIgYを溶解した水溶液(5mg抗体/mL)を、成熟雌マウス(C57BL)に1mg抗体/匹の用量で経口投与した(各抗体につき5匹)。
投与後、1時間ごとに糞を肛門から回収し、5匹分をまとめて糞の20倍重量のPBSに溶解しELISAに用いた。マウスに経口投与した抗体の10倍希釈液を「抗体液」としてELISAに用いた。
【0084】
ELISA測定は、実施例1と同様に実施した。
【0085】
結果を
図17に示す。投与3時間後以降の結果から、ダチョウから取得した抗コレラ毒素IgYは、糞の中で抗原との結合活性を保持することが判明した。他方、ニワトリIgYではこのような活性は認められなかった。この結果は、ダチョウ由来の抗コレラ毒素IgYは、経口投与後、胃酸や消化酵素に曝露されるにもかかわらず、消化管内で機能的であることを示す。
【0086】
(実施例7:各抗体のキャンディー内安定性)
キャンディーとして調製したダチョウ抗体の安定性を試験した。
各抗体は以下の通りに作製した。実施例1と同様に、Vibrio cholerae(ホモジネートまたは毒素)、Clostridium difficile(ホモジネートまたは毒素)、Staphylococcus epidermidis(ホモジネートまたはエンテロトキシン)を免疫原として雌のダチョウまたは雌のニワトリに免疫し、卵よりIgYを精製した。
【0087】
ホモジネートは以下のように調製した。各細菌の培養懸濁液をそれぞれ遠心分離し、沈殿させた。培養液を除去し、リン酸緩衝液(pH7)を加え細菌を浮遊させ、ホモジナイザーにて細菌菌体を4℃で破砕した。
【0088】
実施例1と同様に、ELISAで抗体価を測定し、それぞれの抗体価が65536になるように、抗体液量を調整した。
【0089】
これらの抗体を以下の通りキャンディーとして調製した。砂糖と水飴を混和して加熱し90度に溶解した状態で各ダチョウIgY(ELISA値65536)または各ニワトリIgY(ELISA値65536)を添加し全体的に分散するまで混錬して冷却し、各粒が3gとなるように成形した。1つの飴を10mLのPBSに溶解し、それを原液としてELISAに用いた。コントロールとして、免疫前ダチョウIgY(15mg/mL)と免疫前ニワトリIgY(15mg/mL)をキャンディー3g毎に0.1mLになるように混和した。
【0090】
作製したキャンディー中の抗体の活性をELISAで評価した。ここで、ELISAは以下の通り実施した。96穴ELISAプレートの各穴に各抗原(2μg)を別々に固層化した(室温で4時間)。その後、各抗体を混和したキャンディーの溶解液の段階希釈液を各穴に滴下し、室温で1時間反応させ、洗浄後、各抗体に対するHRP標識2次抗体を室温で1時間反応させた。十分な洗浄後、ペルオキシダーゼ用発色キット(S-Bio SUMILON)を用いてプレートリーダーにて吸光度(450nm)を測定した。免疫前ダチョウIgYまたは免疫前ニワトリIgYを用いた時の吸光度の2倍以上を示す最大希釈倍率をELISA値とした。ここで、キャンディーの基材がELISA測定の障害となるため、ELISA測定に供した試料は、キャンディー調製時の半分の濃度となるように抗体を含むように希釈した。
【0091】
その結果、以下の表に示す通りのELISA値が測定された。
【表2】
【表3】
【表4】
【0092】
コレラおよびC.difficileに対するダチョウIgYはキャンディーに加工しても高い活性が認められたが、ニワトリのIgYはほとんど失活した。全ての抗体が活性を維持していた場合の測定ELISA値は32768と計算されるため、ダチョウ抗体では、例えば、抗コレラ菌体ホモジネート抗体において12.5%、抗C.difficile毒素A抗体において50%がキャンディー化後でも活性を維持していたと計算できる。表皮ブドウ球菌に関しては、ダチョウおよびニワトリIgY共に失活した。
【0093】
これらの結果から、ダチョウIgYはキャンディーに加工しても高い抗原反応性が保持され得ること、およびダチョウ抗体の安定性は標的とする抗原によって異なり得ることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により、細菌の感染症の処置(治療および予防)用の医薬品や食品(キャンディー等)が提供される。