(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】包装済み医療用具及び包装済み医療用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61J 1/00 20060101AFI20220519BHJP
B65D 77/20 20060101ALI20220519BHJP
B65D 81/20 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61J1/00 430
B65D77/20 E
B65D81/20 A
(21)【出願番号】P 2019551414
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2019028236
(87)【国際公開番号】W WO2021009898
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2019-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149000
【氏名又は名称】株式会社大協精工
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝之
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】莊司 英史
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-164368(JP,A)
【文献】特表2017-504438(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10301386(DE,A1)
【文献】国際公開第2017/188427(WO,A1)
【文献】特開平1-149724(JP,A)
【文献】特開平5-64653(JP,A)
【文献】特開2017-80478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J1/00,A61M5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する容器と、前記容器の内部に収容された医療用具と、熱融着により前記開口部を密封し、引張ひずみが70~140%である合成樹脂フィルムを含むガス不透過性フィルムと、を備え、
前記ガス不透過性フィルムは、23±2℃における酸素透過度が0~100cm
3
/m
2
・24h・atm、且つ、23±2℃における前記ガス不透過性フィルムの酸素透過度と前記容器の酸素透過度との差分の絶対値が、200cm
3
/m
2
・24h・atm以下であり、
前記容器の内部が大気圧に対して負圧とされており、前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧され
、前記容器内の圧力は、800~1013hPaである、包装済み医療用具。
【請求項2】
前記ガス不透過性フィルムは、引張強度が50~150MPaである合成樹脂フィルムを含む、請求項1に記載の包装済み医療用具。
【請求項3】
前記開口部にガス透過性フィルムを備える、請求項1
または2に記載の包装済み医療用具。
【請求項4】
前記容器は、前記医療用具を保持する保持部を内部に備える、請求項1から
3のいずれか一項に記載の包装済み医療用具。
【請求項5】
前記容器は、前記開口部の周縁部に外側に延伸して形成されたフランジ部を有し、
前記ガス不透過性フィルムは、前記フランジ部に熱融着されて、前記容器の内部に向かって変形しており、前記フランジ部からの容器内部方向における変形量が前記容器の高さの70%以下である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の包装済み医療用具。
【請求項6】
開口部を有する容器の内部に医療用具を収容する収容工程と、
引張ひずみが70~140%である合成樹脂フィルムを含むガス不透過性フィルムを熱融着することにより前記開口部を密封し、且つ、前記容器の内部を大気圧に対して負圧とすることにより前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧された状態とする密封工程と、
を含
み、
前記ガス不透過性フィルムは、23±2℃における酸素透過度が0~100cm
3
/m
2
・24h・atm、且つ、23±2℃における前記ガス不透過性フィルムの酸素透過度と前記容器の酸素透過度との差分の絶対値が、200cm
3
/m
2
・24h・atm以下であり、
前記容器の内部が大気圧に対して負圧とされており、前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧され、前記容器内の圧力は、800~1013hPaである、包装済み医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装済み医療用具及び包装済み医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具は、一般的に、容器に収容された状態で滅菌され、滅菌状態のまま流通及び保管される。医療用具などの滅菌されることを意図された製品又は器具が収容された容器内を滅菌する方法として、容器上部の開口部を選択的不透過性材料で作られたカバーシートで覆い、該カバーシートを固定して密封した後、電子線照射により滅菌処理する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、搬送の際に容器内で医療用具が振動し、医療用具に傷が付いたり、摩擦により微粒子が発生して衛生上の問題が生じたりする可能性がある。
【0004】
上記問題を解消するため、容器内の医療用具を固定して搬送時における医療用具の振動を抑制する方法が提案されている。例えば、複数の注射筒が保持された容器をガス不透過性フィルムからなる袋に入れて、袋の内部を減圧状態にする方法が知られている(特許文献2)。この方法によれば、ガス不透過性フィルムが容器内に保持された注射筒のフランジ部分に密着した状態となるので、注射筒が固定されて搬送中の振動が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2004-513708号公報
【文献】国際公開第2008/107961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部を減圧状態にして内容物を包装する袋は、一般的に「バキュームバッグ」と呼ばれる。バキュームバッグを用いて内容物を固定する特許文献2に記載の方法では、バキュームバッグ内の圧力を調整することが困難で、医療用具の固定状態にばらつきが生じる場合がある。また、作業者が、医療用具が収容された容器をバキュームバッグの中に配置して内部を減圧する作業を行う際に、バキュームバッグ内部に残存する空気量及びバキュームバッグ内の容器の位置を作業者ごと及び製品ごとに均一化することが困難で、減圧状態にムラが出て、医療用具の固定状態にばらつきが生じる場合がある。このように、バキュームバッグによる医療用具の固定は安定性に欠ける可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、医療用具の固定状態にばらつきが生じにくい包装済み医療用具を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
開口部を有する容器と、前記容器の内部に収容された医療用具と、熱融着により前記開口部を密封するガス不透過性フィルムと、を備え、
前記容器の内部が大気圧に対して負圧とされており、前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧されている、包装済み医療用具を提供する。
前記ガス不透過性フィルムは、引張強度が50~150MPaである合成樹脂フィルムを含んでもよい。
前記ガス不透過性フィルムは、引張ひずみが70~140%である合成樹脂フィルムを含んでもよい。
前記ガス不透過性フィルムの酸素透過度と前記容器の酸素透過度との差分の絶対値が、200cm3/m2・24h・atm以下であってもよい。
前記包装済み医療用具は、前記開口部にガス透過性フィルムを備えてもよい。
前記容器は、前記医療用具を保持する保持部を内部に備えてもよい。
前記容器は、前記開口部の周縁部に外側に延伸して形成されたフランジ部を有し、
前記ガス不透過性フィルムは、前記フランジ部に熱融着されて、前記容器の内部に向かって変形しており、前記フランジ部からの容器内部方向における変形量が前記容器の高さの70%以下であってもよい。
また、本発明は、
開口部を有する容器の内部に医療用具を収容する収容工程と、
ガス不透過性フィルムを熱融着することにより前記開口部を密封し、且つ、前記容器の内部を大気圧に対して負圧とすることにより前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧された状態とする密封工程と、を含む、包装済み医療用具の製造方法を提供する。
【0009】
なお、本発明において「医療用具がガス不透過性フィルムにより押圧されている」とは、医療用具がガス不透過性フィルムによって直接的又は間接的に押圧されていることを意味する。つまり、本発明は、ガス不透過性フィルムが医療用具に接しており医療用具を直接押圧する場合と、ガス不透過性フィルムが医療用具以外の物(例えば医療用具を保持する保持具)に接しており上記医療用具以外の物を押圧することによって間接的に医療用具を押圧する場合と、を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、医療用具の固定状態にばらつきが生じにくい包装済み医療用具を提供することができる。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、包装済み医療用具1を示す斜視図である。
図1Bは、
図1AのX-X線、Y-Y線及びZ-Z線で切断した包装済み医療用具1の矢印Y方向の断面図である。
【
図2】
図2Aは、容器20を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aにおける矢印Dの方向から見た容器20を示す正面図である。
【
図3】
図3Aは、保持部50を示す斜視図である。
図3Bは、保持部50を示す平面図である。
図3Cは、保持部50を示す正面図である。
【
図4】保持部50を段積みした状態を示す正面図である。
【
図5】包装済み医療用具の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】包装済み医療用具の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
<1.包装済み医療用具>
(1)全体構成
まず、
図1を参照して本発明の一実施形態に係る包装済み医療用具の全体的な構成について説明する。
図1Aは、包装済み医療用具1を示す斜視図である。
図1Bは、
図1AのX-X線、Y-Y線及びZ-Z線で切断した包装済み医療用具1の矢印Y方向の断面図である。包装済み医療用具1は、
図1Aに示すように、開口部21を有する容器20と、容器20の内部に収容された医療用具30と、熱融着により容器20の開口部21を密封するガス不透過性フィルム40と、を備える。
【0014】
容器20は、
図1Aに示すように、医療用具30を保持する保持部50を内部に備えることが好ましい。保持部50を備えることで、医療用具30をより安定的に固定して、容器20内での医療用具30のガタつきを効果的に抑制することができる。
図1Aに示す例では、医療用具30を保持する保持部50を上下に3つ段積みしているが、保持部50の数はこれに限定されず、1つ又は複数でありうる。
【0015】
容器20の内部は大気圧に対して負圧とされている。このため、
図1Bに示すように、容器20の開口部21を覆うガス不透過性フィルム40は容器20の内部に向かって撓んでおり、ガス不透過性フィルム40の撓んだ部分によって保持部50が押圧されている。なお、本明細書において大気圧とは標準気圧のことであり、具体的には1013.25hPaである。
【0016】
図1Aに示す医療用具30は、保持部50を介してガス不透過性フィルム40により押圧されている。これにより、保持部50及び医療用具30は、容器20の底面部とガス不透過性フィルム40との間に挟まれて固定されるため、包装済み医療用具1の搬送中に振動しにくくなる。また、ガス不透過性フィルム40で包装することにより、包装済み医療用具1の外装
滅菌を行うことが可能である。外装
滅菌の方法は特に限定されず、
滅菌効果が得られる任意の方法を選択すればよい。
【0017】
本実施形態の包装済み医療用具1は、上記特許文献2に記載されているような容器全体を覆うバキュームバックを使用せずとも、容器20の開口部21を覆うガス不透過性フィルム40によって医療用具30を固定することができる。このため、バキュームバッグを使用した場合に起こり得る医療用具の固定状態のばらつきが生じにくくなる。また、包装資材のコスト削減及び包装資材開封時の工数削減といった利点もある。
【0018】
一般的に、医療用具を未固定の状態で搬送すると、医療用具は容器内で移動又は振動し互いに擦れ合って、表面に傷がついたり微粒子が発生したりするおそれがある。一方、本実施形態の包装済み医療用具1は、容器20内で医療用具30を固定することができるため、傷や微粒子の発生を抑制することができる。
【0019】
また、包装済み医療用具は、一般的に、放射線照射によって滅菌されることが多い。医療用具を収容する容器内に存在する酸素は、放射線照射によって活性化し、オゾンガスを発生させうる。医療用具などの内容物及び容器が合成樹脂により形成されている場合、当該合成樹脂は上記オゾンガスによって劣化する場合がある。また、上記合成樹脂の主鎖及び側鎖は、放射線照射によって切断されて酸素と反応することにより揮発性物質を発生させる場合があり、当該揮発性物質は放射線照射後の照射臭の原因となりうる。一方、本実施形態の包装済み医療用具1は、容器20の内部を大気圧に対して負圧とすることで、容器20の内部の酸素量を低減することができる。このため、発生するオゾンガスの量が減少して合成樹脂の劣化が抑制され、且つ、放射線照射後の照射臭が低減される。また、容器20内の酸素量をさらに低減させるために、容器20内に残存する空気を窒素などの不活性ガスに置換してもよい。
【0020】
(2)容器20
次に、
図2を参照して容器20について説明する。
図2Aは、容器20を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aにおける矢印Dの方向から見た容器20を示す正面図である。容器20の形状は、開口部21を有していれば特に限定されないが、例えば
図2A及びBに示すように、略矩形の底面部22と、底面部22の周囲から上方に向かって延びる側周部23と、側周部23の上端で囲まれた開口部21と、を備える箱形状とすることができる。底面部22の形状は、略矩形の他、多角形、円形、楕円形などの任意の形状でありうる。
【0021】
図2A及びBに示すように、容器20は、開口部21の周縁部に外側に延伸して形成されたフランジ部24を備えることが好ましい。上記フランジ部24を設けることで、開口部21を覆うガス不透過性フィルムが熱融着される面積を広く確保することができるため、ガス不透過性フィルムの密着度が向上する。
【0022】
また、容器20は、
図2A及びBに示すように、上端に位置するフランジ部24から底面部22の方向(下側方向)へ所定長離間した位置に内側へ水平に突き出して設けられた段差部25を容器20の長手方向に備えることができる。段差部25は、容器20(側周部23)の全周に備えることもできる。段差部25を備えることで、包装済み医療用具1(
図1A参照)の外側を人又は機械が把持する際に、段差部25に指又は機械のアームを引っ掛けることができるため、包装済み医療用具1を安定して把持することが可能である。
【0023】
さらに、容器20は、
図2Aに示すように、側周部23上に内側へ突き出した突起部26を備えることができる。保持部50(
図1A参照)と側周部23との間に隙間が存在する場合、突起部26により上記隙間を埋めることで、容器20内での保持部50の振動を抑制することができる。
図2Aに示す例では、突起部26は、フランジ部24と段差部25との間の側周部23上に設けられており、突起部26の数は、側周部23の対抗する一対の面に2つずつ、計4つである。しかしながら、突起部26の位置及び数はこれに限定されるものではなく、容器20と保持部50との隙間を埋めるように適宜調整されうる。
【0024】
容器20の材料は、無毒で衛生的であること、各種滅菌法が適用可能であること、耐光性及び耐候性を有することなどの観点から選択されることが好ましい。さらに、容器20の材料は、容器20の内部を大気圧よりも負圧の状態で維持するために、酸素透過度も考慮して選択されることが好ましい。容器20の酸素透過度については後述する。容器20の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)及び耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などでありうる。なお、
図1及び
図2では、容器20が透明材料により形成された場合を図示しているが、容器20の材料は透明でなくてもよく、透明性については特に限定されない。
【0025】
(3)医療用具30
次に、再び
図1Aを参照し、容器20に収容される医療用具30について説明する。
図1Aでは、医療用具30の一例として、医薬品容器などの口部を封止するゴム栓の離脱防止のためにゴム栓に被せるキャップを図示している。医療用具30は上記キャップに限定されるものではなく、例えば、医薬品容器、医薬品容器用ゴム栓、シリンジ、ピストン、注射針、バイアルなど、医療分野で用いられる器具であって容器に収容されうる物を広く包含する。
【0026】
(4)ガス不透活性フィルム40
図1Aに示すように、ガス不透過性フィルム40は、容器20の開口部21又はフランジ部24に熱融着されることで、開口部21を密封する。熱融着は、公知の方法により行えばよい。例えば、容器20を熱で融解しガス不透過性フィルム40と融着させる方法、ガス不透過性フィルム40の接着層を熱で融解し容器20と融着させる方法、容器20及びガス不透過性フィルム40以外の構成要素(例えばホットメルトなどの接着剤)により容器20とガス不透過性フィルム40とを融着させる方法などが挙げられる。いずれの方法においても、剥離容易性などの観点から接着層を備える構成とすることが好ましい。接着層を備える場合、ガス不透過性フィルム40と容器20の少なくとも一方が接着層を備えることが好ましく、ガス不透過性フィルム40が接着層を備えることがより好ましい。接着層を備えるガス不透過性フィルム40としては、ガス不透過性フィルム40の全面が単層又は多層構造であり全面に接着層を備えている物が一般的である。しかしながら、内容物への接着剤の付着防止の観点から、開口部21の周縁部に対応する位置のみに接着層を備えているガス不透過性フィルム40を用いてもよい。
【0027】
図1Aに示すガス不透過性フィルム40は、ガスを全く通さないか又はガス透過量が極めて低いフィルムである。ガス不透過性フィルム40はシート状のフィルムであり、バキュームバッグなどの袋状のフィルムではない。
【0028】
ガス不透過性フィルム40は、23±2℃における酸素透過度が0~100cm3/m2・24h・atmであることが好ましく、0~50cm3/m2・24h・atmであることがより好ましい。これにより、包装済み医療用具1の容器20の内部を大気圧に対して負圧とした状態をより長期間維持することができる。本明細書において、酸素透過度は日本工業規格のJIS K 7126に基づいて測定した値である。
【0029】
負圧状態を維持するためには、容器20がガス不透過性フィルム40と同程度の高いガスバリア性を有することが好ましく、つまりは、容器20の酸素透過度の値がガス不透過性フィルム40の値と近いことが好ましい。具体的には、23±2℃におけるガス不透過性フィルム40の酸素透過度と容器20の酸素透過度との差分の絶対値が、200cm3/m2・24h・atm以下であることが好ましい。
【0030】
ガス不透過性フィルム40の構成は特に限定されず、単層フィルムでもよく多層フィルムでもよい。ガス不透過性フィルム40の材料は特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、塩化ビニルなどの合成樹脂を用いることができる。また、ガス不透過性フィルム40は、例えば、合成樹脂のフィルムに金属又はアルミナ、シリカなどの金属酸化物を蒸着した蒸着フィルムでありうる。ガス不透過性フィルム40は、ガスバリア性の観点から、合成樹脂フィルムを積層してなる多層フィルムであることが好ましく、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートフィルムの上にポリエチレンフィルムを2層積層した3層フィルムである。なお、
図1では、ガス不透過性フィルム40が透明材料により形成された場合を図示しているが、ガス不透過性フィルム40の材料は透明でなくてもよく、透明性については特に限定されない。
【0031】
ガス不透過性フィルム40の厚みは、フィルムを構成する材料に応じて、目的とする酸素透過度となるように適宜調整されればよいが、一般的には5~150μmである。
【0032】
ガス不透過性フィルム40が合成樹脂フィルムを含む場合、当該合成樹脂フィルムは、引張強度が50~150MPaであることが好ましく、80~120MPaであることがより好ましい。引張強度をこのような範囲とすることで、ガス不透過性フィルム40が容器20の内部に引っ張られて撓んでも、フィルムの破断が生じにくくなる。
【0033】
また、上記合成樹脂フィルムは、引張ひずみが70~140%であることが好ましく、90~130%であることがより好ましい。引張ひずみをこのような範囲とすることで、ガス不透過性フィルム40が容器20の内部に引っ張られて撓んだ際に、フィルムが適度に伸長して破断を防止しつつ、フィルムの伸び過ぎを抑制して医療用具30への押圧力を好適に維持することができる。
【0034】
上記合成樹脂フィルムの引張強度及び引張ひずみは、当該合成樹脂フィルムから作製した日本工業規格JIS K 7127に規定のダンベル状5号形試験片を用いて、引張速度500mm/minの条件で測定された値である。上記合成樹脂フィルムが複数の合成樹脂フィルムを積層した多層フィルムである場合、上記引張強度及び引張ひずみは、個々の合成樹脂フィルムを用いて測定した値ではなく、多層フィルムを用いて測定した値である。
【0035】
本実施形態の包装済み医療用具1において、ガス不透過性フィルム40は上述のとおり容器20の内側に向かって撓んで変形している。ガス不透過性フィルム40は、容器20のフランジ部24からの容器内部方向における変形量αが、容器20の高さの70%以下であることが好ましい。
図1B中に変形量αの一例を示す。変形量αをこのようにすることで、ガス不透過性フィルム40が過度に撓んで破断することを防止することができる。また、変形量αは、医療用具30に対する押圧力をより確実に確保するために、容器20の高さの20%以下であることがより好ましい。なお、容器20の内容物の表面に凹凸があり、凹凸に追従してガス不透過性フィルム40が変形している場合、内容物の最上面に接するまでのガス不透過性フィルム40の変形量が、変形量αとなる。
【0036】
(5)保持部50
図1Aに示すように、本実施形態に係る包装済み医療用具1は、容器20の内部に医療用具30を保持する保持部50を備えることが好ましい。保持部50の形状は、医療用具30の種類及び大きさなどに応じて適宜設計されうるものであり、特に限定されないが、
図3及び4を参照してその一例を説明する。
図3Aは保持部50を示す斜視図、
図3Bは保持部50を示す平面図、
図3Cは保持部50を示す正面図である。
【0037】
保持部50は、
図3A~Cに示すように、板状の基板部51を備える。基板部51の形状は、図示するような略矩形の他、多角形、円形、楕円形など任意の形状でありうるが、保持部50が収容される容器の形状に合わせて選択されることが好ましい。
【0038】
保持部50は、
図3Aに示すように、基板部51から突出する複数の筒状部52を備える。筒状部52の設置数や隣接する筒状部52との間隔は特に限定されず、保持する医療用具の大きさなどに応じて適宜設定されればよい。
【0039】
基板部51は、
図3A及びCに示すように、基板部51から突出し、先端部に係止爪531を有する係止突起部53を筒状部52の周囲に備えることができる。基板部51を上側にした場合、係止爪531は筒状部52よりも下方に突出している。
図3Aに示す例では、各筒状部52の周囲に係止突起部53が3つずつ配置されているが、配置される数はこれに限定されない。
【0040】
保持部50は、筒状部52の内側に医療用具(図示せず)を収容し、係止突起部53で医療用具を係止することにより、医療用具を安定的に保持することができる。
【0041】
基板部51は、
図3A及びBに示すように、貫通孔54を備えることができる。貫通孔54を備えることにより、滅菌流体が容器内によく行き渡り、滅菌効率が向上する。貫通孔54の形状は、特に限定されず、矩形、多角形、円形、楕円形など任意の形状でありうる。
図3A及びBに示す例では、各筒状部52の周囲に貫通孔54が3つずつ配置されているが、配置される位置及び数はこれに限定されない。
【0042】
基板部51は、
図A及びBに示すように、指を差し込める程度の大きさの切欠部56を備えることができる。これにより、容器に保持部50を収容したり、容器から保持部50を取り出したりする作業をより容易に行うことができる。また、例えば、バイアルを保持した保持部50にキャップを保持した保持部50を積み重ねたり、積み重ねられた保持部50を移動したりする作業を複数の機械設備で分担して行う場合に、各々の機械設備の干渉を防止する目的で切欠部56を設けることができる。また、切欠部56を画像検査機等で検出することで保持部50の位置を正確に把握することができるため、保持部50の搬送異常及び位置ずれを早期に検知して、搬送異常又は位置ずれに伴う設備停止時間を削減することができる。
図3A及びBに示す例では、基板部51の四隅のうち、対角線上の2か所に切欠部56を設けているが、位置及び数はこれに限定されない。
【0043】
基板部51は、
図3A及びCに示すように、基板部51から突出する支柱部55を備えることができる。基板部51を上側にした場合、支柱部55は筒状部52及び係止突起部53よりも下方に突出している。後述するように保持部50を段積みする場合、支柱部55を備えることで、上下に隣接する保持部50同士の接触を防止することができ、また、上下に隣接する保持部50同士の間に隙間ができるため滅菌流体が容器内によく行き渡り、滅菌効率が向上する。さらに、支柱部55を備えることにより、医療用具30のつぶれを防止することができ、また、保持部50に保持された医療用具が容器の底面や底面に溜まった水分などに触れることを防止して医療用具の衛生状態を維持することができる。
【0044】
図4は、保持部50を段積みした状態を示す正面図である。保持部50は、
図4に示すように段積みすることができる。この場合、基板部51は、
図3Bに示すように、連結穴57を備えることが好ましい。支柱部55の先端を、既に載置されている保持部50の連結穴57に嵌合することにより、保持部50を安定的に段積みすることができる。支柱部55及び連結穴57の形状は特に限定されず、任意の形状を採用することができる。
【0045】
保持部50の材料は、無毒で衛生的であること、各種滅菌法が適用可能であること、耐光性及び耐候性を有することなどに加え、医療用具30の形状、材質、要求される品質、機能及び強度などの観点から選択されることが好ましい。保持部50の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアセタールなどでありうる。
【0046】
(6)ガス透過性フィルム
図1に示す包装済み医療用具1は、図示はしないが、開口部21にガス透過性フィルムを備えることができる。ガス透過性フィルムは、例えば、容器20の内部の医療用具30又は保持部50の上に載置されてもよく、
図2に示す容器20のフランジ部24に熱融着されてもよい。
【0047】
ガス透過性フィルムは、滅菌可能なフィルムであることが好ましい。滅菌可能なフィルムは、ガス、水蒸気などの滅菌用の気体類は透過するが菌は不透過のものであり、例えば、高密度ポリエチレン又はその他のポリマーのフィラメントより構成されたものである。滅菌可能なガス透過性フィルムの市販品としては、例えば、デュポン社製のTyvek(登録商標)などが挙げられる。滅菌可能なガス透過性フィルムを配置した後、ガス不透過性フィルムを熱融着する前に容器内部を滅菌することで、容器内部の衛生度をより高めることが可能である。
【0048】
<2.包装済み医療用具の製造方法>
次に、
図5を参照して、本発明の一実施形態に係る包装済み医療用具の製造方法について説明する。
図5は、包装済み医療用具の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、開口部を有する容器の内部に医療用具を収容する収容工程(ステップS11)と、ガス不透過性フィルムを熱融着することにより上記開口部を密封し、且つ、上記容器の内部を大気圧に対して負圧とすることにより上記医療用具が上記ガス不透過性フィルムにより押圧された状態とする密封工程(ステップS14)と、を含む。これにより、上述した包装済み医療用具が製造されうる。
【0049】
医療用具は、保持部によって保持されたものでありうる。この場合、収容工程(ステップS11)では、医療用具を保持した保持部を容器の内部に収容する。
【0050】
密封工程(ステップS14)では、ガス不透過性フィルムが医療用具を押圧した状態となるように容器内部の圧力を減圧し、大気圧に対して負圧の状態とする。減圧条件は、減圧によって容器が変形又は破損しないように容器の材質及び大きさなどに応じて適宜調整されうる。また、製造された包装済み医療用具が空輸などにより大気圧よりも低い環境下に置かれることがある場合には、容器内の圧力は、空輸中の圧力と同等かそれ未満とすることができ、例えば、800~1013hPaと同等かそれ未満でありうる。
【0051】
ガス不透過性フィルムは、密封工程(ステップS14)を経ることで、医療用具又は保持具に接して医療用具を直接的又は間接的に押圧した状態で容器に熱融着される。これにより、医療用具が固定された状態の包装済み医療用具が得られる。熱融着の方法は、特に限定されず、容器を熱で融解しガス不透過性フィルムと融着させる方法、ガス不透過性フィルムの接着層を熱で融解し容器と融着させる方法、容器及びガス不透過性フィルム以外の構成要素(例えばホットメルトなどの接着剤)により容器とガス不透過性フィルムとを融着させる方法など、公知の方法を採用しうる。
【0052】
密封工程(ステップS14)では、上述のとおり容器の開口部の密封とガス不透過性フィルムによる医療用具の押圧とを実現できれば、具体的な処理方法は特に限定されない。密封工程における処理の一例として、容器の内部が大気圧に対して負圧の状態で開口部にガス不透過性フィルムを熱融着し、ガス不透過性フィルムにより医療用具を押圧した状態で開口部を密封する方法が挙げられる。また、別の例として、常圧の環境下で開口部にガス不透過性フィルムを熱融着した後、容器の側周部又は底面部に予め形成された孔から空気を吸引して容器の内部を大気圧に対して負圧の状態とし、その後上記孔を蓋やシールなどを用いて封止する方法が挙げられる。
【0053】
なお、密封工程(ステップS14)において、容器内部の空気を窒素などの不活性ガスに置換してもよい。これにより、容器内部の酸素量がより低減され、容器などを構成する合成樹脂の劣化及び放射線滅菌後の照射臭の発生をより効果的に抑えることができる。
【0054】
本実施形態の製造方法は、密封工程(ステップS14)以降に、ガス不透過性フィルムを切断する切断工程(ステップS15)を含むことが好ましい。「密封工程以降」とは、密封工程と同時又は密封工程よりも後であることを意味する。つまり、本実施形態の製造方法は、ガス不透過性フィルムを容器の開口部に熱融着すると同時に又は熱融着した後に、ガス不透過性フィルムを切断することが好ましい。例えばロール状のガス不透過性フィルムなど、容器の外形よりも大きいガス不透過性フィルムを用いて包装済み医療用具を製造する際、ガス不透過性フィルムを容器の形状に合わせて切断する工程を行う場合がある。ガス不透過性フィルムの切断を密封工程以降に行うことにより、フィルムをより確実に熱融着することができる。
【0055】
なお、本実施形態の製造方法では、切断工程(ステップS15)以降に密封工程(ステップS14)を行うこともできる。例えば、切断済みのガス不透過性フィルムを容器などと共に減圧環境下に配置して、ガス不透過性フィルムと容器とを熱融着させる場合、切断工程よりも後に密封工程を行ってもよい。
【0056】
本実施形態の製造方法では、密封工程(ステップS14)の後に、包装済み医療用具の内側を滅菌する内装滅菌工程(ステップS16)を行ってもよい。上記切断工程(ステップS15)を行う場合には、内装滅菌工程(ステップS16)は、切断工程(ステップS15)の後に行うことが好ましい。内装滅菌工程における滅菌方法は、放射線滅菌又は電子線滅菌が好ましい。
【0057】
本実施形態の製造方法は、容器内部の医療用具を固定するにあたり、バキュームバッグを使用せず、容器の開口部を覆うシート状のガス不透過性フィルムを使用する。従来技術のようにバキュームバッグを使用する方法の場合、バキュームバッグを広げて内部に容器を載置する必要がある。この従来の方法では、広げたバキューバッグ内の圧力を所望の値に調整することが難しく、また、バキュームバッグ内の空気量や容器が載置される位置によってバキュームバッグ内の減圧状態にムラが出るため、医療用具の固定状態にばらつきが生じるという問題が発生する場合がある。しかしながら、本実施形態の製造方法は、バキュームバッグを使用しないため上記問題が発生せず、医療用具の固定状態にばらつきが生じにくい。
【0058】
次に、
図6を参照して、包装済み医療用具の製造方法の他の実施形態を説明する。
図6は、包装済み医療用具の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、上述した
図5に示す工程に加えて、ガス透過性フィルム配置工程(ステップS12)と、容器内部滅菌工程(ステップS13)と、を含みうる。以下、
図5に示す実施形態と異なる点を説明する。
【0059】
本実施形態の製造方法では、収容工程(ステップS11)と密封工程(ステップS14)と間において、ガス透過性フィルムを容器の開口部に配置するガス透過性フィルム配置工程(ステップS12)を行ってもよい。この工程では、例えば、容器内部の医療用具又は保持部の上にガス透過性フィルムを載置したり、容器のフランジ部(
図2参照)にガス透過性フィルムを熱融着したりする。
【0060】
本実施形態の製造方法では、収容工程(ステップS11)と密封工程(ステップS14)との間において、容器内部を滅菌する容器内部滅菌工程(ステップS13)を行ってもよい。上記ガス透過性フィルム配置工程(ステップS12)を行う場合には、容器内部滅菌工程(ステップS13)は、ガス透過性フィルム配置工程(ステップS12)と密封工程(ステップS14)との間において行われることが好ましい。これにより、容器内部の衛生度をより高めることが可能である。滅菌方法は特に限定されず、放射線滅菌などの公知の滅菌方法を用いることが可能であるが、ガスや蒸気による滅菌が好ましい。なお、
図6に示す内装滅菌工程(ステップS16)は、上述のとおり必須ではなく任意の工程であり、例えば、容器内部滅菌工程(ステップS13)により容器内部が十分に滅菌されている場合などでは内装滅菌工程(ステップS16)を実施しなくてもよい。
【0061】
本発明は、以下のような形態も採ることができる。
[1]開口部を有する容器と、前記容器の内部に収容された医療用具と、熱融着により前記開口部を密封するガス不透過性フィルムと、を備え、
前記容器の内部が大気圧に対して負圧とされており、前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧されている、包装済み医療用具。
[2]前記ガス不透過性フィルムは、引張強度が50~150MPaである合成樹脂フィルムを含む、上記[1]に記載の包装済み医療用具。
[3]前記ガス不透過性フィルムは、引張ひずみが70~140%である合成樹脂フィルムを含む、上記[1]又は[2]に記載の包装済み医療用具。
[4]前記ガス不透過性フィルムの酸素透過度と前記容器の酸素透過度との差分の絶対値が、200cm3/m2・24h・atm以下である、上記[1]から[3]のいずれか1つに記載の包装済み医療用具。
[5]前記開口部にガス透過性フィルムを備える、上記[1]から[4]のいずれか1つに記載の包装済み医療用具。
[6]前記容器は、前記医療用具を保持する保持部を内部に備える、上記[1]から[5]のいずれか1つに記載の包装済み医療用具。
[7]前記容器は、前記開口部の周縁部に外側に延伸して形成されたフランジ部を有し、
前記ガス不透過性フィルムは、前記フランジ部に熱融着されて、前記容器の内部に向かって変形しており、前記フランジ部からの容器内部方向における変形量が前記容器の高さの70%以下である、上記[1]から[6]のいずれか1つに記載の包装済み医療用具。
[8]開口部を有する容器の内部に医療用具を収容する収容工程と、
ガス不透過性フィルムを熱融着することにより前記開口部を密封し、且つ、前記容器の内部を大気圧に対して負圧とすることにより前記医療用具が前記ガス不透過性フィルムにより押圧された状態とする密封工程と、を含む、包装済み医療用具の製造方法。
【符号の説明】
【0062】
1 包装済み医療用具
20 容器
21 開口部
22 底面部
23 側周部
24 フランジ部
25 段差部
26 突起部
30 医療用具
40 ガス不透過性フィルム
50 保持部
51 基板部
52 筒状部
53 係止突起部
54 貫通孔
55 支柱部
56 切欠部
57 連結穴
531 係止爪