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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】無人飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64D 25/00 20060101AFI20220519BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20220519BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20220519BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20220519BHJP
   B64C 13/18 20060101ALI20220519BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
B64D25/00
B64C39/02
B64D27/24
B64C27/08
B64C13/18 Z
H02J7/00 Y
H02J7/00 S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021183013
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2021119201の分割
【原出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2022016496
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018061882
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515019537
【氏名又は名称】株式会社ナイルワークス
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和氣 千大
(72)【発明者】
【氏名】柳下 洋
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-516200(JP,A)
【文献】特表2017-536586(JP,A)
【文献】特開2017-136914(JP,A)
【文献】特開2006-082774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0354615(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 25/00
B64C 39/02
B64D 27/24
B64C 27/08
B64C 13/18
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転翼と、
前記各回転翼を個々に回転駆動する複数の電動モーターと、
前記各電動モーターへの電力供給源であるバッテリと、
前記バッテリからの電力を適宜の電圧に調整し前記各電動モーターに分配する分電機と、
無人飛行体の飛行を制御するフライトコントローラーと、
を有する無人飛行体であって、
前記フライトコントローラーとセンサを通信可能に接続する制御通信線を備え、前記制御通信線は多重化されており、
多重化された前記制御通信線の少なくともいずれか1つに異常が生じた場合に、緊急退避動作に切り替わる、無人飛行体。
【請求項2】
前記センサは、ソナー、気圧センサ、カメラおよび6軸センサのいずれかを含む、
請求項1記載の無人飛行体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性を高めた無人飛行体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無人飛行体(以下「ドローン」ともいう。)の利用が進んでいる。ドローンの重要な利用分野の一つとして、農地すなわち圃場への農薬や液肥などの薬剤散布がある(例えば、特許文献1参照)。欧米と比較して農地が狭い日本においては、有人の飛行機やヘリコプターによる薬剤散布よりも、ドローンによる薬剤散布が適しているケースが多い。
【0003】
準天頂衛星システム(QZSS)やRTK-GPSなどの技術を利用することにより、ドローンが飛行中に自機の絶対位置をセンチメートル単位で正確に知ることができる。したがって、日本において典型的な、狭くて複雑な地形の農地においても、自律的な飛行によって人手による操縦を低減し、効率的かつ正確な薬剤散布が可能になっている。
【0004】
その一方、例えば農業用の薬剤散布などに用いられる自律飛行型ドローンにおいては、安全性に対する考慮が必要である。薬剤を搭載したドローンの重量は数10キログラムになるため、人の上に落下するなどの事故が起きた場合に重大な結果を招きかねない。また、ドローンの操作者はドローンに関する専門家ではないため、非専門家であっても安全性が確保されるフールプルーフの仕組みが必要である。今までに、人間による操縦を前提としたドローンの安全性技術は存在していたが(たとえば、特許文献2参照)、特に農業用の薬剤散布向けの自律飛行型ドローンに特有の安全性課題に対応するための技術は存在していなかった。
【0005】
ドローンは一般にモーターを駆動源としており、モーターを駆動する電源としてバッテリが搭載されている。したがって、前述のように安全性が厳しく要求されるドローンにおいては、バッテリにトラブルが生じた場合、あるいは蓄電量が低下した場合でも、安全に退避できることが求められる。
【0006】
ドローンには、飛行方向、飛行速度、飛行高さ、姿勢、その他各種制御を行うためのデバイスや、これらを接続する配線が組み込まれている。これらのデバイスや配線に異常が生じると、ドローンの正常な動作が保てなくなる可能性があるが、このような異常が生じたとしても、安全に退避できることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-120151号公報
【文献】特開2017-163265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バッテリや機体の内部回路などに異常が生じたとしても、いわゆる「冗長性を持たせる」ことにより、かつ、緊急退避動作を行わせることにより、安全性を確保することができる無人飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無人飛行体は、
電動モーターによって駆動される無人飛行体であって、
前記電動モーターの駆動電源として複数のバッテリを備え、
前記複数のバッテリは並列接続されるとともにバッテリごとにそのバッテリの異常または劣化を検出する監視部を有し、
前記監視部から検出信号が出力されると緊急退避動作に切り替わることを最も主要な特徴とする。
【0010】
本発明に係る無人飛行体は、また、
複数のプロペラと、前記各プロペラを個々に回転駆動する複数の電動モーターと、前記各電動モーターへの電力供給源であるバッテリと、前記バッテリからの電力を適宜の電圧に調整し前記各電動モーターに分配する分電機と、指令に従って前記分電機を制御し指令に従って飛行させるフライトコントローラーと、を有する無人飛行体であって、
前記分電機は対をなす2個の分電機からなり、
前記フライトコントローラーは、前記2個の分電機の動作を監視し、少なくとも一方の分電機に異常が生じると緊急退避動作に切り替わることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る無人飛行体は、また、
複数のプロペラと、前記各プロペラを個々に回転駆動する複数の電動モーターと、前記各電動モーターへの電力供給源であるバッテリと、前記バッテリからの電力を適宜の電圧に調整し前記各電動モーターに分配する分電機と、指令に従って前記分電機を制御し指令に従って飛行させるフライトコントローラーと、を有する無人飛行体であって、
前記フライトコントローラーは対をなす2個のフライトコントローラーからなり、
前記分電機は、前記2個のフライトコントローラーの動作を監視し、少なくとも一方のフライトコントローラーに異常が生じると緊急退避動作に切り替わることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る無人飛行体によれば、一つのバッテリに異常が生じたとしても、他のバッテリが補完する。また、無人飛行体の内部回路に異常が生じたとしても、他の内部回路が補完する。そして、バッテリや内部回路に異常が生じると緊急退避動作に切り替わり、安全性が損なわれるようなトラブルに発展することを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る無人飛行体の第1実施例を示すブロック図である。
図2】上記第1実施例の動作の概要を示すフローチャートである。
図3】本発明に係る無人飛行体の第2実施例を示すブロック図である。
図4】上記第2実施例の動作を示すフローチャートである。
図5】本発明に係る無人飛行体の第3実施例の動作を示すフローチャートである。
図6】本発明に係る無人飛行体の第4実施例の動作を示すフローチャートである。
図7】本発明に係る無人飛行体の第5実施例の動作例を示すフローチャートである。
図8】上記各実施例における降圧分配機の例を示す機能ブロック図である。
図9】本発明に係る無人飛行体としてのドローンの電気的な制御系統図である。
図10】上記ドローンの外観の例を示す平面図である。
図11】上記ドローンの外観の例を示す正面図である。
図12】上記ドローンの外観の例を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る無人飛行体すなわちドローンの実施例を、図面を参照しながら説明する。図示の実施例は、農業用途を想定したドローンの例であるが、ドローンの用途はこれに限られるものではない。
【実施例
【0015】
[無人飛行体(ドローン)の概要]
本願明細書において、ドローンとは、複数の回転翼または飛行手段を有する飛行体全般を指すこととする。動力手段が電動モーターであるか、原動機等であるかを問わない。操縦方式が無線であるか有線であるか、自律飛行型であるか手動操縦型であるか等を問わない。
【0016】
図10乃至図12において、ドローン1を飛行させるための手段として、ローターあるいはプロペラとも呼ばれる8機の回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4bを有する。飛行の安定性、機体サイズ、および、バッテリ消費量のバランスを考慮し、2段構成の回転翼が4セット、合計8機の回転翼が備えられている。
【0017】
上記各回転翼を個別に回転駆動する手段として8個のモーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、102-4a、102-4bが設けられている。回転翼の駆動手段は、典型的には電動モーターであるが、ガソリンエンジンなどの発動機類であってもよい。1セット内の上下の回転翼、および、それらに対応するモーターは、ドローン1の飛行の安定性等のために軸が同一直線上にある。1セットの上下の回転翼は互いに反対方向に回転駆動され、共に上方に向かう推力が発生する。なお、一部の回転翼101-3bおよびモーター102-3bは図示されていないが、その位置は自明であり、もし左側面図があったならば示される位置にある。
【0018】
薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、薬剤を下方に向けて散布するための手段である。なお、薬剤とは、農薬、除草剤、液肥、殺虫剤、種、および、水など、圃場に散布される液体または粉体を指す。
【0019】
薬剤タンク104は散布される薬剤を保管するためのタンクであり、重量バランスの観点からドローン1の重心に近い位置でかつ重心より低い位置に設けられている。薬剤ホース105は、薬剤タンク104と各薬剤ノズル103-1、103-2、103-3、103-4とを接続する手段である。薬剤ホース105は硬質の素材から成り、上記各薬剤ノズルを支持する役割を兼ねていてもよい。ポンプ106は、薬剤をノズルから放出させるための手段である。
【0020】
図9に上記実施例に係るドローン1を薬剤散布に使用する場合のシステムの全体概念図を示す。以下の説明においては、本発明に関連のある部分を重点的に説明し、他の部分の説明は省略する。また、符号の煩雑を避けるために、8個のモーターは共通の符号21で、8個の回転翼は共通の符号101で示す。
【0021】
図9において、ドローン1は、各モーター21を駆動する電源システム2を搭載することができる。電源システム2は並列的に接続された2個のバッテリ25、26を有する。電源システム2は、フライトコントローラー31およびドローン1のその他の構成要素に電力を供給する手段であり、バッテリ25、26は充電式であることが望ましい。電源システム2は電源制御部22を介して、さらにヒューズまたはサーキットブレーカー等を介して降圧分電機41に接続されている。電源システム2は電力供給に加えて、蓄電量、積算使用時間等の内部状態をフライトコントローラー31に伝達する機能を有する。
【0022】
電源制御部22は、バッテリ25、26からの電源供給ラインを開閉するスイッチ221と、スイッチ221の開閉を制御する図示されない制御部を有している。スイッチ221は、通常、上記制御部によってオン状態を維持するように制御されている。スイッチ221の種類は特に限定されるものではなく、リレーなどの機械的なスイッチでもよいし、半導体のスイッチング素子などであってもよい。上記電源供給ラインは、ヒューズまたはサーキットブレーカーなどを介して降圧分電機41に接続されている。バッテリ25、26は、例えばリチウムイオン型の充電可能な複数のバッテリセルで構成されたバッテリパックを有する。
【0023】
図9には記載されていないが、電源システム2は、それぞれのバッテリ25,26が劣化しあるいは異常がある場合にこれを検出して信号を出力する監視部を、バッテリ25,26ごとに有している。上記監視部の検出方式は、充放電回数、内部抵抗、バッテリの温度と電圧との関係、インピーダンス、充電量などによって監視する公知の方式の中から任意の方式を選択すればよい。各バッテリ25,26は、複数のバッテリセルが直列的に積層されたバッテリパックを有する。各バッテリ25,26は、各バッテリパックのバッテリセルに異常が生じた場合これを検出して信号を出力するものがある。この検出方式を上記監視部の検出方式としてもよい。電源制御部22は、上記監視部の検出信号が入力されると、スイッチ221をオフに切り替える。
【0024】
降圧分電機41は、電源システム2から供給される電力を、各モーター21やその他の回路部品に分配するもので、バッテリ25,26からの直流電圧を各モーター21やその他の回路部品に適合した電圧に変換し分配する機能を備えている。図8は降圧分電機41の例を示しており、遮断部411、降圧部412、分圧部413、監視部414を備えている。降圧部412は、電源システム2から供給される比較的高電圧の直流を前記モーター21に供給するのに適した電圧、その他ドローン1内の各部で使用するのに適合した直流電圧に降圧する。遮断部411は、電源システム2などに異常がある場合に、電源供給を遮断する。
【0025】
監視部414は次に説明するESCおよびフライトコントローラー31を監視する。監視部414から検出信号が出力されると、この検出信号はフライトコントローラー31に入力される。前記各バッテリ25,26が有している監視部が、それぞれのバッテリ25,26の異常を検出した場合も、この検出信号がフライトコントローラー31に入力される。フライトコントローラー31は、上記検出信号が入力されると、後で説明するように緊急退避動作に切り替える。
【0026】
図9に示すように、降圧分電機41と各モーター21の間にはESC(Electronic Speed Control)等の制御手段が設けられている。降圧分電機41は、後で説明するフライトコントローラー31からの指令に応じて各ESCを経由して各モーター21に流す電流を制御ずる。この制御によって個々のモーター21の回転が制御され、ドローン1の離陸着陸、上昇下降、前進後退、速度、その他ドローンとして必要な飛行の制御が行われる。各モーター21の実際の回転数はフライトコントローラー31にフィードバックされ、正常な回転が行なわれているかを監視できる構成になっている。
【0027】
降圧分電機41は、降圧分電機41と同様に構成されたバックアップ用の降圧分電機42を備えている。2個の降圧分電機41,42は対をなしている。降圧分電機41,42はフライトコントローラー31によって動作が監視されていて、少なくとも一方の降圧分電機に異常が生じると、フライトコントローラー31からの指令によって緊急退避動作に切り替わる。緊急退避動作の詳細については後で説明する。
【0028】
図9において、フライトコントローラー31は、ドローン全体の制御を司る構成要素であり、具体的にはCPU、メモリー、関連ソフトウェア等を含む組み込み型コンピューターであってもよい。フライトコントローラー31は、操縦器から受信した入力情報および各種センサからの入力情報に基づき、降圧分電機41に制御信号を入力する。
【0029】
フライトコントローラー31は、Wi-Fi子機機能を介して、さらに、基地局を介して前記操縦器とやり取りを行ない、必要な指令を操縦器から受信すると共に、必要な情報を操縦器に送信できることが望ましい。通信には暗号化を施し、傍受、成り済まし、機器の乗っ取り等の不正行為を防止できるようにしておくことが望ましい。上記基地局は、Wi-Fiによる通信機能に加えて、RTK-GPS基地局の機能も備えていることが望ましい。RTK基地局の信号とGPS測位衛星からの信号を組み合わせることで、ドローン1の絶対位置を数センチメートル程度の精度で測定可能である。
【0030】
フライトコントローラー31は、降圧分電機41、各ESCを介して各回転翼101を駆動する各モーター21の回転を個別に制御し、ドローン1の離着陸、前進、後退、上昇、下降、左右への移動、ホバリングなど、ドローンとして必要な各種の動作を行わせる。
【0031】
ドローン1は上記の各種動作および姿勢制御を行うために6軸センサ50を有している。6軸センサ50は、互いに直交する3つの軸方向における加速度をそれぞれ検出する加速度センサと、上記3つの軸方を中心とする回転、例えばピッチング、ローリングおよびヨーイングの角速度をそれぞれ検出する角速度センサを有している。
【0032】
フライトコントローラー31が使用するソフトウェアは、機能拡張・変更、問題修正等のために記憶媒体等を通じて、または、Wi-FiやUSB等の通信手段を通じて書き換え可能になっている。この場合、不正なソフトウェアによる書き換えが行なわれないように、暗号化、チェックサム、電子署名、ウィルスチェックソフト等による保護を行なうことが望ましい。また、フライトコントローラー31が制御に使用する計算処理の一部が、前記操縦器または営農クラウドや他の場所に存在する別のコンピューターによって実行されてもよい。
【0033】
フライトコントローラー31は、ドローンの中枢ともいうべき重要性の高い部分であることから、その構成要素の一部または全部が二重化されている。図9に示す例では、一つのフライトコントローラー31をバックアップするために、フライトコントローラー31と同じ構成のフライトコントローラー32を備えている。2個のフライトコントローラー31,32は対をなしていて、一方のフライトコントローラーが正常に動作しているかどうかを他方のフライトコントローラーで互いに監視し合う。また、フライトコントローラー31,32が正常に動作しているかどうかを降圧分電機41,42の監視部414(図8参照)で監視する。少なくとも一方のフライトコントローラーに異常が生じると、他方のフライトコントローラーの動作が有効になるように切り替わるとともに、緊急退避動作に切り替わる。
【0034】
以上、本発明に係る無人飛行体の実施例の全体の構成を説明した。次に、いくつかの実施例について特徴部分を説明する。
【0035】
[実施例1]
図1は第1実施例を示す。図1において、電源システム2は、対をなす2つのバッテリ25,26を有する。各バッテリ25,26は、それぞれバッテリパック27,28と、監視部252,262と、バッテリパック27,28からの電源供給ラインを開閉するスイッチ251,261を有する。監視部252,262は、バッテリパック27,28ごとに、前述の適宜の検出方式によってバッテリパック27,28の異常あるいは劣化を検出する。バッテリパック27による異常検出信号でスイッチ251をオフしてバッテリパック27からの電源供給ラインを遮断する。バッテリパック28による異常検出信号でスイッチ261をオフしてバッテリパック28からの電源供給ラインを遮断する。
【0036】
監視部252,262の動作状態、すなわちスイッチ251,261の動作状態を表示灯の点滅などで表示するようにすれば、ドローンの稼働前の点検でバッテリ25,26の異常あるいは劣化を検出することも可能で、ドローンの安全性が高まる。
【0037】
電源システム2のバッテリパック27,28が例えばリチウムイオンバッテリからなる場合、衝撃力が加わってバッテリセルの構造に変化が生じると、温度の上昇、発火などの障害が生じる可能性がある。監視部252,262は、このような障害を生じる要因となる衝撃なども検出する。
【0038】
バッテリパック27,28は並列接続されてドローン1に電力を供給するようになっていて、バッテリパック27,28が並列接続されていること自体が、電源システム2にいわゆる冗長性が与えられている。前述のとおり、電源システム2からドローン1の降圧分電機41に電力が供給される。降圧分電機41の動作はフライトコントローラー31によって制御される。フライトコントローラー31にはバッテリ2側の2つの監視部252,262からの検出信号が入力され、各バッテリパック27,28を監視する。フライトコントローラー31は、バッテリパック27,28のうちの少なくとも一つから異常信号が出力されると、各モーター21の動作を制御して、ドローン1が緊急退避動作するように切り替える。
【0039】
上記第1実施例の特徴は、電源システム2に冗長性を持たせたことと、電源システム2の冗長動作と併せて、ドローン1に緊急退避動作を行わせることにある。以下、これらの動作を図2のフローチャートとともに説明する。フローチャートにおいて、各動作ステップをS1,S2,・・・のように表す。
【0040】
図2に示すように、二つのバッテリ25,26の監視部252,262は、それぞれのバッテリパック27,28の異常または劣化を常時検出している(S1,S2)。双方の監視部252,262が異常を検出しなければ、ドローン1としての通常の動作をおこなう(S3)。監視部252,262のすくなとも片方が異常すなわちバッテリパック27,28の異常または劣化を検出すると、この検出信号がフライトコントローラー31に入力され、フライトコントローラー31の指令によって緊急退避動作に切り替わる(S4)。
【0041】
緊急退避動作の例として、緊急帰還、緊急着陸、緊急停止などがある。緊急退避動作は、優先順位の高い順、すなわち緊急性の低い方から高い方に向かって、緊急帰還、緊急着陸、緊急停止の順とする。バッテリパック27,28の軽度の異常または劣化であれば緊急帰還とする。中程度の異常または劣化であれば緊急着陸とする。緊急帰還も緊急着陸も困難と思われる重度の異常または劣化であれば緊急停止すなわちその場で落下または降下させる。
【0042】
緊急帰還とは、離陸した場所などのフライトコントローラー予め記憶させた地点に最短距離で戻ってくることである。ユーザは帰還地点または所定位置に帰還したドローン1を点検したり、手動で別の場所に運んだりすることができる。緊急着陸とは、予め定められ、あるいはカメラによる撮影画像を処理して得られる近くの安全な場所に着陸することである。そのほかの緊急性の程度によっては、ホバリングすなわち空中停止などを行わせてもよい。
【0043】
緊急退避動作もフライトコントローラー31または他方のフライトコントローラー32からの指令によって行われる。農業用ドローンの場合、最悪の緊急退避である緊急停止の場合であっても、圃場に降下又は落下することになり、人身に損傷を与えることは回避される。
【0044】
各バッテリ25,26では監視部252,262がバッテリ25,26の異常または劣化を検出するとスイッチ251,261をオフする。電源の供給は一方のバッテリから行われており他方のバッテリは予備として搭載されている。従って、一方のバッテリにおいて異常検出信号が出力されると、そのバッテリの出力が遮断され、他方のバッテリからドローン1に電力が供給される。しかしながら、一方のバッテリに異常または劣化が検出されると、安全性を最優先して、前述の緊急退避動作に切り替える。
【0045】
[実施例2]
上記監視部252,262は、それぞれのバッテリパック27,28の蓄電量の検出部であってもよく、一方のバッテリの蓄電量検出部によって検出される蓄電量が所定量よりも低下すると緊急退避動作に切り替わるようにしてもよい。また、蓄電量の大小によって緊急退避動作を区別してもよい。図3はその例を示しており、少なくとも一方のバッテリパックの蓄電量が減少すると緊急退避動作に切り替わるようにした実施例である。すなわち、実施例2は、バッテリ27,28の蓄電量の低下に関していわゆる冗長性を持たせたものである。
【0046】
図3に示す第2実施例は、前記第1実施例における2つの監視部252,262を、それぞれ蓄電量検出部254,264に置き替えたものである。また、前記第1実施例におけるスイッチ251,261は省略されている。第2実施例の動作を図4に示す。図4では、2つのバッテリのうちの一方を「バッテリ1」、他方を「バッテリ2」と表示している。
【0047】
図4において、まず一方のバッテリ1の蓄電量を検出し(S11)、蓄電量が大であるかどうかを判断する(S12)。蓄電量が大であるかどうかの基準は、ドローンが通常の動作を行うことができるかどうかである。蓄電量が大であれば通常動作を行い(S13)、ステップS11に戻る。蓄電量が大でなければ、以下の緊急退避動作に切り替わる。
【0048】
緊急退避動作では、他方のバッテリ2の蓄電量を検出し(S14)、他方のバッテリ2の蓄電量が大であるかどうかを判断する(S15)。この場合の蓄電量が大であるかどうかの基準は、ドローンが緊急帰還できるかどうかである。蓄電量が大であれば緊急帰還させる(S16)。蓄電量が大でなければ、蓄電量が極小であるかどうかを判断する(S17)。蓄電量が極小であるかどうかの基準は、ドローンが緊急着陸できるかどうかであり、蓄電量が極小でなければ、すなわちある程度の蓄電量が残っていれば緊急着陸させ(S18)、蓄電量が極小であれば緊急停止させる(S19)。
【0049】
一方のバッテリの蓄電量が少なくなり、蓄電量の多い他方のバッテリから電力を供給して緊急帰還させる場合は、ドローンの積み荷を放棄して帰還するとよい。例えば農業用ドローンにおいて緊急帰還させる場合は、所定の圃場に薬剤を散布しながら帰還させるようにプログラムを構成しておくとよい。
【0050】
前記第1実施例において各バッテリ27,28に対応して設けられている監視部252,262と併せて、第2実施例における蓄電量検出部254,264を設けるとよい。
【0051】
[実施例3]
次に、本発明の第3実施例について説明する。この実施例は、第2実施例の蓄電量検出部を備えていて、この蓄電量検出部自体の異常を検出して緊急退避を行わせるものである。ハードウェア構成は第2実施例と同じであるから、図5に示す動作フローについてのみ説明する。
【0052】
図5において、まず一方の蓄電量検出部が正常に動作しているかどうかを判断する(S21)。この判断もどちらかのフライトコントローラー31,32で行うことができる。一方の蓄電量検出部が正常に動作していなければ緊急退避動作に切り替わる(S22)。一方の蓄電量検出部が正常に動作していれば、他方の蓄電量検出部が正常に動作しているかどうかを判断する(S23)。正常に動作していれば、すなわち、双方の蓄電量検出部がともに正常に動作していればドローンとしての通常動作を継続し(S24)、ステップS21に戻る。他方の蓄電量検出部が正常に動作していなければ緊急退避動作に切り替わる(S22)。
【0053】
[実施例4]
ここまで説明してきた実施例はバッテリに関連していわゆる冗長性を持たせた実施例であったが、ドローンの機体側にも冗長性を持たせることが望ましい。第4実施例はその例であって、ハード構成は図9に示す構成を踏襲し、ソフトウェア構成に特徴があるので、その動作フローについて図6とともに説明する。第4実施例は降圧分電機(MPU)に冗長性を持たせた例である。
【0054】
図6において、フライトコントローラー31または32は、2つの前記降圧分電機41,42の動作を監視する(S31)。片方の降圧分電機が正常であるかどうかを判断し(S32)、正常であれば他方の降圧分電機が正常であるかどうかを判断する(S33)。2つの前記降圧分電機41,41がともに正常であればステップS31に戻り、ドローンとしての通常の動作を継続する。
【0055】
ステップS32において、片方の降圧分電機が正常でないと判断した場合は緊急動作に切り替える必要があり、他方の降圧分電機が正常であるかどうかによって、緊急退避のレベルを判断する。そこで他方の降圧分電機が正常であるかどうかを判断し(S34)、他方の降圧分電機が正常であれば緊急帰還動作に切り替える(S35)。ステップS34で他方の降圧分電機が正常でないと判断された場合は緊急着陸させる(S36)。また、ステップS33で他方の降圧分電機が正常でないと判断された場合も緊急着陸させる(S36)。
【0056】
上記実施例では、双方の降圧分電機がともに正常でないと判断された場合も緊急着陸に切り替えられるようになっているが、この場合は緊急停止させるようにしてもよい。
【0057】
[実施例5]
図6に示す第4実施例は、降圧分電機に関して冗長性を持たせた例であったが、第5実施例はフライトコントローラーに関して冗長性を持たせた例である。
【0058】
図7において、前記降圧分電機41または42は、2つの前記フライトコントローラー31,32の動作を監視する(S41)。フライトコントローラー31,32側から見ると、降圧分電機41、42はフライトコントローラー31,32の動作を監視する外部監視機である。降圧分電機41、42は片方のフライトコントローラーが正常であるかどうかを判断し(S42)、正常であれば他方のフライトコントローラーが正常であるかどうかを判断する(S43)。2つの前記フライトコントローラー31,32がともに正常であればステップS41に戻り、ドローンとしての通常の動作を継続する。
【0059】
ステップS42において、片方のフライトコントローラーが正常でないと判断した場合は緊急動作に切り替える必要があり、他方のフライトコントローラーが正常であるかどうかによって、緊急退避のレベルを判断する。そこで他方のフライトコントローラーが正常であるかどうかを判断し(S44)、他方のフライトコントローラーが正常であれば緊急帰還動作に切り替える(S45)。ステップS44で他方のフライトコントローラーが正常でないと判断された場合は緊急着陸させる(S46)。また、ステップS43で他方の降圧分電機が正常でないと判断された場合も緊急着陸させる(S46)。
【0060】
また、図7に示すように、フライトコントローラー31、32は、ソナー、気圧センサ、IR発信器、障害物検知カメラ、マルチスペクトルカメラ、および6軸センサ50とCAN1、2(Controller Area Network 1,2)により通信可能に接続されている。すなわち、本無人飛行体はCAN1、2についても多重化されている。同図中においては、ソナーおよび6軸センサ50は多重化されており、気圧センサ、IR発信器、障害物検知カメラおよびマルチスペクトルカメラは、1個の構成に2個のフライトコントローラー31、32が接続されている。なお、CAN1、2に接続される各構成の個数はこれに限られるものではない。また、CANの個数は複数であればよく、3個以上であってもよい。
【0061】
CAN1、2の少なくとも一方に異常が生じている場合は、緊急帰還、緊急着陸、および緊急停止のいずれかの緊急退避動作を行う。本構成によれば、一方のCAN1、2に異常が発生した場合でも、他方のCAN2、1により飛行体周辺の情報を取得することで、安全に緊急動作を行うことができる。
【0062】
上記実施例では、双方のフライトコントローラーがともに正常でないと判断された場合も緊急着陸に切り替えられるようになっているが、この場合は緊急停止させるようにしてもよい。
【0063】
[無人飛行体の変更例]
本発明に係る無人飛行体は、以下のように構成してもよい。
図3に示す実施例のように、蓄電量検出部254,264を有していて、蓄電量の減少により検出信号が出力されて緊急帰還する場合、ドローンが有する姿勢制御装置の少なくとも1つの軸を中心とする姿勢制御動作を制限するようにするとよい。例えば、ドローンには、前進とヨー方向回転の同時動作や、前進と上昇の同時動作などの2軸以上の回転や進行の姿勢を同時に制御する機能を備えている。しかし、同時に2軸以上の制御を行うと、モーターにはより高電流が必要となりバッテリ25、26の蓄電量が早く消耗する。そこで、6軸のうちの一部、例えばヨー方向の姿勢制御動作を制限する省電力モードによって緊急帰還を行い、バッテリパック25,26の蓄電量をセーブする。
【0064】
また、省電力モードは、姿勢制御の一部が緩和されるモードであってもよい。具体的には、例えば、省電力モードになると、目標加速後又は目標ピッチ角が、通常の電力モードに比べて小さい値に変更されてもよい。また、目標速度がより小さい値に変更されてもよい。さらに、目標上方速度、すなわち全ての回転翼101の推力が上昇する目標スラストがより小さい値に変更されてもよい。さらにまた、目標角速度、すなわちピッチ、ロールおよびヨーの各角速度の目標がより小さい値に変更されてもよい。
【0065】
農業用ドローンのように薬剤などを搭載しているドローンが上記省電力モードによって緊急帰還する場合、残りの薬剤を未散布エリアに散布しながら帰還させることにより、ドローンにかかる負荷を軽減し、ドローンがより安全に帰還できるようにするとよい。
【0066】
既に述べたように、農業用の自動運転ドローンにおいては、安全性が厳しく求められる。かかるドローンに用いられるバッテリについても同様で、品質が保証された信頼性の高いバッテリでなければならない。そこで、品質が保証されていない規定外のバッテリがドローンその他の移動体に搭載された場合、これを検知してバッテリの充放電を禁止する構成にするとよい。例えば、バッテリに認証チップを組み込み、ドローン側で上記認証チップを検出することができない場合は、前記電源供給ラインをオフのままに制御するなど、そのバッテリを使用することができないようにする。
【0067】
バッテリの発火を防止するために、発火を誘発する過電流を検出して電力供給を遮断する過電流防止機能を設けるとよい。
バッテリ内部の温度が上昇したことを検知して飛行を中断し、また、高温状態または低温状態を検知して充電を中断するバッテリ温度保護機能を設けるとよい。
【0068】
バッテリの過電圧を含む過充電に至る前に充電を遮断する過充電防止機能を設けるとよい。
ドローン側に、墜落検知機能や衝突検出機能をもたせ、これらの検出機能によって検出信号が出力された場合、そのとき搭載されていたバッテリは、前記電源供給を遮断して使用不可能にするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 ドローン(無人飛行体)
2 電源システム
21 モーター
22 電源制御部
25 バッテリ
26 バッテリ
27 バッテリパック
28 バッテリパック
31 フライトコントローラー
32 フライトコントローラー
41 降圧分電機
42 降圧分電機
221 スイッチ
252 監視部
262 監視部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12