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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】イチゴの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/05 20180101AFI20220519BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220519BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A01G22/05 A
A01G7/00 601A
A01G7/00 601Z
A01G7/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022508956
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019804
(87)【国際公開番号】W WO2021234823
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-02-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519085648
【氏名又は名称】MD-Farm株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】松田 祐樹
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250507(JP,A)
【文献】特開2016-167990(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1321336(KR,B1)
【文献】ストロベリーラボラトリーなど、イチゴ植物工場にて種から周年・量産化に成功,植物工場・農業ビジネスオンライン,2013年08月13日,インターネット<URL:http://innoplex.org/archives/16789>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/05
A01G 7/00
A01G 7/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を含む栽培環境が環境調整装置によって調整される閉鎖型環境におけるイチゴの栽培方法において、
前記栽培環境が第1の温度になるように、前記環境調整装置を制御することによって、イチゴの種を発芽させる第1の工程と、
前記栽培環境が第2の温度になるように、前記環境調整装置を制御することによって、発芽したイチゴ苗を育成する第2の工程と、
前記栽培環境が、前記第1の温度および前記第2の温度よりも低い第3の温度になるように、前記環境調整装置を制御することによって、イチゴ苗をさらに育成して頂花房を開花させる第3の工程と、
前記栽培環境が、前記第1の温度および前記第2の温度よりも低く、かつ、前記第3の温度よりも高い第4の温度になるように、前記環境調整装置を制御することによって、第1次腋花房以降を連続的に開花させる第4の工程と
を有することを特徴とするイチゴの栽培方法。
【請求項2】
前記環境調整装置によって、前記栽培環境の一要素として、イチゴが光合成を行うのに必要な人工光が照射され、前記環境調整装置が発する人工光の光量子束密度は、350μmol以上であることを特徴とする請求項1に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項3】
前記第1から第3の工程における人工光の照射時間は、前記第4の工程のそれよりも長いことを特徴とする請求項2に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項4】
前記第1の工程における人工光の照射時間は、前記第2および前記第3の工程のそれと同一、または、それより短いことを特徴とする請求項3に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項5】
前記第2および前記第3の工程は、全日照射であることを特徴とする請求項4に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項6】
前記第4の工程において、人工光の照射が行われる照射時間帯と、人工光の照射が行われない非照射時間帯とを有する照射パターンを日毎に繰り返すことを特徴とする請求項3に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項7】
前記栽培環境装置によって、前記栽培環境の一要素として、二酸化炭素の濃度が調整され、
前記第1および前記第2の工程における人工光照射時の二酸化炭素濃度は、前記第3および前記第4の工程のそれよりも低いことを特徴とする請求項1または2に記載されたイチゴの栽培方法。
【請求項8】
前記第3および前記第4の工程における人工光照射時の二酸化炭素濃度は、800ppm以上であることを特徴とする請求項7に記載されたイチゴの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖型環境におけるイチゴの栽培方法に係り、特に、イチゴの連続開花に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、一季成りイチゴの果実を周年に亘り収穫するイチゴ栽培方法が開示されている。この栽培方法では、まず、自然条件下のガラス温室において、一季成りイチゴを促成栽培する。つぎに、促成栽培されたイチゴから果実を収穫した後、人工光を照射可能で、かつ、栽培環境が一定範囲に保たれた環境室にイチゴ株を移動する。この栽培環境について、日長条件は8~10時間、温度は8~26℃、二酸化炭素の濃度は400~850ppm、湿度は30~100%である。そして、このような環境室において、一旦収穫を終えたイチゴ株の栽培を継続する。これにより、周年に亘って、イチゴ株から果実を継続的に収穫できる。
【0003】
また、イチゴの栽培に限定したものではないが、特許文献2には、人工光型閉鎖環境および太陽光利用型環境を併用して、自然条件下での結実の時期と異なる時期に、オリーブなどの果実の生産を可能とする植物の栽培方法が開示されている。この栽培方法は、第1環境条件下に植物を置く第1の工程と、開花を誘導するための第2環境条件下に植物を置く第2の工程と、果実を成熟させるための第3環境条件下に植物を置く第3の工程とを含む。第1環境条件は、人工光型閉鎖環境(第1処理区)において設定され、日長が8~10時間、明期の温度が11~14℃、暗期の温度が9~12℃である。第2環境条件は、人工光型閉鎖環境(第2処理区)において設定され、日長が10~11時間、明期期の温度が17~22℃、暗期の温度が10~15℃である。また、第3環境条件は、太陽光利用型環境(第3処理区)において設定され、日長が12~13時間、明期の温度が20~30℃、暗期の温度が15~20℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6296596号公報
【文献】特開2019-44号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1では、環境室(閉鎖型環境)での栽培に先立ち、ガラス温室(非閉鎖型環境)での促成栽培が行われる。ガラス温室での促成栽培は、太陽光や外気といった自然環境の影響を強く受けるため、次のような課題がある。第1に、栽培時期に季節依存性が存在する。この点について、特許文献1には、7月頃に採苗した苗を9月~10月上旬に定植し、促成栽培下において果実を十分に収穫した後(例えば5月中旬)、イチゴ株を環境室に移動させる旨が記載されている。第2に、ガラス温室で収穫された果実と、その後の環境室で収穫された果実との間に、サイズ、色味、味といった品質のバラツキが生じ易い。そして、第3に、ガラス温室での促成栽培時に、イチゴがウイルスなどに汚染されてしまう可能性があり、その後の環境室での栽培時も含めて、イチゴが病気になるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、イチゴの栽培における季節依存性を解消しつつ、連続開花の安定化および効率化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく、本発明は、温度を含む栽培環境が環境調整装置によって調整される閉鎖型環境におけるイチゴの栽培方法を提供する。この栽培方法は、以下の工程を有する。まず、第1の工程では、栽培環境が第1の温度になるように、環境調整装置を制御することによって、イチゴの種を発芽させる。つぎに、第2の工程では、栽培環境が第2の温度になるように、環境調整装置を制御することによって、発芽したイチゴ苗を育成する。つぎに、第3の工程では、栽培環境が、第1の温度および第2の温度よりも低い第3の温度になるように、環境調整装置を制御することによって、イチゴ苗をさらに育成して頂花房を開花させる。そして、第4の工程では、栽培環境が、第1の温度および第2の温度よりも低く、かつ、第3の温度よりも高い第4の温度になるように、環境調整装置を制御することによって、第1次腋花房以降を連続的に開花させる。
【0009】
本発明において、上記環境調整装置によって、上記栽培環境の一要素として、イチゴが光合成を行うのに必要な人工光が照射され、前記環境調整装置が発する人工光の光量子束密度は、350μmol以上であることが好ましい。この場合、上記第1から第3の工程における人工光の照射時間は、上記第4の工程のそれよりも長くてもよい。また、上記第1の工程における人工光の照射時間は、上記第2および第3の工程のそれと同一、または、それより短くてもよい。また、上記第2および第3の工程は、全日照射であってもよい。さらに、上記第4の工程において、人工光の照射が行われる照射時間帯と、人工光の照射が行われない非照射時間帯とを有する照射パターンを日毎に繰り返してもよい。
【0010】
発明において、上記栽培環境装置によって、上記栽培環境の一要素として、二酸化炭素の濃度が調整され、上記第1および第2の工程における人工光照射時の二酸化炭素濃度は、上記第3および第4の工程のそれよりも低いことが好ましい。この場合、上記第3および第4の工程における人工光照射時の二酸化炭素濃度は、800ppm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明において、環境調整装置は、閉鎖型環境に設置されたセンサによって検知された栽培環境に関する情報に基づいて、第1から第4までの栽培環境になるようにフィードバック制御されることが好ましい。また、閉鎖型環境内に放たれたハチによる受粉を促すガイドライトとして、紫外線光源を利用してもよい。
【0012】
本発明において、第1および第2の工程は、閉鎖型環境である第1の栽培室で行い、第3および第4の工程は、閉鎖型環境である第2の栽培室で行ってもよい。この場合、第5の工程として、第2の工程で育成されたイチゴ苗を、第1の栽培室から第2の栽培室に移動する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イチゴの発芽から第1次腋花房以降の連続開花に至るまでの全工程が閉鎖型環境で完結する。これにより、太陽光や外気といった自然環境の影響を受けることなく、時期を問わずに管理環境下で栽培できるので、イチゴ栽培の季節依存性を解消できる。また、外部との接触を断つことで、ウイルス汚染などの危険性もないので、健康なイチゴを栽培できる。さらに、イチゴ固有の成長特性などを勘案した上で、第1から第4までの工程に分類し、それぞれの工程に適した栽培環境の制御を行うことで、イチゴの連続開花の安定化および効率化が図れる。特に、第1から第4の工程における温度を本発明が規定するような大小関係にすることで、連続開花を効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】閉鎖型環境におけるイチゴの栽培工程の説明図
図2】環境制御システムの構成図
図3】照射パターンの一例を示す図
図4】比較例に係る連続開花の説明図
図5】実施例に係る連続開花の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態に係る閉鎖型環境におけるイチゴの栽培工程の説明図である。本実施形態の特徴は、イチゴの播種から連続開花(収穫)に至るまでの全工程が閉鎖型環境で完結していることである。ここで、「閉鎖型環境」とは、外部とは隔てられた閉じた空間であって、温度、湿度といった外気の影響を受けない、または、受け難い環境をいい、植物栽培工場などとも称される。このような閉鎖型環境において、温度、湿度、二酸化炭素濃度などは、後述する環境調整装置によって制御されると共に、植物が光合成を行うのに必要な光として、太陽光の代わりに人工光が用いられる。閉鎖型環境では、外気や太陽光は果実の品質や栽培期間に影響を及ぼす外乱要因となるので、これらの影響は極力排除される。この点において、ビニールハウスやプラスチックハウスといった単なる温室は、空調設備などを備えていたとしても外気などの影響を強く受けるので、閉鎖型環境には含まれない。
【0016】
本実施形態では、閉鎖型環境としての栽培空間として、断熱材で外部と区分された複数の栽培室A,Bが用意されている。それぞれの栽培室A,Bには、栽培物(イチゴ苗やイチゴ株)が載置される栽培棚が行列状に配置されている。まず、栽培室Aにおいて、イチゴ栽培の前工程、すなわち、イチゴの播種から発芽までの工程1と、発芽からイチゴ苗の育成までの工程2とが行われる。その後、工程3として、イチゴ苗を栽培室Aから栽培室Bに移動する。そして、栽培室Bにおいて、イチゴ栽培の後工程、すなわち、頂花房が開花するまでイチゴ苗をさらに育成する工程4と、頂花房の開花後、第1次腋花房以降(第1次腋花房,第2次腋花房,・・・)を連続的かつ継続的に開花させる工程5とが行われる。本実施形態において、イチゴ苗の育成は、工程2および工程4に跨がっているが、工程2から工程4に移行するタイミングは、他の工程と同様、その工程の期間に基づいて管理される。また、工程5は、工程4で開花した頂花房を結実させる工程と、第1次腋花房以降を開花させて結実させる工程とを含み、赤色に熟したイチゴの果実を随時収穫する工程も、この工程5に含まれる。このような開花および収穫のサイクルは、イチゴ株が枯れるまで継続的に繰り返される。
【0017】
閉鎖型環境を2つの栽培室A,Bに別ける理由は、小ぶりなイチゴ苗までは栽培室A内で密に配置し、それ以降は別の栽培室B内で疎(栽培物同士の間隔をより空けること)に配置するといった如く、栽培物のサイズに応じて栽培環境を別けることで、量産性を高めるためである。また、栽培室Aから栽培室Bに栽培物を移動させる工程3は、イチゴ苗の根域を確保するために、栽培室Aでの栽培で用いられた栽培容器(ポットやプランターなど)から、これよりもサイズが大きな栽培容器にイチゴ苗を移し替えることが好ましい。ただし、この点を考慮する必要がないのであれば、イチゴ栽培の全工程を一つの栽培室で完結させても構わない。また、イチゴ栽培に用いられる培土としては、ウイルス汚染の心配がない無機質培土を用いることが好ましい。閉鎖型環境での栽培に加えて、無機質培土を用いることで、栽培物の健康性や安全性を一層高めることができる。
【0018】
図2は、環境制御システムの構成図である。この環境制御システム1は、互いに独立した閉鎖型環境である栽培室A,Bのそれぞれに設置され、イチゴの栽培環境を栽培室毎に独立して制御する。環境制御システム1は、環境センサ2と、制御部3と、環境調整装置4とを有する。環境センサ2は、閉鎖型環境に設置されており、栽培環境に関する状態を検知する。環境センサ2としては、閉鎖型環境の温度を検知する温度センサ2aと、閉鎖型環境の湿度を検知する湿度センサ2bと、閉鎖型環境における二酸化炭素濃度を検知する濃度センサ2cとが存在する。制御部3は、環境センサ2によって検知された情報に基づいて、閉鎖型環境が所望の栽培環境になるように、環境調整装置4をフィードバック制御する。
【0019】
環境調整装置4は、閉鎖型環境に設置されており、閉鎖型環境の状態を制御する。環境調整装置4としては、照明装置4aと、空調設備4bと、二酸化炭素供給器4cとが存在する。照明装置4aは、人工光を照射する光源(LED)を備え、栽培物が光合成を行うのに必要な光エネルギーを供給する。照明装置4aが発する人工光の光量子束密度は、栽培物に十分な光エネルギーを供給すべく、350μmol以上であることが好ましい。空調設備4bは、イチゴ栽培の各工程に適した温度および湿度になるように、また、照明装置4aの発熱による温度上昇を相殺するように、閉鎖型環境における温度および湿度を調整する。なお、照明装置4aとして紫外線光源(UV光源)を併設し、栽培物に対して紫外線を人工的に照射してもよい。紫外線光源をガイドライトとして用いることで、閉鎖型環境内に放たれたハチ(例えばマルハナバチ)がイチゴの花を認識することができるので、人手を煩わすことなく、ハチによる受粉を促すことが可能になる。二酸化炭素供給器4cは、二酸化炭素ボンベと、開閉バルブとを主体に構成されている。二酸化炭素供給器4cは、イチゴ栽培の各工程に適した二酸化炭素濃度になるように、また、栽培物の光合成によって消費された二酸化炭素を補うように、閉鎖型環境における二酸化炭素濃度を調整する。
【0020】
環境調整装置4は、制御部4による制御の下、イチゴの成長段階に応じて栽培環境が予め決められた状態になるように動作する。本実施形態では、成長の促進および効率化という観点から、イチゴの成長段階を4つの工程に分類している。具体的には、イチゴの種を発芽させる工程1では、イチゴの発芽に適した第1の栽培環境になるように制御される。発芽したイチゴ苗を育成する工程2では、イチゴ苗の育成に適した第2の栽培環境になるように制御される。イチゴ苗をさらに育成して頂花房を開花させる工程4では、頂花房の開花に適した第3の栽培環境になるように制御される。そして、第1次腋花房以降を連続的に開花させる工程5では、第1次腋花房以降の開花に適した第4の栽培環境になるように制御される。ここで、第3の栽培環境(工程4)から第4の栽培環境(工程5)への移行は、栽培の効率化という観点から、頂花房の結実や果実の収穫後ではなく、頂花房の開花を基準として行われ、この点が本実施形態における工程分類上の特徴となっている。また、第1から第4までの栽培環境は、基本的に状態・条件が異なるが、後述するように、特定の事項(省エネルギー性)を考慮する必要がないのであれば、一部が同一であっても構わない。下表に、各工程における栽培環境の一例を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
まず、栽培環境の一要素である湿度については、4つの工程1~2,4~5の全てにおいて、60~90%の範囲内に保たれる。これは、発明者が行った実証実験の結果として、工程毎に湿度を可変に設定しても、成長スピードに有意な差異が見出せなかったという知得に基づく。ただし、栽培環境として、閉鎖型環境における湿度についても工程毎に変えてもよい。
【0023】
栽培環境の一要素である温度(人工光の照射時)は、イチゴを効率的に栽培する上で、最も重要な要素であり、一例として、工程1の温度T1が25℃、工程2の温度T2が25℃、工程4の温度T4が20℃、工程5の温度T5が22℃にそれぞれ設定される。なお、工程5に関して、昼夜における寒暖の差を擬似的に作り出すために、人工光の非照射時には、人工光の照射時よりも低い温度に設定される。
【0024】
ここで、全体的な温度の関係は、T1,T2>T4,T5となっている。工程1~2は葉の成長を主体としており、葉の成長を促すためには、工程4~5よりも温度を高めに設定することが好ましい。また、工程4~5の温度の関係として、T4T5になっている。工程4,5はイチゴ株の開花を伴うという点では共通するが、工程4の温度T4を工程5の温度T5と同一にすると、工程4のイチゴが「徒長」と呼ばれる栄養成長に入ってしまい、果実に対する栄養分の供給低下を招く。そこで、工程4では、「徒長」を避けるための温度調整を行うことが有効である。ただし、この点を重視する必要がないのであれば、T4=T5であっても構わない。一方、工程5については、開花後に果実が成るスピードを上げること、換言すれば、収穫の回転率を上げることに主眼を置いて、少し高めに温度を設定することが好ましい(T5>T4)。ただし、T5≧T1,T2にしてしまうと、ランナー(細いひものような茎)が増大して開花が抑制されるので、T5<T1,T2にすることは、効率的な連続開花を行う上で重要である。
【0025】
栽培環境の一要素である照射時間については、工程1の照射時間t1が16時間/日、工程2の照射時間t2が24時間/日、工程4の照射時間t4が24時間/日、工程5の照射時間t5が12時間/日にそれぞれ設定される。ここで、全体的な照射時間の関係は、t1,t2,t4>t5となっている。その理由は、工程1~2,4と工程5との間における栽培上のフォーカスの違いに由来する。前者の工程1~2,4では、葉の成長にフォーカスしており、後者の工程5よりも光量を多く与えることで、葉の成長を促すことが有効である。これに対して、後者の工程5では、葉の成長よりも果実が成ることにフォーカスしており、昼夜を含む春先の気候(日本の場合)を擬似的に作り出している。
【0026】
照射時間t1,t2,t4については、照射時間t5と同様、12時間/日(非全日照射)であってもよいが、これらを照射時間t5よりも長く設定すれば、成長スピードを早めることができる。特に、照射時間t1,t2,t4を24時間/日(全日照射)とすれば、成長スピードを最大化できる(この場合、工程1,2の栽培環境が同一であっても構わない。)。ただし、発明者が行った実証実験の結果によれば、照射時間t1については、ある程度の照射時間が確保できれば足り、それ以上に照射時間を長くしても、成長に有意な差異は見出せなかった。そこで、照射時間t1については、省エネルギー性の観点を考慮して、全日照射ではなく、それよりも短い非全日照射(16時間/日)としている(t1<t2,t4)。
【0027】
非全日照射である照射時間t5の制御については、昼夜を擬似的に作り出すために、所定の照射パターンが日毎に繰り返される。図3は、照射パターンの一例を示す図である。この照射パターンは、照明装置4aによる人工光の照射が行われる照射時間帯と、人工光の照射が行われない非照射時間帯とを有する。同図の場合、午前7時から午後7時までが照射時間帯であり、それ以外が非照射時間帯である。照射時間帯では、照射装置4aによって光エネルギーが供給され、イチゴ株において光合成が主体的に行われる。
【0028】
このように、閉鎖型環境において、照射時間t1,t2,t4,t5にメリハリを付けることで、全体としての栽培期間を短縮し、かつ、イチゴの収穫量を増大させる。
【0029】
栽培環境の一要素である二酸化炭素濃度(人工光の照射時)については、工程1の濃度C1および工程2の濃度C2が400ppm、工程4の濃度C4および工程5の濃度C5が800ppm以上、本実施形態では1100ppmにそれぞれ設定される
。なお、人工光の非照射時には、栽培物が光合成を行わず、二酸化炭素を消費しないので、非照射時の二酸化炭素濃度については特段の条件はない。ここで、照射時における全体的な濃度の関係は、C1,C2<C4,C5となっている。工程1~2では、未だ葉が小さいがゆえに、二酸化炭素をそれほど消費しない。したがって、外部から多量の二酸化炭素を供給する必要はなく、多量の二酸化炭素を供給したとしてもあまり意味はない。これに対して、工程4~5では、大きな葉によって多量の二酸化炭素が消費される。そこで、二酸化炭素供給器4cによって消費分を補うことで、栽培効率を高める。
【0030】
なお、上述した工程1~2,4~5における栽培環境の具体値は一例であって、実際には、イチゴの品種やその特性によって最適な値は異なることに留意すべきである。
【0031】
つぎに、図4および図5を参照しつつ、比較例および実施例に係る開花パターンの推移について対比説明する。まず、図4に示す比較例、すなわち、自然環境下でのイチゴ栽培の場合、頂花房、第1次腋花房といった順に連続開花していくが、次の花が上がってくるまでの間に大きな谷間(開花量が極めて少ない状態)が発生する。また、開花が段階的に推移するにつれて、果実のサイズが徐々に小さくなる反面、収穫量が増えていく傾向がある。これに対して、図5に示す実施例、すなわち、本実施形態に係る閉鎖型環境下でのイチゴ栽培の場合、次の花が上がってくるまでの間に比較例ほど大きな谷間が発生せず、また、草勢の衰えを招くことなく、短い間隔での開花を連続的かつ継続的に実現できる。また、開花が段階的に推移しても、任意のサイズで果実をコントロールでき、サイズ、色味、味といった品質を一定に揃えることができる。
【0032】
このように、本実施形態によれば、工程1~5(特に、工程1~2,4~5)の全てを閉鎖型環境で完結させる。これにより、太陽光や外気といった自然環境とは関わりなく、時期を問わずに栽培できるので、イチゴ栽培の季節依存性を解消できる。また、外乱要因となる自然環境の影響を極力排除した管理環境下で栽培を行うことによって、果実の品質の均一化を図ることができる。さらに、外部との接触を断つことで、ウイルス汚染などの危険性もないので、健康なイチゴを栽培できる。
【0033】
また、本実施形態によれば、イチゴ固有の成長特性などを勘案した上で、工程1ではイチゴの発芽に適した第1の栽培環境、工程2ではイチゴ苗の育成に適した第2の栽培環境、工程4では頂花房の開花に適した第3の栽培環境、工程5では第1次腋花房以降の連続開花に適した第4の栽培環境になるように、環境調整装置4によって、照射時間、温度、二酸化炭素濃度などが制御される。このように、イチゴの成長段階を栽培環境の観点から複数の工程に分類し、それぞれの工程に適した第1から第4の栽培環境を設定することで、栽培期間の短縮や省エネルギー化などを含めて、イチゴの連続開花の安定化および効率化を図ることができる。この点について、イチゴ栽培の全工程を同一の栽培環境で行うことも一応可能ではあるが、栽培の効率化などの観点から、本実施形態のような工程に分類し、工程に応じて栽培環境を調整することの意義は大きい。特に、温度の調整は、イチゴを効率的に栽培する上で極めて重要である。
【0034】
また、本実施形態によれば、第1から第4の栽培環境になるように、環境センサ2によって検知された情報(栽培環境の現在の状況)に基づいて、環境調整装置4がフィードバック制御される。これにより、第1から第4の栽培環境の制御を精度よく行うことが可能になる。
【0035】
さらに、本実施形態によれば、閉鎖型環境を複数の栽培室A,Bに別け、工程1~2は栽培室Aにおいて、工程4~5は栽培室Bにおいて、それぞれ行われる。このように、イチゴの成長段階に応じて栽培空間を変え、栽培物の配置間隔を調整可能にすることで、量産性の向上を図ることが可能になる。
【0036】
なお、本発明に係るイチゴの栽培方法は、イチゴの品種やその特性を問わず、あらゆる栄養繁殖型イチゴ、および、あらゆる種子繁殖型イチゴに対して、有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 環境制御システム
2 環境センサ
2a 温度センサ
2b 湿度センサ
2c 濃度センサ
3 制御部
4 環境調整装置
4a 照明装置
4b 空調設備
4c 二酸化炭素供給器
図1
図2
図3
図4
図5